説明

可変容量斜板式圧縮機

【課題】オイル循環量を広範囲の運転条件にて低減し、かつクランク室内の適正オイル量を保持することのできる可変容量斜板式圧縮機を提供する。
【解決手段】クランク室7と、該クランク室7を貫通する駆動軸8と、該駆動軸8の回転に同期して揺動する斜板9と、該斜板9の揺動に伴いシリンダボア11内を往復動するピストン12とを具備し、前記ピストン12のストローク量が前記斜板9の傾斜角を変更することで可変される可変容量斜板式圧縮機において、前記駆動軸8を貫通して前記クランク室7と吸入室16とを連通する抽気通路内に設けられた第1のオイルセパレータ機構と、吐出室17から吐出口18に至る吐出経路内に設けられた第2のオイルセパレータ機構と、前記吐出室17と前記クランク室7とを常時連通し、前記第2のオイルセパレータ機構によって分離されたオイルをクランク室7に戻すオイル戻り経路31とを設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、冷媒として二酸化炭素を用い、揺動する斜板によって移動するピストンにピストンリングが設けられた可変容量斜板式圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に開示される可変容量圧縮機は、クランク室と吸入室とを常時連通する抽気通路を駆動軸内に設け、クランク室に臨む抽気通路の入口部を、前記駆動軸の径方向に設定したことを特徴とする。ブローバイガスと共に抽気通路内に流れ込むミスト状のオイルは、まず駆動軸の回転運動により抽気通路の入口部の内周面に衝突して気液分離されて付着し、駆動軸の回転運動による遠心力によってクランク室に押し戻されるため、簡素な構成でクランク室から吸入室へ流出するオイル量を低減することができる。
【0003】
特許文献2は、冷媒ガスの吐出通路上に遠心分離器よりなるオイルセパレータが設けられる冷媒圧縮機を開示する。この特許文献2において、オイルセパレータの貯留部とクランク室とは、給気通路を介して連通されており、オイル溜りのオイルが、容量制御のためにクランク室へと供給される冷媒ガスと共に、給気通路を介してクランク室へと戻されること、言い換えると給気通路がオイル戻り経路を兼ねていることが開示され、前記給気通路上に、クランク室へ供給される冷媒ガスの量を調節する制御弁が設けられることが開示される。これにより、冷媒から分離されたオイルは、オイル貯留部に貯められ、さらにオイル貯留部とクランク室を結ぶ給気通路、すなわちオイル戻り経路を介してクランク室に戻されるが、前記制御弁によってクランク室に戻される冷媒と共に戻される量が調節されることがわかる。
【特許文献1】特開2003−343440号公報
【特許文献2】特開2005−120970号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したように、特許文献1には抽気経路の途中にオイルセパレータ(抽気OS)を設けた圧縮機が開示される。上記特許文献1に開示されている抽気OSは、冷媒としてR134aを使用する場合、冷凍サイクル内のオイル循環量をある程度低減できることが知られている。
【0005】
しかしながら、冷媒として二酸化炭素(CO)を使用した圧縮機の場合、クランク室と吸入室の差圧がR134aの場合の数倍から10倍高い上、クランク室内部の部品が中心に密集しているため、駆動軸近傍のガスの流速が高くなり、オイルがガス流に巻き込まれ吸入室へ排出されやすくなる。結果として、R134aを使用した圧縮機に比して冷凍サイクル内のオイル循環量が多くなり、冷凍能力の低下を十分に抑えることができない。
【0006】
また、ピストンとシリンダボアとの隙間からの冷媒のリーク(ブローバイ)を低減させるためにピストンリングを採用している圧縮機において、ピストンリングは圧縮効率を向上させるのに効果的であるが、シリンダボア内で圧縮される冷媒に含まれるオイルもクランク室への浸入が阻止されるため、一旦クランク室外に流出してしまったオイルをクランク室に戻すことについては大きな障害となる。このため、たとえ抽気経路の途中にオイルセパレータを設けたとしても、わずかにオイルがクランク室外に流出するために、クランク室内のオイル量がなくなり圧縮機が焼き付くという不具合が生じるおそれがある。
【0007】
一方、特許文献2には冷媒ガスの吐出通路上にオイルセパレータを設けた構成(吐出OS)が開示されている。この構成においては、吐出OSによって遠心分離されたオイルは、クランク室に供給される冷媒の量と共に制御弁によって絞られクランク室に戻されるため、高負荷時等の制御弁が閉鎖する条件においては、分離したオイルがクランク室に戻さず、特許文献1に開示される圧縮機と同様、クランク室内のオイルが不足するおそれがある。
【0008】
仮に、この制御弁に換えてオリフィスを設けることによってクランク室へのオイル戻し量を絞る構成を採用した場合、貯留部の分離オイルが全てクランク室に戻されてしまうと、吐出室の高圧ガスがこのオリフィスを経由してクランク室へ吹き抜けてしまい、性能を大きく低下させるという問題がある(特に高負荷時)。そこで高圧ガスが吹き抜けないようオリフィスの径を小さく設定すると、低負荷時等の吐出圧とクランク室の圧力差が小さい条件時には、吐出OSにより分離されたオイルが十分にクランク室に戻されず、分離オイルが貯留部から溢れて圧縮機外に流出してしまうという不都合がある。
【0009】
本願発明は、以上の点を鑑みて、オイル循環量を広範囲の運転条件にて低減し、かつクランク室内の適正オイル量を保持することのできる可変容量斜板式圧縮機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
したがって、本願発明は、ハウジング内に形成されたクランク室と、該クランク室を貫通してハウジングに回転自在に支持される駆動軸と、該駆動軸の回転に同期して揺動する斜板と、該斜板の周縁に係留され、該斜板の揺動に伴いハウジング内に固着されたシリンダブロックに形成されたシリンダボア内を往復動するピストンとを具備し、さらにハウジングの一部を構成するシリンダヘッドには吸入室及び吐出室とが形成され、前記ピストンの往復動によって前記吸入室から冷媒を吸引して吐出室に吐出すると共に、ピストンにはピストンリングが設けられ、前記ピストンのストローク量が前記斜板の傾斜角を変更することで可変される可変容量斜板式圧縮機において、前記駆動軸を貫通して前記クランク室と前記吸入室とを連通する抽気通路内に設けられた第1のオイルセパレータ機構と、前記吐出室から吐出口に至る吐出経路内に設けられた第2のオイルセパレータ機構と、前記吐出室と前記クランク室とを常時連通し、前記第2のオイルセパレータ機構によって分離されたオイルをクランク室に戻すオイル戻り経路とを設けることにある(請求項1)。
【0011】
この請求項1の発明によれば、抽気側に設けられた第1のオイルセパレータ機構(抽気OS)と吐出側に設けられた第2のオイルセパレータ(吐出OS)を併用し、この吐出OSによって分離されたオイルをクランク室に戻すオイル戻り経路を設けたことによって、ピストンリングによる高いブローバイシール性を維持しつつ、運転時のクランク室内のオイル量を適正に維持することができ、内部部品の信頼性を確保することができる。特に、抽気OSにより、クランク室から吸入室へ流出するオイルが低減されているため、吐出OSで分離・回収するオイル量を高く設定する必要がない。よってオイル戻り経路に設けたオリフィス径を小さく設定することができ、吐出室からクランク室へ流入する高圧流体(ガス・オイル)を抑えて性能の低下を最小限にすることができる。
【0012】
また、前記第1のオイルセパレータ機構(抽気OS)は、前記駆動軸の径方向に貫通して設けられる導入孔と、前記駆動軸の略中心を軸方向に延出して前記導入孔及び前記駆動軸の弁板側端部とを連通する第1の排出孔と、前記シリンダブロックを貫通して吸入室と前記第1の排出孔とを連通する第2の排出孔とによって構成されること(請求項2)が望ましい。
【0013】
請求項2の発明によれば、導入孔を径方向に貫通して設けたことによって、導入孔内のオイルの戻り流速が約1/2となるため、オイルがガス流に巻き込まれにくく、オイル分離性を向上させることができるものである。
【0014】
さらに、前記導入孔の内径を4〜7mmとし、導入孔が形成される駆動軸の部分(導入部)の外径を20mmから26mmの範囲内とすること(請求項3)が望ましい。
【0015】
これは、導入孔の内径を4mmより小さくした場合には、高速流によりオイルが排出されるおそれが生じ、7mmより大きくした場合には、駆動軸の剛性が低下するというおそれが生じるからである。
【0016】
また、駆動軸の導入部の外径を20mm以上とすることで、オイルに働く遠心力を高め、二酸化炭素でも分離性を確保できるが、26mmより大きくした場合には、クランク室内に溜められるオイル量が少なくなるという恐れが生じるからである。言い換えると、通常、適正オイル量30〜70ccであるが、駆動軸径が26mmを越えると70ccが溜められない可能性が大きくなるからである。
【0017】
前記第1の排出孔は、第2の排出孔に向けて漸次径が拡大する拡径部を具備すること(請求項4)が望ましい。また、シリンダブロックには駆動軸に形成された第1の排出孔の拡径部に突入する突入部が形成され、前記第2の排出孔はこの突入部に形成されることが望ましい。これによって、第1の排出孔の拡径部に対して、第2の排出孔は、当然に小さい径を有するように形成されるため、第1の排出孔から第2の排出孔に至る段階で、第2のオイル分離を行うことが可能となるものである。
【0018】
さらに、前記第2のオイルセパレータ機構(吐出OS)は、前記ピストンによって冷媒が押し出される吐出室から冷媒の押し出し方向に延出する第1の吐出通路と、該第1の吐出通路及び前記吐出口と連通する第2の吐出通路と、該第2の吐出通路に設けられ、前記第1の吐出通路と対峙する位置に前記第2の吐出通路に沿って延出する小径部及び該小径部から吐出口側に向かって前記第2の吐出通路に当接するように拡径する拡径部からなる分離部とを具備し、前記第2の吐出通路の吐出口の反対側端部には、前記オイル戻り経路が開口することが望ましい。尚、前記第2の吐出通路の下方には、フィルタが配されることが望ましく、さらに下方端部には、第1の集塵ポケットが形成されることが望ましい。また、集塵ポケット内には、例えば不織布のような異物捕捉手段を設けても良い。
【0019】
これによって、第1の吐出通路から排出された吐出ガスは、第2の吐出通路に配された分離部の小径部の外周を旋回し渦状になって第2の吐出通路の下方に移動し、前記分離部の小径部の内部を上昇して拡径部から吐出口へ至るため、確実にオイル分離を実行することができるものである。
【0020】
また、前記オイル戻り経路は、前記第2の吐出通路から延出する第1の戻り経路と、該第1の戻り経路に連通し、シリンダヘッドと、該シリンダヘッド及び前記シリンダブロックの間に配置される弁板、吐出弁及びシリンダガスケットと、前記シリンダブロックを貫通してクランク室に開口する第2の戻り経路とによって構成されることが望ましい。前記第1のオイル戻り経路から前記第2のオイル戻り経路に至る部分には、第2の集塵ポケットを設ける事が望ましい。
【0021】
これによって、吐出OSによって分離され第2の吐出通路の下方に溜まったオイルは、第1の戻り経路及び第2の戻り経路を経てクランク室に戻されるものである。
【0022】
さらに、前記第2の戻り経路上に、絞り手段を設けたこと(請求項5)が望ましい。また、この絞り手段は、前記第2の戻り経路の前記シリンダヘッド内又は弁板のいずれかに設けることが望ましく、特に弁板に設けることが望ましい。さらに、この前記絞り手段の等価直径は、0.15〜0.35mmの範囲内であること(請求項6)が望ましい。
【0023】
このように、絞り手段を、第2の戻り経路上の前記シリンダヘッド内又は弁板のいずれかに設けることで、高圧のオイル戻り経路の気密性が大幅に向上し、これに伴って成績係数(COP)が向上するものである。また、絞り手段の等価直径を0.15mm以上とすることで、低負荷時のオイル戻り性を向上させることができるものであり、0.35mm以下とすることで、高負荷時のガスの戻りを抑制できるので、COPの低下を抑制することができるものである。
【0024】
さらに、高圧ガスが通過する前記吐出室、前記第1の吐出通路、前記第2の吐出通路の壁面と、低圧ガスが通過する前記吸入室の壁面のうち、少なくとも1つの壁面には断熱材が配されること(請求項7)が望ましい。断熱材の材料としては、PTFE、PPS、PBT、PI、PAI等の樹脂系材料を選択することができる。また、耐熱性を考慮してグラスファイバー等の強化繊維を適宜付加するようにしても良いものである。
【0025】
これによって、高圧ガスと低圧ガスとを温度的に遮断できるため、高圧ガスのオイルによる冷却効果を防止し、また吸入ガスの過熱を防止することができるものである。さらに、低OCR時の高吐出温度を防止することができるものである。
【発明の効果】
【0026】
以上説明したように、この発明によれば、冷媒として二酸化炭素を用いた冷凍サイクルに使用され、ピストンリングを採用した容量斜板式圧縮機において、抽気OSと吐出OSとを併用し、この吐出OSによって分離されたオイルをクランク室に戻すオイル戻り経路を設けたことによって、ピストンリングによる高いブローバイシール性を維持しつつ、クランク室内のオイル量を適正に維持し、オイル循環率(OCR)を低負荷から高負荷にわたって低減することが可能になるものである。また、高低圧ガス間の熱伝導を抑制する断熱材を設けたことによって、高吐出温度を防止することができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、この発明の実施例について図面により説明する。
【0028】
冷媒として二酸化炭素を用いる冷凍サイクルの一部を構成する可変容量斜板式圧縮機1は、図1に示すように、フロントヘッド2、シリンダハウジング3及びシリンダヘッド4からなるハウジング5と、前記フロントヘッド2、シリンダハウジング3内に固着されたシリンダブロック6及びシリンダハウジング3によって画成されたクランク室7と、前記フロントヘッド2及び前記シリンダブロック6に回転自在に保持される駆動軸8と、この駆動軸8に揺動自在に保持される斜板9と、前記駆動軸8に固着され、前記斜板9に回転力を伝達するロッド10と、前記シリンダブロック6に形成されたシリンダボア11と、前記斜板9の周縁に保持され、前記斜板9の揺動運動によって前記シリンダボア11内を往復動するピストン12と、ピストン12に設けられるピストンリング13を具備する。また、前記シリンダブロック6と、前記シリンダヘッド4の間には、弁板14及びシリンダヘッドガスケット36が配され、さらにそのシリンダヘッド側には、吐出弁15が装着される。
【0029】
前記シリンダヘッド4には、吸入室16と吐出室17が形成され、吸入室16は図示しない吸入口と連通し、前記吐出室17は吐出口18と連通する。また、吐出室17とクランク室7を連絡する給気通路(図示せず)には、圧力制御弁(図示せず)が設けられている。
【0030】
以上の構成により、駆動軸8の回転に伴って回転揺動運動を行う斜板9によってピストン12がシリンダボア11に沿って往復運動し、吸入室16から吸引した冷媒を吐出室17を介して吐出口18から送出する。また、運転負荷に応じて前記制御弁の開度を調節することにより、吐出室17内の高圧ガスをクランク室7に導入してクランク室7内の圧力を調節し、斜板9の傾斜角度を適宜変化させるものである。
【0031】
以上の構成の可変容量斜板式圧縮機1において、駆動軸8には、この駆動軸8を径方向に貫通する導入孔19が形成され、さらにこの導入孔19の略中心から駆動軸8の軸方向に沿って形成された第1の排出孔20が形成される。この第1の排出孔20は、駆動軸8のシリンダブロック側に向かって拡径する拡径部21を有し、この拡径部21には前記シリンダブロック6から突出する突入部22が位置し、この突入部22の略中央には、前記第1の排出孔20に開口し、この第1の排出孔20と前記吸入室16とを連通する第2の排出孔23が形成される。これによって、前記導入孔19、第1の排出孔20及び第2の排出孔23によって抽気通路が構成され、さらに第1のオイルセパレータ機構(抽気OS)が構成される。尚、図2に示すように、前記導入孔19は、ロッド10よりもフロントヘッド2側に設けても良い。この場合は、第1の排出孔20とロッド10が干渉するため、ロッド10に連通部37を設けても良い。
【0032】
また、前記導入孔19の直径は4mm〜7mmの範囲内に設定される。4mm以上とすることで、冷媒ガスが高流速となり、オイルが分離されることなく排出されるという不具合を解消し、7mm以下とすることで、駆動軸8の剛性低下を防止するものである。また、導入孔19が形成される駆動軸8の部分(導入部)8Aは、外径を20mm以上26mm以下の範囲内に設定される。外径を20mm以上とすることで、冷媒ガスのオイルに働く遠心力を高め、冷媒ガスからのオイル分離性を向上させることができ、26mm以下とすることで、クランク室7に溜められるオイル量を確保することができるものである。通常、クランク室7内に溜められるオイルの適正量は、30〜70ccであるが、26mmを超えた場合には、70ccまで溜められない可能性が大きくなるからである。
【0033】
これにより、第1のオイルセパレータ機構(抽気OS)においては、駆動軸8の回転による遠心力によって、導入孔19から流入した冷媒ガスからオイルが分離され(第1の抽気OS)、さらに第1の排出孔20から第2の排出孔23に流入する段階で、再度オイル分離(第2の抽気OS)が実行されるものである。また、導入孔19が半径方向に貫通していることから、冷媒ガスの流速が低下し、第1の抽気OSにおけるオイル分離性を向上させることができるものである。
【0034】
また、前記シリンダヘッド4には、前記ピストン12によって冷媒が押し出される吐出室17から冷媒の押し出し方向に延出する第1の吐出通路24と、この第1の吐出通路24に対して垂直に形成され、前記吐出口18と連通する第2の吐出通路25とが形成される。また、前記第2の吐出通路25には、前記第1の吐出通路24と対峙する位置に前記第2の吐出通路25に沿って延出する小径部26及び小径部26から吐出口18側に向かって前記第2の吐出通路25に当接するように拡径する拡径部27からなる分離部28が装着固定される。これにより、前記第1の吐出通路24、第2の吐出通路25及び分離部28によって第2のオイルセパレータ機構(吐出OS)が構成されるものである。
【0035】
さらに前記第2の吐出通路25の下方には、フィルタ29が配され、さらに下方端部には第1の集塵ポケット30が形成される。また、第2のオイルセパレータ機構によって分離されたオイルは、下記するオイル戻り経路31によってクランク室7内に戻されるものである。
【0036】
以上の構成の第2のオイルセパレータ機構において、第1の吐出通路24から吐出される冷媒ガスは、前記分離部28の小径部26の外周を旋回して渦巻き状に下降してさらに小径部26の内部を上昇して前記吐出口18から吐出される。この経路において、冷媒ガスが小径部26の外周を高速で旋回しつつ、下降から上昇へと流れ方向が変化することによって冷媒ガス内に含まれるオイルが確実に分離されるものである。
【0037】
以上のように、本願発明によれば、抽気OSと吐出OSを併用することによってオイル循環率(OCR)を十分に低下させ、さらにオイル戻り経路を介して、分離されたオイルをいかなる条件のときもクランク室に戻すことができるものである。
【0038】
また、前記オイル戻り経路31は、前記第2の吐出通路25に設けられたフィルタ29の下方から前記第2の吐出通路25の長手方向に沿ってシリンダヘッド4内を延出する第1の戻り経路32と、この第1の戻り経路32から垂直にシリンダヘッド4、弁板部分(シリンダヘッドガスケット36、吐出弁15及び弁板14等を含む)、吸入弁40及びシリンダブロック6を貫通してクランク室7内に開口する第2の戻り経路33とによって構成される。また、前記第2の戻り経路33のシリンダヘッド4から弁板14に至る部分には、絞り機構35が設けられる。仮に、この絞り機構35がシリンダブロック6に設けられたとすると、その絞り機能の上流側である弁板部分には高圧(吐出圧)が作用することとなり、面接触により気密している弁板14と吸入弁40の間から、高圧ガスが漏れてしまう。本願発明の構成によれば、吸入弁40の上流側に絞り機構35が設けられているので、メタルコンタクト部の圧力は低圧になり、気密性を維持することができる。特に、この絞り機構35を弁板14に設けることが絞り機構35の形成を容易にするものであり、特にレーザー加工で行うことが望ましい。また、前記第1の戻り経路32と第2の戻り経路33の間には、第2の集塵ポケット34が形成されるものである。
【0039】
また、前記絞り機構35の等価直径は、0.15mm〜0.35mmの範囲内に設定される。図4に示されるように、等価直径を0.15mm以上とすることで、低負荷時にオイルが十分戻らず圧縮機外に流出してしまうという不具合を解消し、0.35mm以下とすることで、高負荷時にクランク室にガスが吹き抜けて成績係数(COP)が低下するという不具合を解消する。
【0040】
本願発明に係る構成(抽気OS+ピストンリング+吐出OS+オイル戻しの絞り機構:0.27mm)を採用したところ、低負荷条件から高負荷条件に亘ってOCRが0.5(%)以下となり、抽気OSのみの場合の4.5〜5.7%に比して高いオイル分離効果が得られた。COPの向上率は、中低負荷条件において25%に達した。
【0041】
ところで、冷凍サイクル内を循環するオイルは、冷凍サイクル中で熱交換を阻害して冷凍能力を低下させるという問題を有する一方で、シリンダボアで圧縮され高圧・高温となった冷媒ガスから熱を奪い、吐出ガスの温度上昇を抑えるという好ましい効果も持っている。よってオイルセパレータによって冷凍サイクルを循環するオイルを低減した結果、吐出ガスの温度が上昇し、その吐出ガスの熱が吸入ガスに伝導して、吸入ガスの密度が小さくなり体積効率を低下させてしまう恐れがある。
【0042】
しかしながら、本願発明に係る容量斜板式圧縮機1においては、さらに、高圧側となる吐出室17、第1の吐出通路24及び第2の吐出通路25の周壁に断熱材38を配し、さらに低圧側となる吸入室16の周壁にも断熱材38を配している。
【0043】
これによって、高圧側を通過する高圧・高温の冷媒ガスと、低圧側を通過する低圧・低温の冷媒ガスとの熱伝導を遮断することができるため、吸入ガスの過熱を防止できるため、体積効率の低下を防止でき、さらに図3で示すように、低OCR時の高吐出温度を防止することができるものである。断熱材38の材質として、PTFE、PPS、PBT、PI、PAI等の樹脂系材料を選択することができる。また、耐熱性を考慮してグラスファイバー等の強化繊維を適宜添加しても良いものである。尚、図3において、一点鎖線で示す特性線は、断熱材なしの場合の圧縮機の回転速度と吐出温度Tdの関係を示すものであり、点線で示す特性線は、吐出側のみに断熱材(PBT)を配した場合の圧縮機の回転速度と吐出温度Tdの関係を示すものであり、実線で示す特性線は、高圧側及び低圧側に断熱材を配した場合の圧縮機の回転速度と吐出温度Tdの関係を示すものである。このように、高圧側若しくは低圧側のみに断熱材を設けて、高圧側と低圧側の熱伝導を遮断するようにしても相応の効果を得ることができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本願発明の実施例に係る容量斜板式圧縮機の概略を示した断面図である。
【図2】シャフト部分の別の形態を示した一部拡大断面図である。
【図3】本願発明に係る容量斜板式圧縮機の回転速度と吐出温度との関係を示した特性線図である。
【図4】絞り機構の等価直径とCOPの関係を示した特性線図である。
【符号の説明】
【0045】
1 可変容量斜板式圧縮機
2 フロントヘッド
3 シリンダハウジング
4 シリンダヘッド
5 ハウジング
6 シリンダブロック
7 クランク室
8 駆動軸
9 斜板
10 ロッド
11 シリンダボア
12 ピストン
13 ピストンリング
14 弁板
15 吐出弁
16 吸入室
17 吐出室
18 吐出口
19 導入孔
20 第1の排出孔
21 拡径部
22 突入部
23 第2の排出孔
24 第1の吐出通路
25 第2の吐出通路
26 小径部
27 拡径部
28 分離部
29 フィルタ
30 第1の集塵ポケット
31 オイル戻り経路
32 第1のオイル戻り経路
33 第2のオイル戻り経路
34 第2の集塵ポケット
35 絞り機構
36 シリンダヘッドガスケット
37 連通部
38 断熱材
40 吸入弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジング内に形成されたクランク室と、該クランク室を貫通してハウジングに回転自在に支持される駆動軸と、該駆動軸の回転に同期して揺動する斜板と、該斜板の周縁に係留され、該斜板の揺動に伴いハウジング内に固着されたシリンダブロックに形成されたシリンダボア内を往復動するピストンとを具備し、さらにハウジングの一部を構成するシリンダヘッドには吸入室及び吐出室とが形成され、前記ピストンの往復動によって前記吸入室から冷媒を吸引して吐出室に吐出すると共に、ピストンにはピストンリングが設けられ、前記ピストンのストローク量が前記斜板の傾斜角を変更することで可変される可変容量斜板式圧縮機において、
前記駆動軸を貫通して前記クランク室と前記吸入室とを連通する抽気通路内に設けられた第1のオイルセパレータ機構と、
前記吐出室から吐出口に至る吐出経路内に設けられた第2のオイルセパレータ機構と、
前記吐出室と前記クランク室とを常時連通し、前記第2のオイルセパレータ機構によって分離されたオイルをクランク室に戻すオイル戻り経路とを設けることを特徴とする可変容量斜板式圧縮機。
【請求項2】
前記第1のオイルセパレータ機構は、前記駆動軸の径方向に貫通して設けられる導入孔と、前記駆動軸の略中心を軸方向に延出して前記導入孔及び前記駆動軸のシリンダヘッド側端部とを連通する第1の排出孔と、前記シリンダブロックを貫通して吸入室と前記第1の排出孔とを連通する第2の排出孔とによって構成されることを特徴とする請求項1記載の可変容量斜板式圧縮機。
【請求項3】
前記導入孔の内径を4〜7mmとし、導入孔が形成される駆動軸の部分の外径を20mmから26mmの範囲内とすることを特徴とする請求項2記載の可変容量斜板式圧縮機。
【請求項4】
前記第1の排出孔は、第2の排出孔に向けて漸次径が拡大する拡径部を具備することを特徴とする請求項2又は3記載の可変容量斜板式圧縮機。
【請求項5】
前記オイル戻り経路上に、絞り手段を設けたことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載の可変容量斜板式圧縮機。
【請求項6】
前記絞り手段の等価直径は、0.15〜0.35mmの範囲内であることを特徴とする請求項5記載の可変容量斜板式圧縮機。
【請求項7】
高圧ガスが通過する前記吐出室、前記第1の吐出通路、前記第2の吐出通路の壁面と、低圧ガスが通過する前記吸入室の壁面のうち、少なくとも1つの壁面には断熱材が配されることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1つに記載の可変容量斜板式圧縮機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−77807(P2010−77807A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−243490(P2008−243490)
【出願日】平成20年9月24日(2008.9.24)
【出願人】(500309126)株式会社ヴァレオサーマルシステムズ (282)
【Fターム(参考)】