説明

印刷装置および印刷媒体判別方法

【課題】印刷媒体および印刷装置に要するコストの増加を防止し、ユーザーの利便性を損なうことなく、印刷媒体の種類を高精度に判別する。
【解決手段】印刷媒体の搬送経路の所定位置に配設したローラーを搬送モーターの駆動により回転させることで、当該搬送経路に供給された印刷媒体を搬送可能な印刷装置であって、上記印刷媒体が上記搬送経路を搬送されている所定期間における上記搬送モーターの負荷を示す搬送メジャメント値を取得する負荷取得部と、少なくとも印刷媒体の種類に応じて異なる値に設定された複数のしきい値を取得するしきい値取得部と、上記搬送メジャメント値を上記複数のしきい値と比較することにより、上記印刷媒体の種類を判別する判別部とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷装置および印刷媒体判別方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プリンターにセットされた印刷用紙を自動識別する技術として、印刷用紙にバーコードを設け、プリンター側にバーコードを読み取るためのセンサーを設け、当該センサーで印刷用紙上のバーコードを読み取ることにより上記識別を行なうものが知られている(特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000‐1018号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
プリンターによる印刷の実行に際し、ユーザーは、プリンタードライバー等が提供する印刷設定画面を介して、印刷用紙の種類(普通紙、はがき用紙、写真用紙など)を任意に設定し、当該設定した印刷用紙の種類に適した印刷条件で印刷を実行させることができる。しかし、ユーザーが印刷設定画面で設定した印刷用紙の種類と、そのとき実際にプリンターの給紙トレーに置かれている印刷用紙の種類とが相違する場合がある。このような場合、プリンターに供給されている印刷用紙にとっては適さない印刷、例えばインク吐出量がその用紙にとっては多過ぎたり少な過ぎたりする印刷が実行され、最適な印刷結果が得られないことがある。また、このようにユーザーが設定した印刷用紙と実際にプリンターに供給されている印刷用紙との不一致があるまま印刷を実行することにより、インクの過剰吐出(プリンターに供給されている印刷用紙にとって過剰なインクの吐出)によってプリンター内部が汚れてしまうこともある。
【0005】
ここで、上記文献のようにプリンターに供給された印刷用紙を自動識別すれば、ユーザーが設定した印刷用紙とプリンターに供給されている印刷用紙との不一致を検出可能である。
しかしながら、上記文献においては、印刷用紙にバーコードを設け、かつプリンターにバーコード読み取りのためのセンサーを設けなければならないため、印刷用紙、プリンターともにコストがかかるという問題があった。また、印刷用紙上にバーコードが存在することにより、ユーザーが縁無し印刷を実行した場合、バーコードと画像とが重なってしまい、ユーザーにとって好ましくない印刷結果となる。さらに、そもそもバーコードを付した特殊な印刷用紙を買い求めなければ、上記自動判別をプリンターにさせることができないため、ユーザーの利便性も低い。
【0006】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、印刷媒体および印刷装置に要するコストの増加を防止し、ユーザーの利便性を損なうことなく、印刷媒体の種類を高精度に判別することが可能な印刷装置および印刷媒体判別方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の態様の一つは、印刷媒体の搬送経路の所定位置に配設したローラーを搬送モーターの駆動により回転させることで、当該搬送経路に供給された印刷媒体を搬送可能な印刷装置であって、上記印刷媒体が上記搬送経路を搬送されている所定期間における上記搬送モーターの負荷を示す搬送メジャメント値を取得する負荷取得部と、少なくとも印刷媒体の種類に応じて異なる値に設定された複数のしきい値を取得するしきい値取得部と、上記搬送メジャメント値を上記複数のしきい値と比較することにより、上記印刷媒体の種類を判別する判別部とを備える構成としてある。
本発明によれば、印刷媒体を搬送する際の搬送モーターの負荷を示す搬送メジャメント値と、少なくとも印刷媒体の種類に応じて異なる値となっている複数のしきい値と、を比較することにより印刷媒体の種類を判別する。そのため、印刷媒体にバーコードを付す等の細工をしたり、印刷装置にバーコード読取用のセンサー等を設けたりすることなく、容易かつ正確に印刷媒体の種類を判別することができる。
【0008】
上記複数のしきい値は、上記搬送経路に印刷媒体が供給されていない状態で上記搬送モーターを駆動させた所定期間における搬送モーターの負荷を示す基準メジャメント値と、各種類の印刷媒体を搬送した際の上記搬送モーターの負荷の差異に基づいて決定された、印刷媒体の種類毎のオフセット値と、の和によって設定されるとしてもよい。当該構成によれば、印刷装置の個体差や経年変化の影響が表れる上記基準メジャメント値と、印刷媒体の種類毎のオフセット値との組み合わせを、印刷媒体の種類毎の各しきい値とすることにより、そのときの印刷装置にとって最適な各しきい値を設定して正確な上記判別を行なうことができる。
【0009】
印刷媒体の種類毎のオフセット値の求め方について具体例を説明する。例えば、搬送する際の上記搬送モーターの負荷がn番目(nは1以上の整数)に小さい印刷媒体のオフセット値Sは、当該負荷がn番目に小さい印刷媒体を搬送する際の上記搬送モーターの負荷をMとし、上記搬送経路に印刷媒体が供給されていない状態で上記搬送モーターを駆動させた際の搬送モーターの負荷をMとした場合、下記式で定義されるとしてもよい。
=(Mn−1−M)+k・(M−Mn−1
ただし、0<k<1であり、n=1のときMn−1=Mであるとする。当該構成によれば、各種の印刷媒体についてのしきい値を求める際に、基準メジャメント値に加算して好適な各オフセット値を求めることができる。
【0010】
上記基準メジャメント値は、上記搬送の速度が異なる複数の印刷モードに応じて上記搬送モーターを駆動させた際の負荷を計測することにより予め印刷モード毎に求められており、上記しきい値取得部は、印刷モード毎の基準メジャメント値のうち、外部から指定された印刷モードに対応する基準メジャメント値を用いて上記複数のしきい値を設定するとしてもよい。当該構成によれば、各印刷モード下において、正確な基準メジャメント値を用いて上記判別を行なうことができる。
【0011】
上記印刷媒体の種類毎のオフセット値は、上記搬送の速度が異なる複数の印刷モードおよび又は印刷媒体の供給経路の違いに応じて、上記搬送モーターを駆動させて各種類の印刷媒体を搬送させた際の負荷を計測することにより、予め印刷モード毎および又は供給経路毎に求められており、上記しきい値取得部は、印刷モード毎および又は供給経路毎の上記印刷媒体の種類毎のオフセット値のうち、外部から指定された印刷モードおよび又は供給経路に対応する上記印刷媒体の種類毎のオフセット値を用いて上記複数のしきい値を設定するとしてもよい。当該構成によれば、印刷モードや供給経路を異ならせた各々の場合において、各種印刷媒体についての正確な各オフセット値を用いた上記判別を行なうことができる。
【0012】
上記搬送メジャメント値および基準メジャメント値は、上記各期間における搬送モーターの負荷の平均値および又は最大値であり、上記印刷媒体の種類毎のオフセット値は、各種類の印刷媒体を搬送した際の搬送モーターの負荷の平均値の差異および又は最大値の差異に基づいて決定された値であり、上記判別部は、搬送メジャメント値と複数のしきい値との比較において、上記各平均値に基づく比較と上記各最大値に基づく比較との少なくともいずれか一方を実行するとしてもよい。当該構成によれば、上記各平均値に基づく比較と上記各最大値に基づく比較とのいずれか一方のみを実行するとすれば、所定程度の正確さをもって、かつ少ない計算量で印刷媒体の種類の判別を行なうことができる。一方、上記各平均値に基づく比較と上記各最大値に基づく比較との両方を実行するとすれば、より正確に印刷媒体の種類の判別を行なうことができる。
【0013】
上記判別部が、上記各平均値に基づく比較および上記各最大値に基づく比較を実行し、上記各平均値に基づく比較結果から判別された印刷媒体の種類と、上記各最大値に基づく比較結果から判別された印刷媒体の種類とが相違する場合、これら判別された二つの印刷媒体の種類と、外部から指定された印刷媒体の種類との一致状況に応じて、上記判別部により判別された印刷媒体の種類と上記外部から指定された印刷媒体の種類とが一致すると判定するか否かを分岐するとしてもよい。当該構成によれば、例えば、上記各平均値に基づく比較結果から判別された印刷媒体の種類と、上記各最大値に基づく比較結果から判別された印刷媒体の種類とのいずれか一方が、ユーザーが指定した(外部から指定された)印刷媒体の種類と一致する場合に、上記判別部により判別された印刷媒体の種類とユーザーが指定した印刷媒体の種類とが一致すると判定することができる。
【0014】
上記判別部により判別された印刷媒体の種類と、外部から指定された印刷媒体の種類とが一致するか否か判定し、上記判別された印刷媒体の種類と上記指定された印刷媒体の種類とが一致しない場合に、上記判別された印刷媒体の種類と上記指定された印刷媒体の種類との組み合わせに応じて、外部から指定された印刷条件の少なくとも一部を変更した上で印刷処理を実行するか当該印刷条件を変更することなく印刷処理を実行するか、を分岐するとしてもよい。上記判別部により判別された印刷媒体の種類と、ユーザーが指定した印刷媒体の種類とが一致しない場合には、所定の警告をユーザーに対して行なったり、印刷処理を中止してもよい。ただし、当該構成のように、上記一致が無い場合であっても、上記判別された印刷媒体の種類と上記指定された印刷媒体の種類との組み合わせ次第で、ユーザーが設定した印刷条件(例えば、インク吐出量)を変更した上で印刷処理を実行したり、ユーザーが設定した印刷条件を変更することなく印刷処理を実行したりすることができる。
【0015】
上記負荷取得部は、印刷媒体の種類の違いが搬送モーターの負荷の違いに表れやすい所定の搬送速度で印刷媒体を搬送させた状態で、上記搬送メジャメント値を取得するとしてもよい。当該構成によれば、例えば、ユーザーが印刷に際して指定した印刷モードが比較的搬送速度の速いモードであったとしても、搬送メジャメント値の取得期間は、上記印刷媒体の種類の違いが搬送モーターの負荷の違いに表れやすい所定の搬送速度で印刷媒体を搬送させるため、得られた搬送メジャメント値に基づいて、正確に印刷媒体の種類の判別を行なうことができる。
【0016】
本発明の技術的思想は、印刷装置以外によっても実現可能である。例えば、上述した印刷装置の各部が実行する処理工程を有する方法(印刷媒体判別方法)の発明や、上述した印刷装置の各部が実行する機能を所定のハードウェア(印刷装置が内蔵するコンピューター等)に実行させるプログラムの発明をも把握可能である。なお、本発明の印刷装置は、単一の装置のみならず、複数の装置によって分散して存在可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】プリンターの構造を概略的に示す図である。
【図2】プリンターの機能構成を概略的に示す図である。
【図3】出荷前基準メジャメント値設定処理を示すフローチャートである。
【図4】デューティー値の変動を例示する図である。
【図5】オフセット値設定処理を示すフローチャートである。
【図6】出荷前基準メジャメント値および用紙別搬送メジャメント値の関係を例示する図である。
【図7】オフセット値を記録したテーブルを例示する図である。
【図8】印刷処理を示すフローチャートの一部である。
【図9】印刷処理を示すフローチャートの一部である。
【図10】負荷が異なる各機体において計測されるデューティー値を例示する図である。
【図11】搬送メジャメント値と各しきい値との関係を例示する図である。
【図12】印刷処理の一部の変形例を示すフローチャートである。
【図13】印刷処理の一部の変形例を示すフローチャートである。
【図14】基準メジャメント値と各用紙別搬送メジャメント値との関係等を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態を説明する。
1.プリンターの構成
図1は、本実施形態にかかるプリンター1の概略構造を示す側面図である。プリンター1は、印刷装置に該当する。プリンター1は、給紙トレーとしてのフロント給紙トレー2と、リア給紙トレー3とを有する。フロント給紙トレー2は、プリンター1の底部に略水平に配設される。リア給紙トレー3は、プリンター1の背面部に上方へ突出するように配設される。フロント給紙トレー2およびリア給紙トレー3には、各種の印刷用紙(印刷媒体)を載置することができる。
【0019】
フロント給紙トレー2およびリア給紙トレー3に載置された印刷用紙は、所定の搬送経路に供給され、搬送経路を搬送され、プリンター1の前面側に配設される図示外の排紙トレーへ排出される。つまり、プリンター1においては、フロント給紙トレー2を搬送経路上流位置とする印刷用紙の供給経路(第1供給経路)と、リア給紙トレー3を搬送経路上流位置とする印刷用紙の供給経路(第2供給経路)とが存在する。
【0020】
まず、第1供給経路からの印刷用紙の搬送について説明する。フロント給紙トレー2に載置された印刷用紙のうち最も上に載置された印刷用紙に対して、PU(ピックアップ)ローラー12がその外周を接するように備えられている。PUローラー12は、後述するPFモーター(搬送モーター)14と図示しないギア等によって結合されており、PFモーター14の駆動によりPUローラー12が印刷用紙に平行な回転軸を中心として回転駆動する。
【0021】
PUローラー12は、図1において反時計回りに正回転し、外周にて接する印刷用紙を後方に送り出す。すると、印刷用紙はプリンター1の後方に向かって進行しつつ、印刷用紙の搬送経路下流側の端部(用紙先端)が搬送ガイド13に誘導される。搬送ガイド13は、略半円を描くように湾曲した搬送経路を一部に形成しており、PUローラー12によってフロント給紙トレー2から送り出された印刷用紙は、搬送ガイド13に誘導されて搬送経路下流側(排紙トレー側)へ進行する。これにより、印刷用紙は、搬送ガイド13に沿って湾曲しつつ上方に供給される。搬送ガイド13の湾曲する経路の中央部には、中間ローラー19が備えられている。中間ローラー19は、その外周が搬送ガイド13の印刷用紙に外側から接しつつ、印刷用紙に平行な回転軸を中心として回転する。中間ローラー19は、PFモーター14と図示しないギア等によって結合されており、PFモーター14の駆動により能動的に回転駆動する。図1において中間ローラー19が正回転する方向は、時計回りである。印刷用紙を挟んで中間ローラー19に対向するように中間従動ローラー19aが設けられている。
【0022】
中間ローラー19が回転駆動することにより、印刷用紙は、搬送ガイド13に沿ってさらに上方に搬送される。用紙先端は、搬送ガイド13の湾曲部分を抜けると、プリンター1の前方に向かって搬送ガイド13の略水平部分に沿って略水平に進行する。略水平にしばらく進行すると、用紙先端がPEセンサー(紙端センサー)20に到達する。PEセンサー20は図示しない発光部と受光部を有しており、発光部と受光部の間の光路を印刷用紙が遮るか否かを判定することにより、用紙先端を検出する。用紙先端がPEセンサー20にて検出され、引き続きPFモーター14が駆動し、印刷用紙が搬送経路下流側に搬送される。PEセンサー20よりも搬送経路下流側には、PFローラー(搬送ローラー)17が備えられており、その外周が印刷用紙に対して下側から接する。PFローラー17も、PFモーター14と図示しないギア等によって結合されており、PFモーター14の駆動により能動的に回転駆動する。図1においてPFローラー17が正回転する方向は、反時計回りである。印刷用紙を挟んでPFローラー17に対向するようにPF従動ローラー17aが設けられている。
【0023】
用紙先端がPFローラー17に到達すると、印刷用紙はPFローラー17によって搬送される。印刷用紙の搬送経路上流側の端部(用紙後端)が中間ローラー19よりも搬送経路上流側に位置する場合(用紙後端が中間ローラー19を通過していない場合)には、PFモーター14の駆動によるPFローラー17と中間ローラー19の双方の回転駆動によって印刷用紙が搬送される。一方、用紙後端が中間ローラー19よりも搬送経路下流側に位置する場合(用紙後端が中間ローラー19を通過済みの状態)にも、PFモーター14の駆動によりPFローラー17と中間ローラー19が同期して回転駆動するものの、PFローラー17の回転駆動によって印刷用紙が搬送される。用紙先端がPFローラー17よりも搬送経路上流側に位置する場合(用紙先端がPFローラー17に到達していない場合)には、PFモーター14の駆動によりPFローラー17と中間ローラー19が同期して回転駆動するものの、中間ローラー19の回転駆動によって印刷用紙が搬送される。プリンター1においては、PFローラー17と中間ローラー19による印刷用紙の搬送速度が互いに同じとなるようにローラー径やギア比が設定されている。
【0024】
PFローラー17の搬送経路下流側にはプラテン22が設けられており、プラテン22が搬送される印刷用紙を下方から支持する。プラテン22に印刷用紙を挟んで上方から対向するようにキャリッジ21が備えられている。キャリッジ21は下方に印字ヘッド21aを備えており、印字ヘッド21aの下面に配列する多数のノズルからインクを吐出することが可能である。キャリッジ21は、図1の紙面に対して垂直な方向に移動(主走査)することが可能である。キャリッジ21は、主走査を行いながらインクを吐出することにより、プラテン22上の印刷用紙におけるノズルに対向する領域(印刷位置)に対して、主走査方向に沿ったラスタラインを描画することができる。主走査を行った後に、PFモーター14を駆動させ、印刷用紙を搬送することにより、印刷用紙における印字位置をずらす(副走査)ことができる。従って、印刷用紙における異なる位置にラスタラインを描画することができる。すなわち、上述した主走査と副走査を順次繰り返して実行することにより、印刷用紙上に印刷画像を形成することができる。
【0025】
次に、第2供給経路からの印刷用紙の搬送について説明する。リア給紙トレー3に載置されている印刷用紙を搬送経路に供給するための機構部材として、プリンター1は、LD(ロード)ローラー24、LD従動ローラー25、ホッパー26等を有する。LDローラー24は、リア給紙トレー3の下端縁に隣接して回転可能に配設される。LDローラー24は、後述するASF(オートシートフィーダー)モーター15と図示しないギア等によって結合されており、ASFモーター15の駆動により、図1において時計回りに正回転する。LDローラー24とLD従動ローラー25とは、リア給紙トレー3の下端縁付近の位置において接する。
【0026】
ホッパー26は、リア給紙トレー3の下部側がLDローラー24へ接近する方向およびLDローラー24から離間する方向へ揺動するように配設される。ホッパー26がLDローラー24に接近することで、リア給紙トレー3において最も上にある印刷用紙の用紙先端がLDローラー24に当り、この印刷用紙がホッパー26とLDローラー24との間に挟まれる。かかる状況でLDローラー24を回転させることで、印刷用紙はLDローラー24およびLD従動ローラー25に挟まれて、搬送経路下流側へ搬送される。LDローラー24の回転により搬送された印刷用紙は、その用紙先端が、搬送ガイド13の略水平部分であって、PEセンサー20よりも搬送経路上流側の地点に到達する。そして、LDローラー24の回転によりさらに搬送経路下流側に搬送された印刷用紙は、用紙先端が、PEセンサー20を通過し、PFローラー17に到達する。用紙先端がPFローラー17に到達すると、印刷用紙は、用紙後端がLDローラー24を抜けるまでの間は、PFローラー17の回転とLDローラー24の回転とによって搬送され、用紙後端がLDローラー24を抜けた後は、PFローラー17によって搬送される。プラテン22上に搬送された印刷用紙に対しては、上述したように主走査と副走査の繰り返しによる印刷画像の形成が行なわれる。
【0027】
なお、圧接状態にあるPFローラー17およびPF従動ローラー17aによる印刷用紙の搬送能力(保持力などを含むトータルでの搬送する能力)は、圧接状態にあるLDローラー24およびLD従動ローラー25による印刷用紙の搬送能力より高い。よって、1枚の印刷用紙が、PFローラー17およびPF従動ローラー17aにより挟持され、且つ、LDローラー24およびLD従動ローラー25により挟持されている場合、印刷用紙の搬送量は、PFローラー17(PFモーター14)による搬送制御に従ったものとなる。
【0028】
印刷用紙の搬送は、第1供給経路からの搬送、第2供給経路からの搬送のいずれにおいても「給紙搬送」と「印字搬送」と「排紙搬送」とに大きく分けることができる。給紙搬送とは、印刷用紙がフロント給紙トレー2またはリア給紙トレー3から供給され、印刷用紙における印刷開始位置が印字ヘッド21aと対抗する所定位置に到達するまでの期間における搬送を言う。ただし、用紙先端がPEセンサー20に検出されてから、印刷開始位置が印字ヘッド21aと対抗する所定位置に到達するまでの期間における搬送を「頭出し搬送」と呼ぶこともできる。印字搬送とは、主走査と主走査との合間に間欠的に行なわれる印刷用紙の搬送(副走査)を意味する。排紙搬送とは、印刷用紙の印刷位置に対する必要な印刷画像の形成が全て終了した後等に、当該印刷用紙を排紙トレーに排出するための搬送を言う。
【0029】
図2は、プリンター1の機能構成を示すブロック図である。プリンター1は、既に説明した以外の構成として、外部I/F(外部インターフェイス)30と、CPUとROMとRAMとからなるマイクロコンピューター31と、ASIC32と、PFロータリーエンコーダー33と、ASFロータリーエンコーダー34等を備えている。外部I/F30は外部のホストコンピューター60との仲介をなし、外部I/F30を介してホストコンピューター60から印刷データPDを取得する。印刷データPDは、印刷画像を表す印刷データ(例えば、RGBやCMYKの階調値を画素毎に持ったビットマップデータや、ハーフトーン処理等が行われた印刷画像を構成するラスターデータ等)と、プリンター1を制御するための制御データ等から構成されている。制御データには、印刷モードの種類や印刷用紙の種類(用紙種類)や供給経路(第1供給経路か第2供給経路)やインク吐出量等(まとめて印刷条件と呼ぶ。)を指定する情報が含まれている。これら印刷条件は、ホストコンピューター60が実行するアプリケーションプログラムやプリンタードライバーを使用して、ユーザーが予め指定している。
【0030】
PFロータリーエンコーダー33は、PFローラー17またはPFローラー17と結合されたいずれかのギアに備えられたスケール板と当該スケール板を挟んで配置された発光部と受光部とから構成され、受光部における受光状態に基づいてPFローラー17の回転速度に応じたパルス周期を有するパルス信号を生成する。ASFロータリーエンコーダー34は、LDローラー24またはLDローラー24と結合されたいずれかのギアに備えられたスケール板と当該スケール板を挟んで配置された発光部と受光部とから構成され、受光部における受光状態に基づいてLDローラー24の回転速度に応じたパルス周期を有するパルス信号を生成する。
【0031】
ASIC32は、PF制御部32aと、キャリッジ制御部32bと、PU制御部32cと、ASF制御部32dとを備えている。PF制御部32aは、PFロータリーエンコーダー33から出力されるパルス信号(パルス周期)に基づいて現在のPFモーター14の回転速度(回転量に比例する値)を演算するとともに、この速度が、指定された印刷モードに対応する予め決められた速度プロファイルに沿ったものとなるように、PFモーター14の駆動をフィードバック制御する。つまり、PF制御部32aは、微小な時間(制御ステップ。PID制御周期とも言う。)毎に、その時点での目標速度と上記演算により得た現在の回転速度との偏差に基づくPID演算を行なうことにより、PFモーター14をPWM(Pulse Width Modulation)制御するためのデューティー比DRを決定する。そして、PFモーター14に印加する所定の直流電圧を、当該決定したデューティー比DR(パルスの周期に対するONの期間の比率)に応じてパルス幅変調することにより、パルスとしてのPWM信号を生成し、PFモーター14に出力する。
【0032】
PFモーター14は、DCモーターであり、PWM信号を駆動電源として駆動する。すなわち、PFモーター14は、PWM信号(PWM信号のデューティー比DR)に応じた負荷を生じさせる。ここで、PWM信号のデューティー比DRが大きければ大きいほど、PFモーター14に印加される電圧Vmおよび電流Imの平均的な値は大きくなり、PFモーター14の負荷も大きくなる。なお、デューティー比DRは、DR=d/PWMcycleと表現することができる。PWMcycleは、例えば3000といった整数である。dは、デューティー(Duty)値であり、デューティー比DRにおける分子である。PWMcycle=3000とした場合、d=0〜3000の整数である。つまり本実施形態では、PF制御部32aは、制御ステップ毎に上記デューティー比DRをパルス周期の1/3000単位で調整して決定することができる。
【0033】
ASF制御部32dも、ASFロータリーエンコーダー34から出力されるパルス信号に基づいて現在のASFモーター15の回転速度を演算するとともに、この速度が、指定された印刷モードに対応する速度プロファイルに沿ったものとなるように、ASFモーター15の駆動をフィードバック制御する。また、キャリッジ制御部32bはキャリッジ21や印字ヘッド21aを駆動制御するための処理を実行し、PU制御部32cはPUローラー12を駆動制御するための処理を実行する。
【0034】
マイクロコンピューター31のCPUは、ROMに記憶されたプログラムを読み出して、モーター回転制御モジュール31aや、負荷監視モジュール(負荷取得部)31bや、しきい値取得モジュール(しきい値取得部)31cや、用紙種類判別モジュール(判別部)31dや、一致判定モジュール31eや、オフセット値設定モジュール31f等を実行することにより、後述するように、「オフセット値設定処理」や、「基準メジャメント値設定処理」や、「印刷処理(印刷媒体判別処理を伴う印刷処理)」を実現する。この意味で、プリンター1は印刷媒体判別方法の実行主体であると言える。なお、負荷監視モジュール31bは、PFモーター14の負荷を直接的あるいは間接的に示す値を取得する。本実施形態では、負荷監視モジュール31bは、PF制御部32aによって決定されるデューティー比DRのデューティー値dを取得(監視)する。
【0035】
2.オフセット値設定処理
次に、本実施形態におけるオフセット値設定処理について説明する。当該処理は、プリンター1が市場に流通する前(出荷前)の実験工程あるいは製品製造工程において実行される処理であり、後述の印刷媒体判別処理の際に用いられる「しきい値」を構成する要素としての「オフセット値」を、予め算出してマイクロコンピューター31等の所定の記憶領域に設定しておく処理である。ここでは、出荷前のプリンター1を使用してオフセット値設定処理を行なう場合について説明する。オフセット値は、例えば、プリンター1が使用可能な各種類の印刷用紙をそれぞれ搬送した際のPFモーター14の負荷を実際に計測することにより、用紙種類毎に設定される。
【0036】
なお、オフセット値設定処理の前段階の処理として、プリンター1では、「出荷前基準メジャメント値設定処理」を実行する。出荷前基準メジャメント値設定処理は、後述する基準メジャメント値設定処理とは実行時期が異なるため、ここでは“出荷前”を付すことで呼び名を変えている。
【0037】
図3は、マイクロコンピューター31による制御の下で実現される、出荷前基準メジャメント値設定処理を示したフローチャートである。
ステップS100では、マイクロコンピューター31は、プリンター1について初期化する。また、当該初期化の一部処理として、マイクロコンピューター31は、所定のモーター接続位置セットシーケンスを実行する。モーター接続位置セットシーケンスとは、PFモーター14の駆動力がPFローラー17および中間ローラー19のみに伝わるように、PFモーター14の駆動力を他の各駆動伝達先へ伝えるための機構を制御する処理である。プリンター1においては、PFモーター14が生み出す駆動力は、搬送ローラー17および中間ローラー19に伝わる構成となっているが、これら以外の駆動伝達先、例えばPUローラー12やインクシステム等にも図示しない所定のギアや輪列切替えレバーを介して伝達することが可能である。出荷前基準メジャメント値設定処理では、印刷用紙が無い状態でPFローラー17および中間ローラー19を回転させるときのPFモーター14の負荷を算出する。そこでステップS100では、マイクロコンピューター31は、上記ギアや輪列切替えレバーを制御することにより、PFモーター14の駆動力がPFローラー17および中間ローラー19以外の駆動伝達先に伝わらない状態とする。
【0038】
このように出荷前基準メジャメント値設定処理の開始にあたっては、PUローラー12も駆動不能状態となるため、出荷前基準メジャメント値設定処理において、用紙の搬送経路に印刷用紙が供給されることはない。なお、マイクロコンピューター31は、ステップS100を開始した時点で、搬送経路上に印刷用紙が存在していた場合には、当該印刷用紙を排紙トレーに排出させた上でステップS110以降に進む。
【0039】
ステップS110では、モーター回転制御モジュール31aは、PF制御部32aに所定の制御ステップ数Z1の期間だけPFモーター14を回転させるように指示する。このときモーター回転制御モジュール31aは、一つの印刷モードも指示する。印刷モードとは、基本的には、印刷速度の程度すなわち印刷用紙の搬送速度の程度を意味し、搬送速度が速いものから順に、例えば「高速モード」、「通常モード」、「高精細モード」等がある。PF制御部32aは、モーター回転制御モジュール31bに指示された印刷モードに対応する速度プロファイルに従った、PFモーター14のフィードバック制御を開始する。この結果、PFモーター14が駆動を開始し、PFローラー17および中間ローラー19も回転(空転)を開始する。
【0040】
ステップS120では、負荷監視モジュール31bが、PF制御部32aが制御ステップ毎に決定するデューティー比DRのデューティー値dを取得する。具体的には、負担監視モジュール31bは、上記ステップS110でPFモーター14のフィードバック制御が開始されてからの制御ステップ数が所定の基準数Ns(ただし、Ns<Z1)となったか否かを判定し、当該フィードバック制御が開始されてからの制御ステップ数が基準数Nsとなった場合に、デューティー値dを計測(メジャメント)する。
【0041】
図4は、上記ステップS110でPFモーター14のフィードバック制御が開始されてから制御ステップ数がZ1に達するまでの期間における、デューティー値dの変動を簡易的に例示している。図4に示すように、フィードバック制御が開始された直後においては、PFモーター14の回転速度が加速期にあり安定しないため、PFモーター14の回転速度が略安定する定速期に入ってからデューティー値dの計測を開始する。言い換えると、上記ステップS110でフィードバック制御が開始されてからの制御ステップ数が基準数Nsに到達した頃には、PFモーター14が上記ステップS110で指示された印刷モードの目標速度(例えば20ips)で略定速回転していると考えることができる。
【0042】
負荷監視モジュール31bは、PFモーター14の上記定速期間内において所定回数あるいは所定期間、デューティー値dを繰り返し計測するとともに、これら計測したデューティー値dの平均値を算出する。
【0043】
ステップS130では、負荷監視モジュール31bは、上記算出したデューティー値dの平均値を、「出荷前基準メジャメント値M」としてマイクロコンピューター31における所定の記憶領域に記憶し、また、マイクロコンピューター31は、PFモーター14の停止(制御ステップ数Z1の期間経過)を確認した上で、一つの印刷モードにかかる出荷前基準メジャメント値設定処理を終了する。このような出荷前基準メジャメント値Mは、プリンター1の搬送経路に印刷媒体が供給されていない状態でPFモーター14をある印刷モード下で駆動させた際のPFモーター14の負荷を示している。
【0044】
プリンター1が対応可能な印刷モードは上述したように複数存在する。そこで本実施形態では、印刷モードを変えて、上記出荷前基準メジャメント値設定処理を繰り返し実行する。その結果、「高速モード」、「通常モード」、「高精細モード」等の印刷モード毎の出荷前基準メジャメント値Mがマイクロコンピューター31に設定(記憶)されることとなる。
【0045】
図5は、マイクロコンピューター31による制御の下で実現される、オフセット値設定処理を示したフローチャートである。
ステップS200では、マイクロコンピューター31は、印刷モードおよび供給経路の指定を受付ける。オフセット値設定処理の開始にあたり、作業者は、オフセット値を設定する印刷モード(ここでは、高速モードとする。)および供給経路(ここでは、第1供給経路とする。)を、プリンター1に設けられた所定の操作パネル(不図示)やプリンター1に接続されたコンピューター等を介して、プリンター1に指定する。マイクロコンピューター31は、このように指定された印刷モードおよび供給経路を受付ける。
【0046】
ステップS210では、マイクロコンピューター31は、用紙種類の指定を受付ける。オフセット値設定処理の開始にあたり、作業者は、オフセット値の設定対象とする複数種類の印刷用紙を用意するとともに、当該用意したうちの一つの種類を、上記操作パネルやプリンター1に接続されたコンピューター等を介して、プリンター1に指定する。マイクロコンピューター31は、このように指定された用紙種類を受付ける。作業者は、当該指定した種類にかかる印刷用紙を、上記ステップS200で指定した供給経路に対応する給紙トレー(フロント給紙トレー2)に収容する。オフセット値の設定対象となる用紙種類やその数は限られないが、本実施形態では、一例として「普通紙」、「はがき用紙」、「写真用紙」の3種類が用意され、まず普通紙がフロント給紙トレー2に収容されるものとする。
【0047】
マイクロコンピューター31は、上記ステップS200で指定された供給経路に対応する給紙トレー(フロント給紙トレー2)において用紙切れでないことを公知の用紙切れ検知方法で確認(ステップS220)した上で、ステップS230では、ASIC32に対し、上記ステップS200で指定された印刷モード(高速モード)を指示するとともに、上記ステップS200で指定された供給経路(第1供給経路)からの給紙搬送を指示する。ASIC32は、当該指示された印刷モードに対応する速度プロファイルに従った給紙搬送を開始する。この結果、フロント給紙トレー2に収容されている印刷用紙が、PUローラー12の回転によって搬送経路に供給される。給紙搬送が開始され、印刷用紙の用紙先端が中間ローラー19に到達すると、PF制御部32aによるフィードバック制御も開始される。むろん、ここでのフィードバック制御は、当該ステップS230でマイクロコンピューター31が指示した印刷モードに対応した速度プロファイルに基づいて行なわれる。
【0048】
ステップS240では、負荷監視モジュール31bが、PF制御部32aが制御ステップ毎に決定するデューティー比DRのデューティー値dを取得する。ここでも上記ステップS120と同様に、負担監視モジュール31bは、上記ステップS230で給紙搬送が開始されてから、PFモーター14の回転速度が略安定するまでに要する所定の制御ステップ数が経過したときに、デューティー値dの計測を開始し、所定回数あるいは所定期間デューティー値dを繰り返し計測する。そして、これら計測したデューティー値dの平均値を、上記ステップS210で指定された用紙種類(普通紙)にかかる「用紙別搬送メジャメント値」として取得する。
【0049】
マイクロコンピューター31は、PFモーター14の回転量(印刷用紙の搬送量)に基づいて給紙搬送が終了したことを確認したら(ステップS250)、プリンター1に印字搬送を実行させることなく、そのまま印刷用紙の排紙をさせる(ステップS260)。ただし、マイクロコンピューター31は、上述したように第1供給経路からの給紙搬送を指示している場合には、頭出し搬送を除いた給紙搬送の終了、つまりPEセンサー20で用紙先端が検出された時点で給紙搬送の終了を認識し、そのときの印刷用紙を排紙させるとしてもよい。
【0050】
ステップS270では、マイクロコンピューター31は、全用紙種類についての用紙別搬送メジャメント値の取得を終えたか否か判定し、終えたと判定した場合にステップS280に進む。例えば、マイクロコンピューター31は、ステップS270において、上記操作パネルやプリンター1に接続されたコンピューター等を介して、作業者から全用紙種類の用紙別搬送メジャメント値の取得終了の旨を指示された場合に“Yes”と判定する。あるいは、マイクロコンピューター31は、用紙別搬送メジャメント値の取得対象の全用紙種類を予め通知されていた場合には、この通知されていた全種類についての用紙別搬送メジャメント値の取得を完了したときに“Yes”と判定してもよい。
【0051】
一方、ステップS270において“No”の判定をした場合、マイクロコンピューター31は、ステップS210に戻り、それまでとは異なる種類の印刷用紙(例えば、はがき用紙)の指定を受付ける。このとき作業者は、最新のステップS210で指定した種類にかかる印刷用紙(はがき用紙)をフロント給紙トレー2に収容する。そして、ステップS220以降の処理が繰り返される。従って、ステップS270で“Yes”の判定をした時点で、マイクロコンピューター31は、オフセット値の設定対象として上記用意された全種類の印刷用紙それぞれについて、一つの供給経路(第1供給経路)から、一つの印刷モード(高速モード)で搬送したときのPFモーター14の各負荷を、各用紙別搬送メジャメント値として獲得した状態となる。
【0052】
次に、ステップS280では、オフセット値設定モジュール31fは、上記出荷前基準メジャメント値設定処理(図3)で記憶済みの印刷モード毎の出荷前基準メジャメント値Mのうち上記ステップS200で指定されている印刷モード(高速モード)に対応する出荷前基準メジャメント値Mと、上記ステップS270までの処理によって取得済みの用紙種類毎の用紙別搬送メジャメント値と、に基づいて用紙種類毎のオフセット値を算出する。
【0053】
この場合、まずオフセット値設定モジュール31fは、上記取得済みの用紙種類毎の用紙別搬送メジャメント値について、それらの大小を判別する。ここでは便宜上、上記取得済みの用紙種類毎の用紙別搬送メジャメント値のうち、n番目(nは1以上の整数)に小さい用紙別搬送メジャメント値を、Mと表す。上述したように用紙種類が、普通紙、はがき用紙、写真用紙の3種類である場合、発明者が行なった実験においては、搬送する際にPFモーター14にかかる負荷が最も小さいのは普通紙であり、次に負荷が小さいのははがき用紙であり、負荷が最も大きいのは写真用紙であった。従って、普通紙の用紙別搬送メジャメント値=M、はがき用紙の用紙別搬送メジャメント値=M、写真用紙の用紙別搬送メジャメント値=M、となる。
【0054】
このように、上記取得済みの用紙種類毎の用紙別搬送メジャメント値についての大小を判別したら、オフセット値設定モジュール31fは、用紙種類毎のオフセット値を、用紙種類毎の用紙別搬送メジャメント値の差異に基づいて決定する。より具体的には、搬送される際のPFモーター14の負荷がn番目に小さい用紙種類のオフセット値Sを、下記式(1)に従って算出する。
=(Mn−1−M)+k・(M−Mn−1) …(1)
【0055】
kは、0より大きく1より小さい予め設定された係数であり、本実施形態では、一例としてk=1/2としている。また、n=1のとき、Mn−1=Mであるとする。式(1)によれば、普通紙のオフセット値S、はがき用紙のオフセット値S、写真用紙のオフセット値S、はそれぞれ以下のように表される。
=(M−M)/2
=(M−M)+(M−M)/2
=(M−M)+(M−M)/2
【0056】
図6は、印刷モードが共通な出荷前基準メジャメント値Mおよび用紙別搬送メジャメント値M,M,Mの関係をグラフにより例示している。図6においては、縦軸方向に、M,M,M,Mそれぞれの大きさを示している。図6に示すように、印刷用紙が無い状態でPFモーター14を回転させたときのPFモーター14の負荷を示す出荷前基準メジャメント値Mが最も小さく、これよりも大きいM,M,Mについては、M<M<Mという大小関係となっている。また図6では、上記のように算出されたオフセット値S,S,Sの大きさについても示している。各用紙種類のオフセット値S,S,Sの大小関係は、各用紙種類の負荷(用紙別搬送メジャメント値M,M,M)の大小関係に一致している。
【0057】
ステップS290では、オフセット値設定モジュール31fは、上記ステップS280において算出した用紙種類毎のオフセット値S,S,Sを、上記ステップS200で指定された印刷モード(高速モード)および供給経路(第1供給経路)に対応付けて、マイクロコンピューター31の所定の記憶領域にテーブル化して記憶する(図2のテーブルT)。以上により、供給経路と印刷モードとの一つの組み合わせについての、用紙種類毎のオフセット値の設定処理が終了する。
【0058】
なお上記では、負荷監視モジュール31bは、印刷用紙が無い状態でPFモーター14を駆動させた際にメジャメントしたデューティー値dの平均値を出荷前基準メジャメント値Mとしたが、例えば、印刷用紙が無い状態でPFモーター14を駆動させた際の定速期にメジャメントしたデューティー値dの最大値を、出荷前基準メジャメント値Mとしてもよい(図4参照)。同様に、上記では負荷監視モジュール31bは、各種類の印刷用紙を搬送するためにPFモーター14を駆動させた際にメジャメントしたデューティー値dの各平均値を各用紙別搬送メジャメント値M,M,Mとしたが、各種類の印刷用紙を搬送するためにPFモーター14を駆動させた際の定速期にメジャメントしたデューティー値dの各最大値を、各用紙別搬送メジャメント値M,M,Mとしてもよい。このように、各メジャメントにおける最大値としての、出荷前基準メジャメント値Mおよび各用紙別搬送メジャメント値M,M,Mが取得された場合には、オフセット値設定モジュール31fは、これら最大値としての、出荷前基準メジャメント値Mおよび各用紙別搬送メジャメント値M,M,Mに基づいて、用紙種類毎のオフセット値S,S,Sを算出する。
【0059】
むろん、オフセット値設定モジュール31fは、上記平均値としての、出荷前基準メジャメント値Mおよび各用紙別搬送メジャメント値M,M,Mに基づいて用紙種類毎のオフセット値S,S,Sを算出するとともに、上記最大値としての、出荷前基準メジャメント値Mおよび各用紙別搬送メジャメント値M,M,Mに基づいて用紙種類毎のオフセット値S,S,Sを算出するとしてもよい。
【0060】
プリンター1が対応可能な印刷モードは上述したように複数存在し、かつ印刷用紙の供給経路も複数存在する。そこで本実施形態では、作業者は、上記ステップS200においてマイクロコンピューター31に対して指定する印刷モードと供給経路との組み合わせを変えることにより、オフセット値設定処理を繰り返し実行させる。例えば、上述したように印刷モードが、高速モード、通常モード、高精細モードの3種類であり、印刷用紙の供給経路が第1供給経路(フロント給紙)および第2供給経路(リア給紙)の2種類であれば、計6通りの印刷モードと供給経路との組み合わせに対応して、図5のフローチャートを6回実行する。
【0061】
なお、ステップS200で、供給経路として第2供給経路が指定された場合には、作業者は、ステップS210で指定する種類の印刷用紙をリア給紙トレー3に収容し、マイクロコンピューター31は、リア給紙トレー3において用紙切れでないことを確認(ステップS220)した上で、ステップS230では、ASIC32に、印刷モードを指示するとともに、第2供給経路からの給紙搬送を指示する。この結果、ASFモーター15が駆動することにより、リア給紙トレー3に収容されている印刷用紙がLDローラー24の回転によって搬送経路に供給され、給紙搬送が開始される。印刷用紙の用紙先端がPFローラー17に到達すると、給紙搬送はPF制御部32aによるフィードバック制御に従うものとなる。そして、負荷監視モジュール31bは、PFモーター14の回転速度が略安定する期間においてデューティー値dの計測を行い、当該計測結果の平均値および又は最大値を、そのときの用紙種類にかかる用紙別搬送メジャメント値とする(ステップS240)。
【0062】
図7は、上述したようなオフセット値設定処理の結果、マイクロコンピューター31の記憶領域に設定されたテーブルTを例示している。図7に示すように、テーブルTにおいては、印刷モードと供給経路との組み合わせ毎に、オフセット値のグループが設定されている。一つ一つのグループは、用紙種類(普通紙、はがき用紙、写真用紙)毎のオフセット値S_ave,S_ave,S_aveおよび又は用紙種類毎のオフセット値S_max,S_max,S_maxからなる。オフセット値S_ave,S_ave,S_aveは、上記平均値としての、出荷前基準メジャメント値Mおよび各用紙別搬送メジャメント値M,M,Mに基づいて算出したオフセット値を示し、オフセット値S_max,S_max,S_maxは、上記最大値としての、出荷前基準メジャメント値Mおよび各用紙別搬送メジャメント値M,M,Mに基づいて算出したオフセット値を示している。
【0063】
3.基準メジャメント値設定処理
次に、基準メジャメント値設定処理について説明する。基準メジャメント値設定処理は、上述した出荷前基準メジャメント値設定処理(図3)と、実行時期が異なる以外は基本的に同じ処理である。基準メジャメント値設定処理は、プリンター1が市場に出荷された後、定期的あるいは不定期に実行され、例えば、プリンター1のユーザーがプリンター1の電源を投入したタイミングで実行される。基準メジャメント値設定処理では、マイクロコンピューター31は、印刷モード毎に印刷用紙が無い状態でPFモーター14を駆動させた際にメジャメントしたデューティー値dの各平均値を、印刷モード毎の基準メジャメント値M_std(基準メジャメント値M_std_ave)として取得する。むろん、基準メジャメント値設定処理においても、マイクロコンピューター31は、印刷モード毎に印刷用紙が無い状態でPFモーター14を駆動させた際にメジャメントしたデューティー値dの各最大値を、印刷モード毎の基準メジャメント値M_std(基準メジャメント値M_std_max)として取得してもよい。すなわち、マイクロコンピューター31は、基準メジャメント値設定処理を繰り返すたびに、印刷モード毎の基準メジャメント値M_stdを更新することにより、印刷モード毎の最新の基準メジャメント値M_stdを所定の記憶領域に保持する。
【0064】
4.印刷媒体判別処理を伴う印刷処理
次に、印刷媒体判別処理を伴う印刷処理について説明する。
図8および図9は、プリンター1が実行する印刷処理を示したフローチャートである。
ステップS300では、マイクロコンピューター31がホストコンピューター60から印刷データPDを取得する。このときマイクロコンピューター31は、印刷データPDに含まれている、印刷モードや用紙種類や供給経路やインク吐出量等を指定した情報も取得する。以下では、印刷データPDに含まれている情報によって指定されている印刷モード、用紙種類、供給経路をそれぞれ「指定印刷モード」、「指定用紙種類」、「指定供給経路」と呼ぶ。
【0065】
ステップS310では、マイクロコンピューター31は、ASIC32に、指定印刷モードによる、指定供給経路(ここでは、第1供給経路とする。)からの給紙搬送の実行を指示する。この結果、フロント給紙トレー2に収容されている印刷用紙が、PUローラー12の回転によって搬送経路に供給され、指定印刷モード下での給紙搬送が開始される。ステップS320では、負荷監視モジュール31bが、PF制御部32aが制御ステップ毎に決定するデューティー比DRのデューティー値dを取得する。ここでも上記ステップS240等と同様に、負担監視モジュール31bは、上記ステップS310で給紙搬送が開始されてから、PFモーター14の回転速度が略安定するまでに要する所定の制御ステップ数が経過したときに、デューティー値dの計測を開始し、所定回数あるいは所定期間デューティー値dを繰り返し計測する。そして、これら計測したデューティー値dの平均値を「搬送メジャメント値MP」として取得する。
【0066】
マイクロコンピューター31は、PFモーター14の回転量(印刷用紙の搬送量)に基づいて給紙搬送が終了したことを確認したら(ステップS330)、しきい値取得モジュール31cが、上記搬送メジャメント値MPとの比較対象となるしきい値を取得する(ステップS340)。ただし、マイクロコンピューター31は、上述したように第1供給経路からの給紙搬送を指示している場合には、頭出し搬送を除いた給紙搬送の終了、つまりPEセンサー20で用紙先端が検出された時点で給紙搬送の終了を認識するとしてもよい。
【0067】
なお、上記指定供給経路が第2供給経路である場合には、上記ステップS310においてマイクロコンピューター31は、ASIC32に、指定印刷モードによる第2供給経路からの給紙搬送の実行を指示する。この結果、リア給紙トレー3に収容されている印刷用紙が、LDローラー24の回転によって搬送経路に供給され、指定印刷モード下での給紙搬送が開始される。印刷用紙の用紙先端がPFローラー17に到達すると、給紙搬送はPF制御部32aによるフィードバック制御に従うものとなるため、負荷監視モジュール31bは、ここでもPFモーター14の回転速度が略安定する期間においてデューティー値dの計測を行い、当該計測結果の平均値を、搬送メジャメント値MPとして取得する(ステップS320)。
【0068】
しきい値取得モジュール31cは、上記テーブルTから、上記指定印刷モードおよび指定供給経路に対応する用紙種類毎のオフセット値S,S,Sを読み出すとともに、上記指定印刷モードに対応する基準メジャメント値M_stdを上記所定の記憶領域から読み出す。上記ステップS320において、上述したようにメジャメントしたデューティー値dの平均値を搬送メジャメント値MPとして取得している場合には、当該ステップS340においても、オフセット値S_ave,S_ave,S_aveおよび基準メジャメント値M_std_aveを読み出す。むろん、上記ステップS320において、メジャメントしたデューティー値dの最大値を搬送メジャメント値MPとして取得している場合には、当該ステップS340では、オフセット値S_max,S_max,S_maxおよび基準メジャメント値M_std_maxを読み出す。
【0069】
そして、しきい値取得モジュール31cは、上記読み出した基準メジャメント値M_stdに対して、上記読み出したオフセット値S,S,Sを別々に加算することにより、用紙種類毎のしきい値Thを算出する。つまり、普通用紙のしきい値Th1、はがき用紙のしきい値Th2、写真用紙のしきい値Th3、はそれぞれ以下のように表される。
Th1=M_std+S
Th2=M_std+S
Th3=M_std+S
【0070】
このように用紙種類毎のしきい値Th1,Th2,Th3が算出されたら、次に、用紙種類判別モジュール31dが、搬送メジャメント値MPと用紙種類毎のしきい値Th1,Th2,Th3とを比較することにより、上記ステップS310〜S330で給紙搬送された印刷用紙の種類、すなわちユーザーが実際にプリンター1の給紙トレーに収容した印刷用紙の種類(セット用紙種類)を判別する。具体的には、用紙種類判別モジュール31dは、用紙種類毎のしきい値Th1,Th2,Th3のうち最も大きなしきい値Th3よりも搬送メジャメント値MPが大きいか否か判定し(ステップS350)、当該しきい値Th3よりも搬送メジャメント値MPの方が大きい場合に、セット用紙種類は当該しきい値Th3に対応する用紙種類、つまり写真用紙であると判別し(ステップS360)、ステップS410(図9)に進む。
【0071】
一方、搬送メジャメント値MPがしきい値Th3を上回らない場合には、次に大きなしきい値Th2よりも搬送メジャメント値MPが大きいか否か判定し(ステップS370)、しきい値Th2よりも搬送メジャメント値MPの方が大きい場合に、セット用紙種類は当該しきい値Th2に対応する用紙種類(はがき用紙)であると判別し(ステップS380)、ステップS410に進む。搬送メジャメント値MPがしきい値Th2を上回らない場合には、次に大きなしきい値Th1よりも搬送メジャメント値MPが大きいか否か判定し(ステップS390)、しきい値Th1よりも搬送メジャメント値MPの方が大きい場合に、セット用紙種類は当該しきい値Th1に対応する用紙種類(普通紙)であると判別し(ステップS400)、ステップS410に進む。
【0072】
ここで、基準メジャメント値M_stdに基づいて用紙種類毎のしきい値Th1,Th2,Th3を算出する理由について説明する。これは、PFモーター14駆動時の負荷はプリンター1の機体毎および経年変化によって異なるからである。
【0073】
図10では、PFモーター14を所定速度で回転させるときの負荷が比較的小さいプリンター(第一の機体)において計測されるデューティー値dの変化を実線で例示し、PFモーター14を当該所定速度で回転させるときの負荷が比較的大きいプリンター(第二の機体)において計測されるデューティー値dの変化を鎖線で例示している。図10では、両機体それぞれに、印刷用紙が無い状態でPFモーター14を駆動させた際のデューティー値dの変化、普通紙を搬送するためにPFモーター14を駆動させた際のデューティー値dの変化、写真用紙を搬送するためにPFモーター14を駆動させた際のデューティー値dの変化、を例示している。図10から判るように、両機体で同じ条件(速度や搬送物の有無等)でPFモーター14を駆動させたとしても、そのときPFモーター14にかかる負荷(PFモーター14に印加しなければならない電圧≒デューティー値d)は、機体毎に異なる。従って、第一の機体において普通紙を搬送したとき得られるデューティー値d(搬送メジャメント値)と写真用紙を搬送したときに得られるデューティー値dとを区別するために適切なしきい値Tha(図10参照)は、必ずしも第二の機体において普通紙を搬送したとき得られるデューティー値dと写真用紙を搬送したときに得られるデューティー値dとを区別するために適切なしきい値であるとは言えない。
【0074】
また、上述したようなPFモーター14を駆動させたときの負荷は、同じ機体においても、機体の経年変化に応じて変化する。従って、同一の機体において、ある用紙種類を搬送したとき得られるデューティー値d(搬送メジャメント値)と別の用紙種類を搬送したときに得られるデューティー値dとを区別するために適切なしきい値は、そのプリンターの使用年月に応じて変化すると言える。そこで本実施形態では、プリンター1の機体固有かつ最新の基準メジャメント値M_stdを取得し、この基準メジャメント値M_stdに、用紙種類毎の搬送時の負荷の差異に基づく各オフセット値S,S,Sを夫々加算することにより、そのときのプリンター1の状態にとって最適な用紙種類毎のしきい値Th1,Th2,Th3を決定している。この結果、プリンター1の機体差や経年変化の影響を排除して、極めて正確にセット用紙種類の判別を行なうことができる。
【0075】
図11は、上記搬送メジャメント値MPと、各しきい値Thとの関係をグラフにより例示している。図11においては、基準メジャメント値M_stdの大きさと、セット用紙種類が普通紙である場合に計測されるであろう搬送メジャメント値MPと、セット用紙種類がはがき用紙である場合に計測されるであろう搬送メジャメント値MPと、セット用紙種類が写真用紙である場合に計測されるであろう搬送メジャメント値MPと、を示し、さらにこれらと各しきい値Th1,Th2,Th3との大小関係を例示している。本実施形態では、基準メジャメント値M_stdと各オフセット値S,S,Sとの和である用紙種類毎のしきい値Thは、理想的には、その用紙種類の搬送メジャメント値MPと、その用紙種類よりも搬送時の負荷が一段階小さい用紙種類の搬送メジャメント値MP(あるいは基準メジャメント値M_std)との差分範囲(マージン)の中間に位置するように設定される。そのため、搬送メジャメント値MPの計測結果に多少の誤差があったとしても、セット用紙種類を正確に判別することができる。
【0076】
ステップS410では、一致判定モジュール31eが、上記判別されたセット用紙種類と、上記指定用紙種類とが一致するか否か判定する。ここで、セット用紙種類と指定用紙種類とが一致すると判定された場合、ステップS450に進み、印刷を実行する。つまり、ユーザーがホストコンピューター60上で指定した用紙種類と、プリンター1にセットされていた用紙種類とが一致しているため、印刷データPDに基づく印刷が実行される。この場合、頭出し搬送が未実行であれば頭出し搬送を実行した上で、キャリッジ制御部32bがキャリッジ21や印字ヘッド21aを駆動制御し、印刷用紙に対してインクを吐出してラスタラインを描画する主走査を行う。主走査が完了すると、PF制御部32aがPFモーター14を駆動制御することにより印字搬送(副走査)を実行する。主走査と副操作を繰り返し、印刷データPDが表す画像の印刷が完了すると、ステップS470において排紙搬送を行なって印刷用紙を排出し、印刷処理を終了させる。
【0077】
一方、上記ステップS410でセット用紙種類と指定用紙種類とが一致しないと判定された場合、ステップS420において、マイクロコンピューター31は、所定の警告処理を行なう。この場合、マイクロコンピューター31は、プリンター1が備える不図示の表示パネルにセット用紙種類と指定用紙種類とが一致しない旨のメッセージを表示させたり、当該不一致の旨をホストコンピューター60に通知し、ホストコンピューター60が備えるディスプレイにセット用紙種類と指定用紙種類とが一致しない旨のメッセージを表示させたりする。また、当該警告においては、印刷処理を中止するか、印刷条件を変更した上で印刷を実行するかを問い合わせるメッセージも表示する。
【0078】
ステップS430では、マイクロコンピューター31は、上記問い合わせのメッセージに対するユーザーからの回答を、上記操作パネルあるいはホストコンピューター60からの通知を介して受付け、中止という回答であれば、印刷処理の中止を決定し(ステップS460)、そのまま印刷用紙を排紙搬送させ(ステップS470)、当該フローチャートを終了させる。一方、印刷条件を変更した上での印刷実行という回答を受けた場合には、マイクロコンピューター31は、印刷データPDにおいて指定されている印刷条件の少なくとも一部を、上記判別されたセット用紙種類に適した条件に変更し(ステップS440)、その上で印刷を実行する(ステップS450)。
【0079】
例えば、指定用紙種類が写真用紙であり、上記判別されたセット用紙種類が普通紙である場合、印刷データPDにおいては元々写真用紙に適したインク吐出量が設定されているが、当該設定を普通紙に適したインク吐出量に変更する。そして、ステップS450では、プリンター1は、このように変更されたインク吐出量の設定に基づいた印刷を行なう。或いは、ホストコンピューター60から受信した印刷画像を表す印刷データに対して、プリンター1側で色変換や色補正を実行する場合には、色変換に用いるルックアップテーブル(LUT)や色補正に用いるLUTの選択を、上記判別されたセット用紙種類に適したLUTに変更した上で用いることにより、吐出されるインク量がセット用紙種類に対して適切なインク量となるようにしてもよい。
【0080】
このように上記ステップS420〜S450の処理によれば、指定用紙種類とセット用紙種類とが異なっていても、インク吐出量等の印刷条件がセット用紙種類に適した条件に変更されるため、ユーザーは、結果的に良好な印刷結果を得ることができる。
上記ステップS390において“No”の判定がされた場合、すなわち搬送メジャメント値MPが最も小さいしきい値Th1以下である場合には、印刷用紙が存在しない(用紙切れ)と判定し、ステップS460を経て処理を終了する。この場合、実際に用紙切れの状態であれば、ステップS470の排紙搬送ではプリンター1の各ローラーが空転するだけであり、実際には用紙切れで無い状態であれば、印刷が実行されることなく印刷用紙が排紙搬送される。
【0081】
なお上記では、用紙種類判別モジュール31dは、搬送メジャメント値MPを大きいしきい値から順番に比較してセット用紙種類の判別を行なったが、小さいしきい値から順に比較して判別を行なっても良い。つまり用紙種類判別モジュール31dは、搬送メジャメント値MPとしきい値Th1とを比較し、搬送メジャメント値MPがしきい値Th1より大きい場合には、さらに搬送メジャメント値MPとしきい値Th2とを比較し、搬送メジャメント値MPがしきい値Th2以下であれば、セット用紙種類は普通紙であると判別する。一方、搬送メジャメント値MPがしきい値Th2より大きい場合には、さらに搬送メジャメント値MPとしきい値Th3とを比較し、搬送メジャメント値MPがしきい値Th3以下であれば、セット用紙種類ははがき用紙であると判別し、しきい値Th3より大きい場合には、セット用紙種類は写真用紙であると判別する。
【0082】
図12は、印刷媒体判別処理を伴う印刷処理の一部についての変形例を示している。図12においては、上記図9のステップS410で“No”と判定された後の処理の一部が図9と異なる。図12によれば、マイクロコンピューター31は、上記ステップS410でセット用紙種類と指定用紙種類とが一致しないと判定した場合、ステップS530において、印刷条件を変更した上で印刷を実行するか、印刷条件を変更することなく印刷を実行するかを分岐する。この場合、マイクロコンピューター31は、セット用紙種類と指定用紙種類との組み合わせに応じて当該分岐を行なう。マイクロコンピューター31は、セット用紙種類と指定用紙種類との類似度合いが所定程度高い場合は、印刷条件を変更せずにステップS450に進み、印刷を実行する。
【0083】
セット用紙種類と指定用紙種類との類似度合いが高いとは、例えば、セット用紙種類と指定用紙種類とがいずれも写真用紙の類に属するものであるが、異なる写真用紙である場合等が考えられる。例えば、本実施形態において、複数種類の写真用紙(写真用紙1、写真用紙2…)を含む複数の用紙種類に関して上記しきい値が夫々設定され、搬送メジャメント値MPと用紙種類毎のしきい値との比較に基づいて、セット用紙種類が、普通紙、はがき用紙、写真用紙1、写真用紙2…のいずれであるかを判別するとする。そして例えば、セット用紙種類が写真用紙1であり、指定用紙種類が写真用紙2である場合には、マイクロコンピューター31は、セット用紙種類と指定用紙種類とが一致はしないが類似しているとして、印刷条件を変更することなく(すなわちユーザーが指定した印刷条件を維持して)ステップS450において印刷を実行する。この場合、印刷データPDにおいて指定されている各印刷条件(写真用紙2に適したインク吐出量等の印刷条件)に従って、写真用紙1へ印刷が実行される。
【0084】
一方、マイクロコンピューター31は、セット用紙種類と指定用紙種類との類似度合いが低い場合、例えば、セット用紙種類が写真用紙1であり指定用紙種類が普通紙である場合には、ステップS440に進み、印刷データPDにおいて指定されている印刷条件の少なくとも一部をセット用紙種類に適した条件に変更し、その上で印刷を実行する。このような図12の例によれば、セット用紙種類と指定用紙種類とが一致しない場合であっても、セット用紙種類と指定用紙種類とがある程度類似している場合には、印刷結果の劣化が少ないとして、ユーザーが指定した印刷条件を優先した印刷が実現され、セット用紙種類と指定用紙種類とが大きく異なる種類である場合には、印刷結果の劣化を防止するために、セット用紙種類に適した印刷条件に変更した上で印刷が実現される。
【0085】
このように本実施形態によれば、プリンター1は、各用紙種類の搬送時のPFモーター14の負荷(用紙別搬送メジャメント値M,M,M…)の違いに応じた用紙種類毎のオフセット値S,S,S…を予め設定しておくとともに、プリンター1固有の基準メジャメント値M_stdを適時更新して保持する。そして、プリンター1による印刷処理の際には、給紙搬送の過程で取得した搬送メジャメント値MPと、基準メジャメントM_stdに用紙種類毎のオフセット値S,S,S…をそれぞれ加算して得られた用紙種類毎のしきい値Th1,Th2,Th3…と、を比較することにより、セット用紙種類がどのような用紙種類であるか判別するとした。この結果、プリンター1の機体固有のPFモーター14の負荷特性やプリンター1の経年変化に左右されることなく、セット用紙種類を極めて正確に判別することができる。
【0086】
また本実施形態によれば、従来のように印刷用紙にバーコードを付す等の細工をしたりプリンターにバーコード読取用のセンサーを設けたりする必要がない。従って、用紙種類の判別にかかるコストを低減させることができるとともに、ユーザーの利便性やプリンター1内の省スペース化が向上し、さらに、縁無し印刷する場合にも良好な印刷結果が得られる。このようにセット用紙種類が何であるかを容易かつ正確に判別できるようになったことで、セット用紙種類と指定用紙種類との一致・不一致を容易かつ正確に判定することができる。そして、不一致である場合には、プリンター1は、例えば、印刷を中止したり、指定用紙種類に対応して指定されていた印刷条件をセット用紙種類に適したものに変更したりすることで、画質の低い印刷結果の出力やインク吐出過多によるプリンター1内部の汚れ等を防止することができる。
【0087】
また上述したように、本実施形態では、用紙種類毎のオフセット値をプリンター1の印刷モード毎かつ用紙の供給経路毎に設定し、基準メジャメント値M_stdをプリンター1の印刷モード毎に設定している。これは、用紙種類毎の搬送時のPFモーター14の負荷は印刷モードや用紙の供給経路によって異なり、基準メジャメント値M_stdは印刷モードによって異なるからである。そして、上述したように搬送メジャメント値MPとの比較対象となる用紙種類毎のしきい値を、指定印刷モードおよび指定供給経路に対応する用紙種類毎のオフセット値と指定印刷モードに対応する基準メジャメント値M_stdとによって生成することにより、印刷モードや供給経路がどのように指定されている場合であっても、そのときの印刷モードや供給経路において最適な複数のしきい値に基づいて、用紙種類の判別を行なうことができる。ただし、プリンター1における用紙の供給経路が一つ(フロント給紙とリア給紙のいずれか一方のみ)である場合には、用紙種類毎のオフセット値はプリンター1の印刷モード毎に設定される。また、プリンター1の印刷モードが一つである場合には、用紙種類毎のオフセット値は供給経路毎に設定され、基準メジャメント値M_stdは一種類の値が適時更新される。
【0088】
5.他の変形例
本発明は上述した実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様で実施することが可能であり、以下のような各変形例も可能である。むろん、上記実施形態や各変形例を組み合わせた構成も、本発明の範囲となる。
上述した実施形態では、負担監視モジュール31bは、PF制御部32aが決定するディーティー比DRにおけるデューティー値dを監視するようにしたが、ディーティー比DRを監視して、出荷前基準メジャメント値、用紙別搬送メジャメント値、基準メジャメント値、搬送メジャメント値、をそれぞれ取得してもよい。あるいは、負担監視モジュール31bは、PFモーター14における電圧Vmを監視して出荷前基準メジャメント値、用紙別搬送メジャメント値、基準メジャメント値、搬送メジャメント値、を取得してもよいし、PFモーター14における電流Imを監視して出荷前基準メジャメント値、用紙別搬送メジャメント値、基準メジャメント値、搬送メジャメント値を取得してもよい。
【0089】
また上記では、負担監視モジュール31bはステップS320(図8)において、メジャメント結果(デューティー値d)の平均値あるいは最大値のいずれか一方を搬送メジャメント値MPとして取得するとしたが、当該ステップS320において、上記平均値としての搬送メジャメント値MP(搬送メジャメント値MP_ave)および最大値としての搬送メジャメント値MP(搬送メジャメント値MP_max)を取得するとしてもよい。この場合、しきい値取得モジュール31cはステップS340において、オフセット値S_ave,S_ave,S_aveおよび基準メジャメント値M_std_aveに基づいて、用紙種類毎のしきい値(平均値に基づく用紙種類毎のしきい値)Th1_ave,Th2_ave,Th3_aveを取得するとともに、オフセット値S_max,S_max,S_maxおよび基準メジャメント値M_std_maxに基づいて、用紙種類毎のしきい値(最大値に基づく用紙種類毎のしきい値)Th1_max,Th2_max,Th3_maxを取得するとしてもよい。
【0090】
そして、用紙種類判別モジュール31dは、ステップS350〜S400において、上記平均値としての搬送メジャメント値MP_aveと上記平均値に基づく用紙種類毎のしきい値Th1_ave,Th2_ave,Th3_aveとを比較することによりセット用紙種類を判別(平均値に基づく判別)するとともに、上記最大値としての搬送メジャメント値MP_maxと上記最大値に基づく用紙種類毎のしきい値Th1_max,Th2_max,Th3_maxとを比較することによりセット用紙種類を判別(最大値に基づく判別)する。
【0091】
このように、ステップS350〜S400で上記平均値に基づく判別および上記最大値に基づく判別を実行した場合、その後、マイクロコンピューター31は、図13のフローチャートに示すように処理を実行してもよい。マイクロコンピューター31は、上記平均値に基づく判別で特定されたセット用紙種類と、上記最大値に基づく判別で特定されたセット用紙種類とが一致するか否か判定し(ステップS402)、一致する場合には、ステップS410において、セット用紙種類と指定用紙種類とが一致するか否かを判定する。この場合のステップS410以降の処理は図9または図12において説明した通りである。
【0092】
一方、上記平均値に基づく判別で特定されたセット用紙種類と上記最大値に基づく判別で特定されたセット用紙種類とが一致しない場合(ステップS402において“No”)は、マイクロコンピューター31は、これら特定された二種類のセット用紙種類と、指定用紙種類との一致状況に応じて、セット用紙種類と指定用紙種類とが一致すると判定するべきか否かを分岐する(ステップS404)。マイクロコンピューター31は、上記特定された二種類のセット用紙種類のいずれもが指定用紙種類と一致しない場合(例えば、上記平均値に基づく判別によって特定されたセット用紙種類が「普通紙」、上記最大値に基づく判別によって特定されたセット用紙種類が「はがき用紙」、指定用紙種類が「写真用紙」である場合)は、セット用紙種類≠指定用紙種類と判定すべきとし、ステップS410で“No”と判定した場合の処理(ステップS420。図9参照。)に進む。なお、ステップS402における“No”を経てステップS420以降に進んだ場合、ステップS440(図9)では、マイクロコンピューター31は、印刷条件をいずれの用紙種類にかかる印刷条件に変更するのかをユーザーに指定させ、指定された印刷条件に変更するものとする。
【0093】
マイクロコンピューター31は、上記特定された二種類のセット用紙種類のいずれか一方が指定用紙種類と一致する場合は、セット用紙種類=指定用紙種類とみなし、ステップS410で“Yes”と判定した場合の処理に進む。
【0094】
ただし他の例として、マイクロコンピューター31は、ステップS402で“No”と判定した場合に、ただちにセット用紙種類≠指定用紙種類とみなし、ステップS410で“No”と判定した場合の処理(ステップS420。図9参照。)に進んでもよい(図13の一点鎖線の矢印参照)。或いは、マイクロコンピューター31は、ステップS402で“No”と判定した場合に、プリンター1が備える不図示の表示パネルやホストコンピューター60が備えるディスプレイに、セット用紙種類の判別不能の旨をメッセージ表示等させた上で、ステップS460を経て(図13の二点鎖線の矢印参照)上述したように印刷処理を中止するとしてもよい。あるいは、マイクロコンピューター31は、上記平均値に基づく判別で特定されたセット用紙種類と上記最大値に基づく判別で特定されたセット用紙種類とが一致しない場合に、一方の判別(例えば、平均値に基づく判別)の結果を自動的に採用し、当該採用した判別結果にかかるセット用紙種類と指定用紙種類とをステップS410において比較するとしてもよい。
【0095】
なお、上記平均値に基づく判別および上記最大値に基づく判別のいずれか一方で、搬送メジャメント値≦最も小さいしきい値、の判定がなされた場合は、「上記平均値に基づく判別で特定されたセット用紙種類と上記最大値に基づく判別で特定されたセット用紙種類とが一致しない場合(ステップS402において“No”)」に該当する。また、上記平均値に基づく判別および上記最大値に基づく判別のいずれにおいても、搬送メジャメント値≦最も小さいしきい値、の判定がなされた場合は、印刷用紙が存在しない(用紙切れ)と判定し、ステップS460を経て処理を終了する。
【0096】
上述したように図8,9等の印刷処理においては、印刷用紙は指定印刷モードに応じた搬送速度で搬送され、かかる搬送期間中に、搬送メジャメント値MPが取得される。しかしながら、そのときの指定印刷モードにかかわらず、印刷用紙の種類の違いがPFモーター14の負荷の違いに表れやすい搬送速度というものが存在する。
【0097】
図14は、基準メジャメント値(あるいは出荷前基準メジャメント値でもよい。)と各用紙別搬送メジャメント値との関係を、印刷モード(印刷モード1,2,3)毎に例示している。図14においては、印刷モード1が、搬送速度が最も速いモードであり、印刷モード3が、搬送速度が最も遅いモードである。また図14の上段では、各印刷モード毎に、各メジャメントにおける平均値としての、基準メジャメント値、普通紙の用紙別搬送メジャメント値、写真用紙の用紙別搬送メジャメント値、および、基準メジャメント値と普通紙の用紙別搬送メジャメント値との差異、基準メジャメント値と写真用紙の用紙別搬送メジャメント値との差異、を例示している。また図14の下段では、各印刷モード毎に、各メジャメントにおける最大値としての、基準メジャメント値、普通紙の用紙別搬送メジャメント値、写真用紙の用紙別搬送メジャメント値、および、基準メジャメント値と普通紙の用紙別搬送メジャメント値との差異、基準メジャメント値と写真用紙の用紙別搬送メジャメント値との差異、を例示している。
【0098】
この例によれば、普通紙と写真用紙との違いがPFモーター14の負荷の違いに最も表れやすいのは、搬送速度を印刷モード3とし、かつ、各メジャメント結果における最大値をPFモーターの負荷を表す値として取得した場合であることが判る。そこで、マイクロコンピューター31は、そのときの指定印刷モードにかかわらず、そのときの指定用紙種類にとって最も判別しやすい(しきい値による判別結果に誤りが生じにくい)印刷モードで印刷用紙を搬送させた状態で搬送メジャメント値MPを取得し、この取得した搬送メジャメント値MPに基づいて用紙種類の判別を行なうとしてもよい。具体的には、上記ステップS310では、マイクロコンピューター31は、指定用紙種類にとって最も判別しやすい印刷モードを特定し、当該特定した印刷モードで給紙搬送を開始させる。例えば、図14で説明した例に従えば、指定用紙種類が普通紙または写真紙である場合は、マイクロコンピューター31は、印刷モードを印刷モード3とする。
【0099】
ステップS320では、負荷監視モジュール31bは、指定用紙種類にとって上記最も判別しやすい印刷モード下で判別しやすい搬送メジャメント値MPを取得する。図14で説明した例に従えば、指定用紙種類が普通紙または写真紙である場合は、マイクロコンピューター31は、上記印刷モード3による給紙搬送期間において、メジャメント結果における最大値を、搬送メジャメント値MPとして取得する。なお、用紙種類と、用紙種類の判別に最適な印刷モードおよび搬送メジャメント値MPの種類(メジャメント結果における平均値又は最大値)との対応関係は、予め定められているものとする。そして、しきい値取得モジュール31cは、ステップS340では、上記ステップ310で特定した印刷モード(印刷モード3)および上記ステップ320で取得した搬送メジャメント値MPの種類(メジャメント結果における最大値)に対応した、用紙種類毎のオフセット値および基準メジャメント値M_stdに基づいて、用紙種類毎のしきい値を算出する。このようにすれば、実際にプリンター1の給紙トレーにセットされていた用紙が普通紙である場合は、搬送メジャメント値MPとしきい値との比較に基づく判別結果もほぼ間違いなく普通紙となり、また、実際にプリンター1の給紙トレーにセットされていた用紙が写真用紙である場合は、搬送メジャメント値MPとしきい値との比較に基づく判別結果もほぼ間違いなく写真用紙となる。すなわち、用紙種類の判別の精度がより向上する。
【0100】
このように、指定印刷モードにかかわらず、指定用紙種類にとって最も判別しやすい印刷モードで印刷用紙を搬送させて搬送メジャメント値MPを取得した後は、マイクロコンピューター31は、指定印刷モードに応じた搬送に切替える。つまり、搬送メジャメント値MPを取得し終えた後の搬送(印字搬送など)は、ユーザーが本来所望している指定印刷モード下で行なうことにより、ユーザーが望まない速度での用紙搬送が実行される期間を最小限に抑える。
【0101】
本発明のように予め設定しておいたしきい値と、搬送メジャメント値MPとを比較して判別する構成は、用紙種類の判別以外にも適用することができ、例えば、印刷用紙の重送検出にも用いることができる。印刷用紙の重送とは、給紙トレーから複数の印刷用紙が重なった状態で送り出されて、この重なった複数の印刷用紙を同時に搬送することを言う。この場合、印刷用紙を例えば2枚重送したときのPFモーター14にかかる負荷に基づいて重送検知用のしきい値を予め実験等で求め、プリンター1内のメモリーの所定領域に設定しておく。そして、プリンター1による実際の印刷処理時に、搬送メジャメント値MPが重送検知用のしきい値を上回る場合に、重送がなされていると判別し、ユーザーへの警告や印刷の中止などを行なうとしてもよい。
【符号の説明】
【0102】
1…プリンター、2…フロント給紙トレー、3…リア給紙トレー、12…PUローラー、13…搬送ガイド、14…PFモーター、15…ASFモーター、17…PFローラー、17a…PF従動ローラー、19…中間ローラー、19a…中間従動ローラー、20…PEセンサー、21…キャリッジ、21a…印字ヘッド、22…プラテン、24…LDローラー、25…LD従動ローラー、26…ホッパー、30…外部I/F、31…マイクロコンピューター、31a…モーター回転制御モジュール、31b…負荷監視モジュール、31c…しきい値取得モジュール、31d…用紙種類判別モジュール、31e…一致判定モジュール、31f…オフセット値設定モジュール、32…ASIC、32a…PF制御部、32b…キャリッジ制御部、32c…PU制御部、32d…ASF制御部、33…PFロータリーエンコーダー、34…ASFロータリーエンコーダー、60…ホストコンピューター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷媒体の搬送経路の所定位置に配設したローラーを搬送モーターの駆動により回転させることで、当該搬送経路に供給された印刷媒体を搬送可能な印刷装置であって、
上記印刷媒体が上記搬送経路を搬送されている所定期間における上記搬送モーターの負荷を示す搬送メジャメント値を取得する負荷取得部と、
少なくとも印刷媒体の種類に応じて異なる値に設定された複数のしきい値を取得するしきい値取得部と、
上記搬送メジャメント値を上記複数のしきい値と比較することにより、上記印刷媒体の種類を判別する判別部とを備えることを特徴とする印刷装置。
【請求項2】
上記複数のしきい値は、上記搬送経路に印刷媒体が供給されていない状態で上記搬送モーターを駆動させた所定期間における搬送モーターの負荷を示す基準メジャメント値と、各種類の印刷媒体を搬送した際の上記搬送モーターの負荷の差異に基づいて決定された、印刷媒体の種類毎のオフセット値と、の和によって設定されることを特徴とする請求項1に記載の印刷装置。
【請求項3】
搬送する際の上記搬送モーターの負荷がn番目(nは1以上の整数)に小さい印刷媒体のオフセット値Sは、当該負荷がn番目に小さい印刷媒体を搬送する際の上記搬送モーターの負荷をMとし、上記搬送経路に印刷媒体が供給されていない状態で上記搬送モーターを駆動させた際の搬送モーターの負荷をMとした場合、下記式で定義されることを特徴とする請求項2に記載の印刷装置。
=(Mn−1−M)+k・(M−Mn−1
ただし、0<k<1であり、n=1のときMn−1=Mであるとする。
【請求項4】
上記基準メジャメント値は、上記搬送の速度が異なる複数の印刷モードに応じて上記搬送モーターを駆動させた際の負荷を計測することにより予め印刷モード毎に求められており、上記しきい値取得部は、印刷モード毎の基準メジャメント値のうち、外部から指定された印刷モードに対応する基準メジャメント値を用いて上記複数のしきい値を設定することを特徴とする請求項2または請求項3に記載の印刷装置。
【請求項5】
上記印刷媒体の種類毎のオフセット値は、上記搬送の速度が異なる複数の印刷モードおよび又は印刷媒体の供給経路の違いに応じて、上記搬送モーターを駆動させて各種類の印刷媒体を搬送させた際の負荷を計測することにより、予め印刷モード毎および又は供給経路毎に求められており、上記しきい値取得部は、印刷モード毎および又は供給経路毎の上記印刷媒体の種類毎のオフセット値のうち、外部から指定された印刷モードおよび又は供給経路に対応する上記印刷媒体の種類毎のオフセット値を用いて上記複数のしきい値を設定することを特徴とする請求項2〜請求項4のいずれかに記載の印刷装置。
【請求項6】
上記搬送メジャメント値および基準メジャメント値は、上記各期間における搬送モーターの負荷の平均値および又は最大値であり、上記印刷媒体の種類毎のオフセット値は、各種類の印刷媒体を搬送した際の搬送モーターの負荷の平均値の差異および又は最大値の差異に基づいて決定された値であり、
上記判別部は、搬送メジャメント値と複数のしきい値との比較において、上記各平均値に基づく比較と上記各最大値に基づく比較との少なくともいずれか一方を実行することを特徴とする請求項2〜請求項5のいずれかに記載の印刷装置。
【請求項7】
上記判別部が、上記各平均値に基づく比較および上記各最大値に基づく比較を実行し、上記各平均値に基づく比較結果から判別された印刷媒体の種類と、上記各最大値に基づく比較結果から判別された印刷媒体の種類とが相違する場合、これら判別された二つの印刷媒体の種類と、外部から指定された印刷媒体の種類との一致状況に応じて、上記判別部により判別された印刷媒体の種類と上記外部から指定された印刷媒体の種類とが一致すると判定するか否かを分岐することを特徴とする請求項6に記載の印刷装置。
【請求項8】
上記判別部により判別された印刷媒体の種類と、外部から指定された印刷媒体の種類とが一致しない場合に、上記判別された印刷媒体の種類と上記指定された印刷媒体の種類との組み合わせに応じて、外部から指定された印刷条件の少なくとも一部を変更した上で印刷処理を実行するか当該印刷条件を変更することなく印刷処理を実行するか、を分岐することを特徴とする請求項1〜請求項7のいずれかに記載の印刷装置。
【請求項9】
上記負荷取得部は、印刷媒体の種類の違いが搬送モーターの負荷の違いに表れやすい所定の搬送速度で印刷媒体を搬送させた状態で、上記搬送メジャメント値を取得することを特徴とする請求項1〜請求項8のいずれかに記載の印刷装置。
【請求項10】
印刷媒体の搬送経路の所定位置に配設したローラーを搬送モーターの駆動により回転させることで、当該搬送経路に供給された印刷媒体を搬送可能な印刷装置によって実行する、印刷媒体判別方法であって、
上記印刷媒体が上記搬送経路を搬送されている所定期間における上記搬送モーターの負荷を示す搬送メジャメント値を取得し、少なくとも印刷媒体の種類に応じて異なる値に設定された複数のしきい値を取得し、上記搬送メジャメント値を上記複数のしきい値と比較することにより、上記印刷媒体の種類を判別することを特徴とする印刷媒体判別方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2011−93183(P2011−93183A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−248575(P2009−248575)
【出願日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】