説明

即時放出および持続放出の両方の特性を提供する二重作用吸入製剤

気道感染および他の医学的状態を治療するための、即時および持続放出抗感染薬の製剤方法、およびその送達方法、ならびにそれに関連して用いる装置および製剤を記載する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、様々な微生物によって引き起こされる気道感染を治療するためなどの吸入用の薬学的組成物に関する。特に、本発明は、嚢胞性線維症の治療のための吸入により送達される抗感染薬などの薬物の即時および持続放出を提供する二相性放出製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
気道感染は、様々な微生物によって引き起こされる。持続的な感染は、保健医療界にとっては治療負担および費用の増大など、また患者にとってはより侵襲性が高い治療パラダイムおよび重篤な病気または死亡の可能性に関する、無数の結果を有している。感受性の患者が気道感染を受けることを防止するための予防的処置を提供し、かつすでに微生物に感染している患者において感染を根絶する速度または有効性を高めるために、改善された治療パラダイムが利用可能であれば有益であろう。
【0003】
特に、嚢胞性線維症(CF)は、患者が持続的または執拗な気道感染を受けることが多い疾患の一例である。CFは米国において約30,000人に影響をおよぼし、出生約2,500例に1例の頻度の重篤な遺伝疾患である(Fitzsimmons SC, 1993)。嚢胞性線維症なる名称は膵臓内の特徴的な瘢痕(線維症)および嚢胞形成を意味し、1930年代に初めて確認された。毎年約1,000例の新しいCF症例が診断されている。80パーセントを超える患者は3歳までに診断されるが、新しく診断される症例の10パーセント近くは18歳以上である。
【0004】
主なCFの異常は、分泌上皮の頂端膜において環状AMP仲介性塩素イオンコンダクタンスを調節するタンパク質である、嚢胞性線維症膜コンダクタンス制御因子(CFTR)を介してのイオン輸送の変化として発現される(Schroeder SA et al., 1995)。具体的には、細胞内塩素イオンの細胞外液への正常な放出が正常なcAMP上昇に反応できない。この塩素イオン放出の障害が周囲の呼吸器および腸の粘膜層の脱水ならびに汗腺のナトリウム再吸収障害を引き起こす。この粘膜の脱水は、炎症および感染の副産物と共に、気道を詰まらせ、損傷をおよぼす、濃厚で粘稠性の粘液を生成する。CF症状の迅速で積極的な治療により、この病気の患者の生存を引き延ばすことができる。
【0005】
CFに罹っていないほとんどの人はCFTR遺伝子の2つの作動(working)コピーを有しているが、嚢胞性線維症を予防するためには1つだけが必要である。CFはいずれの遺伝子も正常に働かない場合に発症する。したがって、CFは常染色体劣性疾患であると考えられる。この疾患に関連する1,500を超える異なる遺伝子突然変異があり(CFTR mutation database (2006))、したがって同型接合および異型接合スクリーニング法を困難にしている(Zielenski J et al., 1995)。しかし、突然変異のおよそ3分の2はΔF508であることが判明しており、これが最も一般的なCF突然変異となっている(CF Genetic Analysis Consortium, 1994)。
【0006】
CFの進行中の治療は病期および波及臓器によって異なる。肺からの粘液の除去は毎日のCF治療法の重要な一部である。胸部理学療法は気道浄化の1つの形で、濃厚な粘液を肺から取り除くために背部および胸部の激しい叩打(杯状に丸めた手を用いて)を必要とする。気道浄化の他の形を、粘液排出を刺激するために機械的装置を用いて行うこともできる。他の型の治療には以下が含まれる:肺感染数を減らし、肺機能を改善することが示された吸入粘液溶解剤であるPulmozyme(登録商標)(Hodson M, 1995);肺感染を治療するために用いられ、肺機能を改善することも示されたエアロゾル化アミノグリコシド抗生物質であるTOBI(登録商標)(吸入用のトブラマイシン溶液)(Weber A et al., 1994);および呼吸器増悪数および肺機能低下速度を低減することが示されたマクロライド抗生物質である経口アジスロマイシン(Wolter J et al., 2002)。
【0007】
前述のとおり、嚢胞性線維症(CF)患者におけるコロニー形成率が高く、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)感染の管理が難題であることにより、安全で有効な抗生物質の探索が必要とされてきた。現在、アミノグリコシドとβラクタムまたはキノロン抗生物質との併用による治療法が標準である。520名の中等度から重症CF患者を含む一連の96週間の臨床試験により、吸入トブラマイシンの投与を受けている患者は入院日数が25から33%少なく、肺機能の有意な上昇を経験することが判明した(Moss RB, 2001)。これらの結果は、CFを治療するための吸入抗生物質の有効性を示している。しかし、薬物耐性株、特に薬物耐性緑膿菌の発生は、吸入を介するエアロゾル化抗生物質の長期送達に伴う主要な問題である(LiPuma JJ, 2001)。
【0008】
アジスロマイシンは黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)、および肺炎連鎖球菌(Streptococcus pneumoniae)に対する活性を有するが、緑膿菌、セパシア菌(Burkholderia cepacia)、または他のグラム陰性非発酵菌に対して直接の活性はない(Lode H et al., 1996)。トブラマイシンは緑膿菌に対する活性を有するが、継続的治療により3ヶ月後に耐性分離菌を有する患者数の約10%から80%の増加が見られ(Smith AL et al., 1989)、このことから28日間投与の後、28日間休薬する間欠的投与法が行われている。間欠的吸入トブラマイシン療法でも、多剤耐性緑膿菌を有する患者のパーセンテージは基準時の14%から治療18ヶ月後には23%まで増大した(LiPuma JJ, 2001)。抗感染治療薬を継続的に送達する一方で、耐性分離菌の出現をなお阻害する治療法の開発は、改善された治療パラダイムを提供すると考えられる。慢性的な緑膿菌気道感染がいまだにCF患者における罹患および死亡の主な原因であることは注目すべきことである。患者が肺増悪を経験する場合、β-ラクタムおよびアミノグリコシドで構成されることが多い抗シュードモナス療法を用いることで、臨床上の改善および細菌量の減少が得られることもある。しかし、感染の根絶は非常に少ない。
【0009】
CF気道において、緑膿菌は最初は非粘液性の表現型を有するが、最終的には粘液性のエキソポリサッカライドを生成してバイオフィルムへと組織化し、これは気道感染が急性から慢性へと進行したことを示す。バイオフィルム中の細菌は嫌気性環境のせいで成長が非常に遅く、固着細胞は浮遊性に成長する細胞よりもはるかに感受性が低いため、抗菌剤に対して本質的に耐性である。バイオフィルム細胞は抗菌剤に対する耐性が少なくとも500倍強いことが報告されている(Costerton JW et al., 1995)。したがって、粘液性の表現型への移行およびバイオフィルムの生成は、細菌を宿主の防御から保護し、抗生物質の細菌細胞への送達を妨害することにより、慢性感染のCF患者における緑膿菌の存続に貢献している。
【0010】
CFを有する個人のケアおよび治療を改善するために多くの努力がなされており、平均寿命は延びているが、CFを有する人の生存年齢の中央値は30歳代後半にすぎない(CF Foundationウェブサイト、2006)。したがって、改善された抗感染薬製剤、特に吸入による投与が継続して必要とされている。本発明はこの必要性に応えるものである。
【0011】
シプロフロキサシンは、嚢胞性線維症患者でよく見られる、緑膿菌による下気道感染の治療に適用されるフルオロキノロン抗生物質である。シプロフロキサシンは広域スペクトルで、緑膿菌に加えていくつかの他の型のグラム陰性およびグラム陽性菌に対して活性である。この薬剤は、細菌の複製、転写、修復、および組換えに必要とされる酵素である、トポイソメラーゼII(DNAジャイレース)およびトポイソメラーゼIVの阻害により作用する。この作用メカニズムはペニシリン、セファロスポリン、アミノグリコシド、マクロライド、およびテトラサイクリンの作用メカニズムとは異なり、したがってこれらのクラスの薬物に対して耐性の細菌がシプロフロキサシンには感受性でありうる。したがって、アミノグリコシドであるトブラマイシン(TOBI)に対する耐性を発生したCF患者でも、シプロフロキサシンで治療することができると思われる。シプロフロキサシンと他のクラスの抗菌剤との間に交差耐性は知られていない。
【0012】
シプロフロキサシンはその魅力的な抗菌特性にもかかわらず、GI不耐性(嘔吐、下痢、腹部不快感)、ならびに眩暈、不眠、被刺激性および不安のレベル上昇などのやっかいな副作用を生じる。これらの衰弱させる副作用をきたすことなく、長期的に用いることができる改善された治療法が明らかに必要とされている。
【0013】
シプロフロキサシンを吸入エアロゾルとして送達することは、感染の主要部位である、気道における薬物の送達および作用を区画化することにより、これらの問題に対処する可能性を有している。
【0014】
現在のところ、主要感染領域に向けた抗生物質送達を標的としうる、ヒトへの使用が規制により認可されたシプロフロキサシンのエアロゾル化剤形はない。これは部分的には、薬物の溶解性が低く、苦いために、吸入に適した製剤の開発が阻害されていることによる。さらに、シプロフロキサシンの組織分布は非常に速いため、肺における薬物の滞留時間が短すぎて、経口またはIV経路で投与した薬物を上回る追加の治療上の利点を提供することができない。
【0015】
薬物送達システムとしてのリン脂質媒体が1965年に「リポソーム」として再発見された(Bangham et al., 1965)。多くの活性薬物成分(API)の治療特性を、リポソーム薬物送達システムに組み込むことによって改善することができる。一般用語であるリポソームは多様な構造を対象とするが、一般にはすべてはその中に薬物を封入することができる水性の間隙を囲い込む1つまたは複数の脂質二重層からなる。本プログラムにおいて適用されるリポソームは薬物送達の分野において大きいユニラメラ小胞(LUV)として公知で、これらはIV薬物投与のために好ましいリポソーム構造である。
【0016】
リポソーム封入は、薬物の薬動力学および生体内分布の変化、担体からの持続的薬物放出、患部への送達増強、ならびに活性薬物種の分解からの保護を含む、いくつかのメカニズムを通して生物薬剤学的特徴を改善する。抗癌剤ドキソルビシン(Myocet(登録商標)/Evacet(登録商標)、Doxyl(登録商標)/Caelyx(登録商標))、ダウノルビシン(DaunoXome(登録商標))抗真菌剤アムホテリシンB(Abelcet(登録商標)、AmBisome(登録商標)、Amphotec(登録商標))およびベンゾポルフィリン(Visudyne(登録商標))のリポソーム製剤は、過去10年間に米国、欧州および日本の市場への導入に成功した製品の例である。さらに、Inexの硫酸ビンクリスチンリポソーム注射剤(VSLI)を含むいくつかの第二世代の製品が臨床試験の後半の段階にある。脂質系担体の安全性と有効性が証明されたことで、これらは薬剤の製剤の魅力的な候補となっている。
【0017】
したがって、現行のシプロフロキサシン製剤に比べて、リポソームのシプロフロキサシンエアロゾル製剤は次のいくつかの利点を提示する:1)高い薬物濃度、2)注射部位における持続放出を介しての薬物滞留時間延長、3)副作用減少、4)嗜好性増大、5)細菌への良好な浸透性、および6)細菌に感染した細胞への良好な浸透性。以前、リポソーム封入フルオロキノロン抗生物質の吸入は肺感染の治療において有効でありうることが示されている。野兎病菌(F. tularensis)のマウスモデルにおいて、リポソーム封入フルオロキノロン抗生物質は生存率を高めることにより、遊離または非封入フルオロキノロンよりもすぐれていることが示された(CA2,215,716、CA2,174,803、およびCA2,101,241)。
【0018】
もう一つの特許出願、EP1083881B1は、アミノ酸に共有結合しているキノロン化合物を含む薬物結合体を含むリポソームを記載している。さらにもう一つの特許出願、米国特許出願公開第20004142026号も、リポソーム封入抗生物質の使用およびリポソーム封入抗感染薬の遊離非封入抗感染薬に比べて10分の1または100分の1の低用量での投与の可能性を記載している。
【0019】
バイオフィルムの深度内の抗生物質の阻害濃度以下での存在は、より耐性の強い表現型発生のための選択的圧力を提供することが報告されている(Gilbert P et al., 1997)。これは部分的には抗生物質が糖衣を十分に透過できないことによると思われる。
【発明の概要】
【0020】
本発明の一局面は、エアロゾル化した二相性の粒子組成物である。粒子は遊離薬物(例えば、抗感染化合物)を含み、この薬物は封入されておらず、シプロフロキサシンであってもよい。粒子は、同じくシプロフロキサシンであってもよい抗感染化合物などの薬物を封入しているリポソームをさらに含む。遊離およびリポソーム封入薬物はエアロゾル化送達用に製剤した薬学的に許容される賦形剤中に含まれる。粒子は追加の治療薬をさらに含んでいてもよく、これは遊離および/またはリポソーム中であってもよく、第一の薬物とは異なる任意の薬学的に活性な薬物でありうる。
【0021】
本発明の一局面は、エアロゾルを介してヒト患者の肺に送達されるリポソームを含む製剤であって、リポソームは遊離および封入シプロフロキサシンまたは他の抗感染薬を含む。リポソームはユニラメラまたはマルチラメラであってもよく、ヒアルロン酸などの分子を含む細胞接着性であってもよい。遊離およびリポソーム封入抗感染薬に加えて、少なくとも1つの治療薬も組成物中に含まれうる。その治療薬は、ヒト肺への直接吸入のために有用な薬学的に許容される担体と共に存在する遊離薬物または封入薬物であってもよい。他の薬物には、DNアーゼもしくは他の粘液溶解剤などの粘液の粘弾性を低下させるための酵素、デュラマイシンなどのランチビオティックを含む塩素イオンチャネルをアップレギュレートする、もしくは細胞を通過するイオンの流量を高めるための化学物質、上皮ナトリウムチャネル(ENaC)阻害剤もしくはデヌホゾール(denufosol)などのP2Y2アゴニストを含む水和もしくは粘膜線毛クリアランスを促進するための薬剤、α-1抗トリプシン(AAT)を含むエラスターゼ阻害剤、気管支拡張剤、ステロイド、N-アセチルシステイン、インターフェロンγ、インターフェロンα、サリチル酸ナトリウムなどのバイオフィルム細菌に対する抗生物質の活性を増強する薬剤(Polonio RE et al., 2001)、または当業者には公知の抗生物質が含まれるうる。気道の炎症および収縮も嚢胞性線維症およびその治療に関連する。したがって、β2-アドレナリン作動性受容体アゴニストおよび抗ムスカリン薬などの気管支拡張剤、ならびに吸入コルチコステロイド、非ステロイド性抗炎症薬、ロイコトリエン受容体拮抗薬もしくは合成阻害剤などを含む抗炎症薬も、抗感染薬と併用してもよい。
【0022】
本発明のさらなる局面は、患者の嚢胞性線維症の治療法であって、リポソームに封入した抗感染薬;例えば、シプロフロキサシンを含む製剤を患者に投与する段階を含む方法である。製剤は、好ましくは、吸入によって患者に投与する。
【0023】
本発明のもう一つの局面に従い、遊離抗感染薬と封入抗感染薬の両方を含む製剤は、治療が困難なバイオフィルム細菌を根絶するための障壁を克服するために、肺における抗感染薬の高い初期治療レベルを提供する一方で、経時的に抗感染薬の持続放出を維持する。バイオフィルム耐性のいくつかの局面はあまり理解されていないが、主なメカニズムは以下に関連すると考えられる:(i)バイオフィルム内での栄養環境の変化および成長速度の抑制;(ii)拡散および有効性に影響をおよぼすエキソポリマーマトリクスおよびそれらの成分と抗菌剤との間の直接相互作用;ならびに(iii)バイオフィルム/接着特異的表現型の発生(Gilbert P et al., 1997)。即時放出抗感染薬;例えば、シプロフロキサシンの意図は、したがって、抗生物質のバイオフィルムへの、およびバイオフィルム内の拡散速度が低いという難題に取り組むために、肺における根絶が困難なバイオフィルム細菌周囲の抗生物質の濃度を治療レベルまで迅速に高めることである。持続放出抗感染薬;例えば、シプロフロキサシンは、肺における抗生物質の治療レベルを維持するのに役立ち、それにより長い時間枠で継続的な治療を提供し、有効性を高め、投与の頻度を減らし、かつ耐性コロニー形成の可能性を抑える。
【0024】
本発明のもう一つの局面に従い、高レベルの抗感染薬の即時放出は、糖衣の透過増強を可能としうる。抗感染薬の持続放出は、確実に抗感染薬が阻害濃度以下に落ちることがないようにし、したがって抗感染薬への耐性を生じる確率を低下させうる。
【0025】
本発明のこれらおよび他の目的、利点、および特徴は、当業者であれば以下により完全に記載する製剤および方法の詳細を読めば明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0026】
本発明の局面および態様は以下の詳細な説明を添付の図面と合わせて読めば最もよく理解される。一般の慣行に従い、図面の様々な形状は原寸に比例していないことを強調しておく。反対に、様々な形状の寸法は、見やすいように任意に拡大縮小されている。図面には以下の図が含まれる。
【図1】吸入用のリポソームシプロフロキサシンの製造流れ図である(HSPC/Chol - 10Lバッチ)。
【図2】第0日に緑膿菌を含むアガロースビーズで感染させた後のマウスの累積生存率を示すグラフである。マウスを、3つの異なる濃度(100%、白菱形;33%、黒四角;または10%、白三角)の1つのシプロフロキサシン(薬物)リポソーム製剤で、第2日に開始して第9日まで1日1回鼻内に治療した。希釈剤を対照として用いた(黒丸)。生存マウスを第10日に屠殺した。
【発明を実施するための形態】
【0027】
発明の詳細な説明
嚢胞性線維症および他の医学的状態の予防および/または治療のための、本発明のシプロフロキサシン封入リポソームの製剤方法、およびその送達方法、ならびにそれと関連して用いる装置および製剤を記載する前に、記載する特定の方法、装置および製剤は、当然のことながら変動しうるため、本発明はそのような方法、装置および製剤に限定されないことが理解されるべきである。本明細書において用いられる用語は特定の態様を記載するためのものにすぎず、また本発明の範囲を限定する意図はなく、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によってのみ限定されることも理解されるべきである。
【0028】
値の範囲が示されている場合、その範囲の上限と下限との間に介在する、文脈が明らかにそうではないと示していないかぎり下限の単位の10分の1までの各値も、具体的に開示されることが理解される。任意の明示された値または明示された範囲に介在する値と任意の他の明示された値またはその明示された範囲に介在する値との間のより小さい範囲はそれぞれ本発明の範囲内に含まれる。これらのより小さい範囲の上限および下限は独立に、範囲に含まれても、または除外されてもよく、明示された範囲に任意の具体的に除外される限界があると仮定して、限界のいずれか、もしくは両方がより小さい範囲に含まれる、またはいずれも含まれない各範囲も本発明の範囲内に含まれる。明示された範囲が限界の一方または両方を含む場合、これらの含まれる限界のいずれか、または両方を除外する範囲も本発明に含まれる。
【0029】
特に記載がないかぎり、本明細書において用いられるすべての技術および科学用語は、本発明が属する分野の当業者によって一般に理解されるものと同じ意味を有する。本明細書に記載のものと類似または等価の任意の方法および材料を本発明の実施または試験において用いることができるが、好ましい方法および材料をここで記載する。本明細書において言及するすべての出版物は、その出版物が引用されるものと関連して方法および/または材料を開示および記載するために、参照により本明細書に組み入れられる。
【0030】
本明細書および添付の特許請求の範囲において用いられるとおり、単数形「ひとつの」(a、an)、および「その」(the)は、文脈が明らかにそうではないと示していないかぎり、複数の指示物を含む。したがって、例えば、「製剤(a formulation)」への言及は複数のそのような製剤を含み、「方法(the method)」への言及は1つまたは複数の方法および当業者には公知のその等価物への言及を含み、他も同様である。
【0031】
本明細書において論じる出版物は、本出願の提出日よりも前に開示されたために提示しているにすぎない。本明細書におけるいかなる開示も、本発明が、先行発明のためにそのような出版物に先行する権利がないと認めたと解釈されるべきではない。さらに、提示する出版物の日付は実際の出版日と異なることがあり、これは個別に確認する必要がある。
【0032】
本明細書において用いられる抗感染薬とは、細菌、ウイルス、真菌、ミコバクテリア、または原虫感染などの、感染に対して作用する薬剤を意味する。
【0033】
本発明が対象とする抗感染薬には、キノロン(ナリジクス酸、シノキサシン、シプロフロキサシンおよびノルフロキサシンなど)、スルホンアミド(例えば、スルファニルアミド、スルファジアジン、スルファメタオキサゾール、スルフイソキサゾール、スルファセタミドなど)アミノグリコシド(例えば、ストレプトマイシン、ゲンタマイシン、トブラマイシン、アミカシン、ネチルマイシン、カナマイシンなど)、テトラサイクリン(クロルテトラサイクリン、オキシテトラサイクリン、メタサイクリン、ドキシサイクリン、ミノサイクリンなど)、パラアミノ安息香酸、ジアミノピリミジン(スルファメトキサゾールと併用されることが多いトリメトプリム、ピラジンアミドなど)、ペニシリン(ペニシリンG、ペニシリンV、アンピシリン、アモキシシリン、バカンピシリン、カルベニシリン、カルベニシリンインダニル、チカルシリン、アズロシリン、メズロシリン、ピペラシリンなど)、ペニシリナーゼ抵抗性ペニシリン(メチシリン、オキサシリン、クロキサシリン、ジクロキサシリン、ナフシリンなど)、第一世代セファロスポリン(セファドロキシル、セファレキシン、セフラジン、セファロチン、セファピリン、セファゾリンなど)、第二世代セファロスポリン(セファクロル、セファマンドール、セフォニシド、セフォキシチン、セフォテタン、セフロキシム、セフロキシムアキセチル、セフィネタゾール、セフプロジル、ロラカルベフ、セフォラニドなど)、第三世代セファロスポリン(セフェピム、セフォペラゾン、セフォタキシム、セフチゾキシム、セフトリアキソン、セフタジジム、セフィキシム、セフポドキシム、セフチブテンなど)、他のβラクタム(イミペネム、メロペネム、アズトレオナム、クラブラン酸、スルバクタム、タゾバクタムなど)、βラクタマーゼ阻害剤(クラブラン酸など)、クロラムフェニコール、マクロライド(エリスロマイシン、アジスロマイシン、クラリスロマイシンなど)、リンコマイシン、クリンダマイシン、スペクチノマイシン、ポリミキシンB、ポリミキシン(ポリミキシンA、B、C、D、E.sub.1(コリスチンA)、またはE.sub.2、コリスチンBまたはCなど)、コリスチン、バンコマイシン、バシトラシン、イソニアジド、リファンピン、エタンブトール、エチオナミド、アミノサリチル酸、シクロセリン、カプレオマイシン、スルホン(ダプソン、スルホキソンナトリウムなど)、クロファジミン、サリドマイド、または脂質に封入しうる任意の他の抗菌剤が含まれるが、それらに限定されるわけではない。抗感染薬には、ポリエン抗真菌剤(アムホテリシンB、ナイスタチン、ナタマイシンなど)、フルシトシン、イミダゾール(ミコナゾール、クロトリマゾール、エコナゾール、ケトコナゾールなど)、トリアゾール(イトラコナゾール、フルコナゾールなど)、グリセオフルビン、テルコナゾール、ブトコナゾール シクロピラックス(ciclopirax)、シクロピロックスオラミン、ハロプロジン、トルナフテート、ナフチフィン、テルビナフィン、または脂質に封入もしくは複合しうる任意の他の抗真菌剤およびその薬学的に許容される塩ならびにそれらの組み合わせを含む抗真菌剤が含まれうる。議論および例は主にシプロフロキサシンに向けられているが、本出願の範囲はこの抗感染薬に限定されることを意図していない。薬物の組み合わせを用いることもできる。
【0034】
本発明が対象とする気管支拡張剤には、β2-アドレナリン作動性受容体アゴニスト(アルブテロール、バンブテロール、サルブタモール、サルメテロール、ホルモテロール、アルホルモテロール、レボサルブタモール、プロカテロール、インダカテロール、カルモテロール、ミルベテロール、プロカテロール、テルブタリンなど)、および抗ムスカリン薬(トロスピウム、イプラトロピウム、グリコピロニウム、アクリジニウムなど)が含まれるが、それらに限定されるわけではない。薬物の組み合わせを用いてもよい。
【0035】
本発明が対象とする抗炎症薬には、吸入コルチコステロイド(ベクロメタゾン、ブデソニド、シクレソニド、フルチカゾン、エチプレドノール、モメタゾンなど)、ロイコトリエン受容体アンタゴニストおよびロイコトリエン合成阻害剤(モンテルカスト、ジロートン、イブジラスト、ザフィルルカスト、プランルカスト、アメルバント、チペルカストなど)、シクロオキシゲナーゼ阻害剤(イブプロフェン、ケトプロフェン、ケトロラク、インドメタシン、ナプロキセン、ザルトプロフェン、ロルノキシカム、メロキシカム、セレコキシブ、ルミラコキシブ、エトリコキシブ、ピロキシカム、アンピロキシカム、シンノキシカム、ジクロフェナク、フェルビナク、ロルノキシカム、メサラジン、トリフルサール、チノリジン、イグラチモド、パミコグレルなど)が含まれるが、それらに限定されるわけではない。薬物の組み合わせを用いてもよい。
【0036】
本明細書において用いられる「製剤」とは、乾燥粉末として、または液体中に懸濁もしくは溶解してのいずれかで、任意の賦形剤または追加の活性成分と共に、リポソームに封入された抗感染薬を意味する。
【0037】
「被験者」、「個人」、「患者」、および「宿主」なる用語は、本明細書において交換可能に用いられ、任意の脊椎動物、特に任意の哺乳動物を意味し、特にヒト被験者、家畜、および哺乳動物のペットを含む。被験者は医師などの保健医療の専門家の管理の下にあってもよいが、必ずしもそうではない。
【0038】
「安定な」製剤は、その中のタンパク質または酵素が、保存および比較的高温への曝露後に、本質的にその物理的および化学的安定性ならびに完全性を保持するものである。ペプチドの安定性を測定するための様々な分析技術が当技術分野において利用可能で、Peptide and Protein Drug Delivery, 247-301, Vincent Lee Ed., Marcel Dekker, Inc., New York, N.Y., Pubs. (1991)、およびJones, A. (1993) Adv. Drug Delivery Rev. 10:29-90に総説が掲載されている。安定性は選択した温度で選択した期間測定することができる。
【0039】
治療のための「哺乳動物」とは、ヒト、家畜、およびイヌ、ウマ、ネコ、ウシなどの動物園動物、スポーツ動物、またはペット動物を含む、哺乳動物に分類される任意の動物を意味する。好ましくは、哺乳動物はヒトである。
【0040】
「障害」は、特許請求される方法および組成物による治療から利益を受けるであろう、任意の状態を意味する。
【0041】
I. シプロフロキサシンを含むリポソームの生成
本発明の局面に従い、シプロフロキサシンおよび他の抗感染薬をリポソームに封入することによる、これらの薬物の製剤方法を提供する。生体適合性かつ生分解性である天然材料からなるため、リポソームを用いて様々な目的のために生物活性材料を封入する。様々な層、サイズ、表面電荷および組成を有するため、リポソームの調製およびその中への薬物封入のための多くの方法が開発され、そのいくつかは工業レベルまで規模が拡大されている。リポソームを、持続放出薬物の貯蔵場所として機能し、特定の適用においては、細胞膜を通過しての薬物接近を助けるよう、設計することができる。
【0042】
リポソームの持続放出特性を、脂質膜の性質により、およびリポソームの組成に他の賦形剤を含むことにより、調節してもよい。長年にわたるリポソーム技術の大規模な研究により、リポソーム製剤の組成に基づき薬物放出の速度の妥当な予測がなされている。薬物放出の速度は主に、リン脂質の性質、例えば、水素化(--H)もしくは非水素化(--G)、またはリン脂質/コレステロールの比(この比が高いほど、放出速度は速い)、活性成分の親水性/親油性およびリポソームの製造法に依存する。
【0043】
生体接着性リポソームの調製法は、例えば、米国特許第5,401,511号において見いだすことができ、その内容は、リポソームおよびリポソームの調製法を記載する、その中に引用される特許および出版物と共に、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。近年、異なる物質をリポソームに結合する試みがなされ、成功している。例えば、キモトリプシンのリポソームへの結合は物質をリポソーム表面に結合するためのモデルとして研究されている。リポソームに標的特異性を付与する試みにおいて、抗体、糖タンパク質およびレクチンを含む認識物質がリポソーム表面に結合されている。
【0044】
共有結合のためのリポソーム表面上の分離した部位の数および表面密度が、リポソーム製剤およびリポソームの型によって要求される。リポソーム表面は非共有結合のための部位も有する。リポソームおよび標的部位の生体接着の相手(すなわち、生体接着物質)は物質認識について競合することから、非共有結合は投与部位におけるリポソームからの認識物質の解離を引き起こしうるため、共有結合が好ましい。そのような解離は投与した改変リポソームを通常の非改変リポソームへと逆転し、それにより改変リポソームの投与の目的を無効にする。
【0045】
認識物質とリポソームとの共有結合体を形成するために、架橋試薬の有効性および生体適合性が試験されている。一つのそのような試薬はグルタルアルデヒド(GAD)である。GADによる架橋の複雑な化学を通して、認識物質のアミン残基とリポソームとの結合が確立される。
【0046】
架橋試薬には、グルタルアルデヒド(GAD)および水溶性カルボジイミド、好ましくは1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)が含まれうる。認識物質には、ゼラチン、コラーゲン、およびヒアルロン酸(HA)が含まれる。これらの方法に従い、認識物質はリポソームを肺などの標的領域に接着するための接着剤または糊として用いてもよい。
【0047】
したがって、本発明にとって必須ではないが、そのような生体接着性リポソーム、特に生体接着リガンドとしてヒアルロン酸を有するものの使用は、肺部位における滞留時間を延長し、粘膜線毛クリアランスおよびマクロファージ取り込みを低下させる可能性があると思われる。
【0048】
一般に、シプロフロキサシンが本発明の製剤において好ましく用いられるが、当業者に公知の他の抗生物質または抗感染薬を用いてもよい。
【0049】
マルチラメラ小胞(MLV)を、当技術分野において周知の技術に従って調製する。簡単に言うと、一つの態様において、脂質を秤量し、適当な有機溶媒(クロロホルムまたはクロロホルム-メタノール混合物など)に溶解する。有機溶媒をロータリーエバポレーターで、減圧下、約37〜40℃の範囲の温度で完全に乾固するまで蒸発させる。蒸発後、シプロフロキサシン溶液を乾燥脂質フィルムに加える。系を激しく混合し、次いで、例えば、振盪機浴中、脂質組成物に適した温度範囲で約2時間インキュベートする。次いで、好ましくは調製物を、例えば、約10分の1の量の10倍濃縮したpH7.4のリン酸緩衝化食塩水(PBS)を加えることにより緩衝化する。
【0050】
一つの態様において、前述のとおりに生成したMLVは酸性ユニラメラ小胞(ULV)のための原料として役立つ。例えば、MLVを前述のとおりに調製し、例えば、Lipex Biomembranes, Inc.(Vancouver, British Columbia)によって製造されているものなどの装置で押出にかける。押出を、例えば、0.8から1.0μmの範囲の孔径で始めて(1孔径につき1から2回の押出サイクル)所望のリポソームサイズに従って選択した孔径範囲で終わる(例えば、最終の孔径で約7回の押出サイクル)などの、孔径が段々に小さくなる一連の膜を通して行う。
【0051】
例示的リポソーム組成物およびそれらの調製法は米国特許第6,890,555号;第6,855,296号;第6,770,291号;第6,759,057号;第6,623,671号;第6,534,018号;第6,355,267号;第6,316,024号;第6,221,385号および第6,197,333号に開示されており、これらはすべて参照により本明細書に組み入れられる。本発明のリポソームはマルチラメラ、ユニラメラ、または前述の特許に記載のものなどの任意の公知の形状であってもよい。本発明のリポソームは好ましくは生体適合性の脂質から調製する。一般に、生成されるリポソームのサイズは送達の様式に応じて広範囲におよび、例えば、肺送達のためには直径1nmから10μmまたは20nmから1μmまたは約100nm±20%である。
【0052】
II. シプロフロキサシン含有リポソームの薬学的製剤
好ましい態様において、リポソーム封入シプロフロキサシンを患者に、エアロゾル吸入装置で投与するが、IV経路で投与することもできる。いくつかの態様において、同様に封入されている他の薬剤との組み合わせでシプロフロキサシンをリポソームに封入する。いくつかの態様において、封入されていない他の薬剤との組み合わせでシプロフロキサシンをリポソームに封入する。いくつかの態様において、リポソームを、封入されていないシプロフロキサシンとの組み合わせで、封入されていない薬剤、またはそれらの様々な組み合わせと共に投与する。
【0053】
本発明の製剤は、シプロフロキサシンを含むリポソームを、患者の肺表面を通過し、循環器系へのリポソームの輸送を増強するのに有効な量の肺胞表面活性タンパク質との組み合わせで含むことができる。1991年4月9日発行の米国特許第5,006,343号は肺内送達において用いられるリポソームおよびリポソームの製剤を開示しており、この内容は参照により本明細書に組み入れられる。米国特許第5,006,343号に開示された製剤および方法は、シプロフロキサシンの適用のために改変することができ、嚢胞性線維症患者の有効な治療を提供するために本発明の送達装置に含まれうる。
【0054】
薬物製剤の形態に関係なく、約0.5μmから12μm、好ましくは1μmから6μm、より好ましくは約2〜4μmの範囲の吸入用液滴または粒子を作製することが好ましい。比較的狭い範囲の粒径を有する吸入粒子を作ることにより、薬物送達系の効率をさらに高め、投与の反復精度を改善することが可能である。したがって、粒子が0.5μmから12μmまたは2μmから6μmまたは約3〜4μmの範囲の粒径を有するだけでなく、平均粒径が狭い範囲内にあって、患者に送達される粒子の80%以上が平均粒径の±20%以内、好ましくは±10%、より好ましくは平均粒径の±5%以内である粒径を有することが好ましい。
【0055】
本発明の製剤は、AERx装置(米国特許第5,823,178号、Aradigm, Hayward, CA)などの、使い捨ての包装および携帯用で手持ち式の電池駆動型装置を用いて患者に投与してもよい。または、本発明の製剤は機械的(非電子的)装置を用いて実施してもよい。通常のジェット噴霧器、超音波噴霧器、ソフトミスト吸入器、ドライパウダー吸入器(DPI)、定量噴霧式吸入器(MDI)、濃縮エアロゾル生成器、および他のシステムを含む、他の吸入装置を用いて製剤を送達してもよい。
【0056】
エアロゾルを、薬物を約0.25から6ミクロンの範囲の径を有する膜の孔を通過させることにより作製してもよい(米国特許第5,823,178号)。孔がこの径を有する場合、エアロゾルを作製するための孔を通過して漏れ出る粒子は、0.5から12ミクロンの範囲の直径を有することになる。薬物粒子は、粒子をこの径の範囲内に維持することを意図した気流によって放出してもよい。小さい粒子の作成は約800から約4000キロヘルツの振動周波数を提供する振動装置を用いて促進してもよい。当業者であれば、いくつかの態様の目的は約0.5から12ミクロンの範囲の粒径を有するエアロゾル化した粒子の提供であることを念頭に置いて、薬物が放出される孔の径、振動周波数、圧、ならびに製剤の密度および粘度に基づく他のパラメーターなどのパラメーターにおいて、いくつかの調節を行いうることを理解するであろう。
【0057】
リポソーム製剤は低粘度の液体製剤であってもよい。薬物自体または担体と組み合わせての粘度は、製剤を、エアロゾルを生成するための開口部から、例えば、20から200psiを用いて押し出して、好ましくは約0.5から12ミクロンの範囲の粒径を有するエアロゾルを生成することができるように、十分低いものであるべきである。
【0058】
一つの態様において、低沸点の高度に揮発性の噴射剤を本発明のリポソームおよび薬学的に許容される賦形剤と組み合わせる。リポソームは噴射剤中の懸濁液またはドライパウダーとして提供してもよく、または、もう一つの態様において、リポソームを噴射剤中の溶液に溶解する。これらの製剤はいずれも、その唯一の開口部として弁を有する容器内に容易に含まれうる。噴射剤は高度に揮発性である、すなわち低い沸点を有するため、容器の内容物は加圧下となる。
【0059】
もう一つの製剤に従って、シプロフロキサシン含有リポソームをそれ自体のドライパウダーとして提供し、さらにもう一つの製剤に従って、シプロフロキサシン含有リポソームを溶液製剤で提供する。ドライパウダーは、各送達ごとに同じ測定した吸気流速および吸気量でのみ吸入を許すことにより、直接吸入してもよい。パウダーは水性溶媒に溶解して、多孔膜を通過して移送されて吸入のためのエアロゾルを生成する溶液を生成してもよい。吸入されて肺内経路により患者に送達されうるシプロフロキサシン含有リポソームのエアロゾル化型の生成を可能にする任意の製剤を本発明に関連して用いてもよい。エアロゾル化送達装置に関連して用いることができる製剤に関する具体的情報がRemington's Pharmaceutical Sciences, A. R. Gennaro editor(最新版)Mack Publishing Companyに記載されている。インスリン製剤に関して、Sciarra et al., (1976)の知見に留意することも有用である。低沸点噴射剤を用いる場合、噴射剤を装置の加圧キャニスター内に保持し、液体状態に維持する。弁を動かすと、噴射剤が放出され、活性成分をキャニスターから噴射剤と共に押し出す。噴射剤は周囲の雰囲気に曝されると「急速気化」し、すなわち、噴射剤はただちに蒸発する。急速気化は非常に速やかに起こるため、患者の肺に実際に送達されるのは本質的に純粋な活性成分である。
【0060】
III. 投与法
前述したものに基づき、当業者であれば1人の患者を治療するために多数の異なる治療および投与手段を用いうることを理解するであろう。したがって、そのような薬剤、例えば、静脈内シプロフロキサシンまたは抗生物質などの投与をすでに受けている患者は、本発明の製剤の吸入から利益を受けることがある。幾人かの患者は吸入によるシプロフロキサシン含有リポソーム製剤だけを投与されていることもある。そのような患者は嚢胞性線維症の症状を有することもあり、肺感染を有すると診断されていることもあり、または患者へのシプロフロキサシンなどの抗生物質の投与から利益を受けうる医学的状態の症状を有することもある。本発明の製剤は診断的に用いてもよい。一つの態様において、例えば、患者は肺感染を診断するための方法の一部として、本発明の製剤の投与を受けることもあり、ここで患者の症状の1つまたは複数は製剤に反応して改善される。
【0061】
患者は典型的には、1日にシプロフロキサシン約0.01から10mg/kg±20%または±10%の用量を投与されることになる。この用量は典型的には、エアロゾル装置から少なくとも1回、好ましくは数回の「ひと吹き」によって投与する。1日あたりの合計用量は好ましくは少なくとも1日1回で投与するが、1日に複数回の用量に分割してもよい。幾人かの患者は、数日または数週間の期間、高用量または高頻度のシプロフロキサシン投与により患者に「ローディング」し、その後減量または維持用量を投与する方法から利益を受けることもある。嚢胞性線維症は典型的には慢性状態であるため、患者はそのような療法を長期間受けると予想される。
【0062】
過去に、リポソーム封入フルオロキノロン抗生物質の吸入は肺感染の治療において有効でありうることが示されており、野兎病菌のマウスモデルで遊離または非封入フルオロキノロンよりもすぐれていることが判明した(CA 2,215,716、CA 2,174,803およびCA 2,101,241)。しかし、その研究者らは、それらの肺感染を治療するために、遊離の、および封入されたフルオロキノロン抗生物質を組み合わせる利益の可能性を予測していなかった。本発明の1つの局面に従い、高濃度の抗生物質を即時に送達する一方で、数時間または1日にわたって治療薬の持続放出も提供する。
【0063】
もう一つの出願、EP108388IB1は、アミノ酸に共有結合されたキノロン化合物を含む薬物結合体を含むリポソームを記載している。その出願は、それらの肺感染を治療するための即時放出成分および持続放出成分の両方を有する必要性を予期していない。
【0064】
もう一つの出願、US 2000142026も、リポソーム封入抗生物質の使用を記載している。その出願は、遊離の非封入抗生物質に比べて10または100分の1の低用量のリポソーム封入抗生物質の投与の可能性を議論している。しかし、彼らは治療困難なバイオフィルム細菌を根絶するための障壁を克服するために、肺内に最初に高い治療レベルの抗生物質を提供するための遊離抗生物質と封入抗生物質の両方を組み合わせる利益を予想しなかった。
【0065】
したがって、前述のとおり、本発明のいくつかの局面に従う製剤は、遊離または非封入シプロフロキサシンを、リポソーム封入シプロフロキサシンとの組み合わせで含む。そのような製剤は、遊離シプロフロキサシンによる即時の利益を提供し、その結果、細菌コロニーまたはバイオフィルム周囲の肺液中の抗生物質濃度の急速な上昇を引き起こして、それらの生存性を低下させ、続いて封入シプロフロキサシンからの持続的利益を提供し、これは細菌を殺菌し続けるか、もしくはその再生能力を低下させ、または抗生物質耐性コロニーが生じる可能性を低下させうる。熟練した医師であれば、患者ごとに医学的状態を治療する上での本発明の製剤の相対的利点を理解するであろう。
【0066】
IV. 他の製剤または担体
リポソームは最初は治療薬の封入と、したがって持続放出効果を提供するための媒体として記載されていたが、製剤をリポソーム製剤に限定する意図はない。肺内の抗感染薬の即時および持続放出製剤または担体の組み合わせは、ミクロスフェア、ポリマー、ゲル、乳剤、微粒子または懸濁液を、単一または組み合わせで含む多くの様式で達成しうる。いくつかの製剤または担体は、バイオフィルムマトリクスとより密接に結合することになる特性を有することがあり、これらはバイオフィルム細菌に近接する抗感染薬の治療レベルを高める上でより有利であることが判明しうる。
【0067】
粘稠性制御放出製剤
持続放出ポリマー製剤の一例は、ポリ(オルトエステル)の媒体としての使用である。例えば、米国特許第4,304,767号、第4,957,998号、第5,968,543号および国際公開公報第02/092661号ならびにAdv. Polymer Sci., 107, 41-92 (1993)およびその中の引用文献を参照されたい。これらの制御放出ポリマーの粘度は1,500cPの範囲であると報告された(Biomaterials, 23, 2002, 4397-4404参照)。より高い分子量のポリマーにはかなり高い力が必要であった(Adv. Drug Del Reviews, 53, 2001, 45-73参照)。
【0068】
新規リポソーム
様々な長期循環リポソームが、糖脂質または他の両親媒性分子を通常のリポソームの脂質二重層に組み込むことによって調製されている。PEG化長期循環リポソームに取り込まれたバソプレシンは、静脈内注射後1ヶ月もの間、生物活性を有し続けた(Woodle et al., 1992)。
【0069】
ユニラメラまたはマルチラメラリポソームを用いるのではない、新しいアプローチはDEPOFOAMシステムに基づいている。これらの多小胞リポソーム(1〜100μm)は多数の非同心性の内部水性区画を含み、封入効率の上昇につながる。皮下注射後、封入されたペプチドおよびタンパク質の放出はDepoInsulinで7日まで、DepoLeuprolide(登録商標)製剤では3週間まで延長されることが判明した(Ye, Q et al., 2000)。
【0070】
Novosom AG社はタンパク質およびペプチドのための新規リポソーム系デポーシステムの特許を取得した。Cagicles(登録商標)デポー剤は以下の2段階の方法により生成される:まず、タンパク質を水性媒質に溶解し、次いで得られる膜がタンパク質との可逆的相互反応に入るように選択した膜形成物質の溶液に加える。この緩和な条件のプロセスにより、封入率を組み込みタンパク質の30%を超えるまで高めることが可能となる。さらに、1ヶ月持続するタンパク質放出がCagicles(登録商標)デポー剤の皮下または筋肉内注射後に可能であった(Panzner, S., Novosom AG, Application No. 2000-EP11079, WO 2001034115 (2000))。これらの研究はリポソームの基本的適用性を証明した。リポソームの溶解性の面での利点は周知であり、報告されている。
【0071】
脂質ナノ粒子およびミクロスフェア
固体脂質ナノ粒子(SLN)は、主にトリグリセリドに基づくコロイド状担体系である。その疎水性および小さいサイズにより、SLNは溶融混合物に容易に溶解することができる親油性薬物の組み込みに、より適していると考えられる。例えば、ほんの少量のリゾチームを様々な脂質に組み込むことができる(Almeida et al., 1997)。固体脂質ナノ粒子は、薬物ターゲティングにおける表面改変SLNの適用のため、またはおそらくはワクチンのアジュバントとしての使用のために、溶解性が低い薬物(例えば、パクリタキセル)を封入する可能性を有している。さらに、SLNは水性分散液の形で経口薬物送達のために適用しうる、またはSLNは錠剤、カプセル剤またはペレットなどの伝統的な剤形における添加物として用いうると仮定することができる。
【0072】
米国特許第6,277,413号は、マトリクスを有する生分解性ミクロスフェアを記載しており、このマトリクスは少なくとも1つの型の生分解性ポリマー、および少なくとも1つの型の脂質;ならびに生分解性ミクロスフェアから放出可能な生理的活性物質を含む。
【0073】
脂質結晶
EP 0767,656B1は、グリセロール-エステルに基づき、ジアシルグリセロールならびにリン脂質、または水、グリセロール、エチレングリコールもしくはプロピレングリコールを含む極性基を含む、薬学的組成物を記載している。成分の比率は、L2または液晶相に生物学的材料が分散または溶解している、L2相または液晶相を形成するように調節する。
【0074】
油懸濁液
一般に、油性媒質の粘度は緩衝液などの水相の粘度よりもかなり高い。したがって、薬物放出は油懸濁液を実現することにより延長することができる。加えて、油性担体の粘度はモノステアリン酸アルミニウムなどのゲル化剤を加えることでさらに高まり、したがって薬物溶解性および薬物輸送速度のようなプロセスパラメーターを制御することが可能となりうる。薬物担体として油を用いるさらなる重要な局面は、油性媒質および周囲の組織における化合物の分布係数である。分布係数が高い親油性薬物は主に油性媒質中に蓄積することになり、有効な薬物作用のさらなる減速を引き起こす。
【0075】
数年の間、持続放出製剤を設計するために、様々なペプチドおよびタンパク質が油中に分散されてきた。Nestorらは1979年という早期に、黄体形成ホルモン放出ホルモン(LH-RH)のスーパーアゴニスト類縁体のための長期作用する注射可能なデポー製剤開発の特許を取得し、落花生油またはゴマ油などの油およびステアリン酸アルミニウムなどのゲル化剤を適用している(Nestor et al., Syntex Inc.、米国特許第4,256,737号(1979))。
【0076】
ヒドロゲル
熱可逆性ヒドロゲルは薬物送達において非常に興味深い。これらには、ポリ(エチレングリコール)/ポリ(プロピレングリコール)ブロックコポリマー(ポロキサマー)、ポリ(エチレングリコール)/ポリ(ブチレングリコール)ブロックコポリマー、ポロキサマー-g-ポリ(アクリル酸)および水溶液中でゾルからゲルへの転移を示すNイソプロピルアクリルアミドのコポリマーを含む、熱感受性ゲル材料が含まれる。ポリ(エチレンオキシド)(PEG)およびポリ(乳酸)(PLA)のジブロックコポリマー、ならびにPEG-PLGA-PEGのトリブロックコポリマーも、生理的条件下で生分解性で注射可能な薬物送達系を提供する別のヒドロゲルとして用いられる。ゼラチン、寒天、アミラーゼ、アミロペクチン、セルロース誘導体、カラゲナン、およびジェランを含む、いくつかの天然ポリマーは熱可逆性のゲル化挙動を示す。メチルセルロースおよびヒドロキシプロピルセルロースなどの、天然ポリマーのいくつかのセルロース誘導体は、逆の熱ゲル化挙動(高温でのゲル化)を示す。これらのヒドロゲルの粘度は非経口送達にとっては問題である。これらのヒドロゲルの粘度は低いずり速度では極めて高い(Thorgeirsdottir TO et al., 2005)。ポリヒドロキシルメタクラレートはヒドロゲル製剤において広く用いられている(Peppas et al., 2000)。米国特許第6,602,952号は、キトサンおよびキトサンの結合体からなる群より選択されるポリマーに共有結合で架橋されたポリ(エチレングリコール)などの多官能性ポリ(アルキレンオキシド)ならびにメトキシポリ(エチレングリコール)などの一官能性ポリ(アルキレンオキシド)を含むポリマー構造を記載している。
【0077】
デポー製剤
埋め込み可能な薬物送達装置は、様々な疾患および状態の治療のため、特に持続放出効果が治療に加えられる場合の魅力的な治療手段を提供する。様々な埋め込み可能な薬物送達装置が開発されており、これらは貯蔵場所から治療部位への薬物の移動を達成するために異なるメカニズムに基づいている。米国特許第4,938,763号は、非反応性で水不溶性の熱可塑性ポリマーを生体適合性の水溶性溶媒に溶解して液体を生成し、この液体を体内に入れ、溶媒を消散させて固体埋込物を生じることによる、インサイチューでの埋込物形成法を開示している。米国特許第5,747,058号は、周囲または生理的条件下でニートでは結晶化しない、体温での粘度が少なくとも5,000cPの非ポリマー、非水溶性、高粘度の液体担体材料を含む、物質の制御放出用組成物を記載している。
【0078】
高分子の送達
抗感染製剤へのタンパク質またはペプチド薬物の添加は、追加の治療上の利点を提供しうる。以前に論じられた例には、CFの治療において認められているPulmozyme rhDNアーゼが含まれる。低用量または比較的低濃度で送達されうる高分子もあるが、高濃度で送達する必要がある高分子もある。高濃度のタンパク質製剤はタンパク質薬物を容易に送達するための能力に影響をおよぼす物理的性質を有することがある。米国特許第6,541,606号は、組成物を生成するためのポリマー担体を含むマトリクス中に封入されているタンパク質結晶または結晶製剤を記載している。この製剤および組成物はタンパク質本来の生物学的に活性な三次構造の保存を強化し、活性タンパク質が必要な時と場所でこれをゆっくり放出しうる貯蔵場所を作る。
【0079】
結合系
ポリマー担体系は、マクロファージによる取り込みを避けるという点で、非ポリマー担体を上回る特定の利点を有しうる。リポソームはリン脂質でできた球状小胞であり粒子であるため、マクロファージに取り込まれる。リポソームをPEGでコーティングすることにより「隠密」特性を与えた場合でも、高いレベルが肝臓および脾臓で検出されうる。一方、抗体は、腫瘍細胞上のほとんどの受容体が正常細胞上にも存在し、癌に特異的なものを見つけるのが困難であるという不都合を有している。
【0080】
対照的に、水溶性ポリマーは大きい粒子ではなく単一の分子で作用することを可能にする。肝臓および脾臓を避けるために、PEGおよびN-(2-ヒドロキシプロピル)メタクリルアミドなどの非荷電親水性ポリマーを用いることができる。これらのポリマーが水和されると、約24時間までの間、血中を循環することができる(C&E News, Volume 80, Number 34, 39-47)。
【0081】
他の結合系の例には、PEG化が含まれる。PEG化は分子の見かけの分子量を増やすことにより、血流からのクリアランス速度を低下させる。特定のサイズまでは、タンパク質の糸球体ろ過速度はタンパク質のサイズに反比例する。クリアランスの低下により非PEG化材料に比べて効率を高めることができる(Conforti et al. 1987およびKatre et al. 1987)。結合はインビトロまたはインビボのいずれでも可能であった。
【0082】
国際公開公報第2005034909A2号は、中核および生物活性部分に結合された超分岐ポリマーを記載している。生物活性部分は中核に実質的に非酵素的に切断可能なリンカーLによって結合されている。組成物は生物活性部分をその標的に送達するために用いることができる。
【0083】
米国特許第6,946,134号は、長い貯蔵寿命および/または溶液中の長期もしくは治療活性を示す、アルブミンまたはアルブミンの断片もしくは変異体に融合された治療タンパク質を記載している。アルブミンの担体分子としての役割およびその不活性な性質は、インビボでポリペプチドの担体および輸送体として用いるために望ましい特性である。様々なタンパク質の担体としてのアルブミン融合タンパク質の成分としてのアルブミンの使用が、WO93/15199、WO93/15200、およびEP413622において示唆されている。ポリペプチドへの融合物のためのHAのN末端断片の使用も提唱されている(EP399666)。
【0084】
米国特許第5,367,051号は、ポリマー化された形で、高温安定性によって特徴づけられる、すなわち、少なくとも約300℃の温度に耐えられる、フラーレン官能化アミン含有ポリマーおよびポリマー化可能なモノマーを記載している。フラーレン基はポリマーにポリマー上のアミン基を通して結合されている。
【0085】
国際公開公報第2005073383号は、新生児Fc受容体(FcRn)の結合相手に直接または間接的に連結されたFSHのαサブユニット(aFSH)を含む第一のポリペプチド、およびFcRn結合相手に直接または間接的に連結されたFSHのβサブユニット(βFSH)を含む第二のポリペプチドを含む、新規ヘテロ二量体融合タンパク質を記載している。結合ポリペプチドは伝統的な形のFSH療法に比べて長い半減期および高いバイオアベイラビリティを有する。
【0086】
デンドリマー
デンドリマーは明確に規定されたポリマー構造である。デンドリマーは中核から出ている反復する超分岐構造に基づいている(US4,507,466)。典型的なデンドリマーはポリアミドアミン(PAMAM)、ポリエチレンイミン(PEI)、ポリプロピレンイミンまたはポリリジンに基づいている。これらの合成高分子は、各反応サイクルがもう一つの分枝層(追加「世代」)を加える、段階的様式で構築される。デンドリマーは段階的な発散的「ボトムアップ」または収束的「トップダウン」合成によって合成的に入手する。中心構造成分は、超分岐デンドリマーがそこから放射状に対称様式で広がる中核単位である。中核は、デンドリマー結合のための少なくとも2つの反応性基を提供してもよく、また異種官能性であってもよく、保護基を用いてもよい。後者の場合、デンドリマーを構築し、ゲスト化合物を後にアニリン中核に直交化学によって結合してもよい(WO88/01180)。中核およびデンドリマーはデンドリマーの内部または骨格を生成する。立体的密集によって支持される球状対称の結果、超分岐の末端基が外部を規定している。高次の世代のデンドリマーにおいて、末端分岐はかなり密な殻を形成し、柔軟な内部空隙が見いだされている。所与のデンドリマーについて、これらの空洞は後ろに折りたたまれた末端基および密接に配位結合した溶媒分子で満たされていることが理解される。デンドリマーは、複雑な疎水性化合物に同様によく適したミセルに関連している。しかし、ミセルとは対照的に、これらは単分子の性質を有し、様々な種の力学的平衡がないため、高い構造的秩序を示す。合成化合物は、高次構造上の剛性および平坦性などの特定の構造的条件ならびに三級アミンへの親和性などの電荷分布が適合する場合にのみ、デンドリマーへと拡散することができる。ピレンまたはナフタレンなどの様々な無極性化合物がデンドリマーに封入されている。
【0087】
米国特許第5,714,166号および国際公開公報第95/24221号において、デンドリマー-タンパク質結合体が明らかにされている。G4のPAMAMデンドリマーがその末端官能基を通してインスリン、蛍光標識されたインスリン、アビジン、モノクローナル抗体およびブラジキニンに共有結合されている。結合に用いられる反応性基はデンドリマーの表面にのみ存在し、したがって、浸出法によって生じた任意の共有結合による付加物はデンドリマーの外部に結合することになる。
【0088】
PAMAMデンドリマーはその表面に遊離アミン基を含み、静電相互作用によってDNAと容易に結合する。
【0089】
国際公開公報第01/07469号は、オルニチンおよびグリシンアミノ酸で構成される水溶性ポリペプチドデンドリマーを詳細に記載している。この特許出願はオリゴ糖であるヘパリンの、緩和な条件下でヘパリン存在下デンドリマー中核のデンドリマー化による非共有結合的封入も教示している。オリゴ糖はデンドリマーから、樹状骨格内のW-不安定結合の光誘導性切断により放出される。ここで用いられる中核構造はトリス(2-マレイミドエチル)アミンであった。他のポリマー系
【0090】
生体模倣アプローチにおけるヘパリン、デキストランおよびメチルメタクラレートの使用が、食作用による早期捕捉から逃れる薬物担体の開発において評価された(Passirani et al., 1998)。
【0091】
ポリホスファゼンおよびポリスチレンの混成ブロックおよびグラフトコポリマーの合成は、両ポリマーの性状を組み合わせ、新しい特性を生じるための方法である。ホスファゼンおよびスチレンホモポリマーそれぞれの価値ある特性の多くを、ポリスチレンおよびポリホスファゼン両方のポリマーの全体の固体状態または溶液の特性を犠牲にすることなく組み合わせることができる。米国特許第6,392,008号は、ポリホスファゼン含有ポリマーのそのような組成物を記載している。
【0092】
米国特許第5,176,907号は、生体適合性かつ生分解性のポリ(ホスホエステル-ウレタン)、ポリ(ホスホエステル-ウレタン)を含む組成物、ならびに薬物送達装置および埋込物としての使用法を記載している。
【0093】
V. 併用療法
本発明のリポソーム製剤は、本明細書に記載の他の薬物と同時に投与してもよい。例えば、本明細書のリポソームはDNアーゼ、粘液溶解剤、塩素イオンチャネルをアップレギュレートする、もしくは細胞の上皮表面を通過するイオンの流量を増加させる化学物質、気管支拡張剤、ステロイド、P2Y2アゴニスト、α-1アンチトリプシン(AAT)などのエラスターゼ阻害剤、N-アセチルシステイン、サリチル酸ナトリウムなどのバイオフィルム細菌に対する抗生物質の活性を増強する薬剤、インターフェロンγ、インターフェロンα、またはアミフロキサシン、シノキサシン、シプロフロキサシン、ダノフロキサシン、ジフロキサシン、エノキサシン、エンロフロキサシン、フレロキサシン、イルロキサシン、ロメフロキサシン、ミロキサシン、ノルフロキサシン、オフロキサシン、ペフロキサシン、ロソキサシン、ルフロキサシン、サラフロキサシン、スパルフロキサシン、テマフロキサシンおよびトスフロキサシンからなる群より選択されるフルオロキノロンまたはトブラマイシン、コリスチン、アジスロマイシン、アミカシン、セファクロル(Ceclor)、アズトレオナム、アモキシシリン、セフタジジム、セファレキシン(Keflex)、ゲンタマイシン、バンコマイシン、イミペネム、ドリペネム、ピペラシリン、ミノサイクリン、もしくはエリスロマイシンからなる群より選択される抗生物質などの薬物と共に用いてもよい。
【0094】
前述したものは、本発明の原理を単に例示するに過ぎない。当業者であれば、本明細書において明確に記載または示していなくても、本発明の原理を具体化し、その精神および範囲内に含まれる様々な取り合わせを考案しうることが理解されるであろう。さらに、本明細書において列挙するすべての例および条件用語は、主に読み手が本発明の原理および発明者らによって技術を促進するために与えられた概念の理解を助けることが意図され、そのような特別に列挙される例および条件に限定されることはないと解釈されるべきである。さらに、本明細書において、本発明の原理、局面および態様を列挙する全ての陳述、ならびにその特定の例は、その構造的および機能的等価物を含むことが意図される。加えて、そのような等価物は、現在公知の等価物および将来的に開発される等価物、すなわち、構造にかかわらず同じ機能を行う任意の、開発される要素の両方を含むことが意図される。本発明の範囲は、したがって、本明細書において示され、記載される例示的な態様に限定されることを意図していない。むしろ、本発明の範囲および精神は添付する特許請求の範囲によって具体化される。
【0095】
VI. 治療方法
ここまで、嚢胞性線維症患者における感染を治療するための本発明の適用を主に論じてきた。しかし、本発明がCF以外に有用性および利点を有することは当業者には明白であろう。この治療法は、気管支拡張症、結核、人工呼吸器関連肺炎、市中感染性肺炎、気管支肺炎、大葉性肺炎を含むが、それらに限定されるわけではない肺炎を含むが、それらに限定されるわけではない、鼻の通路、気道、内耳、または肺の感染;肺炎連鎖球菌、クラミジア(Chlamydia)、肺炎マイコプラズマ(Mycoplasma pneumonia)、ブドウ球菌(staphylococci)による感染を含む他の疾患状態、感染が生じうる状態、例えば、挿管または人工呼吸患者の予防的治療または防止、肺移植患者における感染、気管支炎、百日咳(百日咳)、内耳感染、連鎖球菌性咽頭感染、吸入炭疽、野兎病、または副鼻腔炎に適用される。
【0096】
実験
以下の実施例は、当業者に本発明をいかに作成および使用するかの完全な開示および記載を提供するために示すものであり、発明者らがその発明と考えるものの範囲を限定する意図はなく、また以下の実験が実施された唯一の実験であることを意味する意図もない。用いた数(例えば、量、温度など)に関して確実に正確にするために努力してきたが、いくつかの実験誤差および偏差は考慮されるべきである。特に記載がないかぎり、割合は重量割合であり、分子量は重量平均分子量であり、温度は摂氏度であり、かつ圧は大気圧またはそれに近い圧である。
【0097】
実施例1
封入シプロフロキサシンの製造:
シプロフロキサシン(50mg/mL)を水素化ダイズホスファチジルコリン(HSPC)(70.6mg/mL)、天然ダイズレシチンの半合成完全水素化誘導体(SPC)、およびコレステロール(29.4mg/mL)からなるリポソームに封入する。脂質を平均粒径75から120nmの二層に組織化する。滅菌懸濁液を等張緩衝液(25mMヒスチジン、145mM NaCl、pH6.0、300mOsm/kg)に懸濁し、吸入により投与する。これらのリポソームシプロフロキサシン製剤は約1%の非封入シプロフロキサシンを含んでいた。
【0098】
製造工程は下記の段階を含む。
1. 緩衝液を調製する。
2. 脂質成分を秤量する。
3. 脂質を溶媒(tBuOH:EtOH:dH2O/49:49:2)に溶解する。
4. 脂質の溶媒溶液をメチルアミン硫酸塩緩衝液(10%v/v溶媒)と混合して、脂質30mg/mLの封入メチルアミン硫酸塩緩衝液とのマルチラメラ小胞(MLV)を生成する。
5. 4枚重ねた孔径80nmのポリカーボネートフィルターを通して押し出し、大きいユニラメラ小胞(LUV)を生成する。二回目の押し出し通過を行い、平均粒径約100nmのリポソームを生成する。
6. 限外ろ過によりリポソームを全脂質約55mg/mLに濃縮する。
7. 10倍量の緩衝液(145mM NaCl、5mMヒスチジン、pH6.0)に対するダイアフィルトレーションにより、エタノールを除去し、膜内外のpH勾配を生じる。
8. HPLCにより脂質濃度を決定する。
9. リポソーム懸濁液を50℃に加温し、粉末シプロフロキサシン(全脂質量の60%)を撹拌しながらゆっくり加える。シプロフロキサシンを徐々に増やしながら加え(4分ごとに全量の10%を40分間)、生成物を50℃で20分間インキュベートした後、最後の一定量を加えて、薬物ローディング工程を完了させる。
10. シプロフロキサシンをローディングしたリポソームを、3倍量の145mM NaCl、5mM酢酸塩、pH4.0に対してダイアフィルトレーションし、遊離シプロフロキサシンが可溶性の条件下で非封入シプロフロキサシンを除去する。
11. シプロフロキサシンをローディングしたリポソームを、5倍量の145mM NaCl、25mMヒスチジン、pH6.0に対してダイアフィルトレーションし、残っている非封入シプロフロキサシンがあればそれを除去し、さらに残留溶媒レベルを低下させ、外部緩衝液を所望の生成物緩衝液に変換する。
12. 製剤を限外ろ過して、シプロフロキサシン濃度50mg/mL(工程中の試験が必要)とする。
13. リポソームを0.45/0.2μmのフィルターシートを通して予備ろ過し、滅菌等級のフィルターを目詰まりさせうる粒子を除去する。用いるフィルターは実際は滅菌等級のフィルターであるが、滅菌ろ過用の使用には適合しない高圧で用いる。
14. 0.2μmの滅菌等級フィルターを通して重複ろ過する。
15. 試料をバイアル詰めし、包装する。
【0099】
全体の製造スキームを図1に示す。
【0100】
感染モデルの説明:
シプロフロキサシン封入リポソームを緑膿菌肺感染のマウスモデルで評価した。腸修正(gut-corrected)Cftrノックアウトマウスは、緑膿菌を含むアガロースビーズで感染させた後に嚢胞性線維症の肺表現型を有し(van Heeckeren et al., 2004)、UNC Cftrノックアウトマウスと類似の炎症反応を有する(van Heeckeren et al., 2004)ことが判明している。これらの特徴すべてにより、この系統は、薬物が嚢胞性線維症肺感染のマウスモデルにおいて有効性を有するかどうかを調べるのに最も適しており、野生型と嚢胞性線維症マウスとの間に区別的反応がある場合はそうではない。混乱をきたす可能性がある因子として性別を除外するために、一方の性、すなわち雄のマウスを用いた。すべてのマウスは6〜8週齢の間で、体重は、>16gであった。
【0101】
緑膿菌を含むアガロース(PA)ビーズを、以前に記載されたもの(van Heeckeren, et al., 1997、van Heeckeren et al., 2000、van Heeckeren and Schluchter, 2002)とわずかに異なる方法で作成して用いた。マウスにビーズの1:35希釈物を接種し、ビーズをイソフルランで麻酔したマウスに送達した。これはLD50用量であると確立されたが、実験ごとのわずかな差が区別的反応を引き起こすことがあり、これは予測できない。すなわち、1つの実験では用量はLD50であるが、もう1つの実験ではLD90でありうる。発明者らはこれらの薬物が臨床上の有効性を有するかどうかの調査に興味を持っているため、感染したCF対照マウスにLD50からLD90の間の範囲の投与を試みた。マウスが瀕死(立ち直り反射の重度の遅延および触診により冷たい)である場合、介入的安楽死を行い、顕性肺感染があったかどうかを調べるために剖検を実施した。屠殺したマウスは自然死が起こったものとして含めた。
【0102】
リポソームシプロフロキサシン治療:
リポソームシプロフロキサシンまたは擬似物(希釈物)(≦0.05ml)を鼻内送達した。
【0103】
用量範囲試験の設計:
以下の3つの用量を試験した:99%の封入シプロフロキサシンおよび1%の遊離シプロフロキサシンからなるシプロフロキサシンの最大濃度(50mg/ml)の、10%、33%、および100%、ならびに陰性対照としてのリポソーム希釈物。低用量および中用量は希釈によって調製した。第0日に、マウスに滅菌PBS、pH7.4中で1:35に希釈した緑膿菌を含むアガロースビーズを経気管的に接種した。第2から9日に、マウスを薬物または希釈物擬似物で1日1回治療した。第10日に、マウスを屠殺した。結果の尺度には臨床徴候(外被の質、姿勢、横臥位におかれた後に立ち直る能力、歩行を含む)、初期体重からの変化、および生存が含まれた。屠殺時、肉眼による肺病理学を記述し、気管支肺胞洗浄(BAL)を1mlの滅菌PBS、pH7.4を用いて行い、全血、未処理のBAL液および脾臓ホモジネートを、緑膿菌の有無について試験し、BAL細胞を血球計を用いて計数した。
【0104】
生存結果:
図2は、各群の10日までの累積生存率を、生存したマウスの数のパーセンテージで報告して示している。第10日に、リポソームシプロフロキサシンで治療した3群は希釈物対照群よりも高い生存率を有していた。リポソーム治療群ではそれぞれ2匹の死亡例しかなかったが、希釈物群では6匹の死亡例があった。100%用量群はすべての群で最も長い生存率を有し、すべてのマウスが第5日まで生存したが、他の群ではすべてこの時点までに2匹が死亡した。
【0105】
約1%の遊離シプロフロキサシンを含むリポソーム封入シプロフロキサシンの鼻内投与(肺を標的とする)は、緑膿菌肺感染を有するマウスの生存率を高めた。したがって、吸入リポソームシプロフロキサシンは、嚢胞性線維症、または他の肺感染による疾患を有する患者において有効である。
【0106】
図2は、注射後の累積生存率を示している。第0日にマウスを緑膿菌を含むアガロースビーズで感染させた。マウスを、3つの異なる濃度(100%、白菱形;33%、黒四角;または10%、白三角)の1つのシプロフロキサシン(薬物)リポソーム製剤で、第2日に開始して第9日まで1日1回鼻内に治療した。希釈剤を対照として用いた(黒丸)。生存マウスを第10日に屠殺した。
【0107】
実施例2
非封入シプロフロキサシンの調製:
10mM酢酸ナトリウム、pH3.2中30mg/mLの濃度の非封入、または「遊離」シプロフロキサシンを調製した。
【0108】
封入シプロフロキサシンの製造:
実施例1に記載のとおり、シプロフロキサシン(50mg/mL)を水素化ダイズホスファチジルコリン(HSPC)(70.6mg/mL)、天然ダイズレシチンの半合成完全水素化誘導体(SPC)、およびコレステロール(29.4mg/mL)からなるリポソームに封入した。このリポソーム製剤の特徴づけにより、約1%のシプロフロキサシンが遊離である;すなわち、これはリポソーム内に封入されていないことが示された。
【0109】
感染モデルの説明:
実施例1に記載のとおり、遊離シプロフロキサシンおよびシプロフロキサシン封入リポソームを含む製剤を、2つの追加の実験において緑膿菌肺感染のマウスモデルで評価した。
【0110】
用量範囲試験の設計:
遊離およびリポソームシプロフロキサシンの組み合わせの1用量(0.36mg/kg遊離および0.6mg/kgリポソームシプロフロキサシン)、リポソームシプロフロキサシンの2用量(0.6mg/kgおよび1.2mg/kg)および陰性対照としてのリポソーム希釈物を、2つの別の実験で評価した。第0日に、マウスに滅菌PBS、pH7.4中で1:35に希釈した緑膿菌を含むアガロースビーズを経気管的に接種した。第2から9日に、マウスを薬物または希釈物擬似物で1日1回治療した。第10日に、マウスを屠殺した。結果の尺度には臨床徴候(外被の質、姿勢、横臥位におかれた後に立ち直る能力、歩行を含む)、初期体重からの変化、および生存が含まれた。屠殺時、肉眼による肺病理学を記述し、気管支肺胞洗浄(BAL)を1mlの滅菌PBS、pH7.4を用いて行い、全血、未処理のBAL液および脾臓ホモジネートを緑膿菌の有無について試験し、BAL細胞を血球計を用いて計数した。
【0111】
生存結果
表1は、各群の10日までの累積生存率を、両試験において生存したマウスの数のパーセンテージで報告して示している。第10日に、遊離およびリポソームシプロフロキサシンの組み合わせで治療したすべての群は、希釈物対照群よりも高い生存率を有していた。
【0112】
(表1)ARD-3100または対照で鼻内点滴により治療した、緑膿菌肺感染を有するCFマウスにおける2つの試験由来の群ごとの平均生存率

【0113】
結論:
リポソーム封入シプロフロキサシンの鼻内投与(肺を標的とする)は、緑膿菌肺感染を有するマウスの生存率を高めた。吸入リポソームシプロフロキサシン、または遊離およびリポソームシプロフロキサシンの組み合わせは、嚢胞性線維症、または他の肺感染による疾患を有する患者において有効である。
【0114】
実施例3
封入シプロフロキサシンの製造:
実施例1に記載のとおり、シプロフロキサシン(50mg/mL)を水素化ダイズホスファチジルコリン(HSPC)(70.6mg/mL)、天然ダイズレシチンの半合成完全水素化誘導体(SPC)、およびコレステロール(29.4mg/mL)からなるリポソームに封入した。このリポソーム製剤の特徴づけにより、約1%のシプロフロキサシンが遊離である;すなわち、これはリポソーム内に封入されていないことが示された。
【0115】
遊離および封入シプロフロキサシンの組み合わせの送達:
遊離シプロフロキサシンおよび封入シプロフロキサシンの両方を含む製剤を用いるのではなく、別の方法は送達事象中に混合物を作るものである。例えば、制御された様式で、ずれまたは熱を加えることにより、再現可能にリポソームのいくつかにおいてその完全性を失い、リポソーム内に封入されていた薬物の内容物を放出することになりうる。電気機械的AERxシステムを用いての試験により、このアプローチを用いる可能性が確認された。約99%の封入シプロフロキサシンを含む製剤をAERxシステムを用いて送達し、エアロゾル液滴を集めた。温度制御器を13、45、77、108および140℃の温度に設定し、集めたエアロゾルはそれぞれ89、84、82、77および41パーセントの封入体を含んでいた。
【0116】
本発明は、最も実用的で好ましい態様であると考えられる様式で本明細書に示し、記載している。しかし、本開示を読めば、本発明の範囲内であるそれらからの逸脱がなされることもあり、また当業者には明白な改変が生じるであろうことが理解される。
【0117】
本発明をその特定の態様に関して記載してきたが、当業者であれば、様々な変更がなされ、本発明の真の精神および範囲から逸脱することなく等価物で置換されうることを理解すべきである。加えて、特定の状況、材料、物質の組成、工程、工程の1つまたは複数の段階を本発明の目的、精神および範囲に適合させるために、多くの改変を行ってもよい。そのような改変はすべて本明細書に添付の特許請求の範囲内であることが意図される。
【0118】
参照文献
以下はそれぞれ参照により組み入れられる。




【特許請求の範囲】
【請求項1】
遊離、非封入の第一の薬学的に活性な薬物;
薬学的に許容される賦形剤;および
リポソーム封入された第二の薬学的に活性な薬物を含み;
エアロゾル化送達用に製剤されている、粒子のエアロゾル化組成物。
【請求項2】
第一および第二の薬学的に活性な薬物がそれぞれ抗感染薬であり、エアロゾルの粒子が約2ミクロンから約4ミクロンの範囲の直径を有する、請求項1記載のエアロゾル化組成物。
【請求項3】
抗感染薬がシプロフロキサシンである、請求項2記載のエアロゾル化組成物。
【請求項4】
抗感染薬が、キノロン、スルホンアミド、アミノグリコシド、テトラサイクリン、パラアミノ安息香酸、ジアミノピリミジン、βラクタム、βラクタムおよびβラクタマーゼ阻害剤、クロラムフェニコール、マクロライド、リンコマイシン、クリンダマイシン、スペクチノマイシン、ポリミキシンB、コリスチン、バンコマイシン、バシトラシン、イソニアジド、リファンピン、エタンブトール、エチオナミド、アミノサリチル酸、シクロセリン、カプレオマイシン、スルホン、クロファジミン、サリドマイド、ポリエン抗真菌剤、フルシトシン、イミダゾール、トリアゾール、グリセオフルビン、テルコナゾール、ブトコナゾール シクロピラックス(ciclopirax)、シクロピロックスオラミン、ハロプロジン、トルナフテート、ナフチフィン、テルビナフィン、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項2記載のエアロゾル化組成物。
【請求項5】
リポソームが約10nmから約10μmの範囲の直径を有し、粒子が第一および第二の薬学的に活性な薬物とは異なる第三の薬学的に活性な薬物をさらに含む、請求項1記載のエアロゾル化組成物。
【請求項6】
第三の薬学的に活性な薬物が、遊離型で、およびリポソーム中に存在し、リポソームが、脂肪酸;リゾ脂質;スフィンゴ脂質;ホスファチジルコリン;ホスファチジルエタノールアミン;スフィンゴミエリン;糖脂質;グルコリピド;スフィンゴ糖脂質;ホスファチジン酸;パルミチン酸;ステアリン酸;アラキドン酸;オレイン酸;スルホン化単糖、二糖、オリゴ糖または多糖を有する脂質;エーテルおよびエステル連結脂肪酸を有する脂質、ポリマー化脂質、ジアセチルリン酸、ステアリルアミン、カルジオリピン、長さ6から8炭素の短鎖脂肪酸を有するリン脂質、非対称アシル鎖を有する合成リン脂質;ならびに共有結合ポリマーを有する脂質からなる群より選択される脂質をさらに含む、請求項1記載のエアロゾル化組成物。
【請求項7】
第三の薬学的に活性な薬物が、気管支拡張剤および抗炎症薬から選択される、請求項5記載のエアロゾル化組成物。
【請求項8】
第三の薬学的に活性な薬物が、β-アドレナリン作動性受容体アゴニスト、抗ムスカリン薬、およびそれらの組み合わせから選択される気管支拡張剤である、請求項7記載のエアロゾル化組成物。
【請求項9】
第三の薬学的に活性な薬物が、コルチコステロイド、ロイコトリエン受容体アンタゴニスト、ロイコトリエン合成阻害剤、およびシクロオキシゲナーゼ阻害剤から選択される抗炎症薬である、請求項7記載のエアロゾル化組成物。
【請求項10】
リポソーム封入抗感染薬が、ホスファチジルコリン、リゾホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジン酸、ホスファチジルセリン、およびそれらの混合物からなる群より選択されるリン脂質を用いて調製され;
該リン脂質が、コレステロール、ステアリルアミン、ステアリン酸、トコフェロール、およびそれらの混合物からなる群より選択される改変剤との混合物で提供され;かつ
リポソームがユニラメラまたはマルチラメラである、
請求項2記載のエアロゾル化組成物。
【請求項11】
遊離抗感染薬が、約1から約75%の全遊離およびリポソーム封入抗感染薬を含み;かつ
封入された抗感染薬の全利用可能量の放出が約2時間から約150時間の間に起こる、
請求項2記載のエアロゾル化組成物。
【請求項12】
遊離の第一の薬学的に活性な薬物、およびリポソームに封入された第二の薬学的に活性な薬物を含む製剤をエアロゾル化する段階;および
エアロゾルを患者の肺に吸入する段階を含む、
患者を治療する方法。
【請求項13】
重症急性呼吸器症候群(SARS)、インフルエンザ、おたふく風邪、クループ、副鼻腔炎、気管支炎、アンギナ、喉頭炎、気管炎、鼻炎、鼻咽頭炎、細気管支炎、気管支炎、気管支肺炎、肺炎、ブドウ球菌性肺炎、百日咳、風邪、A型インフルエンザ、B型インフルエンザ、C型インフルエンザ、結核(TB)、レジオネラ症、エキノコックス症、肺性胸膜肺炎、3扁桃炎、喘息、アレルギー、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される呼吸器感染を改善するために治療を実施し;
該呼吸器感染が、呼吸器合胞体ウイルス(respiratory syncytial virus)(RSV)、ライノウイルス(rhinovirus)、パラインフルエンザウイルス(para-influenza virus)、コロナウイルス(coronavirus)、アデノウイルス(adenovirus)、コクサッキーウイルス(coxsackievirus)、ミクソウイルス(myxovirus)、肺炎球菌(Pneumococcus)、ブドウ球菌(Staphylococcus)、連鎖球菌(Streptococcus)、クレブシエラ(Klebsiella)、ヘモフィルス(Haemophilus)、アスペルギルス(aspergillus)、ブラストミセス・デルマティティス(blastomyces dermatitis)、カンジダ症、コクシジオイデス症、クリプトコックス症、ヒストプラスマ症、接触性アレルゲン、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される病原体によって引き起こされる、
請求項12記載の方法。
【請求項14】
嚢胞性線維症、結核、気管支拡張症、肺炎;人工呼吸器関連肺炎、市中感染性肺炎、気管支肺炎、大葉性肺炎;肺炎連鎖球菌(Streptococcus pneumoniae)、クラミジア(Chlamydia)、肺炎マイコプラズマ(Mycoplasma pneumonia)、ブドウ球菌(staphylococci)による感染、挿管もしくは人工呼吸患者から選択される感染が生じうる状態の予防的治療、肺移植患者における感染、気管支炎、百日咳、内耳感染、連鎖球菌性咽頭感染、吸入炭疽、野兎病、または副鼻腔炎からなる群より選択される疾患状態を治療するために実施する、請求項12記載の方法。
【請求項15】
封入された薬学的に活性な薬物、または遊離の薬学的に活性な薬物のいずれかがシプロフロキサシンである、請求項12記載の方法。
【請求項16】
シュードモナス(pseudomonas)(例えば、緑膿菌(P. aeruginosa)、P.パウシモビリス(P. paucimobilis)、P.プチダ(P. putida)、P.フルオレセンス(P. fluorescens)、およびP.アシドボランス(P. acidovorans))、ブドウ球菌、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)(MRSA)、連鎖球菌(肺炎連鎖球菌を含む)、大腸菌(Escherichia coli)、クレブシエラ、エンテロバクター(Enterobacter)、セラチア(Serratia)、ヘモフィルス、ペスト菌(Yersinia pestis)、類鼻疽菌(Burkholderia pseudomallei)、セパシア菌(B. cepacia)、B.グラジオリ(B. gladioli)、B.マルチボランス(B. multivorans)、B.ベトナミエンシス(B. vietnamiensis)、ヒト結核菌(Mycobacterium tuberculosis)、トリ結核菌コンプレックス(M. avium complex)(MAC)(トリ結核菌およびM.イントラセルラーレ(M. intracellulare))、M.カンサシ(M. kansasii)、M.キセノピ(M. xenopi)、M.マリヌム(M. marinum)、M.ウルセランス(M. ulcerans)、またはM.フォーチュイタムコンプレックス(M. fortuitum complex)(M.フォーチュイタムおよびM.ケロネイ(M. chelonei))感染からなる群より選択される疾患状態を治療するために実施する、請求項12記載の方法。
【請求項17】
リポソームが約10nmから約10μmの範囲内の直径を有し、該リポソームが、脂肪酸;リゾ脂質;スフィンゴ脂質;ホスファチジルコリン;ホスファチジルエタノールアミン;スフィンゴミエリン;糖脂質;グルコリピド;スフィンゴ糖脂質;ホスファチジン酸;パルミチン酸;ステアリン酸;アラキドン酸;オレイン酸;スルホン化単糖、二糖、オリゴ糖または多糖を有する脂質;エーテルおよびエステル連結脂肪酸を有する脂質、ポリマー化脂質、ジアセチルリン酸、ステアリルアミン、カルジオリピン、長さ6から8炭素の短鎖脂肪酸を有するリン脂質、非対称アシル鎖を有する合成リン脂質;ならびに共有結合ポリマーを有する脂質からなる群より選択される脂質をさらに含む、請求項12記載の方法。
【請求項18】
組成物が0.01重量%から40重量%の量の薬学的に活性な薬物を含む、請求項12記載の方法。
【請求項19】
封入された薬学的に活性な薬物が、1時間当たり約0.1から100%、より好ましくは1時間当たり0.5から20%、最も好ましくは1時間当たり2から10%の割合で放出され、抗生物質のほぼ完全な放出が約1から24時間後に起こる、請求項12記載の方法。
【請求項20】
DNアーゼ、粘液調節剤、デュラマイシンなどのランチビオティックを含む塩素イオンチャネルをアップレギュレートする、もしくは細胞の上皮表面を通過するイオンの流量を増加させる化学物質、上皮ナトリウムチャネル(ENaC)阻害剤もしくはデヌホゾール(denufosol)などのP2Y2アゴニストを含む、水和もしくは粘膜線毛クリアランスを促進するための薬剤、気管支拡張剤、ステロイド、α-1抗トリプシン(AAT)などのエラスターゼ阻害剤、N-アセチルシステイン、サリチル酸ナトリウムなどのバイオフィルム細菌に対する抗感染薬の活性を増強する薬剤、γインターフェロン、αインターフェロン、フルオロキノロン、抗生物質、またはアミフロキサシン、シノキサシン、シプロフロキサシン、ダノフロキサシン、ジフロキサシン、エノキサシン、エンロフロキサシン、フレロキサシン、イルロキサシン、ロメフロキサシン、ミロキサシン、ノルフロキサシン、オフロキサシン、ペフロキサシン、ロソキサシン、ルフロキサシン、サラフロキサシン、スパルフロキサシン、テマフロキサシンおよびトスフロキサシンからなる群より選択されるフルオロキノロン、またはトブラマイシン、コリスチン、アジスロマイシン、アミカシン、セファクロル(Ceclor)、アズトレオナム、アモキシシリン、セフタジジム、セファレキシン(Keflex)、ゲンタマイシン、バンコマイシン、イミペネム、ドリペネム、ピペラシリン、ミノサイクリン、もしくはエリスロマイシンからなる群より選択される抗生物質
からなる群より選択される治療薬をさらに含む、請求項12記載の方法。
【請求項21】
肺送達のための薬学的に許容される担体;および
担体内の多数のリポソームを含む製剤であって、
リポソームが脂質およびシプロフロキサシンを含む、製剤。
【請求項22】
リポソームが、
ポリ乳酸、ポリグリコール酸、乳酸とグリコール酸とのコポリマー、およびそれらの混合物からなる群より選択される化合物;ならびに
乳酸とグリコール酸とのコポリマー、およびそれらの混合物からなる群より選択されるポリマー材料
を含む、請求項21記載の製剤。
【請求項23】
リポソームが、メタクラレート、カプロラクトン、キトサン、リン酸カルシウムポリ酸無水物、ポリエチレングリコール、ポリホスホエステル、ポリエーテルエステル、ポリホスホスファゼン、デキストラン、他の炭水化物または糖、デンドリマーまたはフラーレンなどの他の星形ポリマー、ヒアルロン酸、コラーゲン、ゼラチン、デキストランまたは両親媒性物質、脂質、およびポリマーの混成を伴う、または伴わない脂質の様々な物理的凝集物からなる群より選択される化合物を含む、請求項21記載の製剤。
【請求項24】
ポリマー、コポリマー、または結合体が、コロイドもしくは懸濁液の形であり、架橋型であり、結晶もしくはナノ結晶として存在し、または、リン酸カルシウム粒子もしくはナノ粒子として存在する、請求項21記載の製剤。
【請求項25】
デポーを形成することが可能である、請求項21記載の製剤。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2010−507658(P2010−507658A)
【公表日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−534614(P2009−534614)
【出願日】平成19年10月23日(2007.10.23)
【国際出願番号】PCT/US2007/022424
【国際公開番号】WO2008/063341
【国際公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【出願人】(397065387)アラダイム コーポレーション (10)
【Fターム(参考)】