説明

口腔粘膜または皮膚への包帯として使用するためのペースト

本発明は、口腔粘膜または皮膚に塗布することにより包帯を形成するために用い得る、水性賦形剤を含む生体適合性のペーストであって、必須の成分、すなわち、少なくとも80質量%、好ましくは少なくとも95質量%のカオリナイトを含む天然カオリンと、プロピレングリコール、グリセロール、ポリエチレングリコール、ソルビトール、およびそれらのあらゆる混合物を含む群から選択される保湿剤と、無水コロイド状シリカ、セルロース、カルボキシメチルセルロース、グアーガム、キサンタンガム、およびそれらのあらゆる混合物を含む群から選択される、前記賦形剤に含まれる水分と共にヒドロゲルを形成するヒドロゲル形成剤とを含むことを特徴とするペーストに関する。本発明はまた、特に口腔粘膜の出血を止めるための、包帯、とりわけ止血性の包帯としてのこのペーストの使用にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、口腔粘膜または皮膚への包帯剤(dressing)、とりわけ止血性の包帯剤として用い得る、水性賦形剤を含む生体適合性のペーストに関する。
【背景技術】
【0002】
外傷の出血を止めるための、ガーゼおよび絆創膏からなる自動接着性の包帯剤が知られている。
【0003】
外傷に塗布され、迅速に凝固し、乾燥して保護フィルムを形成する、液体の包帯剤もまた知られている。
【0004】
これらの道具は、外傷が治癒するまでその箇所に存在し続けるべきものであり、治癒すると除去されなくてはならないものであるが、外観上の問題を有し得る。それらは、接着部分を剥離することにより、または凝固した包帯剤を擦り取ることにより除去されるが、それは痛みを伴い得る。
【0005】
さらに、出血を止めるためのこれらの道具は、口の湿潤環境においては接着も凝固もしないため、歯科分野には適していない。接着性の包帯剤の接着剤は粘膜には粘着せず、液体ゲルは口のこの湿潤環境においては凝固しない。
【0006】
したがって、処置部位を施術者が目視することを妨害する出血が生じ得る歯科治療、とりわけ歯石除去、虫歯の治療、および印象採得を実施する場合、処置を続け、さらに患者からの出血を避け得るようにするには、血液をなくさなくてはならないだけでなく、血液の流れも止めなくてはならない。
【0007】
この分野において、通常は親水性の綿である吸収性材料からなるパッドが、血液を吸収するためにこれまで用いられている。このタイプの吸収性パッドは、圧迫により出血を止めるために、かつその箇所に保持するために、外傷の上に押し付けなくてはならず、それは患者にとって痛みを伴い得るものである。
【0008】
歯肉溝を広げると同時に歯科処置の際の出血を防ぐための挿入材料として用いることを目的とする、ペースト状の材料が既に知られている。このような材料は、欧州特許第0477244号にさらに詳細に記載されており、前記特許には、特に義歯のための印象採得の際の、実質的に出血また浸出を伴うことなく歯肉溝を広げるために用い得る挿入材料が記載されている。
【0009】
明確に特定された塑性粘度および明確に特定された降伏点がそのような材料について探求されており、これらの材料の構成要素の1つとして特にカオリン系粘土を選択することができ、このカオリン系粘土は前記材料中に65から70重量%の割合で存在する。
【0010】
しかし、このタイプの材料を、非常に特有の接着特性を特に必要とする包帯剤として用いるための試みは行われていない。
【0011】
同様に歯肉退縮を起こすことを目的とする他の材料もまた国際特許出願WO2005/007095に記載されており、この特許出願は歯肉退縮を避けるための材料も記載しており、とりわけ、カオリンのような粘土と止血効果または凝集効果で知られる追加の構成要素とをこの目的のために含む材料を提案している。
【0012】
しかし、ここでもまた、先の文献と同様、歯茎への接着効果を得るため、および真の防御性の包帯剤を形成するための試みは行われていない。
【0013】
さらに、国際特許出願WO96/25915には、歯科診療の際の歯茎の出血を制御するための粘性溶液が記載されている。そのような組成物に存在する必須の構成要素は、止血剤、および、無機充填剤または高分子ポリオールであり得る、前記止血剤の酸性を低下させるための作用物質である。
【0014】
米国特許第6652840B1には、歯茎の出血を制御し、歯茎の治癒を向上させるための組成物が記載されている。
【0015】
これらの組成物は、塩化アルミニウム、硫酸第二鉄、酸化した再生セルロース、硫酸アルミニウムアンモニウム、ゼラチン、および溶媒を好ましくは含む。しかし、ここでもまた、この組成物がその構成要素による止血特性および治癒特性を有していても、この組成物では歯茎への防御性の包帯剤の形成は可能ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】欧州特許第0477244号
【特許文献2】WO2005/007095
【特許文献3】WO96/25915
【特許文献4】米国特許第6652840B1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
この度、本発明の発明者らは、カオリンが様々な他の明確に特定された物質を伴い、かつ口腔粘膜に塗布されると歯科診療の際の出血を止めるための真の包帯剤を得ることを可能にする、新規なペースト状の組成物を見出した。
【0018】
本発明者らはまた、これらの同じ組成物が皮膚への塗布に用い得るものであり、それによりペーストから真の包帯剤を形成することが可能になるということも見出した。
【0019】
したがって、本発明は、先行技術の用具の欠点を克服することを目的としており、外傷に塗布されると、単純なバリア効果により出血を止め、たとえ湿潤環境においても、または水平でない壁に対しても、外傷に対して圧力または接着剤を用いる必要なくその場に留まり、かつ患者に対する痛みを生じさせることなく除去されるペーストを提案することにより、出血を止めることを可能にする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
より詳細には、第1の特徴によると、本発明は、口腔粘膜または皮膚に塗布することにより包帯剤を形成するために用い得る、水性賦形剤を含む生体適合性のペーストに関するものであり、前記ペーストの必須の構成要素は、
少なくとも80重量%、好ましくは少なくとも95重量%のカオリナイトを含む、天然カオリン、
プロピレングリコール、グリセロール、ポリエチレングリコール、ソルビトール、およびそれらの混合物からなる群から選択される保湿剤、
無水コロイド状シリカ、セルロース、カルボキシメチルセルロース、グアーガム、キサンタンガム、およびそれらの混合物からなる群から選択される、前記賦形剤内に存在する水分と共にヒドロゲルを形成するヒドロゲル化剤
を含む。
【0021】
第2の特徴によると、本発明は、包帯剤としての、または包帯剤を調製するための上記ペーストの使用に関するものであり、前記包帯剤は、口腔粘膜または皮膚への塗布を目的としたものである。
【0022】
第3の特徴によると、本発明は、口腔粘膜または皮膚の出血を止めるための処置の方法に関するものであり、この方法は、本発明の第1の特徴の対象を形成するペーストを体の適当な箇所に塗布することからなる。
【0023】
図面を参照する以下の説明的な記載により、本発明はよく理解され、他の特徴およびその利点はより明確になろう。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】実施例1において本発明により得られるペーストのレオロジー流体化の挙動を示す図である。
【図2】遠心分離処理後の、実施例1において本発明により得られるペーストのレオロジー流体化の挙動を示す図である。
【図3】実施例1において本発明により得られるペーストの、5s-1の応力での、時間の関数としての粘度の変化を示す図である。
【図4】実施例1において本発明により得られるペーストのチキソトロピー挙動を示す図である。
【図5】実施例1において本発明により得られるペーストの接着強度(粘性強度とも呼ばれる)の測定を示す曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の様々な特徴において、本発明のペーストは生体適合性のペーストであり、その調製に用いられる水は有利には、外傷に接触させる製品において従来用いられているような、予め精製された水である。
【0026】
このペーストは、必須の構成要素として、天然カオリンと、プロピレングリコール、グリセロール、ポリエチレングリコール、ソルビトール、およびそれらの混合物を含む群から選択される保湿剤と、無水コロイド状シリカ、セルロース、カルボキシメチルセルロース、グアーガム、キサンタンガム、およびそれらの混合物からなる群から選択されるヒドロゲル化剤とを含む。
【0027】
カオリンを実質的に飽和し、かつヒドロゲル化剤の存在によりヒドロゲルを形成するために十分な量で導入された水の存在下において、これらの3つの必須の構成要素は、塗布された場合に口腔粘膜または皮膚への包帯剤の効果を得るのに適しているレオロジー特性および接着(粘性)特性を有する、ペースト状の組成物を得ることを可能にする。
【0028】
当業者にはもちろん、組成物中に存在する必須の構成要素の割合および水の割合が、ヒドロゲル化剤および水和剤に代表される2つの構成要素の性質に従って変化し得るということは理解されよう。
【0029】
カオリンは少なくとも80重量%、および有利には少なくとも95重量%のカオリナイトを含み、本発明のペーストにおける流体吸収剤として作用する。それは医薬品および化粧品において知られている粘土の一般的な特性を有するが、とりわけ、ヒドロゲル化剤および保湿剤と組み合わせると、本発明のペーストに所望の質感およびレオロジー挙動を付与する。
【0030】
(好ましくは精製された)水は、所望の粘度、質感、および外観のペーストを得るために十分な量で導入される。
【0031】
保湿剤は、一方では、製品の視覚的外観を得ること、およびペーストが保存の間に乾燥してしまうことを防ぐことを可能にする。
【0032】
特に、ヒドロゲル化剤およびカオリンに代表される、本発明の他の2つの必須の構成要素と協働して、保湿剤は、ペーストの所望の質感およびレオロジー挙動を得ることを可能にする。ヒドロゲル化剤はさらに、皮膚または口腔粘膜への接着の特性をペーストに付与する。
【0033】
ヒドロゲル化剤は好ましくは無水コロイド状シリカであり、特に好ましくは、およそ200m2/gの比表面積を有する無水コロイド状シリカである。そのような無水コロイド状シリカの例は、DegussaによりAerosil(登録商標)200という標章で市販されている製品である。
【0034】
特に有利な1つの変形において、保湿剤はプロピレングリコールである。
【0035】
上記で説明したように、必須の構成要素の割合はそれらの性質によって変化する。
【0036】
しかし、本発明の特に有利な1つの変形において、ヒドロゲル化剤が無水コロイド状シリカである場合、ペーストは、以下の重量割合の必須の構成要素および水を含む。
カオリン:35から55%、
プロピレングリコール:2から4%、
無水コロイド状シリカ:3から7%、
水:35から46%。
【0037】
カオリンの存在によって、上記で定義した本発明のペーストは、有益な止血特性を既に有している。
【0038】
しかし、組織退縮作用を介してより迅速に出血を止めることに寄与する収斂剤、および/または、血管に対する収縮作用を介して同様により迅速に出血を止めることに寄与する血管収縮剤をこのペーストに添加することは、多くの場合有利であろう。
【0039】
この収斂剤は有利には、塩化鉄または塩化アルミニウムおよび硫酸鉄または硫酸アルミニウム、硫酸アルミニウムカリウム、ならびにそれらの混合物を含む群から選択される。
【0040】
好ましくは、収斂剤は塩化アルミニウムであり、ペーストの総重量に基づいて、有利には5から25重量%、好ましくは約15重量%の濃度で組成物内に存在する。
【0041】
最後に、血管収縮剤、例えばアドレナリンもまた、本発明のペースト内に導入され得る。
【0042】
上記で説明したように、本発明の組成物の価値は、皮膚または口腔粘膜に塗布された場合に包帯剤を形成するそれらの能力である。このためには、有利には以下のようなものである非常に特有のレオロジー特性および接着特性をペーストが有する必要がある。
ペーストが23℃でレオロジー流体化の挙動を有し、
ペーストが、23℃で測定すると3000から4500Pa・s、好ましくは3500から4000Pa・sの静止状態での粘度を有し、
ペーストがチキソトロピー挙動を有し、かつ
ペーストが、23℃および周囲湿度で測定すると、0.3から0.7N、好ましくは0.5から0.6Nの接着強度を有する。
【0043】
このレオロジー流体の挙動は、23℃で測定された110から140Paの降伏応力、ならびに5s-1のせん断速度および23℃の温度で測定された60から90Pa・sの粘度により特徴付けられる。
【0044】
したがって、本発明のペーストは好ましくは、23℃でレオロジー流体化の挙動を有する。これは、応力が加えられると本発明によるペーストの粘度が低下するということを意味する。したがって、静止状態で、本発明のペーストは、23℃で測定すると3000〜4500Pa・sの粘度を有する。この粘度により、ペーストは、たとえ水平でない基板に対しても、流れることなくその箇所に留まることができる。
【0045】
しかし、へらを用いた混合作業に対応する応力のような低い応力を加えると、ペーストの粘度は低下し、何の努力をすることもなく、ペーストを、皮膚または口腔粘膜に塗布し、皮膚または口腔粘膜上にならすことが可能になる。
【0046】
この挙動はまた、必要以上の圧力を加えることなく、手の力のみを用いてシリンジで塗布部位にペーストを塗布することを可能にする。
【0047】
このことは、とりわけ歯科医が使用するための、シリンジ、とりわけ使い捨てのチップを有するシリンジ内に有利には充填される、本発明の組成物の利点を構成する。
【0048】
本発明のペーストはチキソトロピー挙動を有する。すなわち、手による撹拌、またはシリンジからペーストを押し出すための圧力の付与の後であっても、ペーストは、撹拌または圧力の付与が止まると、元の粘度を回復する。
【0049】
さらに、本発明のペーストは、ペーストをその箇所に保持するための圧力を加えることなく、皮膚に、さらには37℃の湿潤環境である口腔粘膜にも接着する。
【0050】
この接着特性は、23℃および周囲湿度で測定された、0.3から0.7Nの接着(粘性)強度に対応する。
【0051】
口の湿度および温度の条件をシミュレートするために37℃および90%の相対湿度で測定したところ、本発明のペーストの接着特性は依然として優れたものであった。
【0052】
好ましくは、本発明のペーストの接着(粘性)強度は0.5から0.6Nである。
【0053】
ペーストのレオロジー流体化の挙動に関しては、これは、23℃で測定された110から140Paの降伏応力、ならびに5s-1のせん断速度および23℃の温度で測定された60から90Pa・sの粘度により特徴付けられる。
【0054】
したがって、低い応力下でペーストが容易に流れることを有利には可能にするペーストのレオロジー挙動により、本発明のペーストはシリンジ内に充填され得、それにより、製品を正確かつ局所的に塗布すること、および無菌状態に維持することが可能となる。
【0055】
当然のことながら、本発明のペーストは生物学的に適合している。
【0056】
本発明のペーストは、皮膚の出血を止めるため、また口腔粘膜の出血を止めるために用い得、したがって、歯科医による施術の際の使用に特に適している。実際、本発明のペーストは、圧力を加えることなく、シリンジまたはへらを用いて塗布することができる。
【0057】
一度その箇所に置かれると、ペーストは、その接着特性により、圧力の付与によって保持される必要なく口腔粘膜に接着し、出血を止める。
【0058】
最後に、本発明のペーストは有利には着色剤を含む。着色剤の存在は、歯科医が診療の際に外傷の位置をより容易に特定することを可能にするため、歯科用途において特段の価値を有する。
【0059】
この理由により、青色の着色剤が歯科用途において好ましく選択される。
【0060】
本発明のペーストはまた、有利には香料を含む。
【0061】
着色剤および香料は両方とも、有利には食品用の製品から選択される。
【0062】
当然のことながら、当業者には、着色剤および/または香料の量および濃度、ならびに通常は、本発明のペーストにおいて用いられる製品の量および濃度が、組成物のレオロジー特性および接着特性を変化させないように決定されるべきであることは容易に理解されよう。
【0063】
本発明による特に好ましい1つのペーストは、ペーストの総重量に基づく重量パーセントで0.03から0.1%の食品用の青色の着色剤、および/または0.5から2%の食品用の香料を含む。
【0064】
好ましくは、もし存在する場合は、着色剤は食品用でなければならず、ペーストの総重量に基づいて0.05重量%のパーセンテージで本発明のペースト内に存在する。
【0065】
青色の着色剤の使用は、とりわけ粘膜に対して特に有利である。
【0066】
本発明によるペースト内に存在する場合は、食品用の香料は好ましくは、ペーストの総重量に基づいて1重量%の濃度で存在する。
【0067】
上記で説明したように、歯科医がペーストの塗布部位を正確に特定し得るように、本発明のペーストは青色の着色剤を好ましくは含む。出血が止まると、本発明のペーストは水ですすぐだけで除去され、擦り取る必要はない。ここでもまた、青色の着色剤により、全てのペーストが除去されたことを歯科医が視覚的に判断することが可能になる。
【0068】
その結果、歯科医は所望の処置を継続することが可能である。
【0069】
上記に示したように、本発明のペーストは、その組成および皮膚または口腔粘膜へのその接着能力により、包帯剤として、とりわけ止血性の包帯剤として、有利には用いられ得る。
【0070】
本発明の良好な理解のために、例示的にすぎず、かつ非限定的な実施例によって、本発明のいくつかの実施形態をこれから記載する。
【実施例1】
【0071】
本発明の好ましい実施形態によるペーストは、以下のプロセスによって得られる。このプロセスは室温で実施される。
38gの水を計り取る。
10gのこの水を採取し、食品用の青色の着色剤0.05gをその中に溶解して第1の溶液を得る。
次に、15gの塩化アルミニウムを残りの水に溶解する。
塩化アルミニウムが完全に溶解したら、3gのプロピレングリコールおよび1gの食品用の苺香料を添加する。
この溶液を均質化して第2の溶液を得る。
次に、食品用の青色の着色剤を含む第1の溶液を第2の溶液内に入れ、全体を均質化する。
その結果得られた溶液のpHは2である。
4.05gのAerosil(登録商標)200をこの溶液に添加し、生成物を混合してゲルを得る。
少なくとも95重量%のカオリナイトを含む、38.9gの市販のカオリンを、このゲルに徐々に添加する。
全てのカオリンを入れたら、混合を継続して生成物を均質化する。
【0072】
本発明の特に好ましい実施形態であるこの実施例において、塩化アルミニウムは収斂剤として用いられる。
【0073】
(レオロジー挙動)
この実施例において得られるペーストのレオロジー挙動を、フロー試験(ペーストのサンプルに所与のひずみ速度(せん断速度)で応力を加え、ひずみ値の上昇速度について、対応する応力を測定)を用いて測定した。
【0074】
以下の手順を用いた。
・装置:TA InstrumentsのAR1000レオメータ
・データ処理ソフトウェア:Rheology Advantage Data Analysis V5.1.42
・試験のタイプ:平衡での測定を伴う流れであり、以下のものを各ポイントに用いる:
-3回の一致したサンプリングによる検証(許容誤差:5%)
-サンプリング周期:10秒
-ポイントごとの最大測定時間:1分
・ポイント数:直線分布で50個
・せん断速度の範囲:0.05〜5s-1
・温度:23℃、Pelletier Plateによる制御(精度:0.1℃)
・測定形状:25mmの陽極酸化アルミニウムプレート
・空隙:1200μm
-製品をスプーンで載せる
-手動で1500μmまで低下させる
-自動で1250μmまで低下させる
-残りのサンプルの洗浄
-自動で1200μmまで低下させる
【0075】
得られた結果を図1に示す。この図は、せん断応力に応じたペーストの粘度における変化を示している。この曲線は、製品のレオロジー流体化の挙動を、すなわちせん断速度の上昇に伴ってペーストの粘度が低下することを明らかに示している。
【0076】
粘度のこの低下は2s-1まで非常に顕著であり、その後、一種の水平域が見られ、粘度は非常に低い速度で低下する。
【0077】
この図はさらに、せん断速度についての、ゼロに近い垂直な漸近線の存在を示している。このことは、せん断速度ゼロでは粘度が無限であるということを意味している。すなわち、ペーストは、静止状態で非常に高い流れ抵抗を有している。この特徴により、降伏応力として知られている値よりも低いせん断応力にペーストが付された場合に、ペーストが「停止」し、流れないことが可能になる。
【0078】
製品の挙動は、
σs(降伏応力)、β、およびnが定数である、
μ=σs0+β(γ0)n-1
というHershel-Bulkleyの方程式により表すことができる。
【0079】
5回の試験にわたる降伏応力を、低いせん断速度をより中心とした外挿計算を実施することにより得た。5s-1での粘度については、処理ソフトウェアを用いて測定した。
【0080】
得られた、降伏応力の値および5s-1で測定した粘度の値を、以下の表Iに示す。
【0081】
【表1】

【0082】
このレオロジー挙動の安定性を明らかにし、ペーストの沈降の効果を評価するため、実施例1で得られたいくつかのペーストを遠心分離し、遠心分離したサンプルの下部を回収した。この下部を上述したものと同一のフロー試験に付した。
【0083】
図2に示す曲線は2回の試験について得られたものである。
【0084】
図2は、遠心分離後の本発明のペーストの挙動がやはりレオロジー流体化の挙動であることを示している。
【0085】
図1および図2において得られる曲線を比較すると、ペーストは遠心分離後、4s-1まではわずかに粘度が高いことが分かる。この応力値を超えると、測定した粘度の値は等しく、差はもはや顕著ではない。
【0086】
以下の表IIに、遠心分離後の本発明のペーストにおいて得られた降伏応力の値および対応する粘度を示す。
【0087】
【表2】

【0088】
沈降はペーストに対してわずかな影響のみ及ぼす思われ、ペーストはわずかに粘度が高くなった。
【0089】
この結果は、120に代わりおよそ160Paのわずかに高い降伏応力というものであったが、水平域の粘度の明確な変動はなく、それは同じ桁のままであった。
【0090】
(チキソトロピー挙動)
この実施例において得られたペーストのチキソトロピー挙動もまた明らかにした。
【0091】
このチキソトロピー挙動は、実施例1で得られた遠心分離していないサンプルについて評価した。
【0092】
本発明のペーストのチキソトロピー性、すなわち応力を加えられた後に当初の粘度(静止時の粘度)を回復する能力を、23℃で以下の試験を実施して明らかにした。
-10秒ごとのサンプリングの後、非常に遅いせん断速度(0.05s-1)での5分間にわたるせん断
-2秒ごとのサンプリングでの、5s-1で30秒にわたるせん断
-ステップ1の反復
-測定形状:25mmのアルミニウムプレート
-空隙:1200μm
【0093】
この試験により、第1のステップの平衡時に得られた粘度を第3のステップの際に測定された粘度と比較することによる、せん断後の粘度の回復の視覚化が可能になる。
【0094】
得られた結果を図3および4に示し、これらは、せん断前後の、経時的な粘度の変化を示している。
【0095】
図3は、試験の第2のステップの際の、すなわち5s-1の「高」せん断での、粘度の変化を示している。図3から、ひび割れが非常に目立つものであること、および粘度が迅速に水平域に達することが分かる。
【0096】
図4は、静止をシミュレートする「低」せん断(0.05s-1)での、ステップ1および3の際に行った測定を示す。第1のステップにより静止時の粘度を評価することが可能になり、前記粘度は3500から4000Pa・sである。
【0097】
第3のステップにおいて、流体は、応力を加えた後に当初の粘度を回復する傾向にあることが分かり、この可逆性はチキソトロピーの特徴である。
【0098】
本発明の実施例において得られるペーストの接着特性を明らかにするために、2つのタイプの試験を実施した。
【0099】
まず、試験は、23℃および周囲湿度で実施した。
【0100】
これらの試験は、以下の点を除いて、FINAT標準試験法第9番に基づくものである。
-周囲湿度
-固定基板(アルミニウムプレート)に被覆したサンプル接着剤
-接触領域:25mm×25mm
-センサー:5N+0.025N
-用いた紙は80g/m2の基本重量を有する
【0101】
これらの試験はループ粘性(loop tack)試験に対応する。
【0102】
ループ粘性(loop tack)試験は、紙片をサンプルに接触させ、その紙を剥離するために必要な力、すなわち粘性強度を測定することからなる。接触領域は625mm2(すなわち25mm×25mm)である。
【0103】
この試験は押し付けることによる接触を必要としない。すなわち、維持するための圧力を接触の際に加える、ニードル粘性(needle tack)試験とは異なり、ループ(loop)は単に試験対象の表面上に置かれるのみである。
【0104】
この試験の名称は粘性の概念に言及しているが、前記試験は実際には、例えばジャムまたはソフトチョコレートを説明するために用いられる用語である粘着性を測定するものである。
【0105】
測定された接着(粘性)強度(N)を、以下の表IIIに示す。
【0106】
【表3】

【0107】
実施例1で得られたペーストの挙動を表す曲線を図5に示す。
【0108】
本発明のペーストの場合、「ループ粘性(loop tack)」試験では、測定される値が測定ノイズと同レベルのものであるため、接着強度を測定することができない。したがって、圧力を伴わない単純な接触の場合に、本発明のペーストは接着特性を示すと言うことができる。本発明のペーストで見られた破壊のパターンはこの結論を裏付けるものである。事実、本発明のペーストの堆積物は、剥離した後にループ(loop)の上に残る。曲線がゼロに戻るため(剥離ピークの後の測定ノイズ)、粘性強度の測定値は、ループ(loop)のこの不可避の過重とは関連し得ないことが留意されよう。
【0109】
さらに、本発明のペーストの凝集と表面への接着との間に相関があるということが強調されるべきである。
【0110】
粘性強度は、瞬間的な接着、すなわち接触接着を有する物質を、前記物質に粘着する表面から分離するために必要な力として定義される。破壊は凝集破壊であり、このことは、本発明のペーストの接着が凝集よりも強いことを意味している。粘着性という用語はこれらの条件下において用いられる。
【0111】
しかし、本発明のペーストは皮膚または歯茎上で薄膜の状態で用いられるため、この低い凝集が目的の塗布を損なうことは全くない。
【0112】
そして、降伏応力は、重力または血流の影響下で大部分の製品が流れることを防ぐように、十分に大きいものである。
【0113】
また、口中において見られる条件をシミュレートした制御環境においても「ループ粘性(loop tack)」試験を実施した。
【0114】
これらの試験はまた、FINAT標準試験法第9番に基づいており、値は以下の通りである。
-温度:37℃
-湿度:90%
-システムのホウケイ酸ガラスのサンプルホルダーに被覆された接着剤(サンプル)
-接触領域:25mm×40mm
-センサー:5N±0.025N
【0115】
用いた紙は80g/m2の基本重量を有する。
【0116】
サンプルペーストで測定された粘性強度を以下の表IVに示す。
【0117】
【表4】

【0118】
これらの条件下で得られた値は、23℃および周囲湿度で得られたものと異なる。
【0119】
事実、環境の湿度が高いことにより、本発明のペーストが水を吸収し、水で満たされる。しかし、同様のタイプの破壊が引き続き見られ、このことは、これらの条件下において、本発明のペーストが依然として、圧力を加えることなく歯茎に接着し得ることを意味している。
【0120】
さらに、外傷への被覆の時に、口の周囲湿度がペーストの挙動に対して最終的にはわずかな影響しか有さないと考えられるならば、それは、この短い時間ではペーストが口の湿度条件に順応する時間がないためである。
【0121】
(接触角度の測定)
また、本発明のペーストの接着特性を、接触角度の測定によっても明らかにした。
【0122】
これらの測定の目的は、所定の基板(この場合は実施例1のペースト)の表面に載せられた、制御された体積(この場合は2μl)の参照液体の滴により形成される接触角度を測定することである。角度は、滴を載せた2秒後に、より良好な精度のために滴の右側と左側で測定する。
【0123】
用いる参照液体は水および等張液であり、これらは、歯茎を浸している唾液および血液の場合に得られる結果と類似した結果をもたらすものである。
【0124】
実施例1のペーストを、表面が十分に均等になるまで、顕微鏡のスライドガラス上に被覆した。約1gのこのペーストを用いて、スライドガラスm2当たり約1kgのペーストの基本重量に対応する、約1mmの厚さおよび10cm2の表面積を有するフィルムを得た。
【0125】
接触角度は、実施例1のペーストで、参照液体の少なくとも5つのサンプルについて測定する。
【0126】
接触角度の測定により、実施例1で得られたペースト上での参照液体の広がり、すなわち、実施例1のペーストに対するこれらの液体の親和性を視覚化することが可能となる。これらの測定により、唾液および血液といった、歯茎と接触する液体に対する実施例1のペーストの親和性を知ることができる。
【0127】
サンプルと基板(実施例1のペースト)との間の相互作用が非常に弱い場合、基板(実施例1のペースト)とのサンプルの接触域が小さくなる傾向にあるため、測定される接触角度は大きくなる。
【0128】
逆の場合、サンプルは基板(実施例1のペースト)上に非常によく広がり、角度は非常に小さくなる。
【0129】
実施例1で得られる本発明のペーストを基板として用い、かつ水滴および/または生理食塩水の滴を用いて測定される角度の値を、以下の表Vに示す。
【0130】
【表5】

【0131】
したがって、滴はかなり小さな接触角度を有していることが分かり、このことは、実施例1で得られたペーストが実際に、歯茎に接触すると歯茎の表面を湿らせることを示している。
【0132】
(許容性および抗出血効果の試験)
実施例1で得られる本発明のペーストを負傷したハムスターの頬に塗布して、許容性および生体適合性の試験を実施した。
【0133】
これらの試験により、本発明のペーストの申し分ない許容性および生体適合性が示された。
【0134】
また、これらの試験により、実施例1で得られる本発明のペーストが、およそ2分間塗布することで出血を止めることを可能にすることが示された。
【0135】
塗布の数時間後であっても本発明のペーストは乾燥しないため、ペーストは、擦り取る必要なく水で洗浄するだけで、この2分の後に除去される。
【実施例2】
【0136】
塩化アルミニウムを含まない本発明によるペーストの生成プロセスを以下に示す。
【0137】
このプロセスは室温で実施される。
45.55gの水を計り取る。
10gのこの水を採取し、食品用の青色の着色剤0.05gをその中に溶解して第1の溶液を得る。
3gのプロピレングリコールおよび1gの食品用の苺香料を残りの水に溶解し、溶液を均質化する。次に、着色剤を含む第1の溶液をこの溶液に加え、全体を均質化する。酸のこの添加により、実施例1の組成物のpHに匹敵するpHが得られる。
0.4gの酒石酸結晶を添加し、全体を混合し、均質化する。
得られた溶液のpHは2である。
次に4.05gのAerosil 200を添加し、全体を混合してゲルを得る。
46gのカオリンをこのゲルに徐々に添加する。全てのカオリンを入れたら、混合を継続して生成物を均質化する。
【0138】
レオロジー挙動、粘度、チキソトロピー、接触角度、および許容性に関する結果は、実施例1によるペーストで得られた結果と類似している。
【0139】
したがって、本発明のペーストは、皮膚または歯茎の外傷への力学的な包帯剤として用いられる場合、圧力を加えることなく接着を可能にする粘着性を示すことが分かる。このことは、外傷に対して相当な圧力が与えられないため、施術に痛みを伴わないことおよび処置後の外傷が清潔であることを保証するための大きな利点である。
【0140】
さらに、本発明のペーストは非常に容易に、かつ痛みを伴わずに除去される。
【0141】
当然のことながら、本発明は決して好ましい実施形態に限定されるものではなく、前記実施形態は例示のために示されたものにすぎず、限定の意味を有するものではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
口腔粘膜または皮膚に塗布することにより包帯剤を形成するために用い得る、水性賦形剤を含む生体適合性のペーストであって、必須の構成要素として
-少なくとも80重量%、好ましくは少なくとも95重量%のカオリナイトを含む、天然カオリン、
-プロピレングリコール、グリセロール、ポリエチレングリコール、ソルビトール、およびそれらの混合物からなる群から選択される保湿剤、
-無水コロイド状シリカ、セルロース、カルボキシメチルセルロース、グアーガム、キサンタンガム、およびそれらの混合物からなる群から選択される、前記賦形剤内に存在する水分と共にヒドロゲルを形成するヒドロゲル化剤
を含むことを特徴とするペースト。
【請求項2】
前記ヒドロゲル化剤が無水コロイド状シリカであることを特徴とする、請求項1に記載のペースト。
【請求項3】
前記無水コロイド状シリカがおよそ200m2/gの比表面積を有することを特徴とする、請求項2に記載のペースト。
【請求項4】
前記保湿剤がプロピレングリコールであることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載のペースト。
【請求項5】
ペーストの総重量に基づく重量パーセントで
-カオリン:35から55%、
-プロピレングリコール:2から4%、
-無水コロイド状シリカ:3から7%、
-水:35から46%
を含むことを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載のペースト。
【請求項6】
塩化鉄または塩化アルミニウムおよび硫酸鉄または硫酸アルミニウム、硫酸アルミニウムカリウム、ならびにそれらの混合物からなる群から選択される収斂剤も含むことを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載のペースト。
【請求項7】
前記収斂剤が塩化アルミニウムであり、ペーストの総重量に基づいて5から25重量%、好ましくは約15重量%であることを特徴とする、請求項6に記載のペースト。
【請求項8】
血管収縮剤、例えばアドレナリンも含むことを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載のペースト。
【請求項9】
着色剤、好ましくは口腔粘膜への塗布のために青色の着色剤を含むことを特徴とする、請求項1から8のいずれか一項に記載のペースト。
【請求項10】
香料、好ましくは食品用の香料も含むことを特徴とする、請求項1から9のいずれか一項に記載のペースト。
【請求項11】
-23℃でレオロジー流体化の挙動を有し、
-23℃で測定すると3000から4500Pa・s、好ましくは3500から4000Pa・sの静止状態での粘度を有し、
-チキソトロピー挙動を有し、かつ
-23℃および周囲湿度で測定すると、0.3から0.7N、好ましくは0.5から0.6Nの接着強度を有する
ことを特徴とする、請求項1から10のいずれか一項に記載のペースト。
【請求項12】
レオロジー流体化の挙動が、23℃で測定された110から140Paの降伏応力、ならびに5s-1のせん断速度および23℃の温度で測定された60から90Pa・sの粘度により特徴付けられることを特徴とする、請求項1から11のいずれか一項に記載のペースト。
【請求項13】
包帯剤としての、または包帯剤を調製するための、請求項1から12のいずれか一項に記載のペーストの使用であって、前記包帯剤が口腔粘膜または皮膚への塗布を目的としたものである使用。
【請求項14】
前記包帯剤が止血性の包帯剤であることを特徴とする、請求項13に記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2009−536184(P2009−536184A)
【公表日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−508428(P2009−508428)
【出願日】平成19年3月16日(2007.3.16)
【国際出願番号】PCT/FR2007/050938
【国際公開番号】WO2007/128926
【国際公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【出願人】(508332276)
【Fターム(参考)】