説明

可変容量ターボチャージャ及びその製造方法

【課題】摺動部の摩耗を防止できる可変容量ターボチャージャ及びその製造方法を提供する。
【解決手段】タービン21のノズルベーン30の翼角度を調整するタービン容量可変機構24を備えると共に、タービンハウジング26外に、タービン容量可変機構24を構成するコントロールリンク35を設けた可変容量ターボチャージャにおいて、コントロールリンク35のリンクピン39とそのリンクピン39に嵌合する駆動レバー37,38の摺動面に、ポリアミドイミド樹脂中に二硫化モリブデン粒子とグラファイト粒子を分散させた皮膜10を形成したものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タービンに翼角度可変のノズルベーンを備えた可変容量ターボチャージャに係り、特にそのノズルベーンの翼角度を調整する翼角リングを駆動するコントロールリンクの耐摩耗性を向上させた可変容量ターボチャージャ及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両用ディーゼルエンジンには、ターボチャージャが装着されているが、一般的には固定容量(コンベンショナル)のターボチャージャが使われている、しかし、2011年より規制が強化される北米や欧州の規格に適用するために、固定容量に代えて、可変容量ターボチャージャ(VNT、VGTと呼ばれている)の採用が決定されている。
【0003】
この車両用ディーゼルエンジンに装着される従来の可変容量ターボチャージャは、特許文献1,2に示されるようにタービン側にノズルベーンを設けて排ガス流量を制御するもので、これを図5〜図7により説明する。
【0004】
図7に示すように可変容量ターボチャージャ20は、タービン21とコンプレッサ22をベアリングハウジング29で連結し、そのタービン21にタービン容量可変機構24が設けられて構成される。
【0005】
タービン21は、タービンインペラ25と、タービンインペラ25を囲み、排ガスが導入されるタービンハウジング26とからなり、コンプレッサ22は、コンプレッサインペラ27と、コンプレッサインペラ27を囲み、吸気が導入されるコンプレッサハウジング28とからなる。タービンインペラ25とコンプレッサインペラ27とはターボ軸23で連結され、ターボ軸23がベアリングハウジング29内に収容されると共にベアリングハウジング29内に設けた軸受部(図示せず)で軸承される。
【0006】
タービン容量可変機構24は、図5〜図7に示すように、タービンハウジング26のノズルスロート部26aの円周方向に沿って適宜間隔で翼角度可変に設けられた多数のノズルベーン30と、これらノズルベーン30をリンクプレート31を介して連結されたノズル翼角度調整リング32と、そのノズル翼角度調整リング32の溝32aに係合し、ノズル翼角度調整リング32を回動するためのクランクレバー33と、そのクランクレバー33に連結され、タービンハウジング26外に延出されるクランク軸34と、その延出されたクランク軸34に連結され、クランク軸34を回転するためのコントロールリンク35と、そのコントロールリンク35を駆動するモータからなる駆動装置36とからなる。
【0007】
コントロールリンク35は、図6に示すように、駆動装置36に連結された第1駆動レバー37と、クランク軸34に連結された第2駆動レバー38と第1及び第2駆動レバー37,38を連結するリンクピン39a,39bを備えたコントロールロッド40とからなる。
【0008】
このタービン容量可変機構24によるノズルベーン30の翼角度調整は、図7に示すように、駆動装置36が所定角度回転することで、コントロールロッド40が往復移動し、これによりクランク軸34が所定角度回転すると共にクランクレバー33が回動して、ノズル翼角度調整リング32が所定角度回転し、これにより、リンクプレート31を介してノズルベーン30の翼角度が調整され、タービンハウジング26からノズルスロート部26aを介してタービンインペラ25に流入する排ガスの流入角とその容量が調整されることで、タービンインペラ25の回転速度を可変することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平05−296053号公報
【特許文献2】特開2004−270472号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、コントロールリンク35は、タービンハウジング26外に設けられるものの、タービンハウジング26の外側雰囲気でも300℃以上の高温に晒されるため、潤滑油による潤滑は不可能であり、コントロールロッド40のリンクピン39a,39bと、そのリンクピン39a,39bと嵌合する第1及び第2駆動レバー37,38の嵌合穴との摺動部は、摩擦抵抗が大きくなる問題がある。
【0011】
従来は、リンクピン39a,39bや第1及び第2駆動レバー37、38をSUSで形成し、その摺動面をクロマイズ処理(クロム元素により表面硬化処理)或いは硬化処理として、窒化処理、DLCコーティング(ダイアモンド・ライク・コーティング)、トリバロイT400合金(登録商標)、ハステロイ(登録商標)などを用いることが提案されている。
【0012】
しかしながら、材料強度を強化しても、高温環境で使用されるため機械的摩擦が避けられず、異常摩耗を防ぐことはできない問題がある。
【0013】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、摺動部の摩耗が生じても異常摩耗を防止できる可変容量ターボチャージャ及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために請求項1の発明は、タービンのノズルベーンの翼角度を調整するタービン容量可変機構を備えると共に、タービンハウジング外に、タービン容量可変機構を構成するコントロールリンクを設けた可変容量ターボチャージャにおいて、コントロールリンクのリンクピンとそのリンクピンに嵌合する駆動レバーの摺動面に、ポリアミドイミド樹脂中に二硫化モリブデン粒子とグラファイト粒子を分散させた皮膜を形成したことを特徴とする可変容量ターボチャージャのコントロールリンクである。
【0015】
請求項2の発明は、前記リンクピンを嵌合する駆動レバーの穴に前記皮膜を形成した請求項1記載の可変容量ターボチャージャである。
【0016】
請求項3の発明は、タービンのノズルベーンの翼角度を調整するタービン容量可変機構を備えると共に、タービンハウジング外に、タービン容量可変機構を構成するコントロールリンクを設けた可変容量ターボチャージャの製造方法において、ポリアミドイミド樹脂を55〜65質量部、二硫化モリブデン粒子を20〜30質量部 、グラファイトを1〜10質量部とし、これに溶剤を加え、これを、コントロールリンクのリンクピンとそのリンクピンに嵌合する駆動レバーの摺動面に塗布した後乾燥させ、これを数回繰り返し、皮膜厚さを30±10μmにした後、これを焼成して皮膜を形成したことを特徴とする可変容量ターボチャージャの製造方法である。
【0017】
請求項4の発明は、ポリアミドイミド樹脂に、顔料を5〜15質量部さらに分散させた請求項3記載の可変容量ターボチャージャの製造方法である。
【0018】
請求項5の発明は、前記リンクピンの外周面にクロマイズ処理又は窒化処理を行った後、前記皮膜を形成した請求項3又は4記載の可変容量ターボチャージャの製造方法である。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、コントロールリンクの摺動面に、ポリアミドイミド樹脂中に、二硫化モリブデンとグラファイトを分散させた皮膜を形成することで、高温環境であっても摺動性が高く耐摩耗性に優れたコントロールリンクとすることができるという優れた効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の可変容量ターボチャージャのコントロールリンクの一実施の形態を示す図である。
【図2】本発明の可変容量ターボチャージャのコントロールリンクの摺動面に形成した皮膜の耐摩耗性と摺動性を説明する図である。
【図3】本発明と従来例における耐摩耗試験結果を示す図である。
【図4】従来における摺動面の摩耗を説明する図である。
【図5】可変容量ターボチャージャのノズルベーンと翼角調整リングの詳細を示す斜視図である。
【図6】可変容量ターボチャージャのコントロールリンクの詳細を示す斜視図である。
【図7】可変容量ターボチャージャの全体断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の好適な一実施の形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0022】
先ず、可変容量ターボチャージャの基本的構成は、図5〜図7で説明したとおりであり、その詳細な説明は省略する。
【0023】
さて、図1は、本発明の可変容量ターボチャージャのコントロールリンク35を示したものであり、図1(a)はコントロールリンク35の全体斜視図、図1(b)はコントロールロッド40の要部斜視図を、図1(c)は、第1及び第2駆動レバー37,38の要部斜視図を示したものである。
【0024】
図1(b)に示したコントロールロッド40には、リンクピン39が設けられ、図1(c)に示した第1及び第2駆動レバー37,38には、穴41が形成され、そのリンクピン39が穴41に挿入され、そのリンクピン39にスナップリング42が設けられて、リンクピン39が第1及び第2駆動レバー37,38に回転自在に取り付けられる。
【0025】
本発明においては、リンクピン39と第1及び第2駆動レバー37,38の穴41の摺動面、特にリンクピン39の外周に、耐摩耗性と自己潤滑性を有する皮膜10を形成した可変容量ターボチャージャ及びその製造方法である。また穴41の内周面にも皮膜10を形成するようにしてもよい。
【0026】
またリンクピン39は、その外周面が皮膜形成前に、クロマイズ処理や窒化処理を施され、その硬化層の外周面に皮膜10が形成される。
【0027】
この皮膜10の成分は、
(A)ポリアミドイミド樹脂 55〜65質量部
(B)二硫化モリブデン粒子 20〜30質量部
(C)グラファイト 1〜10質量部
(D)顔料(無機質粉末) 5〜15質量部
からなる。
【0028】
(A)ポリアミドイミド樹脂としては、耐熱温度260℃以上の耐熱性があるもので、乾燥ないし焼成前の数平均分子量が、2000〜8000であるものを用いる。
【0029】
(B)二硫化モリブデン粒子は、自己潤滑性に優れた粒子であり、平均粒径は1〜2μmのものを用いる。
【0030】
(C)グラファイトとしては、自己潤滑性に優れると共に、摩耗して皮膜から剥離しても潤滑性を有するので好ましく、平均粒径は1〜2μmのものを用いる。
【0031】
(D)顔料としては、表面がグレー系となる粉末で、炭酸カルシウムなどの白色系無機質粉末を用いる。この無機質粉末は、(B)二硫化モリブデンと(C)グラファイト粒子がポリアミドイミド樹脂中から容易に剥離しないように、これらを樹脂中に固定するために用いる。
【0032】
この(A)〜(D)の成分に溶剤(N−メチル−2−ピロリドン(NMP))を加えて皮膜形成樹脂前駆体とする。
【0033】
この皮膜形成樹脂前駆体をスプレー塗装等にてリンクピン39の外周面(及び穴41の内周面)にコーティング膜を形成した後、70〜90℃で20分以上加熱乾燥する。このスプレー塗装と乾燥を3〜5回繰り返し、最終的に30±10μm、好ましくは30μm厚さのコーティング膜を形成した後、230℃±10℃で45±5分焼き付けてコーティング膜を焼成することで皮膜10を形成する。
【0034】
この皮膜10の特性は、
摩擦係数 0.06(代表値)
碁盤目テスト 100/100(JIS K 5400)
鉛筆硬度 5H
耐熱性 約600℃×30分加熱した後も変化なし
であった。
【0035】
また、耐摩耗性試験は、皮膜を施した試験片を、360℃×20時間加熱した後、60℃×90%×100時間湿潤環境に晒した後に試験を行ったもので、約300000回の摺動摩擦に耐えることを確認した。
【0036】
この際の摩耗試験は、試験片にSUS440C球を当て、荷重1kgfをかけ、摺動速度1.5m/sec、摩擦半径16.5、回転数870rpmとし、リンクピンの摩擦係数である0.3に、上昇するまでの回数で測定した。
【0037】
なお、リンクピンは、クロマイズ処理し後に塗装するが、サンドブラスト処理して表面を粗面化して行ってもよい。
【0038】
次に皮膜10の作用を説明する。
【0039】
先ず、図4は、皮膜を形成していない従来のリンクピン39と駆動レバー37,38の穴41の内周面の状態を示している。
【0040】
この従来例においては、リンクピン39の表面は窒化処理をしていてもミクロンオーダの加工荒さが残っており、穴41の内周面に均一に接している状態にはならず、図4(a)に示すように、最大高さとなる頂部が内周面に点接触した状態にある。またリンクピン39と穴41の接触回転は、通常の円運動と違い、円周上で常に同じ位置を往復摺動する揺動回転となる。従って、図4(a)の状態で摩擦や振動等による接触応力が高いと、点接触した部分39pからミクロの破壊が発生し、図4(b)に示すように接触部が欠け落ちて破損片39Bとなって摺動面から消失し、その後、順次高い部分39pの接触と破壊が発生し、通常摩擦とは異なり急速に摩耗が進行してしまい、表面硬化処理した硬化層が消失してしまうことがわかった。
【0041】
これに対して、本発明は、皮膜10を形成することで、上述した異常摩耗を防止できるようにしたものである。
【0042】
これを図2により説明する。
【0043】
図2は、リンクピン39に形成した皮膜10の断面を拡大した模式図を示している。
【0044】
先ず図2(a)に示すように皮膜10の形成直後は、ポリアミドイミド樹脂11A中に、二硫化モリブデン粒子11Bとグラファイト11Cが分散した状態の皮膜10が形成されたリンクピン39となり、この状態で、駆動レバー37,38の穴41の内周面と接した状態となる。
【0045】
このように皮膜10中に二硫化モリブデン粒子11Bとグラファイト11Cを含むことで、穴41の内周面との摺動性は高温下でも良好となる。
【0046】
次に、図2(b)に示すように、皮膜10が、使用中に摩耗により二硫化モリブデン粒子11Bとグラファイト11Cが順次摺動面から放出され、緩やかに摩耗する。
【0047】
さらに図2(c)に示すように摩耗が進行すると、ポリアミドイミド樹脂11Aからリンクピン39の表面の高い部分39pが露出し始めるが、二硫化モリブデン粒子11Bとグラファイト11Cが固体潤滑剤であるため、図4で説明したような破壊脱落ではなく緩やかな接触摩耗が進行し、順次露出した部分の微少摩耗が発生し、最終的には、図2(d)に示すように全体がラッピングで磨かれたような鏡面39Mの状態となり、局部で接触力を支えることなく面接触となるため、その摩耗速度を劇的に改善することができる。
【0048】
また、組立初期に上記のような鏡面状の仕上げ加工は、切削加工+研磨+ラッピングにより技術的には可能であるが、組立時の姿勢誤差、相手部品のばらつきを考えると接触姿勢を含み面接触の実現は困難である。
【0049】
またマッチング研磨といった方法も存在するが、コントロールリンク35のように多数の部品を組み合わせた状態で実施するのはやはり困難である。
【0050】
このように、本発明は、コントロールリンク35の摺動面にポリアミドイミド樹脂からなる皮膜10を形成し、その皮膜10が摩耗しても、ポリアミドイミド樹脂に分散させた二硫化モリブデンやグラファイトが固体潤滑材となって、表面荒さの不具合を解消し最終的には摺動面を鏡面加工した状態とすることができる。
【0051】
次に、図3により本発明と従来例のコントロールリンクを用いて実際に摩耗試験を行った結果を説明する。
【0052】
図3において、本発明と従来例では、リンクピンと駆動レバーは共にSUSで、リンクピンにはベースのSUS+クロマイズ処理(クロマイズ処理層はおおよそ15μmのもので評価)し、本発明では、クロマイズ処理後に皮膜を形成し、従来例ではコーティングレスとした。
【0053】
この結果、従来例では、クロマイズ層が消失するまでの摩耗時間が20時間であり、その後は摩耗量が急激に増加したため、摩耗量0.08mmに達したところで試験を停止した。
【0054】
これに対し本発明では、皮膜が消失するまで40時間、クロマイズ層が消失するまでの摩耗時間が68時間であり、また68時間経過後も摩耗量は0.05mmから緩やかに増大していった。
【0055】
この結果、従来例での摩耗速度は5μm/hrであるのに対して本発明では、0.043μm/hrであり、摩耗速度は、およそ1/100以下に削減できることがわかった。
【0056】
また図3より、初期摩耗速度は従来例も本発明も大きな差異はないが、本発明では皮膜の消失後の摩耗速度は、従来例に比べて顕著に低減されおり、摺動面に鏡面加工された面が形成されていることが確認できる。
【符号の説明】
【0057】
10 皮膜
24 タービン容量可変機構
26 タービンハウジング
35 コントロールリンク
37,38 第1及び第2駆動レバー
39 リンクピン
40 コントロールロッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タービンのノズルベーンの翼角度を調整するタービン容量可変機構を備えると共に、タービンハウジング外に、タービン容量可変機構を構成するコントロールリンクを設けた可変容量ターボチャージャにおいて、コントロールリンクのリンクピンとそのリンクピンに嵌合する駆動レバーの摺動面に、ポリアミドイミド樹脂中に二硫化モリブデン粒子とグラファイト粒子を分散させた皮膜を形成したことを特徴とする可変容量ターボチャージャ。
【請求項2】
前記リンクピンを嵌合する駆動レバーの穴に前記皮膜を形成した請求項1記載の可変容量ターボチャージャ。
【請求項3】
タービンのノズルベーンの翼角度を調整するタービン容量可変機構を備えると共に、タービンハウジング外に、タービン容量可変機構を構成するコントロールリンクを設けた可変容量ターボチャージャの製造方法において、ポリアミドイミド樹脂を55〜65質量部、二硫化モリブデン粒子を20〜30質量部 、グラファイトを1〜10質量部とし、これに溶剤を加え、これを、コントロールリンクのリンクピンとそのリンクピンに嵌合する駆動レバーの摺動面に塗布した後乾燥させ、これを数回繰り返し、皮膜厚さを30±10μmにした後、これを焼成して皮膜を形成したことを特徴とする可変容量ターボチャージャの製造方法。
【請求項4】
ポリアミドイミド樹脂に、顔料を5〜15質量部さらに分散させた請求項3記載の可変容量ターボチャージャの製造方法。
【請求項5】
前記リンクピンの外周面にクロマイズ処理又は窒化処理を行った後、前記皮膜を形成した請求項3又は4記載の可変容量ターボチャージャの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate