可変光減衰器
【課題】よりコンパクトにすることとができる可変光減衰器を提供する。
【解決手段】基板101と、酸化バナジウムの結晶から構成された光透過部102とを少なくとも備える。光透過部102をコアとし、基板101をクラッド層とする光導波路を構成すればよい。酸化バナジウム(VO2)の結晶からなる光透過部102においては、光誘起相転移により絶縁体相および金属相の2つの状態が入れ替わり、光吸収特性が変化する。こため、この可変光減衰器によれば、入射する光による光誘起相転移で、光透過部102における上述した2つの状態を切り替えることができ、透過(導波)する光の減衰状態を切り替えることができる。たとえば、光誘起相転移が起きる強度の光が入射すると、光透過部102が金属相に相転移して光吸収が増大し、入射して透過する光の強度を減衰させることができる。
【解決手段】基板101と、酸化バナジウムの結晶から構成された光透過部102とを少なくとも備える。光透過部102をコアとし、基板101をクラッド層とする光導波路を構成すればよい。酸化バナジウム(VO2)の結晶からなる光透過部102においては、光誘起相転移により絶縁体相および金属相の2つの状態が入れ替わり、光吸収特性が変化する。こため、この可変光減衰器によれば、入射する光による光誘起相転移で、光透過部102における上述した2つの状態を切り替えることができ、透過(導波)する光の減衰状態を切り替えることができる。たとえば、光誘起相転移が起きる強度の光が入射すると、光透過部102が金属相に相転移して光吸収が増大し、入射して透過する光の強度を減衰させることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導波路型の可変光減衰器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ブロードバンド波長多重通信技術の発展に伴って、光信号の強度を減衰する機能(光減衰器)を光通信のシステムに組み入れることが不可欠になってきた。このような光通信では、各波長に対応するチャンネルにおいて、光受信機への入力強度がおおよそ一定になるように調整することが重要となっている。また、光通信の技術では、システムの小型が求められている。従って、多段に強度可変が可能で、コンパクトな光減衰器が求められている。また、このような光減衰器においては、よく知られているように、波長依存性のない特性が望まれている。
【0003】
光減衰器には、大きく分けて、固定光減衰器および可変光減衰器の2種類がある。固定光減衰器は、主に光伝送路において、強すぎる光の入射による受光素子の破壊を防止する目的で用いられている。光回路においては、強い光が入射した場合に、この後に続く回路や検出部を保護するという機能が必要である。このような保護のための固定光減衰器としては、例えば、光シャッターがある。この光シャッターに課せられる役割は、光強度が低い場合には減衰せずに透過するが、光強度が高い場合には減衰するというものとなる。
【0004】
一方、可変光減衰器は、光信号の強度を所望の値に変化させる目的で用いられている。可変減衰器の一例として、液晶を使って透過する光を減衰させる方法が提案されている。液晶の場合、電圧を印加しない状態では光を散乱し、電圧を印加すると透過性になる。
【0005】
また、熱制御を用いた石英導波路による可変光減衰器がある。これは、光導波路を分岐させてマッハツェンダー干渉型の光回路を構成し、一方の分岐導波路をヒータで加熱可能とした構成である。ヒータの加熱により一方の分岐導波路の温度を変化させることでこの屈折率を変化させ、この分岐導波路を導波する光の位相を変化させ、他方の分岐導波路の光を合波したときの出力を連続的に変化させる。
【0006】
また、機械的に光を遮断し、ミラーで光路を変化させるMEMS型の可変光減衰器も提案されている。また、可変ファラデー回転子を組み込んだ磁気光学効果を用いる光減衰器もある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】H.W.Verleur, et al. ,"Optical Properties of VO2 between 0.25 and 5 eV", Phys. Rev. ,vol.172, No.3, pp.788-798, 1968.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、入力する信号光の強度に合わせた光強度の連続的な制御を行うために、現状では複雑な構成を必要としている。一般的には、受光素子で入力する信号光強度を検出(監視)し、検出結果を用いて減衰を調節するためのパラメータを変化させるなど、帰還制御を行うようにしている。入力される信号強度の変化が緩やかな場合、上述したような帰還制御を行うフィードバック回路により比較的容易に信号の強度を制御することが可能である。しかしながら、高速で変化するバーストモードの信号光の場合は、受光素子が信号光の変化に追従できないことも考えられる。
【0009】
将来のさらに高速化した光通信技術に対応するためには、高速で動作する可変光減衰器の必要性が強く認識されている。またバーストモードでは、入射してくる光の強さは様々であるため、追従するだけではなく、広いダイナミックレンジの光に対応しなければならないという課題もある。さらに、上述したような多くの性能が要求される帰還制御機構は、必然的に部品点数の増大や大型化を招くことになる。このような帰還制御機構を光導波路の近傍に設けるためには、大きな空間が必要となり、また、作製プロセスが複雑になり、可変光減衰器のコスト自体を押し上げる要因になる。
【0010】
特に、波長多重通信においては、各波長に対応して分波する各々の光に対して光強度を制御する必要があり、上述のことがより問題となる。例えば、100チャンネルを超える信号光に対し、各々に上述したような可変光減衰器を設けことは、空間的にもコスト的にも非常に困難な問題がある。
【0011】
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、よりコンパクトにすることとができる可変光減衰器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る可変光減衰器は、基板と、この基板の上に形成された酸化バナジウムの結晶からなる光透過部とを少なくとも備える。
【0013】
上記可変光減衰器において、光透過部は、チタンが添加された酸化バナジウムの結晶から構成してもよい。
【0014】
上記光透過部は、光導波路を構成するコアであればよい。この場合、コアは、光入射端ほど太いテーパ構造を備えるようにしてもよい。また、光導波方向に垂直な方向に対向配置してコアを挟む第1電極および第2電極と、第1電極および第2電極に電圧を印加する電圧印加手段と、この電圧印加手段により印加される電圧を制御する電圧制御手段とを備えるようにしてもよい。なお、コアは、コランダム,石英,および酸化シリコンより選択されたいずれかの材料より構成されたクラッド層の上に接して形成されていればよい。また、第1電極および第2電極は、透明電極であり、第1電極からなる下部クラッド層と、この下部クラッド層の上に形成されたコアと、このコアの上に下部クラッド層と絶縁分離して形成された第2電極からなる上部クラッド層とを備えるようにしてもよい。また、窒化シリコンおよび酸化亜鉛より選択された材料から構成されたコアを備えて光透過部に光結合する光導波路を備えるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように、本発明によれば、光透過部を酸化バナジウムの結晶から構成したので、よりコンパクトにすることとができる可変光減衰器が提供できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、本発明の実施の形態1における可変光減衰器の構成を示す斜視図である。
【図2】図2は、酸化バナジウムの結晶状態を説明するための斜視図である。
【図3】図3は、酸化バナジウムのバンド状態を示す説明図である。
【図4】図4は、酸化バナジウムの結晶を透過する光の光強度と吸光度との関係を示す特性図である。
【図5】図5は、本発明の実施の形態1における可変光減衰器の動作を説明するための説明図である。
【図6】図6は、本発明の実施の形態2における可変光減衰器の構成を示す斜視図である。
【図7】図7は、本発明の実施の形態2における可変光減衰器の動作を説明するための説明図である。
【図8】図8は、本発明の実施の形態3における可変光減衰器の構成を示す構成図である。
【図9A】図9Aは、本発明の実施の形態3における可変光減衰器の製造方法の説明における各工程における状態を示す断面図である。
【図9B】図9Bは、本発明の実施の形態3における可変光減衰器の製造方法の説明における各工程における状態を示す断面図である。
【図9C】図9Cは、本発明の実施の形態3における可変光減衰器の製造方法の説明における各工程における状態を示す断面図である。
【図9D】図9Dは、本発明の実施の形態3における可変光減衰器の製造方法の説明における各工程における状態を示す断面図である。
【図9E】図9Eは、本発明の実施の形態3における可変光減衰器の製造方法の説明における各工程における状態を示す断面図である。
【図9F】図9Fは、本発明の実施の形態3における可変光減衰器の製造方法の説明における各工程における状態を示す断面図である。
【図10】図10は、本発明の実施の形態4における可変光減衰器の構成を示す斜視図である。
【図11A】図11Aは、本発明の実施の形態4における可変光減衰器の製造方法の説明における各工程における状態を示す断面図である。
【図11B】図11Bは、本発明の実施の形態4における可変光減衰器の製造方法の説明における各工程における状態を示す断面図である。
【図11C】図11Cは、本発明の実施の形態4における可変光減衰器の製造方法の説明における各工程における状態を示す断面図である。
【図11D】図11Dは、本発明の実施の形態4における可変光減衰器の製造方法の説明における各工程における状態を示す断面図である。
【図11E】図11Eは、本発明の実施の形態4における可変光減衰器の製造方法の説明における各工程における状態を示す断面図である。
【図11F】図11Fは、本発明の実施の形態4における可変光減衰器の製造方法の説明における各工程における状態を示す断面図である。
【図11G】図11Gは、本発明の実施の形態4における可変光減衰器の製造方法の説明における各工程における状態を示す断面図である。
【図11H】図11Hは、本発明の実施の形態4における可変光減衰器の製造方法の説明における各工程における状態を示す断面図である。
【図11I】図11Iは、本発明の実施の形態4における可変光減衰器の製造方法の説明における各工程における状態を示す断面図である。
【図11J】図11Jは、本発明の実施の形態4における可変光減衰器の製造方法の説明における各工程における状態を示す断面図である。
【図12】図12は、本発明の実施の形態5における可変光減衰器の構成を示す構成図である。
【図13】図13は、本発明の実施の形態5における可変光減衰器の構成を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。
【0018】
[実施の形態1]
はじめに、本発明の実施の形態1について説明する。図1は、本発明の実施の形態1における可変光減衰器の構成を示す斜視図である。この可変光減衰器は、基板101と、酸化バナジウムの結晶から構成された光透過部102とを少なくとも備える。本実施の形態の可変光減衰器は、光透過部102をコアとし、基板101をクラッド層とする光導波路を構成した例を示している。
【0019】
酸化バナジウム(VO2)の結晶からなる光透過部102においては、光誘起相転移により絶縁体相および金属相の2つの状態が入れ替わり、光吸収特性が変化する。このため、この可変光減衰器によれば、入射する光による光誘起相転移で、光透過部102における上述した2つの状態を切り替えることができ、透過(導波)する光の減衰状態を切り替えることができる。例えば、光誘起相転移が起きる強度の光が入射すると、光透過部102が金属相に相転移して光吸収が増大し、入射して透過する光の強度を減衰させることができる。
【0020】
以下、VO2の相転移について説明する。
【0021】
VO2は、68℃で金属絶縁体相転移を起こすことが知られている。相転移温度以下のVO2は絶縁体であるが、相転移温度を超える温度のVO2は金属伝導性になる。この相転移は完全に可逆的であって、相転移によるVO2の抵抗値の変化は、相転移の前後で約3桁である。VO2の結晶構造は、低温で単斜晶系、高温で正方晶系である。図2の(a)に示すように、金属相状態のVO2では、V4+原子201はO2-原子(不図示)で形成される八面体の中心に位置しており、ルチル構造を取っている。一方、絶縁体相にあっては、図2の(b)に示すように、2個のV4+原子201がペアになり、加えて、c軸に対して傾くため、V−O結合が歪み、結果的として金属相の単位格子の2倍の長さの周期で単斜晶系の結晶格子を形成している。
【0022】
図3は、VO2の相転移に伴うバンドダイヤグラムの変化を簡略化して示した説明図である。図3の(a)に示すように、金属相では、フェルミレベルEf付近のバンドは、c軸方向に沿った3d‖バンドと、3dπ軌道と酸素のp軌道が混成したバンドにより構成されている。一方、絶縁体相では、V4+原子がペアになることから、図3の(b)に示すように、3d‖バンドが結合性と非結合性軌道に分離し、さらにV−O結合の歪みにより3dπ軌道はフェルミレベルEfよりも高いエネルギー位置へとシフトする。これにより、バンドギャップが開いて、VO2は絶縁性となる。
【0023】
これまでのところ、温度を変化させることにより生じる相転移が最もよく研究されている。前述したように、VO2の相転移が68℃という低い温度で起きるのは、VO2のバンドギャップが0.5eV程度と狭いことに関連している。絶縁性から電気伝導性への変化により、光吸収が増大して光学透過率が低下するため、温度の変化により透過光量が変化する調光ガラスとしてすでに実用化されている。
【0024】
また、VO2は、電界誘起による相転移現象も知られている。これは、VO2結晶に印加する電界の強度により、上述した相転移が起きるというものである。この現象に対する完全な説明はまだなされていないが、絶縁体相においてトラップされている電子が、熱的に伝導帯へ励起される過程が、電界により促進されることに起因するものと考えられる。このような「Poole−Frenkel」電流がある閾値を超えて流れる状態になると、VO2の電子励起が引き金になって相転移が起きると推測される。
【0025】
上述したように、価電子の熱励起、あるいは電界による熱励起の促進により相転移が起きているので、光励起によっても相転移が起きるものと考えられる。3d‖バンドから3dπバンドへの光励起は、光エネルギー0.7eV以上で可能である。また、2pπバンドから3dπバンドへの光励起は、光エネルギー2.5eV以上で可能である。実際、高速の光誘起相転移が起きることが知られており、この光誘起相転移の応答時間は、0.1ps程度である。なお、この応答時間は、VO2の結晶粒の大きさ、配向性、組成の異なるVOx異種結晶の量などに依存して変化する。
【0026】
しかし、固体全体が定常的に同じ温度にさらされて進行する熱励起相転移とは異なり、光誘起相転移では、励起状態からの放射遷移あるいは無放射遷移による脱励起過程が、光誘起による励起過程と競合している。このため、光誘起相転移が起きるためには、VO2結晶の単位体積あたりに照射される(導波する)光の強度(光密度)が十分に高いことが重要となる。
【0027】
入射光強度と光誘起相転移によって変化する物理量の関係を定性的に示したのが図4である。この物理量としては、電気抵抗率、金属相に対応するVO2結晶ドメインの割合、吸光度などが考えられるが、ここでは、絶縁相における吸光度からの変化分を上記物理量として縦軸に取っている。
【0028】
光密度が低い場合は、光誘起相転移を駆動するために必要な値に達しておらず、グラフ(a)のように初期には吸光度がほとんど変わらず、閾光強度1を超えたところで、急に吸光度が増加するような特性を示す。これに対し、光密度が高い場合は、グラフ(b)に示すように、光照射の最初から入射光強度(光密度)に応じて吸光度が線形に増大する変化を示す。
【0029】
従って、グラフ(a)のような特性を用いることで、入射する光強度が弱わく光密度が低いときには、絶縁体相としての光吸収特性に従って入射光を透過し、一方、入射する光強度が強くなり、光密度が高くなると金属相に特有な強い減衰機能を持たせることができる。
【0030】
VO2の屈折率は2.2−2.5と高めである。このため、例えばサファイア基板,石英基板,あるいはシリコン基板上に形成した酸化シリコンによる厚膜などの透明な材料を下部クラッド層とし、VO2をコアとした光導波路を構成することができる。また、受動的光導波路の一区間として用いるには、屈折率が2.0付近であるSiNやZnOなどをコアとした光導波路中に、本実施の形態における導波路構造の可変光減衰器を挿入するとよい。SiNやZnOなどのコアは、VO2のコアとの界面における屈折率のギャップが比較的小さく、挿入による光損失(結合損失)を低く抑えることができる。
【0031】
なお、バンドギャップが狭いことから容易に推察できるように、VO2は絶縁体相であっても光吸収係数が比較的大きい材料である。一例として、通信波長帯である1550nmの赤外光を導波する場合について考える。絶縁体相のVO2の吸収係数を4×104cm-1と仮定すると(非特許文献1参照)、素子(導波路)長0.25μmで、導波している信号光の強度が1/eに減衰する。素子長1μmでは、入射強度の2%にまで減衰する計算である。一方、金属相のVO2における吸収係数が2×105cm-1であると仮定すると、素子長250nmで、導波している信号光の強度は0.7%に減衰する。このように、金属相のVO2における光減衰は非常に強いことが分かる。尤も、このような吸収係数の値は、VO2結晶の作製方法,組成,および結晶性など様々な要因に依存するため、上述した見積値が常に適用できるとは限らない。
【0032】
上述した見積値に従うとすれば、本実施の形態における可変光減衰器の導波路長は、最大でも素子長は数100nmであると考えられる。これに対し、コアにおける光吸収係数を小さくして減衰を抑制するには、他の金属酸化物との混晶にしてバンドギャップを広げる方法が考えられる。
【0033】
ところで、これまでの混晶化の研究では、V1-xWxO2に代表されるように、バンドギャップを縮めてVO2の相転移温度を室温付近まで下げることが試みられている。しかしながら、上述した光吸収係数の減衰の抑制のためには、逆の方向を目指すことが必要である。この目的のためには、バンドギャップの広い酸化物との混晶化であり、TiO2がよい候補である。チタン(Ti)は、バナジウム(V)と同じ4+の価数であり、TiO2はルチル構造を有する。TiO2とVO2との混晶であるV1-xTixO2よりコアを構成することで、本実施の形態における可変光減衰器の光吸収係数をより小さくすることができる。なお、V1-xTixO2は、「Tiが添加されたVO2の結晶と」言い換えることができる。
【0034】
次に、本実施の形態における可変光減衰器の製造について、簡単に説明する。例えば、基板101の上にVO2膜を形成し、形成したVO2膜をパターニングすることで、リッジ状の光透過部102を形成すればよい。VO2膜は、例えば、スパッタ法,ゾルゲル法,レーザーアブレーション法,およびMOCVD法などにより形成すればよい。また、光透過部102は、基板101に到達するまでVO2膜を加工することで形成したリッジ形状に限らず、途中までエッチング加工することで形成したリブ型であってもよい。
【0035】
基板101としては、屈折率がVO2より小さい材料から構成すればよく、例えば、サファイア(コランダム),石英,および酸化シリコンが形成されているシリコン基板などを用いればよい。また、光透過部102が上部クラッド層(不図示)で覆われ、クラッドで埋め込まれた構成としてもよい。
【0036】
本実施の形態における可変光減衰器では、導波路構造の一端より入射した光(一次光)の強度が、所定の値より大きい場合、通過する際に減衰する。本実施の形態における可変光減衰器のによる光導波路の前後にSiNおよびZnOなどをコア材料とする受動光導波路を接続すると、VO2の光透過部102よりなる光導波路部分を光減衰セクションとして機能せることができる。ここで、VO2の代わりにV1-xTixO2の混晶をコア材料に用いることで、バンドギャップが広く、より透明で減衰率が低く、素子長をより長く設定できるようにすることも可能である。
【0037】
次に、本実施の形態における可変光減衰器の、一次光強度に応じた光透過部102の光媒質としての振る舞いについて説明する。まず、図5の(a)に示すように、一次光強度が弱わく光密度が低い場合、光誘起相転移は起こらず、絶縁体VO2の吸収係数に応じた分だけが減衰する。この状態が、図5の(d)におけるグラフ(a)で示されている。
【0038】
また、図5の(b)に示すように、一次光強度が閾値を超えて光密度が高くなると、光透過部102(光導波路)の入射側の最初の光密度が高くなる部分で相転移領域501が生じ、入射光は減衰する。また、光強度が減衰した後の部分では、光密度が閾値に達しないため、図5の(d)に示すグラフ(a)と同様なラインを辿って緩やかに減衰する。
【0039】
次に、一次光強度が閾値を超えてより強い場合、図5の(c)に示すように、より長い相転移領域502が形成され、入射光に対してより長い距離に渡って強い減衰がかかる。ただし、この場合においても、最終的には、図5の(d)に示すように、グラフ(c)は、グラフ(a)のラインに合流する。
【0040】
このように、一次光の光強度によらず、可変光減衰器(光透過部102)自体が、入射して導波している光の光密度に応じて相転移領域の長さを調整するため、最終的な出力光のレベルは、ほぼ一定に収束する。
【0041】
[実施の形態2]
次に、本発明の実施の形態2について説明する。図6は、本発明の実施の形態2における可変光減衰器の構成を示す斜視図である。この可変光減衰器は、クラッド層601と、酸化バナジウムの結晶から構成されて光入射端ほど太いテーパ構造とされているコア602とを少なくとも備え、光導波路を構成している。本実施の形態では、コア602の光導波方向に垂直な断面が、光入射端ほど大きくなっているところに特徴がある。
【0042】
本実施の形態における可変光減衰器では、光誘起相転移が起きない範囲の弱い光強度(光密度)の入射光を、より弱い光強度にまで減衰して透過させるようにしている。言い換えると、光励起相転移が起きない範囲の光強度の入射光であっても、より減衰させて透過させるようにしている。
【0043】
次に、一次光強度に応じた本実施の形態における可変光減衰器のコア602の光媒質としての振る舞いについて説明する。まず、図7の(a)に示すように、一次光強度が弱くコア602の断面積が小さい領域(図7の紙面右側)に到達しても光密度が高くならずに光誘起相転移が起こらない場合であっても、絶縁体相のVO2の吸収係数に応じた分だけが減衰する。この状態が、図7の(d)におけるグラフ(a)で示されている。
【0044】
一方、一次光強度がある程度強い場合、コア602の途中より相転移領域701が形成されるようになる。この場合、コア602の導波方向中央部を超えると、光密度が閾値を超えて相転移領域701が生じ、生じた相転移領域701において導波している光強度が減衰する。また、一次光強度がより高い場合、コア602の導波方向中央部に達する前に光密度が閾値を超えて相転移領域702が生じ、より長い領域の相転移領域702において導波している光強度が減衰する。なお、これらのいずれの場合においても、図7の(d)に示すグラフ(b)およびグラフ(c)のように、最終的にはグラフ(a)のラインに合流する。このように、テーパー形状のコア602を用いることで、コア602の導波方向の途中に、光密度が閾値を超える箇所を設定することが可能となる。
【0045】
[実施の形態3]
次に、本発明の実施の形態3について説明する。図8は、本発明の実施の形態3における可変光減衰器の構成を示す斜視図である。この可変光減衰器は、クラッド層801と、酸化バナジウムの結晶から構成されたコア802と、光導波方向に垂直な方向に対向配置してコア802を挟む第1電極803および第2電極804、第1電極803および第2電極804に電圧を印加する電源(電圧印加手段)805と、電源805により印加される電圧を制御する電圧制御部806とを少なくとも備える。本実施の形態では、第1電極803および第2電極804は、クラッド層801の平面方向において、コア802を挟んで配置されている。
【0046】
本実施の形態における可変光減衰器によれば、コア802に電界を印加できるので、より低い光強度で光誘起相転移を起こさせることが可能となる。例えば、減衰(制御)対象の光の密度が低い場合や、TiO2とVO2とを混晶化して用いることにより相転移に要する光強度の閾値を上げた場合などは、光誘起相転移の閾値が高くなり、光減衰作用が機能しない場合があり得る。このような場合、本実施の形態によれば、電界の印加により光誘起相転移の閾値を低くすることができ、所望とする光減衰作用を得ることができるようになる。
【0047】
第1電極803および第2電極804の間に電圧を印加してコア802に電界を印加することで、熱イオン電流がより流れやすい状態にすることができる。このことは、コア802における光誘起相転移の実効的な閾値を下げている状態に相当し、より弱い光であっても光誘起相転移が起きることを意味する。例えば、コア802に対して電界を印加していない状態の入射光強度と光強度との関係が、図4のグラフ(b)の状態であっても、コア802に電界を印加することで、グラフ(c)に示すような、より低い閾光強度2で光誘起相転移が起きる特性に変化する。このように、コア802に対して印加する電界の強度を変えることで、様々な光強度の入射光に対応して光を減衰させることができるようになる。
【0048】
なお、第1電極803および第2電極804が対向配置されている方向のコア802の幅を、この方向に直交するコア802の高さに比較して大きな寸法とするとよい。よく知られているように、導波する光は、コア802の中央部付近に局在して伝播する。このため、上述したようにコア802の断面形状を扁平とすることで、導波する光の局在位置より、第1電極803および第2電極804を離して配置することができる。この結果、コア802を導波する光の端部が第1電極803および第2電極804に重なって減衰することが、抑制できるようになる。
【0049】
以下、本実施の形態における可変光減衰器の製造方法について説明する。まず、図9Aに示すように、例えばサファイア基板を用意してこれをクラッド層801とする。次に、図9Bに示すように、クラッド層801の上に金属膜901を形成する。例えば、スパッタ法により所望とする金属を堆積することで、金属膜901を形成すればよい。
【0050】
次に、公知のフォトリソグラフィー技術により、図9Cに示すように、金属膜901の上に、レジストパターン902を形成する。レジストパターン902は、これを形成した時点で、コアとなる部分に対応して金属膜901の表面が露出する開口部903を備えている。次に、レジストパターン902をマスクとして金属膜901を選択的にエッチング除去し、図9Dに示すように、第1電極803および第2電極804を形成する。例えば、公知の反応性イオンエッチングにより、クラッド層801に達するまで金属膜901を選択的にエッチングする。これにより、クラッド層801の上で、互いに絶縁分離した状態に、第1電極803および第2電極804を形成することができる。
【0051】
次に、図9Eに示すように、VO2結晶膜904を形成する。第1電極803および第2電極804に挟まれた溝部に、第1電極803および第2電極804と同じ厚さにVO2結晶膜904が形成されるようにする。この後、レジストパターン902を除去することで、レジストパターン902の上のVO2結晶膜904は除去し、第1電極803および第2電極804の間のVO2結晶膜904を残すことで、図9Fに示すように、第1電極803および第2電極804に挟まれたコア802を形成する。
【0052】
[実施の形態4]
次に、本発明の実施の形態4について説明する。図10は、本発明の実施の形態4における可変光減衰器の構成を示す斜視図である。この可変光減衰器は、基板1001と、この上に形成された第1電極層1002と、第1電極層1002の上に形成されて酸化バナジウムの結晶から構成されたコア1003と、コア1003を挟んで形成された酸化シリコン層1004と、コア1003および酸化シリコン層1004の上に形成された第2電極層1005とを備える。また、第1電極層1002にオーミック接続する電極パッド1006と、第2電極層1005にオーミック接続する電極パッド1007とを備える。
【0053】
基板1001は、例えば、サファイア基板であり、第1電極層1002および第2電極層1005は、例えば、ZnOなどの透明電極として用いることができる材料から構成すればよい。なお、第1電極層1002は、所謂リブ型の構造とし、このリブ部の上にコア1003を配置する。ここで、コア1003を構成するVO2の結晶性は、第1電極層1002の結晶性に強く影響される。従って、第1電極層1002(第2電極層1005)は、基板1001の上にエピタキシャル成長する材料系であることが望ましい。
【0054】
本実施の形態では、第1電極層1002が、コア1003に対して下部クラッド層となり、第2電極層1005がコア1003に対して上部クラッド層となる。また、コア1003を挟んで配置する酸化シリコン層1004は、コア1003に対して側部のクラッドとなるとともに、第1電極層1002と第2電極層1005と絶縁分離している。本実施の形態では、各層を積層する方向(基板1001の平面の法線方向)に、第1電極層1002および第2電極層1005が、コア1003を挟んで配置されている。
【0055】
例えば、前述したように、サファイア基板を用いれば、この上に方位を揃えてZnOをエピタキシャル成長させることができる。ただし、アンドープZnOの電気伝導性は酸素空孔に由来するため、不安定である。従って、各電極層には、AlドープのZnO(AZO)およびGaドープのZnO(GZO)を用いるのが望ましい。サファイアA面あるいはC面基板の上には、AZOやGZOがc軸配向してエピタキシャル成長することが知られている。ZnOのC面およびサファイアのC面は、同じような原子配列を有するので、VO2のサファイア基板に対するエピタキシャル関係は、ZnOに対するエピタキシャル関係と同じものになる。
【0056】
また、VO2の光誘起相転移の光強度および相転移の急峻さに影響を及ぼさないのであれば、VO2の成膜温度は低い方が望ましい。これは、AZOおよびGZOの抵抗率が、アニールにより高くなるからである。
【0057】
一方、第2電極層1005の結晶性も、VO2結晶からなるコア1003の表面粗さに影響されるが、第2電極層1005は、屈折率がVO2よりも低く、かつ抵抗値が低ければ問題ない。また、サファイア基板に限らず、石英基板の上でもAZOおよびGZOはc軸配向成長する。石英基板の場合、サファイア基板上よりは結晶性は劣るものの、ある程度の特性のVO2膜が形成できる。
【0058】
本実施の形態においても、コア1003に電界を印加できるので、前述した実施の形態3と同様に、より低い光強度で光誘起相転移を起こさせることが可能となる。本実施の形態においても、第1電極層1002および第2電極層1005の間に電圧を印加してコア802に印加する電界の強度を変えることで、様々な光強度の入射光に対応して光を減衰させることができるようになる。なお、本実施の形態においても、電極パッド1006および電極パッド1007に、前述した実施の形態3と同様に、電圧印加手段および電圧制御手段を接続することで、上述した光の制御を行うようにすればよい。
【0059】
次に、本実施の形態における可変光減衰器の製造方法について説明する。まず、図11Aに示すように、例えばサファイア基板を用意してこれを基板1001とする。次に、図11Bに示すように、基板1001の上に透明電極膜1002aを形成する。例えば、スパッタ法によりAZOもしくはGZOを堆積することで、透明電極膜1002aを形成すればよい。
【0060】
次に、図11Cに示すように、透明電極膜1002aの上に、VO2結晶膜1003aを形成する。次に、公知のフォトリソグラフィー技術により、図11Dに示すように、VO2結晶膜1003aの上に、レジストパターン1101を形成する。レジストパターン1101は、コアとなる部分に対応するパターンである。
【0061】
次に、レジストパターン1101をマスクとしてVO2結晶膜1003aおよび透明電極膜1002aを選択的にエッチング除去する。このエッチングでは、例えば、公知の反応性イオンエッチングにより、透明電極膜1002aの膜厚方向の途中までエッチングを行う。これにより、図11Eに示すように、第1電極層1002およびコア1003を形成する。なお、このエッチングでは、コア1003が形成されることが重要である。
【0062】
引き続いて、図11Fに示すように、酸化シリコン層1004を形成する。基板1001の側から見て、コア1003の側部にコア1003と同じ高さに酸化シリコン層1004を形成する。この後、レジストパターン1101を除去することで、レジストパターン1101の上の酸化シリコン層1004も除去し、図11Gに示すように、酸化シリコン層1004により、コア1003の側部が挟まれた状態とする。
【0063】
次に、図11Hに示すように、酸化シリコン層1004およびコア1003の上に、AZOもしくはGZOからなる透明電極膜1005aを形成する。次に、公知のフォトリソグラフィー技術およびエッチング技術により、透明電極膜1005aおよびコア1003の一方の側部の酸化シリコン層1004をパターニングし、図11Iに示すように、第1電極層1002の一部のスラブ部を露出させるとともに、第2電極層1005を形成する。この後、図11Jに示すように、電極パッド1006および電極パッド1007を形成する。
【0064】
[実施の形態5]
次に、本発明の実施の形態5について図12,図13を用いて説明する。この実施の形態では、例えば、透明な基板1211と、基板1211の上に形成された酸化バナジウムの結晶からなる光透過層(光透過部)1212とより構成された可変光減衰器1210を備える。
【0065】
また、基板1201と、基板1201の上に形成された下部クラッド層1202と、下部クラッド層1202の上に形成されたコア1203と、コア1203の上に形成された上部クラッド層1204とを備える。この実施の形態では、可変光減衰器1210は、下部クラッド層1202,コア1203,および上部クラッド層1204からなる光導波路1205の途中に形成された溝部1205aに差し込んで用いる。
【0066】
本実施の形態では、光導波路1205を導波する光は、溝部1205aにおいて、可変光減衰器1210の光透過層1212を、この層厚方向に透過することで、光透過層1212における光誘起相転移で減衰される。本実施の形態では、可変光減衰器1210を、光導波路1205に光結合させて用いている。
【0067】
前述したように、VO2結晶は、絶縁体相でも光の吸収係数が大きい。このため、絶縁体層の状態で、実用的な光透過特性を持たせるためには、VO2結晶よりなる光透過部の光路長を数100nm以下にすることが重要となる。この寸法を、前述した光導波路構造で実現するためには、高度な微細加工技術が必要となる。
【0068】
これに対し、本実施の形態では、上述した光路長は、可変光減衰器1210を構成している光透過層1212の層厚である。光透過層1212の層厚を数100nm程度に制御することは、今日の成膜技術であれば容易である。従って、本実施の形態によれば、光減衰をさせない状態における実用的な光透過特性が、容易に得られるようになる。言い換えると、対象とする光の光強度に適合させた光減衰率を実現することが容易である。なお、基板1211は、両面研摩したサファイア基板および石英基板であればよい。また、VO2膜の形成時の熱条件に耐えられれば、プラスチック基板も使用できる。
【0069】
以上に説明したように、本発明によれば、VO2という材料の特性を用いることで、入射する光強度に応じてVO2結晶が応答し、弱い光はあまり減衰させずに透過し、強い光はより減衰させる光減衰機能を持たせることができる。これにより、フィードバック回路などを必要とせず、コンパクトな可変光減衰器が実現できる。また、本発明の可変光減衰器は、光シャッターとして用いることもできる。また、本発明によれば、応答速度もピコ秒からナノ秒と非常に高速なため、大規模容量の高速通信に適している。また、極短パルス光に対しても対応することができる。さらに、どのような強度の光信号に対しても、電圧印加によって、光減衰の動作点をずらすことで対応することができる。
【0070】
なお、本発明は以上に説明した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で、当分野において通常の知識を有する者により、多くの変形および組み合わせが実施可能であることは明白である。例えば、VO2のコアに電圧を印加する機構は、テーパ状としたコアに組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0071】
101…基板、102…光透過部。
【技術分野】
【0001】
本発明は、導波路型の可変光減衰器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ブロードバンド波長多重通信技術の発展に伴って、光信号の強度を減衰する機能(光減衰器)を光通信のシステムに組み入れることが不可欠になってきた。このような光通信では、各波長に対応するチャンネルにおいて、光受信機への入力強度がおおよそ一定になるように調整することが重要となっている。また、光通信の技術では、システムの小型が求められている。従って、多段に強度可変が可能で、コンパクトな光減衰器が求められている。また、このような光減衰器においては、よく知られているように、波長依存性のない特性が望まれている。
【0003】
光減衰器には、大きく分けて、固定光減衰器および可変光減衰器の2種類がある。固定光減衰器は、主に光伝送路において、強すぎる光の入射による受光素子の破壊を防止する目的で用いられている。光回路においては、強い光が入射した場合に、この後に続く回路や検出部を保護するという機能が必要である。このような保護のための固定光減衰器としては、例えば、光シャッターがある。この光シャッターに課せられる役割は、光強度が低い場合には減衰せずに透過するが、光強度が高い場合には減衰するというものとなる。
【0004】
一方、可変光減衰器は、光信号の強度を所望の値に変化させる目的で用いられている。可変減衰器の一例として、液晶を使って透過する光を減衰させる方法が提案されている。液晶の場合、電圧を印加しない状態では光を散乱し、電圧を印加すると透過性になる。
【0005】
また、熱制御を用いた石英導波路による可変光減衰器がある。これは、光導波路を分岐させてマッハツェンダー干渉型の光回路を構成し、一方の分岐導波路をヒータで加熱可能とした構成である。ヒータの加熱により一方の分岐導波路の温度を変化させることでこの屈折率を変化させ、この分岐導波路を導波する光の位相を変化させ、他方の分岐導波路の光を合波したときの出力を連続的に変化させる。
【0006】
また、機械的に光を遮断し、ミラーで光路を変化させるMEMS型の可変光減衰器も提案されている。また、可変ファラデー回転子を組み込んだ磁気光学効果を用いる光減衰器もある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】H.W.Verleur, et al. ,"Optical Properties of VO2 between 0.25 and 5 eV", Phys. Rev. ,vol.172, No.3, pp.788-798, 1968.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、入力する信号光の強度に合わせた光強度の連続的な制御を行うために、現状では複雑な構成を必要としている。一般的には、受光素子で入力する信号光強度を検出(監視)し、検出結果を用いて減衰を調節するためのパラメータを変化させるなど、帰還制御を行うようにしている。入力される信号強度の変化が緩やかな場合、上述したような帰還制御を行うフィードバック回路により比較的容易に信号の強度を制御することが可能である。しかしながら、高速で変化するバーストモードの信号光の場合は、受光素子が信号光の変化に追従できないことも考えられる。
【0009】
将来のさらに高速化した光通信技術に対応するためには、高速で動作する可変光減衰器の必要性が強く認識されている。またバーストモードでは、入射してくる光の強さは様々であるため、追従するだけではなく、広いダイナミックレンジの光に対応しなければならないという課題もある。さらに、上述したような多くの性能が要求される帰還制御機構は、必然的に部品点数の増大や大型化を招くことになる。このような帰還制御機構を光導波路の近傍に設けるためには、大きな空間が必要となり、また、作製プロセスが複雑になり、可変光減衰器のコスト自体を押し上げる要因になる。
【0010】
特に、波長多重通信においては、各波長に対応して分波する各々の光に対して光強度を制御する必要があり、上述のことがより問題となる。例えば、100チャンネルを超える信号光に対し、各々に上述したような可変光減衰器を設けことは、空間的にもコスト的にも非常に困難な問題がある。
【0011】
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、よりコンパクトにすることとができる可変光減衰器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る可変光減衰器は、基板と、この基板の上に形成された酸化バナジウムの結晶からなる光透過部とを少なくとも備える。
【0013】
上記可変光減衰器において、光透過部は、チタンが添加された酸化バナジウムの結晶から構成してもよい。
【0014】
上記光透過部は、光導波路を構成するコアであればよい。この場合、コアは、光入射端ほど太いテーパ構造を備えるようにしてもよい。また、光導波方向に垂直な方向に対向配置してコアを挟む第1電極および第2電極と、第1電極および第2電極に電圧を印加する電圧印加手段と、この電圧印加手段により印加される電圧を制御する電圧制御手段とを備えるようにしてもよい。なお、コアは、コランダム,石英,および酸化シリコンより選択されたいずれかの材料より構成されたクラッド層の上に接して形成されていればよい。また、第1電極および第2電極は、透明電極であり、第1電極からなる下部クラッド層と、この下部クラッド層の上に形成されたコアと、このコアの上に下部クラッド層と絶縁分離して形成された第2電極からなる上部クラッド層とを備えるようにしてもよい。また、窒化シリコンおよび酸化亜鉛より選択された材料から構成されたコアを備えて光透過部に光結合する光導波路を備えるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように、本発明によれば、光透過部を酸化バナジウムの結晶から構成したので、よりコンパクトにすることとができる可変光減衰器が提供できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、本発明の実施の形態1における可変光減衰器の構成を示す斜視図である。
【図2】図2は、酸化バナジウムの結晶状態を説明するための斜視図である。
【図3】図3は、酸化バナジウムのバンド状態を示す説明図である。
【図4】図4は、酸化バナジウムの結晶を透過する光の光強度と吸光度との関係を示す特性図である。
【図5】図5は、本発明の実施の形態1における可変光減衰器の動作を説明するための説明図である。
【図6】図6は、本発明の実施の形態2における可変光減衰器の構成を示す斜視図である。
【図7】図7は、本発明の実施の形態2における可変光減衰器の動作を説明するための説明図である。
【図8】図8は、本発明の実施の形態3における可変光減衰器の構成を示す構成図である。
【図9A】図9Aは、本発明の実施の形態3における可変光減衰器の製造方法の説明における各工程における状態を示す断面図である。
【図9B】図9Bは、本発明の実施の形態3における可変光減衰器の製造方法の説明における各工程における状態を示す断面図である。
【図9C】図9Cは、本発明の実施の形態3における可変光減衰器の製造方法の説明における各工程における状態を示す断面図である。
【図9D】図9Dは、本発明の実施の形態3における可変光減衰器の製造方法の説明における各工程における状態を示す断面図である。
【図9E】図9Eは、本発明の実施の形態3における可変光減衰器の製造方法の説明における各工程における状態を示す断面図である。
【図9F】図9Fは、本発明の実施の形態3における可変光減衰器の製造方法の説明における各工程における状態を示す断面図である。
【図10】図10は、本発明の実施の形態4における可変光減衰器の構成を示す斜視図である。
【図11A】図11Aは、本発明の実施の形態4における可変光減衰器の製造方法の説明における各工程における状態を示す断面図である。
【図11B】図11Bは、本発明の実施の形態4における可変光減衰器の製造方法の説明における各工程における状態を示す断面図である。
【図11C】図11Cは、本発明の実施の形態4における可変光減衰器の製造方法の説明における各工程における状態を示す断面図である。
【図11D】図11Dは、本発明の実施の形態4における可変光減衰器の製造方法の説明における各工程における状態を示す断面図である。
【図11E】図11Eは、本発明の実施の形態4における可変光減衰器の製造方法の説明における各工程における状態を示す断面図である。
【図11F】図11Fは、本発明の実施の形態4における可変光減衰器の製造方法の説明における各工程における状態を示す断面図である。
【図11G】図11Gは、本発明の実施の形態4における可変光減衰器の製造方法の説明における各工程における状態を示す断面図である。
【図11H】図11Hは、本発明の実施の形態4における可変光減衰器の製造方法の説明における各工程における状態を示す断面図である。
【図11I】図11Iは、本発明の実施の形態4における可変光減衰器の製造方法の説明における各工程における状態を示す断面図である。
【図11J】図11Jは、本発明の実施の形態4における可変光減衰器の製造方法の説明における各工程における状態を示す断面図である。
【図12】図12は、本発明の実施の形態5における可変光減衰器の構成を示す構成図である。
【図13】図13は、本発明の実施の形態5における可変光減衰器の構成を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。
【0018】
[実施の形態1]
はじめに、本発明の実施の形態1について説明する。図1は、本発明の実施の形態1における可変光減衰器の構成を示す斜視図である。この可変光減衰器は、基板101と、酸化バナジウムの結晶から構成された光透過部102とを少なくとも備える。本実施の形態の可変光減衰器は、光透過部102をコアとし、基板101をクラッド層とする光導波路を構成した例を示している。
【0019】
酸化バナジウム(VO2)の結晶からなる光透過部102においては、光誘起相転移により絶縁体相および金属相の2つの状態が入れ替わり、光吸収特性が変化する。このため、この可変光減衰器によれば、入射する光による光誘起相転移で、光透過部102における上述した2つの状態を切り替えることができ、透過(導波)する光の減衰状態を切り替えることができる。例えば、光誘起相転移が起きる強度の光が入射すると、光透過部102が金属相に相転移して光吸収が増大し、入射して透過する光の強度を減衰させることができる。
【0020】
以下、VO2の相転移について説明する。
【0021】
VO2は、68℃で金属絶縁体相転移を起こすことが知られている。相転移温度以下のVO2は絶縁体であるが、相転移温度を超える温度のVO2は金属伝導性になる。この相転移は完全に可逆的であって、相転移によるVO2の抵抗値の変化は、相転移の前後で約3桁である。VO2の結晶構造は、低温で単斜晶系、高温で正方晶系である。図2の(a)に示すように、金属相状態のVO2では、V4+原子201はO2-原子(不図示)で形成される八面体の中心に位置しており、ルチル構造を取っている。一方、絶縁体相にあっては、図2の(b)に示すように、2個のV4+原子201がペアになり、加えて、c軸に対して傾くため、V−O結合が歪み、結果的として金属相の単位格子の2倍の長さの周期で単斜晶系の結晶格子を形成している。
【0022】
図3は、VO2の相転移に伴うバンドダイヤグラムの変化を簡略化して示した説明図である。図3の(a)に示すように、金属相では、フェルミレベルEf付近のバンドは、c軸方向に沿った3d‖バンドと、3dπ軌道と酸素のp軌道が混成したバンドにより構成されている。一方、絶縁体相では、V4+原子がペアになることから、図3の(b)に示すように、3d‖バンドが結合性と非結合性軌道に分離し、さらにV−O結合の歪みにより3dπ軌道はフェルミレベルEfよりも高いエネルギー位置へとシフトする。これにより、バンドギャップが開いて、VO2は絶縁性となる。
【0023】
これまでのところ、温度を変化させることにより生じる相転移が最もよく研究されている。前述したように、VO2の相転移が68℃という低い温度で起きるのは、VO2のバンドギャップが0.5eV程度と狭いことに関連している。絶縁性から電気伝導性への変化により、光吸収が増大して光学透過率が低下するため、温度の変化により透過光量が変化する調光ガラスとしてすでに実用化されている。
【0024】
また、VO2は、電界誘起による相転移現象も知られている。これは、VO2結晶に印加する電界の強度により、上述した相転移が起きるというものである。この現象に対する完全な説明はまだなされていないが、絶縁体相においてトラップされている電子が、熱的に伝導帯へ励起される過程が、電界により促進されることに起因するものと考えられる。このような「Poole−Frenkel」電流がある閾値を超えて流れる状態になると、VO2の電子励起が引き金になって相転移が起きると推測される。
【0025】
上述したように、価電子の熱励起、あるいは電界による熱励起の促進により相転移が起きているので、光励起によっても相転移が起きるものと考えられる。3d‖バンドから3dπバンドへの光励起は、光エネルギー0.7eV以上で可能である。また、2pπバンドから3dπバンドへの光励起は、光エネルギー2.5eV以上で可能である。実際、高速の光誘起相転移が起きることが知られており、この光誘起相転移の応答時間は、0.1ps程度である。なお、この応答時間は、VO2の結晶粒の大きさ、配向性、組成の異なるVOx異種結晶の量などに依存して変化する。
【0026】
しかし、固体全体が定常的に同じ温度にさらされて進行する熱励起相転移とは異なり、光誘起相転移では、励起状態からの放射遷移あるいは無放射遷移による脱励起過程が、光誘起による励起過程と競合している。このため、光誘起相転移が起きるためには、VO2結晶の単位体積あたりに照射される(導波する)光の強度(光密度)が十分に高いことが重要となる。
【0027】
入射光強度と光誘起相転移によって変化する物理量の関係を定性的に示したのが図4である。この物理量としては、電気抵抗率、金属相に対応するVO2結晶ドメインの割合、吸光度などが考えられるが、ここでは、絶縁相における吸光度からの変化分を上記物理量として縦軸に取っている。
【0028】
光密度が低い場合は、光誘起相転移を駆動するために必要な値に達しておらず、グラフ(a)のように初期には吸光度がほとんど変わらず、閾光強度1を超えたところで、急に吸光度が増加するような特性を示す。これに対し、光密度が高い場合は、グラフ(b)に示すように、光照射の最初から入射光強度(光密度)に応じて吸光度が線形に増大する変化を示す。
【0029】
従って、グラフ(a)のような特性を用いることで、入射する光強度が弱わく光密度が低いときには、絶縁体相としての光吸収特性に従って入射光を透過し、一方、入射する光強度が強くなり、光密度が高くなると金属相に特有な強い減衰機能を持たせることができる。
【0030】
VO2の屈折率は2.2−2.5と高めである。このため、例えばサファイア基板,石英基板,あるいはシリコン基板上に形成した酸化シリコンによる厚膜などの透明な材料を下部クラッド層とし、VO2をコアとした光導波路を構成することができる。また、受動的光導波路の一区間として用いるには、屈折率が2.0付近であるSiNやZnOなどをコアとした光導波路中に、本実施の形態における導波路構造の可変光減衰器を挿入するとよい。SiNやZnOなどのコアは、VO2のコアとの界面における屈折率のギャップが比較的小さく、挿入による光損失(結合損失)を低く抑えることができる。
【0031】
なお、バンドギャップが狭いことから容易に推察できるように、VO2は絶縁体相であっても光吸収係数が比較的大きい材料である。一例として、通信波長帯である1550nmの赤外光を導波する場合について考える。絶縁体相のVO2の吸収係数を4×104cm-1と仮定すると(非特許文献1参照)、素子(導波路)長0.25μmで、導波している信号光の強度が1/eに減衰する。素子長1μmでは、入射強度の2%にまで減衰する計算である。一方、金属相のVO2における吸収係数が2×105cm-1であると仮定すると、素子長250nmで、導波している信号光の強度は0.7%に減衰する。このように、金属相のVO2における光減衰は非常に強いことが分かる。尤も、このような吸収係数の値は、VO2結晶の作製方法,組成,および結晶性など様々な要因に依存するため、上述した見積値が常に適用できるとは限らない。
【0032】
上述した見積値に従うとすれば、本実施の形態における可変光減衰器の導波路長は、最大でも素子長は数100nmであると考えられる。これに対し、コアにおける光吸収係数を小さくして減衰を抑制するには、他の金属酸化物との混晶にしてバンドギャップを広げる方法が考えられる。
【0033】
ところで、これまでの混晶化の研究では、V1-xWxO2に代表されるように、バンドギャップを縮めてVO2の相転移温度を室温付近まで下げることが試みられている。しかしながら、上述した光吸収係数の減衰の抑制のためには、逆の方向を目指すことが必要である。この目的のためには、バンドギャップの広い酸化物との混晶化であり、TiO2がよい候補である。チタン(Ti)は、バナジウム(V)と同じ4+の価数であり、TiO2はルチル構造を有する。TiO2とVO2との混晶であるV1-xTixO2よりコアを構成することで、本実施の形態における可変光減衰器の光吸収係数をより小さくすることができる。なお、V1-xTixO2は、「Tiが添加されたVO2の結晶と」言い換えることができる。
【0034】
次に、本実施の形態における可変光減衰器の製造について、簡単に説明する。例えば、基板101の上にVO2膜を形成し、形成したVO2膜をパターニングすることで、リッジ状の光透過部102を形成すればよい。VO2膜は、例えば、スパッタ法,ゾルゲル法,レーザーアブレーション法,およびMOCVD法などにより形成すればよい。また、光透過部102は、基板101に到達するまでVO2膜を加工することで形成したリッジ形状に限らず、途中までエッチング加工することで形成したリブ型であってもよい。
【0035】
基板101としては、屈折率がVO2より小さい材料から構成すればよく、例えば、サファイア(コランダム),石英,および酸化シリコンが形成されているシリコン基板などを用いればよい。また、光透過部102が上部クラッド層(不図示)で覆われ、クラッドで埋め込まれた構成としてもよい。
【0036】
本実施の形態における可変光減衰器では、導波路構造の一端より入射した光(一次光)の強度が、所定の値より大きい場合、通過する際に減衰する。本実施の形態における可変光減衰器のによる光導波路の前後にSiNおよびZnOなどをコア材料とする受動光導波路を接続すると、VO2の光透過部102よりなる光導波路部分を光減衰セクションとして機能せることができる。ここで、VO2の代わりにV1-xTixO2の混晶をコア材料に用いることで、バンドギャップが広く、より透明で減衰率が低く、素子長をより長く設定できるようにすることも可能である。
【0037】
次に、本実施の形態における可変光減衰器の、一次光強度に応じた光透過部102の光媒質としての振る舞いについて説明する。まず、図5の(a)に示すように、一次光強度が弱わく光密度が低い場合、光誘起相転移は起こらず、絶縁体VO2の吸収係数に応じた分だけが減衰する。この状態が、図5の(d)におけるグラフ(a)で示されている。
【0038】
また、図5の(b)に示すように、一次光強度が閾値を超えて光密度が高くなると、光透過部102(光導波路)の入射側の最初の光密度が高くなる部分で相転移領域501が生じ、入射光は減衰する。また、光強度が減衰した後の部分では、光密度が閾値に達しないため、図5の(d)に示すグラフ(a)と同様なラインを辿って緩やかに減衰する。
【0039】
次に、一次光強度が閾値を超えてより強い場合、図5の(c)に示すように、より長い相転移領域502が形成され、入射光に対してより長い距離に渡って強い減衰がかかる。ただし、この場合においても、最終的には、図5の(d)に示すように、グラフ(c)は、グラフ(a)のラインに合流する。
【0040】
このように、一次光の光強度によらず、可変光減衰器(光透過部102)自体が、入射して導波している光の光密度に応じて相転移領域の長さを調整するため、最終的な出力光のレベルは、ほぼ一定に収束する。
【0041】
[実施の形態2]
次に、本発明の実施の形態2について説明する。図6は、本発明の実施の形態2における可変光減衰器の構成を示す斜視図である。この可変光減衰器は、クラッド層601と、酸化バナジウムの結晶から構成されて光入射端ほど太いテーパ構造とされているコア602とを少なくとも備え、光導波路を構成している。本実施の形態では、コア602の光導波方向に垂直な断面が、光入射端ほど大きくなっているところに特徴がある。
【0042】
本実施の形態における可変光減衰器では、光誘起相転移が起きない範囲の弱い光強度(光密度)の入射光を、より弱い光強度にまで減衰して透過させるようにしている。言い換えると、光励起相転移が起きない範囲の光強度の入射光であっても、より減衰させて透過させるようにしている。
【0043】
次に、一次光強度に応じた本実施の形態における可変光減衰器のコア602の光媒質としての振る舞いについて説明する。まず、図7の(a)に示すように、一次光強度が弱くコア602の断面積が小さい領域(図7の紙面右側)に到達しても光密度が高くならずに光誘起相転移が起こらない場合であっても、絶縁体相のVO2の吸収係数に応じた分だけが減衰する。この状態が、図7の(d)におけるグラフ(a)で示されている。
【0044】
一方、一次光強度がある程度強い場合、コア602の途中より相転移領域701が形成されるようになる。この場合、コア602の導波方向中央部を超えると、光密度が閾値を超えて相転移領域701が生じ、生じた相転移領域701において導波している光強度が減衰する。また、一次光強度がより高い場合、コア602の導波方向中央部に達する前に光密度が閾値を超えて相転移領域702が生じ、より長い領域の相転移領域702において導波している光強度が減衰する。なお、これらのいずれの場合においても、図7の(d)に示すグラフ(b)およびグラフ(c)のように、最終的にはグラフ(a)のラインに合流する。このように、テーパー形状のコア602を用いることで、コア602の導波方向の途中に、光密度が閾値を超える箇所を設定することが可能となる。
【0045】
[実施の形態3]
次に、本発明の実施の形態3について説明する。図8は、本発明の実施の形態3における可変光減衰器の構成を示す斜視図である。この可変光減衰器は、クラッド層801と、酸化バナジウムの結晶から構成されたコア802と、光導波方向に垂直な方向に対向配置してコア802を挟む第1電極803および第2電極804、第1電極803および第2電極804に電圧を印加する電源(電圧印加手段)805と、電源805により印加される電圧を制御する電圧制御部806とを少なくとも備える。本実施の形態では、第1電極803および第2電極804は、クラッド層801の平面方向において、コア802を挟んで配置されている。
【0046】
本実施の形態における可変光減衰器によれば、コア802に電界を印加できるので、より低い光強度で光誘起相転移を起こさせることが可能となる。例えば、減衰(制御)対象の光の密度が低い場合や、TiO2とVO2とを混晶化して用いることにより相転移に要する光強度の閾値を上げた場合などは、光誘起相転移の閾値が高くなり、光減衰作用が機能しない場合があり得る。このような場合、本実施の形態によれば、電界の印加により光誘起相転移の閾値を低くすることができ、所望とする光減衰作用を得ることができるようになる。
【0047】
第1電極803および第2電極804の間に電圧を印加してコア802に電界を印加することで、熱イオン電流がより流れやすい状態にすることができる。このことは、コア802における光誘起相転移の実効的な閾値を下げている状態に相当し、より弱い光であっても光誘起相転移が起きることを意味する。例えば、コア802に対して電界を印加していない状態の入射光強度と光強度との関係が、図4のグラフ(b)の状態であっても、コア802に電界を印加することで、グラフ(c)に示すような、より低い閾光強度2で光誘起相転移が起きる特性に変化する。このように、コア802に対して印加する電界の強度を変えることで、様々な光強度の入射光に対応して光を減衰させることができるようになる。
【0048】
なお、第1電極803および第2電極804が対向配置されている方向のコア802の幅を、この方向に直交するコア802の高さに比較して大きな寸法とするとよい。よく知られているように、導波する光は、コア802の中央部付近に局在して伝播する。このため、上述したようにコア802の断面形状を扁平とすることで、導波する光の局在位置より、第1電極803および第2電極804を離して配置することができる。この結果、コア802を導波する光の端部が第1電極803および第2電極804に重なって減衰することが、抑制できるようになる。
【0049】
以下、本実施の形態における可変光減衰器の製造方法について説明する。まず、図9Aに示すように、例えばサファイア基板を用意してこれをクラッド層801とする。次に、図9Bに示すように、クラッド層801の上に金属膜901を形成する。例えば、スパッタ法により所望とする金属を堆積することで、金属膜901を形成すればよい。
【0050】
次に、公知のフォトリソグラフィー技術により、図9Cに示すように、金属膜901の上に、レジストパターン902を形成する。レジストパターン902は、これを形成した時点で、コアとなる部分に対応して金属膜901の表面が露出する開口部903を備えている。次に、レジストパターン902をマスクとして金属膜901を選択的にエッチング除去し、図9Dに示すように、第1電極803および第2電極804を形成する。例えば、公知の反応性イオンエッチングにより、クラッド層801に達するまで金属膜901を選択的にエッチングする。これにより、クラッド層801の上で、互いに絶縁分離した状態に、第1電極803および第2電極804を形成することができる。
【0051】
次に、図9Eに示すように、VO2結晶膜904を形成する。第1電極803および第2電極804に挟まれた溝部に、第1電極803および第2電極804と同じ厚さにVO2結晶膜904が形成されるようにする。この後、レジストパターン902を除去することで、レジストパターン902の上のVO2結晶膜904は除去し、第1電極803および第2電極804の間のVO2結晶膜904を残すことで、図9Fに示すように、第1電極803および第2電極804に挟まれたコア802を形成する。
【0052】
[実施の形態4]
次に、本発明の実施の形態4について説明する。図10は、本発明の実施の形態4における可変光減衰器の構成を示す斜視図である。この可変光減衰器は、基板1001と、この上に形成された第1電極層1002と、第1電極層1002の上に形成されて酸化バナジウムの結晶から構成されたコア1003と、コア1003を挟んで形成された酸化シリコン層1004と、コア1003および酸化シリコン層1004の上に形成された第2電極層1005とを備える。また、第1電極層1002にオーミック接続する電極パッド1006と、第2電極層1005にオーミック接続する電極パッド1007とを備える。
【0053】
基板1001は、例えば、サファイア基板であり、第1電極層1002および第2電極層1005は、例えば、ZnOなどの透明電極として用いることができる材料から構成すればよい。なお、第1電極層1002は、所謂リブ型の構造とし、このリブ部の上にコア1003を配置する。ここで、コア1003を構成するVO2の結晶性は、第1電極層1002の結晶性に強く影響される。従って、第1電極層1002(第2電極層1005)は、基板1001の上にエピタキシャル成長する材料系であることが望ましい。
【0054】
本実施の形態では、第1電極層1002が、コア1003に対して下部クラッド層となり、第2電極層1005がコア1003に対して上部クラッド層となる。また、コア1003を挟んで配置する酸化シリコン層1004は、コア1003に対して側部のクラッドとなるとともに、第1電極層1002と第2電極層1005と絶縁分離している。本実施の形態では、各層を積層する方向(基板1001の平面の法線方向)に、第1電極層1002および第2電極層1005が、コア1003を挟んで配置されている。
【0055】
例えば、前述したように、サファイア基板を用いれば、この上に方位を揃えてZnOをエピタキシャル成長させることができる。ただし、アンドープZnOの電気伝導性は酸素空孔に由来するため、不安定である。従って、各電極層には、AlドープのZnO(AZO)およびGaドープのZnO(GZO)を用いるのが望ましい。サファイアA面あるいはC面基板の上には、AZOやGZOがc軸配向してエピタキシャル成長することが知られている。ZnOのC面およびサファイアのC面は、同じような原子配列を有するので、VO2のサファイア基板に対するエピタキシャル関係は、ZnOに対するエピタキシャル関係と同じものになる。
【0056】
また、VO2の光誘起相転移の光強度および相転移の急峻さに影響を及ぼさないのであれば、VO2の成膜温度は低い方が望ましい。これは、AZOおよびGZOの抵抗率が、アニールにより高くなるからである。
【0057】
一方、第2電極層1005の結晶性も、VO2結晶からなるコア1003の表面粗さに影響されるが、第2電極層1005は、屈折率がVO2よりも低く、かつ抵抗値が低ければ問題ない。また、サファイア基板に限らず、石英基板の上でもAZOおよびGZOはc軸配向成長する。石英基板の場合、サファイア基板上よりは結晶性は劣るものの、ある程度の特性のVO2膜が形成できる。
【0058】
本実施の形態においても、コア1003に電界を印加できるので、前述した実施の形態3と同様に、より低い光強度で光誘起相転移を起こさせることが可能となる。本実施の形態においても、第1電極層1002および第2電極層1005の間に電圧を印加してコア802に印加する電界の強度を変えることで、様々な光強度の入射光に対応して光を減衰させることができるようになる。なお、本実施の形態においても、電極パッド1006および電極パッド1007に、前述した実施の形態3と同様に、電圧印加手段および電圧制御手段を接続することで、上述した光の制御を行うようにすればよい。
【0059】
次に、本実施の形態における可変光減衰器の製造方法について説明する。まず、図11Aに示すように、例えばサファイア基板を用意してこれを基板1001とする。次に、図11Bに示すように、基板1001の上に透明電極膜1002aを形成する。例えば、スパッタ法によりAZOもしくはGZOを堆積することで、透明電極膜1002aを形成すればよい。
【0060】
次に、図11Cに示すように、透明電極膜1002aの上に、VO2結晶膜1003aを形成する。次に、公知のフォトリソグラフィー技術により、図11Dに示すように、VO2結晶膜1003aの上に、レジストパターン1101を形成する。レジストパターン1101は、コアとなる部分に対応するパターンである。
【0061】
次に、レジストパターン1101をマスクとしてVO2結晶膜1003aおよび透明電極膜1002aを選択的にエッチング除去する。このエッチングでは、例えば、公知の反応性イオンエッチングにより、透明電極膜1002aの膜厚方向の途中までエッチングを行う。これにより、図11Eに示すように、第1電極層1002およびコア1003を形成する。なお、このエッチングでは、コア1003が形成されることが重要である。
【0062】
引き続いて、図11Fに示すように、酸化シリコン層1004を形成する。基板1001の側から見て、コア1003の側部にコア1003と同じ高さに酸化シリコン層1004を形成する。この後、レジストパターン1101を除去することで、レジストパターン1101の上の酸化シリコン層1004も除去し、図11Gに示すように、酸化シリコン層1004により、コア1003の側部が挟まれた状態とする。
【0063】
次に、図11Hに示すように、酸化シリコン層1004およびコア1003の上に、AZOもしくはGZOからなる透明電極膜1005aを形成する。次に、公知のフォトリソグラフィー技術およびエッチング技術により、透明電極膜1005aおよびコア1003の一方の側部の酸化シリコン層1004をパターニングし、図11Iに示すように、第1電極層1002の一部のスラブ部を露出させるとともに、第2電極層1005を形成する。この後、図11Jに示すように、電極パッド1006および電極パッド1007を形成する。
【0064】
[実施の形態5]
次に、本発明の実施の形態5について図12,図13を用いて説明する。この実施の形態では、例えば、透明な基板1211と、基板1211の上に形成された酸化バナジウムの結晶からなる光透過層(光透過部)1212とより構成された可変光減衰器1210を備える。
【0065】
また、基板1201と、基板1201の上に形成された下部クラッド層1202と、下部クラッド層1202の上に形成されたコア1203と、コア1203の上に形成された上部クラッド層1204とを備える。この実施の形態では、可変光減衰器1210は、下部クラッド層1202,コア1203,および上部クラッド層1204からなる光導波路1205の途中に形成された溝部1205aに差し込んで用いる。
【0066】
本実施の形態では、光導波路1205を導波する光は、溝部1205aにおいて、可変光減衰器1210の光透過層1212を、この層厚方向に透過することで、光透過層1212における光誘起相転移で減衰される。本実施の形態では、可変光減衰器1210を、光導波路1205に光結合させて用いている。
【0067】
前述したように、VO2結晶は、絶縁体相でも光の吸収係数が大きい。このため、絶縁体層の状態で、実用的な光透過特性を持たせるためには、VO2結晶よりなる光透過部の光路長を数100nm以下にすることが重要となる。この寸法を、前述した光導波路構造で実現するためには、高度な微細加工技術が必要となる。
【0068】
これに対し、本実施の形態では、上述した光路長は、可変光減衰器1210を構成している光透過層1212の層厚である。光透過層1212の層厚を数100nm程度に制御することは、今日の成膜技術であれば容易である。従って、本実施の形態によれば、光減衰をさせない状態における実用的な光透過特性が、容易に得られるようになる。言い換えると、対象とする光の光強度に適合させた光減衰率を実現することが容易である。なお、基板1211は、両面研摩したサファイア基板および石英基板であればよい。また、VO2膜の形成時の熱条件に耐えられれば、プラスチック基板も使用できる。
【0069】
以上に説明したように、本発明によれば、VO2という材料の特性を用いることで、入射する光強度に応じてVO2結晶が応答し、弱い光はあまり減衰させずに透過し、強い光はより減衰させる光減衰機能を持たせることができる。これにより、フィードバック回路などを必要とせず、コンパクトな可変光減衰器が実現できる。また、本発明の可変光減衰器は、光シャッターとして用いることもできる。また、本発明によれば、応答速度もピコ秒からナノ秒と非常に高速なため、大規模容量の高速通信に適している。また、極短パルス光に対しても対応することができる。さらに、どのような強度の光信号に対しても、電圧印加によって、光減衰の動作点をずらすことで対応することができる。
【0070】
なお、本発明は以上に説明した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で、当分野において通常の知識を有する者により、多くの変形および組み合わせが実施可能であることは明白である。例えば、VO2のコアに電圧を印加する機構は、テーパ状としたコアに組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0071】
101…基板、102…光透過部。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、この基板の上に形成された酸化バナジウムの結晶からなる光透過部とを少なくとも備えることを特徴とする可変光減衰器。
【請求項2】
請求項1記載の可変光減衰器において、
前記光透過部は、チタンが添加された酸化バナジウムの結晶から構成されていることを特徴とする可変光減衰器。
【請求項3】
請求項1または2記載の可変光減衰器において、
前記光透過部は、光導波路を構成するコアであることを特徴とする可変光減衰器。
【請求項4】
請求項3記載の可変光減衰器において、
前記コアは、光入射端ほど太いテーパ構造を備えることを特徴とする可変光減衰器。
【請求項5】
請求項3または4記載の可変光減衰器において、
光導波方向に垂直な方向に対向配置して前記コアを挟む第1電極および第2電極と、
前記第1電極および第2電極に電圧を印加する電圧印加手段と、
この電圧印加手段により印加される電圧を制御する電圧制御手段と
を備えることを特徴とする可変光減衰器。
【請求項6】
請求項5記載の可変光減衰器において、
前記第1電極および前記第2電極は、透明電極であり、
前記第1電極からなる下部クラッド層と、
この下部クラッド層の上に形成された前記コアと、
このコアの上に前記下部クラッド層と絶縁分離して形成された前記第2電極からなる上部クラッド層と
を備えることを特徴とする可変光減衰器。
【請求項7】
請求項3〜5のいずれか1項に記載の可変光減衰器において、
前記コアは、コランダム,石英,および酸化シリコンより選択されたいずれかの材料より構成されたクラッド層の上に接して形成されていることを特徴とする可変光減衰器。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の可変光減衰器において、
窒化シリコンおよび酸化亜鉛より選択された材料から構成されたコアを備えて前記光透過部に光結合する光導波路を備えることを特徴とする可変光減衰器。
【請求項1】
基板と、この基板の上に形成された酸化バナジウムの結晶からなる光透過部とを少なくとも備えることを特徴とする可変光減衰器。
【請求項2】
請求項1記載の可変光減衰器において、
前記光透過部は、チタンが添加された酸化バナジウムの結晶から構成されていることを特徴とする可変光減衰器。
【請求項3】
請求項1または2記載の可変光減衰器において、
前記光透過部は、光導波路を構成するコアであることを特徴とする可変光減衰器。
【請求項4】
請求項3記載の可変光減衰器において、
前記コアは、光入射端ほど太いテーパ構造を備えることを特徴とする可変光減衰器。
【請求項5】
請求項3または4記載の可変光減衰器において、
光導波方向に垂直な方向に対向配置して前記コアを挟む第1電極および第2電極と、
前記第1電極および第2電極に電圧を印加する電圧印加手段と、
この電圧印加手段により印加される電圧を制御する電圧制御手段と
を備えることを特徴とする可変光減衰器。
【請求項6】
請求項5記載の可変光減衰器において、
前記第1電極および前記第2電極は、透明電極であり、
前記第1電極からなる下部クラッド層と、
この下部クラッド層の上に形成された前記コアと、
このコアの上に前記下部クラッド層と絶縁分離して形成された前記第2電極からなる上部クラッド層と
を備えることを特徴とする可変光減衰器。
【請求項7】
請求項3〜5のいずれか1項に記載の可変光減衰器において、
前記コアは、コランダム,石英,および酸化シリコンより選択されたいずれかの材料より構成されたクラッド層の上に接して形成されていることを特徴とする可変光減衰器。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の可変光減衰器において、
窒化シリコンおよび酸化亜鉛より選択された材料から構成されたコアを備えて前記光透過部に光結合する光導波路を備えることを特徴とする可変光減衰器。
【図1】
【図4】
【図6】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図9C】
【図9D】
【図9E】
【図9F】
【図10】
【図11A】
【図11B】
【図11C】
【図11D】
【図11E】
【図11F】
【図11G】
【図11H】
【図11I】
【図11J】
【図12】
【図2】
【図3】
【図5】
【図7】
【図13】
【図4】
【図6】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図9C】
【図9D】
【図9E】
【図9F】
【図10】
【図11A】
【図11B】
【図11C】
【図11D】
【図11E】
【図11F】
【図11G】
【図11H】
【図11I】
【図11J】
【図12】
【図2】
【図3】
【図5】
【図7】
【図13】
【公開番号】特開2012−13753(P2012−13753A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−147378(P2010−147378)
【出願日】平成22年6月29日(2010.6.29)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年6月29日(2010.6.29)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】
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