説明

反射防止膜、反射防止膜の形成方法、及び透光部材

【課題】最表面の硬度が高く耐磨耗性に優れると共に、反射率が低い反射防止膜、及び透光部材、並びに反射防止膜の形成方法を提供する。
【解決手段】反射防止膜は、可視光が透過可能な部材の表面に形成された反射防止膜であって、反射防止膜の最表面を構成する膜が、Cを添加したSiO2であるC−SiO2膜である。反射防止膜の形成方法は、可視光が透過する部材の表面に反射防止膜を形成する反射防止膜の形成方法であって、反射防止膜の最表面を構成する膜として、Cを添加したSiO2であるC−SiO2膜を形成する最表面形成工程を有し、当該最表面形成工程において、C−SiO2膜を、ECRプラズマ励起方式を用いたECRプラズマスパッタ装置によって形成する。透光部材は、可視光が透過可能な透光部材であって、最表面を構成する膜が、Cを添加したSiO2であるC−SiO2膜である反射防止膜を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可視光が透過可能な部材などに形成する反射防止膜、反射防止膜の形成方法、及び可視光が透過可能な透光部材に関する。
【背景技術】
【0002】
腕時計やFPD(Flat Panel Display:フラットパネルディスプレイ)などの装置において、表示部を保護するために、可視光が透過可能なカバーガラスが設けられている。カバーガラスは、それらを介して表示を視認するため、透過率が高いことが求められる。また、外光が反射されることによる映りこみが少ないことが望ましい。
カバーガラスの素材の屈折率が高いことに起因して反射率が高いことを改善するために、カバーガラスの表面に、屈折率の低い材料を用いて反射膜をコーティングすることが行われている。カバーガラスは表示部を保護するためのものであるため、反射膜の最表面は、硬度が高く耐磨耗性に優れることが必要である。特許文献1には、最表面に硬度が高く耐磨耗性に優れる素材としてSiO2を被覆した反射防止膜が開示されている。
【0003】
【特許文献1】特開2004−271480号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、SiO2膜の硬度は800Hvから1000Hv程度であり、耐磨耗性が必ずしも充分ではないという課題があった。例えば腕時計のカバーガラスに用いられるサファイヤガラスの硬度は1800Hv程度であり、反射防止膜を形成することによって耐磨耗性を劣化させることを抑制するためには、サファイヤガラスに形成する反射防止膜の硬度は、1800Hvより高いことが好ましい。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0006】
[適用例1]本適用例にかかる反射防止膜は、可視光が透過可能な部材の表面に形成された反射防止膜であって、前記反射防止膜の最表面を構成する膜が、Cを添加したSiO2であるC−SiO2膜であることを特徴とする。
【0007】
この反射防止膜によれば、最表面がC−SiO2膜となる。本願の発明者は、Cを添加することによってSiO2の硬度を高くさせることが可能であることを見出した。SiO2膜は、屈折率が低いため、反射率が低いことが知られている。反射防止膜の最表面をC−SiO2膜とすることで、最表面の硬度が高いことから耐磨耗性に優れると共に、最表面層の屈折率が低いことから反射率が低い反射防止膜を形成することができる。
【0008】
[適用例2]上記適用例にかかる反射防止膜は、前記C−SiO2膜と、In23、Nd23、Sb23、CeO2、ZnS、Bi23、HfO2、Ta25、TiO2、Si34、ZrO2、AlNのいずれかからなる膜と、を備えることが好ましい。
【0009】
この反射防止膜によれば、In23、Nd23、Sb23、CeO2、ZnS、Bi23、HfO2、Ta25、TiO2、Si34、ZrO2、AlNのいずれかからなる膜の上にC−SiO2膜が形成された2層構造を有する。これにより、単層のC−SiO2膜に比べて反射率をさらに低くすることができる。
【0010】
[適用例3]上記適用例にかかる反射防止膜は、前記C−SiO2膜と、Al23、LaF3、NdF3、CeF3、MgO、ThO2、SnO2、La23、SiO、In23、Nd23、Sb23、CeO2、ZnS、Bi23、HfO2、Ta25、TiO2、Si34、ZrO2、AlNのいずれかからなる2層以上の膜と、を備えることが好ましい。
【0011】
この反射防止膜によれば、Al23、LaF3、NdF3、CeF3、MgO、ThO2、SnO2、La23、SiO、In23、Nd23、Sb23、CeO2、ZnS、Bi23、HfO2、Ta25、TiO2、Si34、ZrO2、AlNのいずれかからなる2層以上の膜の上にC−SiO2膜が形成された3層以上の膜からなる構造を有する。これにより、単層のC−SiO2膜に比べて反射率をさらに低くすることができる。
【0012】
[適用例4]本適用例にかかる反射防止膜の形成方法は、可視光が透過する部材の表面に反射防止膜を形成する反射防止膜の形成方法であって、前記反射防止膜の最表面を構成する膜として、Cを添加したSiO2であるC−SiO2膜を形成する最表面形成工程を有することを特徴とする。
【0013】
この反射防止膜の形成方法によれば、形成される反射防止膜の最表面がC−SiO2膜となる。本願の発明者は、Cを添加することによってSiO2の硬度を高くさせることが可能であることを見出した。SiO2膜は、屈折率が低いため、反射率が低いことが知られている。反射防止膜の最表面をC−SiO2膜とすることで、最表面の硬度が高いことから耐磨耗性に優れると共に、最表面層の屈折率が低いことから反射率が低い反射防止膜を形成することができる。
【0014】
[適用例5]上記適用例にかかる反射防止膜の形成方法であって、前記最表面形成工程において、前記C−SiO2膜を、ECRプラズマスパッタ装置によって形成することが好ましい。
【0015】
この反射防止膜の形成方法によれば、ECR(Electron Cyclotron Resonance:電子サイクロトロン共鳴)プラズマ励起方式を用いたプラズマスパッタ装置を用いて、最表面のC−SiO2膜が形成される。ECRプラズマスパッタ装置を用いることで、他の方法で形成した膜に比べて密度の高い膜を形成することができる。ECRプラズマスパッタ装置を用いて最表面のC−SiO2膜を形成することによって、他の方法で形成したC−SiO2膜に比べて硬度が高いC−SiO2膜を形成することができる。
【0016】
[適用例6]上記適用例にかかる反射防止膜の形成方法であって、前記最表面形成工程において、SiCをターゲットとして、雰囲気中のOと反応させることによって前記C−SiO2膜を形成することが好ましい。
【0017】
この反射防止膜の形成方法によれば、プラズマがターゲットに衝突することによって放出されたSi及びCのスパッタ粒子と雰囲気中のOとが反応することによって、均一なC−SiO2膜を形成することができる。
【0018】
[適用例7]本適用例にかかる透光部材は、可視光が透過可能な透光部材であって、最表面を構成する膜がCを添加したSiO2であるC−SiO2膜である反射防止膜を備えることを特徴とする。
【0019】
この透光部材によれば、透光部材に形成された反射防止膜の最表面がC−SiO2膜となる。本願の発明者は、Cを添加することによってSiO2の硬度を高くさせることが可能であることを見出した。SiO2膜は、屈折率が低いため、反射率が低いことが知られている。反射防止膜の最表面をC−SiO2膜とすることで、最表面の硬度が高いことから耐磨耗性に優れると共に、最表面層の屈折率が低いことから反射率が低い反射防止膜を形成することができる。これにより、耐磨耗性に優れると共に、反射率が低い反射防止膜を有する透光部材を形成することができる。
【0020】
[適用例8]上記適用例にかかる透光部材において、前記反射防止膜は、前記C−SiO2膜と、In23、Nd23、Sb23、CeO2、ZnS、Bi23、HfO2、Ta25、TiO2、Si34、ZrO2、AlNのいずれかからなる膜と、を備えることが好ましい。
【0021】
この透光部材によれば、透光部材が備える反射防止膜は、In23、Nd23、Sb23、CeO2、ZnS、Bi23、HfO2、Ta25、TiO2、Si34、ZrO2、AlNのいずれかからなる膜の上にC−SiO2膜が形成された2層構造を有することで、単層のC−SiO2膜に比べて反射率を低くすることができる。このため、反射率が低い反射防止膜を有することで反射率が低い透光部材を実現することができる。
【0022】
[適用例9]上記適用例にかかる透光部材において、前記反射防止膜は、前記C−SiO2膜と、Al23、LaF3、NdF3、CeF3、MgO、ThO2、SnO2、La23、SiO、In23、Nd23、Sb23、CeO2、ZnS、Bi23、HfO2、Ta25、TiO2、Si34、ZrO2、AlNのいずれかからなる2層以上の膜と、を備えることが好ましい。
【0023】
この透光部材によれば、透光部材が備える反射防止膜は、Al23、LaF3、NdF3、CeF3、MgO、ThO2、SnO2、La23、SiO、In23、Nd23、Sb23、CeO2、ZnS、Bi23、HfO2、Ta25、TiO2、Si34、ZrO2、AlNのいずれかからなる2層以上の膜の上にC−SiO2膜が形成された3層以上の膜からなる構造を有することで、単層のC−SiO2膜に比べて反射率を低くすることができる。このため、反射率が低い反射防止膜を有することで反射率が低い透光部材を実現することができる。
【0024】
[適用例10]本適用例にかかるフラットパネルディスプレイは、上記適用例にかかる透光部材が、表示部のカバーガラスとして用いられていることを特徴とする。
【0025】
このフラットパネルディスプレイによれば、上記適用例にかかる透光部材をカバーガラスとして用いることによって、耐磨耗性に優れると共に、反射率が低い表示部のカバーガラスを有するフラットパネルディスプレイを構成することができる。
【0026】
[適用例11]本適用例にかかる眼鏡は、上記適用例にかかる透光部材が、眼鏡レンズとして用いられていることを特徴とする。
【0027】
この眼鏡によれば、上記適用例にかかる透光部材を眼鏡レンズとして用いることによって、耐磨耗性に優れると共に、反射率が低い眼鏡レンズを備えた眼鏡を構成することができる。
【0028】
[適用例12]本適用例にかかる時計は、上記適用例にかかる透光部材が、表示部のカバーガラスとして用いられていることを特徴とする。
【0029】
この時計によれば、上記適用例にかかる透光部材を表示部のカバーガラスとして用いることによって、耐磨耗性に優れると共に、反射率が低い表示部のカバーガラスを備えた時計を構成こすることができる。
【0030】
[適用例13]上記適用例にかかる時計は、サファイヤガラス上に前記反射防止膜が形成されていることが好ましい。
【0031】
この時計によれば、輝きが良く透明度の高いサファイヤガラスに、反射率が低い反射防止膜を形成することで、視認性に優れるカバーガラスを形成し、表示部の視認性に優れる時計を構成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、反射防止膜、反射防止膜の形成方法、及び透光部材の一実施形態について図面を参照して、説明する。実施形態は、透光部材の一例である時計用のカバーガラスを例に説明する。
【0033】
<2層反射防止膜>
最初に、表層がC−SiO2膜である2層構造の反射防止膜について、図1を参照して説明する。図1(a)は、C−SiO2膜を有する2層構造の反射防止膜が形成されたカバーガラスの断面を示す模式図であり、図1(b)は、C−SiO2膜を有する2層構造の反射防止膜の特性を示す表である。
【0034】
図1(a)に示すように、カバーガラス2は、サファイヤガラス10の表面に、反射防止膜20が形成されている。反射防止膜20は、表層膜21及び第2層膜22の、2層の膜を有している。図1(a)に示した反射防止膜20の第2層膜22は、ZrO2からなり、厚さが約122.2nmである。反射防止膜20の表層膜21は、C−SiO2からなり、厚さが約85.3nmである。
表層膜21及び第2層膜22の膜厚は、当該膜の一方の面で反射した光ともう一方の面で反射した光とが1/2波長ずれるような厚さに設定することが好ましい。表層膜21及び第2層膜22の膜厚は、C−SiO2又はZrO2の屈折率を考慮して、可視光の波長領域のほぼ中央の波長である600nmの光において、反射防止膜として好ましい厚さに設定してある。
【0035】
図1(b)に示すように、表層膜21としC−SiO2からなる膜を有する2層構造の反射防止膜20を備えたカバーガラス2は、表層膜21の屈折率が1.52であり、硬度が1800Hvである。反射率は、1.2%であった。
表層膜としてSiO2の膜を有する2層構造の反射防止膜を備えたカバーガラスは、表層膜の屈折率が1.46であり、硬度が800Hvである。反射率は、0.8%であった。800Hvの硬度は、カバーガラスとしては、必要な最低限度の硬度である。表層膜としてAl23の膜を有する2層構造の反射防止膜を備えたカバーガラスは、表層膜の屈折率が1.63であり、硬度が2400Hvである。反射率は、3.0%であった。3.0%の反射率は、カバーガラスの反射率としては、好ましくない反射率である。
カバーガラス2は、反射防止膜20の表層膜21の材料をSiO2にCを添加したC−SiO2膜にすることによって、反射防止膜の表層膜の材料がSiO2である反射防止膜に比べて、表層膜21の硬度が高くなり、1800Hvになっている。カバーガラス2の表層膜21の硬度1800Hvは、サファイヤガラスの硬度1800Hvと同等であり、直接触れられる可能性が高いことから、FPDなどより硬度が高いことが必要である腕時計用のカバーガラスとしても充分な硬度である。反射率は1.2%になっているが、1.2%の反射率は、カバーガラスの反射率として低い反射率である。
反射率は、分光光度計を用いて、400nmから800nmの波長の光について、入射角5°における反射光の強度を測定し、視感感度補正をかけて求めた。
【0036】
<3層反射防止膜>
次に、表層がC−SiO2膜である3層構造の反射防止膜について、図2を参照して説明する。図2(a)は、C−SiO2膜を有する3層構造の反射防止膜が形成されたカバーガラスの断面を示す模式図であり、図2(b)は、C−SiO2膜を有する3層構造の反射防止膜の特性を示す表である。
【0037】
図2(a)に示すように、カバーガラス3は、サファイヤガラス10の表面に、反射防止膜30が形成されている。反射防止膜30は、表層膜31、第2層膜32、及び第3層膜33の、3層の膜を有している。図2(a)に示した反射防止膜30の第3層膜33は、ThO2からなり、厚さが約81.5nmである。第2層膜32は、TiO2からなり、厚さが約117.8nmである。反射防止膜30の表層膜31は、C−SiO2からなり、厚さが約85.0nmである。
表層膜31、第2層膜32、及び第3層膜33の膜厚は、当該膜の一方の面で反射した光ともう一方の面で反射した光とが1/2波長ずれるような厚さに設定することが好ましい。表層膜31、第2層膜32、及び第3層膜33の膜厚は、C−SiO2、TiO2又はThO2の屈折率を考慮して、可視光の波長領域のほぼ中央の波長である600nmの光において、反射防止膜として好ましい厚さに設定してある。
【0038】
図2(b)に示すように、表層膜31としてC−SiO2の膜を有する3層構造の反射防止膜30を備えたカバーガラス3は、表層膜31の屈折率が1.52であり、硬度が1800Hvである。反射率は、0.6%であった。表層膜としてSiO2の膜を有する3層構造の反射防止膜を備えたカバーガラスは、表層膜の屈折率が1.46であり、硬度が800Hvである。反射率は、0.5%であった。800Hvの硬度は、カバーガラスとしては、必要な最低限度の硬度である。表層膜としてAl23の膜を有する3層構造の反射防止膜を備えたカバーガラスは、表層膜の屈折率が1.63であり、硬度が2400Hvである。反射率は、2.0%であった。2.0%の反射率は、カバーガラスの反射率としては、許容可能な最低限度の反射率である。
カバーガラス3は、反射防止膜30の表層膜31の材料をSiO2にCを添加したC−SiO2膜にすることで、反射防止膜の表層膜の材料がSiO2である反射防止膜に比べて、表層膜31の硬度が高くなり、1800Hvになっている。カバーガラス3の表層膜31の硬度1800Hvは、サファイヤガラスの硬度1800Hvと同等であり、直接触れられる可能性が高いことから、FPDなどより硬度が高いことが必要である腕時計用のカバーガラスとしても充分な硬度である。反射率は0.6%になっているが、0.6%の反射率は、カバーガラスの反射率として充分低い反射率である。
反射率は、分光光度計を用いて、400nmから800nmの波長の光について、入射角5°における反射光の強度を測定し、視感感度補正をかけて求めた。
【0039】
<C−SiO2膜の形成>
次に、C−SiO2膜の形成方法について、図3及び図4を参照して説明する。ここでは、ECR(Electron Cyclotron Resonance:電子サイクロトロン共鳴)プラズマ励起方式を用いたECRプラズマスパッタ装置を用いてC−SiO2膜を形成する場合について説明する。
【0040】
図3は、ECRプラズマスパッタ装置の構成を示す模式図である。図3に示すように、ECRプラズマスパッタ装置50は、成膜する基材を載置する載置台56が中に配設されたチャンバ51を備えている。チャンバ51の一端には、載置台56に臨むようにECRプラズマ源52が配設されている。ECRプラズマ源52から載置台56方向の空間に発生する電場に直交する磁場を形成できる位置に磁石54が配設されている。磁石54の載置台56の側には、ターゲット台が設けてあり、ターゲット40がセットされる。ターゲット40には、ターゲット電源55によって負のバイアス電圧が印加される。チャンバ51には、チャンバ51内に反応気体を導入するための気体導入路57と、チャンバ51内から反応済みの反応気体を排出するための排気路58と、が結合されている。
【0041】
SiO2膜の形成は、図3に示すように、載置台56に、サファイヤガラス10、又は第2層膜22又は第2層膜32などが形成されたサファイヤガラス10をセットする。ターゲット40としては、SiCを用いる。気体導入路57から、O2をチャンバ51内に導入する。
ECRプラズマ源52から発生されたマイクロ波と、磁石54によって形成された磁場とによる電子サイクロトロン共鳴によって、ECRプラズマが発生する。ターゲット40としてのSiCに印加されたバイアス電圧によって、プラズマがターゲット40に衝突して、SiやCのスパッタ粒子が放出される。SiやCのスパッタ粒子は、チャンバ51内に導入されているO2ガスと反応して、載置台56にセットされたサファイヤガラス10などの表面に到達して付着し、C−SiO2膜が形成される。
【0042】
図4は、形成されたC−SiO2の膜の特性を示す表である。図4に示したように、ECRプラズマスパッタ装置50を用いて形成したC−SiO2膜は、屈折率が1.53であり、硬度が2200Hvである。反応性蒸着を用いて形成したC−SiO2膜は、屈折率が1.46であり、硬度が1200Hvであり、ECRプラズマスパッタを用いることで、硬度の改善がみられる。
RFリアクティブスパッタによるC−SiO2膜は、屈折率が1.52であり、硬度が1800Hvである。RFリアクティブスパッタによっても、低屈折率で、高硬度の膜が得られる。
【0043】
以上、添付図面を参照して好適な実施形態について説明したが、好適な実施形態は、前記実施形態に限らない。要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論であり、以下のように実施することもできる。
【0044】
(変形例1)前記実施形態においては、反射防止膜20の第2層膜22は、ZrO2からなる膜であったが、表層膜がC−SiO2からなる膜である2層構造の反射防止膜において、第2層膜がZrO2からなる膜であることは必須ではない。2層構造の反射防止膜においては、反射防止膜の反射率を低くするために、表層膜と第2層膜と基材とのそれぞれの屈折率が、この順番で「低」、「高」、「中」の関係になることが好ましい。第2層膜の材料としては、表層膜のC−SiO2膜、及び基材に対して、この屈折率の関係を保てる屈折率であって、可視光に対して透明な膜を形成可能な材料であればよい。このような材料としては、例えば、In23、Nd23、Sb23、CeO2、ZnS、Bi23、HfO2、Ta25、TiO2、Si34、AlNなどが挙げられる。
【0045】
(変形例2)前記実施形態においては、反射防止膜30の第2層膜32は、TiO2からなる膜であり、第3層膜33は、ThO2からなる膜であったが、表層膜がC−SiO2である3層構造の反射防止膜において、第2層膜がTiO2からなる膜であり、第3層膜がThO2からなる膜であることは必須ではない。3層構造の反射防止膜においては、反射防止膜の反射率を低くするために、表層膜と第2層膜と第3層膜と基材とのそれぞれの屈折率が、この順番で「低」、「高」、「中」、「中」の関係になることが好ましい。第2層膜及び第3層膜の材料としては、表層膜のC−SiO2膜及び基材に対して、この屈折率の関係を保てる屈折率であって、可視光に対して透明な膜を形成可能な材料であればよい。このような材料としては、例えば、Al23、LaF3、NdF3、CeF3、MgO、SnO2、La23、SiO、In23、Nd23、Sb23、CeO2、ZnS、Bi23、HfO2、Ta25、Si34、ZrO2、AlNなどが挙げられる。
【0046】
(変形例3)前記実施形態においては、2層構造の反射防止膜20及び3層構造の反射防止膜30について説明したが、表層膜がC−SiO2からなる反射防止膜が2層構造又は3層構造であることは必須ではない。反射防止膜は、C−SiO2の単層膜であってもよい。また、4層以上の膜が積層した反射防止膜であってもよい。4層以上の膜が積層した反射防止膜の第2層膜以降の各膜を形成する好適な材料としては、例えば、Al23、LaF3、NdF3、CeF3、MgO、ThO2、SnO2、La23、SiO、In23、Nd23、Sb23、CeO2、ZnS、Bi23、HfO2、Ta25、TiO2、Si34、ZrO2、AlNなどが挙げられる。
【0047】
(変形例4)前記実施形態においては、反射防止膜20が形成された時計用のカバーガラス2及び反射防止膜30が形成された時計用のカバーガラス3について説明したが、反射防止膜を形成する対象は時計用のカバーガラスに限らない。FPDにおける表示部を保護するためのカバーガラスや、眼鏡レンズや、車の窓ガラスや、各種計測器における表示部を保護するためのカバーガラスにおいても、上述したような、表層膜がC−SiO2からなる膜を形成することで、好適な反射防止膜を形成することができる。
【0048】
(変形例5)前記実施形態においては、カバーガラス2及びカバーガラス3の基材はサファイヤガラスであったが、反射防止膜を形成する基材がサファイヤガラスであることは必須ではない。時計のカバーガラスや、FPDの表示部のカバーガラスや、眼鏡レンズや、車の窓ガラスや、各種計測器の表示部のカバーガラスとして用いられる各種材料においても、上述したような、表層膜がC−SiO2からなる膜を形成することで、好適な反射防止膜を形成することができる。
【0049】
(変形例6)前記実施形態においては、カバーガラス2又はカバーガラス3において、反射防止膜20又は反射防止膜30を、それぞれサファイヤガラス10の片面に形成していたが、反射防止膜を形成するのはカバーガラスの基材の片面のみに限らない。基材の両面にそれぞれ反射防止膜を形成してもよい。透光部材の基材の両面に反射防止膜を形成することによって、より透過率が高い透光部材を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】(a)は、C−SiO2膜を有する2層構造の反射防止膜が形成されたカバーガラスの断面を示す模式図。(b)は、C−SiO2膜を有する2層構造の反射防止膜の特性を示す表。
【図2】(a)は、C−SiO2膜を有する3層構造の反射防止膜が形成されたカバーガラスの断面を示す模式図。(b)は、C−SiO2膜を有する3層構造の反射防止膜の特性を示す表。
【図3】ECRプラズマスパッタ装置の構成を示す模式図。
【図4】形成されたC−SiO2の膜の特性を示す表。
【符号の説明】
【0051】
2,3…カバーガラス、10…サファイヤガラス、20,30…反射防止膜、21,31…表層膜、22,32…第2層膜、33…第3層膜、40…ターゲット、50…ECRプラズマスパッタ装置、52…ECRプラズマ源、54…磁石、57…気体導入路、58…排気路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可視光が透過可能な部材の表面に形成された反射防止膜であって、前記反射防止膜の最表面を構成する膜が、Cを添加したSiO2であるC−SiO2膜であることを特徴とする反射防止膜。
【請求項2】
前記C−SiO2膜と、In23、Nd23、Sb23、CeO2、ZnS、Bi23、HfO2、Ta25、TiO2、Si34、ZrO2、AlNのいずれかからなる膜と、を備えることを特徴とする請求項1に記載の反射防止膜。
【請求項3】
前記C−SiO2膜と、Al23、LaF3、NdF3、CeF3、MgO、ThO2、SnO2、La23、SiO、In23、Nd23、Sb23、CeO2、ZnS、Bi23、HfO2、Ta25、TiO2、Si34、ZrO2、AlNのいずれかからなる2層以上の膜と、を備えることを特徴とする請求項1に記載の反射防止膜。
【請求項4】
可視光が透過する部材の表面に反射防止膜を形成する反射防止膜の形成方法であって、
前記反射防止膜の最表面を構成する膜として、Cを添加したSiO2であるC−SiO2膜を形成する最表面形成工程を有することを特徴とする反射防止膜の形成方法。
【請求項5】
前記最表面形成工程において、前記C−SiO2膜を、ECRプラズマスパッタ装置によって形成することを特徴とする、請求項4に記載の反射防止膜の形成方法。
【請求項6】
前記最表面形成工程において、SiCをターゲットとして、雰囲気中のOと反応させることによって前記C−SiO2膜を形成することを特徴とする、請求項5に記載の反射防止膜の形成方法。
【請求項7】
可視光が透過可能な透光部材であって、
最表面を構成する膜がCを添加したSiO2であるC−SiO2膜である反射防止膜を備えることを特徴とする透光部材。
【請求項8】
前記反射防止膜は、前記C−SiO2膜と、In23、Nd23、Sb23、CeO2、ZnS、Bi23、HfO2、Ta25、TiO2、Si34、ZrO2、AlNのいずれかからなる膜と、を備えることを特徴とする、請求項7に記載の透光部材。
【請求項9】
前記反射防止膜は、前記C−SiO2膜と、Al23、LaF3、NdF3、CeF3、MgO、ThO2、SnO2、La23、SiO、In23、Nd23、Sb23、CeO2、ZnS、Bi23、HfO2、Ta25、TiO2、Si34、ZrO2、AlNのいずれかからなる2層以上の膜と、を備えることを特徴とする、請求項7に記載の透光部材。
【請求項10】
請求項7乃至9のいずれか一項に記載の透光部材が、表示部のカバーガラスとして用いられていることを特徴とする、フラットパネルディスプレイ。
【請求項11】
請求項7乃至9のいずれか一項に記載の透光部材が、眼鏡レンズとして用いられていることを特徴とする、眼鏡。
【請求項12】
請求項7乃至9のいずれか一項に記載の透光部材が、表示部のカバーガラスとして用いられていることを特徴とする、時計。
【請求項13】
前記透光部材は、サファイヤガラス上に前記反射防止膜が形成されていることを特徴とする、請求項12に記載の時計。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2009−116220(P2009−116220A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−291610(P2007−291610)
【出願日】平成19年11月9日(2007.11.9)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】