説明

受信波の相関行列算出装置及び受信波の相関行列算出方法、並びに波源方向推定装置及び波源位置推定装置

【課題】波源の帯域幅が狭い場合にも波源相互相関値を低減することができる受信波の相関行列算出装置を提供する。
【解決手段】受信波の相関行列算出装置は、アレーアンテナ24aにより電波を受信して相関行列を算出する。受信波の相関行列算出装置は、受信波の各周波数における方向行列を所定の周波数における方向行列へ変換し、所定の周波数における方向行列の位相を回転し、位相回転された方向行列を周波数平均して平均化された相関行列を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、受信波の相関行列算出装置及び受信波の相関行列算出方法、並びに波源方向推定装置及び波源位置推定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地上デジタル放送機器、携帯電話、電子キー等の様々な無線機器の使用が日常化してきており、希望の相手からの電波を受信するために伝播特性測定の必要性が高まっている。また、反射、回折、散乱により電波の伝播経路が複数となるマルチパスではそれぞれの経路の電波が互いに干渉して受信レベルが激しく変動する。
【0003】
例えば、車両においては、無線通信により車両に固有のIDコードを発信可能な電子キーを車両のキーとして使用する電子キーシステムが搭載されている。この電子キーシステムでは、電子キーから発信されたIDコードを車両が受信すると、車両が電子キーのIDコードと自身に予め登録されているIDコードとを照合するID照合を行い、これらIDコードが一致してID照合が成立すれば、車載機器の制御、例えば車両のドアロックの施解錠やエンジンの始動が許可又は実行される。この電子キーシステムでは、車両室内において、マルチパスによりコヒーレントな複数波が同時に入射し、波源と受信アレーアンテナとの距離が短く近傍波源として取り扱う必要がある。また、電子キーの位置が車内と車外とのいずれにあるかで車載機器の制御を切り分けている場合には、車両からのIDコードの返信要求を車内と車外とで異なるタイミングで発信して対応している。そこで、車両が受信した電子キーからの電波の波源の位置を推定できれば、IDコードの返信要求を異なるタイミングで発信する必要がなくなるため、波源位置推定が求められている。
【0004】
波源位置推定を行う方法としては、MUSIC(MUltiple SIgnal Classification)法やESPRIT(Estimation of Signal Parameters visa Rotational Invariance Techniques)法等の固有値展開に基づく方法がある。しかしながら、車両室内のようなコヒーレント波の推定を行うためには、相関行列のランクを回復するために空間平均法、周波数平均法等の前処理を必要とする(例えば、非特許文献1参照)。
【0005】
上記のMUSIC法では、コヒーレント波には元々対応していないため、コヒーレント波の位相関係は受信位置で異なるので、受信点を平行移動させて相関値を求める空間平均法を用いて波源相互相関値を低減していた。ところが、球面波を受信した場合には等間隔アレーであるにも関わらず、素子ごとの位相差が異なる仮想的な不等間隔アレーとして処理することとなるため、等間隔アレーを前提としている空間平均法をそのまま適用することができない。そこで、補間MUSIC法という方法が提案されているが、平均化処理のためにアンテナ素子を多数用意する必要があった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】菊間信良著「アレーアンテナによる適応信号処理」科学技術出版
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一方、波源相互相関値を低減する方法として周波数平均法を用いることが考えられる。この周波数平均法においては、周波数範囲が広い場合に周波数ごとの方向ベクトルの差が大きくなるため、推定精度が劣化するという問題点があった。この問題を解決する方法として、CSS(Coherent Signal−Subspace)法が提案されている。CSS法はアレー形状に拠らないため、近傍波源に対しても適用可能であり、空間平均法のように平均化処理のためにアレー全体のアンテナ素子数を増やす必要がなく、CSS法は空間平均法と比べ、アンテナ素子数が削減できることとなり、特に平面アレーにおいては素子数削減効果が大きいことが特徴である。しかしながら、実際に装置に適用するにあたっては電波法によって広い帯域の電波を発信することは困難であり、狭い帯域幅の電波をやりとりすることとなる。発明者らは、CSS法について検討を行い、波源の帯域幅が狭い場合には波源相互相関値が十分に低減されず、CSS法による前処理では推定精度が劣化することを確認した。また、波源相互相関値を低減させて、信号を読み出せば、通信品質を向上させることができる。そこで、波源の帯域幅が狭い場合にも波源相互相関値を低減することができる相関行列算出装置及び相関行列算出方法が求められていた。また、算出された相関行列に基づいて波源の方向や位置を推定する波源方向又は波源位置推定装置が求められていた。
【0008】
この発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、波源の帯域幅が狭い場合にも波源相互相関値を低減することができる受信波の相関行列算出装置及び受信波の相関行列算出方法、並びに波源方向推定装置及び波源位置推定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以下、上記目的を達成するための手段及びその作用効果について説明する。
請求項1に記載の発明は、複数の受信素子により電波又は音波を受信して相関行列を算出する受信波の相関行列算出装置において、受信波の各周波数における方向行列を所定の周波数における方向行列へ変換する方向行列変換手段と、所定の周波数における方向行列の位相を回転する位相回転手段と、位相回転された方向行列を含む相関行列を周波数平均して平均化された相関行列を算出する周波数平均手段とを備えることをその要旨としている。
【0010】
同構成によれば、複数の受信素子により電波又は音波を受信して相関行列を算出するにあたって、方向行列変換手段により各周波数における方向行列を所定の周波数における方向行列へ変換し、位相回転手段により所定の周波数における方向行列の位相を回転し、周波数平均手段により平均化された相関行列を算出する。従来のCSS(Coherent Signal−Subspace)法による相関行列の算出では、波源の帯域幅が狭い場合には伝播による位相回転が小さく、波源相互相関値が十分に低減されなかった。しかし、本装置では、位相回転手段により方向行列に位相回転が生じるため、波源相互相関値を低減することができる。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の受信波の相関行列算出装置において、受信波の波源のおおよその方向を推定する初期方向推定手段と、方向推定された受信波の各周波数における方向行列を算出する方向行列算出手段とを備えることをその要旨としている。
【0012】
同構成によれば、まず初期方向推定手段により従来から行われている、例えば周波数平均法を前処理に用いたMUSIC(MUltiple SIgnal Classification)法等により受信波の波源の方向を大まかに推定し、方向行列算出手段により方向推定された受信波の各周波数における方向行列を算出する。そして、前記方向行列を用いて方向行列変換手段により前記方向行列を所定の周波数における方向行列へ変換することにより、変換時に発生する誤差を低減することができる。
【0013】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の受信波の相関行列算出装置において、受信波の波源のおおよその位置を推定する初期位置推定手段と、位置推定された受信波の各周波数における方向行列を算出する方向行列算出手段とを備えることを要旨としている。
【0014】
同構成によれば、まず初期位置推定手段により従来から行われている、例えば周波数平均法を前処理に用いたMUSIC法等により受信波の波源の位置を大まかに推定し、方向行列算出手段により位置推定された受信波の各周波数における方向行列を算出する。そして、前記方向行列を用いて方向行列変換手段により前記方向行列を所定の周波数における方向行列へ変換することにより、変換時に発生する誤差を低減することができる。
【0015】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか一項に記載の受信波の相関行列算出装置において、前記方向行列変換手段による所定の周波数における方向行列への変換と前記位相回転手段による位相の回転とを同時に行うことをその要旨としている。
【0016】
同構成によれば、方向行列変換手段による所定の周波数における方向行列への変換と位相回転手段による位相の回転とを同時に行うことで、演算処理の回数を減らすことができ、演算を簡略化することができる。
【0017】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれか一項に記載の受信波の相関行列算出装置において、前記方向行列変換手段は、受信波の中心周波数における方向行列への変換を行うことを要旨としている。
【0018】
同構成によれば、方向行列変換手段による変換後の方向行列を受信波の中心周波数における方向行列とすることで、変換誤差を小さくすることができる。
請求項6に記載の発明は、複数の受信素子により電波又は音波を受信して相関行列を算出する受信波の相関行列算出方法において、受信波の各周波数における方向行列を所定の周波数における方向行列へ変換する方向行列変換と、所定の周波数における方向行列の位相を回転する位相回転と、位相回転された方向行列を含む相関行列を周波数平均して平均化された相関行列を算出する周波数平均とを行うことをその要旨としている。
【0019】
同方法によれば、複数の受信素子により電波又は音波を受信して相関行列を算出するにあたって、方向行列変換により受信波の各周波数における方向行列を所定の周波数における方向行列へ変換し、位相回転により所定の周波数に対する方向行列の位相を回転し、周波数平均により平均化された相関行列を算出する。従来のCSS法による相関行列の算出では、波源の帯域幅が狭い場合には伝播による位相回転が小さく、波源相互相関値が十分に低減されなかった。しかし、本方法では、位相回転により方向行列に位相回転が生じるため、波源相互相関値を低減することができる。
【0020】
請求項7に記載の発明は、請求項1、2、4、及び5のいずれか一項に記載の受信波の相関行列算出装置が算出した相関行列に基づいて受信波の波源の方向を推定する波源方向推定手段を備えることを特徴とする波源方向推定装置であることをその要旨としている。
【0021】
同構成によれば、方向行列の位相を回転させることにより、波源相互相関値を低減した相関行列に基づいて、波源方向推定手段によりMUSIC法等により波源方向を推定する。よって、高精度な波源の方向推定が可能となる。
【0022】
請求項8に記載の発明は、請求項1、3、4、及び5のいずれか一項に記載の受信波の相関行列算出装置が算出した相関行列に基づいて受信波の波源の位置を推定する波源位置推定手段を備えることを特徴とする波源位置推定装置であることをその要旨としている。
【0023】
同構成によれば、方向行列の位相を回転させることにより、波源相互相関値を低減した相関行列に基づいて、波源位置推定手段によりMUSIC法等により波源位置を推定する。よって、高精度な波源の位置推定が可能となる。
【0024】
請求項9に記載の発明は、請求項2、4、及び5のいずれか一項に記載の受信波の相関行列算出装置が算出した相関行列に基づいて前記波源の方向を推定する波源方向推定手段を備える波源方向推定装置であって、前記波源方向推定手段は、前記初期方向推定手段による方向推定から前記相関行列の算出までの処理を複数回繰り返させ、算出された相関行列に基づいて前記波源の方向を推定することをその要旨としている。
【0025】
同構成によれば、方向行列の位相を回転させることにより、波源相互相関値を低減した相関行列に基づいて、波源方向推定手段によりMUSIC法等により波源方向を推定する。そして、この推定された波源方向を初期推定方向として相関行列の算出処理を繰り返し行うことによって、繰り返し回数に伴って精度がさらに向上されて高精度な波源の方向推定が可能となる。
【0026】
請求項10に記載の発明は、請求項3〜5のいずれか一項に記載の受信波の相関行列算出装置が算出した相関行列に基づいて前記波源の位置を推定する波源位置推定手段を備える波源位置推定装置であって、前記波源位置推定手段は、前記初期位置推定手段による位置推定から前記相関行列の算出までの処理を複数回繰り返させ、算出された相関行列に基づいて前記波源の位置を推定することをその要旨としている。
【0027】
同構成によれば、方向行列の位相を回転させることにより、波源相互相関値を低減した相関行列に基づいて、波源位置推定手段によりMUSIC法等により波源位置を推定する。そして、この推定された波源位置を初期推定位置として相関行列の算出処理を繰り返し行うことによって、繰り返し回数に伴って精度がさらに向上されて高精度な波源の位置推定が可能となる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、波源の帯域幅が狭い場合にも波源相互相関値を低減することができる受信波の相関行列算出装置及び受信波の相関行列算出方法、並びに波源方向推定装置及び波源位置推定装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】電子キーシステムの構成を示すブロック図。
【図2】車両の通信エリアを示す上面図。
【図3】(a)アレーアンテナと波源との位置関係を示す図、(b)波源面(z=zl)を示す図、(c)アレー面(z=0)を示す図。
【図4】シミュレーション条件を示す図。
【図5】従来の信号対雑音比と位置推定誤差との関係を示す図。
【図6】本実施形態の信号対雑音比と位置推定誤差との関係を示す図。
【図7】従来の初期位置推定誤差と位置推定誤差との関係を示す図。
【図8】本実施形態の初期位置推定誤差と位置推定誤差との関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明にかかる相関行列算出装置及び相関行列算出方法を電子キーシステムに適用した一実施形態について図1〜図8を参照して説明する。
図1に示されるように、車両2には、例えば運転者が実際に車両キーを操作しなくてもドアロックの施解錠やエンジンの始動及び停止等の車両動作を行うことが可能な電子キーシステムが搭載されている。電子キーシステムは、キー固有のIDコードを無線通信で発信可能な電子キー1が車両キーとして使用されている。電子キーシステムは、車両2からIDコード返信要求としてリクエスト信号Srqを発信させ、このリクエスト信号Srqを電子キー1が受信すると、それに応答する形で電子キー1が自身のIDコードを含ませたIDコード信号Sidを狭域無線通信により車両2に返信し、電子キー1のIDコードが車両2のIDコードと一致すると、ドアロックの施解錠やエンジンの始動及び停止が許可又は実行されるシステムである。
【0031】
電子キーシステムを以下に説明すると、車両2には、電子キー1との間で狭域無線通信を行う際にID照合を行う照合ECU(Electronic Control Unit)21と、車両2の状態を管理するメインボディECU31とが設けられている。照合ECU21には、車両2の室内天井に埋設されて(図2参照)車外及び車内にUHF(Ultra High Frequency)帯の信号を発信及び受信可能な通信機24が接続されている。通信機24には、複数のアンテナ素子からなるアレーアンテナ24aが搭載されている。照合ECU21には、例えばドアロック施解錠等を管理するメインボディECU31が車内LAN(Local Area Network)30を介して接続されている。
【0032】
一方、電子キー1には、車両2との間で電子キーシステムに準じた無線通信を行う際のコントロールユニットとして通信制御部11が設けられている。通信制御部11は、固有のキーコードとしてIDコードが記憶されたメモリ11aを備えている。通信制御部11には、外部で発信されたUHF帯の信号を受信可能な受信部12と、通信制御部11の指令に従いUHF帯の信号を発信可能な発信部13とが接続されている。
【0033】
照合ECU21は、通信機24からUHF帯のリクエスト信号Srqを間欠的に発信させ、車両2を含む周辺に通信エリアAを形成する(図2参照)。電子キー1がこの通信エリアAに入り込んでリクエスト信号Srqを受信部12で受信すると、電子キー1はリクエスト信号Srqに応答する形で、自身のメモリ11aに登録されたIDコードを含ませたUHF帯のIDコード信号Sidを発信部13から返信する。照合ECU21は、通信機24でIDコード信号Sidを受信すると、IDコード信号Sidを発信した電子キー1の位置を位置推定部21bにより推定する。位置推定部21bが受信波の相関行列算出装置であるとともに波源位置推定装置に相当する。照合ECU21は、自身のメモリ21aに登録されたIDコードと電子キー1のIDコードとを照らし合わせてID照合を行う。照合ECU21は、電子キー1が車外(A−Ai)に位置すると推定して照合が成立する(車外照合成立)と、メモリ21aに車外照合フラグを一定時間立てて、メインボディECU31を介してドアロック装置38によるドアロックの施解錠を許可又は実行する。
【0034】
また、電子キーシステムには、エンジン始動停止操作の際に実際の車両キー操作を必要とせずに単なるスイッチ操作のみでエンジン始動停止操作を行うことが可能な機能としてワンプッシュエンジンスタートシステムがある。このワンプッシュエンジンスタートシステムを以下に説明すると、車両2には、照合ECU21のID照合成立結果を基に、エンジンの点火制御及び燃料噴射制御を行うエンジンECU32が設けられている。エンジンECU32は、車内LAN30を通じて照合ECU21等の各種ECUに接続されている。車両2の運転席には、車両2の電源状態(電源ポジション)を切り換える際に操作されるエンジンスイッチ35が設けられている。
【0035】
照合ECU21は、車外照合が成立してドアロックが解錠された後、ドアが開けられて運転者が乗車したことを例えばカーテシスイッチ37で認識すると、通信機24からリクエスト信号Srqを発信して通信エリアAを形成する。照合ECU21は、電子キー1がこの通信エリアAに入り込んで返信してきたIDコード信号Sidを通信機24で受信すると、IDコード信号Sidを発信した電子キー1の位置を位置推定部21bにより推定する。照合ECU21は、自身に登録されたIDコードと電子キー1のIDコードとを照らし合わせてID照合を行う。照合ECU21は、電子キー1が車内(Ai)に位置すると推定して照合が成立する(車内照合成立)と、メモリ21aに車内照合フラグを立てる。このとき、メインボディECU31は、エンジンスイッチ35が押圧操作されると、車両2の電源状態をオフ状態からACC(Accessory)オン状態やIG(Ignition)オン状態に切り換え可能とする。
【0036】
メインボディECU31は、エンジンが停止している際にブレーキペダルが踏み込み操作された状態でエンジンスイッチ35が押圧操作されたことを検出すると、照合ECU21に車内照合成立の有無を確認する。メインボディECU31は、照合ECU21から車内照合が成立の旨の通知を受ければ車内照合が成立済みであることを認識して、停止状態のエンジンを始動すべくエンジンECU32に起動信号を出力する。起動信号を受け付けたエンジンECU32は、車内照合結果を確認し、点火制御及び燃料噴射制御を開始してエンジンを始動する。一方、メインボディECU31は、エンジンが稼働している際にエンジンスイッチ35が押圧操作されたことを検出すると、車両2が停止していることを条件にエンジンを停止状態にする。
【0037】
次に、照合ECU21の位置推定部21bによる位置推定方法について図3〜図8を参照して説明する。本発明では、MUSIC(MUltiple SIgnal Classification)法により位置推定を行い、前処理としてCSS(Coherent Signal−Subspace)法を改良したMCSS(Modified CSS)法を行う。よって、MUSIC法、CSS法、MCSS法の順番で説明する。なお、位置推定部21bが、初期位置推定手段、方向行列算出手段、方向行列変換手段、位相回転手段、周波数平均手段、及び波源位置推定手段として機能する。
【0038】
<平面アレーにおける球面波モードベクトルMUSIC法>
図3(a)、図3(b)、図3(c)は(x,y,z)=(x,y,z)=βに位置する第l波の波源とアレーアンテナとの位置関係を示した図である。L波の到来波がz=0のxy平面上のN×N素子長方形アレーアンテナに入射した場合、G個の周波数f(g=1,2,…,G)における各アンテナの受信信号は式(1)のように表すことができる。
【0039】
【数1】

ここで、F(f)は周波数fにおけるl番目の波源の振幅である。式(2)はl番目の波源と(n,n)番のアレー素子との距離である。式(3)はl番目の波源の周波数fにおける伝搬による位相遅れである。
【0040】
式(1)を用いて入力ベクトルX(f)を次のように定義する。
【0041】
【数2】

このとき、周波数fにおける振幅ベクトルF(f)、位相回転行列Φ(f)、平面アレーの方向行列A(f)をそれぞれ次のように定義する。
【0042】
【数3】

ただし、式(10)はl番目の波源の周波数fにおける(n,n)番のアレー素子の基準位置に対する位相遅れであり、φ(f,β)は周波数fにおけるl番目の波源から基準位置までの伝搬による位相遅れである。なお、Tは転置を表し、diag[…]は対角行列を表す。この時、平面アレーの入力ベクトルは次のように表すことができる。
【0043】
【数4】

ここで、W(f)はN(=N×N)次元の雑音ベクトルである。更に、式(13)より、入力ベクトルX(f)の相関行列Rxx(f)は次式のように表される。
【0044】
【数5】

ここで、E[・]は期待値を表す。各アンテナの内部雑音は無相関で、スナップショット数が無限である場合、内部雑音電力をσとすると、W(f)=σI(I:単位行列)となり、MUSIC法による推定結果に影響を与えない。実際にはスナップショット数は有限であり、W(f)は単位行列の実数倍とはならず、推定結果に誤差が生じる。
【0045】
また、全波源がコヒーレントであるとすると、各波源の位相差は周波数によらず一定と考えられるため次式のようになる。
【0046】
【数6】

ここで、fは中心周波数を表す。よって、全波源がコヒーレントである場合、相関行列Rxx(f)は次式のように表すことができる。
【0047】
【数7】

<CSS法>
式(18)で導かれたRxx(f)は、波源がコヒーレントである場合にはrank(S(f))=1であるため、MUSIC法を適用することができない。よって、平均化処理によりランク回復を図る。コヒーレントな広帯域信号を扱う上でよく知られる方法であるコヒーレント信号部分空間(CSS)法により、平均化処理を行う。
【0048】
まず、次のようにN次のベクトルY(f)を定義する。
【0049】
【数8】

ここで、T(f)は焦点行列と呼ばれ、N×N次の変換行列であり、次の関係式を満たすよう選ばれる。
【0050】
【数9】

よって、A(f),A(f)を得るために、まず初期推定を行いおおよその波源位置を知る必要がある。初期推定の方法としては、周波数平均法を前処理としたMUSIC法等が挙げられる。ただし、システムによってはおおよその波源位置が既知である場合も考えられる。このような場合には、必ずしも初期推定を行う必要は無い。また、後述する変換誤差の影響を考慮する必要が無い場合には、適当な波源位置を想定しA(f),A(f)を決定することで、初期推定を行わないようにしてもよい。
【0051】
このようにして求められたT(f),Y(f)を用い、次式で与えられる相関行列Ryyバーを求める。
【0052】
【数10】

よって、G≧LとするとΦ(f)(g=1,…,G)の独立性が高い場合には式(23)のランクがLとなり、MUSIC法が適用可能となる。しかし、周波数帯域幅が十分でない場合、Φ(f)は周波数によらずほぼ同一となり、各波源の相互相関値が十分に低下しない。この場合、雑音行列Wバーによる推定誤差が大きくなる。
【0053】
<MCSS法>
MCSS法では、CSS法における変換行列T(f)が満たすべき式(20)を次のように変更する。
【0054】
【数11】

ここで、Ω(f)は方向行列A(f)の各列の位相回転を表す対角行列である。この時、相関行列Ryyバーは次式の通りとなる。
【0055】
【数12】

以上より、CSS法はMCSS法においてΩ(f)=Iの場合と等しくなり、MCSS法はCSS法を拡張したものと考えられる。周波数帯域幅が狭い場合、Φ(f)による位相変化量はわずかであるが、Ω(f)を適切に選ぶことで各波源の相互相関値は低下し、推定精度が向上する。例えば、Φ(f)=Φ(f)と仮定すると、Ω(f)を次式のように選べば各波源の相互相関値はすべて0となる。なお、δは任意の実定数である。
【0056】
【数13】

また、Φ(f)≠Φ(f)であったとしても、Φ(f)の値は式(11)により求められるため、これを考慮してΩ(f)を決定することで、やはり波源の無相関化が可能である。
【0057】
<初期推定誤差と繰り返し推定>
通常、初期推定値には誤差が含まれる。この誤差を含む初期推定位置β'より得られる方向行列をA'(f),A'(f)とし、これらを用いて算出されるMCSS法における変換行列をT'(f)とする。このT'(f)を用い真の波源位置を表す方向行列A(f)を変換すると次式のように表される。
【0058】
【数14】

式(30)では、変換誤差行列P(f)が発生する。CSS法においてはΩ(f)=Iとなるが、やはり同様に変換誤差行列が発生する。よって、T'(f)を用いてMCSS法を適用した相関行列Ryy’バーは、熱雑音が無いと仮定すると次式のように表すことができる。
【0059】
【数15】

Pバー(式(32))は変換誤差のために発生する項であり、熱雑音と同様に推定誤差の原因となる。よって、各波源の相互相関値が高い場合にはPバーに起因する推定誤差が大きくなる。条件によっては、Ryy’バー(式(31))を用いて推定し得られる位置β''は初期推定位置β'よりも真の波源位置から遠くなる可能性がある。CSS法では各波源の相互相関値が十分に低減できない可能性があるが、MCSS法では各波源の相互相関値を0とすることが可能であるため、β''がβ'より真の波源位置から遠くなる可能性を低減できる。
【0060】
また、β''がβ'より真の波源位置に近くなった場合、β''を初期推定値として再びMCSS法を適用すると、変換誤差行列P(f),Pバーは小さくなり、推定結果β'''は更に真の波源位置に近づくと考えられる。つまり、MCSS法を繰り返し適用することにより、さらに推定精度を向上できる。
【0061】
<シミュレーション結果と検討>
シミュレーション条件を図4に示す。本検討では波源数は既知とし、真の波源位置から最も近い推定位置までの距離を推定誤差として、二乗平均平方根誤差(RMSE:Root Mean Square Error)による定量評価を実施した。また、位置推定に失敗した事象はRMSEの計算に含めないこととした。ここでは、位置推定に失敗した事象を
[1]スペクトルサーチ時にピーク数<波源数となった場合
[2]それぞれの真の波源位置から最も近い推定位置が重複する場合
として定義した。また、z方向の位置は既知とし、xy平面上での推定精度について検討を行う。よって、算出される位置誤差のRMSE値には、z方向に関する推定誤差は含まれないこととする。
【0062】
<初期推定誤差が無い場合の推定特性比較>
CSS法、MCSS法の性能限界を評価するため、焦点行列T(f)作成のための方向行列A(f),A(f)の位置は真の波源位置と一致させ、初期推定誤差は無いものとした。図5はCSS法のSNR−位置推定誤差特性を表した図である。比帯域幅が狭い場合には、同一のSNRにおいて推定誤差が大きいことがわかる。
【0063】
図6は、MCSS法を適用し上記評価を行った結果である。Ω(f)は式(29)を用いて求めており、Φ(f)による位相回転については考慮していない。図6より、比帯域が狭い場合でも推定誤差の増加が無く、0.136%の比帯域でCSS法・比帯域幅13.6%の場合と同等の特性が得られることがわかる。
【0064】
<初期推定誤差がある場合の推定特性比較>
初期推定誤差のために変換誤差が生じ、これが推定誤差の原因となることを示した。また、各波源の相互相関値により推定誤差が変化することを示した。よって、初期推定誤差を与えた場合の推定特性について検討を行う。なお、本検討では、初期推定誤差は第1波源には−x方向、第2波源には−y方向に与え、熱雑音のない環境でシミュレーションを行う。また、図7で比帯域による特性差が明確になるように、10回の繰り返し推定を行った結果について比較を行う。
【0065】
図7はCSS法適用時の初期推定誤差と推定誤差との関係を示す図である。基準線より右下の領域はCSS法により推定精度が向上し、基準線より左上の領域はCSS法により初期推定値より誤差が増大したことを意味する。つまり、基準線より左上の領域ではCSS法を適用しない方が、推定精度が高いこととなる。図7より、本条件においてCSS法により推定精度が改善するには、比帯域は13.6%より広くとる必要があることがわかる。図8はMCSS法適用時の初期推定誤差と推定誤差との関係を示す図である。MCSS法では比帯域が0.136〜13.6%の場合、推定精度が改善することがわかる。以上より、MCSS法ではCSS法より狭い比帯域で、推定精度が改善される。
【0066】
さて、狭帯域かつコヒーレントな近傍波源を、平面アレーによりMUSIC法で位置推定する場合に有効な前処理の手法として、CSS法を改良したMCSS法を説明した。シミュレーションによる検討では、CSS法とMCSS法との特性比較を行った。まず、初期推定誤差が無いと仮定した場合の位置推定精度について比較を行い、比帯域が狭くCSS法では推定精度が劣化する状況においても、MCSS法では良好な推定精度が得られる。次に、初期推定誤差が存在する場合についても比較を行い、比帯域が狭い場合にはCSS法に対してMCSS法の推定精度が良好である。
【0067】
以上、説明した実施形態によれば、以下の作用効果を奏することができる。
(1)アレーアンテナ24aを備えた通信機24により電波を受信して、位置推定部21bにより相関行列を算出するにあたって、まず従来から行われている、周波数平均法を前処理として用いたMUSIC法により受信波の波源の位置を大まかに推定し、位置推定された受信波の各周波数における方向行列を算出する。そして、位置推定部21bにより前記方向行列を所定の周波数における方向行列へ変換し、この所定の周波数における方向行列の位相を回転し、周波数平均して相関行列を算出する。従来のCSS法による相関行列の算出では、波源の帯域幅が狭い場合には伝播による位相回転が小さく、波源相互相関値が十分に低減されなかった。しかし、本装置では、方向行列に位相回転が生じるため、波源相互相関値を低減することができる。
【0068】
(2)受信波の各周波数における方向行列を中心周波数における方向行列に変換することにより、変換誤差を小さくすることができる。
(3)方向行列の位相を回転させることにより、波源相互相関値を低減した相関行列に基づいて波源位置を推定する。よって、高精度な波源の位置推定が可能となる。
【0069】
(4)推定された波源の位置を初期推定位置として相関行列の算出処理を繰り返し行うことによって、繰り返し回数に伴って精度がさらに向上されて高精度な波源の位置推定が可能となる。
【0070】
なお、上記実施形態は、これを適宜変更した以下の形態にて実施することができる。
・上記実施形態において、式(20),(21)を満たす変換行列T(f)は次式により得ることができる。
【0071】
【数16】

ここで、U(f),V(f)は、式(34)を特異値分解した場合の左特異ベクトル、右特異ベクトルである。
【0072】
・上記実施形態において、変換行列T(f)は式(21)を満たさなくてもよい。
・上記実施形態において、式(20)を満たし、式(21)を満たさない変換行列T(f)は、例えば次式により得ることができる。なお、は一般逆行列を表す。
【数17】

【0073】
・上記実施形態において、Ω(f)は式(28)においてΦ(f)=Φ(f)の場合に無相関となる行列の例であり、その他の方法により算出してもよい。また、Ω(f)は、波源が無相関とならなくても、波源相互相関値が低減されるようなものであればよい。
【0074】
・上記実施形態では、波源位置推定をMUSIC法により行ったが、MUSIC法に限らず、ESPRIT法等の他の波源位置推定方法により行ってもよい。
・上記実施形態では、初期位置推定を、周波数平均法を前処理としたMUSIC法により行ったが、ビームフォーマ法等の他の波源位置推定方法により行ってもよい。
【0075】
・上記実施形態において、焦点行列への変換と位相の回転とを別々に行うようにしてもよい。
・上記実施形態では、推定された波源方向を初期方向として相関行列の算出処理を10回繰り返し行うようにしたが、所望の推定精度に合わせて適宜変更可能である。また、1回で所望の推定精度を得ることができれば、繰り返さなくてもよい。
【0076】
・上記実施形態では、波源位置推定装置を電子キーシステムの電子キー1の位置推定に適用したが、電子キーシステムに限らず、種々の通信機器に適用してもよい。
・上記実施形態では、波源位置推定装置に初期推定手段及び方向行列算出手段を備えたが、初期推定手段及び方向行列算出手段を省略してもよい。
【0077】
・また、波源位置推定手段を備えた波源位置推定装置に限らず、波源方向推定手段を備えた波源方向推定装置として種々の通信機器に適用してもよい。
・また、波源方向推定手段を備えた波源方向推定装置は、初期方向推定手段及び方向行列算出手段を設けてもよいが、初期方向推定手段及び方向行列算出手段を省略してもよい。
【0078】
・また、波源位置推定装置及び波源方向推定装置に限らず、相関行列算出装置として種々の通信機器に適用してもよい。この場合、波源相互相関値が低減された信号を読み出せば、通信品質を向上させることができる。
【0079】
・波源位置推定装置、波源方向推定装置、及び相関行列算出装置等の装置に限らず、波源位置推定方法、波源方向推定方法、及び相関行列算出方法を、アレーアンテナを備えた種々の通信機器の演算に適用してもよい。
【0080】
・上記構成において、図1に示されるように、電子キー1に施錠スイッチ19a及び解錠スイッチ19bを設け、この施錠スイッチ19a及び解錠スイッチ19bを操作することで、車両2へ施錠信号Sl又は解錠信号Sulを発信して、車両2のドアロックの解錠又は施錠を可能としてもよい。
【0081】
・電子キーシステムで使用する各通信の周波数はどの周波数の電波を使用してもよい。
・上記実施形態において、波源は電波を発信する装置であったが、これに限らず、例えばスピーカーのような音波を発信する装置であっても良い。
【0082】
・上記実施形態において、受信素子は電波を受信する装置であったが、これに限らず、例えばマイクロホンのような音波を受信する装置であっても良い。
・上記実施形態では、電波に適用したが、音波に適用してもよい。
【0083】
次に、前記実施形態から把握できる技術的思想をその効果と共に記載する。
(イ)請求項6に記載の受信波の相関行列算出方法において、受信波の波源のおおよその方向を推定する初期方向推定と、方向推定された受信波の各周波数における方向行列を算出する方向行列算出とを行うことを特徴とする受信波の相関行列算出方法。
【0084】
同方法によれば、まず初期方向推定を従来から行われている、例えば周波数平均法を前処理に用いたMUSIC法等により受信波の波源の方向を大まかに推定し、方向行列算出により方向推定された受信波の各周波数における方向行列を算出する。そして、前記方向行列を用いて前記方向行列変換により受信波の各周波数における方向行列を所定の周波数における方向行列へ変換することにより、変換の際に発生する誤差を低減することができる。
【0085】
(ロ)請求項6に記載の受信波の相関行列算出方法において、受信波の波源のおおよその位置を推定する初期位置推定と、位置推定された受信波の各周波数における方向行列を算出する方向行列算出とを行うことを特徴とする受信波の相関行列算出方法。
【0086】
同方法によれば、まず初期方向推定を従来から行われている、例えば周波数平均法を前処理に用いたMUSIC法等により受信波の波源の位置を大まかに推定し、方向行列算出により位置推定された受信波の各周波数における方向行列を算出する。そして、前記方向行列を用いて前記方向行列変換により受信波の各周波数における方向行列を所定の周波数における方向行列へ変換することにより、変換の際に発生する誤差を低減することができる。
【0087】
(ハ)請求項6、付記(イ)、及び(ロ)に記載の受信波の相関行列算出方法において、所定の周波数における方向行列への変換と位相の回転とを同時に行うことを特徴とする受信波の相関行列算出方法。
【0088】
同方法によれば、所定の周波数における方向行列への変換と位相の回転とを同時に行うことで、演算処理の回数を減らすことができ、演算を簡略化することができる。
(ニ)請求項6、付記(イ)、(ロ)、及び(ハ)のいずれか一項に記載の受信波の相関行列算出方法において、前記方向行列変換は、受信波の中心周波数における方向行列への変換を行うことを特徴とする受信波の相関行列算出方法。
【0089】
同方法によれば、変換後の方向行列を受信波の中心周波数における方向行列とすることで、変換誤差を小さくすることができる。
(ホ)請求項6、付記(イ)、(ハ)、及び(ニ)のいずれか一項に記載の受信波の相関行列算出方法により算出した相関行列に基づいて受信波の波源の方向を推定する波源方向推定を行うことを特徴とする波源方向推定方法。
【0090】
同方法によれば、波源の位相回転を抑制し、波源相互相関値を低減した相関行列に基づいて、波源方向推定をMUSIC法等により波源方向を推定する。よって、波源相互相関値が低減された相関行列を用いるため、高精度な波源の方向推定が可能となる。
【0091】
(へ)請求項6、付記(ロ)、(ハ)、及び(ニ)のいずれか一項に記載の受信波の相関行列算出方法により算出した相関行列に基づいて受信波の波源の位置を推定する波源位置推定を行うことを特徴とする波源位置推定方法。
【0092】
同方法によれば、波源の位相回転を抑制し、波源相互相関値を低減した相関行列に基づいて、波源位置推定をMUSIC法等により波源位置を推定する。よって、波源相互相関値が低減された相関行列を用いるため、高精度な波源の位置推定が可能となる。
【0093】
(ト)付記(イ)、(ハ)、及び(ニ)のいずれか一項に記載の受信波の相関行列算出方法により算出した相関行列に基づいて前記波源の方向を推定する波源方向推定を行う波源方向推定方法であって、前記波源方向推定は、前記初期方向推定から前記相関行列の算出までの処理を複数回繰り返させ、算出された相関行列に基づいて前記波源の方向を推定することを特徴とする波源方向推定方法。
【0094】
同方法によれば、波源の位相回転を抑制し、波源相互相関値を低減した相関行列に基づいて、波源位置推定をMUSIC法等により波源方向を推定する。そして、この推定された波源方向を初期方向として相関行列の算出処理を繰り返し行うことによって、繰り返し回数に伴って精度がさらに向上されて高精度な波源の方向推定が可能となる。
【0095】
(チ)付記(ロ)、(ハ)、及び(ニ)のいずれか一項に記載の受信波の相関行列算出方法により算出した相関行列に基づいて前記波源の位置を推定する波源位置推定を行う波源位置推定方法であって、前記波源位置推定は、前記初期位置推定から前記相関行列の算出までの処理を複数回繰り返させ、算出された相関行列に基づいて前記波源の位置を推定することを特徴とする波源位置推定方法。
【0096】
同方法によれば、波源の位相回転を抑制し、波源相互相関値を低減した相関行列に基づいて、波源位置推定をMUSIC法等により波源位置を推定する。そして、この推定された波源位置を初期位置として相関行列の算出処理を繰り返し行うことによって、繰り返し回数に伴って精度がさらに向上されて高精度な波源の位置推定が可能となる。
【符号の説明】
【0097】
1…電子キー、2…車両、11…通信制御部、11a…メモリ、12…受信部、13…発信部、21…照合ECU、21a…メモリ、21b…位置推定部、24…通信機、24a…アレーアンテナ、35…エンジンスイッチ、38…ドアロック装置、A…通信エリア、Ai…車内エリア、Sid…IDコード信号、Srq…リクエスト信号。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の受信素子により電波又は音波を受信して相関行列を算出する受信波の相関行列算出装置において、
受信波の各周波数における方向行列を所定の周波数における方向行列へ変換する方向行列変換手段と、
所定の周波数における方向行列の位相を回転する位相回転手段と、
位相回転された方向行列を含む相関行列を周波数平均して平均化された相関行列を算出する周波数平均手段とを備える
ことを特徴とする受信波の相関行列算出装置。
【請求項2】
請求項1に記載の受信波の相関行列算出装置において、
受信波の波源のおおよその方向を推定する初期方向推定手段と、
方向推定された受信波の各周波数における方向行列を算出する方向行列算出手段とを備える
ことを特徴とする受信波の相関行列算出装置。
【請求項3】
請求項1に記載の受信波の相関行列算出装置において、
受信波の波源のおおよその位置を推定する初期位置推定手段と、
位置推定された受信波の各周波数における方向行列を算出する方向行列算出手段とを備える
ことを特徴とする受信波の相関行列算出装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の受信波の相関行列算出装置において、
前記方向行列変換手段による所定の周波数における方向行列への変換と前記位相回転手段による位相の回転とを同時に行う
ことを特徴とする受信波の相関行列算出装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の受信波の相関行列算出装置において、
前記方向行列変換手段は、受信波の中心周波数における方向行列への変換を行う
ことを特徴とする受信波の相関行列算出装置。
【請求項6】
複数の受信素子により電波又は音波を受信して相関行列を算出する受信波の相関行列算出方法において、
受信波の各周波数における方向行列を所定の周波数における方向行列へ変換する方向行列変換と、
所定の周波数における方向行列の位相を回転する位相回転と、
位相回転された方向行列を含む相関行列を周波数平均して平均化された相関行列を算出する周波数平均とを行う
ことを特徴とする受信波の相関行列算出方法。
【請求項7】
請求項1、2、4、及び5のいずれか一項に記載の受信波の相関行列算出装置が算出した相関行列に基づいて受信波の波源の方向を推定する波源方向推定手段を備える
ことを特徴とする波源方向推定装置。
【請求項8】
請求項1、3、4、及び5のいずれか一項に記載の受信波の相関行列算出装置が算出した相関行列に基づいて受信波の波源の位置を推定する波源位置推定手段を備える
ことを特徴とする波源位置推定装置。
【請求項9】
請求項2、4、及び5のいずれか一項に記載の受信波の相関行列算出装置が算出した相関行列に基づいて前記波源の方向を推定する波源方向推定手段を備える波源方向推定装置であって、
前記波源方向推定手段は、前記初期方向推定手段による方向推定から前記相関行列の算出までの処理を複数回繰り返させ、算出された相関行列に基づいて前記波源の方向を推定する
ことを特徴とする波源方向推定装置。
【請求項10】
請求項3〜5のいずれか一項に記載の受信波の相関行列算出装置が算出した相関行列に基づいて前記波源の位置を推定する波源位置推定手段を備える波源位置推定装置であって、
前記波源位置推定手段は、前記初期位置推定手段による位置推定から前記相関行列の算出までの処理を複数回繰り返させ、算出された相関行列に基づいて前記波源の位置を推定する
ことを特徴とする波源位置推定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−266293(P2010−266293A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−117084(P2009−117084)
【出願日】平成21年5月13日(2009.5.13)
【出願人】(000003551)株式会社東海理化電機製作所 (3,198)
【出願人】(304021277)国立大学法人 名古屋工業大学 (784)
【Fターム(参考)】