説明

反応装置

【課題】水を含む溶媒の超臨界又は亜臨界環境での反応において、繰り返して使用できる耐久性と、耐食性とを両立できる反応装置を提供すること。
【解決手段】反応装置は、反応対象の材料が接触する反応器(例えば、オートクレーブ容器11)と、前記反応器の表面を被覆するとともに、未被覆部分の代表寸法が30nm以下の銀又は金の皮膜と、を含む。このような構成により、超臨界又は亜臨界環境での反応において、反応器は、繰り返して使用できる耐久性と、耐食性とを両立できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも水を含む溶媒の超臨界又は亜臨界の環境下における反応を取り扱う反応装置の腐食防止に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ナノテクノロジー分野や廃棄物処理分野で、高温高圧条件下の反応を用いて様々な基材合成や材料処理プロセスが開発されている。このようなプロセスの一例としては、例えば、超臨界水熱合成法を用いて高純度のナノ粒子を合成するプロセスがある。100℃以下の反応では、水などの溶媒を使っても、反応装置の腐食はほとんどないが、水の沸点を越えて400℃程度の高温高圧流体を用いる際に、反応器の構造材が腐食されるケースが多く見られる。特に、亜臨界又は超臨界水を取り扱う反応装置において、反応器の腐食は大きな課題になっている。例えば、腐食の進行によって、反応器の耐久性低下を招くおそれがある。一方、反応器の材料は、超臨界水と反応することにより、その腐食物の一部が生成物に混入し、生成物の純度が低下してしまうこともある。電子部品用基材には、高純度の生成物が要求されるので、耐食性装置開発のニーズが高まっている。
【0003】
約30MPa以下の高圧、かつ100℃から約400℃程度までの高温環境で、化学反応又は材料処理プロセスを行う際に、耐熱耐圧の反応器を有する反応装置が用いられる。このような反応装置としては、例えば、オートクレーブと呼ばれるバッチ式の反応装置、配管、継手又はバルブ等から構成される連続流通式反応装置、水熱合成装置又は超臨界水熱合成装置等がある。
【0004】
反応器の腐食を防止する対策として、反応器の表面をコーティングする方法が用いられている。例えば、反応器の表面に、Cr、Al、Si、Ti、Mo、Zr、Ir又はPtの1種、あるいはこれらを組み合わせた金属材料のコーティング層を形成する方法がある(例えば、特許文献1)。この方法は、継手などの複雑構造の部品の表面めっきなどをすることにより達成される。また、耐食性の高いセラミックスで反応器壁の表面を被覆する方法がある(例えば、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−27259号公報
【特許文献2】特開2005−298904号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、高温高圧水の環境では、めっき金属が化学的に不安定であるので、めっき金属が溶解又は酸化されることがある。めっき金属が水に溶解した場合は、不純物として生成物に混入するおそれがある。また、めっき金属が酸化された場合は、めっき層自身が酸化膜に変化し、熱膨張によって剥離するおそれがある。
【0007】
セラミックスの耐食性は優れているが、金属下地素材とセラミックス表面層との熱膨張率の差が大きいために、加熱と冷却とを繰り返すと、セラミックス表面層にクラックの発生、剥離又は破壊が発生するおそれがある。したがって、セラミックスで反応器壁の表面を被覆した場合、反応器を繰り返す使うことが困難であるという問題もある。
【0008】
本発明は、少なくとも水を含む溶媒の超臨界又は亜臨界環境での反応において、繰り返して使用できる耐久性と、耐食性とを両立できる反応装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、少なくとも水を含む溶媒と接触する反応器と、前記反応器の表面を被覆するとともに、未被覆部分の代表寸法が30nm以下の銀又は金の皮膜と、を含むことを特徴とする反応装置である。
【0010】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討した結果、金は、強酸性から強アルカリ性まで酸化せず、溶解せず、全ての条件下で金属の形態で安定しており、耐食材質として、白金よりも優れていることを見出した。また、銀は、400℃程度且つ30MPa程度の環境で、pH>12のときにAgOイオンに変わり、pH<4のときにAgイオンの形で溶解するが、pH=4以上12の範囲以内で、溶解又は酸化することがなく、耐食材として優れていることも見出した。本発明に係る反応装置は、反応対象の材料が接触する反応器を、金又は銀の皮膜で被覆するとともに、未被覆部分の代表寸法は30nm以下とする。このようにすることで、少なくとも水を含む溶媒の超臨界又は亜臨界環境(例えば、400℃程度且つ30MPa程度の超臨界水環境)での反応において、繰り返して使用できる耐久性と、耐食性とを両立できる反応装置を提供することができる。このような皮膜は、例えば、無電界めっきを用いることにより形成することができる。無電界めっきを用いることにより、バッチ式オートクレーブ、継手、配管、複雑な形状を有する連続流通式反応器の内面にも、前記皮膜を形成することができる。また、使用によって皮膜が損傷を受けた場合であっても、無電解めっきによって簡単に修復できる。未被覆部分とは、めっき皮膜に観察される下地素材の露出部分と意味する。未被覆部分の代表寸法は、5万倍程度の高倍率SEMで直接観察される下地素材の露出穴のHeywood径又はめっき皮膜の粒子と粒子の隙間の間隔とする。
【0011】
本発明は、超臨界又は亜臨界の環境下で、少なくとも水を含む溶媒とした場合に反応装置の耐食性を確保できる。このように、本発明は、超臨界又は亜臨界の環境下で、少なくとも水を溶媒とした場合の反応に好適である。
【0012】
本発明において、前記反応の環境は、pHが4以上12以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、少なくとも水を含む溶媒の超臨界又は亜臨界環境での反応において、繰り返して使用できる耐久性と、耐食性とを両立できる反応装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、反応装置としてのオートクレーブを示す模式図である。
【図2】図2は、反応装置としての連続流通式反応装置を示す模式図である。
【図3】図3は、Moの化学状態を示すプールベ状態図である。
【図4】図4は、Tiの化学状態を示すプールベ状態図である。
【図5】図5は、Auの化学状態を示すプールベ状態図である。
【図6】図6は、Agの化学状態を示すプールベ状態図である。
【図7】図7は、実施例1に係る皮膜の電子顕微鏡写真である。
【図8】図8は、実施例3に係る皮膜の電子顕微鏡写真である。
【図9】図9は、比較例1に係る皮膜の電子顕微鏡写真である。
【図10】図10は、比較例1に係る皮膜を超臨界水に曝した後における電子顕微鏡写真である。
【図11】図11は、比較例2に係る皮膜の電子顕微鏡写真である。
【図12】図12は、耐食実験を実施した後における皮膜の電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明を実施するための形態(実施形態)につき、図面を参照しつつ詳細に説明する。以下の実施形態に記載した内容により本発明が限定されるものではない。また、以下に記載した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のものが含まれる。さらに、以下に記載した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。
【0016】
図1は、反応装置としてのオートクレーブを示す模式図である。図2は、反応装置としての連続流通式反応装置を示す模式図である。図1に示すオートクレーブ10において、オートクレーブ容器11、撹拌機13及びバルブ14は反応器に相当する。また、図2に示す連続流通式反応装置20のクロス継手29、T字継手30、その間の反応管31及びバルブ25、27、28は、反応器32に相当する。
【0017】
例えば、反応器としてのオートクレーブ容器11に水などの溶媒と反応対象とを入れ、外部加熱によって反応器中の温度と圧力とを上昇させて反応をさせる。高温高圧の水と接触するオートクレーブ容器11、撹拌機13又はバルブ14の内面は、耐食防止が必要となる。連続流通式反応装置20では、ポンプ21から水などの溶媒と反応対象の材料とを反応器32に送って、加熱された反応管31内で反応を行う。高温高圧の水と接触する反応管31やクロス継手29、T字継手30及びバルブ25、27、28の内面は、耐食防止が必要である。
【0018】
例えば、水の臨界温度(374℃)及び臨界圧力(22MPa)を超える超臨界状態で、結晶性の良いナノ粒子が合成されやすいので、水を溶媒として超臨界水熱合成が行われる。水に他の塩が溶解している場合は、臨界温度及び臨界圧力がさらに高くなる場合もある。このように、高温高圧環境における反応に用いられる反応器は、高温環境下で圧力に耐えることが要求される。水の超臨界状態における反応では、一般的に、400℃且つ30MPaに耐えられる構造材料が必要となる。高温強度を持つために、反応器の主な構造材料は、ステンレス鋼、ハステロイ鋼、インコネル鋼などの合金を用いる。本実施形態では、低価格かつ工業的によく使用されるSUS316を用いる。
【0019】
400℃、30MPaの厳しい超臨界水条件でも耐食性能を確保するために、反応器の表面の材質は、化学的に安定している必要がある。貴金属Mo、Ti、Ta、Pt、Au、Ag、Zr、Irについて、化学解析ソフトウェア(商品名:HSC Chemistry for Windows(登録商標))を用いて、400℃かつ30MPaの超臨界条件下における各金属のEh−pH状態図(プールベ状態図)を作成し、それらの化学安定性を評価した。
【0020】
図3は、Moの化学状態を示すプールベ状態図である。図4は、Tiの化学状態を示すプールベ状態図である。図5は、Auの化学状態を示すプールベ状態図である。図6は、Agの化学状態を示すプールベ状態図である。平行な点線の間は、水が安定して存在している条件である。この区域内において、対象金属の平衡状態が分かれば、その金属の化学安定性を評価できる。Moは、400℃かつ30MPaの超臨界水と反応し、pH<5の強い酸性環境でMoO又はMoO2+xの酸化物になったり、pH>7のアルカリ環境のときにはHMoO又はMoO−2のイオンとして溶解したりする。このように、Moは、400℃かつ30MPaの超臨界水環境においては不安定である。
【0021】
Pt、Ir、Ti、ZrとTaは、超臨界水には溶解しないが、酸化が発生する。TiとZrとTaとは、これらの酸化物が熱力学的に安定であることが分かった(図4)。超臨界水と反応すると、セラミックス膜が生成するので、熱膨張によってクラックが発生するおそれがある。Pt及びIrは、Ti、Zr及びTaと比べて、酸化還元電位Eh(縦軸)がやや高いが、依然として超臨界水に酸化される可能性が高い。貴金属中、Au(金)だけは、強酸性から強アルカリ性まで酸化せず、溶解せず、すべての条件下で安定している(図5)。このように、金は、耐食材質として白金よりも優れていることが分かった。
【0022】
銀は、pH>12のときにAgOイオンに変わり、pH<4のときにAgイオンの形で溶解するものの、よく使われるpH=4〜12の範囲内においては、銀が溶解又は酸化されることはなく、耐食性が高いことが分かる(図6)。本実施形態においては、Au又はAgを、溶媒及び反応対象の材料が接触する反応器の表面に被覆して、耐食性を確保する。複雑な部品にも対応できるニーズに対応しやすいので、貴金属の内張りよりも、高温構造材の下地素材の表面に、耐食性の良い貴金属膜を形成する方が好ましい。
【0023】
また、高温強度及び耐食性を持つ反応器は、繰り返して使用できる耐久性を持たなければならない。そのために、セラミックス表面層処理より、金属下地素材と熱膨張率の大差がない金属めっきが有利である。金属めっきの場合は、素材の腐食防止を確保するために、緻密な金属皮膜を形成する必要がある。工業分野で、めっき法は、電解めっきと無電解めっきとの2種に分類されている。一般的に、電解めっきを用いると、得られた金属皮膜にピンホールと呼ばれる未被覆欠陥が存在する。例えば、電解金めっきの表面に約1μm程度の未被覆欠陥が良く見られる。超臨界水は、表面張力がゼロに近いので、1μm程度の穴は簡単に浸透してしまい、下地素材と反応してしまう。このため、未被覆欠陥としての穴の生成が少ない無電解めっきが有利である。
【0024】
未被覆欠陥は、電子顕微鏡(SEM)などの観察手段を用いて観察した場合に、5万倍倍率で、めっき膜から下地素材が直接見える箇所とする。本明細書の「粒径」、また未被覆欠陥の「サイズ」は、走査型電子顕微鏡などの観察手段で撮像した画像に基づいて、粒子または欠陥の輪郭から断面積を計測し、それと同じ面積を持つ円の直径であるHeywood径である。
【0025】
銀の皮膜を反応器の表面に形成する場合、銀鏡反応によって、下地素材の表面に銀をめっきする。めっき後、100℃以上の温度で真空アニーリングし、めっき膜と下地素材との密着性を保つ。緻密な銀膜を得るために、銀粒子の平均粒子径は、1μm以下であることが望ましく、数十nm以上百nm以下の銀粒子が最も好ましい。銀粒子の平均粒径が100nm以下であると、粉と粉の間の隙間が小さくなり、より緻密な皮膜を作製しやすい。膜厚は、銀粒子平均粒径の約5倍以上であることが望ましい。下地素材との熱膨張率の差にもよるが、膜厚の上限は平均粒径の約100倍以下であることが望ましい。その結果、本実施形態の反応器は、下地材質を完全に被覆することができ、耐食性の高温高圧反応容器を作ることができる。
【0026】
以上、本実施形態は、反応装置において、反応対象の材料が接触する反応器を、未被覆部分の代表寸法が30nm以下の銀又は金の皮膜で被覆している。このため、水等の溶媒を含む、400℃程度且つ30MPa程度の高温高圧条件での反応においても、緻密な前記皮膜を保持できるので、超臨界又は亜臨界環境での反応において、繰り返して使用できる耐久性と、耐食性とを両立できる。また、本実施形態は、未被覆部分の代表寸法が30nm以下の銀又は金の皮膜で反応器を被覆するので、pHが4以上12以下までの広い反応環境条件でも緻密な皮膜を保持できる。
【実施例1】
【0027】
銀鏡反応によってハステロイ鋼反応器(容積約50cc)の表面に銀めっきを施した。無電解銀めっき液を下記のように調整した。10ccの水に硝酸銀1.7gを溶解させた。硝酸銀(AgNO)は、関東化学製、特級で、AgNOの含有割合は99.8%以上のものを用いた。この溶液に、アンモニア水(純正化学製、含有割合は28%)を入れて、透明になるまで調整し、銀液Aを用意した。次に、0.4gの水酸化ナトリウム(NaOH、純正化学製、特級、NaOHの含有割合は97%)10ccを水に溶解させ、1.8gのグルコース(C12、関東化学製、特級、含有割合は98%)を得られた10ccの溶液と混合し、B液を調製した。
【0028】
筒型のSUS316反応器の内面(側面、底面、蓋内面)すべてを洗浄、乾燥してから、A液とB液とを同時に前記反応器内に入れて、室温で静置した。10分程度静置した後、反応器内から廃液を捨て、洗浄及び乾燥することにより被膜形成が完了した。めっきにより得られた皮膜を評価した。
【0029】
図7は、実施例1に係る皮膜の電子顕微鏡写真である。倍率は5万倍である。電子顕微鏡(SEM:Scanning Electric Microscope)を用いて異なる視野で実施例1に係る皮膜表面を数十箇所撮影した。そして、未被覆欠陥の輪郭を決定し、画像解析式粒度分布測定ソフトウェアMac−Viewを用いて、得られた電子顕微鏡写真の画像解析を行い、Heywood径を求めた。その結果、30nm以上のHeywood径を有する未被覆欠陥は観察されなかった。例えば、粒子と粒子の間の隙間を未被覆欠陥としても、そのHeywood径は約20nm以下であることが分かる。
【0030】
数箇所の視野で観察された銀めっき粒子356個のHeywood径は、平均値が102nmであり、観察されたすべての銀めっき粒子の90%はHeywood径が135nm以下である。また、電子顕微鏡で撮像した銀めっきの断面写真から、皮膜の厚さを評価した。その結果、約100nmの銀粒子から構成される厚さが約1μm程度の緻密な皮膜が得られることが分かった。
【0031】
実施例1に係る皮膜を形成した反応器を用いて、実際の超臨界水熱合成実験を行った。原料TiOとBa(OH)とを反応器に入れ、pH=12まで調製した。実施例1に係る皮膜を有する反応器を用いて、400℃、30MPaの超臨界水熱合成反応条件で、約1時間程度合成実験を行った。その結果、単一相を有するBaTiOが生成されて、反応器の表面は無傷であった。また、得られたBaTiOを蛍光XRDで観測したが、銀等の不純物は検出されなかった。これは、実施例1に係る皮膜には、未被覆欠陥が極めて少なく、平均粒径の小さいナノ銀粒子が下地素材を完全に被覆したからであると考えられる。
【実施例2】
【0032】
めっき膜の緻密性及び厚さについて、実施例1と同じめっき液の組成でめっき回数を増やした。このようにすることでナノ銀粒子サイズを約100nmのまま維持しつつ、厚い銀の皮膜を得ることができる。実施例2においては、実施例1における1回のめっきによって得られた反応器の表面を洗浄し、同じ条件のめっきを3回実施することにより、皮膜の厚さを約3倍(約3μm)に増加させた。
【実施例3】
【0033】
実施例1と同じ組成のめっき液を用いて、流通式反応器に使用される配管と複雑な構造を持つ継手とに無電解銀めっきを施した。T型及び十字型継手(スウェージロック社製、材質はSUS316)とチューブアダプター(1/4インチ及び1/8インチ)を皮膜形成対象に選択し、それらの内外表面を無電界銀めっきした。無電界めっきは、配管に対して、長さ50cmの1/4インチの配管の中にめっき液を流しながら、めっきを完成した。前記めっきしたサンプルを使って、400℃、30MPa条件下で、100%の超臨界水を2時間流した。使用後のサンプルの表面めっき膜は変化が観察されなかった。
【0034】
図8は、実施例3に係る皮膜の電子顕微鏡写真である。倍率は5万倍である。電子顕微鏡(SEM:Scanning Electric Microscope)を用いて異なる視野で実施例1に係る皮膜表面を数十箇所撮影した。図9に示すように、実施例3に係る皮膜は、下地素材を完全に被覆したことが分かった。
【0035】
(比較例1)
図9は、比較例1に係る皮膜の電子顕微鏡写真である。図10は、比較例1に係る皮膜を超臨界水に曝した後における電子顕微鏡写真である。耐食性のよい材質として、セラミックス材料が考えられる。例として、SUS316表面にTiO膜を水熱合成して評価を行った。水溶性チタン原料を容器に入れて、40℃/時間の速度で室温から400℃まで加熱した。最高圧力は約25MPaと推定された。水溶性チタン原料の加水分解によって、図10に示すように、下地のSUS316基材の表面に緻密なTiOの膜が生成された。また、上記TiOめっきサンプルを400℃、25MPaの超臨界水に1時間曝した。その後、室温に冷却した後には、図10に示すように、膜の剥離及びクラックが発生したことを確認した。これは、金属とセラミックスとの熱膨張率の差が大きいため、SUS316基材の表面に欠陥のないTiO皮膜を生成しても、クラック又は剥離を回避することは困難であると考えられる。他のセラミックスについても同じ現象が起こると推定される。
【0036】
(比較例2)
図11は、比較例2に係る皮膜の電子顕微鏡写真である。比較例2は、実施例1で用いためっき原料を10倍希釈して、SUS316基材の表面に無電界めっきを施すことによって得られる銀の皮膜である。他の条件は、実施例1と同じである。比較例2は、図11に示すように、下地の素材が露出している未被覆欠陥が多く観察された。比較例2は、銀めっきの皮膜の厚さが足りないため、下地を完全に被覆することができなかったことが原因であると考えられる。
【0037】
電子顕微鏡で撮影した5万倍の写真から、比較例2の未被覆欠陥のHeywood径を求めた。その結果、未被覆欠陥のHeywood径は約30nmよりも大きいことが分かった。また、比較例2のサンプルを400℃、25MPaの超臨界水に1時間を曝した後、下地素材が腐食されたことを観察した。この結果から、耐食には、未被覆欠陥のHeywood径が30nm以下であることが必要であると考えられる。
【0038】
(耐食試験)
図12は、耐食実験を実施した後における皮膜の電子顕微鏡写真である。実施例1と同じ組成のめっき液を用いて、SUS316テストピースに無電解銀めっきの皮膜を作製した。強いアルカリ性超臨界水熱合成反応条件で、無電解銀めっきサンプルの耐食実験を行った。NaOHを水に溶解させてpH=12の強いアルカリ性を調製した後、上記無電界銀めっきサンプル及び未めっきのSUS316の試験片を入れて、400℃、30MPaにおいて2時間の腐食試験を行った。無電解銀めっきの皮膜には、腐食生成物が検出されず、膜表面の未被覆欠陥も観察されなかった。一方、実験後における未めっきSUS316の試験片は、表面がすべてNaフェライトの結晶体に変化した。この結果から、SUS316は強アルカリに対する耐食性が低いことが分かった。
【符号の説明】
【0039】
10 オートクレーブ
11 オートクレーブ容器
13 撹拌機
14 バルブ
20 連続流通式反応装置
21 ポンプ
25 バルブ
29 クロス継手
30 T字継手
31 反応管
32 反応器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも水を含む溶媒と接触する反応器と、
前記反応器の表面を被覆するとともに、未被覆部分の代表寸法が30nm以下の銀又は金の皮膜と、
を含むことを特徴とする反応装置。
【請求項2】
超臨界又は亜臨界の環境下で、少なくとも水を溶媒とする請求項1に記載の反応装置。
【請求項3】
前記反応の環境は、pHが4以上12以下である請求項1又は2に記載の反応装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−205976(P2012−205976A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−71915(P2011−71915)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】