印字方法
【課題】感光性インクジェットインクを用いた印字方法であって、モトルやブリードを極力低減したマット調質感の画像を形成する印字方法を提供する。
【解決手段】記録媒体上に、ドットの隣接部に重なりをもって構成されたインク層の硬化物からなる画像を形成する方法である。インクジェットヘッドから光照射により硬化するインクを前記記録媒体へ吐出して、ドットの隣接部に重なりをもったインク層を形成する工程、および前記インク層を硬化させる工程を具備する。前記記録媒体上に前記インク層を形成する工程は、第1のドットパターンを形成する第1の吐出と、前記第1のドットパターンへの光照射と、第2のドットパターンを形成する第2の吐出とを少なくとも含み、前記第1のドットパターンは、間隔をもって配置されたインクドットの集合からなり、前記第2のドットパターンは、前記第1のドットパターンにおける間隔の少なくとも一部を占めることを特徴とする。
【解決手段】記録媒体上に、ドットの隣接部に重なりをもって構成されたインク層の硬化物からなる画像を形成する方法である。インクジェットヘッドから光照射により硬化するインクを前記記録媒体へ吐出して、ドットの隣接部に重なりをもったインク層を形成する工程、および前記インク層を硬化させる工程を具備する。前記記録媒体上に前記インク層を形成する工程は、第1のドットパターンを形成する第1の吐出と、前記第1のドットパターンへの光照射と、第2のドットパターンを形成する第2の吐出とを少なくとも含み、前記第1のドットパターンは、間隔をもって配置されたインクドットの集合からなり、前記第2のドットパターンは、前記第1のドットパターンにおける間隔の少なくとも一部を占めることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印字方法に係り、特に感光性インクジェットインクを用いて記録媒体に画像を印字する印字方法に関する。
【背景技術】
【0002】
感光性インクジェットインクは、印字後に溶剤を排出する必要がなく、速乾性にも優れている。このため、感光性インクジェットインクは、インクが浸透しない非吸収記録媒体に印字する際に特に好適である。用いられる記録装置は、画像形成部と紫外線照射部とを少なくとも具備する。画像形成部は、感光性インクをノズルから吐出する記録ヘッドを備え、紫外線照射部においては、記録媒体上に画像を形成した後、紫外線を照射させて感光性インクを硬化させる。必要に応じて、記録媒体を加熱させる加熱装置が紫外線照射部の前および後の少なくとも一方に設けられる。この加熱装置でインク層を加熱することによって、感光性インクジェットインクからなるインク層と記録媒体との密着性や硬化硬度が、よりいっそう高められる。
【0003】
画像形成部の記録ヘッドから記録媒体に吐出された感光性インクジェットインクは、記録媒体に着弾した後、記録媒体の表面上を濡れ拡がる。記録媒体が吸収性を有する場合には、インクは記録媒体に浸透し始める。この着弾後の濡れあるいは浸透の過程において、紫外線を照射するタイミングは、最終的に形成される画像品質に大きな影響を与える。例えば、全エリアの印字いわゆるベタ画像を形成する際、紫外線を照射するタイミングが早すぎると、ベタ画像になる前に感光性インクの硬化が始まる。この場合には、画像品質の低下に繋がるおそれがある。なお、着弾後の最短照射タイミングは、記録ヘッド部と照射部との間の装置的に限界となる照射タイミングによって決定される。また、着弾後の一定時間おいての照射は、隣接するドット間の混液がうまくいかず、着弾位置から外れてドットの合体が生じる。その結果、最終画像には、いわゆるモトル(ドットにおいて濃淡の差を生じる現象)や、カラー画像における異色間の混合いわゆるブリードとよばれる現象を生じる。
【0004】
このような画像品質を低下させる対策として、紫外線の照射タイミングを最適化する方法が提案されてきた。例えば、記録媒体上に吐出した感光性インクのドットにそれぞれの吐出タイミングに合わせて、紫外線を照射する方法が挙げられる(例えば、特許文献1参照。)。これにおいては、紫外線照射によりインクを増粘させて、隣接するドットが互いに混合しない程度にプレ硬化が行なわれる。その後、さらに紫外線が照射され、画像が形成される。あるいは、所定のドット径サイズ内に紫外線を照射する方法が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。これにおいては、ドット系サイズは、ブラックインクを記録媒体に着弾した後のドット径と画素サイズの関係から導き出される。
【特許文献1】特開2004−42548号公報
【特許文献2】特開2004−291414号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の方法は、基本的に複数色のインクを記録媒体に印字する方法についての改良である。光照射のタイミングを限定しているものの、実際には、モトルやブリードの大幅な改善までには至っていない。また、単色においての画像劣化については言及されていない。単色における画像において全ベタ画像がうまく形成されない場合には、複数色の画像においても当然、画質の低下は避けられず、従来の方法では回避しがたい場合(画像形成)がある。しかも、良好なマット調質感の画像は、従来の方法では必ずしも得ることはできない。
【0006】
本発明は、感光性インクジェットインクを用いた印字方法であって、モトルやブリードを極力低減したマット調質感の画像を形成する印字方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様にかかる印字方法は、記録媒体上に、ドットの隣接部に重なりをもって構成されたインク層の硬化物からなる画像を形成する方法であって、
インクジェットヘッドから光照射により硬化するインクを前記記録媒体へ吐出して、ドットの隣接部に重なりをもったインク層を形成する工程、および
前記インク層を硬化させる工程を具備し、
前記記録媒体上に前記インク層を形成する工程は、第1のドットパターンを形成する第1の吐出と、前記第1のドットパターンへの光照射と、第2のドットパターンを形成する第2の吐出とを少なくとも含み、
前記第1のドットパターンは、間隔をもって配置されたインクドットの集合からなり、前記第2のドットパターンは、前記第1のドットパターンにおける間隔の少なくとも一部を占めることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、感光性インクジェットインクを用いた印字方法であって、モトルやブリードを極力低減したマット調質感の画像を形成する印字方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
【0010】
図1は、本発明の一実施形態にかかる印字方法に用い得るインクジェット記録装置の概略図である。図示するように、インクジェット記録装置1は、記録媒体2を搬送する搬送手段3を備えている。搬送手段3の移動方向に沿って上流側から下流側に向かって、インクジェット式の記録ヘッド4、および光照射手段5が順次配置されている。
【0011】
記録媒体2は、印刷可能な媒体であれば何等限定されるものではない。記録媒体2としては、例えば、紙、木、OHPシート、樹脂フィルム、不織布、多孔質膜、プラスチック板、回路基板、金属基板および金属板などを使用することができる。本発明の実施形態にかかる方法は、OHPシート、樹脂フィルム、プラスチック板、金属板、ガラス、タイルといった非吸収性の記録媒体に印字を行なった際に、特に効果が発揮される。
【0012】
搬送手段3は、例えば、記録媒体2が、記録ヘッド4、および光照射手段5の正面を順次通過するように記録媒体2を搬送する。ここでは、搬送手段3は、記録媒体2を、図中、右側から左側へ向けて搬送する。搬送手段3は、例えば、記録媒体2を移動させるベルトおよび/またはローラと、それを駆動する駆動機構とによって構成することができる。また、搬送手段3には、記録媒体2の移動を補助するガイド部材などをさらに設けてもよい。搬送手段3は、枚葉の記録媒体2を搬送させるような、リニアベースの上をスライド移動するステージ構造のものでもよい。
【0013】
図1には明確に示していないが、搬送手段3は、1回目のインクジェット式の記録ヘッド4からの吐出印字、および光照射手段5からの露光照射を終了した後、上流側に逆送できる機構となっている。これによって、2回目の吐出印字および露光照射を、1回目の場合と同様に行えるようになっている。吐出印字および露光照射といった動作を3回目、4回目と繰り返すことも可能である。印字画像の内容に合わせて最も良好な画像品質が得られるように、記録ヘッド4からのインク吐出および光照射手段5からの露光照射の回数を選択することができる。
【0014】
本発明の実施形態にかかる方法を実施するには、インクジェット記録装置1を複数個接続した構成の記録装置を用いることもできる。こうした記録装置においても、上述したように印字および露光照射することが可能である。さらに、インクジェット記録装置1を複数個用いる場合や、一部に逆送させて使用させる構成を複合させるなど、使用する記録ヘッドの個数、また複数色を印字する順番など適宜選択して使用することができる。
【0015】
記録ヘッド4は、画像信号に対応して記録媒体2上に感光性インクジェットインクを吐出して、記録媒体2上にドットパターンを形成する。1回目の吐出において形成されるのは、間隔をもって配置されたインクドットの集合からなる第1のドットパターンである。第1のドットパターンにおける間隔は、1ドットでも2ドット以上であってもよく、特に限定されない。インクドットの間隔は、第1のドットパターン内において一定とすることができる。また、第1のドットパターンには、少なくとも1ドットおきのライン状の部分が含まれてもよい。第1のドットパターンにおけるインクドットもまた、上述した間隔と同様、1ドットであっても2ドット以上であってもよい。
【0016】
1回目のインク吐出で形成される第1のドットパターンとしては、例えば図2乃至図3に示すものが挙げられる。これらのドットパターンにおいては、斜線部がインクドット部を表わし、いずれも間隔をもって配置されている。
【0017】
第1の吐出によって、間隔をもって配置されたドットの集合からなる第1のドットパターンが形成された後、この第1のドットパターンに対して光照射手段5から光が照射される。照射された光は、第1のドットパターンを構成するインク中の触媒にエネルギーを与え、酸やラジカルを発生させ、さらに発生した酸やラジカルなどの作用によってドットパターンの硬化を促進する。
【0018】
光照射手段5としては、例えば、低、中、高圧水銀ランプのような水銀ランプ、メタハライドランプ、無電極メタハライドランプ、タングステンランプ、キセノンランプ、アーク灯、エキシマランプ、エキシマレーザー、半導体レーザー、YAGレーザー、レーザーと非線形光学結晶とを組み合わせたレーザーシステム、高周波誘起紫外線発生装置、電子線照射装置、X線照射装置などを使用することができる。なかでも、システムを簡便化できるため、高周波誘起紫外線発生装置、高・低圧水銀ランプや半導体レーザーなどを使用することが望ましい。紫外線を用いる場合の波長は、100nm〜600nm程度が好ましい。より好ましくは、感光性インクの中に添加されている光酸発生剤やラジカル発生剤の感度波長に合う必要があるが、250nm付近または365nm付近にピークがあるようなものなどがよい。
【0019】
光照射手段5から照射される光の波長は、紫外線領域に限るものではない。感光性インクの中に添加される光酸発生剤やラジカル発生剤の感度波長に応じて、適宜選択することができる。
【0020】
上述したように光照射手段5から第1のドットパターンに光を照射することによって、第1のドットパターンは仮硬化する。本発明の実施形態にかかる印字方法においては、こうして第1のドットパターンを仮硬化させた後に、第2のドットパターンが形成される。第2のドットパターンは、第1のドットパターンにおける間隔の少なくとも一部を占めるように構成される。
【0021】
例えば図1に示した記録装置1においては、搬送手段3を逆送させて記録媒体2を記録ヘッド4の位置に再度設置して、2回目の吐出印字を行なうことができる。第2のドットパターンは、仮硬化した第1のドットパターンにおけるドットのすそ野部分に重なって、ドットの隣接部に重なりをもったインク層を記録媒体2上に形成することができる。こうして生じる重なりによって、最終的なベタ画像は、マット調の優れた品質となることが、本発明者らによって見出された。
【0022】
第2のドットパターンが第1のドットパターンにおける全部を占めない場合には、さらに第3の吐出を行なってドットパターンを形成する。吐出の回数が多くなれば、解像度が高められるので、より高精細の画像を得ることができる。
【0023】
なお、図1に示したインクジェット記録装置1においては、光照射手段5に、集光用ミラーや走引光学系を設けることもできる。さらに、印字前後あるいは印字中に記録媒体を加熱する加熱手段を設けて、インクの硬化や記録媒体との密着強度をより強固なものにするために、記録媒体を加熱制御することも可能である。図4には、記録媒体2をストッカー7に搬送して、ストッカー7に加熱装置を設けた形態を示した。このように記録媒体2を重ねて一括してバッチ加熱することによって、インク層をより効率よく硬化可能なインクジェット記録装置が得られる。
【0024】
図1に示した本発明の実施形態にかかるインクジェット記録装置1は、以下に説明するように制御することができる。図5は、本発明の実施形態にかかるインクジェット記録装置の制御系を表わすフローチャートである。
【0025】
本発明の実施形態にかかる方法に用い得るインクジェット記録装置1は、図1に示したように搬送手段3、インクジェット記録ヘッド4、光照射手段5を備える。これらの各部は、基本的にはマイクロプロセッサの制御によって駆動制御される。したがって、インクジェット記録装置1は、マイクロプロセッサであるCPU、CPUにバス接続されてマイクロコンピュータを構築するROMおよびRAM(いずれも図示せず)を備えており、ROMまたはRAMに格納された動作プログラムにしたがって、各部が駆動制御される。このような駆動制御の下で、搬送手段3、インクジェット記録ヘッド4、および光照射手段5は、それぞれ次のように動作する。
【0026】
まず、印字データは、記録装置コントローラ201に転送され、この記録装置コントローラ201によって印字データ転送回路202に印字データが送られ、ヘッド駆動回路203に印字のための駆動信号が送られる。ヘッド駆動回路203は、インクジェット記録ヘッド4を駆動し、インクジェット記録ヘッド4は、印字データ転送回路202に転送されてきた印字データに応じて、ノズル(図示せず)から感光性インクジェットインクをインク滴として記録媒体に吐出する。
【0027】
この際、記録装置コントローラ201は、搬送手段制御部204および光照射手段制御部205にも駆動信号を送信する。これによって、駆動ローラが駆動されて、搬送手段3が連動して記録媒体2が搬送される。一方、光照射手段5においては、バルブが付勢されて点灯する。光照射手段5には、集光用ミラーを設け、インク層近傍で照射光を集光させてもよい。このような記録媒体2の搬送による副走査方向への移動と、図示しないノズルが主走査方向にライン上に配列されたインクジェット記録ヘッド4からの選択的なインクの吐出との組み合わせによって、印字データに応じた画像が記録媒体2上に形成される。形成された画像、つまりインク層は、光照射手段5の位置まで搬送されると、バルブからの照射光によって光照射され、記録媒体2に定着する。
【0028】
このとき印字データ転送回路202に送られる印字データは、分割印字データである。具体的には、単一色からなる画像データを複数回に分けて印字できるように分割処理されたものが、分割印字データとして送られる。単一色画像の形成を複数回に分けて印字、露光照射され、前記の一連の動作を分割分だけ繰り返し行なうことになる。
【0029】
本発明の実施形態にかかる印字方法を行なうインクジェット記録装置は、フラットベットタイプのインクジェット記録装置であってもよい。その一例の概略図を、図6に示す。図示するインクジェット記録装置においては、記録媒体2が固定され、インクジェット記録ヘッド4や光照射手段5a、5bなどが移動して画像が形成される。
【0030】
このインクジェット記録装置1は、インクジェット記録ヘッド4、光照射手段5a、および光照射手段5bをインクジェット記録ユニットとして有する。こうしたインクジェット記録ユニットは、記録媒体固定ステージ(図示せず)に固定された記録媒体2上を、記録ヘッド4がシリアル的に往復移動することによって、記録が行なわれる。
【0031】
インクジェット記録ユニットは、両サイドのガイド8および9によって、一体的に固定されている。インクジェット記録ユニットは、平行に配設されたフロントレール10およびリヤレール11の上を、白矢印方向と黒矢印方向とに往復に搬送されるように構成される。搬送方法は、ステッピングモーター等に取り付けられ張設されたワイヤーで引っ張る形で行なうことができる。あるいは、リニアスライダーのように自己移動するものであってもよい。
【0032】
フロントレール10およびリヤレール11は平行に固定され、さらに記録媒体2よりも外側に平行に配設されたレフトレール12およびライトレール13上を、矢印方向に搬送するように構成される。
【0033】
このような構成においてインクジェット記録を行なう場合、インクジェット記録ユニットは、図中の白矢印方向に搬送されながら記録媒体2上にインク層を形成していく。ここで形成されるインク層は、上述したようにドットの隣接部に重なりを有するものである。こうしたインク層は、異なるドットパターンを形成する2回以上のインク吐出と、インク吐出後の光照射によって形成される。片道でのインク層形成完了後、インクジェット記録ユニットは、黒矢印方向に一旦戻されながら、平行に配設されたレフトレール12およびライトレール13の上を、黒矢印方向に記録媒体2上の未記録の部分にまで移動される。次に、同様にして白矢印方向に搬送されながら、ドットの隣接部に重なりを有するインク層を、記録媒体2上に形成していく。この動作を繰り返しながら、大きな記録媒体2上に画像を形成する。
【0034】
これらの各部は、基本的にはマイクロプロセッサの制御によって駆動制御される。したがって、インクジェット記録装置1は、マイクロプロセッサであるCPU、CPUにバス接続されてマイクロコンピュータを構築するROMおよびRAM(いずれも図示せず)を備えている。各部の駆動は、ROMまたはRAMに格納された動作プログラムにしたがって制御される。このような駆動制御の下で、インクジェット記録ヘッド4、光照射手段5a、および光照射手段5b、さらにはインクジェット記録ユニットの搬送は、それぞれ次のように動作する。
【0035】
図5のフローチャートを参照しつつ、図6のインクジェット記録装置の動作を説明する。まず、分割印字データは、記録装置コントローラ201に転送され、この記録装置コントローラ201によって印字データ転送回路202に印字データが送られ、ヘッド駆動回路203に印字のための駆動信号が送られる。ヘッド駆動回路203は、インクジェット記録ヘッド4を駆動し、インクジェット記録ヘッド4は、印字データ転送回路202に転送されてきた分割印字データに応じて、ノズル(図示せず)から光硬化型インクをインク滴として記録媒体2上に吐出する。
【0036】
この際、記録装置コントローラ201は、搬送手段制御部204および光照射手段制御部205にも駆動信号を送信する。ここでは、搬送手段制御部204は、インクジェット記録ユニットの搬送駆動を制御する。
【0037】
これによって、モーターまたはリニアスライダーなどが駆動されて、搬送手段3が転動してインクジェット記録ユニットはモーターまたはリニアスライダーなどと連動し搬送駆動される。ここでは、搬送手段3は、インクジェット記録ユニットのユニット主走査方向ならびにユニット副走査方向への搬送駆動を行なう。
【0038】
ユニット主走査方向とは、図中白矢印方向および黒矢印方向を指し、ユニット副走査方向とは、図中矢印方向を指す。このとき、光照射手段5aおよび光照射手段5bにおいては、バルブが付勢されて点灯する。それぞれの光照射手段5には、集光用ミラーを設け、インク層近傍で照射光を集光させる。
【0039】
このようなインクジェット記録ユニットの白矢印および黒矢印方向への搬送駆動と、ユニット副走査方向である矢印方向への搬送駆動が、インクジェット記録ヘッド4の印字と同期し連動して行なわれる。
【0040】
ノズル(図示せず)がヘッド主走査方向にライン上に配列されたインクジェット記録ヘッド4からの選択的なインクの吐出との組み合わせによって、分割印字データに応じた画像が記録媒体2上に形成される。ことのとき記録媒体2上に形成される画像は、記録ヘッド4と照射手段5a,5bを配する記録ユニットが2回以上の搬送移動によって形成されるが、片道1回の搬送で行なう照射は、黒矢印方向のときは照射手段5b、白矢印方向の搬送のときは照射手段5aを使って照射が行われることになる。つまりインク層は、インクジェット記録ヘッド4と同時に搬送移動される光照射手段5aおよび5bのバルブによって光照射され、感光性インクジェットインクが記録媒体2に着弾の都度、記録媒体2表面上に光照射による硬化定着が行なわれる。
【0041】
上述したようないずれの記録装置を用いた場合を用いた場合も、本発明の実施形態にかかる方法においては、異なるドットパターンを形成する2回以上のインク吐出によって、ドットの隣接部に重なりをもったインク層が形成される。その結果、画像のマット調を高めることが可能である。しかも、インクを吐出してドットパターンが形成された後には光照射が行なわれるので、画像における混色やブリードは極力低減される。
【0042】
次に、本発明の実施形態にかかる方法に用いられる感光性インクジェットインクについて説明する。
【0043】
感光性インクジェットインクは、光照射により酸を発生する光酸発生剤を用いるインク(酸重合タイプ)と、光照射によりラジカルを発生するラジカル重合開始剤を用いるインク(ラジカル重合タイプ)とに大別することができる。
【0044】
本発明の実施形態にかかる方法においては、いずれのタイプのインクを用いてもよいが、ここでは酸重合タイプの感光性インクについて詳述する。酸重合タイプの感光性インクは、光照射により酸を発生する光酸発生剤と、色成分と、酸の存在下で重合する化合物とを含有する。すなわち、このタイプの感光性インクジェットインクは、化学増幅型の感光性組成物である。
【0045】
本明細書における「インクジェットインク」とは常温で流動性のインクを意味し、具体的には25℃における粘度が50mPa・sec、より好ましくは30mPa・sec以下であるインクを意味する。あるいは、インクジェットヘッドの温調範囲である常温(25℃)乃至50℃程度の温度内において、12mPa・sec以内の粘度を示すインクであってもよい。
【0046】
このようなインクジェットインクを含むインク層に光を照射した場合には、まず、光酸発生剤から酸が発生する。この酸は、重合性化合物の架橋反応の触媒として機能するとともに、発生した酸はインク層内で拡散する。露光後のインク層では、酸を触媒とした架橋反応が進行し、インク層を加熱することによって、この架橋反応を加速することができる。ここでの架橋反応はラジカル重合とは異なって、酸素の存在によって阻害されることがない。そのため、1つの光子で複数の架橋反応を生じさせることができ、高い感度を実現することができる。しかも、インク層の深部や吸収性のメディア内部でも架橋反応を速やかに進行させることができる。そのため、得られるインク層は、ラジカル重合系の場合と比較して密着性にも格段に優れたものとなる。
【0047】
光照射により酸を発生する光酸発生剤としては、例えば、オニウム塩、ジアゾニウム塩、キノンジアジド化合物、有機ハロゲン化物、芳香族スルフォネート化合物、バイスルフォン化合物、スルフォニル化合物、スルフォネート化合物、スルフォニウム化合物、スルファミド化合物、ヨードニウム化合物、スルフォニルジアゾメタン化合物、およびそれらの混合物などを使用することができる。
【0048】
インクジェットインク中における光酸発生剤の含有量は、使用する光酸発生剤の酸発生効率や添加する色成分の量などに応じて決定することができる。例えば、顔料の濃度が5重量%程度である場合には、光酸発生剤の含有量は、インクジェットインク中に含まれる酸の存在下で重合する化合物100重量部に対して、通常、1重量部乃至10重量部とすることができる。酸重合性化合物100重量部に対する光酸発生剤の割合が1重量部未満の場合には、インクジェットインクの感度が低くなる。一方、10重量部を越えると、インクの経時間的増粘が激しくなって塗膜性や光硬化後のインク膜の硬度が低下する。また、記録装置の配管やヘッド部材の腐食が生じるおそれがある。
【0049】
インクの保存安定性を考慮すると、光酸発生剤の含有量は、酸重合性化合物100重量部に対して2重量部乃至8重量部とすることが好ましい。より好ましくは、酸重合性化合物100重量部に対して4重量部乃至8重量部である。特にかかるより好ましい範囲で光酸発生剤が含有された場合には、インクの保存安定性を高めるとともに、配管やヘッドといった部材の腐食性も低減することができる。
【0050】
色成分としては、顔料および/または染料を含有することができる。上述したような酸重合タイプの感光性インクジェットインクにおいては、酸による退色を避けるために、顔料を用いることが望まれる。色成分の含有量は、酸重合性化合物100重量部に対して1重量部以上25重量部以下の量で配合されることが望ましい。1重量部未満の場合には、充分な色濃度を確保することが困難となる。一方、25重量部を越えると、インク吐出性が低下するおそれがある。色成分の含有量は、酸重合性化合物100重量部に対して2重量部以上8重量部以下とすることがより好ましい。
【0051】
本発明の実施形態に用い得る感光性インクジェットインクは、酸重合性化合物を溶媒として含有し、酸重合性化合物の化合物の一部にはビニルエーテル化合物が含まれる。ビニルエーテル化合物は、酸重合性化合物の少なくとも40重量部を占めることができる。ビニルエーテル化合物のみで酸重合性化合物を構成する場合には、その含有量はインクジェットインク全体に対して30重量%以上であることが好ましく、40重量%以上であることがより好ましい。30重量%未満の場合には、ノズルつまりが生じたり、感光性が低下するおそれがある。
【0052】
ビニルエーテル化合物は、重合性、および硬化硬度の観点から環式骨格を有することが好ましく、具体的には下記一般式(1)で表わされる化合物が挙げられる。
【化3】
【0053】
前記一般式(1)中、R11は、ビニルエーテル基、ビニルエーテル骨格を有する基、アルコキシ基、水酸基置換体および水酸基から選択され、少なくとも1つはビニルエーテル基またはビニルエーテル骨格を有する基である。R12は置換または非置換の環式骨格を有する(p+1)価の基であり、pは0を含む正の整数である。
【0054】
前記一般式(1)において、R12がシクロヘキサン環骨格であり、pが0の場合には、揮発性の観点から、含酸素構造であることがより好ましい。具体的には、環上の少なくとも一つの炭素原子はケトン構造を有する構造、酸素原子に置換されている構造、あるいは酸素含有置換基を有する構造などである。
【0055】
上述の分子骨格に導入されるビニルエーテル基の数は硬化性の観点からは多い方が望ましく、特に制限されないが、硬化後のインク層に再溶解性を付与するには、多くとも2乃至3程度の価数とすることが望ましい。
【0056】
(p+1)価の有機基R12としては、置換または非置換の芳香環、例えば、ベンゼン環やナフタレン環、ビフェニル環を含む(p+1)価の基が挙げられる。あるいは脂環式骨格、例えばシクロアルカン骨格や、ノルボルナン骨格、アダマンタン骨格、トリシクロデンカン骨格、テトラシクロドデカン骨格、テルペノイド骨格、およびコレステロール骨格などの誘導される(p+1)価の基などがでもよい。かかる脂環式骨格が、橋かけ構造を有する場合、硬化物の硬度が上昇するためより望ましい。さらに、揮発性の観点からは、含酸素構造であることがより望ましい。具体的には、環状の一部の炭素がケトン構造を有する構造、酸素原子に置換されている構造、あるいは酸素含有置換基を有する構造などである。
【0057】
上記一般式(1)で表わされる化合物は、通常、粘度が1mPa・secないし30mPa・sec程度である。したがって、これら化合物の使用は、インクジェットインクを十分に低粘度とするのに有効である。低粘度のビニルエーテル化合物の含有量は、溶媒全量中40重量部以上であれば、その効果を発揮することができる。
【0058】
一般式(1)で示される化合物のなかでも、少なくとも1つ以上のビニルエーテル基が環に直接結合している化合物は、カチオン硬化性に優れる。このため、顔料を同時に含有した場合にも硬化性に優れるため望ましいものとなる。例えば、以下に示される化合物が挙げられる。
【化4】
【0059】
上述したようなビニルエーテル化合物は、単独で用いた場合に最も優れた硬化特性を示す。その硬化特性を著しく低下することない範囲内であれば、酸で重合する他の化合物を別途配合してもよい。こうした化合物が含まれることによって、インクの保存安定性を高めたり、感光剤の溶解性を高めることができる。また、得られる印刷物に、適切な可撓性や光沢などの性状を付与することも可能となる。使用し得る化合物としては、例えば、エポキシ化合物、オキセタン化合物、あるいはアクリル化合物、メタクリル化合物などのアクリル系化合物などが挙げられる。
【0060】
本発明の実施形態に用いられる感光性インクジェットインクは、記録媒体に対する接触角が40°以下であることが好ましい。具体的には、インクの微少液滴が記録媒体に付着し、一定時間経過したときの接触角である。この接触角が40°以下の感光性インクジェットインクを用いることによって、本発明の実施形態にかかる方法により形成される画像の品質はよりいっそう高められる。すなわち、40°以上のときは隣接ドットの重ね合わさる面積が不十分で、記録媒体上にベタ画像を形成したときに、モトルなどの画像品質低下を招くことになる。接触角としては、より好ましくは30°以下である。インクの接触角は、例えば、自動極小接触角計MCA−2(協和界面科学製)を用いて測定することができる。
【0061】
以下、具体例を示して本発明をさらに詳細に説明する。
【0062】
記録媒体に印字を行なうに先立って、用いるインクジェットインクを調製した。まず、以下に示す処方で、色成分としての顔料を、分散剤とともに酸重合性化合物に加えて色材分散液を調製した。
【0063】
顔料(カーボンブラック) 20重量%
分散剤(ソルスパース32000:アビシア社) 6重量%
分散剤(ソルスパース5000:アビシア社) 0.6重量%
酸重合性化合物(ONB−DVE) 73.4重量%
上述の成分を混合してなる混合液を、循環式のビーズミルに0.3mm径のビーズを充填し、約1時間の分散処理を施すことによって、色材分散液を得た。
【0064】
こうして得られた色材分散液に、酸重合性化合物、光酸発生剤、および他の添加剤などを以下に示す処方で配合して、インクジェットインクを調製した。インクジェットインクの調製に当たっては、まず、各成分を混合して混合液を得、これをホモジナイザーにより混合攪拌した。最後に、混合液を5μmのメンブレンフィルタによりろ過して、インクジェットインクを得た。
【0065】
色材分散液 20重量%
ONB−DVE 30重量%
OXT−211(東亞合成製) 42重量%
UVACURE1590(ダイセルサイテック製) 5重量%
DBA(川崎化成製) 2重量%
アジスパーPB711(味の素ファインテクノ製) 1重量%
上述したように得られたインクジェットインクを用い、図1に示したインクジェット記録装置1により記録媒体2に印字を行なった。インクジェット記録装置1の各部材は、次のように準備した。搬送手段3としては、耐熱性が高く、熱容量の低い金属製のエンドレスベルトを用い、駆動ローラと従動ローラとによりテンションをかけた状態で配設した。記録媒体2としては、富士ゼロックスOHPシート V516(厚さ100μmPET)を用いた。先に調製されたインクジェットインクの記録媒体に対する接触角を、自動極小接触角計MCA−2(協和界面科学製)により測定した。その結果、15°であった。
【0066】
記録ヘッド4としては、東芝テック(株)製のCB1インクジェット記録ヘッドを用い、光照射手段5としては、フュージョンUVシステムズ・ジャパン(株)製のUV照射システムLH−6(Dバルブ:ピーク波長350nm〜390nm、標準ミラー)を用いた。光照射手段5の照度および積算光量を調整して、光照射を行なった。
【0067】
記録ヘッド4から記録媒体2への感光性インクジェットインクの吐出は、以下の各実施例に示すように複数回に分割して行なう。インク吐出によってドットパターンを形成し、光を照射した後に、2回目以降のインク吐出が行なわれる。
【0068】
印刷条件は、以下のとおりである。
【0069】
記録ヘッド4の解像度:300dpi、吐出体積:42pl/1ノズルあたり
印刷速度(記録媒体搬送手段であるベルトの搬送速度):25m/min
光照射(紫外線)照度:約2000mW/cm2
光照射(紫外線)積算光量:200mJ/cm2
光照射手段5の照射出力(紫外線照度・積算光量)は、トプコン社製の紫外線強度計(工業用UVチェッカーUVR−T1、受光部:UD−T36、ピーク感度波長:約350nm)を用いて測定した値である。
【0070】
以下の各実施例においては、第1の吐出により形成される第1のドットパターンの形状や、記録ヘッド4から吐出する回数を変更して画像を形成した。
【0071】
(実施例1)
本実施例においては、3回のインク吐出を行なって、1ドット単位4×4のベタ画像を形成した。第1の吐出においては、図7(a)に示したようなドットパターンを形成した。第2の吐出においては、第1のドットパターンの間隔の一部を占める第2のドットパターンを形成した。その結果、第2の吐出後には、図7(b)に示すようなドットパターンが形成された。第3の吐出では、残された間隔の全部を占める第3のドットパターンを形成した。最終的に、図7(c)に示すようなベタ画像が得られた。
【0072】
本実施例においては、間隔をもって配置されたインクドットの集合からなる第1のドットパターンを形成した後、第2のドットパターン、第3のドットパターンを順次形成することによって、間隔を埋めた。ドットパターンを形成する毎に、光を照射して仮硬化させた。こうして最終画像を形成することによって、先に形成されたドットのすそ野の部分に、隣接ドットが重なることとなる。その結果、最終的なベタ画像がマット調(光沢感の少ない艶消し状の印刷物)の優れた画像品質を得ることができた。
【0073】
(実施例2)
本実施例においては、2回のインク吐出を行なって、1ドット単位4×4のベタ画像を形成した。第1の吐出においては、図8(a)に示したようなドットパターンを形成した。第2の吐出においては、第1のドットパターンの間隔の全部を占める第2のドットパターンを形成した。その結果、図8(b)に示すようなベタ画像が得られた。
【0074】
本実施例において形成される第1のドットパターンのインクドットは、実施例1の場合と比較して、規則性が大きい。これに起因して、インク硬化膜表面の平滑性が、ある程度まで高められることとなる。その結果、マット調と光沢感とを併せもった画像形成の点でより優れた画像品質が得られた。
【0075】
図9には、本実施例で形成した各吐出後のドットの断面図を示す。第1の吐出後には、図9(a)に示すように、第1のドットパターン21が、記録媒体2上に形成される。この第1のドットパターン21に光照射を行なった後、第2のドットパターンを形成した状態を、図9(b)に示す。第1のドットパターン21のすそ野部分は、第2のドットパターン22で覆われるように画像が形成される。これによって、光沢感を抑え、かつモトルやブリードの少ない高品質画像が得られたものと推測される。
【0076】
上述した印字方法は種々の変更が可能であり、例えば吐出の回数を増やすことができる。この場合には、第1の吐出で形成される第1のドットパターンは、例えば図10(a)に示す形状に変更することができる。第2の吐出においては、第1のドットパターンの間隔の一部を占める第2のドットパターンを形成して、図10(b)に示すようなドットパターンを得る。第3の吐出では、残された間隔の全部を占める第3のドットパターンを形成することによって、最終的に、図10(c)に示すようなベタ画像が得られる。
【0077】
このようにインク吐出の回数を増やした場合には、より複雑なインク硬化膜表面の凹凸を作ることが可能となる。その結果、より光沢感を抑えたマット調感がよりいっそう優れた画像を得ることが可能となる。
【0078】
第1の吐出により形成される第1のドットパターンにおいては、インクドットおよび間隔は、必ずしも1ドットで構成しなくともよい。例えば、図11(a)に示すような形状で、第1のドットパターンを構成することができる。図11(a)に示す第1のドットパターンにおいては、インクドットおよび間隔は、上下左右に隣接したドット群(2×2の4ドット)から構成されている。構成単位が大きくなった以外は、図11(a)に示す第1のドットパターンは、図8(a)に示したものと同様の形状である。
【0079】
第2の吐出においては、例えば、第1のドットパターンの間隔の全部を占める第2のドットパターンを形成する。その結果、図11(b)に示すようなベタ画像を得ることができる。
【0080】
(実施例3)
本実施例においては、2回のインク吐出を行なって、1ドット単位4×4のベタ画像を形成した。第1の吐出においては、図12(a)に示したようなドットパターンを形成した。ここで形成した第1のドットパターンはライン状であり、インクドットは、画像内の一定の方向で接触している。第2の吐出においては、第1のドットパターンの間隔の全部を占める第2のドットパターンを形成した。その結果、図12(b)に示すようなベタ画像が得られた。
【0081】
形成された画像のマット調の画質感は、実施例2で得られたものとは異なっていた。実施例2においては、第1のドットパターンのインクドットは均一に分散されていたのに対し、本実施例においては、第1のドットパターンがライン状であることに起因するものと推測される。
【0082】
第1のドットパターンは、例えば、図13(a)に示すように変更することができる。第2の吐出においては、第1のドットパターンの間隔の全部を占める第2のドットパターンを形成することによって、図13(b)に示すようなベタ画像を得ることができる。
【0083】
(比較例)
1ドット単位4×4のベタ画像を1回のインク吐出で形成した以外は、実施例1と同様の条件で画像を形成して比較例とした。
【0084】
実施例1,2,3、および比較例で得られた画像について、画像濃度、マット調質感、および混色・ブリードを調べた。
【0085】
画像濃度は、X−rite530(X−rite製)により測定し、以下の基準で評価した。
【0086】
○:ΔT=1.0≦
△:ΔT=1.0>
マット調質感を評価するには、光沢度計PG−1M(日本電色工業製)により光沢度を調べた。その結果を以下の基準で判断して、マット調質感の評価とした。
【0087】
○:100°以下
×:100°より上
混色・ブリードは、混色部画像のにじみ具合を主観評価により調べた。目安として、異色間の境界部が混色によりにじみを生じ、境界線のつぶれが目立たなく、境界から数ドット以下のにじみが確認できるものは、許容範囲内であるのでOKである。これ以外は許容し得ず、NGである。
【0088】
得られた結果を、下記表1にまとめる。
【表1】
【0089】
上記表1に示されるように、実施例で形成された画像は、いずれも画像濃度、マット調質感が良好であり、混色・ブリードも少ない。これに対して、比較例で形成された画像は、マット調質感が極めて乏しいことに加えて、許容し得ない程度の混色・ブリードが生じた。
【0090】
異なるドットパターンを形成するインク吐出を2回以上行なうとともに、インク吐出間にはドットパターンに光を照射して、ドットの隣接部に重なりを有するインク層が形成されるので、本発明の実施形態にかかる方法によって、モトルやブリードを極力低減したマット調質感の画像が得られることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】本発明の一実施形態にかかるインクジェットインクを使用し得る記録装置の一例を示す概略図。
【図2】本発明の一実施形態にかかる方法における第1のドットパターンの一例を示す概略図。
【図3】本発明の一実施形態にかかる方法における第1のドットパターンの他の例を示す概略図。
【図4】本発明の一実施形態にかかるインクジェットインクを使用し得る記録装置の他の例を示す概略図。
【図5】インクジェット記録装置の制御系を表わすフローチャート。
【図6】本発明の一実施形態にかかるインクジェットインクを使用し得る記録装置の他の例を示す概略図。
【図7】実施例1で形成したドットパターンを示す図。
【図8】実施例2で形成したドットパターンを示す図。
【図9】図8に示したドットパターンの断面図。
【図10】ドットパターンの変形例を示す図。
【図11】ドットパターンの変形例を示す図。
【図12】実施例3で形成したドットパターンを示す図。
【図13】ドットパターンの変形例を示す図。
【符号の説明】
【0092】
1…インクジェット記録装置; 2…記録媒体; 3…搬送機構
4…インクジェット式記録ヘッド; 5…光源; 5a…光照射手段
5b…光照射手段; 7…ストッカー; 201…記録装置コントローラ
202…分割印字データ転送回路; 203…ヘッド駆動回路
204…搬送手段制御部; 205…光照射手段制御部; 8…ガイド; 9…ガイド
10…フロントレール; 11…リヤレール; 12…レフトレール
13…ライトレール; 21…第1のドットパターン
22…第2のドットパターン。
【技術分野】
【0001】
本発明は、印字方法に係り、特に感光性インクジェットインクを用いて記録媒体に画像を印字する印字方法に関する。
【背景技術】
【0002】
感光性インクジェットインクは、印字後に溶剤を排出する必要がなく、速乾性にも優れている。このため、感光性インクジェットインクは、インクが浸透しない非吸収記録媒体に印字する際に特に好適である。用いられる記録装置は、画像形成部と紫外線照射部とを少なくとも具備する。画像形成部は、感光性インクをノズルから吐出する記録ヘッドを備え、紫外線照射部においては、記録媒体上に画像を形成した後、紫外線を照射させて感光性インクを硬化させる。必要に応じて、記録媒体を加熱させる加熱装置が紫外線照射部の前および後の少なくとも一方に設けられる。この加熱装置でインク層を加熱することによって、感光性インクジェットインクからなるインク層と記録媒体との密着性や硬化硬度が、よりいっそう高められる。
【0003】
画像形成部の記録ヘッドから記録媒体に吐出された感光性インクジェットインクは、記録媒体に着弾した後、記録媒体の表面上を濡れ拡がる。記録媒体が吸収性を有する場合には、インクは記録媒体に浸透し始める。この着弾後の濡れあるいは浸透の過程において、紫外線を照射するタイミングは、最終的に形成される画像品質に大きな影響を与える。例えば、全エリアの印字いわゆるベタ画像を形成する際、紫外線を照射するタイミングが早すぎると、ベタ画像になる前に感光性インクの硬化が始まる。この場合には、画像品質の低下に繋がるおそれがある。なお、着弾後の最短照射タイミングは、記録ヘッド部と照射部との間の装置的に限界となる照射タイミングによって決定される。また、着弾後の一定時間おいての照射は、隣接するドット間の混液がうまくいかず、着弾位置から外れてドットの合体が生じる。その結果、最終画像には、いわゆるモトル(ドットにおいて濃淡の差を生じる現象)や、カラー画像における異色間の混合いわゆるブリードとよばれる現象を生じる。
【0004】
このような画像品質を低下させる対策として、紫外線の照射タイミングを最適化する方法が提案されてきた。例えば、記録媒体上に吐出した感光性インクのドットにそれぞれの吐出タイミングに合わせて、紫外線を照射する方法が挙げられる(例えば、特許文献1参照。)。これにおいては、紫外線照射によりインクを増粘させて、隣接するドットが互いに混合しない程度にプレ硬化が行なわれる。その後、さらに紫外線が照射され、画像が形成される。あるいは、所定のドット径サイズ内に紫外線を照射する方法が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。これにおいては、ドット系サイズは、ブラックインクを記録媒体に着弾した後のドット径と画素サイズの関係から導き出される。
【特許文献1】特開2004−42548号公報
【特許文献2】特開2004−291414号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の方法は、基本的に複数色のインクを記録媒体に印字する方法についての改良である。光照射のタイミングを限定しているものの、実際には、モトルやブリードの大幅な改善までには至っていない。また、単色においての画像劣化については言及されていない。単色における画像において全ベタ画像がうまく形成されない場合には、複数色の画像においても当然、画質の低下は避けられず、従来の方法では回避しがたい場合(画像形成)がある。しかも、良好なマット調質感の画像は、従来の方法では必ずしも得ることはできない。
【0006】
本発明は、感光性インクジェットインクを用いた印字方法であって、モトルやブリードを極力低減したマット調質感の画像を形成する印字方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様にかかる印字方法は、記録媒体上に、ドットの隣接部に重なりをもって構成されたインク層の硬化物からなる画像を形成する方法であって、
インクジェットヘッドから光照射により硬化するインクを前記記録媒体へ吐出して、ドットの隣接部に重なりをもったインク層を形成する工程、および
前記インク層を硬化させる工程を具備し、
前記記録媒体上に前記インク層を形成する工程は、第1のドットパターンを形成する第1の吐出と、前記第1のドットパターンへの光照射と、第2のドットパターンを形成する第2の吐出とを少なくとも含み、
前記第1のドットパターンは、間隔をもって配置されたインクドットの集合からなり、前記第2のドットパターンは、前記第1のドットパターンにおける間隔の少なくとも一部を占めることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、感光性インクジェットインクを用いた印字方法であって、モトルやブリードを極力低減したマット調質感の画像を形成する印字方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
【0010】
図1は、本発明の一実施形態にかかる印字方法に用い得るインクジェット記録装置の概略図である。図示するように、インクジェット記録装置1は、記録媒体2を搬送する搬送手段3を備えている。搬送手段3の移動方向に沿って上流側から下流側に向かって、インクジェット式の記録ヘッド4、および光照射手段5が順次配置されている。
【0011】
記録媒体2は、印刷可能な媒体であれば何等限定されるものではない。記録媒体2としては、例えば、紙、木、OHPシート、樹脂フィルム、不織布、多孔質膜、プラスチック板、回路基板、金属基板および金属板などを使用することができる。本発明の実施形態にかかる方法は、OHPシート、樹脂フィルム、プラスチック板、金属板、ガラス、タイルといった非吸収性の記録媒体に印字を行なった際に、特に効果が発揮される。
【0012】
搬送手段3は、例えば、記録媒体2が、記録ヘッド4、および光照射手段5の正面を順次通過するように記録媒体2を搬送する。ここでは、搬送手段3は、記録媒体2を、図中、右側から左側へ向けて搬送する。搬送手段3は、例えば、記録媒体2を移動させるベルトおよび/またはローラと、それを駆動する駆動機構とによって構成することができる。また、搬送手段3には、記録媒体2の移動を補助するガイド部材などをさらに設けてもよい。搬送手段3は、枚葉の記録媒体2を搬送させるような、リニアベースの上をスライド移動するステージ構造のものでもよい。
【0013】
図1には明確に示していないが、搬送手段3は、1回目のインクジェット式の記録ヘッド4からの吐出印字、および光照射手段5からの露光照射を終了した後、上流側に逆送できる機構となっている。これによって、2回目の吐出印字および露光照射を、1回目の場合と同様に行えるようになっている。吐出印字および露光照射といった動作を3回目、4回目と繰り返すことも可能である。印字画像の内容に合わせて最も良好な画像品質が得られるように、記録ヘッド4からのインク吐出および光照射手段5からの露光照射の回数を選択することができる。
【0014】
本発明の実施形態にかかる方法を実施するには、インクジェット記録装置1を複数個接続した構成の記録装置を用いることもできる。こうした記録装置においても、上述したように印字および露光照射することが可能である。さらに、インクジェット記録装置1を複数個用いる場合や、一部に逆送させて使用させる構成を複合させるなど、使用する記録ヘッドの個数、また複数色を印字する順番など適宜選択して使用することができる。
【0015】
記録ヘッド4は、画像信号に対応して記録媒体2上に感光性インクジェットインクを吐出して、記録媒体2上にドットパターンを形成する。1回目の吐出において形成されるのは、間隔をもって配置されたインクドットの集合からなる第1のドットパターンである。第1のドットパターンにおける間隔は、1ドットでも2ドット以上であってもよく、特に限定されない。インクドットの間隔は、第1のドットパターン内において一定とすることができる。また、第1のドットパターンには、少なくとも1ドットおきのライン状の部分が含まれてもよい。第1のドットパターンにおけるインクドットもまた、上述した間隔と同様、1ドットであっても2ドット以上であってもよい。
【0016】
1回目のインク吐出で形成される第1のドットパターンとしては、例えば図2乃至図3に示すものが挙げられる。これらのドットパターンにおいては、斜線部がインクドット部を表わし、いずれも間隔をもって配置されている。
【0017】
第1の吐出によって、間隔をもって配置されたドットの集合からなる第1のドットパターンが形成された後、この第1のドットパターンに対して光照射手段5から光が照射される。照射された光は、第1のドットパターンを構成するインク中の触媒にエネルギーを与え、酸やラジカルを発生させ、さらに発生した酸やラジカルなどの作用によってドットパターンの硬化を促進する。
【0018】
光照射手段5としては、例えば、低、中、高圧水銀ランプのような水銀ランプ、メタハライドランプ、無電極メタハライドランプ、タングステンランプ、キセノンランプ、アーク灯、エキシマランプ、エキシマレーザー、半導体レーザー、YAGレーザー、レーザーと非線形光学結晶とを組み合わせたレーザーシステム、高周波誘起紫外線発生装置、電子線照射装置、X線照射装置などを使用することができる。なかでも、システムを簡便化できるため、高周波誘起紫外線発生装置、高・低圧水銀ランプや半導体レーザーなどを使用することが望ましい。紫外線を用いる場合の波長は、100nm〜600nm程度が好ましい。より好ましくは、感光性インクの中に添加されている光酸発生剤やラジカル発生剤の感度波長に合う必要があるが、250nm付近または365nm付近にピークがあるようなものなどがよい。
【0019】
光照射手段5から照射される光の波長は、紫外線領域に限るものではない。感光性インクの中に添加される光酸発生剤やラジカル発生剤の感度波長に応じて、適宜選択することができる。
【0020】
上述したように光照射手段5から第1のドットパターンに光を照射することによって、第1のドットパターンは仮硬化する。本発明の実施形態にかかる印字方法においては、こうして第1のドットパターンを仮硬化させた後に、第2のドットパターンが形成される。第2のドットパターンは、第1のドットパターンにおける間隔の少なくとも一部を占めるように構成される。
【0021】
例えば図1に示した記録装置1においては、搬送手段3を逆送させて記録媒体2を記録ヘッド4の位置に再度設置して、2回目の吐出印字を行なうことができる。第2のドットパターンは、仮硬化した第1のドットパターンにおけるドットのすそ野部分に重なって、ドットの隣接部に重なりをもったインク層を記録媒体2上に形成することができる。こうして生じる重なりによって、最終的なベタ画像は、マット調の優れた品質となることが、本発明者らによって見出された。
【0022】
第2のドットパターンが第1のドットパターンにおける全部を占めない場合には、さらに第3の吐出を行なってドットパターンを形成する。吐出の回数が多くなれば、解像度が高められるので、より高精細の画像を得ることができる。
【0023】
なお、図1に示したインクジェット記録装置1においては、光照射手段5に、集光用ミラーや走引光学系を設けることもできる。さらに、印字前後あるいは印字中に記録媒体を加熱する加熱手段を設けて、インクの硬化や記録媒体との密着強度をより強固なものにするために、記録媒体を加熱制御することも可能である。図4には、記録媒体2をストッカー7に搬送して、ストッカー7に加熱装置を設けた形態を示した。このように記録媒体2を重ねて一括してバッチ加熱することによって、インク層をより効率よく硬化可能なインクジェット記録装置が得られる。
【0024】
図1に示した本発明の実施形態にかかるインクジェット記録装置1は、以下に説明するように制御することができる。図5は、本発明の実施形態にかかるインクジェット記録装置の制御系を表わすフローチャートである。
【0025】
本発明の実施形態にかかる方法に用い得るインクジェット記録装置1は、図1に示したように搬送手段3、インクジェット記録ヘッド4、光照射手段5を備える。これらの各部は、基本的にはマイクロプロセッサの制御によって駆動制御される。したがって、インクジェット記録装置1は、マイクロプロセッサであるCPU、CPUにバス接続されてマイクロコンピュータを構築するROMおよびRAM(いずれも図示せず)を備えており、ROMまたはRAMに格納された動作プログラムにしたがって、各部が駆動制御される。このような駆動制御の下で、搬送手段3、インクジェット記録ヘッド4、および光照射手段5は、それぞれ次のように動作する。
【0026】
まず、印字データは、記録装置コントローラ201に転送され、この記録装置コントローラ201によって印字データ転送回路202に印字データが送られ、ヘッド駆動回路203に印字のための駆動信号が送られる。ヘッド駆動回路203は、インクジェット記録ヘッド4を駆動し、インクジェット記録ヘッド4は、印字データ転送回路202に転送されてきた印字データに応じて、ノズル(図示せず)から感光性インクジェットインクをインク滴として記録媒体に吐出する。
【0027】
この際、記録装置コントローラ201は、搬送手段制御部204および光照射手段制御部205にも駆動信号を送信する。これによって、駆動ローラが駆動されて、搬送手段3が連動して記録媒体2が搬送される。一方、光照射手段5においては、バルブが付勢されて点灯する。光照射手段5には、集光用ミラーを設け、インク層近傍で照射光を集光させてもよい。このような記録媒体2の搬送による副走査方向への移動と、図示しないノズルが主走査方向にライン上に配列されたインクジェット記録ヘッド4からの選択的なインクの吐出との組み合わせによって、印字データに応じた画像が記録媒体2上に形成される。形成された画像、つまりインク層は、光照射手段5の位置まで搬送されると、バルブからの照射光によって光照射され、記録媒体2に定着する。
【0028】
このとき印字データ転送回路202に送られる印字データは、分割印字データである。具体的には、単一色からなる画像データを複数回に分けて印字できるように分割処理されたものが、分割印字データとして送られる。単一色画像の形成を複数回に分けて印字、露光照射され、前記の一連の動作を分割分だけ繰り返し行なうことになる。
【0029】
本発明の実施形態にかかる印字方法を行なうインクジェット記録装置は、フラットベットタイプのインクジェット記録装置であってもよい。その一例の概略図を、図6に示す。図示するインクジェット記録装置においては、記録媒体2が固定され、インクジェット記録ヘッド4や光照射手段5a、5bなどが移動して画像が形成される。
【0030】
このインクジェット記録装置1は、インクジェット記録ヘッド4、光照射手段5a、および光照射手段5bをインクジェット記録ユニットとして有する。こうしたインクジェット記録ユニットは、記録媒体固定ステージ(図示せず)に固定された記録媒体2上を、記録ヘッド4がシリアル的に往復移動することによって、記録が行なわれる。
【0031】
インクジェット記録ユニットは、両サイドのガイド8および9によって、一体的に固定されている。インクジェット記録ユニットは、平行に配設されたフロントレール10およびリヤレール11の上を、白矢印方向と黒矢印方向とに往復に搬送されるように構成される。搬送方法は、ステッピングモーター等に取り付けられ張設されたワイヤーで引っ張る形で行なうことができる。あるいは、リニアスライダーのように自己移動するものであってもよい。
【0032】
フロントレール10およびリヤレール11は平行に固定され、さらに記録媒体2よりも外側に平行に配設されたレフトレール12およびライトレール13上を、矢印方向に搬送するように構成される。
【0033】
このような構成においてインクジェット記録を行なう場合、インクジェット記録ユニットは、図中の白矢印方向に搬送されながら記録媒体2上にインク層を形成していく。ここで形成されるインク層は、上述したようにドットの隣接部に重なりを有するものである。こうしたインク層は、異なるドットパターンを形成する2回以上のインク吐出と、インク吐出後の光照射によって形成される。片道でのインク層形成完了後、インクジェット記録ユニットは、黒矢印方向に一旦戻されながら、平行に配設されたレフトレール12およびライトレール13の上を、黒矢印方向に記録媒体2上の未記録の部分にまで移動される。次に、同様にして白矢印方向に搬送されながら、ドットの隣接部に重なりを有するインク層を、記録媒体2上に形成していく。この動作を繰り返しながら、大きな記録媒体2上に画像を形成する。
【0034】
これらの各部は、基本的にはマイクロプロセッサの制御によって駆動制御される。したがって、インクジェット記録装置1は、マイクロプロセッサであるCPU、CPUにバス接続されてマイクロコンピュータを構築するROMおよびRAM(いずれも図示せず)を備えている。各部の駆動は、ROMまたはRAMに格納された動作プログラムにしたがって制御される。このような駆動制御の下で、インクジェット記録ヘッド4、光照射手段5a、および光照射手段5b、さらにはインクジェット記録ユニットの搬送は、それぞれ次のように動作する。
【0035】
図5のフローチャートを参照しつつ、図6のインクジェット記録装置の動作を説明する。まず、分割印字データは、記録装置コントローラ201に転送され、この記録装置コントローラ201によって印字データ転送回路202に印字データが送られ、ヘッド駆動回路203に印字のための駆動信号が送られる。ヘッド駆動回路203は、インクジェット記録ヘッド4を駆動し、インクジェット記録ヘッド4は、印字データ転送回路202に転送されてきた分割印字データに応じて、ノズル(図示せず)から光硬化型インクをインク滴として記録媒体2上に吐出する。
【0036】
この際、記録装置コントローラ201は、搬送手段制御部204および光照射手段制御部205にも駆動信号を送信する。ここでは、搬送手段制御部204は、インクジェット記録ユニットの搬送駆動を制御する。
【0037】
これによって、モーターまたはリニアスライダーなどが駆動されて、搬送手段3が転動してインクジェット記録ユニットはモーターまたはリニアスライダーなどと連動し搬送駆動される。ここでは、搬送手段3は、インクジェット記録ユニットのユニット主走査方向ならびにユニット副走査方向への搬送駆動を行なう。
【0038】
ユニット主走査方向とは、図中白矢印方向および黒矢印方向を指し、ユニット副走査方向とは、図中矢印方向を指す。このとき、光照射手段5aおよび光照射手段5bにおいては、バルブが付勢されて点灯する。それぞれの光照射手段5には、集光用ミラーを設け、インク層近傍で照射光を集光させる。
【0039】
このようなインクジェット記録ユニットの白矢印および黒矢印方向への搬送駆動と、ユニット副走査方向である矢印方向への搬送駆動が、インクジェット記録ヘッド4の印字と同期し連動して行なわれる。
【0040】
ノズル(図示せず)がヘッド主走査方向にライン上に配列されたインクジェット記録ヘッド4からの選択的なインクの吐出との組み合わせによって、分割印字データに応じた画像が記録媒体2上に形成される。ことのとき記録媒体2上に形成される画像は、記録ヘッド4と照射手段5a,5bを配する記録ユニットが2回以上の搬送移動によって形成されるが、片道1回の搬送で行なう照射は、黒矢印方向のときは照射手段5b、白矢印方向の搬送のときは照射手段5aを使って照射が行われることになる。つまりインク層は、インクジェット記録ヘッド4と同時に搬送移動される光照射手段5aおよび5bのバルブによって光照射され、感光性インクジェットインクが記録媒体2に着弾の都度、記録媒体2表面上に光照射による硬化定着が行なわれる。
【0041】
上述したようないずれの記録装置を用いた場合を用いた場合も、本発明の実施形態にかかる方法においては、異なるドットパターンを形成する2回以上のインク吐出によって、ドットの隣接部に重なりをもったインク層が形成される。その結果、画像のマット調を高めることが可能である。しかも、インクを吐出してドットパターンが形成された後には光照射が行なわれるので、画像における混色やブリードは極力低減される。
【0042】
次に、本発明の実施形態にかかる方法に用いられる感光性インクジェットインクについて説明する。
【0043】
感光性インクジェットインクは、光照射により酸を発生する光酸発生剤を用いるインク(酸重合タイプ)と、光照射によりラジカルを発生するラジカル重合開始剤を用いるインク(ラジカル重合タイプ)とに大別することができる。
【0044】
本発明の実施形態にかかる方法においては、いずれのタイプのインクを用いてもよいが、ここでは酸重合タイプの感光性インクについて詳述する。酸重合タイプの感光性インクは、光照射により酸を発生する光酸発生剤と、色成分と、酸の存在下で重合する化合物とを含有する。すなわち、このタイプの感光性インクジェットインクは、化学増幅型の感光性組成物である。
【0045】
本明細書における「インクジェットインク」とは常温で流動性のインクを意味し、具体的には25℃における粘度が50mPa・sec、より好ましくは30mPa・sec以下であるインクを意味する。あるいは、インクジェットヘッドの温調範囲である常温(25℃)乃至50℃程度の温度内において、12mPa・sec以内の粘度を示すインクであってもよい。
【0046】
このようなインクジェットインクを含むインク層に光を照射した場合には、まず、光酸発生剤から酸が発生する。この酸は、重合性化合物の架橋反応の触媒として機能するとともに、発生した酸はインク層内で拡散する。露光後のインク層では、酸を触媒とした架橋反応が進行し、インク層を加熱することによって、この架橋反応を加速することができる。ここでの架橋反応はラジカル重合とは異なって、酸素の存在によって阻害されることがない。そのため、1つの光子で複数の架橋反応を生じさせることができ、高い感度を実現することができる。しかも、インク層の深部や吸収性のメディア内部でも架橋反応を速やかに進行させることができる。そのため、得られるインク層は、ラジカル重合系の場合と比較して密着性にも格段に優れたものとなる。
【0047】
光照射により酸を発生する光酸発生剤としては、例えば、オニウム塩、ジアゾニウム塩、キノンジアジド化合物、有機ハロゲン化物、芳香族スルフォネート化合物、バイスルフォン化合物、スルフォニル化合物、スルフォネート化合物、スルフォニウム化合物、スルファミド化合物、ヨードニウム化合物、スルフォニルジアゾメタン化合物、およびそれらの混合物などを使用することができる。
【0048】
インクジェットインク中における光酸発生剤の含有量は、使用する光酸発生剤の酸発生効率や添加する色成分の量などに応じて決定することができる。例えば、顔料の濃度が5重量%程度である場合には、光酸発生剤の含有量は、インクジェットインク中に含まれる酸の存在下で重合する化合物100重量部に対して、通常、1重量部乃至10重量部とすることができる。酸重合性化合物100重量部に対する光酸発生剤の割合が1重量部未満の場合には、インクジェットインクの感度が低くなる。一方、10重量部を越えると、インクの経時間的増粘が激しくなって塗膜性や光硬化後のインク膜の硬度が低下する。また、記録装置の配管やヘッド部材の腐食が生じるおそれがある。
【0049】
インクの保存安定性を考慮すると、光酸発生剤の含有量は、酸重合性化合物100重量部に対して2重量部乃至8重量部とすることが好ましい。より好ましくは、酸重合性化合物100重量部に対して4重量部乃至8重量部である。特にかかるより好ましい範囲で光酸発生剤が含有された場合には、インクの保存安定性を高めるとともに、配管やヘッドといった部材の腐食性も低減することができる。
【0050】
色成分としては、顔料および/または染料を含有することができる。上述したような酸重合タイプの感光性インクジェットインクにおいては、酸による退色を避けるために、顔料を用いることが望まれる。色成分の含有量は、酸重合性化合物100重量部に対して1重量部以上25重量部以下の量で配合されることが望ましい。1重量部未満の場合には、充分な色濃度を確保することが困難となる。一方、25重量部を越えると、インク吐出性が低下するおそれがある。色成分の含有量は、酸重合性化合物100重量部に対して2重量部以上8重量部以下とすることがより好ましい。
【0051】
本発明の実施形態に用い得る感光性インクジェットインクは、酸重合性化合物を溶媒として含有し、酸重合性化合物の化合物の一部にはビニルエーテル化合物が含まれる。ビニルエーテル化合物は、酸重合性化合物の少なくとも40重量部を占めることができる。ビニルエーテル化合物のみで酸重合性化合物を構成する場合には、その含有量はインクジェットインク全体に対して30重量%以上であることが好ましく、40重量%以上であることがより好ましい。30重量%未満の場合には、ノズルつまりが生じたり、感光性が低下するおそれがある。
【0052】
ビニルエーテル化合物は、重合性、および硬化硬度の観点から環式骨格を有することが好ましく、具体的には下記一般式(1)で表わされる化合物が挙げられる。
【化3】
【0053】
前記一般式(1)中、R11は、ビニルエーテル基、ビニルエーテル骨格を有する基、アルコキシ基、水酸基置換体および水酸基から選択され、少なくとも1つはビニルエーテル基またはビニルエーテル骨格を有する基である。R12は置換または非置換の環式骨格を有する(p+1)価の基であり、pは0を含む正の整数である。
【0054】
前記一般式(1)において、R12がシクロヘキサン環骨格であり、pが0の場合には、揮発性の観点から、含酸素構造であることがより好ましい。具体的には、環上の少なくとも一つの炭素原子はケトン構造を有する構造、酸素原子に置換されている構造、あるいは酸素含有置換基を有する構造などである。
【0055】
上述の分子骨格に導入されるビニルエーテル基の数は硬化性の観点からは多い方が望ましく、特に制限されないが、硬化後のインク層に再溶解性を付与するには、多くとも2乃至3程度の価数とすることが望ましい。
【0056】
(p+1)価の有機基R12としては、置換または非置換の芳香環、例えば、ベンゼン環やナフタレン環、ビフェニル環を含む(p+1)価の基が挙げられる。あるいは脂環式骨格、例えばシクロアルカン骨格や、ノルボルナン骨格、アダマンタン骨格、トリシクロデンカン骨格、テトラシクロドデカン骨格、テルペノイド骨格、およびコレステロール骨格などの誘導される(p+1)価の基などがでもよい。かかる脂環式骨格が、橋かけ構造を有する場合、硬化物の硬度が上昇するためより望ましい。さらに、揮発性の観点からは、含酸素構造であることがより望ましい。具体的には、環状の一部の炭素がケトン構造を有する構造、酸素原子に置換されている構造、あるいは酸素含有置換基を有する構造などである。
【0057】
上記一般式(1)で表わされる化合物は、通常、粘度が1mPa・secないし30mPa・sec程度である。したがって、これら化合物の使用は、インクジェットインクを十分に低粘度とするのに有効である。低粘度のビニルエーテル化合物の含有量は、溶媒全量中40重量部以上であれば、その効果を発揮することができる。
【0058】
一般式(1)で示される化合物のなかでも、少なくとも1つ以上のビニルエーテル基が環に直接結合している化合物は、カチオン硬化性に優れる。このため、顔料を同時に含有した場合にも硬化性に優れるため望ましいものとなる。例えば、以下に示される化合物が挙げられる。
【化4】
【0059】
上述したようなビニルエーテル化合物は、単独で用いた場合に最も優れた硬化特性を示す。その硬化特性を著しく低下することない範囲内であれば、酸で重合する他の化合物を別途配合してもよい。こうした化合物が含まれることによって、インクの保存安定性を高めたり、感光剤の溶解性を高めることができる。また、得られる印刷物に、適切な可撓性や光沢などの性状を付与することも可能となる。使用し得る化合物としては、例えば、エポキシ化合物、オキセタン化合物、あるいはアクリル化合物、メタクリル化合物などのアクリル系化合物などが挙げられる。
【0060】
本発明の実施形態に用いられる感光性インクジェットインクは、記録媒体に対する接触角が40°以下であることが好ましい。具体的には、インクの微少液滴が記録媒体に付着し、一定時間経過したときの接触角である。この接触角が40°以下の感光性インクジェットインクを用いることによって、本発明の実施形態にかかる方法により形成される画像の品質はよりいっそう高められる。すなわち、40°以上のときは隣接ドットの重ね合わさる面積が不十分で、記録媒体上にベタ画像を形成したときに、モトルなどの画像品質低下を招くことになる。接触角としては、より好ましくは30°以下である。インクの接触角は、例えば、自動極小接触角計MCA−2(協和界面科学製)を用いて測定することができる。
【0061】
以下、具体例を示して本発明をさらに詳細に説明する。
【0062】
記録媒体に印字を行なうに先立って、用いるインクジェットインクを調製した。まず、以下に示す処方で、色成分としての顔料を、分散剤とともに酸重合性化合物に加えて色材分散液を調製した。
【0063】
顔料(カーボンブラック) 20重量%
分散剤(ソルスパース32000:アビシア社) 6重量%
分散剤(ソルスパース5000:アビシア社) 0.6重量%
酸重合性化合物(ONB−DVE) 73.4重量%
上述の成分を混合してなる混合液を、循環式のビーズミルに0.3mm径のビーズを充填し、約1時間の分散処理を施すことによって、色材分散液を得た。
【0064】
こうして得られた色材分散液に、酸重合性化合物、光酸発生剤、および他の添加剤などを以下に示す処方で配合して、インクジェットインクを調製した。インクジェットインクの調製に当たっては、まず、各成分を混合して混合液を得、これをホモジナイザーにより混合攪拌した。最後に、混合液を5μmのメンブレンフィルタによりろ過して、インクジェットインクを得た。
【0065】
色材分散液 20重量%
ONB−DVE 30重量%
OXT−211(東亞合成製) 42重量%
UVACURE1590(ダイセルサイテック製) 5重量%
DBA(川崎化成製) 2重量%
アジスパーPB711(味の素ファインテクノ製) 1重量%
上述したように得られたインクジェットインクを用い、図1に示したインクジェット記録装置1により記録媒体2に印字を行なった。インクジェット記録装置1の各部材は、次のように準備した。搬送手段3としては、耐熱性が高く、熱容量の低い金属製のエンドレスベルトを用い、駆動ローラと従動ローラとによりテンションをかけた状態で配設した。記録媒体2としては、富士ゼロックスOHPシート V516(厚さ100μmPET)を用いた。先に調製されたインクジェットインクの記録媒体に対する接触角を、自動極小接触角計MCA−2(協和界面科学製)により測定した。その結果、15°であった。
【0066】
記録ヘッド4としては、東芝テック(株)製のCB1インクジェット記録ヘッドを用い、光照射手段5としては、フュージョンUVシステムズ・ジャパン(株)製のUV照射システムLH−6(Dバルブ:ピーク波長350nm〜390nm、標準ミラー)を用いた。光照射手段5の照度および積算光量を調整して、光照射を行なった。
【0067】
記録ヘッド4から記録媒体2への感光性インクジェットインクの吐出は、以下の各実施例に示すように複数回に分割して行なう。インク吐出によってドットパターンを形成し、光を照射した後に、2回目以降のインク吐出が行なわれる。
【0068】
印刷条件は、以下のとおりである。
【0069】
記録ヘッド4の解像度:300dpi、吐出体積:42pl/1ノズルあたり
印刷速度(記録媒体搬送手段であるベルトの搬送速度):25m/min
光照射(紫外線)照度:約2000mW/cm2
光照射(紫外線)積算光量:200mJ/cm2
光照射手段5の照射出力(紫外線照度・積算光量)は、トプコン社製の紫外線強度計(工業用UVチェッカーUVR−T1、受光部:UD−T36、ピーク感度波長:約350nm)を用いて測定した値である。
【0070】
以下の各実施例においては、第1の吐出により形成される第1のドットパターンの形状や、記録ヘッド4から吐出する回数を変更して画像を形成した。
【0071】
(実施例1)
本実施例においては、3回のインク吐出を行なって、1ドット単位4×4のベタ画像を形成した。第1の吐出においては、図7(a)に示したようなドットパターンを形成した。第2の吐出においては、第1のドットパターンの間隔の一部を占める第2のドットパターンを形成した。その結果、第2の吐出後には、図7(b)に示すようなドットパターンが形成された。第3の吐出では、残された間隔の全部を占める第3のドットパターンを形成した。最終的に、図7(c)に示すようなベタ画像が得られた。
【0072】
本実施例においては、間隔をもって配置されたインクドットの集合からなる第1のドットパターンを形成した後、第2のドットパターン、第3のドットパターンを順次形成することによって、間隔を埋めた。ドットパターンを形成する毎に、光を照射して仮硬化させた。こうして最終画像を形成することによって、先に形成されたドットのすそ野の部分に、隣接ドットが重なることとなる。その結果、最終的なベタ画像がマット調(光沢感の少ない艶消し状の印刷物)の優れた画像品質を得ることができた。
【0073】
(実施例2)
本実施例においては、2回のインク吐出を行なって、1ドット単位4×4のベタ画像を形成した。第1の吐出においては、図8(a)に示したようなドットパターンを形成した。第2の吐出においては、第1のドットパターンの間隔の全部を占める第2のドットパターンを形成した。その結果、図8(b)に示すようなベタ画像が得られた。
【0074】
本実施例において形成される第1のドットパターンのインクドットは、実施例1の場合と比較して、規則性が大きい。これに起因して、インク硬化膜表面の平滑性が、ある程度まで高められることとなる。その結果、マット調と光沢感とを併せもった画像形成の点でより優れた画像品質が得られた。
【0075】
図9には、本実施例で形成した各吐出後のドットの断面図を示す。第1の吐出後には、図9(a)に示すように、第1のドットパターン21が、記録媒体2上に形成される。この第1のドットパターン21に光照射を行なった後、第2のドットパターンを形成した状態を、図9(b)に示す。第1のドットパターン21のすそ野部分は、第2のドットパターン22で覆われるように画像が形成される。これによって、光沢感を抑え、かつモトルやブリードの少ない高品質画像が得られたものと推測される。
【0076】
上述した印字方法は種々の変更が可能であり、例えば吐出の回数を増やすことができる。この場合には、第1の吐出で形成される第1のドットパターンは、例えば図10(a)に示す形状に変更することができる。第2の吐出においては、第1のドットパターンの間隔の一部を占める第2のドットパターンを形成して、図10(b)に示すようなドットパターンを得る。第3の吐出では、残された間隔の全部を占める第3のドットパターンを形成することによって、最終的に、図10(c)に示すようなベタ画像が得られる。
【0077】
このようにインク吐出の回数を増やした場合には、より複雑なインク硬化膜表面の凹凸を作ることが可能となる。その結果、より光沢感を抑えたマット調感がよりいっそう優れた画像を得ることが可能となる。
【0078】
第1の吐出により形成される第1のドットパターンにおいては、インクドットおよび間隔は、必ずしも1ドットで構成しなくともよい。例えば、図11(a)に示すような形状で、第1のドットパターンを構成することができる。図11(a)に示す第1のドットパターンにおいては、インクドットおよび間隔は、上下左右に隣接したドット群(2×2の4ドット)から構成されている。構成単位が大きくなった以外は、図11(a)に示す第1のドットパターンは、図8(a)に示したものと同様の形状である。
【0079】
第2の吐出においては、例えば、第1のドットパターンの間隔の全部を占める第2のドットパターンを形成する。その結果、図11(b)に示すようなベタ画像を得ることができる。
【0080】
(実施例3)
本実施例においては、2回のインク吐出を行なって、1ドット単位4×4のベタ画像を形成した。第1の吐出においては、図12(a)に示したようなドットパターンを形成した。ここで形成した第1のドットパターンはライン状であり、インクドットは、画像内の一定の方向で接触している。第2の吐出においては、第1のドットパターンの間隔の全部を占める第2のドットパターンを形成した。その結果、図12(b)に示すようなベタ画像が得られた。
【0081】
形成された画像のマット調の画質感は、実施例2で得られたものとは異なっていた。実施例2においては、第1のドットパターンのインクドットは均一に分散されていたのに対し、本実施例においては、第1のドットパターンがライン状であることに起因するものと推測される。
【0082】
第1のドットパターンは、例えば、図13(a)に示すように変更することができる。第2の吐出においては、第1のドットパターンの間隔の全部を占める第2のドットパターンを形成することによって、図13(b)に示すようなベタ画像を得ることができる。
【0083】
(比較例)
1ドット単位4×4のベタ画像を1回のインク吐出で形成した以外は、実施例1と同様の条件で画像を形成して比較例とした。
【0084】
実施例1,2,3、および比較例で得られた画像について、画像濃度、マット調質感、および混色・ブリードを調べた。
【0085】
画像濃度は、X−rite530(X−rite製)により測定し、以下の基準で評価した。
【0086】
○:ΔT=1.0≦
△:ΔT=1.0>
マット調質感を評価するには、光沢度計PG−1M(日本電色工業製)により光沢度を調べた。その結果を以下の基準で判断して、マット調質感の評価とした。
【0087】
○:100°以下
×:100°より上
混色・ブリードは、混色部画像のにじみ具合を主観評価により調べた。目安として、異色間の境界部が混色によりにじみを生じ、境界線のつぶれが目立たなく、境界から数ドット以下のにじみが確認できるものは、許容範囲内であるのでOKである。これ以外は許容し得ず、NGである。
【0088】
得られた結果を、下記表1にまとめる。
【表1】
【0089】
上記表1に示されるように、実施例で形成された画像は、いずれも画像濃度、マット調質感が良好であり、混色・ブリードも少ない。これに対して、比較例で形成された画像は、マット調質感が極めて乏しいことに加えて、許容し得ない程度の混色・ブリードが生じた。
【0090】
異なるドットパターンを形成するインク吐出を2回以上行なうとともに、インク吐出間にはドットパターンに光を照射して、ドットの隣接部に重なりを有するインク層が形成されるので、本発明の実施形態にかかる方法によって、モトルやブリードを極力低減したマット調質感の画像が得られることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】本発明の一実施形態にかかるインクジェットインクを使用し得る記録装置の一例を示す概略図。
【図2】本発明の一実施形態にかかる方法における第1のドットパターンの一例を示す概略図。
【図3】本発明の一実施形態にかかる方法における第1のドットパターンの他の例を示す概略図。
【図4】本発明の一実施形態にかかるインクジェットインクを使用し得る記録装置の他の例を示す概略図。
【図5】インクジェット記録装置の制御系を表わすフローチャート。
【図6】本発明の一実施形態にかかるインクジェットインクを使用し得る記録装置の他の例を示す概略図。
【図7】実施例1で形成したドットパターンを示す図。
【図8】実施例2で形成したドットパターンを示す図。
【図9】図8に示したドットパターンの断面図。
【図10】ドットパターンの変形例を示す図。
【図11】ドットパターンの変形例を示す図。
【図12】実施例3で形成したドットパターンを示す図。
【図13】ドットパターンの変形例を示す図。
【符号の説明】
【0092】
1…インクジェット記録装置; 2…記録媒体; 3…搬送機構
4…インクジェット式記録ヘッド; 5…光源; 5a…光照射手段
5b…光照射手段; 7…ストッカー; 201…記録装置コントローラ
202…分割印字データ転送回路; 203…ヘッド駆動回路
204…搬送手段制御部; 205…光照射手段制御部; 8…ガイド; 9…ガイド
10…フロントレール; 11…リヤレール; 12…レフトレール
13…ライトレール; 21…第1のドットパターン
22…第2のドットパターン。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録媒体上に、ドットの隣接部に重なりをもって構成されたインク層の硬化物からなる画像を形成する方法であって、
インクジェットヘッドから光照射により硬化するインクを前記記録媒体へ吐出して、ドットの隣接部に重なりをもったインク層を形成する工程、および
前記インク層を硬化させる工程を具備し、
前記記録媒体上に前記インク層を形成する工程は、第1のドットパターンを形成する第1の吐出と、前記第1のドットパターンへの光照射と、第2のドットパターンを形成する第2の吐出とを少なくとも含み、
前記第1のドットパターンは、間隔をもって配置されたインクドットの集合からなり、前記第2のドットパターンは、前記第1のドットパターンにおける間隔の少なくとも一部を占めることを特徴とする印字方法。
【請求項2】
前記第1のドットパターンにおける前記間隔は、1ドットの部分を含むことを特徴とする請求項1に記載の印字方法。
【請求項3】
前記第1のドットパターンは、少なくとも1ドットおきのライン状の部分を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の印字方法。
【請求項4】
前記第1のドットパターンにおける前記間隔は、2ドット以上の部分を含むことを特徴とする請求項1に記載の印字方法。
【請求項5】
前記第1のドットパターンにおける前記ドットの間隔は、一定であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の印字方法。
【請求項6】
前記インクジェットインクは、前記記録媒体に対する接触角が40°以下であること特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の印字方法。
【請求項7】
前記インクジェットインクは、光照射により酸を発生する光酸発生剤、色成分、および酸の存在下で重合する酸重合性化合物を含有し、前記酸重合性化合物は、下記一般式(1)で表わされる化合物を含むことを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1項に記載の印字方法。
【化1】
(前記一般式(1)中、R11は、ビニルエーテル基、ビニルエーテル骨格を有する基、アルコキシ基、水酸基置換体および水酸基から選択され、少なくとも1つはビニルエーテル基またはビニルエーテル骨格を有する基である。R12は、置換または非置換の環式骨格を有する(p+1)価の基であり、pは0を含む正の整数である。)
【請求項8】
前記インクにおける前記一般式(1)で表わされる化合物は、下記化学式で表わされるいずれかの化合物であることを特徴とする請求項7に記載の印字方法。
【化2】
【請求項1】
記録媒体上に、ドットの隣接部に重なりをもって構成されたインク層の硬化物からなる画像を形成する方法であって、
インクジェットヘッドから光照射により硬化するインクを前記記録媒体へ吐出して、ドットの隣接部に重なりをもったインク層を形成する工程、および
前記インク層を硬化させる工程を具備し、
前記記録媒体上に前記インク層を形成する工程は、第1のドットパターンを形成する第1の吐出と、前記第1のドットパターンへの光照射と、第2のドットパターンを形成する第2の吐出とを少なくとも含み、
前記第1のドットパターンは、間隔をもって配置されたインクドットの集合からなり、前記第2のドットパターンは、前記第1のドットパターンにおける間隔の少なくとも一部を占めることを特徴とする印字方法。
【請求項2】
前記第1のドットパターンにおける前記間隔は、1ドットの部分を含むことを特徴とする請求項1に記載の印字方法。
【請求項3】
前記第1のドットパターンは、少なくとも1ドットおきのライン状の部分を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の印字方法。
【請求項4】
前記第1のドットパターンにおける前記間隔は、2ドット以上の部分を含むことを特徴とする請求項1に記載の印字方法。
【請求項5】
前記第1のドットパターンにおける前記ドットの間隔は、一定であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の印字方法。
【請求項6】
前記インクジェットインクは、前記記録媒体に対する接触角が40°以下であること特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の印字方法。
【請求項7】
前記インクジェットインクは、光照射により酸を発生する光酸発生剤、色成分、および酸の存在下で重合する酸重合性化合物を含有し、前記酸重合性化合物は、下記一般式(1)で表わされる化合物を含むことを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1項に記載の印字方法。
【化1】
(前記一般式(1)中、R11は、ビニルエーテル基、ビニルエーテル骨格を有する基、アルコキシ基、水酸基置換体および水酸基から選択され、少なくとも1つはビニルエーテル基またはビニルエーテル骨格を有する基である。R12は、置換または非置換の環式骨格を有する(p+1)価の基であり、pは0を含む正の整数である。)
【請求項8】
前記インクにおける前記一般式(1)で表わされる化合物は、下記化学式で表わされるいずれかの化合物であることを特徴とする請求項7に記載の印字方法。
【化2】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2007−210169(P2007−210169A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−31473(P2006−31473)
【出願日】平成18年2月8日(2006.2.8)
【出願人】(000003562)東芝テック株式会社 (5,631)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年2月8日(2006.2.8)
【出願人】(000003562)東芝テック株式会社 (5,631)
【Fターム(参考)】
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