説明

双方向増幅器

【課題】上り及び下り信号の周波数帯が接近している場合に、上り経路、下り経路の周波数特性にバタツキが生じることを防止する。
【解決手段】双方向増幅器は、ヘッドエンド側から端末側へ伝送される下り信号と、端末側からヘッドエンド側に伝送される上り信号とが伝送される伝送路中に設けられる。下り経路8には、下り信号を増幅する高周波増幅段12、14が設けられ、上り経路26には上り信号を増幅する高周波増幅段30、32が設けられている。下り経路8には、下り信号を抽出するハイパスフィルタ10、18が設けられ、上り経路26には、上り信号を抽出するローパスフィルタ28、36が設けられている。下り経路8には、上り信号をトラップする下り経路トラップフィルタ38が設けられ、上り経路26には下り信号をトラップする上りトラップフィルタ40が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、共同受信システムにおいて使用する双方向増幅器に関し、特に、上り信号と下り信号の周波数帯が近接しているものに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、双方向増幅器には、例えば特許文献1に開示されているようなものがある。この双方向増幅器では、ヘッドエンド装置から送られてくる下り信号を、例えばハイパスフィルタで抽出し、下り増幅器で増幅し、この下り増幅器の出力を、下り信号を抽出する別のハイパスフィルタを介して端末装置側に伝送する。また、端末装置側から伝送された前記下り信号よりも低い周波数帯の上り信号を、例えばローパスフィルタで抽出し、上り増幅器で増幅し、上り信号を抽出する別のローパスフィルタを介してヘッドエンド装置側に伝送する。
【0003】
【特許文献1】特開2005−57731号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、下り信号の周波数帯としては、70MHz乃至770MHzが使用され、上り信号の周波数帯としては10MHz乃至55MHzが使用されている。近年、上り信号を利用して、インターネット接続やIP電話サービスが行われているが、これらに対応するためや、これらを高速化するために、過密状態である上り信号の周波数帯域を拡張することが考えられている。例えば60MHzまで拡張することが考えられている。このように拡張した場合、上り信号と下り信号との干渉を防止するために、ハイパスフィルタ及びローパスフィルタには、カットオフ特性の急峻なものを使用することが考えられている。ところが、このようなフィルタを使用すると、例えばローパスフィルタの遮断域である下り信号の周波数帯内の下限周波数付近の特性にバタツキが発生している。このバタツキが、下り信号の周波数特性に影響を与え、さらに、このバタツキが大きくなると、発振等の問題が生じるので、このバタツキをキャンセルする必要がある。同様なことが、ハイパスフィルタの遮断域である上り信号の周波数帯の上限周波数付近においても起こる。
【0005】
本発明は、上り信号の周波数帯域を拡張した場合でも、上り信号や下り信号の周波数特性に影響が生じない双方向増幅器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様の双方向増幅器は、ヘッドエンド側から端末側へ伝送される所定の周波数帯の下り信号と、前記端末側から前記ヘッドエンド側に伝送され所定の周波数帯を有し、前記下り信号と隣接した周波数配置の上り信号とを、伝送される伝送路中に配置されるものである。下り信号の下限周波数よりも低い周波数帯に上り信号が位置することもあるし、下り信号の上限周波数よりも高い周波数帯に上り信号が位置することもある。この双方向増幅器は、下り経路を有している。この下り経路には下り信号が伝送される。この下り経路と並列に上り経路が配置され、上り経路には前記上り信号が伝送される。下り経路には、前記下り信号を増幅する下り増幅手段が設けられ、前記上り経路には前記上り信号を増幅する上り増幅手段が設けられる。これら下り及び上り増幅手段は、1台だけ設けることもできるし、複数台を縦続接続することもできる。前記下り経路には、前記下り信号を抽出する下りフィルタが設けられる。下りフィルタとしては、例えば上り信号が下り信号よりも低い周波数帯の場合には、ハイパスフィルタを使用することができ、上り信号が下り信号よりも高い周波数帯の場合には、ローパスフィルタを使用することができる。同様に、前記上り経路には、前記上り信号を抽出する上りフィルタが設けられている。上りフィルタとしては、例えば上り信号が下り信号よりも低い周波数帯の場合には、ローパスフィルタを使用することができ、上り信号が下り信号よりも高い周波数帯の場合には、ハイパスフィルタを使用することができる。或いは、上り及び下り信号の周波数関係に無関係に、上り及び下りフィルタにバンドパスフィルタを使用することもできる。いずれの場合でも、下り及び上りフィルタの遮断周波数は、接近している。これら上り及び下りフィルタには、カットオフ特性の急峻なものを使用することが望ましい。下りフィルタは、下り経路において下り増幅段の入力側及び出力側の双方または一方に設けることができる。上りフィルタは、上り経路において上り増幅段の入力側及び出力側の双方または一方に設けることができる。下り経路には、前記上り信号をトラップする下り経路トラップフィルタが設けられている。
【0007】
このような構成の双方向増幅器では、下り経路に下り経路トラップフィルタを設けているので、上りフィルタの影響によって下り経路の周波数特性に大きなバタツキが生じることを防止することができる。
【0008】
前記上り経路には、前記下り信号をトラップする上り経路トラップフィルタを設けることもできる。このように構成すると、下りフィルタの影響によって上り経路の周波数特性にバタツキが生じることを防止することができる。
【0009】
前記下り経路トラップフィルタは、例えば上り信号が下り信号よりも低い周波数の場合、前記上り信号の上限周波数またはこれの近傍の周波数をトラップ周波数とし、上り信号が下り信号よりも高い周波数の場合、上り信号の下限周波数またはこれの近傍の周波数をトラップ周波数とすることができる。下り経路の周波数特性にバタツキが生じるのは、上り周波数の境界周波数またはその近傍周波数であるので、これら周波数をトラップするようにトラップ周波数を選択してある。
【0010】
前記上り経路トラップフィルタは、例えば上り信号が下り信号よりも低い周波数の場合、前記下り信号の下限周波数またはこれの近傍の周波数をトラップ周波数とし、上り信号が下り信号よりも高い周波数の場合、下り信号の上限周波数またはこれの近傍の周波数をトラップ周波数とすることができる。上り経路の周波数特性にバタツキが生じるのは、上り周波数の境界周波数またはその近傍周波数であるので、これら周波数をトラップするようにトラップ周波数を選択してある。
【0011】
本発明の他の態様の双方向増幅器は、上述した態様と同様に、下り経路と上り経路とを有し、下り経路には下り増幅手段が、前記上り経路には前記上り増幅手段がそれぞれ設けられ、前記下り経路には下りフィルタが、前記上り経路には上りフィルタがそれぞれ設けられ、前記下り及び上りフィルタの遮断周波数は、接近している。上り経路には、前記下り信号をトラップする上り経路トラップフィルタが設けられている。
【0012】
このような構成の双方向増幅器では、上り経路に上り経路トラップフィルタを設けているので、下りフィルタの影響によって上り経路の周波数特性に大きなバタツキが生じることを防止することができる。
【発明の効果】
【0013】
以上のように、本発明によれば、トラップフィルタを設けることによって、上り信号及び下り信号の周波数帯が接近している場合でも、上り経路、下り経路の周波数特性に大きなバタツキが生じることを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の1実施形態の双方向増幅器は、共同受信システムにおいて、ヘッドエンドと各端末装置との間の伝送路中に介在し、ヘッドエンドから各端末に伝送される下り信号を増幅すると共に、各端末からヘッドエンドに伝送される上り信号を増幅する。下り信号は、例えば地上波テレビジョン放送信号や自主放送信号等を含み、周波数帯が例えば70MHz乃至770MHzのものである。上り信号は、各端末からヘッドエンド側に伝送されるインターネット接続用の信号や、IP電話用の信号等であり、周波数帯は、例えば10MHz乃至60MHzである。上り信号と下り信号とは、その周波数帯が接近しており、上り信号の上限周波数と、下り信号の下限周波数とは、10MHzの差しか存在しない。
【0015】
この双方向増幅器は、端子2を有している。この端子2は、図示しない伝送路を介してヘッドエンドに接続されている。このヘッドエンドから端子2には、下り信号が供給されている。この下り信号は、コンデンサ4と高周波阻止コイル6とからなるハイパスフィルタ7を介して下り経路8に供給される。
【0016】
下り経路8には、下り信号を通過させる下りフィルタ、例えばハイパスフィルタ10が設けられている。このハイパスフィルタ10は、その遮断周波数が下り信号の下限周波数である70MHzよりも幾分低く設定されている。更に、上述したように下り信号の下限周波数と上り信号の上限周波数とが接近しているので、下り経路8に上り信号の影響が生じないように急峻なカットオフ特性をもつものがハイパスフィルタ10として使用されている。このハイパスフィルタ10を通過した下り信号は、下り増幅手段、例えば縦続接続された2段の高周波増幅段12、14によって増幅される。これら高周波増幅段12、14の間には、ゲインコントロール部16が設けられている。このゲインコントロール部16は、手動及び自動のいずれのものでもよい。高周波増幅段14の出力信号は、ハイパスフィルタ10と同じ構成のハイパスフィルタ18と、コンデンサ20及び高周波阻止コイル22からなるハイパスフィルタ23とを介して端子24に供給され、この端子24から端末側に伝送路を介して伝送される。
【0017】
この端子24には、端末側から上り信号が供給され、この上り信号は、ハイパスフィルタ23を介して上り経路26に供給される。上り経路26には、上り信号を通過させる上りフィルタ、例えばローパスフィルタ28が設けられている。このローパスフィルタ28は、その遮断周波数が上り信号の上限周波数である60MHzよりも幾分高く設定されている。更に、下り信号の下限周波数と上り信号の上限周波数とが接近しているので、上り経路26に下り信号の影響が生じないように急峻なカットオフ特性をもつものがローパスフィルタ28として使用されている。このローパスフィルタ28を通過した上り信号は、上り増幅手段、例えば縦続接続された2段の高周波増幅段30、32によって増幅される。これら高周波増幅段30、32の間には、ゲインコントロール部16と同様なゲインコントロール部34が設けられている。高周波増幅段32の出力信号は、ローパスフィルタ28と同じ構成のローパスフィルタ36と、ハイパスフィルタ7とを介して端子2に供給され、この端子2からヘッドエンド側に伝送路を介して伝送される。
【0018】
図2は、上述したような構成の双方向増幅器の周波数特性を示したもので、上り経路26のローパスフィルタ28、36にカットオフ特性が急峻なものを使用した影響で、これらローパスフィルタ28、36の遮断域であり、かつ下り信号の周波数帯内にある約70MHz付近で周波数特性にバタツキが生じている。同様に、下り経路8のハイパスフィルタ10、18にカットオフ特性が急峻なものを使用した影響で、これらハイパスフィルタ10、18の遮断域であり、かつ上り信号の周波数帯内にある約60MHz付近で周波数特性にバタツキが生じている。
【0019】
これらバタツキを除去するために、下り経路8に上り信号のバタツキをトラップするための下りトラップフィルタ38が、上り経路26に下り信号のバタツキをトラップするための上りトラップフィルタ40が設けられている。下りトラップフィルタ38は、高周波増幅段12とゲインコントロール部16との間に設けられ、上りトラップフィルタ40は、高周波増幅段30とゲインコントロール部34との間に設けられている。下りトラップフィルタ38は、そのトラップ周波数をバタツキが生じている60MHz(上り信号の上限周波数)に、上りトラップフィルタ40は、そのトラップ周波数をバタツキが生じている70MHz(下り信号の下限周波数)に設定している。上り信号におけるバタツキが60MHzに生じずに、上り信号の周波数帯内の他の周波数に生じた場合には、その周波数を下りトラップフィルタ38のトラップ周波数とする。同様に、下り信号におけるバタツキが70MHzに生じずに、下り信号の周波数帯内の他の周波数に生じた場合には、その周波数を上りトラップフィルタ40のトラップ周波数とする。ハイパスフィルタ10、18の遮断周波数とローパスフィルタ28、36の遮断周波数は、上り信号の上限周波数60MHzと下り信号の下限周波数70MHzとの間に位置しているので、上述したバタツキは、概ね60MHzまたはその近傍と、70MHzまたはその近傍とに生じる。
【0020】
図3は、上述したように下りトラップフィルタ38、上りトラップフィルタ40を設けた場合の周波数特性を示したものである。図2と図3との比較から明らかなように、下りトラップフィルタ38、上りトラップフィルタ40を設けることによって、60MHzと70MHzとに生じていたバタツキを抑圧することができる。
【0021】
このようにトラップフィルタ38、40を設けることによって、急峻なカットオフ特性を備えたハイパスフィルタ10、18、ローパスフィルタ28、36を使用したことによる弊害であるバタツキを抑圧することができ、上り信号及び下り信号の周波数帯域の特性をほぼ平坦にすることができる。
【0022】
上記の実施形態では、ハイパスフィルタ10、18、ローパスフィルタ28、36を使用したが、これらに代えてバンドパスフィルタを使用することもできる。また、上記の実施形態では、下り信号の下側の周波数帯に上り信号を配置したが、逆に下り信号の上側の周波数帯に上り信号を配置することもある。この場合には、下り経路8に下り信号を抽出可能な急峻なカットオフ特性を持つローパスフィルタを配置し、上り経路26に上り信号を抽出可能な急峻なカットオフ特性を持つハイパスフィルタを配置する。上りトラップフィルタは、下り信号の上限周波数またはその近傍で周波数特性にバタツキが生じる周波数とし、下りトラップフィルタは、上り信号の下限周波数またはその近傍で周波数特性にバタツキが生じる周波数とする。上記の実施形態では、下りトラップフィルタ38は高周波増幅段12とゲインコントロール部16との間に設け、上りトラップフィルタ40は高周波増幅段30とゲインコントロール部34との間に設けたが、下りトラップフィルタ38は下り経路8の任意の位置に、上りトラップフィルタ40は上り経路26の任意の位置に設けることができる。上記の実施形態では、高周波増幅段は下り経路8及び上り経路26それぞれに2段としたが、最低限度1段とすることができるし、3段以上の高周波増幅段を設けることもできる。上記の実施形態では、下り経路8に下りトラップフィルタ38を、上り経路26に上りトラップフィルタ40をそれぞれ設けたが、上り信号及び下り信号のいずれか一方にしかバタツキが生じない場合には、そのバタツキが生じている信号の経路のみにトラップフィルタを設ければよい。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の1実施形態の双方向増幅器のブロック図である。
【図2】図1の双方向増幅器においてトラップフィルタを除去した場合の周波数特性図である。
【図3】図1の双方向増幅器の周波数特性図である。
【符号の説明】
【0024】
8 下り経路
10 18 ハイパスフィルタ(下りフィルタ)
12 14 高周波増幅段(下り増幅手段)
26 上り経路
28 36 ローパスフィルタ(上りフィルタ)
30 32 高周波増幅段(下り増幅手段)
38 下りトラップフィルタ
40 上りトラップフィルタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘッドエンド側から端末側へ伝送される所定の周波数帯の下り信号と、前記端末側から前記ヘッドエンド側に伝送され所定の周波数帯を有し、前記下り信号と隣接した周波数配置の上り信号とを伝送される伝送路中に配置される双方向増幅器であって、
前記下り信号が伝送される下り経路と、この下り経路と並列に配置され、前記上り信号が伝送される上り経路とを、有し、
前記下り経路には、前記下り信号を増幅する下り増幅手段が設けられ、前記上り経路には前記上り信号を増幅する上り増幅手段が設けられ、
前記下り経路には、前記下り信号を抽出する下りフィルタが設けられ、前記上り経路には、前記上り信号を抽出する上りフィルタが設けられ、前記下り及び上りフィルタの遮断周波数は、接近しており、
前記下り経路には、前記上り信号をトラップする下り経路トラップフィルタが設けられている
双方向増幅器。
【請求項2】
請求項1記載の双方向増幅器において、前記上り経路には、前記下り信号をトラップする上り経路トラップフィルタが設けられている双方向増幅器。
【請求項3】
請求項1または2記載の双方向増幅器において、前記下り経路トラップフィルタは、前記上り信号の上限または下限周波数のうち、前記下り信号に隣接しているものまたはこれの近傍の周波数をトラップ周波数としている双方向増幅器。
【請求項4】
請求項2または3記載の双方向増幅器において、前記上り経路トラップフィルタは、前記下り信号の上限または下限周波数のうち、前記上り信号に隣接しているものまたはこれの近傍の周波数をトラップ周波数としている双方向増幅器。
【請求項5】
ヘッドエンド側から端末側へ伝送される所定の周波数帯の下り信号と、前記端末側から前記ヘッドエンド側に伝送され所定の周波数帯を有し、前記下り信号と隣接した周波数配置の上り信号とを伝送される伝送路中に配置される双方向増幅器であって、
前記下り信号が伝送される下り経路と、この下り経路と並列に配置され、前記上り信号が伝送される上り経路とを、有し、
前記下り経路には、前記下り信号を増幅する下り増幅手段が設けられ、前記上り経路には前記上り信号を増幅する上り増幅手段が設けられ、
前記下り経路には、前記下り信号を抽出する下りフィルタが設けられ、前記上り経路には、前記上り信号を抽出する上りフィルタが設けられ、前記下り及び上りフィルタの遮断周波数は、接近しており、
前記上り経路には、前記下り信号をトラップする上り経路トラップフィルタが設けられている
双方向増幅器。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−141450(P2008−141450A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−325207(P2006−325207)
【出願日】平成18年12月1日(2006.12.1)
【出願人】(000109668)DXアンテナ株式会社 (394)
【Fターム(参考)】