説明

反応器システム

【課題】接触気相酸化反応に好適な反応器システムを提供する。
【解決手段】遮断板で仕切られた複数のチャンバーを形成する反応器と、該チャンバーから導出された熱媒を収納する手段と、該収納手段から導出された熱媒を加熱する加熱手段、および加熱手段によって昇温した熱媒を少なくとも1つのチャンバーに供給する反応器システムであって、
該収納手段が各チャンバーの熱媒の少なくとも一部を収納できる1つのタンクであり、該タンクの容量が各チャンバー内を循環する熱媒量よりも小さいことを特徴とする反応器システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反応器システムに関し、より詳細には、接触気相酸化反応により(メタ)アクリル酸および/または(メタ)アクロレインを製造する際の反応器システムに関する。
【背景技術】
【0002】
アクリル酸は、アクリル繊維共重合体用、あるいはエマルションとして粘接着剤に用いられる他、塗料、繊維加工、皮革、建築用材等として用いられ、その需要は拡大している。このため、安価な原料を使用して大型化を可能とし、しかも環境汚染の少ないプロセスの開発が求められており、プロピレン等の接触気相酸化反応によって製造されることが一般的である。
【0003】
このようなアクリル酸等の接触気相酸化反応は発熱反応であり、発熱反応を一定温度に維持するため、通常は熱媒をポンプによって循環させて反応管を冷却し、次いで循環路に接続させた冷却器で該熱媒を冷却する。
【0004】
しかしながら、このような反応器による接触気相酸化反応のスタートアップ時には、原料ガス供給前に、反応を促進させるのに適する温度にするために、あらかじめ反応器を予熱する必要がある。従って、このようなスタートアップ時のみの加熱手段として、いわゆる多管式反応器において、反応器の外側に付加的に加熱装置を設けて反応管管束の端部の範囲でこの反応器と接続させ、この接続箇所に複合閉鎖−調整機構を設けた反応器が、特許文献1に開示されている。
【0005】
一方、この様な反応器に使用される熱媒には、有機熱媒体、溶融塩、溶融金属などがある。有機熱媒体が広く使用されているが、熱安定性の観点から350℃以上の高温での使用には問題があるため、一般には350〜550℃の温度範囲で使用する熱媒として、溶融塩(通称、ナイター)が多用されている。
【0006】
このナイターの組成には、亜硝酸ナトリウム43%、硝酸ナトリウム7%、硝酸カリウム53%の混合物や、亜硝酸ナトリウム50%、硝酸カリウム50%の混合物等があり、前者の凝固点は142℃である。ナイターは、混合比が変化すると凝固点が上昇し、またはナイターの使用中に亜硝酸が分解や酸化によって硝酸ナトリウムに変化してもその凝固点が上昇することが知られている。このため、一般にこのようなナイターを熱媒として使用する反応器は、熱媒の凝固温度を180℃と想定して設計されることが多い。
【0007】
例えば、プロピレンなどを接触気相酸化触媒によって酸化反応させる場合は、反応温度が熱媒の凝固点より高く、発熱反応であるため常温で固体のナイターが溶解状態を維持し、反応器内を容易に循環できる。しかしながらスタートアップ時の反応器は、熱媒の凝固温度よりも低いため、反応器を昇温して反応器内の熱媒を溶融状態にする必要がある。
【0008】
ここに図1に無水フタル酸、無水マレイン酸、アクリル酸、メタクリル酸などの製造に使用される大型の反応装置と熱媒の循環経路の模式図を示す。この反応装置を用いてアクリル酸を製造する場合のスタートアップ時の熱媒の流れは、以下の様に説明できる。なお、101は反応器、102軸流ポンプ、103は蒸気発生器、103’はボイラ用水、103”はスチーム、104、106はヒーター、105は熱媒タンク、107はポンプである。また、熱媒としてナイターを使用する場合には、ナイターが常温で固体であるため反応器使用後にナイターを反応器から排出させて熱媒タンクに収納させる場合が多く、このような場合のスタートアップ方法を説明する。
【0009】
まず、熱媒タンク105に収納された熱媒をスチームを導通させたヒーター104によって加熱し熱媒を融解させる。ポンプ107によって反応器101に熱媒を供給し、軸流ポンプ102で反応器の管外流体側に循環させ、その後、電気ヒーター106で熱媒の昇温を開始する。蒸気発生器103は、熱媒を昇温しすぎた場合の冷却や、原料ガス投入後の反応熱の除熱に用いる。
【0010】
なお、反応器のスタートアップ時に熱媒としてナイターを使用する場合には、図1のように電気ヒーター106で反応器101自体を昇温してもよいし、上記のように電気ヒーターで昇温した熱媒を反応器101に供給してもよい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特公昭51−28068号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかし、上記特許文献1に記載の様に、単に外づけの加熱器を用いて熱媒を循環させても伝熱管内部は十分に昇温されない。このため、特に接触気相酸化反応のスタートアップ時には熱媒の循環に長時間を必要とし、反応を通常状態に移行させるのに長時間が必要となる。
【0013】
また、熱媒は温度によって密度が異なるため、反応率やこれに基づく反応熱の発生量の変化に応じてその全容積が変動する。しかしながら、従来は熱媒の密度変化に応じた容積量の変化を緩和できる手段は何等施されておらず、むしろ耐圧性の装置を使用するにとどまっていた。
【0014】
特に、製造目的化合物がアクリル酸である場合には、プロピレンを原料としてアクロレインを得て、次いでアクロレインからアクリル酸を得るなど、2段の反応を行わせる場合がある。このような場合には、プロピレンからアクロレインを製造する第1反応を第1の反応器で、アクロレインからアクリル酸を製造する第2の反応を第2の反応器を使用して行わせる他に、遮蔽板によって第1チャンバーと第2チャンバーとに分けた反応器を用いて、第1のチャンバーで第1反応を、第2のチャンバーで第2反応を行わせる場合がある。いずれにしても、複数の反応形式を組み合わせる製造工程においては、至適な反応器の温度条件を確保するために、別個の熱媒加熱器を付属させる必要があり、設備設計上不経済であると共に、作業環境も複雑なものとなりやすい。その一方、通常状態で発熱反応を行わせる場合には、熱媒は反応器外で冷却して循環使用させるため、スタートアップ時以外には使用されない加熱器は、過剰設備となる。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は、接触気相酸化反応に使用する反応器のスタートアップ方法を詳細に検討した結果、昇温したガスを反応管側から供給すると共に加熱した熱媒を反応器に供給すると、極めて効率的に反応器を接触気相酸化反応に至適の温度条件とするこができ、そのような反応器システムとして、特定の熱媒収納手段と加熱手段とを特定に配管することで、1の加熱器で極めて効率的に反応器を昇温することができることを見出し、本発明を完成させた。すなわち、上記課題は、以下の(1)〜(5)によって達成される。
【0016】
(1) 遮断板で仕切られた複数のチャンバーを形成する反応器と、該チャンバーから導出された熱媒を収納する手段と、該収納手段から導出された熱媒を加熱する加熱手段、および加熱手段によって昇温した熱媒を少なくとも1つのチャンバーに供給する反応器システムであって、
該収納手段が各チャンバーの熱媒の少なくとも一部を収納できる1つのタンクであり、該タンクの容量が各チャンバー内を循環する熱媒量よりも小さいことを特徴とする反応器システム。
【0017】
(2) 該反応器が、反応管側へ導入する加熱用ガスに加熱手段を有することを特徴とする前記(1)記載の反応器システム。
【0018】
(3) 更に、反応器に導入する熱媒配管が反応器の上部環状導管またはこれより上部から接続することを特徴とする前記(1)または(2)記載の反応器システム。
【0019】
(4) 反応器と、該チャンバーから導出された熱媒を収納する手段と、該収納手段から導出された熱媒を加熱する加熱手段、および加熱手段によって昇温した熱媒を少なくとも1つのチャンバーに供給する反応器システムであって、
該収納手段が各チャンバーの熱媒の少なくとも一部を収納できる1つのタンクであり、該タンクの容量が各チャンバー内を循環する熱媒量よりも小さく、かつ、反応器に導入する熱媒配管が反応器の上部環状導管またはこれより上部から接続されることを特徴とする反応器システム。
【0020】
(5) (メタ)アクリル酸および/または(メタ)アクロレインを製造するための請求項1〜4のいずれかに記載の反応器システム。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、反応器の昇温時間を短縮して、スタートアップ時間を短縮することができる。特に、本発明のスタートアップ方法は、(メタ)アクリル酸などの二段階接触気相酸化反応のように、異なる温度範囲を有する反応器に循環させる熱媒を1基の電気ヒーターを接続させるだけで効率よく昇温し、これによって反応器のスタートアップ時間を短縮させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】従来の反応器システムおよび熱媒循環経路を示す模式図である。
【図2】本発明の反応器スタートアップ方法の概略を示す工程図である。
【図3】実施例1のスタートアップ方法を行った場合の、各チャンバーの温度変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の第一は、管外流体側に凝固点50〜250℃の熱媒を循環させる多管式反応器において、反応管側に温度100〜400℃のガスを導入して昇温を開始し、次いで加温した熱媒を管外流体側に循環させることを特徴とする、反応器のスタートアップ方法である。
【0024】
熱媒を反応器内で循環させるためには、熱媒を凝固点以上の温度に維持して流動性を確保する必要があり、従来は反応器外で加熱した熱媒を反応器に循環させていた。しかしながら加熱した熱媒を循環させるのみでは反応器の昇温に長時間を要し、熱媒の一部が冷却するために凝固物を発生させる場合もあった。本発明では、反応器に熱媒を供給するに先立ち、昇温したガスを反応管に供給して予め反応器内の温度を凝固点以上に確保した後に熱媒を循環させることで、熱媒の再凝固を防止し、反応器の昇温時間を短縮させる、スタートアップ方法を提供するものである。以下、本発明を詳細に説明する。
【0025】
本発明で使用する多管式反応器としては特に制限はなく、公知のいずれの反応器をも使用することができる。一般的には、反応器シェルの上下に管板を設け、該管板に両端を拘持させた複数の反応管を内蔵すると共に、反応管内で発生した熱を除去するために、反応器シェルに管外流体の導入口および導出口とを有するものである。また、本発明では、さらに反応器シェル内部を複数のチャンバーに仕切る遮断板を内蔵してもよい。
【0026】
管外流体として使用する熱媒は凝固点50〜250℃のものであれば特に制限はない。一般には、凝固点50〜250℃、より好ましくは100〜200℃、特に好ましくは130〜180℃である。本発明は、常温で固体状の熱媒を循環使用する場合の、スタートアップとして好ましいからである。
【0027】
このような凝固点を有する熱媒としてはナイターがある。化学反応の温度コントロールに使用される熱媒のうちで熱安定性に優れ、特に温度350〜550℃の高温における熱交換に最も優れた安定性を有する点で特に好ましい。
【0028】
ナイターはいわゆる溶融塩であり、種々の組成を構成し凝固点も異なる。本発明ではいずれの組成であっても、上記凝固点を有するものであれば好適に使用できる。このようなナイターに使用される化合物としては、硝酸ナトリウム、亜硝酸ナトリウム、硝酸カリウムがあり、これらを単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。
【0029】
また、反応管側に導入するガスとしては、反応管に内蔵した触媒や原料ガスと混合しても影響を与えないものであれば特に制限はない。従って、反応管に充填する触媒や供給する原料ガスの種類によっても異なるが、一般には空気や二酸化炭素、窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガスを好適に使用できる。
【0030】
本発明のスタートアップ方法の好ましい態様を図2を用いて説明する。図2において、10はブロワー、21、22、23はヒーター、31,32はタンク、41,42,43,44はポンプ、50は反応器、51は第1チャンバー、52は第2チャンバー、L1、L2、L3、L4、L5、L6、L7、L11、L12、L13、L20、L21、L23、L30、L31は各熱媒ラインである。タンク31は、反応器使用後の熱媒を回収するタンク(熱媒回収タンク)であり、タンク32は、熱媒を一時的に収納しかつ循環させるための循環タンクである。以下において、反応器50はシングルリアクター(第1チャンバーと第2チャンバーとを有する反応器)であり、昇温ガスと熱媒とは共にアップフローで供給する場合について説明する。
【0031】
まず、必要な触媒を充填した反応管を内蔵する反応器50に、ヒーター21で温度100〜400℃に加熱したガスをブロワー10によって導入する。該ガスは、反応器50の上部管板を経て反応器外に導出させるが、該ガスの導入によって反応器50内部が反応管側から昇温される。反応器内の温度は以降に循環させる熱媒の凝固点以上となっていることが好ましく、使用する熱媒によって適宜選択できる。一般には、反応器出口ガス温度を150〜250℃、より好ましくは160〜240℃、特に好ましくは170〜220℃まで昇温する。使用する熱媒の凝固点が50〜250℃であるため、反応器出口温度が上記範囲であれば、その後に熱媒を供給しても、熱媒の再凝固を生ずることがないからである。なお、供給するガス、熱媒は反応器に対してアップフローに限られずダウンフローで供給してもよい。
【0032】
次いで、反応器50の第1チャンバー51および第2チャンバー52にそれぞれ熱媒を導入し、各チャンバー内で付属するポンプ43、44を用いて熱媒を循環させて、各チャンバー内の温度を上昇させる。このように、第1チャンバー51または第2チャンバー52に加温した熱媒を供給すると、該熱媒温度によって反応器50が反応管の管外流体側から昇温され、先の昇温ガスの供給とあいまって、迅速な反応器の昇温が達成できる。
【0033】
具体的には、常温で固体の熱媒を使用して熱交換を行う場合には、反応器50使用後に熱媒を回収タンク(例えばタンク31)に回収することが多く、このような場合には、反応器内には熱媒が残存せずに、熱媒収納タンク31内に熱媒が収納されている。従って、タンク31内の熱媒が流動性を確保できる程度にヒーター23で加温し、次いで反応器50に導入する。
【0034】
反応器50への熱媒の導入は、タンク31の熱媒をポンプ41を用いてL1を経てタンク32に導入し、次いでタンク32からポンプ42を用いて、第1チャンバーにはL20(またはL30)、L21、L23、L4を経て供給し、第2チャンバーには、L20(またはL30)、L21、L31、L12を経て熱媒を供給する。
【0035】
なお、タンク31の熱媒をタンク32を経ずに、反応器50に直接導入してもよい。第1チャンバー51に熱媒を導入するには、L1、L2、L3、L4を経る。また、第2チャンバー52に熱媒を導入するには、L1、L2、L11、L12を経る。タンク32は熱媒を循環させるために設けられたものであり、反応器使用後の熱媒を回収する熱媒収納タンク31より容積が小さく設定してある。このため、タンク31の熱媒をタンク32に導入し、次いでこれを各チャンバーに導入させると、タンク32の液面を観察しタンク31から熱媒を導入しつつ、各チャンバーに熱媒を導出する必要があり、タンク32の液面の管理が煩雑である。このため、反応器のスタートアップ時に各チャンバーに熱媒を初めて導入する場合には、タンク32を経ずに直接タンク31から各チャンバーに導入することが簡便である。
【0036】
次いで、反応器に導入された熱媒は、付属するポンプ43、44によって各チャンバー内を循環させるのであるが、当初に加温した熱媒を導入しかつ循環させただけでは反応器内の温度を目的温度に昇温することができない場合がある。反応器自体に温度を奪われ、通常は熱媒温度が低下するからである。このような場合には、チャンバー内で循環する熱媒をチャンバーから導出し加温した後に再度導入する。
【0037】
例えば、各チャンバー内の熱媒は、少なくともその一部がタンク32に導入されるようにタンク32と接続させておき、これをヒーター22で加熱した後にチャバーに循環させる。例えば、第1チャンバーの熱媒をタンク32に循環させるには、L5、L13を経ればよい。また、第2チャンバーの熱媒をタンク32に循環させるには、L6を経て循環させる。タンク31の熱媒は、ポンプ42を用いて、L20を経てヒーター22で昇温すれば、L21、L23、L4またはL21、L31、L12を経て少なくとも1のチャンバーに循環させることで反応器を昇温することができる。なお、タンク32の熱媒をヒーター22を経ずにL30、L21を経てチャンバーに導入すれば加熱しない熱媒をチャンバーに導入することができる。このような熱媒経路の選択は、公知のいかなる方法によってもよい。なお、チャンバー内を循環する熱媒はその全てをタンク32を経て循環させる必要はなく、例えば第2チャンバー52内の熱媒は、該チャンバー内のみを循環させてもよい。
【0038】
また、タンク32内の液面が上昇したときには、L7よりタンク31にオーバーフローする。例えば、各チャンバーから熱媒が流れ込んできたときや、タンク内の温度が上昇したとき、タンク31から熱媒を送る量が多いときにL7を用いる。
【0039】
本発明では熱媒を反応器内に残存させて固化させた場合にも適用できる。すなわち、上記のごとく高温ガスを反応器に導入する結果、反応管内に導入したガスの温度で反応器内に残存する熱媒が流動性を有するようになる。従って、さらに反応器外部に設置したヒーター22で加熱した熱媒を循環させると、この熱量によって反応器50を昇温することができるのである。また、反応器50に循環させる熱媒の温度は特に制限はなく、触媒反応に至適の反応器温度を確保できる温度の熱媒温度を選択することができる。なお、供給するガス、熱媒は反応器に対してアップフローに限られずダウンフローで供給してもよいが、好ましくは、ガスはダウンフローで供給することが有効である。これによって、上部から固化した熱媒が融解していくため、熱媒の流れに重力が加算される結果、速やかに熱媒が溶融し、昇温される。
【0040】
このようにして熱媒の循環によって反応器が必要な温度を確保できた場合は、ヒーター22を停止してスタートアップを終了する。なお、熱媒をヒーター22で加熱した後に反応器50に循環させる場合には熱媒の再凝固のおそれが少ないため、反応管内への昇温ガスの供給を停止することもできる。
【0041】
ここに、昇温ガスの温度と反応器50に循環させる熱媒の温度との関係を説明すると、例えば、反応器50に導入する昇温ガスが熱媒温度より低い場合は、反応器50の昇温の妨げとなるためガスの供給を停止することが好ましい。その一方、ガス温度が高い場合には、熱媒を循環させる際に昇温ガスを導入しつづけても問題ない。しかし反応器50の使用目的以上の温度とする必要はなくむしろ反応を阻害する場合もあるため、至的な温度を選択する。
【0042】
例えば、アクリル酸をシングルリアクターで製造する場合には、通常使用時において第2チャンバーの反応温度が第1チャンバーよりも低いため、第1チャンバーおよび第2チャンバーにそれぞれ至的な温度のガスを供給する必要がある。このような場合には低温側のチャンバー温度に適合するような熱媒温度を各チャンバーに導入し、より高温側のチャンバーのみに加熱した熱媒を循環させれば、熱効率に優れるスタートアップが達成できる。第1チャンバー51が高温側であり、第1チャンバー51のみに、より加熱した熱媒を循環させる場合には、タンク32から導出する熱媒をヒーター22によって加熱し、第1チャンバー51のみに循環させる。この場合、第2チャンバー52に循環させる熱媒は、上述のように、タンク32を循環させずに第2チャンバー52内のみを循環させてもよい。この場合でも、隣接および/または第1チャンバー内を循環する熱媒によって昇温されたガスによって第2チャンバー内の熱媒温度も上昇する。従って、ガスの供給は、第1チャンバー、第2チャンバーの熱媒温度の状況により停止する。
【0043】
本発明では、チャンバーを循環する熱媒を更に加熱して循環させる場合には、この高温側のチャンバーが、第1チャンバー51であっても第2チャンバー52であってもよい。しかしながら、高温側が該ガスの導入口に隣接するものであることが好ましい。該ガスの第1チャンバーで高い反応温度を要求される場合が多いからでである。このようにして、至適の反応器温度に達した後にヒーター22の稼動を停止してスタートアップを終了させる。
【0044】
なお、スタートアップを終了した後は、原料ガスを反応管内に供給して、目的の生成物を製造することができる。
【0045】
本発明のスタートアップ方法は、たとえばアクリル酸、メタクリル酸、アクロレイン、メタクロレインの製造に使用する反応器のスタートアップ方法として特に好ましく使用できる。アクリル酸などは、大量に生産されかつ使用される化合物であり、反応器もこれに応じて大型化する。従って、特に反応器を昇温することが困難だからである。本発明によれば、大型反応器を使用する際の反応器のスタートアップ時の昇温に特に適する。
【0046】
より具体的に、多管式反応器を用いてアクリル酸を製造する場合のスタートアップ方法について図2を用いて具体的に説明する。
【0047】
アクリル酸は、公知の反応器に、プロピレン、プロパンまたはアクロレイン等を原料ガスとして供給し、反応管内に酸化触媒を充填させて該原料ガスを反応管内で接触気相酸化反応させて製造する。一般には、原料ガスに分子状酸素含有ガス、不活性ガスを所定量供給させて接触気相酸化反応を行うが、これによって、たとえば原料ガスにプロピレンを使用するとアクロレインが生成され、次いで、これを更に接触気相酸化反応することでアクリル酸が得られる。
【0048】
該接触気相酸化反応では、反応管が反応熱によって温度250〜450℃に達するため、一般に管外流体として循環させる熱媒に凝固点130〜180℃のナイターを使用する。このため、本発明のスタートアップ方法では、反応管に導入するガスとして、たとえば、目的物製造時の原料ガスに混在させる不活性ガスや分子状酸素含有ガス、たとえば空気などを使用することが好ましい。なお、反応器50が図2に示すように、遮断板によって第1チャンバー51、第2チャンバー52とに仕切られる場合には、各チャンバーに収納する触媒はそれぞれのチャンバーにおける反応に適する触媒が充填され、異なるガス成分が反応管内を移動するものとなる。このため、使用する昇温ガスは、いずれの触媒や成分ガスに対しても安定なものを使用する。反応器昇温後に原料ガス供給しても、原料ガスや反応触媒に与える影響がないからである。
【0049】
このようなガスの温度としては、ナイターの凝固点温度より高い温度に設定したものを反応管内に供給することが好ましい。このようなガスの昇温方法としては、炉で燃料を用いて燃焼させたり、電気ヒーターなどで加熱してもよいが、供給する熱量が大量である場合には、水蒸気を用いてガスを昇温させることが熱経済上好ましい。そして反応器出口温度が、100〜400℃、より好ましくは使用したナイターの凝固点温度と同じかこれより高い温度とする。これによってその後に熱媒を循環させる場合にも、熱媒が再凝固することなく、昇温が迅速に行えると共に、凝固物による機器への影響も少ないからである。本発明では、反応管へのガスの供給は、熱媒の循環を円滑にすることを第一の目的とする。
【0050】
なお、プロピレン含有ガスを二段接触気相酸化反応してアクリル酸を製造するには、前段触媒としてプロピレンを含有する原料ガスを接触気相酸化反応してアクロレインを製造するに一般的に使用される公知の酸化触媒を使用することができる。同様に、後段触媒についても特に制限はなく、二段階接触気相酸化法により前段によって得られる主としてアクロレインを含む反応ガスを気相酸化してアクリル酸を製造するに一般的に用いる酸化触媒を用いることができる。触媒の形状についても特に限定されず、球状、円柱状、円筒状などとすることができる。
【0051】
次いで、予め昇温された反応器に加温した熱媒を供給して反応器内を昇温させ、これによって反応管の内部および外部から反応器を昇温する。
【0052】
熱媒は常温で固体であるため、反応器使用後には熱媒を反応器50から導出して、熱媒を回収するタンク(熱媒回収タンク)31に収納する場合が多い。したがって、タンク31内の熱媒を予めヒーター23で加熱して流動状態を確保した後に付属するポンプ41の圧によって反応器50内に熱媒を導入する。熱媒の導入経路は、上述のようにタンク32を経てもよく、またはタンク31から直接各チャンバーに導入してもよい。
【0053】
各チャンバーに導入された熱媒は、付属するポンプ43,44を使用して循環させるが、これらのポンプは軸流ポンプであることが好ましい。アクリル酸などの反応器は大型であり、熱媒量も多いことから大容量の熱媒を負担なく循環させるためである。なお、使用する熱媒の温度は、熱媒の凝固点以上であって反応管に充填した触媒の至適温度を確保できればよい。
【0054】
次に、反応器50に導入した熱媒は各チャンバーとタンク32とを連結させ、少なくとも各チャンバーの熱媒の一部をタンク32に導入させる。アクリル酸などの反応器は大型であるため熱媒の温度上昇によって変動する熱媒容積量も大きい。したがって、該増加してオーバーフローした熱媒をタンク32に導出させれば、容易に容積変化を緩和することができる。
【0055】
なお、アクリル酸が、プロピレンを原料ガスとしてアクロレインを製造し、次いでアクロレインをさらに酸化してアクリル酸を製造する2段階反応による場合にシングルリアクターを使用すると、各チャンバーで使用する触媒が異なり、反応に至適な反応器内温度も異なる。このような場合には、いずれかのチャンバーのみに加温した熱媒を供給することでより簡便かつ経済的に、反応器内を昇温することができる。特に、アクリル酸の接触気相酸化反応では、原料ガスの下流側のチャンバーの反応器温度は低くてもよい。その一方、上流側により高い温度の熱媒を循環させると、接触によって下流側のチャンバー内の熱媒も昇温される。従って、熱経済を考慮して第1チャンバーのみに加熱した熱媒を循環させる。アクリル酸やメタクリル酸の製造用の反応器のスタートアップ方法としては、このような反応温度の特性から、昇温ガスの導入口に隣接するチャンバーに昇温した熱媒を循環させることが好ましい。
【0056】
なお、アクリル酸などの反応器のスタートアップにおいて、各チャンバーの熱媒温度を異なるように循環させるには、第1のチャンバー51に循環させる熱媒のみをタンク32に導入し、次いでヒーター22で熱媒を加温し、これを第1チャンバー51のみに循環させる。この場合、第2チャンバー52の熱媒は、第2チャンバー52内を循環するのみとする。ただし温度上昇による熱媒容積増加分のみは、タンク32に接続させて回収する。
【0057】
この熱媒の循環によって反応器内が目的の温度に昇温できた場合には、ヒーターの稼動を停止して、スタートアップを終了させる。
【0058】
スタートアップ後、原料ガスを反応管に供給し、公知の方法でアクリル酸を製造すると、昇温された反応器内で速やかな目的物の製造をおこなうことができる。なお、原料ガスを変えることで同様にメタクリル酸を製造することができる。
【0059】
本発明の第二は、遮断板で仕切られた複数のチャンバーを形成する反応器と、該チャンバーから導出された熱媒を収納する手段と、該収納手段から導出された熱媒を加熱する加熱手段、および加熱手段によって昇温した熱媒を少なくとも1つのチャンバーに供給する反応器システムであって、
該収納手段が各チャンバーの熱媒の少なくとも一部を収納できる1つのタンクであり、該タンクの容量が各チャンバー内を循環する熱媒量よりも小さいことを特徴とする反応器システムである。
【0060】
本発明は、特に複数のチャンバーに異なる温度の熱媒を導入し異なる温度のチャンバー内温度として、異なる温度の熱媒を各チャンバーから導出させる場合に適する反応器システムである。従って、異なる温度の熱媒を循環させて異なる温度のチャンバー内温度に昇温させる場合であれば、反応器の通常運転時に反応器を昇温する目的で熱媒を循環させる場合や、反応器のスタートアップ時に反応器を昇温する場合に限られず使用することができる。このような昇温が必要なものとして、吸熱反応のための反応器がある。
【0061】
該反応器システムの特徴は、予め加熱して流動性を確保した熱媒をさらに加熱して反応器に循環させるに際して、1つの加熱手段によって複数のチャンバーに加熱後の熱媒を循環させることができること、および加熱によって増加した熱媒容積の変化を1つのタンクによって緩和できることである。
【0062】
本発明の反応器システムの特徴について、図2を用いて説明する。
【0063】
まず、熱媒の温度上昇による容積変化は以下のようにして回収できる。まず、上記のように、熱媒を加熱するとその容積は増大する。この容積変化を回収するために、反応器終了時に熱媒を回収するタンクのような大型のタンク(図2ではタンク31で示す。)を使用すると、タンク31に付属させたポンプ41を使用してタンクから熱媒を導出させることになり、タンク容量に比してわずかの熱媒の変化を回収するために低い液面になる。しかしながら、ポンプ41の運転可能な範囲はキャビテーションが生じない範囲であり、タンク容積に対してわずかな量の熱媒を循環させる際には、キャビテーションが生じやすいためにポンプに負担をかけることになる。このため、タンク31より容積の小さいタンク32を接続させ、ここで容積変化を回収するのである。ここで、タンク31は反応器内の熱媒の全量を回収し収納するものであるため、各チャンバーの熱媒量の全量よりも大容量である。本発明の熱媒を収納する手段であって、各チャンバーの熱媒の少なくとも一部を収納できる1つのタンクの容量としては、該タンクの容量が各チャンバー内を循環する熱媒量よりも小さいものであることが必要であり、好ましくは各チャンバー内を循環する熱媒量の5〜80容量%、より好ましくは10〜50容量%である。
【0064】
なお、本発明におけるチャンバー内を循環する熱媒量とは、反応器基数をN、反応器内径をD、反応器管板合計厚みt(上管板+中間管板+下管板)、反応管外径d、反応管長さL、反応管本数nとして、
(π/4)(D−d×n)×(L−t)×Nで定義される。
【0065】
しかも、本発明では、このタンクは複数のチャンバーに対して1つのタンクのみを接続させてあればよい。熱媒の温度変化を回収するために各チャンバー毎にタンクを設けたのでは設備が複雑となり設計費も増すが、1つのタンクに各チャンバーの熱媒が導入できるように接続することで配管設置や設備数を簡便にし、これによって熱効率を向上させ、かつ大型タンクに付属するポンプの負担をなくすことができる。
【0066】
また、このように1つのタンク(タンク31)に各チャンバーの熱媒を導入することで、該タンクの熱媒をヒーターで加熱し、次いで各チャンバーに供給することができるため、ヒーターも1つにすることができる。しかも、タンク32とヒーター22、およびタンク32と各チャンバー51、52との間に熱媒循環の配管を設けることによって、各チャンバーに異なる温度の熱媒を供給することができる。
【0067】
また、該反応器システムに使用する反応器は、反応管側へ導入するガスに加熱手段を有することが好ましい。このような加熱手段によって本願第一の発明を容易に実施することができるからである。
【0068】
また、本発明の反応器システムは、反応器が第1チャンバーと第2チャンバーとを有する点で、(メタ)アクリル酸や(メタ)アクロレインを製造するために使用できる。上記のように、これらの化合物は異なるチャンバー温度に設定して反応器を使用する場合が多く、本願発明の反応器システムを使用すれば、各チャンバーをそれぞれ至的な温度に昇温することが容易だからである。
【0069】

また、本発明の反応器システムは、反応器に導入する熱媒配管が反応器の上部環状導管またはこれより上部から接続されることが好ましい。本発明において、「反応器の上部環状導管またはこれより上部」とは、反応器の上部環状導管(例えば、図2では63、64)に加え、上部環状導管の下端を含みこれよりも上部の反応器シェルや該反応器シェル内に熱媒を供給するための軸流ポンプ、該軸流ポンプから該反応器シェルに熱媒を導入する配管を含むものとする。
【0070】
反応器の上部環状導管をへて熱媒を導入する場合には、反応器内を熱媒がダウンフローで流れる。一方、付属する軸流ポンプから熱媒を導入する場合には、軸流ポンプ内をダウンフローで熱媒が流れ、次いで軸流ポンプ下部から反応器内に熱媒がアップフローで流れる。なお、一般には反応器が熱媒で満たされた後にも熱媒を供給してオーバーフローさせる。反応器内に供給される熱媒は反応器にいたる間の配管に加え、反応器および軸流ポンプ自体によって熱を奪われ軸流ポンプや反応器内で固化する場合がある。このため、配管を経て導入される熱媒を軸流ポンプまたは反応器内に導入するに際してダウンフローで供給すると、熱媒は重力によって下降するため熱媒を循環させるポンプ(例えば、図2ではポンプ32)の負担を軽減することができるからである。これをアップフローで流すと固形物が詰まりやすいために圧力が増大し、熱媒を循環させるポンプの負担が増加する。
【0071】
なお、反応器の熱媒満液後に軸流ポンプ(例えば、図2ではポンプ43,44)を稼動させるが、予めこの軸流ポンプの反応器内の熱媒流れ方向をアップフローまたはダウンフローで流すべく設計しておけば、満液後は該設計に基づく流れ方向を確保できる。
【0072】
本発明の第三は、反応器と、該チャンバーから導出された熱媒を収納する手段と、該収納手段から導出された熱媒を加熱する加熱手段、および加熱手段によって昇温した熱媒を少なくとも1つのチャンバーに供給する反応器システムであって、該収納手段が各チャンバーの熱媒の少なくとも一部を収納できる1つのタンクであり、該タンクの容量が各チャンバー内を循環する熱媒量よりも小さく、かつ、反応器に導入する熱媒配管が反応器の上部環状導管またはこれより上部から接続されることを特徴とする反応器システムである。
【0073】
上記のごとく、熱媒は温度変化に応じて容積を変化させる。この容積変化を緩和する必要性は、シングルリアクターに限られるものではない。従って、該収納手段が各チャンバーの熱媒の少なくとも一部を収納できる1つのタンクであり、該タンクの容量が各チャンバー内を循環する熱媒量よりも小さく設計することで、増加した熱媒量を簡便に収納することができるのである。しかも、反応器に導入する熱媒配管が反応器の上部環状導管またはこれより上部から接続されることで、上記と同様に熱媒固化によるポンプ負担を軽減させることができるのである。なお、反応器の満液後、反応器内熱媒をアップフローで流す場合には、軸流ポンプ(例えば、図2ではポンプ43または44)をアップフローで流すべく設計しておけばよい。
【実施例】
【0074】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。
【0075】
(実施例)
図2に示す装置を用いて、硝酸カリウム50質量%、亜硝酸ナトリウム50質量%からなる組成のナイターを熱媒とし、反応器に導入する昇温ガスとして空気を用いて、多管式反応器のスタートアップを行った。なお、ナイターはスタートアップ前にタンク31に収納され、反応器内には残存していない。
【0076】
また、使用した多管式反応器は、内径4000mm、反応器シェルの上部および下部にそれぞれ管板が設けられ、長さ6500mmの反応管9300本が上部管板と下部管板とによって支持されたものである。さらに下部管板から上部に向かって3200mmの位置に反応器内部を2つのチャンバーに仕切る遮断板が設けられている。また、反応器の上部チャンバー52および下部チャンバー51にはそれぞれ環状導管が設けられ、各環状導管には軸流ポンプ43、44が付属している。
【0077】
まず、ゲージ圧4MPaの水蒸気を用いて予熱器21で空気を温度210℃に予熱し、これをブロワー10を用いて反応器50に190Nm/minで供給し、反応器出口(第2チャンバー出口)ガス温度を200℃とした(第1ステップ)。
【0078】
反応ガスの出口温度が200℃になったことを確認した後、予め付属するヒーター23で温度200℃に加熱した熱媒をポンプ41を用いてタンク31から反応器50に導入した。第1チャンバーには、タンク31から、L1、L2、L3、L4を経て、第2チャンバーには、タンク31から、L1、L2、L11、L12を経て熱媒を導入した。次いで、反応器50に熱媒が導入された後に、各チャンバーに付属する軸流ポンプ43、44を稼動させて、各チャンバー内の熱媒を各チャンバー内で循環させた。なお、各チャンバー内の熱媒の一部は、L5、L13を経て第1チャンバーからタンク32へ、L6を経て第2チャンバーからタンク32へ循環できるように接続してある(第2ステップ)。
【0079】
次いで、ブロワー10を停止すると共に、タンク32に付属するポンプ42を稼動させ、タンク32内の熱媒を容量700kWの電気ヒーター22に循環させて昇温した。この昇温した熱媒は、L21、L23、L4を経て第1チャンバー51のみに供給した。これによって、第2チャンバー52は第1チャンバー51からの予熱で昇温された(第3ステップ)。
【0080】
第1チャンバーの熱媒温度が350℃、第2チャンバーの熱媒温度が260℃となり、所定の反応温度に達したためヒーター22を停止し、スタートアップを終了した。スタートアップに要する時間は36時間であった。
【0081】
実施例におけるスタートアップ方法を行った場合の、各チャンバーの温度変化を図3に示す。図3において、(i)ポンプ43、44の稼動開始時、(ii)はポンプ42およびヒーター22の稼動開始時、(iii)はブロワーの停止時を示す。
【0082】
(比較例1)
反応器50への熱媒供給前に昇温ガスを供給しなかったことを除いて、実施例と同じ装置を使用してスタートアップを行った。
【0083】
すなわち、付属するヒーター23で温度200℃に加熱した熱媒をポンプ41を用いて、第1チャンバーには、タンク31から、L1、L2、L3、L4を経て、第2チャンバーには、タンク31から、L1、L2、L11、L12を経て熱媒を導入した。
【0084】
次いで、反応器50に熱媒が導入された後に、各チャンバーに付属する軸流ポンプ43、44を稼動させて、各チャンバー内の熱媒を各チャンバー内で循環させた。なお、各チャンバー内の熱媒の一部は、実施例1と同様に、L5、L13を経て第1チャンバーからタンク32へ、L6を経て第2チャンバーからタンク32へ循環できるように接続してある。
【0085】
これによって、反応器内の熱媒温度が158℃まで低下したため、ポンプ42を稼動させて容量700kWの電気ヒーター22に熱媒を循環させて昇温した。この昇温した熱媒は、実施例と同様にして第1チャンバーにのみ供給した。なお、第2チャンバーは、第1チャンバーからの予熱で昇温した。
【0086】
第2チャンバーの熱媒温度が350℃、第1チャンバーの熱媒温度が260℃となり、所定の反応温度に達したためスタートアップを終了した。スタートアップに要する時間は62時間であった。
【符号の説明】
【0087】
10…ブロワー、
21、22、23…ヒーター、
31、32…タンク、
41、42、43、44…ポンプ、
50、101…反応器、
51…第1チャンバー、
52…第2チャンバー、
61、62…下部環状導管
63、64…上部環状導管
102…軸流ポンプ、
103…蒸気発生器、
103’…ボイラー用水、
103”…スチーム、
104、106…ヒーター、
105…熱媒タンク、
107…ポンプ、
L1、L2、L3、L4、L5、L6、L7、L11、L12、L13、L2
0、L21、L23、L30、L31…熱媒ライン。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遮断板で仕切られた複数のチャンバーを形成する反応器と、該チャンバーから導出された熱媒を収納する手段と、該収納手段から導出された熱媒を加熱する加熱手段、および加熱手段によって昇温した熱媒を少なくとも1つのチャンバーに供給する反応器システムであって、
該収納手段が各チャンバーの熱媒の少なくとも一部を収納できる1つのタンクであり、該タンクの容量が各チャンバー内を循環する熱媒量よりも小さいことを特徴とする反応器システム。
【請求項2】
該反応器が、反応管側へ導入する加熱用ガスに加熱手段を有することを特徴とする請求項1記載の反応器システム。
【請求項3】
更に、反応器に導入する熱媒配管が反応器の上部環状導管またはこれより上部から接続することを特徴とする請求項1または2記載の反応器システム。
【請求項4】
反応器と、該チャンバーから導出された熱媒を収納する手段と、該収納手段から導出された熱媒を加熱する加熱手段、および加熱手段によって昇温した熱媒を少なくとも1つのチャンバーに供給する反応器システムであって、
該収納手段が各チャンバーの熱媒の少なくとも一部を収納できる1つのタンクであり、該タンクの容量が各チャンバー内を循環する熱媒量よりも小さく、かつ、反応器に導入する熱媒配管が反応器の上部環状導管またはこれより上部から接続されることを特徴とする反応器システム。
【請求項5】
(メタ)アクリル酸および/または(メタ)アクロレインを製造するための請求項1〜4のいずれかに記載の反応器システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−115656(P2010−115656A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−31316(P2010−31316)
【出願日】平成22年2月16日(2010.2.16)
【分割の表示】特願2000−133577(P2000−133577)の分割
【原出願日】平成12年5月2日(2000.5.2)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】