説明

印刷方法

【課題】ガラス基材やプラスチックフィルム、特に生産効率の良い長尺状のプラスチックフィルム等の可撓性基材上へ、高精細パターンを連続的に形成できるようにしたことを特徴とする印刷方法の提供を目的とする。
【解決手段】巻き取りロールから供給されてくるインキ剥離性のフィルム基材上にインキジェット法を用いてインキ液を塗工してインキ液膜を設けた後、該インキ液膜を予備乾燥させて予備乾燥インキ膜を得、しかる後に転写させようとするパターンの形状に設けた凹部と転写させないパターンの形状に設けた凸部を具備してなる凸版のパターン形成面を該予備乾燥インキ膜に押し当て、該凸版の凸部に対応する該予備乾燥インキ膜の部分を転移・除去せしめ、しかる後、該インキ剥離性のフィルム基材上に残っている予備乾燥インキ膜の部分を目的の被印刷基材の表面へ転写させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス基材やプラスチックフィルム、特に生産効率の良い長尺状のプラスチックフィルム等の可撓性基材上へ、高精細パターンを連続的に形成できるようにしたことを特徴とする印刷方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、フラットパネルディスプレイは、省エネルギー、省スペース、可搬性等の点から、据え置き型、壁掛け型、携帯型等の様々な形態で広く利用されている。
【0003】
特に携帯型においては、携帯時に落下させても破損しないような耐衝撃性の確保や、軽量化、薄型化等の種々の要望からプラスチック化への要求が強い。また、壁掛け型においても円柱状の柱へ設置したいという要望から可撓性のプラスチック基材を利用したディスプレイの開発が強く望まれている。
【0004】
しかしながら、従来のフラットパネルディスプレイは、何れもガラス基板を利用して製造された物であり、プラスチック基板を使用して製造することは難しかった。
【0005】
その理由は、従来のフラットパネルディスプレイの部材の作製には高温での加熱工程とフォトリソ工程が含まれているためである。
【0006】
例えば、液晶ディスプレイ用のカラーフィルターの製造に当たっては、感光性樹脂のパターニングの際に、現像、洗浄、ベーキング等の工程があり、プラスチック基板等の耐熱性のよくない部材の熱による損傷や伸縮が生じてしまうことになる。
【0007】
また、ディスプレイの駆動電極である薄膜トランジスタの製造工程にあっては、シリコン半導体や絶縁膜の形成には300℃以上の高温処理工程が含まれるが、このときの処理温度はプラスチック基板の耐熱性を上回っている。
【0008】
また、フォトリソ工程は、製膜、露光、現像、剥離を材料毎に行うので、製造設備も大掛かりとなり、製造のコストが高くなっていた。
【0009】
以上のことから、プラスチック基材上への精密なパターニングが可能な印刷方法の確立が強く求められていた。
【0010】
プラスチック基材上への印刷法については、インキジェット法を利用することが検討されている。インキジェット法は、所定の部分にのみ所定の材料をパターニングできることから材料の利用効率が高く、版も使用しないことから、もっとも簡便なパターニング方法として期待されている。
【0011】
しかしながら、現状のインキジェット法のインク液滴の直径は数十μm程度であり、着弾精度も数μm程度ある。
【0012】
また、インキジェット法を用いて精密なパターニングをするためには、あらかじめ基板上にフォトリソ工程により隔壁を形成しなければならず、カラーフィルターのブラックマトリクスや印刷方式の薄膜トランジスタ配線等の10μm程度のパターンを形成する方法としては、採用することができない。
【0013】
一方、インキジェット法以外の方法としては、スクリーン印刷法が挙げられる。スクリーン印刷法は、電子部品における配線や抵抗体、誘電体の印刷などで実用化されている。
【0014】
しかしながら、孔版印刷であることからインキはペースト状の高粘度のものに限られ、また、スクリーンメッシュの精細度から数十μm程度の厚膜の印刷法としては採用できても、やはり10μm前後のパターンを形成する方法としては、採用できない。
【0015】
そこで、インキジェット法およびスクリーン印刷法以外の方法として、フィルムへ乾燥インキ膜をあらかじめ設けた、いわゆるドライフィルムを使用して熱圧によりインキ膜のパターンを除去した後、残ったインキ膜のパターンを目的の基材に転写する転写方法が提案されている(特許文献1参照)。
【0016】
しかしながら、フィルムからインキ膜の一部を転写する際に熱圧を加えるために、フィルム基材の膨張・収縮や版の膨張、インキ膜の溶融・軟化を伴うことから、数十μm程度の微小なパターンの再現性が困難である。また、熱圧を均一に加えるための装置も複雑になり、大きな面積での転写も困難となってしまう。
【0017】
また、版胴に巻き付けたブランケット上にインキを塗工し、予備乾燥してインキ膜を形成し、その後、非画像部パターン対応の凸部が形成された凸版をインキ膜に押圧することにより、インキ膜から非画像部用パターンに該当する部分を除去し、しかる後に、ブランケット上に残っている画像パターンを被印刷基材上に転写し、被印刷基材上に所望の画像パターンを形成する印刷方法が試みられている(特許文献2参照)。
【0018】
この方法は、インキ膜厚を調整することが容易である。また、この印刷法ではインキ剥離性のブランケット上に画像パターンを形成することから、被印刷基材へのインキ転写性が良好である。また、薄膜での微細パターン形成が可能である。
【0019】
しかしこの印刷方法は、シリコーンゴムまたはシリコーン樹脂からなるブランケット上でインキの予備乾燥を行う時に、ブランケット表面のインキ濡れ性や転写性が不安定になるという問題点を有していた。これはブランケットが版胴に固定されたまま乾燥を行うために均一な予備乾燥が困難であり、塗工されたインキ中の溶剤がブランケット内に吸収されてブランケットが膨潤し、部分的に転写性や精度のバラツキが発生してしまうからである。
【0020】
また、転写後のクリーニングやブランケットの乾燥による膨潤量の調整を転写毎に行う必要があるため、連続加工には不向きである。また、ブランケットが版胴に固定されているので、あるパターンが予め形成されている基材上にさらに別のパターンを転写する場合には、ブランケット上のパターンと基材上のマーク等との位置合わせが困難であった。
【0021】
さらに軽視できない別の問題点としては、インキ材料の利用効率が低いことである。均一に塗布したインキ液膜から画像パターンを形成する工程を経るため、基材への転写には使用されずに無駄となるインキが多く生じることになる。そのため、とりわけ有機EL用インキの様な高価なインキ材料を使用する印刷には不適な方法であった。
【特許文献1】特開平9−90117号公報
【特許文献2】特開2001−56405号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
本発明は、従来技術の問題点を解決するものであり、その課題とするところは、インキ材料の利用効率の高い印刷物の製造方法を提供することにある。また、プラスチックフィ
ルムの如く可撓性基材、特に生産効率に優れる長尺状の可撓性基材に適用可能で、かつ高精細パターンの再現性にも優れた印刷方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0023】
上記課題を達成するためになされ、請求項1に記載の発明は、巻き取りロールから供給されてくるインキ剥離性のフィルム基材上にインキジェット法を用いてインキ液を塗工してインキ液膜を設けた後、該インキ液膜を予備乾燥させて予備乾燥インキ膜を得、しかる後に転写させようとするパターンの形状に設けた凹部と転写させないパターンの形状に設けた凸部を具備してなる凸版のパターン形成面を該予備乾燥インキ膜に押し当て、該凸版の凸部に対応する該予備乾燥インキ膜の部分を転移・除去せしめ、しかる後、該インキ剥離性のフィルム基材上に残っている予備乾燥インキ膜の部分を目的の被印刷基材の表面へ転写させることを特徴とする印刷方法である。
【0024】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の印刷方法において、前記予備乾燥インキ膜は、インキ液膜の予備乾燥によって粘着性を有し、形状は保っているが常温においては前記凸版の凸部により外力を加えた部分のみが転移して除去され得る半乾燥状態であることを特徴とする。
【0025】
さらにまた、請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の印刷方法において、前記インキ剥離性のフィルム基材を巻き出し部から順次繰り出して常に新しい該インキ剥離性のフィルム基材を使用することを特徴とする。
【0026】
さらにまた、請求項4に記載の発明は、請求項1乃至3のいずれかに記載の印刷方法において、前記インキ剥離性のフィルム基材が、フィルム基材上にシリコーン樹脂層を積層してなるものであることを特徴とする。
【0027】
さらにまた、請求項5に記載の発明は、請求項1乃至3のいずれかに記載の印刷方法において、前記インキ剥離性のフィルム基材は、フィルム基材上にSiO2、TiO2、ZrO2の無機酸化物膜、あるいはこれらの複合酸化物膜のいずれかが設けられ、さらにシランカップリング剤の層を介してアルキル基、シロキサン基、フッ素原子の少なくとも一種が表面に位置していることを特徴とする。
【0028】
さらにまた、請求項6に記載の発明は、請求項1乃至3のいずれかに記載の印刷方法において、前記インキ剥離性のフィルム基材は、フィルム基材上にゾル−ゲル法により酸化物膜が設けられ、さらにシランカップリング剤の層を介してアルキル基、シロキサン基、フッ素原子の少なくとも一種が表面に位置していることを特徴とする。
【0029】
さらにまた、請求項7に記載の発明は、請求項1乃至6のいずれかに記載の印刷方法において、前記インキ剥離性のフィルム基材が光学的に透明であることを特徴とする。
【0030】
さらにまた、請求項8に記載の発明は、請求項1乃至7のいずれかに記載の印刷方法において、前記インキ剥離性のフィルム基材上に残された予備乾燥インキ膜からなる部分を、すでに画像パターンが設けられている被印刷基材表面に転写する際に、被印刷基材と該インキ剥離性のフィルム基材との平行状態を維持しながら、観察機器を用いて該インキ剥離性のフィルム基材上に残された予備乾燥インキ膜の部分と被印刷基材表面にすでに設けられている画像パターンとの位置合わせを行うことを特徴とする。
【0031】
さらにまた、請求項9に記載の発明は、請求項1乃至8のいずれかに記載の印刷方法において、前記インキ剥離性のフィルム基材上の予備乾燥インキ膜の一部を転移・除去するための凸版として、ガラスもしくは樹脂製の版を使用することを特徴とする。
【発明の効果】
【0032】
本発明の印刷方法は以上の特徴を持つことから、下記に示す効果がある。
【0033】
即ち、上記請求項1に係る発明によれば、巻き取りロールから供給されたインキ剥離性のフィルム基材上に、インキ液膜を塗工して設け、該インキ液膜を予備乾燥し、予備乾燥インキ膜を得た後、必要な画像部パターンを凹部とした凸版を該予備乾燥インキ膜に押し当て、予備乾燥インキ膜の不要な部分を該凸版の凸部に転移させ、しかる後に、該インキ剥離性のフィルム基材上に残された予備乾燥インキ膜による画像パターンを目的の被印刷基材表面上へ転写させるため、高精細な印刷を可能とし、さらにインキジェット法により必要な部分のみにインキ液膜を設けることで、インキ使用量を抑えた印刷方法とすることができる。
【0034】
また、上記請求項2に係る発明によれば、予備乾燥インキ膜が予備乾燥によって粘着性を有し、形状は保っているが、常温においては凸版の凸部により外力を加えた部分のみが転移して除去され得る半乾燥状態であるので、加熱処理を施すことなく、予備乾燥インキ膜の転移・除去や被転写基材への転写を精度よく行うことが可能となり、インキ剥離性のフィルム基材や被転写基材の熱膨張やパターンの熱溶融による形状変化がなく、精密なパターンの印刷が行える。
【0035】
また、上記請求項3に係る発明によれば、インキ剥離性のフィルム基材を巻き出し装置から順次繰り出して常に新しいインキ剥離性のフィルム基材を使用して印刷を行うことができ、安定した連続印刷が可能となる。
【0036】
また、上記請求項4に係る発明によれば、インキ剥離性のフィルム基材として、フィルム基材上にシリコーン樹脂層を積層してなるものを用いることで、凸版や目的の被印刷基材表面への転写性を高め、再現性の高い高精細パターンの印刷を行うことができる。
【0037】
また、上記請求項5に係る発明によれば、インキ剥離性のフィルム基材を、フィルム基材上にSiO2、TiO2、ZrO2からなる無機酸化物膜、あるいはこれらの複合酸化物膜を設けた基材面にシランカップリング剤を介してアルキル基、シロキサン基、フッ素原子の少なくとも一種を表面に位置させたものとすることによって、表面の平滑性を維持したまま表面の濡れ性を低くすることが可能で、凸版や被印刷基材表面への予備乾燥インキ膜の転写性を高め、再現性の高い高精細パターンの印刷を行うことができる。
【0038】
また、上記請求項6に係る発明によれば、インキ剥離性のフィルム基材を、フィルム基材上にゾル−ゲル法により酸化物膜を設けた基材面にシランカップリング剤を介してアルキル基、シロキサン基、フッ素原子の少なくとも一種を表面に位置させたものとすることによって、表面の平滑性を維持したまま表面の濡れ性を効果的に低くすることが可能で、凸版や被印刷基材表面への予備乾燥インキ膜の転写性を高め、再現性の高い高精細パターンの印刷を行うことができる。
【0039】
また、上記請求項7に係る発明によれば、インキ剥離性のフィルム基材を光学的に透明なものとすることで、インキ剥離性のフィルム基材表面に残した一部の予備乾燥インキ膜(画像パターンやアライメントマーク)越しに、被印刷基材上にすでに設けられている他の画像パターンやアライメントマークを確認することができることから、転写位置を正確に合わせこむことが容易となり、再現性の高い高精細パターンの印刷を行うことができる。
【0040】
また、上記請求項8に係る発明によれば、インキ剥離性のフィルム基材上に一部残され
た予備乾燥インキ膜による画像パターンを、すでに別の画像パターンが設けられている被印刷基材表面に転写する際に、被印刷基材と該インキ剥離性のフィルム基材とを平行に近づけ、該インキ剥離性のフィルム基材を介して、あるいは、被印刷基材と該インキ剥離性のフィルム基材との間からカメラ等の観察機器を用いて、該インキ剥離性のフィルム基材上に残された画像部パターンと被印刷基材表面に設けられた画像パターンもしくは孔等のマークとの位置合わせを行うことにより、より再現性の高い高精細パターンの印刷を行うことができる。
【0041】
また、上記請求項9に係る発明によれば、予備乾燥インキ膜の一部を転移・除去せしめるための凸版として、ガラスもしくは樹脂製の版を使用することで、高精細パターンの印刷を行うことができる。
【0042】
従って、本発明はガラス基材あるいはプラスチックフィルム等の可撓性基材、とりわけ長尺状の可撓性基材へ高精細パターンの印刷を連続に安定して行うことができ、ディスプレイ部材となるカラーフィルターのブラックマトリックス、ホワイトマトリックス、カラーパターン、スペーサー等をこの印刷方法により精度よく作製することができる。また、印刷トランジスタのゲート電極、ソース/ドレイン電極、ゲート絶縁膜、有機半導体等の溶液型半導体パターンをこの印刷法にて精度よく作製することができる。さらに、高分子型有機ELの発光層のパターニングをこのような印刷法により効率良く作製することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0043】
以下、本発明に係る印刷方法の実施の形態について説明する。
【0044】
本発明の印刷方法は、巻き取りロールから供給されてくるインキ剥離性のフィルム基材上にインキジェット法を用いてインキ液を塗工してインキ液膜を設けた後、該インキ液膜を予備乾燥させて予備乾燥インキ膜を得、しかる後に転写させようとするパターンの形状に設けた凹部と転写させないパターンの形状に設けた凸部を具備してなる凸版のパターン形成面を該予備乾燥インキ膜に押し当て、該凸版の凸部に対応する該予備乾燥インキ膜の部分を転移・除去せしめ、しかる後、該インキ剥離性のフィルム基材上に残っている予備乾燥インキ膜の部分を目的の被印刷基材の表面へ転写させることを特徴とする印刷方法である。
【0045】
以下、本発明の印刷方法を、図1にその概略の構成を示す印刷装置を使用した具体的な例でさらに詳細に説明する。
【0046】
図1に示す印刷装置は、大略的には、インキ剥離性のフィルム基材の巻き出し部101、インキ剥離性のフィルム基材の巻き取り部107、被印刷基材の巻き出し部108、被印刷基材の巻き取り部110などのインキ剥離性のフィルム基材と被印刷基材の搬送に関わる搬送部と、インキ液の塗工部102、インキ液膜の予備乾燥部103、予備乾燥インキ膜の転写をさせない部分をパターン状に転移・除去せしめるための除去部104、予備乾燥インキ膜の転写をさせようとする部分を被印刷基材に見当を合わせて転写させるためのアライメント部105と貼りあわせ部106、被印刷基材上に転写された予備乾燥インキ膜を乾燥させるための乾燥部109によって構成されている。
【0047】
インキ剥離性のフィルム基材の巻き出し部101、インキ剥離性のフィルム基材の巻き取り部107、被印刷基材の巻き出し部108、被印刷基材の巻き取り部110等の搬送部は、それぞれ巻き取りロールで供給される原反を設置または、巻き取るため、直径3インチから30インチ程度の芯を装着できるマウンターを備えたシリンダー(図示せず)と、回転やテンションを制御してフィルム基材や被印刷基材を搬送するためのモーター(図示せず)等を備えている。巻き取りロールに装着されるフィルム基材や被印刷基材の原反はその幅が100mm〜1000mm程度のものが選択できるが、パターンの実用性と転写位置精度を考慮し300mm程度の幅のものが好ましく用いられる。
【0048】
また、フィルム基材や被印刷基材にかけるテンションは、これらの装置によるもの以外に、搬送系にニップ部を設置して基材をそこで保持して調節するようにしてもよい。このニップ部には、主に搬送ロールに備わっているエアー吸着孔による吸着ニップが用いられる。
【0049】
基材の搬送は、各工程で必要な時間差を緩和し、基材の連続搬送を行うためのバッファを備えた場合、5m/sec〜10m/sec程度の搬送速度で連続搬送を行うことができるが、インキ剥離性のフィルム基材や被印刷基材を、工程毎に必要な長さ繰り出す方式によるものが好ましい。
【0050】
塗工部102には、可動ステージ112と、この可動ステージ112上に搬送されてくるインキ剥離性のフィルム基材に対しインキ液を塗布するインキジェット装置111が設置されている。可動ステージ112は金属製や石製等のものであって、ボールねじやリニアモーター等で駆動するものを用いることができ、少なくとも水平を保ったまま水平方向に往復運動することができ、インキ剥離性のフィルム基材を一時的に吸着できるようになっている。そして、吸着に際しては、フィルム基材に凹凸が生じないように、フィルム基材のエッジ付近に位置する部分に設けた吸着孔により吸着できるような構成のもや、多孔質性材料を用いて全面に渡って均一にフィルム基材が吸着できるような構成のものが採用できる。
【0051】
一方、インキジェット装置111は、例えば、単一のインキジェットヘッドを利用し、ステージやインキジェットヘッドを複数回駆動させることにより、インキ液からなるパターン状のインキ液膜を塗工できるようにしたものであったり、インキ剥離性のフィルム基材の幅に応じてインキジェットヘッドが複数配置されたヘッドアレイを有するもの等である。このようなインキジェット装置においては、別に用意されたインキ供給用のタンク(図示せず)から所定量のインキが供給できるようになっている。このインキジェットヘッドとインキ剥離性のフィルム基材とのギャップはインキ液の塗工開始前に設定しておいてもよく、また可動ステージ112の搬送に合わせてインキジェットヘッドを上下動させて調整・設定してもよい。
【0052】
予備乾燥部103は、上記塗工部102でインキ剥離性のフィルム基材上へ塗工して設けたインキ液膜を予備乾燥させるために設置されているもので、そこでホットプレート、オーブン、温風、減圧乾燥器、紫外線照射器等を利用してフィルム基材上のインキ液膜を予備乾燥させる。
【0053】
予備乾燥インキ膜の転写をさせない部分を転移・除去せしめるための除去部104では、例えば、可動ステージに樹脂製やガラス製等の凸版が吸着により装着されており、インキ剥離性のフィルム基材上の予備乾燥インキ膜に凸版を近づけた後、可動ステージの移動とともに圧胴により加重をかけて、凸版の凸部と接した予備乾燥インキ膜の部分を凸版側に転移せしめ、インキ剥離性のフィルム基材から除去させる。
【0054】
アライメント部105では、可動性ステージと複数の顕微鏡カメラ等から構成されており、可動性ステージ上に吸着させた被印刷基材上に、インキ剥離性のフィルム基材上に残っている予備乾燥インキ膜の面を100〜250μm程度に近づけた後、インキ剥離性のフィルム基材が透明なことを利用して、インキ剥離性のフィルム基材上に残っている予備乾燥インキ膜の一部やアライメント用のマークパターン等のパターンと、被印刷基材上のすでに印刷されているパターンを透過画像で認識し、それぞれの基材上のパターンの認識画像を基に可動性ステージを動作させ転写位置の補正を行う。
【0055】
また、インキ剥離性のフィルム基材と被印刷基材の間に顕微鏡カメラを挿入し、それぞれの基材上のパターンの認識画像を基に位置の補正を行う方法も選択できる。
【0056】
上記顕微鏡カメラとしては、光学顕微鏡、CCD(Charge Coupled Device)顕微鏡等が適用できるが、オートフォーカス、電気的に制御可能な手動焦点制御機構のいずれか、もしくはその両方の機能を必要とし、観察の為に外部に設置したモニターや位置補正の為の画像処理装置へのインターフェースを持つものが推奨される。
【0057】
貼りあわせ部106には、前記アライメント部105に設置された可動性ステージ上に金属ローラーまたはゴムローラー等の貼りあわせ用のローラーが設けられている。
【0058】
この貼りあわせ部106では、可動性ステージに固定された被印刷基材と、それとわずかな隙間を維持させて搬送されてきたインキ剥離性のフィルム基材に対してこの部分でローラーを押し当て、可動性ステージの移動と共にローラーを回転させながら印圧をかけて重ね合わせ、つぎにインキ剥離性のフィルム基材を被印刷基材から剥がすことにより、フィルム基材上に残っていた予備乾燥インキ膜を被印刷基材上へ転写させる。
【0059】
乾燥部109は、被印刷基材上に転写された予備乾燥インキ膜を乾燥させるために設置されるもので、ホットプレート、オーブン、温風、減圧乾燥、紫外線照射等を利用した乾燥装置により所定の乾燥を行う部分である。ここでは、被印刷基材の巻き取り時のブロッキングを防止する為に必要な乾燥が行われればよく、具体的には120℃で3分から5分間程度の熱乾燥を行う。
【0060】
本発明に用いるインキ剥離性のフィルム基材としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルサルフォン、シクロオレフィンポリマー、ポリイミド、ナイロン、アラミド、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリ塩化ビニル、トリアセチルセルロース等からなる可撓性のフィルムやシートを用いることができる。さらに光透過性のフィルム基材を用いることにより、パターンの重ね合わせ時にアライメントを容易とすることができる。これら可撓性基材は長尺の巻き取りロールで供給される。
【0061】
本発明に用いるインキ剥離性のフィルム基材は、上記基材へシリコーンオイル、シリコーンワニスで代表される離型剤を塗ってあっても良いし、あるいはシリコーンゴムの薄膜層が形成されていてもよい。また同じ目的でフッ素系樹脂、フッ素系ゴム等も利用され得るし、フッ素樹脂微粉末をシリコーンゴムあるいは、普通のゴムに混ぜて剥離性を出すなどの使い方をしてもよい。これらシリコーン系の塗膜は一般的にはフィルム基材との密着が弱いが、熱硬化または紫外線硬化性のアクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、最表面に設けるシリコーン層に対して接着性の高い樹脂等からなる層を、アンカー層としてあらかじめフィルム基材上に設けるようにすればよい。
【0062】
いずれの構成であっても、このインキ剥離性のフィルム基材は、適度のインキ受容性を有すると同時に、一度受容した予備乾燥インキ膜の完全なインキ剥離性を有する必要がある。
【0063】
上記のシリコーンとしては、具体的には、ジメチルポリシロキサンの各種分子量のもの、その他メチルハイドロジエンポリシロキサン、メチルフェニルシリコーンオイル、メチル塩素化フェニルシリコーンオイル、あるいはこれらポリシロキサンと有機化合物との共重合体等を用いることができる。
【0064】
また、シリコーンゴムとしては、二液型のジオルガノポリシロキサンと架橋剤としての三官能性以上のシラン、またはシロキサン及び硬化触媒を組み合わせたもの、あるいは一液型ではジオルガノポリシロキサンとアセトンオキシム、各種メトキシシラン、メチルトリアセトキシシラン等の組み合わせになるもの等が用いられる。その他にはゴム硬度を調節するためのポリシロキサン等も適宜用いられる。
【0065】
また、本発明に用いるインキ剥離性のフィルム基材として、上記基材に無機物膜を設けた後、シランカップリング剤による表面処理を施したものを用いることもできる。
【0066】
シランカップリング剤としては、トリメトキシシラン類、トリエトキシシラン類等を用いることができる。このシランカップリング剤の一部位は、ビニル基、エポキシ基、アミノ基、メタクリル基、メルカプト基等の有機化合物との反応性基を持つものから選ぶことができ、あるいはアルキル基やその一部にフッ素原子が置換されたものやシロキサンが結合して、表面自由エネルギーの小さな表面を形成できる置換基が結合したものを用いることができる。前者の反応性基を有するシランカップリング剤を用いる場合には、シランカップリング剤で基材表面を処理した後、所定の表面自由エネルギーになるような他のモノマー成分を塗工して、結合させることができる。反応性基を有するシランカップリング剤としては、ビニルメトキシシラン、ビニルエトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、2−(3、4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン等を用いることができ、モノマーとしては、スチレン、エチレングリコールジグリシジルエーテル、トリメチルプロパントリグリシジルエーテル、ラウリルアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート等を用いることができる。また、反応性基を有さないシランカップリング剤としてはメチルトリメトキシシラン、n−ヘキシルトリメトキシシラン、n−オクチルトリメトキシシラン、ドデシルトリメトキシシラン等を用いることができる。但し、アルキル基に限定されるものではない。
【0067】
上記シランカップリング剤を上記基材に固定化する方法としては、シランカップリング剤を使用した公知の表面処理方法を用いることができる。例えば、シランカップリング剤を水、酢酸水溶液、水−アルコール混合液、あるいはアルコール溶液に希釈させた溶液を調製し、続いて、調整した溶液を公知の塗工方法であるグラビアコーター、ロールコーター、ダイコーター等を用いて基材表面に塗工し、次いで乾燥させることでシランカップリング剤を固定化できる。また、反応性基を有するシランカップリング剤を用いた場合には、次いで他のモノマー成分を同様に塗工して結合させることができる。
【0068】
上記シランカップリング剤を基材上に固定化するためには、あらかじめ基材上にSiO2やTiO2、ZrO2からなる薄膜、もしくはこれらの複合膜が設けられていることが好ましい。これら無機酸化物膜は既知の蒸着法やスパッタ法を用いて設けたものを用いることができる。
【0069】
また、上記無機酸化物膜を設けるには、一般式M(OR)nで表される金属アルコキシド(MはSi、Ti、Al、Zrなどの金属、RはCH3、C25等のアルキル基)を水、アルコールの共存下で加水分解反応および縮重合反応させて得られたゲル溶液を表面にコーティング後、加熱することで無機酸化物膜を設ける、いわゆるゾル−ゲル法を用いることができる。
【0070】
さらに、上記ゾル−ゲル法で用いる金属アルコキシド溶液中にあらかじめ上記シランカ
ップリング剤を添加しておくこともできる。この場合、表面性改質に特に効果が得られる。
【0071】
このようにして得られるインキ剥離性のフィルム基材に対するインキ剥離性は、処理面へインキ液を滴下した際の接触角が、10°以上90°以下の程度となることが好ましく、20°以上70°以下であることがより好ましい。接触角が小さいと後工程で所定のインキ剥離性が確保できず、転写させようとする予備乾燥インキ膜の転写パターンの欠陥(再現性不良等)が発生しやすくなり、接触角が大きいとインキ液膜を形成する際にハジキが生じて、均一なインキ液膜を形成することが困難になる。
【0072】
上記したインキ剥離性のフィルム基材上へインキ液膜を形成する方法としては、インキジェット装置を用いるが、このインクジェット装置のインキジェットヘッドの方式は、サーマル方式、バブル方式、静電アクチュエータ方式、ピエゾ方式等の従来公知の方式が採用できる。
【0073】
なお、スピンコート法、ダイコート法等を使用して均一なインキ液膜をインキ剥離性のフィルム基板全面に塗布する場合と比較して、被印刷基板に転写させようとするパターンを包含する多少大きめのインキ液膜を可撓性のインキ剥離性のフィルム基板上の所定領域にインキジェット法を用いて設けるようにしておけば、後工程で不必要となる無駄なインキの使用量が抑えられてインキ材料の利用効率の高い印刷とすることができる。
【0074】
インキ剥離性のフィルム基材上の所定領域へ前記方法によりインキ液膜を形成した後に、インキ液膜を予備乾燥するが、この予備乾燥には自然乾燥、冷風・温風乾燥、マイクロ波乾燥、減圧乾燥などの種々の乾燥方法を用いることができる。また、紫外線、電子線などの放射線を用いて乾燥するようにしてもよい。
【0075】
この予備乾燥では、インキ液膜の粘度またはチキソトロピー性、脆性を上げることを目的とする。予備乾燥による乾燥が不十分な場合は、後工程で凸版の凸部を押し当てその一部を剥離させる際に、予備乾燥インキ膜が不必要な個所で断裂してしまう。逆に乾燥が行き過ぎた場合は、予備乾燥インキ膜表面のタック性が無くなり、凸版の凸部に予備乾燥インキ膜が転写されない。そのため、使用するインキの組成によって乾燥状態を乾燥時間や雰囲気温度により調節するが、予備乾燥させたインキ膜において0.5%から4.0%程度の溶剤の残留が認められる状態が好ましい。
【0076】
いわゆるドライフィルムといわれるppmオーダーの溶剤残留量では乾燥が行き過ぎであり、予備乾燥インキ膜の一部が転写されない不具合や、凸版の押し付けにより予備乾燥インキ膜が部分的に剥離してゴミの原因になったりする不具合が出るため、予備乾燥インキ膜の条件として適さない。
【0077】
インキ剥離性のフィルム基材上の予備乾燥インキ膜の所望部分を被印刷基材に転写するために用いられる凸版としては、無アルカリガラス等の低膨張ガラス表面に感光性樹脂を用いてマスクパターンを形成した後、既存のドライエッチング処理やウエットエッチング処理、もしくはサンドブラスト処理を用いて、2μmから30μm程度の版深の凸部並びに凹部を設けたものを用いることができる。
【0078】
また、凸版にはナイロン、アクリル、シリコーン樹脂、スチレン−ジエン共重合体等からなるものを用いることもできる。またエチレン−プロピレン系、ブチル系、ウレタン系ゴムなどのゴム製の凸版を用いることもできる。このような樹脂製の凸版は、すでに一般的な凸版印刷やフレキソ印刷用に用いられており、予め作製した型に所定の樹脂を流し込んで版とするか、あるいは彫刻によっても版とすることができるが、感光性樹脂を用いる
方法がより高精度のものを作製できるので好ましく用いられる。
【0079】
被印刷基材としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエーテルサルフォン、シクロオレフィンポリマー、ポリイミド、ナイロン、アラミド、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリ塩化ビニル、トリアセチルセルロース等からなるフィルムやシートを用いることもできる。これらの中から印刷に適用するインキ液膜の乾燥条件に合わせて適宜のものを選定すればよいが、耐熱性のものとしてはポリエチレンナフタレート、ポリエーテルサルフォン、シクロオレフィンポリマー、ポリイミド等からなる可撓性のフィルムやシートが好適である。また、無機フィラーを樹脂に添加して耐熱性を向上させた材料からなる基材でもよい。フィルムおよびシートは、延伸されたものでもよく、未延伸のものでもよく、また、必要に応じてガスバリア層や平滑化層、インキ受像層等が印刷面または他の面に積層されていてもよい。
【0080】
インキ液の材料としては、画像パターン形成材料に溶媒を溶解又は分散させたものを用いることができる。例えば、カラーフィルターにおいて赤色、緑色、青色からなるカラーパターン(着色層)やブラックマトリックス等を本発明の印刷方法により設ける場合は、顔料成分と樹脂成分を溶媒中に溶解、分散させてなるインキを用いることができる。
【0081】
顔料としては、例えば、赤、緑、青の各色で使用できるものとして次のようなものが挙げられる。顔料の種類は、カラーインデックス(C.I.)No.で示す。まず、赤色顔料として、97、122、123、149、168、177、180、192、208、209、215等が、緑色顔料として7、36等が、青色顔料として、15、15:1、15:3、15:6、22、60、64等が挙げられる。また、墨顔料として、カーボンブラック、チタンブラック等が挙げられる。さらに、これら赤、緑及び青顔料の色調整及びインキの流動性を改善するために、次に挙げる顔料を必要量添加することができる。
【0082】
すなわち、黄顔料として、17、83、109、110、128等が、紫顔料として、19、23等が、白顔料として、18、21、27、28などが、橙顔料として、38、43等が挙げられる。これらの顔料は、単体以外に、顔料を予め分散剤、有機溶剤に分散させた顔料分散体であっても良い。
【0083】
また、ブラックマトリックスの形成に用いられる黒色顔料としては、カーボンブラックやチタンブラックが単独又は混合して用いられる。
【0084】
樹脂成分としては、例えば、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、メラミン系樹脂、ベンゾグアナミン系樹脂からなる群から選ばれる1つ以上のものが使用される。溶剤には、エステル系溶剤、アルコール系溶剤、エーテル系溶剤及び炭化水素系溶剤等が使用される。そして、エステル系溶剤としては、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エトキシエチルプロピオネート、アルコール系溶剤としては、1−ブタノール、3メトキシ−3メチル−1ブタノール、1−ヘキサノール、1,3ブタンジオール、1−ペンタノール、2−メチル1−ブタノール、4−メチル−2−ペンタノール、エーテル系溶剤としては、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールターシャリーブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールブチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールブチルエーテル、ジエチレングリコールエチルエーテル、炭化水素系溶剤としては、ソルベッソ100、ソルベッソ150(製品名エクソン化学社製)等が挙げられる。
【0085】
また、有機EL素子の有機発光層を形成する場合には、例えば、ポリフェニレンビニレ
ン(PPV)といった高分子発光材料を溶媒としてトルエンやキシレンといった芳香族系有機溶媒に溶解、分散させることにより得られるインキが用いられる。また、回路基材の配線を形成する場合には、金、銀、銅、ニッケル、白金、パラジウム、ロジウム等の金属微粒子分散液を水やアルコール、グリコール系溶媒に溶解、分散させることにより得られるインキが用いられる。また、これらのインキには必要に応じて、界面活性剤、酸化防止剤、粘度調整剤、紫外線吸収剤、レベリング剤等の種々の添加剤が添加されていてもよい。なお、本発明に用いられるインキはこれらに限定されるものではない。
【0086】
以下、本発明の実施例について説明する。
【実施例1】
【0087】
カラーフィルター用赤色着色インキを次の要領で調製した。
【0088】
(赤色着色インキの組成)
まず、メタクリル酸を20重量部、メチルメタクリレートを10重量部、ブチルメタクリレートを55重量部、ヒドロキシエチルメタクリレートを15重量部を乳酸ブチル300gに溶解し、窒素雰囲気下でアゾビスイソブチルニトリル0.75重量部を加えて70℃にて5時間反応させ、アクリル共重合体樹脂を得た。次に、得られたアクリル共重合体樹脂を樹脂濃度が10重量%になるようにプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートで希釈し、アクリル共重合体樹脂の希釈液を得た。
【0089】
この希釈液80.1gに対し、赤色顔料19.0g、分散剤としてのポリオキシエチレンアルキルエーテル0.9gを添加して、3本ロールにて混練し、赤色の着色ワニスを得た。なお、赤色顔料として、ピグメントレッド177を使用した。
【0090】
得られた各着色ワニスに、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートを、その顔料濃度が11〜15重量%、粘度が15mPa・s( 2 5 ℃ )になるように調整して添加した後、混合物を均一になるように攪拌混合し、さらに、5μmのフィルタで濾過して赤色着色インキを得た。
【0091】
続いて、インキ剥離性フィルム基材として、基材厚が約120μmのシリコーン系離形ポリエステルフィルム:K1504(東洋紡績社製)を300mm幅、500mのロール状で用意した。
【0092】
また、パターンの除去版(凸版)としては、200mm幅(パターン有効幅は150mm)の樹脂製フレキソ用版(東洋紡績社製)を用意した。このフレキソ版には、有効幅内に50mm×50mmのパターンが4つ面付けされており、それぞれのパターンは凸部20μm幅、凹部80μm幅の連続したストライプパターンであり、さらに4つの角に位置する200μm□の領域内へアライメントマークを設けたものである。
【0093】
さらに、被印刷基材としてフィルム厚120μmの光透過性PET基材を300mm幅、20mのロール状で用意した。
【0094】
そして、上記部材を用い、図1に示すような装置を用い、次のようにして印刷加工を行った。なお、インキジェット装置には1ショットが12pl、180dpiのヘッドを搭載したものを用いた。
【0095】
まず、塗工部ステージ上に新しいフィルム面が来るようにインキ剥離性のフィルム基材を繰り出し、インクジェット装置により、塗工幅150mm、塗工長さ150mmの中に、52mm×52mmの赤色着色インキからなるインキ液膜を4つ塗工した。また、アライメントマーク位置にマークよりも1割ほど大きな四角のパターンも同時に塗工した。インキ液膜の膜厚は、その後の予備乾燥でインキ膜厚が0.8μmになるようにインクジェット装置の吐出量を設定しておいた。
【0096】
つぎに、乾燥部に設置された40℃のホットプレート上で予備乾燥を30秒間行って予備乾燥インキ膜を得てから、その部分がパターン除去部のステージ上に位置されるまで搬送を行った後、そこで120秒間待機させた。
【0097】
そして、あらかじめパターン除去部に設置しておいたフレキソ版に予備乾燥インキ膜をゴムローラーで押し当てて非画像部(転写させないパターン状の部分)を除去した後、アライメント部のステージへシリコーン系離形ポリエステルフィルム(剥離性のフィルム基材)上に残されている予備乾燥インキ膜のパターンが来るように搬送した。そして、2つのアライメント用カメラで対角上のアライメントマークを確認した後、さらにゴムローラーでインキ剥離性のフィルム基材と被印刷基材を重ね合わせた後、ステージから動かしながらインキ剥離性のフィルム基材を被印刷基材から剥がすことによって、被印刷基材へ画像パターンの転写を行った。
【0098】
最後に、画像パターンが転写された被印刷基材を乾燥部へ搬送し、ホットプレートにより120秒間の乾燥を行い、パターン印刷物を得た。
【実施例2】
【0099】
実施例1と同様に、図1に示すような装置を用いて加工を行った。
【0100】
インキとしては、導電性インキである銀粒子水分散液(平均粒径20nm)を、エチレングリコールで粘度を12.0m Pa ・s ( 2 5 ℃ ) に調整したものを用いた。
【0101】
インキ剥離性フィルム基材としては、0.1%の塩酸4.0gとテトラエチルシリケート170g(Si(OC254、日本コルコート化学社製、製品名エチルシリケート28)とをイソプロパノール1200mlに溶かし、この溶液を室温で約2時間攪拌しながら加水分解したものをグラビアコーターを用いて120μm厚、300mm幅のPET基材上に0.5μm厚で塗工して作製したものを用いた。
【0102】
また、パターンの除去版(凸版)としては、幅が200mm(パターン有効幅は150mm)で版深さ25μmにドライエッチングを用いて作製したガラス版を用いた。除去版には、実施例1と同様に、有効幅内に50mm×50mmのパターンが4つ面付けされており、それぞれのパターンが凸部が20μm幅、凹部が80μm幅の連続したストライプパターンであり、さらに4つの角に位置する200μm□の領域内へアライメントマークを設けたものを用いた。
【0103】
そして、導電性インキを、インクジェット装置を用いて、塗工幅150mm、塗工長さ150mmのなかに、52mm×52mmのパターンが4つ配置されるように塗工した。また、アライメントマーク位置にマークよりも1割ほど大きな四角パターンを塗工した。塗工後、60℃での予備乾燥を行い、予備乾燥インキ膜を得た以外は実施例1と同様の工程により、被印刷基材であるPET基材上へパターン印刷を行った。
【0104】
上記実施例1または実施例2では、優れた再現性を有する高精細パターンを安定して印刷でき、インキの使用量を抑えることが可能となった。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明の印刷方法は、ガラス基材や、プラスチックフィルム等の可撓性基材、とりわけ
長尺状の可撓性基材へ高精細パターンの薄膜印刷を連続に安定して行うことができ、且つインクの使用量を抑えることができるので、カラーパターン、ブラックマトリクス、ホワイトマトリクス、スペーサー等のカラーフィルター部材、ゲート電極、ソース電極、ドレイン電極、ゲート絶縁膜、有機半導体材料等のトランジスタ部材、有機発光層等の有機EL素子の印刷形成に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0106】
【図1】本発明の一実施形態に係る印刷方法および印刷装置の一例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0107】
101 ・・・インキ剥離性のフィルム基材の巻き出し部
102 ・・・塗工部
103 ・・・乾燥部
104 ・・・凸版貼りあわせ/パターン除去部
105 ・・・アライメント部
106 ・・・吸着ステージ/貼りあわせ部
107 ・・・インキ剥離性フィルム基材の巻き取り部
108 ・・・被印刷基材の巻き出し部
109 ・・・被印刷基材の乾燥部
110 ・・・被印刷基材の巻き取り部
111 ・・・インクジェット装置
112 ・・・可動ステージ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻き取りロールから供給されてくるインキ剥離性のフィルム基材上にインキジェット法を用いてインキ液を塗工してインキ液膜を設けた後、該インキ液膜を予備乾燥させて予備乾燥インキ膜を得、しかる後に転写させようとするパターンの形状に設けた凹部と転写させないパターンの形状に設けた凸部を具備してなる凸版のパターン形成面を該予備乾燥インキ膜に押し当て、該凸版の凸部に対応する該予備乾燥インキ膜の部分を転移・除去せしめ、しかる後、該インキ剥離性のフィルム基材上に残っている予備乾燥インキ膜の部分を目的の被印刷基材の表面へ転写させることを特徴とする印刷方法。
【請求項2】
前記予備乾燥インキ膜は、インキ液膜の予備乾燥によって粘着性を有し、形状は保っているが常温においては前記凸版の凸部により外力を加えた部分のみが転移して除去され得る半乾燥状態であることを特徴とする請求項1に記載の印刷方法。
【請求項3】
前記インキ剥離性のフィルム基材を巻き出し部から順次繰り出して常に新しい該インキ剥離性のフィルム基材を使用することを特徴とする請求項1または2に記載の印刷方法。
【請求項4】
前記インキ剥離性のフィルム基材が、フィルム基材上にシリコーン樹脂層を積層してなるものであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の印刷方法。
【請求項5】
前記インキ剥離性のフィルム基材は、フィルム基材上にSiO2、TiO2、ZrO2の無機酸化物膜、あるいはこれらの複合酸化物膜のいずれかが設けられ、さらにシランカップリング剤の層を介してアルキル基、シロキサン基、フッ素原子の少なくとも一種が表面に位置していることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の印刷方法。
【請求項6】
前記インキ剥離性のフィルム基材は、フィルム基材上にゾル−ゲル法により酸化物膜が設けられ、さらにシランカップリング剤の層を介してアルキル基、シロキサン基、フッ素原子の少なくとも一種が表面に位置していることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の印刷方法。
【請求項7】
前記インキ剥離性のフィルム基材が光学的に透明であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の印刷方法。
【請求項8】
前記インキ剥離性のフィルム基材上に残された予備乾燥インキ膜からなる部分を、すでに画像パターンが設けられている被印刷基材表面に転写する際に、被印刷基材と該インキ剥離性のフィルム基材との平行状態を維持しながら、観察機器を用いて該インキ剥離性のフィルム基材上に残された予備乾燥インキ膜の部分と被印刷基材表面にすでに設けられている画像パターンとの位置合わせを行うことを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の印刷方法。
【請求項9】
前記インキ剥離性のフィルム基材上の予備乾燥インキ膜の一部を転移・除去するための凸版として、ガラスもしくは樹脂製の版を使用することを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載の印刷方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−155449(P2008−155449A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−345582(P2006−345582)
【出願日】平成18年12月22日(2006.12.22)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】