説明

受信コイルアンテナ

【課題】 シールド板を必要とすることなく金属筐体及び金属メッキの施されたプラスチック筐体等への内蔵や、近傍に金属類部材の配設が可能な低周波用受信コイルアンテナを実現する。
【解決手段】 磁性コア3に巻回された巻線4を備えた受信コイルアンテナ1であって、前記磁性コア3は、絶縁性軟磁性体であり、該絶縁性軟磁性体は軟磁性体粉末と有機結合剤とからなり、その複素透磁率がμ’=100〜200、μ”<50であり、前記軟磁性体粉末の形状が扁平状又は針状の粉末であり、その表面は絶縁処理されている受信コイルアンテナ1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低中波帯の受信コイルアンテナに関し、特に10MHz〜20MHzの周波数の無線信号の受信に際し、受信コイルアンテナ近傍に導電性および/又は磁性を有する金属物を配置する装置、システム、端末などにおいて無線信号の受信に好適な受信コイルアンテナに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、低中波帯の無線信号を送信及び/又は受信する装置、システム、端末等、様々なものが使用され又は提案されている。例えば、典型的なシステムの一つとしてはAMラジオがあげられる。また、比較的新しいところでは電波時計、特に、電波腕時計(特許文献1参照)がある。その他システムとしては、自動車用或いは住設用の遠隔キーレスエントリーシステム(特許文献2参照)、RFIDシステムなどがある。
【0003】
上記した装置等に共通する重要な構成要素の一つとして、磁性コア及びそこに巻回されたコイルを備えるコイルアンテナがある。コイルアンテナ用の既存の磁性コアの例としては、燒結フェライトコアや、アモルファス合金薄膜からなる積層コアが知られている。しかしながら、前者の燒結フェライトは、破損しやすく尚且つその硬度に起因して設計の自由度も低い。後者のコアは製作性が悪くかつ高価であるためコスト増を招く欠点がある。
【0004】
前述したように、現在磁性コアの主流となっているアモルファス合金やフェライトの材料透磁率μ’は1000〜10000と非常に高い透磁率を有しており、自由空間においてはコイルQ=100近傍となる。反面、アンテナコイルは様々な装置に組み込まれる場合があり、アンテナに近接して金属部材等があれば、その影響を受け易くなる。アンテナの近くに電気抵抗の小さな金属類があると、共振時の磁界エネルギーは渦電流損として失われ、アンテナコイルの損失となって現われる。結果としてQ値が低下し実効的にアンテナ感度の低下を招くこととなる。この問題を解決するため、アンテナの周辺にシールド板を設け金属部材類による通信特性の変動を抑制するものが提案されている(特許文献3)。
【0005】
【特許文献1】米国特許第6134188号明細書
【特許文献2】米国特許第6677851号明細書
【特許文献3】特開2002−168978号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、シールド板によってアンテナコイルの通信特性の変動は防止できるものの、逆にシールド板によってアンテナコイルの通信特性を一定のレベルに低下させることにもなる。つまり、金属製シールド板の存在により、アンテナコイルのインダクタンスが低下して通信距離を劣化させる。このため、通信特性の向上という観点から見ると、シールド板の存在は、大きなマイナス要因にもなりかねないのである。
【0007】
更にアンテナとシールド材の配置精度による特性変動が大きいことと、部品点数増によるコスト増の懸念がある。
【0008】
以上のことにより本発明はシールド部材の使用なしで受信感度の低下が回避でき、金属筐体への内蔵や、金属類部材近傍への配置を可能にする受信コイルアンテナの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため本発明の受信コイルアンテナは、磁性コアに巻回されたコイルを備えた受信コイルアンテナであって、前記磁性コアは、軟磁性体粉末と有機結合剤とを混合した絶縁性軟磁性体からなり、該軟磁性体粉末は、鉄アルミ珪素合金(センダスト)、鉄ニッケル合金(パーマロイ)、鉄コバルト合金、鉄シリコンバナジューム合金、鉄コバルトボロン合金、コバルト系アモルファス合金、鉄系アモルファス合金、酸化物磁性粉末(フェライト)、カーボニル鉄、モリブデンパーマロイ、純鉄圧粉の軟磁性材料のいずれかまたはそれらの組み合わせからなり、該有機結合剤はポリエステル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ニトリルーブタジエン系ゴム、スチレンーブタジエン系ゴム等の熱可塑性樹脂或いはそれらの共重合体、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アミド系樹脂、イミド系樹脂等の熱硬化性樹脂、あるいは有機系難燃剤であるハロゲン化物、臭素化ポリマーのいずれかまたはそれらの組み合わせからなることを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明の受信コイルアンテナは、前記絶縁性軟磁性体が、使用周波数において、複素透磁率の実部μ’が100〜200であり、虚部μ”が50未満であることを特徴とするものである。
【0011】
また、本発明の受信コイルアンテナは、前記軟磁性体粉末が扁平状または針状の粉末であることを特徴とするものである。しかし、これら扁平状、針状の粉末を混ぜて使用することもできる。
【0012】
また、本発明の受信コイルアンテナは、前記軟磁性体粉末が酸化被膜または有機結合剤により絶縁コーティングされた粉末または、導電性のある粉末であることを特徴とするものである。有機結合剤は前記磁性コアの構成要素である有機結合剤と同じであってもよいし、異なるものでもよい。
【発明の効果】
【0013】
上記のように構成された本発明の受信コイルアンテナによれば、軟磁性体粉末の材質、形状の特定、有機結合剤の特定及び絶縁性軟磁性体の磁気特性の特定により、シールド部材の使用なしで受信感度の低下が回避できアンテナ特性のレベルを確保できるので、金属筐体、金属メッキを付したプラスチック筐体等への内蔵や、金属類部材の近傍への配設を可能にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の受信コイルアンテナの実施の形態について図を参照しながら説明する。
【0015】
図1は、本実施例の構成の概略を示す断面図である。図1を参照すると、磁性コア3を収容したプラスチック製ボビン2に巻線4が巻回された受信コイルアンテナ1の断面図が示されている。本発明の受信コイルアンテナ1においては、従来、フェライトやアモルファス合金が使用されていた磁性コア3を軟磁性体粉末と有機結合剤とからなる磁性コア3に置き換え、磁性コアの複素透磁率をμ'=100〜200、μ''<50に調整して設置されている。本発明の受信コイルアンテナ1の近傍にはSUS板5が配置されている。このSUS板は金属筐体や金属メッキ付きプラスチック筐体を想定して配置されたものである。SUS板近傍に設置された本発明の受信コイルアンテナ1は、シールド部材6の使用なしで受信感度の低下が回避でき、アンテナ特性のレベルを確保することが出来る。
【実施例】
【0016】
以下本発明の受信コイルアンテナについての実施例にもとづいて説明する。
【0017】
実施例に使用した受信コイルアンテナは、軟磁性体粉末で作られた2×10×60の磁性コアをプラスチック製ボビン2に収容し、該プラスチック製ボビン2の外周に100T巻回された巻線4とを有する。磁性コア3は、発明品の場合は、Fe−Al−Si合金粉末を使用し、有機結合剤としてポリウレタン樹脂とを混合した絶縁性軟磁性体を使用した。この磁性コア3は、1mmの厚みを有するシート状のコアを2枚重ね合わせることにより作られる。巻線4としては、ウレタン線を使用した。比較品1の場合は、磁性コアとしてアモルファスコ合金コア2×10×60をプラスチック製ボビン2に収容し、該プラスチックボビン2の外周にウレタン線を100T巻回した巻線4を有している。上述した図1及び図2の構成において、磁性コア3の形状は同一形状とし、材料をFe−Al−Si合金粉末とポリウレタン樹脂とを混合した絶縁性軟磁性体とした発明品と磁性コアの材料をアモルファス合金とした比較品1の電気特性を比較した。
【0018】
図3は図1と図2の構成でf=40kHzとした時のQおよびrefゲインを示す。アモルファス合金のコイルアンテナ(比較品1)+シールド部材の組み合わせと比較して、本発明のコイルアンテナ(発明品1)はシールド部材がないにもかかわらず、同等の特性が得られることが確認できる。又シールド部材を除いた単体同士の比較においては、約3dBの効果があることが確認できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施の形態における、受信コイルアンテナの概略断面図。
【図2】従来技術であるシールド部材を配した場合の概略断面図。
【図3】図1、図2の構成で自由空間とSUS板密着時における特性評価結果。
【符号の説明】
【0020】
1 受信コイルアンテナ
2 プラスチック製ボビン
3 磁性コア
4 巻線
5 SUS板
6 シールド部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性コアに巻回されたコイルを備えた受信コイルアンテナであって、前記磁性コアは、軟磁性体粉末と有機結合剤とを混合した絶縁性軟磁性体からなり、該軟磁性体粉末は、鉄アルミ珪素合金、鉄ニッケル合金、鉄コバルト合金、鉄シリコンバナジューム合金、鉄コバルトボロン合金、コバルト系アモルファス合金、鉄系アモルファス合金、酸化物磁性粉末、カーボニル鉄、モリブデンパーマロイ、純鉄圧粉の軟磁性材料のいずれかまたはそれらの組み合わせからなり、該有機結合剤はポリエステル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ニトリルーブタジエン系ゴム、スチレンーブタジエン系ゴム等の熱可塑性樹脂或いはそれらの共重合体エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アミド系樹脂、イミド系樹脂等の熱硬化性樹脂、あるいは有機系難燃剤であるハロ ゲン化物、臭素化ポリマーのいずれかまたはそれらの組み合わせからなることを特徴とする受信コイルアンテナ。
【請求項2】
前記絶縁性軟磁性体は、使用周波数において、複素透磁率の実部μ’が100〜200であり、虚部μ”が50未満であること特徴とする請求項1記載の受信コイルアンテナ。
【請求項3】
前記軟磁性体粉末が扁平状または針状の粉末であることを特徴とする請求項1及び2記載の受信コイルアンテナ。
【請求項4】
前記軟磁性体粉末は酸化被膜または有機結合剤により絶縁コーティングされた粉末または、導電性のある粉末であることを特徴とする請求項1乃至3記載の受信コイルアンテナ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−193187(P2008−193187A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−22614(P2007−22614)
【出願日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【出願人】(000134257)NECトーキン株式会社 (1,832)
【Fターム(参考)】