説明

反射屈折光学系及びそれを有する撮像装置

【課題】 広い波長域に渡って諸収差を良好に補正し、かつ広い観察領域において像側のテレセントリック性が良く高い光学性能を有する反射屈折光学系を得ること。
【解決手段】 反射屈折部を含む第1結像光学系と、第1結像光学系からの光束を受けて中間像を形成するとともに、中間像を像面に結像させる第2結像光学系を有し、第1結像光学系は光軸周辺が光透過部で、外周側のうち物体側の面が裏面反射部である第1の光学素子と光軸周辺が光透過部で、外周側のうち像側の面が裏面反射部である第2の光学素子を有し、物体からの光束は、順に第1の光学素子の光透過部、第2の光学素子の裏面反射部、第1の光学素子の裏面反射部、第2の光学素子の光透過部を介した後に第2結像光学系に出射しており、第2結像光学系は、光学有効径内で曲率の向きが変化する変曲点を有する非球面形状のレンズ面を含んでいること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は試料(物体)を拡大し、観察する際に好適な反射屈折光学系及びそれを有する撮像装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在の病理検査では、光学顕微鏡を用いて病理標本(試料)を直接、人の目で観察している。近年、病理標本を画像データとして取り込み、ディスプレイ上で観察するバーチャル顕微鏡と呼ばれるものが利用されている。バーチャル顕微鏡では病理標本の画像データをディスプレイ上で観察できるため、複数人で同時に観察することができる。またこのバーチャル顕微鏡を用いると画像データを遠方の病理医と共有して診断を仰ぐこともできるなど多くの利点がある。しかし、この方法は病理標本を撮像して画像データとして取り込むためには時間がかかるという問題があった。
【0003】
時間がかかる原因の1つとして、大きな撮像範囲の病理標本を顕微鏡の狭い撮像領域を用いて画像データとして取り込まねばならないことが挙げられる。顕微鏡の撮像領域が狭い場合、複数回撮像して、もしくはスキャンしながら撮像してそれらを繋げることで一枚の画像とする必要がある。従来より撮像回数を少なくして画像データを取り込む時間を短縮するために、広い撮像領域を持った光学系(撮像光学系)が求められている。
【0004】
この他、病理標本を観察する上で、広い撮像領域が求められていると同時に可視領域(広い波長域)での高い解像力を持った光学系が要望されている。屈折光学系より成り可視光全域に渡って収差を良好に低減した生体細胞などの観察に好適な顕微鏡対物レンズが知られている(特許文献1)。
【0005】
また集積回路やフォトマスクに存在する欠陥を検査するため反射屈折光学系を用いて紫外の広波長帯域に渡って高い解像力を有した超広帯域紫外顕微鏡映像システムが知られている(特許文献2)。また、広い領域に微細なパターンを露光して半導体素子を製造するのに好適な反射屈折光学系が知られている(特許文献3)。生体細胞などの病理標本を観察する用途において、大画面のデジタル画像データを効率良く取得する顕微鏡システムが知られている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公昭60−034737号公報
【特許文献2】特表2007−514179号公報
【特許文献3】WO00/039623
【特許文献4】特開2009−063655号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一般に、バーチャル顕微鏡用の撮像光学系では広い視野領域にわたり球面収差、コマ収差、非点収差等の諸収差が良好に補正され高い光学性能を有することが求められている。
【0008】
また、病理標本や撮像素子の光軸方向の位置誤差による悪影響(ディストーションなど)を小さく抑えるためには、物体側と像側の両側でテレセントリックな光学系であることが求められている。とくに、大画面を撮像する場合は、観察視野領域全域に渡って良好なテレセントリック性を備えていることが求められている。さらに、カラー画像を得るためにRGB(赤色、緑色、青色)ごとに撮像する場合には、撮像波長全域に渡って良好なテレセントリック性を備えていることが求められている。
【0009】
特許文献1に開示されている顕微鏡対物レンズは、可視光全域に渡って諸収差を良好に低減しているが、観察領域の大きさが必ずしも十分でない。また、特許文献2に開示されている広帯域顕微鏡カタディオプトリック結像系は広波長帯域に渡って収差を良好に低減し、高い解像力を持っているものの視野領域の大きさが必ずしも十分でない。また、特許文献3に開示されている反射屈折結像光学系は広い領域に渡って、高い解像力を持っているが収差が良好に補正されている波長域の広さが必ずしも十分でない。
【0010】
特許文献4に開示されている顕微鏡システムでは、対物レンズの撮像視野内に複数のセンサ(撮像素子)を配置して撮像し、それらの画像データをつなぎ合わせることで大画面の画像データを処理し、効率良く取得している。複数のセンサで撮像された画像データをつなぎ合わせるとき、1つの画像と隣接する画像との接続をより正確するために、各画像データに隣接する画像データとの重なり部分(のりしろ)を設けている。このとき、対物レンズの像側のテレセントリック性が悪いと、製造誤差やフォーカス合わせなどにより各センサの位置が光軸方向にずれたときにディストーションが生じてしまう。
【0011】
ディストーションが大きくなると、隣接する画像データとの接続のために、のりしろの領域をより広く確保する必要がある。さらに、カラー画像を得るためにRGBごとに撮像する場合には、像側のテレセントリック性が最も悪くなる撮像波長にも対応できるように、のりしろの領域を設けておく必要がある。そうすると、取得したい大画面の画像データに対して、接続処理に使用するためだけののりしろの画素数が増加する。よって、データ量が増加し、高速に大画面の画像データを得るのが困難となる。
【0012】
試料を拡大して観察するため、観察領域が大きく、かつ広い波長範囲にわたり高い光学性能を得るには非球面形状の光学面を用いるのが有効である。しかしながら単に非球面形状の光学面を用いても、広い波長域に渡って諸収差を良好に補正し、かつ広い観察領域に渡って高い光学性能を得るのは難しい。特に反射屈折光学系において、非球面を用いて広い波長域で、かつ広い観察領域において像側のテレセントリック性が良く、高い光学性能のカラー画像を得るには適切なる形状の非球面を光学系中の適切なる位置に設けることが重要である。
【0013】
本発明は、広い波長域に渡って諸収差を良好に補正し、かつ広い観察領域において像側のテレセントリック性が良く高い光学性能を有する反射屈折光学系及びそれを有する撮像装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の反射屈折光学系は、物体からの光束を集光する反射屈折部を含む第1結像光学系と、前記第1結像光学系からの光束を受けて中間像を形成するとともに、前記中間像を像面に結像させる屈折部を含む第2結像光学系を有する反射屈折光学系であって、前記第1結像光学系は、光軸周辺が光透過部で、前記光透過部よりも外周側のうち物体側の面が裏面反射部である第1の光学素子と、光軸周辺が光透過部で、前記光透過部よりも外周側のうち像側の面が裏面反射部である第2の光学素子を有し、前記第1の光学素子および前記第2の光学素子の裏面反射部が互いに向き合うように配置されており、前記物体からの光束は、順に前記第1の光学素子の光透過部、前記第2の光学素子の裏面反射部、前記第1の光学素子の裏面反射部、前記第2の光学素子の光透過部を介した後に前記第2結像光学系に出射しており、
前記第2結像光学系は、光学有効径内で曲率の向きが変化する変曲点を有する非球面形状のレンズ面を含んでいることしている。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、広い波長域に渡って諸収差を良好に補正し、かつ広い観察領域において像側のテレセントリック性が良く高い光学性能を有する反射屈折光学系が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の撮像装置の概略断面図である。
【図2】本発明の反射屈折光学系の模式図である。
【図3】実施例1の反射屈折光学系の要部概略図である。
【図4】実施例1の反射屈折光学系の横収差図である。
【図5】実施例1の反射屈折光学系における各像高への主光線の入射角度を示した図である。
【図6】実施例2の反射屈折光学系の要部概略図である。
【図7】実施例2の反射屈折光学系の横収差図である。
【図8】実施例2の反射屈折光学系における各像高への主光線の入射角度を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の反射屈折光学系及びそれを有する撮像装置について説明する。本発明の撮像装置1000は、光源手段101と、光源手段101からの光束で物体103を照明する照明光学系102と、物体103を結像する反射屈折光学系104を有している。更に反射屈折光学系104によって結像された物体像を光電変換する撮像素子105と、撮像素子105からのデータより画像情報(画像データ)を生成する画像処理系106と画像処理系106で生成した画像データを表示する表示手段107とを有する。この他、画像処理系106で処理された画像情報を記憶する記憶手段110を有する。
【0018】
また本発明の反射屈折光学系104は、物体からの光束を集光する反射屈折部を含む第1結像光学系G1と、第1結像光学系G1からの光束を受けて中間像IMを形成するとともに中間像IMを像面に結像させる屈折部を含む第2結像光学系G2を有する。本発明の反射屈折光学系104は物体103面上で直径3mm以上の視野領域を撮像する。図1は本発明の撮像装置の要部概略図である。
【0019】
図2は本発明の反射屈折光学系の模式図である。図3は本発明の反射屈折光学系の実施例1の要部概略図である。図4は本発明の反射屈折光学系の実施例1の収差図である。図5は実施例1において各像高へ入射する主光線の入射角度の説明図である。図6は本発明の反射屈折光学系の実施例2の要部概略図である。図7は本発明の反射屈折光学系の実施例2の収差図である。図8は実施例2において各像高へ入射する主光線の入射角度の説明図である。
【0020】
以下、図1を参照して、本発明の反射屈折光学系104を有する撮像装置1000の構成について説明する。撮像装置1000は、光源手段101からの光を照明光学系102によって集光して試料としての物体103を均一に照明する。このとき使用する光は可視光(例えば、波長400nm〜波長700nm)が用いられる。結像光学系は物体103の像を撮像素子105上に結像する反射部と反射部を有する反射屈折光学系104より成っている。
【0021】
撮像素子105で取得したデータ(画像情報)は、画像処理系106によって画像データを生成し、生成した画像データを表示手段107などに表示する。この他、記憶手段110に記憶している。画像処理系106では反射屈折光学系104で補正しきれなかった収差を補正したり、または、撮像位置の異なった画像データを繋げて一枚の画像データに合成したりするなど用途に応じた処理が行われる。尚、反射屈折光学系104の結像面に複数の撮像素子を配置する場合もある。
【0022】
次に図2、図3、図6を用いて本発明の反射屈折光学系104の構成について説明する。図2、図3、図6において、104は反射屈折光学系、103は試料としての物体面である。105は撮像素子であり、像面に配置されている。ASは開口絞り、IMは中間像である。AXは反射屈折光学系104の光軸である。反射屈折光学系104は物体103からの光束を集光する反射面を含む第1結像光学系G1と第1結像光学系G1からの光束を受けて所定面に中間像IMを形成し、その中間像IMを撮像素子105に結像する屈折面と遮光部SHを含む第2結像光学系G2を有する。
【0023】
第1結像光学系G1は、物体側から順に第1の光学素子(マンジャンミラー)M1、開口絞りAS、第2の光学素子(マンジャンミラー)M2を有している。第2結像光学系G2は、一番広い空気間隔、二番目に広い空気間隔、三番目に広い空気間隔を境に各レンズ群を分割したとき、物体側から像側へ順に第21レンズ群G21、第22レンズ群G22、第23レンズ群G23、第24レンズ群G24を有している。第21レンズ群G21と第22レンズ群G22の間に遮光部SHを有している。
【0024】
図3、図6では、物体面103から像面105に至る軸外光束が模式的に示されている。第1結像光学系G1の第1の光学素子M1は、物体103側の面が凸形状で、光軸周辺が正の屈折力の光透過部M1T、光透過部M1Tよりも外周側のうち物体側の面M1aに反射膜を施し、裏面反射部としている。
【0025】
第2の光学素子M2は物体側に凹面を向けたメニスカス形状で、光軸周辺が負の屈折力の光透過部M2T、光透過部M2Tよりも外周側のうち像側の面M2bに反射膜を施し、裏面反射部としている。第1の光学素子M1と第2の光学素子M2は互いに裏面反射部M1a、M2bの反射面側が対向するように配置されている。第2の結像光学系G2は物体103からの光束のうち光軸近傍の光束を遮光し、撮像素子105に入射するのを防止する遮光板SHが第21レンズ群G21と第22レンズ群G22の間に配置されている。
【0026】
反射屈折光学系104では、照明光学系102からの光束で照明され、物体103から出射した光束は第1の光学素子M1の中央透過部M1Tを通過する。その後、第2の光学素子M2の屈折面M2aに入射し、その後裏面反射部M2bで反射し、屈折面M2aを通過して第1の光学素子M1の屈折面M1bに入射する。その後、第1の光学素子M1の裏面反射部M1aで反射する。そして屈折面M1bを通過し、第2の光学素子M2の中央透過部M2Tを通過し、第2結像光学系G2側へ出射している。
【0027】
ここで、第1結像光学系G1に含まれる第1の光学素子M1の裏面反射部M1aと第2の光学素子M2の裏面反射部M2bはいずれも非球面形状より成っている。これにより、色収差の発生を抑えつつ、球面収差やコマ収差を良好に補正している。また高NA(口径比)でも、可視の広波長帯域に渡って諸収差を良好に低減している。
【0028】
また、第1の光学素子M1の裏面反射部M1aと第2の光学素子M2の裏面反射部M2bは、いずれも正の屈折力の反射面としている。これにより、第2結像光学系G2のレンズの正の屈折力を強くして光学系全長を短くしたときのペッツバール和の増大を軽減している。これはペッツバール和への効き方が反射面と屈折面で反対となるためである。
【0029】
第2結像光学系G2は第1結像光学系G1からの光束を受けて中間像IMを形成し、中間像IMからの光は、順に、正の屈折力のレンズ群G21(レンズL1〜L6)、正の屈折力の第22レンズ群G22(レンズL7〜L10)を通過する。更に負の屈折力の第23レンズ群G23(レンズL11)、正の屈折力の第24レンズ群G22(レンズL12〜L15)を通過する。そして撮像素子105上に物体103を拡大結像している。
【0030】
さらに、遮光部SHは、物体103からの光が、第1の光学素子M1、及び、第2の光学素子M2で反射されることなく、第1、第2の光学素子M1、M2の中心透過部M1T、M2Tを通過して直接撮像素子105に到達することを防いでいる。
【0031】
各実施例の反射屈折光学系104では第2結像光学系G2が、光学有効径内で曲率の向きが変化する変曲点を有する非球面形状のレンズ面を少なくとも1つ含むようにしている。また非球面形状のレンズ面は、光軸近傍が負の屈折力で、レンズ周辺部が正の屈折力であるようにしている。これによって撮像素子105に入射する光束の主光線が光軸AXと平行又は略平行となるよう像側がテレセントリックとなるようにしている。
【0032】
これによれば、製造誤差やフォーカス合わせなどで、撮像素子105の位置が光軸方向にずれたときに生じるディストーションを小さく抑えることができる。撮像素子105の位置ずれによるディストーションが小さいと、例えば、撮像素子105における撮像視野内に複数の撮像素子を配置して撮像し、それらの画像データをつなぎ合わせることで大画面の画像データを容易に取得することができる。これによれば、各画像データの隣接する画像データとの重なり部分(のりしろ)を狭い領域に抑えることができる。よって、データ量を減少させることができ、高速に大画面の画像データを得ることが容易になる。
【0033】
また前述した非球面形状のレンズ面を有するレンズのうち、少なくとも1つの材料のアッベ数をνdaとしたとき、
70<νda
を満足するようにしている。これにより可視域の広い範囲にわたり良好なるテレセントリック性が得られるようにしている。
【0034】
例えば各実施例の反射屈折光学系104は、フラウンホーファー線のc線(656.3nm)、d線(587.6nm)、f線(486.1nm)、g線(435.8nm)の波長の光において、テレセントリックとなるようにしている。例えば視野領域全域に渡って、撮像素子(像面)105への主光線の入射角度が、1.25°以下となるようにしている。
【0035】
これによれば、フォーカス合わせなどで撮像素子105の位置が光軸方向に1mmずれたとき、その位置ずれにより生じるディストーションを22μm以下に抑えることができる。このディストーション量は、例えば、画素ピッチ2.2μmの撮像素子(センサ)を使用しても10画素以内に収まる量である。逆に主光線の入射角度が1.25°を超えると、のりしろとして必要となる画素数が増加する。よって、画像処理で扱うデータ量が増加し、高速に大画面の画像データを取得するのが困難になるため好ましくない。
【0036】
なお、各実施例のように瞳に遮蔽部SHのある光学系では主光線は遮光されて像面には到達しないが、その場合でも、像面への主光線の入射角度を定義することはできる。例えば、像面への主光線の入射角度は、各光束のマージナル光線の上線と下線の像面への光線入射角度の平均などで定義して算出してもよいし、また、光学ソフトを用いた光線追跡により仮想的な主光線を定義して算出してもよい。
【0037】
各実施例において、第2結像光学系G2は、光学有効径内で曲率の向きが変化する変曲点を有し、非球面が、光軸近傍で負の屈折力をもち、周辺部が正の屈折力をもつようにしている。このとき、撮像素子(像面)105への主光線の入射角度の像高特性に応じて変曲点を設定している。入射角度0°近傍で像高特性に応じて変曲点をもたせて、視野領域全域に渡って主光線の入射角度を小さく抑えている。
【0038】
変曲点を有する非球面上における最軸外主光線の光軸からの距離をD、最大像高をYmaxとするとき、
0.09<D/Ymax<1.01 …(1)
なる条件式を満足するようにしている。
【0039】
これによれば、各像高の光束の入射位置が異なるレンズ面に変曲点を有する非球面を用いることで、視野領域全域に渡って良好なるテレセントリック性が容易に得られる。条件式(1)の下限値を超えると、像高特性への影響よりも、波面の像高一律成分への影響が大きくなるため、波面収差が増大し、良好なるテレセントリック性を得ることが困難になる。
【0040】
条件式(1)の上限値を超えると、反射屈折光学系の光路中に、像面105よりも大きな有効径の非球面を配置することになり、全系が大型化するため好ましくない。なお、瞳に遮蔽部のある光学系では主光線は遮光されて像面には到達しないが、その場合でも、変曲点を有する非球面上における最軸外主光線の光軸からの距離Dを定義することはできる。例えば、距離Dは変曲点を有する非球面上における最軸外光束のマージナル光線の上線と下線の光軸からの距離の平均などで定義して算出してもよいし、また、光学ソフトを用いた光線追跡により仮想的な主光線を定義して算出してもよい。
【0041】
このような非球面形状のレンズ面を用いることにより、広い波長帯域、及び、広い視野領域全域に渡って、波面収差、及び、像側のテレセントリック性の良い反射屈折光学系を得ている。
【0042】
以上により各実施例においては広い視野領域にわたり、高い光学性能を有し、維持することができる反射屈折光学系が得られるが、更に好ましくは次の諸条件のうちの1以上を満足するのが良い。第1結像光学系G1と第2結像光学系G2の焦点距離を各々f1、f2とする。第1結像光学系G1と第2結像光学系G2の結像倍率を各々β1、β2とする。第21レンズ群G21、第22レンズ群G22、第23レンズ群G23、第24レンズ群G24の焦点距離を各々f21、f22、f23、f24とする。このとき、以下の条件式のうち1以上を満足するのが良い。
【0043】
0.00≦|f1/f2|<0.25 ・・・(2)
1.3<|β1|<1.7 ・・・(3)
6.2<|β2|<6.9 ・・・(4)
0.00≦|f21/f2|<0.10 ・・・(5)
0.00≦|f22/f2|<0.12 ・・・(6)
0.00≦|f23/f2|<0.13 ・・・(7)
0.00≦|f24/f2|<0.50 ・・・(8)
なる条件を満足することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項の反射屈折光学系。
【0044】
条件式(2)は第1結像光学系G1と第2結像光学系G2の焦点距離の比に関し、諸収差をバランス良く補正するためのものである。条件式(2)の上限値を超えて第1結像光学系G1のパワーが第2結像光学系G2のパワーに比べて弱くなりすぎると、ペッツバール和や色収差を全系でバランス良く低減することが困難になる。下限値の0.00は第2結像光学系G2がアフォーカル(焦点距離f2が無限大)になったときを想定している。
【0045】
条件式(3)、(4)は各々第1、第2結像光学系G1、G2の結像倍率に関し、主に高い結像倍率を第1、第2結像光学系G1、G2にバランス良く分担するものである。条件式(3)、(4)のいずれの数値範囲を外れても、諸収差の発生を軽減しつつ、試料103を高い結像倍率で結像するのが困難になる。条件式(5)乃至(8)は第2結像光学系G2を構成する各レンズを一番広い空気間隔から二番目、三番目に広い空気間隔を境に4つのレンズ群に分割したとき、各レンズ群の屈折力(焦点距離の逆数)を適切設定するものである。
【0046】
これによって、第1結像光学系G1からの光束を受けて中間像を形成するとともに中間像を像面に高い光学性能で結像することを容易にしている。
【0047】
条件式(5)は第21レンズ群G21(レンズL1〜レンズL6)の屈折力に関し、
条件式(6)は第22レンズ群G22(レンズL7〜レンズL10)の屈折力に関し、
条件式(7)は第23レンズ群G23(レンズL11)の屈折力に関し、
条件式(8)は第24レンズ群G24(レンズL12〜レンズL15)の屈折力に関する。
【0048】
条件式(5)乃至(8)のいずれの数値範囲を超えても、第1結像光学系G1からの光束を受けて中間像を形成するとともに中間像を像面に高い光学性能で結像するのが困難になる。尚、条件式(5)乃至(8)の下限値の0.00は第2結像光学系G2がアフォーカル(焦点距離が無限大)になった場合を想定している。以下に各実施例の反射屈折光学系のレンズ構成について説明する。
【0049】
[実施例1]
各レンズの試料103側(物体側)の面をR1面、撮像素子105側(像側)の面をR2面とする。実施例1において第22レンズ群G22のレンズL7のR2面は、変曲点を有する非球面形状である。レンズL7のR2面は、光軸AX近傍で負の屈折力をもち、レンズ周辺部が正の屈折力をもっている。これにより、物体側に加え、像側も良好なるテレセントリック性が得られるようにしている。また、レンズL7のR2面上の最軸外主光線の光軸からの距離D、最大像高Ymaxとの比は、D/Ymax=0.094となっている。
【0050】
このように、各像高の光束の入射位置が異なる面を、変曲点を有する非球面形状にしたことにより、良好なるテレセントリック性を得ている。この実施例1は、物体側の開口数NAが0.7、倍率は10倍、物体103の観察視野領域は直径14.4mmである。瞳の中抜けの割合は面積比で2割以下に抑えられている。また、図4の横収差図では、軸上物高(Y=0mm)、及び、最大物高(Y=7.2mm)を示している。c線(656.3nm)、d線(587.6nm)、f線(486.1nm)、g線(435.8nm)の各波長の光において、収差は良好に抑えられている。
【0051】
図5に示す各像高への主光線の入射角度において、変曲点を有する非球面を使用したことにより、像高により主光線の入射角度に変曲点が生じている。c線(656.3nm)、d線(587.6nm)、f線(486.1nm)、g線(435.8nm)の各波長の光において、全像高において像面105への主光線の入射角度は1.25°以下となっている。
【0052】
[実施例2]
実施例2において第22レンズ群G22のレンズL7のR2面と第24レンズG24のレンズL15のR1面は、変曲点を有する非球面形状である。このように、変曲点を有する非球面を2面含んでいる点が実施例1と異なっている。レンズL7のR2面とレンズL15のR1面は、光軸AX近傍で負の屈折力をもち、レンズ周辺部が正の屈折力をもっている。
【0053】
これにより、物体側に加え、像側も良好なるテレセントリック性が得られるようにしている。レンズL7のR2面上の最軸外主光線の光軸からの距離D1、最大像高Ymaxとの比はD1/Ymax=0.091である。またレンズL15のR1面上の最軸外主光線の光軸からの距離D2と最大像高Ymaxとの比D2/Ymax=0.983となっている。このように、各像高の光束の入射位置が異なる面を、変曲点を有する非球面形状にしたことにより、良好なるテレセントリック性を得ている。
【0054】
この実施例2は、物体側の開口数NAが0.7、倍率は10倍、物体103の観察視野領域は直径14.4mmである。瞳の中抜けの割合は面積比で2割以下に抑えられている。また、図7の横収差図では軸上物高(Y=0mm)、及び、最大物高(Y=7.2mm)を示している。c線(656.3nm)、d線(587.6nm)、f線(486.1nm)、g線(435.8nm)の各波長の光において、収差は良好に抑えられている。
【0055】
図8に示す各像高への主光線の入射角度において、変曲点を有する非球面を使用したことにより、像高により主光線の入射角度に変曲点が生じている。c線(656.3nm)、d線(587.6nm)、f線(486.1nm)、g線(435.8nm)の各波長の光において、全像高において像面105への主光線の入射角度は1.25°以下となっている。
【0056】
以上、本発明の好ましい実施例について説明したが、本発明はこれらの実施例に限定されないことはいうまでもなく、その要旨の範囲内で種々の変形、及び、変更が可能である。例えば、本発明は大画面をスキャンする顕微鏡装置にもスキャンしない顕微鏡装置にも適用可能である。
【0057】
以下、各実施例の数値実施例を示す。面番号は物体面(試料面)から像面まで数えた光学面の順である。rは第i番目の光学面の曲率半径である。dは第i番目と第i+1番目の間隔である(符号は物体側から像面側へ測ったときを(光が進行するときを)正、逆方向を負としている)。Nd、νdは波長587.6nmに対する材料の屈折率とアッベ数をそれぞれ示している。
【0058】
非球面の形状は、以下の式に示す一般的な非球面の式で表される。以下の式において、Zは光軸方向の座標、cは曲率(曲率半径rの逆数)、hは光軸からの高さ、kは円錐係数、A、B、C、D、E、F、G、H、J・・・は各々、4次、6次、8次、10次、12次、14次、16次、18次、20次、・・・の非球面係数である。
【0059】
【数1】

【0060】
「E−X」は「10-X」を意味する。前述した各条件式と数値実施例との関係を表3に示す。
【0061】

(数値実施例1)
25面 D/Ymax=0.094

面番号 r d Nd νd
物体面 5.00
1 571.78 9.37 1.52 64.1
2 -3609.25 72.99
3 -85.68 7.36 1.52 64.1
4 -116.17 -7.36 1.52 64.1
5 -85.68 -72.99
6(絞り)1E+18 0.00
7 -3609.25 -9.37 1.52 64.1
8 571.78 9.37 1.52 64.1
9 -3609.25 72.99
10 -85.68 7.36 1.52 64.1
11 -116.17 3.00
12 -1000.00 7.73 1.62 63.3
13 -23.79 5.00 1.74 32.3
14 -69.26 0.85
15 80.29 8.75 1.62 63.3
16 -46.84 8.35
17 34.98 9.47 1.49 70.2
18 267.47 5.12
19 102.43 8.85 1.75 35.3
20 -57.48 5.47
21 -28.65 5.00 1.62 36.3
22 -1302.77 3.22
23(遮光部)1E+18 13.06
24 94.22 9.74 1.49 70.2
25 872.06 0.89
26 92.02 13.97 1.76 47.8
27 -73.69 0.50
28 50.23 10.91 1.59 61.1
29 150.52 6.60
30 67.98 5.26 1.76 27.5
31 48.23 17.23
32 -28.97 5.00 1.74 44.8
33 384.10 20.72
34 -39.10 5.00 1.52 64.1
35 -1000.00 14.34
36 -109.29 17.24 1.74 44.8
37 -66.98 1.49
38 -124.39 20.68 1.76 40.1
39 -77.76 0.50
40 1280.43 25.87 1.65 58.6
41 -245.91 1.50
42 1E+18 6.00 1.52 64.1
43 1E+18 3.00
像面 0.00

【0062】
【表1】

【0063】
(数値実施例2)
25面 D1/Ymax=0.091
40面 D2/Ymax=0.983

面番号 r d Nd νd
物体面 5.00
1 571.28 9.37 1.52 64.1
2 -3624.52 73.00
3 -85.68 7.36 1.52 64.1
4 -116.18 -7.36 1.52 64.1
5 -85.68 -73.00
6(絞り)1E+18 0.00
7 -3624.52 -9.37 1.52 64.1
8 571.28 9.37 1.52 64.1
9 -3624.52 73.00
10 -85.68 7.36 1.52 64.1
11 -116.18 3.00
12 -1000.00 7.81 1.62 63.3
13 -23.24 5.00 1.74 32.3
14 -66.37 0.76
15 86.02 8.67 1.62 63.3
16 -46.96 8.24
17 35.14 9.46 1.49 70.2
18 280.47 5.06
19 101.70 8.86 1.75 35.3
20 -57.96 5.54
21 -28.41 5.00 1.62 36.3
22 -751.65 3.40
23(遮光部)1E+18 12.84
24 95.92 9.42 1.49 70.2
25 852.71 0.89
26 91.77 13.97 1.76 47.8
27 -72.77 0.50
28 50.79 10.92 1.59 61.1
29 161.60 6.40
30 68.79 5.74 1.76 27.5
31 48.05 16.95
32 -29.09 5.00 1.74 44.8
33 300.45 21.12
34 -39.73 5.00 1.52 64.1
35 -948.08 12.82
36 -109.93 20.73 1.74 44.8
37 -67.62 0.50
38 -176.16 21.27 1.76 40.1
39 -88.89 0.50
40 -792.06 24.44 1.65 58.6
41 -163.16 1.50
42 1E+18 6.00 1.52 64.1
43 1E+18 3.00
像面 0.00

【0064】
【表2】

【0065】
【表3】

【符号の説明】
【0066】
101 光源手段 102 照明光学系 103 試料
104 反射屈折光学系 105 撮像素子 106 画像処理系
107 表示手段 AS 開口絞り IM 中間像 AX 光軸
G1 第1結像光学系 G2 第2結像光学系 L1〜L15 レンズ
M1 第1の光学素子 M2 第2の光学素子 SH 遮光部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体からの光束を集光する反射屈折部を含む第1結像光学系と、前記第1結像光学系からの光束を受けて中間像を形成するとともに、前記中間像を像面に結像させる屈折部を含む第2結像光学系を有する反射屈折光学系であって、前記第1結像光学系は、光軸周辺が光透過部で、前記光透過部よりも外周側のうち物体側の面が裏面反射部である第1の光学素子と、光軸周辺が光透過部で、前記光透過部よりも外周側のうち像側の面が裏面反射部である第2の光学素子を有し、前記第1の光学素子および前記第2の光学素子の裏面反射部の反射面側が互いに向き合うように配置されており、前記物体からの光束は、順に前記第1の光学素子の光透過部、前記第2の光学素子の裏面反射部、前記第1の光学素子の裏面反射部、前記第2の光学素子の光透過部を介した後に前記第2結像光学系に出射しており、
前記第2結像光学系は、光学有効径内で曲率の向きが変化する変曲点を有する非球面形状のレンズ面を含んでいることを特徴とする反射屈折光学系。
【請求項2】
前記非球面形状のレンズ面は、光軸近傍が負の屈折力で、レンズ周辺部が正の屈折力であることを特徴とする請求項1に記載の反射屈折光学系。
【請求項3】
前記第1結像光学系と前記第2結像光学系の焦点距離を各々f1、f2とするとき、
0.00≦|f1/f2|<0.25
なる条件を満足することを特徴とする請求項1又は2の反射屈折光学系。
【請求項4】
前記第1結像光学系と前記第2結像光学系の結像倍率を各々β1、β2とするとき、
1.3<|β1|<1.7
6.2<|β2|<6.9
なる条件を満足することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項の反射屈折光学系。
【請求項5】
前記第2結像光学系は、一番広い空気間隔、二番目に広い空気間隔、三番目に広い空気間隔を境に、物体側から像側へ順に第21レンズ群、第22レンズ群、第23レンズ群、第24レンズ群を有し、前記第21レンズ群、前記第22レンズ群、前記第23レンズ群、前記第24レンズ群の焦点距離を各々f21、f22、f23、f24とするとき、
0.00≦|f21/f2|<0.10
0.00≦|f22/f2|<0.12
0.00≦|f23/f2|<0.13
0.00≦|f24/f2|<0.50
なる条件を満足することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項の反射屈折光学系。
【請求項6】
光源手段と前記光源手段からの光束で物体を照明する照明光学系と、前記物体を結像する請求項1乃至5のいずれか1項の反射屈折光学系と該反射屈折光学系によって結像された物体像を光電変換する撮像素子と、前記撮像素子からのデータより画像情報を生成する画像処理系とを有することを特徴とする撮像装置。
【請求項7】
前記変曲点を有する非球面形状のレンズにおける最軸外主光線の光軸からの距離をD、前記撮像素子の最大像高をYmaxとするとき、
0.09<D/Ymax<1.01
なる条件式を満足することを特徴とする請求項6の撮像装置。
【請求項8】
前記反射屈折光学系の結像面には複数の撮像素子が配置されていることを特徴とする請求項7の撮像装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−37099(P2013−37099A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−171654(P2011−171654)
【出願日】平成23年8月5日(2011.8.5)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】