説明

反力受け付き締付機

【課題】 ハンディタイプの反力受け付きナット締付機おいて、締付け終了後にナットから締付機を容易に外すことを可能とする。
【解決手段】 締付けソケット4と反力受け5を具え、内蔵したモータ2と減速機構3によって、締付けソケット4を減速して回転駆動する締付機において、モータ2は制御部7に連繋され、該制御部7は締付け完了を検出する検出手段70の締付け完了信号によってモータ2への通電を遮断し、該通電の遮断からモータ2の慣性回転が、該モータ2を逆回転させるのに無視できる程度に低下する一定時間経過後に、モータ2を一瞬だけ逆転させて、反力受け5の突っ張りを解除できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反力受けを具えた締付機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
出願人は、締付けソケットと反力受けを具え、内蔵したモータと減速機によって、締付けソケットを減速して回転駆動する締付機を幾種類も実施している(例えば、特許文献1、特許文献2)。
これら締付機は、締め付けるべきナット近傍の他のナット等の突出部に反力受けを当て、締付け反力を、該突出部によって受ける様にしている。
従来の反力受け付き締付機は、呼び径の大きなボルト・ナット用に実施され、締付機は大型であった。
呼び径の小さいボルト・ナットに対しては、高速締付けができ、作業性のよいインパクトレンチが使用されている。しかし、インパクトレンチは運転音が大きく、作業環境を悪くする問題がある。
そこで、出願人は呼び径の小さいボルト・ナット用に、反力受け付きの小型締付機の開発を進めたが、締付機を小型化すると次の問題のあることが分かった。
【0003】
反力受け付きの締付機は、締付け終了時には、締め付けたナットと反力を受ける突出物との間で、反力受けは締付けソケットの回転方向に強い力で突っ張っており、大型締付機、小型締付機の別を問わず反力受けを含む締付機は微量ではあるが弾性変形する。更に、締付け終了後、直ちにモータへの通電を遮断しても、モータは慣性回転して前記締付機の弾性変形を維持する力が作用する。
大型締付機は、反力受けを含む締付機全体の剛性が高いため弾性復帰力も強い。従って、締付け終了後にモータの通電が遮断すれば、反力受けを含む締付機が弾性復帰して、締め付けたナットと突出物との間での反力受けの突っ張りは自動的に解除される。このため締付けソケットをボルト・ナットから無理なく外すことができる。
【0004】
ところが、小型締付機の場合、大型締付機に比べて剛性が小さいため弾性復帰力が弱い。従って、締付け終了後、モータへの通電を遮断しても、反力受けを含む締付機は弾性変形したままである。即ち、反力受けは、締め付けたナットと突出物との間にて回転方向に突っ張ったままであるから、ナットから締付けソケットを外すのに大きな抵抗が作用する。 このため、締付機をボルト・ナットの軸芯方向に真直ぐに引っ張っても、ボルト・ナットから引き離すことはできない。
締付機をボルト・ナットの軸芯に対して傾く様に、無理にこじながら外さねばならない。
逆転機能(緩め機能)を有する締付機であれば、モータの正逆切替えスイッチを操作してから、運転スイッチ(トリガー)を引いて、モータを短時間逆転させて、反力受けの突っ張りを解除することができる。
前者の場合、労力を要す上、非能率的である。
後者の場合、モータ(2)を逆転させるのは締付機の弾性変形を解除するだけの瞬時でよいのに、運転スイッチの引き加減が難しく、ナットを緩めてしまうほどに逆転させてしまうことがある。又、正逆切替えスイッチの操作、運転スイッチの操作を順に行わねばならず、煩わしく非能率的である。何れの場合も、建築現場等での多数のボルト・ナットの締付作業には実用に供することができない。
【0005】
【特許文献1】特開平7−88777号公報
【特許文献2】特開平8−197345号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、反力受け付き締付機を小型化しても、締付け終了後は、締付けソケットをボルト・ナットから容易に外せることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、締付けソケット(4)と反力受け(5)を具え、内蔵したモータ(2)と減速機構(3)によって、締付けソケット(4)を減速して回転駆動する締付機において、モータ(2)は制御部(7)に連繋され、該制御部(7)はボルト・ナットの締付け完了を検出する検出手段(70)の締付け完了信号によってモータ(2)への通電を遮断し、該通電の遮断からモータ(2)の慣性回転が、該モータ(2)を逆回転させるのに無視できる程度に低下する一定時間経過後に、モータ(2)を一瞬だけ逆転させる様に制御できる。
【発明の効果】
【0008】
ボルト・ナットの締付けが完了すると、モータ(2)が自動的に逆転するから、反力受け(5)の突っ張りは解除され、ボルト・ナットから締付けソケット(4)を容易に外すことができる。
モータ(2)への通電を停止してから、タイミングを少し遅らせてモータ(2)を逆転させるため、即ち、モータ(2)の慣性回転が低速になり或いは慣性回転が停止してからモータ(2)を逆転させるため、モータ(2)及び制御部(7)への負荷を軽減して、それらの損傷を防止できる。
又、モータ(2)の逆転は一瞬だけであるから、ボルト・ナットを締め直しが必要なほどに緩めてしまうことはない。
運転スイッチ(トリガー)(6)を引いたままで、ボルト・ナットの締付け及びモータ(2)の瞬時の逆転が行われるから、煩わしい手動によるスイッチの切替え操作は不要であり、多数本のボルト・ナットの締付け作業を極めて能率的に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、バッテリー搭載のハンディタイプの締付機での本発明の実施について説明する。
締付機は、ケーシング(1)の後部にモータ(2)、ケーシング前筒部(12)に該モータ(2)によって作動する遊星歯車減速機構(7)が内蔵され、ケーシング後部にハンドル(11)が下向きに突設されている。
ハンドル(11)の下端には、充電可能なバッテリー(8)が着脱可能に搭載されている。
遊星歯車減速機構(7)に、出力軸(31)と反力受け軸(32)が互いに逆方向に回転可能に同芯に連繋され、両軸(31)(32)は、前記ケーシング前筒部(12)の先端から前方に突出している。 出力軸(31)に、ボルト・ナット(以下、代表して「ナットN」)に係合するソケット(4)が着脱可能に接続される。
反力受け軸(32)に反力受け(5)が、該軸(32)の軸芯と直交する方向に突設されている。
実施例のモータ(2)は、DCブラシレスモータであり、公知の如く、DCブラシレスモータ(2)(2)はドライブ回路(21)を具えている。
【0010】
実施例のソケット(4)は六角ナット用である。
ハンドル(11)には運転スイッチ(トリガー)(6)、回転方向切替えスイッチ(61)及び制御部(7)が配備されている。
運転スイッチ(6)は、該スイッチを手指で引いている間だけモータ(2)に通電がなされる。
回転方向切替えスイッチ(61)は、ナットNの緩め作業や、逆ネジのナットの締付けの際に、モータ(2)の回転方向を切り替えるためのものである。
【0011】
制御部(7)は、締付けソケット(4)の回転によってナットNが締め付けられたことを検出手段(70)が検出すれば、運転スイッチ(6)を引いた状態(通電ON状態)で、締付け完了の検出から少し遅れてモータ(2)を瞬間的に逆転(逆寸動)させるものである。
実施例の検出手段(70)は、モータ(2)への電流値が一定の値に達すれば検出信号を発するものである。ナットNの締付トルク値とモータ(2)への電流値はほぼ比例関係にあることは周知であり、電流値からナットの締付けトルクを検出することは従来より行われている。
締付機のハンドル(11)には、トルク設定ダイヤル(71)が設けられ、締付け対象のナットNの呼び径に対応する最適の締付けトルクに設定可能である。
【0012】
制御部(7)は、図4に示す如く、締付けシーケンス回路(71)と、夫々該締付シーケンス回路からから指令を受けてDCブラシレスモータ(2)のドライブ回路に信号入力する運転指令回路(72)及び回転方向指令回路(73)を具えている。
締付けシーケンス回路(71)はデジタルタイマー(図示せず)を有し、運転指令回路(72)への信号伝達を設定時間だけ遅延させること及びモータ(2)を逆転させている時間を設定できる。
上記信号伝達遅延時間は、モータ(2)への通電を遮断してからモータ(2)の慣性回転が、モータ(2)を逆回転させるのに無理のない程度まで低下するのに必要とする時間であり、且つ締付け終了からモータ(2)の逆転までに、遅過ぎると作業者に感じさせない時間である1秒以内とすることが望ましい。実施例の遅延時間は0.5秒とした。
締付け終了からモータ(2)の逆転までの時間が2〜3秒掛かっても、多少遅いと感じるが実用に供することができる。3秒以上掛かると遅過ぎると感じ、又、締付け作業能率も低下する。
モータ(2)を逆転させる時間(正確には、モータ(2)が逆回転する方向に通電する時間)は、実施例では0.01秒であるが、締付け終了時の締付機の弾性変形が解除され、且つ締付けたナットNを緩ませない程度の短時間だけ逆転させればよい。
締付けシーケンス回路(71)には、前記運転スイッチ(6)と回転方向切替えスイッチ(61)が連繋されている。
【0013】
然して、ソケット(4)をナットNに係合して運転スイッチ(6)を引くと、締付けソケット(4)が正回転してナットNが締付け方向に回転する。反力受け(5)が該ナットN近傍の他のナット等の突出物Mに当たって、締付け反力を該突出部Mで受けることができる。
ナットNが所定の締付トルクまで締め付けられると、検出手段(70)が締付けシーケンス回路(71)に信号を送り、モータ(2)への通電を遮断する。
締付機の反力受け(5)は、締付機と突出物Mの間でナット締付回転方向に突っ張っている。
モータ(2)への通電遮断後、0.5秒後にモータ逆転指令と運転指令がモータ(2)に送られ、該モータ(2)は一瞬の間だけ逆転し、モータ(2)への通電は再び遮断される。
モータ(2)が逆転すると、反力受け(5)の突っ張りによる反力受け(5)を含む締付機の弾性変形が解除され、反力受け(5)の突っ張りは解消される。
締付機をナットNの軸芯方向に引っ張ると、締付けソケット(4)を抵抗なくナットNから外すことができる。
【0014】
ナットの締付け開始から、モータ(2)の回転が停止するまでの間、運転スイッチ(6)を引いたままであるから、煩わしいスイッチ操作は不要である。
又、締付け終了からモータが逆転するまでは0.5秒であるから、作業者にとって締付け終了からモータ逆転まで、間髪を入れない一連の動作であって、待つという意識はない。
DCブラシレスモータ(2)はドライブ回路(21)がセットされており、逆転制御するために、別個にリレー回路やトランジスタ回路等によるスイッチ回路は不必要であり、制御部(7)を小型化できる。このため、バッテリー搭載型のハンディタイプの締付機に本発明を実施するの好都合である。
又、DCブラシレスモータ(2)は制御が容易であるから、締付け時のモータの回転速度と、逆転速度を必要に応じて変えることもできる。
【0015】
図6は、低速でもパワーの大きい直流巻線モータ(2a)を用いた制御部(7a)の実施例を示している。
制御部(7a)は、前記締付け完了検出手段(70)、締付けシーケンス回路(71)、運転指令回路(72)、回転方向指令回路(73)に加え、モータ(21)の電流の流れを逆方向に切り替えるための4つの電磁リレー(74)及び各電磁リレーを制御するリレードライブ回路(75)からなる。
この場合、4つの電磁リレー(74)が嵩高となり、制御部全体が大型となって、ハンディタイプの締付機には向かない。
【0016】
図7は、直流巻線モータ(2a)の正逆回転を4つの半導体スイッチ(トランジスタ)(76)を用いた実施例を示している。回
制御部(7b)は、前記締付け完了検出手段(70)、締付けシーケンス回路(71)、運転指令回路(72)、回転方向指令回路(73)に加えて、モータ(2a)の電流の流れを逆方向に切り替えるための4つの半導体スイッチ(76)、該スイッチを制御するゲートドライブ回路(77)及び放熱器(78)からなる。この場合、放熱器(78)が嵩高となり、制御部(7b)が大型化してハンディタイプの締付機には不向きである。
【0017】
上記実施例の説明は、本発明を説明するためのものであって、特許請求の範囲に記載の発明を限定し、或は範囲を減縮する様に解すべきではない。又、本発明の各部構成は上記実施例に限らず、特許請求の範囲に記載の技術的範囲内で種々の変形が可能であることは勿論である。
例えば、実施例の締付けソケット(4)は六角ナット用であるが、これに限定されることはない。締付けソケット(4)は、六角穴付きボルトの該六角穴に係合する六角軸を突設する等、相手ボルト・ナットに係合する穴又は多角形軸を具えていれば本発明の締付機の締付けソケットに相当するのは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】締付機の概略断面図である。
【図2】締付機の正面図である。
【図3】締付機の左側面図である。
【図4】モータ(2)制御のブロック図である。
【図5】締付機の正逆回転切替えのタイミングチャートである。
【図6】モータ制御にリレー群を用いた他の実施例のブロック図である。
【図7】モータ制御に半導体スイッチ群を用いた他の実施例のブロック図である。
【符号の説明】
【0019】
2 モータ
3 減速機
4 締付けソケット
5 反力受け
6 制御部
70 検出手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
締付けソケット(4)と反力受け(5)を具え、内蔵したモータ(2)と減速機構(3)によって、締付けソケット(4)を減速して回転駆動する締付機において、モータ(2)は制御部(7)に連繋され、該制御部(7)はボルト・ナットの締付け完了を検出する検出手段(70)の締付け完了信号によってモータ(2)への通電を遮断し、該通電の遮断からモータ(2)の慣性回転が、該モータ(2)を逆転させるのに無視できる程度に低下する一定時間経過後に、モータ(2)を一瞬だけ逆転させる様に制御できる反力受け付き締付機。
【請求項2】
モータ(2)はDCブラシレスモータである請求項1に記載の反力受け付き締付機。
【請求項3】
モータ(2)への通電を遮断してからモータ(2)を逆転するまでの遅れ時間は3秒以内である請求項1又は2記載の反力受け付き締付機。
【請求項4】
モータ駆動用のバッテリー(8)を搭載している請求項1乃至3の何れかに記載の反力受け付き締付機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−993(P2006−993A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−181994(P2004−181994)
【出願日】平成16年6月21日(2004.6.21)
【出願人】(000201467)前田金属工業株式会社 (22)
【Fターム(参考)】