説明

可変容量コンプレッサハウジング及び可変容量コンプレッサ

【課題】インペラ収容室内に流入する空気が減少したときに、インペラ収容室からディフューザ室に流入した空気の圧力損失を抑制する。
【解決手段】コンプレッサハウジング50は、インペラ収容室52の外側に設けられたディフューザ室54と、ディフューザ室54の外側に形成されたスクロール室56と、ディフューザ室54内に移動可能に設けられ、ディフューザ室54内に移動した状態で、ディフューザ室54とスクロール室56との連通部位の一部を仕切る可動部材38とを有している。ここで、インペラ収容室52内に流入する空気の流量が少なくなったとき、可動部材38をディフューザ室54内に突出させる。この可動部材38によりディフューザ室54内の容積が減少するので、ディフューザ室54内に流入した空気が必要以上に拡散することが抑制され、圧力損失を抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可変容量コンプレッサハウジング及び可変容量コンプレッサに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、案内羽根をディフューザ内に突出させ又はディフューザ内から退避させる構成としたコンプレッサが記載されている。
【0003】
非特許文献1には、複数枚(6枚)の翼付きディフューザを用いたコンプレッサが記載されている。
【0004】
非特許文献2には、ディフューザ内の空気の流路の開度を変更可能とする可変ベーン付きディフューザが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4389442号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】日本ガスタービン学会誌、vol.33、No.4(2005.7)、p.288−294
【非特許文献2】「Garrett Electric Boosting Systems Program」Federal Grant DE-FC05-000R22809、U.S.DOEレポート(2005.6).p57−58
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、非特許文献1及び非特許文献2の構成では、コンプレッサに流入する空気の流量に合わせてディフューザ内の構成が変わるものではないので、コンプレッサに流入する空気の流量が減少したときに、ディフューザに流入した空気の圧力損失を抑制することが困難であった。
【0008】
また、特許文献1のコンプレッサでは、コンプレッサに流入する空気の流量が減少したときに案内羽根をディフューザ内に突出させているが、案内羽根の体積は、ディフューザ内の容積を十分に変化させるほど大きくはなく、ディフューザに流入した空気の圧力損失を抑制することが困難であった。
【0009】
本発明は、上記問題を解決すべく成されたものであり、インペラ収容室内に流入する空気が減少したときに、インペラ収容室からディフューザ室に流入した空気の圧力損失を抑制することができる可変容量コンプレッサハウジング及び可変容量コンプレッサを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の請求項1に係る可変容量コンプレッサハウジングは、流入した空気を回転により加速するインペラが収容されるインペラ収容室の外周に沿って形成されると共に該インペラ収容室の内部と連通し、前記インペラの回転で加速された空気を減速させて加圧するディフューザ室と、前記ディフューザ室の外側に形成されると共に前記ディフューザ室の内部と連通し、前記ディフューザ室で加圧された空気を外部へ流すスクロール室と、前記ディフューザ室内に移動可能に設けられ、前記ディフューザ室内に移動した状態で、前記ディフューザ室と前記スクロール室との連通部位の一部を仕切ると共に、前記ディフューザ室の空気の流路の容積を前記インペラ収容室側に向かって小さくする容積可変部材と、を有する。
【0011】
上記構成によれば、インペラ収容室の外周に沿ってディフューザ室が形成され、インペラ収容室とディフューザ室は連通して空気が流通可能となっている。さらに、ディフューザ室の外側にスクロール室が形成され、ディフューザ室とスクロール室は連通して空気が流通可能となっている。これにより、インペラ収容室に流入した空気は、インペラの回転により加速された状態でディフューザ室に流入すると共に、ディフューザ室で減速されることで加圧される。そして、ディフューザ室で加圧された空気は、スクロール室で集められ、コンプレッサハウジングの外部へ流される。
【0012】
このコンプレッサハウジングでは、予め設定された流量以上の空気がインペラ収容室内に流入しているときは、容積可変部材を収容し、ディフューザ室全体を空気が流通可能な状態とする。これは、空気の流量が多く、ディフューザ室からスクロール室に流れる空気の流速が十分確保できるため、外部への排出口における圧力が高い状態であっても、サージ現象(下流の圧力に抗しきれずに空気の逆流が発生する現象)を抑制することができるためである。
【0013】
一方、インペラ収容室内に流入する空気の流量が、予め設定された流量よりも少なくなったとき(減少したとき)は、容積可変部材をディフューザ室内に移動(突出)させる。そして、移動した容積可変部材は、ディフューザ室とスクロール室との連通部位の一部を仕切ると共に、ディフューザ室の空気の流路の容積をインペラ収容室側に向かって小さくする。即ち、ディフューザ室内の容積が容積可変部材の突出分の体積だけ減少する。これにより、インペラ収容室からディフューザ室内に流入した空気が、ディフューザ室内で必要以上の空間に拡散することが抑制されるので、少ない流量に適した空気の減速及び圧力上昇を行うことができ、圧力損失を抑制することができる。
【0014】
本発明の請求項2に係る可変容量コンプレッサハウジングは、前記容積可変部材は、前記インペラの軸方向に見て、前記インペラの回転方向に対して前記インペラとの距離が長くなる湾曲形状とされ、前記ディフューザ室への突出時に前記インペラと対向配置される第1側面と、前記インペラの半径方向における前記第1側面よりも外側で且つ前記ディフューザ室の外周上に配置されると共に、前記インペラの回転方向における下流端の位置が前記第1側面の下流端の位置と合わせられ、前記ディフューザ室への突出時に前記スクロール室の内壁面となる第2側面と、前記第1側面の上流端と前記第2側面の上流端とを繋ぐ第3側面と、を有する。
【0015】
上記構成によれば、インペラ収容室内に流入する空気の流量が予め設定された流量よりも少なくなり(減少し)、容積可変部材をディフューザ室内に移動させたとき、インペラの回転方向(空気の流れる方向)におけるスクロール室の下流側の内壁面の一部が、容積可変部材の第2側面で構成され、ディフューザ室とスクロール室とが仕切られる(スクロール室の下流側がディフューザ室と隔離される)。そして、スクロール室における空気が放出される出口領域が、実質的に、断面積の小さい上流側の出口領域に移動する。この結果、空気の流量が少なくても、スクロール室の出口領域において、圧力に抗する流速が確保でき、空気の逆流(サージ現象)を抑制することができる。
【0016】
本発明の請求項3に係る可変容量コンプレッサハウジングは、前記容積可変部材は、前記インペラの軸方向に見て、前記インペラの回転方向における前記第1側面の上流端の位置が、前記第2側面の上流端の位置よりも上流側に配置されている。
【0017】
上記構成によれば、インペラ収容室内に流入する空気の流量が予め設定された流量よりも少なくなり、容積可変部材をディフューザ室内に移動させたとき、容積可変部材の第1側面の上流端の位置が第2側面の上流端の位置よりも上流側に配置されているため、ディフューザ室内でインペラの接線方向に流れる空気は、第3側面に当ることになる。そして、第3側面に当った空気は、流れる方向がインペラの周方向から半径方向に偏向される。ここで、空気の流速の周方向成分が減少して、速度エネルギーが圧力エネルギーに変換される。同時に、空気の流れの向きが半径方向に向かうため、空気の流れの軌跡が短くなり、即ち、短い経路で空気が流出する。この結果、圧力への変換効率を上昇させることができる。また、容積可変部材との接触による空気の流れの摩擦損失を減少させることができる。
【0018】
本発明の請求項4に係る可変容量コンプレッサは、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の可変容量コンプレッサハウジングと、前記容積可変部材を前記ディフューザ室内に移動させる移動手段と、前記インペラ収容室に流入する空気の流量の情報に基づいて前記移動手段を作動させ、前記容積可変部材の移動を制御する制御手段と、を有する。
【0019】
上記構成によれば、インペラ収容室に流入する空気の流量が設定流量よりも多いときは、制御手段が移動手段を作動させず、容積可変部材が収容されたままとなる。これにより、ディフューザ室の容積が最大の状態で可変容量コンプレッサが駆動される。
【0020】
一方、インペラ収容室に流入する空気の流量が設定流量よりも少ないときは、制御手段が、インペラ収容室に流入する空気の流量の情報に基づいて移動手段を作動させ、容積可変部材がディフューザ室内に移動する。そして、移動した容積可変部材は、ディフューザ室とスクロール室との連通部位の一部を仕切ると共に、ディフューザ室の空気の流路の容積をインペラ収容室側に向かって小さくする。即ち、ディフューザ室内の容積が容積可変部材の体積分減少する。これにより、インペラ収容室からディフューザ室内に流入した空気が、ディフューザ室内で必要以上の空間に拡散することが抑制されるので、少ない流量に適した空気の減速及び圧力上昇を行うことができ、圧力損失を抑制することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明は、上記構成としたので、インペラ収容室内に流入する空気が減少したときに、インペラ収容室からディフューザ室に流入した空気の圧力損失を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施形態に係るターボチャージャの概略構成を示す全体図である。
【図2】本発明の実施形態に係るコンプレッサハウジングの概略構成を示す説明図である。
【図3】本発明の実施形態に係る可動部材の外観を示す斜視図である。
【図4】(A)、(B)本発明の実施形態に係る可動部材の移動状態を示すコンプレッサハウジングの部分断面図である。
【図5】(A)本発明の実施形態に係る可動部材を収容したときのコンプレッサハウジングの容積を示す説明図である。(B)本発明の実施形態に係る可動部材をディフューザ室内に突出させたときのコンプレッサハウジングの容積を示す説明図である。
【図6】(A)、(B)比較例に係る可動部材を収容したときのコンプレッサハウジング内の空気の流線及びスクロール出口での流速変化を示す説明図である。
【図7】(A)、(B)本発明の実施形態に係る可動部材をディフューザ室内に突出させたときのコンプレッサハウジング内の空気の流線及びスクロール出口での流速変化を示す説明図である。
【図8】本発明の実施形態に係る可動部材を設けた場合と、比較例として可動部材を設けない場合のコンプレッサ特性の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の実施形態に係る可変容量コンプレッサハウジング及び可変容量コンプレッサの一例について説明する。
【0024】
図1には、実施形態の一例としてのターボチャージャ10の概略構成が示されている。ターボチャージャ10は、一例として、車のエンジン(図示省略)の排気通路12に設けられたタービン部20と、該内燃機関の吸気通路14に設けられた可変容量コンプレッサの一例としてのコンプレッサ部30と、タービン部20及びコンプレッサ部30を連結する連結部40とを有している。連結部40内には、回転シャフト42が回転可能に設けられており、回転シャフト42の一端側(タービン部20側)にはタービン22が連結され、回転シャフト42の他端側(コンプレッサ部30側)にはインペラ32が連結されている。
【0025】
タービン22は、複数枚のタービン翼23を有しており、タービン翼23は、平面視で円盤状をなすタービン22上で周方向に所定の間隔をあけて立設されている。そして、タービン22は、タービンハウジング24内に回転可能に収容されている。タービンハウジング24は、内燃機関から排出された高温の排ガスG1が流入する排ガス入口26と、タービンハウジング24内でタービン22を回転させる仕事を行った後の排ガスG2が排出される排ガス出口28とを有している。
【0026】
一方、インペラ32は、複数枚のインペラ翼33を有しており、インペラ翼33は、平面視で円盤状をなすインペラ32上で周方向に所定の間隔をあけて立設されている。そして、インペラ32は、可変容量コンプレッサハウジングの一例としてのコンプレッサハウジング50内に回転可能に収容されている。コンプレッサハウジング50は、大気圧の空気A1を内部に取り込むための空気入口部34と、高速回転するインペラ32によって圧縮された圧縮空気A2が噴出する空気出口36とを有している。なお、空気出口36から噴出した圧縮空気A2は、前述のエンジンに燃焼用の過給気として供給されるようになっている。
【0027】
ここで、排ガス入口26から高速で噴出された排ガスG2がタービン翼23に衝突することにより、タービン22が高速回転し、回転シャフト42を介して連結されているインペラ32が高速回転する。これにより、コンプレッサ部30に空気が流入し、この流入した空気が、インペラ32の回転で圧縮されると共に空気出口36から上記エンジンへ圧送される構成となっている。
【0028】
図4(A)に示すように、コンプレッサ部30は、容積可変部材の一例としての可動部材38が移動可能に設けられたコンプレッサハウジング50と、可動部材38を移動させる移動手段の一例としての偏心カム48と、コンプレッサハウジング50内のインペラ収容室52内に流入する空気の流量の情報(データ)を得るデータ取得部18と、データ取得部18で得られた空気の流量の情報を予め設定された基準流量と比較して偏心カム48を作動させ、可動部材38の移動を制御する制御手段の一例としての制御部16と、を含んで構成されている。なお、偏心カム48は、モータ(図示省略)により矢印D方向(図4(B)参照)に回動(揺動)するようになっており、制御部16がこのモータを駆動することで回動する。
【0029】
図2に示すように、コンプレッサハウジング50は、インペラ32が収容されたインペラ収容室52と、インペラ収容室52の外周に沿って形成され該インペラ収容室52の内部と連通したディフューザ室54と、ディフューザ室54の外側に形成されると共にディフューザ室54の内部と連通したスクロール室56と、ディフューザ室54内に移動可能に設けられた可動部材38と、を含んで構成されている。
【0030】
図4(A)に示すように、インペラ収容室52は、インペラ32の軸方向(以後、矢印Z方向と記載する)で回転シャフト42とは反対側に開口部58が形成されており、開口部58は、空気入口部34(図1参照)に接続されている。これにより、空気入口部34から開口部58を通ってインペラ収容室52内に空気が流入する構成となっている。また、インペラ32は、タービン22(図1参照)の回転によって回転し、流入した空気を加速してディフューザ室54内に送り込むようになっている。
【0031】
図2に示すように、ディフューザ室54は、矢印Z方向に見てインペラ収容室52の外側に略環状に形成されている。また、ディフューザ室54は、矢印Z方向における高さh1(図4(A)参照)がインペラ収容室52よりも低くなっており、インペラ収容室52から加速状態で流入した空気が減速され、加圧されるようになっている。さらに、ディフューザ室54は、矢印Z方向に見て略環状の底壁55を有している。
【0032】
底壁55は、矢印Z方向に貫通した貫通孔で且つ可動部材38が移動(突出)可能となる孔部57が形成されており、孔部57は、矢印Z方向に見て、可動部材38と相似形で且つ可動部材38の外形よりも僅かに大きい孔壁を有している。即ち、可動部材38は、孔部57を摺動するようになっており、可動部材38と孔部57との隙間をなくして空気の漏れが生じないようになっている。
【0033】
スクロール室56は、矢印Z方向に見てディフューザ室54の外側に渦巻き状に形成されており、ディフューザ室54で加圧された空気を集めると共に外部(下流側)へ流すようになっている。なお、矢印Z方向に見たときのスクロール室56におけるスクロール開始点(渦巻きの開始位置)をS1とする。
【0034】
一方、可動部材38は、矢印Z方向に見て、湾曲した3つの外形線L1、L2、L3で囲まれた略三日月状に形成されている。ここで、インペラ32の回転方向(以後、矢印R方向と記載する)において、外形線L1の上流側の端点と外形線L3の上流側の端点とが一致しており、この端点を点B0とする。また、外形線L3の下流側の端点と外形線L2の上流側の端点とが一致しており、この端点を点B1とする。さらに、外形線L1の下流側の端点と外形線L2の下流側の端点とが一致しており、この端点を点B2とする。
【0035】
点B1及び点B2(外形線L2)は、ディフューザ室54の外周上に配置されており、点B2は、スクロール開始点S1の近傍に配置されている。また、点B0は、矢印R方向において、点B1よりも上流側で且つインペラ32の外周近傍(外側)に配置されている。そして、外形線L1、L2、L3は、いずれも、中央部がインペラ32の半径方向の外側へ向けて凸の湾曲状態となっている。
【0036】
さらに、インペラ32の回転中心位置を点Oとし、点B0−点O−点B2の角度をα1、点B1−点O−点B2の角度をα2とすると、点B1は、α1>α2の関係が成立するように配置(設定)されている。なお、本実施形態の可動部材38では、角度α1、α2が、いずれも90°より大きく、180°よりも小さい設定となっているが、α1>α2の関係が成立すれば、角度α1、α2の設定は、この設定に限らない。
【0037】
また、点Oを中心として可動部材38とは反対側で且つディフューザ室54の外周上にある点をP1とする。ここで、可動部材38がディフューザ室54内に突出したときには、後述する第2側面38Bがスクロール室56の内壁の一部(蓋)となる。そして、ディフューザ室54の空気の出口である開口部が、ディフューザ室54の外周上の点B2−点P1−点B1で構成されるラインに限定される。
【0038】
図3に示すように、可動部材38は、平面視で略三日月状で且つ矢印Z方向の高さがh2のブロック体であり、矢印Z方向に見たときの外形線L1に相当する第1側面38Aと、外形線L2に相当する第2側面38Bと、外形線L3に相当する第3側面38Cと、上面38Dと、下面38Eとを有している。また、可動部材38は、高さh2のうち、ディフューザ室54(図4(A)参照)の高さh1に相当する部分のみがディフューザ室54内に移動(突出)するようになっている。即ち、h2>h1となっている。
【0039】
図2に示すように、第1側面38Aは、矢印Z方向に見て、矢印R方向の下流側になるほどインペラ32の外周縁との距離(間隔)が長くなる湾曲形状となっており、ディフューザ室54への突出時にインペラ32と対向配置されるようになっている。また、第2側面38Aは、点Oを中心としたインペラ32の半径方向における第1側面38Aよりも外側で、且つディフューザ室54の外周上に配置されている。そして、前述のように、ディフューザ室54内への可動部材38の突出時に、スクロール室56の内壁面を構成するようになっている。第3側面38Cは、第1側面38Aの上流端と第2側面38Bの上流端とを繋なぐ湾曲面である。
【0040】
図4(A)に示すように、可動部材38は、ディフューザ室54の孔部57内を矢印Z方向に移動可能(図示の左右に移動可能)となっており、未使用時(収容時)には、上面38D(図示の左端面)がディフューザ室54の底壁55の一部を構成している。また、可動部材38の下面38Eには、複数の引張りバネ46の一端(図示の左端)が引っ掛けられており、引張りバネ46の他端(図示の右端)は、ターボチャージャ10に設けられたブラケット44に引っ掛けられている。そして、可動部材38が収容された状態では、可動部材38に対して引張り力(戻し力)が作用しないようになっている。
【0041】
また、可動部材38の下面38E(図示の右端面)と対向して偏心カム48が配設されている。偏心カム48は、可動部材38の収容時には下面38Eから離間配置されており、可動部材38を付勢していない。なお、このとき、偏心カム48は、可動部材38の矢印Z方向とは反対方向への移動を規制しており、孔部57から可動部材38が抜け落ちるのを防いでいる。
【0042】
一方、データ取得部18は、一例として、エンジンの回転数及びアクセル開度(エンジン及びアクセルの図示は省略する)のデータを取得すると共に、これらのデータに基づいて、インペラ収容室52内に流入する空気の流量に換算する構成となっている。つまり、アクセル開度が低下すると共にエンジンの回転数が減少したときは、インペラ収容室52内に流入する空気の流量(換算データ)が少なくなる。
【0043】
制御部16は、予め基準流量が設定されており、データ取得部18から送られた流量データが基準流量よりも少ないとき、図4(B)に示すように、モータ(図示省略)を駆動して偏心カム48を回動させ、ディフューザ室54内に可動部材38を移動(突出)させる構成となっている。また、制御部16は、データ取得部18から送られた流量データが基準流量よりも多いとき、図4(A)に示すように、偏心カム48を逆方向に回動させ、ディフューザ室54内から可動部材38を移動(退避)させる。
【0044】
次に、本実施形態の作用について説明する。
【0045】
図1に示すように、ターボチャージャ10において、排ガス入口26から高速で噴出された排ガスG2がタービン翼23に衝突することで、タービン22が高速回転し、回転シャフト42を介して連結されているインペラ32が高速回転する。
【0046】
続いて、図2に示すように、インペラ収容室52に流入した空気は、インペラ32の回転により加速された状態でディフューザ室54に流入すると共に、ディフューザ室54で減速されることで加圧(圧縮)される。そして、ディフューザ室54で加圧された空気は、スクロール室56で集められ、空気出口36からコンプレッサハウジング50の外部にあるエンジン(図示省略)へ圧送される。
【0047】
図4(A)に示すように、制御部16は、データ取得部18から送られた流量データが基準流量よりも多いとき、偏心カム48を回動させずに、ディフューザ室54内から可動部材38を退避させた状態で保持する。また、可動部材38がディフューザ室54内に突出している状態において、データ取得部18から送られた流量データが基準流量よりも多いとき、制御部16は、偏心カム48を図示の反時計回り方向に回動させる。そして、可動部材38は、引張りバネ46の引張力によりディフューザ室54内から退避される。
【0048】
これにより、図5(A)に示すように、ディフューザ室54の容積(使用可能領域)が最大になると共にディフューザ室54全体に空気が流通可能となる。そして、スクロール室56における空気の実質的な出口は、スクロール開始点S1の近傍のスクロール出口56Aとなる。なお、図5(A)では、実質的なスクロール出口を実線の楕円で図示しており、スクロール室56の空気が流れる方向における各部の断面を破線の楕円で図示している。
【0049】
また、この状態では、ディフューザ室54の容積が最大となっているが、空気の流量が多いため、圧力損失は防止される。つまり、空気の流量が多く、ディフューザ室54からスクロール室56に流れる空気の流速が十分確保できるため、外部への排出口における圧力が高い状態であっても、サージ現象を抑制することができる。
【0050】
ここで、図6(A)、(B)に示すように、比較例として、ディフューザ室54の容積が最大の状態で且つ流入する空気の流量が少ないとき、ディフューザ室54内には翼が無いので、インペラ32からの空気の流出角度が小さくなり(流出方向が接線方向に近くなり)、流線Qaで示すように空気の流路が長くなる。そして、流路が長いことによる摩擦損失が増加し、速度エネルギーから圧力エネルギーへの変換率が低下する。さらに、スクロール出口56Aにおける流速VAでは、圧力に抗することができなくなり、サージ現象が生じて、さらに少ない流量の空気を流すことが困難となる。このように、比較例では圧力損失が生じるため、図8に示すように、空気の流量とコンプレッサ効率との関係がグラフGBのようになる。
【0051】
一方、図4(B)に示すように、本実施形態において、制御部16は、データ取得部18から送られた流量データが基準流量よりも少ないとき、モータ(図示省略)を駆動して偏心カム48を矢印D方向に回動させる。これにより、偏心カム48が可動部材38の下面38Eと接触し、ディフューザ室54内に可動部材38が突出される。そして、突出された可動部材38の上面38Dがディフューザ室54の内壁と接触することで、ディフューザ室54内の一部における空気の流通が遮断される。
【0052】
これにより、図5(B)に示すように、ディフューザ室54の容積(使用可能領域)が最小になる。そして、可動部材38の第2側面38Bがディフューザ室54とスクロール室56との連通部位(点B1から点B2まで範囲)を仕切ることで、スクロール室56の下流側がディフューザ室54と隔離される。これにより、スクロール室56における空気の実質的な出口は、前述のスクロール出口56A(図5(A)参照)に比べて、断面積の小さい上流側の点B2の近傍のスクロール出口56Bに位置することになる。
【0053】
この結果、図7(B)に示すように、空気の流量が少なくてもスクロール出口56Bにおいて圧力に抗する流速VBが確保でき、空気の逆流(サージ現象)を抑制することができる。そして、さらに少ない流量の空気を流すことが可能となる。なお、図5(B)では、実質的なスクロール出口を実線の楕円で図示しており、スクロール室56の空気が流れる方向における各部の断面を破線の楕円で図示している。
【0054】
また、本実施形態では、可動部材38の突出した体積分だけディフューザ室54内の容積が減少する。そして、ディフューザ室54の空気の流路の容積が、インペラ収容室52側に向かって小さくなる。これにより、インペラ収容室52からディフューザ室54内に流入した空気が、ディフューザ室54内で必要以上の大きな空間に拡散することが抑制されるので、少ない流量に適した空気の減速及び圧力上昇を行うことができ、圧力損失を抑制することができる。
【0055】
さらに、本実施形態では、図7(A)に示すように、第1側面38Aの上流端の位置である点B0が第2側面38Bの上流端の位置である点B1よりも上流側に配置されているため、可動部材38をディフューザ室54内に移動させたとき、ディフューザ室54内でインペラ32の接線方向に流れる空気は、第3側面38Cに当ることになる。そして、第3側面38Cに当った空気は、流れる方向がインペラ32の接線方向(あるいは接線方向に対して所定範囲内の角度方向)から半径方向に偏向される。
【0056】
ここで、空気の流速の周方向成分が減少することで、速度エネルギーが圧力エネルギーに変換される。同時に、空気の流れの向きが半径方向に向かうため、空気の流線Qbが比較例の流線Qa(図6(A)参照)よりも短くなり、短い経路で空気が流出することになる。この結果、圧力への変換効率が上昇する。また、流線Qbが短くなることにより、可動部材38との接触による空気の流れの摩擦損失を減少させることができる。
【0057】
図8には、本実施形態の可動部材38を設けた場合(グラフGA)と、比較例として可動部材38を設けない場合(グラフGB)とにおける空気の流量とコンプレッサ効率との関係が示されている。
【0058】
比較例では、可動部材38が無いため、流量V2においてサージ現象が発生し、流量V2より少ない流量を流せなくなっている。また、流量V3(>V2)におけるコンプレッサ効率は低く、K1となっている。
【0059】
一方、本実施形態では、可動部材38があるため、流量V2ではサージ現象が発生せず、流量V2よりも少ない流量V1(<V2)の空気を流すことができる。即ち、コンプレッサ部30(図1参照)の作動範囲が少流量域に拡大する。また、本実施形態では、流量V3におけるコンプレッサ効率がK2(>K1)となっており、少流量域において、比較例よりもコンプレッサ効率を上げることができる。
【0060】
なお、本発明は上記の実施形態に限定されない。
【0061】
データ取得部18は、エンジン回転数、アクセル開度に基づいて間接的に流量データを得るだけでなく、吸気通路14に流量センサを設けて、直接、流量データを得るようにしてもよい。
【0062】
また、可動部材38は、ディフューザ室54の底面側からではなく、上面側から底面側へ向けて突出させるようにしてもよい。さらに、可動部材38の移動手段として、偏心カム48に換えて、アクチュエータを用いてもよい。
【0063】
加えて、複数の可動部材を移動可能に設けて、流量の変化に合わせて移動させるように構成し、コンプレッサハウジング50(ディフューザ室54)内の容積変化を多段階で行えるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0064】
16 制御部(制御手段の一例)
30 コンプレッサ部(可変容量コンプレッサの一例)
32 インペラ
38 可動部材(容積可変部材の一例)
38A 第1側面
38B 第2側面
38C 第3側面
48 偏心カム(移動手段の一例)
50 コンプレッサハウジング(可変容量コンプレッサハウジングの一例)
52 インペラ収容室
54 ディフューザ室
56 スクロール室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流入した空気を回転により加速するインペラが収容されるインペラ収容室の外周に沿って形成されると共に該インペラ収容室の内部と連通し、前記インペラの回転で加速された空気を減速させて加圧するディフューザ室と、
前記ディフューザ室の外側に形成されると共に前記ディフューザ室の内部と連通し、前記ディフューザ室で加圧された空気を外部へ流すスクロール室と、
前記ディフューザ室内に移動可能に設けられ、前記ディフューザ室内に移動した状態で、前記ディフューザ室と前記スクロール室との連通部位の一部を仕切ると共に、前記ディフューザ室の空気の流路の容積を前記インペラ収容室側に向かって小さくする容積可変部材と、
を有する可変容量コンプレッサハウジング。
【請求項2】
前記容積可変部材は、
前記インペラの軸方向に見て、前記インペラの回転方向に対して前記インペラとの距離が長くなる湾曲形状とされ、前記ディフューザ室への突出時に前記インペラと対向配置される第1側面と、
前記インペラの半径方向における前記第1側面よりも外側で且つ前記ディフューザ室の外周上に配置されると共に、前記インペラの回転方向における下流端の位置が前記第1側面の下流端の位置と合わせられ、前記ディフューザ室への突出時に前記スクロール室の内壁面となる第2側面と、
前記第1側面の上流端と前記第2側面の上流端とを繋ぐ第3側面と、
を有する請求項1に記載の可変容量コンプレッサハウジング。
【請求項3】
前記容積可変部材は、前記インペラの軸方向に見て、前記インペラの回転方向における前記第1側面の上流端の位置が、前記第2側面の上流端の位置よりも上流側に配置されている請求項2に記載の可変容量コンプレッサハウジング。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の可変容量コンプレッサハウジングと、
前記容積可変部材を前記ディフューザ室内に移動させる移動手段と、
前記インペラ収容室に流入する空気の流量の情報に基づいて前記移動手段を作動させ、前記容積可変部材の移動を制御する制御手段と、
を有する可変容量コンプレッサ。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図8】
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【図2】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−184706(P2012−184706A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−47995(P2011−47995)
【出願日】平成23年3月4日(2011.3.4)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】