可視光応答型光触媒の製造方法、および光触媒担持構造体
【課題】
製紙スラッジなどに含まれる結晶性の酸化チタンや、顔料用などとして広く利用されている光触媒活性の低い酸化チタンをそのまま使用して、可視光応答型光触媒を簡便且つ効率よく製造する方法、及び、基体上に、前記可視光応答型光触媒の層を有する光触媒担持構造体を提供する。
【解決手段】
チタン酸塩を含有する物質を窒素含有化合物および遷移金属含有化合物の中から選ばれる少なくとも一種と接触させる工程(I)、および、得られた接触物を、酸化的雰囲気下で300〜700℃に加熱するか、または、酸処理する工程(II)を含むことを特徴とする可視光応答型光触媒の製造方法、並びに、基体と、該基体表面に、前記製造方法により得られた可視光応答型光触媒を含有する光触媒層を有する光触媒担持構造体。
製紙スラッジなどに含まれる結晶性の酸化チタンや、顔料用などとして広く利用されている光触媒活性の低い酸化チタンをそのまま使用して、可視光応答型光触媒を簡便且つ効率よく製造する方法、及び、基体上に、前記可視光応答型光触媒の層を有する光触媒担持構造体を提供する。
【解決手段】
チタン酸塩を含有する物質を窒素含有化合物および遷移金属含有化合物の中から選ばれる少なくとも一種と接触させる工程(I)、および、得られた接触物を、酸化的雰囲気下で300〜700℃に加熱するか、または、酸処理する工程(II)を含むことを特徴とする可視光応答型光触媒の製造方法、並びに、基体と、該基体表面に、前記製造方法により得られた可視光応答型光触媒を含有する光触媒層を有する光触媒担持構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可視光線を照射することによって光触媒活性を発揮する光触媒の製造方法、及び、基体上に、直接又はその他の層を介して、前記光触媒の層を有する光触媒担持構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
光触媒に光を照射すると還元作用を持つ電子と酸化作用を持つ正孔が生成し、光触媒に接触した有機物等を酸化還元作用により分解することができる。そしてこのような光触媒を使用した、大気中のNOxの分解や、居住空間や作業空間での悪臭物質やカビなどの分解除去、水中の有機溶剤や農薬、界面活性剤などの分解除去などが検討されている。
【0003】
従来、光触媒に活性を発現させるには紫外線を照射することが必要であると考えられていたが、近年、可視光線を照射することによって触媒活性を示す酸化チタン(以下、「可視光応答型光触媒」ということがある。)が発見され、この可視光応答型光触媒の製造方法がいくつか提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、非晶質である水酸化チタンをアンモニア水に接触させた後、300〜600℃で焼成することにより可視光応答型光触媒を製造する方法が記載されている。
【0005】
特許文献2には、非晶質である酸化チタン前駆体をアンモニア含有ガス雰囲気下、300〜600℃で焼成することにより、可視光応答型光触媒を製造する方法が記載されている。
【0006】
特許文献3には、主に紫外線波長領域で高い光触媒活性を示すアナタース型酸化チタンと、主に可視光領域において高い光触媒活性を示すアナタース形酸化チタンが複合化した酸化チタン光触媒が記載されている。そこでは、このような光触媒の製造方法として、アンモニウム塩を含む非晶質オルソチタン酸中に、アナタースの結晶性を示すメタチタン酸を取り込み、オルソチタン酸から窒素ドープアナタース型酸化チタンが生成する条件下で焼成する方法が記載されている。
【0007】
特許文献4には、沈降成分量が全固形分量の10質量%未満であり、遷移金属化合物含有酸化チタンを含むゾル(光触媒粒子)が記載されている。この文献に記載の光触媒粒子は、波長400nm以上の光源下における光触媒能活性が高く、且つ、波長400nm以下の光源下における光触媒能についても良好であることも記載されている。
【0008】
以上のように、可視光応答型光触媒の製造方法として各種提案がなされているが、いずれの方法も可視光応答型光触媒をその前駆体から新たに合成するものであるためコストが高く、可視光応答型光触媒を低コストで簡便且つ効率よく製造できるものではなかった。
【0009】
一方、酸化チタンは、顔料として塗料や紙製品に添加されて用いられている。紙製品の製造工程において発生する廃棄物である製紙スラッジにも酸化チタンが含まれており、この酸化チタンを光触媒として利用することが検討されている。しかし、顔料として使われる酸化チタンは光触媒活性が低いものであり、また、可視光を照射しても光触媒活性を示すものではなかった。
【0010】
【特許文献1】特開2001−278626号公報
【特許文献2】特開2001−354422号公報
【特許文献3】特開2005−55746号公報
【特許文献4】特開2005−97096号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上述した従来技術の実情に鑑みてなされたものであり、製紙スラッジなどに含まれる安価な酸化チタンをそのまま使用して、可視光応答型光触媒を簡便且つ効率よく製造する方法、及び、基体上に、前記可視光応答型光触媒の層を有する光触媒担持構造体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決すべく、本発明者らは、製紙スラッジなどに含まれる酸化チタンを水酸化ナトリウム水溶液で加熱処理することで、陽イオン交換能を有するチタン酸塩を得た。そして、このチタン酸塩をアンモニウム塩や遷移金属塩の水溶液で処理した後、焼成するか、又は酸で処理することにより、可視光応答型酸化チタンを効率よく製造することが出来ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
かくして本発明の第1によれば、下記(1)〜(5)の可視光応答型光触媒の製造方法が提供される。
(1)チタン酸塩を含有する物質を窒素含有化合物および遷移金属含有化合物の中から選ばれる少なくとも一種と接触させる工程(I)、および、得られた接触物を、酸化的雰囲気下で300〜700℃に加熱するか、または、酸処理する工程(II)を含むことを特徴とする可視光応答型光触媒の製造方法。
(2)チタン酸塩が、酸化チタンをアルカリ処理することにより得られたものである(1)に記載の可視光応答型光触媒の製造方法。
(3)前記酸化チタンとして、アナターゼ型またはルチル型の酸化チタンを用いる(2)に記載の可視光応答型光触媒の製造方法。
【0014】
(4)前記アルカリ処理が、酸化チタン、珪素化合物、およびアルミニウム化合物を含む混合物をアルカリ処理するものである(2)または(3)に記載の可視光応答型光触媒の製造方法。
(5)前記アルカリ処理が、酸化チタンを含有する、製紙スラッジまたは製紙スラッジ焼却灰を、アルカリ処理するものである(2)〜(4)のいずれかに記載の可視光応答型光触媒の製造方法。
【0015】
本発明の第2によれば、下記(6)の光触媒担持構造体が提供される。
(6)基体と、該基体表面に、前記(1)〜(5)のいずれかに記載の製造方法により得られた可視光応答型光触媒を含有する光触媒層を有する光触媒担持構造体。
【発明の効果】
【0016】
本発明の製造方法によれば、製紙スラッジなどに含まれる酸化チタンをそのまま使用して、可視光応答型光触媒を、簡便且つ効率よく、低廉な製造コストで製造することができる。
【0017】
本発明の製造方法は、いわゆるドープ法と称される可視光応答型光触媒の製造方法の1種であって、製紙スラッジなどに含まれる酸化チタンをそのまま使用可能な方法である。したがって、本発明の製造方法は、塩化チタンなどから水酸化チタン(非晶質)を経て可視光型(紫外光型)酸化チタンを製造する方法のように、原料の加水分解時の塩素発生などによる危険もなく、簡単な方法で合成が可能であるため、通常の化学プラントで対応可能である。
【0018】
また、従来のカチオンドープ法としては、イオン注入法という方法が主流であったが、この方法によって可視光応答型光触媒を製造することは、高コストであり、しかも量産が困難である。一方、本発明によれば、低廉されたコストで可視光応答型光触媒を量産することが可能である。
【0019】
本発明の製造方法によれば、酸化チタンにおけるTi−OのO(酸素)の一部を、Nなどのアニオンと置き換えてアニオンドープタイプの可視光型や、Ti−OのTiの一部をCuやFeなどのカチオンで置き換えてカチオンドープタイプの可視光型、Ti−OのTiの一部をCuなどのカチオンに、OをNなどのアニオンに置き換えてCo−dope(双ドープ)の可視光型を簡便な方法により製造することができる。
【0020】
本発明の光触媒担持構造体は、基体上に、直接又はその他の層を介して、本発明の可視光応答型光触媒の層を形成してなるものであるため、可視光線が照射されると優れた光触媒活性を発揮するとともに、低廉な製造コストで製造できるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明を、1)可視光応答型光触媒の製造方法、及び、2)光触媒担持構造体に項分けして詳細に説明する。
本発明において、「可視光応答型光触媒」とは、波長450nm〜780nmの可視光線が照射されると、光触媒活性を発揮する性質を有する酸化チタン化合物をいう。
また、本発明における「可視光応答型光触媒」には、波長450nm〜780nmの可視光線のみならず、波長450nm未満の紫外線が照射された場合にも光触媒活性を発揮する性質を併せ持つ酸化チタン化合物も含む。
【0022】
1)可視光応答型光触媒の製造方法
本発明の可視光応答型光触媒の製造方法は、チタン酸塩を含有する物質を窒素含有化合物および遷移金属含有化合物の中から選ばれる少なくとも一種と接触させる工程(I)、及び、得られた接触物を酸化的雰囲気下で300〜700℃に加熱するか、又は酸処理する工程(II)を含むことを特徴とする。
【0023】
(1)チタン酸塩
本発明に用いるチタン酸塩の具体例としては、三チタン酸、四チタン酸、五チタン酸、六チタン酸、七チタン酸、八チタン酸等のプロトンを含む多価チタン酸;チタン酸カリウム、チタン酸カルシウム、チタン酸セシウム、チタン酸ナトリウム、チタン酸マグネシウム、チタン酸アルミニウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウム等の多価チタン酸塩;などが挙げられる。
【0024】
チタン酸塩としては、酸化チタンをアルカリ処理することにより得られたものが好ましい。
酸化チタンとしては、結晶性を有する酸化チタンが好ましく、その結晶型に特に限定されない。例えば、アナターゼ型の酸化チタン、ルチル型の酸化チタン、ブルッカイト型の酸化チタン、これら2種以上の酸化チタンからなる混合物、などが挙げられる。
【0025】
また、本発明に用いる酸化チタンとしては、紫外線に対して光触媒活性の低い結晶性酸化チタン、紫外線に対して光触媒活性の高い結晶性酸化チタンのいずれであってもよい。
【0026】
前者の紫外線に対して光触媒活性の低い結晶性酸化チタンとしては、これまで活用されず廃棄されてきた、製紙スラッジなどに含まれる光触媒活性の低い安価な結晶性酸化チタンが挙げられる。
【0027】
本発明では、酸化チタンのアルカリ処理において、酸化チタン、珪素化合物、及びアルミニウム化合物を含む混合物のアルカリ処理を行うと、可視光応答型光触媒とゼオライトの複合体を得ることができる。
【0028】
珪素化合物としては、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸ガラスなどが挙げられ、アルミニウム化合物としては、アルミナ(Al2O3)、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、塩化アルミニウムなどが挙げられる。
珪素化合物とアルミニウム化合物の添加量は、特に限定されないが、通常、酸化チタン100質量部に対して、珪素化合物が10〜1000質量部、及びアルミニウム化合物が10〜1000質量部である。
【0029】
酸化チタンのアルカリ処理においては、酸化チタンを含有する製紙スラッジまたは製紙スラッジ焼却灰をアルカリ処理するものであることが好ましい。従来廃棄されてきた製紙スラッジまたは製紙スラッジ焼却灰を用いることにより、可視光応答型光触媒を安価に製造することができる。
【0030】
また、リン化合物、ジルコニウム化合物、カルシウム化合物、マグネシウム化合物、アルカリ土類金属およびセルロース系高分子からなる群から選ばれる少なくとも一種をさらに含む混合物をアルカリ処理するものであってもよい。
【0031】
後者の紫外線に対して光触媒活性の高い結晶性酸化チタンを使用する場合には、後述するように、紫外線に対して光触媒活性の高い結晶性酸化チタンの一部を、本発明の方法により可視光応答型光触媒に変換し、紫外線に対して光触媒活性の高い結晶性酸化チタンの残りをそのまま残すことにより、紫外光・可視光応答型光触媒を製造することができる。
【0032】
ここで、「紫外光・可視光応答型光触媒」とは、紫外線が照射されることにより光触媒活性を発揮するのと同時に、可視光線が照射されることによっても光触媒活性を発揮する性質を有する酸化チタン化合物をいう。
【0033】
酸化チタンをアルカリ処理するのに用いるアルカリとしては、無機塩基、有機塩基のいずれであってもよいが、効率よく目的とする可視光応答型光触媒を得る上では、無機塩基の使用が好ましい。
【0034】
無機塩基としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物;水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウムなどのアルカリ土類金属水酸化物;炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどのアルカリ金属炭酸塩;炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウムなどのアルカリ土類金属炭酸塩;などが挙げられる。これらの中でも、アルカリ金属水酸化物がより好ましく、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが特に好ましい。
【0035】
アルカリの使用量は、酸化チタン1質量部に対して、通常、0.1〜100質量部、好ましくは1〜50質量部である。
【0036】
酸化チタンをアルカリ処理する方法としては、酸化チタンとアルカリとが反応して、アルカリ処理物が得られる方法であれば特に限定されない。例えば、アルカリ水溶液に酸化チタンの所定量を添加し、全容を加熱して反応させる方法が挙げられる。
【0037】
用いるアルカリ水溶液の濃度は、通常、1〜20mol/リットル、好ましくは5〜15mol/リットルである。
反応温度は、通常20℃〜200℃、反応時間は、通常、1分から100時間である。
【0038】
酸化チタンをアルカリ処理した後は、アルカリ水溶液を遠心分離して固形分を回収し、蒸留水で洗浄し、再度遠心分離する操作を数回繰り返した後、回収した固形分を、30〜120℃で、10分から24時間乾燥することにより、アルカリ処理物を単離することができる。
【0039】
以上のようにしてチタン酸塩を得ることができる。チタン酸塩は使用するアルカリによって異なり、例えば、水酸化ナトリウムを用いると、チタン酸ナトリウムが得られる。得られるチタン酸塩はイオン交換能(陽イオン交換能)を有する。
【0040】
(2)工程(I)
工程(I)は、チタン酸塩を含有する物質を窒素含有化合物および遷移金属含有化合物の中から選ばれる少なくとも一種と接触させる工程である。
【0041】
用いる窒素含有化合物としては、前記アルカリ処理物と接触させることにより、酸化チタンの酸素原子の一部が窒素原子に置換した化合物を得ることができる物質であれば、特に限定されない。例えば、アンモニア水;塩化アンモニウム(NH4Cl)、硝酸アンモニウム(NH4NO3)、酢酸アンモニウム、硫酸アンモニウムなどのアンモニウム塩;などが挙げられる。
【0042】
用いる遷移金属含有化合物としては、前記アルカリ処理物と接触させることにより、酸化チタンのチタン原子の一部が遷移金属原子に置換した化合物を得ることができる物質であれば、特に限定されず、例えば、遷移金属塩が挙げられる。
【0043】
前記遷移金属塩の遷移金属としては、周期律表(長周期型)の、第4周期第3族〜第12族の金属、第5周期第3族〜第12族の金属、および第6周期第3族〜第12族の金属が挙げられ、第4周期第3族〜第12族の金属が好ましい。
より具体的には、スカンジウム、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛が挙げられる。
【0044】
前記遷移金属塩としては、遷移金属の無機塩、有機塩が挙げられる。
遷移金属の無機塩としては、フッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物などのハロゲン化物;硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩などの無機酸の塩;などが挙げられる。より具体的には、塩化第二鉄(III)(FeCl3)、硝酸第二鉄(Fe(NO3)3)、硫酸銅(CuSO4)、硝酸銅(Cu(NO3)2)、硝酸クロム(Cr(NO3)3)等が挙げられる。
遷移金属の有機塩としては、酢酸塩、シュウ酸塩、クエン酸塩等の有機酸の塩;アセチルアセトナート、アセトアセテートなどのキレート化合物;などが挙げられる。
【0045】
これらの窒素含有化合物及び遷移金属含有化合物は一種単独で、あるいは二種以上を組み合わせて、用いることができる。
【0046】
例えば、(a)アルカリ処理物を窒素含有化合物と接触させることによりTi−OのO(酸素)の一部がNなどのアニオンと置き換えられたアニオンドープタイプの可視光型や、(b)アルカリ処理物を遷移金属含有化合物と接触させることにより、Ti−OのTiの一部がCuやFeなどの遷移金属カチオンで置き換えられたカチオンドープタイプの可視光型、(c)アルカリ処理物を窒素含有化合物で処理し、さらに遷移金属含有化合物で処理することにより、Ti−OのTiの一部がCuなどの遷移金属カチオンに、Oの一部がNなどのアニオンに置き換えられたCo−dope(双ドープ)の可視光型を製造することができる。
【0047】
窒素含有化合物又は遷移金属含有化合物の使用量は、アルカリ処理物1質量部に対して、窒素含有化合物又は遷移金属含有化合物0.0005〜100質量部、好ましくは0.001〜10質量部である。
【0048】
窒素含有化合物又は遷移金属含有化合物は水溶液として用いるのが好ましい。用いる水溶液中における窒素含有化合物の濃度は、0.01〜10mol/リットル、好ましくは0.05〜5mol/リットル、より好ましくは0.5〜3mol/リットルである。
また、遷移金属含有化合物の濃度は0.0001〜10mol/リットル、好ましくは0.0005〜5mol/リットル、より好ましくは0.003〜1mol/リットルである。
【0049】
前記アルカリ処理物を窒素含有化合物および遷移金属含有化合物の中から選ばれる少なくとも一種(以下、「窒素含有化合物等」ということがある。)と接触させる方法としては、窒素含有化合物等の水溶液にアルカリ処理物を所定量添加して、全容を攪拌・振とうする方法が挙げられる。
【0050】
全容を攪拌・振とうするときの温度は、通常10〜50℃である。全容を攪拌・振とうする時間は、数分から数時間である。
【0051】
前記アルカリ処理物を窒素含有化合物等と接触させた後は、全容を遠心分離して固形分を回収し、蒸留水で洗浄し、再度遠心分離する操作を数回繰り返した後、回収した固形分を30〜200℃で乾燥することにより、接触物を単離することができる。
【0052】
(3)工程(II)
工程(II)は、工程(I)で得られた接触物を、酸化的雰囲気下で300〜700℃に加熱するか、または酸処理する工程である。
【0053】
工程(I)で得られた接触物を、酸化的雰囲気下で300〜700℃に加熱する方法としては、空気中で300〜700℃に加熱する方法や、酸素ガス及び不活性ガスからなる混合ガス中で300〜700℃に加熱する方法などが挙げられる。
加熱時間は、通常数分から数十時間、好ましくは30分から10時間である。
【0054】
工程(I)で得られた接触物を酸で処理する方法としては、工程(I)で得られた接触物を水に懸濁させ、そこへ、所定量の酸を添加し、全容を所定温度で攪拌する方法が挙げられる。また、工程(I)で得られた反応液から接触物を単離することなく、所定量の酸を添加し、全容を所定温度で攪拌することもできる。
【0055】
ここで用いる酸としては、塩酸(HCl)、硝酸(HNO3)、硫酸(H2SO4)、リン酸などの無機酸;や、ギ酸、酢酸などの有機酸;が挙げられる。また、用いる酸としては、水で希釈したものの使用が好ましい。酸の濃度は、0.01〜10mol/リットル、好ましくは0.1〜3mol/リットルである。
【0056】
前記接触物を酸で処理するときの温度は、通常10〜200℃であり、処理時間は、数分から50時間、好ましくは数分から12時間程度である。
【0057】
なお、この工程(II)の酸処理は、前記(I)の工程と同時に行ってもよい。すなわち、窒素含有化合物等と酸をアルカリ処理物に接触させてもよい。
【0058】
前記接触物を酸で処理した後においては、全容を遠心分離して固形分を回収し、蒸留水で洗浄し、再度遠心分離する操作を数回繰り返した後、回収した固形分を30〜120℃で乾燥することにより、目的とする可視光応答型光触媒を得ることができる。
目的物の同定は、元素分析、X線回折測定などによって行うことができる。
【0059】
前述したように、本発明においては、出発原料として紫外線に対して光触媒活性の高い結晶性酸化チタンを使用し、該結晶性酸化チタンの一部をアルカリ処理し、得られたアルカリ処理物を窒素含有化合物および遷移金属含有化合物の中から選ばれる少なくとも一種と接触させ、次いで、得られた接触物を酸化的雰囲気下で300〜700℃に加熱するか、又は酸処理することにより、紫外光・可視光応答型光触媒を製造することができる。
【0060】
紫外線に対して光触媒活性の高い結晶性酸化チタンの一部をアルカリ処理する方法、得られたアルカリ処理物を窒素含有化合物および遷移金属含有化合物の中から選ばれる少なくとも一種と接触させる方法、及び、得られた接触物を酸化的雰囲気下で300〜700℃に加熱するか、又は酸処理する方法は、上述した本発明の可視光応答型光触媒の製造方法の項で述べた方法と同様である。
【0061】
2)光触媒担持構造体
本発明の光触媒担持構造体は、基体と、該基体表面に、本発明の製造方法により得られた可視光応答型光触媒を含有する光触媒層を有することを特徴とする。
【0062】
本発明に用いる基体としては、本発明の光触媒を担持可能なものであれば特に制限されない。
基体の材質としては、例えば、セラミックス、ガラス、陶器、ほうろう、コンクリート等の無機質材料;合成樹脂、繊維類、紙類、木質材料等の有機質材料;鉄、アルミニウム、銅、ステンレス等の金属質材料;等が挙げられる。
【0063】
基体の形状としては、フィルム状、シート状、板状、管状、繊維状、網状等どのような形状のものでもよい。
基体の厚みは特に制限されないが、10μm以上のものであれば、表面に接着層及び光触媒層を強固に担持することができるので好ましい。
また、基体としては単層からなるものでも、積層体であってもよい。
【0064】
光触媒層は、基体に直接形成されていてもよいし、その他の層を介して形成されていてもよい。その他の層としては、基体と光触媒層との間に形成できるものであれば特に制限されない。例えば、後述する接着層が挙げられる。
【0065】
接着層は、基体と光触媒層との接着性を高めるとともに、光触媒により基体材料が劣化又は分解されるのを防止するために形成される。
【0066】
接着層は、直接又は他の層を介して、基体表面に接着層形成用組成物を塗布・乾燥することによって形成することができる。
【0067】
接着層形成用組成物は、少なくとも(a)アクリル−シリコン樹脂、エポキシ−シリコン樹脂などのシリコン変性樹脂;(b)コロイダルシリカあるいはポリシロキサンを含有する樹脂(アクリル樹脂、アクリル−シリコン樹脂、エポキシ−シリコン樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、アルキッド樹脂等);(c)シリコンアルコキシドの加水分解物あるいは該加水分解物からの生成物;の中から選ばれる1種又は2種以上の樹脂を、必要により適当な溶媒に溶解させて調製することができる。
【0068】
接着層形成用組成物に用いられる溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;メタノール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、t−ブチルアルコール等のアルコール類;酢酸エチル等のエステル類;及びこれらの混合溶媒等が挙げられる。
【0069】
また、前記接着層形成用組成物には、光触媒作用による劣化を抑制する目的で、光安定化剤及び/又は紫外線吸収剤等を配合することができる。
【0070】
用いる光安定化剤としてはヒンダードアミン系光安定化剤を、又、紫外線吸収剤としてはトリアゾール系紫外線吸収剤をそれぞれ例示することができる。光安定化剤及び/又は紫外線吸収剤の添加量は、上記樹脂に対して、0.005重量%〜10重量%の範囲が好ましい。
【0071】
接着層を基体表面に形成する方法としては、接着層形成用組成物をスプレーによる吹き付け法、ロールコーティング法、ディップコーティング法等により、基体材料表面にコートして塗膜を形成し、乾燥する方法が挙げられる。
塗膜の乾燥温度は、通常、20〜150℃、好ましくは80〜120℃である。
【0072】
得られる接着層の厚みには特に制限はないが、通常0.1μm〜10μmである。接着層の厚みが0.1μm以上であれば、光触媒層を強固に接着し、耐久性の高い光触媒担持構造体を形成することができる。
【0073】
本発明の光触媒担持構造体の光触媒層は、本発明の可視光応答型光触媒を含有する光触媒層形成用組成物から形成されてなる。光触媒層を形成する方法としては、例えば、光触媒層形成用組成物を含む塗工液を基体に塗工する方法が挙げられる。
【0074】
前記光触媒層形成用組成物中における可視光応答型光触媒の形態は、粉末状、ゲル状、溶液状等いずれであってもよいが、粉末状またはゲル状が好ましい。なかでも、ゲル状であって平均粒子径が50nm以下、好ましくは20nm以下のものは、光触媒層の透明性が向上し直線透過率が高くなるため、透明性を要求されるガラス基板やプラスチック成形体に塗布する場合に特に好ましい。
【0075】
可視光応答型光触媒の含有量は、前記光触媒層形成用組成物中の固形分全体に対して、酸化物に換算して、5重量%〜60重量%が好ましい。5重量%未満になると、光触媒活性が著しく低下する一方で、60重量%を越える場合には光触媒活性は高くなるものの、接着層との接着性が乏しくなる。
【0076】
前記光触媒層形成用組成物は、本発明の可視光応答型光触媒のほかに、金属酸化物のゲル又は金属水酸化物のゲルを含有していてもよい。金属酸化物のゲル又は金属水酸化物のゲルは、ケイ素酸化物若しくはケイ素水酸化物のゲル、並びにジルコニウム酸化物若しくはジルコニウム水酸化物のゲル、及び/又はアルミニウム酸化物若しくはアルミニウム水酸化物のゲルであるのが好ましい。
【0077】
光触媒層形成用組成物中の金属酸化物のゲルまたは金属水酸化物のゲルの含有量は特に制限されないが、優れた接着性及び耐候性を得る観点から、組成物全体に対して、0〜50重量%であるのが好ましい。
【0078】
光触媒層は、前記光触媒層形成用組成物を、基体表面又はその他の層上に塗布し、得られた塗膜を乾燥させることにより形成することができる。
【0079】
光触媒層形成用組成物は、可視光応答型光触媒、及び金属酸化物のゲル又は金属水酸化物のゲルを、適当な溶媒に分散または溶解させることにより、調製することができる。
【0080】
光触媒層形成用組成物の調製に用いる溶媒としては、例えば、水;メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブタノール、t−ブタノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセチルアセトン、シクロヘキサノン等のケトン類;ジエチルエーテル、メチルセルソルブ、テトラヒドロフラン等のエーテル類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;ジクロロメタン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素;酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等のエステル類;n−ペンタン、n−ヘキサン、シクロヘキサン等の飽和炭化水素;等が挙げられる。これらは1種単独で、あるいは2種以上を混合して用いることができる。これらの中でも、水−アルコール系溶媒の使用が特に好ましい。
【0081】
光触媒層形成用組成物を塗工する方法としては特に制限されず、公知の塗工法採用することができる。例えば、スプレーによる吹き付け法、ロールコーティング法、ディップコーティング法等が挙げられる。
【0082】
光触媒層形成用組成物を塗工して得られる塗膜を所定温度で乾燥することにより、光触媒層を形成することができる。
塗膜の乾燥温度は、通常、室温から150℃の範囲である。
【0083】
以上のようにして得られる光触媒層の乾燥後の厚みは0.05〜2μm、好ましくは0.5〜1.5μmである。光触媒層の厚みがこの範囲である場合に、光触媒層形成用組成物の塗膜表面にひび割れが生じたり、剥離することがないので好ましい。
【0084】
以上のようにして得られる本発明の光触媒担持構造体は、表面に透明で均一な膜質の光触媒 層を有する。本発明の光触媒担持構造体の光触媒層に可視光線が照射されることにより、悪臭物が表面に吸着するのを防止する機能(着臭防止機能)、ごみや塵が表面に付着するのを防止する機能(汚染防止機能)、アルデヒド類、アンモニア、アミン類等の悪臭物を分解する機能(悪臭物分解機能)等の優れた諸機能を発揮する。
【0085】
本発明の光触媒担持構造体は、例えば、ブラインド、カーテン、カーペット、各種家具類、照明器具等のインテリア部材;ドア、壁紙、窓ガラス、壁材等の建築部材;照明灯、道路灯、トンネル照明灯、高速道路や新幹線の遮音壁等の屋外部材;農ビフィルム、防草シート等の農業用部材;包装資材、船底・魚網防止塗料、水処理用充填剤、ブラックライト等に使用することができる。
【実施例】
【0086】
次に、実施例および比較例により本発明をさらに詳細に説明する。但し、本発明は実施例により何ら限定されるものではない。
【0087】
なお、下記の実施例及び比較例により得られたサンプルの、X線回折測定、紫外・可視光吸収スペクトル分析、及びアセトアルデヒドの分解試験は、下記のようにして行った。
【0088】
(1)X線回折測定(XRD分析)
XRD分析は、X線回折試験機(RINT2000、理学電器社製)を使用して行った。
【0089】
(2)紫外・可視光吸収スペクトルの測定(UV−VIS吸収スペクトル分析)
UV−VIS吸収スペクトルは、分光光度計(U−3500,日立製作所社製)を使用して行った。
なお、比較のために、顔料用アナターゼ型酸化チタンのUV−VIS吸収スペクトルの測定も行った(図9参照)。
【0090】
(3)アセトアルデヒド分解試験
アセトアルデヒド分解試験は、下記の2種類の条件で行った。
(a)アセトアルデヒド分解試験(1)
蛍光灯:27W蛍光灯(松下電器産業社製、照度1000ルクス)
UVカットフィルム:商品名:ObicC、キング製作所社製(400nm以下を遮蔽するもの)
反応容器:ガラス製200ml容器
反応物:アセトアルデヒドガス
【0091】
(実験条件)
図1に示すように、実施例及び比較例で得られたサンプル1〜4の各0.1gを反応容器内に入れ、反応容器内の濃度が1000ppmになるようにアセトアルデヒドガスを注入し、吸着平衡に達した後、UVカットフィルムを通して蛍光灯の光を照射した。照射24時間後の反応容器内のアセトアルデヒド濃度をガスクロマトグラフ(GC390B,ジーエルサイエンス社製)で測定した。
【0092】
(b)アセトアルデヒド分解試験(2)
蛍光灯:4W蛍光灯(東芝社製、照度400ルクス)
UVカットフィルム:商品名:ObicC、キング製作所社製(400nm以下を遮蔽するもの)
反応容器:ガラス製10リットル容器
反応物:アセトアルデヒドガス
【0093】
(実験条件)
図1に示すように、得られたサンプル5、9、10、12、14〜16の各0.5gを反応容器内に入れ、反応容器内の濃度が20ppmになるようにアセトアルデヒドガスを注入し、吸着平衡に達した後、UVカットフィルムを通して蛍光灯の光を照射した。照射24時間後の、アセトアルデヒド濃度をガスクロマトグラフ(GC390B,ジーエルサイエンス社製)で測定した。
【0094】
(合成例1)
顔料用のアナターゼ型酸化チタン(古河機械金属社製、FA55W)10g、水酸化ナトリウム(関東化学社製)40g、蒸留水100gを容積250mlのポリテトラフルオロエチレン(以下、「PTFE」という。)製三角フラスコに加えた(アルカリ濃度10mol/リットル)。三角フラスコに冷却管を取り付け、沸点維持条件下72時間加熱した。反応後、蒸留水で洗浄・遠心分離する作業を3回繰り返し、50℃に設定した乾燥機で24時間乾燥させて、アルカリ処理物である白色粉末(サンプル1)を得た(工程(I))。サンプル1についてXRD分析、アセトアルデヒド分解試験を行った。
サンプル1のXRD分析結果を、顔料用のアナターゼ型酸化チタンの分析結果(図中、「顔料用アナターゼ」と記載する。以下にて同じ。)と共に図2に示す。また、アセトアルデヒド分解試験結果を第1表に示す。図2に示すサンプル1のXRD分析結果から、サンプル1はチタン酸ナトリウムであることが確認された。
【0095】
(実施例1)
サンプル1 1gと窒素含有化合物としてNH4Cl水溶液(1mol/リットル)30mlを50ml遠心管に加え、1時間振とう後遠心分離する作業を2回繰り返し、30ml蒸留水で洗浄・遠心分離する作業を2回繰り返した(工程(I))。
上澄み液を捨てて、得られた窒素含有化合物への接触物である白色物質を、空気中、500℃で2時間加熱(焼成)を行い、黄色粉末(サンプル2)を得た(工程(II))。
サンプル2についてXRD分析、UV−VIS吸収スペクトル分析及びアセトアルデヒドの分解試験を行った。
XRD分析結果を図2に、アセトアルデヒド分解試験結果を第1表に、UV−VIS吸収スペクトル分析結果を図9にそれぞれ示す。
【0096】
図2に示すサンプル2のXRD分析結果から、サンプル2はアナターゼ型酸化チタンの構造を有する化合物であることが確認された。また、図9に示すように、サンプル2は、350nm〜550nm付近に吸収が認められた。
【0097】
(実施例2)
サンプル1 1gと窒素含有化合物であるNH4Cl水溶液(1mol/リットル)30mlを50ml遠心管に加え、1時間振とう後遠心分離する作業を2回繰り返し、30ml蒸留水で洗浄・遠心分離する作業を行った。さらに、遷移金属含有化合物としてFeCl3水溶液(0.001mol/リットル)10mlを加え、10分振とう後、遠心分離を行い、上澄み液を廃棄した後、30ml蒸留水で洗浄し遠心分離を行うことで、黄土色物質を得た(工程(I))。
得られた黄土色物質を500℃で2時間加熱(焼成)を行い、茶色粉末(サンプル3)を得た(工程(II))。サンプル3についてXRD分析、UV−VIS吸収スペクトル分析及びアセトアルデヒドの分解試験を行った。
【0098】
XRD分析結果を図2に、アセトアルデヒド分解試験結果を第1表に、UV−VIS吸収スペクトル分析結果を図9にそれぞれ示す。
図2に示すサンプル3のXRD分析結果から、サンプル3はアナターゼ型酸化チタンの構造を有する化合物であることが確認された。また、図9に示すように、サンプル3は、350nm〜700nm付近に吸収が認められた。
【0099】
(実施例3)
サンプル1 1gと窒素含有化合物としてNH4Cl水溶液(1mol/リットル)30mlを50ml遠心管に加え、1時間振とう後遠心分離する作業を2回繰り返し上澄み液を廃棄後、30ml蒸留水で洗浄・遠心分離する作業を行った。
さらに、遷移金属含有化合物としてCuSO4水溶液(0.001mol/リットル)10mlを加え、10分振とう後、遠心分離を行い、上澄み液を廃棄した後、30ml蒸留水で洗浄し遠心分離を行うことで、青色物質を得た(工程(I))。得られた青色物質を500℃で2時間加熱(焼成)を行い、黄緑色粉末(サンプル4)を得た(工程(II))。サンプル4についてXRD分析、及びアセトアルデヒドの分解試験を行った。
XRD分析結果を図2に示す。また、アセトアルデヒド分解試験結果を第1表に示す。
図2に示すサンプル4のXRD分析結果から、サンプル4はアナターゼ型酸化チタンの構造を有する化合物であることが確認された。また、図10に示すように、サンプル4は350nm〜650nm付近に吸収が認められた。
【0100】
(実施例4)
容積50mlのPTFE製容器に、サンプル1 1g、窒素含有化合物としてNH4NO3水溶液(1mol/リットル)20ml、遷移金属含有化合物としてFe(NO3)3水溶液(0.01mol/リットル)10ml、HNO3水溶液(1mol/リットル)50mlを加え、PTFE製の蓋をして、100℃で6時間静置した(工程(I)及び工程(II))。反応後は50ml蒸留水で2回洗浄後、50℃に設定した乾燥機で24時間乾燥させて黄色粉末(サンプル5)を得た。サンプル5についてXRD分析、及びアセトアルデヒドの分解試験を行った。
XRD分析結果を図3に示す。また、アセトアルデヒド分解試験結果を第1表に示す。
図3に示すサンプル5のXRD分析結果から、サンプル5はアナターゼ型酸化チタンの構造を有する化合物と、ルチル型酸化チタンの構造を有する化合物の混合物であることが確認された。また、図10に示すように、サンプル5は350nm〜460nm付近に吸収が認められた。
【0101】
(実施例5)
容積50mlのPTFE製容器に、サンプル1 1g、窒素含有化合物としてNH4NO3水溶液(1mol/リットル)20ml、遷移金属含有化合物としてCu(NO3)2水溶液(0.01mol/リットル)10ml、HNO3水溶液(1mol/リットル)50mlを加え、PTFE製の蓋をして、100℃で6時間静置した(工程(I)及び工程(II))。反応後は50ml蒸留水で2回洗浄後、50℃に設定した乾燥機で24時間乾燥させて黄色粉末(サンプル6)を得た。サンプル6についてXRD分析、UV−VIS吸収スペクトル分析及びアセトアルデヒドの分解試験を行った。
XRD分析結果を図3に、アセトアルデヒド分解試験結果を第1表に、UV−VIS吸収スペクトル分析結果を図9にそれぞれ示す。
【0102】
図3に示すサンプル6のXRD分析結果から、サンプル6はアナターゼ型酸化チタンの構造を有する化合物と、ルチル型酸化チタンの構造を有する化合物の混合物であることが確認された。また、図9に示すように、サンプル6は、350nm〜460nm付近に吸収が認められた。
【0103】
(比較例1)
サンプル1を500℃で2時間焼成を行い、白色粉末(サンプル7)を得た。サンプル7についてXRD分析及びアセトアルデヒドの分解試験を行った。
XRD分析結果を図4に示す。また、アセトアルデヒド分解試験結果を第1表に示す。
図4に示すサンプル7のXRD分析結果から、サンプル7はチタン酸ナトリウムであることが確認された。
【0104】
(実施例6)
アナターゼ型酸化チタンを含有する製紙スラッジ焼却灰(Al2O3:70重量%、TiO2:10重量%、MgO:20重量%)5g、水酸化ナトリウム(関東化学社製)6g、蒸留水50g、及び水ガラス3号(ケイ酸ナトリウム、三輪化学社製)15gを容積300mlの三角フラスコに加えた。三角フラスコに冷却管を取り付け、沸点維持条件下4時間加熱した。反応後、蒸留水で洗浄・遠心分離する作業を3回繰り返し、50℃に設定した乾燥機で24時間乾燥させて白色粉末(サンプル8)を得た。
サンプル8についてXRD分析を行った。XRD分析結果を図5に示す。
図5からわかるように、フォージャサイトタイプのゼオライトが生成していた。また、製紙スラッジ焼却灰中に含まれていたアナターゼ型酸化チタンもサンプル8に含まれていた。
【0105】
サンプル8 1gと、窒素含有化合物としてNH4Cl水溶液(1mol/リットル)30mlを50ml遠心管に加え、1時間振とう後遠心分離する作業を2回繰り返し、30ml蒸留水で洗浄・遠心分離する作業を2回繰り返した(工程(I))。上澄み液を捨てて、得られた白色物質を500℃で2時間焼成を行い、白色粉末(サンプル9)を得た(工程(II))。サンプル9についてXRD分析、アセトアルデヒドの分解試験及びUV−VIS吸収スペクトル分析を行った。
サンプル9のXRD分析結果を、製紙スラッジ焼却灰のXRD分析結果と共に図5に示す。また、アセトアルデヒド分解試験結果を第1表に、UV−VIS吸収スペクトル分析結果を図11に示す。
図5から、アナターゼ型酸化チタンの中に、フォージャサイトタイプのゼオライトも含まれていることがわかった。
【0106】
(実施例7)
容積50mlのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製容器に、サンプル1(1g)、窒素含有化合物としてNH4NO3水溶液(1mol/リットル)20ml、遷移金属含有化合物としてCr2(NO3)3水溶液(0.01mol/リットル)10ml、及び、H2SO4水溶液(1mol/リットル)50mlを加え、PTFE製の蓋をして、100℃で6時間静置した(工程(I)及び工程(II))。反応後は50ml蒸留水で2回洗浄後、50℃に設定した乾燥機で24時間乾燥させて薄黄色粉末(サンプル10)を得た。サンプル10についてXRD分析、UV−VIS吸収スペクトル分析及びアセトアルデヒドの分解試験を行った。
XRD分析結果を図6に、アセトアルデヒド分解試験結果を第1表に、UV−VIS吸収スペクトル分析結果を図11にそれぞれ示す。
【0107】
(実施例8)
光触媒用アナターゼ型酸化チタン(商品名「ST−01」、石原産業社製)5g、水酸化ナトリウム(関東化学社製)40g、蒸留水100gを容積250mlのPTFE製三角フラスコに加えた。三角フラスコに冷却管を取り付け、沸点維持条件下10分間加熱した。反応後、蒸留水で洗浄・遠心分離する作業を3回繰り返し、50℃に設定した乾燥機で24時間乾燥させて白色粉末(サンプル11)を得た。サンプル11についてXRD分析及びUV−VIS吸収スペクトル分析を行った。XRD分析結果を、光触媒用アナターゼ型酸化チタンの分析結果(図中、「ST−01」と記載する。)とともに図7に示す。また、UV−VIS吸収スペクトル分析結果を図11にそれぞれ示す。
サンプル11のXRD分析の結果、チタン酸ナトリウムとアナターゼ型酸化チタンが確認され、原料のアナターゼ酸化チタン粒子の一部分がチタン酸ナトリウムに変化していた。
【0108】
次に、容積50mlのPTFE製容器に、サンプル11 1g、窒素含有化合物として、NH4NO3水溶液(1mol/リットル)20ml、遷移金属含有化合物としてFe(NO3)3水溶液(0.1mol/リットル)10ml、H2SO4水溶液(1mol/リットル)50mlを加え、PTFE製の蓋をして、100℃で6時間静置した(工程(I)及び工程(II))。その後、50ml蒸留水で2回洗浄後、50℃に設定した乾燥機で24時間乾燥させて黄色粉末(サンプル12)を得た。サンプル12についてXRD分析、アセトアルデヒドの分解試験及びUV−VIS吸収スペクトル分析を行った。
XRD分析結果を図7に、アセトアルデヒド分解試験結果を第1表に、UV−VIS吸収スペクトル分析結果を図11にそれぞれ示す。
【0109】
図7に示すサンプル12のXRD分析結果から、チタン酸ナトリウムを示すピークが消失し、アナターゼのみとなったことと、黄色粉末が得られたことから、チタン酸ナトリウムが可視光応答型アナターゼ型酸化チタンに変化したと考えられる。
【0110】
(実施例9)
ルチル型酸化チタン(関東化学社製)10g、水酸化ナトリウム(関東化学社製)40g、蒸留水100gを容積250mlのPTFE製三角フラスコに加えた。三角フラスコに冷却管を取り付け、沸点維持条件下72時間加熱した。反応後、蒸留水で洗浄・遠心分離する作業を3回繰り返し、50℃に設定した乾燥機で24時間乾燥させて白色粉末(サンプル13)を得た。サンプル13のXRD分析結果を、ルチル型酸化チタンの分析結果(図中、「ルチル」と記載する。以下にて同じ。)とともに図8に示す。XRD分析結果より、サンプル13においては、ルチル型酸化チタンの一部がチタン酸ナトリウムに変化していることが確認された。
【0111】
サンプル13 1gとNH4Cl水溶液(1mol/リットル)30mlを50ml遠心管に加え、1時間振とう後遠心分離する作業を2回繰り返し、30ml蒸留水で洗浄・遠心分離する作業を2回繰り返した(工程(I))。上澄み液を捨てて、得られた白色物質を500℃で2時間焼成を行い、黄色粉末(サンプル14)を得た(工程(II))。
サンプル14についてXRD分析、UV−VIS吸収スペクトル分析及びアセトアルデヒドの分解試験を行った。XRD分析結果を図8に、アセトアルデヒド分解試験結果を第1表に、UV−VIS吸収スペクトル分析結果を図12にそれぞれ示す。
【0112】
(実施例10)
容積50mlのPTFE製容器に、サンプル13 1g、NH4NO3水溶液(1mol/リットル)20ml、Fe(NO3)3水溶液(0.01mol/リットル)10ml、HNO3水溶液(1mol/リットル)50mlを加え、PTFE製の蓋をして、100℃で6時間静置した(工程(I)及び工程(II))。その後、50ml蒸留水で2回洗浄後、50℃に設定した乾燥機で24時間乾燥させて黄色粉末(サンプル15)を得た。サンプル15についてXRD分析、アセトアルデヒドの分解試験及びUV−VIS吸収スペクトル分析を行った。XRD分析結果を図8に、アセトアルデヒド分解試験結果を第1表に、UV−VIS吸収スペクトル分析結果を図12にそれぞれ示す。
【0113】
(実施例11)
容積50mlのPTFE製容器に、サンプル13 1g、NH4NO3水溶液(1mol/リットル)20ml、Cu(NO3)2水溶液(0.01mol/リットル)10ml、HNO3水溶液(1mol/リットル)50mlを加え、PTFE製の蓋をして、100℃で6時間静置した(工程(I)及び工程(II))。その後、50ml蒸留水で2回洗浄後、50℃に設定した乾燥機で24時間乾燥させて黄色粉末(サンプル16)を得た。サンプル16についてXRD分析、アセトアルデヒドの分解試験及びUV−VIS吸収スペクトル分析及びを行った。XRD分析結果を図8に、アセトアルデヒド分解試験結果を第1表に、UV−VIS吸収スペクトル分析結果を図12にそれぞれ示す。
【0114】
【表1】
【0115】
第1表より、24時間経過後においては、実施例1〜11の、サンプル2〜6、9、10、12、及び14〜16の場合には、アセトアルデヒドガス濃度が吸着平衡濃度に比して減少しており、これらのサンプルは、可視光線に対して光触媒活性を有することが確認された。
一方、合成例1のサンプル1(チタン酸ナトリウム)、サンプル1を焼成して得られた比較例1のサンプル7では、可視光線に対する光触媒活性が認められなかった。
【0116】
(実施例12)
自動角型シートマシーン(No.2557、熊谷理機工業社製)にて、針葉樹クラフトパルプ(NBKP)絶乾2gに、実施例2で得られたサンプル3 0.3gを混抄し、25cm×25cmのシートを3枚作製した。これらのシートの可視光光触媒能を測定するため、以下の要領にてアセトアルデヒドの分解試験を行った。
【0117】
(アセトアルデヒド分解試験)
蛍光灯:4W蛍光灯(東芝社製)
UVカットフィルム:商品名:ObicC、キング製作所社製(400nm以下を遮蔽するもの)
反応容器:ガラス製 10L容器
反応物:アセトアルデヒドガス
実験条件:25cm×25cm 3枚
【0118】
反応容器内の濃度が20ppmになるようにアセトアルデヒドガスを注入し、吸着平衡に達した後、蛍光灯を照射し、照射24時間後のアセトアルデヒド濃度を測定した。
その結果、照射前のアセトアルデヒドの吸着平衡濃度が10ppmであったのに対し、24時間照射後のアセトアルデヒド濃度は2.6ppmであった。
この結果より、実施例12の光触媒層担持シートは、可視光に対して光触媒活性を有することが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0119】
【図1】アセトアルデヒド分解試験の概要を示す図である。
【図2】サンプル1〜4、及び顔料用アナターゼ型酸化チタンのXRDスペクトル図である(図中、縦軸は強度(cps)を、横軸はX線入射方向からの偏移角2θ(°)を表す。以下にて同じである。)。
【図3】サンプル1、5、6、及び顔料用アナターゼ型酸化チタンのXRDスペクトル図である。
【図4】サンプル1、7、及び顔料用アナターゼ型酸化チタンのXRDスペクトル図である。
【図5】サンプル8、9、及び製紙スラッジ焼却灰のXRDスペクトル図である。
【図6】サンプル10のXRDスペクトル図である。
【図7】サンプル11、12及び光触媒用アナターゼ型酸化チタン(ST−01)のXRDスペクトル図である。
【図8】サンプル13〜16及びルチル型酸化チタンのXRDスペクトル図である。
【図9】サンプル2、サンプル3、サンプル6、及び顔料用アナターゼ型酸化チタンのUV−VIS吸収スペクトル図である(図中、縦軸は反射率(%)、横軸は波長(nm)を表す。以下にて同じである。)。
【図10】サンプル4、5、及び顔料用アナターゼ型酸化チタンのUV−VIS吸収スペクトル図である。
【図11】サンプル9〜12のUV−VIS吸収スペクトル図である。
【図12】サンプル14〜16及びルチル型酸化チタンのUV−VIS吸収スペクトル図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、可視光線を照射することによって光触媒活性を発揮する光触媒の製造方法、及び、基体上に、直接又はその他の層を介して、前記光触媒の層を有する光触媒担持構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
光触媒に光を照射すると還元作用を持つ電子と酸化作用を持つ正孔が生成し、光触媒に接触した有機物等を酸化還元作用により分解することができる。そしてこのような光触媒を使用した、大気中のNOxの分解や、居住空間や作業空間での悪臭物質やカビなどの分解除去、水中の有機溶剤や農薬、界面活性剤などの分解除去などが検討されている。
【0003】
従来、光触媒に活性を発現させるには紫外線を照射することが必要であると考えられていたが、近年、可視光線を照射することによって触媒活性を示す酸化チタン(以下、「可視光応答型光触媒」ということがある。)が発見され、この可視光応答型光触媒の製造方法がいくつか提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、非晶質である水酸化チタンをアンモニア水に接触させた後、300〜600℃で焼成することにより可視光応答型光触媒を製造する方法が記載されている。
【0005】
特許文献2には、非晶質である酸化チタン前駆体をアンモニア含有ガス雰囲気下、300〜600℃で焼成することにより、可視光応答型光触媒を製造する方法が記載されている。
【0006】
特許文献3には、主に紫外線波長領域で高い光触媒活性を示すアナタース型酸化チタンと、主に可視光領域において高い光触媒活性を示すアナタース形酸化チタンが複合化した酸化チタン光触媒が記載されている。そこでは、このような光触媒の製造方法として、アンモニウム塩を含む非晶質オルソチタン酸中に、アナタースの結晶性を示すメタチタン酸を取り込み、オルソチタン酸から窒素ドープアナタース型酸化チタンが生成する条件下で焼成する方法が記載されている。
【0007】
特許文献4には、沈降成分量が全固形分量の10質量%未満であり、遷移金属化合物含有酸化チタンを含むゾル(光触媒粒子)が記載されている。この文献に記載の光触媒粒子は、波長400nm以上の光源下における光触媒能活性が高く、且つ、波長400nm以下の光源下における光触媒能についても良好であることも記載されている。
【0008】
以上のように、可視光応答型光触媒の製造方法として各種提案がなされているが、いずれの方法も可視光応答型光触媒をその前駆体から新たに合成するものであるためコストが高く、可視光応答型光触媒を低コストで簡便且つ効率よく製造できるものではなかった。
【0009】
一方、酸化チタンは、顔料として塗料や紙製品に添加されて用いられている。紙製品の製造工程において発生する廃棄物である製紙スラッジにも酸化チタンが含まれており、この酸化チタンを光触媒として利用することが検討されている。しかし、顔料として使われる酸化チタンは光触媒活性が低いものであり、また、可視光を照射しても光触媒活性を示すものではなかった。
【0010】
【特許文献1】特開2001−278626号公報
【特許文献2】特開2001−354422号公報
【特許文献3】特開2005−55746号公報
【特許文献4】特開2005−97096号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上述した従来技術の実情に鑑みてなされたものであり、製紙スラッジなどに含まれる安価な酸化チタンをそのまま使用して、可視光応答型光触媒を簡便且つ効率よく製造する方法、及び、基体上に、前記可視光応答型光触媒の層を有する光触媒担持構造体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決すべく、本発明者らは、製紙スラッジなどに含まれる酸化チタンを水酸化ナトリウム水溶液で加熱処理することで、陽イオン交換能を有するチタン酸塩を得た。そして、このチタン酸塩をアンモニウム塩や遷移金属塩の水溶液で処理した後、焼成するか、又は酸で処理することにより、可視光応答型酸化チタンを効率よく製造することが出来ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
かくして本発明の第1によれば、下記(1)〜(5)の可視光応答型光触媒の製造方法が提供される。
(1)チタン酸塩を含有する物質を窒素含有化合物および遷移金属含有化合物の中から選ばれる少なくとも一種と接触させる工程(I)、および、得られた接触物を、酸化的雰囲気下で300〜700℃に加熱するか、または、酸処理する工程(II)を含むことを特徴とする可視光応答型光触媒の製造方法。
(2)チタン酸塩が、酸化チタンをアルカリ処理することにより得られたものである(1)に記載の可視光応答型光触媒の製造方法。
(3)前記酸化チタンとして、アナターゼ型またはルチル型の酸化チタンを用いる(2)に記載の可視光応答型光触媒の製造方法。
【0014】
(4)前記アルカリ処理が、酸化チタン、珪素化合物、およびアルミニウム化合物を含む混合物をアルカリ処理するものである(2)または(3)に記載の可視光応答型光触媒の製造方法。
(5)前記アルカリ処理が、酸化チタンを含有する、製紙スラッジまたは製紙スラッジ焼却灰を、アルカリ処理するものである(2)〜(4)のいずれかに記載の可視光応答型光触媒の製造方法。
【0015】
本発明の第2によれば、下記(6)の光触媒担持構造体が提供される。
(6)基体と、該基体表面に、前記(1)〜(5)のいずれかに記載の製造方法により得られた可視光応答型光触媒を含有する光触媒層を有する光触媒担持構造体。
【発明の効果】
【0016】
本発明の製造方法によれば、製紙スラッジなどに含まれる酸化チタンをそのまま使用して、可視光応答型光触媒を、簡便且つ効率よく、低廉な製造コストで製造することができる。
【0017】
本発明の製造方法は、いわゆるドープ法と称される可視光応答型光触媒の製造方法の1種であって、製紙スラッジなどに含まれる酸化チタンをそのまま使用可能な方法である。したがって、本発明の製造方法は、塩化チタンなどから水酸化チタン(非晶質)を経て可視光型(紫外光型)酸化チタンを製造する方法のように、原料の加水分解時の塩素発生などによる危険もなく、簡単な方法で合成が可能であるため、通常の化学プラントで対応可能である。
【0018】
また、従来のカチオンドープ法としては、イオン注入法という方法が主流であったが、この方法によって可視光応答型光触媒を製造することは、高コストであり、しかも量産が困難である。一方、本発明によれば、低廉されたコストで可視光応答型光触媒を量産することが可能である。
【0019】
本発明の製造方法によれば、酸化チタンにおけるTi−OのO(酸素)の一部を、Nなどのアニオンと置き換えてアニオンドープタイプの可視光型や、Ti−OのTiの一部をCuやFeなどのカチオンで置き換えてカチオンドープタイプの可視光型、Ti−OのTiの一部をCuなどのカチオンに、OをNなどのアニオンに置き換えてCo−dope(双ドープ)の可視光型を簡便な方法により製造することができる。
【0020】
本発明の光触媒担持構造体は、基体上に、直接又はその他の層を介して、本発明の可視光応答型光触媒の層を形成してなるものであるため、可視光線が照射されると優れた光触媒活性を発揮するとともに、低廉な製造コストで製造できるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明を、1)可視光応答型光触媒の製造方法、及び、2)光触媒担持構造体に項分けして詳細に説明する。
本発明において、「可視光応答型光触媒」とは、波長450nm〜780nmの可視光線が照射されると、光触媒活性を発揮する性質を有する酸化チタン化合物をいう。
また、本発明における「可視光応答型光触媒」には、波長450nm〜780nmの可視光線のみならず、波長450nm未満の紫外線が照射された場合にも光触媒活性を発揮する性質を併せ持つ酸化チタン化合物も含む。
【0022】
1)可視光応答型光触媒の製造方法
本発明の可視光応答型光触媒の製造方法は、チタン酸塩を含有する物質を窒素含有化合物および遷移金属含有化合物の中から選ばれる少なくとも一種と接触させる工程(I)、及び、得られた接触物を酸化的雰囲気下で300〜700℃に加熱するか、又は酸処理する工程(II)を含むことを特徴とする。
【0023】
(1)チタン酸塩
本発明に用いるチタン酸塩の具体例としては、三チタン酸、四チタン酸、五チタン酸、六チタン酸、七チタン酸、八チタン酸等のプロトンを含む多価チタン酸;チタン酸カリウム、チタン酸カルシウム、チタン酸セシウム、チタン酸ナトリウム、チタン酸マグネシウム、チタン酸アルミニウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウム等の多価チタン酸塩;などが挙げられる。
【0024】
チタン酸塩としては、酸化チタンをアルカリ処理することにより得られたものが好ましい。
酸化チタンとしては、結晶性を有する酸化チタンが好ましく、その結晶型に特に限定されない。例えば、アナターゼ型の酸化チタン、ルチル型の酸化チタン、ブルッカイト型の酸化チタン、これら2種以上の酸化チタンからなる混合物、などが挙げられる。
【0025】
また、本発明に用いる酸化チタンとしては、紫外線に対して光触媒活性の低い結晶性酸化チタン、紫外線に対して光触媒活性の高い結晶性酸化チタンのいずれであってもよい。
【0026】
前者の紫外線に対して光触媒活性の低い結晶性酸化チタンとしては、これまで活用されず廃棄されてきた、製紙スラッジなどに含まれる光触媒活性の低い安価な結晶性酸化チタンが挙げられる。
【0027】
本発明では、酸化チタンのアルカリ処理において、酸化チタン、珪素化合物、及びアルミニウム化合物を含む混合物のアルカリ処理を行うと、可視光応答型光触媒とゼオライトの複合体を得ることができる。
【0028】
珪素化合物としては、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸ガラスなどが挙げられ、アルミニウム化合物としては、アルミナ(Al2O3)、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、塩化アルミニウムなどが挙げられる。
珪素化合物とアルミニウム化合物の添加量は、特に限定されないが、通常、酸化チタン100質量部に対して、珪素化合物が10〜1000質量部、及びアルミニウム化合物が10〜1000質量部である。
【0029】
酸化チタンのアルカリ処理においては、酸化チタンを含有する製紙スラッジまたは製紙スラッジ焼却灰をアルカリ処理するものであることが好ましい。従来廃棄されてきた製紙スラッジまたは製紙スラッジ焼却灰を用いることにより、可視光応答型光触媒を安価に製造することができる。
【0030】
また、リン化合物、ジルコニウム化合物、カルシウム化合物、マグネシウム化合物、アルカリ土類金属およびセルロース系高分子からなる群から選ばれる少なくとも一種をさらに含む混合物をアルカリ処理するものであってもよい。
【0031】
後者の紫外線に対して光触媒活性の高い結晶性酸化チタンを使用する場合には、後述するように、紫外線に対して光触媒活性の高い結晶性酸化チタンの一部を、本発明の方法により可視光応答型光触媒に変換し、紫外線に対して光触媒活性の高い結晶性酸化チタンの残りをそのまま残すことにより、紫外光・可視光応答型光触媒を製造することができる。
【0032】
ここで、「紫外光・可視光応答型光触媒」とは、紫外線が照射されることにより光触媒活性を発揮するのと同時に、可視光線が照射されることによっても光触媒活性を発揮する性質を有する酸化チタン化合物をいう。
【0033】
酸化チタンをアルカリ処理するのに用いるアルカリとしては、無機塩基、有機塩基のいずれであってもよいが、効率よく目的とする可視光応答型光触媒を得る上では、無機塩基の使用が好ましい。
【0034】
無機塩基としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物;水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウムなどのアルカリ土類金属水酸化物;炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどのアルカリ金属炭酸塩;炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウムなどのアルカリ土類金属炭酸塩;などが挙げられる。これらの中でも、アルカリ金属水酸化物がより好ましく、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが特に好ましい。
【0035】
アルカリの使用量は、酸化チタン1質量部に対して、通常、0.1〜100質量部、好ましくは1〜50質量部である。
【0036】
酸化チタンをアルカリ処理する方法としては、酸化チタンとアルカリとが反応して、アルカリ処理物が得られる方法であれば特に限定されない。例えば、アルカリ水溶液に酸化チタンの所定量を添加し、全容を加熱して反応させる方法が挙げられる。
【0037】
用いるアルカリ水溶液の濃度は、通常、1〜20mol/リットル、好ましくは5〜15mol/リットルである。
反応温度は、通常20℃〜200℃、反応時間は、通常、1分から100時間である。
【0038】
酸化チタンをアルカリ処理した後は、アルカリ水溶液を遠心分離して固形分を回収し、蒸留水で洗浄し、再度遠心分離する操作を数回繰り返した後、回収した固形分を、30〜120℃で、10分から24時間乾燥することにより、アルカリ処理物を単離することができる。
【0039】
以上のようにしてチタン酸塩を得ることができる。チタン酸塩は使用するアルカリによって異なり、例えば、水酸化ナトリウムを用いると、チタン酸ナトリウムが得られる。得られるチタン酸塩はイオン交換能(陽イオン交換能)を有する。
【0040】
(2)工程(I)
工程(I)は、チタン酸塩を含有する物質を窒素含有化合物および遷移金属含有化合物の中から選ばれる少なくとも一種と接触させる工程である。
【0041】
用いる窒素含有化合物としては、前記アルカリ処理物と接触させることにより、酸化チタンの酸素原子の一部が窒素原子に置換した化合物を得ることができる物質であれば、特に限定されない。例えば、アンモニア水;塩化アンモニウム(NH4Cl)、硝酸アンモニウム(NH4NO3)、酢酸アンモニウム、硫酸アンモニウムなどのアンモニウム塩;などが挙げられる。
【0042】
用いる遷移金属含有化合物としては、前記アルカリ処理物と接触させることにより、酸化チタンのチタン原子の一部が遷移金属原子に置換した化合物を得ることができる物質であれば、特に限定されず、例えば、遷移金属塩が挙げられる。
【0043】
前記遷移金属塩の遷移金属としては、周期律表(長周期型)の、第4周期第3族〜第12族の金属、第5周期第3族〜第12族の金属、および第6周期第3族〜第12族の金属が挙げられ、第4周期第3族〜第12族の金属が好ましい。
より具体的には、スカンジウム、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛が挙げられる。
【0044】
前記遷移金属塩としては、遷移金属の無機塩、有機塩が挙げられる。
遷移金属の無機塩としては、フッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物などのハロゲン化物;硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩などの無機酸の塩;などが挙げられる。より具体的には、塩化第二鉄(III)(FeCl3)、硝酸第二鉄(Fe(NO3)3)、硫酸銅(CuSO4)、硝酸銅(Cu(NO3)2)、硝酸クロム(Cr(NO3)3)等が挙げられる。
遷移金属の有機塩としては、酢酸塩、シュウ酸塩、クエン酸塩等の有機酸の塩;アセチルアセトナート、アセトアセテートなどのキレート化合物;などが挙げられる。
【0045】
これらの窒素含有化合物及び遷移金属含有化合物は一種単独で、あるいは二種以上を組み合わせて、用いることができる。
【0046】
例えば、(a)アルカリ処理物を窒素含有化合物と接触させることによりTi−OのO(酸素)の一部がNなどのアニオンと置き換えられたアニオンドープタイプの可視光型や、(b)アルカリ処理物を遷移金属含有化合物と接触させることにより、Ti−OのTiの一部がCuやFeなどの遷移金属カチオンで置き換えられたカチオンドープタイプの可視光型、(c)アルカリ処理物を窒素含有化合物で処理し、さらに遷移金属含有化合物で処理することにより、Ti−OのTiの一部がCuなどの遷移金属カチオンに、Oの一部がNなどのアニオンに置き換えられたCo−dope(双ドープ)の可視光型を製造することができる。
【0047】
窒素含有化合物又は遷移金属含有化合物の使用量は、アルカリ処理物1質量部に対して、窒素含有化合物又は遷移金属含有化合物0.0005〜100質量部、好ましくは0.001〜10質量部である。
【0048】
窒素含有化合物又は遷移金属含有化合物は水溶液として用いるのが好ましい。用いる水溶液中における窒素含有化合物の濃度は、0.01〜10mol/リットル、好ましくは0.05〜5mol/リットル、より好ましくは0.5〜3mol/リットルである。
また、遷移金属含有化合物の濃度は0.0001〜10mol/リットル、好ましくは0.0005〜5mol/リットル、より好ましくは0.003〜1mol/リットルである。
【0049】
前記アルカリ処理物を窒素含有化合物および遷移金属含有化合物の中から選ばれる少なくとも一種(以下、「窒素含有化合物等」ということがある。)と接触させる方法としては、窒素含有化合物等の水溶液にアルカリ処理物を所定量添加して、全容を攪拌・振とうする方法が挙げられる。
【0050】
全容を攪拌・振とうするときの温度は、通常10〜50℃である。全容を攪拌・振とうする時間は、数分から数時間である。
【0051】
前記アルカリ処理物を窒素含有化合物等と接触させた後は、全容を遠心分離して固形分を回収し、蒸留水で洗浄し、再度遠心分離する操作を数回繰り返した後、回収した固形分を30〜200℃で乾燥することにより、接触物を単離することができる。
【0052】
(3)工程(II)
工程(II)は、工程(I)で得られた接触物を、酸化的雰囲気下で300〜700℃に加熱するか、または酸処理する工程である。
【0053】
工程(I)で得られた接触物を、酸化的雰囲気下で300〜700℃に加熱する方法としては、空気中で300〜700℃に加熱する方法や、酸素ガス及び不活性ガスからなる混合ガス中で300〜700℃に加熱する方法などが挙げられる。
加熱時間は、通常数分から数十時間、好ましくは30分から10時間である。
【0054】
工程(I)で得られた接触物を酸で処理する方法としては、工程(I)で得られた接触物を水に懸濁させ、そこへ、所定量の酸を添加し、全容を所定温度で攪拌する方法が挙げられる。また、工程(I)で得られた反応液から接触物を単離することなく、所定量の酸を添加し、全容を所定温度で攪拌することもできる。
【0055】
ここで用いる酸としては、塩酸(HCl)、硝酸(HNO3)、硫酸(H2SO4)、リン酸などの無機酸;や、ギ酸、酢酸などの有機酸;が挙げられる。また、用いる酸としては、水で希釈したものの使用が好ましい。酸の濃度は、0.01〜10mol/リットル、好ましくは0.1〜3mol/リットルである。
【0056】
前記接触物を酸で処理するときの温度は、通常10〜200℃であり、処理時間は、数分から50時間、好ましくは数分から12時間程度である。
【0057】
なお、この工程(II)の酸処理は、前記(I)の工程と同時に行ってもよい。すなわち、窒素含有化合物等と酸をアルカリ処理物に接触させてもよい。
【0058】
前記接触物を酸で処理した後においては、全容を遠心分離して固形分を回収し、蒸留水で洗浄し、再度遠心分離する操作を数回繰り返した後、回収した固形分を30〜120℃で乾燥することにより、目的とする可視光応答型光触媒を得ることができる。
目的物の同定は、元素分析、X線回折測定などによって行うことができる。
【0059】
前述したように、本発明においては、出発原料として紫外線に対して光触媒活性の高い結晶性酸化チタンを使用し、該結晶性酸化チタンの一部をアルカリ処理し、得られたアルカリ処理物を窒素含有化合物および遷移金属含有化合物の中から選ばれる少なくとも一種と接触させ、次いで、得られた接触物を酸化的雰囲気下で300〜700℃に加熱するか、又は酸処理することにより、紫外光・可視光応答型光触媒を製造することができる。
【0060】
紫外線に対して光触媒活性の高い結晶性酸化チタンの一部をアルカリ処理する方法、得られたアルカリ処理物を窒素含有化合物および遷移金属含有化合物の中から選ばれる少なくとも一種と接触させる方法、及び、得られた接触物を酸化的雰囲気下で300〜700℃に加熱するか、又は酸処理する方法は、上述した本発明の可視光応答型光触媒の製造方法の項で述べた方法と同様である。
【0061】
2)光触媒担持構造体
本発明の光触媒担持構造体は、基体と、該基体表面に、本発明の製造方法により得られた可視光応答型光触媒を含有する光触媒層を有することを特徴とする。
【0062】
本発明に用いる基体としては、本発明の光触媒を担持可能なものであれば特に制限されない。
基体の材質としては、例えば、セラミックス、ガラス、陶器、ほうろう、コンクリート等の無機質材料;合成樹脂、繊維類、紙類、木質材料等の有機質材料;鉄、アルミニウム、銅、ステンレス等の金属質材料;等が挙げられる。
【0063】
基体の形状としては、フィルム状、シート状、板状、管状、繊維状、網状等どのような形状のものでもよい。
基体の厚みは特に制限されないが、10μm以上のものであれば、表面に接着層及び光触媒層を強固に担持することができるので好ましい。
また、基体としては単層からなるものでも、積層体であってもよい。
【0064】
光触媒層は、基体に直接形成されていてもよいし、その他の層を介して形成されていてもよい。その他の層としては、基体と光触媒層との間に形成できるものであれば特に制限されない。例えば、後述する接着層が挙げられる。
【0065】
接着層は、基体と光触媒層との接着性を高めるとともに、光触媒により基体材料が劣化又は分解されるのを防止するために形成される。
【0066】
接着層は、直接又は他の層を介して、基体表面に接着層形成用組成物を塗布・乾燥することによって形成することができる。
【0067】
接着層形成用組成物は、少なくとも(a)アクリル−シリコン樹脂、エポキシ−シリコン樹脂などのシリコン変性樹脂;(b)コロイダルシリカあるいはポリシロキサンを含有する樹脂(アクリル樹脂、アクリル−シリコン樹脂、エポキシ−シリコン樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、アルキッド樹脂等);(c)シリコンアルコキシドの加水分解物あるいは該加水分解物からの生成物;の中から選ばれる1種又は2種以上の樹脂を、必要により適当な溶媒に溶解させて調製することができる。
【0068】
接着層形成用組成物に用いられる溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;メタノール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、t−ブチルアルコール等のアルコール類;酢酸エチル等のエステル類;及びこれらの混合溶媒等が挙げられる。
【0069】
また、前記接着層形成用組成物には、光触媒作用による劣化を抑制する目的で、光安定化剤及び/又は紫外線吸収剤等を配合することができる。
【0070】
用いる光安定化剤としてはヒンダードアミン系光安定化剤を、又、紫外線吸収剤としてはトリアゾール系紫外線吸収剤をそれぞれ例示することができる。光安定化剤及び/又は紫外線吸収剤の添加量は、上記樹脂に対して、0.005重量%〜10重量%の範囲が好ましい。
【0071】
接着層を基体表面に形成する方法としては、接着層形成用組成物をスプレーによる吹き付け法、ロールコーティング法、ディップコーティング法等により、基体材料表面にコートして塗膜を形成し、乾燥する方法が挙げられる。
塗膜の乾燥温度は、通常、20〜150℃、好ましくは80〜120℃である。
【0072】
得られる接着層の厚みには特に制限はないが、通常0.1μm〜10μmである。接着層の厚みが0.1μm以上であれば、光触媒層を強固に接着し、耐久性の高い光触媒担持構造体を形成することができる。
【0073】
本発明の光触媒担持構造体の光触媒層は、本発明の可視光応答型光触媒を含有する光触媒層形成用組成物から形成されてなる。光触媒層を形成する方法としては、例えば、光触媒層形成用組成物を含む塗工液を基体に塗工する方法が挙げられる。
【0074】
前記光触媒層形成用組成物中における可視光応答型光触媒の形態は、粉末状、ゲル状、溶液状等いずれであってもよいが、粉末状またはゲル状が好ましい。なかでも、ゲル状であって平均粒子径が50nm以下、好ましくは20nm以下のものは、光触媒層の透明性が向上し直線透過率が高くなるため、透明性を要求されるガラス基板やプラスチック成形体に塗布する場合に特に好ましい。
【0075】
可視光応答型光触媒の含有量は、前記光触媒層形成用組成物中の固形分全体に対して、酸化物に換算して、5重量%〜60重量%が好ましい。5重量%未満になると、光触媒活性が著しく低下する一方で、60重量%を越える場合には光触媒活性は高くなるものの、接着層との接着性が乏しくなる。
【0076】
前記光触媒層形成用組成物は、本発明の可視光応答型光触媒のほかに、金属酸化物のゲル又は金属水酸化物のゲルを含有していてもよい。金属酸化物のゲル又は金属水酸化物のゲルは、ケイ素酸化物若しくはケイ素水酸化物のゲル、並びにジルコニウム酸化物若しくはジルコニウム水酸化物のゲル、及び/又はアルミニウム酸化物若しくはアルミニウム水酸化物のゲルであるのが好ましい。
【0077】
光触媒層形成用組成物中の金属酸化物のゲルまたは金属水酸化物のゲルの含有量は特に制限されないが、優れた接着性及び耐候性を得る観点から、組成物全体に対して、0〜50重量%であるのが好ましい。
【0078】
光触媒層は、前記光触媒層形成用組成物を、基体表面又はその他の層上に塗布し、得られた塗膜を乾燥させることにより形成することができる。
【0079】
光触媒層形成用組成物は、可視光応答型光触媒、及び金属酸化物のゲル又は金属水酸化物のゲルを、適当な溶媒に分散または溶解させることにより、調製することができる。
【0080】
光触媒層形成用組成物の調製に用いる溶媒としては、例えば、水;メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブタノール、t−ブタノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセチルアセトン、シクロヘキサノン等のケトン類;ジエチルエーテル、メチルセルソルブ、テトラヒドロフラン等のエーテル類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;ジクロロメタン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素;酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等のエステル類;n−ペンタン、n−ヘキサン、シクロヘキサン等の飽和炭化水素;等が挙げられる。これらは1種単独で、あるいは2種以上を混合して用いることができる。これらの中でも、水−アルコール系溶媒の使用が特に好ましい。
【0081】
光触媒層形成用組成物を塗工する方法としては特に制限されず、公知の塗工法採用することができる。例えば、スプレーによる吹き付け法、ロールコーティング法、ディップコーティング法等が挙げられる。
【0082】
光触媒層形成用組成物を塗工して得られる塗膜を所定温度で乾燥することにより、光触媒層を形成することができる。
塗膜の乾燥温度は、通常、室温から150℃の範囲である。
【0083】
以上のようにして得られる光触媒層の乾燥後の厚みは0.05〜2μm、好ましくは0.5〜1.5μmである。光触媒層の厚みがこの範囲である場合に、光触媒層形成用組成物の塗膜表面にひび割れが生じたり、剥離することがないので好ましい。
【0084】
以上のようにして得られる本発明の光触媒担持構造体は、表面に透明で均一な膜質の光触媒 層を有する。本発明の光触媒担持構造体の光触媒層に可視光線が照射されることにより、悪臭物が表面に吸着するのを防止する機能(着臭防止機能)、ごみや塵が表面に付着するのを防止する機能(汚染防止機能)、アルデヒド類、アンモニア、アミン類等の悪臭物を分解する機能(悪臭物分解機能)等の優れた諸機能を発揮する。
【0085】
本発明の光触媒担持構造体は、例えば、ブラインド、カーテン、カーペット、各種家具類、照明器具等のインテリア部材;ドア、壁紙、窓ガラス、壁材等の建築部材;照明灯、道路灯、トンネル照明灯、高速道路や新幹線の遮音壁等の屋外部材;農ビフィルム、防草シート等の農業用部材;包装資材、船底・魚網防止塗料、水処理用充填剤、ブラックライト等に使用することができる。
【実施例】
【0086】
次に、実施例および比較例により本発明をさらに詳細に説明する。但し、本発明は実施例により何ら限定されるものではない。
【0087】
なお、下記の実施例及び比較例により得られたサンプルの、X線回折測定、紫外・可視光吸収スペクトル分析、及びアセトアルデヒドの分解試験は、下記のようにして行った。
【0088】
(1)X線回折測定(XRD分析)
XRD分析は、X線回折試験機(RINT2000、理学電器社製)を使用して行った。
【0089】
(2)紫外・可視光吸収スペクトルの測定(UV−VIS吸収スペクトル分析)
UV−VIS吸収スペクトルは、分光光度計(U−3500,日立製作所社製)を使用して行った。
なお、比較のために、顔料用アナターゼ型酸化チタンのUV−VIS吸収スペクトルの測定も行った(図9参照)。
【0090】
(3)アセトアルデヒド分解試験
アセトアルデヒド分解試験は、下記の2種類の条件で行った。
(a)アセトアルデヒド分解試験(1)
蛍光灯:27W蛍光灯(松下電器産業社製、照度1000ルクス)
UVカットフィルム:商品名:ObicC、キング製作所社製(400nm以下を遮蔽するもの)
反応容器:ガラス製200ml容器
反応物:アセトアルデヒドガス
【0091】
(実験条件)
図1に示すように、実施例及び比較例で得られたサンプル1〜4の各0.1gを反応容器内に入れ、反応容器内の濃度が1000ppmになるようにアセトアルデヒドガスを注入し、吸着平衡に達した後、UVカットフィルムを通して蛍光灯の光を照射した。照射24時間後の反応容器内のアセトアルデヒド濃度をガスクロマトグラフ(GC390B,ジーエルサイエンス社製)で測定した。
【0092】
(b)アセトアルデヒド分解試験(2)
蛍光灯:4W蛍光灯(東芝社製、照度400ルクス)
UVカットフィルム:商品名:ObicC、キング製作所社製(400nm以下を遮蔽するもの)
反応容器:ガラス製10リットル容器
反応物:アセトアルデヒドガス
【0093】
(実験条件)
図1に示すように、得られたサンプル5、9、10、12、14〜16の各0.5gを反応容器内に入れ、反応容器内の濃度が20ppmになるようにアセトアルデヒドガスを注入し、吸着平衡に達した後、UVカットフィルムを通して蛍光灯の光を照射した。照射24時間後の、アセトアルデヒド濃度をガスクロマトグラフ(GC390B,ジーエルサイエンス社製)で測定した。
【0094】
(合成例1)
顔料用のアナターゼ型酸化チタン(古河機械金属社製、FA55W)10g、水酸化ナトリウム(関東化学社製)40g、蒸留水100gを容積250mlのポリテトラフルオロエチレン(以下、「PTFE」という。)製三角フラスコに加えた(アルカリ濃度10mol/リットル)。三角フラスコに冷却管を取り付け、沸点維持条件下72時間加熱した。反応後、蒸留水で洗浄・遠心分離する作業を3回繰り返し、50℃に設定した乾燥機で24時間乾燥させて、アルカリ処理物である白色粉末(サンプル1)を得た(工程(I))。サンプル1についてXRD分析、アセトアルデヒド分解試験を行った。
サンプル1のXRD分析結果を、顔料用のアナターゼ型酸化チタンの分析結果(図中、「顔料用アナターゼ」と記載する。以下にて同じ。)と共に図2に示す。また、アセトアルデヒド分解試験結果を第1表に示す。図2に示すサンプル1のXRD分析結果から、サンプル1はチタン酸ナトリウムであることが確認された。
【0095】
(実施例1)
サンプル1 1gと窒素含有化合物としてNH4Cl水溶液(1mol/リットル)30mlを50ml遠心管に加え、1時間振とう後遠心分離する作業を2回繰り返し、30ml蒸留水で洗浄・遠心分離する作業を2回繰り返した(工程(I))。
上澄み液を捨てて、得られた窒素含有化合物への接触物である白色物質を、空気中、500℃で2時間加熱(焼成)を行い、黄色粉末(サンプル2)を得た(工程(II))。
サンプル2についてXRD分析、UV−VIS吸収スペクトル分析及びアセトアルデヒドの分解試験を行った。
XRD分析結果を図2に、アセトアルデヒド分解試験結果を第1表に、UV−VIS吸収スペクトル分析結果を図9にそれぞれ示す。
【0096】
図2に示すサンプル2のXRD分析結果から、サンプル2はアナターゼ型酸化チタンの構造を有する化合物であることが確認された。また、図9に示すように、サンプル2は、350nm〜550nm付近に吸収が認められた。
【0097】
(実施例2)
サンプル1 1gと窒素含有化合物であるNH4Cl水溶液(1mol/リットル)30mlを50ml遠心管に加え、1時間振とう後遠心分離する作業を2回繰り返し、30ml蒸留水で洗浄・遠心分離する作業を行った。さらに、遷移金属含有化合物としてFeCl3水溶液(0.001mol/リットル)10mlを加え、10分振とう後、遠心分離を行い、上澄み液を廃棄した後、30ml蒸留水で洗浄し遠心分離を行うことで、黄土色物質を得た(工程(I))。
得られた黄土色物質を500℃で2時間加熱(焼成)を行い、茶色粉末(サンプル3)を得た(工程(II))。サンプル3についてXRD分析、UV−VIS吸収スペクトル分析及びアセトアルデヒドの分解試験を行った。
【0098】
XRD分析結果を図2に、アセトアルデヒド分解試験結果を第1表に、UV−VIS吸収スペクトル分析結果を図9にそれぞれ示す。
図2に示すサンプル3のXRD分析結果から、サンプル3はアナターゼ型酸化チタンの構造を有する化合物であることが確認された。また、図9に示すように、サンプル3は、350nm〜700nm付近に吸収が認められた。
【0099】
(実施例3)
サンプル1 1gと窒素含有化合物としてNH4Cl水溶液(1mol/リットル)30mlを50ml遠心管に加え、1時間振とう後遠心分離する作業を2回繰り返し上澄み液を廃棄後、30ml蒸留水で洗浄・遠心分離する作業を行った。
さらに、遷移金属含有化合物としてCuSO4水溶液(0.001mol/リットル)10mlを加え、10分振とう後、遠心分離を行い、上澄み液を廃棄した後、30ml蒸留水で洗浄し遠心分離を行うことで、青色物質を得た(工程(I))。得られた青色物質を500℃で2時間加熱(焼成)を行い、黄緑色粉末(サンプル4)を得た(工程(II))。サンプル4についてXRD分析、及びアセトアルデヒドの分解試験を行った。
XRD分析結果を図2に示す。また、アセトアルデヒド分解試験結果を第1表に示す。
図2に示すサンプル4のXRD分析結果から、サンプル4はアナターゼ型酸化チタンの構造を有する化合物であることが確認された。また、図10に示すように、サンプル4は350nm〜650nm付近に吸収が認められた。
【0100】
(実施例4)
容積50mlのPTFE製容器に、サンプル1 1g、窒素含有化合物としてNH4NO3水溶液(1mol/リットル)20ml、遷移金属含有化合物としてFe(NO3)3水溶液(0.01mol/リットル)10ml、HNO3水溶液(1mol/リットル)50mlを加え、PTFE製の蓋をして、100℃で6時間静置した(工程(I)及び工程(II))。反応後は50ml蒸留水で2回洗浄後、50℃に設定した乾燥機で24時間乾燥させて黄色粉末(サンプル5)を得た。サンプル5についてXRD分析、及びアセトアルデヒドの分解試験を行った。
XRD分析結果を図3に示す。また、アセトアルデヒド分解試験結果を第1表に示す。
図3に示すサンプル5のXRD分析結果から、サンプル5はアナターゼ型酸化チタンの構造を有する化合物と、ルチル型酸化チタンの構造を有する化合物の混合物であることが確認された。また、図10に示すように、サンプル5は350nm〜460nm付近に吸収が認められた。
【0101】
(実施例5)
容積50mlのPTFE製容器に、サンプル1 1g、窒素含有化合物としてNH4NO3水溶液(1mol/リットル)20ml、遷移金属含有化合物としてCu(NO3)2水溶液(0.01mol/リットル)10ml、HNO3水溶液(1mol/リットル)50mlを加え、PTFE製の蓋をして、100℃で6時間静置した(工程(I)及び工程(II))。反応後は50ml蒸留水で2回洗浄後、50℃に設定した乾燥機で24時間乾燥させて黄色粉末(サンプル6)を得た。サンプル6についてXRD分析、UV−VIS吸収スペクトル分析及びアセトアルデヒドの分解試験を行った。
XRD分析結果を図3に、アセトアルデヒド分解試験結果を第1表に、UV−VIS吸収スペクトル分析結果を図9にそれぞれ示す。
【0102】
図3に示すサンプル6のXRD分析結果から、サンプル6はアナターゼ型酸化チタンの構造を有する化合物と、ルチル型酸化チタンの構造を有する化合物の混合物であることが確認された。また、図9に示すように、サンプル6は、350nm〜460nm付近に吸収が認められた。
【0103】
(比較例1)
サンプル1を500℃で2時間焼成を行い、白色粉末(サンプル7)を得た。サンプル7についてXRD分析及びアセトアルデヒドの分解試験を行った。
XRD分析結果を図4に示す。また、アセトアルデヒド分解試験結果を第1表に示す。
図4に示すサンプル7のXRD分析結果から、サンプル7はチタン酸ナトリウムであることが確認された。
【0104】
(実施例6)
アナターゼ型酸化チタンを含有する製紙スラッジ焼却灰(Al2O3:70重量%、TiO2:10重量%、MgO:20重量%)5g、水酸化ナトリウム(関東化学社製)6g、蒸留水50g、及び水ガラス3号(ケイ酸ナトリウム、三輪化学社製)15gを容積300mlの三角フラスコに加えた。三角フラスコに冷却管を取り付け、沸点維持条件下4時間加熱した。反応後、蒸留水で洗浄・遠心分離する作業を3回繰り返し、50℃に設定した乾燥機で24時間乾燥させて白色粉末(サンプル8)を得た。
サンプル8についてXRD分析を行った。XRD分析結果を図5に示す。
図5からわかるように、フォージャサイトタイプのゼオライトが生成していた。また、製紙スラッジ焼却灰中に含まれていたアナターゼ型酸化チタンもサンプル8に含まれていた。
【0105】
サンプル8 1gと、窒素含有化合物としてNH4Cl水溶液(1mol/リットル)30mlを50ml遠心管に加え、1時間振とう後遠心分離する作業を2回繰り返し、30ml蒸留水で洗浄・遠心分離する作業を2回繰り返した(工程(I))。上澄み液を捨てて、得られた白色物質を500℃で2時間焼成を行い、白色粉末(サンプル9)を得た(工程(II))。サンプル9についてXRD分析、アセトアルデヒドの分解試験及びUV−VIS吸収スペクトル分析を行った。
サンプル9のXRD分析結果を、製紙スラッジ焼却灰のXRD分析結果と共に図5に示す。また、アセトアルデヒド分解試験結果を第1表に、UV−VIS吸収スペクトル分析結果を図11に示す。
図5から、アナターゼ型酸化チタンの中に、フォージャサイトタイプのゼオライトも含まれていることがわかった。
【0106】
(実施例7)
容積50mlのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製容器に、サンプル1(1g)、窒素含有化合物としてNH4NO3水溶液(1mol/リットル)20ml、遷移金属含有化合物としてCr2(NO3)3水溶液(0.01mol/リットル)10ml、及び、H2SO4水溶液(1mol/リットル)50mlを加え、PTFE製の蓋をして、100℃で6時間静置した(工程(I)及び工程(II))。反応後は50ml蒸留水で2回洗浄後、50℃に設定した乾燥機で24時間乾燥させて薄黄色粉末(サンプル10)を得た。サンプル10についてXRD分析、UV−VIS吸収スペクトル分析及びアセトアルデヒドの分解試験を行った。
XRD分析結果を図6に、アセトアルデヒド分解試験結果を第1表に、UV−VIS吸収スペクトル分析結果を図11にそれぞれ示す。
【0107】
(実施例8)
光触媒用アナターゼ型酸化チタン(商品名「ST−01」、石原産業社製)5g、水酸化ナトリウム(関東化学社製)40g、蒸留水100gを容積250mlのPTFE製三角フラスコに加えた。三角フラスコに冷却管を取り付け、沸点維持条件下10分間加熱した。反応後、蒸留水で洗浄・遠心分離する作業を3回繰り返し、50℃に設定した乾燥機で24時間乾燥させて白色粉末(サンプル11)を得た。サンプル11についてXRD分析及びUV−VIS吸収スペクトル分析を行った。XRD分析結果を、光触媒用アナターゼ型酸化チタンの分析結果(図中、「ST−01」と記載する。)とともに図7に示す。また、UV−VIS吸収スペクトル分析結果を図11にそれぞれ示す。
サンプル11のXRD分析の結果、チタン酸ナトリウムとアナターゼ型酸化チタンが確認され、原料のアナターゼ酸化チタン粒子の一部分がチタン酸ナトリウムに変化していた。
【0108】
次に、容積50mlのPTFE製容器に、サンプル11 1g、窒素含有化合物として、NH4NO3水溶液(1mol/リットル)20ml、遷移金属含有化合物としてFe(NO3)3水溶液(0.1mol/リットル)10ml、H2SO4水溶液(1mol/リットル)50mlを加え、PTFE製の蓋をして、100℃で6時間静置した(工程(I)及び工程(II))。その後、50ml蒸留水で2回洗浄後、50℃に設定した乾燥機で24時間乾燥させて黄色粉末(サンプル12)を得た。サンプル12についてXRD分析、アセトアルデヒドの分解試験及びUV−VIS吸収スペクトル分析を行った。
XRD分析結果を図7に、アセトアルデヒド分解試験結果を第1表に、UV−VIS吸収スペクトル分析結果を図11にそれぞれ示す。
【0109】
図7に示すサンプル12のXRD分析結果から、チタン酸ナトリウムを示すピークが消失し、アナターゼのみとなったことと、黄色粉末が得られたことから、チタン酸ナトリウムが可視光応答型アナターゼ型酸化チタンに変化したと考えられる。
【0110】
(実施例9)
ルチル型酸化チタン(関東化学社製)10g、水酸化ナトリウム(関東化学社製)40g、蒸留水100gを容積250mlのPTFE製三角フラスコに加えた。三角フラスコに冷却管を取り付け、沸点維持条件下72時間加熱した。反応後、蒸留水で洗浄・遠心分離する作業を3回繰り返し、50℃に設定した乾燥機で24時間乾燥させて白色粉末(サンプル13)を得た。サンプル13のXRD分析結果を、ルチル型酸化チタンの分析結果(図中、「ルチル」と記載する。以下にて同じ。)とともに図8に示す。XRD分析結果より、サンプル13においては、ルチル型酸化チタンの一部がチタン酸ナトリウムに変化していることが確認された。
【0111】
サンプル13 1gとNH4Cl水溶液(1mol/リットル)30mlを50ml遠心管に加え、1時間振とう後遠心分離する作業を2回繰り返し、30ml蒸留水で洗浄・遠心分離する作業を2回繰り返した(工程(I))。上澄み液を捨てて、得られた白色物質を500℃で2時間焼成を行い、黄色粉末(サンプル14)を得た(工程(II))。
サンプル14についてXRD分析、UV−VIS吸収スペクトル分析及びアセトアルデヒドの分解試験を行った。XRD分析結果を図8に、アセトアルデヒド分解試験結果を第1表に、UV−VIS吸収スペクトル分析結果を図12にそれぞれ示す。
【0112】
(実施例10)
容積50mlのPTFE製容器に、サンプル13 1g、NH4NO3水溶液(1mol/リットル)20ml、Fe(NO3)3水溶液(0.01mol/リットル)10ml、HNO3水溶液(1mol/リットル)50mlを加え、PTFE製の蓋をして、100℃で6時間静置した(工程(I)及び工程(II))。その後、50ml蒸留水で2回洗浄後、50℃に設定した乾燥機で24時間乾燥させて黄色粉末(サンプル15)を得た。サンプル15についてXRD分析、アセトアルデヒドの分解試験及びUV−VIS吸収スペクトル分析を行った。XRD分析結果を図8に、アセトアルデヒド分解試験結果を第1表に、UV−VIS吸収スペクトル分析結果を図12にそれぞれ示す。
【0113】
(実施例11)
容積50mlのPTFE製容器に、サンプル13 1g、NH4NO3水溶液(1mol/リットル)20ml、Cu(NO3)2水溶液(0.01mol/リットル)10ml、HNO3水溶液(1mol/リットル)50mlを加え、PTFE製の蓋をして、100℃で6時間静置した(工程(I)及び工程(II))。その後、50ml蒸留水で2回洗浄後、50℃に設定した乾燥機で24時間乾燥させて黄色粉末(サンプル16)を得た。サンプル16についてXRD分析、アセトアルデヒドの分解試験及びUV−VIS吸収スペクトル分析及びを行った。XRD分析結果を図8に、アセトアルデヒド分解試験結果を第1表に、UV−VIS吸収スペクトル分析結果を図12にそれぞれ示す。
【0114】
【表1】
【0115】
第1表より、24時間経過後においては、実施例1〜11の、サンプル2〜6、9、10、12、及び14〜16の場合には、アセトアルデヒドガス濃度が吸着平衡濃度に比して減少しており、これらのサンプルは、可視光線に対して光触媒活性を有することが確認された。
一方、合成例1のサンプル1(チタン酸ナトリウム)、サンプル1を焼成して得られた比較例1のサンプル7では、可視光線に対する光触媒活性が認められなかった。
【0116】
(実施例12)
自動角型シートマシーン(No.2557、熊谷理機工業社製)にて、針葉樹クラフトパルプ(NBKP)絶乾2gに、実施例2で得られたサンプル3 0.3gを混抄し、25cm×25cmのシートを3枚作製した。これらのシートの可視光光触媒能を測定するため、以下の要領にてアセトアルデヒドの分解試験を行った。
【0117】
(アセトアルデヒド分解試験)
蛍光灯:4W蛍光灯(東芝社製)
UVカットフィルム:商品名:ObicC、キング製作所社製(400nm以下を遮蔽するもの)
反応容器:ガラス製 10L容器
反応物:アセトアルデヒドガス
実験条件:25cm×25cm 3枚
【0118】
反応容器内の濃度が20ppmになるようにアセトアルデヒドガスを注入し、吸着平衡に達した後、蛍光灯を照射し、照射24時間後のアセトアルデヒド濃度を測定した。
その結果、照射前のアセトアルデヒドの吸着平衡濃度が10ppmであったのに対し、24時間照射後のアセトアルデヒド濃度は2.6ppmであった。
この結果より、実施例12の光触媒層担持シートは、可視光に対して光触媒活性を有することが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0119】
【図1】アセトアルデヒド分解試験の概要を示す図である。
【図2】サンプル1〜4、及び顔料用アナターゼ型酸化チタンのXRDスペクトル図である(図中、縦軸は強度(cps)を、横軸はX線入射方向からの偏移角2θ(°)を表す。以下にて同じである。)。
【図3】サンプル1、5、6、及び顔料用アナターゼ型酸化チタンのXRDスペクトル図である。
【図4】サンプル1、7、及び顔料用アナターゼ型酸化チタンのXRDスペクトル図である。
【図5】サンプル8、9、及び製紙スラッジ焼却灰のXRDスペクトル図である。
【図6】サンプル10のXRDスペクトル図である。
【図7】サンプル11、12及び光触媒用アナターゼ型酸化チタン(ST−01)のXRDスペクトル図である。
【図8】サンプル13〜16及びルチル型酸化チタンのXRDスペクトル図である。
【図9】サンプル2、サンプル3、サンプル6、及び顔料用アナターゼ型酸化チタンのUV−VIS吸収スペクトル図である(図中、縦軸は反射率(%)、横軸は波長(nm)を表す。以下にて同じである。)。
【図10】サンプル4、5、及び顔料用アナターゼ型酸化チタンのUV−VIS吸収スペクトル図である。
【図11】サンプル9〜12のUV−VIS吸収スペクトル図である。
【図12】サンプル14〜16及びルチル型酸化チタンのUV−VIS吸収スペクトル図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン酸塩を含有する物質を窒素含有化合物および遷移金属含有化合物の中から選ばれる少なくとも一種と接触させる工程(I)、および、得られた接触物を、酸化的雰囲気下で300〜700℃に加熱するか、または、酸処理する工程(II)を含むことを特徴とする可視光応答型光触媒の製造方法。
【請求項2】
チタン酸塩が、酸化チタンをアルカリ処理することにより得られたものである請求項1に記載の可視光応答型光触媒の製造方法。
【請求項3】
前記酸化チタンとして、アナターゼ型またはルチル型の酸化チタンを用いる請求項2に記載の可視光応答型光触媒の製造方法。
【請求項4】
前記アルカリ処理が、酸化チタン、珪素化合物、およびアルミニウム化合物を含む混合物をアルカリ処理するものである、請求項2または3に記載の可視光応答型光触媒の製造方法。
【請求項5】
前記アルカリ処理が、酸化チタンを含有する、製紙スラッジまたは製紙スラッジ焼却灰を、アルカリ処理するものである請求項2〜4のいずれかに記載の可視光応答型光触媒の製造方法。
【請求項6】
基体と、該基体表面に、請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法により得られた可視光応答型光触媒を含有する光触媒層を有する光触媒担持構造体。
【請求項1】
チタン酸塩を含有する物質を窒素含有化合物および遷移金属含有化合物の中から選ばれる少なくとも一種と接触させる工程(I)、および、得られた接触物を、酸化的雰囲気下で300〜700℃に加熱するか、または、酸処理する工程(II)を含むことを特徴とする可視光応答型光触媒の製造方法。
【請求項2】
チタン酸塩が、酸化チタンをアルカリ処理することにより得られたものである請求項1に記載の可視光応答型光触媒の製造方法。
【請求項3】
前記酸化チタンとして、アナターゼ型またはルチル型の酸化チタンを用いる請求項2に記載の可視光応答型光触媒の製造方法。
【請求項4】
前記アルカリ処理が、酸化チタン、珪素化合物、およびアルミニウム化合物を含む混合物をアルカリ処理するものである、請求項2または3に記載の可視光応答型光触媒の製造方法。
【請求項5】
前記アルカリ処理が、酸化チタンを含有する、製紙スラッジまたは製紙スラッジ焼却灰を、アルカリ処理するものである請求項2〜4のいずれかに記載の可視光応答型光触媒の製造方法。
【請求項6】
基体と、該基体表面に、請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法により得られた可視光応答型光触媒を含有する光触媒層を有する光触媒担持構造体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2009−22826(P2009−22826A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−185728(P2007−185728)
【出願日】平成19年7月17日(2007.7.17)
【出願人】(592134583)愛媛県 (53)
【出願人】(504147254)国立大学法人愛媛大学 (214)
【出願人】(000102980)リンテック株式会社 (1,750)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年7月17日(2007.7.17)
【出願人】(592134583)愛媛県 (53)
【出願人】(504147254)国立大学法人愛媛大学 (214)
【出願人】(000102980)リンテック株式会社 (1,750)
【Fターム(参考)】
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