説明

可塑化ポリエステルから製造されたフィルム

【課題】軟質で可撓性のフィルム又はシート(Tgが23℃未満)であって、フィルム又はシートの加工工程でのフィルム又はシートブロッキングやロールへの粘着を防止できる(Tmが120℃より高い)フィルム又はシートの製造。
【解決手段】約23℃未満のガラス転移温度及び約120℃超の融解温度を有するフィルム又はシートは、最初に、基材コポリエステルが最大結晶化速度を有する温度における2000分間のアニール後に約1%より大きい結晶化度を示し且つ約220℃未満の融解温度を有する基材コポリエステル約50〜約95重量%及び基材コポリエステルと共に使用するのに適した可塑剤約5〜約50重量%を含むポリエステル組成物を製造し、このポリエステル組成物はフィルム又はシートに成形し、そしてフィルム又はシートの成形の間又はその後に結晶化を誘起して、軟質で可撓性のフィルム又はシートを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可塑化ポリエステル組成物からの軟質フィルム又はシートの製造に関する。更に詳しくは、本発明は、カレンダリングなどによって誘起結晶化を行う、前記フィルム又はシートの製造に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリ塩化ビニル(PVC)及びセルロースエステル、例えばセルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネート及びセルロースアセテートブチレートのようないくつかのポリマー材料は、成形品又は押出品に加工するためには可塑化しなければならない。ポリエステル、ポリアミド及びポリオレフィンのようなほとんどの他の熱可塑性樹脂は、溶融状態で加工して硬質の成形品又は押出品を形成する場合には一般的に可塑剤を含まない。しかし、ポリエステル組成物中への可塑剤の使用は種々の用途のために開示されている。
【0003】
特許文献1は、選択された可塑剤を1〜35重量%含む、融点が80〜230℃の非晶質又は結晶性ポリエステルを基材とする接着剤組成物を記載している。
【0004】
特許文献2は、10〜35重量%のベンゾエート又はフタレート可塑剤を含む、ある種のテレフタレート及び1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートのポリエステルを基材とするホットメルト接着剤組成物を記載している。可塑剤は、ポリエステルの溶融粘度を低下させることによってホットメルト接着剤としての使用を容易にするために、添加されている。
【0005】
特許文献3は、ポリエステル100部当たり1〜40部のいくつかの型の可塑剤で可塑化された、即ち全組成物中28重量%以下の可塑剤で可塑化されたポリエステルを基材とする押出フラットフィルム又はチューブラフィルムを記載している。言及された可塑剤の多くは脂肪族である。フィルムは収縮(シュリンク)フィルムとして使用される。
【0006】
特許文献4は少なくとも80モル%の1,4−シクロヘキサンジメタノール(CHDM)を含むポリ(1,4−シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート)(PCT)コポリエステルと0.5〜25重量%の1種又はそれ以上のポリアルキレンエーテルとのブレンドを含んでなるポリエステル組成物を記載している。これらのエーテルは、ポリエステルのガラス転移温度(Tg)を低下させ、結晶化速度を増加し、低い成形温度の使用を可能にする。
【0007】
特許文献5は、少なくとも80モル%の炭素数8〜14の芳香族ジカルボン酸及び少なくとも10モル%のCHDMを含む、Tgが40〜150℃の範囲のポリエステル90〜99重量%、並びに炭素数5〜35のモノグリセリド1〜10重量%を含んでなる熱収縮性フィルム又はシートを記載している。このモノグリセリドはブレンドのTgを低下させる。
【0008】
特許文献6はポリエステルの結晶化速度の改善及び成形品の外観の改良のための添加剤を1〜10重量%含むポリエチレンテレフタレート(PET)組成物を記載している。添加剤は、ある種の可塑剤、速結晶化性ポリエステル、例えばポリ(ブチレンテレフタレート)(PBT)、ガラス繊維及びタルク(PET中で成核剤として働く)などである。
【0009】
非特許文献1は、フィルム又はシートの製造に使用するための、改良された気体遮断性を有するポリエステル組成物を記載している。このポリエステルはテレフタル酸のような芳香族ジカルボン酸と炭素数2〜12の1種もしくはそれ以上のグリコールを含むホモ又はコポリエステル80〜99重量%及び安息香酸エステル又はフタル酸エステル1〜20重量%を含む。
【0010】
特許文献7は、酸化カルシウムエステル交換触媒を用いた、グリコール及び安息香酸ブチルからの二安息香酸エステルの製造方法を記載している。これらのエステルはPVC樹脂用の可塑剤であることが報告されている。
【0011】
特許文献8は、広範囲の可塑剤で可塑化されたポリカーボネート樹脂を記載している。所望の性質を達成するためには、溶融ブレンドは急冷しなければならない。可塑剤の存在はポリカーボネートの結晶化速度を増加させる。
【0012】
特許文献9はセルロースエステル、フェノール/ホルムアルデヒド樹脂、尿素樹脂などのようないくつかのポリマー材料のための可塑剤を記載している。
【0013】
特許文献10はPVC及びポリ酢酸ビニル組成物用のジベンゾエート可塑剤の製造を記載している。
【0014】
フィルム及びシートの製造においては、カレンダリング及び押出のような方法を用いて、種々のプラスチックからフィルム及びシートを製造する。カレンダリングは特に可塑化された硬質PVC組成物のようなプラスチックからフィルム及びシートを製造するのに用いられる。比較的小規模では、熱可塑性ゴム、いくつかのポリウレタン樹脂、タルク充填ポリプロピレン、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレンターポリマー(ABS樹脂)及び塩素化ポリエチレンのような他の熱可塑性ポリマーを、カレンダリング法によって加工することもある。特許文献11は、溶融状態からの半結晶化時間が少なくとも5分のある種のポリエステルをカレンダリングすることによる、フィルム及びシートの形成が可能であることを開示している。この特許は、溶融ポリマーのカレンダーロールへの粘着防止のために加工助剤が必要であることを認めたが、高濃度の可塑剤は使用しなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】米国特許第4,450,250号(McConnellら)
【特許文献2】米国特許第4,340,526号(Petkeら)
【特許文献3】日本国特許第02 986197号(Kiyomiら)
【特許文献4】米国特許第5,624,987号(Brinkら)
【特許文献5】米国特許第5,824,398号(Shih)
【特許文献6】米国特許第4,391,938(Memon)
【特許文献7】英国特許第815,991号(Goodaleら)
【特許文献8】米国特許第3,186,961号(Shears)
【特許文献9】米国特許第2,044,612号(Jaeger)
【特許文献10】英国特許第1,323,478号(1973年;Stamicarbon N.V.に譲渡)
【特許文献11】米国特許第6,068,910号(Flynnら)
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】Anonymous Research Disclosure 23314,September 1983
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明に係る、約23℃未満のガラス転移温度及び約120℃超の融解温度を有するフィルム又はシートの製造方法は、
(a)(i)基材コポリエステルが最大結晶化速度を有する温度における2000分間のアニール後に1%より大きい結晶化度を示し且つ約220℃未満の融解温度を有する基材コポリエステル約50〜約95重量%、及び
(ii)前記基材コポリエステルと共に使用するのに適した、約9.5〜13.0cal0.5cm-1.5の範囲の溶解性パラメータを有する可塑剤約5〜約50重量%
を含むポリエステル組成物を製造し;
(b)前記ポリエステル組成物をフィルム又はシートに成形し;そして
(c)工程(b)の間又は工程(b)の後に結晶化を誘起する
工程を含んでなる。
【0018】
本発明の別の実施態様においては、約23℃未満のガラス転移温度及び約120℃超の融解温度を有するフィルム又はシートは、
(a)基材コポリエステルが最大結晶化速度を有する温度における2000分間のアニール後に1%より大きい結晶化度を示し且つ約220℃未満の融解温度を有する基材コポリエステル約50〜約95重量%、及び
(b)前記基材コポリエステルと共に使用するのに適した、約9.5〜13.0cal0.5cm-1.5の範囲の溶解性パラメータを有する可塑剤約5〜約50重量%
を含むポリエステル組成物を含んでなる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】例1〜4の動的機械的熱分析(DMTA)曲線である。
【図2】例5〜8のDMTA曲線である。
【図3】例9〜12のDMTA曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、可塑化ポリエステル組成物からのフィルム又はシートの製造方法に関する。意外なことに、形成されたフィルム又はシートは軟質且つ可撓性であり、約23℃未満、好ましくは約0℃未満のガラス転移温度(Tg)及び約120℃超、好ましくは約140℃超の結晶融点(Tm)を有する。このようなフィルム又はシートを得るためには、可塑化ポリエステル組成物に、フィルム又はシートの成形の間又は後に誘起結晶化を行う。より具体的には、本発明のフィルム又はシートの製造方法は、
(a)基材コポリエステル及び可塑剤を含むポリエステル組成物を製造し;
(b)前記ポリエステル組成物をフィルム又はシートに成形し;そして
(c)工程(b)の間又は工程(b)の後に結晶化を誘起する
工程を含んでなる。
【0021】
このポリエステル組成物は、約50〜約95重量%、好ましくは約50〜約80重量%、より好ましくは約60〜約75重量%の基材コポリエステル及び約5〜約50重量%、好ましくは約20〜約50重量%、より好ましくは約25〜約40重量%の、基材コポリエステルと共に使用するのに適した可塑剤又は可塑剤の組み合わせを含んでなる。基材コポリエステルは、約220℃未満の融解温度を有し、基材コポリエステルが最大結晶化速度を有する温度における2000分間のアニール後に約1%超の結晶化度を示す。
【0022】
このポリエステル組成物の基材コポリエステルは、好ましくは(i)テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、イソフタル酸又はそれらの混合物から選ばれた主(primary)二酸少なくとも約80モル%の残基を含む二酸成分及び(ii)炭素数2〜約10の少なくとも1種の主(primary)ジオール少なくとも約80モル%の残基を含むジオール成分を含んでなる。二酸成分は100モル%に基づき、ジオール成分も100モル%に基づく。
【0023】
ナフタレンジカルボン酸の種々の異性体又は異性体混合物はいずれも使用できるが、1,4−、1,5−、2,6−及び2,7−異性体が好ましい。また、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸のシス異性体、トランス異性体又はシス/トランス異性体混合物も使用できる。二酸成分は、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ダイマー酸、スルホイソフタル酸又はそれらの混合物のような、炭素数約4〜約40の改質用二酸約20モル%以下で改質することができる。
【0024】
基材コポリエステルのジオール成分について、好ましい主ジオールとしてはエチレングリコール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール又はそれらの混合物が挙げられる。より好ましくは、主ジオールは、約10〜100モル%の1,4−シクロヘキサンジメタノール(CHDM)及び約90〜0モル%のエチレングリコールの残基を含む。更に好ましくは、主ジオールは約10〜約40モル%のCHDM及び約90〜約60モル%のエチレングリコールの残基を含む。ジオール残基成分は約20モル%以下の他のジオールで改質することもできる。適当な改質用ジオールとしては、1,3−プロパンジオール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール、2,2,4−トリメチルー1,3−ペンタンジオール、2,2,4,4−テトラメチル−1,3−シクロブタンジオール、1,3−CHDM又はそれらの混合物が挙げられる。また、少量のポリアルキレングリコール、例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール及びポリテトラメチレングリコールも所望ならば使用できる。CHDM部分はシス異性体、トランス異性体又はシス/トランス異性体混合物として使用できる。
【0025】
基材コポリエステルの溶融粘度及び溶融強度がカレンダリング装置での適当な加工には不十分な場合がある。このような場合には、コポリエステルの初期製造の間又はそれに続くブレンドもしくは供給操作の間であって、カレンダリング装置に到達する前に、少量(約0.1〜約2.0モル%)の分岐剤をコポリエステルに添加することによるなどして、溶融粘度増強剤を使用するのが望ましい。適当な分岐剤には、多官能価酸又はアルコール、例えばトリメリット酸、トリメリット酸無水物、ピロメリット酸二無水物、トリメチロールプロパン、グリセロール、ペンタエリトリトール、クエン酸、酒石酸及び3−ヒドロキシグルタル酸などがある。これらの分岐剤はコポリエステルに直接添加してもよいし、米国特許第5,654,347号及び第5,696,176号に記載されたようにコンセントレートの形態でコポリエステルとブレンドしてもよい。また、米国特許第5,399,595号に開示されたようにして、スルホイソフタル酸のような物質を使用して、ポリエステルの溶融強度を所望のレベルまで増大させることもできる。
【0026】
本発明に使用するコポリエステルは、公知の溶融相法によって容易に製造できる。更に、コポリエステルの一部は、公知の溶融相及び固相重縮合法の組み合わせによって製造できる。有用なポリエステルのインヘレント粘度IVは一般には約0.4〜約1.5dL/g、好ましくは約0.6〜約1.2dL/gである。IVの測定は一般に25℃においてフェノール60重量%及び1,1,2,2−テトラクロロエタン40重量%からなる溶媒100mL中でポリマー0.50gを用いて行う。
【0027】
本発明に使用する可塑剤はコポリエステルと共に使用するのに適当でなければならない。可塑剤の存在は、ポリエステルの加工温度の低下、ロールへの粘着防止、ポリエステルの予備乾燥の排除及び良好な機械的性質を有するエラストマー材料の形成にかなり有益である。可塑剤量の好ましい範囲は基材ポリエステル及び可塑剤の性質によって決まる。詳細には、よく知られたFoxの式(T.G.Fox,Bull.Am.Pys.Soc.,1,123(1956))によって予測される基材コポリエステル及び/又は可塑剤のTgが低いほど、23℃未満のTgを有するフィルム又はシートを形成するポリエステル組成物を得るのに必要な可塑剤の量は少ない。以下の例1〜13に記載したポリエステル組成物に関しては、可塑剤量の好ましい範囲は、約20〜約50重量%、より好ましくは約25〜約40重量%である。
【0028】
好ましい可塑剤は、約160℃未満の温度でポリエステルのフィルムを溶解して、透明な溶液を生成する。可塑剤のこの性質を溶解性と称する。可塑剤が妥当な溶解性を有するか否かを判定する方法は以下の通りである。試験に必要な材料としては、厚さ5mil(0.127mm)の標準対照フィルム、小バイアル、加熱ブロック又はオーブン及び可塑剤が挙げられる。以下の工程で行う。
【0029】
1.バイアル中にバイアルの幅の長さ1/2インチのフィルムを1片入れる。
2.フィルムが完全に覆われるまでバイアルに可塑剤を添加する。
3.フィルム及び可塑剤を含むバイアルを棚に置いて1時間後と4時間後に観察する。フィルム及び液体の外観に注目する。
4.周囲条件における観察後、バイアルを加熱ブロック中に入れ、温度を1時間75℃に一定に保ち、フィルム及び液体の外観を観察する。
5.温度:75、100,140、150及び160℃のそれぞれに関して、工程4を繰り返す。
溶解性に関して試験した、それぞれの可塑剤の試験結果を以下の表1に示す。温度全体に関して4又はそれ以上の値は、その可塑剤が本発明への使用の候補であることを示している。
【0030】
【表1】

【0031】
【表2】

【0032】
【表3】

【0033】
キー:
0=可塑剤はこの温度では固体である
1=可塑剤は液体であるが、フィルムには何も起こらない。
2=フィルムが曇り始めた。
3=フィルムが膨潤した。
4=フィルムは、崩壊し且つ/又は液体が濁るような変化を始めた。
5=もはやフィルムではなく、液体は濁っている。
6=液体は透明である。
【0034】
”The Technology of Plasticizers”, J.Kern Sears及びJoseph R.Darby, Society of Plastic Engineers/Willey and Sons(New York)発行,1982年,pp136〜137の前記と同様な試験を参照できる。この試験においては、ポリマーの粒子が、加熱された顕微鏡ステージ上の1滴の可塑剤中に入れられる。ポリマーが消失している場合には、可溶化されている。
【0035】
ポリエステルの可溶化に最も有効である可塑剤は、表Iによれば4より大きい溶解性を有し、それらの溶解性パラメーターに従って分類することもできる。可塑剤の溶解性パラメーター又は凝集エネルギー密度の平方根は、Colemanら[Polymer 31,1187(1990)(参照することによって本明細書中に取り入れる)]によって記載された方法で計算できる。最も好ましい可塑剤は、約9.5〜約13.0cal0.5cm-1.5の範囲の溶解性パラメーター(δ)を有する。表IIは、この範囲内の溶解性パラメーターを有する可塑剤はポリエステルを可溶化するが、この範囲外の溶解性パラメーターを有する可塑剤ははるかに有効性が低いことを示している。一般的に、カレンダリングプロセスの間における可塑剤の発煙及び損失を防ぐためには、比較的分子量の高い可塑剤が好ましい。
【0036】
【表4】

【0037】
本発明への使用に適当なここの可塑剤としては、フタル酸、アジピン酸、トリメリット酸、安息香酸、アゼライン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、酪酸、グルタル酸、クエン酸及び燐酸から選ばれた酸部分に基づくエステルが挙げられる。アルコール部分は、炭素数約1〜約20の脂肪族、脂環式又は芳香族アルコールから選ばれる。適当なアルコール部分としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、ステアリルアルコール、ラウリルアルコール、フェノール、ベンジルアルコール、エチレングリコール、ネオペンチルグリコール、CHDM及びジエチレングリコールに基づくものが挙げられる。
【0038】
本発明の工程(b)及び(c)において、ポリエステル組成物はフィルム又はシートに成形し、結晶化を誘起する。誘起結晶化はフィルム又はシートの成形中又は成形後に行うことができる。好ましい実施態様において、フィルム又はシートの成形は溶融押出又はキャスト押出によって行い、誘起結晶化は成形後に延伸によって行う。別の好ましい実施態様において、フィルム又はシートの成形は溶融押出又はキャスト押出によって行い、誘起結晶化は成形後に、フィルムのガラス転移温度より高いが基材コポリエステルの融解温度より低い温度でアニールすることによって行う。更に別の好ましい実施態様において、フィルム又はシートの成形及び誘起結晶化は工程(b)の間にカレンダリング又はインフレーションによって同時に行う。
【0039】
本発明の最も好ましい実施態様は、
(a)(i)基材コポリエステルが最大結晶化速度を有する温度における2000分間のアニール後に約1%より大きい結晶化度を示し且つ約220℃未満の融解温度及び約60℃超のガラス転移温度を有する基材コポリエステル約50〜約80重量%、並びに
(ii)前記基材コポリエステルと共に使用するのに適した可塑剤約20重量%、好ましくは約25重量%、最も好ましくは約50重量%
を含むポリエステル組成物を製造し;
(b)前記ポリエステル組成物をフィルム又はシートに成形し;そして
(c)工程(b)の間又は工程(b)の後に結晶化を誘起する
工程を含んでなるフィルム又はシートの製造方法であり、工程(c)後に、フィルム又はシートが約23℃未満のガラス転移温度及び約140℃超の融解温度を有する。このような方法において、基材コポリエステルは、好ましくはテレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、イソフタル酸及びそれらの混合物からなる群から選ばれた主二酸少なくとも約80モル%の残基を含む二酸成分並びに1,4−シクロヘキサンジメタノール約10〜約40モル%及びエチレングリコール約90〜60モル%の残基を含むジオール成分を含んでなり、二酸成分は100モル%に基づき、ジオール成分も100モル%に基づく。可塑剤は、好ましくはネオペンチルグリコールジベンゾエート、ジエチレングリコールジベンゾエート、フタル酸ブチルベンジル、テキサノールベンジルフタレートからなる群から選ばれる。
【0040】
本発明の別の実施態様において、フィルム又はシートは約23℃未満、好ましくは約0℃未満のガラス転移温度及び約120℃超、好ましくは約140℃超の融解温度を有し;(a)基材コポリエステルが最大結晶化速度を有する温度における2000分間のアニール後に約1%より大きい結晶化度を示し且つ約220℃未満の融解温度を有する基材コポリエステル約50〜約95重量%及び(b)前記基材コポリエステルと共に使用するのに適した可塑剤約50〜約5重量%を含むポリエステル組成物を含む。
【0041】
好ましくは、基材コポリエステルは、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、イソフタル酸及びそれらの混合物からなる群から選ばれた主二酸少なくとも約80モル%の残基を含む二酸成並びに炭素数2〜約10の少なくとも1種の主ジオール少なくとも約80モル%の残基を含むジオール成分を含んでなり、二酸成分は100モル%に基づき、ジオール成分も100モル%に基づく。
【0042】
好ましくはフィルム又はシートを提供する可塑剤は約20〜約50重量%の量で存在する。可塑剤は、好ましくは160℃未満の温度において基材コポリエステルの厚さ5milのフィルムを溶解させて透明な溶液を生成するものから選ばれる。より好ましくは可塑剤は約9.5〜約13.0cal0.5cm-1.5の範囲の溶解性パラメーターを有するものから選ばれる。
【0043】
より好ましくは、基材コポリエステルは、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、イソフタル酸及びそれらの混合物からなる群から選ばれた主二酸少なくとも約80モル%の残基を含む二酸成分、並びに1,4−シクロヘキサンジメタノール約10〜40モル%及びエチレングリコール約60〜90モル%の残基を含むジオール成分を含んでなり、二酸成分は100モル%に基づき、ジオール成分も100モル%に基づく。可塑剤は、ネオペンチルグリコールジベンゾエート、ジエチレングリコールジベンゾエート、フタル酸ブチルベンジル及びテキサノールベンジルフタレートからなる群から選ばれる。
【実施例】
【0044】
本発明を更に、本発明の好ましい実施態様に関する以下の実施例によって説明するが、これらの実施例は説明のためにのみ記載するのであって、特に断らない限り、本発明の範囲を限定することを目的としないことは言うまでもない。
【0045】
例1〜8
テレフタル酸100モル%からなる酸成分並びに1,4−シクロヘキサンジメタノール31モル%及びエチレングリコール69モル%からなるグリコール成分を含み、IVが0.76dL/g、重量平均分子量が40400g/モル及びTgが約78℃であるポリエステルを除湿乾燥機中で65℃において12時間予備乾燥させ、30mmのWerner−Pfeiderer 40:1 L/D同方向回転型二軸スクリュー押出機を用いて、表III に列挙した種々の可塑剤と配合した。押出組成物は、これ以上乾燥させずに、次に152mmのフィルムダイを装着した25.4−mm Killion押出機を用いて厚さ0.254mmのフィルムに成形した。続いて、フィルムを真空オーブン中で100℃において90分間アニールした。アニールプロセスの前(比較例である例1〜4)及び後(実施例である例5〜8)におけるTg、Tm及び重量平均分子量を含むフィルムの性質を、表III に要約する。例1〜4は、示差走査熱量測定法(DSC)によって20℃/分の加熱速度で測定した場合に23℃未満のTgを示す。例1〜4はTmを示さない。アニールされた組成物(例5〜8)は、23℃未満のTg及び140℃〜170℃のTmを示す。
【0046】
例1〜4の動的機械的熱分析(DMTA)曲線を図1に示す。DMTAの実験は全て、動作周波数16Hz及び加熱速度10℃/分において実施した。Tgの開始点以下では、組成物は硬質材料を示す高いモジュラスを有している。ガラスからゴムへの転移の間に、モジュラスは急激に低下する。DMTA曲線のこの領域を、材料のテキスチャー及び触感のために、一般に革状領域と称する。ガラス転移領域の最後で、DMTA曲線は、50〜80℃に及ぶ短いプラトーを示し、その後、粘性流のためにモジュラスが低下する。このプラトーは、組成物が軟質、可撓性及びゴム状である温度領域を規定する。従って、例1〜4の用途は、ゴム状態の短いプラトーによって規定されるTgより高い、狭い温度範囲に厳しく限定される。
【0047】
例5〜8のDMTA曲線を図2に示す。Tgの開始点以下では、組成物はアニールされていないサンプルと同様なモジュラスを有する。アニールされたサンプルでは、ガラスからゴムへの転移はアニールされていないサンプルよりも広い範囲で起こる。ガラス転移領域の最後には、DMTA曲線は約150℃まで及ぶプラトーを示し、この温度は、アニールされていないサンプルのゴム状態のプラトーの最後よりも約70℃高い。従って、例5〜8の用途は、例1〜4の用途よりもはるかに広範囲に及ぶ。これらの結果は全く予想外のことである。
【0048】
【表5】

【0049】
例9
例9のポリエステル組成物は、例1と同様にして製造した。このポリエステル組成物のデータは表IVに要約してある。この例は、結晶化のために次に23℃において3×3の二軸延伸に供された押出フィルムの性質を示す。得られたフィルムは、23℃未満のTg及び151℃のTmを示す。アニール及び延伸による誘起結晶化は共に、室温において軟質で可撓性の本発明のフィルムを生じる。
【0050】
例10〜13
例1と同じ基材コポリエステルを、除湿乾燥機中で65℃において12時間予備乾燥させ、30mmのWerner−Pfeiderer 40:1 L/D同方向回転型二軸スクリュー押出機を用いて、表IVに列挙した種々の可塑剤と配合した。押出組成物はこれ以上乾燥させずに、150℃の設定ロール温度においてFarrell二本ロール機上に置いた。10分後、ポリエステル組成物をミルから取り出し、ロール温度が110〜120℃の範囲である3−ロール縦型カレンダースタックを通して、厚さ0.254mmのフィルムを生成した。Tg、Tm及び重量平均分子量を含むフィルムの性質を、実施例である例10〜13として表IVに要約する。これらの各例は、23℃未満のTg及び150〜165℃のTmを有する。
【0051】
例9〜12のDMTA曲線を図3に示す。各例は150℃より高温に及ぶゴム状態のプラトーを示す。従って、Tgが23℃未満であって、150℃までゴム状性質を有するフィルムが形成される。これらの結果は全く予想外のことである。
【0052】
【表6】

【0053】
例14
例1の基材コポリエステルを、グリセロールトリベンゾエート15重量%及び30重量%と配合した。配合が30重量%のポリエステル組成物のTgは32℃であった。ポリマー/可塑剤及びポリマー/ポリマー混合物のTgを予測するためのFoxの式を用いて、グリセロールトリベンゾエートが40重量%配合されるポリエステル組成物は、23℃未満のTgを有する混合物を生成することが予想される。
【0054】
例15〜19
表V中の例15〜19のそれぞれに関して示した基材コポリエステルを、除湿乾燥機中で65℃において12時間予備乾燥させ、30mmのWerner−Pfeiderer
40:1 L/D同方向回転型二軸スクリュー押出機を用いて、可塑剤ネオペンチルグリコールジベンゾエートと配合した。押出組成物はこれ以上乾燥させずに、150℃の設定ロール温度においてFarrell二本ロール機上に置いた。10分後、ポリエステル組成物をミルから取り出し、ロール温度が110〜120℃の範囲である3−ロール縦型カレンダースタックを通して、厚さ0.254mmのフィルムを生成した。Tg及びTmを含むフィルムの性質を、表Vに要約する。例15〜17は、本発明の実施例である。例18及び19は23℃超のTgを有するが、更に可塑剤を添加することによって、Tgは低下する。詳細には、Foxの式を用いると、例19と同じ基材コポリエステルを用いるポリエステル組成物のTgは、可塑剤がネオペンイルグリコールジベンゾエート22重量%である場合には23℃未満であると予測される。
【0055】
【表7】

【0056】
1テレフタル酸100モル%の二酸成分並びに1,4−シクロヘキサンジメタノール31モル%及びエチレングリコール69モル%のグリコール成分からなるコポリエステル。
2テレフタル酸100モル%の二酸成分並びにジエチレングリコール37モル%及びエチレングリコール63モル%のグリコール成分からなるコポリエステル。
3テレフタル酸100モル%の二酸成分並びに1,4−シクロヘキサンジメタノール20モル%、ジエチレングリコール9モル%及びエチレングリコール71モル%のグリコール成分からなるコポリエステル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)(i)基材コポリエステルが最大結晶化速度を有する温度における2000分間のアニール後に1%より大きい結晶化度を示し且つ220℃未満の融解温度を有する基材コポリエステル50〜95重量%、及び
(ii)前記基材コポリエステルと共に使用するのに適した、9.5〜13.0cal0.5cm-1.5の範囲の溶解性パラメーターを有する可塑剤5〜50重量%
を含むポリエステル組成物を製造し;
(b)前記ポリエステル組成物をフィルム又はシートに成形し;そして
(c)工程(b)の間又は工程(b)の後に結晶化を誘起する
工程を含んでなる23℃未満のガラス転移温度及び120℃超の融解温度を有するフィルム又はシートの製造方法。
【請求項2】
前記フィルム又はシートが0℃未満のガラス転移温度及び140℃超の融解温度を有する請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ポリエステル組成物が基材コポリエステル50〜80重量%及び可塑剤20〜50重量%を含む請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記基材コポリエステルが、二酸成分100モル%及びジオール成分100モル%に基づいて、
(i)テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、イソフタル酸及びそれらの混合物から選ばれた主二酸少なくとも80モル%並びに20モル%以下の炭素数4〜40の改質用二酸の残基を含む二酸成分、並びに
(ii)炭素数2〜10の少なくとも1種の主ジオール少なくとも80モル%の残基を含むジオール成分
を含んでなる請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記改質用二酸がコハク酸、グルタル酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ダイマー酸、スルホイソフタル酸及びそれらの混合物からなる群から選ばれ、そして前記主ジオールがエチレングリコール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール及びそれらの混合物からなる群から選ばれる請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記主ジオールが1,4−シクロヘキサンジメタノール10〜40モル%及びエチレングリコール60〜90モル%の残基を含む請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記可塑剤が20〜50重量%の量で存在し、そして前記ジオール成分が1,3−プロパンジオール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール、2,2,4−トリメチルー1,3−ペンタンジオール、2,2,4,4−テトラメチル−1,3−シクロブタンジオール、1,3−シクロヘキサンジメタノール及びポリアルキレングリコールからなる群から選ばれた20モル%以下の改質用ジオールの残基を含む請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記可塑剤が9.5〜13.0cal0.5cm-1.5の範囲の溶解性パラメーターを有し、そして
(i)フタル酸、アジピン酸、トリメリット酸、安息香酸、アゼライン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、酪酸、グルタル酸、クエン酸及び燐酸からなる群から選ばれた酸部分、並びに
(ii)炭素数1〜20の脂肪族、脂環式及び芳香族アルコールからなる群から選ばれたアルコール部分
に基づく、エステルを含む請求項7に記載の方法。
【請求項9】
フィルム又はシートの成形が溶融押出又はキャスト押出により、そして工程(b)の後に、延伸によって又はフィルムのガラス転移温度より高いが基材コポリエステルの融解温度より低い温度でアニールすることによって誘起結晶化を行う請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
工程(b)の間にカレンダリング又はインフレーションによってフィルム又はシートの成形及び誘起結晶化を行う請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
(a)基材コポリエステルが最大結晶化速度を有する温度における2000分間のアニール後に1%より大きい結晶化度を示し且つ220℃未満の融解温度を有する基材コポリエステル50〜95重量%、及び
(b)前記基材コポリエステルと共に使用するのに適した、9.5〜13.0cal0.5cm-1.5の範囲の溶解性パラメーターを有する可塑剤5〜50重量%を含むポリエステル組成物を含んでなる、23℃未満のガラス転移温度及び120℃超の融解温度を有するフィルム又はシート。
【請求項12】
前記基材コポリエステルが50〜80重量%で存在し且つ前記可塑剤が20〜50重量%で存在する請求項11に記載のフィルム又はシート。
【請求項13】
前記基材コポリエステルが、二酸成分は100モル%に基づき、ジオール成分も100モル%に基づいて、
(i)テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、イソフタル酸及びそれらの混合物からなる群から選ばれた主二酸少なくとも80モル%の二酸成分並びに炭素数4〜40の改質用酸20モル%以下の残基を含む、並びに
(ii)炭素数2〜約10の少なくとも1種の主ジオール少なくとも約80モル%の残基を含むジオール成分
を含んでなる請求項12に記載のフィルム又はシート。
【請求項14】
前記改質用二酸がコハク酸、グルタル酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ダイマー酸及びスルホイソフタル酸からなる群から選ばれ、そして主ジオールがエチレングリコール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール及びそれらの混合物からなる群から選ばれる請求項13に記載のフィルム又はシート。
【請求項15】
前記主ジオールが1,4−シクロヘキサンジメタノール10〜40モル%及びエチレングリコール60〜90モル%を含み、そして前記ジオール成分が1,3−プロパンジオール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、2,2,4,4−テトラメチル−1,3−シクロブタンジオール、1,3−シクロヘキサンジメタノール及びポリアルキレングリコールからなる群から選ばれた20モル%以下の改質用ジオールの残基を更に含む請求項14に記載のフィルム又はシート。
【請求項16】
前記可塑剤が
(i)フタル酸、アジピン酸、トリメリット酸、安息香酸、アゼライン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、酪酸、グルタル酸、クエン酸及び燐酸からなる群から選ばれた酸部分、並びに
(ii)炭素数1〜20の脂肪族、脂環式及び芳香族アルコールからなる群から選ばれたアルコール部分
に基づく、エステルを含む請求項15に記載のフィルム又はシート。
【請求項17】
前記フィルム又はシートが0℃未満のガラス転移温度を有し、そして140℃超の融解温度を有する請求項11〜16のいずれか1項に記載のフィルム又はシート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−12609(P2012−12609A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−177651(P2011−177651)
【出願日】平成23年8月15日(2011.8.15)
【分割の表示】特願2002−582116(P2002−582116)の分割
【原出願日】平成14年4月4日(2002.4.4)
【出願人】(594055158)イーストマン ケミカル カンパニー (391)
【Fターム(参考)】