説明

原子燃料集合体およびそれを用いた炉心

【課題】スペクトルシフト効果による反応度利得を確保しつつ、スペクトルシフトロッド内の水の状態を感知する中性子検出器の応答感度を向上させる。
【解決手段】正方格子状に配置された複数の燃料棒1と、上部に蒸気溜を形成可能であり、炉心流量によって内部の水位を制御可能な2本の丸型のスペクトルシフトロッド3と、複数の燃料棒1の外周を囲むチャンネルボックス2と、を備えた原子燃料集合体11Bにおいて、スペクトルシフトロッド3の重心位置Gは制御棒20の中心Bと燃料格子の中心Cを結ぶ線上にあり、下式で定義されるスペクトルシフトロッド3の偏心量Xdecが√2となるように、スペクトルシフトロッド3は中性子検出器30側に偏心配置されている。
dec=d/p
ここで、dは、燃料格子の中心Cからスペクトルシフトロッド3の重心位置Gまでの距離であり、pは燃料棒1の中心間距離である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、沸騰水型原子炉に装荷される原子燃料集合体およびそれを用いた炉心に関し、より詳しくは、スペクトルシフトロッドを備えた原子燃料集合体およびそれを用いた炉心に関する。
【背景技術】
【0002】
沸騰水型原子炉において燃料を経済的に利用するために、スペクトルシフトロッド(以下、単にSSRともいう。)を備える原子燃料集合体が開発されている。このSSRはウォータロッドの一種であり、上部に蒸気溜を形成することによって内部に水位を設けることができる。SSR内の水位は、炉心流量を制御することによって変化させることができる。従来、原子燃料集合体に配置された1本又は複数本のSSRは、従来のウォータロッドと同様、その重心位置が原子燃料集合体の横断面中央に位置するように配置されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
炉心流量によって内部の水位を変化させることができるという特徴を利用すると、燃料集合体内の燃料を効率的に利用することができる。即ち、運転サイクルの初期においては、炉心流量を低くすることでSSR内の水位を低く設定し、SSRの上部に蒸気を溜める。これにより、SSR内の水位よりも上部の蒸気領域に対応する燃料棒内の領域にプルトニウムを蓄積する。その後、運転サイクルの末期において、炉心流量を増やしてSSR内部の水位を上昇させ、最終的にはSSR内を満水にする。SSR内部の水位を上昇させることで蓄積されたプルトニウムが燃焼するため、プルトニウムが蓄積された燃料棒上部の出力が高くなる傾向にある。このようにスペクトルシフト運転を行うことで、蓄積したプルトニウムを燃焼させる結果、燃料を効率的に利用でき、反応度の利得を得ることができる(スペクトルシフト効果)。
【0004】
SSR内の水位は、プルトニウムの蓄積量や、SSRが満水になったときのプルトニウムの消費量に関連し、最終的には運転サイクル末期における炉心の出力分布に影響する。したがって、炉心の出力分布を精度良く監視するためには、SSR内の水位を精度良く推定することが望まれる。
【0005】
ところで、SSR内の水位が低く設定されているとき、水位より上側の蒸気の領域と、下側の液体の領域では、水の密度差に起因して中性子減速効果に差が生じる。即ち、上側の蒸気の領域における中性子減速効果は、下側の液体の領域における中性子減速効果よりも小さい。このため、炉心内核計装系の中性子検出器により測定される中性子束の軸方向分布は、SSR内の水位の影響を受ける。
【0006】
よって、中性子検出器の中性子束測定値において軸方向に変化が見られる位置から、SSR内の水位を推定することができると考えられる。
【0007】
このような手法の一つとして、SSR内の水位計算を含む熱水力計算処理により得られた出力分布と、中性子検出器により計測した炉心軸方向出力分布との差から、SSR内の水位を補正する方法が提案されている(例えば特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平5−232273号公報
【特許文献2】特開2009−236727号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のように、中性子検出器により計測された炉心の軸方向出力分布を用いてSSR内の水位を推定する場合には、中性子検出器の応答感度がSSR内の水位の推定精度に影響を与える。そして、SSR内の水位の推定精度が低いと、燃料棒に蓄積されるプルトニウムの量や、SSR内の水位を上昇させた後におけるプルトニウムの燃焼に伴う出力を正確に予測することができない。このため、種々の熱的制限値に対する余裕を正確に把握することができず、炉心監視性能が低下するという問題がある。
【0010】
よって、炉心監視性能を低下させずにスペクトルシフト運転を行うためには、中性子検出器の応答感度を可及的に高める必要がある。SSR内の冷却水(減速材)の状態変化が中性子検出器に与える影響の大きさは、SSRと中性子検出器の距離に依存する。すなわち、SSRと中性子検出器の距離が短いほど中性子検出器の応答感度が高くなる。しかし、SSRを中性子検出器に近づけるとSSRによる反応度利得が低下する問題がある。これに対して、従来、中性子検出器の計測結果に基づいてSSR内の水位を推定する観点から、原子燃料集合体におけるSSRの位置を検討することはなされていなかった。
【0011】
そこで、本発明は、スペクトルシフト効果による反応度利得を確保しつつ、スペクトルシフトロッド内の水の状態を感知する中性子検出器の応答感度を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、燃料集合体のスペクトルシフトロッドを、スペクトルシフト効果が得られる範囲内で中性子検出側に偏心させたものである。
【0013】
本発明の第1の態様によれば、
正方格子状に配置された複数の燃料棒と、上部に蒸気溜を形成可能であり、炉心流量によって内部の水位を制御可能な1つまたは複数のスペクトルシフトロッドと、前記複数の燃料棒の外周を囲むチャンネルボックスと、を備えた原子燃料集合体において、前記スペクトルシフトロッドの水平断面の重心位置が制御棒の中心と燃料格子の中心を結ぶ線上にあって、前記スペクトルシフトロッドによる反応度利得が正となる範囲内で前記スペクトルシフトロッドを前記燃料格子の中心に関して前記制御棒と反対側に偏心して配置したことを特徴とする原子燃料集合体が提供される。
【0014】
本発明の第2の態様によれば、
複数の燃料集合体を備える沸騰水型原子炉の炉心であって、前記炉心に配置された中性子検出器と、前記中性子検出器に隣接する、前記第1の態様による燃料集合体と、を備えることを特徴とする沸騰水型原子炉の炉心が提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る原子燃料集合体では、スペクトルシフトロッドの水平断面の重心位置が制御棒の中心と燃料格子の中心を結ぶ線上にあって、スペクトルシフトロッドによる反応度利得が正となる範囲内でスペクトルシフトロッドを燃料格子の中心に関して前記制御棒と反対側に偏心して配置する。例えば、偏心量が√2又は√2/2となるようにスペクトルシフトロッドを中性子検出器側に偏心配置する。このことは、スペクトルシフトロッドを従来の位置から中性子検出器側に燃料棒配列で1列分だけ偏心させることに相当する。これにより、スペクトルシフト効果による反応度利得を確保しつつ、スペクトルシフトロッド内の水の状態を感知する中性子検出器の応答感度を向上させることができる。
【0016】
中性子検出器の応答感度が向上することで、スペクトルシフトロッド内の水位の推定精度が向上する。その結果、燃料棒に蓄積されるプルトニウムの量や、SSR内の水位を上昇させた後におけるプルトニウムの消費量を精度良く予測することができるようになり、種々の熱的制限値に対する余裕を正確に把握することができ、炉心の監視性能を向上させることができる。
【0017】
また、本発明に係る沸騰水型原子炉の炉心では、中性子検出器を囲む原子燃料集合体としてスペクトルシフトロッドを偏心配置させた本発明に係る原子燃料集合体を用い、それ以外の原子燃料集合体として反応度利得を優先させ、スペクトルシフトロッドを燃料格子の中心近傍に配置した原子燃料集合体を用いる。スペクトルシフトロッドを偏心配置させた本発明に係る原子燃料集合体により、プルトニウムの蓄積量を精度良く把握することができ、これを敷衍することにより炉心全体におけるプルトニウムの蓄積量を精度良く把握することができる。一方、スペクトルシフトロッドの反応度利得を優先させた従来の原子燃料集合体により、プルトニウムを有効に蓄積することができる。
【0018】
これにより、中性子検出器応答感度を改善し、炉心監視性能を向上させるとともに、運転サイクルの末期において高い反応度利得を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】(a)及び(c)は比較用の原子燃料集合体の横断面図であり、(b)は本発明の第1の実施形態に係る原子燃料集合体の横断面図である。
【図2】偏心位置に対する反応度利得および中性子検出器応答感度を示す図である。
【図3】(a)及び(c)は比較用の原子燃料集合体の横断面図であり、(b)は本発明の第2の実施形態に係る原子燃料集合体の横断面図である。
【図4】偏心位置に対する反応度利得および中性子検出器応答感度を示す図である。
【図5】(a)及び(c)は比較用の原子燃料集合体の横断面図であり、(b)は本発明の第3の実施形態に係る原子燃料集合体の横断面図である。
【図6】偏心位置に対する反応度利得および中性子検出器応答感度を示す図である。
【図7】本発明の第4の実施形態に係る炉心の横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照しながら、本発明の4つの実施形態について説明する。第1乃至第3の実施形態は原子燃料集合体に関し、第4の実施形態はそれらの原子燃料集合体を有する沸騰水型原子炉の炉心に関するものである。なお、各図において同等の機能を有する構成要素には同一の符号を付し、同一符号の構成要素の詳しい説明は繰り返さない。
【0021】
(第1の実施形態)
第1の実施形態に係る原子燃料集合体について説明する。図1(a)、(b)及び(c)は、それぞれ原子燃料集合体11A、11B及び11Cの横断面図を示している。また、いずれの図においても、原子燃料集合体の出力を制御する十字形の制御棒20、および中性子束を検出する中性子検出器30の横断面図も示している。
【0022】
図1(a)、(b)及び(c)に示すように、原子燃料集合体11A,11B,11Cはいずれも、10行10列の正方格子状に配置された複数の燃料棒1と、これらの燃料棒1を囲むチャンネルボックス2と、2本の丸型のスペクトルシフトロッド3とを備える。1本のスペクトルシフトロッド3は、燃料棒1が配置される正方格子のうち4つ(2行2列分)の格子位置を占める。つまり、1本のスペクトルシフトロッド3は、4本の燃料棒1を置き換えることによって設けられている。
【0023】
本実施形態に係る原子燃料集合体は図1(b)に示す原子燃料集合体11Bであり、原子燃料集合体11A及び11Cは比較のためのものである。即ち、図1(a)及び図1(b)からわかるように、本実施形態に係る原子燃料集合体11Bは、原子燃料集合体11Aにおけるスペクトルシフトロッド3の重心位置から燃料棒配列1列分だけスペクトルシフトロッド3の重心位置を中性子検出器30側へ偏心させたものである。
【0024】
なお、「重心位置」は、式(1)で定義され、燃料格子におけるスペクトルシフトロッドの平均的な位置の指標として取り扱うこととする。
【数1】

ここで、G:重心位置、A:i番目のスペクトルシフトロッドの断面積、R:i番目のスペクトルシフトロッドの中心位置の位置ベクトル、n:燃料格子内にあるスペクトルシフトロッドの総数である。位置ベクトルは、燃料格子の中心(原点)から中性子検出器の方向に正を取ったx軸と、x軸と原点で垂直に交わるy軸とで張られるx−y平面におけるベクトルである。通常、スペクトルシフトロッドはx軸に関して対称に配置されるため、重心位置はx軸上にある。
【0025】
制御棒20は、図1(a)、(b)及び(c)では、相対的な位置関係を示すために1つの制御棒20に対して原子燃料集合体を1体のみ図示しているが、通常、1つの制御棒20の周囲には、4体の原子燃料集合体が配置されている。
【0026】
中性子検出器30は、図1(a)、(b)及び(c)に示すように、原子燃料集合体の横断面に現われる格子(以下、燃料格子という。)の中心Cと、制御棒20の中心Bを結ぶ線上にあり、制御棒20とは反対側の原子燃料集合体のコーナ付近に設けられている。この中性子検出器30は、電極にウラン235などの核分裂物質を塗布し、管内に電離ガスを封入した核分裂計数管を使用するものであり、具体的には、移動式炉心内計装系(Traversing In-core Probe:TIP)、局所出力領域モニタ(Local Power Range Monitor:LPRM)が用いられる。LPRMは、軸方向に沿って所定の間隔で配置されており、炉心内の局所的な中性子束のレベルを監視する機能および警報機能を有する計装系である。TIPは、軸方向に移動可能なものとして設けられており、LPRMを校正する機能および軸方向出力分布の計測機能を有する計装系である。
【0027】
原子燃料集合体11A,11B及び11Cの相違点は、図1(a)、(b)及び(c)からわかるように、スペクトルシフトロッド3の位置である。即ち、原子燃料集合体11Aの有する2本のスペクトルシフトロッド3の重心位置Gは、燃料格子の中心Cと一致する。それに対し、原子燃料集合体11B及び11Cにおけるスペクトルシフトロッド3の重心位置Gは、燃料格子の中心Cと中性子検出器30を結ぶ直線上にあり、この直線に沿って中性子検出器30側に偏心した位置にある。
【0028】
ここで、中性子検出器に対するスペクトルシフトロッドの位置を示すために、偏心位置を定義する。この偏心位置は、燃料格子の中心Cを原点とし中心Cから中性子検出器30への向きを正にとった軸上におけるスペクトルシフトロッドの重心位置Gを、燃料棒1の中心間距離(ピッチ)を単位として表したものである。
【0029】
また、スペクトルシフトロッドの燃料格子中心からの偏心程度を示すために、偏心量Xdecを式(2)により定義する。
dec=d/p ・・・・(2)
ここで、dは、燃料格子の中心Cからスペクトルシフトロッドの重心位置までの距離であり、pは燃料棒の中心間距離である。
【0030】
原子燃料集合体11A,11B及び11Cにおけるスペクトルシフトロッド3の偏心位置は、それぞれ0、√2及び2√2[ピッチ]である。このように、SSRの重心位置Gを燃料格子の中心Cから中性子検出器30側に向かって1列分近づける毎に、偏心位置は+√2[ピッチ]だけシフトする。
【0031】
次に、偏心位置がスペクトルシフト効果および中性子検出器応答感度に与える影響について説明する。図2は、原子燃料集合体11A,11B及び11Cの各偏心位置に対する、中性子検出器応答感度Sおよび反応度利得Gを示している。
【0032】
中性子検出器応答感度Sは、式(3)で定義される。
S=(Z−Z)/Z×100 [%] ・・・・(3)
ここで、Z:燃料格子の所定の位置にSSRを配置した場合における、SSR内水位上昇前後の、中性子検出器位置でのウラン235核分裂断面積の変化量であり、Z:燃料格子の基準位置にSSRを配置した場合のおける、SSR内水位上昇前後の、中性子検出器位置でのウラン235核分裂断面積の変化量である。
【0033】
反応度利得Gは、式(4)で定義される。
=k−k ・・・・(4)
ここで、k:燃料格子の所定の位置にSSRを配置した場合における、SSR内の水位を上昇させた後の無限増倍率、k:燃料格子の基準位置に前記SSRと同じ形状のウォータロッド(満水)を配置した場合における、サイクル末期の無限増倍率である。
【0034】
本実施形態の場合、中性子検出器応答感度および反応度利得の定義における基準位置は偏心位置0の位置である。
【0035】
図2に示すように、偏心位置が大きくなるほど、即ち、スペクトルシフトロッド3の重心位置が中性子検出器30側へ偏心するほど、中性子検出器応答感度は向上し、その一方、反応度利得は減少する。そして、反応度利得は、偏心位置が√2と2√2の間で正負逆転している。これは、スペクトルシフトロッド3を中性子検出器30側に偏心させすぎたことによって、スペクトルシフト効果による反応度の上昇分よりも、燃料格子中心付近における水の減少による反応度の減少分の方が大きくなってしまったためである。
【0036】
本実施形態に係る原子燃料集合体11Bは、スペクトルシフトロッドを偏心位置√2に配置しているため、図2に示すように、反応度利得は正であり、かつ中性子検出器応答感度は、スペクトルシフトロッドを偏心位置0に配置した従来の原子燃料集合体11Aに比べて向上している。
【0037】
なお、図1の例では、丸型のスペクトルシフトロッドが2本配置されていたが、スペクトルシフトロッドはこれに限られず、燃料棒との置き換えによって偏心量Xdecが0となるように配置可能なスペクトルシフトロッドであれば、その形状および本数は任意である。
【0038】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態について説明する。第2の実施形態と第1の実施形態の相違点の一つは、スペクトルシフトロッドの数および形状である。即ち、第1の実施形態におけるスペクトルシフトロッドは丸型で2本配置されていたのに対し、本実施形態ではスペクトルシフトロッドは角型で1本だけ配置される。
【0039】
図3(a)、(b)及び(c)は、それぞれ原子燃料集合体12A、12B及び12Cの横断面図を示している。また、いずれの図においても、原子燃料集合体の出力を制御する制御棒20、および中性子束を検出する中性子検出器30の横断面図も示している。
【0040】
図3(a)、(b)及び(c)に示すように、原子燃料集合体12A,12B,12Cはいずれも、10行10列の正方格子状に配置された複数の燃料棒1と、これらの燃料棒1を囲むチャンネルボックス2と、1本の角型のスペクトルシフトロッド4とを備える。1本のスペクトルシフトロッド4は、燃料棒1が配置される正方格子のうち9つ(3行3列分)の格子位置を占める。つまり、1本のスペクトルシフトロッド4は、9本の燃料棒1を置き換えることによって設けられている。
【0041】
図3(b)に示す原子燃料集合体12Bが本実施形態に係る原子燃料集合体であり、原子燃料集合体12A及び12Cは比較のためのものである。即ち、図3(a)及び図3(b)からわかるように、本実施形態に係る原子燃料集合体12Bは、原子燃料集合体12Aにおけるスペクトルシフトロッド4の重心位置から燃料棒配列1列分だけスペクトルシフトロッド4の重心位置を中性子検出器30側へ偏心させたものである。
【0042】
原子燃料集合体12A,12B及び12Cの相違点は、図3(a)、(b)及び(c)からわかるように、スペクトルシフトロッド4の位置である。具体的には、図3(a)からわかるように、原子燃料集合体12Aのスペクトルシフトロッド4は偏心位置−√2/2に配置されている。また、原子燃料集合体12B及び12Cにおけるスペクトルシフトロッド4の偏心位置は、それぞれ√2/2及び3√2/2である。
【0043】
なお、燃料棒配列数が10(偶数)であることから、スペクトルシフトロッド4の重心位置Gが原子燃料集合体12Aの燃料格子の中心Cに一致するように配置できない。即ち、スペクトルシフトロッド4を偏心位置0に配置することはできない。
【0044】
次に、偏心位置が、スペクトルシフト効果および中性子検出器に与える影響について説明する。図4は、原子燃料集合体12A,12B及び12Cの各偏心位置に対する、中性子検出器応答感度および反応度利得を示している。本実施形態における中性子検出器応答感度および反応度利得の定義は、第1の実施形態と同様であるが、定義における基準位置は偏心位置−√2/2の位置である。
【0045】
図4に示すように、スペクトルシフトロッド4が中性子検出器30側に偏心するほど、中性子検出器応答感度は向上する。一方、反応度利得は減少し、偏心位置が√2/2と3√2/2の間で正負逆転している。これは、スペクトルシフトロッド4を中性子検出器30側に偏心させすぎたことによって、スペクトルシフト効果による反応度の上昇分よりも、燃料格子中心付近における水の減少による反応度の減少分の方が大きくなってしまったためである。
【0046】
本実施形態に係る原子燃料集合体12Bは、スペクトルシフトロッドを偏心位置√2/2に配置しているため、図4に示すように、反応度利得は正であり、かつ中性子検出器応答感度は、スペクトルシフトロッドを偏心位置−√2/2に配置した従来の原子燃料集合体12Aに比べて向上している。
【0047】
なお、図3の例では、角型のスペクトルシフトロッドが1本配置されていたが、スペクトルシフトロッドはこれに限られず、燃料棒との置き換えによって偏心量Xdecが0となるように配置することができないスペクトルシフトロッドであれば、本実施形態に含まれる。
【0048】
(第3の実施形態)
次に、第3の実施形態について説明する。第3の実施形態と第2の実施形態の相違点の一つは、燃料棒配列数である。即ち、第2の実施形態に係る原子燃料集合体の燃料棒配列数が10であるのに対し、本実施形態に係る原子燃料集合体の燃料棒配列数は11である。
【0049】
図5(a)、(b)及び(c)は、それぞれ原子燃料集合体13A、13B及び13Cの横断面図を示している。また、いずれの図においても、原子燃料集合体の出力を制御する制御棒20、および中性子束を検出する中性子検出器30の横断面図も示している。
【0050】
図5(a)、(b)及び(c)に示すように、原子燃料集合体13A,13B,13Cはいずれも、11行11列の正方格子状に配置された複数の燃料棒1と、これらの燃料棒1を囲むチャンネルボックス2と、1本の角型のスペクトルシフトロッド5とを備える。1本のスペクトルシフトロッド5は、燃料棒1が配置される正方格子のうち9つ(3行3列分)の格子位置を占める。つまり、1本のスペクトルシフトロッド5は、9本の燃料棒1を置き換えることによって設けられている。
【0051】
図5(b)に示す原子燃料集合体13Bが本実施形態に係る原子燃料集合体であり、原子燃料集合体13A及び13Cは比較のためのものである。即ち、図5(a)及び図5(b)からわかるように、本実施形態に係る原子燃料集合体13Bは、原子燃料集合体13Aにおけるスペクトルシフトロッド5の重心位置から燃料棒配列1列分だけスペクトルシフトロッド5の重心位置を中性子検出器30側へ偏心させたものである。
【0052】
原子燃料集合体13A,13B及び13Cの相違点は、図5(a)、(b)及び(c)からわかるように、スペクトルシフトロッド5の位置である。具体的には、図5(a)からわかるように、原子燃料集合体13Aのスペクトルシフトロッド5の偏心位置0に配置されている。また、原子燃料集合体13B及び13Cにおけるスペクトルシフトロッド5の偏心位置は、それぞれ√2及び2√2である。
【0053】
次に、偏心位置がスペクトルシフト効果および中性子検出器に与える影響について説明する。図6は、原子燃料集合体13A,13B及び13Cの各偏心位置に対する、中性子検出器応答感度および反応度利得を示している。本実施形態における中性子検出器応答感度および反応度利得の定義は第1の実施形態と同様であるが、定義における基準位置は偏心位置0の位置である。
【0054】
図6に示すように、スペクトルシフトロッド5が中性子検出器30側に偏心するほど、中性子検出器応答感度は向上する。一方、反応度利得は減少し、偏心位置が√2と2√2の間で正負逆転している。これは、スペクトルシフトロッド5を中性子検出器30側に偏心させすぎたことによって、スペクトルシフト効果による反応度の上昇分よりも、燃料格子中心付近における水の減少による反応度の減少分の方が大きくなってしまったためである。
【0055】
本実施形態に係る原子燃料集合体13Bは、スペクトルシフトロッドを偏心位置√2に配置しているため、図6に示すように、反応度利得は正であり、かつ中性子検出器応答感度は、スペクトルシフトロッドを偏心位置0に配置した従来の原子燃料集合体13Aに比べて向上している。
【0056】
以上、原子燃料集合体に係る3の実施形態について説明した。第1乃至第3の実施形態によれば、反応度利得を確保しつつ、中性子検出器30の応答感度を向上させることができる。即ち、燃料格子の中心に配置されたウォータロッドを有する従来の原子燃料集合体よりも、スペクトルシフト運転により高い反応度を得ることができ、かつ、中性子検出器の応答感度を向上させることができる。この中性子検出器の応答感度の向上により、種々の熱的制限値に対する余裕を正確に把握し、炉心監視性能を向上させることができる。
【0057】
なお、本実施形態は、図5から明らかなように、類型としては図1に示した第1の実施形態と同様に、燃料棒との置き換えによって偏心量Xdecが0となるように配置可能なスペクトルシフトロッドである。つまり、偏心量Xdecが√2となるようにスペクトルシフトロッドを中性子検出器側に偏心させる実施形態は、図1及び図5に示したように、原子燃料集合体に含まれる燃料棒の本数やスペクトルシフトロッドの形状によって限定されるのではなく、あくまでも燃料棒との置き換えによって偏心量Xdecが0となるか否かである。この点は、偏心量Xdecが√2/2となるようにスペクトルシフトロッドを中性子検出器側に偏心させる第2の実施形態についても同様である。
【0058】
(第4の実施形態)
次に、第4の実施形態に係る沸騰水型原子炉の炉心について説明する。
【0059】
図7は本実施形態に係る沸騰水型原子炉の炉心の横断面を示している。図7に示すように、複数の原子燃料集合体14は、炉心の水平断面において直線L1およびL2に関して対称に配置されている。
【0060】
制御棒20は、図7に示すように、4体の原子燃料集合体14から構成された、横断面が正方形の原子燃料集合体群16の中心の間隙に挿抜可能に配置されている。
【0061】
中性子検出器30は、その配置数が少なくなるように、炉心の対称性を考慮して配置されている。即ち、中性子検出器30は、実際に配置された位置における中性子束だけでなく、配置位置と直線L1,L2に関して対称な位置における中性子束についても代表できるように配置されている。例えば、図7に示す中性子検出器30Aの中性子束の検出結果は、中性子検出器30Aの位置における中性子束だけでなく、直線L1に関して対称な位置(対称位置S)における中性子束の検出結果も代表している。よって、中性子検出器30Aは対称位置を代表する中性子検出器でもある。図7からわかるように、他の中性子検出器30についても同様である。
【0062】
本実施形態に係る炉心では、少なくとも一つの中性子検出器について、その中性子検出器と隣接する原子燃料集合体として、第1乃至第3の実施形態で説明した原子燃料集合体11B,12B,13Bのいずれかを用いる。この場合、中性子束を正しく把握するために、当該中性子検出器と直線L1,L2に関して対称な位置に隣接する原子燃料集合体についても、当該中性子検出器と隣接する原子燃料集合体と同じ構成の原子燃料集合体を配置する必要がある。例えば、図7に示すように、中性子検出器30Aと隣接する位置に原子燃料集合体11Bを配置した場合、直線L1に関して対称な位置にも原子燃料集合体11Bを配置する。
【0063】
なお、炉心の外周付近では、中性子の漏れが多く出力が低いため、原子燃料集合体の炉心全体の挙動への寄与は少ない。このため、炉心の外周付近の中性子検出器には、必ずしも高い検出精度が求められるわけではないと考えられる。よって、炉心の外周付近においては、反応度利得を優先するために、スペクトルシフトロッドを燃料格子の中心近傍に配置した原子燃料集合体を配置するようにし、一方、炉心の中央領域等、比較的高い中性子束の検出精度が要求される領域には、第1乃至第3の実施形態に係る原子燃料集合体を配置することが好ましい。
【0064】
以上説明したように、本実施形態によれば、炉心全体として反応度利得を可及的に高く維持しつつ、中性子検出器応答感度を改善し、炉心監視性能を向上させることができる。
【0065】
以上、本発明に係る4つの実施形態について説明した。上記第1〜第3の実施形態では、種々の形状や本数のスペクトルシフトロッドと燃料棒本数の異なる原子燃料集合体の組合せについて示したが、いずれの場合においても、スペクトルシフトロッドを燃料格子中心から中性子検出器の方向へ、反応度利得が正となる範囲内で偏心配置したものである。すなわち、上位概念的には、本発明は、スペクトルシフトロッド(単数および複数のいずれの場合も含む)の水平断面の重心位置が制御棒の中心と燃料格子の中心を結ぶ線上にあって、該スペクトルシフトロッドによる反応度利得が正となる範囲内でスペクトルシフトロッドを燃料格子の中心に関して制御棒と反対側に偏心して配置したものである。
【0066】
上記の記載に基づいて、当業者であれば、本発明の追加の効果や種々の変形を想到できるかもしれないが、本発明の態様は、上述した個々の実施形態に限定されるものではない。特許請求の範囲に規定された内容及びその均等物から導き出される本発明の概念的な思想と趣旨を逸脱しない範囲で種々の追加、変更及び部分的削除が可能である。
【符号の説明】
【0067】
1 燃料棒
2 チャンネルボックス
3,4,5 スペクトルシフトロッド(SSR)
11A,11B,11C 原子燃料集合体
12A,12B,12C 原子燃料集合体
13A,13B,13C 原子燃料集合体
14 原子燃料集合体
16 原子燃料集合体群
20 制御棒
30,30A 中性子検出器
B 制御棒の中心
C 燃料格子の中心
G スペクトルシフトロッドの重心位置
S 対称位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正方格子状に配置された複数の燃料棒と、上部に蒸気溜を形成可能であり、炉心流量によって内部の水位を制御可能な1つまたは複数のスペクトルシフトロッドと、前記複数の燃料棒の外周を囲むチャンネルボックスと、を備えた原子燃料集合体において、
前記スペクトルシフトロッドの水平断面の重心位置が制御棒の中心と燃料格子の中心を結ぶ線上にあって、前記スペクトルシフトロッドによる反応度利得が正となる範囲内で前記スペクトルシフトロッドを前記燃料格子の中心に関して前記制御棒と反対側に偏心して配置したことを特徴とする原子燃料集合体。
【請求項2】
前記スペクトルシフトロッドの偏心量Xdecを下式のように定義したときに、前記燃料棒との置き換えによって前記偏心量が0となるように配置可能なスペクトルシフトロッドを、前記偏心量が√2となるように偏心して配置したことを特徴とする請求項1記載の燃料集合体。
dec=d/p
ここで、dは、前記燃料格子の中心から前記スペクトルシフトロッドの重心位置までの距離、pは前記燃料棒の中心間距離である。
【請求項3】
前記スペクトルシフトロッドの偏心量Xdecを下式のように定義したときに、前記燃料棒との置き換えによって前記偏心量が0となるように配置することができないスペクトルシフトロッドを、前記偏心量が√2/2となるように偏心して配置したことを特徴とする請求項1記載の燃料集合体。
dec=d/p
ここで、dは、前記燃料格子の中心から前記スペクトルシフトロッドの重心位置までの距離、pは前記燃料棒の中心間距離である。
【請求項4】
複数の燃料集合体を備える沸騰水型原子炉の炉心であって、
前記炉心に配置された中性子検出器と、
前記中性子検出器に隣接する、請求項1乃至3のいずれかに記載の燃料集合体と、を備えることを特徴とする沸騰水型原子炉の炉心。
【請求項5】
前記複数の燃料集合体は前記炉心の水平断面において、ある直線に関して対称に配置されており、前記中性子検出器と前記直線に関して対称な位置に隣接する燃料集合体は、請求項1乃至3のいずれかに記載の燃料集合体であることを特徴とする請求項4に記載の沸騰水型原子炉の炉心。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−112768(P2012−112768A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−261280(P2010−261280)
【出願日】平成22年11月24日(2010.11.24)
【出願人】(000229461)株式会社グローバル・ニュークリア・フュエル・ジャパン (102)
【Fターム(参考)】