説明

原子炉構成部材の水中遠隔表面調査方法及びその水中遠隔表面調査装置

【課題】原子炉構成部材の表面形状の調査精度を向上できる原子炉構成部材の水中遠隔表面調査方法を提供する。
【解決手段】水中遠隔表面調査装置1はレプリカ採取ヘッド7、超音波振動子11及びレプリカ剤カートリッジ20を備える。レプリカ採取ヘッド7が調査対象物である炉内構造物40の表面に押し付けられる。レプリカ採取ヘッド7内に形成されて炉内構造物40の表面に接するレプリカ剤供給領域38内に、レプリカ剤カートリッジ20からレプリカ剤を供給する。レプリカ剤の供給終了後、超音波振動子11から、レプリカ剤供給領域38内のレプリカ剤に超音波39を送信する。これによって、レプリカ剤供給領域38内に存在する気泡または液泡が上昇し、空気抜き孔8からレプリカ採取ヘッド7外に排出される。炉内構造物40の表面に接するレプリカ剤の表面には気泡または液泡が残存しなくなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子炉構成部材の水中遠隔表面調査方法及びその水中遠隔表面調査装置に係り、特に、沸騰水型原子炉の原子炉構成部材の表面形状の調査に適用するのに好適な原子炉構成部材の水中遠隔表面調査方法及びその水中遠隔表面調査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電プラントの原子炉圧力容器内に設置された炉内構造物等の原子炉構成部材に対し、表面状態の調査を行うことが提案されている。代表的な表面状態の調査方法に、原子炉構成部材の表面形状をレプリカ剤に転写して調査する方法がある(特許第3921573号公報及び特許第3890239号公報参照)。
【0003】
特許第3921573号公報は、原子力発電プラントに用いられる制御棒の表面のレプリカを採取する表面状態の調査方法を記載している。この調査方法に用いられる水中表面調査装置は、水中に配置された制御棒に沿って上下動する駆動装置に取り付けられたレプリカ機構プローブが制御棒に押し当てられた状態で固定されるように構成されている。
【0004】
特許第3890239号公報は、水中遠隔表面調査装置を記載している。この水中遠隔表面調査装置は、炉内構造物の表面である被検査面に圧接されるシールチャンバ内に薬液を供給することによって被検査面のエッチングを行い、そのシールチャンバ内にレプリカ剤を供給することによって被検査面のレプリカを採取する構成を有している。
【0005】
特開2005−351733号公報は、機械部品等の欠陥を非破壊で検査する方法を記載している。この検査方法は、検査対象物の表面の検査領域に溶剤を塗布してこの検査領域にレプリカフィルムを貼り付け、貼り付けられたレプリカフィルムに超音波振動を加え、その後、レプリカフィルムを検査対象物から剥がす各工程を有している。貼り付けたレプリカフィルムに超音波振動を加えることによって、溶剤の作用で溶けたレプリカフィルムが検査領域に存在する欠陥の奥まで浸透し易くなる。
【0006】
【特許文献1】特許第3921573号公報
【特許文献2】特許第3890239号公報
【特許文献3】特開2005−351733号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
レプリカ剤を用いる水中遠隔表面調査装置では、炉内構造物の表面に押し付けられるチャンバ内にレプリカ剤を供給して、炉内構造物の表面形状のレプリカを採取する際に、供給されたレプリカ剤と被検体表面の間に気泡または液泡が取り残されることによって、その表面形状の一部がレプリカに転写されない場合がある。被検体の溶接部及び機械加工面の表面では凹凸が大きくなっているため、レプリカ剤と被検体表面の間に気泡または液泡が取り残されやすい。この結果、炉内構造物で表面形状の調査ニーズの高い溶接部及び機械加工面の調査精度が低下する。
【0008】
本発明の目的は、原子炉構成部材の表面形状の調査精度を向上できる原子炉構成部材の水中遠隔表面調査方法及びその水中遠隔表面調査装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記した目的を達成する本発明の特徴は、開口部が形成されたレプリカ剤供給領域を内部に有するレプリカ採取ヘッドを、原子炉容器に設けられた原子炉構成部材の表面に上記の開口部を対向させた状態で原子炉構成部材の表面に向かって押し付け、押し付けられたレプリカ採取ヘッド内のレプリカ剤供給領域にレプリカ剤を供給してこのレプリカ剤を原子炉構成部材の表面に接触させ、レプリカ採取ヘッド内のレプリカ剤に超音波を当てることにある。
【0010】
レプリカ剤供給領域内に充填されたレプリカ剤に超音波を当てることで、レプリカ剤供給領域内に残存する気泡または液泡をレプリカ剤供給領域内から除去することができる。気泡または液泡の除去は、気泡または液泡の固有振動数がレプリカ剤のそれと異なることを利用している。調査対象物である原子炉構成部材の表面に取り残される気泡または液泡が少なくなるので、硬化したレプリカ剤の表面には気泡または液泡が少なく、原子炉構成部材の表面の形状を精度良く転写できる。したがって、硬化したレプリカ剤の表面に転写された原子炉構成部材表面の転写像を見ることによって、原子炉構成部材の表面形状の調査精度を向上させることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、レプリカ剤と調査対象物の表面の間に存在する気泡または液泡を除去することができるので、原子炉構成部材の表面形状の調査精度を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の実施例を以下に説明する。
【実施例1】
【0013】
本発明の好適な一実施例である実施例1の原子炉構成部材の水中遠隔表面調査装置を、図1を用いて説明する。
【0014】
本実施例の水中遠隔表面調査装置1は、躯体2、レプリカ採取ヘッド7、超音波振動ユニット(超音波送信装置)10及びレプリカ剤供給ユニット(レプリカ剤供給装置)18を備えている。躯体2は操作ポール22の下端部に取り付けられている。レプリカ採取ヘッド7は、チャンバであって炉内構造物40に面する開口部を形成したレプリカ剤供給領域38を内部に有している。レプリカ採取ヘッド7は、支持部材3,4によって躯体2に取り付けられる。空気抜き孔(貫通孔)8がレプリカ採取ヘッド7の上端部に形成され、空気抜き孔8の流路断面積は空気抜き孔8の下部よりも上部で大きくなっている。
【0015】
超音波振動ユニット10は、超音波振動子11、超音波振動板12、筒状のハウジング部材13及び超音波発信器(超音波発信装置)17を有する。ハウジング部材13はレプリカ採取ヘッド7に取り付けられてレプリカ採取ヘッド7を貫通し、超音波振動板12がレプリカ剤供給領域38内に配置されている。レプリカ剤供給領域38内に配置される超音波振動板12はレプリカ剤供給領域38に面してハウジング部材13に全周溶接などにより水密に取り付けられる。超音波振動子11はハウジング部材13内に配置されてハウジング部材13に取り付けられている。防水カバー15が、フランジ14によってハウジング部材13に取り付けられ、ハウジング部材13内への水の浸入を阻止する。超音波振動板12、ハウジング部材13及び防水カバー15は、超音波振動子11を取り囲む密封構造のケーシングを構成する。超音波振動子11に接続されるケーブル16は防水カバー15を通して超音波発信器17に接続される。
【0016】
レプリカ剤供給ユニット18は、レプリカ剤供給管19、レプリカ剤カートリッジ20、水圧シリンダ21及び手押しポンプ23を有する。レプリカ剤供給管19は、レプリカ採取ヘッド7に取り付けられてレプリカ剤供給領域38の下部に開口している。レプリカ剤カートリッジ20は、躯体2に取り付けられた支持部材5に着脱自在に取り付けられる。レプリカ剤カートリッジ20に設けられたレプリカ剤排出管20Aが、着脱自在にレプリカ剤供給管19に接続される。水圧シリンダ21が支持部材6によって躯体2に設置される。水圧シリンダ21内にピストン(図示せず)が配置され、このピストンに連結されるロッド21Aがレプリカ剤カートリッジ20を押圧する押圧部材21Bに連結されている。水圧シリンダ21に接続された高圧ホース22が手押しポンプ23に接続される。
【0017】
水中遠隔表面調査装置1を用いて水中に存在する調査対象物の表面を遠隔で調査する際には、補助装置として監視装置33及び固定装置25が用いられる。
【0018】
監視装置33は、水中カメラ(撮影装置)34及びテレビモニター36を有する。水中カメラ34は操作ポール37に取り付けられる。水中カメラ34に接続されたケーブル35は、テレビモニター36に接続される。
【0019】
固定装置25は、水圧シリンダ26、ピストン27、ロッド28及び押圧部材29,30を有する。ピストン27が水圧シリンダ26内に挿入されている。ピストン27の一端に取り付けられたロッド28は、先端部に押圧部材29を取り付けている。シリンダ25には、回転自在に押圧部材30が取り付けられる。高圧ホース31が水圧シリンダ26と手押しポンプ32を接続している。
【0020】
水中遠隔表面調査装置1を用いて沸騰水型原子炉を対象に行われる原子炉構成部材の水中遠隔表面調査方法を、図2を用いて具体的に説明する。原子炉構成部材の水中遠隔表面調査は、沸騰水型原子炉の運転が停止された後に実施される定期検査の期間内で行われる。沸騰水型原子炉の運転が停止された後、原子炉圧力容器を取り囲んでいる原子炉格納容器の蓋が取り外され、原子炉圧力容器の上方に位置している原子炉ウエル41に冷却水が充填される。この状態で、原子炉圧力容器の蓋が取り外される。その後、原子炉圧力容器内に設置されている蒸気乾燥器、気水分離器及びシュラウドヘッドが取り外されて原子炉圧力容器の外へ搬出される。炉心に装荷されている全ての燃料集合体が燃料交換機43を用いて取り出される。炉心から取り出された各燃料集合体は、原子炉格納容器を内蔵する原子炉建屋内で原子炉格納容器の上方に設けられた燃料貯蔵プール内に燃料交換機43を用いて移送される。全ての燃料集合体が炉心から取り出された後、原子炉構成部材を対象にした水中遠隔表面調査を実施する。水中遠隔表面調査装置1の超音波発信器17及び手押しポンプ23,32が運転床42上に置かれる。テレビモニター36は、例えば、燃料交換機43の上に置かれる。
【0021】
水中遠隔表面調査装置を、調査対象物である原子炉構成部材の調査領域まで移動させる(ステップS1)。水中遠隔表面調査する際には、操作ポール24が作業員によって水中遠隔調査装置1の躯体2に取り付けられる。燃料交換機43に乗っている作業員が、水中カメラ34が取り付けられた操作ポール37を持って、水中カメラ34を原子炉ウエル41から原子炉圧力容器内に搬入する。燃料交換機43に乗っている他の作業員が、水中遠隔表面調査装置1の躯体2に取り付けられた操作ポール24を持って、水中遠隔表面調査装置1を、原子炉ウエル41から原子炉圧力容器内まで移動させる。水中カメラ34で撮影された、原子炉圧力容器内における水中遠隔表面調査装置1及びその周辺の映像情報が、ケーブル35を介してテレビモニター36に伝えられ、テレビモニター36に映し出される。操作ポール24を持っている作業員は、テレビモニター36に表示された映像を見ながら操作ポール24を操作し、水中遠隔表面調査装置1を、調査対象物である原子炉構成部材の調査領域まで移動させる。本実施例での調査対象物は、原子炉構成部材である炉内構造物40、具体的には、炉心シュラウドである。炉心シュラウドは、原子炉圧力容器内に設置されて炉心を取り囲む円筒状の部材である。そして、調査領域は、炉心シュラウドの内面である。水中遠隔表面調査装置1は、炉心シュラウド内に配置される。
【0022】
超音波振動ユニットを調査対象物の表面に対向させる(ステップS2)。作業員は、操作ポール24を操作して、レプリカ採取ヘッド7の開口部、及び超音波振動板12が、炉心シュラウドの内面に対向するように、水中遠隔表面調査装置1の向きを調節する。レプリカ採取ヘッド7の開口部、及び超音波振動板12が、炉心シュラウドの内面に対向したとき、この状態を保つため、操作ポール24を燃料交換機43に固定する。レプリカ採取ヘッド7の開口部が炉心シュラウドの内面に向き合ったことは、テレビモニター36に映し出された、水中カメラ34で撮影した映像によって確認できる。水中遠隔表面調査装置1は、レプリカ採取ヘッド7の、開口部側の先端に設けられているスポンジ9が炉心シュラウドの内面から離れた状態で保持されている。
【0023】
調査対象物に付着したクラッド等の固形物を除去する。(ステップS3)。超音波発信器17から超音波振動子11に励起信号を出力する。振動源である超音波振動子11は、励起信号を入力することによって振動を開始して超音波振動板12を共振させる。この結果、超音波振動板12から超音波39が送信される。この超音波39は、調査対象物である炉心シュラウド(炉内構造物40)に向けて、所定時間の間、送信される。送信された超音波39は、炉心シュラウドの調査領域の表面に当たり、この表面に付着しているクラッド等の固形物を除去する。このとき、超音波発信器17から超音波振動子11に出力する励起信号の周波数を変えて、送信される超音波39の周波数を変調させることによって、炉心シュラウドの調査領域に付着している大きさの異なるクラッド等の固形物を効率よく除去することができる。なお、超音波39の送信時間はその調査領域の表面に付着しているクラッド類の厚みに依存する。
【0024】
超音波39は、炉心シュラウドの内面(調査領域の表面)に付着するクラッド等の固形物がレプリカ剤による表面転写に悪影響を及ぼさない程度に除去されるまで、継続して送信される。除去されたクラッド等の固形物は、炉心シュラウドの内面とスポンジ9の間を通って落下する。固形物の除去が終了した後、超音波の送信が停止される。
【0025】
超音波39を炉心シュラウドの内面に当てることにより、その内面に付着している固形物だけでなくその内面にき裂上の欠陥が存在する場合にはき裂内に入り込んだクラッドも除去することができる。
【0026】
レプリカ採取ヘッドを調査対象物の表面に押し付ける(ステップS4)。クラッド等の固形物が炉心シュラウドの調査領域の表面から除去された後、作業員は、水中カメラ34で撮影された水中遠隔表面調査装置1の周辺映像をテレビモニター36で確認しながら、操作ポール24を操作して、レプリカ採取ヘッド7を炉心シュラウドの内面に押し当てる。レプリカ採取ヘッド7の先端の前面に設けられているスポンジ9が炉心シュラウドの内面に接触する。これにより、レプリカ採取ヘッド7内に形成されたレプリカ剤供給領域38の開口部が炉心シュラウドの内面によって塞がれ、レプリカ剤供給領域38が閉じられた領域になる。この状態でのレプリカ採取ヘッド7の固定は、操作ポール24の燃料交換機43への固定、及び固定装置25によって行われる。
【0027】
固定装置25が、作業員が持つ操作ポール(図示せず)によって、上部格子板に形成された1つの升目を通して炉心シュラウド内に搬入されている。手押しポンプ32によって加圧された高圧の水が高圧ホース31を通して水圧シリンダ26内に供給される。この高圧水の供給によってピストン27の一部が水圧シリンダ26から押し出され、ロッド28を水中遠隔表面調査装置1の本体2の背面に向かって移動させる。やがて、ロッド28の先端に設けられた押圧部材29が躯体2の背面に接触する。固定装置25の押圧部材30は、上部格子板に上端部が固定されて炉心支持板に下端部が固定された支柱65に接触している。押圧部材29が躯体2を押し付けることによって、レプリカ採取ヘッド7の、開口部側の先端に設けられているスポンジ9が炉心シュラウドの内面に押し付けられる。水中遠隔表面調査装置1は、固定装置25によって、炉心シュラウドに押し付けられて保持される。
【0028】
レプリカ採取ヘッド内にレプリカ剤を供給する(ステップS5)。レプリカ剤が、スポンジ9を介して炉心シュラウドの内面に押し付けられているレプリカ採取ヘッド7内のレプリカ剤供給領域38に供給される。手押しポンプ23を操作することにより高圧水が高圧ホース22を介して水圧シリンダ21内に供給される。高圧水の作用により、水圧シリンダ21内のピストンが下方に移動され、ロッド21Aに設けられた押圧部材21Bがレプリカ剤カートリッジ20を押圧する。この結果、レプリカ剤カートリッジ20内のレプリカ剤は、レプリカ剤排出管20A及びレプリカ剤供給管19を通ってレプリカ採取ヘッド7内のレプリカ剤供給領域38に下部から供給される。炉心シュラウドの内面に接触しているスポンジ9は、レプリカ剤供給領域38に供給されたレプリカ剤がレプリカ採取ヘッド7外に漏洩することを防止すると共に、レプリカ採取ヘッド7の先端の接触によって炉心シュラウドの内面に傷が付くことを防止する緩衝材として機能する。レプリカ剤がレプリカ剤供給領域38内の下部に注入され、その液位が上部に向かって上昇する。この液位の上昇に伴って、レプリカ剤供給領域38内に存在している水及び気泡が空気抜き孔8を通してレプリカ採取ヘッド7の外部に排出される。レプリカ剤供給領域38内へのレプリカ剤の供給量はレプリカ剤供給領域38の容積と同程度とする。
【0029】
レプリカ剤供給領域38内へのレプリカ剤の供給は、空気抜き孔8内でレプリカ剤が上昇するまで継続される。レプリカ剤を供給している間、水中カメラ34で空気抜き孔8を撮影し、この映像をテレビモニター36に映し出す。空気抜き孔8にレプリカ剤が上昇してきた映像がテレビモニター36に映されたとき、手押しポンプ23から水圧シリンダ21への高圧水の供給を停止する。レプリカ剤カートリッジ20からレプリカ剤供給領域38へのレプリカ剤の供給が停止される。なお、レプリカ剤カートリッジ20内にレプリカ剤供給領域38の容積と同容積のレプリカ剤を予めレプリカ剤カートリッジ20内に充填することによっても、所定量のレプリカ剤をレプリカ剤供給領域38内に供給することができる。
【0030】
超音波振動子からレプリカ剤に対して超音波を送信する(ステップS6)。レプリカ剤のレプリカ剤供給領域38への供給が停止された後、ステップS3と同様に、励起信号を入力した超音波振動子11は、振動を開始して超音波振動板12を振動させる。これにより、超音波振動板12からレプリカ剤供給領域38内のレプリカ剤に向けて超音波39が送信される。レプリカ剤供給領域38内に充填されたレプリカ剤に超音波39が送信されることによって、レプリカ剤供給領域38内のレプリカ剤を振動させ、レプリカ剤と炉心シュラウド内面の間に取り残された気泡または液泡を振動させる。気泡及び液泡はレプリカ剤と固有振動数が異なるため、レプリカ剤供給領域38内に充填されたレプリカ剤の内部に移動し、レプリカ剤の炉心シュラウド内面と接触している領域から除去される。また、レプリカ剤の内部に移動した気泡または液泡はレプリカ剤内を上昇し、空気抜き孔8からレプリカ剤供給領域38の外部、すなわち、レプリカ採取ヘッド7の外部に排出される。レプリカ剤に超音波39を当てることによってレプリカ剤に含まれている気泡を除去することができる。
【0031】
レプリカ剤への超音波39の送信は、調査対象物である炉心シュラウドの表面に残存ずる気泡または液泡がなくなる設定時間の間、行われる。前述したように、送信される超音波39の周波数を変調させることによって、レプリカ剤に含まれている大きさの異なる気泡を効率よく除去することができる。なお、超音波39の送信は、レプリカ剤のレプリカ剤供給領域38内への充填完了後速やかに開始し、調査対象物表面の凹凸の状態及びレプリカ剤の硬化時間を考慮して決定した適切な時間の間、継続される。なお、原子炉圧力容器内の冷却水の温度が高く、十分な超音波の送信時間が確保できない場合には、レプリカ剤供給領域38内に供給するレプリカ剤として硬化時間が長いレプリカ剤を使用する。
【0032】
レプリカ剤供給領域38内のレプリカ剤が硬化するまで待機する(ステップS7)。レプリカ剤の硬化時間は、使用するレプリカ剤の仕様及びレプリカ採取ヘッド7の周囲に存在する冷却水の温度により変化する。このため、レプリカ剤供給領域38内のレプリカ剤が硬化するのに十分な時間、レプリカ採取ヘッド7を炉心シュラウドの内面に押し付けた状態で待機する。
【0033】
硬化したレプリカ剤を回収する(ステップS8)。手押しポンプ32の操作によってピストン27が本体2から離れる方向に移動するように水圧シリンダ26に高圧水を供給する。これによって、固定装置25によってレプリカ採取ヘッド7に作用している押し付け力を解除する。さらに、燃料交換機43に固定されている操作ポール24を取り外す。作業員は、操作ポール24を持って本体2及びレプリカ採取ヘッド7等の水中遠隔表面調査装置1を原子炉圧力容器内から取り出し、本体2を原子炉ウエル41内の冷却水の液面上方に持ち上げる。このようにして、硬化したレプリカ剤が原子炉圧力容器内から回収される。レプリカ剤を回収する際には、水中カメラ34で撮影した水中遠隔表面調査装置1の周辺映像をテレビモニター36で確認しながら、レプリカ剤の転写面が周囲に存在する炉内構造物に触れないように水中遠隔表面調査装置1を運転床42まで引き上げることが望ましい。
【0034】
回収したレプリカ剤に転写された調査対象物の表面形状を観察する(ステップS9)。運転床42まで引き上げられた、硬化しているレプリカ剤は、スポンジ9ごと、レプリカ採取ヘッド7から取り外される。レプリカ剤供給管19及び空気抜き孔8で硬化したレプリカ剤により、レプリカ採取ヘッド7から硬化したレプリカ剤の取り外しが困難な場合には、当該部をナイフ等で切断してから硬化しているレプリカ剤をレプリカ採取ヘッド7から取り外す。作業員は、取り外されて硬化しているレプリカ剤の、炉心シュラウドの内面と接触していた面を観察し、炉心シュラウドの内面における欠陥の有無などの表面性状を確認する。
【0035】
本実施例は、調査対象物の調査領域の表面に向かい合う開口部を有するレプリカ採取ヘッド7内のレプリカ剤供給領域38に供給したレプリカ剤に、超音波振動ユニット10、すなわち、超音波振動子11から超音波39を送信することによって、レプリカ剤に含まれている気泡を除去することができる。したがって、調査対象物である炉心シュラウドの調査領域の表面に接触する気泡が無くなるので、硬化したレプリカ剤のその調査領域に接触した面は調査領域の表面の形状を精度良く転写している。本実施例は、炉心シュラウド(調査対象物)の表面の調査精度を向上させることができる。
【0036】
本実施例は、レプリカ剤をレプリカ採取ヘッド7内に供給するために、レプリカ採取ヘッド7を調査対象物である炉心シュラウドの内面に押し付ける前に、超音波振動子11から送信される超音波39を炉心シュラウドの内面に当て、炉心シュラウドの内面に付着しているクラッド等の固形物を除去する。このため、固形物が付着した炉心シュラウドの内面の形状ではなく、固形物が除去された、炉心シュラウドの真の内面形状を、硬化したレプリカ剤に精度良く転写することができる。これによって、炉心シュラウドの表面の調査精度をさらに向上させることができる。
【0037】
超音波39を炉心シュラウドの内面に当てる際、レプリカ採取ヘッド7、具体的には、レプリカ採取ヘッド7の先端に設けられたスポンジ9を炉心シュラウドの内面から離しているので、炉心シュラウドの内面から除去された固形分が下方に落下し、レプリカ採取ヘッド7のレプリカ剤供給領域38内に入り込む放射化されたクラッド等の固形物が著しく減少する。したがって、レプリカ剤の、炉心シュラウドの内面と接触する領域に存在するクラッド等の固形物が著しく少なくなり、硬化したレプリカ剤にはクラッド等の固形物の影響を受けずに炉心シュラウドの内面の形状が精度良く転写されている。
【0038】
本実施例は、空気抜き孔8を水中カメラ34で撮影しているので、レプリカ剤供給領域38に供給したレプリカ剤が空気抜き孔8内を上昇してきた映像がテレビモニター36に映し出されたとき、炉心シュラウドの内面に押し付けられているレプリカ採取ヘッド7のレプリカ剤供給領域38内がレプリカ剤で満たされたことを知ることができる。空気抜き孔8の流路断面積は、下部よりも上部で大きくなっている。空気抜き孔8内を上昇してきたレプリカ剤が流路断面積の大きな上部に到達したとき、レプリカ剤の上昇速度が遅くなるので、レプリカ剤が空気抜き孔8の上端から溢流することを防止することができる。
【0039】
レプリカ採取ヘッド7を、まず、操作ポール24を用いて炉心シュラウドの内面の調査領域に当てて、その後、固定装置25でレプリカ採取ヘッド7を炉心シュラウドの内面に押し付けるので、レプリカ剤の硬化中にレプリカ採取ヘッド7が移動しない。これにより表面性状の転写精度が向上する。
【0040】
水中カメラ34で炉心シュラウド内面の調査領域を観察したときに、この調査領域の表面にクラッド等の固形物が付着していないことが判明した場合には、ステップS3におけるクラッド等の固形物の除去を実施せずに、ステップS2を終了した後、ステップS4を実施してもよい。
【0041】
水中カメラ34で炉心シュラウド内面の調査領域を観察したときに、この調査領域表面の凹凸が大きく、レプリカ剤を注入する際に気泡及び液泡が多量に取り残されることが判明した場合には、まず、超音波振動板12からレプリカ剤供給領域38に対して超音波39を送信する。超音波39を送信しながら、レプリカ剤供給領域38内にレプリカ剤を供給する。レプリカ剤を供給している間にも超音波振動板12からレプリカ剤供給領域38内に対して超音波を送信する。これにより、炉心シュラウドの内面とレプリカ剤供給領域38内に供給されたレプリカ剤の間に気泡または液泡が取り残されることが抑制される。レプリカ剤供給領域38内にレプリカ剤を少し供給した後でも、レプリカ剤をレプリカ剤供給領域38内に供給している間、レプリカ剤供給領域38に対して超音波39を送信しても同様な効果を得ることができる。
【0042】
本実施例は、沸騰水型原子炉の炉心シュラウド以外の原子炉構成部材、例えば、原子炉圧力容器に形成されたノズルの内面の形状調査にも適用することができる。さらに、本実施例は、加圧水型原子炉の原子炉構成部材である炉内構造物の表面、及びノズルの内面の形状調査にも適用することができる。
【実施例2】
【0043】
本発明の他の実施例である実施例2の原子炉構成部材の水中遠隔表面調査装置を、図3から図6を用いて説明する。本実施例の水中遠隔表面調査装置1Aは、水中遠隔表面調査装置1に移動装置55を設置した構成を有する。水中遠隔表面調査装置1Aの他の構成は水中遠隔表面調査装置1と同じである。
【0044】
移動装置55は、長尺のハウジング56、一対のモータ57、回転ロッド58A,58B,移動部材59A,59B及び支持アーム60A,60Bを有する。ハウジング56は、円筒であり、軸方向に伸びる細長い開口部(図示せず)を形成している。ハウジング56は、横断面が矩形の筒状体であってもよい。雄ネジが形成された回転ロッド58A,58Bが、ハウジング56内に平行に配置され、ハウジング56の軸方向に伸びている。回転ロッド58A,58Bのそれぞれの下端部はハウジング56の下端部に回転可能に取り付けられ、回転ロッド58A,58Bのそれぞれの上端部はハウジング56の上端部に設置された一対のモータ57に別々に連結される。移動部材59A,59Bは、内面に雌ネジが形成された貫通孔をそれぞれ形成している。回転ロッド58Aが移動部材59Aに形成された貫通孔内に挿入され、回転ロッド58Aに形成された雄ネジがこの貫通孔に形成された雌ネジと噛み合っている。回転ロッド58Bが移動部材59Bに形成された貫通孔内に挿入され、回転ロッド58Bに形成された雄ネジがこの貫通孔に形成された雌ネジと噛み合っている。支持アーム60Aが、移動部材59A及び本体2にそれぞれ回転可能に取り付けられる。支持アーム60Bが、移動部材59B及び本体2にそれぞれ回転可能に取り付けられる。
【0045】
水中遠隔表面調査装置1Aを用いて沸騰水型原子炉を対象に行われる原子炉構成部材の水中遠隔表面調査方法を、具体的に説明する。まず、沸騰水型原子炉の概略構造を、図3を用いて説明する。実施例1が対象としている沸騰水型原子炉も図3に示す構成を有している。沸騰水型原子炉は、原子炉圧力容器50内に炉心を取り囲む炉心シュラウド51を設置している。炉心に装荷された燃料集合体(図示せず)の下端部を支持する炉心支持板53が炉心シュラウド51に設置され、燃料集合体の上端部を保持する上部格子板52が炉心支持板53の上方で炉心シュラウド51に設置される。
【0046】
沸騰水型原子炉の運転停止後の定期検査の期間内で、実施例1で述べたように、蒸気乾燥器、気水分離器及びシュラウドヘッドが原子炉圧力容器の外へ搬出され、炉心に装荷されている全ての燃料集合体が取り出される。
【0047】
本実施例の原子炉構成部材の水中遠隔表面調査方法も、図2に示すステップS1〜S9の各工程を実施する。水中遠隔表面調査装置1Aが移動装置55を有している関係上、図2に示すステップS1,S2,S4及びS8の具体的な操作が実施例1と異なっている。これらの工程の操作を中心に説明する。
【0048】
ステップ1における水中遠隔表面調査装置1Aの移動、すなわち、表面調査装置54の、調査対象物である炉心シュラウド(原子炉構成部材)51の調査領域までの移動は、以下のようにして行われる。
【0049】
水中遠隔表面調査装置1Aが、燃料交換機43(図1参照)に把持されて上部格子板52の、4体の燃料集合体が挿入される一つの升目内に挿入され、さらに、炉心シュラウド51内を下降する。水中遠隔表面調査装置1Aのハウジング56の下端部が、炉心支持板53に到達して保持される。その一つの升目は、炉心シュラウド51の内面近くに位置している。ハウジング56の上端部が上部格子板52に保持される。このようにして、水中遠隔表面調査装置1Aは、調査対象物である原子炉構成部材の炉心シュラウド51内に配置される。ハウジング56に形成された細長い開口部は、炉心シュラウド51の内面と向かい合っている。この開口部の上端は上部格子板52付近に位置しており、その開口部の下端は炉心支持板53付近に位置している。
【0050】
さらに、一対のモータ57が駆動され、回転ロッド58A及び58Bが同じ回転方向で同じ回転速度で回転される。回転ロッド58Aに噛み合っている移動部材59A及び回転ロッド58Bに噛み合っている移動部材59Bは、同じ速度で相互の間隔を変えないで回転ロッド58A,58Bに沿ってハウジング56の下端部に向って移動する。これに伴って、支持アーム60A,60Bに取り付けられている表面調査装置54も、ハウジング56内を下方に向かって移動する。炉心シュラウド51の調査領域の位置に達したとき、一対のモータ57の駆動が停止され、表面調査装置54が、レプリカ採取ヘッド7の開口部がその調査領域に対向するようにして停止する(図3及び図4参照)。表面調査装置54は、実施例1に用いられる水中遠隔表面調査装置1の本体2に取り付けられている部分である。すなわち、表面調査装置54は、本体2、レプリカ採取ヘッド7、超音波振動ユニット10の超音波振動子11、超音波振動板12、ハウジング部材13及び防水カバー15、及びレプリカ剤供給ユニット18のレプリカ剤供給管19、レプリカ剤カートリッジ20及び水圧シリンダ21を備えている。
【0051】
ステップS2における超音波振動ユニットの調査対象物の表面への対向は以下のようにして行われる。超音波振動ユニット10の超音波振動板12と炉心シュラウド51の内面の調査領域との間の距離が長いときには、超音波による、調査領域に付着したクラッド等の固形物の除去を効率良く行うために、超音波振動板12を炉心シュラウド51の内面に接近させる必要がある。この操作を、図5及び図6を用いて詳細に説明する。一対のモータ57を同じ回転速度で互いに逆方向に回転させる。これによって、回転ロッド58Bが回転ロッド58Aとは逆方向に回転ロッド58Aの回転速度と同じ回転速度で回転され、移動部材59Aと移動部材59Bが両者の間隔が狭くなるように接近する。このため、本体2が炉心シュラウド51の内面に向って水平方向に移動される。表面調査装置54が炉心シュラウド51の内面に向って移動し、この内面とスポンジ9の間の間隔が狭くなる。この間隔が設定幅になったとき、一対のモータ57を停止させる。
【0052】
その後、ステップS3で超音波によるクラッド等の固形分の除去が行われる。スポンジ9が炉心シュラウド51の内面から離れているので、除去された固形物が原子炉圧力容器50の底部に向って落下する。
【0053】
ステップS4におけるレプリカ採取ヘッド7の炉心シュラウド51内面への押し付けは、以下のようにして行われる。本実施例におけるステップS2と同様に、回転ロッド58Bが回転ロッド58Aとは逆方向に回転ロッド58Aの回転速度と同じ回転速度で回転される。レプリカ採取ヘッド7はステップS2で設定された位置よりもさらに炉心シュラウド51に向って移動される。レプリカ採取ヘッド7の先端部に設けられたスポンジ9が炉心シュラウド51の内面に接触し、支持アーム60A,60Bによってレプリカ採取ヘッド7が炉心シュラウド51の内面に押し付けられる。
【0054】
レプリカ採取ヘッド7が炉心シュラウド51の内面に押し付けられた状態で、ステップS5,S6及びS7の各工程が実施される。レプリカ採取ヘッド7のレプリカ剤供給領域38内のレプリカ剤が硬化した後に行われるステップS8のレプリカ剤の回収は、以下のように、実施される。回転ロッド58A及び58Bは、各モータ57の駆動によって、ステップS4での回転ロッド58A及び58Bのそれぞれの回転方向とは逆方向に同じ回転速度で回転される。このような回転ロッド58A及び58Bの回転によって、移動部材59Aと移動部材59Bの間の間隔は広がり、表面調査装置54が水平方向において炉心シュラウド51から離れる方向に移動される。そして、表面調査装置54がハウジング56内に収納される。その後、水中遠隔表面調査装置1Aが、燃料交換機43によって吊り上げられて、炉心シュラウド51内、さらには、原子炉圧力容器50内から取り出される。水中遠隔表面調査装置1Aは、原子炉ウエル41内を通過して運転床42の上まで引き上げられる。
【0055】
引き上げられた水中遠隔表面調査装置1Aのレプリカ採取ヘッド7から硬化されたレプリカ剤が取り出され、ステップS9の観察が行われる。
【0056】
本実施例は、実施例1で生じる各効果のうち、操作ポール24及び固定装置25によって得られる効果以外の各効果を得ることができる。本実施例は、固定装置25ではなく支持アーム60A,60Bでレプリカ採取ヘッド7を炉心シュラウド51に押し付けることができるので、その押し付けに要する時間が、固定装置25を用いた実施例1のステップS4でのレプリカ採取ヘッド7の押し付けに要する時間よりも短縮することができる。操作ポールによる固定装置25の移動、及び操作ポール24による表面調査装置54の移動が不要になるので、作業員の負担が軽減される。
【0057】
本実施例も、炉心シュラウド内面にクラッド等の固形物が付着していないことが判明した場合には、ステップS3におけるクラッド等の固形物の除去を実施せずに、ステップS2を終了した後、ステップS4を実施してもよい。
【0058】
本実施例でも、炉心シュラウド内面の凹凸が大きく、レプリカ剤を注入する際に気泡や水が多量に取り残されることが判明した場合には、レプリカ剤をレプリカ剤供給領域38内に供給しながら、超音波振動板12からレプリカ剤供給領域38内に対して超音波を送信してもよい。
【0059】
本実施例も、沸騰水型原子炉の原子炉圧力容器に形成されたノズルの内面、及び加圧水型原子炉の原子炉構成部材である炉内構造物の表面及びノズルの内面の形状調査にも適用することができる。
【実施例3】
【0060】
本発明の他の実施例である実施例3の原子炉構成部材の水中遠隔表面調査装置を、図7を用いて説明する。本実施例の水中遠隔表面調査装置1Bは、実施例1の水中遠隔表面調査装置1において水中カメラ34を映像撮影装置34Aに替えた構成を有し、映像撮影装置34Aをレプリカ採取ヘッド7に取り付けている。映像撮影装置34Aは、カメラ及び照明を有する。カメラはケーブル35によってテレビモニター36に接続される。照明は他のケーブルによって電源に接続される。カメラには液体レンズを使用したリモートフォーカスカメラを、照明には発光ダイオードをそれぞれ適用することにより、映像撮影装置34Aの小型化及び発熱量の低減を図ることができる。水中遠隔表面調査装置1Bの他の構造は、水中遠隔表面調査装置1と同じである。
【0061】
水中遠隔表面調査装置1Bを用いて沸騰水型原子炉を対象に行われる原子炉構成部材の水中遠隔表面調査方法も、図2に示すステップS1〜S9の各工程を実施する。本実施例では、映像撮影装置34Aがレプリカ採取ヘッド7に設けられているので、レプリカ採取ヘッド7を押し付ける炉心シュラウド内面の調査領域の表面状態をカメラにより直接確認することができる。その内面におけるクラッド等の固形物の付着状態も容易に確認することができ、ステップS3の実施の要否の判断が容易になる。さらに、レプリカ採取ヘッド7に設けられた映像撮影装置34Aによって、炉心シュラウド内面の調査領域へのレプリカ採取ヘッド7の位置決め精度が向上する。炉心シュラウド内面に押し付けられたレプリカ採取ヘッド7のレプリカ剤供給領域38内にレプリカ剤を供給する際には、レプリカ剤供給領域38におけるレプリカ剤の充填状況を映像撮影装置34Aのカメラで撮影することができ、得られた映像によりレプリカ剤の充填状況を確認することができる。したがって、レプリカ剤供給領域38内でのレプリカ剤の充填不足による、調査領域の表面形状の転写不良を低減できる。これらにより、レプリカ採取精度が向上するため、調査対象物のレプリカを採り直す回数が減少する。
【0062】
本実施例は、実施例1で生じる各効果も得ることができる。
【0063】
実施例1と同様に、本実施例も、炉心シュラウド内面にクラッド等の固形物が付着していないことが判明した場合には、ステップS3におけるクラッド等の固形物の除去を実施しなくてもよい。さらに、本実施例も、沸騰水型原子炉の原子炉圧力容器に形成されたノズル等の他の原子炉構成部材の表面形状の調査、及び加圧水型原子炉の原子炉構成部材の表面形状の調査にも適用することができる。
【0064】
本実施例でも、炉心シュラウド内面の凹凸が大きく、レプリカ剤を注入する際に気泡や水が多量に取り残されることが判明した場合には、レプリカ剤をレプリカ剤供給領域38内に供給しながら、超音波振動板12からレプリカ剤供給領域38内に対して超音波を送信してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の水中遠隔表面調査装置は、原子力発電プラントにおける原子炉構成部材の表面状態、特に、原子炉圧力容器内の原子炉構成部材の表面状態を調査する際に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の好適な一実施例である実施例1の原子炉構成部材の水中遠隔表面調査装置の構成図である。
【図2】図1に示す水中遠隔表面調査装置を用いた原子炉構成部材の水中遠隔表面調査方法の工程を示すフローチャートである。
【図3】本発明の他の実施例である実施例2の原子炉構成部材の水中遠隔表面調査装置を、沸騰水型原子炉の原子炉圧力容器内に設置した状態を示す説明図である。
【図4】実施例2の原子炉構成部材の水中遠隔表面調査装置の詳細構成を示しており、図3のIV部の拡大図である。
【図5】図4に示す水中遠隔表面調査装置の表面調査装置を原子炉圧力容器内の調査対象物である炉心シュラウドの内面に押し付けた状態を示す説明図である。
【図6】図5のVI部の拡大図である。
【図7】本発明の他の実施例である実施例2の原子炉構成部材の水中遠隔表面調査装置の構成図である。
【符号の説明】
【0067】
1,1A,1B…水中遠隔表面調査装置、2…本体、3,4,5,6…支持部材、7…レプリカ採取ヘッド、8…空気抜き孔、9…スポンジ、10…超音波振動ユニット、11…超音波振動子、12…超音波振動板、14…フランジ、17…超音波発信器、18…レプリカ剤供給ユニット、19…レプリカ剤供給管、20…レプリカ剤カートリッジ、21,26…水圧シリンダ、27…ピストン、24,37…操作ポール、25…固定装置、29,30…押圧部材、33…監視装置、34…水中カメラ、34A…映像撮影装置、36…テレビモニター、38…レプリカ剤供給領域、40…炉内構造物、50…原子炉圧力容器、51…炉心シュラウド、54…表面調査装置、55…移動装置、56…ハウジング、57…モータ、58A,58B…回転ロッド、59A,59B…移動部材、60A,60B…支持アーム、65…支柱。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口部が形成されたレプリカ剤供給領域を内部に有するレプリカ採取ヘッドを、水が充填された原子炉容器内に搬入し、前記原子炉容器に設けられた原子炉構成部材の表面に前記開口部を対向させた状態で前記原子炉構成部材の表面に向かって前記レプリカ採取ヘッドを押し付け、押し付けられた前記レプリカ採取ヘッド内の前記レプリカ剤供給領域にレプリカ剤を供給してこのレプリカ剤を前記原子炉構成部材の前記表面に接触させ、前記レプリカ採取ヘッド内の前記レプリカ剤に超音波を当てることを特徴とする原子炉構成部材の水中遠隔表面調査方法。
【請求項2】
開口部が形成されたレプリカ剤供給領域を内部に有するレプリカ採取ヘッドを、水が充填された原子炉容器内に搬入し、前記原子炉容器に設けられた原子炉構成部材の表面に前記開口部を対向させた状態で前記原子炉構成部材の表面に向かって前記レプリカ採取ヘッドを押し付け、押し付けられた前記レプリカ採取ヘッド内の前記レプリカ剤供給領域に超音波を送信した状態で前記レプリカ剤供給領域内にレプリカ剤を供給してこのレプリカ剤を前記原子炉構成部材の前記表面に接触させ、前記レプリカ採取ヘッド内に充填された前記レプリカ剤にさらに超音波を当てることを特徴とする原子炉構成部材の水中遠隔表面調査方法。
【請求項3】
前記超音波は前記レプリカ採取ヘッドに設けられた、超音波振動子に接触している超音波振動板から送信される請求項1または2に記載の原子炉構成部材の水中遠隔表面調査方法。
【請求項4】
前記レプリカ採取ヘッドの上端部に形成されて前記レプリカ剤供給領域に連通する貫通孔を通して、前記レプリカ剤の供給後に前記レプリカ剤供給領域内に残存する気泡または液泡を排出する請求項1ないし3のいずれか1項に記載の原子炉構成部材の水中遠隔表面調査方法。
【請求項5】
前記レプリカ剤供給領域に前記レプリカ剤を供給しているとき、前記レプリカ採取ヘッドの外側から前記貫通孔を、撮影装置を用いて撮影する請求項4に記載の原子炉構成部材の水中遠隔表面調査方法。
【請求項6】
前記レプリカ剤に当てる前記超音波の周波数を変調させる請求項1ないし4のいずれか1項に記載の原子炉構成部材の水中遠隔表面調査方法。
【請求項7】
前記レプリカ採取ヘッドに設けた撮影装置により前記レプリカ剤が接触する前記原子炉構成部材の前記表面、及び前記レプリカ剤供給領域に供給されている前記レプリカ剤を撮影する請求項1または2に記載の原子炉構成部材の水中遠隔表面調査方法。
【請求項8】
前記レプリカ採取ヘッドを前記原子炉構成部材の表面に向かって押し付ける前に、前記表面に超音波を当て前記表面に付着している固形物を除去する請求項1または2に記載の原子炉構成部材の水中遠隔表面調査方法。
【請求項9】
前記固形物を除去するために前記表面に超音波を当てるとき、前記表面と前記レプリカ採取ヘッドの間に間隙を形成する請求項8に記載の原子炉構成部材の水中遠隔表面調査方法。
【請求項10】
超音波振動子が接触する超音波振動板が設けられてレプリカ剤供給装置が接続され、且つ開口部が形成されたレプリカ剤供給領域を内部に有するレプリカ採取ヘッドを、水が充填された原子炉容器内に搬入し、前記原子炉容器に設けられた原子炉構成部材の表面に前記開口部を対向させた状態で前記原子炉構成部材の表面に向かって前記レプリカ採取ヘッドを押し付け、押し付けられた前記レプリカ採取ヘッド内の前記レプリカ剤供給領域に前記レプリカ剤供給装置からレプリカ剤を供給してこのレプリカ剤を前記原子炉構成部材の前記表面に接触させ、前記レプリカ採取ヘッド内の前記レプリカ剤に前記超音波振動板から超音波を送信することを特徴とする原子炉構成部材の水中遠隔表面調査方法。
【請求項11】
超音波振動子が接触する超音波振動板が設けられてレプリカ剤供給装置が接続され、且つ第1開口部が形成されたレプリカ剤供給領域を内部に有するレプリカ採取ヘッド、このレプリカ採取ヘッドを移動させる移動装置、及び前記移動装置が取り付けられて前記レプリカ採取ヘッドを収納し、軸方向に伸びる第2開口部を形成している細長いハウジングを有する水中遠隔表面調査装置を、前記第2開口部が原子炉容器に設けられた原子炉構成部材の表面に対向するように、水が充填された前記原子炉容器内に配置し、
前記移動装置によって前記レプリカ採取ヘッドを前記ハウジングに沿って前記原子炉構成部材の調査領域の位置まで移動させ、
前記調査領域の位置まで移動された前記レプリカ採取ヘッドを、前記移動装置によって、前記第2開口部から突出させて前記原子炉構成部材の表面に前記開口部を対向させた状態で前記原子炉構成部材の表面に向かって押し付け、
押し付けられた前記レプリカ採取ヘッド内の前記レプリカ剤供給領域に前記レプリカ剤供給装置からレプリカ剤を供給してこのレプリカ剤を前記原子炉構成部材の前記表面に接触させ、
前記レプリカ採取ヘッド内の前記レプリカ剤に前記超音波振動板から超音波を送信することを特徴とする原子炉構成部材の水中遠隔表面調査方法。
【請求項12】
開口部が形成されたレプリカ剤供給領域を内部に有するレプリカ採取ヘッドと、前記レプリカ採取ヘッドに設けられて前記レプリカ剤供給領域に超音波を送信する超音波振動板と、前記レプリカ採取ヘッドに接続されて前記レプリカ剤供給領域にレプリカ剤を供給するレプリカ剤供給装置とを備えたことを特徴とする原子炉構成部材の水中遠隔表面調査装置。
【請求項13】
前記レプリカ剤供給領域に連通して前記レプリカ剤供給領域内に残存する気泡または液泡を排出する貫通孔が、前記レプリカ採取ヘッドの上端部に形成されている請求項12に記載の原子炉構成部材の水中遠隔表面調査装置。
【請求項14】
前記貫通孔は、上部の断面積が下部の断面積よりも大きくなっている請求項13に記載の原子炉構成部材の水中遠隔表面調査装置。
【請求項15】
前記超音波振動板が、前記レプリカ採取ヘッドに取り付けられた密封されたケーシングの一部を構成しており、前記超音波振動板が前記ケーシング内に配置された超音波振動子と接触している請求項12に記載の原子炉構成部材の水中遠隔表面調査装置。
【請求項16】
前記超音波の周波数を変調させる超音波発信装置を備えている請求項12に記載の原子炉構成部材の水中遠隔表面調査装置。
【請求項17】
撮影装置が前記レプリカ剤供給領域の方を向いて前記レプリカ採取ヘッドに取り付けられている請求項12に記載の原子炉構成部材の水中遠隔表面調査装置。
【請求項18】
軸方向に伸びる第2開口部を形成している細長いハウジングと、前記ハウジング内に配置され、第1開口部が形成されたレプリカ剤供給領域を内部に有するレプリカ採取ヘッドと、超音波振動子と接触し、前記レプリカ採取ヘッドに設けられて前記レプリカ剤供給領域に超音波を送信する超音波振動板と、前記レプリカ採取ヘッドに接続されて前記レプリカ剤供給領域にレプリカ剤を供給するレプリカ剤供給装置と、前記レプリカ採取ヘッドを前記ハウジングに沿って移動させ、且つ前記レプリカ採取ヘッドを前記第2開口部より前記ハウジングの外へ突出させる移動装置とを備えたことを特徴とする原子炉構成部材の水中遠隔表面調査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−96563(P2010−96563A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−266074(P2008−266074)
【出願日】平成20年10月15日(2008.10.15)
【出願人】(507250427)日立GEニュークリア・エナジー株式会社 (858)
【Fターム(参考)】