説明

双晶解析装置

【課題】双晶の実空間単位格子,逆格子空間基本格子及び逆格子点群を立体的に表示することにより,双晶成分間の3次元的な相互関係を容易に理解できるようにして,双晶試料のX線構造解析の成功率を高める。
【解決手段】単結晶X線構造解析装置42を用いて,複数の双晶成分の各結晶方位行列を得る。第1演算手段34は,結晶方位行列に基づいて,複数の双晶成分の実空間単位格子を求めて,それを回転,拡大・縮小,平行移動の各操作が可能なように立体的に表示するための表示データを作成する。第2演算手段36は,結晶方位行列に基づいて,複数の双晶成分の逆格子空間基本格子を求めて,それを同様に立体的に表示するための表示データを作成する。第3演算手段38は,結晶方位行列に基づいて,X線回折が生じる逆格子点群を,双晶成分ごとに区別して,それを同様に立体的に表示するための表示データを作成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線回折法を用いた単結晶X線構造解析装置によって双晶を解析して,その解析結果を立体的に表示する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
X線回折法を用いて単結晶の構造解析をするには,X線検出器に記録された回折斑点群の強度を精密に測定する必要がある。試料が単結晶であれば,通常の単結晶X線構造解析装置を使うことにより,回折斑点の強度を精密に測定することは容易にできる。一方,試料が双晶の場合には,特に非メロヘドリーに分類される双晶では,回折斑点群の現れ方は双晶成分間の幾何学的関係に依存し,X線検出器上において,異なる双晶成分からの回折斑点が互いに完全に重なり合ったり,部分的に重なり合ったりする事態が発生する。こうなると,回折斑点の強度を精密に測定することが困難になり,その結果,結晶構造解析に困難を生じる。場合によっては,構造解析が不可能になる。このように,双晶試料から得られる回折データを解析する上で最も注意が必要なことは,X線検出器上での回折斑点の重なり状態であり,したがって,双晶成分間の相互関係や逆格子点の重なり具合を把握することがきわめて重要になってくる。
【0003】
双晶とは,2成分以上の単結晶が集合した結晶を指し,通常,双晶を機械的に分離することは不可能である。図17(A)は二つの双晶成分から構成される双晶の一例を示す斜視図である。図17(B)は二つの双晶成分から構成される双晶の別の例の斜視図である。このような双晶をX線回折法によって構造解析をする場合には,特に非メロヘドリーに分類されるような双晶では,逆格子点が空間的に互いに重なり合って検出器上で分離不能となるような回折点と,検出器上で分離して測定可能な回折点とが存在する。したがって,X線回折の強度データを収集して解析する場合に,双晶の幾何学的関係を正しく理解していないと,構造解析が困難になることがある。
【0004】
双晶を構成する成分間の相対的な幾何学的関係を表現する手段としては,従来,次のような方法が知られている。第1の方法は,双晶成分間の関係を3行×3列の行列を用いて数学的に表現する方法である。第2の方法は,各双晶成分に由来する逆格子点を,逆格子空間上で表示する方法である。図18(A)乃至(D)は,二つの双晶成分に由来する二つの逆格子網を互いに重ね合わせて2次元表示したものであり,双晶の対称性のタイプによって4種類の例を示している。(A)と(B)は,TLQS(Twin Lattice Quasi-Symmetry)に属する二つのタイプを示すものであり,(C)と(D)は,TLS(Twin Lattice Symmetry)に属する二つのタイプを示すものである。図19は二つの双晶成分のそれぞれの実空間単位格子を2次元平面上で表示したものである。この双晶は,第1双晶成分の単位格子(a1,b1)をc軸周りに90度回転させると第2双晶成分の単位格子(a2,b2)になるような関係になっている。図20は図19に示す二つの双晶成分に由来するX線回折スポットを2次元の逆格子平面上で重ね合わせて表示したものである。第1双晶成分に由来するX線回折スポットを黒丸で表示し,第2双晶成分に由来するX線回折スポットを白丸で表示している。
【0005】
双晶成分間の関係を3行×3列の行列を用いて数学的に表現する方法は,次の非特許文献1に記載されている。また,上述の図18〜図20に示した双晶表示方法は非特許文献2に記載されている。
【非特許文献1】TWINLAW and HKLF5, two programs for the handling of non-merohedral twins, Michael Bolte, Journal of Applied Crystallography, (2004). 37, 162-165
【非特許文献2】TWINNING WORKSHOP, AsCA/Crystal 23, Instructor: Victor G. Young, Jr., University of Minesota, 14:00-16:00, 11 August 2003
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の従来の双晶表示方法は,双晶成分間の3次元的な相互関係を分かりやすく表現するには不十分である。行列を用いて数学的に表現する方法は,双晶成分間の相互関係を厳密に定義してはいるが,その内容に基づいて双晶成分間の3次元的な相互関係を把握することはきわめて困難である。また,図18や図20に示すような,2次元の逆格子網上で双晶を表現する方法は,相当の知識や経験のある結晶学者でなくては,そこから双晶成分間の3次元的な相互関係を読み取ることができない。
【0007】
本発明は上述の問題点を解決するためになされたものであり,その目的は,結晶学に詳しくない人でも双晶成分間の相互関係を容易に理解できるようにして,双晶からなる試料のX線構造解析の成功率を高めることができる双晶解析装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の双晶解析装置は、双晶試料をX線回折法で解析して,その解析結果を分かりすく画面表示することに特徴がある。この双晶解析装置は,試料をX線回折法で測定し,かつ,解析できるような単結晶X線構造解析装置を備えている。この単結晶X線構造回折装置は,試料が複数の双晶成分からなる場合に,回折測定結果に基づいて,双晶成分のそれぞれの結晶方位行列を求めることができる。結晶方位行列が正しく求まれば,試料の解析自体は完了するが,双晶試料の場合,回折斑点の重なり等があって,通常の単結晶試料と比較すると,その解析作業は困難である。一般に,試料が双晶かどうかは分からない場合が多く,通常の単結晶であると想定して単結晶構造解析をすると,おかしな解析結果が出ることがあり,その時点で,オペレータは双晶を疑うことになる。そのような状況において,双晶試料と仮定して結晶方位行列を求める作業と,その解析結果を画面表示する作業とを,繰り返すことが必要になり,そのような作業において,本発明における第1演算手段乃至第3演算手段が有効に機能することとなる。本発明は,求めた結晶方位行列に基づいて,双晶成分の相互関係を3次元的に分かりやすく表示することができる。第1演算手段は,各双晶成分の実空間での単位格子を,3次元の実空間を表現する画面上で視点を変更可能に立体的に表示できるものである。第2演算手段は,各双晶成分の逆格子空間での基本格子を,3次元の逆格子空間を表現する画面上で視点を変更可能に立体的に表示できるものである。第3演算手段は,複数の双晶成分のそれぞれの逆格子点のうち,X線回折が生じる逆格子点群を,双晶成分ごとに区別して,3次元の逆格子空間を表現する画面上で視点を変更可能に立体的に表示できるものである。
【0009】
双晶成分ごとに区別して表示する態様としては,双晶成分ごとに色を変えて表示することができる。その場合,異なる双晶成分に由来する回折斑点が互いに重なり合う場合は,その重なり合う回折斑点を,各双晶成分の表示色とは異なる色で表示することができる。これにより,回折斑点の重なりがあることについてオペレータに注意を喚起できる。
【0010】
視点を変更して表示する態様にはいろいろのものが考えられるが,最も重要なものは,対象物を見る方向(すなわち,視線の方向)を変えることである。双晶成分間の相互関係を理解するには,対象物をいろいろな方向から見ることが効果的である。視線の方向を変えることは,画面上では,対象物を特定の軸のまわりに回転させることに相当する。第1演算手段から第3演算手段までのいずれにおいても,この視線方向を変更する機能(すなわち,対象物の回転機能)が備わっている。これにより,実空間単位格子,逆格子空間基本格子,及び,X線回折が生じる逆格子点群を,いろいろな方向から見ることができる。
【0011】
視点を変更して表示する態様の別のものとしては,対象物の拡大・縮小機能がある。この拡大・縮小機能は,回折斑点群(すなわち,X線回折が生じる逆格子点群)の重なり具合を観察するのに特に便利である。したがって,少なくとも第3演算手段は,回折斑点群の拡大・縮小機能,すなわち,画面の大きさに対する逆格子ベクトルの大きさの割合を変更する機能を備えていることが好ましい。これにより,逆格子空間の特定の領域における回折斑点群を拡大表示することができて,各双晶成分に由来する回折斑点の重なり具合を拡大して見ることができる。また,縮小表示することで,回折斑点群の全体の分布状況を観察することができる。同様に,第1演算手段と第2演算手段も,拡大・縮小機能を備えることができる。その場合,第1演算手段では,画面の大きさに対する実格子ベクトルの大きさの割合を変更する機能となり,第2演算手段では,第3演算手段と同じように,画面の大きさに対する逆格子ベクトルの大きさの割合を変更する機能となる。
【0012】
視点を変更して表示する態様のさらに別のものとして,画面上で対象物を平行移動させる機能がある。この平行移動機能も,回折斑点群を観察するのに特に便利である。したがって,少なくとも第3演算手段は,回折斑点群の平行移動機能,すなわち,画面の中心位置に対する逆格子空間の原点位置を変更する機能を備えていることが好ましい。これにより,例えば回折斑点群を拡大表示する場合において,逆格子空間のどの領域を観察するかを選ぶことができる。同様に,第1演算手段と第2演算手段も,平行移動機能を備えることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の双晶解析装置は、単結晶X線構造解析装置で求めた各双晶成分の結晶方位行列に基づいて,各双晶成分の実空間単位格子,逆格子空間基本格子,及び,回折斑点群(X線回折が生じる逆格子点群)を,3次元空間上で視点を変更可能に立体的に表示できるので,結晶学に詳しくない人でも,双晶成分間の相互関係(特に,逆格子点の重なり具合)を容易に把握できる。したがって,測定された回折斑点群を解釈して解析する作業を,双晶成分の3次元的相互関係を考慮して進めることができ,双晶からなる試料のX線構造解析の成功率を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下,図面を参照して本発明の実施例を詳しく説明する。まず,複数の双晶成分のそれぞれの結晶方位行列が既知であると仮定したとき,その結晶行列を基にして,実空間単位格子や逆格子空間基本格子等を描画する方法を説明する。双晶成分iの結晶方位行列UBiは,図1の(1)式に示すように,3行×3列の行列で表すことができる。二つの双晶成分からなる試料の場合は,i=1と,i=2の,二つの結晶方位行列が存在する。結晶方位行列の転置の逆行列は図1の(2)式のように表現できる。双晶成分iの実空間での単位格子(実空間単位格子)は実格子ベクトルの組で表現でき,それらの実格子ベクトルの座標は,図1の(3)〜(5)式のように表現できる。実格子ベクトルの組は結晶方位行列の転置の逆行列に等しい。また,双晶成分iの逆格子空間での基本格子(逆格子空間基本格子)は逆格子ベクトルの組で表現でき,それらの逆格子ベクトルの座標は,図1の(6)〜(8)式のように表現できる。逆格子ベクトルの組は結晶方位行列に等しい。
【0015】
図2は双晶成分1の実空間単位格子を立体的に表示したものである。実空間単位格子は,実格子ベクトルa1,b1,c1で作られる平行六面体で定義される。実空間の原点Oを基点として,三つの実格子ベクトルa1,b1,c1がそれぞれの結晶軸の方向に延びている。この単位格子の8個の頂点,0点及びA〜G点,の座標は,図1の(3)〜(5)式の座標を用いて,図3の(9)〜(16)式に示すように表現できる。したがって,図1の(1)式の結晶方位行列が求まれば,図1の(3)〜(5)式の実格子ベクトルの座標が決まって,図3の(9)〜(16)式の頂点座標が決まり,これに基づいて,図2のような実空間単位格子を描くことができる。
【0016】
図2のような立体図形は,3次元のコンピュータグラフィックスのソフトウェア(以下,3DCGという)を用いて容易に描くことができる。すなわち,上述の8個の頂点座標を指定すれば,図2のような立体図形が表示される。3DCGでは,描画オブジェクト(3次元画像)の回転,拡大・縮小,平行移動の操作が可能であり,操作後の図形を画面に表示することができる。具体的には,上述の8個の頂点座標について,回転操作の関数,拡大・縮小操作の関数,または,平行移動の関数を用いて演算することで,操作後の座標値を求めることができ,その座標値を用いて,操作後の画像を表示することができる。回転,拡大・縮小,平行移動の各操作を指令するには,コンピュータに付属する入力手段(キーボード,マウス,タッチパッドなど)を使う。
【0017】
逆格子空間基本格子の描画についても,図1の(6)〜(8)式に示す逆格子ベクトルの座標を用いて,逆格子空間上で逆格子空間基本格子を描くことができる。逆格子空間基本格子は,逆格子ベクトルa*1,b*1,c*1で作られる平行六面体で定義される。逆格子空間基本格子についても,3DCGを用いて,回転,拡大・縮小,平行移動の操作と,操作後の図形についての画面表示が可能である。
【0018】
次に,双晶成分間の回折斑点の重なりについて説明する。X線回折の原理によれば,ひとつの結晶格子面がひとつの反射指数(ミラー指数)(hkl)を持ち,ひとつの反射指数(hkl)がひとつの逆格子点に対応する。反射指数(hkl)をもつ逆格子点を考えると,双晶成分iの逆格子点座標(xi,yi,zi)は図4の(17)式で表される。ここで,反射指数のh,k,lは,正または負の整数か,ゼロである。
【0019】
各双晶成分について,観測可能な(すなわち,X線回折条件を満たす)逆格子点を全て見つけだす作業をする。そして,(17)式を用いて,その逆格子座標を計算する。異なる双晶成分iとjについて,双晶成分iに属する逆格子点と,双晶成分jに属する逆格子点との距離を逆格子点間距離Δijと定義する。そして,双晶成分iに属する逆格子点と,双晶成分jに属する逆格子点のすべての組み合わせについて,上述の逆格子点間距離Δijを,図4の(18)式で計算する。この逆格子点間の距離が所定の閾値よりも小さいときは,二つの逆格子点は重なっていると定義することができる。
【0020】
次に,観測可能な逆格子点を全て見つけだす方法を説明する。逆格子原点から特定の逆格子点までの距離は,図4の(19)式で与えられる。そして,観測可能な反射は,図14の(20)式を満たすものであり,この式は,逆格子原点からの距離d*iが所定値d*max以内になるような逆格子点を意味する。このd*maxは,通常,約8/nmである。一方,観測可能な逆格子点の反射指数(hkl)の上限と下限は,図4の(21)〜(23)式で与えられる。したがって,(21)〜(23)式に該当する反射指数(hkl)をすべて取得して,そのd*iを(19)式で計算し,それが(20)式を満たしていれば,それが観測可能な逆格子点であると判断して,反射リストに加える。このような作業を双晶成分すべてについて実施すれば,観測可能な逆格子点をすべてリストアップすることができる。
【0021】
双晶成分がN個(Nは2以上の整数)あるときは,観測可能な逆格子点について,上述の計算により,双晶成分1に属する逆格子点がM1個,双晶成分2に属する逆格子点がM2個,……,双晶成分nに属する逆格子点がMn個求まったと仮定する。逆格子点が互いに重なる可能性があるのは,異なる双晶成分に属する逆格子点に限られるので,双晶成分1に属するM1個の逆格子点と,双晶成分2に属するM2個の逆格子点のすべての組み合わせについて,図4の(18)式の逆格子点間距離Δijを演算する。そして,Δij<閾値(通常は,0.1〜1/nm)の条件を満たせば,互いに重なり合った逆格子点であると判定して,両方の逆格子点に「重なりフラグ」(重なっていることの目印)を付ける。このような作業を,双晶成分1と2,1と3,……のように,双晶成分間のすべての組み合わせについて計算していく。
【0022】
計算した全ての逆格子点を,3DCGを用いて,画像表示装置(例えば,CRT装置,液晶表示装置,エレクトロルミネッセンス表示装置など)の画面上に描画する。逆格子点を画面に表示するには,例えば,逆格子点を中心とした球で表示する。球以外にも,点,平行六面体,星形など,位置が確認できるものであれば,どのような形状のものでも採用できる。双晶成分を区別するには,異なる双晶成分に由来する逆格子点に対して,異なる色で表示するのが便利である。逆格子点群を逆格子空間上で立体的に表示する際に,画像の回転,拡大・縮小,平行移動の操作が重要になる。X線回折が可能な全ての逆格子点を観察するには,画像を縮小すれば,逆格子点群の全体の分布状況を確認できる。そして,画像を回転することで,逆格子点群の分布状況をいろいろな視線から観察できる。逆格子点群の重なり具合を見るには,所望の領域だけを拡大して観察することができる。拡大観察をしたい領域を変えるには,拡大画像を平行移動すればよい。
【0023】
次に,具体的な双晶試料を例にして,本発明における画面表示の例を説明する。二つの双晶成分からなる実際の試料について,単結晶X線構造解析装置で解析を実施したところ,図5の(24)式と(25)式に示すような結晶方位行列が得られた。この二つの結晶方位行列に基づいて相互関係行列Rを求めると,図5の(26)式のようになる。相互関係行列Rは,双晶則とも呼ばれ,二つの結晶方位行列の相互関係を示す回転行列である。この相互関係行列Rを解析することにより,次のことが分かる。すなわち,二つの双晶成分は実格子a軸を共有し,一方の双晶成分をそのa軸の周りに179.984度だけ回転すると,他方の双晶成分に一致するような関係になっていることが判明する。これにより,二つの双晶成分は,180度の回転によって互いに重なるような相互関係になっているものであると判断できる。相互関係行列Rを解析することでこのような情報を得るには,結晶学の知識が必要であるが,本発明では,結晶学の知識を使わなくても,以下に示すように,画面上で立体的に二つの双晶成分の相互関係が分かる。
【0024】
図6は,この双晶試料の二つの双晶成分の実空間単位格子を,3次元の実空間を表現する画面上で,立体的に表示したものである。双晶成分1の実格子ベクトルはa1,b1,c1であり,これらのベクトルに基づいて,双晶成分1の実空間単位格子10が平行六面体で表現されている。双晶成分2の実格子ベクトルはa2,b2,c2であり,これらのベクトルに基づいて,双晶成分2の実空間単位格子12が平行六面体で表現されている。二つの双晶成分の実格子ベクトルa1とa2は互いに重なり合っている。実空間の座標系はXYZ座標系であり,a1とa2はZ軸に一致するように配置している。双晶成分1の実空間格子10をZ軸の周りに180度だけ回転すると,双晶成分2の実空間格子12に一致するであろうことが容易に推測できる。
【0025】
図22は図6の実空間単位格子をZ方向から見た平面図であり,図23はX方向から見た正面図,図24はY方向から見た側面図である。
【0026】
図7は,図6の描画オブジェクト(双晶成分1の実空間単位格子10と双晶成分2の実空間単位格子12)を,Z軸の周りに30度だけ,Z軸の正方向から見て反時計方向に,回転したものである。座標軸XYZはそのままであり,描画オブジェクトだけが回転している。これにより,図6とは異なる視線の方向から描画オブジェクトを立体的に観察したことになる。図22では,Z軸周りの30度の回転操作44と,回転後の実空間単位格子46を示している。図8は,図6の描画オブジェクトをZ軸の周りに90度だけ反時計方向に回転したものである。図9は,図6の描画オブジェクトをZ軸の周りに120度だけ反時計方向に回転したものである。また,図10は,図6の描画オブジェクトを,Y軸の周りに30度だけ,Y軸の正方向から見て時計方向に,回転したものである。図24では,Y軸周りの30度の回転操作48と,回転後の実空間単位格子50を示している。図11は,図6の描画オブジェクトをY軸の周りに90度だけ時計方向に回転したものである。図6〜図11に示すように,実空間単位格子をさまざまな視線方向から立体的に見ることにより,二つの双晶成分の相互関係をきわめて容易に把握することができる。
【0027】
図6〜図11の実空間単位格子の表示においては,双晶成分1と双晶成分2を異なる色で表示するのが好ましい。
【0028】
図12は二つの双晶成分の逆格子空間基本格子を,3次元の逆格子空間を表現する画面上で立体的に表示したものである。双晶成分1の逆格子ベクトルはa*1,b*1,c*1であり,これらのベクトルに基づいて,双晶成分1の逆格子空間基本格子14が平行六面体で表現されている。双晶成分2の逆格子ベクトルはa*2,b*2,c*2であり,これらのベクトルに基づいて,双晶成分2の逆格子空間基本格子16が平行六面体で表現されている。この画面表示から分かることは次の通りである。(1)b*1−c*1面(b*1軸とc*1軸を含む平面)と,b*2−c*2面は,同一平面上にある。(2)b*1軸とb*2軸は,同一直線上にあって,互いに逆向きである。(3)c*1軸とc*2軸は,同一直線上にあって,互いに逆向きである。これらの情報から,反射指数h=0の平面では,双晶成分1の反射指数(0kl)をもつ逆格子点と,双晶成分2の反射指数(0,−k,−l)をもつ逆格子点とは,ほぼ完全に重なり合うことが推測される。
【0029】
図12の逆格子空間基本格子についても,図6〜図11に示したのと同様に,いろいろな軸の周りに回転させて表示させることで,二つの双晶成分の相互関係,特に,逆格子点の重なりを判断するための情報を把握しやすくなる。この逆格子空間基本格子の表示においても,双晶成分1と双晶成分2を異なる色で表示するのが好ましい。
【0030】
図13は,X線回折が生じる逆格子点群を,双晶成分ごとに区別して,3次元の逆格子空間を表現する画面上で立体的に表示したものである。画面の中心位置が逆格子空間の原点,すなわち(hkl)=(000),である。画面の上下方向にL軸が延びていて,このL軸に垂直な平面内にH軸とK軸がある。
【0031】
図14は,図13の逆格子点群のうち,逆格子空間の原点の近傍を拡大して表示した立体表示画面である。この図面では,双晶成分1に由来する逆格子点はハッチングを施した丸で表示している。双晶成分2に由来する逆格子点は白丸で表示している。双晶成分1と双晶成分2が重なり合った逆格子点は黒丸で表示している。実際の表示画面では,これらの3種類の逆格子点を異なる色で表示する。例えば,双晶成分1の逆格子点を緑色,双晶成分2の逆格子点を橙色,重なり合う逆格子点を青色で表示する。
【0032】
図12の逆格子空間基本格子の表示画面から推測されたように,図14において,逆格子面(0kl)に存在する逆格子点群18は,双晶成分1の逆格子点と双晶成分2の逆格子点が互いに重なり合った状態にある(図14では黒丸で表示している)。
【0033】
図15は,逆格子面(1kl)に属する逆格子点群20と逆格子面(2kl)に属する逆格子点群22を拡大して表示した立体表示画面である。この画面は,図14に示す逆格子点群を,L軸に垂直な平面内で平行移動したものに相当する。平行移動することで,逆格子空間の別の領域の逆格子点群を表示することができる。図14と同様に,双晶成分1に由来する逆格子点はハッチングを施した丸で表示し,双晶成分2に由来する逆格子点は白丸で表示している。拡大表示することで,二つの双晶成分に由来する逆格子点の重なり具合が分かりやすくなる。異なる双晶成分に由来する逆格子点群が接近していれば,回折線としては互いに重なり合うであろうことが推測できる。
【0034】
図16は,図13に示した逆格子点群の画像を,L軸の周りに所定角度だけ回転操作をしたものである。回転操作をすることで,逆格子点群の見え方が変わり,逆格子点群の分布状況を把握しやすくなる。
【0035】
図21は本発明の双晶解析装置の構成図である。双晶解析装置は,単結晶X線構造解析のための測定光学系等を組み込んだハードウェアとしてのX線回折装置24と,制御及び解析を担当する制御卓26とからなる。制御卓26は,測定条件等を入力したり操作指令を与えたりするための入力手段28と,X線回折測定を自動的に実行するための測定プログラム30と,測定結果を解析するための解析プログラム32と,第1演算手段34と,第2演算手段36と,第3演算手段38と,表示装置40とを備えている。そして,ハードウェアとしてのX線回折装置24と,制御卓26の中の入力手段28,測定プログラム30及び解析プログラム32とによって,本発明における単結晶X線構造解析装置42が構成されている。この単結晶X線構造解析装置42と,3種類の演算手段34,36,38と,表示装置40とによって本発明の双晶解析装置が構成されている。
【0036】
解析プログラム32は測定結果に基づいて双晶成分ごとの結晶方位行列を求める。第1演算手段34は,結晶方位行列に基づいて,複数の双晶成分のそれぞれの実空間単位格子を立体的に表示するための表示データを作成する。図6〜図11は,第1演算手段34で作成した表示データを画面表示したものである。第2演算手段36は,結晶方位行列に基づいて,複数の双晶成分のそれぞれの逆格子空間基本格子を立体的に表示するための表示データを作成する。図12は,第2演算手段36で作成した表示データを画面表示したものである。第3演算手段38は,結晶方位行列に基づいて,複数の双晶成分のそれぞれの逆格子点群を立体的に表示するための表示データを作成する。図13〜図16は,第3演算手段38で作成した表示データを画面表示したものである。三つの演算手段34,36,38は,実際には,ひとつのコンピュータソフトウェアの中で,それぞれの機能部分として実現される。三つの演算手段で作成した表示データは,CRTや液晶表示装置などの表示装置40で表示される。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】双晶成分を表現する数式である。
【図2】双晶成分1の実空間単位格子を立体的に表示した表示画面である。
【図3】実空間単位格子の頂点座標の数式である。
【図4】双晶成分の逆格子点に関する数式である。
【図5】測定した双晶成分の結晶方位行列の値である。
【図6】二つの双晶成分の実空間単位格子を3次元の実空間上で立体的に表示した表示画面である。
【図7】図6の描画オブジェクトをZ軸の周りに30度だけ回転操作した表示画面である。
【図8】図6の描画オブジェクトをZ軸の周りに90度だけ回転操作した表示画面である。
【図9】図6の描画オブジェクトをZ軸の周りに120度だけ回転操作した表示画面である。
【図10】図6の描画オブジェクトをY軸の周りに30度だけ回転操作した表示画面である。
【図11】図6の描画オブジェクトをY軸の周りに90度だけ回転操作した表示画面である。
【図12】二つの双晶成分の逆格子空間基本格子を3次元の逆格子空間上で立体的に表示した表示画面である。
【図13】X線回折が生じる逆格子点群を,双晶成分ごとに区別して,3次元の逆格子空間上で立体的に表示した表示画面である。
【図14】図13の逆格子点群のうち,逆格子空間の原点の近傍を拡大して表示した立体表示画面である。
【図15】逆格子面(1kl)と(2kl)に属する逆格子点群を拡大して表示した立体表示画面である。
【図16】図13に示した逆格子点群の画像を,L軸の周りに所定角度だけ回転操作をした表示画面である。
【図17】双晶の斜視図である。
【図18】二つの双晶成分に由来する二つの逆格子網を互いに重ね合わせて2次元表示した従来の表示方法である。
【図19】二つの双晶成分のそれぞれの実空間単位格子を2次元空間上で表示したものである。
【図20】図19に示す実空間単位格子に対応するX線回折スポットを2次元の逆格子平面上で示した従来の表示方法である。
【図21】本発明の双晶解析装置の構成図である。
【図22】図6の実空間単位格子をZ方向から見た平面図である。
【図23】図6の実空間単位格子をX方向から見た正面図である。
【図24】図6の実空間単位格子をY方向から見た側面図である。
【符号の説明】
【0038】
10 双晶成分1の実空間単位格子
12 双晶成分2の実空間単位格子
14 双晶成分1の逆格子空間基本格子
16 双晶成分2の逆格子空間基本格子
18 逆格子面(0kl)に属する逆格子点群
20 逆格子面(1kl)に属する逆格子点群
22 逆格子面(2kl)に属する逆格子点群
24 X線回折装置
26 制御卓
28 入力手段
30 測定プログラム
32 解析プログラム
34 第1演算手段
36 第2演算手段
38 第3演算手段
40 表示装置
42 単結晶X線構造解析装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の構成を備える双晶解析装置。
(ア)X線回折法を用いて複数の双晶成分のそれぞれの結晶方位行列を得ることができる単結晶X線構造解析装置。
(イ)前記結晶方位行列に基づいて,前記複数の双晶成分のそれぞれの実空間単位格子を求めて,その実空間単位格子を,3次元の実空間を表現する画面上で視点を変更可能に立体的に表示するための表示データを作成する第1演算手段。
(ウ)前記結晶方位行列に基づいて,前記複数の双晶成分のそれぞれの逆格子空間基本格子を求めて,その逆格子空間基本格子を,3次元の逆格子空間を表現する画面上で視点を変更可能に立体的に表示するための表示データを作成する第2演算手段。
(エ)前記結晶方位行列に基づいて,前記複数の双晶成分のそれぞれの逆格子点のうち,X線回折が生じる逆格子点群を,双晶成分ごとに区別して,3次元の逆格子空間を表現する画面上で視点を変更可能に立体的に表示するための表示データを作成する第3演算手段。
(オ)前記第1演算手段,前記第2演算手段及び前記第3演算手段で作成した表示データを画面表示する表示装置。
【請求項2】
請求項1に記載の双晶解析装置において,前記第3演算手段は,X線回折が生じる逆格子点群を,双晶成分ごとに色を変えて表示するための表示データを作成することを特徴とする双晶解析装置。
【請求項3】
請求項2に記載の双晶解析装置において,前記第3演算手段は,異なる双晶成分に由来する回折斑点が互いに重なり合う場合には,その重なり合う回折斑点を,各双晶成分の表示色とは異なる色で表示するためのデータを作成することを特徴とする双晶解析装置。
【請求項4】
請求項1から3までのいずれか1項に記載の双晶解析装置において,次の特徴を備える双晶解析装置。
(オ)前記第1演算手段は,前記実空間単位格子について,3次元の実空間を表現する画面上で,特定の軸の周りに回転させた表示データを作成できる。
(カ)前記第2演算手段は,前記逆格子空間基本格子について,3次元の逆格子空間を表現する画面上で,特定の軸の周りに回転させた表示データを作成できる。
(キ)前記第3演算手段は,前記X線回折が生じる逆格子点群について,3次元の逆格子空間を表現する画面上で,(a)特定の軸の周りに回転させた表示データを作成でき,かつ,(b)拡大または縮小させた表示データを作成でき,かつ,(c)平行移動させた表示データを作成できる。
【請求項5】
請求項1から3までのいずれか1項に記載の双晶解析装置において,次の特徴を備える双晶解析装置。
(オ)前記第1演算手段は,前記実空間単位格子について,3次元の実空間を表現する画面上で,(a)特定の軸の周りに回転させた表示データを作成でき,かつ,(b)拡大または縮小させた表示データを作成でき,かつ,(c)平行移動させた表示データを作成できる。
(カ)前記第2演算手段は,前記逆格子空間基本格子について,3次元の逆格子空間を表現する画面上で,(a)特定の軸の周りに回転させた表示データを作成でき,かつ,(b)拡大または縮小させた表示データを作成でき,かつ,(c)平行移動させた表示データを作成できる。
(キ)前記第3演算手段は,前記X線回折が生じる逆格子点群について,3次元の逆格子空間を表現する画面上で,(a)特定の軸の周りに回転させた表示データを作成でき,かつ,(b)拡大または縮小させた表示データを作成でき,かつ,(c)平行移動させた表示データを作成できる。
【請求項6】
請求項1から3までのいずれか1項に記載の双晶解析装置において,次の特徴を備える双晶解析装置。
(オ)前記第1演算手段は,前記実空間単位格子について,3次元の実空間を表現する画面上で,視線の方向を変更した表示データを作成できる。
(カ)前記第2演算手段は,前記逆格子空間基本格子について,3次元の逆格子空間を表現する画面上で,視線の方向を変更した表示データを作成できる。
(キ)前記第3演算手段は,前記X線回折が生じる逆格子点群について,3次元の逆格子空間を表現する画面上で,(a)視線の方向を変更した表示データを作成でき,かつ,(b)画面の大きさに対する逆格子ベクトルの大きさの割合を変更した表示データを作成でき,かつ,(c)前記画面の中心位置に対する前記逆格子空間の原点位置を変更した表示データを作成できる。
【請求項7】
請求項1から3までのいずれか1項に記載の双晶解析装置において,次の特徴を備える双晶解析装置。
(オ)前記第1演算手段は,前記実空間単位格子について,3次元の実空間を表現する画面上で,(a)視線の方向を変更した表示データを作成でき,かつ,(b)画面の大きさに対する実格子ベクトルの大きさの割合を変更した表示データを作成でき,かつ,(c)前記画面の中心位置に対する前記実空間の原点位置を変更した表示データを作成できる。
(カ)前記第2演算手段は,前記逆格子空間基本格子について,3次元の逆格子空間を表現する画面上で,(a)視線の方向を変更した表示データを作成でき,かつ,(b)画面の大きさに対する逆格子ベクトルの大きさの割合を変更した表示データを作成でき,かつ,(c)前記画面の中心位置に対する前記逆格子空間の原点位置を変更した表示データを作成できる。
(キ)前記第3演算手段は,前記X線回折が生じる逆格子点群について,3次元の逆格子空間を表現する画面上で,(a)視線の方向を変更した表示データを作成でき,かつ,(b)画面の大きさに対する逆格子ベクトルの大きさの割合を変更した表示データを作成でき,かつ,(c)前記画面の中心位置に対する前記逆格子空間の原点位置を変更した表示データを作成できる。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【公開番号】特開2007−3394(P2007−3394A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−184891(P2005−184891)
【出願日】平成17年6月24日(2005.6.24)
【出願人】(000250339)株式会社リガク (206)
【Fターム(参考)】