説明

印刷版の製造方法及び印刷版の再生方法

【課題】レーザー光を使用することなく、CTP等のディジタル化に対応することができ、かつ、短時間で高コントラストの親水・撥水パターンを形成することが可能な印刷版の製造方法、及び印刷後の印刷版を印刷原版へと再生する印刷版の再生方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る印刷版の製造方法は、光触媒層及び撥水性層を備える印刷原版を用いて印刷版を製造する方法であって、撥水性層上に、活性光を遮光する遮光パターンを形成する工程と、印刷原版に、遮光パターンを介して、オゾンで処理しながら活性光を照射する工程と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷版の製造方法、及び印刷後の印刷版を印刷原版へと再生する印刷版の再生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、オフセット印刷に使用される印刷版としては、いわゆるPS版が一般的である。このPS版は、陽極酸化アルミニウムを親水性の非画線部とし、その表面に感光性樹脂を硬化させて得た撥水性の画線部を形成したものである。オフセット印刷は、この撥水性の画線部に付着したインクを、ブランケットを介して被印刷体に転写することにより行われる。
【0003】
近年、このような印刷版の製造に、酸化チタンの有する光触媒活性を利用した技術が提案されている。例えば特許文献1には、基材上に光触媒層が積層された印刷原版を用いて印刷版を製造する方法が開示されている。ネガフィルム等をマスクとしてこの印刷原版に紫外線を選択的に照射すると、光触媒層が有する光触媒活性により、紫外線が照射された部分が撥水性から親水性へと変化する。したがって、撥水性部分を画線部とし、親水性部分を非画線部とした印刷版を得ることができる。
【0004】
しかしながら、この特許文献1記載の方法によって製造される印刷版は、次のような点で、工業的な利用に適さないものであった。
(i)ネガフィルム等のマスクを使用しているため、画像データをそのまま利用することができず、CTP(Computer to Plate)等のディジタル化に対応することができない。
(ii)ネガフィルム等のマスクを使用しているため、露光に際して、マスクを印刷原版に真空密着させる必要がある。
(iii)光触媒層における親水性・撥水性の違いのみに依存しているため、親水性部分と撥水性部分とのコントラストが十分ではなく、明瞭な印刷画像を得ることが困難である。
【0005】
このような問題が生じない技術として、特許文献2には、基材上に光触媒層が積層され、さらにその上に単分子膜が形成された印刷原版を用いて印刷版を製造する方法が開示されている。この印刷原版にレーザー光を選択的に照射すると、光触媒層が有する光触媒活性により、レーザー光が照射された部分の単分子膜が分解除去されるとともに、レーザー光が照射された部分の光触媒層が撥水性から親水性へと変化するため、撥水性部分を画線部とし、親水性部分を非画線部とした印刷版を得ることができる。特に、単分子膜として撥水性が高いものを使用すれば、高コントラストの親水・撥水パターンを形成することができ、明瞭な印刷画像を得ることができる。
【特許文献1】特開平11−249287号公報
【特許文献2】特開2003−211861号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2記載の方法のようにレーザー光を用いる場合、露光装置そのものが高価であり、ランニングコストも高いという新たな問題が生じる。
仮に、特許文献2記載の方法において、レーザー光を照射する代わりにネガフィルム等をマスクとして紫外線を照射したとしても、露光装置についての問題等は解決するが、CTP等のディジタル化に対応することができず、しかも単分子膜の分解除去に時間を要するという問題が生じる。
【0007】
本発明は、以上の課題に鑑みてなされたものであり、レーザー光を使用することなく、CTP等のディジタル化に対応することができ、かつ、短時間で高コントラストの親水・撥水パターンを形成することが可能な印刷版の製造方法、及び印刷後の印刷版を印刷原版へと再生する印刷版の再生方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を重ねた。その結果、光触媒層及び撥水性層を備える印刷原版を用い、この撥水性層上に活性光を遮光する遮光パターンを形成し、この遮光パターンをマスクとしてオゾンで処理しながら露光を行うことで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は以下のようなものを提供する。
【0009】
本発明の第一の態様は、光触媒層及び撥水性層を備える印刷原版を用いて印刷版を製造する方法であって、前記撥水性層上に、活性光を遮光する遮光パターンを形成する工程と、前記印刷原版に、前記遮光パターンを介して、オゾンで処理しながら活性光を照射する工程と、を含むことを特徴とする印刷版の製造方法である。
【0010】
本発明の第二の態様は、光触媒層及び撥水性層を備える印刷後の印刷版を再生する方法であって、前記撥水性層にオゾンを接触させつつ、前記印刷版に活性光を照射する工程を含むことを特徴とする印刷版の再生方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、印刷版を製造する際に、レーザー光を使用することなく、CTP等のディジタル化に対応することができ、かつ、短時間で高コントラストの親水・撥水パターンを形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
≪印刷版の製造方法≫
本発明に係る印刷版の製造方法は、光触媒層及び撥水性層を備える印刷原版を用いて印刷版を製造する方法であって、前記撥水性層上に、活性光を遮光する遮光パターンを形成する工程と、前記印刷原版に、前記遮光パターンを介して、オゾンで処理しながら活性光を照射する工程と、を含むことを特徴とするものである。
【0013】
以下では先ず、印刷版を製造する際に用いられる印刷原版について説明し、次いで、この印刷原版の撥水性層上に遮光パターンを形成する際に用いられる遮光インクについて説明し、最後に、この印刷原版を用いた印刷版の製造方法について説明する。
【0014】
<印刷原版>
印刷原版は、基本的に、基材上に直接又は中間層を介して光触媒層が積層され、その光触媒層上に撥水性層が積層されてなるものである。
【0015】
[基材]
基材は、光触媒層等の支持体となるとともに、印刷原版に物理的・機械的強度を付与するための部材である。
基材の材料としては、特に限定されるものではなく、印刷版に必要とされる物理的・機械的強度を有する従来公知の材料を用いることができる。具体的には、アルミニウム、ステンレス、ニッケル、銅等からなる金属板;二酢酸セルロース、三酢酸セルロース、プロピオン酸セルロース、酪酸酢酸セルロース等のセルロース誘導体や、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリアセタール等からなるプラスチックフィルムを用いることができる。これらの中でも、アルミニウム板を用いることが特に好ましい。
【0016】
この基材には、光触媒層との密着性を高めるために、必要に応じて機械的処理及び/又は化学的処理を施すことが好ましい。例えば、基材としてアルミニウム板を用いる場合には、アルカリ水溶液による脱脂処理の後、機械的又は電気化学的な手法により粗面化し、粗面化した表面を、硫酸、塩酸、シュウ酸、クロム酸、或いはこれらの混酸等を用いて陽極酸化処理することが好ましい。
【0017】
基材の厚さは、特に限定されるものではないが、印刷版を版胴に巻き付けて使用する場合には、50〜600μmであることが好ましい。
【0018】
[中間層]
中間層は、基材と光触媒層との密着性を高めるための層であり、必要に応じて基材と光触媒層との間に設けられる。
中間層を形成する材料としては、シリカ(SiO)、シリコーン樹脂、シリコーンゴム等のシリコン系化合物が挙げられる。このうちシリコーン樹脂としては、シリコーンアルキド、シリコーンウレタン、シリコーンエポキシ、シリコーンアクリル、シリコーンポリエステル等が挙げられる。
【0019】
[光触媒層]
光触媒層は、少なくとも光触媒粒子を含有しており、印刷原版に光触媒活性を付与するための層である。この光触媒層は元々撥水性であるが、所定の波長域の光、具体的には光触媒粒子のバンドギャップエネルギよりも高いエネルギを有する波長域(通常は387nm以下)の光が照射されると、光触媒活性により親水性へと変化する。
【0020】
光触媒粒子としては、特に限定されるものではないが、例えば酸化チタン粒子が挙げられる。光触媒粒子として酸化チタン粒子を用いる場合、アナターゼ型、ブルッカイト型、及びルチル型のいずれの酸化チタン粒子を用いてもよいが、光触媒活性の高いアナターゼ型の酸化チタン粒子を用いることが好ましい。また、光触媒粒子は、触媒反応における反応物質との接触面積を増大させるという観点から、小径の粒子を用いることが好ましい。具体的な粒径としては、1μm以下であることが好ましく、0.5μm以下であることがより好ましく、0.1μm以下であることがさらに好ましい。
【0021】
光触媒層における光触媒粒子の含有量は、10〜100質量%であることが好ましい。10質量%以上であることにより、触媒反応を十分に進行させることができ、印刷版に効率的に親水・撥水パターンを形成させることができる。
【0022】
光触媒層は、光触媒層の撥水性から親水性への変化特性を改良するため、或いは光触媒層と基材との密着性を向上させるため、その他の成分を含有してもよい。その他の成分としては、具体的には、シリカ、シリカゾル、オルガノシラン、シリコーン樹脂等のシリカ系化合物;酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム等の金属酸化物;フッ素樹脂等が挙げられる。
【0023】
基材上に光触媒層を形成する際には、光触媒層の構成材料を、水、或いはイソプロピルアルコール等の有機溶剤等に分散させた光触媒層形成用組成物を用いることが好ましい。光触媒層形成用組成物の固形分濃度としては、特に限定されるものではないが、0.1〜20質量%であることが好ましい。固形分濃度が0.1質量%以上であることにより、十分な膜厚の光触媒層を形成することができる。また、固形分濃度が20質量%以下であることにより、光触媒層形成用組成物の塗布性が低下することがない。上記固形分濃度は0.5〜2.0質量%であることがより好ましい。
【0024】
光触媒層の膜厚は、特に限定されるものではないが、0.1〜10μm以下であることが好ましい。光触媒層の膜厚が0.1μm以上であることにより、光触媒層における触媒反応を進行させるための特性を高めることができ、10μm以下であることにより、クラック等が生じることがない。上記膜厚は1〜5μmであることがより好ましい。
【0025】
[撥水性層]
撥水性層は、印刷原版の表面に撥水性を付与するための層である。上記のように光触媒層は元々撥水性であるが、この撥水性層は、光触媒層よりも高い撥水性を有する。
【0026】
この撥水性層としては、撥水性を有する膜成分により構成される薄膜であれば特に限定されるものではなく、吸着膜、堆積膜、自己組織化単分子膜など、印刷版の使用態様に応じて適宜選択することができる。ただし、後述する印刷版の製造方法において、光触媒層と酸素分子との接触可能性を担保する点、撥水性層の撥水性を向上させる点、及び遮光インクにより微細なパターン形成を可能する点から、撥水性層としては、疎水性基を有する化合物により形成される自己組織化単分子膜を採用することが好ましい。
【0027】
疎水性基を有する化合物により形成される自己組織化単分子膜を撥水性層とする場合において、疎水性基を有する化合物と光触媒層の光触媒粒子との結合様式は特に限定されるものではなく、共有結合、配位結合、水素結合、ファンデルワールス結合等が挙げられる。ただし、経時的に安定な自己組織化単分子膜を形成するという観点からは、上記結合様式は共有結合であることが好ましい。
【0028】
疎水性基を有する化合物としては、疎水性基と、光触媒層の光触媒粒子への結合部位とを有する化合物であれば、特に限定されるものではない。ただし、後述する印刷版の製造方法において、光触媒層に含有される光触媒の作用により容易に分解除去される化合物であるという点、及び光触媒層の光触媒粒子との結合性の観点から、下記一般式(1)及び(2)で表される化合物の少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0029】
【化1】

[上記一般式中、R及びRはそれぞれ独立に水素原子の一部又は全部がフッ素原子により置換されていてもよい炭素数1〜20の炭化水素基を示し、Xは加水分解性基を示し、nは1〜3の整数を示す。]
【0030】
ここで、上記一般式(1)におけるXの具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、sec−ブトキシ基、t−ブトキシ基等のアルコキシ基;ビニロキシ基、2−プロペノキシ基等のアルケノキシ基;フェノキシ基、アセトキシ基等のアシロキシ基;ブタノキシム基等のオキシム基;アミノ基等が挙げられる。これらの中でも、炭素数1〜5のアルコキシ基が好ましく、特に加水分解、縮合時の制御のし易さから、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、及びブトキシ基が好ましい。
【0031】
また、上記一般式(1)で表される化合物において、隣接して存在する当該化合物のケイ素原子がシロキサン結合を形成することにより、撥水性層の安定性をより向上させることができるという観点から、nは1又は2であることが好ましく、1であることがより好ましい。
【0032】
上記一般式(1)又は(2)で表される化合物の具体例としては、オクタデシルトリメトキシシラン及びオクタデシルホスホン酸が挙げられる。この中でも、オクタデシルホスホン酸を用いることが好ましい。
【0033】
撥水性層の膜厚は、撥水性を十分に発揮することができる範囲のものであれば、特に限定されるものではないが、自己組織化単分子膜が有する膜厚以上であって、0.01μm以下であることが好ましい。撥水性層の膜厚が0.01μm以下であることにより、後述する印刷版の製造方法において、光触媒層上に積層された撥水性層を容易に分解除去することができる。上記膜厚の上限値は0.003μmであることがより好ましい。
【0034】
[印刷原版の製造方法]
印刷原版を製造するには、先ず、基材上に上述した光触媒層形成用組成物を塗布し、乾燥させることにより、光触媒層を形成する。
【0035】
次に、光触媒層上に撥水性層を形成する。撥水性層を形成する方法は、特に限定されるものではなく、従来公知の方法を採用することができる。例えば、上記一般式(1)及び(2)で表される化合物の少なくとも1種を用いて自己組織化単分子膜を形成する場合には、浸漬法や蒸着法等を用いることができる。
【0036】
<遮光インク>
遮光インクは、印刷原版の撥水性層上に活性光を遮光する遮光パターンを形成する際に用いられるものである。
この遮光インクとしては、光触媒層の光触媒活性を発揮させることが可能な所定の波長域の光に対して高い吸収能を有するものであれば、特に限定されるものではない。好適な具体例としては、300〜450nmの波長域の光に対して高い吸収能を有する水溶性染料を含有するインクが挙げられる。
【0037】
300〜450nmの波長域の光に対して高い吸収能を有する水溶性染料としては、水中での吸収スペクトルにおいて300〜450nmの波長域に高い吸収があり、かつ水に対する溶解度が5質量%以上、好ましくは7質量%以上であるものを適宜選択すればよい。このような染料の具体例としては、水溶性の銅フタロシアニン染料、黄色染料、褐色染料等が挙げられる。これらの水溶性染料は2種以上併用してもよい。
【0038】
水溶性の銅フタロシアニン染料としては、例えば、C.I.ダイレクトブルー86,87,199、C.I.アシッドブルー249等が挙げられ、好ましくはC.I.ダイレクトブルー86,199である。
また、水溶性の黄色染料としては、例えば、C.I.アシッドイエロー17,19,23,25,39,40,42,44,49,50,61,64,76,79,110,127,135,143,151,159,169,174,190,195,196,197,199,218,219,220,227、C.I.ダイレクトイエロー1,8,11,12,24,26,27,33,39,44,50,58,85,86,87,88,89,98,110,132,142,144等が挙げられ、好ましくはC.I.ダイレクトイエロー132,142である。
また、水溶性の褐色染料としては、例えば、C.I.ダイレクトブラウン1,2,6,25,27,33,37,39,59,60,62,95,99,100,104,106,112,113,115,167,169,175,195,210等が挙げられ、好ましくはC.I.ダイレクトブラウン195である。
【0039】
水溶性の銅フタロシアニン染料は、通常550〜650nm及び300〜400nmの波長域に吸収極大を有し、水溶性の黄色染料及び褐色染料は、通常350〜450nmの波長域に吸収極大を有する。印刷原版に照射される光の波長は、後述するように240nm以下であるため、照射された光を効率よく吸収し、遮光するためには、水溶性の銅フタロシアニン染料を使用するか、或いは水溶性の銅フタロシアニン染料と水溶性の黄色染料及び/又は褐色染料とを併用することが好ましい。
【0040】
なお、水溶性染料は、Cl、SO2−等の陰イオンの含有量が少ないものを用いるのが好ましい。その含有量の目安は、Cl及びSO2−の総含量として、フタロシアニン色素中で5質量%以下、好ましくは3質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下であり、遮光インク中で1質量%以下である。Cl及びSO2−の少ない水溶性染料を製造するには、例えば、逆浸透膜による通常の方法、或いは水溶性染料の乾燥品又はウェットケーキをアルコール及び水の混合溶媒中で撹拌し、濾過、乾燥する等の方法で脱塩処理すればよい。用いるアルコールは、炭素数1〜4の低級アルコール、好ましくは炭素数1〜3のアルコール、さらに好ましくはメタノール、エタノール、又は2−プロパノールである。また、アルコールでの脱塩処理の際に、使用するアルコールの沸点近くまで加熱後、冷却して脱塩する方法も採用し得る。Cl及びSO2−の含有量は、例えばイオンクロマトグラフ法にて測定される。
【0041】
また、水溶性染料は、亜鉛、鉄等の重金属(イオン)、カルシウム、シリカ等の金属(陽イオン)等の含有量が少ないものを用いるのが好ましい(色素構造の骨格に含有される金属、例えばフタロシアニン骨格における銅を除く)。その含有量の目安は、例えば、染料の精製乾燥品中で、亜鉛、鉄等の重金属(イオン)、カルシウム、シリカ等の金属(陽イオン)について各々500ppm以下である。重金属(イオン)及び金属(陽イオン)の含有量は、例えばイオンクロマトグラフ法、原子吸光法、又はICP(Inductively Coupled Plasma)発光分析法にて測定される。
【0042】
遮光インクは、水を媒体として調製される。水溶性染料は、この遮光インク中に5〜20質量%、好ましくは5〜15質量%含有される。
この遮光インクは、必要に応じて、水溶性有機溶剤を、本発明の効果を害しない範囲内で含有してもよい。この水溶性有機溶剤は、染料溶解剤、乾燥防止剤(湿潤剤)、粘度調整剤、浸透促進剤、表面張力調整剤、消泡剤等として使用される。
また、遮光インクは、防腐防黴剤、pH調整剤、キレート試薬、防錆剤、紫外線吸収剤、粘度調整剤、染料溶解剤、表面張力調整剤、消泡剤、分散剤等の公知の添加剤を含有してもよい。
水溶性有機溶剤の含有量は、遮光インク全体に対して0〜60質量%が好ましく、10〜50質量%がより好ましい。その他の添加剤の含有量は、遮光インク全体に対して0〜25質量%が好ましく、0〜20質量%がより好ましい。上記以外の残部は水である。
【0043】
上記水溶性有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、第二ブタノール、第三ブタノール等の炭素数1〜4のアルカノール;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のカルボン酸アミド;2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチルイミダゾリジン−2−オン、1,3−ジメチルヘキサヒドロピリミド−2−オン等の複素環式ケトン;アセトン、メチルエチルケトン、2−メチル−2−ヒドロキシペンタン−4−オン等のケトン又はケトアルコール;テトラヒドロフラン、ジオキサン等の環状エーテル;エチレングリコール、1,2−又は1,3−プロピレングリコール、1,2−又は1,4−ブチレングリコール、1,6−ヘキシレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、チオジグリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等の炭素数2〜6のアルキレン単位を有するモノマー、オリゴマー、若しくはポリアルキレングリコール又はチオグリコール;グリセリン、ヘキサン−1,2,6−トリオール等のポリオール(トリオール);エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル等の多価アルコールの炭素数1〜4のアルキルエーテル;γーブチロラクトン、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。
【0044】
これらの中でも、炭素数3〜8のモノ又は多価アルコール、及び炭素数1〜3のアルキル置換を有してもよい2−ピロリドン等が好ましい。多価アルコールとしては、ヒドロキシ基を2〜3個有するものが好ましい。具体的には、イソプロパノール、グリセリン、モノ、ジ、又はトリエチレングリコール、モノ、ジ、又はトリプロピレングリコール、質量平均分子量200〜1000のポリエチレングリコール、質量平均分子量200〜700のポリプロピレングリコール、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、ブタノール等であり、より好ましくはイソプロパノール、グリセリン、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、質量平均分子量200〜600のポリエチレングリコール、質量平均分子量200〜400のポリプロピレングリコール、2−ピロリドンである。これらの水溶性有機溶剤は2種以上併用してもよい。
【0045】
上記防腐防黴剤としては、例えば、有機硫黄系、有機窒素硫黄系、有機ハロゲン系、ハロアリルスルホン系、ヨードプロパギル系、N−ハロアルキルチオ系、ニトチリル系、ピリジン系、8−オキシキノリン系、ベンズチアゾール系、イソチアゾリン系、ジチオール系、ピリジンオシキド系、ニトロプロパン系、有機スズ系、フェノール系、第4アンモニウム塩系、トリアジン系、チアジアジン系、アニリド系、アダマンタン系、ジチオカーバメイト系、ブロム化インダノン系、ベンジルブロムアセテート系、無機塩系等の化合物が挙げられる。有機ハロゲン系化合物としては、例えばペンタクロロフェノールナトリウムが挙げられ、ピリジンオシキド系化合物としては、例えば2−ピリジンチオール−1−オキサイドナトリウムが挙げられ、無機塩系化合物としては、例えば無水酢酸ソーダが挙げられ、イソチアゾリン系化合物としては、例えば1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン、2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンマグネシウムクロライド、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンカルシウムクロライド、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンカルシウムクロライド等が挙げられる。その他の防腐防黴剤として、ソルビン酸ソーダ安息香酸ナトリウム等(例えば、アベシア社製プロクセルGXL(S)、プロクセルXL−2(S)等)が挙げられる。
【0046】
上記pH調整剤は、遮光インクの保存安定性を向上させる目的で、遮光インクのpHを6.0〜11.0の範囲に制御できるものであれば任意の物質を使用することができる。例えば、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン等のアルカノールアミン;水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物;水酸化アンモニウム;炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属の炭酸塩等が挙げられる。
【0047】
上記キレート試薬としては、例えば、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム、ニトリロ三酢酸ナトリウム、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸ナトリウム、ウラミル二酢酸ナトリウム等が挙げられる。
【0048】
上記防錆剤としては、例えば、酸性亜硫酸塩、チオ硫酸ナトリウム、チオグリコール酸アンモニウム、ジイソプロピルアンモニウムナイトライト、四硝酸ペンタエリスリトール、ジシクロヘキシルアンモニウムナイトライト、トリルトリアゾール等が挙げられる。
【0049】
上記紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、桂皮酸系化合物、トリアジン系化合物、スチルベン系化合物、又はベンズオキサゾール系化合物に代表される紫外線を吸収して蛍光を発する化合物、いわゆる蛍光増白剤も用いることができる。
【0050】
上記粘度調整剤としては、水溶性有機溶剤のほかに、水溶性高分子化合物が挙げられ、例えば、ポリビニルアルコール、セルロース誘導体、ポリアミン、ポリイミン等が挙げられる。
【0051】
上記染料溶解剤としては、例えば、尿素、ε−カプロラクタム、エチレンカーボネート等が挙げられる。
【0052】
上記表面張力調整剤としては、界面活性剤が挙げられ、例えば、アニオン界面活性剤、両性界面活性剤、カチオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤等が挙げられる。アニオン界面活性剤としては、アルキルスリホカルボン酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸塩、N−アシルアミノ酸及びその塩、N−アシルメチルタウリン塩、アルキル硫酸塩ポリオキシアルキルエーテル硫酸塩、アルキル硫酸塩ポリオキシエチレンアルキルエーテル燐酸塩、ロジン酸石鹸、ヒマシ油硫酸エステル塩、ラウリルアルコール硫酸エステル塩、アルキルフェノール型燐酸エステル、アルキル型燐酸エステル、アルキルアリルスルホン塩酸、ジエチルスルホ琥珀酸塩、ジエチルヘキルシルスルホ琥珀酸塩、ジオクチルスルホ琥珀酸塩等が挙げられる。カチオン界面活性剤としては、2−ビニルピリジン誘導体、ポリ4−ビニルピリジン誘導体等が挙げられる。両性界面活性剤としては、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ポリオクチルポリアミノエチルグリシン、イミダゾリン誘導体等が挙げられる。ノニオン界面活性剤としては、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル、ポリオキシエチレオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシアリルキルアルキルエーテル等のエーテル系、ポリオキシエチレンオレイン酸、ポリオキシエチレンオレイン酸エステル、ポリオキシエチレンジステアリン酸エステル、ソルビタンラウレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンセスキオレート、ポリオキシエチレンモノオレエート、ポリオキシエチレンステアレート等のエステル系、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オール等のアセチレングリコール系(例えば、日信化学社製サーフィノール104,82,465、オルフィンSTG等)、等が挙げられる。これらの添加剤は、単独又は混合して用いられる。なお、遮光インクの表面張力は、通常25〜70mN/m、より好ましくは25〜50mN/mである。また、遮光インクの粘度は、30mPa・s以下が好ましい。さらに20mPa・s以下に調整することがより好ましい。
【0053】
上記消泡剤としては、フッ素系、シリコーン系化合物が必要に応じて用いられる。
【0054】
遮光インクを調製するにあたり、各成分を溶解させる順序に特に制限はない。使用する水は、イオン交換水、蒸留水等の不純物が少ないものが好ましい。さらに、必要に応じてメンブランフィルター等を用いて精密濾過を行い、夾雑物を除いてもよい。インクジェットプリンター用のインクとして使用する場合には、精密濾過を行うことが好ましい。精密濾過を行うフィルターの孔径は、通常0.1〜1μm、好ましくは0.2〜0.8μmである。
【0055】
<印刷版の製造方法>
印刷版を製造するには、先ず、印刷原版の撥水性層上に、上記遮光インクにより遮光パターンを形成する。遮光パターンを形成する方法は、特に限定されるものではなく、撥水性層上に遮光インクを直接塗布することにより遮光パターンが形成されればよい。遮光インクを直接塗布する方法としては、例えばインクジェット吐出機を用いたインクジェット方式が挙げられる。インクジェット吐出機としては、電圧を加えると変形するピエゾ素子(圧電素子)を利用したピエゾ方式の吐出機や、加熱により発生する気泡を利用したサーマル方式の吐出機のいずれもが使用可能である。
【0056】
なお、遮光インクにより遮光パターンを形成した後は、遮光インクを乾燥させることが好ましい。
【0057】
次に、印刷原版に対して、遮光パターンを介して、オゾンで処理しながら活性光を照射する。オゾンは、酸素を含む雰囲気中にて印刷原版に活性光を照射することにより発生させることが、簡便で好ましい。したがって、印刷原版に照射する活性光の波長域は、オゾンが発生する波長域、具体的には240nm以下が好ましく、200nm以下がより好ましい。また、その照射量及び照射時間は、撥水性層の膜厚にも依存するが、1〜10mW/cmの照射量、60〜300秒間の照射時間であることが好ましい。
【0058】
このように、活性光を照射することにより、遮光パターンが形成されていない部分においては、活性光が光触媒層に到達し、光触媒層が有する光触媒活性により当該部分の撥水性層が分解除去されるとともに、光触媒層が撥水性から親水性へと変化する。さらに、オゾンも存在するため、このオゾンによっても撥水性層が分解され、分解速度が劇的に短縮される。一方、遮光パターンが形成されている部分においては、遮光パターンによって活性光が遮られることに加え、オゾンとの接触も防止されるため、撥水性層が残存する。なお、遮光パターンの代わりにネガフィルム等のマスクを用いた場合には、活性光は遮られるものの、オゾンの影響によって撥水性層が分解されてしまう。
【0059】
続いて、遮光パターンを水系溶媒により洗浄除去する。これにより、遮光パターンが形成されていなかった部分を親水性部分とし、遮光パターンが形成されていた部分を撥水性部分とした親水・撥水パターンを有する印刷版が製造される。この印刷版においては、撥水性部分が画線部となり、親水性部分が非画線部となる。特に、撥水性層の撥水性が高いため、高コントラストの親水・撥水パターンが得られる。
【0060】
なお、初回印刷時から良好な印刷画像を得るためには、遮光パターンを予め除去しておくことが好ましいが、この除去工程を省略しても構わない。このような場合であっても、製造された印刷版を用いてオフセット印刷を行うとき、湿し水によって遮光インクが除去されるため、印刷を数回繰り返すことで、良好な印刷画像が得られるようになる。
【0061】
本発明に係る印刷版の製造方法によれば、上記のように、遮光インクにより遮光パターンを形成しているため、例えばインクジェット方式で遮光パターンを形成することができ、CTP等のディジタル化に対応することができる。また、遮光インクにより遮光パターンを形成しているため、ネガフィルム等のマスクを使用する場合と異なり、露光に際して真空密着が必要ない。さらに、遮光インクにより遮光パターンを形成するとともに、オゾンで処理しながら活性光を照射しているため、短時間で親水・撥水パターンを形成することができる。
【0062】
≪オフセット印刷方法≫
本発明に係る印刷版の製造方法により製造された印刷版は、オフセット印刷に用いることができる。オフセット印刷装置としては、特に限定されるものではなく、従来公知の印刷装置を任意に使用することができる。
【0063】
オフセット印刷を行う際には、先ず、版胴に印刷版を巻き付け、版胴を回転させながら水ローラにより湿し水を供給することにより、印刷版の非画線部となる親水性部分に湿し水を付着させる。印刷版の遮光パターンを除去していない場合には、この湿し水により除去される。
【0064】
次に、インクローラにより印刷版に印刷用インクを塗布し、印刷版の画線部となる撥水性部分に印刷用インクを付着させる。これにより、印刷版に印刷用インクによる像が形成される。そして、この像を一旦ブランケットに転写した後、このブランケットを介して像を被印刷体に印刷する。
【0065】
≪印刷版の再生方法≫
本発明に係る印刷版の再生方法は、光触媒層及び撥水性層を備える印刷後の印刷版を再生する方法であって、前記撥水性層にオゾンを接触させつつ、前記印刷版に活性光を照射する工程を含むことを特徴とするものである。印刷版としては、本発明に係る印刷版の製造方法によって製造されたものを用いてもよく、それ以外の方法によって製造されたものを用いてもよい。
【0066】
印刷版を再生するには、先ず、印刷版から印刷用インクといった表面の付着物を拭き取った後、撥水性層にオゾンを接触させつつ、活性光を照射する。オゾンを接触させるには、印刷版の製造時と同様に、酸素を含む雰囲気中にて印刷原版に活性光を照射することによりオゾンを発生させてもよく、オゾン水を用いてもよい。なお、オゾン水を用いる場合、このオゾン水により印刷版表面の付着物を除去可能なため、上記のように予め付着物を拭き取らなくてもよい。
【0067】
酸素を含む雰囲気中にて活性光を照射することによりオゾンを発生させる場合、活性光の波長域、照射量、及び照射時間は、印刷版の製造時と同様でよい。一方、オゾン水を用いる場合、活性光の波長域は光触媒層に含有される光触媒粒子のバンドギャップエネルギよりも高いエネルギを有する波長域(通常は387nm以下)であればよい。また、その照射量及び照射時間は、1〜10mW/cmの照射量、5〜60分間の照射時間であることが好ましい。
【0068】
このようにして、撥水性層にオゾンを接触させつつ、印刷版に活性光を照射することにより、光触媒層が有する光触媒活性及びオゾンの作用によって撥水性層が全て分解除去され、印刷版上の親水・撥水パターンが消失する。
【0069】
次に、撥水性層が除去されることにより露出した光触媒層の上に、撥水性層を積層する。撥水性層を積層する手法は、印刷原版を製造する際に採用した手法をそのまま採用することができる。これにより、光触媒層上に撥水性層が積層され、再び印刷原版が得られる。したがって、印刷画像毎に版を取り替える必要がなく、コスト或いは環境保護の観点から好ましい。
【0070】
なお、通常は光触媒層上に撥水性層を積層することにより、印刷原版を得ることができるが、光触媒層上に新たな光触媒層を積層した後、撥水性層を積層するようにしても構わない。
【実施例】
【0071】
以下、本発明について実施例を参照して詳細に説明する。なお、本発明は、下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0072】
<実施例1>
ナイロンブラシを用いて表面研磨した厚さ0.3mmのアルミニウム板を、10質量%水酸化ナトリウム水溶液中に浸漬して表面をエッチングして水洗した。その後、アルミニウム板を陽極酸化し、表面が酸化アルミニウムで被覆されたアルミニウム板を得た。このようにして得られたアルミニウム板に、酸化チタンゾル「TDK−701」(商品名、テイカ社製)をイソプロピルアルコールで希釈して得た光触媒層形成用組成物を塗布し、膜厚0.2μmの光触媒層を形成した。さらに、光触媒層が形成されたアルミニウム基板と、オクタデシルトリメトキシシランとをステンレス容器に入れた。容器内の空気を窒素で置換した後、容器を密閉し、200℃で5分間加熱処理することにより、撥水性層を形成し、印刷原版を製造した。
【0073】
一方、C.I.ダイレクトブルー86(東京化成工業社製)3質量部、UVINUL3050(BASF社製)2質量部、トリエタノールアミン5質量部、ジエチレングリコール15質量部、及び水を混合し、メンブランフィルターで濾過して、遮光インクを調製した。
上記のようにして製造された印刷原版の撥水性層上に、調製した遮光インクをインクジェット吐出機を用いて吐出して遮光パターンを形成し、さらに乾燥処理を行った。この印刷原版に対して、大気中にて波長172nmのXeエキシマランプを10mmの距離まで近づけ、7.5mW/cmで60秒間照射して露光処理を行い、遮光パターンが形成されていない部分の撥水性層を分解除去するとともに、遮光パターンが形成されていない部分の光触媒層を親水性化し、印刷版を製造した。
【0074】
このようにして製造された印刷版を用いて、オフセット印刷装置にて印刷したところ、湿し水によって遮光パターンが除去され、印刷を数回繰り返すことにより、非常に解像度の高い印刷画像を得ることができた。写真(網点)画像、及び印刷評価用デザイン(文字、独立点、独立線、白抜き線等)画像を印刷したところ、明瞭な写真画像が印刷できた。また、文字についても2ポイントの文字が明瞭に印刷でき、独立線、白抜き線についても50μmの細線が明瞭に印刷できた。
【0075】
<比較例1>
実施例1と同様にして製造された印刷原版の撥水性層上に、実施例1と同様にして調製した遮光インクをインクジェット吐出機を用いて吐出して遮光パターンを形成し、さらに乾燥処理を行った。この印刷原版にUV−Cを10mW/cmで60秒間照射したところ、撥水性層の分解が起こらなかった。照射時間を増やすと、5分間の照射時間で撥水性層の分解が起こり、印刷版を製造することができた。
【0076】
このようにして製造された平版印刷版を用いて、オフセット印刷装置にて印刷したところ、湿し水によって遮光パターンが除去され、印刷を数回繰り返すことにより、非常に解像度の高い印刷画像を得ることができた。写真(網点)画像、及び印刷評価用デザイン(文字、独立点、独立線、白抜き線等)画像を印刷したところ、明瞭な写真画像が印刷できた。また、文字についても2ポイントの文字が明瞭に印刷でき、独立線、白抜き線についても50μmの細線が明瞭に印刷できた。
【0077】
<実施例2>
実施例1で製造し、オフセット印刷に使用した後の印刷版に付着した印刷用インクを、プレートクリーナー(商品名「TC−2」、東京インキ社製)を用いて除去した。さらに、この印刷版に対して、大気中にて波長172nmのXeエキシマランプを10mmの距離まで近づけ、7.5mW/cmで5分間照射して露光処理を行い、撥水性層及びクリーナーで除去できなかった印刷用インクを完全に除去した。そして、撥水性層が除去されることにより露出した光触媒層の上に、実施例1と同様にして撥水性層を再度形成することにより、印刷原版を得た。
【0078】
<実施例3>
実施例1で製造し、オフセット印刷に使用した後の印刷版に対して、プレートクリーナー(商品名「TC−2」、東京インキ社製)を用いて除去した。オゾン水発生装置から得た2%オゾン水で印刷インキを洗い流し、その後UV−Cを10mW/cmで5分間照射することで、印刷用インク及び撥水性層を完全に除去した。そして、撥水性層が除去されることにより露出した光触媒層の上に、実施例1と同様にして撥水性層を再度形成することにより、印刷原版を得た。
【0079】
<比較例2>
比較例1で製造し、オフセット印刷に使用した後の印刷版に付着した印刷用インクを、プレートクリーナー(商品名「TC−2」、東京インキ社製)を用いて除去した。さらに、この印刷版に対して、UV−Cを10mW/cmで5分間照射したところ、プレートクリーナーでは除去しきれなかった印刷用インクを含む撥水性層の残渣が見られた。照射時間を増やすと、1時間の照射時間で印刷インク用及び撥水性層が完全に除去された。そして、撥水性層が除去されることにより露出した光触媒層の上に、実施例1と同様にして撥水性層を再度形成することにより、印刷原版を得た。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光触媒層及び撥水性層を備える印刷原版を用いて印刷版を製造する方法であって、
前記撥水性層上に、活性光を遮光する遮光パターンを形成する工程と、
前記印刷原版に、前記遮光パターンを介して、オゾンで処理しながら活性光を照射する工程と、を含むことを特徴とする印刷版の製造方法。
【請求項2】
前記オゾンを、酸素を含む雰囲気中にて前記印刷原版に活性光を照射することにより発生させることを特徴とする請求項1記載の印刷版の製造方法。
【請求項3】
前記遮光パターンを、前記撥水性層上に活性光を遮光する遮光インクを直接塗布することにより形成することを特徴とする請求項1又は2記載の印刷版の製造方法。
【請求項4】
前記撥水性層が単分子膜であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項記載の印刷版の製造方法。
【請求項5】
光触媒層及び撥水性層を備える印刷後の印刷版を再生する方法であって、
前記撥水性層にオゾンを接触させつつ、前記印刷版に活性光を照射する工程を含むことを特徴とする印刷版の再生方法。
【請求項6】
前記オゾンを、酸素を含む雰囲気中にて前記印刷版に活性光を照射することにより発生させることを特徴とする請求項5記載の印刷版の再生方法。
【請求項7】
前記撥水性層にオゾン水を接触させつつ、前記印刷版に活性光を照射することを特徴とする請求項5記載の印刷版の再生方法。
【請求項8】
印刷後、前記印刷版から表面の付着物を拭き取る工程を含むことを特徴とする請求項5から7のいずれか1項記載の印刷版の再生方法。

【公開番号】特開2009−190193(P2009−190193A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−30703(P2008−30703)
【出願日】平成20年2月12日(2008.2.12)
【出願人】(000220239)東京応化工業株式会社 (1,407)
【出願人】(591243103)財団法人神奈川科学技術アカデミー (271)
【Fターム(参考)】