説明

可変容量型斜板式液圧回転機

【課題】サーボピストンとピストン収納部との間の接触面積を増大することなく、その間の摺動を円滑に行わせて、フレッティングや凝着の抑制及び磨耗の低減を図る。
【解決手段】斜板2から延在させた斜板傾転部材7はピストン収納部11にサーボピストン12を設けた傾転制御機構10が連結して設けられ、サーボピストン12の両端は制御圧が導入される制御圧室16A,16Bに臨み、ピストン収納部11との摺動部21A,21Bに沿って摺動する。両摺動部21A,21B間には本体ケーシング1の内部と連通するタンク圧領域22が形成されており、サーボピストン12の両端部から導油通路30A,30Bが穿設され、これらは絞り通路31A,31Bとなって、サーボピストン12の外周面に形成した円環状溝32A,32Bに接続されており、円環状溝32Aは摺動部21Bに、また円環状溝32Bは摺動部21Aに開口している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばホイールローダに搭載される油圧ポンプ等の可変容量型斜板式液圧回転機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
可変容量型斜板式液圧回転機は、ケーシング内に回転軸に連結したシリンダブロックを設け、このシリンダブロックには円周方向に向けて所定ピッチ間隔をもって複数のシリンダを装着する構成としたものである。そして、シリンダブロックに形成される各シリンダ内にはそれぞれピストンが摺動可能に設けられており、各ピストンにはシューが設けられ、これらのシューは斜板に摺接している。
【0003】
この液圧回転機において、回転軸をエンジン等の動力源に連結して、この回転軸と共にシリンダブロックを回転駆動すると、斜板を摺動するピストンがシリンダ内で往復運動を行うことにより、シリンダ内に作動油を吸い込んで、ピストンにより作動油を加圧して吐出することになり、油圧ポンプとして機能する。また、圧油をシリンダ内に導入すると、ピストンを押動することになる結果、回転軸を連結したシリンダブロックが回転駆動されることになり、油圧モータとして機能する。
【0004】
斜板は、その角度を変化させることによって、つまり傾転制御を行うことによって、ピストンによる押し退け容積を可変にするものであり、油圧ポンプとして機能させる場合には、その吐出容量が変化することになる。斜板の傾転制御は、この斜板の摺動面がピストンの軸線と直交する方向となる状態(中立位置)から所定の角度に傾斜させるように制御することであり、一方向にのみ傾転させる構成としたものと、両方向に傾転させる構成としたものとがある。
【0005】
両方向に傾転させる可変容量型斜板式液圧回転機は、例えば特許文献1に記載されているように、斜板から延在させた斜板傾転部材をサーボピストンに連結し、このサーボピストンをピストン収納部に摺動可能に設けたものであり、サーボピストンの両端部はそれぞれ制御圧室に臨ませている。そして、一方の制御圧室に制御圧が導かれ、他方の制御圧室をタンク圧とすることによって、サーボピストンの両端受圧面に差圧が生じ、このサーボピストンがピストン収納部の内面に沿って摺動変位することになる。また、サーボピストンには中立位置への復帰用のばねを作用させて、両制御圧室に制御圧が作用しないときには、サーボピストンは中立位置に保持されることになる。
【特許文献1】米国特許出願公開第2002/0014149号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述したように、サーボピストンには斜板の斜板傾転部材が連結されるが、この斜板傾転部材の連結位置はサーボピストンの中間位置である。そして、斜板はケーシング内に配設されるが、この斜板の配設位置はタンク圧に保持されている。従って、サーボピストンの両端が臨む制御圧室の間の部位の外周部はタンク圧となったタンク圧領域である。このために、サーボピストンが中立位置からいずれかの傾転位置に傾転変位させたときには、サーボピストンの外周面はタンク圧領域を挟んだ両側の部位のうち、一方側では制御圧が作用しているので、この制御圧によりサーボピストンの外周面に作動油が流入して、ピストン収納部内面との間に潤滑油膜が形成されるが、タンク圧領域とタンク圧側の制御圧室との間の部位において、サーボピストンの外周面とピストン収納部の内周面との間には作動油が供給されないことになる。
【0007】
前述したように、シリンダブロックが回転すると、ピストンがシリンダ内を往復動することから、液圧回転機の作動中には、斜板を振動させることになり、この斜板の振動は斜板傾転部材を介してサーボピストンに伝達されて、サーボピストンがピストン収納部に対して微小振動することになる。その結果、サーボピストンの外周面とピストン収納部の内周面との間において、制御圧が作用する側とタンク圧領域との間は作動油が流入するから潤滑性能が維持されるが、タンク圧側とタンク圧領域との間の部位には潤滑機能が得られないことになる。その結果、前述したサーボピストンの振動等によりサーボピストンとピストン収納部との間の摺動面にフレッティングや凝着が発生したり、磨耗が進行したりする等といった問題点がある。また、サーボピストンとピストン収納部との間の接触面積を大きくすれば、このような不都合をある程度は抑制できるが、そうすると、サーボピストンの軸線方向の長さを必要以上長くしなければならず、このために液圧回転機全体が大型化する等といった不都合が生じることになる。
【0008】
本発明は以上の点に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、サーボピストンとピストン収納部との間の接触面積を増大することなく、その間の摺動を円滑に行わせて、フレッティングや凝着の抑制及び磨耗の低減を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前述した目的を達成するために、本発明は、斜板式液圧回転機の斜板を傾転駆動するために、この斜板に連結して設けたサーボピストンをピストン収納部内に摺動可能に設け、このピストン収納部には前記サーボピストンに制御圧を作用させる複数の制御圧室を形成した可変容量型斜板式液圧回転機であって、前記サーボピストンには、前記複数の制御圧室のうち、少なくとも1つの制御圧室と連通する導油通路を穿設し、前記導油通路は、前記ピストン収納部の内面であって、前記サーボピストンの摺動面部に開口させる構成としたことをその特徴とするものである。
【0010】
導油通路をサーボピストンの摺動面に開口させるのは、この摺動面に潤滑膜を形成するためである。そして、このように供給される作動油は制御圧室からの漏れ流量となることから、制御性の観点から、供給油量は潤滑機能を発揮するのに必要最小限に止めるようにするのが望ましく、通路断面積は小さいものとなる。導油通路はサーボピストンの軸線方向に向けた通路の部分と、これと直交する方向の通路部分とからなり、比較的長い通路となる。導油通路の通路断面積を調整する必要があるが、この摺動面への供給流量を正確に制御するために、導油通路の途中に絞り部を設けるようにするのが望ましい。特に、サーボピストンの軸線と直交する方向の通路部分を絞り部とするのが最も望ましい。
【0011】
ピストン収納部には制御圧室が複数形成されるが、最も通常の構成では、サーボピストンの両端がそれぞれ臨む制御圧室を左右一対形成することになる。サーボピストンは斜板傾転部材等を介して斜板と連結される関係から、斜板及びシリンダブロックが装着されているケーシングの内部のタンク圧領域とこの部位とが連通状態となる。つまり、サーボピストンの軸線方向における中間部分の外周部はタンク圧領域に配置される。制御圧室からの制御圧を導く導油通路は、従って、制御圧室への連通部から、このタンク圧領域の位置を越えた位置の外周面に開口させるようにする。例えば、ホイールローダの油圧ポンプとして構成する場合には、サーボピストンの両端に形成される制御圧室のうち、一方側の制御圧室に制御圧を導入したときには車両が前進し、反対側の制御圧室に制御圧が導入されると、車両が後進する、というように制御する構成とすることができる。車両の前進時には高い制御圧を導入して、高速走行を可能とするが、後進時にはあまり速度を高くしないのが一般的である。そこで、サーボピストンには2箇所の導油通路を形成して、それぞれの制御圧室に接続する構成とすることもできるが、少なくとも前進方向に斜板を傾転させるための制御圧が作用する制御圧室に連通させる導油通路は必須のものとし、後進側の制御圧室には必ずしも導油通路を連通させなくても良い。
【0012】
既に説明したように、導油通路はサーボピストンの外周面とピストン収納部の内周面との間を潤滑するためのものであるから、作動油はサーボピストンの外周面の全周に供給されなければならない。このためには、サーボピストンの外周面に円環状の溝を形成して、この円環状の溝に導油通路を開口させるようにするのが望ましい。サーボピストンの左右両側に制御圧室を設けた場合、一方の制御圧室に制御圧が導入されているときには、他方の制御圧室はタンク圧となっている。従って、制御圧が作用している側の導油通路はピストン収納部の摺動面に開口することが必要であるが、このタンク圧となる側の制御圧室からの導油通路はタンク圧領域と連通させるように構成することもでき、サーボピストンの軸線方向の長さをその分だけ短縮できる。ただし、傾転制御を行う際に、低圧側の制御圧室にある程度の背圧を生じさせることによって、サーボピストンを安定的に動作させるようにするのが望ましい。このために、制御圧室に接続したタンクへの還流路には、絞りを設ける構成することになる。この場合に、絞りを介してタンクと接続される経路に加えて導油通路からなる経路が開かれていると、絞りとしての機能が低下することになる。ところで、サーボピストンの両端に中立位置への復帰用のばねが作用する構成とするが、このばねのばね座を導油通路の接続部を覆うことができる構成とする。そして、いずれかの制御圧室が高圧になり、サーボピストンがピストン収納部内を摺動する際には、高圧側となる制御圧室側のばね座はサーボピストンの端面から離間し、低圧側となる制御圧室側のばね座はサーボピストンの端面に圧接する。そこで、このばね座でサーボピストンに接続する導油通路を密閉させることができる。
【発明の効果】
【0013】
斜板を傾転させ、また所定の傾転状態に保持する際に、サーボピストンの外周面とピストン収納部の内面と摺動を円滑に行わせて、その間の摺動面積を必要以上大きくすることなく、フレッティングや凝着を抑制し、かつ磨耗の低減を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態について説明する。図面において、図1は斜板式液圧回転機の断面図であり、図2は図1のX−X断面図、図3は作動状態を示す図2と同様の断面図である。
【0015】
これらの図において、1は液圧回転機の本体ケーシングであって、この本体ケーシング1内には斜板2と、シリンダブロック3とが設けられている。シリンダブロック3には円周方向に複数(図1においては9個)のシリンダ4が形成されており、各シリンダ4にはピストン5が摺動可能に装着されている。また、シリンダブロック3には回転軸6が接続されており、この回転軸6をエンジン等の動力源により回転駆動することによって、シリンダブロック3が回転することになる。そして、斜板2をシリンダ4の軸線と直交する方向から所定角度傾転させた状態で、回転軸6によりシリンダブロック3を回転駆動すると、シリンダ4内でピストン3が往復動することになり、斜板2の傾転角に応じた押し退け容積を有するポンプ作用を行うことになる。
【0016】
斜板2には斜板傾転部材7が延在されており、この斜板傾転部材7を図1の左右方向に回動させることによって、斜板2の傾転制御が行われる。斜板傾転部材7を駆動するために、本体ケーシング1には傾転制御機構10が連結して設けられている。傾転制御機構10はピストン収納部11を有し、このピストン収納部11にはサーボピストン12が設けられており、このサーボピストン12に斜板傾転部材7が連結して設けられている。斜板傾転部材7とサーボピストン12との連結部の構成としては、サーボピストン12には円弧状凹部13を形成し、この円弧状凹部13には斜板傾転部材7の先端に設けた軸受部材14を摺動可能に嵌合させている。
【0017】
サーボピストン12はピストン収納部11の内面に沿って軸線方向に移動可能に装着されている。そして、ピストン収納部11の両端には蓋体15A,15Bが装着されて、サーボピストン12の両端面とそれぞれの蓋体15A,15Bとの間には制御圧室16A,16Bが形成されている。そして、サーボピストン12の両端面と蓋体15A,15Bとの間には、中立位置への復帰用のばね17が設けられている。ばね17の両端はばね座18,19に当接しており、一方のばね座18はサーボピストン12の端面と共にピストン収納部11に形成した段差部11aに当接している。また、他方のばね座19は蓋体15Aまたは15Bに当接している。なお、20はばね座19をサーボピストン12の軸線方向の位置からずれないようにするための調芯部材である。
【0018】
ここで、サーボピストン12のうち、制御圧室16A,16Bに臨んでいるのはその両端面であって、このサーボピストン12の外周面において、ピストン収納部11の内周面と摺接しているのは両端部から所定の長さ分で、ピストン収納部11の内周面のうち、符号21A,21Bで示した部位がサーボピストン12への摺動部である。また、これら両摺動部21A,21B間の部位には凹状部11bが形成されており、この凹状部11bの一部は本体ケーシング1の内部に開口し、斜板傾転部材7はこの連通部分からピストン収納部11内に延在されて、サーボピストン12の円弧状凹部13と係合している。また、サーボピストン12の外周面も、その中間部分が縮径されている。これによって、サーボピストン12の中間縮径部とピストン収納部11における摺動部21A,21B間の凹状部11bとの間には、本体ケーシング1の内部と連通するタンク圧領域22が形成されている。
【0019】
傾転制御機構10を構成する制御圧室16A,16Bには、図2に示したように、それぞれ油圧配管23A,23Bが接続されており、これら両油圧配管23A,23Bは制御弁24を介して、油圧ポンプ25からの高圧配管26または作動油タンク27への低圧配管28が切り換え接続される。そして、低圧配管27には背圧を発生させるための絞り29が設けられている。
【0020】
さらに、サーボピストン12の両端部から軸線方向に向けて導油通路30A,30Bが穿設して設けられている。これら両導油通路30A,30Bはタンク圧領域22に臨む縮径部を越える位置まで軸線方向に向けて延在されており、これら導油通路30A,30Bの端部には絞り通路31A,31Bが連通している。そして、これら両絞り通路31A,31Bはサーボピストン12の軸線と直交する方向に向けられたものであり、このサーボピストン12の外周面に形成した円環状溝32A,32Bに接続されており、円環状溝32Aは摺動部21Bに、また円環状溝32Bは摺動部21Aに開口している。
【0021】
以上のように構成される斜板式液圧回転機は、例えばシリンダブロック3に連結した回転軸6を回転駆動することによりシリンダ4内に吸い込んだ作動油をピストン5の往復動により加圧して吐出する油圧ポンプとして機能し、またはシリンダブロック3のシリンダ4にポンプポートからの圧油を供給することによって、回転軸6を回転駆動する油圧モータとして機能する。
【0022】
この斜板式液圧回転機は可変容量型のものであり、油圧ポンプとして機能させる場合において、斜板2を傾転させることにより、吐出流量が変化する。このために設けられているのが傾転制御機構10であり、この傾転制御機構10にはサーボピストン12を有し、このサーボピストン12の両端に設けた制御圧室16A,16Bのいずれか一方に油圧ポンプ25からの制御圧を作用させ、他方を作動油タンク27に接続することによって、斜板2が傾転制御される。
【0023】
図2の状態では、制御弁24は中立位置となって、両制御圧室16A,16Bは共に低圧配管28を介して作動油タンク27に接続されている。その結果、サーボピストン12は、その両端面に作用するばね17,17により中立位置となり、このサーボピストン12に接続した斜板傾転部材7により斜板2がいずれの方向にも傾転せず、シリンダブロック3の軸線と直交する中立位置に保持される。従って、回転軸6を回転させて、シリンダブロック3を回転させてもピストン5はストロークしない。
【0024】
この状態から、図3に示したように、制御弁24を右側の切換位置に切り換えると、制御圧室16Aが油圧ポンプ25に接続されて高圧油が導入される。一方、制御圧室16Bは作動油タンク27に接続されて低圧状態になる。その結果、これら制御圧室16A,16B間の差圧によって、サーボピストン12がピストン収納部11との摺動部21A,21Bに沿って摺動変位することになり、これにより斜板傾転部材7が左方向に回動することになり、斜板2が所定の角度傾動することになり、この状態で回転軸6によりシリンダブロック3を回転駆動すると、ピストン5がシリンダ4内でこの傾転角に応じた量だけストロークすることになり、それに相当する押し退け容積分の圧油が吐出される。また、制御弁24を左側の切換位置に切り換えたときには、制御圧室16Bが高圧となり、制御圧室16Aが低圧となるので、サーボピストン12は前述とは逆方向に変位することになり、斜板2は前述とは反対方向に傾動することになる。
【0025】
しかも、この液圧回転機はピストン5を有するものであり、従ってピストン5が死点位置を通過する毎に振動が発生することになる。この振動はシリンダブロック3から斜板2及び斜板傾転部材7を介してサーボピストン12に伝達される。このために、液圧回転機が作動する間、サーボピストン12はピストン収納部11の内面に対して常に微振動することになる。つまり、斜板2の傾転時及び液圧回転機が作動している間は、サーボピストン12の外周面とピストン収納部11の内周面とは常に摺接する状態となる。
【0026】
ここで、サーボピストン12は、その中間部がタンク圧領域22であって、このタンク圧領域22の両側がピストン収納部11の内周面との摺動部21A,21Bとなっているので、サーボピストン12は、これら両摺動部21A,21Bに沿って摺動する。制御圧室16Aは油圧ポンプ25から供給される高圧油が導入されているので、この高圧油が摺動部21Aに流入して、潤滑膜が形成される。従って、サーボピストン12の作動時には、摺動部21A側では円滑に摺動し、磨耗等が発生するおそれはない。
【0027】
一方、摺動部21B側は、摺動部21Aとはタンク圧領域22により隔離されており、しかも制御圧室16Bはタンク圧となっている。従って、摺動部21B側には作動油の流入はない。しかも、サーボピストン12には斜板2を駆動する斜板傾転部材7が連結されており、この斜板傾転部材7が駆動される関係から、サーボピストン12の移動には直進性が確保されず、サーボピストン12の外周面とピストン収納部11の内周面とは片当たり状態で摺動することになり、また部分的に面圧が高くなる等、摺動条件は必ずしも良好とはいえない。このために、摺動部21B側では油膜切れが発生することがあり、そうするとフレッティングや凝着等が発生し、また磨耗が進行する等といった不都合が生じることがある。
【0028】
以上の不都合を防止するために、高圧側の制御圧室16Aから圧油を摺動部21Bに導入して潤滑油膜を形成する。このために導油通路30Aが設けられており、この導油通路30Aは制御圧室16Aに接続されており、この制御圧室16A内の圧力が導かれることになる。そして、導油通路30Aの先端部は、この通路方向と直交する方向の絞り通路31Aが連通しており、この絞り通路31Aはサーボピストン12の外周面に形成した円環状溝32Aに開口している。従って、摺動部21Bの全周に高圧油が流入することになって、潤滑膜が円滑に形成され、サーボピストン12のピストン収納部11への摺動条件が著しく向上することになる。その結果、フレッティング,凝着等の発生が防止され、かつ磨耗の低減が図られる。
【0029】
ところで、前述した導油通路30A(または30B)を介して摺動部21B(または21A)に高圧油を導入するということは、高圧側の制御圧室16A(または16B)からは高圧油をリークさせたことになる。傾転制御機構10の作動の効率化,高精度化等の点からは、このリーク量は必要最小限に抑制し、かつ流量を正確に制御する必要がある。長い通路である導油通路30A,30Bには大きな通路断面積を持たせ、これと直交する方向に流路を変えて、摺動部21B,21Aに潤滑油を流出させる通路を短い通路長の絞り通路31A,31Bとしているので、円環状溝32A,32Bへの供給油量を正確に制御することができ、潤滑膜を形成するのに必要最小限の油量が供給されるようになる。
【0030】
ここで、タンク圧領域22の両側に設けられる摺動部21A,12Bの軸線方向の長さを短縮して、前述した潤滑膜形成機能を発揮するために、例えば図3の位置にサーボピストン12が移動したときに、摺動部21Bを潤滑させるために、高圧側の制御圧室16Aに接続した導油通路30Aは摺動部21Bに開口するが、他方の導油通路30Bの円環状溝32Bは摺動面21Aの位置には開口せず、タンク圧領域22と連通するようにすることもできる。また、図3とは逆方向にサーボピストン12が移動したときには、導油通路30Aがタンク圧領域22に連通させるようにしても良い。これによって、摺動面21A及び21Bの軸線方向の長さを短縮できる。
【0031】
傾転制御機構10を作動させて、斜板2を傾転駆動する際において、制御弁24に接続した低圧配管28には絞り29が設けられている。これによって、制御弁24を切り換えたときに、低圧側の制御圧室は直ちにタンク圧にまで低下するのではなく、ある程度の背圧が生じて、サーボピストン12の移動速度を遅延させ、このサーボピストン12が急激に摺動する等がなく、その作動を安定させることができ、サーボピストン12の斜板傾転部材7への連結部等に無理な負荷が作用して損傷する等の不都合は生じない。そして、この絞り29の作用を十分に発揮させるためには、低圧側の制御圧室16B(または16A)から導油通路30B(または30A)に作動油を流出させないようにする必要がある。このために、中立位置復帰用のばね17が作用するばね座18を活用する。つまり、ばね座18を導油通路30B(または30A)の制御圧室16B(または16A)との連通部を覆うことができる大きさとする。
【0032】
例えば、図3に示したように、制御圧室16A側が高圧となって、サーボピストン12が図中の左方に移動したときには、この制御圧室16A側に位置するばね座18はピストン収納部11の段差部11aに当接してサーボピストン12の端面から離間するが、制御圧室16B側のばね座18はサーボピストン12に押動されて、ばね17を圧縮することになる。このために、ばね座18はサーボピストン12の端面に圧接されることになる結果、導油通路30Bの開口部はこのばね座18により閉鎖されて、制御圧室16B内の作動油はこの導油通路30B内に向けて流出することはない。従って、制御圧室16B内の作動油の流出は油圧配管23Bから低圧配管28を介して作動油タンク27に還流し、この低圧配管28に設けた絞り29によって、サーボピストン12の移動速度が制御されることになる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の可変容量型斜板式液圧回転機の断面図である。
【図2】図1のX−X位置の断面図である。
【図3】傾転制御機構の切り換え状態を示す図2と同様の断面図である。
【符号の説明】
【0034】
1 本体ケーシング 2 斜板
3 シリンダブロック 4 シリンダ
5 ピストン 6 回転軸
7 斜板傾転部材 10 傾転制御機構
11 ピストン収納部 11a 段差部
12 サーボピストン 16A,16B 制御圧室
17 ばね 18,19 ばね座
21A,21B 摺動部 22 タンク圧領域
23A,23B 油圧配管 24 制御弁
26 高圧配管 28 低圧配管
29 絞り 30A,30B 導油通路
31A,31B 絞り通路 32A,32B 円環状溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
斜板式液圧回転機の斜板を傾転駆動するために、この斜板に連結して設けたサーボピストンをピストン収納部内に摺動可能に設け、このピストン収納部には前記サーボピストンに制御圧を作用させる複数の制御圧室を形成した可変容量型斜板式液圧回転機において、
前記サーボピストンには、前記複数の制御圧室のうち、少なくとも1つの制御圧室と連通する導油通路を穿設し、
前記導油通路は、前記ピストン収納部の内面であって、前記サーボピストンの摺動面部に開口させる
構成としたことを特徴とする可変容量型斜板式液圧回転機。
【請求項2】
前記導油通路は絞り部を有する構成としたことを特徴とする請求項1記載の可変容量型斜板式液圧回転機。
【請求項3】
前記ピストン収納部には、前記サーボピストンの両端がそれぞれ臨むように前記制御圧室を一対形成し、かつその軸線方向の中間部の外周部はタンク圧領域に配置されており、前記導油通路は、前記一方または両方の制御圧室から前記タンク圧領域の位置を越えた位置の外周面に開口させ、前記サーボピストンにおけるこれら開口部には円環状の溝を形成する構成としたことを特徴とする請求項1または請求項2記載の可変容量型斜板式液圧回転機。
【請求項4】
前記各円環状溝は、少なくとも前記サーボピストンの両ストローク端位置では前記タンク圧領域に連通する構成としたことを特徴とする請求項3記載の可変容量型斜板式液圧回転機。
【請求項5】
前記ピストン収納部内の前記サーボピストンの両端には、それぞれ復帰用のばねを、前記各導油通路を閉鎖するように設けたばね座を介して作用するようになし、前記いずれかの制御圧室が高圧になって、前記サーボピストンが前記ピストン収納部内を摺動する際には、高圧側となる制御圧室側のばね座は前記サーボピストンの端面から離間し、低圧側となる制御圧室側のばね座は前記サーボピストンに形成した前記導油通路の開口部を密閉する方向に前記ばねを圧縮させる構成としたことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の可変容量型斜板式液圧回転機。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−2353(P2008−2353A)
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−172367(P2006−172367)
【出願日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】