説明

可変減衰力ダンパ及びその製造方法

【課題】横力等の偏った力が作用している状態での動作精度の低下が抑制されると共に、優れた耐久性を有する可変減衰力ダンパ及びその製造方法を提供する。
【解決手段】可変減衰力ダンパ10は、磁性流体(MRF)が充填されるシリンダチューブ12と、シリンダチューブ12の内部に摺動自在に配置されるピストン16と、ピストン16に連結されると共にシリンダチューブ12の一端から突出するように配置されるピストンロッド13と、シリンダチューブ12の一端を閉塞すると共にピストンロッド13を摺動自在に支持するロッドガイド19とを具備する。ロッドガイド19を、所定の基材部31と、基材部31の表面に設けられた熱処理されたフッ素樹脂含有Niめっき膜32とを有する構造とし、ピストンロッド13をフッ素樹脂含有Niめっき膜32に対して摺動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は可変減衰力ダンパに関し、例えば、車両等の振動を減衰させるために用いられる可変減衰力ダンパ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉱物油等のオイルを分散媒としてこれに分散質として真球状で平均粒径が数μm程度の強磁性を有する微粒子(以下「磁性粒子」という)を分散させた磁気粘性流体(MRF;Magneto-Rheological Fluid)を作動流体として用いた可変減衰力ダンパ(以下「MRFダンパ」という)が知られている。
【0003】
MRFは、磁場の影響を受けていないときは一般的な油圧作動油と同様に液状であり、ニュートン流体としての挙動を示すが、外部から磁場が加えられたときには、MRF中に均一に分散していた磁性粒子が磁場方向に沿って連結し、鎖状のクラスタを形成する。このクラスタが変形(流れ)に対して抵抗するために、見かけの粘度が急激に大きくなり、流動時には降伏応力を有する塑性流体の挙動を示す。MRFの磁場によるこのような粘性変化は可逆的である。また、磁場の強さを調節することによりMRFの粘度をどの程度変化させるかを調節することができる。このMRFの状態変化は極めて高速で生じ、磁場の変化に対する応答性は、数ミリ秒のレベルである。
【0004】
このMRFを用いたMRFダンパは、一般的に、MRFが充填されたシリンダチューブの内部がピストンによって第1油室(第1の室)と第2油室(第2の室)とに画成され、ピストンにピストンロッドが連結され、このピストンロッドをシリンダチューブの一端から突出させると共に、シリンダチューブの一端を閉塞するように配置されたロッドガイドがピストンロッドを摺動自在に支持した構造を有している。
【0005】
ピストンには、第1油室と第2油室との間でMRFが流通できるように連通孔が設けられており、この連通孔内のMRFに磁場を印加する電磁コイルがそのピストンに内蔵される。電磁コイルへの通電によって連通孔内のMRFに磁場を印加し、その際の磁場の大きさを制御することによってMRFの粘性を変化させて、可変減衰力を得る。
【0006】
このようにしてMRFダンパを駆動させる際には、シリンダチューブとピストンとが摺動するだけでなく、ピストンロッドとロッドガイドとが摺動する。そのため、ピストンロッドとロッドガイドとの摺動抵抗(摩擦力)を小さく抑えると共に、ピストンロッド側とロッドガイド側の双方の摺動面の摩耗を抑える技術が必要とされる。
【0007】
そこで、従来、ピストンロッドとロッドガイドとの間にシール材兼潤滑材として機能する金属ブシュを配置している(例えば、特許文献1参照)。より詳しくは、金属ブシュとして、非磁性金属からなる基材の内周面に青銅からなる多孔質層を設け、この多孔質層にフッ素樹脂を含浸させた構造を有するものを用い、このフッ素樹脂含浸層をピストンロッドと摺動させている。なお、MRFダンパでは、前記したように、ピストンに設けられた連通孔内のMRFに磁場を印加し、磁場が印加されたMRFの粘性を変化させることで可変減衰力を得るため、連通孔内以外の部分ではMRFに磁場が働かないようにする必要がある。そのため、金属ブシュの基材として非磁性金属が用いられる。
【特許文献1】特表2000−514161号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、MRFダンパが用いられる車両等では、頻繁に横力等の偏った力が作用した状態でMRFダンパを駆動させる状況が生じる。このような状況下では、金属ブシュのフッ素樹脂含浸層は軟らかいために摩耗が加速されてしまい、耐久性の点で問題がある。また、MRFに含まれる磁性粒子は極めて小さいために、金属ブシュのフッ素樹脂含浸層が摩耗すると、ピストンロッドとロッドガイドとの隙間に磁性粒子が侵入し、この磁性粒子によってフッ素樹脂含浸層の摩耗が加速されてしまうという問題がある。
【0009】
そこで、このような問題を解決する方法として、ロッドガイド側の摺動面に、硬質アルマイトにテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂を含浸させた材料(以下「フッ素樹脂含有硬質アルマイト」という)を用いることが考えられる。このフッ素樹脂含有硬質アルマイトは、金属ブシュのフッ素樹脂含浸層に比べて高硬度であるため、耐摩耗性に優れており、しかも、フッ素樹脂を含有しているために硬質アルマイトに比べて摺動抵抗が小さいという特性を備えている。
【0010】
しかしながら、フッ素樹脂含有硬質アルマイトには、大きな力で押圧された状態での摺動抵抗が比較的大きな値を示すという問題のあることが、発明者らの検討により明らかとなった。そのため、ピストンロッドとの摺動面にフッ素樹脂含有硬質アルマイトが設けられたロッドガイドを用いて構成されたMRFダンパでは、所望の減衰力を得るためにMRFダンパに駆動信号(具体的には、電磁コイルへ流す電流の大きさであり、以下、この駆動信号を「入力信号」という)が入力された際に、MRFダンパに横力等の偏った力が作用している状態になっていると、ピストンロッドとロットガイドとの摺動抵抗が大きくなっているために、目標とする減衰力を出力する際に、精度が低下するおそれがある。また、ピストンロッドとロットガイドとの摺動抵抗が大きくなることによって、ピストンロッド側とロッドガイド側の双方の摺動面で摩耗が進行しやすくなり、これによってピストンロッドの支持状態にガタつきが生じたり、MRFの漏れが生じやすくなったりする等、耐久性を低下させる種々の問題を発生させる。
【0011】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、横力等の偏った力が作用している状態での動作精度の低下が抑制されると共に、優れた耐久性を有する可変減衰力ダンパ及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る可変減衰力ダンパは、磁性粒子を含む作動流体が充填されるシリンダチューブと、前記シリンダチューブの内部に摺動自在に配置されるピストンと、前記ピストンに連結されると共に前記シリンダチューブの一端から突出するように配置されるピストンロッドと、前記シリンダチューブの前記一端を閉塞すると共に前記ピストンロッドを摺動自在に支持するロッドガイドと、を具備する可変減衰力ダンパであって、前記ロッドガイドは、リンとフッ素樹脂を含有し、加熱処理された無電解ニッケルめっき膜を、前記ピストンロッドとの摺動面に備えていることを特徴とする。
【0013】
前記ロッドガイドは、ロッドガイドを構成する所定の基材部において前記ピストンロッドと摺動することになる面に、無電解ニッケルめっき処理によりリンとフッ素樹脂とを含有した無電解ニッケルめっき膜を成膜する無電解ニッケルめっき工程と、前記無電解ニッケルめっき工程により成膜された無電解ニッケルめっき膜に加熱処理を施す加熱処理工程とを経て、製造される。なお、リンとフッ素樹脂とを含有する無電解ニッケルめっき膜は、次亜リン酸の還元作用を利用する無電解ニッケルめっき液にフッ素樹脂を添加しためっき液を用いることにより形成することができ、ニッケルの析出時にリンとフッ素樹脂とが共析する。
【0014】
本発明に係る可変減衰力ダンパは、フッ素樹脂を含有した無電解ニッケルめっき膜によってロッドガイド側の摺動面の摩擦係数を小さくすることにより、ピストンロッドとロッドガイドとの摺動抵抗を小さくしているため、横力等の偏った力が作用している状態での入力信号に対する動作精度の低下を抑制することができる。
【0015】
本発明に係る可変減衰力ダンパにおいて、ロッドガイドに設けられる無電解ニッケルめっき膜のビッカース硬度は360VHN以上であることが好ましい。換言すれば、無電解ニッケルめっき膜の加熱処理工程の処理条件を、無電解ニッケルめっき膜のビッカース硬度が360VHN以上となるように設定する。こうして、耐摩耗性を向上させることができる。
【0016】
本発明に係る可変減衰力ダンパでは、前記ロッドガイドは、アルミニウム又はアルミニウム合金(以下、適宜、「Al合金等」という)からなる基材部を有し、前記基材部の所定の表面に前記無電解ニッケルめっき膜が設けられ、前記ピストンロッドが前記無電解ニッケルめっき膜に対して摺動する構成になっていることが好ましい。
【0017】
このようにロッドガイドの基材部にAl合金等を用いることによって、可変減衰力ダンパを横力等の偏った力を受けた状態で駆動する際には、ピストンロッドから応力を受けたロッドガイド(基材部)が微小に弾性変形することによってその応力が緩和されると共に、ピストンロッドとロッドガイドとの面接触状態が維持されることによってピストンロッドとロッドガイドとの摺動抵抗の上昇が抑制される。こうして、可変減衰力ダンパへの入力信号に対する動作精度の低下が抑えられ、ピストンロッド側とロッドガイド側の双方の摺動面の摩擦摩耗(特に、局所的に摩擦力が大きくなることによる偏った摩耗の発生)も抑制される。なお、Al合金等は、安価で加工性に優れているため、形状精度に優れたロッドガイドを高い生産性で安価に製造することができるという利点もある。
【0018】
本発明に係る可変減衰力ダンパでは、ロッドガイドの基材部にAl合金を用いることが好ましく、その場合には、Al以外の合金成分(以下「合金成分」という)が析出している状態になっていることが好ましい。ロッドガイドの基材部にAl合金を用いることにより、構造部品として所望される硬度や降伏点、引張強度等の機械的特性をバランスよく得ることが容易となる。また、合金成分が析出している状態となっていることで、Al合金を構成する各種の金属原子の転位による移動が抑制され、機械的特性を維持することができる。一方で、前記した通り、無電解ニッケルめっき膜は所定のビッカース硬度となるように加熱処理されるため、この加熱処理によって、Al合金における合金成分の析出状態ができる限り変わらないように、Al合金の組成等と加熱処理条件(温度、時間等)とのバランスを取ることが好ましい。また、Al合金において析出していた合金成分が、無電解ニッケルめっき膜の加熱処理工程によってAlに固溶した状態にならないようにすることが好ましい。
【0019】
本発明に係る可変減衰力ダンパにおいては、無電解ニッケルめっき膜を、基材部の表面に形成されたリンを含有する第1無電解ニッケルめっき層と、この第1無電解ニッケルめっき層の表面に形成されたリンとフッ素樹脂とを含有する第2無電解ニッケルめっき層とを有する2層構造とし、第1無電解ニッケルめっき層の硬度を第2無電解ニッケルめっき層の硬度よりも大きくすることも好ましい。
【0020】
これにより、可変減衰力ダンパの使用初期においては、第2無電解ニッケルめっき層とピストンロッドとが摺動するため、ピストンロッドとロッドガイドとの摺動抵抗を小さくすることができる。経時的に使用によって第2無電解ニッケルめっき層が減摩すると、ピストンロッドとロッドガイドとのクリアランスが拡がるために摺動抵抗が小さくなるが、このときに、第2無電解ニッケルめっき層よりも高い硬度を有する第1無電解ニッケルめっき層とロッドガイドとが摺動することで、第1無電解ニッケルめっき層の摩耗を抑制することができる。こうして優れた耐久性が得られる。
【0021】
本発明に係る可変減衰力ダンパでは、シリンダチューブ外への作動流体の漏洩を防止するためにロッドガイドにシール部材を設けることが好ましい。このシール部材は、シリンダチューブの軸芯方向において、無電解ニッケルめっき膜よりもピストン側に設けることが好ましい。これにより、ロッドガイドとピストンロッドとの摺動面に入り込む磁性粒子の数を低減して、ロッドガイド側とピストンロッド側の双方の摺動面の摩耗を抑制することができる。
【0022】
また、本発明に係る可変減衰力ダンパでは、ピストンロッド側の摺動面に、厚さが10μm以上、かつ、表面粗さがRz値で0.1〜1.5である無電解ニッケルめっき膜又はクロムめっき膜を設けることが好ましい。ピストンロッドの表面を平滑にすることにより、ピストンロッドとロッドガイドとの間に入り込む磁性粒子を減らすことができ、摺動面の摩耗を抑制することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係る可変減衰力ダンパは、ロッドガイドにおいてピストンロッドと摺動する摺動面にフッ素樹脂を共析させた摩擦係数の小さい無電解ニッケルめっき膜を設けることにより、横力等の偏った力が作用した状態でも、ロッドガイドとピストンロッドとの摺動抵抗の上昇が抑制されるため、入力信号に対する動作精度の低下が抑制されると共に、ロッドガイド側とピストンロッド側の双方の摺動面の摩耗を抑制することができる。また、ロッドガイドの基材部にAl合金等を用いることにより、横力等の偏った力によってピストンロッドがロッドガイドを押圧した状態になったときには、Al合金等の弾性変形によりその応力が緩和され、これによってロッドガイドとピストンロッドとの摺動抵抗の上昇を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
《可変減衰力ダンパの全体構造》
図1に本発明の一実施形態に係る可変減衰力ダンパの概略構造を表した断面図を示す。この可変減衰力ダンパ10は、所謂、モノチューブ式(ド・カルボン式)の構造を有しており、磁性粒子をオイル等に分散させたMRF(磁気流体又は磁気粘性流体)が充填された円筒状のシリンダチューブ12と、シリンダチューブ12の軸芯方向(長手方向)にスライド自在なピストンロッド13と、ピストンロッド13の先端に装着され、シリンダチューブ12内を第1油室(第1の室)14と第2油室(第2の室)15とに画成するピストン16と、第2油室15と高圧ガス室17を画成するフリーピストン18と、を備えている。
【0025】
シリンダチューブ12の一端には、シリンダチューブ12の開口を閉塞するロッドガイド19が設けられている。ロッドガイド19は略円筒形状を有しており、ピストンロッド13はロッドガイド19の中心孔に挿通されて支持されており、ピストンロッド13の外周面(ピストンロッド13側の摺動面)とロッドガイド19の内周面(ロッドガイド19側の摺動面)とが摺動する。また、ロッドガイド19には、MRFの外部への漏洩を防止するためのパッキン26が設けられている。ピストンロッド13とロッドガイド19の各構造については、後に詳細に説明する。
【0026】
シリンダチューブ12の他端には、アイピース12aが設けられている。例えば、可変減衰力ダンパ10を車両のサスペンションに用いる場合には、アイピース12aに図示しないボルトが挿入され、そのボルトが車輪側部材であるトレーリングアームと連結される。また、ピストンロッド13の図示しない端部が車体側部材であるダンパベース(ホイールハウス上部)に連結される。車両走行中には、ピストン16とフリーピストン18のそれぞれの外周面がシリンダチューブ12の内周面に対して摺動することにより、車輪側から車体側へ伝達される振動が減衰される。
【0027】
ピストン16は、第1油室14と第2油室15とを連通させる連通孔21と、連通孔21内のMRFに磁場を印加する電磁コイル22を備えている。電磁コイル22に接続されている給電線23を用いて電磁コイル22へ電流が供給される。この給電線23は、ピストンロッド13の内部を通して外部に取り出されており(その状態は図示せず)、所定の図示しない制御電源に接続される。この制御電源から給電線23を通して電磁コイル22に電流が供給されると、連通孔21を流通するMRFに磁場が印可されて、MRFに含まれる磁性粒子が鎖状クラスタを形成し、連通孔21内を通過するMRFの見かけ上の粘度を増大させる。MRFに印加する磁場の大きさを制御することにより、減衰力を可変に制御することができる。
【0028】
<ロッドガイド−第1実施形態>
図2にロッドガイド(第1実施形態)に係る構造を表した断面図を示す。ここで、図2(a)はピストンロッド13の軸芯を含む垂直一部断面図であり、図2(b)は図2(a)のA−A断面図であり、各図にはピストンロッド13の構造を併記している。図2に示すロッドガイド19は、略円筒状の基材部31の内周面(中心孔の表面)に、フッ素樹脂を含有した無電解ニッケルめっき膜32が形成された構造を有している。なお、以下において、「ニッケルめっき」は「Niめっき」と記し、「フッ素樹脂を含有した無電解ニッケルめっき膜32」は「フッ素樹脂含有Niめっき膜32」と記す。
【0029】
[基材部]
前記したように、可変減衰力ダンパ10では、連通孔21内のMRFの粘度を電磁コイル22による磁場の印加によって変化させることで可変減衰力を得る。そのため、連通孔21以外の部分では、MRFに磁場を与えないようにする必要がある。そこで、ロッドガイド19は非磁性材料(強磁性ではない物質)で構成されている必要がある。また、基材部31には、構造部品として所望される機械的特性(例えば、ビッカース硬度、降伏点、引張強度等)を備えていることが要求される。
【0030】
そのため、基材部31としては、Al合金等(アルミニウム及びアルミニウム合金)やステンレス等の各種非磁性金属材料が好適に用いられる。本発明においては、基材部31として特にAl合金等を用いることが好ましい。Al合金等を用いたロッドガイドについては、後に《ロッドガイド−第2実施形態》として説明する。
【0031】
[フッ素樹脂含有Niめっき膜]
フッ素樹脂としては、四フッ化エチレン樹脂(PTFE)等が好適に用いられる。フッ素樹脂含有Niめっき膜32は、フッ素樹脂を含まない無電解Niめっき膜よりも摩擦係数が小さいため、ピストンロッド13とロッドガイド19との摩擦力が小さくなり、摺動抵抗を小さくすることができる。そのため、ピストンロッド13に横力等が作用し、ピストンロッド13がロッドガイド19に押しあてられている状態であっても、ピストンロッド13とロッドガイド19との摺動抵抗の上昇が抑えられ、入力信号に対する動作精度の低下が小さく抑えられる。
【0032】
フッ素樹脂含有Niめっき膜32の硬度は、ピストンロッド13とロッドガイド19との間の隙間に磁性粒子が侵入した際に、磁性粒子に対して実効的な耐摩耗性が得られるように、ビッカース硬度で360VHN以上であることが好ましい。フッ素樹脂含有Niめっき膜32の厚さは、可変減衰力ダンパ10の大きさや耐用期間等によって異なるが、10μm以上とすることが好ましい。
【0033】
[ロッドガイドの製造方法と製造条件]
図3にロッドガイドの製造方法を表したフローチャートを示す。ロッドガイド19は、基材部31を成形する基材部作製工程(S1)、基材部作製工程(S1)で成形した基材部31においてピストンロッド13と摺動することになる面に無電解Niめっき処理によりフッ素樹脂含有Niめっき膜32(熱処理前)を成膜する無電解Niめっき工程(S2)、無電解Niめっき工程(S2)により成膜されたフッ素樹脂含有Niめっき膜32(熱処理前)に加熱処理を施す加熱処理工程(S3)を経て製造される。
【0034】
基材部作製工程(S1)は、例えば、所定の金属鋳塊(又は円柱状の条鋼材)を機械加工等により所望の円筒形状に加工することにより行われる。次に行われる無電解Niめっき工程(S2)は、次亜リン酸の還元作用を利用する無電解Niめっき液に適量のフッ素樹脂を添加、混合して調製されためっき液を用いて行われ、Niを析出させる際にリンとフッ素樹脂を共析させる。このような無電解Niめっき処理によれば、目標膜厚±3μm程度の均一な膜厚のフッ素樹脂含有Niめっき膜32(熱処理前)を成膜することができる。そのため、無電解Niめっき工程(S2)の後に、フッ素樹脂含有Niめっき膜32の厚さをホーニング加工等の研磨加工により調整する必要がない。また、無電解Niめっき処理によれば、成膜されたフッ素樹脂含有Niめっき膜32の表面粗さを小さく抑えることができるために、表面研磨を行う必要もない。こうして、生産コストを低く抑えることができる。
【0035】
無電解Niめっき工程(S2)により形成されたフッ素樹脂含有Niめっき膜32(熱処理前)は非晶質であり、その硬度は高いものではない。そこで、加熱処理工程(S3)によって、フッ素樹脂含有Niめっき膜32(熱処理前)を非晶質から結晶質へと変化させることにより、その硬度を高める。ここで、「結晶質へと変化させる」とは、「NiPの結晶相を形成すること」をいう。加熱処理条件は、例えば、NiPの結晶相が形成され、かつ、フッ素樹脂が溶融してフッ素樹脂含有Niめっき膜32から溶出したり、凝集等したりしない範囲で定めればよい。こうして、NiPの結晶相とフッ素樹脂とが均一に分散した微構造を有し、硬度が高められたフッ素樹脂含有Niめっき膜32(熱処理後)を得ることができる。なお、加熱処理工程(S3)においては基材部31も同時に加熱されることになるため、基材部31に用いられている材料の熱的特性(融点、加熱による機械的特性の変化等)を考慮して、加熱処理工程(S3)での熱処理温度を決める必要がある。加熱処理工程(S3)は、例えば、約300℃で約1時間行われる。
【0036】
<パッキン>
ロッドガイド19のピストン16側には、MRFのシリンダチューブ12外部への漏洩を防止するためのシール部材として、パッキン26が配置されている。パッキン26はゴム系高分子材料からなり、シリンダチューブ12の軸芯方向において、フッ素樹脂含有Niめっき膜32よりもピストン16側に設けることが好ましい。これにより、ロッドガイド19とピストンロッド13との摺動面への磁性粒子の侵入を防止することができ、ロッドガイド19とピストンロッド13の双方の摺動面の摩耗を抑制することができる。
【0037】
<ピストンロッド>
ピストンロッド13は、図2に示されるように、ロッド母材25の表面に、無電解Niめっきにより成膜されたNiめっき膜24が形成された構造を有している。したがって、可変減衰力ダンパ10では、ロッドガイド19に形成されているフッ素樹脂含有Niめっき膜32とピストンロッド13に形成されているNiめっき膜24とが摺動する。なお、ピストンロッド13の製造方法について、そのフローチャートは図示しないが、ロッドガイド19と同様に、ロッド母材25の作製、無電解Niめっき工程、加熱処理工程を経て製造され、ここでの無電解Niめっき工程においては、次亜リン酸の還元作用を利用する無電解Niめっき液が好適に用いられる。
【0038】
ロッド母材25としては、Al合金等の非磁性材料が好適に用いられる。Niめっき膜24は、厚さが10μm以上かつ、表面粗さがRz値で0.1〜1.5(Ra値で、0.01〜0.15)であることが好ましい。無電解Niめっき処理によれば、均一な膜厚のNiめっき膜24を成膜することができるために、ピストンロッド13の製造工程において、無電解Niめっき処理後に真円加工を行う必要はない。また、加熱処理により高硬度とすることができるために、耐摩耗性を向上させることができる。さらに、無電解Niめっき処理によれば、表面粗さの小さい平滑な表面が形成されるために、研磨加工を必要とせず、表面の凹凸に起因してロッドガイド19とピストンロッド13との摺動面に磁性粒子が侵入することを抑制することができる。したがって、このようなピストンロッド13の使用は、ロッドガイド19の耐久性の向上に大きく寄与する。
【0039】
なお、Niめっき膜24の硬度は、ビッカース硬度で800VHN以上であることが好ましく、これにより極めて高い耐摩耗性(耐久性)が得られる。また、ピストンロッド13には、Niめっき膜24に代えて、同等の性状と特性を有するクロム(Cr)めっき膜を形成してもよい。Crめっき膜は電解めっきにより形成することができる。Crめっきでは、無電解Niめっきのような膜厚均一性は得られ難いことから、通常、所望の膜厚と表面粗さとするために研磨加工等が行われる。
【0040】
<ロッドガイド−第2実施形態>
図4にロッドガイド(第2実施形態)の構造を表した断面図を示す。図4は図2と同様に描かれており、図4(a)はピストンロッドの軸芯を含む垂直断面図であり、図4(b)は図4(a)のA−A断面図である。図4に示すロッドガイド19Aは、略円筒状の基材部31の内周面(中心孔の表面)に、無電解Niめっきにより成膜されたNiめっき膜32Aを備えた構造を有している。
【0041】
[基材部]
ロッドガイド19Aの基材部31にはAl合金等(すなわち、純Al又はAl合金)が用いられる。純Alは不可避不純物を含む。また、Al合金は、Alを主成分とし、銅(Cu),マンガン(Mn),ケイ素(Si),マグネシウム(Mg),亜鉛(Zn),ニッケル(Ni)等の合金成分と、不可避不純物とを含む。基材部31としてAl合金等を用いる利点の1つとして、Al合金等は安価でしかも易加工性であるため、所望する形状のものを高精度で容易に製造することができ、したがって生産性に優れるということが挙げられる。基材部31としては、所望される機械的特性のバランスがよいAl合金が好適に用いられ、具体的には、JIS A6061 T6系のAl合金を用いることができる。
【0042】
基材部31としてAl合金等を用いる別の利点としては、可変減衰力ダンパ10に横力等の偏った力が作用しているときに、Al合金等の変形(弾性変形)を利用して、ロッドガイド19Aとピストンロッド13との接触面における面圧の上昇を抑制して、摺動抵抗の上昇を抑制することができるということが挙げられる。
【0043】
この効果について、図5を参照して説明する。なお、適宜、図2を参照する。図5(a),(b)は共に、横力により相対的にピストンロッドがその径方向でロッドガイドに局所的に押し付けられた状態を模式的に示しており、図5(a)はロッドガイドの基材部のヤング率が大きい場合(本発明に属さない比較例)を示し、図5(b)はロッドガイドの基材のヤング率が小さい場合(本発明に属する実施例)を示している。図5(a),(b)では、ロッドガイドの基材が奏する効果を示すために、ロッドガイドとして基材部のみからなるものを図示しており、ピストンロッドについても、その構造を簡略化して図示している。なお、図5では各構成要素に符号を付さない。
【0044】
ピストンロッドに横力Fが作用していない状態(図2参照)では、実質的に、ピストンロッドの軸芯とロッドガイドの中心孔の軸芯とは一致しており、この状態でのピストンロッドとロッドガイドの摺動面の面圧(以下「通常状態での面圧」という)には、ばらつきが少ないと考えてよい。
【0045】
しかし、図5(a)、(b)に示されるように、ピストンロッドに横力Fが作用すると、ピストンロッドは径方向に動く。ここで、ロッドガイドは動かないものとすると、ピストンロッドの外周面の一部〔帯状でその長手方向がピストンロッドの軸芯方向に平行な領域(以下「押圧領域」という)〕がロッドガイドの内周面の一部に強く押しあてられた状態となる。
【0046】
このとき、ロッドガイドの基材部が外力に対して変形しにくい材料〔ヤング率が大きい材料(例えば、ステンレス鋼等)〕からなる場合には、図5(a)に示されるように、基材部が変形しないためにロッドガイドはピストンロッドからの押圧力Fを狭い押圧領域で受けることとなり、この押圧領域の面圧Fは、通常状態の面圧よりも極めて大きくなり、ピストンロッドとロッドガイドとの摺動抵抗が大きくなる。このような状態では、大きくなった摺動抵抗に起因して、入力信号(電磁コイル22への電流の入力)に対する動作精度が低下する。また、ピストンロッド側とロッドガイド側の双方において、押圧領域での摩耗が進行しやすくなる。
【0047】
これに対して、金属材料の中ではヤング率が小さい方の部類に属するAl合金等で基材部を構成した場合には、図5(b)に示すように、ロッドガイドにおいてピストンロッドに押圧されている部分が弾性変形する(凹む)ことによって、押圧力の緩和と押圧領域の拡大が生じるために、押圧領域の面圧Fは無変形状態での面圧Fよりも小さくなる。そのため、図5(b)の構成の場合には、図5(a)の構成の場合よりも、ピストンロッドとロッドガイドとの摺動抵抗の上昇が抑えられ、入力信号に対する動作精度の低下を小さく抑えることができると共に、ピストンロッドとロッドガイドの双方において、押圧領域での摩耗の進行を抑制することができる。なお、図5(b)に示す基材部の変形は、弾性変形であるから、横力F(ピストンロッドからの押圧力)が解除された際には、元の状態に戻る。
【0048】
一般的に、Alのヤング率は合金化によって大きくなり、ヤング率が大きくなると前記した弾性変形による押圧領域の面圧上昇を抑制する効果は小さくなる。一方で、ロッドガイド19Aにはピストンロッド13を支持するための機械的特性が要求される。したがって、基材部31に用いるAl合金等の選定にあたっては、これらのバランスを考慮することが好ましい。
【0049】
[Niめっき膜]
ロッドガイド19Aの基材部31をAl合金等で構成した場合に、基材部31とピストンロッド13とを直接に摺動させると、Al合金等は硬度が小さいために摩耗しやすく、特に、ピストンロッド13とロッドガイド19Aとの間にMRFに含まれる磁性粒子(鉄粉)が入り込んだときに、ロッドガイド19A側の摺動面の摩耗が加速されるおそれがある。ロッドガイド19A側の摺動面の摩耗が進行すると、ピストンロッド13とロッドガイド19Aとの間に磁性粒子がさらに侵入しやすくなって、ロッドガイド19A側の摺動面の摩耗が加速されるおそれがある。
【0050】
また、ロッドガイド19A側の摺動面の摩耗が進んで、ピストンロッド13とロッドガイド19Aとの間のクリアランスが拡がると、可変減衰力ダンパ10の駆動時にピストンロッド13がガタつく(ぶれる)おそれが生じる。ピストンロッド13のガタつきは、ピストンロッド13とロッドガイド19Aとの摺動面の接触を不安定なものにし、偏摩耗を発生させる原因となる。また、ピストン16の軸芯方向がシリンダチューブ12の軸芯方向に対して一定角度で交差した状態でピストン16がシリンダチューブ12に対して摺動しやすくなるため、ピストン16とシリンダチューブ12に偏摩耗が生じやすくなり、減衰力の制御精度や耐久性の低下が引き起こされるおそれがある。
【0051】
そこで、基材部31にAl合金等を用いることによって前記したピストンロッド13とロッドガイド19Aとの摺動面の面圧上昇を抑制する効果を損なうことなくロッドガイド19A側の摺動面の耐摩耗性を向上させるために、Niめっき膜32Aがロッドガイド19Aの内壁面(中心孔の壁面)に設けられる。Niめっき膜32Aの硬度は、磁性粒子に対する耐摩耗性を実効的に確保する観点から、ビッカース硬度で360VHN以上とすることが好ましい。
【0052】
Niめっき膜32Aは、無電解Niめっき工程(S2)、加熱処理工程(S3)(適宜、図3参照)を経て形成することができるが、ここでの無電解Niめっき工程(S2)においては、次亜リン酸の還元作用を利用する無電解Niめっき液へのフッ素樹脂の添加は任意である。すなわち、Niめっき膜32Aは、リンを含有している必要はあるが、フッ素樹脂は含有していてもよいし含有していなくてもよい。Niめっき膜32Aにフッ素樹脂を含有させたか否かによって、加熱処理工程(S3)での加熱処理条件を変えることができる。
【0053】
Niめっき膜32Aとしてフッ素樹脂含有Niめっき膜を用いることにより、フッ素樹脂含有Niめっき膜が有する小さい摩擦係数に起因して、ピストンロッド13とロッドガイド19Aとの摺動抵抗をさらに小さく抑えることができるため、より好ましい構成となる。
【0054】
Niめっき膜32Aの厚さは、ロッドガイド19Aが前記したようにピストンロッド13から押圧力を受けたときに基材部31が弾性変形して、ピストンロッド13とロッドガイド19Aとの摺動面の面圧上昇を抑制する機能が発揮され、このときにNiめっき膜32Aに剥離や亀裂が生じない厚さに設定される。また、Niめっき膜32Aは全く摩耗しないものではなく、経時的摩耗によってその厚さは薄くなっていくが、所定の耐用期間(耐用年数)の経過時にもNiめっき膜32Aが残存するように、Niめっき膜32Aの初期厚さが設定される。Niめっき膜32Aの厚さは、可変減衰力ダンパ10の大きさや耐用期間等によって異なるが、10μm以上とすることが好ましい。
【0055】
[基材に用いるAl合金等へのNiめっき膜の加熱処理の影響]
基材部31を構成するAl合金等は、Niめっき膜32Aの加熱処理工程(S3)において、その加熱処理温度に加熱されることとなる。Al合金等は金属材料の中では融点の低い材料であるため、Al合金等が溶融したり軟化して変形したりすることのないように、加熱処理条件(温度、時間等)を設定する必要がある。
【0056】
Al合金では、合金成分の析出状態が、Al合金の機械的特性に大きな影響を与える。そのため、基材部31にAl合金を用いる場合には、合金成分が均一に析出しているものを用いることが好ましい。合金成分が均一に析出していると、Al合金を構成する各種の金属原子の転位による移動が抑制され、機械的特性を維持することができる。そのためには、Niめっき膜32Aの加熱処理工程(S3)によって、Al合金における合金成分の析出状態ができる限り変わることのないように、Al合金の組成等とNiめっき膜32Aの加熱処理条件とのバランスを取ることが好ましい。なお、Niめっき膜32Aの加熱処理工程の際に、Al合金において合金成分が均一に析出するようにしてもよい。
【0057】
また、Al合金では、合金成分の固溶状態が、Al合金の機械的特性に大きな影響を与える。そのため、合金成分が析出しているAl合金を用いる場合には、Al合金において析出していた合金成分が、Niめっき膜32Aの加熱処理工程(S3)によってAlに固溶した状態(合金成分が均一にAlに溶け込んだ状態)にならないようにすることが好ましい。これにより、Al合金の機械的特性を維持することができる。
【0058】
なお、基材部31にAl合金を用いる場合には、Niめっき膜32Aの加熱処理工程(S3)において、合金成分の偏析(合金成分の不均一な析出を指し、ここでは、Al合金の製造過程における時効処理により予め均一に析出している合金成分が凝集等により不均一な分布になる場合と、Alに均一に固溶していた合金成分が不均一に析出する場合とを含むものとする)を抑制して、機械的特性が低下することを防止することが好ましい。なお、この合金成分の偏析は、例えば、SEM−EDX等により元素分布を面分析した結果等から容易に確認することができ、加熱処理工程(S3)による合金成分の偏析が生じているか否かは、加熱処理工程(S3)の前後での組織変化や、機械的特性の低下により判断することができる。
【0059】
さらに、Al合金等は熱処理によって調質される(機械的特性が調整される)材料であるため、加熱処理工程(S3)によって基材部31を構成するAl合金等の機械的特性が低下して、所望する機械的特性を示さない状態に調質されてしまうことを回避する必要がある。例えば、基材部31にAl合金を用いた場合、Al合金の焼き鈍し条件付近の温度でNiめっき膜32Aを熱処理してしまうと、Al合金が軟化し、ロッドガイド19Aとして必要とされる機械的特性を示さなくなるおそれがある。したがって、加熱処理工程(S3)の熱処理温度を、基材部31を構成するAl合金等が焼き鈍しされない温度とすることが好ましい。換言すれば、基材部31として用いるAl合金等として、Niめっき膜32Aが所望される硬度を有するようになる加熱処理条件では、機械的特性に実質的に変化が生じない組成のものを選択することが好ましい。
【0060】
<ロッドガイド−第3実施形態>
図6にロッドガイド(第3実施形態)の構造を表した断面図を示す。ここで、図6(a)はピストンロッドの軸芯を含む垂直断面図であり、図6(b)は図6(a)のA−A断面図である。この図6に示したロッドガイド19Bは、略円筒状の基材部31の内周面(中心孔の表面)に、2層構造のNiめっき膜33(以下「2層Niめっき膜33」という)が形成された構造を有しており、この2層Niめっき膜33は、基材部31の表面に形成されたリン(P)を含有する第1無電解Niめっき層36(以下「第1めっき層36」と記す)と、第1めっき層36の表面に形成されたリン(P)とフッ素樹脂とを含有する第2無電解Niめっき層37(以下「第2めっき層37」と記す)から構成されている。
【0061】
第1めっき層36はフッ素樹脂を含有しておらず、したがって、次亜リン酸の還元作用を利用する無電解Niめっき液を用いて成膜することができる。一方、第2めっき層37は、ロッドガイド19が具備するフッ素樹脂含有Niめっき膜32と同等であり、その成膜方法は、前記した通り、フッ素樹脂含有Niめっき膜32の成膜方法に準ずる。なお、2層Niめっき膜33の製造方法は、第1めっき層36の無電解Niめっき処理→加熱処理→第2めっき層37の無電解Niめっき処理→加熱処理の順で行ってもよいし、第1めっき層36の無電解Niめっき処理→第2めっき層37の無電解Niめっき処理→加熱処理の順で行ってもよい。
【0062】
2層Niめっき膜33を用いる場合には、第1めっき膜36のビッカース硬度が第2めっき層37のビッカース硬度よりも大きくなるように、その製造条件を調整する。これにより、使用初期の段階では、ピストンロッド13に対しては、フッ素樹脂を含有した第2めっき層37がピストンロッド13と摺動するために摺動抵抗は小さく抑えられており、ピストンロッド13に横力等が作用している状態でも、ピストンロッド13とロッドガイド19Bとの摺動抵抗の上昇が抑えられるため、入力信号に対する動作精度の低下は小さく抑えられる。
【0063】
そして、経時的に第2めっき層37が摩耗して第1めっき層36がピストンロッド13と摺動する状態となったときには、ピストンロッド13とロッドガイド19Bとのクリアランスが拡がっている。クリアランスが拡がることによって磁性粒子が侵入しやすくなり、摺動面での摩耗が進行しやすくなるおそれがあるが、このときには第2めっき層37よりも耐摩耗性に優れた第1めっき層36が露出しているために、ロッドガイド19Bの摩耗の進行は抑制され、耐久性が維持される。ロッドガイド19Bにおいても、Al合金等からなる基材部31を用いることで、横力等が作用している状態においても、Al合金等の弾性変形を利用して、ピストンロッド13とロッドガイド19Bとの接触面の面圧上昇(摺動抵抗の上昇)を抑制することができる。
【実施例】
【0064】
《横力付加時の摩擦力の評価》
図7にピストンロッドとロッドガイドとの摩擦力(フリクション)の測定試験方法を模式的に示す。この摩擦力の評価試験は、ピストンロッドに対するロッドガイド側の摺動面に、フッ素樹脂硬質アルマイト、フッ素樹脂含有Niめっき膜、フッ素樹脂ベアリング(以下、適宜、「各種皮膜」という)がそれぞれ設けられたロッドガイドを準備し、図7に示すようにピストンを取り付けず、シリンダチューブ内にMRFを充填せず、さらにシリンダチューブにおいてロッドガイドが配置されている部分に所定の大きさの横力を作用させた状態で、ピストンロッドをロッドガイドに対して摺動させ、そのときの摩擦力の大きさを測定することにより行った。
【0065】
なお、ロッドガイドを構成する基材部としてはAl合金を用い、ロッドガイド側の摺動面に設けられた各種皮膜の横力に対する摩擦力の上昇抑制効果を評価した。ピストンロッドとしては低炭素鋼(例えば、S45C)からなり、その表面にはハードCrめっき膜を設けたものを用いた。この試験条件は以下の通りとした。
潤滑環境(ピストンロッドとロッドガイドとの摺動面):ドライ(潤滑剤不使用)
横力の大きさ:0,10,15kgf(=0,98,196N)の3つ
摺動速度:0.005m/sec
摺動変位:±5mm
【0066】
図8に試験結果を示す。図8から明らかなように、フッ素樹脂硬質アルマイトに比べて、フッ素樹脂含有Niめっき膜では、摩擦力(フリクション)の上昇が大きく抑えられていることがわかる。これにより、横力が作用している状態においても、入力信号に対する動作精度の低下の小さい可変減衰力ダンパを実現することができることが確認された。なお、摩擦力の絶対値では、フッ素樹脂ベアリングを用いた場合で最も小さくなっているが、フッ素樹脂ベアリングは軟らかいために耐摩耗性に劣ることは本発明がなされる背景技術として説明した通りであり、MRFを用いる可変減衰力ダンパには適さない。
【0067】
フッ素樹脂含有Niめっき膜のビッカース硬度がフッ素樹脂硬質アルマイトのビッカース硬度の約1.5倍あるため、フッ素樹脂硬質アルマイトよりも耐摩耗性に優れていることは、物性面から明らかである。したがって、フッ素樹脂含有Niめっき膜を用いることは、フッ素樹脂硬質アルマイトを用いるよりも好ましいと判断される。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の一実施形態に係る可変減衰力ダンパの概略構造を示す断面図である。
【図2】本発明に係る可変減衰力ダンパを構成するロッドガイド(第1実施形態)の断面図であり、(a)はピストンロッドの軸芯を含む垂直一部断面図であり、(b)は(a)のA−A断面図である。
【図3】ロッドガイドの製造方法を示すフローチャートである。
【図4】ロッドガイド(第2実施形態)の断面図であり、(a)はピストンロッドの軸芯を含む垂直一部断面図であり、(b)は(a)のA−A断面図である。
【図5】横力によりピストンロッドがロッドガイドに押し付けられた状態を示す模式図であり、(a)はロッドガイドの基材部のヤング率が大きい場合(比較例)であり、(b)はロッドガイドの基材のヤング率が小さい場合(実施例)である。
【図6】ロッドガイド(第3実施形態)の断面図であり、(a)はピストンロッドの軸芯を含む垂直一部断面図であり、(b)は(a)のA−A断面図である。
【図7】ピストンロッドとロッドガイドとの摩擦力の測定試験方法を模式的に示す図である。
【図8】摩擦力(フリクション)の測定試験結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0069】
10 可変減衰力ダンパ
12 シリンダチューブ
13 ピストンロッド
14 第1油室
15 第2油室
16 ピストン
17 高圧ガス室
18 フリーピストン
19,19A,19B ロッドガイド
21 連通孔
22 電磁コイル
23 給電線
24 Niめっき膜(又はCrめっき膜)
25 ロッド母材
26 パッキン
31 基材部
32 フッ素樹脂含有Niめっき膜
32A Niめっき膜
33 2層Niめっき膜
36 第1めっき層(リンを含有したNiめっき膜)
37 第2めっき層(フッ素樹脂含有Niめっき膜)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性粒子を含む作動流体が充填されるシリンダチューブと、前記シリンダチューブの内部に摺動自在に配置されるピストンと、前記ピストンに連結されると共に前記シリンダチューブの一端から突出するように配置されるピストンロッドと、前記シリンダチューブの前記一端を閉塞すると共に前記ピストンロッドを摺動自在に支持するロッドガイドと、を具備する可変減衰力ダンパであって、
前記ロッドガイドは、リンとフッ素樹脂を含有し、加熱処理された無電解ニッケルめっき膜を、前記ピストンロッドとの摺動面に備えていることを特徴とする可変減衰力ダンパ。
【請求項2】
前記ロッドガイドは、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる基材部を有し、
前記基材部の所定の表面に前記無電解ニッケルめっき膜が設けられ、
前記ピストンロッドが前記無電解ニッケルめっき膜に対して摺動することを特徴とする請求項1に記載の可変減衰力ダンパ。
【請求項3】
前記基材部はアルミニウム合金からなり、アルミニウム以外の合金成分が析出していることを特徴とする請求項2に記載の可変減衰力ダンパ。
【請求項4】
前記無電解ニッケルめっき膜は、
前記基材部の表面に形成された、リンを含有する第1無電解ニッケルめっき層と、
前記第1無電解ニッケルめっき層の表面に形成された、リンとフッ素樹脂とを含有する第2無電解ニッケルめっき層と、を有し、
前記第1無電解ニッケルめっき層の硬度が前記第2無電解ニッケルめっき層の硬度よりも大きいことを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の可変減衰力ダンパ。
【請求項5】
前記シリンダチューブの外部への前記作動流体の漏洩を防止するために前記ロッドガイドに設けられるシール部材をさらに具備し、
前記シール部材は、前記シリンダチューブの軸芯方向において、前記無電解ニッケルめっき膜よりも前記ピストン側に設けられていることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の可変減衰力ダンパ。
【請求項6】
前記ピストンロッドは、前記ロッドガイドとの摺動面に無電解ニッケルめっき膜又はクロムめっき膜を備えており、
前記無電解ニッケルめっき膜又はクロムめっき膜は、厚さが10μm以上、かつ、表面粗さがRz値で0.1〜1.5であることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の可変減衰力ダンパ。
【請求項7】
磁性粒子を含む作動流体が充填されるシリンダチューブと、前記シリンダチューブの内部に摺動自在に配置されるピストンと、前記ピストンに連結されると共に前記シリンダチューブの一端から突出するように配置されるピストンロッドと、前記シリンダチューブの前記一端を閉塞すると共に前記ピストンロッドを摺動自在に支持するロッドガイドと、を具備する可変減衰力ダンパの製造方法であって、
前記ロッドガイドの製造工程は、
前記ロッドガイドを構成する所定の基材部において前記ピストンロッドと摺動することになる面に、無電解ニッケルめっき処理によりリンとフッ素樹脂とを含有した無電解ニッケルめっき膜を成膜する無電解ニッケルめっき工程と、
前記無電解ニッケルめっき工程により成膜された無電解ニッケルめっき膜に加熱処理を施す加熱処理工程と、を有することを特徴とする可変減衰力ダンパの製造方法。
【請求項8】
前記加熱処理工程によって、前記無電解ニッケルめっき膜のビッカース硬度を360VHN以上とすることを特徴とする請求項7に記載の可変減衰力ダンパの製造方法。
【請求項9】
前記基材部として、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるものを用いることを特徴とする請求項7又は請求項8に記載の可変減衰力ダンパの製造方法。
【請求項10】
前記基材部としてアルミニウム合金からなるものを用い、
前記加熱処理工程において、その加熱処理温度を、前記アルミニウム合金を構成するアルミニウム以外の合金成分がアルミニウムに固溶した状態にならない温度とすることを特徴とする請求項7又は請求項8に記載の可変減衰力ダンパの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−293773(P2009−293773A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−150528(P2008−150528)
【出願日】平成20年6月9日(2008.6.9)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】