説明

可溶化コラーゲン繊維、コラーゲン化粧料、可溶化コラーゲン繊維の製造方法及び製造装置

【課題】 化粧水等を利用して素早く簡便に水溶液状のコラーゲン化粧料に調合できる可溶化コラーゲン繊維及び使用時調合型のコラーゲン化粧料を提供する。
【解決手段】 可溶化コラーゲン繊維は、等イオン点がpH5.0以下、平均繊度が10dtx以下であり、pHが5.5〜9.0の水性液に溶解してコラーゲン化粧料を調製する。可溶化コラーゲン繊維は、等イオン点がpH5.0以下である可溶化コラーゲンを調製し、可溶化コラーゲンの等イオン点よりpHが大きい可溶化コラーゲン水溶液を調製し、これを用いて可溶化コラーゲン繊維を紡糸して延伸することにより得られる。可溶化コラーゲン水溶液(A)を有機溶媒(S1)中に糸状に吐出して可溶化コラーゲン繊維(F)を紡糸する紡糸手段(3,5,7,9)と、可溶化コラーゲン繊維を延伸する延伸手段(11)と、延伸した可溶化コラーゲン繊維を浸漬する親水性有機溶媒(S2)を収容する溶媒槽(13)とを有する製造装置(1)が用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性溶液状態において変性し易いコラーゲンの使用前における変性を防止し、且つ、使用時に容易且つ素早く水性溶液状の化粧料に調合できる可溶化コラーゲン繊維及び使用時調合型のコラーゲン化粧料、可溶化コラーゲン繊維の製造方法及び製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
動物の生皮、腱、骨等を形成する主要タンパク質はコラーゲンであり、コラーゲンは、3本のポリペプチド鎖がヘリックス状になった物質で、通常、水、希酸、希アルカリ、有機溶媒などに対して不溶性である。一般的に、牛や豚等の動物の皮から得られる。
【0003】
近年、コラーゲンが有する保湿性を利用して、皮膚の保湿性を高めるための成分としてコラーゲンを配合したメークアップ用品やスキンケア用品等が提供されている。このような用途において、コラーゲンは水性溶液の状態で利用されるが、生体材料に含まれるコラーゲンの大部分は分子間に架橋が形成されており水に不溶性であるため、可溶化処理を施して架橋を切断することによって得られる可溶化コラーゲンが使用される。
【0004】
可溶化処理は、不溶性コラーゲンに対してアルカリや酵素等を作用させるもので(下記特許文献1、2参照)、不溶性コラーゲンのポリペプチド鎖末端のテロペプチドにおける分子間または分子内架橋あるいはテロペプチド自体が切断される等によりペプチド鎖間の束縛が解消されて可溶化されると考えられており、粘稠質の可溶化コラーゲン水溶液が得られる。
【特許文献1】特公昭44−1175号公報
【特許文献2】特公昭46−15033号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記のような化粧品分野において利用する上で、可溶化コラーゲン水性溶液は、以下のような欠点がある。
【0006】
1) コラーゲン水性溶液は、常温においても変性する(3本のポリペプチド鎖によるヘリックス構造が解けてゼラチン化する)可能性があり、保管に際しては冷蔵等の温度管理が必要である。
【0007】
2) 水分活性が高いコラーゲン水溶液の状態では容易に腐敗し、特に化粧品に用いられる中性付近の水溶液では腐敗が進行し易い。
【0008】
3) コラーゲン水性溶液は粘度が高いため、容器への充填等の際に、周囲への付着や残存によるロスを生じ易く、取り扱いが難しい。
【0009】
中でも、上記1)、2)は、製品の品質安定性を低下させ、使用可能期間を極端に制限するため、化粧料として極めて不利である。従来は、低温冷蔵での流通や、空気の流入による雑筋汚染を防止するための特殊な容器の使用、防腐剤の添加などによって対処しているが、使用者側でも冷蔵保存を必要とするため、取り扱いが面倒であり、変質させてしまうことも多くなる。
【0010】
本発明は、上述の点を解決し、コラーゲンの変性や腐敗による品質劣化を受けることなく水溶液状態のコラーゲン化粧料を簡便に使用することを可能とする可溶化コラーゲン繊維及びコラーゲン化粧料を提供することを課題とする。
【0011】
又、本発明は、使用時に簡便且つ素早く水溶液状態のコラーゲン化粧料に調合可能な可溶化コラーゲン繊維及びコラーゲン化粧料を得るための可溶化コラーゲン繊維の製造方法及び製造装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、乾燥状態の可溶化コラーゲンと水性液とを別体として、使用時にこれらを可溶化コラーゲン水性溶液に調合することによって、水溶液状態では容易に起こり得るコラーゲンの変性や腐敗が防止可能であり、製造方法を工夫して一定の要件を満たす可溶化コラーゲン繊維とすることによって、使用時の調合に要する時間を大幅に短縮できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
本発明の一態様によれば、可溶化コラーゲン繊維は、水性液に溶解してコラーゲン化粧料を調製するための可溶化コラーゲン繊維であって、等イオン点がpH5.0以下であり、平均繊度が10dtx以下であり、脱イオン水に0.5質量%の割合で溶解した時のpHが5.5以上を示すことを要旨とする。
【0014】
又、本発明の一態様によれば、コラーゲン化粧料は、pHを弱酸性〜中性に安定させる緩衝塩を含有するpHが5.5〜9.0の水性液と、別体として組み合わされる請求項1〜4の何れかに記載の可溶化コラーゲン繊維とを有し、前記水性液に前記可溶化コラーゲン繊維を溶解した時のコラーゲン含有量が0.01〜10質量%となる割合で組み合わされることを要旨とする。
【0015】
更に、本発明の一態様によれば、可溶化コラーゲン繊維の製造方法は、等イオン点がpH5.0以下である可溶化コラーゲンを調製する工程と、前記可溶化コラーゲンを含有し、前記可溶化コラーゲンの等イオン点よりpHが大きい可溶化コラーゲン水溶液を調製する工程と、前記可溶化コラーゲン水溶液を有機溶媒中に糸状に吐出し可溶化コラーゲンを凝固させて繊維化する紡糸工程と、紡糸される前記可溶化コラーゲン繊維を前記可溶化コラーゲン水溶液の吐出速度の0.6倍以上の巻き取り速度で巻き取って延伸する延伸工程と、延伸された前記可溶化コラーゲン繊維を含水率が5質量%以下の親水性有機溶媒に浸漬する工程と、浸漬工程後の可溶化コラーゲン繊維を乾燥する乾燥工程とを有することを要旨とする。
【0016】
更に、本発明の一態様によれば、可溶化コラーゲン繊維の製造装置は、可溶化コラーゲン水溶液を有機溶媒中に糸状に吐出して可溶化コラーゲン繊維を紡糸する紡糸手段と、前記可溶化コラーゲン繊維を延伸する延伸手段と、延伸した前記可溶化コラーゲン繊維を浸漬する親水性有機溶媒を収容する溶媒槽とを有することを要旨とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、使用時に素早く簡便に水溶液状のコラーゲン化粧料に調合でき、常温管理であっても使用前におけるコラーゲンの変性及び腐敗のおそれがない、常に高品質のコラーゲン化粧料を使用者に提供できる。市販の化粧水等を利用して、使用者各人の要望に合った最適のコラーゲン化粧料を調合することが可能であり、製品仕様を細分化することなく様々な使用者に幅広く提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
動物の皮膚から得た不溶性コラーゲンの可溶化処理によって調製される可溶化コラーゲン水溶液は、水を除去すれば固形の乾燥物となる。水溶液状態での可溶化コラーゲンの変性開始温度は非常に低く、牛、豚由来の場合で30℃前後、フグ、タイ等の場合で20℃前後であるので室温でも変性し得るが、乾燥状態では100℃前後であり、通常の取り扱いにおいて変性する恐れがない。また、乾燥状態のコラーゲンは、水溶液と異なり水分活性が低いため、腐敗の恐れがない。従って、化粧料の水性媒体と可溶化コラーゲン乾燥物とを別体として化粧料を構成し、使用時に可溶化コラーゲンを水性媒体に混合・溶解すれば、変性や腐敗を受けていないコラーゲンを含有する化粧料として使用可能である。
【0019】
可溶化コラーゲン乾燥物を化粧料として好適に使用するには、水性媒体と混合した後に速やかに溶解することが重要である。可溶化コラーゲン乾燥物は、乾燥物の形態や可溶化処理の種類によって水性媒体への溶解し易さが異なり、速やかに溶解するには、可溶化コラーゲン乾燥物の調製に工夫を施す必要がある。出願人は、先の出願(特願2004−121513)において、混合時に速やかに溶解する可溶化コラーゲン乾燥物の調製条件を特定し、可溶化コラーゲン繊維を水性媒体に溶解してコラーゲン化粧料として利用することを提案している。先願のコラーゲン繊維は、繊度が20dtx(繊維10000m当りのグラム数)前後に調製され、数分程度で水性溶媒に均一に溶解して化粧料として好適に使用できる。しかし、利用者の観点からは、使用前の化粧料調合に要する時間を短縮することが望ましく、より速く溶解するコラーゲン乾燥物の研究を進めたところ、コラーゲン繊維の製造条件を工夫することによって繊度が10dtx以下のコラーゲン繊維が得られ、30秒以内で均一な化粧料に調合でき、官能試験において調合時間の長さによる不満がほぼ解消できる水準に達することが判明した。コラーゲン繊維の溶解時間は繊度の減少と共に短くなるが、10dtx以下になると顕著に溶け易くなる。本発明では、素早く化粧料を調製できる極細のコラーゲン繊維及びその製造方法と、その化粧料としての利用について提案する。
【0020】
以下、コラーゲン繊維の製造について、詳細に説明する。
【0021】
不溶性コラーゲンは、牛、豚、鳥等の動物の皮膚やその他のコラーゲンを含む組織を利用して、従来の方法によって好適に調製することができ、原料を特に限定する必要はない。魚皮や魚鱗等の水性生物材料から不溶性コラーゲンを得てもよい。コラーゲンを得る原料によって、コラーゲンの変性温度には差が見られるが、乾燥状態では、何れの原料由来の可溶化コラーゲンであっても通常の取り扱いにおいて問題はない。需要においては、BSE対策に関連して豚由来または魚などの水生生物由来のコラーゲンを原料とすることが好ましいとされる。
【0022】
牛皮、豚皮等のコラーゲン原料は、必要に応じて、石灰漬け等による脱毛、水洗、チョッパー等を用いた細切などの処理を施して適切な寸法の原料片に調製して、不溶性コラーゲンの可溶化処理に供する。
【0023】
不溶性コラーゲンの可溶化処理は、タンパク質分解酵素を用いた方法(例えば特公昭44−1175号公報参照。以下、酵素処理法と称する)と、苛性アルカリ及び硫酸ナトリウムが共存する水溶液中に少量のアミン類又はその類似物を添加したもので処理する方法(例えば特公昭46−15033号公報参照。以下、アルカリ処理法と称する)に大別することができる。本発明においては、何れの可溶化処理方法を用いても良いが、得られる可溶化コラーゲンの等イオン点(水に対する溶解性が最も小さくなるpH域)が可溶化処理方法によって異なり、アルカリ処理法で得られる可溶化コラーゲンの等イオン点は、アスパラギン残基及びグルタミン残基が脱アミノ反応によって各々アスパラギン酸残基及びグルタミン酸残基に変化することにより、概して、約4.8〜5.0となり、酵素処理法によるものでは概してpH7前後となる。化粧料は、弱酸性から中性であることが好ましく、このpH領域においてコラーゲンが速やかに溶解することが必要であるので、酵素処理法によって可溶化する場合は、得られるコラーゲンの等イオン点を中性付近からpH5.0以下へ移行させる必要がある。一般的な酵素処理法による可溶化コラーゲン製品では、サクシニル化を施して等イオン点を下げて中性での溶解性を高めているので、このような方法によって得られる可溶化コラーゲンは好適に利用することができる。可溶化コラーゲンの等イオン点が低い方が弱酸性から中性の水性溶媒に対する溶解性が高くなるので、化粧料として使用するコラーゲン繊維の溶解速度を速めるためには、可溶化コラーゲンの等イオン点がpH4.8程度以下となることが好ましい。
【0024】
可溶化処理を施したコラーゲンは、可溶化やサクシニル化に使用したアルカリの中和、脱塩処理(例えば、遠心分離、透析、水洗等)を経て、粘稠質の水溶液の状態で得られる。これから水を除去すれば、可溶化コラーゲン乾燥物が得られる。コラーゲン水溶液から水を除去する方法として、液体窒素等を用いる凍結乾燥法、噴霧乾燥法、及び、塩水又は有機溶媒中で凝固させる方法がある。凍結乾燥法では製造コストがかかり、噴霧乾燥法では安価に好適な可溶化コラーゲン粉末が得られるが、製造効率が低い。有機溶媒中で可溶化コラーゲン水溶液を凝固させる方法は、水溶液中のコラーゲンが有機溶媒に接触すると凝固することを利用するもので、凝固したコラーゲンから溶媒を容易且つ効率よくに除去でき、製造コストが安価である。本願出願人は、先の出願(特願2004−121513)において、特開平6−228505号公報の可溶化コラーゲン乾燥物の製造方法を参照して、ノズル等を用いて可溶化コラーゲン水溶液を有機溶媒中に糸状に吐出し凝固させてコラーゲン繊維を調製することを提案している。この方法は、イソプロパノール中での繊維化によって、多量の脂質を含む可溶化コラーゲン(例えばブタ皮由来コラーゲンは固形分当たり23.1質量%の脂質を含む)から脂質が溶出して凝固コラーゲン中の脂質量を0.1%未満に減らせる点で優れており、塩析凝固を利用して塩水中で繊維化すると脂質を除去できないことと比較すると、極めて有用である。但し、先の出願の方法では、より細いコラーゲン繊維を形成する上で限界があり、10dtx以下の繊維の製造は難しい。また、繊度が10dtx付近の細いコラーゲン繊維を製造する場合、繊維を乾燥させる時に繊維どうしが付着・融合して塊状になるという問題がある。本願では、繊度が10dtx以下の細いコラーゲン繊維が簡便に得られる製造方法を提案する。この製造方法では、紡糸される可溶化コラーゲン繊維を凝固中に延伸することによって、繊度が10dtx以下の細いコラーゲン繊維の製造が可能となる。更に、紡糸したコラーゲン繊維を乾燥する前に親水性有機溶媒に浸漬する工程を加えることによって、乾燥中のコラーゲン繊維の付着を防止しつつコラーゲン繊維中の残留水を除去することができる。以下、可溶化コラーゲン繊維の製造方法について説明する。
【0025】
可溶化コラーゲンの凝固は、親水性有機溶媒及び疎水性有機溶媒の何れでも可能であるが、凝固するコラーゲンが内包する水を効率よく外部へ放散させる点で親水性有機溶媒が好適であり、凝固した繊維を効率よく乾燥するには、揮発性の溶媒が可溶化コラーゲンを凝固させる有機溶媒として好ましい。例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類やアセトンなどが挙げられ、このような溶媒を複数種組み合わせた混合溶媒であってもよい。実用上、少量の水を含んだ有機溶媒も使用可能であり、その場合、含水率は約15質量%以下、好ましくは10質量%以下であり、含水率が高いとコラーゲンが好適に凝固しない。
【0026】
ノズル等を用いて可溶化コラーゲン水溶液を有機溶媒中に糸状に吐出して凝固させると、コラーゲンが繊維状に成形(つまり紡糸)される。紡糸手段として、ノズルやシャワーヘッド等のような流体を糸状に吐出できる吐出孔を有するものを必要に応じて選択して使用できる。概して、コラーゲン濃度が2〜10質量%、好ましくは3〜7質量%の可溶化コラーゲン水溶液を、20〜500g/分、好ましくは30〜150g/分の吐出速度で、孔径が0.05〜1mm程度、好ましくは0.05〜0.3mm程度の孔から有機溶媒中に吐出することによって、平均繊度が10〜100dtx程度(繊度計を用いて20℃、65%RHで測定される値)の可溶化コラーゲン繊維が形成される。コラーゲン繊維の太さは、吐出する可溶化コラーゲン水溶液の濃度を低くしたり、吐出するノズルの孔径を小さくすることによっても細くなるが、可溶化コラーゲン水溶液の濃度が低過ぎると、紡糸される繊維が切れ易くなったり粉末状の凝固物が生じ易くなり、ノズル孔径が小さ過ぎると、通液抵抗が大きくなってノズルに過大な吐出圧力がかかる。しかも、ノズルから自由な状態で紡出させたコラーゲン繊維は、凝固中に繊維の長さ方向に収縮して長さが約0.6倍未満になって吐出時よりも繊度が高くなるので、ノズル孔径を小さくしたりコラーゲン水溶液の濃度を低下させる方法では繊度の低下に限界がある。これを解決する方法として、溶媒中で紡糸されるコラーゲン繊維を、吐出速度の約0.6倍以上の速度で巻き取る方法がある。これにより、紡糸中のコラーゲン繊維にかかる引っ張り力によって繊維方向の収縮に抗して繊維が延伸されて10dtx以下の細い繊維の調製が可能になる。但し、巻き取り速度が速すぎると繊維が切断されるので、吐出速度に対する巻き取り速度の比(ドラフト)は1.5以下となるように調節して延伸する。これらを勘案すると、平均繊度が10dtx以下のコラーゲン繊維を紡糸する好適な条件としては、コラーゲン水溶液の濃度は3〜7質量%、好ましくは3.5〜5質量%、ノズル孔径は0.05〜0.18mm、好ましくは0.09〜0.11mm程度であり、ドラフトは0.6以上且つ1.5以下、好ましくは1.0〜1.2とすることができる。このような範囲で、式:T=100・rcd/D(式中、Tは繊度(dtx)、rはノズル孔半径(mm)、Cはコラーゲン水溶液の濃度(質量%)、dはコラーゲン比重(g/ml)、Dはドラフトを示す。)を目安として各条件を設定できる。実施の点からは、吐出速度を2〜7m/分程度、巻き取り速度を2〜10m/分程度の範囲で設定すると実用的である。
【0027】
巻き取った可溶化コラーゲン繊維は、無菌空気を用いた空気乾燥や減圧留去によって無菌的に乾燥することにより残留水が除去され、化粧料用として好適に使用できる可溶化コラーゲン繊維が得られるが、細い繊維の場合、繊維どうしが接触した状態で乾燥すると互いに付着・結合し、実際には繊維塊になる。この原因は、乾燥中に有機溶媒が先に留去することによってコラーゲン繊維中の残留水分が凝固コラーゲンを再溶解するためであり、繊維が細いほど付着は顕著である。これを防止するために、本願では、乾燥前の可溶化コラーゲン繊維を親水性有機溶媒に浸漬する。親水性有機溶媒と接触することにより、コラーゲン繊維中の水分は有機溶媒中に放散して有機溶媒と置換されるので、含水量が低下して有機溶媒量が増加する。従って、乾燥中の繊維の付着は減少する。但し、浸漬する親水性有機溶媒の含水率が低いことが必要であり、具体的には、含水率が5質量%以下の有機溶媒を使用する。使用する有機溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類やアセトンなどの親水性有機溶媒が挙げられ、このような溶媒を複数種組み合わせた混合溶媒であってもよい。コラーゲン繊維の乾燥中に水のみが残留するのを避けるためには、水と沸点が近い溶媒、あるいは、水と共沸する溶媒を用いることが有効であり、この点で好ましいものとしてはエタノールやイソプロパノール等が挙げられる。親水性有機溶媒を穏やかに流動させたり、浸漬した可溶化コラーゲン繊維を揺動して水分の放散を促進してもよい。
【0028】
紡糸した可溶化コラーゲン繊維を親水性有機溶媒に浸漬すると、親水性有機溶媒の含水率は上昇するので、浸漬処理を繰り返して含水率が過大になった有機溶媒は交換する必要がある。この点に関し、有機溶媒に浸漬する直前の可溶化コラーゲン繊維を軽く圧搾又は遠心脱水して繊維に含まれる液体量を減少させると、浸漬する有機溶媒の交換頻度を減らす上で有効である。
【0029】
有機溶媒に浸漬した後に乾燥して得られる可溶化コラーゲン繊維は、標準状態(20±2℃、湿度65±2%)でも水分を10〜20質量%程度含有するが、変性温度は高く、牛、豚由来のコラーゲンでは100℃前後となる。
【0030】
可溶化コラーゲン繊維のpHが化粧料を調合する水性液のpHに近いほど、水性液へ溶け易くなる。従って、紡糸に用いる可溶化コラーゲン水溶液のpHは、化粧料用水性液のpHに近いことが望ましい。概して、化粧料は弱酸性〜中性であるので、これを考慮すると、可溶化コラーゲン水溶液のpHが等イオン点より大きいことが好ましく、pH5.5以上の範囲に調整すると、紡糸したコラーゲン繊維は市販の化粧水や美容液に素早く溶解するので、使用者が任意に使用している化粧料にコラーゲンを簡単に配合することができる。可溶化コラーゲン水溶液のpH上限については、最終的にコラーゲン繊維を水性溶媒に溶解して化粧料としたときにこの化粧料のpHが9.0を超えない範囲であればよいので、pH10程度以下であればよいが、コラーゲン繊維を添加したことによる化粧料のpH変動を小さくするためには、pH8.0以下とするのが好ましい。紡糸用コラーゲン水溶液のpHの調整に使用するアルカリがNaOHのみであると、可溶化コラーゲン水溶液の粘度が高くなり易い。粘度の上昇は、コラーゲン水溶液を入れたタンクからノズルへの送液や、前述のような小径の孔からコラーゲン水溶液を吐出する際のノズルの通液を困難にする。この点に関し、pH調整において硫酸ナトリウム等の無機塩や乳酸ナトリウム等の有機酸塩を添加すると、粘度上昇が抑制されるので好ましい。有機酸塩には有機溶媒に溶解性のあるものと難溶又は不溶性のものとがあり、難溶又は不溶性の塩を使用すると、可溶化コラーゲン水溶液を有機溶媒中に吐出した際に析出し、繊維内部に残存したり、コラーゲン繊維の乾燥時に粉末状に付着する。この点は、有機溶媒に溶解性のある塩を使用することによって解消される。具体的には、紡糸用の有機溶媒としてアルコールを用い、乳酸ナトリウム等のアルコールに溶解する塩をpH調整時に使用することによって、塩を溶媒と共にコラーゲン繊維から除去できる。又、乾燥前のコラーゲン繊維を親水性有機溶媒に浸漬する際にもアルコールを用いることによりpH調整用の有機酸塩を除去できる。紡糸及び浸漬時の有機溶媒は、原料コラーゲンに由来する有機性不純物を除去する機能も有するので有益である。
【0031】
上述の製造方法に従って製造される可溶化コラーゲン繊維は細いので、水への溶解性が極めて良好であり、化粧料として使用する際の水性液への溶解速度が飛躍的に向上する。平均繊度が約10dtx以下の範囲では、30秒以内で溶解(均一分散)可能である。従って、pH5.5以上、好ましくはpH5.5〜10.0程度、より好ましくはpH6.5〜8.0程度に調整したコラーゲン水溶液を紡糸するのがよい。pHが5.5以上の可溶化コラーゲン水溶液から紡糸した可溶化コラーゲン繊維は、脱イオン水にコラーゲン繊維を0.5質量%(無水量換算)の割合で溶解した時のpHが5.5以上となり、可溶化コラーゲンの等イオン点より低いpHのコラーゲン水溶液から紡糸した場合と異なる(繊維を溶解した時pH4.0〜4.5になる)ので、中性付近の水への溶解速度だけでなく、溶解した時のpHによっても容易に区別できる。
【0032】
上述において、吐出孔の形状及びコラーゲン繊維の断面は円形として説明しているが、繊維の表面積を増加させることによって水性溶媒への溶解性が改善されるので、繊維の断面形状を規定する吐出孔の形状は円形に限らず、楕円、多角形や星形等のような複雑な断面形状を有する可溶化コラーゲン繊維が形成されるように吐出孔を変形したり、コラーゲン繊維表面に凹凸、切欠き、溝等を設けることも可能である。但し、延伸において切断され易くなることを考慮する必要がある。
【0033】
平均繊度が約10dtx以下の細いコラーゲン繊維は、バラバラの短繊維状態であると、こぼれた繊維の回収が煩わしい等の取り扱い上の難点があるが、綿状の塊であると取り扱いが容易であり、取分け等も簡便に行える。コラーゲン繊維が綿状になるためには、繊維がある程度以上の長さを有するか、あるいは、捲縮によって絡合性を付与することが要点となる。コラーゲン綿を形成可能な非捲縮コラーゲン繊維の長さは約2.5cm以上である。但し、取り分け時の計量精度を考慮すると、10cm以下、好ましくは3.5cm以下が良い。捲縮した繊維の場合はかなり短くても綿状になり、少なくとも10mm以上の長さがあればよい。取り扱い易いコラーゲン綿を形成するには、コラーゲン繊維に自然な縮れがあればよく、捲縮率が5〜20%程度であると好ましい。紡糸した可溶化コラーゲン繊維に引っ張り負荷をかけずに緊張のない状態で乾燥すると、自然な縮れによる捲縮がコラーゲン繊維にかかり、好適に捲縮できる。引っ張り負荷をかけて乾燥すると、捲縮のないまっすぐな繊維になり、乾燥後のコラーゲン繊維については、繊維に撚りをかけたり、繊維の折り畳みや歯車の間を通過させる等の機械的な曲げを加えることによっても捲縮可能である。
【0034】
平均繊度が約10dtx以下の細いコラーゲン繊維が緩く絡み合ったコラーゲン綿は、摩擦が少なく滑らかで、柔軟性が高く、圧縮に対する回復力が大きいので、極めて触感が良い。綿を構成する繊維の繊度が大きくなると、摩擦が大きくなり、柔軟性及び圧縮に対する回復力も低下する。
【0035】
コラーゲン綿を簡便に製造できる製造方法の一実施形態を以下に説明する。
【0036】
先ず、前述に従って可溶化コラーゲン水溶液を調製し、紡糸においては多数の吐出孔を有するシャワーヘッド様のノズルを用いて、有機溶媒中に吐出しながら吐出速度以上の巻き取り速度で巻き取ることにより、10dtx以下に延伸された多数の可溶化コラーゲン繊維の束を形成する。これを親水性有機溶媒に浸漬して繊維の含水量を低下させた後に、繊維束に引っ張り負荷をかけずに乾燥することによって、捲縮した可溶化コラーゲン繊維の束が得られる。この繊維束を適度な長さに切断しながら解繊することにより可溶化コラーゲン綿が得られる。
【0037】
あるいは、上述の可溶化コラーゲン綿の製造において引っ張り負荷をかけながら乾燥して直繊維の束を得て、繊維長が約2.5cm以上となるように切断しながら繊維束を解繊してもよい。同じ太さのコラーゲン繊維であっても、綿状に解繊したものの方が繊維束状のものよりも速く水性溶媒に溶解する。
【0038】
得られた可溶化コラーゲン綿は、必要に応じて取り分けることが容易であるので、綿塊のまま製品として提供しても良いが、1回の使用量として10mg程度づつ個別包装すると、簡便且つ清潔に使用でき、携帯性もよい。
【0039】
図1は、上述のような可溶化コラーゲン繊維を製造する製造装置の一例を示す。この製造装置1は、有機溶媒S1としてイソプロパノールを収容する第1溶媒槽3と、可溶化コラーゲン水溶液Aを収容するピストンタンク5と、可溶化コラーゲン水溶液を有機溶媒S1中に吐出するための複数の吐出孔を有するノズル7と、ピストンタンク5からノズル7ヘ可溶化コラーゲン水溶液Aを供給するためのギアポンプ9と、紡糸された可溶化コラーゲン繊維を所定の巻き取り速度で巻き取る巻き取りロール11と、親水性有機溶媒S2としてイソプロパノールを収容する第2溶媒槽13とを有する。ピストンタンク5とノズル7とは、ギアポンプ9を介してプラスチック製導管によって接続される。この例では、第1溶媒槽3は、所定の長さを有する細長い形状を有し、ノズル7は、吐出孔を水平方向に向けて第1溶媒槽3内の一端側に設置され、ノズル7から吐出されるコラーゲン水溶液が有機溶媒S1中を第1溶媒槽3の長さ方向に沿って他端側へ水平に移動可能なように構成される。
【0040】
図1の製造装置1において、ピストンタンク5のピストンを圧搾空気によって押圧しギアポンプ9を作動させると、可溶化コラーゲン水溶液Aはピストンタンク5からノズル7へ供給され、ノズル7の複数の円形の吐出孔から第1溶媒槽3内の有機溶媒S1中に吐出される。有機溶媒S1との接触によって、吐出される可溶化コラーゲンの外周面から内部へ向かって凝固が進行して繊維化しつつ水平方向に伸長することによって、ノズル7から複数のコラーゲン繊維が束状に紡糸される。伸長する可溶化コラーゲン繊維Fの束は、第1溶媒槽3の他端側のプーリーを介して有機溶媒S1から引き上げられて、巻き取りロール11によって巻き取られる。この際、巻き取りロール11の巻き取り速度がノズル7の吐出速度以上になるように設定することによって、紡糸される可溶化コラーゲン繊維Fは凝固中に延伸されて平均繊度が10dtx以下の細い繊維となる。コラーゲンの凝固にはある程度の時間を要し、少なくとも外周部が凝固する間、つまり、紡糸及び延伸がなされる間は、有機溶媒との接触が維持されることが望ましい。凝固に要する時間は紡糸される繊維の繊度等によっても変わるが、本発明の可溶化コラーゲン繊維の場合は概して8秒程度であり、紡糸中のコラーゲン繊維と有機溶媒S1との接触がこの間維持されるように第一溶媒槽3の寸法が設定される。例えば、巻き取り速度が5m/分程度の場合、第一溶媒槽の長さは70cm程度以上となる。
【0041】
延伸された可溶化コラーゲン繊維Fの束は、巻き取りロール11から第2溶媒槽13に投入されて親水性有機溶媒S2に浸漬され、可溶化コラーゲン繊維F中に残存する水分の大半が溶媒中に浸出し、繊維内部の凝固も完了する。
【0042】
含水量が減少した可溶化コラーゲン繊維Fは、第2溶媒槽13から取り出して、無菌空気を用いた空気乾燥や減圧留去によって乾燥すれば、繊維どうしが付着することなく、化粧料の調合に好適に使用できる可溶化コラーゲン繊維が得られる。この際、可溶化コラーゲン繊維Fの束に引っ張り負荷をかけずに乾燥すると、捲縮した可溶化コラーゲン繊維が得られ、乾燥後に適度に解繊することによって可溶化コラーゲン綿が得られる。引っ張り負荷によって捲縮しない場合においても、繊維の長さが2.5cm以上であれば絡合性があり、適正な長さの繊維束を解繊することにより可溶化コラーゲン綿が得られる。
【0043】
可溶化コラーゲン繊維を紡糸するにつれて、有機溶媒S1及び親水性有機溶媒S2の含水率が上昇するので、有機溶媒S1及び親水性有機溶媒S2を新しい溶媒に交換して含水率を所定値以下に維持する必要がある。溶媒交換は、ポンプ等を用いて行えばよいが、溶媒の含水率を検出する測定装置及び駆動制御装置を用いて溶媒の溶媒槽への供給及び排出を制御することによって自動化できる。又、第1溶媒槽3から引き上げられる可溶化コラーゲン繊維F中の水は、延伸に伴って巻き取りロール11に圧接する際に繊維外に若干排出されるが、巻き取りロール11と第2溶媒槽13との間にローラー等の押圧手段を設けて可溶化コラーゲン繊維Fを軽く圧搾すると更に除去できるので、第2溶媒槽13における親水性有機溶媒S2の水分増加が緩和され、溶媒交換の頻度を減らすことが可能である。
【0044】
また、第1溶媒槽3中の有機溶媒S1を一定速度で緩やかに流動させると、コラーゲン水溶液からの水の拡散が安定化し、紡糸される繊維の均質性が向上する。例えば、コラーゲン水溶液の吐出方向と順方向又は逆方向に一定速度で有機溶媒S1が流れるようにポンプ等を用いて有機溶媒の供給/排出を行って、第1溶媒槽3から排出される有機溶媒中の水を濾過膜等で除去した後に第1溶媒槽3に還流するように構成すると、安定した紡糸を連続して行うことができる。更に、上述の実施形態の変形として、溶媒槽中での紡糸に代えて、ノズルから吐出する可溶化コラーゲン水溶液に有機溶媒を噴霧して凝固させるような紡糸を行うことも可能である。但し、吐出方向と交差する方向の力がコラーゲン水溶液に加わると紡糸中のコラーゲン繊維が切断されるので、繊維を切断しないように有機溶媒の噴霧方向や噴霧形態について留意する必要がある。
【0045】
上述の方法により得られる可溶化コラーゲン綿は、化粧料用の水性液に接触・混合すれば、素早く溶解してコラーゲン化粧料となる。水性液は、コラーゲンを溶解した状態でのpHがコラーゲンの等イオン点から外れるような水を主体とする液体であれば良く、基本的に水のみであってもよい。但し、純水に対する溶解性はコラーゲン自体の緩衝作用によって低下するが、この点は、電解質の存在によって解消され、酸、塩基、中和塩、緩衝塩等の電解質を少量添加することにより水性液への溶解性が向上する。特に、クエン酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、燐酸ナトリウム等の弱酸性〜中性にpHを安定させる緩衝塩(つまり弱酸と強塩基との塩)を水性液に添加して水性液のpHを約5.5〜9.0にすると、コラーゲン繊維の溶解を安定化でき、平均繊度が10dtx程度以下のコラーゲン繊維は30秒以内で容易に溶解することができる。但し、過剰の塩は、塩析作用によりコラーゲンを水性液に溶け難くする。電解質は、コラーゲン繊維に含まれていても良く、電解質を含む可溶化コラーゲン水溶液を用いてコラーゲン繊維を調製すると、電解質を含有する可溶化コラーゲン繊維が得られる。この点に関して、可溶化処理後の脱塩が完全でないために塩が残存する可溶化コラーゲンを原料として使用することは、本発明においては許容される。
【0046】
又、水性液へのコラーゲンの溶解を妨げない範囲で、必要に応じて、化粧料に一般的に添加される種々の成分を水性液へ添加でき、例えば、ブタンジオール、ペンタンジオール、グリセロール、ヒアルロン酸、尿素等の保湿剤、p−ヒドロキシ安息香酸メチル、フェノキシエタノール等の保存料(防腐剤)、アロエエキス等の植物抽出物、エタノール等のアルコール系溶剤、紫外線吸収剤、ビタミン類、抗炎症剤、オリーブ油等の油脂類、脂肪酸類などや、美容上の効能を有する各種機能成分が挙げられる。得られる化粧料のコラーゲン含有量が0.01〜10質量%程度、特に0.1〜3質量%程度となるようにコラーゲン繊維と水性液とを組み合わる割合を設定すると、均一に溶解した化粧料が迅速に得られ、化粧料として好適に作用するので好ましい。
【0047】
上述の水性液の要件によれば、市販の化粧水や化粧液なども水性液に包含され、本願における可溶化コラーゲン繊維及び綿は、市販の化粧水や化粧液にも素早く溶解する。従って、使用者は、好みに応じて化粧水や化粧液を選択し、これとコラーゲン繊維又は綿とを合わせることによって簡単にコラーゲン化粧料を調製できる。つまり、使用者の要望を満足するコラーゲン化粧料を新鮮な状態で使用者に随時提供することが可能であり、使用者の肌質に応じて好適な化粧料に調合できる。従来のコラーゲン化粧料のような冷温保存も不要であり、化粧料の調合に要する時間が短かいので、使用に際して時間的な制限がなく、使用者のニーズに従って適時使用することができる。
【0048】
溶解した後のコラーゲン化粧料は通常の水溶液状態のコラーゲン化粧料と同様に変性し易い。しかし、前述の可溶化コラーゲン繊維の調製において有機溶媒としてアルコールを用いた処理はコラーゲンの殺菌効果があるので、無菌空気での乾燥を経て得られる可溶化コラーゲン繊維は雑菌に汚染されていない。しかも、乾燥状態の可溶化コラーゲンは、溶液状態のものに比べて細菌やカビの繁殖が著しく抑制されるので、流通時の防腐のための処置を軽減できる。故に、保存料などのコラーゲン以外の成分を殆ど含まない化粧料の使用も可能である。
【0049】
更に、化粧料用の水性液についても、栄養価の高いコラーゲンから分離されているので保存料の添加量を少なくでき、防腐処置を軽減することができる。又、水性液は、コラーゲンに比べて滅菌が容易であるので、水性液を滅菌して無菌充填することにより防腐剤の添加が不要になる。
【0050】
本発明の可溶化コラーゲン繊維又は綿は、単独で販売したり、化粧料用の水性液と共に、個別の容器に各々封入して組み合わせて提供することができる。1回の使用量づつ分包することにより使用時の計量の手間が省略されるので、水性液の必要量を示す目盛りを付した容器に1回分の可溶化コラーゲン繊維又は綿を封入して提供すれば、使用者が化粧水等を用いて化粧料を調合する際の計量が簡単であり、常に好適な化粧料が得られる。また、軽く力を加えることによって破断可能な仕切り片で遮断された2つの収容区画を有する軟質容器に、水性液と可溶化コラーゲン繊維又は綿とを個別に封入すると、仕切り片を破断してこれらを接触・混合することによって溶解できるので、簡単に使用でき、混合割合を調節する必要もない。
【0051】
以下に、本発明の化粧料及びその製造について、実施例を参照して更に詳細に説明する。
【実施例1】
【0052】
下記に従って可溶化コラーゲン繊維の試料を作成し、溶解に要する時間を測定した。尚、可溶化コラーゲン繊維の等イオン点は次のように確認した。
【0053】
(等イオン点の測定)
予め活性化及び洗浄した陽イオン交換樹脂(アンバーライトIPR−120B、オルガノ(株)社製)と陰イオン交換樹脂(アンバーライトIPA−400、オルガノ(株)社製)とを2:5の割合で混合して混床イオン交換体を調製した。混床イオン交換体100mlを脱イオン水で平衡化させた後、タンパク質濃度が5%になるように調製した試料溶液を50ml加えて、40℃の水浴中に保持して30分間穏やかに攪拌して混合し、混合液から上澄みを分離して上澄みのpHを測定して、その値を等イオン点とした(J.W.Janus, A.W.Kenchington and A.G. Ward, Research, 4247(1951)に記載される方法を参考とした)。
【0054】
(試料1)
<可溶化コラーゲン水溶液の調製>
ブタの塩蔵皮を原料として、石灰漬けを行った。詳細には、半裁したブタの塩蔵皮1枚(約4kg)を3cm角程度の皮片に裁断し、その質量に対して300%の水及び0.6%の非イオン性界面活性剤を加えて攪拌することによって皮片を洗浄し、皮片を回収した。次いで、皮片質量に対して300%の水、0.6%の非イオン性界面活性剤及び0.75%の炭酸ナトリウムを加えて2時間攪拌して皮片を回収した。更に、皮片質量に対して700%の水を用いた洗浄を、回収した皮片に対して2回行った後、皮片質量に対して300%の水、0.15%の非イオン性界面活性剤、3.6%の水硫化ナトリウム、0.84%の硫化ナトリウム及び2.4%の水酸化カルシウムを加えて16時間攪拌し、皮片を回収して、皮片質量に対して700%の水を用いた洗浄を3回行った。
【0055】
水酸化ナトリウム6質量%、硫酸ナトリウム15質量%及びモノメチルアミン1.25質量%を含有する水溶液8000gを調製し、上記皮片2000g(乾燥質量として約500g)を投入してよく攪拌混合した。これを密閉容器中で25℃に保持して5日間イキュベートすることによりコラーゲンを可溶化した。水溶液を穏やかに攪拌しながら水溶液中のアルカリと等量の硫酸を少量ずつ滴下して中和し、pHを4.8に調整した。中和後の皮片を取り出し、圧搾して液を除去し、pH5.0の乳酸水溶液約8000gを用いて30分間攪拌した後、皮片を圧搾して脱水した。この操作をさらに4回繰り返して行い、十分に脱塩した。中和の段階で皮片は可溶化コラーゲンの等イオン点付近のpHに調整されているため、コラーゲンは可溶化されているが、脱塩操作の後もほとんど水に溶解せず皮片の形状を保持していた。
【0056】
脱塩後の皮片のコラーゲン含有量をキエルダール法による総窒素測定の結果から算出し、このコラーゲン含有量に基づいて、脱塩後の皮片からコラーゲン質量120gに相当する分量を取分け、コラーゲン濃度が4.4質量%、乳酸ナトリウム濃度が1.2質量%となるように水及び乳酸ナトリウムを加えてよく混練し、可溶化コラーゲン水溶液4000gを得た。次いで、少量の20%水酸化ナトリウム水溶液を加えて混練することによりpHを6.7に調整した。
【0057】
<可溶化コラーゲン繊維の製造>
図1に示す構造の製造装置1のタンク5に、上述で得た可溶化コラーゲン水溶液4000gを収容し、長さが3m、幅10cmの第1溶媒槽3に有機溶媒としてイソプロパノール18Lを収容した。ギアポンプ9を作動させて、水平方向に向けられたノズル7の吐出孔(孔径:0.10mm、孔数:1000)から可溶化コラーゲン水溶液を38g/分の割合(吐出速度:4.8m/分)で有機溶媒に吐出させた。イソプロパノール中で紡糸された可溶化コラーゲン繊維の束は、巻き取りロール11によって5m/分の巻き取り速度で巻き上げ、イソプロパノール5.0Lを収容した第2溶媒槽13に浸漬した。
【0058】
第2溶媒槽13中の可溶化コラーゲン繊維の束を引き上げ、90cm程度に切断して水平な棒にかけて、無荷重で緊張がかからない状態で無菌空気を送風して十分乾燥することにより、平均繊度が3.7dtx(但し、繊維の両端10mを除く)で自然な捲縮がある可溶化コラーゲン繊維の束50g(等イオン点:pH4.9)を得た。尚、繊度は、繊度計(DENIEL COMPUTER DC-11A、SEARCH CO. LTD社製)を用いて、20℃、65%RHの環境下で1サンプル当たり20本測定し、平均値を算出した。この可溶化コラーゲン繊維を脱イオン水に溶解した0.5質量%溶液のpHは7.1であった。又、可溶化コラーゲン繊維中の脂質量をJIS K6503:(2001)5.6「油脂分」のヘキサン抽出法に従って測定したところ、0.1質量%未満であった。
【0059】
<化粧料の調合>
1,2−ペンタンジオール5.0質量%、グリセリン5.0質量%、1,3−ブチレングリコール3質量%、クエン酸ナトリウム0.66質量%、クエン酸0.03質量%及び残部が滅菌水からなる化粧料用の水性液(pH約6.6)を調製した。
【0060】
前述の可溶化コラーゲン繊維の束を35mmの長さに切断して、その一部をハンドカード機を用いて解繊してコラーゲン綿を調製し、繊維束及び綿の各々をコラーゲンサンプルとして、以下の化粧料の調合に用いた。
【0061】
手のひら上でコラーゲンサンプル10mgに上記水性液1gを加えて指先で馴染ませて溶かし、コラーゲンサンプルが完全に溶解するまでの時間を計測した。各サンプルについて、計測は5回繰り返し、得られた計測値から最小値、最大値、平均値及び中央値を求めた。結果を表1に示す。
【0062】
(試料2)
試料1の可溶化コラーゲン水溶液の調製において、加える水量を変えてコラーゲン濃度を5.1質量%に調整し、可溶化コラーゲン水溶液のpHをpH6.9とした点、及び、可溶化コラーゲン繊維の製造においてドラフト(吐出速度に対する巻き取り速度の比)を0.60に変更した点以外は試料1と同じ操作を繰り返して可溶化コラーゲン繊維の束を製造したところ、得られた繊維の収量はほぼ同じであったが、平均繊度は7.3dtxであった。この可溶化コラーゲン繊維を脱イオン水に溶解した0.5質量%溶液のpHは7.3であった。
【0063】
得られた可溶化コラーゲン繊維の束を35mmの長さに切断して、その一部をハンドカード機を用いて解繊してコラーゲン綿を調製し、繊維束及び綿の各々をコラーゲンサンプルとして、試料1と同様に化粧料の調合に用いてコラーゲンサンプルが完全に溶解するまでの時間を計測した。結果を表1に示す。
【0064】
(試料3)
試料2の可溶化コラーゲン繊維の製造において、ノズルの孔径が0.05mmのものを用い、ドラフト(吐出速度に対する巻き取り速度の比)を0.64に変更した点以外は試料2と同じ操作を繰り返して可溶化コラーゲン繊維の束を製造したところ、得られた繊維の収量はほぼ同じであったが、平均繊度は2.5dtxであった。この可溶化コラーゲン繊維を脱イオン水に溶解した0.5質量%溶液のpHは7.3であった。
【0065】
得られた可溶化コラーゲン繊維の束を35mmの長さに切断して、その一部をハンドカード機を用いて解繊してコラーゲン綿を調製し、繊維束及び綿の各々をコラーゲンサンプルとして、試料1と同様に化粧料の調合に用いてコラーゲンサンプルが完全に溶解するまでの時間を計測した。結果を表1に示す。
【0066】
(試料4)
試料1の可溶化コラーゲン水溶液の調製において、加える水量を変えてコラーゲン濃度を5.0%に調整し、可溶化コラーゲン水溶液のpHをpH7.1にした点、及び、可溶化コラーゲン繊維の製造において繊維を巻き取らなかった点以外は同じ操作を繰り返して可溶化コラーゲン繊維の束を製造したところ、得られた繊維の収量はほぼ同じであったが、平均繊度は10.4dtxであった。この可溶化コラーゲン繊維を脱イオン水に溶解した0.5質量%溶液のpHは7.5であった。
【0067】
得られた可溶化コラーゲン繊維の束を35mmの長さに切断して、その一部をハンドカード機を用いて解繊してコラーゲン綿を調製し、繊維束及び綿の各々をコラーゲンサンプルとして、試料1と同様に化粧料の調合に用いてコラーゲンサンプルが完全に溶解するまでの時間を計測した。結果を表1に示す。
【0068】
(試料5)
試料4の可溶化コラーゲン繊維の製造においてノズルを吐出孔の孔径が0.18mm(孔数:700)のものに変更したこと以外は同じ操作を繰り返して、巻き取らずに可溶化コラーゲン繊維の束を製造したところ、得られた繊維の収量はほぼ同じであったが、平均繊度は22.4dtxであった。この可溶化コラーゲン繊維を脱イオン水に溶解した0.5質量%溶液のpHは7.5であった。
【0069】
得られた可溶化コラーゲン繊維の束を35mmの長さに切断して、その一部をハンドカード機を用いて解繊してコラーゲン綿を調製し、繊維束及び綿の各々をコラーゲンサンプルとして、試料1と同様に化粧料の調合に用いてコラーゲンサンプルが完全に溶解するまでの時間を計測した。結果を表1に示す。
【0070】
(試料6)
試料1の可溶化コラーゲン水溶液の調製において可溶化コラーゲンに加える水量を減らすことによって、コラーゲン濃度を6質量%に変更した可溶化コラーゲン水溶液(pH:6.7、乳酸ナトリウム含有量:1.6質量%)を得た。
【0071】
上記の可溶化コラーゲン水溶液を用いて、試料5と同様にして、吐出孔の孔径が0.25mm(孔数:700)のノズルから可溶化コラーゲン水溶液を吐出し、巻き取らずに可溶化コラーゲン繊維の束を製造したところ、得られた繊維の収量はほぼ同じであったが、平均繊度は41dtxであった。この可溶化コラーゲン繊維を脱イオン水に溶解した0.5質量%溶液のpHは6.9であった。
【0072】
得られた可溶化コラーゲン繊維の束を35mmの長さに切断して、その一部をハンドカード機を用いて解繊してコラーゲン綿を調製し、繊維束及び綿の各々をコラーゲンサンプルとして、試料1と同様に化粧料の調合に用いてコラーゲンサンプルが完全に溶解するまでの時間を計測した。結果を表1に示す。
【0073】
(表1)
可溶化コラーゲンの溶解に要する時間(秒)
最小値 最大値 平均値 中央値
試料3(2.5dtx)
繊維束 10 12 11 11
綿 8 12 10 11
試料1(3.7dtx)
繊維束 15 33 21 18
綿 12 33 20 17
試料2(7.3dtx)
繊維束 27 33 30 30
綿 18 23 21 22
試料4(10.4dtx)
繊維束 37 80 51 40
綿 20 62 30 23
試料5(22.4dtx)
繊維束 85 195 139 144
綿 62 116 93 88
試料6(41.0dtx)
繊維束 − − − −
綿 − − − −

試料6においては、繊維束及び綿の何れも5分以内には水性液に完全に溶解せず、好適な化粧料は得られなかった。
【0074】
繊維束及び綿の何れの場合も、可溶化コラーゲン繊維の繊度が小さくなると、溶解に要する時間が急激に減少する。但し、10dtxより大きい範囲では、溶解に要する時間は、繊維束と綿とでは異なり、その差は繊度が小さくなるに従って減少し、10dtx以下においては繊維束と綿とで殆ど差がなくなる。つまり、10dtx以下の可溶化コラーゲン繊維は、解繊しない繊維束のままでも素早く溶解する。この結果を特許第2840954号に記載されるスポンジ状コラーゲンが溶解に3分を要することと比べると、本願においては可溶化コラーゲン繊維の溶解時間が極めて短いことが明らかである。
【実施例2】
【0075】
(試料7)
試料1の可溶化コラーゲン繊維の製造において、第2溶媒槽から引き上げた繊維の束を乾燥する際に束の両端におもりを付けて引っ張り負荷をかけたこと以外は同じ操作を繰り返すことによって可溶化コラーゲン繊維の束を得た。得られた可溶化コラーゲン繊維は捲縮のないまっすぐな繊維であった。
【0076】
得られた可溶化コラーゲン繊維の束を10〜35mmの長さに切断して、切断した繊維束を各々ハンドカード機を用いて解繊してコラーゲン綿を調製した。
【0077】
得られたコラーゲン綿を、各々、小袋に一旦収納した後に再度取り出して、小袋に残った繊維(ロス)の有無を調べた。又、まとまり易さの指標として、コラーゲン綿を取り扱った時の繊維屑の脱落の有無を調べた。結果を表2に示す。
【0078】
(試料8)
試料1と同様の操作によって可溶化コラーゲン繊維束を得た。この繊維束を30mmの長さに切断し、ハンドカード機を用いて解繊してコラーゲン綿を調製した。
【0079】
得られたコラーゲン綿について、試料7と同様にして繊維のロス及び繊維屑の脱落の有無を調べた。結果を表2に示す。
【0080】
(表2)
可溶化コラーゲン綿の状態
繊維長 繊維ロス 屑の脱落 外観
試料7
10mm 有り 有り 繊維屑に近い
15mm 有り 有り 繊維屑に近い
20mm 有り 有り 繊維屑に近い
25mm 有り ほぼ無し 向きが偏り易い
30mm 有り ほぼ無し 向きが偏り易い
35mm 有り 無し 向きが偏り易い
試料8
30mm ほぼ無し 無し 柔軟な綿状

表2によれば、捲縮しない真直なコラーゲン繊維の場合、繊維長が20mm以下であると、外観が繊維屑に近く、絡合性も低いため脱落し易く、良好な綿に成り難いので、真直な繊維を取り扱い易い綿に加工するには繊維長を25mm以上にする方がよいことが解る。捲縮したコラーゲン繊維は絡合性を備えるので、柔軟で膨らみのある綿を形成し易く、良好な綿になる繊維長の下限は真直な繊維よりも短くなる。
【実施例3】
【0081】
実施例2の試料8で調製した繊維長が30mmで捲縮した可溶化コラーゲン繊維からなるコラーゲン綿について、市販の化粧水又は美容液を化粧料用水性液として用いて、実施例1と同様の方法で化粧料の調合を行って、コラーゲン綿の溶解に要する時間を計測し、化粧水及び美容液に対する溶解性を調べた。結果を表3に示す。尚、表中の溶解性において、「A」は、溶解に要する時間の中央値が20秒以下、「B」は、20秒を超え30秒以下であることを示す。
【0082】
(表3)
化粧水及び美容液に対する溶解性
製品のpH 溶解性 溶解後のpH
化粧水1 4.52 B 5.46
化粧水2 5.34 B 6.19
化粧水3 5.75 A 5.87
化粧水4 5.80 A 5.84
化粧水5 5.82 A 5.93
化粧水6 6.10 A 6.36
化粧水7 6.10 A 6.20
化粧水8 6.40 A 6.46
化粧水9 6.45 A 6.60
化粧水10 6.58 A 6.60
化粧水11 6.70 A 6.81
化粧水12 7.22 A 7.16
化粧水13 7.70 A 7.55
化粧水14 7.97 A 7.95
美容液1 5.90 B 6.77
美容液2 6.10 A 6.40
美容液3 6.13 B 6.51

表3から解るように、コラーゲン綿は、pH4.5〜8.0の範囲の市販の化粧水及び美容液の何れにも素早く溶ける。但し、pHが低い化粧水1及び化粧水2については、透明にはならなかったが、均一に分散された状態で、実用上は問題なかった。
【実施例4】
【0083】
(試料9)
<可溶化コラーゲン水溶液の調製>
試料1と同様にブタの塩蔵皮を皮片に裁断して石灰漬けした。得られた皮片を孔径16mmのチョッパーにかけた後、磨砕機(マスコロイダー、増幸産業株式会社製)でペースト状にした。ペースト状のブタ皮をエタノールを用いて脱脂処理した後に乾燥した。この乾燥物から100gの分量を取分け、1900gの脱イオン水を加えて、ミキサーで攪拌しながら塩酸を加えてpHを3.0に調整した。これに酸性プロテアーゼ製剤(デナプシン2P、ナガセケムテックス株式会社製)20gを加え、25℃で24時間攪拌を続けてコラーゲンを可溶化した。得られた可溶化コラーゲン水溶液に2N水酸化ナトリウムを加えてpHを9〜10に調整した後、無水コハク酸40gをアセトンに溶解して添加し、10℃でpHを9〜10に調整しながら2時間反応(サクシニル化)させた。反応終了後、塩酸を用いて反応溶液のpHを4.5に調整してコラーゲンを沈澱させた。これを3000Gで10分間遠心分離して沈澱物を回収し、エタノールで洗浄して乾燥することによりサクシニル化された可溶化コラーゲン乾燥物を得た。この乾燥物から60gの分量を取分けて、乳酸ナトリウム29g及び水1920gを加えて攪拌し、コラーゲン濃度が4.5質量%の可溶化コラーゲン水溶液(pH6.8、乳酸ナトリウム濃度:1.2質量%)を得た。
【0084】
<可溶化コラーゲン繊維の製造>
上記の可溶化コラーゲン水溶液を用いて、試料1と同様の装置及び操作で可溶化コラーゲン繊維を製造したところ、平均繊度が4.1dtxの可溶化コラーゲン繊維の束50g(等イオン点:pH4.5)を得た。この可溶化コラーゲン繊維を脱イオン水に溶解した0.5質量%溶液のpHは7.2であった。
【0085】
<化粧料の調合>
得られた可溶化コラーゲン繊維の束を35mmの長さに切断して、その一部をハンドカード機を用いて解繊してコラーゲン綿を調製し、繊維束及び綿の各々をコラーゲンサンプルとして、実施例1と同様に化粧料の調合に用いてコラーゲンサンプルが完全に溶解するまでの時間を計測した。その結果、5回の計測値の中央値は、20秒(繊維束)及び19秒(綿)であった。
【0086】
(試料10、11)
<可溶化コラーゲン水溶液の調製>
可溶化コラーゲン水溶液のpH調整においてpH4.0(試料10)又はpH7.8(試料11)に調整したこと以外は試料1と同様の操作を行って、コラーゲン濃度が4.4質量%、乳酸ナトリウム濃度1.2質量%の可溶化コラーゲン水溶液を得た。
【0087】
<可溶化コラーゲン繊維の製造>
上記可溶化コラーゲン水溶液を用いて、試料1と同様に可溶化コラーゲン繊維を製造したところ、平均繊度が3.7dtxの可溶化コラーゲン繊維の束50g(等イオン点:pH4.9)を得た。
【0088】
<化粧料の調合>
得られた可溶化コラーゲン繊維の束を用いて、試料1と同様に繊維束及び綿を調製し、各々、化粧料用水性液に完全に溶解するまでの時間の計測を試みたところ、試料10では何れも5分以内には溶解せず、試料11では、19秒(繊維束)及び10秒(綿)であった(中央値)。試料10の可溶化コラーゲン繊維を脱イオン水に加えて時間をかけて溶解した0.5質量%溶液のpHは4.2であった。試料11の可溶化コラーゲン繊維を脱イオン水に溶解した0.5質量%溶液のpHは8.2であった。
【実施例5】
【0089】
(試料12)
<可溶化コラーゲン水溶液の調製>
試料1と同様に調製した可溶化コラーゲン水溶液について、サクシニル化反応後に塩酸でpH4.0に調整した以外は試料9と同様の方法でサクシニル化処理を施してサクシニル化コラーゲン乾燥物を得、これに水と乳酸ナトリウムとを加えた後、微量の乳酸を加えてpHを調整して、コラーゲン濃度が4.5質量%の可溶化コラーゲン水溶液(pH5.5、乳酸ナトリウム濃度:1.2質量%)を得た。
【0090】
<可溶化コラーゲン繊維の製造>
上記の可溶化コラーゲン水溶液を用いて、試料1と同様の装置及び操作で可溶化コラーゲン繊維を製造したところ、平均繊度が4.0dtxの可溶化コラーゲン繊維の束50g(等イオン点:pH4.0)を得た。この可溶化コラーゲン繊維を脱イオン水に溶解した0.5質量%溶液のpHは5.5であった。
【0091】
<化粧料の調合>
得られた可溶化コラーゲン繊維の束を用いて、実施例1と同様に繊維束及び綿を調製し、各々、化粧料用水性液に完全に溶解するまでの時間の計測を試みたところ、17秒(繊維束)及び10秒(綿)であった(中央値)。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】本発明における可溶化コラーゲン繊維を製造するための装置の一例を示す概略構成図。
【符号の説明】
【0093】
1 製造装置、3 第1溶媒槽、5 ピストンタンク、7 ノズル、
9 ギアポンプ、11 巻き取りロール、13 第2溶媒槽、
S1 有機溶媒、S2 親水性有機溶媒、A 可溶化コラーゲン水溶液、
F 可溶化コラーゲン繊維

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性液に溶解してコラーゲン化粧料を調製するための可溶化コラーゲン繊維であって、等イオン点がpH5.0以下であり、平均繊度が10dtx以下であり、脱イオン水に0.5質量%の割合で溶解した時のpHが5.5以上を示す可溶化コラーゲン繊維。
【請求項2】
平均繊維長が2.5cm以上である請求項1記載の可溶化コラーゲン繊維。
【請求項3】
捲縮がある請求項1又は2記載の可溶化コラーゲン繊維。
【請求項4】
綿状に絡み合った請求項1〜3の何れかに記載の可溶化コラーゲン繊維。
【請求項5】
pHを弱酸性〜中性に安定させる緩衝塩を含有するpHが5.5〜9.0の水性液と、別体として組み合わされる請求項1〜4の何れかに記載の可溶化コラーゲン繊維とを有し、前記水性液に前記可溶化コラーゲン繊維を溶解した時のコラーゲン含有量が0.01〜10質量%となる割合で組み合わされるコラーゲン化粧料。
【請求項6】
等イオン点がpH5.0以下である可溶化コラーゲンを調製する工程と、
前記可溶化コラーゲンを含有し、前記可溶化コラーゲンの等イオン点よりpHが大きい可溶化コラーゲン水溶液を調製する工程と、
前記可溶化コラーゲン水溶液を有機溶媒中に糸状に吐出し可溶化コラーゲンを凝固させて繊維化する紡糸工程と、
紡糸される前記可溶化コラーゲン繊維を前記可溶化コラーゲン水溶液の吐出速度の0.6倍以上の巻き取り速度で巻き取って延伸する延伸工程と、
延伸された前記可溶化コラーゲン繊維を含水率が5質量%以下の親水性有機溶媒に浸漬する工程と、
浸漬工程後の可溶化コラーゲン繊維を乾燥する乾燥工程と
を有することを特徴とする可溶化コラーゲン繊維の製造方法。
【請求項7】
前記可溶化コラーゲン水溶液は、コラーゲン含有量が7質量%以下でpHが5.5以上であり、前記紡糸工程において、前記可溶化コラーゲン水溶液は、孔径が約0.18mm以下の吐出孔から前記有機溶媒中に吐出されて1〜15dtxの平均繊度で紡糸され、前記延伸工程における前記吐出速度に対する前記巻き取り速度の比は、1より大きく1.5以下である請求項6記載の可溶化コラーゲン繊維の製造方法。
【請求項8】
前記乾燥工程において、前記可溶化コラーゲン繊維に実質的に引っ張り負荷をかけることなく乾燥することによって前記可溶化コラーゲン繊維を捲縮する請求項6又は7記載の可溶化コラーゲン繊維の製造方法。
【請求項9】
前記乾燥工程中の可溶化コラーゲン繊維に引っ張り負荷を加える工程を有する請求項6又は7記載の可溶化コラーゲン繊維の製造方法。
【請求項10】
前記紡糸工程において、複数の前記可溶化コラーゲン繊維が束状に紡糸され、更に、前記乾燥工程の後に、束状の前記可溶化コラーゲン繊維を所定の長さに切断する工程と、束状の前記可溶化コラーゲン繊維を綿状に解繊する工程とを有する請求項6〜9の何れかに記載の可溶化コラーゲン繊維の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−342472(P2006−342472A)
【公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−171263(P2005−171263)
【出願日】平成17年6月10日(2005.6.10)
【出願人】(591189535)ホクヨー株式会社 (37)
【Fターム(参考)】