説明

厚膜導体形成用組成物、それを用いた厚膜導体の形成方法、および得られる厚膜導体

【課題】電子部品に端子電極用厚膜導体を形成する際に、素子同士の焼結接着を防ぎ、かつ素子の特性を損なうことがない厚膜導体形成用組成物、それを用いた厚膜導体の形成方法、および得られる厚膜導体の提供。
【解決手段】高い導電率を有する導電粉末(a1)と、導電粉末(a1)よりも導電率が低い導電粉末(a2)からなる導電粉末(A)、酸化物粉末(B)、及び有機ビヒクル(C)を含有する厚膜導体形成用組成物において、導電粉末(a2)は、平均粒径が7μm以上であり、かつ、導電粉末(a2)の含有量が、導電粉末(a1)100重量部に対して、4.0〜8.0重量部であることを特徴とする厚膜導体形成用組成物などによって提供。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、厚膜導体形成用組成物、それを用いた厚膜導体の形成方法、および得られる厚膜導体に関し、さらに詳しくは、電子部品に端子電極用厚膜導体を形成する際に、素子同士の焼結接着を防ぎ、かつ素子の特性を損なうことがない厚膜導体形成用組成物、それを用いた厚膜導体の形成方法、および得られる厚膜導体に関する。
【背景技術】
【0002】
厚膜技術を用いて導体膜を形成する場合、導電率の高い導電粉末を酸化物粉末などとともに三本ロール等を用いて有機ビヒクル中に分散させて得られる厚膜導体形成用組成物を使用する。一般には、この厚膜導体形成用組成物をセラミック基材にスクリーン印刷、またはローラー転写、ディップ等により所定の形状に塗布し、500〜900℃で焼成してセラミック基板上に導電膜を形成することが行われている。
厚膜導体形成用組成物は、導電粉末、酸化物粉末、有機ビヒクルから構成される。酸化物粉末としては、軟化点の制御が容易で、酸等に対して化学的な耐久性が強く軟化点が400℃〜800℃の酸化物、例えば硼珪酸鉛、アルミ硼珪酸鉛、硼珪酸亜鉛、硼珪酸ビスマス等が厚膜導体形成時の焼成温度に応じて用いられている
【0003】
昨今、環境汚染を防止するという観点から、鉛を含有しない厚膜導体形成用組成物が流通してきている。そのため導電粉末としては、粒径が10μm以下で導電率の高いAg、Au、Pd、Ptなどの金属粉末が用いられており、近年ではコストダウンを目的にAgを主成分とするもの、例えば、Ag金属、Ag−Pd、Ag−Ptなどが一般的に使用されている。
【0004】
ところで、角柱型素子、円柱型素子、円盤型素子などの電子部品には、導電部として厚膜導体を形成する場合が多い。例えば、セラミック等を素体とした積層コンデンサーやバリスターの両端に厚膜導体を外部電極として形成して、チップコンデンサーやチップバリスターが製造されている。
鉛を含有しない厚膜導体形成用組成物が主流となるに伴い、角柱型素子、円柱型素子、円盤型素子状のコンデンサー、抵抗器、バリスター、サーミスター、インダクター等の製造工程で、部品をランダムに並べて焼成する際、素子同士の端子電極用導体が接触している部分で、焼結接着してしまう問題が発生している。焼結接着をおこした場合、接着が強い個所は整列機などの非接触の力では分離出来ず、機械的な力により分離しているという状況である。ところが、機械的な力で分離しようとすると剥離部分に欠損が生じ、歩留まりを悪化させる要因となっていた。
【0005】
このような素子同士の焼結による接着を防ぐ方法の一つとして、整列焼成やセラミックの粉体をまぶす方法が採用されている。整列焼成は、自動機あるいは手動により行われるが、ズレが生じ易いだけでなく、処理量が少なく時間も掛かり歩留まりを悪化させてしまう。また、セラミック粉末をまぶす方法は、処理量を低下させず時間も掛からないので歩留まりを悪化させることはないが、焼結過程で導体に接着してしまい分離出来なくなり、焼結面に斑を発生させる要因ともなっていた。
【0006】
かかる問題に対して、導電粉末の成分として樹状金属粉を添加することで、電極膜の表面を粗面化して、素子同士の焼成結着を防ぐことが提案されている(例えば、特許文献1参照)。しかし、樹状金属粉を添加すると、厚膜導体形成組成物中で金属粉の分散性を害し、3本ロールミルで製造すると樹状金属粉が圧延され粗大フレーク状粉末となり、スクリーン目詰まり等の不具合を生じてしまう。
【0007】
このような状況下、導電粉末中に樹状金属粉を添加することなく、素子同士の焼成結着を容易に防ぐことができる実用的な厚膜導体形成用組成物が切望されている。
【特許文献1】特開2005−197039
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、前記した従来技術の問題点に鑑み、電子部品に端子電極用厚膜導体を形成する際に、素子同士の焼結接着を防ぎ、かつ素子の特性を損なうことがない厚膜導体形成用組成物、それを用いた厚膜導体の形成方法、および得られる厚膜導体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ね、導電粉末、酸化物粉末、及び有機ビヒクルを混合してなる厚膜導体形成用組成物(以下、ペーストともいう)において、導電粉末として、従来から用いられているAgなどの金属粉末に、それよりも導電率が低くて粒径の大きい金属粉末を特定量含有させることで、電子部品をランダムに並べて焼成して素子に端子電極用厚膜導体を形成する際、得られる焼成膜の特性を維持しながら、素子同士の焼結接着を防ぐことができ、仮に素子同士が焼結接着した場合でも、比較的簡単に素子を分離できるようになることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、高い導電率を有する導電粉末(a1)と、導電粉末(a1)よりも導電率が低い導電粉末(a2)からなる導電粉末(A)、酸化物粉末(B)、及び有機ビヒクル(C)を含有する厚膜導体形成用組成物において、導電粉末(a2)は、平均粒径が7μm以上であり、かつ、導電粉末(a2)の含有量が、導電粉末(a1)100重量部に対して、4.0〜8.0重量部であることを特徴とする厚膜導体形成用組成物が提供される。
【0011】
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、導電粉末(a1)が、Ag、Au、Cu、Pd、又はPtから選ばれる少なくとも1種の金属粉末であることを特徴とする厚膜導体形成用組成物が提供される。
また、本発明の第3の発明によれば、第1又は2の発明において、導電粉末(a1)の融点が、1100℃以下であることを特徴とする厚膜導体形成用組成物が提供される。
さらに、本発明の第4の発明によれば、第1〜3のいずれかの発明において、導電粉末(a1)の平均粒径が、1〜7μmであることを特徴とする厚膜導体形成用組成物が提供される。
【0012】
一方、本発明の第5の発明によれば、第1の発明において、導電粉末(a2)が、Ni、W、又はMoから選ばれる少なくとも1種の金属粉末であることを特徴とする厚膜導体形成用組成物が提供される。
また、本発明の第6の発明によれば、第5の発明において、導電粉末(a2)の融点が、1300℃以上であることを特徴とする厚膜導体形成用組成物が提供される。
また、本発明の第7の発明によれば、第1、5又は6の発明において、導電粉末(a2)の平均粒径が、7〜13μmであることを特徴とする厚膜導体形成用組成物が提供される。
さらに、本発明の第8の発明によれば、第1の発明において、各成分の含有量は、厚膜導体形成用組成物100重量部に対して、導電粉末(A)が45.0〜90.0重量部、酸化物粉末(B)が0.2〜15.0重量部、有機ビヒクル(C)が8.0〜55.0重量部であることを特徴とする厚膜導体形成用組成物が提供される。
【0013】
一方、本発明の第9の発明によれば、第1〜8のいずれかの発明に係る厚膜導体形成用組成物を、電子部品の素子に塗布し、その後、500〜900℃で焼成して、素子に端子電極用導電膜を形成することを特徴とする厚膜導体の形成方法が提供される。
【0014】
一方、本発明の第10の発明によれば、第9の発明に係る方法によって得られ、導電粉末(a2)の少なくとも一部が端子電極用導電膜の表面から突出してなる厚膜導体が提供される。
また、本発明の第11の発明によれば、第10の発明において、端子電極用導電膜の膜厚が、10〜20μmであることを特徴とする厚膜導体が提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明の厚膜導体形成用組成物によれば、従来の技術では困難であった素子の端子電極用導電膜となる導体同士の焼結接着を防止できるだけでなく、面積抵抗値、はんだ濡れ性、接着強度を維持できる。これにより、歩留まりを向上させ、生産コストを削減でき、なおかつ優れた品質を有する製品を製造できるから、その工業的価値はきわめて大きい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
1.厚膜導体形成用組成物
本発明の厚膜導体形成用組成物は、高い導電率を有する導電粉末(a1)と、導電粉末(a1)よりも導電率が低い導電粉末(a2)からなる導電粉末(A)、酸化物粉末(B)、及び有機ビヒクル(C)を含有する厚膜導体形成用組成物において、導電粉末(a2)は、平均粒径が7μm以上であり、かつ、導電粉末(a2)の含有量が、導電粉末(a1)100重量部に対して、4.0〜8.0重量部であることを特徴とする。
【0017】
A 導電粉末
本発明において、導電粉末(A)は、高い導電率を有する導電粉末(a1)と、平均粒径が7μm以上で導電粉末(a1)よりも導電率が低く導電粉末(a2)からなる複合粉末である。
【0018】
導電粉末(a1)は、組成物中で分散性が良く、ペースト焼成後に緻密な膜となる高い導電率を有する金属粉末である。例えば、Ag、Au、Cu、Pd、又はPtから選ばれる少なくとも1種の金属粉末である。中でも、その融点が、1100℃以下の貴金属系材料であるAu粉末又はAg粉末のいずれかが好ましい。
【0019】
導電粉末(a1)の粒径は、10μm以下であればよく、平均粒径が1〜7μm、特に1〜5μmであるものが好ましい。平均粒径が、7μmを超えると焼結接着を防止できない場合がある。その形状は粒状、フレーク状でよく、特に限定されるものではないが、球状に近いほど分散性が高いことから、単分散系である球状または粒状の導電粉末を使用することが望ましい。導電粉末(a1)には、Ru、Sn、Zn等を、導電粉末(a1)100重量部に対して10重量部程度まで含むことができる。
【0020】
一方、導電粉末(a2)は、平均粒径が7μm以上で導電粉末(a1)よりも導電率が低い金属粉末である。具体的には、Ni、W、又はMoから選ばれる少なくとも1種の金属粉末である。そして、導電粉末(a2)の融点は、1300℃以上であることがより好ましい。導電粉末(a2)の粒径は、平均粒径が7μm以上と比較的大きく、より好ましくは7〜13μmである。
【0021】
本発明の厚膜導体形成用組成物で、このような粒径が大きいNiなどの導電粉末(a2)を併用するのは、多数の素子を並べて焼成した場合、膜の表面はAg粉末が略平坦な面を形成しているが、Ni粉末などが焼成膜中に介在すると、Ni自身は融点が高いことから焼結しないので、表面からNi粉末などの一部が飛び出た状態となり、素子の端子電極用導電膜となる導体同士が焼結接着するのを防ぐことができるからである。
【0022】
これは、導電粉末(a2)の融点が1300℃以上の金属ならば、Ni、W、Moに限らず、同様の結果が期待できる。平均粒径は7μm以上でなければならず、平均粒径が7μm未満の場合、焼成膜厚を10μmより厚くすると、膜に埋もれ易くなり焼結接着を制御する効果を低下させる。ただし、平均粒径が13μmを超える場合、スクリーン印刷にて塗布すると、スクリーンメッシュの目詰まりを起こし易くなり、所定の塗布形状を損ねてしまうことや、厚膜導体形成用組成物中に沈降し易くなる傾向がみられるので好ましくない。
【0023】
また、導電粉末(a2)の含有量は、導電粉末(a1)100重量部に対して、4.0〜8.0重量部でなければならない。導電粉末(a2)の含有量が4重量部未満である場合、焼成膜の表面に点在させるための十分な量に達しないので、焼結接着を防ぐ効果が少ない。また、8重量部より多くなると、導電粉末(a1)の含有量が少ないことから抵抗値が高くなったり、基板と導体の接着強度が悪化したり、はんだ濡れ性が悪化する。
【0024】
厚膜導体形成用組成物中の導電粉末(A)は、組成物100重量部に対して、45.0〜90.0重量部が望ましく、45.0〜85.0重量部が好ましい。導電粉末が45.0重量部未満の場合、焼成後の膜の状態がポーラスになり、膜強度が脆くなったり、抵抗値が高くなったりするという不具合がある。導電粉末が90.0重量部を超える場合、厚膜導体形成用組成物の流動性が悪くなりハンドリングが悪くなったり、乾燥し易くなり印刷スクリーンの目詰まりし易くなったりするという不具合がある。
【0025】
B 酸化物粉末
本発明において、酸化物粉末は、塗布面にぬれ性を与える無機酸化物である。
【0026】
このような機能を有するものであれば、種類は特に限定されず、従来から厚膜導体に広く用いられている酸化珪素、酸化アルミニウム、酸化鉛、酸化カルシウム、酸化硼素などを主成分としたガラスフリットを使用できる。この他、酸化マグネシウム、酸化バリウム、酸化ストロンチウム、酸化カドミウム、酸化スズ、酸化ビスマス、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、或いは酸化マンガンなどを含有してもよい。但し、本発明に係る電子部品への導体形成では、厚膜導体の焼成が500〜900℃の範囲で行われることから、この温度領域に軟化点を有する酸化物粉末でなければならない。
【0027】
具体的には、酸化物として、例えばSiO25.0〜35.0重量部、Bi35.0〜70.0重量部、B3.0〜13.0重量部、Al0.1〜10.0重量部にZn、アルカリ、アルカリ土類を適宜添加した硼珪酸ビスマスガラス、或いはSiO4.0〜20.0重量部、PbO(30.0〜70.0重量部)、Al0.1〜10.0重量部、B10.0〜52.0重量部にZn、アルカリ、アルカリ土類を適宜添加した硼珪酸鉛ガラス等の酸化物粉末が挙げられる。これらには、はんだ濡れ性や接着強度向上のため、Biを増量したり、CuO、ZnO、MnOを添加したりすることができる。酸化物粉末の平均粒径は10μm以下が望ましい。平均粒径は10μmを超えると、分散性や導電性を悪化させることがある。
【0028】
厚膜導体形成用組成物中の酸化物粉末は、組成物100重量部に対して、0.2〜15.0重量部が望ましく、0.5〜15.0重量部が好ましい。酸化物粉末が0.2重量部未満の場合、接着強度を増す効果が得られないという不具合がある。酸化物粉末が15.0重量部を超える場合、導電粉末の焼結を妨げたり、膜表面に過度に析出したりするという不具合がある。
【0029】
C 有機ビヒクル
本発明において、樹脂成分と溶剤成分からなる有機ビヒクルは、導電粉末、酸化物粉末を均一に溶解し分散させる媒体であり、電子部品の素子へ塗布(印刷)し、乾燥、焼成したとき、析出した酸化物(スラグ)を分離させる機能をもつ。
【0030】
樹脂成分としては、従来から公知のエチルセルロース、アクリル等が使用できる。溶剤成分は、樹脂成分を溶解するとともに、導電粉末、酸化物粉末をペースト中で安定に分散させる機能をもつ成分であるが、塗布(印刷)したとき、これら粉末を均一に展延させ、焼成時までには大気中に逸散する性質をもつ必要がある。ターピネオール、ブチルカルビトールアセテート等が使用できる。
【0031】
厚膜導体形成用組成物中の有機ビヒクルは、組成物100重量部に対して、8.0〜55.0重量部が望ましく、10.0〜55.0重量部が好ましい。有機ビヒクルが8.0重量部未満の場合、無機成分である導電粉末や酸化物粉末の粒子を包み込む事ができず、組成物としての流動性を欠き、品質が不安定になるばかりか、分離するという不具合がある。有機ビヒクルが55.0重量部を超える場合、長期保存後に無機成分と分離してしまうという不具合がある。
【0032】
2.厚膜導体の形成方法
本発明の厚膜導体の形成方法は、上記厚膜導体形成用組成物を、電子部品の素子に塗布し、その後、500〜900℃で焼成して、素子に端子電極用導電膜を形成することを特徴とする。
【0033】
すなわち、上記の厚膜導体形成用組成物を電子部品の端子電極となる箇所に10〜50μm、好ましくは15〜40μmの膜厚で塗布若しくは印刷し、100〜150℃で乾燥させてから、焼成炉に入れ、500〜900℃で熱処理して厚膜導体を形成する。例えば、対象個所にペーストをスクリーン印刷し、ピーク温度120℃において、3〜8分間、赤外線乾燥機で乾燥させ、ピーク温度800〜900℃において、5〜15分間、トンネル型ベルト焼成炉などで熱処理すればよい。
焼成温度が500℃未満では有機ビヒクルが十分に焼失しないだけでなく、Niなどの導電粉末(a2)が焼成膜の表面から突出しないことがあり、900℃を超えると電子部品の特性に悪影響が出る場合があるので好ましくない。
【0034】
3.厚膜導体
本発明の厚膜導体は、上記の方法によって得られ、導電粉末(a2)の少なくとも一部が端子電極用導電膜の表面から突出してなる厚膜導体である。その膜厚は、10〜20μmであることが好ましい。
【0035】
本発明では、導電粉末(A)が、高い導電率を有する導電粉末(a1)と、平均粒径が7μm以上かつ導電粉末(a1)よりも導電率が低い導電粉末(a2)からなり、しかも、導電粉末(a2)の含有量が、導電粉末(a1)100重量部に対して、4.0〜8.0重量部である厚膜導体形成用組成物を使用するため、導電粉末(a2)の少なくとも一部が端子電極用導電膜の表面から突出となる。これにより、多数の素子を並べて焼成した場合、互いに接触しあって接着しても、素子の導電膜(厚膜導体)同士が導電粉末(a2)によって点接触した電子部品となるので分離しやすい。
【実施例】
【0036】
以下に、本発明の実施例、比較例を示すが、本発明は、これらの実施例によって何ら限定されるものではない。
なお、厚膜導体形成用組成物の性能は、次の方法で測定し評価した。
【0037】
1)接着強度測定は、厚膜導体形成用組成物によって得られた厚膜導体の2.0×2.0mmパッド上に、直径0.65mmφのSnめっき銅線を3.0重量部Ag−0.5重量部Cu―96.5重量部Sn組成の鉛フリーはんだにて、はんだ付けした後、垂直方向に引っ張り、剥離した時点の引張り力を測定した。接着強度測定値は50N以上あれば十分な強度があると判断される。
2)面積抵抗値は、厚膜導体形成用組成物によって得られた厚膜導体の0.6×60.0mmラインの抵抗値を測定し換算した。面積抵抗測定値は4.0mΩ以下であれば良好であると判断される。
3)はんだ濡れは、厚膜導体形成用組成物によって得られた厚膜導体の10.0×10.0mmパッドを245℃に保持した3.0重量部Ag−0.5重量部Cu―96.5重量部Sn組成の鉛フリーはんだ浴に5秒浸漬し、外観を観察した。
4)導体膜の焼結接着は、乾燥後の20.0×20.0mmパッド同士を重ね合わせ、その上に同形状のアルミナ基板を4枚重ね、約10gの荷重を掛け前記のピーク温度800℃で9分間、トータル30分間のベルト炉で焼成し、焼結接着の有無に関して確認した。
5)ライフは、厚膜導体形成用組成物作製後120日後の状態を、分離、凝集等の観点で確認した。
6)なお、導電粉末や酸化物粉末、無機酸化物の粒度を確認するには、公知の粒度解析計(例えば「マイクロトラック」登録商標)を用いた。平均粒径はD50を示し、これは累積粒度分布における粒径のメジアン値である。
【0038】
一方、組成物の成分として、次のものを用いた。
(A)導電粉末
導電粉末(a1):平均粒径1.2μmの粒状Ag粉末と、偏平方向平均長5μmのフレーク状Ag粉末とを2:1で混合した金属粉末。
導電粉末(a2):平均粒径5μm、10μm、17μmのNi粉末(それぞれ、Ni−a、Ni−b、Ni−cという)、平均粒径10μmのW粉末(W−aという)、および平均粒径10μmのMo粉末(Mo−aという)の各金属粉末。
(B)酸化物粉末
SiO30.0重量部、Bi55.0重量部、B8.0重量部、Al4.0重量部、CoO(1.0重量部)、KO(1.0重量部)、LiO(20重量部)からなる平均粒径3μmの硼珪酸ビスマス酸化物粉末に、Zn、アルカリ、アルカリ土類を適宜添加した硼珪酸ビスマスガラス。
(C)有機ビヒクル
樹脂成分:分子量120000のエチルセルロース3.0重量部を、溶剤成分:ターピネオール97.0重量部で溶かした溶液。
【0039】
[実施例1]
導電粉末、酸化物粉末を有機ビヒクルに添加して、三本ロールミルにて分散混練し、本発明の厚膜導体形成用組成物を作製した。表1に示したようにAg粉末を100.0重量部、硼珪酸ビスマスガラスを1.0重量部、Biを8.0重量部、Ni−b粉末を4.0重量部配合している。
この厚膜導体形成用組成物を96%アルミナ基板上にスクリーン印刷し、150℃で乾燥した。乾燥した基板をピーク温度800℃で9分間、トータル30分間のベルト炉で焼成し、所定のパターンの厚膜導体膜を形成し上記記載の方法で厚膜導体を得た。得られたパターンは2.0×2.0mmパッド、0.6×60.0mmライン、10.0×10.0mmパッド、20.0×20.0mmパッドである。
この厚膜導体の膜厚、面積抵抗値、はんだ濡れ性、接着強度、導体同士の焼結接着について得られた結果を表1に示した。面積抵抗値は4.0mΩ以下で、導体同士の焼結接着はなく、はんだ濡れ性も良好で、接着強度も50N以上であった。
【0040】
[実施例2]
Ni−b粉末の含有量を8.0重量部とした以外は、実施例1と同様にして厚膜導体形成用組成物を調製し、上記の方法で厚膜導体を得た。この厚膜導体の膜厚、面積抵抗値、はんだ濡れ性、接着強度、導体同士の焼結接着について測定、評価し、結果を表1に示した。
面積抵抗値は4.0mΩ以下で、導体同士の焼結接着はなく、はんだ濡れ性も良好で、接着強度も50N以上であった。
【0041】
[実施例3]
Ni−b粉末の代わりにW−a粉末を4.0重量部用いた以外は、実施例1と同様にして厚膜導体形成用組成物を調製し、上記の方法で厚膜導体を得た。この厚膜導体の膜厚、面積抵抗値、はんだ濡れ性、接着強度、導体同士の焼結接着について測定、評価し、結果を表1に示した。
面積抵抗値は4.0mΩ以下で、導体同士の焼結接着はなく、はんだ濡れ性も良好で、接着強度も50N以上であった。
【0042】
[実施例4]
Ni−b粉末の代わりにMo−a粉末を4.0重量部用いた以外は、実施例1と同様にして厚膜導体形成用組成物を調製し、上記の方法で厚膜導体を得た。この厚膜導体の膜厚、面積抵抗値、はんだ濡れ性、接着強度、導体同士の焼結接着について測定、評価し、結果を表1に示した。
面積抵抗値は4.0mΩ以下で、導体同士の焼結接着はなく、はんだ濡れ性も良好で、接着強度も50N以上であった。
【0043】
[実施例5]
Ni−b粉末の代わりに平均粒径が大きいNi−c粉末を4.0重量部用いた以外は、実施例1と同様にして厚膜導体形成用組成物を調製し、上記の方法で厚膜導体を得た。この厚膜導体の膜厚、面積抵抗値、はんだ濡れ性、接着強度、導体同士の焼結接着について測定、評価し、結果を表1に示した。面積抵抗値は4.0mΩ以上、はんだ濡れは一部濡れていないが実用上問題とならないレベルであった。接着強度は25N以下であった。導体同士の焼結接着はなかった。
【0044】
[比較例1]
導電粉末としてAg粉末のみを用い、Ni―b粉末を配合しなかった以外は、実施例1と同様にして厚膜導体形成用組成物を調製し、上記の方法で厚膜導体を得た。この厚膜導体の膜厚、面積抵抗値、はんだ濡れ性、接着強度、導体同士の焼結接着について測定、評価し、結果を表1に示した。
面積抵抗値は4.0mΩ以下、はんだ濡れ性は良好で、接着強度も50N以上であったが、導体同士の焼結接着が強く分離出来なかった。
【0045】
[比較例2]
Ni−b粉末の代わりに平均粒径が小さいNi−a粉末を8.0重量部用いた以外は、実施例1と同様にして厚膜導体形成用組成物を調製し、上記の方法で厚膜導体を得た。この厚膜導体の膜厚、面積抵抗値、はんだ濡れ性、接着強度、導体同士の焼結接着について測定、評価し、結果を表1に示した。面積抵抗値は4.0mΩ以上、はんだ濡れは一部濡れていないが実用上問題とならないレベルであった。接着強度は50N以下であった。導体同士の焼結接着はしており、分離しにくかった。
【0046】
[比較例3]
Ni−b粉末の配合量を2.0重量部に減らした以外は、実施例1と同様にして厚膜導体形成用組成物を調製し、上記記載の方法で厚膜導体を得た。この厚膜導体の膜厚、面積抵抗値、はんだ濡れ性、接着強度、導体同士の焼結接着について測定、評価し、結果を表1に示した。
面積抵抗値は4.0mΩ以下、はんだ濡れ性は良好で、接着強度も50N以上であったが、導体同士の焼結接着が強く分離出来なかった。
【0047】
[比較例4]
Ni−b粉末の配合量を10.0重量部に増やした以外は、実施例1と同様にして厚膜導体形成用組成物を調製し、上記記載の方法で厚膜導体を得た。この厚膜導体の膜厚、面積抵抗値、はんだ濡れ性、接着強度、導体同士の焼結接着について測定、評価し、結果を表1に示した。
面積抵抗値は4.0mΩ以上、はんだ濡れ性も悪く、接着強度も25N以下であった。導体同士の焼結接着はなかった。
【0048】
【表1】

【0049】
「評価」
実施例1,2によって、導電粉末として、Ag粉末にNi−b粉末を配合することで、面積抵抗値、はんだ濡れ性、接着強度などの特性を低下させずに導体同士の焼結接着を防ぐ効果があることが分かる。実施例3、実施例4は実施例1のNi粉末の形状・含有量を維持したまま、W粉末、Mo粉末に置換した場合であるが、同等な効果が得られた。実施例5では、実施例1で効果があったNi粉末の粒径を大きくしたが、導体同士の焼結接着を防ぐ効果はあるものの、面積抵抗値、はんだ濡れ性、接着強度が若干悪化した。
【0050】
比較例1は、従来の組成であり、Ag以外の導電粉末を含まない厚膜導体形成用組成物である。比較例2は、実施例2よりも粒径が小さいNi粉末を用いたため、はんだ濡れ性および接着強度を悪化させ、導体同士の焼結接着にも大きな効果がなかった。比較例3からNi−b粉末が少なすぎると、導体同士の焼結接着に効果が現れないことが分かる。比較例4からNi−b粉末が多すぎると、導体同士の焼結接着を防ぐ効果はあるが、面積抵抗値は大きくなり、はんだ濡れ性は悪くなり、接着強度も悪くなることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高い導電率を有する導電粉末(a1)と、導電粉末(a1)よりも導電率が低い導電粉末(a2)からなる導電粉末(A)、酸化物粉末(B)、及び有機ビヒクル(C)を含有する厚膜導体形成用組成物において、
導電粉末(a2)は、平均粒径が7μm以上であり、かつ、導電粉末(a2)の含有量が、導電粉末(a1)100重量部に対して、4.0〜8.0重量部であることを特徴とする厚膜導体形成用組成物。
【請求項2】
導電粉末(a1)が、Ag、Au、Cu、Pd、又はPtから選ばれる少なくとも1種の金属粉末であることを特徴とする請求項1に記載の厚膜導体形成用組成物。
【請求項3】
導電粉末(a1)の融点が、1100℃以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の厚膜導体形成用組成物。
【請求項4】
導電粉末(a1)の平均粒径が、1〜7μmであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の厚膜導体形成用組成物。
【請求項5】
導電粉末(a2)が、Ni、W、又はMoから選ばれる少なくとも1種の金属粉末であることを特徴とする請求項1に記載の厚膜導体形成用組成物。
【請求項6】
導電粉末(a2)の融点が、1300℃以上であることを特徴とする請求項5に記載の厚膜導体形成用組成物。
項1に記載の厚膜導体形成用組成物。
【請求項7】
導電粉末(a2)の平均粒径が、7〜13μmであることを特徴とする請求項1、5又は6に記載の厚膜導体形成用組成物。
【請求項8】
各成分の含有量は、厚膜導体形成用組成物100重量部に対して、導電粉末(A)が45.0〜90.0重量部、酸化物粉末(B)が0.2〜15.0重量部、有機ビヒクル(C)が8.0〜55.0重量部であることを特徴とする、請求項1記載の厚膜導体形成用組成物。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の厚膜導体形成用組成物を、電子部品の素子に塗布し、その後、500〜900℃で焼成して、素子に端子電極用導電膜を形成することを特徴とする厚膜導体の形成方法。
【請求項10】
請求項9に記載の方法によって得られ、導電粉末(a2)の少なくとも一部が端子電極用導電膜の表面から突出してなる厚膜導体。
【請求項11】
端子電極用導電膜の膜厚が、10〜20μmであることを特徴とする請求項10に記載の厚膜導体。

【公開番号】特開2008−53138(P2008−53138A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−230218(P2006−230218)
【出願日】平成18年8月28日(2006.8.28)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】