説明

印刷版

【課題】新規な書き換え可能な印刷版を提供する。
【解決手段】印刷版、特に印刷スリーブまたは印刷プレートであって、印刷版支持体(11)と、該印刷支持体(11)上に設けられた画線部形成および消去可能なポリマー層(12)と、を有し、ポリマー層(12)には、光触媒処理および/または光化学処理によって画線部を形成することができ、ポリマー層(12)の画線部は、電磁ビームの作用および/または熱の作用および/または少なくとも1つの溶剤の作用および/または研磨による除去によって消去可能になっていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は印刷版に関する。
【背景技術】
【0002】
印刷版を用いて印刷する場合、印刷工程は、基本的に、一度だけ書き込み可能な印刷版か書き換え可能な印刷版のいずれかを用いるという点で区別される。書き換え可能な印刷版を用いる印刷工程は、「CTP/DI(ダイレクトイメージング)(computer to press/direct imaging)」のキーワードで要約することができる。本発明は、書き換え可能な印刷版に関する。
【0003】
本出願人は、「DICOweb(ダイコウェブ)」という製品名のデジタル印刷機を販売している。このデジタル印刷機は、書き換えおよび消去可能な印刷版を用いる。DICOweb技術による印刷版を使用する場合、印刷版支持体、好適には印刷版下地胴(Druckformgrundzylinder)に対して、画線部消去工程および画線部形成工程を行うことが好ましい。印刷版への画線部の形成に続いて、画線部が形成された印刷版の固定および調整(Konditionieren)を場合によっては行う。DICOweb技術の基本的な特徴は、非特許文献1より公知となっている。
【0004】
DICOweb技術では、印刷版に画線部を形成する際に、画線部形成材料が、熱転写方法によって印刷版支持体に塗布される。この画線部形成材料は、画線部を消去するために印刷支持体から除去しなくてはならない。特に、画線部形成材料の塗布および除去は、処理技術上比較的高価であるので、印刷版の画線部形成および消去のために画線部形成材料を塗布することも除去することも必要ではない書き換えおよび消去可能な印刷版への需要がある。
【非特許文献1】ヘルムート・キップハーン(Helmut Kipphan)著「プリントメディアハンドブック(Handbuch der Printmedien)」(2000年、シュプリンガー・フェアラーク社刊)の674〜680頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記に鑑みて、本発明の課題は、新規な書き換え可能な印刷版を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題は、請求項1に係る印刷版によって解決される。本発明の印刷版は、印刷支持体と、該印刷支持体上に設けられた画線部形成および消去可能なポリマー層と、を有し、ポリマー層には、光触媒処理および/または光化学処理によって画線部を形成することができ、ポリマー層の画線部は、電磁ビームの作用および/または熱の作用および/または少なくとも1つの溶剤の作用および/または研磨による除去によって消去可能になっている。
【0007】
本発明による印刷版は、本発明による印刷版の印刷版支持体上に設けられた画線部形成および消去可能なポリマー層を有する。ポリマー層を光触媒によってまたは光化学的に操作することで印刷版への画線部形成が行われるので、印刷版に画線部形成材料を塗布する必要がない。これによって、先行技術と比べて、書き換えおよび消去可能な印刷版への画線部の形成を簡略化することができる。さらに、光触媒によるまたは光化学処理によって操作された画線部が形成されたポリマー層のポリマーは、再配列可能であり(reorganisierbar)、よって画線部が消去可能になっているので、画線部を消去した後、印刷版に再びまたは新たに画線部を形成することができるようになる。この場合、画線部が形成されたポリマー層の画線部を消去することは、電磁ビームおよび/または熱の作用によって行われることが好ましい。
【0008】
本発明の好適な一態様によると、ポリマー層は、親水性すなわち含水する端部と疎水性すなわちインキを含有する端部とを有する複数の二極構造のポリマーブラシを含み、ポリマーブラシは、画像データに基づいてUVレーザ光線を照射することによって配向することができるようになっており、それによってポリマー層に画線部を形成することができるようになっており、ポリマー層の画線部は、電磁ビームの作用および/または熱の作用および/または少なくとも1つの溶剤の作用によって消去可能になっている。
【0009】
本発明の好適なさらなる一態様によると、ポリマー層は、超疎水性すなわちインキを含有する層として構成されており、ポリマー層は、画像データに基づくレーザ照射によってナノ構造化することができ、よって、部分的に親水性すなわち含水する層に変換可能であり、ナノ構造化されたポリマー層の画線部は、研磨による除去によって消去可能となっている。
【0010】
本発明の好適な実施形態は、従属請求項および以下の説明より明らかになる。以下に、本発明の実施形態を、図面を参照して詳細に説明するが、本発明はこれに限定されない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1ないし図3は、本発明による書き込みおよび消去可能な印刷版10の第1の実施形態を示している。図1ないし図3の実施形態に係る印刷版10は、印刷版支持体11と、印刷版支持体11上に設けられたポリマー層12と、を有する。
【0012】
ポリマー層12は、図1ないし図3に係る実施形態では、複数のポリマーブラシ13(図2を参照せよ)によって形成されている。各ポリマーブラシ13は、親水性または含水する端部14と疎水性のまたはインキを含有する端部15と、を有する。したがって、ポリマーブラシ13は二極構造になるよう構成されており、第1の極は、親水性すなわち含水する端部14から形成され、第2の極は、疎水性すなわちインキを含有する端部15から形成されている。図1は、本発明に係る印刷版10のポリマー層12を、全ポリマーブラシ13が同じ配向になっている状態で示している。したがって、図1の実施形態では、ポリマー層12の外面は一貫して親水性を示すので、含水する。
【0013】
二極構造のポリマーブラシ13から形成されているポリマー層12には、光触媒処理または光化学処理、すなわちポリマーブラシ13を照射することによってポリマーブラシ13の配向を変化させて画線部を形成することができる。したがって、図3は、ポリマー層12を照射することで画線部が形成された印刷版10を示している。この場合、照射された部分では、親水性または含水するポリマーブラシ13の端部15がポリマー層12の外面すなわち印刷版10の外面にくるようになる。ポリマー層12のポリマーブラシ13を照射することは、画像データに基づいて行われる。そのために、印刷版10またはポリマー層12は、印刷のためにインキを含有すべき領域において照射される。画像データに基づいてポリマー層12を照射することは、UV光線を用いて行われることが好ましく、好適にはUVレーザ光線を用いて行われる。
【0014】
照射によって画線部が形成された印刷版10または印刷版10のポリマー層12の画線部を消去することもできる。画線部の消去は、電磁ビームをポリマー層12に作用させることによって行うことが好ましい。画線部が形成されたポリマー層12の画線部は、熱を作用させることによっても消去することができる。
【0015】
また、画線部が形成された印刷版10の画線部を、少なくとも1つの溶剤を作用させることによって消去することもできる。これらの複数の消去工程を組み合わせて、画線部が形成されたポリマー層12の画線部を消去するために用いることも考えられ得る。
【0016】
画線部を消去した後、印刷版10は図1に示した配向状態に再び戻るので、ポリマー層12、よってポリマーブラシ13を画像データに基づいて照射することによって、印刷版10に新たに画線部を形成することができるようになる。
【0017】
二極構造のポリマーブラシ13は、P1/P2VP−ポリマーシステムまたはポリ[スチレン−co−2−(4−ビニルフェニル)インデン]/P2VP−ポリマーシステムであることが好ましい。このようなポリマーシステムから成るポリマーブラシは、UV光線によって照射することで良好に配向することができるので、これによってポリマー層の外面において、疎水性またはインキを含有する部分と親水性または含水する部分とを意図的につくることができる。
【0018】
好適な一形態では、ポリマー層13を、超疎水性ポリマーに組み込むすなわち埋め込むことができる。配向が交換可能になっている(schaltbar)ポリマーブラシを超疎水性ポリマーと組み合わせる場合、比較的小さな交換振幅で十分になるように、UV照射することでポリマーブラシの配向の交換可能性を改善し、それによって、所望の印刷版を提供するために二極構造のポリマーブラシを照射する際に意図的に配向させることができる。
【0019】
超疎水性の支持体ポリマーは、たとえば、好適にはカルボキシ末端ポリ(スチレン−co−2、3、4、5、6−ペンタフルオロスチレン)およびカルボキシ末端ポリ(2−ビニルピリジン)から成る二極構造のポリマーブラシが埋め込まれているPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)であり得る。
【0020】
図4および図5は、本発明による書き換えおよび消去可能な印刷版の第2の実施形態を示している。この実施形態の印刷版16もやはり、印刷版支持体17と、印刷版支持体17上に設けられたポリマー層18と、を有する。図4および図5の実施形態では、ポリマー層18は、超疎水性すなわちインキを含有するポリマー、低圧酸素プラズマでのプラズマエッチング後に超疎水性を示すようになる特にPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)から成る。このような超疎水性のポリマー層18は、光触媒処理または光化学処理、特に画像データに基づいたレーザ照射によって、部分的にナノ構造化される。その結果、照射された表面付近の部分19では、もともと超疎水性のポリマー層18が親水性になり、よって含水する。ポリマー層18の画線部を消去するためには、このポリマー層の外側領域を研磨によって除去すればよく、その結果、ポリマー層18に新たに画線部を形成することができるようになる。
【0021】
本発明によって、画線部形成材を塗布することなく印刷版に画線部を形成することができるようになる。本発明による印刷版のポリマー層には、光触媒処理または光化学処理によって、データに基づいて画線部が形成される。本発明による印刷版は、印刷スリーブまたは印刷プレートであり得る。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明による第1の実施形態に係る書き換えおよび消去可能な印刷版を画線部が消去された状態で示した図である。
【図2】図1の印刷版の詳細図である。
【図3】図1の本発明に係る印刷版を画線部が形成された状態で示した図である。
【図4】本発明による第2の実施形態に係る書き換えおよび消去可能な印刷版を画線部が消去された状態で示した図である。
【図5】図4の本発明による印刷版を画線部が形成された状態で示した図である。
【符号の説明】
【0023】
10 印刷版
11 印刷版支持体
12 ポリマー層
13 ポリマーブラシ
14 親水性または含水する端部
15 疎水性またはインキを含有する端部
16 印刷版
17 印刷版支持体
18 ポリマー層
19 部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷版、特に印刷スリーブまたは印刷プレートであって、
印刷版支持体(11;17)と、該印刷支持体(11;17)上に設けられた画線部形成および消去可能なポリマー層(12;18)と、を有し、
前記ポリマー層(12;18)には、光触媒処理および/または光化学処理によって画線部を形成することができ、
前記ポリマー層(12;18)の画線部は、電磁ビームの作用および/または熱の作用および/または少なくとも1つの溶剤の作用および/または研磨による除去によって消去可能になっていることを特徴とする、印刷版。
【請求項2】
請求項1に記載の印刷版において、
前記ポリマー層(12)は、親水性すなわち含水性端部(14)と疎水性すなわちインキを含有する端部(15)とを有する複数の二極構造のポリマーブラシ(13)を含み、該ポリマーブラシ(13)は、画像データに基づいて光線を照射することよって配向することができ、それによって前記ポリマー層(12)に画線部を形成することができるようになっていることを特徴とする、印刷版。
【請求項3】
請求項2に記載の印刷版において、
前記ポリマーブラシ(13)は、画像データに基づいてUVレーザ光線を照射することによって配向することができるようになっていることを特徴とする、印刷版。
【請求項4】
請求項2または3に記載の印刷版において、
前記ポリマーブラシ(13)は、P1/P2VP−ポリマーであることを特徴とする、印刷版。
【請求項5】
請求項2または3に記載の印刷版において、
前記ポリマーブラシ(13)は、ポリ[スチレン−co−2−(4−ビニルフェニル)インデン]/P2VP−ポリマーであることを特徴とする、印刷版。
【請求項6】
請求項2または3に記載の印刷版において、
前記ポリマーブラシには、超疎水性のポリマーが埋め込まれていることを特徴とする、印刷版。
【請求項7】
請求項6に記載の印刷版において、
超疎水性のポリマーは、カルボキシ末端ポリ(スチレン−co−2、3、4、5、6−ペンタフルオロスチレン)およびカルボキシ末端ポリ(2−ビニルピリジン)から成る二極構造のポリマーブラシが埋め込まれているPTFEとして構成されていることを特徴とする、印刷版。
【請求項8】
請求項2ないし7のいずれか1項に記載の印刷版において、
前記ポリマー層(12)の画線部は、電磁ビームの作用および/または熱の作用および/または少なくとも1つの溶剤の作用によって消去可能になっていることを特徴とする、印刷版。
【請求項9】
請求項1に記載の印刷版において、
前記ポリマー層(18)は、超疎水性よってインキを含有する層として構成されており、前記ポリマー層(18)は、画像データに基づくレーザ照射によってナノ構造化することができ、よって、部分的に親水性すなわち含水性の層に変換可能であることを特徴とする、印刷版。
【請求項10】
請求項9に記載の印刷版において、
ナノ構造化されたポリマー層(18)において、画線部が研磨による除去によって消去可能になっていることを特徴とする、印刷版。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−98945(P2007−98945A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−244518(P2006−244518)
【出願日】平成18年9月8日(2006.9.8)
【出願人】(599011584)エム・アー・エヌ・ローラント・ドルックマシーネン・アクチエンゲゼルシャフト (257)
【Fターム(参考)】