説明

厚銅シート、それを用いたプリント配線板

【課題】プリント配線板の製造時に、絶縁基板との間の接着力が大きく、また接着の安定性も確保することができ、放熱特性や大電流通電が要求されるプリント配線板の製造に用いて好適な厚銅シートを提供する。
【解決手段】純CuまたはCu合金から成る圧延シートと、圧延シートの片面または両面に形成され、粒径2μm未満の金属粒子(1)および粒径2μm以上の金属粒子(2)が混在した状態で付着して成る粒子付着面とを備えている厚銅シート。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は厚銅シートとそれを用いたプリント配線板に関し、更に詳しくは、プリント配線板の製造時に、絶縁基板との間で大きな接着力を発揮し、かつ安定した接着状態を実現することができるような新規な表面構造を備えていて、例えば放熱性や大電流通電が要求されるプリント配線板の導体回路を形成するときに用いて有効な厚銅シートに関する。
【0002】
【従来の技術】
プリント配線板の製造に際しては、まず絶縁基板の表面に所定厚みの銅箔を重ね合わせたのち熱圧プレスして銅張り積層板を製造し、ついでその銅箔にフォトリソグラフィーとエッチング処理を行って所定パターンの導体回路を形成する。
その場合の銅箔としては、通常、電解銅箔が使用されているが、高屈曲性が要求されるフレキシブル基板用の銅箔には、厚みが12〜35μmの圧延銅箔を使用することが多い。
【0003】
また、最近では、例えば金属コア基板のように大電流を通電するプリント配線板や、LEDが搭載されて優れた放熱性が要求されるプリント配線板(放熱基板)の製造には、厚みが0.2〜3mm程度の厚銅シートが使用されるようになってきた。そして、このような厚みの厚銅シートとしては、一般に、電解銅箔ではなく圧延法で製造された圧延シートが使用されている。
【0004】
圧延シートの場合、銅の鋳塊に熱間圧延と冷間圧延を交互に反復して徐々に薄肉化して製造されるので、厚いほど圧延工程の回数が少なくなるが、電解法で厚銅シートを製造する場合には、長時間の電解を行うことが必要となり、生産性の点で圧延シートの方が優れているからである。
そして、圧延シートの場合、その製造時に、ロール速度、ロール表面の形状、用いる圧延油の粘度、ロール温度などを変化させると、得られた圧延シートの表面状態を様々に変化させることができる。
【0005】
ところで、このようなプリント配線板の製造過程における重要な問題の1つは、絶縁基板と銅箔との接着力を高めて、形成された導体回路が絶縁基板から剥離しないようにすることである。
そのためには、銅箔の表面に、銅の微細粒子を電解めっきによって析出・付着させて当該銅箔の表面に粒子付着面を形成する処理、いわゆる粗化処理を施すことが一般に行われている(特許文献1を参照)。
【0006】
このような粗化処理が施されている銅箔は、絶縁基板と重ね合わせて熱圧プレスしたときに、微細粒子が絶縁基板に喰い込んだ状態で確保されるので、アンカー効果が発現して銅箔と絶縁基板の接着力は大きくなる。
そして、この圧延シートを用いて上記したようなプリント配線板を製造する際にも、圧延シートの表面に粒子付着面を形成して絶縁基板との接着力を確保することが必要であり、現に、0.5〜5μm程度の銅粒子による粗化処理が行われている。
【0007】
【特許文献1】
特公昭56−9028号公報
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
上記した粗化処理において、銅箔表面に付着している微細粒子が大きくなると、一般に、アンカー効果も大きく発現し、また微細粒子の銅箔表面への付着力も大きくなる傾向にあるため、銅箔と絶縁基板間の引き剥がし強さも大きくなる。
しかし他方では、微細粒子と絶縁基板のマトリックス(樹脂)が完全に接触しない無効空間も形成されることがあり、両者間では相互に安定した接着状態が実現しづらいという問題もある。しかも、導体回路の形成時に絶縁基板内に微細粒子が残る、いわゆる粉落ちの起こることが多くなり、このことが、プリント配線板の信頼性を損ねることにもなる。
【0009】
一方、微細粒子が小さくなると、絶縁基板との接着性は均一化し、しかも導体回路の形成後にあってもプリント配線板の信頼性は確保される。しかしながら、他方では、銅箔表面への付着力は小さくなり、またアンカー効果の発現度合も小さくなって、銅箔と絶縁基板の引き剥がし強さは小さくなる。
なお、銅箔表面への微細粒子の析出・付着は、平滑めっきではなく、いわゆる「やけめっき」を適用して実施されているが、その場合、粗化処理時のめっき条件が一定であるとすれば、その粗化処理の過程で析出する微細粒子の大きさは、略同じである。すなわち、その粗化処理により、銅箔表面には、ある大きさの微細粒子が均一に析出・付着して成る粒子付着面が形成されることになる。
【0010】
このことは、付着した微細粒子の大きさによっては、上記した問題のいずれかが発生しやすいということであり、接着の安定性と引き剥がし強さの大きさの両立性を確保する観点からすると改善の余地がある。
本発明は、従来の粒子付着面における上記した問題を解決し、接着の安定性と大きな引き剥がし強さの確保を両立させることが可能である新規な粒子付着面を厚い圧延シートの表面に形成して成る厚銅シートの提供を目的とする。
【0011】
また、本発明は、上記厚銅シートを用いることにより、大電流通電が可能で、また放熱性も良好なプリント配線板の提供を目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
上記した目的を達成するために、本発明においては、純CuまたはCu合金から成る圧延シートと、前記圧延シートの片面または両面に形成され、粒径2μm未満の金属粒子(1)および粒径2μm以上の金属粒子(2)が混在した状態で付着して成る粒子付着面とを備えていることを特徴とする厚銅シートが提供される。
【0013】
その場合、前記金属粒子(2)が、単一の粒子、または少なくとも2個の前記金属粒子(1)が集合して成る集合粒子であり、前記粒子付着面における前記金属粒子(2)の見掛け上の面積占有率が0.5〜60%であり、また、前記圧延シートの表面粗さが、JIS B 0601:2001の付属書1(参考)で規定する十点平均粗さ(RzJIS)で0.8μm以下であることを好適とする。
【0014】
【発明の実施の形態】
本発明の厚銅シートは、圧延シートの表面に粒子付着面が形成されていることは従来と同様である。しかし、この粒子付着面は、圧延シートの表面の全面に粒径2μmよりも小さい金属粒子(1)が均質に付着し、そしてこの金属粒子(1)の一部が粒径2μm以上の大きい金属粒子(2)で置換されていて、全体としては、金属粒子(1)と金属粒子(2)が混在した状態になっていることを最大の特徴とする。
【0015】
そして、この粒子付着面を絶縁基板と重ね合わせたのち熱圧プレスをして、本発明の厚銅シートは実使用に供される。
この粒子付着面の1例の走査電顕写真(倍率1000倍)を図1に示す。
図1において、一面に分布する小さい粒子が本発明における金属粒子(1)であり、この金属粒子(1)の分布面の中に点在して分散する大きい粒子が本発明における金属粒子(2)である。
【0016】
なお、上記した金属粒子(1)と金属粒子(2)は、いずれも、圧延シートの表面に電解めっきを適用して析出・付着される。その場合、金属粒子(2)は、後述する圧延シートとめっき条件を採用することにより、それ自体が粒径2μm以上の単一の粒子として、または、2個以上の金属粒子(1)が互いに集合して一体化し、全体で粒径が2μm以上になっている集合粒子として形成されている。
【0017】
本発明の厚銅シートの場合、絶縁基板との接着時にあっては、粒子付着面における金属粒子(1)が、主として、接着の安定性の確保に寄与し、金属粒子(2)が、主として、充分なアンカー効果を発揮して引き剥がし強さの確保に寄与する。
すなわち、本発明の厚銅シートの場合、その表面に上記した粒子付着面が形成されているので、絶縁基板との接着時にあっては、小径であるため充分なアンカー効果を発揮しないとはいえ、金属粒子(1)によって接着の安定性が確保され、また大径であるため接着の安定性の確保に難があるとはいえ、充分なアンカー効果を発揮する金属粒子(2)によって大きな引き剥がし強さが確保される。
【0018】
このように、接着の安定性の確保と引き剥がし強さの確保を両立させるために、本発明では、金属粒子(1)と金属粒子(2)の粒径、および両粒子の存在割合に関して以下のような規定を与える。
まず、金属粒子(1)の粒径は2μm未満に設定される。この粒径が2μm以上になると、アンカー効果の発揮には寄与するようになるが、他方では絶縁基板(樹脂)と接着しない無効空間も発生しはじめて接着性が不安定化しはじめ、本来の果すべき機能が劣化するからである。
【0019】
しかしながら、粒径を小さくしすぎると、アンカー効果の発揮に全く寄与しなくなるとともに、そもそもが均一な粒径の粒子として形成されず、また圧延シート表面との付着力も低下してしまう。
このようなことから、金属粒子(1)の粒径は0.5〜1.5μmの範囲内に調整することが好ましい。
【0020】
一方、金属粒子(2)の粒径は2μm以上に設定される。この粒径が2μm未満になると、上記した金属粒子(1)と区別されない状態となり、接着性の安定化には寄与するとはいえ、アンカー効果は充分に発揮されず、結局、引き剥がし強さは低下するからである。
しかしながら、この粒径を大きくしすぎると、絶縁基板(樹脂)との間に多数の無効空間が発生して接着の安定性が大幅に劣化するとともに、導体回路の形成時に粉落ちが起こることがある。
【0021】
このようなことから、金属粒子(2)の粒径の上限は、5μm程度で抑えることが好ましい。
また、粒子付着面における金属粒子(2)の見掛け上の面積占有率は0.5〜60%となるように、金属粒子(2)を付着させることが好ましい。
この面積占有率が0.5%より小さい場合は、アンカー効果の発揮に寄与する金属粒子(2)が少なすぎて、引き剥がし強さは小さくなり、逆に60%より大きい場合は、金属粒子(1)が少なすぎて接着の安定性は劣化するとともに、導体回路の形成時に粉落ちが発生するようになる。
【0022】
金属粒子(2)の粒子付着面におけるより好ましい面積占有率は2〜30%である。
なお、ここでいう面積占有率は、図1の写真(2次元)において、ある視野の大きさをS、その視野内で観察されるここの金属粒子(2)の平面視面積の総和をSとしたときに、100×S/S(%)のことを指す。
【0023】
次に、粒子付着面の形成に関して説明する。
従来から、圧延銅箔の表面に銅粒子を付着させる方法は、いわゆるやけめっきを応用して実施されている。その場合、電解条件を調整することにより、銅粒子の粒径の大小、付着個数の多寡などがある程度制御されている。
例えば、電解液として硫酸銅溶液と硫酸の混合溶液を用い、カソードに処理対象の銅箔、アノードに例えば鉛板を用い、基本的には、カソードの限界電流密度より高い電流密度を採用して実施されている。
【0024】
その場合、電解液中の銅イオン濃度、液撹拌の度合、カソードにおける水素の発生状態、アノードにおける酸素の発生状態などによっても異なってくるが、一般に、通電時の電気量が大きくなればなる程銅箔表面に析出する銅粒子の粒径は大きくなるということが知られている。
しかしながら、その場合に析出する全ての銅粒子の粒径は、採用した電解条件で決まり、略一定の値になる。
【0025】
仮に、粒径が有意差をもって異なる2種類の銅粒子を析出させる場合には、2種類の電解条件を採用することが必要になる。
例えば、初期段階において低い電流密度で一定時間の電解めっきを行うことにより、銅箔表面の全面に粒径が小さい銅粒子を析出し、ついで電流密度を高めて粒径が大きい銅粒子を析出させる。
【0026】
この方法によれば、確かに粒径が異なる銅粒子を銅箔表面に析出させることはできる。しかしながら、この場合には、小粒子の上に大粒子が重なって析出しているにすぎず、小粒子の群落の中に大粒子が分散・混合して析出しているという態様にはなっていない。
すなわち、従来のやけめっきの単純な応用では、既に説明し、また図1で示したような粒子付着面を形成することはできない。
【0027】
この点を踏まえて、本発明者は、表面粗さが異なる銅の圧延シートの表面に、1回の電解めっきで銅粒子を析出させるための実験を重ねたところ、表面が粗い圧延シートの場合は小さい粒径の銅粒子が全面に析出するだけであるが、圧延シートの表面が平滑になるにつれて、大きい粒径の銅粒子が混在してくるという事実を見出すに至った。
【0028】
その場合、圧延シートの表面粗さが、JIS B 0601:2001の附属書1(参考)で規定する十点平均粗さ(RzJIS)で0.8μm以下になっていると、大きい粒径の銅粒子が析出しはじめ、とくにRzJIS値が0.5μm以下になっていると大きい粒径の銅粒子は前記した面積占有率で確実に析出・付着してくることを確認することができた。
【0029】
すなわち、RzJIS値が0.8μm以下である圧延シートを用いて電解めっきを行うと、その表面には、前記した金属粒子(1)と金属粒子(2)が混在した状態になっている粒子付着面を形成することができる。
この現象のメカニズムは次のように考えられる。
圧延シートの表面は、前記したように、その製造条件の影響を受けて完全な平滑面ではなく、複雑な凹凸面になっていて、概ね、そのRzJIS値は0.3〜1.5μmである。
【0030】
そして、圧延シートの表面には、通常、長円形をした結晶粒が表出していて、それら結晶粒間には粒界が走っており、この粒界は活性点になっている。
RzJIS値が大きい圧延シートの場合、結晶粒の平均粒径は15〜40μmと大きく、粒界で囲まれた結晶粒の表面の凹凸も大きく、ここも活性点になっている。
【0031】
このような圧延シートに電解めっきを行い、金属粒子の析出が始まると、小さい粒径の金属粒子がまず活性点である粒界に沿って線状に析出する。そして、時間経過とともにこの線状に析出した粒子が肥大化し、また粒界内の凹凸においても同時に粒子が線状に析出し、これも同様に肥大化していき、粒子の析出は2次元的に広がっていく。
【0032】
したがって、RzJIS値が大きい圧延シートの場合は、ある1種類の粒径の金属粒子が全面に亘って析出していくのみである。
これに対して、RzJIS値が小さい圧延シートの場合は、粒界で囲まれた結晶粒表面の凹凸が小さいのでそこにおける活性点も少ない。すなわち、活性点の多くは粒界に存在しており、粒界で囲まれた結晶粒の表面にはわずかな活性点が点状に存在しているにすぎない。
【0033】
したがって、この圧延シートに電解めっきを行うと、粒界で囲まれた内側の結晶粒の表面においては、この点状活性点に析出が集中する。そのため、大きい粒径の金属粒子または小さい粒径の金属粒子が集合してなる集合粒子が、まず、この点状活性点に集中して析出する。一方では粒界に沿って小さい粒径の金属粒子が線状に析出していく。
【0034】
そして、時間経過とともに、大きい粒径の粒子の周囲には小さい粒径の析出とその肥大化が進み、また粒界における粒子の肥大化が進み、ここに、金属粒子(1)と金属粒子(2)が混在する粒子付着面になる。
このようなことから、圧延シートのRzJIS値が大きければ大きいほど、線状の活性点は多くなるが、上記した点状活性点は少なくなるのであるから、形成された粒子付着面における金属粒子(2)の面積占有率は小さくなる。
【0035】
大きな引き剥がし強さの確保と金属粒子の脱落防止の点からすると、圧延シートのRzIS値は0.3〜0.7μmにすることが好ましい。
なお、電解銅箔の場合、RzJIS値が最も小さい電解銅箔であっても、M面、S面ともにRzJIS値は1.5μm以上であり、点状活性点は存在しない。したがって、電解銅箔の表面に本発明の粒子付着面を形成することは不可能である。
【0036】
本発明の厚銅シートの製造に用いる圧延シートは、純CuまたはCu合金から成る。例えば、無酸素銅、タフピッチ銅、リン脱酸銅の圧延シートや、Cu−Ag、Cu−Sn、Cu−Zr、Cu−Be、Cu−Sn−Cr、Cu−Fe−P、Cu−Zn−P、Cu−Fe−Sn−Zn、Cu−Cr−Zn−Sn、Cu−Ni−Si−Zn−AgまたはCu−Ni−Si−MgのいずれかのCu合金から成る圧延シートを用いることができる。
【0037】
Cu合金は、純Cuに比べて耐熱性が高いので、厚銅シートと絶縁基板に重ね合わせて熱圧プレスしたときに、厚銅シートがなまるという事態を招かないので好適である。
そして、圧延シートの厚みは格別限定されるものではないが、製造したプリント配線板の放熱性や大電流通電のことを考慮すれば150μm以上であることが好ましい。
【0038】
金属粒子(1)と金属粒子(2)の材料としては、純CuまたはCu合金が用いられる。とくに、Cu合金は、絶縁基板(樹脂)との間で化学的結合力が発生し、圧延シートと絶縁基板(樹脂)との引き剥がし強さを増すことができて好適である。
このようなCu合金としては、例えばCu−Ni、Cu−Co、Cu−Ni−Coなどをあげることができる。その場合、Cuの含有率は、導電性と放熱性の関係から95質量%以上にすることが好ましい。
【0039】
圧延シートの表面へ粒子付着面を形成するに際しては、圧延シートをカソードにして例えば次のような電解条件を適用する。
電解液:硫酸銅0.1〜1mol・dm−3、硫酸0.1〜1mol・dm−3の混合溶液。液温20〜40℃。カソードの電流密度0.5〜10kA・m−2。通電時間3〜20sec。
【0040】
圧延シート表面のRzJIS値を0.8μm以下にすることにより、上記した条件の電解めっきを1回行うだけで、前記したメカニズムに基づいて、圧延シートの表面には、金属粒子(1)と金属粒子(2)が混在する粒子付着面が形成される。
なお、Cu合金の圧延シートの場合、その表面を銅の表面状態とするために、圧延シートの表面に、予め平滑銅めっきを施し、その後、粒子付着面を形成してもよい。また、圧延シートがCu合金でなくても、表面を整えるために、平滑銅めっきを施してもよい。
【0041】
いずれの場合も、平滑銅めっきの厚みは、通常、0.1〜1μm程度にする。この程度の厚みであれば、圧延シートの表面に存在する活性点が平滑銅めっきの表面に転写されるので、本発明の粒子付着面を形成することができる。
また、形成された粒子付着面に対し例えば小量の平滑銅めっきを行うことにより、金属粒子と圧延シート間の機械的強度を高めることができる。
【0042】
この厚銅シートの粒子付着面と絶縁基板とを重ね合わせたのち、全体に熱圧プレスを行って両者を接着し、ついで厚銅シートにフォトリソグラフィーとエッチング処理を行って所定パターンの導体回路を形成することにより、本発明のプリント配線板が製造される。エッチング処理を行わずに、回路を機械的に裁断した圧延シートを絶縁基板と重ね合わせて配線板にしてもよい。
【0043】
このプリント配線板は、絶縁基板と導体回路との接着力が大きく、かつ高い信頼性を備えており、また、導体回路は大電流通電が可能で、かつ放熱性も優れているので、例えば白色LED搭載用配線板や、電気自動車用のプリント配線板として有効である。
【0044】
【実施例】
実施例1〜10、比較例1
(1)シートの製造
厚みが0.4mmで、表1で示したRzJIS値の圧延タフピッチ銅条、または表1で示した銅合金の条を縦630mm、横580mmに切断して、RzJIS値につき各6枚の圧延シートを用意した。
【0045】
それぞれの圧延シートの片面の全面をポリエステルフィルムで被覆し、その反対面については、下記の仕様で、集電部を除いて額縁状にポリエステル粘着テープで被覆した。
すなわち、まず縦方向の上側20mmの位置から50mmの幅をポリエステル粘着テープで被覆して露出部を形成してそれを集電部とし、ついで縦方向の下側20mmの幅と横方向の左右20mmの幅をポリエステル粘着テープで被覆した。なお、厚み方向の表面も被覆してある。
【0046】
このようにして、金属粒子の析出面が縦540mm、横540mmになっている試料を製作した。
内寸法が縦600mm、横603mm、幅50mmであるポリ塩化ビニル製の電解槽を用意し、その片面に縦650mm、横600mm、厚み2mmのPb−Sb合金板をアノードとして配置した。
【0047】
ついで、硫酸銅0.3ml・dm−3、硫酸0.3ml・dm−3の混合溶液20dmを用意し、これを電解槽に入れ液温を25℃に保持した。
ついで、各試料をエタノールに浸漬して脱脂し、乾燥したのち、濃度0.1mol・dm−3の硫酸(室温)に60秒浸漬し、水洗したのち、電解槽にカソードとして配置した。カソードとアノードの極間距離は40mmに設定した。
【0048】
電流密度1.0kA・m−2で10秒間の電解めっきを行い、通電終了後は直ちに試料を電解槽から取出した。水洗後水切りを行ったのち、濃度0.1mol・dm−3のクロム酸(CrO)溶液に30秒浸漬して防錆処理を行った。
最後に、水洗・乾燥を充分に行って、特性評価した。
(2)特性評価
RzJIS値が0.3μmである圧延シートを用いて製作した試料(実施例1)6枚の中から任意に1枚を取出し、粗化処理面の略中央を10mm角に切り出し、その粗化面を走査電顕(倍率1000倍)で観察した。
【0049】
結果は、図1で示したように、全面に付着している小さい金属粒子(1)の中に大きい金属粒子(2)が混在して分布していた。
ついで、電顕写真の視野(80mm×80mm)内において、粒径が2μm未満の金属粒子(1)の全数につきその粒径、粒径が2μm以上の金属粒子(2)の全数につきその粒径をそれぞれ計測し、それぞれの平均粒径を求めた。また、金属粒子(2)の面積占有率を算出した。
【0050】
各試料1枚につき、厚み0.1μmの市販のFR−4プリプレグ10枚を積層し、全体に、圧力2.5MPa、温度180℃で約90分の熱圧プレスを行って銅張り積層板を製造した。
ついで、最上層の試料にエッチング処理を行って、厚み70μmにまで試料を薄肉化したのち、長さ100mm、幅10mmの引き剥がし強さ測定用の試片を切り出し、それを用いて引き剥がし強さを測定した。また、この測定時に樹脂基板側に残る金属粒子の有無(粉落ちの有無)を観察した。
【0051】
以上の結果を一括して表1に示した。
なお、表1において、実施例4の場合は電解液として、更に硫酸コバルト0.1mol・dm−3を加え、実施例5の場合は硫酸ニッケル0.1mol・dm−3を加えたことを除いては、他の条件は全て同じである。
【0052】
【表1】



【0053】
表1から次のことが明らかである。
比較例1の場合、圧延シートのRzJIS値が大きいので、電解めっき後は小さい粒径の金属粒子(1)のみが付着していて、大きい粒径の金属粒子(2)は全く付着していない。そのため、粉落ちはおこっていないものの引き剥がし強さは低い値になっている。
【0054】
これに反し、実施例の場合は、いずれも、金属粒子(1)と金属粒子(2)が混在した状態で付着していて、それらを用いた場合の引き剥がし強さは高い。
このようなことから、圧延シートのRzJIS値は0.8μm以下にすることが好適であるといえる。
しかしながら、実施例6の場合、電解めっき時の電流密度が高すぎるので、析出した金属粒子(1)、金属粒子(2)は大きくなりすぎて、引き剥がし強さは高いが、他方では粉落ちが起こりはじめている。このようなことから、あまり高い電流密度を採用することは避けた方がよい。
【0055】
【発明の効果】
以上の説明で明らかなように、本発明の厚銅シートは、絶縁基板と熱圧プレスしたときに絶縁基板との引き剥がし強さが大きく、また粉落ちも起こさず、その接着性の信頼度は高い。これは、圧延シートの表面に、当該圧延シートの表面特性を利用することにより、小さい粒子の金属粒子(1)と大きい粒子の金属粒子(2)が混在した粒子付着面を形成したからである。
【0056】
この厚銅シートは、Al材に比べてその熱伝導率が優れ、放熱性も優れているので、大電流通電用のプリント配線板や白色LED用のプリント配線板を製造するときの素材として好適である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の厚銅シートにおける粒子付着面の走査電顕写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
純CuまたはCu合金から成る圧延シートと、前記圧延シートの片面または両面に形成され、粒径2μm未満の金属粒子(1)および粒径2μm以上の金属粒子(2)が混在した状態で付着して成る粒子付着面とを備えていることを特徴とする厚銅シート。
【請求項2】
前記金属粒子(2)が、単一の粒子、または少なくとも2個の前記金属粒子(1)が集合して成る集合粒子である請求項1の厚銅シート。
【請求項3】
前記粒子付着面における前記金属粒子(2)の見掛け上の面積占有率が0.5〜60%である請求項1または2の厚銅シート。
【請求項4】
前記金属粒子(1)と前記金属粒子(2)は、いずれも、Cu含有率が95質量%以上である請求項1〜3のいずれかの厚銅シート。
【請求項5】
前記圧延シートの表面粗さが、JIS B 0601:2001の付属書1(参考)で規定する十点平均粗さ(RzJIS)で0.8μm以下である請求項1の厚銅シート。
【請求項6】
前記圧延シートの厚みが150μm以上である請求項1または5の厚銅シート。
【請求項7】
前記Cu合金が、Cu−Ag、Cu−Sn、Cu−Zr、Cu−Be、Cu−Sn−Cr、Cu−Fe−P、Cu−Zn−P、Cu−Fe−Sn−Zn、Cu−Cr−Zn−Sn、Cu−Ni−Si−Zn−AgまたはCu−Ni−Si−Mgのいずれかである請求項1の厚銅シート。
【請求項8】
絶縁基板の片面または両面に、請求項1〜7のいずれかの厚銅シートの粒子付着面が接着され、前記厚銅シートが導体回路に加工されていることを特徴とするプリント配線板。
【請求項9】
熱伝導媒体に使用される請求項8のプリント配線板。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2005−15897(P2005−15897A)
【公開日】平成17年1月20日(2005.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2003−185592(P2003−185592)
【出願日】平成15年6月27日(2003.6.27)
【出願人】(000231626)日本製箔株式会社 (49)
【Fターム(参考)】