説明

原子炉建屋

【課題】外部飛来物からの衝撃に耐え、かつ安全機能および健全性を維持しつつ、耐震性を向上させた原子炉建屋を提供する。
【解決手段】原子炉建屋は、安全系の機器および系統を収納し、外部飛来物の衝突による衝撃に耐える壁厚に構築された建屋構造物2と、この建屋構造物2の上方に構築された屋根構造物3とを有する。建屋構造物2と屋根構造物3とが互いに分離構成されるとともに、互いに独立した基礎構造部3aを備えたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子力発電所において安全機能を備えた原子炉建屋に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、上記のような安全機能を備えた原子炉建屋は、航空機などの外部飛来物が衝突する脅威に対して原子炉を停止可能な安全機能が防護されることが必要である。そのため、航空機の落下を確率的に考慮する必要のないサイト(敷地、用地)を選定することがこれまでの対応策であった。
【0003】
しかしながら、アメリカ同時多発テロ事件(9.11事件)以降のテロに対する社会的な要求の高まりから、新設の原子力発電所においては、航空機などの外部飛来物の衝突に対して原子炉建屋が防護機能を備えることが求められている。
【0004】
一般的に、原子炉建屋の外壁で防護する場合は、厚さ2m程度の鉄筋コンクリートで建屋を覆うことにより、この建屋内に設置された安全系の系統や機器を航空機などの外部飛来物の衝突から防護している。
【0005】
しかしながら、厚い鉄筋コンクリートの外壁は、建屋上部の重量が重くなり、建屋にとって地震時の安定性を確保する観点から非常に不利な構造となる。このような状況に鑑み、従来の原子力発電所の建屋の屋根部は、外部飛来物に対処した対衝撃兼制振機能を設けた技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
また、建屋に航空機などの外部飛来物が直接衝突するのを防止する手段としては、建屋の周囲を塔や風力発電用風車などの構造物で取り囲み、これらの構造物に航空機などの外部飛来物が衝突することで、上記建屋まで航空機などの外部飛来物が進入して衝突することのないようにした技術がある(例えば、特許文献2および3参照)。
【0007】
これらの技術では、航空機などの外部飛来物が衝突対象に対してある程度の仰角を有して侵入してくることを前提条件としており、そのため塔や風力発電用風車の設置位置で十分な高さを確保することで、防護対象物を防護することが可能になるとしている。しかしながら、これらの技術は、戦闘機のような仰角が急な軍用機や外部飛来物には対応していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−297854号公報
【特許文献2】米国特許出願公開第2003/0127636号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2005/0042100号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、原子力発電所に航空機などの外部飛来物が衝突した場合においても原子炉を安全に停止させるには、原子炉および冷却系の機能を維持する必要がある。
【0010】
原子炉建屋のオペレーティングフロアの下部は、比較的堅牢なコンクリート外壁に囲まれており、航空機などの外部飛来物に対しては、防護性能が高いものの、オペレーティングフロアおよびその上部壁は厚さが薄く防護性能が低く、航空機などの外部飛来物が衝突したときに貫通する懸念がある。また、オペレーティングフロアに航空機が衝突し、壁を貫通した場合、航空燃料により生じる火災が階段室、エレベータシャフト、または開口部を通じて下階に拡がるという問題がある。
【0011】
そして、上述した従来の原子力発電所では、建屋の屋根構造物の重量を軽くして、地震応答値を小さくする目的から鉄骨構造とするのが一般的である。原子炉建屋には、オペレーティングフロアよりも下部に安全系の機器や系統が収納されており、これらの安全機能を防護するためには、単に軽量化した壁構造では不十分である。特に、近年の航空機の落下事故やテロに対抗するためには、衝撃に耐え得る十分な強度を備えた構造物として厚さ2m程度の鉄筋コンクリートの構造物が必要となる。
【0012】
しかしながら、厚さ2mの厚いコンクリートの建屋の屋根構造物は、上記のように耐震性を向上させるため、上部構造物を軽量化させるといった考え方と相反するものであり、地震時に建屋の安定性を悪化させるという問題があった。
【0013】
また、原子炉建屋では、オペレーティングフロアを境界としてその下部に安全系の機器や系統が収納されており、上部にはそれらは存在しない。したがって、原子炉を安全に停止させるには、オペレーティングフロア下部の安全系の機器や系統を保護する必要がある。
【0014】
本発明は上記事情を考慮してなされたものであり、外部飛来物からの衝撃に耐え、かつ安全機能および健全性を維持しつつ、耐震性を向上させた原子炉建屋を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するために、本発明に係る原子炉建屋は、安全系の機器および系統を収納し、外部飛来物の衝突による衝撃に耐える壁厚に構築された建屋構造物と、この建屋構造物の上方に構築された屋根構造物とを有し、前記建屋構造物と前記屋根構造物とが互いに分離構成されるとともに、互いに独立した基礎構造部を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、建屋構造物と屋根構造物とが互いに分離構成されるとともに、互いに独立した基礎構造を備えたことにより、外部飛来物からの衝撃に耐え、かつ安全機能および健全性を維持しつつ、耐震性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る原子炉建屋の第1実施形態の概略構成を示す立断面図である。
【図2】本発明に係る原子炉建屋の第2実施形態の概略構成を示す立断面図である。
【図3】本発明に係る原子炉建屋の第3実施形態の概略構成を示す立断面図である。
【図4】本発明に係る原子炉建屋の第4実施形態の概略構成を示す立断面図である。
【図5】本発明に係る原子炉建屋の第5実施形態の概略構成を示す立断面図である。
【図6】本発明に係る原子炉建屋の第6実施形態の概略構成を示す立断面図である。
【図7】本発明に係る原子炉建屋の第7実施形態の概略構成を示す立断面図である。
【図8】本発明に係る原子炉建屋の第8実施形態の概略構成を示す立断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明に係る原子炉建屋の各実施形態について、図面を参照して説明する。
【0019】
(第1実施形態)
図1は本発明に係る原子炉建屋の第1実施形態の概略構成を示す立断面図である。
【0020】
図1に示すように、本実施形態の原子炉建屋1は、原子炉を停止可能な安全系の機器や系統が収納されるとともに、上面がオペレーティングフロア2aとなるように構築された建屋構造物2と、この建屋構造物2の上方に覆うように構築された屋根構造物3とが互いに分離して構成され、かつ建屋構造物2と屋根構造物3のそれぞれが互いに独立した基礎構造としている。
【0021】
具体的には、建屋構造物2の周囲における地盤面2bと屋根構造物3との間には、空間部4が形成されている。建屋構造物2は、所定の高さまで地盤面2bに埋設され、その埋設された部分が支持基礎部となっている。また、建屋構造物2は、外壁が航空機などの外部飛来物が衝突しても防護可能な強度、すなわち外部飛来物の衝突による衝撃に耐えることができる壁厚の鉄筋コンクリートで構築されている。さらに、建屋構造物2は、その内部に階段、エレベータシャフト、機器搬入口などの通路5が設けられている。
【0022】
一方、屋根構造物3は、重量を軽くし、かつ地震応答値を小さくするために鉄骨構造としている。また、屋根構造物3は、建屋構造物2に対して独立した支持基礎部3aを有するとともに、天井部に天井クレーン6が装備されている。この天井クレーン6は、空間部4を通して地盤面2bに設置された機器および燃料などをオペレーティングフロア2aに搬出入するために用いる。
【0023】
次に、本実施形態の作用を説明する。
【0024】
本実施形態では、建屋構造物2が航空機などの外部飛来物の衝突による衝撃に十分耐え得る壁厚に構築されたことにより、航空機などの外部飛来物が原子炉建屋1に衝突しても、原子炉建屋1の安全機能を損なう事象を引き起こすことがなくなり、従来のように建屋構造物2と屋根構造物3とが一体に構築された原子炉建屋よりも全体としての構造物量を低減させることが可能となる。そして、原子炉建屋1の高さが低くなることで、従来よりも重心が低くなり、耐震性を向上させた原子炉建屋1を構築することができる。
【0025】
また、本実施形態では、屋根構造物3に天井クレーン6が装備されていることにより、建屋構造物2と屋根構造物3との間の空間部4を利用して、オペレーティングフロア2a上への機器および燃料の搬出入が可能となるため、オペレーティングフロア2a上に機器および燃料の搬出入するための開口部を形成しなくても済む。その結果、万一航空機などの外部飛来物の衝突および航空機燃料によって火災が生じたとしても、その火災が安全機能を有する建屋構造物2の内部へ侵入するのを未然に防止することができる。
【0026】
さらに、本実施形態では、建屋構造物2と屋根構造物3のそれぞれが互いに独立した基礎構造となっているので、屋根構造物3の荷重が建屋構造物2の底面に局部的にかかることがなくなり、また建屋の高い部分を軽量化することが可能となるので、耐震性を向上させることができる。
【0027】
このように本実施形態によれば、安全系の機器や系統を収納し、航空機などの外部飛来物の衝突による衝撃に耐える壁厚に構築された建屋構造物2と、この建屋構造物2の上方に覆うように構築された屋根構造物3とが互いに分離構成され、建屋構造物2と屋根構造物3のそれぞれが互いに独立した基礎構造としているので、航空機などの外部飛来物からの衝撃に耐え、かつ安全機能および健全性を維持しつつ、耐震性を向上させることができる。
【0028】
(第2実施形態)
図2は本発明に係る原子炉建屋の第2実施形態の概略構成を示す立断面図である。
【0029】
なお、前記第1実施形態と同一または対応する部分には同一の符号を付し、重複する説明は省略し、異なる構成および作用効果のみを説明する。その他の実施形態も同様とする。
【0030】
前記第1実施形態おける屋根構造物3は、天井面を平坦に形成していたが、図2に示す本実施形態の屋根構造物3Aは、例えば鉄筋コンクリートによりアーチ型またはドーム型に形成されている。
【0031】
このように本実施形態によれば、屋根構造物3Aをアーチ型またはドーム型に形成したことにより、自重で形状を維持することのできる構造物となるため、屋根構造物3Aの構造物量の低減を図ることができる。
【0032】
(第3実施形態)
図3は本発明に係る原子炉建屋の第3実施形態の概略構成を示す立断面図である。
【0033】
前記第1実施形態および第2実施形態における建屋構造物2を鉄筋コンクリートで構築したが、本実施形態の建屋構造物2Aは、図3に示すように外壁および屋根の少なくとも一方が鋼板コンクリートで構築されている。この鋼板コンクリートは、コンクリートの少なくとも片面(内面)に鋼板を接合している。
【0034】
このように本実施形態によれば、建屋構造物2Aが鋼板コンクリートで構築されているので、航空機などの外部飛来物の衝突に耐えることができる。特に、鋼板コンクリート構造の場合は、飛来物の衝突による衝撃で生じるコンクリートの剥離が建屋構造物2Aの内表面の鋼板によって抑えられることによって、建屋構造物2A内部に収納されている安全機能を有する系統や機器に対して、剥離したコンクリートの衝突による二次被害を未然に防止することができる。
【0035】
加えて、鋼鈑コンクリート製の構造の場合は、鉄筋コンクリート製の構造に比べて壁厚を薄くすることが可能である。これにより、原子炉建屋1の構造物量を減らし、地震時の耐性を向上させることも可能となる。
【0036】
(第4実施形態)
図4は本発明に係る原子炉建屋の第4実施形態の概略構成を示す立断面図である。
【0037】
図4に示すように、本実施形態は、図1に示す第1実施形態における屋根構造物3の支持基礎部3aに免震装置7が取り付けられている。本実施形態は、支持基礎部3aに免震装置7を取り付けたことにより、外部からの地震力を屋根構造物3に伝達することがなくなる。
【0038】
このように本実施形態によれば、屋根構造物3が免震装置7を備えていることにより、外部からの地震力による応答の入力を低減させることができる。これにより、屋根構造物3の耐震性を高めることができるとともに、屋根構造物3の構造物量を低減させることができる。
【0039】
(第5実施形態)
図5は本発明に係る原子炉建屋の第5実施形態の概略構成を示す立断面図である。
【0040】
図5に示すように、本実施形態は、屋根構造物3の所定位置に複数の制震装置8が取り付けられている。具体的には、制震装置8は、屋根構造物3の支柱部3bにそれぞれ取り付けられるとともに、屋根部3cの所定位置に取り付けられている。また、制震装置8は、例えば積層ゴムと、流体動圧ダンパ、オイルダンパ、ショックアブソーバなどの制震ダンパから構成される。したがって、屋根構造物3の支柱部3bおよび屋根部3cに制震装置8を設けたことにより、外部からの地震力を制震装置8により制御することが可能となる。
【0041】
このように本実施形態によれば、屋根構造物3が制震装置8を備えていることにより、地震力による屋根構造物3の入力に対する応力を低減させることができる。これにより、屋根構造物3の耐震性を高めることができるとともに、屋根構造物3の構造物量を低減させることができる。
【0042】
(第6実施形態)
図6は本発明に係る原子炉建屋の第6実施形態の概略構成を示す立断面図である。
【0043】
図6に示すように、本実施形態は、建屋構造物2内における上部に、水で十分に満たされた燃料プール9が設置されている。
【0044】
このように本実施形態によれば、航空機または外部飛来物の衝突によって生じた破片(デブリ)に対して、燃料プール9内の水が緩衝材として機能する。これにより、原子炉建屋1内部に収納されている安全機能を有する系統や機器、燃料プール9内に収納されている燃料や燃料ラックに対して、破片(デブリ)の衝突による二次被害を未然に防止することができる。
【0045】
(第7実施形態)
図7は本発明に係る原子炉建屋の第7実施形態の概略構成を示す立断面図である。
【0046】
図7に示すように、本実施形態は、建屋構造物2と屋根構造物3との空間部4において、他の構造物とは独立し、地盤面2bからの支持部を有するガントリークレーン(門型クレーン)10が建屋構造物2を跨ぐように設置されている。
【0047】
このように本実施形態によれば、屋根構造物3に天井クレーンを取り付ける代わりに独立した支持部を有するガントリークレーン10を、建屋構造物2を跨ぐように設置したことにより、屋根構造物3にかかる荷重を減らすことによって、屋根構造物3の耐震性を向上させることができる。
【0048】
(第8実施形態)
図8は本発明に係る原子炉建屋の第8実施形態の概略構成を示す立断面図である。
【0049】
図8に示すように、本実施形態は、建屋構造物2のオペレーティングフロア2a上に、ガントリークレーン(門型クレーン)11が設置されている。
【0050】
このように本実施形態によれば、屋根構造物3に天井クレーン6を設ける代わりに、オペレーティングフロア2a上にガントリークレーン11を設置したことで、屋根構造物3にかかる荷重を減らすことによって、屋根構造物3の耐震性を向上させることができる。
【0051】
なお、本発明は、上記各実施形態に限定されることなく、種々の変更が可能である。例えば、前記第1実施形態〜第8実施形態においては、建屋構造物2と屋根構造物3に対して、それぞれ別個に空調設備、または非常用ガス処理系を設けるようにしてもよい。
【0052】
また、前記第1実施形態を基本構造とし、その他の実施形態の少なくとも一つを適宜組み合せるようにすれば、相乗効果が得られることになる。
【符号の説明】
【0053】
1…原子炉建屋
2…建屋構造物
2a…オペレーティングフロア
2b…地盤面
3…屋根構造物
3a…支持基礎部
4…空間部
5…通路
6…天井クレーン
7…免震装置
8…制震装置
9…燃料プール
10…ガントリークレーン
11…ガントリークレーン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
安全系の機器および系統を収納し、外部飛来物の衝突による衝撃に耐える壁厚に構築された建屋構造物と、この建屋構造物の上方に構築された屋根構造物とを有し、
前記建屋構造物と前記屋根構造物とが互いに分離構成されるとともに、互いに独立した基礎構造部を備えたことを特徴とする原子炉建屋。
【請求項2】
前記屋根構造物は、ドーム型またはアーチ型に構築されていることを特徴とする請求項1に記載の原子炉建屋。
【請求項3】
前記建屋構造物は、その外壁および屋根の少なくとも一方が鋼板コンクリートで構築されていることを特徴とする請求項1に記載の原子炉建屋。
【請求項4】
前記屋根構造物の基礎構造部に、免震装置を取り付けたことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の原子炉建屋。
【請求項5】
前記屋根構造物の所定位置に、制震装置を取り付けたことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の原子炉建屋。
【請求項6】
前記建屋構造物は、上部に燃料プールを設置したことを特徴とする請求項1または3に記載の原子炉建屋。
【請求項7】
前記建屋構造物と前記屋根構造物との間に空間部が形成され、この空間部に前記建屋構造物を跨ぐように門型クレーンを設置したことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の原子炉建屋。
【請求項8】
前記建屋構造物の上面に門型クレーンを設置したことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の原子炉建屋。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−252800(P2011−252800A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−126932(P2010−126932)
【出願日】平成22年6月2日(2010.6.2)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】