説明

反射防止用積層体およびその製造方法、ならびに硬化性組成物

【課題】反射率が十分に高い硬化膜を形成することができる硬化性組成物、あるいは該硬化膜を有する反射率が十分に低い反射防止用積層体ならびにその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る反射防止用積層体は、セルロース樹脂基材と、セルロース樹脂を溶解する重合性成分(A1)を5質量%以上75質量%以下含む重合性化合物(A)及び屈折率が1.50以上である粒子(B)を含有してなる硬化性組成物の硬化膜と、25℃におけるNa−D線の屈折率が1.50未満である層と、をこの順番で備え、前記セルロース樹脂基材と前記硬化膜とは接して積層され、前記(B)粒子は前記硬化膜中においてセルロース樹脂基材とは反対側に偏在していることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反射防止用積層体およびその製造方法、ならびに硬化性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、テレビ、パーソナルコンピュータ等の表示装置として、液晶表示装置が使用されている。かかる液晶表示装置において、外光の映りを防止して画質を向上させるために、低屈折率層を有する反射防止用積層体を使用することが提案されている。
【0003】
従来の液晶表示装置に使用される反射防止用積層体は、例えばハードコート層/高屈折率層/低屈折率層をこの順に多層塗工することにより反射防止性および耐擦傷性を備えていた(例えば、特許文献1および特許文献2参照)。このようなハードコート層/高屈折率層/低屈折率層の三層構造を有する反射防止用積層体は、ハードコート層/低屈折率層の二層構造のものに比べて反射率をより低減させることができる点で有利である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−163260号公報
【特許文献2】特開2009−167295号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の三層構造を有する反射防止用積層体では、高屈折率層中に含まれる高屈折率を有する粒子が略均一に分散しているため、高屈折率層の反射率が十分に高くならない場合があった。かかる場合、反射防止用積層体全体としての反射率が高くなってしまうという問題があった。
【0006】
そこで、本発明に係る幾つかの態様は、上記課題を解決することで、反射率が十分に高い硬化膜を形成することができる硬化性組成物、あるいは該硬化膜を有する反射率が十分に低い反射防止用積層体ならびにその製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の態様または適用例として実現することができる。
【0008】
[適用例1]
本発明に係る反射防止用積層体の一態様は、
セルロース樹脂基材と、
セルロース樹脂を溶解する重合性成分(A1)を5質量%以上75質量%以下含む重合性化合物(A)及び屈折率が1.50以上である粒子(B)を含有してなる硬化性組成物の硬化膜と、
25℃におけるNa−D線の屈折率が1.50未満である層と、
をこの順番で備え、
前記セルロース樹脂基材と前記硬化膜とは接して積層され、前記(B)粒子は前記硬化膜中においてセルロース樹脂基材とは反対側に偏在していることを特徴とする。ここで、セルロース樹脂を溶解する成分とは、18cm×1cmの大きさに切った厚さ80μmのセルロース樹脂フィルムを、6gの該成分中に25℃で2時間浸し、取り出したフィルムを80℃で24時間真空乾燥機で乾燥したときのフィルムの質量減少率が1%以上である成分をいう。
【0009】
[適用例2]
本発明に係る反射防止用積層体の一態様は、
セルロース樹脂基材と、
2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、アクリロイルモルフォリン、γ−ブチロラクトンアクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、N−ビニルピロリドン、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルカプロラクタム、グリシジルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、ジエチレングリコールモノアクリレート、グリセリンモノメタクリレート、エチレングリコールジアクリレートおよびジエチレングリコールジアクリレートから選択される少なくとも1種である重合性成分(A1)を5質量%以上75質量%以下含む重合性化合物(A)及び屈折率が1.50以上である粒子(B)を含有してなる硬化性組成物の硬化膜と、
25℃におけるNa−D線の屈折率が1.50未満である層と、
をこの順番で備え、
前記セルロース樹脂基材と前記硬化膜とは接して積層され、前記(B)粒子は前記硬化膜中においてセルロース樹脂基材とは反対側に偏在していることを特徴とする。
【0010】
ここで「(B)粒子が硬化膜中においてセルロース樹脂基材とは反対側に偏在している」とは、前記硬化膜中のセルロース樹脂基材とは反対側における(B)粒子の密度が、硬化膜中のセルロース樹脂基材側における(B)粒子の密度よりも高いことをいう。硬化膜中のセルロース樹脂基材側とセルロース樹脂基材とは反対側とにおける(B)粒子の密度の相対的大小は、例えば反射防止用積層体の断面を電子顕微鏡で観察することにより決定することができる。セルロース樹脂基材側とその反対側との粒子の密度の差は大きいほど好ましい。硬化膜中のセルロース樹脂基材とは反対側に(B)粒子が高密度に存在しており、硬化膜中のセルロース樹脂基材側には(B)粒子が実質的に存在していないことが特に好ましい。
【0011】
[適用例3]
適用例1または適用例2の反射防止用積層体において、
前記硬化膜が前記セルロース樹脂基材を形成するセルロース樹脂を含有することができる。
【0012】
[適用例4]
適用例1ないし適用例3のいずれか一例の反射防止用積層体において、
前記(B)粒子が、ジルコニウムおよびチタンから選択される少なくとも1種の酸化物を主成分とする粒子であることができる。
【0013】
[適用例5]
本発明に係る反射防止用積層体の製造方法の一態様は、
セルロース樹脂を溶解する重合性成分(A1)を5質量%以上75質量%以下含む重合性化合物(A)及び屈折率が1.50以上である粒子(B)を含有してなる硬化性組成物をセルロース樹脂基材に塗布した後、硬化させて硬化膜を形成する工程と、
前記硬化膜上に、25℃におけるNa−D線の屈折率が1.50未満である層を形成する工程と、
を含むことを特徴とする。ここで、セルロース樹脂を溶解する成分とは、18cm×1cmの大きさに切った厚さ80μmのセルロース樹脂フィルムを、6gの該成分中に25℃で2時間浸し、取り出したフィルムを80℃で24時間真空乾燥機で乾燥したときのフィルムの質量減少率が1%以上である成分をいう。
【0014】
[適用例6]
本発明に係る反射防止用積層体の製造方法の一態様は、
2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、アクリロイルモルフォリン、γ−ブチロラクトンアクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、N−ビニルピロリドン、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルカプロラクタム、グリシジルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、ジエチレングリコールモノアクリレート、グリセリンモノメタクリレート、エチレングリコールジアクリレートおよびジエチレングリコールジアクリレートから選択される少なくとも1種である重合性成分(A1)を5質量%以上75質量%以下含む重合性化合物(A)及び屈折率が1.50以上である粒子(B)を含有してなる硬化性組成物をセルロース樹脂基材に塗布した後、硬化させて硬化膜を形成する工程と、
前記硬化膜上に、25℃におけるNa−D線の屈折率が1.50未満である層を形成する工程と、
を含むことを特徴とする。
【0015】
[適用例7]
適用例5または適用例6の反射防止用積層体の製造方法において、
前記(B)粒子が、ジルコニウムおよびチタンから選択される少なくとも1種の酸化物を主成分とする粒子であることができる。
【0016】
[適用例8]
本発明に係る硬化性組成物の一態様は、
反射防止用積層体を製造するための硬化性組成物であって、
セルロース樹脂を溶解する重合性成分(A1)を5質量%以上75質量%以下含む重合性化合物(A)及び屈折率が1.50以上である粒子(B)を含有してなることを特徴とする。
【0017】
[適用例9]
本発明に係る硬化性組成物の一態様は、
反射防止用積層体を製造するための硬化性組成物であって、
2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、アクリロイルモルフォリン、γ−ブチロラクトンアクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、N−ビニルピロリドン、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルカプロラクタム、グリシジルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、ジエチレングリコールモノアクリレート、グリセリンモノメタクリレート、エチレングリコールジアクリレートおよびジエチレングリコールジアクリレートから選択される少なくとも1種である重合性成分(A1)を5質量%以上75質量%以下含む重合性化合物(A)及び屈折率が1.50以上である粒子(B)を含有してなることを特徴とする。
【0018】
[適用例10]
適用例8または適用例9の硬化性組成物において、
前記(B)粒子が、ジルコニウムおよびチタンから選択される少なくとも1種の酸化物を主成分とする粒子であることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る反射防止用積層体によれば、前記硬化膜中の、セルロース樹脂基材と接触する面とは反対の面側に(B)粒子が高密度に存在する層が形成されている。該層は高い屈折率と反射率とを有し、該層の上にさらに低屈折率層が積層されることで優れた反射防止性を実現することができる。
【0020】
本発明に係る反射防止用積層体の製造方法によれば、前記硬化性組成物をセルロース樹脂基材に一度塗布して硬化させることで、セルロース樹脂基材と接触する面とは反対の面側に(B)粒子が高密度に存在する層を形成することができる。すなわち、ハードコート層と高屈折率層とを一度の塗工で形成することができる。これにより、ハードコート層/高屈折率層を形成する工程と、低屈折率層を形成する工程と、の二工程で実質的な三層塗工を実現することができるため、プロセス面での高効率化および低コスト化を達成できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本実施の形態に係る反射防止用積層体を模式的に示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係る好適な実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、下記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において実施される各種の変型例も含む。
【0023】
1.硬化性組成物
本実施の形態に係る硬化性組成物は、(A)重合性化合物と、(B)屈折率が1.50以上である粒子と、を含有する。以下、本実施の形態に係る硬化性組成物の各成分について詳細に説明する。なお、本明細書において(A)ないし(D)の各材料を、それぞれ(A)成分ないし(D)成分と省略して記載することもある。
【0024】
1.1.(A)重合性化合物
本実施の形態で用いられる(A)重合性化合物は、重合性を有する化合物であれば特に限定されないが、エチレン性不飽和基を有する化合物が好ましい。(A)重合性化合物は、基材のセルロース樹脂を溶解する重合性化合物(以下、「(A1)成分」ともいう)と、(A1)成分以外の重合性化合物(以下、(A2)成分ともいう)と、に分類することができる。
【0025】
なお、本実施の形態に係る硬化性組成物中における(A)成分の含有量は、(D)溶媒を除く成分の合計を100質量%としたときに、80〜99質量%が好ましく、90〜98質量%がさらに好ましい。(A)成分の含有量が上記範囲にあることにより、高硬度を有する硬化膜を形成することができる。
【0026】
1.1.1.(A1)成分
本実施の形態に係る硬化性組成物は、(A1)基材のセルロース樹脂を溶解する重合性化合物を含有する。本発明において「基材のセルロース樹脂を溶解する重合性化合物」とは、18cm×1cmの大きさに切った厚さ80μmの基材のセルロース樹脂フィルムの質量をa(g)とし、このフィルムを室温環境下で6gの重合性化合物に2時間浸し、取り出したフィルムを80℃で24時間真空乾燥機で乾燥した後のフィルムの質量をa(g)としたときに、((a−a)/a)×100で表されるフィルムの質量減少率が1%以上である重合性化合物のことをいう。
【0027】
本実施の形態に係る硬化性組成物が(A1)成分を含有していることにより、成膜する際に(B)粒子の偏在化を引き起こして、高反射率を有する硬化膜を形成することができる。
【0028】
(B)粒子の偏在化が発現する機構は明らかではないが、本実施の形態においては例えば次のように考えられる。本実施の形態に係る硬化性組成物をセルロース樹脂基材上に塗布した場合、(A1)成分がセルロース樹脂を溶解するため、セルロース樹脂が塗布された硬化性組成物中に溶出する。ここで(B)粒子は溶出したセルロース樹脂との親和性に劣るため、硬化性組成物中でよりセルロース樹脂の濃度が低い側、すなわち基材と反対側の界面に偏在すると推測される。
【0029】
これに対して、基材のセルロース樹脂を溶解しない樹脂のみを含有する硬化性組成物では、セルロース樹脂が硬化性組成物中に溶出しないため、上記のような(B)粒子の偏在は起きない。その結果、反射防止用積層体に十分な反射防止性や耐擦傷性を付与することができない。
【0030】
(A1)基材のセルロース樹脂を溶解する重合性化合物としては、以下に例示するような、エチレン性不飽和基等の重合性基を1個有する化合物(以下、「単官能化合物」という)やエチレン性不飽和基等の重合性基を2個以上有する化合物(以下、「多官能化合物」という)が挙げられる。(A1)成分である単官能化合物としては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、アクリロイルモルフォリン、N−ビニルピロリドン、N−ビニルホルムアミド等のフィルムの質量減少率が10%以上である重合性化合物;γ−ブチロラクトンアクリレート、N−ビニルカプロラクタム等のフィルムの質量減少率が5%以上10%未満である重合性化合物;ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等のフィルムの質量減少率が1%以上5%未満である重合性化合物等が挙げられる。その他、グリシジルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、ジエチレングリコールモノアクリレート、グリセリンモノメタクリレート等が挙げられる。(A1)成分である多官能化合物としては、エチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート等が挙げられる。これらの成分は、1種単独で用いてもよいし2種以上を混合して用いてもよい。
【0031】
(A)重合性化合物に占める(A1)成分の含有量は、5質量%以上75質量%以下であり、好ましくは10質量%以上50質量%以下であり、より好ましくは10質量%以上40質量%以下である。なお、本明細書において「(A)成分」とは、(A1)成分および(A2)成分を合計したものをいう。(A1)成分が上記範囲で配合されることで、高硬度を有する硬化膜を得ることができるだけでなく、硬化膜中のセルロース樹脂基材と反対側に(B)粒子を偏在させることが容易となる。
【0032】
1.1.2.(A2)成分
(A2)成分である(A1)成分以外の重合性化合物は、硬化性組成物の成膜性ならびに硬化膜の硬度および耐擦傷性を高める目的で用いられる。(A2)成分としては、上記(A1)成分以外の単官能化合物や多官能化合物が挙げられる。これらのうち、架橋構造を形成することにより硬度および耐擦傷性に優れる硬化膜を形成することができる点で多官能化合物が好ましい。(A2)成分である多官能化合物としては、例えば、多官能の(メタ)アクリルエステル化合物、多官能のビニル化合物、多官能のエポキシ化合物、多官能のアルコキシメチルアミン化合物が好ましく、多官能の(メタ)アクリルエステル化合物、多官能のビニル化合物がより好ましい。多官能の(メタ)アクリルエステル化合物としては、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、フッ化アダマンチルジアクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、イソボロニルアクリレート、ブチルアクリレート等が挙げられる。多官能のビニル化合物としては、ジビニルベンゼン等が挙げられる。多官能のエポキシ化合物としては、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル等が挙げられる。多官能のアルコキシメチルアミン化合物としては、ヘキサメトキシメチル化メラミン、ヘキサブトキシメチル化メラミン、テトラメトキシメチル化グリコールウリル、テトラブトキシメチル化グリコールウリル等が挙げられる。
【0033】
また、(A2)成分は、本願発明の効果を損なわない程度に単官能の(メタ)アクリルエステル化合物、単官能のビニル化合物、単官能のエポキシ化合物等を含んでもよい。
【0034】
(A2)成分中に含まれる多官能化合物の割合は、(A2)成分の全量を100質量%としたときに、50〜100質量%であることが好ましく、80〜100質量%であることがより好ましく、100質量%であることが特に好ましい。
【0035】
1.2.(B)屈折率が1.50以上である粒子
本実施の形態に係る硬化性組成物は、(B)屈折率が1.50以上である粒子を含有する。(B)粒子は、本実施の形態に係る硬化性組成物を硬化させて形成される硬化膜の反射率を向上させるための成分である。硬化膜の表面に(B)粒子が高密度に存在する層が形成されることで、その硬化膜の反射率を高めることができる。また、(B)粒子が硬化膜の表面に高密度に存在することで、硬化膜の硬度を高めて耐擦傷性を向上させたり、カールを小さくさせたりする効果も期待される。
【0036】
本明細書中における「屈折率」とは、25℃におけるNa−D線(波長589nm)の屈折率をいう。本明細書中における「粒子の屈折率」は、同一マトリックス中に、固形分中の粒子含量を、1質量%、10質量%、20質量%とした組成物を成膜し、JIS K7105(ISO489に相当)に従い、25℃におけるNa−D線での屈折率を測定し、検量線法で計算した粒子含量100質量%の値をいう。
【0037】
(B)粒子としては、屈折率が1.50以上であれば特に制限されないが、ジルコニウムおよびチタンから選択される少なくとも1種の元素の酸化物を主成分とする粒子であることが好ましい。ジルコニウムやチタンの酸化物を主成分とする粒子は、1.50以上の屈折率を有するため、得られる硬化膜の反射率を高めることができると共に、耐擦傷性を改善することができる。また、得られる硬化膜の透明性を確保することもできる点で好ましい。このような(B)粒子としては、例えば、ジルコニア(二酸化ジルコニウム)、チタニア(二酸化チタン)等を主成分とする粒子が挙げられる。
【0038】
さらには、(B)粒子は、粉体状または溶剤分散ゾルであることが好ましい。溶剤分散ゾルである場合、他の成分との相溶性および分散性の観点から、分散媒は有機溶剤であることが好ましい。このような有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、オクタノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、シクロヘキサノン等のケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、γ−ブチロラクトン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート(PGMEA)等のエステル類;エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等のエーテル類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;ジメチルフォルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド類が挙げられる。これらの中でも、メタノール、イソプロパノール、ブタノール、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸エチル、酢酸ブチル、トルエン、キシレンが好ましい。
【0039】
(B)粒子のメジアン径は、0.001〜2μmの範囲内であることが好ましく、0.001〜0.2μmの範囲内であることがより好ましく、0.001〜0.1μmの範囲内であることが特に好ましい。メジアン径が前記範囲未満であると、得られる硬化膜の反射率が低下するおそれがあり、前記範囲を超えると、得られる硬化膜の透明性が低下したり、濁度(Haze値)が上昇するおそれがある。また、(B)粒子の分散性を改良するために各種の界面活性剤やアミン類を添加してもよい。ここで、メジアン径とは、粉体をある粒子径から2つに分けたとき、大きい側と小さい側とが等量となる径を意味する。このメジアン径は、動的光散乱法を測定原理とする粒度分布測定装置によって測定することができる。
【0040】
(B)粒子の形状は、球状、中空状、多孔質状、棒状、板状、繊維状、または不定形状であり、球状であることが好ましい。(B)粒子の比表面積(窒素を用いたBET比表面積測定法による)は、10〜1000m/gであることが好ましく、100〜500m/gであることがより好ましい。
【0041】
本実施の形態に係る硬化性組成物中において、(B)粒子の含有量は、溶剤を除く成分の合計を100質量%としたときに、好ましくは1〜10質量%、より好ましくは2〜8質量%の範囲内である。(B)粒子の含有量が前記範囲未満であると、硬化膜の反射率が低下するおそれがあり、前記範囲を超えると、反射率の向上が限界となる。また、生産性が低下するおそれや、硬化膜の透明性が損なわれるおそれがある。
【0042】
なお、本実施の形態に係る硬化性組成物をセルロース樹脂基材に塗布して硬化させることにより形成された硬化膜では、セルロース樹脂基材と接触する面とは反対の面側に(B)粒子が高密度に存在する層が形成される。そのため、硬化性組成物中の(B)粒子の含有量を1〜10質量%とすることで、硬化膜の反射率を十分に向上させることができる。これにより、生産性を向上させることができる。
【0043】
1.3.(C)重合開始剤
本実施の形態に係る硬化性組成物は、(C)重合開始剤を含有してもよい。このような(C)重合開始剤としては、例えば(A)成分として(メタ)アクリルエステル化合物および/またはビニル化合物を含有する場合は、熱的に活性ラジカル種を発生させる化合物(熱重合開始剤)および放射線(光)照射により活性ラジカル種を発生させる化合物(放射線(光)ラジカル重合開始剤)等の汎用品を挙げることができる。また、(A)成分としてエポキシ化合物および/またはアルコキシメチルアミン化合物を含有する場合は、酸性化合物および放射線(光)照射により酸を発生させる化合物(放射線(光)酸発生剤)等の汎用品を挙げることができる。これらの中でも、放射線(光)重合開始剤が好ましい。
【0044】
放射線(光)ラジカル重合開始剤としては、光照射により分解してラジカルを発生して重合を開始させられるものであれば特に制限はなく、例えば、アセトフェノン、アセトフェノンベンジルケタール、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、キサントン、フルオレノン、ベンズアルデヒド、フルオレン、アントラキノン、トリフェニルアミン、カルバゾール、3−メチルアセトフェノン、4−クロロベンゾフェノン、4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンジルジメチルケタール、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、チオキサントン、ジエチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノ−プロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)−ブタノン−1,4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル−(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ケトン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキシド、オリゴ(2−ヒドロキシ−2−メチル−1−(4−(1−メチルビニル)フェニル)プロパノン)等が挙げられる。
【0045】
放射線(光)ラジカル重合開始剤の市販品としては、例えば、BASFジャパン株式会社製のイルガキュア 184、369、651、500、819、907、784、2959、CGI1700、CGI1750、CGI1850、CG24−61、ダロキュア 1116、1173、ルシリン TPO、8893;UCB社製のユベクリル P36;ランベルティ社製のエザキュアーKIP150、KIP65LT、KIP100F、KT37、KT55、KTO46、KIP75/B等が挙げられる。
【0046】
熱ラジカル重合開始剤としては、加熱により分解してラジカルを発生して重合を開始するものであれば特に制限はなく、例えば、過酸化物、アゾ化合物を挙げることができ、具体例としては、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチル−パーオキシベンゾエート、アゾビスイソブチロニトリル等が挙げられる。
【0047】
放射線(光)酸発生剤としては、トリアリールスルホニウム塩類、ジアリールヨードニウム塩類の化合物を使用することができる。放射線(光)酸発生剤の市販品としては、サンアプロ社製のCPI−100P、101A等が挙げられる。
【0048】
本実施の形態に係る硬化性組成物中において、必要に応じて用いられる(C)重合開始剤の含有量は、溶媒を除く成分の合計を100質量%としたときに、好ましくは0.01〜15質量%、より好ましくは0.1〜8質量%の範囲内である。上記の範囲で配合することで、より硬度および耐擦傷性の高い硬化膜が得られる。なお、(C)重合開始剤は複数種の化合物を併用することもできる。
【0049】
1.4.(D)溶媒
本実施の形態に係る硬化性組成物は、セルロース樹脂基材に塗布したときの塗膜(以下、「硬化性組成物層」という)の厚さや硬化性組成物の粘度を調節するために、(D)溶媒で希釈して用いることができる。例えば、本実施の形態に係る硬化性組成物を反射防止膜や被覆材として用いる場合の25℃における粘度は、通常0.1〜50,000mPa・秒であり、好ましくは、0.5〜10,000mPa・秒である。
【0050】
(D)溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、オクタノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、γ−ブチロラクトン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のエステル類;エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等のエーテル類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド類等が挙げられる。
【0051】
本実施の形態に係る硬化性組成物において、必要に応じて用いられる(D)溶媒の含有量は、(D)溶媒を除く成分の合計を100質量部としたときに、50〜10,000質量部の範囲内であることが好ましい。(D)溶媒の含有量は、塗布膜厚、硬化性組成物の粘度等を考慮して適宜決定することができる。
【0052】
なお、本実施の形態に係る硬化性組成物において必要に応じて用いられる(D)溶媒の一部または全部として、セルロース樹脂を溶解する溶媒を選択してもよい。ここでセルロース樹脂を溶解する溶媒とは、18cm×1cmの大きさに切った厚さ80μmのセルロース樹脂フィルムを、6gの該成分中に25℃で2時間浸し、取り出したフィルムを80℃で24時間真空乾燥機で乾燥したときのフィルムの質量減少率が1%以上である成分であって、上記(A1)成分に含まれないものをいう。具体的には、シクロヘキサノン、アセトン、メチルエチルケトン、アセチルアセトン、ジアセトンアルコール等が例示される。(D)溶媒の一部又は全部をセルロース樹脂を溶解する溶媒とすることで、セルロース樹脂をより効率よく溶出させ、硬化膜と基材との密着性をさらに高めたり、(B)粒子の偏在性をさらに高めたりすることができる。(D)溶媒のうちどの程度の割合をセルロース樹脂を溶解する溶媒とするかは、(D)溶媒の使用量や(A1)成分の種類、使用量に応じて適宜定めることができる。
【0053】
1.5.その他の添加剤
本実施の形態に係る硬化性組成物は、必要に応じて、粒子分散剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、シランカップリング剤、老化防止剤、熱重合禁止剤、着色剤、レベリング剤、界面活性剤、保存安定剤、可塑剤、滑剤、無機系充填材、有機系充填材、フィラー、濡れ性改良剤、塗面改良剤等を含有することができる。
【0054】
1.6.硬化性組成物の製造方法
本実施の形態に係る硬化性組成物は、(A)重合性化合物、(B)粒子、必要に応じて(C)重合開始剤、(D)溶媒、その他の添加剤をそれぞれ添加して、室温または加熱条件下で混合することにより調製することができる。具体的には、ミキサー、ニーダー、ボールミル、三本ロール等の混合機を用いて調製することができる。但し、加熱条件下で混合する場合には、熱重合開始剤の分解温度以下で行うことが好ましい。
【0055】
2.反射防止用積層体およびその製造方法
2.1.反射防止用積層体の製造方法
本実施の形態に係る反射防止用積層体の製造方法は、(a)セルロース樹脂を溶解する重合性成分(A1)を5質量%以上75質量%以下含む重合性化合物(A)及び屈折率が1.50以上である粒子(B)を含有してなる硬化性組成物を準備する工程(以下、「工程(a)」ともいう)と、(b)前記硬化性組成物をセルロース樹脂基材に塗布した後、硬化させて硬化膜を形成する工程(以下、「工程(b)」ともいう)と、(c)前記硬化膜上に、25℃におけるNa−D線の屈折率が1.50未満である層を形成する工程と、を含む。なお、「(A1)基材のセルロース樹脂を溶解する重合性化合物」は、上記で定義した質量減少率が1%以上の重合性化合物のことをいう。
【0056】
かかる反射防止用積層体の製造方法によれば、基材となるセルロース樹脂基材に前記硬化性組成物を塗布して硬化させることで、セルロース樹脂基材と接触する面とは反対側に(B)粒子が高密度に存在する硬化膜を形成することができる。形成された硬化膜は、セルロース樹脂基材と接触する面とは反対側に(B)粒子が高密度に存在しているため、高反射率を有している。かかる硬化膜上に、さらに25℃におけるNa−D線の屈折率が1.50未満である層(以下、「低屈折率層」ともいう)を形成することにより、反射防止性に優れた積層体が得られる。
【0057】
また、かかる反射防止用積層体の製造方法によれば、ハードコート層と高屈折率層とを一度の塗工で形成することができる。これにより、ハードコート層/高屈折率層を形成する工程および低屈折率層を形成する工程により実質的な三層塗工を実現することできるため、プロセス面での高効率化および低コスト化を達成できる。
【0058】
2.1.1.工程(a)
工程(a)は、前述した硬化性組成物を準備する工程である。かかる硬化性組成物の構成や製造方法等は前述したとおりであるため、詳細な説明は省略する。
【0059】
2.1.2.工程(b)
工程(b)は、工程(a)で準備された硬化性組成物をセルロース樹脂基材に塗布した後、乾燥させて硬化膜を形成する工程である。
【0060】
工程(a)で準備された硬化性組成物をセルロース樹脂基材に塗布する方法は特に限定されず、例えばバーコート塗工、エアナイフ塗工、グラビア塗工、グラビアリバース塗工、リバースロール塗工、リップ塗工、ダイ塗工、ディップ塗工、オフセット印刷、フレキソ印刷、スクリーン印刷等の公知の方法を用いることができる。
【0061】
前記の方法で塗布した後、溶剤等の揮発成分を乾燥させる。具体的には、前記硬化性組成物をセルロース樹脂基材上に塗布し、0〜200℃、好ましくは20〜150℃、より好ましくは20〜120℃で揮発成分を乾燥させる。200℃を超える温度では、セルロース樹脂基材が変形したり、硬化性組成物層の硬化に寄与するバインダー成分が揮発することにより強度が低下することがある。乾燥の方法は、熱風式、ドラム式、赤外線式、誘導加熱式等が挙げられ、基材の大きさ、厚さにより適宜決定される。熱風式で加熱する場合、風速が速すぎると(B)粒子の偏在性や塗膜の面観が損なわれることがあるため、熱風の風速は20m/秒以下であることが好ましく、5m/秒以下であることがより好ましい。
【0062】
工程(a)で準備された硬化性組成物をセルロース樹脂基材上に塗布すると、該硬化性組成物中に含まれる(A1)成分とセルロース樹脂基材中に含まれるセルロース樹脂とが相互作用して、硬化性組成物層中にセルロース樹脂が混入するか、またはセルロース樹脂基材に(A1)成分が浸透する場合がある。硬化性組成物層中にセルロース樹脂が混入しているか否かは、例えば、得られた硬化膜をラマン分光測定装置で測定し、前記セルロース樹脂が有する特定の官能基のピークを観測することにより判別することができる。
【0063】
硬化性組成物の硬化条件についても特に限定されるものではない。具体的には、前記硬化性組成物をセルロース樹脂基材上に塗布し、好ましくは0〜200℃で揮発成分を乾燥させた後、放射線および/または熱で硬化処理を行うことにより反射防止用積層体を形成することができる。熱で硬化させる場合の好ましい条件は、20〜150℃であり、10秒〜24時間の範囲で行われる。放射線で硬化させる場合、紫外線または電子線を用いることが好ましい。紫外線の照射光量は、好ましくは0.01〜10J/cmであり、より好ましくは0.1〜2J/cmである。また、電子線の照射条件は、加圧電圧が10〜300kV、電子密度が0.02〜0.30mA/cm、電子線照射量が1〜10Mradである。
【0064】
2.2.反射防止用積層体
図1は、本実施の形態に係る反射防止用積層体を模式的に示した断面図である。図1に示すように、本実施の形態に係る反射防止用積層体100は、基材となるセルロース樹脂基材10の上に上述した硬化性組成物を硬化させた硬化膜20が形成されており、硬化膜20の上にさらに低屈折率層30が形成されている。
【0065】
硬化膜20中のセルロース樹脂基材とは反対側における(屈折率が1.50以上である)粒子22の密度は、硬化膜20中のセルロース樹脂基材側における粒子22の密度よりも高い。すなわち、硬化膜20中のセルロース樹脂基材と反対側には粒子22が相対的に高い密度で存在する領域26(以下、「高屈折率層26」ともいう)が形成されており、硬化膜20中のセルロース樹脂基材側には粒子22が実質的に存在しない領域24(以下、「ハードコート層24」ともいう)が形成されている。領域24と領域26の境界は、必ずしも明確である必要はないが、硬化膜20中の粒子22の大部分が領域26に集まり領域24は実質的に粒子22を含まないことによって境界が明確であることが好ましい。粒子22が領域26に偏在することにより、領域26の反射率を向上させることができる。かかる領域26上に低屈折率層30を形成することで、反射防止性に優れた積層体を得ることができる。また、領域24が(A)成分として多官能化合物を含有する場合には架橋構造を有する硬化膜が形成されるため硬度に優れる反射防止用積層体を得ることができる。
【0066】
また、高屈折率層26と低屈折率層30との間に中屈折率層を設けてもよい。なお、本発明において硬化膜とは、硬化性組成物を塗布および硬化して得られる膜をいい、塗布および硬化の過程において成分の加減があっても構わない。
【0067】
粒子22が偏在する原因は必ずしも明らかではないが、(A1)成分がセルロース樹脂を溶解して、セルロース樹脂が硬化性組成物層中へ溶出するため、セルロース樹脂との親和性が低い粒子22が硬化性組成物層中のセルロース樹脂濃度が低い側(すなわち、硬化性組成物層中のセルロース樹脂基材と反対側)に偏在するようになると推定される。このような状態で硬化性組成物を硬化させることにより、硬化膜中のセルロース樹脂基材と反対側に粒子22が偏在した硬化膜20を形成することができる。
【0068】
一方、基材のセルロース樹脂を溶解しない重合性化合物のみを含有する硬化性組成物では、セルロース樹脂との相互作用がないため、硬化膜の表面に(B)粒子を偏在させることができず、硬化膜表面の反射率を十分に高めることができない場合がある。
【0069】
以下、本実施の形態に係る反射防止用積層体の各層について説明する。
【0070】
2.2.1.セルロース樹脂基材
本実施の形態に係る反射防止用積層体に用いられる基材は、セルロース樹脂基材である。基材としてセルロース樹脂を用いることにより、上述した硬化性組成物中に含まれる(A1)成分がセルロース樹脂を溶解または膨潤させることにより、粒子22が相対的に高い密度で存在する領域26を形成することができるものと考えられる。一方、セルロース樹脂以外の樹脂を基材として使用した場合には、上述したような作用効果を奏しない。本実施の形態において、セルロース樹脂基材とは、基材自体がセルロース樹脂で形成されていてもよいし、ポリエチレンテレフタレートやポリカーボネート等の基材表面にセルロース樹脂層を有する基材であってもよい。ここで、基材として使用可能なセルロース樹脂としては、トリアセチルセルロース(TAC)、ジアセチルセルロース、セルロースアセテートブチレート等が挙げられる。
【0071】
また、基材をセルロース樹脂とする反射防止用積層体は、カメラのレンズ部、テレビ(CRT)の画面表示部、あるいは液晶表示装置における偏光子の保護フィルム等の広範なハードコートおよび/または反射防止膜の利用分野において、優れた反射防止効果を得ることができる。
【0072】
2.2.2.ハードコート層
ハードコート層24は、前述した硬化性組成物を硬化して得られる硬化膜20のセルロース樹脂基材10側に形成される、粒子22が実質的に存在しない領域から構成される。
【0073】
ハードコート層24の厚さは、特に限定されないが、好ましくは1〜50μm、より好ましくは1〜10μmである。ハードコート層24の厚さが1μm未満であると、硬度が不足する場合があり、一方、50μmを超えると、均質な膜を形成することが困難となったり、積層体のカールが大きくなり扱いづらくなる場合がある。ハードコート層24の形成の際に、上述のとおり(A1)成分がセルロース樹脂を溶解するため、得られるハードコート層24は(A)成分の他にセルロース樹脂を含有する層となる。
【0074】
2.2.3.高屈折率層
高屈折率層26は、上述した硬化性組成物を硬化して得られる硬化膜20のセルロース樹脂基材10と反対側に形成される、粒子22が相対的に高い密度で存在する領域から構成される。
【0075】
高屈折率層26の厚さは、特に限定されないが、好ましくは50〜200nm、より好ましくは60〜150nm、特に好ましくは80〜120nmである。高屈折率層26の厚さを上記範囲内とすることで、透明性を損なわない範囲で高い反射率を有する積層体を得ることができる。
【0076】
2.2.4.低屈折率層
低屈折率層30を形成するための硬化性組成物としては、特に制限されるものではないが、被膜形成成分として、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、メラミン系樹脂、アルキド系樹脂、シアネート系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ウレタン系樹脂、シロキサン樹脂等の、一種単独または二種以上の組み合わせを含むことが好ましい。これらの樹脂であれば、低屈折率層として強固な薄膜を形成することができ、その結果、反射防止用積層体の耐擦傷性を向上させることができる。
【0077】
また、硬化形態としては、熱硬化、紫外線硬化、電子線硬化が可能な硬化性組成物を用いることができるが、生産性の良好な紫外線硬化性組成物が好適である。
【0078】
上記の硬化性組成物を硬化して得られる低屈折率層30は、25℃におけるNa−D線の屈折率を1.50未満とする必要がある。低屈折率層30の屈折率が1.50を超えると、高屈折率層26と組み合わせることで反射防止効果が著しく低下する場合がある。
【0079】
また、高屈折率層26と低屈折率層30との間の屈折率差は、より優れた反射防止効果が得られる観点から、0.05以上の値とすることが好ましく、0.1〜0.5の範囲内の値とすることがより好ましく、0.15〜0.5の範囲内の値とすることが特に好ましい。
【0080】
低屈折率層30の厚さについても特に制限されるものではないが、例えば、50〜300nmであることが好ましい。低屈折率層30の厚さが50nm未満となると、硬化膜20に対する密着性が低下する場合があり、一方、厚さが300nmを超えると、光干渉が生じて反射防止効果が低下する場合がある。したがって、低屈折率層30の厚さを50〜250nmとすることがより好ましく、60〜200nmとすることがより好ましい。
【0081】
3.実施例
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
【0082】
3.1.ジルコニアゾルの製造(製造例1)
球状ジルコニア微粉末(商品名「UEP−100」、第一稀元素化学工業株式会社製、平均一次粒子径20nm)を30.0質量部、アルミニウム有機化合物(商品名「ASBD」、川研ファインケミカル株式会社製、アルミニウムセカンダリーブチレート)を4.2質量部、分散剤(商品名「HIPLAAD ED151」、楠本化成株式会社製)を3.6質量部、2−ブタノールを4.2質量部、アセチルアセトンを1.2質量部、およびメチルエチルケトンを56.4質量部混合し、ガラスビーズにて分散を行った。経時で粒子径を測定し、粒子径の低下が観察されなくなった時点を分散の終点とした。その後、ガラスビーズを除去してメチルエチルケトンジルコニアゾルを得た。分散ゾルをアルミ皿に2g秤量後、175℃のホットプレート上で1時間乾燥、秤量した固形分含量を求めたところ34質量%であった。また、動的光散乱式粒径分布測定装置(株式会社堀場製作所製)を用いて、分散しているジルコニア粒子のメジアン径を測定したところメジアン径が67nmであった。
【0083】
3.2.硬化性組成物の製造例
紫外線を遮蔽した容器中において、上記製造例1で得られたジルコニアゾル12質量部(固形分として4質量部)、2−ヒドロキシエチルアクリレート(商品名「ライトエステルHOA」、共栄社化学株式会社製)26質量部、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート(商品名「SR399E」、サートマー社製)67質量部、2−メチル−1[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノプロパン−1−オン(商品名「イルガキュア(登録商標)907」、BASFジャパン株式会社製)3質量部、さらにメチルイソブチルケトンを適量加えて室温で2時間撹拌することにより均一な硬化性組成物を得た。この溶液をアルミ皿に2g秤量後、175℃のホットプレート上で30分間乾燥させ、秤量した後固形分含量を求めたところ、50質量%であった。
【0084】
3.3.実施例1(反射防止用積層体の作製)
前記「3.2.硬化性組成物の製造例」で得られた硬化性組成物をトリアセチルセルロースフィルム上にバーコーターを用いて全体の硬化膜厚が約3μmとなるように塗工後、100℃のオーブンで1分間乾燥し、窒素フロー下で高圧水銀灯(300mJ/cm)を用いて硬化させることにより「積層体A」を得た。
【0085】
一方、オプスターJUA204(商品名、JSR株式会社製、屈折率:1.37、固形分量10%)を、固形分濃度が4%となるように希釈して低屈折率層用硬化性組成物を得た。なお、希釈溶剤には、MIBK/t−ブタノール/PGMEA=40/25/35(質量比)を使用した。積層体Aの硬化膜上に、調製した低屈折率層用硬化性組成物を3ミルのバーコーターを用いて硬化膜厚が100nmとなるように塗工後、80℃のオーブンで1分間乾燥し、窒素フロー下で高圧水銀灯(600mJ/cm)を用いて硬化させることにより「反射防止用積層体B」を得た。
【0086】
3.4.実施例2〜16、比較例1〜4
表2〜表3に示す成分を表2〜表3に示す組成で配合した硬化性組成物を使用したこと以外は、実施例1と同様にして積層体Aおよび反射防止用積層体Bを得た。
【0087】
なお、表2〜表3に示す略称や商品名は、以下の通りである。
・ジルコニアゾル(上記製造例1で得られたもの、屈折率:1.70)
・チタニアゾル(商品名「NOD−742GTF」、ナガセケムテックス株式会社製、屈折率:1.85)
・イルガキュア907(商品名、BASFジャパン株式会社製、重合開始剤)
・JUA204(商品名「オプスターJUA204」、JSR株式会社製、屈折率:1.37、固形分量10%、中空シリカ含有硬化性組成物)
・Z7537(商品名「オプスターZ7537」、JSR株式会社製、屈折率:1.49、固形分量50%、変性中実粒子含有硬化性組成物)
【0088】
3.5.評価試験
3.5.1.(A)重合性化合物のトリアセチルセルロースに対する溶解性
まず、表2〜表3に記載されている(A)重合性化合物のトリアセチルセルロースに対する溶解性について評価した。18cm×1cmの大きさに切った厚さ80μmのトリアセチルセルロースフィルム(商品名「TDY−80UL」、富士フイルム株式会社製)の質量をa(g)とし、このフィルムを25℃で6gの重合性化合物に2時間浸し、取り出したフィルムを80℃で24時間真空乾燥機で乾燥した後のフィルムの質量をa(g)としたときに、((a−a)/a)×100で表されるフィルムの質量減少率を測定した。この質量減少率が1%以上である場合には、重合性化合物がトリアセチルセルロースを溶解するものと判断し、1%未満である場合には、重合性化合物がトリアセチルセルロースを溶解しないものと判断した。その結果を表1に示す。
【0089】
【表1】

【0090】
3.5.2.反射率の測定
次に、実施例および比較例で得られた積層体Aおよび反射防止用積層体Bのそれぞれについて反射率(%)を測定した。得られた積層体Aまたは反射防止用積層体Bのセルロース樹脂基材面を黒色スプレーで塗装し、分光反射率測定装置(大型試料室積分球付属装置150−09090を組み込んだ自記分光光度計U−3410、株式会社日立製作所製)を用いて波長340〜700nmの範囲における反射率を基材側から測定して評価した。具体的には、アルミの蒸着膜における反射率を基準(100%)として、各波長における積層体の反射率を測定し、そのうち波長550nmにおける光の反射率を表2〜表3に併せて示した。
【0091】
【表2】

【0092】
【表3】

【0093】
3.6.評価結果
表2〜表3の結果から、実施例1〜16の積層体Aでは、比較例1〜4の積層体Aよりも反射率が有意に高くなることが判明した。また、実施例1〜16の反射防止用積層体Bでは反射率がいずれも0.1%となり、比較例1〜4の反射防止用積層体Bよりも反射率が有意に低くなることが判明した。
【0094】
また、実施例1〜16および比較例1〜4の積層体Aについて、断面をスライスしてハードコート層のラマン分光測定(日本電子株式会社製、形式「JRS−SYSTEM2000」を使用)を行った。その結果、実施例1〜16のハードコート層からは、トリアセチルセルロースのカルボニル基に由来する1740cm−1のピークが検出されたが、比較例1〜4のハードコート層からはトリアセチルセルロースに由来するピークは検出されなかった。すなわち、実施例1〜16のハードコート層中には、基材のトリアセチルセルロースが混入していることが示された。
【0095】
さらに、実施例1〜16の積層体Aの断面を走査型電子顕微鏡で観察したところ、硬化膜中のセルロース樹脂基材とは反対側における(B)粒子の密度が硬化膜中のセルロース樹脂基材側における(B)粒子の密度より高いことが判明した。なお、硬化膜中のセルロース樹脂基材側には(B)粒子が実質的に存在しなかった。これに対して、比較例1〜4の積層体では、(B)粒子の密度は硬化膜中で略均一であった。
【0096】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。例えば、本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法および結果が同一の構成、あるいは目的および効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成または同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【符号の説明】
【0097】
10…セルロース樹脂基材、20…硬化膜、22…粒子、24…粒子が実質的に存在しない領域(ハードコート層)、26…粒子が相対的に高い密度で存在する領域(高屈折率層)、30…低屈折率層、100…反射防止用積層体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース樹脂基材と、
セルロース樹脂を溶解する重合性成分(A1)を5質量%以上75質量%以下含む重合性化合物(A)及び屈折率が1.50以上である粒子(B)を含有してなる硬化性組成物の硬化膜と、
25℃におけるNa−D線の屈折率が1.50未満である層と、
をこの順番で備え、
前記セルロース樹脂基材と前記硬化膜とは接して積層され、前記(B)粒子は前記硬化膜中においてセルロース樹脂基材とは反対側に偏在している、反射防止用積層体(ここでセルロース樹脂を溶解する成分とは、18cm×1cmの大きさに切った厚さ80μmのセルロース樹脂フィルムを、6gの該成分中に25℃で2時間浸し、取り出したフィルムを80℃で24時間真空乾燥機で乾燥したときのフィルムの質量減少率が1%以上である成分をいう。)。
【請求項2】
セルロース樹脂基材と、
2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、アクリロイルモルフォリン、γ−ブチロラクトンアクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、N−ビニルピロリドン、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルカプロラクタム、グリシジルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、ジエチレングリコールモノアクリレート、グリセリンモノメタクリレート、エチレングリコールジアクリレートおよびジエチレングリコールジアクリレートから選択される少なくとも1種である重合性成分(A1)を5質量%以上75質量%以下含む重合性化合物(A)及び屈折率が1.50以上である粒子(B)を含有してなる硬化性組成物の硬化膜と、
25℃におけるNa−D線の屈折率が1.50未満である層と、
をこの順番で備え、
前記セルロース樹脂基材と前記硬化膜とは接して積層され、前記(B)粒子は前記硬化膜中においてセルロース樹脂基材とは反対側に偏在している、反射防止用積層体。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、
前記硬化膜が前記セルロース樹脂基材を形成するセルロース樹脂を含有する、反射防止用積層体。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか一項において、
前記(B)粒子が、ジルコニウムおよびチタンから選択される少なくとも1種の酸化物を主成分とする粒子である、反射防止用積層体。
【請求項5】
セルロース樹脂を溶解する重合性成分(A1)を5質量%以上75質量%以下含む重合性化合物(A)及び屈折率が1.50以上である粒子(B)を含有してなる硬化性組成物をセルロース樹脂基材に塗布した後、硬化させて硬化膜を形成する工程と、
前記硬化膜上に、25℃におけるNa−D線の屈折率が1.50未満である層を形成する工程と、
を含む、反射防止用積層体の製造方法(ここでセルロース樹脂を溶解する成分とは、18cm×1cmの大きさに切った厚さ80μmのセルロース樹脂フィルムを、6gの該成分中に25℃で2時間浸し、取り出したフィルムを80℃で24時間真空乾燥機で乾燥したときのフィルムの質量減少率が1%以上である成分をいう。)。
【請求項6】
2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、アクリロイルモルフォリン、γ−ブチロラクトンアクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、N−ビニルピロリドン、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルカプロラクタム、グリシジルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、ジエチレングリコールモノアクリレート、グリセリンモノメタクリレート、エチレングリコールジアクリレートおよびジエチレングリコールジアクリレートから選択される少なくとも1種である重合性成分(A1)を5質量%以上75質量%以下含む重合性化合物(A)及び屈折率が1.50以上である粒子(B)を含有してなる硬化性組成物をセルロース樹脂基材に塗布した後、硬化させて硬化膜を形成する工程と、
前記硬化膜上に、25℃におけるNa−D線の屈折率が1.50未満である層を形成する工程と、
を含む、反射防止用積層体の製造方法。
【請求項7】
請求項5または請求項6において、
前記(B)粒子が、ジルコニウムおよびチタンから選択される少なくとも1種の酸化物を主成分とする粒子である、反射防止用積層体の製造方法。
【請求項8】
セルロース樹脂を溶解する重合性成分(A1)を5質量%以上75質量%以下含む重合性化合物(A)及び屈折率が1.50以上である粒子(B)を含有してなる、反射防止用積層体を製造するために用いられる硬化性組成物。
【請求項9】
2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、アクリロイルモルフォリン、γ−ブチロラクトンアクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、N−ビニルピロリドン、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルカプロラクタム、グリシジルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、ジエチレングリコールモノアクリレート、グリセリンモノメタクリレート、エチレングリコールジアクリレートおよびジエチレングリコールジアクリレートから選択される少なくとも1種である重合性成分(A1)を5質量%以上75質量%以下含む重合性化合物(A)及び屈折率が1.50以上である粒子(B)を含有してなる、反射防止用積層体を製造するために用いられる硬化性組成物。
【請求項10】
請求項8または請求項9において、
前記(B)粒子が、ジルコニウムおよびチタンから選択される少なくとも1種の酸化物を主成分とする粒子である、硬化性組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2012−247667(P2012−247667A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−120104(P2011−120104)
【出願日】平成23年5月30日(2011.5.30)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】