説明

反応条件センサー

化学及び生物学的過程の分析の間、異常な条件を検出するための方法及び装置(1)が開示される。1の実施態様では、マイクロ電気化学反応チャンバー(7)における反応条件がモニターされる。反応チャンバー(7)は、反応チャンバー内に配置された反応混合液を通して電流を流すように配置され、それにより電気化学反応を誘導する電極(17a、17b)を含む。検出器(19)は、電極(17a、17b)間を流れる電流を検出及び計測するように提供される。検出器(19)は、計測された電流が、予め決められた値の範囲内又は範囲外に存在するかを指し示すシグナルを発生させる。計測された電流が、予期された値の範囲を外れる場合、反応条件は異常である。一対の電極は、電気化学反応の検出を誘導する二重の機能を実行してもよい。別の実施態様では、電極は、表面増強ラマン散乱及び表面プラスモン共鳴の技術の組合せ使用して、被分析物の存在を検出することが目的である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学過程及び生物学的過程の分析、例えばマイクロ電気化学反応、他の反応、及び被分析物の検出の間において異常な条件を検出するための方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
医薬工業における関心の高い特定領域は、どのようにして薬剤が体内で代謝されるかということを予測することである。例えば、関心の高いある特定のパラメーターは、化合物と代謝酵素との間の反応の最大速度である。典型的な代謝過程の間、酸化型薬剤代謝酵素(DME)は、水酸基成分を外来の分子に加えるように作用し、そうしてそれらの代謝性分解を促進する。DMEなどの酵素により触媒される反応は、電子の移動により引き起こされる。特に、酵素が化合物と反応するように電子が酵素内の触媒部分に供給されるということが、反応過程の重要な部分である。ある種から別の種へと電子を移動させることを含む反応は、酸化還元(レドックス)反応として知られている。通常、代謝反応を引き起こす電子は、インビボでは適切な酸化還元酵素の助けを伴いレドックス・パートナーによって提供される。しかしながら、レドックス反応は、電気化学反応チャンバー内で電極を使用して、電子を直接供給することにより人工的に引き起こされうるということが知られている。このようにして、代謝過程は研究されうる。
【0003】
マイクロ電気化学反応チャンバーは、当該技術分野に周知である。典型的なチャンバーにおいて、酵素、基質、及びメディエーターの混合物は、当該混合物に電流を流すことにより、電気化学的に反応される。ここで当該電流は、電極の対により提供される。生じた反応は、次にいずれかの適切な方法により分析されうる。反応チャンバー内に適切な条件が存在していることが重要であり、そうでなければ、生じる反応のいずれかが影響を受けうる。反応条件が悪化されうる状態は、反応混合液における試薬の濃度が変化する場合である。反応条件が影響されうる別の状態は、反応チャンバー内の気泡の存在である。
【0004】
化学的及び生物学的方法の分析の間、誤りを含む分析が排除されるように異常な条件を検出する重要性を、我々は認識してきた。異常な条件を検出する手段が、従来装置の現存の構成要素により提供されうるということを我々はさらに認識してきた。
【発明の開示】
【0005】
本発明は、引用されうる独立請求項において定義される。有利な特徴は、従属項に記載される。
【0006】
本発明の第一実施態様は、マイクロ電気化学反応チャンバー内の条件が異常であるということを検出するための方法及び装置を提供する。使用時に、反応チャンバー内に位置する反応混合液の領域に渡って、電極により電圧がかけられる。適用された電圧が十分高い場合、混合物を通して電極間に電流が流れ、そして電気化学的反応が誘導される。
【0007】
少なくとも2個の電極が、電流を検出し、そして計測するために提供される。反応条件が通常である場合、電極間の定常電流は、予測できる値の範囲内である。予期した範囲を外れる定常電流により、装置内の反応条件が異常であるということが示される。定常電流の大きさは、電極寸法、反応混合物における試薬濃度、及び電極間にかけられた電圧に左右される。電流は、装置内の気泡の存在によって影響されることもある。
【0008】
計測された電流を予期された電流範囲と比較し、そして反応条件が通常であるか異常な状態であるかを指し示すシグナルを発生するように検出器が提供される。1の実施態様では、電極の1の対が、電気化学反応を誘導し、そして混合液を流れる電流を計測することを許容する両方の二重の機能を行う。
【0009】
第二の実施態様では、視覚によるセンサーを使用して被分析物の存在を検出するためのチャンバー内における電極間の電流の大きさを計測してチャンバー内の条件が異常かどうかを決定する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
図1は、本発明を具体化する微小流体電気化学反応装置の模式図である。装置1は、第一混合チャネル3、第二混合チャネル5、及び反応チャンバー7を含む。第一混合チャネル3、第二混合チャネル5、及び反応チャンバー7は、流体が第一混合チャネル3を通過し、第二混合チャネル5を通過し、そしてチャンバー入口8を通して反応チャンバー7中に入るように繋がれている。第一混合チャネル3の上流部分は、基質入口9、及び酵素入口11に繋がっており、それらは第一混合チャネル3にそれぞれ基質と酵素を供給する。第二混合チャネルの上流部分は、メディエーターを第二混合チャネル5に供給するメディエーター入口13に繋がれている。反応チャンバー7は、廃液出口15に繋がれており、それにより流体が反応チャンバー7から流出することを可能にする。
【0011】
本発明は、マイクロメートルの規模の寸法を有する電気化学反応チャンバーについての出願を有する。本発明を具体化する反応チャンバーの1の例示的な使用は、小型バイオチップ上の分析要素としての使用である。
【0012】
当該基質は、反応チャンバー7内で、電気化学的に酵素と反応されうる分子を含む。基質は、例えば、薬剤、殺虫剤、及び環境汚染物質、又は他の所望される化合物の全てを含む化合物の大群の全てを含んでもよい。当該酵素は、基質を形成する化合物を解毒するために適した代謝酵素のいずれかであってもよい。かかる酵素の例は、シトクロームP450及びフラビン・モノ-オキシゲナーゼ・ファミリー由来のタンパク質を含む。メディエーターは、それを介して電子が移動される媒質として作用し、そして導電性を有する流体のいずれかにより提供されうる。メディエーターの目的は、酵素と基質との間の電気化学反応が誘導されるように反応チャンバーの内部に位置する電極17から酵素に電子が移されることを許容することである。基質、酵素、及びメディエーターは、混合チャネル3、5に沿って流れ、そして反応チャンバー7に入るように、全て流体形態で提供される。
【0013】
使用時に基質を、第一規定流速で、基質入口9を通して第一混合チャネル3に連続供給し、そして酵素を、第二規定流速で、酵素入口11を通して第一混合チャネル3に連続供給する。基質及び酵素を、例えば拡散混合により第一混合チャネル3内で混合する。得られた基質/酵素混合物は、第一混合チャネル3から第二混合チャネル5に沿って流れる。第一混合チャネル3において、基質と酵素との間で反応は起こらない。なぜなら、反応を誘導するために使用される電子が存在しないからである。
【0014】
メディエーターは、第三規定流速で、メディエーター入口13を通して、第二混合チャネル5へと連続して供給される。メディエーターは、第二混合チャネル5において、基質/酵素混合物と混合され、そして得られた基質/酵素/メディエーター混合物、今後試薬混合物と呼ぶ、は、チャンバー入口8を介して、第二混合チャネル5から反応チャンバー7へと流れる。反応チャンバー7に入る試薬混合物における基質、酵素、及びメディエーターの比率を、第一、第二、及び第三流速の相対の速さにより決定した。当該流速は、所望の試薬混合物の一貫性を得るために調節されうる。試薬混合物を、電気化学的に、反応チャンバー7内で反応させ、そして、未反応の試薬混合物のすべて、及び反応生成物は、廃液出口15を通して排出される。
【0015】
反応チャンバー7は、使用時に、各電極17の少なくとも一部が反応チャンバー7内に含まれる試薬混合物と電気的に接触するように位置する2以上の電極17を含む。電極17は、使用時に、試薬混合物が通過する反応チャンバー7内の領域の一部に渡って規定の電圧を適用するように配置される。電極17は、第一電極17aが、例えば正の極性を有し、そして第二の電極、17bが、例えば負の極性を有し、それにより電極17の間の領域内に電場を作り出す。電場はまた、電極17の幾つかの対により作成されることもある。電極17をとおして適用される電圧が、試薬混合物中の試薬のどのレドックス電位より高い場合、電子は、メディエーターをとおして電流の形で、電極間で流される。電子の幾つかは、メディエーターを介して電極から酵素分子へと移動され、そして電気化学反応は、酵素と基質との間で誘導される。
【0016】
電極17の間の電流は、電極17に接続される適切な電流計測装置のいずれかにより計測されうる。好ましい実施態様では、電極17は、電極17の間の電流を検出及び計測するように配置される検出器19に結合される。図2は、検出器の模式図である。検出器19は、入力21、検流器23、コンパレータ25、メモリー27、及び出力31を含む。検出器19は、電極17の間を流れる電流を受ける入力21を介して、反応チャンバー7の電極17に結合しても良い。入力21は、入力21により受け取られる電流を検出及び計測し、そして電流の大きさを指し示すシグナルを発生させるように配置される検流器23に結合される。検流器23により発生されるシグナルは、コンパレータ25により受け取られる。ここで当該コンパレータ25は、計測された電流を、コンパレータ25によりメモリー27から受け取られたシグナルにより定義される値の予め決められた範囲と比較するように配置されている。メモリー27は、例えば定常電流又は最大電流についての予め決められた1以上の範囲を記憶するように配置される。コンパレータ25は、さらに、計測された電流が、メモリー27に記憶された値の選ばれた範囲内にあるか、又は範囲外であるかを指し示すシグナルを発生するようにさらに配置される。コンパレータ25により発生されるシグナルは、出力31を介して検出器19から出力される。検出器19が、電極17に結合される場合、出力31は、電極電流が予め決められたある範囲内又は範囲外にあるかの表示を提供する。
【0017】
好ましい実施態様では、電極17は、電気化学反応を誘導するように提供され、そして試薬混合物を通過する電流を計測するために提供される電極17は、同じ電極17である。当該実施態様では、電極17は、二重の機能を実行し、そして本発明を実行するために必要とされる構成要素は、現存する構成要素により有利に影響されうる。
【0018】
図3は、装置1を使用する間における電極17の間を流れる電流の時間変化を示すグラフである。最初に、第一混合チャネル3、第二混合チャネル5、及び反応チャンバー7を空気で満たした。空気は電気的に絶縁性であるので、電極7を通して適用された電圧は、ある閾値以下であり、電極17の間で電流は流れない。時間0から、メディエーターは、連続的に第二混合チャネル5に導入され、次に当該メディエーターは、第二混合チャネル5に沿って反応チャンバー7へと流れ、第二混合チャネル5から空気を追い出す。第一時間ピリオド43の間で、メディエーターはまた反応チャンバー7に到達せず、そしてこの時間の間において、電極電流は0である。なぜなら、当該反応チャンバーは空気で満たされているからである。
【0019】
第一時間ピリオド43に続いて、第二混合チャネル5に沿って流れるメディエーターは、反応チャンバー7に到達し、そして次に反応チャンバーを満たす。当該メディエーターは電気伝導性であり、反応チャンバー7内にメディエーターが存在することにより、電極17の間で電流が流れることが許容される。メディエーターが徐々に反応チャンバー7を満たしている間に、電極電流は、0値から予測できる最大値に上昇する。当該最大値はメディエーターの電気伝導性、及び他の因子に左右される。第二時間ピリオド45の間に、第一時間ピリオド43に続いて即座に、反応チャンバー7は、メディエーターで満たされ、そして電極電流は、最大値を維持した。
【0020】
時間0から、基質及び酵素は第一混合チャネル3に連続的に導入され、それらは次に第一混合チャネル3に沿って反応チャンバーへと流れ、第一混合チャネル3から空気を移動させる。少なくとも第一時間ピリオド43の間、第一混合チャネル3から追い出された空気は、第一混合チャネル3に沿って流れる基質/酵素混合物と、第二混合チャネル5に沿って流れるメディエーターとの間で1以上の空気ポケットを形成する。基質/酵素混合物、及びメディエーターは、混合チャネル3、5に沿って流れるので、空気ポケットは、反応チャンバー7への液流中に移動される。空気ポケットが反応チャンバー7に到達した場合、第二時間ピリオド45の間、反応チャンバー7を満たしていたメディエーターは、移動させられ、そして空気ポケットを形成する空気に置換される。その時間の間、空気は、徐々に反応チャンバー7を満たし、電極電流は、反応チャンバーがメディエーターで満たされた場合の最大値から、反応チャンバーが空気で満たされた場合の0値まで減少する。第三時間ピリオド47、第二時間ピリオド45に続いて即座に、反応チャンバー7は空気で満たされ、そして電極電流は0値で維持される。
【0021】
ある時間の後に基質、酵素、及びメディエーターが、連続的に混合チャネル3、5に導入されるので、第一混合チャネル3にそって流れる基質/酵素混合液は、最終的に第二混合チャネル5に沿って流れるメディエーターと接触し、そして混ざって、第二混合チャネル5において、メディエーター/酵素/基質混合物を形成する。当該試薬の混合物が先ず上流で形成し始め、そして空気ポケットの隣接部で形成し始める。上流〜空気ポケットの隣接部の試薬混合物が、反応チャンバー7に到達し、そして反応チャンバー7を満たし始めると、電極電流は、0値から特定の値まで増加する。当該値は、試薬混合物の電気伝導性に左右され、つまり、混合物の均一性に左右される。第四時間ピリオドの間、第三時間ピリオドに続いて即座に、反応チャンバー7は試薬混合液で満たされ、そして電極電流は、定常値を維持する。その後に、試薬混合物は、反応チャンバー7を通して連続して流れ、そして電極電流は、だいたい一定の定常状態の値で維持される。
【0022】
第一時間ピリオド43、第二時間ピリオド45、及び第三時間ピリオド47の間の電極電流において、十分混合されていない基質、酵素、及びメディエーターの存在によって、変化が引き起こされるということが観測されうる。当該変化は、電極電流における一時的な変化として観測される。第四時間ピリオド49の間において、装置1内の条件は定常状態に達し、そして当該時間ピリオドの間において、当該電気化学反応が開始される。一時的な条件が過ぎ、そして定常状態条件が維持される十分な時間を計算に入れることが重要である。許容される定常状態電極電流が、少なくとも予め決められた時間の間維持されたならば、電極17の間にかけられた電圧は、電気化学的反応を誘導するために制御されうる。上で記載された順序のタイミングは、装置1の配置を変えることにより制御されうる。
【0023】
第四時間ピリオド49の定常状態の電極電流は、第二時間ピリオド45の最大電極電流より低い。なぜなら、反応チャンバー7における基質及び酵素の存在は、試薬混合物の電気伝導性を低下させるからである。電気化学反応が誘導される場合、当該反応による電子の消費は、電極電流におけるさらなる還元をもたらす。好ましい実施態様において、定常状態の電極電流は、最大電極電流のおよそ50%である。定常状態電流は、平均値のあたりで変動してもよいが、通常の反応条件下では、予め決められた許容範囲内に留まる。
【0024】
定常状態電極電流は、電極17の寸法を含む因子、電極17間にかける電圧、及び試薬混合物中の基質、酵素、及びメディエーターを含む因子に左右される。これらの因子の各値が決定されたならば、次に定常状態電極電流はまた測定され、そして予測できるものである。定常状態電流の予測可能性によって、定常状態電流が予想された電流に一致しない場合、異常な反応条件が検出される。
【0025】
電気化学反応の間、反応チャンバー7における条件が正しいことが重要であり、そうでなければ、反応過程が影響を受け、そして当該反応に関して行われるいずれの分析も、誤った結果を与えうる。反応に影響しうるいくつかの因子は、試薬混合物における基質、酵素、及びメディエーターの濃度、並びに電極17の表面の寸法を含む。他の因子は、電極17の間隔、及び電極間にかける電圧を含む。反応条件が影響されうる他のものは、装置1内における1以上の気泡の存在によるものである。
【0026】
装置1は、最初空気で満たされているので、装置1を通して流れる液体の中に気泡がトラップされるというリスクが存在する。1の場合では、基質、酵素、又はメディエーターの流速を制限する入口9、11、13のうちの1つにトラップされることがあり、それにより成分の混合に影響をして、不均一の混合物濃度をもたらす。混合チャネル3、5内にトラップされた気泡は、装置1内の流れに影響することもあり、又は完全に流れを遮ることさえありうる。さらなる場合において、気泡は、反応チャンバー7の内部にトラップされることがあり、そして電極17の1以上の表面上に位置することもある。この場合、電極17の有効表面積は減少し、電極17間の電気抵抗の増加をもたらし、そして電流の低下をもたらす。反応条件は、反応チャンバー内にトラップされた気泡が、電極17の表面上に位置しない場合でさえ、影響を受けることもある。
【0027】
図3における点線として示されたグラフは、反応チャンバー7の中に気泡がトラップされ、そして電極17のうちの1つの表面上に位置した場合における電極電流の時間変化を示す。第二時間ピリオド45及び第四時間ピリオド49の間、電極17上の気泡の存在は、電極17間の電気抵抗性を増加させ、そして気泡が存在しない場合に比較して、電極電流の低下を引き起こす。気泡の存在により、電極電流は、装置1内の条件が通常である場合に当該電流が予期される範囲を外れることになる。
【0028】
本発明に従って、予期された値から定常電極電流が外れることにより、装置1内の反応条件が異常であるということが示される。逆に、予期された値に適合する電極電流は、反応条件が通常であることを示す。従って、いずれの反応分析も、検出器19により発生される出力シグナルに従って、許容されるか又は拒絶される。当該シグナルは、予期された値の範囲内又は範囲外にあるかを指し示す。1の実施態様では、検出器19は、定常状態電極電流が、予め決められた時間の間、予め決められた値の範囲内にある場合に限って、通常反応条件を指し示すシグナルを発生する。電極電流が、この時間の間予め決められた範囲を外れる場合、異常な反応条件であることを指し示すためにシグナルが発生する。このようにして、電極17が、異常な反応条件を検出することを可能にするセンサーとして作用するということが見つけられた。
【0029】
1の実施態様では、第二時間ピリオド45の間、最大電極電流の値もモニターされる。この場合、第二時間ピリオド45の間、電極電流は検出器19により計測され、そして予期された最大電極電流と比較される。電極電流が、予め決められた値の範囲外にある場合、検出器1は、装置1内に存在する異常な条件を指し示すようにシグナルを発生させる。このようにして、検出器19が、第二時間ピリオド45の間、装置1内の条件が異常であることを決定する場合、この過程を早めに終わらせ、時間、及び使用される基質、酵素、及びメディエーターの体積を節約する。
【0030】
電極電流が、予期された値から外れることは、多くの因子により引き起こされうる異常な反応条件を指し示すと理解される。当該多くの因子のうち、装置内に気泡が存在することは、単に1つの例である。基質、酵素、又はメディエーターなどの濃度の変化は、反応条件に影響しうる。メディエーターの濃度が、通常より高い場合、試薬混合物の電気伝導性は、通常より高くなる。従って、電極電流は、当該メディエーター濃度が通常である場合、電極電流は、予期されるよりも高い。メディエーター濃度が、所望の濃度から十分に逸脱するならば、定常電極電流は、予期された範囲を外れるであろう。さらなる例において、電極17間にかけられた不適切な電圧により、検出される電極電流の逸脱が引き起こされるであろう。
【0031】
本発明が、定常及び動的電気化学反応チャンバーの両方に適用できるということが、当業者により認められるであろう。定常電気化学反応チャンバーの場合、液流は、断続的であってもよく、例えば、バッチ・プロセスが使用されるならば、液体の流れが全くなくなってもよい。この場合、反応チャンバー7内の気泡の存在は、時間に渡って電極電流の特徴的な低下を引き起こし、異常な反応条件を指し示す。動的電気化学チャンバーの場合、反応チャンバー7を通る液流が連続的である場合、反応チャンバー7を通過する気泡は、連続的にモニターされうる電極電流における短時間の一過的な低減を引き起こす。
【0032】
本発明のさらなる実施態様が記載され、そこで被分析物の存在を検出するために使用されるチャンバー内の条件がモニターされる。特に、当該実施態様は、表面プラスモン共鳴(SPR)との相乗効果する表面増感ラマン分光法(SERS)の技術と組み合わせられる。
【0033】
ラマン分光法は、被分析分子の存在を検出するための周知の技術である。光が分子に入射すると、多くのフォトンは弾性的に散乱される。しかしながら、フォトンの少数の分画は、非弾性的に散乱され、エネルギーはフォトンと分子との間で受け渡され、散乱フォトンの波長の変化を引き起こす。入射フォトンとラマン散乱フォトンとの間のエネルギーの差は、分子の振動、回転、又は電子エネルギー状態の間のエネルギーに等しく、分散されるフォトン量子化エネルギー値で分散されたフォトンを生じさせた。ラマン散乱されたフォトンの振動数の変化が計測されて、分子の性質であるラマン・エネルギー・スペクトルを決定する。
【0034】
ラマン効果はかなり弱く、そして表面増強ラマン分光法(SERS)として知られている技術は、この効果を増強することが知られている。SERSに関して、化合物又はイオンからのラマン散乱は、金属表面の数十ナノメートルの範囲内で生じ、ラマン散乱の桁違いの増強をもたらす。SERS効果は、基本的に、分子と、金属中の電子により引き起こされる金属表面付近の電磁場との間でのエネルギーの移動により引き起こされる。実際に、金属層6における電子は、分子にエネルギーを供給し、それによりラマン効果を増強する。
【0035】
分子の存在を計測するための異なる技術は、表面プラスモン共鳴(SPR)として知られている。平面偏光の励起レーザービームは、それが金属の屈折率により測定される臨界角の近くで、金属層に衝突するように、配置される。励起レーザービームの電気ベクトルは、金属層の表面における双極子を誘導する。正の分極電荷からの復元力は、励起の共振周波数で、周期的に減衰する電磁場をもたらす。レイリー・リミットにおいて、当該共鳴は、主に金属層の表面での自由電子の密度(プラスモン)により主に決定され、いわゆる「プラズマ波長」、並びに金属及びその周囲の誘電定数を決定する。
【0036】
層の表面上に又は表面の近位において吸着された被分析物の分子は、並外れて大きい電磁場を経験し、当該電磁場において、表面に通常みられる振動モードが最も強く増強される。当該効果は、空間を介して、金属層におけるプラスモンと、表面付近の分子との間のエネルギーの移動を可能にする。エネルギーの移動は、層の有効屈折率における変化をもたらし、臨界角の変化をもたらし、それゆえ屈折光の強度の変化をもたらした。分散されたフォトンの強度変化は、慣用の分光検出器を使用して計測されうる。
【0037】
分子の存在を検出するためのSERS効果は、更なる入射レーザー源のしようにより増大される。このレーザー源はまた、好ましくはSPR検出にも使用される。2つの効果は相乗的に振る舞い、選択的に表面プラスモンと被分析分子との間の相互作用を高める。効果的に、第二レーザーは、第一レーザーにより産生される励起へ、エネルギーを送るために使用される。SPR励起レーザーの波長、又は金属層の組成、及び厚さなどのパラメーターを変えることにより、SPR効果は、特定の被分析分子からSERSシグナルを最大化するように選択的に最適化されうる。SERSとSPRを組み合わせる技術は、英国特許出願0318356.3号に記載されている。
【0038】
ある実施態様では、いずれの適切なサイズのチャンバー、コンテナ、又はハウジング51も、上記の組み合わされたSERS/SPR技術を使用して被分析物、例えばタンパク質分子を検出するために提供される。チャンバー1は、レーザービーム52、62が、チャンバー内51へと通過するように透明である。SERS及びSPR技術において使用するための金属表面66は、チャンバーの内部に配置される。金属表面66は、例えばチャンバー51に上に位置する支持台53上に横たわっていることもある。チャンバー51内の条件が異常かどうかを測定するための2以上の電極55が、チャンバー51内に含まれる。電極55の間の領域が、検出される被分析物が存在するか又は被分析物の検出が起こる分析領域の少なくとも一部、例えば、金属表面66の近く、又はチャンバー51の内部のいずれかの部分を含むように電極55は配置される。例えば、位置の実施態様では、金属表面66に隣接する領域が、電極55の間にあり、その結果このある位置における異常な条件がモニターされるように、チャンバーの互いに面する壁上に配置される2個の電極55が存在する。別の実施態様では、電極55は、チャンバー51の内部体積の全て又は多くが電極55の間に存在し、その結果チャンバー51の中の全てにおける異常な条件がモニターされるように、配置される。電極55は、さらに電極間を流れる電流の大きさを検出するために検出器(図示せず)に接続されるように配置される。
【0039】
検出される被分析物を含むであろうガス又は液体混合物は、入口(図示せず)を介してチャンバー51中に送り込まれる。第一レーザー源であるSERS励起レーザービーム52は、レセプター分子60、典型的には、電気伝導性の金属表面66にてレセプター分子58に結合する抗体上に入射するように配置される。当該被分析物混合物は金属表面66を通過し、その結果、被分析分子は、存在する場合、レセプター分子60に接触し、そして結合する。被分析分子が、レセプター分子60に結合する場合、レセプター分子58が置き換えられ、そして表面66に近接し、それにより、SERS散乱の増加を示す。既知の様式において、SERS散乱が生じ、そして散乱放射54は、いずれかの適切なセンサー(図示せず)により検出される。同時に、第二レーザー源、SPRレーザービーム62は、金属表面66に入射する。第二レーザービーム62は、表面プラスモンと関わり、これは次に、分析される分子の振動エネルギー状態と関わり電磁場を発生させる。分散光64の強度は、いずれかの適切なセンサー(図示せず)により検出される。
【0040】
被分析物検出過程の間、予め決められた電圧が電極間にかけられ、それにより被分析物混合物をとおして電極55の間を流れる電流が誘導される。電流の大きさは、電極に繋がれたいずれかの適切な電流計測装置、例えば図2に示される検出器により計測されうる。上で詳細に記載されるように、計測された電流が予め決められた範囲を外れる場合、例えば泡の存在のためにチャンバー51内の条件が異常であるということを指し示す。
【0041】
電極55が、二重の機能を実行する必要がないということが理解される。例えば、当該実施態様において、電極55は、条件が異常であるかどうかを検出する目的に限って提供され、そして前述の実施態様のように反応の誘導を提供することはない。しかしながら、代わりの実施態様に於いて、電極55の内の1つが、電流を検出するための手段を提供することに加えて、組み合わされたSERS及びSPR検出方法における金属表面66として機能する。
【0042】
上記実施態様において、本発明が、広範な適用における使用を有するということが理解される。一般的に、本発明は、化学又は生物学的分析を行う際、例えば気泡の存在により、又は当該分析に使用される混合物の誤った組成により引き起こされる異常な条件を検出することが必要である全ての適用において利用されてもよい。
【0043】
上で記載される技術のいずれか及び他の技術は、組み合わせて使用されてもよい。例えば、1の実施態様では、電気化学チャンバーは、反応を誘導するために提供される電極を用いて、電気化学反応を行うために使用される。反応に含まれる分子、例えば反応生成物は、SERS、SPR、又は組み合わされたSERS/SPRを使用して検出されてもよい。チャンバー内の条件を、上で記載したように、電極の対を使用して、反応の間及び被分析物の検出の間の両方でモニターしてもよい。反応を誘導するために使用される電極は、反応条件をモニターするために使用される電極と同じであってもよく 、そして反応条件を誘導するか及び/又は反応条件をモニターするために使用される電極は、金属表面に、SERS/SPR技術を提供してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】図1は、本発明を具体化するマイクロ流体電気化学反応装置の模式図である。
【図2】図2は、図1に示される検出器の模式図である。
【図3】図3は、通常及び異常な反応条件について、図1の装置における反応チャンバー電極により計測される電流の時間変化を示すグラフである。
【図4】図4は、視覚センサーを使用して被分析物の存在を検出するための、本発明を具体化する装置の模式図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気化学反応の成分を反応チャンバーへ入れることを許容する入口、及び少なくとも2個の電極を含むマイクロ電気化学反応チャンバーであって、当該電極は、使用時に反応流体と電気接触するように配置され、検出器に接続可能である当該電極は、当該電極間の電流を検出するように配置され、そして当該電流が予め決められた範囲を外れる場合にシグナルを発生するように配置され、それにより異常な反応条件を指し示す、マイクロ電気化学反応チャンバー。
【請求項2】
使用時に前記反応成分が通過する領域の少なくとも1部に渡って電圧をかけ、それにより当該成分間の電気化学反応を誘導するように、少なくとも2個の前記電極が配置される、請求項1に記載のマイクロ電気化学反応チャンバー。
【請求項3】
前記電気化学反応を誘導するために使用される前記電極が、電流を検出するために使用される電極と同じである、請求項2に記載のマイクロ電気化学反応チャンバー。
【請求項4】
前記化学反応成分が、基質、酵素、及びメディエーターを含む混合物を形成する、請求項1に記載のマイクロ電気化学反応チャンバー。
【請求項5】
前記基質が、生体異物化合物を含む、請求項4に記載のマイクロ電気化学反応チャンバー。
【請求項6】
前記酵素が、シトクロムP450又はフラビン・モノ-オキシゲナーゼ・ファミリー由来のタンパク質を含む、請求項4に記載のマイクロ電気化学反応チャンバー。
【請求項7】
マイクロ電気化学反応チャンバー内の反応条件が正確であるかを決定する方法であって、反応流体を反応チャンバーに次々注ぎ、当該反応チャンバー内の電極間の電流をモニターし、当該電流が最初に規定された範囲を外れるかを決定し、そして当該電流が最初に規定された範囲を外れる場合、当該チャンバー内の当該反応条件が異常であるということを決定することを含む、前記方法。
【請求項8】
前記チャンバーに反応流体を注ぐステップが、当該チャンバーにメディエーターを注ぎ、そして続いて当該チャンバーに基質と酵素を注ぐステップをさらに含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記チャンバーにメディエーターを注ぐ前記ステップが、前記反応チャンバーがメディエーターのみを含む際に前記電極間の電流をモニターし、当該電流が、第二規定範囲を外れるかを決定し、そして当該電流が第二規定範囲を外れる場合、当該反応チャンバー内の反応条件が異常であるということを決定するステップをさらに含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記チャンバーに反応流体を注ぐステップが、当該チャンバーに基質、酵素、及びメディエーターの混合物を注ぐステップをさらに含む、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
前記チャンバー内の前記反応条件が異常であるということを決定する前記ステップが、当該反応チャンバー内に気泡が位置することを決定するステップを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項12】
前記チャンバー内の前記反応条件が異常であるということを決定する前記ステップが、当該反応チャンバー内の反応流体濃度が不適切であることを決定するステップをさらに含む、請求項7に記載の方法。
【請求項13】
前記チャンバー内の前記反応条件が異常であるということを決定する前記ステップが、前記電極間にかけられる電圧が不適切であるということを決定するステップをさらに含む、請求項7に記載の方法。
【請求項14】
前記チャンバー内の反応条件が異常であるかどうかを指し示すシグナルを発生するステップをさらに含む、請求項7に記載の方法。
【請求項15】
前記チャンバー内に反応流体を注ぐ前記ステップが、当該チャンバーに、各反応流体を、予め決められた流速で注ぐステップを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項16】
マイクロ電気化学反応チャンバー及び検出器を含むマイクロ電気化学反応用の反応条件が異常であるということを決定する装置であって、当該マイクロ電気化学反応チャンバーが、以下の:
- 電気化学反応成分を反応チャンバーに入れることを許容する入口;及び
- 少なくとも2個の電極、ここで当該電極は、使用時に反応流体と電気接触するように配置され、当該電極は検出器に繋がれている;
を含み、ここで当該検出器は、以下の:
- 当該反応チャンバーの電極間の電流を検出及び計測するように配置された検流器;
- 当該電流を予め決められた範囲と比較し、そして当該電流が予め決められた範囲を外れるかを指し示すためのシグナルを発生し、それにより異常な反応条件を指し示すように配置されるコンパレータ
を含む、前記装置。
【請求項17】
少なくとも2個の電極を含む、被分析物中の分子の存在を検出するためのチャンバーであって、ここで当該電極が、使用時に分析領域の少なくとも1部にわたって電圧をかけるように配置され、検出器に接続可能である電極が当該電極間の電流を検出するように配置され、そして電流が予め決められた範囲を外れる場合、シグナルを発生し、それにより当該反応領域内の異常な条件を指し示すように配置される、前記チャンバー。
【請求項18】
光学的方法により、被分析物の存在を検出するように配置される、請求項17のチャンバー。
【請求項19】
前記チャンバーが、被分析物の検出において使用するための被分析物キャリアをさらに含み、ここで、第一源からのレーザー放射が、ラマン散乱により被分析物の存在を検出するために使用され、当該被分析物キャリアが以下の:
被分析物を支え、そして第一放射源からのレーザー放射に適合するように選ばれる光学性質を有する支持台;及び
被分析物を受けとるための支持台の部分上の伝導性表面
を含む、請求項18に記載のチャンバー。
【請求項20】
第二レーザー放射源からのレーザー放射が、ラマン散乱を高める場を発生するために使用され、そして支持台が、第二放射源に適合するように選ばれる光学性質を有する、請求項19に記載のチャンバー。
【請求項21】
前記伝導性表面にて被分析物の存在を検出するように配置された、請求項19又は20のいずれか1項に記載のチャンバー。
【請求項22】
前記伝導性表面が、その上に分析される被分析分子に選択的に結合する結合分子を有するレポーター色素を沈積する、請求項19、20、又は21のいずれか1項に記載のチャンバー。
【請求項23】
分析される分子と結合する際に、前記レポーター色素が使用時に分析領域においてレポーター色素が分析領域に存在するように、当該レポーター色素が配置される、請求項22に記載のチャンバー。
【請求項24】
前記伝導性表面が、電極のうちの1つを含む、請求項19〜23のいずれか1項に記載のチャンバー。
【請求項25】
少なくとも2個の電極が、使用時に反応成分が通過する領域の少なくとも1部に、電圧をかけ、それにより成分間の電気化学反応を誘導するように配置される、請求項17〜24のいずれか1項に記載のチャンバーを含むマイクロ電気化学反応チャンバー。
【請求項26】
前記電気化学反応を誘導するために使用される電極が、電流を検出するために使用された電極と同じである、請求項25に記載のマイクロ電気化学反応チャンバー。
【請求項27】
チャンバー内で、被分析物中の分子の存在を検出する方法であって、当該方法が以下のステップ:
- 当該被分析物を、伝導性表面の分析領域に提供し;
- 第一レーザ放射で分析領域を照射して、ラマン散乱を引き起こし;
- ラマン散乱により、分析領域から散乱する放射を検出して、分子の存在を検出し;
- 分析領域内に場を発生するための伝導性表面に対する角度で、伝導性表面を、第二レーザー放射で同時に照射し、ここで当該分析領域内に発生された場は、ラマン散乱効果を増強し;
- 当該チャンバー内の電極間の電流をモニターし;
- 当該電流が、予め決められた範囲を外れるかを決定し;そして
- 当該電流が、当該予め決められた範囲を外れる場合、当該チャンバー内の条件が異常であることを決定する;
を含む、前記方法。
【請求項28】
前記チャンバー内の条件が異常であると決定する前記ステップが、当該チャンバー内に気泡が位置するということを決定するステップをさらに含む、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記チャンバー内の条件が異常であると決定する前記ステップが、被分析物混合物の成分が不適当であるということを決定するステップをさらに含む、請求項27又は28のいずれか1項に記載の方法。
【請求項30】
前記チャンバー内の条件が異常であると決定する前記ステップが、前記電極間にかけられる電圧が不適当であるということを決定するステップをさらに含む、請求項27、28、又は29のいずれか1項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2007−501387(P2007−501387A)
【公表日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−522387(P2006−522387)
【出願日】平成16年7月19日(2004.7.19)
【国際出願番号】PCT/GB2004/003143
【国際公開番号】WO2005/017524
【国際公開日】平成17年2月24日(2005.2.24)
【出願人】(506249543)イー2ブイ バイオセンサーズ リミティド (3)
【Fターム(参考)】