説明

原子共振器を使用した周波数発生のためのデバイス、システム、および方法

固体原子クロックは、周波数標準を生成するために、超微細共振を示すことが可能な量子状態を利用する可能性がある。出力信号を生成するために自由走行発振器を超微細共振周波数に結合することが可能なデバイスが本明細書で述べられる。本発明のある態様では、原子クロックは、シリコン基材上で作製されてもよく、また、電子集積回路の一部として、チップスケールで集積化されてもよい。固体原子クロックを利用した動作原理、作製方法、およびシステムもまた開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
一部の実施形態は、一般に、周波数発発生の分野に関し、より詳細には、原子共振器を使用した周波数発生に関する。
【背景技術】
【0002】
今日、ハイエンド周波数標準基準は、比較的コストが高く、サイズが大きく、電力消費が高いなどである。非常に高い変調周波数を使用する、限定はしないが、全地球測位システム(global positioning system)(GPS)および/または可搬型GPSシステム、携帯電話システムおよび/または可搬型携帯電話および/またはサイズが小さくコストが低い携帯電話基地局、高速電気通信システム、ならびに他の高速通信リンクなどのデバイスおよび/またはシステムの急速な展開は、サイズが小さく、コストが低く、電力消費が低い、安定し、精密で、正確な周波数標準基準を必要とする。これらの問題の関するさらなる情報は、その全体の開示が、参照により本明細書に組込まれる、以下の参考文献、M.A.Sturza著「GPS navigation Using Three Satellites and a Precise Clock」Global Positioning System, VOL.2.Washigton,DC:Institute of Navigation,1984,pp.122−132、J.MurphyおよびT.Skidmore著「A low−cost atomic clock:impact on the national airspace and GNSS availability」Proceedings of ION GPS−94;7th International Meeting of the Satellite Division of the institute of Navigation.Salt lake City,UT,1994,pp.1329−1336、H.Fruehauf著「Fast「direct−P(Y)」GPS signal acquision using a special portable clock」33rd Annual Precise Time and Time Interval(PTTI)Meeting.Long Beach,CA,2001,pp.359−369、および/または、J.A.KustersおよびC.A.Adams著「Performance requirements of communication base station time standardas」RF design,28−38(1999)に見出されうる。
【0003】
石英結晶発振器は、一方では、最も一般的に使用されるローカル周波数標準であるが、多くの場合、十分に正確でなく、長期周波数ドリフト、大きなサイズおよび高い電力消費ならびに比較的高いコストを有し、高性能石英結晶発振器の場合、これらの欠点が、石英結晶発振器を上記用途に適さなくさせる。
【0004】
他方、ルビジウム(Rb)またはセシウム(Cs)ガスベースの原子クロックは、非常に正確であり、また、高い長期周波数安定性を有する。しかし、ガスベースの原子クロックは、サイズが大きく、電力消費が高く、製造コストが高い。
【0005】
US特許7142066は、超微細遷移を示すことが可能な実質的に単離された粒子を含む原子クロックを記載する。クロックのアライメントデバイスは、粒子のスピンの支配的な方向を確立する可能性がある。クロックは、粒子を励起することによって、一定時間間隔で粒子に超微細遷移を受けさせる励起デバイスを含んでもよい。クロックの検出デバイスは、粒子の超微細遷移を検出してもよい。US特許7030704は、固体内の常磁性イオンの超微細スペクトルから基準周波数を導出する周波数標準を記載する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
一部の実施形態は、たとえば、固体原子共振器を使用した周波数発生のためのデバイス、システム、および方法を含む。
【0007】
一部の実施形態では、デバイスは、固体原子共振器モジュールによって提供される入力信号に従って、制御発振器を制御するための信号を提供するフィードバックと、入力信号に従って周波数逓倍器に対して出力周波数を生成する制御発振器と、入力信号の周波数に関連する周波数を有する出力マイクロ波信号を生成する周波数逓倍器と、超微細遷移を示すことが可能な色中心を有する固体原子共振器モジュールとを含み、固体原子共振器モジュールは、周波数逓倍器からマイクロ波信号を受信し、マイクロ波信号の周波数と色中心の超微細共振周波数の周波数との周波数差に関連する出力信号を生成し、出力周波数はマイクロ波信号の周波数に関連する。
【0008】
一部の実施形態では、固体原子共振器は、偏光コントローラに光を照射する光源と、光がそこを通り、光減衰器に光を照射する偏光コントローラと、光がそこを通り、光フィルタに光を照射する光減衰器と、光がそこを通り、光中心と相互作用し、かつ、固体原子共振器に光を照射する光フィルタと、光がそこを通り、光フィルタに光を照射する固体原子共振器と、光がそこを通り、原子共振器モジュールの出力信号を生成する光検出器に光を照射する光フィルタと、原子共振器を取り囲む光キャビティと、原子共振器を取り囲むマイクロ波キャビティと、入力マイクロ波信号を受信し、固体原子共振器上に出力マイクロ波電磁波を送信するマイクロ波要素と、原子共振器を取り囲む磁気シールドとを含む。
【0009】
一部の実施形態では、色中心は、ダイアモンド内の窒素−空孔色中心である。
【0010】
一部の実施形態では、固体原子共振器は、窒素−空孔色中心によって埋め込まれたダイアモンド結晶を含む。
【0011】
一部の実施形態では、固体原子共振器は、窒素−空孔色中心によって埋め込まれたダイアモンドナノ結晶を含む。
【0012】
一部の実施形態では、光キャビティは、一組の異なる光屈折率の交互平行膜を含む。
【0013】
一部の実施形態では、光キャビティは、フォトニック結晶構造内に配置された(position)一組の異なる光屈折率を含む。
【0014】
一部の実施形態では、固体原子共振器は、入力マイクロ波信号を受信し、入力マイクロ波信号によって変調される出力光を生成するマイクロ波変調光源であって、偏光コントローラに光を照射する、マイクロ波変調光源と、光がそこを通り、光減衰器に光を照射する偏光コントローラと、光がそこを通り、光フィルタに光を照射する光減衰器と、光がそこを通り、固体原子共振器に光を照射する光フィルタと、光がそこを通り、光フィルタに光を照射する固体原子共振器と、光がそこを通り、原子共振器モジュールの出力信号を生成する光検出器に光を照射する光フィルタと、原子共振器を取り囲む光キャビティと、原子共振器を取り囲む磁気シールドとを含む。
【0015】
一部の実施形態では、固体原子共振器内の色中心は、ダイアモンド内の窒素−空孔色中心である。
【0016】
一部の実施形態では、固体原子共振器は、窒素−空孔色中心によって埋め込まれたダイアモンド結晶を含む。
【0017】
一部の実施形態では、固体原子共振器は、窒素−空孔色中心によって埋め込まれたダイアモンドナノ結晶を含む。
【0018】
一部の実施形態では、光キャビティは、一組の異なる光屈折率の交互平行膜を含む。
【0019】
一部の実施形態では、光キャビティは、フォトニック結晶構造内に配置された一組の異なる光屈折率要素を含む。
【0020】
一部の実施形態では、周波数基準を取得する方法であって、マイクロ波信号を生成する行為と、マイクロ波信号の周波数を、固体材料内の色中心の超微細分裂の共振周波数の周波数と比較する行為と、マイクロ波周波数を、色中心共振周波数に対して調整する行為と、マイクロ波周波数を必要とされる周波数に対して再スケーリングする行為と、再スケーリングされた周波数を出力する行為とを含み、それにより、出力周波数は、色中心共振周波数の周波数を基準にする。
【0021】
一部の実施形態では、システムは、実質的に、
入力および出力ユニットと、中央処理ユニットと、メモリユニットと、電子回路要素と、クロック収集アルゴリズムと、固体原子クロックであって、色中心共振に対するマイクロ波周波数信号の共振結合デバイス、窒素−空孔色中心原子共振器、周波数再スケーリング電子回路要素を含む、固体原子クロックとを実質的に含む。
【0022】
一部の実施形態では、デバイスは、単一半導体基材上に集積化される。
【0023】
一部の実施形態では、全体のシステムが単一半導体基材上に集積化される周波数のシステム。
【0024】
一部の実施形態は、他のおよび/またはさらなる利益および/または利点を提供する可能性がある。
【0025】
例証を簡潔かつ明瞭にするために、図に示す要素は、必ずしも一定比例尺に従って描かれていない。たとえば、提示を明確にするために、要素の一部の寸法は、他の要素に対して誇張される可能性がある。さらに、参照数字は、対応するかまたは類似の要素を示すために図の中で繰返される可能性がある。図は以下に挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】図1は、一部の実証的な実施形態による固体原子クロック(solid-state atomic clock)(SSAC)を概略的に示す。
【図2】図2aおよび2bは、一部の実施形態による超微細分裂のエネルギー準位の略図である。
【図3】図3a、3b、および3cは、一部の実施形態による超微細分裂の強度対周波数スペクトルを示すグラフを概略的に示す。
【図4】図4は、1つの実証的な実施形態による固体原子共振器モジュールを概略的に示す。
【図5】図5は、別の実証的な実施形態による固体原子共振器モジュールを概略的に示す。
【図6】図6は、一部の実証的な実施形態によるNV中心を埋め込まれた光キャビティを概略的に示す。
【図7a】図7aは、一部の実証的な実施形態によるNV色中心のエネルギー図を概略的に示す。
【図7b】図7bは、一部の実証的な実施形態によるダイアモンド内のNV中心の構造を概略的に示す。
【図8】図8aは、一部の実証的な実施形態による固体原子クロックを含むチップを概略的に示す。図8bは、一部の実証的な実施形態による原子共振から周波数基準標準を取得する主要な方法を概略的に示す。図8cは、一部の実証的な実施形態による固体原子クロックを利用する汎用電子モジュールおよび/またはシステムを概略的に示す。
【図9】図9aは、一部の実証的な実施形態によるGPS受信機を概略的に示す。図9bは、一部の実証的な実施形態による携帯電話基地局を概略的に示す。図9cは、一部の実証的な実施形態によるセキュア通信システムを概略的に示す。
【図10】図10aは、一部の実証的な実施形態による携帯電話測位システムを概略的に示す。図10bは、一部の実証的な実施形態によるインターネットプロトコルTV(IPTV)を概略的に示す。図10cは、一部の実証的な実施形態によるホッピング無線システムを概略的に示す。
【図11】図11aは、一部の実証的な実施形態による通信局を概略的に示す。図11bは、一部の実証的な実施形態による測位システムを有する携帯電話ハンドセット受信機を概略的に示す。図11cは、一部の実証的な実施形態によるホールドオーバシステムを有する携帯電話ハンドセット受信機を概略的に示す。
【図12】図12aは、一部の実証的な実施形態によるバースト無線通信システムを概略的に示す。図12bは、一部の実証的な実施形態による敵味方識別装置(Identification Friend or Foe)(IFF)モジュールを概略的に示す。図12cは、一部の実証的な実施形態による測定モジュールおよび/または測定システムを概略的に示す。
【図13】図13aは、一部の実証的な実施形態による時間サーバを概略的に示す。図13bは、一部の実証的な実施形態による精密ネットワーク解析器システムを概略的に示す。図13cは、一部の実証的な実施形態による料金請求システムを概略的に示す。
【図14】図14aは、一部の実証的な実施形態によるレーダシステムを概略的に示す。図14bは、一部の実証的な実施形態による時間サーバを概略的に示す。図14cは、一部の実証的な実施形態によるソナーシステムを概略的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下の詳細な説明では、一部の実施形態の完全な理解を提供するために、多数の特定の詳細が述べられる。しかし、一部の実施形態は、これらの特定の詳細無しで実施されてもよいことが当業者によって理解されるであろう。他の例では、説明を曖昧にしないように、よく知られている方法、プロシージャ、コンポーネント、ユニット、および/または回路は詳細に述べられなかった。
【0028】
別途特に述べない限り、以下の説明から明らかであるように、仕様全体を通して、「処理する(processing)」、「コンピューティングする(computing)」、「計算する(calculating)」、「確定する(determining)」などのような用語を利用する説明は、コンピューティングシステムのレジスタおよび/またはメモリ内の電子量などの物理量として表されるデータを、コンピューティングシステムのメモリ、レジスタ、あるいは、他のこうした情報格納デバイス、伝送デバイス、または表示デバイス内の物理量として同様に表される他のデータに操作するかつ/または変換する、コンピュータまたはコンピューティングシステムあるいは同様な電子コンピューティングデバイスのアクションおよび/またはプロセスを指すことが理解される。さらに、用語「複数の(plurality)」は、仕様全体を通して、2つ以上のコンポーネント、デバイス、要素、パラメータなどを述べるのに使用されてもよい。
【0029】
一部の実施形態は、種々の用途で使用されてもよいことが理解されるべきである。本発明の実施形態はこの点に限定されないが、本明細書で開示される方法、デバイス、および/または、システムの1つまたは複数は、多くの用途、たとえば、民間用途、軍事用途、または任意の他の適した用途で使用されてもよい。
【0030】
周波数標準は、周波数基準として物理的周波数共振を必要とする。この共振は、長期周波数安定性、低コスト、小さなサイズ、および低電力消費を有するべきである。周波数において使用される最も一般的な共振は、純粋な原子結晶(たとえば、石英結晶)の、かつ/または、原子、イオン、および分子の(たとえば、RbおよびCsの)量子状態間の遷移による、機械的共振である。こうした遷移のほとんどは、光周波数に相当し、遷移が、電気信号に結合することを難しくする、または、他の場合には、周波数差が、小さ過ぎて、高い周波数精度を許容できない。
【0031】
一般に、周波数源は、2つのカテゴリ、すなわち、水晶発振器および原子クロックに分けられる。
【0032】
水晶発振器は、石英結晶の機械的共振に基づく。こうした発振器は、著しく低い温度安定性を有する。水晶発振器は、非常に低い周波数安定性および精度を有する自由走行発振器から、ある程度良好な(依然として原子クロックの安定性および精度より低い)短期周波数精度および安定性を有するオーブン温度制御水晶(oven temperature controlled crystal)(OCXO)発振器までさまざまである。しかし、OCXOが良好な短期周波数安定性を有していても、水晶発振器の長期周波数安定性は低い(長い期間、数日、数週間、または数ヶ月にわって、その周波数がドリフトするであろう)。さらに、水晶発振器は、電力消費が大きく、かつ/または、サイズが大きい。水晶発振器の別の欠点は、共振器の低い製造収率である。通常、共振器は、石英結晶の精密切削物であり、結晶切削は、非常に正確でかつ石英結晶の特別な方向に沿っているべきである。このプロセスの複雑さは、非常に高く、どんな偏差も、共振周波数の誤差をもたらすことになる。したがって、こうした発振器の場合、収率が低く、結果として、製造コストが高い。さらに、水晶発振器は、シリコン基材および/または電子集積回路上に完全に集積化されることができない。
【0033】
ガスベースの原子クロックは、ガス相におけるRbまたはCs原子の原子エネルギー遷移に基づく。これらのタイプの原子クロックは、長期安定性および高精度の周波数出力を生成するために、原子エネルギー準位を使用する。通常、ガスベースの原子クロックは、周波数共振として、ガス状態のRbまたはCs原子の超微細エネルギー準位分裂を使用する。従来の原子クロックは、費用がかり、大きく、高い電力消費を必要とする。これらの特徴は、原子クロックが商品になることを妨げる。小さなサイズの原子クロックは、実現されることができるとしても、依然としてここで述べた欠点にさらされ、この技術は、今日まで未完成である。
【0034】
ガスベースの原子クロックは、ルビジウム87またはセシウム133原子の蒸気を充填されたセルを含む原子共振器を含む。これらの原子は、非常に正確でかつ安定した超微細基底状態エネルギー分裂を有する。したがって、正確でかつ安定した周波数信号は、外部電磁信号をこのエネルギー準位分裂に結合させることによって生成される可能性がある。このタイプのガスベースの原子クロックは、非常に高い長期周波数精度を有し、非常に信頼性が高い可能性があり、60年以上にわたって、入手可能な最も正確な市販の原子クロックであった。しかし、ガスベースの原子クロックは、以下の欠点、すなわち、高い電力消費、高いコスト、大きなサイズ、重力衝撃に対する比較的高い感度、長いウォームアップ時間、セルが一定の作動温度まで加熱されるべきであること、にさらされ、また、組立、製造するのが非常に複雑である。さらに、水晶発振器は、シリコン基材および/または電子集積回路上に完全に集積化されることができない。これらの欠点は、ガスベースの原子クロックが、小型になること、可搬型で低コスト用途に集積化されることを妨げる。
【0035】
一部の原子共振器では、電磁光学場およびマイクロ波RF場を印加することによる2共振技法が、たとえば、以下で述べるように、超微細遷移のコントロールのために実施されてもよい。
【0036】
超微細基底エネルギー準位分裂F4を有するルビジウムまたはセシウムが、図2aおよび2bに提示される。基底エネルギー準位F4から励起エネルギー準位Pへの遷移に相当する周波数ω1を有する光ポンピングは、Rb/Cs原子ガスのF4エネルギー状態から励起状態Pへ電子だけを励起するのに使用されてもよい。励起エネルギー準位Pに励起された電子は、F4状態とF3状態の両方に対して均等に緩和される。しかし、エネルギー準位F4状態からの電子だけは、光ポンピングのために再び励起される。したがって、定常状態では、F3状態は過密になり、この時点で、ポンピング光子の吸収も定常状態に達する。F4状態とF3状態との周波数差に等しい周波数を有するマイクロ波RF電磁波を印加することは、F3電子状態をF4状態に変換する可能性があり、光を吸収するより多くの電子を提供する。したがって、この特定のマイクロ波周波数を有する電磁波は、光吸収の増加をもたらし、たとえば、超微細遷移に等しいマイクロ波周波数におけるポンピング光の吸収に、吸収の降下が提示される。マイクロ波スペクトルにおけるこの降下は、光検出器によって検出されてもよい。サーボフィードバックが、マイクロ波電磁波の周波数をロックし、それにより、原子遷移に従って発振器周波数を制御する。通常、この構成では、ガスセルが、マイクロ波キャビティ内に設置され、キャビティの面の一方から照射される。
【0037】
図2bに示すように、一部の原子共振器では、コヒーレントポピュレーショントラッピング(coherent population trapping)(CPT)が使用される。この場合、2つの側波帯および/または3つ以上の側波帯を有するマイクロ波変調電磁光学場は、たとえば、以下で述べるように、超微細遷移のコントロールのために実施されてもよい。
【0038】
図2bに示すように、CPT共振は、光源によって、たとえば、原子システムにおいてA1からEへの、また、A2からEへのエネルギー遷移に相当する周波数ω1およびω2をそれぞれ有する2つのコヒーレント光電磁場によって誘導される可能性がある。2つのコヒーレント光学場を分離する2つの電磁場ω1およびω2の周波数間の周波数差は、2つの低エネルギー準位A1とA2とのエネルギー差をプランク定数hで割った値に等しい。この光学場が、原子共振に印加される。原子共振器は、2つの準位間で分裂した小さなエネルギーを有する少なくとも1つの低エネルギー状態、および、2つの超微細分裂した低エネルギー状態A1およびA2から、電子がそこに励起されうる少なくとも1つの高エネルギー状態を有する。印加される電磁場の第1の周波数成分ω1は、低エネルギー状態の一方の状態A1から高エネルギー状態Eへ電子を励起し、一方、他の周波数成分は、他の低エネルギー状態A2から同じ高エネルギー状態Eへ電子を励起する。そのため、原子共振器は、印加された電磁場の2つの成分からエネルギーを同時に吸収する。2つの周波数成分間の周波数差が、原子共振器の2つのエネルギー状態間の周波数差に等しいとき、原子共振器は、2つの低エネルギー状態の線形重ね合わせ状態にありうるため、この量子状態では、原子共振器は、もはや印加される電磁場と相互作用しない。この量子状態および結果として得られる挙動は、CPTと呼ばれる。この状態では、原子共振器は、吸収最小か、透過最大か、またはルミネセンスの最小を示す(図3a、3b、および/または3cを相応して参照されたい)。したがって、たとえば、2つの周波数成分間の周波数差が、原子共振器の2つの低エネルギー状態間の周波数差に厳密に等しいとき、光検出器が、上記量の一方の強度を測定するのに使用されてもよい。光検出器は、2つの周波数ω1ω2と超微細エネルギー分裂における周波数差との誤差に相当する信号量を測定し、この誤差信号は、サーボループに対するフィードバックであり、このフィードバックが使用されて、光源によって生成される2つの周波数成分の周波数差が調整され、それにより、2つの周波数ω1ω2と超微細エネルギー分裂における周波数差との誤差が、たとえば、図3a、3b、および/または3cに示すように、最大/最小に維持される。したがって、2つの周波数成分の周波数差は、原子共振器の低エネルギー状態で分裂したエネルギーの周波数差に相当する精密な値に保持される可能性がある。周波数標準の精度および安定性は、原子共振器の低い状態のエネルギーの分裂物間の差の精度および安定性に相当する可能性がある。
【0039】
図1は、一部の実証的な実施形態によるSSACを概略的に示す。一部の非制限的な実施形態では、図1のSSAC100は、図9から14の1つまたは複数のSSACの機能を実施してもよい。
【0040】
周波数基準を取得する方法は、図8bに示すように、量子状態416の共振に相当する周波数を有するマイクロ波信号413を制御発振器411によって生成することによって実施され、マイクロ波信号の周波数は、固体媒体の色中心の超微細分裂の共振周波数416と比較され418、比較器418の出力信号410が使用されて、色中心共振周波数416の周波数に対してマイクロ波周波数が調整され、マイクロ波周波数が必要とされる周波数に再スケーリングされ414、再スケーリングされた周波数が出力され415、それにより、出力周波数が、色中心共振周波数の周波数を基準にする。
【0041】
SSACは、たとえば、以下で詳細に述べるように、制御発振器102と、周波数逓倍器104、固体原子共振器モジュール103、および/またはフィードバック回路101を含んでもよい。
【0042】
制御発振器102は、入力として提供される制御信号に応じて、その出力周波数を変更することができる周波数振動発生器である。制御発振器102の周波数出力は、逓倍され、結合され、固体共振器の周波数共振またはエネルギー共振にロックされてもよい。したがって、非常に精密でかつ安定した周波数出力が取得される可能性がある。
【0043】
周波数逓倍器104は、低周波数を有する入力信号を得、高い周波数を有する出力信号を生成することが可能な電子デバイスまたは回路である。出力周波数の値は、入力周波数に、周波数逓倍器104にセットされた数値係数を掛けた値に等しい。図1の周波数逓倍器104は、入力として、制御発振器102から比較的低い周波数を得、出力として、共振器共振周波数に相当する周波数を有する信号を生成する。この周波数は、たとえば、光学および/またはマイクロ波信号送信機を介して、共振器モジュールに供給されてもよい、かつ/または、結合されてもよい。共振器モジュールは、周波数基準として使用される原子共振を使用する。共振器モジュールは、入力として、周波数逓倍器104の出力を受信し、共振器原子共振の内部共振周波数と逓倍器出力周波数107との差に比例する出力誤差信号を生成する。
【0044】
フィードバック回路101は、入力として、固体共振器モジュール103の出力誤差信号106を受信し、制御発振器102に対する誤差補正信号105を生成する。制御発振器102は、たとえば、周波数逓倍器104の出力周波数107と固体共振器219の共振周波数との誤差を減少させるために、この誤差信号を使用して、その出力周波数108、109を補正する。相応して、出力周波数108は、固体原子共振器219の原子共振周波数にロックされてもよい。
【0045】
フィードバック回路101:
【0046】
フィードバック回路101は、入力として共振器出力誤差信号を受信し、その誤差信号を、制御発振器102モジュールに提供される補正信号に変換してもよい。原子共振器モジュール103の出力信号は、たとえば、まさに入力周波数と原子共振器219の内部共振周波数が同じである周波数値において、出力信号レベルの極値を有してもよい。原子共振器モジュール出力誤差信号106は、印加されるマイクロ波信号107の周波数と原子共振器219の内部共振周波数との差に比例する。フィードバック回路101の入力に提供される原子共振器モジュール103の出力における誤差信号は、低い信号対雑音比を有する可能性がある。したがって、雑音から誤差信号を抽出するために、フィルタリングおよび/または信号処理スキームが使用されてもよい。たとえば、同期検出スキームが、フィードバック回路101で使用されて、雑音内の非常に小さな信号を検出し、補正誤差信号を推定しうる。SSACが閉ループで動作してもよいため、コントロールシステムは、最大安定性、最小出力周波数雑音、および/または、アラン偏差を達成するために、たとえば、フィードバック回路101の一部として、かつ/または、SSACの任意の他の要素の一部として実施されてもよい。1つの非制限的な実施例では、PIDコントロールスキームが実施されうる。1つの非制限的な実施例では、同期フィルタ、非制限的な実施例の場合、Analog Device Inc.AD630、AD633平衡型変調器/復調器が実施されてもよい。PIDスキームは、演算増幅器(たとえば、Analog Devices Inc.部品番号ADTL082)および受動電子コンポーネントを用いて実施されうる。
【0047】
制御発振器102:
【0048】
制御発振器102は、周波数発振器を含んでもよい。制御発振器102は、フィードバック回路101から入力信号を受信し、その信号を、入力信号の信号レベルに相当する周波数出力信号に変換してもよい。制御発振器102は、たとえば、高いQファクタの電圧制御発振器102、1つの非制限的な実施例では、石英結晶に基づく低周波数発振器を含んでもよい電圧制御水晶発振器(Voltage Controlled Crystal Oscillator)(VCXO)によって実施されてもよい。水晶発振は、非常に高いQファクタおよび良好な短期安定性を有する可能性がある。しかし、水晶発振は、時間経過に伴う周波数ドリフトで表現される長期安定性が非常に低い可能性がある。これらの種類の発振器は、入力電圧レベルに応じて出力周波数の変化を可能にする入力制御電圧を有する。VCXOの出力周波数は、フィードバック回路101によって生成される出力信号に応じて補正されてもよい。1つの非制限的な実施例では、VCXOは、たとえば、その全体の開示が参照により本明細書に組込まれる、A.Brannon, J.Breitbarth,およびZ.Popovic著「A Low−Power, Low Phase Noise Local Oscillator for Chip−Scale Atomic Clocks」IEEE Microwave Theory and Techniques Symposium、印刷中、2005年によって述べられるように、Vectron International V−800 VCXOまたは等価物を含んでもよい。
【0049】
周波数逓倍器104:
【0050】
周波数逓倍器104は、VCXOから周波数入力を受信し、周波数入力を逓倍して、入力周波数に、必要とされる係数を掛けた値に等しい周波数をもたらす可能性がある。出力周波数は、たとえば、本明細書で述べる電磁マイクロ波方法の場合、共振器周波数共振に実質的に等しくてもよく、また、たとえば、本明細書で述べるCPT方法の場合、この周波数の実質的に半分であってよい。1つの非制限的な実施例では、周波数逓倍器104は、PLL(位相ロックループ)、FLL(周波数ロックループ)、周波数混合、および/または任意の他の技法を使用してもよい。周波数逓倍のこれらの方法は、位相雑音を低く維持しながら、周波数の変更を可能にする。1つの非制限的な実施例では、周波数逓倍器104は、たとえば、高度な周波数処理が必要とされる場合、DDS(ダイレクトデジタルシンセサイザ)によって実施されうる。周波数逓倍器104は、1つの非制限的な実施例では、AD809、ADF4212、ADF4213、ADF4218L、ADF4007、または等価物などのAnalog Devices Inc.RF PLL周波数シンセサイザを使用して実施されてもよい。
【0051】
原子共振器モジュール103:
【0052】
原子共振器モジュール103は、入力として、共振器の内部周波数共振に実質的に等しいことが意図される、周波数逓倍器からの入力107としての電磁信号のマイクロ波周波数を受信してもよい(CPTの場合、本明細書で述べるように、この周波数の半分を有する信号が必要とされる)。原子共振器は、たとえば、以下で述べるように、入力周波数107と原子共振器の内部共振周波数との差に実質的に等しい出力誤差信号225を生成してもよい。
【0053】
一部の実施形態では、固体原子共振器モジュール103は、2共振型共振器199として実施されてもよく、2共振型共振器199は、たとえば、以下で述べるように、以下の要素および/またはモジュールの1つまたは複数を含む。以下の要素および/またはモジュールとは、
・励起光源200
・光源電力コントローラ201
・光源波長コントローラ202
・光処理要素は、光偏光コントローラ204、光減衰器205、および/または光波長フィルタ206を含む
・マイクロ波増幅器222
・マイクロ波偏光器221
・マイクロ波電磁放射を量子レゾナント上に送信するマイクロ波送信アンテナ220
・光キャビティ209
・たとえば、本明細書で述べるように、超微細エネルギー分裂を有する可能性があるエネルギー準位システムを有する固体材料220を含む原子共振器要素
・光偏光器207
・光フィルタ224
・光検出器226
・磁場シールド207
である。
【0054】
一部の実施形態では、固体原子共振器モジュール103は、CPT共振器299として実施されてもよく、CPT共振器299は、たとえば、以下で述べるように、以下の要素および/またはモジュールの1つまたは複数を含む。以下の要素および/またはモジュールとは、
・励起光源300
・光源電力コントローラ301
・光源波長コントローラ302
・光処理要素は、光偏光コントローラ306、光減衰器307、および/または光波長フィルタ308を含む
・光源を直接変調しうるマイクロ波変調器308
・光キャビティ311
・たとえば、本明細書で述べるように、超微細エネルギー分裂を有する可能性があるエネルギー準位システムを有する固体材料を含む原子共振器312要素
・光偏光器316
・光フィルタ314
・光検出器315
・磁場シールド310
である。
【0055】
固体共振器219 312
【0056】
一部の実施形態では、固体共振器は、たとえば、本明細書で述べるように、光キャビティ内に色中心を含む固体材料を含んでもよい。色中心は、空孔、たとえば、材料マトリクス内で1つの原子が欠損しているサイト、または、固体材料マトリクスと異なる1つまたは複数の原子エレメントに関連する空孔であってよい。固体材料マトリクスは、単結晶、多結晶、ナノ結晶、アモルファス、または任意の他の形態でありうる。色中心は、電気的に中性であるかまたは帯電しうる。原子共振器は、単一色中心または多数の色中心のアンサンブルを含んでもよい。色中心は、固体材料マトリクス内でランダムに分散するかまたは順序付けられうる。
【0057】
固体材料は、以下で述べるように、かつ/または、図6に示すように光キャビティ内に設置されてもよい。色中心は、基底エネルギー状態において超微細エネルギー分裂を有してもよく、1つまたは複数のより高いエネルギー準位を有してもよい。電子は、基底状態から、これらのより高いエネルギー準位の1つのエネルギー準位に励起されうる。超微細共振分裂は、たとえば、本明細書で述べるように、光学的に検出されたマイクロ波放射励起によって、または、光学的に検出されたCPTによって読み出されうる。基底状態の電子は、コヒーレントなおよび/または非コヒーレントな光源によって、または、任意の他の電磁放射によって励起されうる。励起放射の光子エネルギーまたは波長は、IR範囲内か、可視範囲内か、または、任意の他の適した光子エネルギー内にありうる。
【0058】
図4は、1つの実証的な実施形態による2共振ベースの固体原子共振器モジュール199を概略的に示す。一部の非制限的な実施形態では、図4の固体原子共振器は、図1のSSACの機能を実施する可能性がある。
【0059】
図4の固体原子共振器モジュール199は、2共振技法によって共振線を測定するための任意の適した方法を実施してもよい。1つの非制限的な実施例では、図4の固体原子共振器モジュール199は、たとえば、その全体の開示が参照により本明細書に組込まれる、T.P.Mayer Alegre,C.Santori,G.Medeiros−Ribeiro,およびR.G.Beausoleil著「Polarization−selective excitation of nitrogen vacancy centers in diamond」Physical Review B 76,165205(2007)によって述べられるように、2共振技法によって色中心における超微細エネルギー分裂の共振線を収集し、自由走行発振器102および周波数逓倍器104のマイクロ波周波数107を、原子共振器103 219内の原子共振に結合させる方法を実施してもよい。
【0060】
波長コントローラ202 300および電力コントローラ201 301を有する光源200 302は、たとえば、本明細書で述べるように、線形偏光器204 306、光減衰器206 307、および光フィルタ206 308を通して、固体共振器219 312を照射するように実施されてもよい。照射光203 305の波長は、たとえば、以下で述べるように、ダイアモンド内の窒素空孔(Nitrogen Vacancy)(NV)中心の基底エネルギー準位A内の電子を、励起エネルギー準位Eまで励起しうる、637nmまたは532nmのゼロフォノン線(Zero Phonon Line)(ZPL)でありうるが、それに限定されない。
【0061】
非制限的な実施例では、たとえば、以下で述べるように、ダイアモンド内のNV中心を、光源200、すなわち、偏光した637nm光子かまたは532nm光子によって照射することによって、基底エネルギー準位Aから励起エネルギー準位Eのサブ準位のうちの1つの準位までポンピングすることは、電子の基底状態への緩和によってフォトルミネセンスをもたらす。A基底エネルギーのms=0スピン状態へ緩和する確率はずっと高く、結果として、電子は、定常状態におけるA基底エネルギー状態のms=0スピン状態で蓄積する。結果として、NV中心のフォトルミネセンスは、定常状態で一定である。超微細分裂の周波数に等しい周波数を用いたマイクロ波励起は、基底状態のms=0スピン状態から基底状態のms=±1スピン状態への電子の移動をもたらし、電子の移動は、励起周波数が、図3aおよび3bに述べるように、基底状態エネルギー分裂に厳密に等しいため、フォトルミネセンスと光透過の両方の極値に達する可能性がある。この極値が使用されて、光検出器226によってマイクロ波共振が検出され、共振周波数とマイクロ波との間の誤差に関連する出力信号106が提供される。
【0062】
図5は、別の実証的な実施形態によるCPTベースの固体原子共振器モジュール299を概略的に示す。一部の非制限的な実施形態では、図5の固体原子共振器は、図1のSSACの機能を実施する可能性がある。
【0063】
図5の固体原子共振器モジュール299は、CPT技法によって共振線を測定するための任意の適した方法を実施してもよい。1つの非制限的な実施例では、図5の固体原子共振器モジュール299は、限定はしないが、その全体の開示が参照により本明細書に組込まれる、Charles Santori等著「Coherent Population Trapping of Single Spins in Diamond under Optical Excitation」Phys.Rev.Lett.97,247401(2006)および/またはCharles Santori等著「Coherent Population Trapping in diamond N−V centers at zero magnetic field」Vol.14 NO.17 Opt.Exp.(2006)によって述べられるように、CPT技法によって共振線を測定する方法を実施してもよい。
【0064】
2つのコヒーレント波長を有する光源302は、たとえば、本明細書で述べるように、線形偏光器306、光減衰器307、および光フィルタ308を通して固体共振器312を照射してもよい。波長および電力は、2つのコヒーレント波長間の周波数差が、2.88Ghzの基底状態分裂に等しくなるよう同調されるように制御されてもよい。光源波長におけるこの周波数差は、SSACにおいて周波数基準として使用されてもよい外部マイクロ波信号によって生成され、制御される。照射光の波長は、637nmまたは532nm、あるいは、たとえば、以下で述べるように、基底エネルギー準位Aから励起エネルギー準位Eのサブ準位のうちの1つの準位までNV中心を励起しうる任意の他の波長のZPLでありうるが、それに限定されない。ある非制限的な実施例では、ダイアモンド内のNV中心を照射することは、ms=0およびms=±1の基底サブ準位エネルギー状態から励起状態Eまでの電子の励起を同時にもたらす可能性がある。この同時励起は、CPT量子状態をもたらすことになり、結果として、フォトルミネセンスの降下または透過周波数の関数としてのNV中心の透過のピークが存在する。この極値は、周波数逓倍器104からのマイクロ波信号の周波数が、基底状態エネルギー分裂の周波数の半分に厳密に等しくなると発生する。そのため、制御用マイクロ波周波数は、超微細共振にロックされてもよい。
【0065】
光キャビティ209 311
【0066】
一部の非制限的な実施例では、光キャビティ209 311は、たとえば、その全体の開示が参照により本明細書に組込まれる、J.K.Vahala著「Optical microcavities」Nature(London)424,839(2003)、S.HarocheおよびD.Kleppner著「Cavity quantum electrodynamics」Physics Today,January 1989,pp.24、Y.YamamotoおよびR.Slusher著「Optical processes in microcavities」Physics Today,June 1993,pp.66、C.J.Hood,T.W.Lynn,A.C.Doherty,A.S.Parkins,およびH.J.Kimble著「The atom−cavity;and/or microscope:single atoms bound in orbit by single photons」Science,vol.287,No.25,pp.1447−1453(2000)によって述べられる光キャビティ209 311を含んでもよい。
【0067】
光キャビティ209 311は、「狭波長(narrow wavelength)」複数反射キャビティを含んでもよい。キャビティ内部には、境界条件に適合する波長および許容される光モードを有する光子だけが保持される。高強度光モードがキャビティ内部で生成される。これらのモードは、固体共振器219 312の色中心と連続して相互作用して、高い量子効率ならびに狭い吸収および放出線をもたらす。1つの非制限的な実施例では、光キャビティ209 311は、たとえば、上述したダイアモンド材料の一部として実施されてもよい。別の非制限的な実施例では、光キャビティ209 311は、別々に実施されてもよく、色中心は、キャビティ内に組込まれてもよい。
【0068】
NV中心は、NV中心を含むマイクロメートルダイアモンド粒子またはナノダイアモンド粒子を含んでもよく、または、ダイアモンドの固体スラブの一部として実施されてもよい。光キャビティは、たとえば、図6に示すように、ファブリペロー、ブラッグミラーまたはブラッグ反射体、フォトニック結晶共振器、外部キャビティ、ファイバブラッグ格子、膜キャビティ、垂直キャビティ、マイクロピラー垂直キャビティ、マイクロディスク、ウィスパリングギャラリー、または任意の他の光キャビティ実施態様を使用して実施されてもよい。
【0069】
光キャビティ209 311は、1波長狭帯域、または、1つの帯域が励起波長に同調され、他の帯域が放出またはルミネセンス波長に同調されうる2帯域狭波長でありうるが、それに限定されない。光キャビティ209 311は、放出/ルミネセンス利得を改善する可能性があり、入射光ビームと色中心との相互作用を改善する。光キャビティ209 311は、吸収帯域および放出帯域を狭め、応力および/または他のパラメータによるゼロフォノン線の偏倚および幅広化をなくす可能性がある。
【0070】
ダイアモンド内のNV色中心の実施例
【0071】
ダイアモンド内のNV色中心の特定の説明は、たとえば、その全体の開示が参照により本明細書に組込まれる、Torsten Gaebel等著「Room−temperature coherent coupling of single spins in diamond」Nature Physics 2,408−413(2006)、R.Hanson,O.Gywat,およびD.D.Awschalom著「Room−temperature manipulation and decoherence of a single spin indiamond」Phys.Rev.B 74,161203(R)(2006)、R.Hanson,F.M.Mendoza,R.J.Epstein,およびD.D.Awschalom著「Polarization and Readout of Coupled Single Spins in Diamond」Phys.Rev.Lett.97,087601(2006)、N.B.Manson,J.P.Harrison,およびM.J.Sellars著「Nitrogen−vacancy center in diamond:Model of the electronic structure and associated dynamics」Phys.Rev.B 74,103303(2006)、Ph.Tamarat等著「The excited state structure of the nitrogen−vacancy center in diamond」arXiv:cond−mat/0610357v1 13 oct 2006、T.P.Mayer Alegre,A.C.Torrezan,G.Medeiros−Ribeiro著「Microstrip resonatorfor microwaves with controlled polarization」Appl.Phys.Lett.91,204103(2007)、T.P.Mayer Alegre,C.Santori,G.Medeiros−Ribeiro,およびR.G.Beausoleil著「Polarization−selective excitation vacancy centers in diamond」Phys.Rev.B 76,165205(2007)、A.P.Nizovtsev,S.Ya.Kilin,F.Jelezko,I.Popa,A.Gruber,J.Wrachtrup著「NV centers in diamond:spin−selective photokinetics, optical ground−state spin alignment and hole burning」Physica B 340−342(2003)、ならびに/または、J.R.Rabeau等著「Implantation of labeled single nitrogen vacancy centers in diamond using 15N」Applied Physical Letters 88,023113(2006)において見出されうる。
【0072】
ダイアモンド内のNV中心は、空孔、たとえば、炭素原子の欠如を含んでもよく、図7bに示すように、空孔の周りの6つの原子サイトのうちの1つのサイト内に1つの窒素置換原子が存在する。NV中心は、中心内の置換原子として窒素かまたは窒素同位体でありうる。負に帯電した状態(NV−)では、この色中心は、非常に高い光安定性および室温安定性を有する。NV中心は、スピントリプレット(S=1)基底状態Aおよびスピントリプレット(S=1)励起状態Eを有する。基底状態は、スピンシングレットSz(ms=0)とスピンダブレットSx Sy(ms=±1)とのサブ準位間で2.88Ghzの非常に安定した超微細ゼロ場分裂および準安定Aエネルギー状態を有する。AからEへのZPL遷移は、スピン保存的であり、図7aに示すように、非常に強い光遷移および高い量子効率を有する。電子は、Aエネルギー状態とEネルギー状態との間の線形偏光光励起によって基底エネルギー準位のms=0状態で蓄積する可能性があり、フォトルミネセント光子を放出することによって基底ms=0サブ準位に緩和した。励起状態Eからms=0スピン状態A基底エネルギー状態への光放出遷移は、さらなる準安定エネルギー準位A(ms=0スピン状態A基底エネルギー状態への強い非放射エネルギー遷移を有する)による、A基底エネルギー状態のms=±1への遷移による放出に比べてずっと大きい。色中心のこれらの2つの特性は、たとえば、超微細エネルギー分裂周波数に実質的に正確に等しい周波数を有するマイクロ波励起を適用することによって、たとえば、基底状態の超微細構造を光学的に分解することを可能にする可能性がある。このマイクロ波放射は、ポンピングされた電子をms=0準位からms=1準位まで励起し、それにより、フォトルミネンセンス強度の減少をもたらす可能性がある。
【0073】
色中心におけるA基底状態とE励起状態との間のZPL光遷移は、非常に高い量子効率を有し、たとえ単一光中心であってもルミネセンス検出を可能にする。A基底エネルギー準位は、2つの基底エネルギー準位間の超微細エネルギー分裂のために分裂する。低い準位は、2.88Ghzのスピン分裂を有する。エネルギー共振は、たとえば、先に説明したように、光−マイクロ波共振によって、または、CPTによって読取られうる。ダイアモンドは、低いフォノン密度を有し、したがって、色中心とダイアモンド内のフォノンとの間の相互作用は低い。基底状態は、電子スピン状態の長いデコヒーレンス時間を有する。他の材料内の色中心の共振線と比べて、非常に急峻な共振線が、室温でも検出されうる。NV色中心は、637nmのZPLから450nm未満までの広い吸収帯域を有し、NV中心の放出帯域は、637nmのZPLから、637nmと750nmとの間の振動放出帯域までであり、シリコン光検出器によって容易に検出されうる。この吸収および放出共振線ならびに吸収および放出線帯域は、色中心のフォトルミネセンスを励起し測定するのに使用されうる。ダイアモンドは、可視スペクトルの広い透明窓を有する、非常に安定した材料でかつ広バンドギャップ半導体材料である。ダイアモンドは、非常に良好な熱伝導体であり、また、たとえば、ドーピングすると、非常に良好な絶縁体または非常に良好な導体になりうる。
【0074】
図7aは、NV色中心のエネルギー準位図を概略的に示す。
【0075】
図7bは、ダイアモンド格子内のNV中心構造を概略的に示す。灰色球は、ダイアモンド格子内の炭素原子を表し、「N」球は窒素原子を表し、「V」球は、ダイアモンド格子内の空孔、原子の欠如を表す。
【0076】
ダイアモンド内でのNV色中心形成および作製は、たとえば、その全体の開示が参照により本明細書に組込まれる、米国特許4880613および/またはJ.R.Rabeau等著「Implantation of labeled single nitrogen vacancy centers in diamond using 15N」Applied Physical Letters 88,023113(2006)に記載される。
【0077】
NV色中心は、タイプIIaとタイプIbの両方の天然ダイアモンドにおいて種々の濃度で見出されうる。制御された濃度および分散を有するダイアモンド内にNV色中心を作るために、通常、非常に低いレベルから非常に高いレベルの窒素含量を有するタイプIIaまたはタイプIbの天然または合成ダイアモンドが、中性子、電子、またはイオンで照射され、ダイアモンド格子内に空孔を作る。これらの空孔は、600〜1000℃の温度でアニーリングすると、窒素サイトまで拡散して、たとえば、図7bに示すようにNV色中心を作る。
【0078】
一部の非制限的な実施例では、本明細書で述べるSSACは、たとえば、SSACのコンポーネントの全てを含む、たとえば、ディスクリートコンポーネントとして集積化されうる。
【0079】
図8aに示すように、1つの非制限的な実施例では、本明細書で述べる原子クロックは、チップスケール原子クロック402として実施されてもよい。たとえば、原子クロックは、半導体チップ400の一部として集積化されてもよい。半導体チップは、たとえば、原子クロックの光検出器405および/または光源403を含む集積回路401として電子回路の全セットを含んでもよい。原子クロックの原子共振器404は、基材400の一部として実施されてもよく、または、基材の一番上に挿入されてもよい。
【0080】
本明細書で述べる色中心SSACは、たとえば、ガスベースの原子クロック、たとえば、Rb/Csベースの原子クロックと比較して、以下の利点の少なくとも1つまたは複数を有する可能性がある。
1.無毒か、揮発性か、または、他の有害でない材料が固体共振器に使用される。
2.SSACは、共振器の絶え間ない加熱を必要としなくてもよく、したがって、たとえば、適切な動作に達するために絶えず加熱されなければならない(これは、高い電力消費をもたらす)ガスセルベースの原子クロックと比較すると、低い電力消費を有する可能性がある。
3.SSAC内の共振媒体は、1ミリメートル平方より小さいサイズを有する固体材料を含む可能性がある。こうした共振器の製造コストは、たとえば、非常に複雑な製造プロセスを有するガスセルと比較すると、非常に低い。
4.光励起波長は、たとえば、630nmから450nm未満までの広い範囲を有する。これは、低コスト固体VIS光源による光源の実施態様を可能にする可能性がある。
5.蛍光波長は、たとえば、630nmから700nm以上までの広い範囲を有し、低コストシリコン光検出器を使用することを可能にする可能性がある。
6.サイズが小さい−SSAC共振器は、色中心によって埋め込まれた固体結晶を含んでもよく、色中心のサイズは、たとえば、1ミリメートル平方において、最高10個が見出されうるように、数ナノメートルであってよい。
7.重力耐久性−本質的に、ガスは、固体に比べて重力に対する感度がずっと高い。ガスに重力を印加することは、ガスの圧縮をもたらし、均質なガス密度を生成する。したがって、光が異なる原子密度を経験するガスを通過すると、このエピソード中に、強度不安定性がもたらされる。この不安定性は、出力周波数信号の不安定性をもたらす。
8.経年変化−SSAC、たとえば、ダイアモンドベースの固体原子クロックの経年変化は、ガスベースの原子クロックと比較して著しく小さい可能性がある。原子ガスセルは、セル壁、接着剤からの残留ガス分子の放出および拡散により経年変化を受ける。したがって、ガス混合物の純度が、動作中に低下し、結果として、原子クロックの性能が低下する。一方、SSACは、たとえば、上述したように、最も安定性のある材料であるダイアモンドに基づいてもよい。
9.リビジウム標準に伴う磨滅現象がない。
10.たとえば、ガスベースの原子時計の長い暖気運転時間と比較して、暖気運転時間が非常に短い。
11.低い電力消費−ガス共振器では、ガスセルは、適切な動作を達成するために、連続して加熱されなければならず、高い電力消費をもたらす。これは、本明細書で述べるSSAC共振器では必要とされない可能性がある。
【0081】
付加的に、または、別法として、本明細書で述べる色中心SSACは、以下の利点の少なくとも1つまたは複数を有する可能性がある。色中心がその中に埋め込まれる材料は、広い光透過性を有する。したがって、色中心は、光手段によってアドレス指定されうる。色中心の量子状態は、光学的に調製されうる、かつ/または、読み出されうる。本明細書で述べる色中心SSACは、電気雑音に対する低減された感度を有する可能性がある。
【0082】
本明細書で述べる色中心SSACは、たとえば、OCXO(オーブン制御水晶発振器)クロック、たとえば、Vectron TC−140温度補償型石英結晶発振器と比較して、以下の利点の少なくとも1つまたは複数を有する可能性がある。
1.OCXOの安定性と比べて高い温度安定性。
2.長期(その周波数がドリフトすることになる長期−数日、数週間、数ヶ月にわたる)周波数安定性を改善する。
3.低い電力消費。
4.小さなサイズ。
5.低いコスト−OCXOは、共振器の低い製造収率を有する。
6.外部加速を加えられた状態での重力衝撃−石英結晶は、ニュートンの力を受ける。この力は、石英結晶を変化させ、変形することになり、結果として、結晶の物理的寸法から直接導出される出力周波数の誤差が発生することになる。
7.経年変化−長期変形、内部応力の変化および質量拡散は、OCXO共振器の共振周波数の変化をもたらす。
8.短い暖気運転時間。
【0083】
一部の実施形態は、たとえば、以下で詳細に述べるように、たとえば、固体材料内の原子共振に基づいて、正確な、かつ/または、安定した出力周波数を生成する原子クロック周波数発生器(「固体原子クロック(SSAC)」)を含んでもよい。SSACは、たとえば、以下で詳細に述べるように、任意の適したデバイス、モジュール、要素、および/または、システムの一部として実施されてもよい。
【0084】
周波数標準SSACを利用する汎用電子モジュールおよび/またはシステムは、図8cに概略的に示される。モジュールおよび/またはシステムは、入力データを受信する入力回路と、出力データを送信する出力回路と、中央処理ユニット(CPU)と、メモリユニットと、RF回路と、アナログおよび/またはデジタル回路と、固体原子クロックを備える。この電子モジュールおよび/またはシステムは、以下で述べる用途のそれぞれを実施するのに、全体として、または、部分的に役立ちうる。
【0085】
図9aは、一部の実証的な実施形態による全地球測位システム(GPS)受信機を概略的に示す。全地球測位システムは、システム位置を収集するために、非常に高いクロック精度を必要とする可能性がある。高精度ローカル発振器または周波数標準またはSSACによって提供されるこの正確な周波数は、GPS衛星のうちの1つの衛星によって格納されるか、または、そこから取出されうる。しかし、基準周波数を保持し、受信機の同期を改善するために必要とされる高精度ローカル発振器または周波数標準は、ジャミングおよび他の干渉を免れない。可搬型の耐ジャミングGPS用途では、小さなサイズ、低電力消費、および低コスト周波数基準が必要とされる。こうした、精度が高く、サイズが小さく、電力消費が低く、コストが低いローカル周波数基準発振器または周波数標準は、たとえば、本明細書で述べるように、SSACによって実現されうる。
【0086】
図9bは、一部の実証的な実施形態による携帯電話基地局を概略的に示す。携帯電話基地局は、周波数標準、たとえば限定はしないが、基地局間の携帯電話ハンドセットのホールドオーバを使用してもよい。さらに、最新の基地局バックホールは、インターネットプロトコル(IP)バックホールに基づく可能性があり、高いサービスレベル保証を維持し、ネットワークにわたる精密周波数配信が必要とされる。移動体ネットワーク内での音声、ビデオ、およびデータの伝送は、安定しかつ精密な周波数基準を必要とし、精密な周波数同期が、基地局間の首尾よい呼信号ハンドオフにとって重要である。安定しかつ精密なこうした周波数基準を維持するための考えられる1つの解決策は、たとえば、本明細書で述べるように、SSACを使用することによる。
【0087】
図9cは、一部の実証的な実施形態によるセキュア通信システムを概略的に示す。システムは、限定はしないがたとえば、セキュア通信の場合、「時間シーケンスコード収集(time sequence code acquisition)」、または、精密なタイミングに基づくセキュア通信の場合、任意の他の方法を使用しうる。セキュア通信システムは、情報および通信の暗号化のために非常に正確な周波数を使用する可能性がある。安定しかつ精密なこうした周波数基準を維持するための考えられる1つの解決策は、たとえば、本明細書で述べるように、SSACを使用することによる。
【0088】
図10aは、一部の実証的な実施形態による携帯電話測位システムを概略的に示す。よる携帯電話測位システムは、基地局と携帯電話受信機との間で電磁パスルの到達時間(Time of Arrival)(TOA)を測定することによる、携帯電話受信機と携帯電話基地局との間の距離を確定するために、高精度周波数を使用する可能性がある。安定しかつ精密なこうした周波数基準を維持するための考えられる1つの解決策は、たとえば、本明細書で述べるように、SSACを使用することによる。
【0089】
図10bは、一部の実証的な実施形態によるインターネットプロトコルTV(IPTV)を概略的に示す。IPTVブロードキャストは、インターネットプロトコル(IP)バックホールに基づき、高いサービスレベル保証を維持し、したがって、ネットワークにわたる精密周波数配信が必要とされる。IPネットワーク内でのビデオおよびデータの伝送は、安定しかつ精密な周波数基準を必要とし、精密な周波数同期が、サーバおよびネットワークスイッチならびにエンドユーザシステムにおけるビデオ信号の首尾よいタイミング再構成にとって重要である。安定しかつ精密なこうした周波数基準を維持するための考えられる1つの解決策は、たとえば、本明細書で述べるように、SSACを使用することによる。
【0090】
図10cは、一部の実証的な実施形態によるスペクトル拡散ホッピング無線通信システムを概略的に示す。非常に高速な周波数ホッピング無線通信は、異なる周波数間をホッピングすることによって、広帯域の周波数を通じてデータを送出する任意の適した無線通信システムを含んでもよい。非常に高速な周波数ホッピング無線通信では、無線受信機および送信機は、2つの無線システム間で能動的に同期することなく、長期にわたり周波数同期すべきである。こうした無線システムは、軍事用無線、民生用無線、ワイイヤレス無線通信、携帯電話通信、WiMax、WiFi、スペクトル拡散通信、または、任意の他のホッピング無線通信でありうる。安定しかつ精密なこうした周波数基準を維持するための考えられる1つの解決策は、たとえば、本明細書で述べるように、SSACを使用することによる。
【0091】
図11aは、一部の実証的な実施形態による通信局を概略的に示す。通信ネットワークは、ネットワークにわたる精密周波数配信を維持することを必要とする。移動体ネットワーク内での音声、ビデオ、およびデータの伝送は、安定しかつ精密な周波数基準を必要とし、精密な周波数同期および保持が、局間の首尾よい通信にとって重要である。安定しかつ精密なこうした周波数基準を維持するための考えられる1つの解決策は、たとえば、本明細書で述べるように、SSACを使用することによる。
【0092】
図11bは、一部の実証的な実施形態による測位および/またはレンジ測定システムを有する携帯電話ハンドセット受信機を概略的に示す。携帯電話ハンドセット上のレンジファイディングシステム、速度測定システムは、到達時間(TOA)アルゴリズムまたは任意の他のアルゴリズムによって送信機/受信機と対象物との間の距離を確定するために高精度周波数を使用する可能性がある、かつ/または、高精度クロックが、ホールドーバのために使用される可能性がある。安定しかつ精密なこうした周波数基準を維持するための考えられる1つの解決策は、たとえば、本明細書で述べるように、SSACを使用することによる。
【0093】
図11cは、一部の実証的な実施形態によるホールドオーバシステムを有する携帯電話ハンドセット受信機を概略的に示す。携帯電話ハンドセット上の、携帯電話システムの2つの基地局間のホールドオーバシステムは、到達時間(TOA)アルゴリズムまたは任意の他のアルゴリズムによって送信機/受信機と対象物との間の距離を確定するために高精度周波数を使用する可能性がある、かつ/または、高精度クロックが、ホールドオーバのために使用される可能性がある。安定しかつ精密なこうした周波数基準を維持するための考えられる1つの解決策は、たとえば、本明細書で述べるように、SSACを使用することによる
【0094】
図12aは、一部の実証的な実施形態によるバースト無線通信システムを概略的に示す。バースト無線通信は、無線周波数を通じて音声、ビデオ、およびデータのバーストを送出する任意の適した無線通信システムを含んでもよい。このタイプのシステムでは、無線受信機および送信機は、2つの無線システム間で能動的に同期することなく、長期にわたる精密周波数同期を有するべきである。こうした無線システムは、軍事用無線、民生用無線、ワイイヤレス無線通信、携帯電話通信、または、任意の他のホッピング無線通信でありうる。安定しかつ精密なこうした周波数基準を維持するための考えられる1つの解決策は、たとえば、本明細書で述べるように、SSACを使用することによる。
【0095】
図12bは、一部の実証的な実施形態による敵味方識別装置(IFF)モジュールを概略的に示す。たとえば、飛行中の航空機を特定するために無線通信を使用するIFFシステムは、無線通信のために高精度周波数を使用する可能性がある。安定しかつ精密なこうした周波数基準を維持するための考えられる1つの解決策は、たとえば、本明細書で述べるように、SSACを使用することによる。
【0096】
図12cは、一部の実証的な実施形態による測定システムを概略的に示す。測定システム、たとえば、ジッタ/ワンダ測定システム、無線周波数測定システム、または他の測定システムは、高精度周波数タイムベースを必要とする。安定しかつ精密なこうした周波数基準を維持するための考えられる1つの解決策は、たとえば、本明細書で述べるように、SSACを使用することによる。
【0097】
図13aは、一部の実証的な実施形態による時間サーバを概略的に示す。時間サーバは、精密な計時能力を有する任意の適した通信ネットワークコンポーネントを含んでもよい。時間サーバは、通信ネットワークに接続されてもよく、時間インジケータをネットワークの他のコンポーネントに送出しうる。時間サーバは、独立型でありうる、または、サーバ、スイッチ、またはハブなどのネットワーク内の別のシステムに埋め込まれうる。安定しかつ精密なこうした周波数基準を維持するための考えられる1つの解決策は、たとえば、本明細書で述べるように、SSACを使用することによる。
【0098】
図13bは、一部の実証的な実施形態による精密ネットワーク解析器システムを概略的に示す。精密ネットワーク測定システムは、侵入検出、パケットの喪失、および他の要件を含むサービスの品質を測定するために、通信ネットワークの性能を監視する任意の適した通信ネットワークコンポーネントを含んでもよい。システムは、ネットワーク内の発生する任意のイベントを精密にログに記録するために、精密な計時能力を必要とする可能性がある。システムは、通信ネットワークに接続され、独立型でありうる、または、サーバ、スイッチ、またはハブなどのネットワーク内の他のシステムに埋め込まれうる。安定しかつ精密なこうした周波数基準を維持するための考えられる1つの解決策は、たとえば、本明細書で述べるように、SSACを使用することによる。
【0099】
図13cは、一部の実証的な実施形態による料金請求システムを概略的に示す。ネットワーク通信料金請求システムは、サービスおよび使用のための料金を請求するために、通信ネットワークのトラフィックを監視する任意の適した通信ネットワークコンポーネントを含んでもよい。システムは、ネットワーク任意の使用を精密にログに記録するために、精密な計時能力を必要とする可能性がある。システムは、通信ネットワークに接続され、独立型でありうる、または、サーバ、スイッチ、またはハブなどのネットワーク内の他のシステムに埋め込まれうる。安定しかつ精密なこうした周波数基準を維持するための考えられる1つの解決策は、たとえば、本明細書で述べるように、SSACを使用することによる。
【0100】
図14aは、一部の実証的な実施形態によるレーダシステムを概略的に示す。レーダシステムは、エコー無線波信号の到達時間(TOA)によって対象物の方向、距離、および/または速度を測定してもよい。高精度周波数源は、TOAを確定するのに使用される。安定しかつ精密なこうした周波数基準を維持するための考えられる1つの解決策は、たとえば、本明細書で述べるように、SSACを使用することによる。
【0101】
図14bは、一部の実証的な実施形態による時間サーバを概略的に示す。時間スタンプサーバは、精密計時能力を有する任意の適した通信ネットワークコンポーネントを含んでもよい。時間スタンプサーバは、通信ネットワークに接続され、また、正確な時間マーキングのために、ネットワークの他のユーザまたはコンポーネントに、および/または、他のローカルな用途のために、時間スタンプを送出しうる。時間スタンプサーバは、独立型モジュールでありうる、または、サーバ、スイッチ、またはハブなどのネットワーク内の別のシステムに埋め込まれうる。この時間スタンプは、資金調達トランザクション時間マーキング、B2B時間マーキング、インボイス時間マーキング、料金請求(billing)時間マーキング、または、時間マーキングを必要とする任意の他の用途のために使用されうる。安定しかつ精密なこうした周波数基準を維持するための考えられる1つの解決策は、たとえば、本明細書で述べるように、SSACを使用することによる。
【0102】
図14cは、一部の実証的な実施形態によるソナーシステムを概略的に示す。ソナーシステムは、音波信号のエコーの到達時間(TOA)によって対象物の方向、距離、および/または速度を測定してもよい。高精度周波数源は、TOAを確定するのに使用される。安定しかつ精密なこうした周波数基準を維持するための考えられる1つの解決策は、たとえば、本明細書で述べるように、SSACを使用することによる。
【0103】
一部の実施形態は、その全体の開示が参照により本明細書に組込まれる、以下の参考文献の1つまたは複数に関連する可能性がある。
・P.MisraおよびM.Pratt,Role of the Clock in a GPS Navigation Receiver,ATC Project Memorandum No.42M−SATNAV−0008,MassachusettsInstitute of Techmology,Lincohn Laboratory(May 1994)
・M.A.Sturza,GPS Navigation using Three Satellites and a Precise Clock,Global Positioning Systems,vol.II,Washington,DC:The Institute of Navigation,pp.122−131(1984)
・J.H.MurphyおよびT.A.Skidmore著「A Low−Cost Atomic Clock:Impact on the National Airspace and GNSS Availability」Proceedings of IONGPS−94;Salt Lake Convention Center,Salt Lake City,Utah Sep.20−23,1994;pp.1−8
・J.Vig著「Military applications of high−accuracy frequency standards and clocks」40,522−527(1993)
・H.Fruehoff著「Fast「direct−P(Y)」GPS signal acquisition using a special portable clock」Pro.c 33rd Ann.
・Precise Time and Time Interval(PTTI)Systems and Applications Meeting,Long Beach,CA,November 27−29,359−369(2001)
・J.A.KustersおよびC.A.Adams著「Performance requirements of communication base station time standards」RF design,28−38(1999)
・L.Liew,S.Knappe,J.Moreland,H.G.Robinson,L.Hollberg,およびJ.Kitching著「Microfabricated alkali atom vapor cells」Appl.Phys.Lett.48,2694−2696(2004)
・S.Knappe,V.Velichansky,H.G.Robinson,L.Liew,J.Moreland,J.Kitching,およびL.Hollberg著「Atomic Vapor Cells for Miniature Frequency References」in Proc.of the 2003 IEEE International Frequency Control Symposium and PDA Exhibition Jointly with the 17th European Frequency and Time Forum,(Institute of Electrical and Electronics Engineers,New York,2003)
・E.Arimondo著「Coherent population trapping in laser spectroscopy」in,Progress in Optis XXXV,E.Wolf,eds.(Elsevier,Amsterdam,1996),pp.257−354
・M.Stahler,R.Wynands,J.Kitching,L.Hollberg,A.Taichenachev,およびV.Yudin著「Coherent Population trapping resonances in thermal Rb−85 vapor:D−1 versus D−2 line excitation」Opt.Lett.27,1472−1474(2002)
・N.Cyr,M.Tetu,およびM.Breton著「All−Optical Microwave Frequency Standard−a Proposal」IEEE Transactions on Instrumentation and Measurement,vol.42,pp.640−649,1993
・J.Kitching,S.Knappe,N.Vukicevic,L.Hollberg,R.Wynands,およびW.Weidmann著「A microwave frequency reference based on VCSEL−driven dark line resonances in Cs vapor」IEEE Transactions on Instrumentation and Measurement,vol.49,pp.1313−1317,2000
・M.Merimaa,T.Lindvall,I.Tittonen,およびE.Ikonen著「All−optical atomic clock based on coherent population trapping in Rb−85」Journal of the Optical Society of America B−Optical Physics,vol.20,pp.273−279,2003
・J.Kitching,S.Knappe,およびL.Hollberg著「Miniature vapor−cell atomic−frequency references」Applied Physics Letters,vol.81,pp.553−555,2002
【0104】
本発明の一部の実施形態は、たとえば、完全にハードウェアの実施形態、完全にソフトウェアの実施形態、または、ハードウェア要素とソフトウェア要素の両方を含む実施形態の形態をとってもよい。一部の実施形態は、限定はしないが、ファームウェア、常駐ソフトウェア、マイクロコードなどを含むソフトウェアで実施されてもよい。
【0105】
さらに、本発明の一部の実施形態は、コンピュータまたは任意の命令実行システムによってまたはそれに接続して使用されるためのプログラムコードを提供する、コンピュータ使用可能媒体またはコンピュータ読取り可能媒体からアクセス可能なコンピュータプログラム製品の形態をとってもよい。たとえば、コンピュータ使用可能媒体またはコンピュータ読取り可能媒体は、命令実行システム、装置、またはデバイスによってまたはそれに接続して使用されるためのプログラムを、含み、格納し、通信し、伝播させ、または、輸送しうる任意の装置であってよい、または、任意の装置を含んでもよい。
【0106】
一部の実施形態では、媒体は、電子、磁気、光、電磁、赤外線、または半導体システム(または装置またはデバイス)あるいは伝播媒体であってよい。コンピュータ読取り可能媒体の一部の実証的な例は、半導体または固体メモリ、磁気テープ、取外し可能コンピュータディスケット、ランダムアクセスメモリ(RAM)、読取り専用メモリ(ROM)、固定磁気ディスク、および光ディスクを含んでもよい。光ディスクの一部の実証的な例は、コンパクトディスク−読取り専用メモリ(CD−ROM)、コンパクトディスク−読取り/書込み(CD−R/W)、およびDVDを含む。
【0107】
一部の実施形態では、プログラムコードを格納し、かつ/または、実行するのに適したデータ処理システムは、たとえばシステムバスを通して、メモリ要素に直接的にまたは間接的に結合される少なくとも1つのプロセッサを含んでもよい。メモリ要素は、たとえば、プログラムコードの実際の実行中に使用されるローカルメモリ、バルク記憶域、および、実行中にバルク記憶域からコードが取出されなければならない回数を減らすために、少なくとも一部のプログラムコードの一時記憶域を提供してもよいキャッシュメモリを含んでもよい。
【0108】
一部の実施形態では、入力/出力またはI/Oデバイス(キーボード、ディスプレイ、指示デバイスなどを含むが、それに減退されない)は、直接、または、介在するI/Oコントローラを通してシステムに結合されてもよい。一部の実施形態では、ネットワークアダプタは、データ処理システムが、たとえば介在する個人または公共ネットワークを通して、他のデータ処理システムまたはリモートプリンタまたは記憶デバイスに結合することを可能にするために、システムに結合されてもよい。一部の実施形態では、モデム、ケーブルモデム、およびイーサネット(登録商標)カードは、複数のタイプのネットワークアダプタの実証的な例である。
【0109】
1つまたは複数の実施形態を参照して本明細書で述べる機能、動作、コンポーネント、および/または特徴は、1つまたは複数の他の実施形態を参照して本明細書で述べる1つまたは複数の他の機能、動作、コンポーネント、および/または特徴と組み合わされてもよい、または、それと組合せて利用されてもよい、あるいは、その逆である。
【0110】
本発明の実施形態のいくつかの特徴が本明細書で示し述べられたが、多くの修正形態、置換形態、変更形態、および等価形態を、当業者が思いつく可能性がある。したがって、添付特許請求の範囲は、全てのこうした修正形態および変更形態を包含することが意図されることが理解される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
デバイスであって、固体原子共振器モジュールによって提供される入力信号に従って、制御発振器を制御するための信号を提供するフィードバックと、入力信号に従って周波数逓倍器に対して出力周波数を生成する制御発振器と、入力信号の周波数に関連する周波数を有する出力マイクロ波信号を生成する周波数逓倍器と、超微細遷移を示すことが可能な色中心を有する固体原子共振器モジュールとを備え、前記固体原子共振器モジュールは、前記周波数逓倍器からマイクロ波信号を受信し、前記マイクロ波信号の周波数と色中心の前記超微細共振周波数の周波数との周波数差に関連する出力信号を生成し、出力周波数は前記マイクロ波信号の周波数に関連するデバイス。
【請求項2】
前記固体原子共振器は、偏光コントローラに光を照射する光源と、光がそこを通り、光減衰器に光を照射する偏光コントローラと、光がそこを通り、光フィルタに光を照射する光減衰器と、光がそこを通り、前記光中心と相互作用し、かつ、固体原子共振器に光を照射する光フィルタと、光がそこを通り、光フィルタに光を照射する固体原子共振器と、光がそこを通り、前記原子共振器モジュールの出力信号を生成する光検出器に光を照射する光フィルタと、前記原子共振器を取り囲む光キャビティと、前記原子共振器を取り囲むマイクロ波キャビティと、入力マイクロ波信号を受信し、前記固体原子共振器上に出力マイクロ波電磁波を送信するマイクロ波要素と、前記原子共振器を取り囲む磁気シールドとを備える請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
前記固体原子共振器内の前記色中心は、ダイアモンド内の窒素−空孔色中心である請求項2に記載のデバイス。
【請求項4】
前記固体原子共振器は、窒素−空孔色中心によって埋め込まれたダイアモンド結晶を備える請求項2に記載のデバイス。
【請求項5】
前記固体原子共振器は、窒素−空孔色中心によって埋め込まれたダイアモンドナノ結晶を備える請求項2に記載のデバイス。
【請求項6】
前記光キャビティは、一組の異なる光屈折率の交互平行膜を備える請求項2に記載のデバイス。
【請求項7】
前記光キャビティは、フォトニック結晶構造内に配置された一組の異なる光屈折率要素を含む請求項2に記載のデバイス。
【請求項8】
前記固体原子共振器は、入力マイクロ波信号を受信し、前記入力マイクロ波信号によって変調される出力光を生成するマイクロ波変調光源であって、偏光コントローラに光を照射する、マイクロ波変調光源と、光がそこを通り、光減衰器に光を照射する偏光コントローラと、光がそこを通り、光フィルタに光を照射する光減衰器と、光がそこを通り、固体原子共振器に光を照射する光フィルタと、光がそこを通り、光フィルタに光を照射する固体原子共振器と、光がそこを通り、前記原子共振器モジュールの出力信号を生成する光検出器に光を照射する光フィルタと、前記原子共振器を取り囲む光キャビティと、前記原子共振器を取り囲む磁気シールドとを備える請求項1に記載のデバイス。
【請求項9】
前記固体原子共振器内の前記色中心は、ダイアモンド内の窒素−空孔色中心である請求項8に記載のデバイス。
【請求項10】
前記固体原子共振器は、窒素−空孔色中心によって埋め込まれたダイアモンド結晶を備える請求項8に記載のデバイス。
【請求項11】
前記固体原子共振器は、窒素−空孔色中心によって埋め込まれたダイアモンドナノ結晶を備える請求項8に記載のデバイス。
【請求項12】
前記光キャビティは、一組の異なる光屈折率の交互平行膜を備える請求項8に記載のデバイス。
【請求項13】
全体のシステムは、単一半導体基材上に集積化される請求項1に記載のデバイス。
【請求項14】
周波数基準を取得する方法であって、マイクロ波信号を生成する行為と、前記マイクロ波信号の周波数を、固体結晶内の色中心の超微細分裂の共振周波数の周波数と比較する行為と、前記マイクロ波周波数を、前記色中心共振周波数の周波数に対して調整する行為と、前記マイクロ波周波数を前記必要とされる周波数に対して再スケーリングする行為と、前記再スケーリングされた周波数を出力する行為とを含み、それにより、前記出力周波数は、前記色中心共振周波数の周波数を基準にする方法。
【請求項15】
システムであって、入力および出力ユニットと、中央処理ユニットと、メモリユニットと、電子回路要素と、クロック収集アルゴリズムと、固体原子クロックであって、色中心共振に対するマイクロ波周波数信号の共振結合デバイス、窒素−空孔色中心原子共振器、周波数再スケーリング電子回路要素を含む、固体原子クロックとを実質的に備えるシステム。
【請求項16】
全ての要素は、単一半導体基材上に集積化される請求項1に記載のデバイス。
【請求項17】
全体のシステムは、単一半導体基材上に集積化される請求項17に記載のデバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7a】
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【図7b】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公表番号】特表2011−526744(P2011−526744A)
【公表日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−545606(P2010−545606)
【出願日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際出願番号】PCT/IL2009/000131
【国際公開番号】WO2009/098686
【国際公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【出願人】(510210357)
【Fターム(参考)】