説明

可視光透過型光触媒コーティング溶液の製造方法および可視光透過型光触媒コーティング溶液

【課題】新規な可視光透過型光触媒コーティング溶液の製造方法を提供する。
【解決手段】Ti(OR)4[Rは互いに独立で、炭素数1〜6の炭化水素基]で表される
有機チタン化合物、およびホルムアルデヒドおよび/またはジメチルホルムアミドとを混合した混合溶液に、酸触媒を加えたのち、(直ちに)加圧下で100〜200℃の温度に加熱し、1分から48時間反応させてアナターゼ型酸化チタンを含む湿潤ゲルを調製する工程(湿潤ゲル調製工程)を含む可視光透過型光触媒コーティング溶液の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板材料の表面に塗膜処理を施して常温で乾燥させることにより可視光透過型光触媒被膜を形成する可視光透過型光触媒コーティング溶液の製造方法および可視光透過型光触媒コーティング溶液に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光触媒は、その表面に紫外線が照射されるとそれを吸収して自由電子と正孔が形成される。この電子や正孔が有機物に作用するとそれを最終的には水を二酸化炭素に分解する。このことから防汚、防臭、抗菌等の特性を発揮する。光触媒を有する代表的な物質には、二酸化チタン、酸化スズ、酸化亜鉛等の金属酸化物や硫化カドミウム、硫化銅等の硫化物がある。その中でもアナターゼ型二酸化チタンの光触媒能が極めて高いことが知られている。
【0003】
そのため、二酸化チタン被膜を基材表面に形成して光触媒を持たせる種々の技術が提案されている。例えば、基材表面に二酸化チタン粒子を付着させた後焼結したり、二酸化チタン粒子を含むコーティング溶液を基材表面にコートした後焼成して光触媒被膜を形成する技術などが挙げられる。
【0004】
しかしながら、従来の方法では基材表面に光触媒被膜を形成する際には数百℃もの高温での焼成過程が不可欠であり、基材に耐熱性が必要である。このため、光触媒をコーティングできる基材に制限があった。また、既に建てられている家の壁など既存の材料に新たに光触媒能を付与する場合は非常に困難であった。また、二酸化チタンを含む光触媒塗料では、バインダーとして種々の酸化物などが含まれており、それらが二酸化チタン粒子の表面を覆ってしまい、光吸収によって生成する電子や正孔と分解したい有機物との接触が阻害され十分な光触媒特性を得ることが困難となる。
【0005】
最近、加熱処理を施さずに常温で光触媒被膜を作製する技術も提案されている。例えば、特開2004−256727号公報では、有機溶媒にジメチルホルムアルデヒドとチタンアルコキシドと酸触媒を加えて撹拌して湿潤ゲルを作製後、乳酸を含む有機溶媒にその湿潤ゲルを加えて溶解したコーティング溶液が提案されている。
【0006】
また、チタンアルコキシドを加水分解して、非晶質チタニアゾルを形成したのち、水存在下に擬似水熱合成することで、結晶粒径20nm以下のアナターゼを調製することが記載されている(特開2001−262007号公報(特許文献2)、特開2001−262
008号公報(特許文献3))。
【0007】
しかしながら、特許文献2および3に記載された方法では、得られた分散液の安定性が低く、このため、長期安定性に優れた光触媒コーティングを得ることは困難であった。
【特許文献1】特開2004−256727号公報
【特許文献2】特開2001−262007号公報
【特許文献3】特開2001−262008号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
一般に、光触媒能を持った粒子を含むコーティング液を用いて、加熱処理せずに常温で作製した光触媒被膜は基材に対する付着力は弱く、容易に剥離したり、粉落ちが起こった
りする。特にガラスなど透光性を有する基材上にこのようなコーティング液を塗布すると、透光性が損なわれる。そのため、応用が限られている。
【0009】
本発明は、可視光の透光性を損なわずかつ基材との付着力の著しい改善を実現したものである。 比較的短時間で、可視光を80%以上透過し、基材から容易に剥離しない光触
媒被膜を形成できる光触媒コーティング溶液の製造方法及び光触媒コーティング溶液を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る可視光透過型光触媒コーティング溶液の製造方法の特徴は、Ti(OR)4
[Rは互いに独立で、炭素数1〜6の炭化水素基]で表される有機チタン化合物、およびホルムアルデヒドおよび/またはジメチルホルムアミドとを混合した混合溶液に、
酸触媒を加えたのち、(直ちに)加圧下で100〜200℃の温度に加熱し、1分から48時間反応させてアナターゼ型酸化チタンを含む湿潤ゲルを調製する工程(湿潤ゲル調製
工程)
を含むことにある。
【0011】
前記湿潤ゲル調製工程の後、
乳酸を0.5〜10重量%の量で含む、2-エトキシエタノール、1-メトキシエタノール、2-プロパノールから選ばれる少なくとも1種の有機溶媒からなる溶液に、得られた湿潤ゲルを溶解する工程(湿潤ゲル溶解工程)を行ってもよい。
【0012】
このような方法により、可視光に対して透明であり、かつ優れた光触媒特性を有するコーティング膜を形成できる。
また、前記湿潤ゲル調製工程において、
混合溶液に、あらかじめ、シリコンアルコキシド、アルミニウムアルコキシド、マグネシウムアルコキシド、チタンアルコキシド、ジルニアアルコキシドから選ばれる少なくとも1種のアルコキシドを0.1〜1.0重量%の量で添加しておいてもよく、
さらに、湿潤ゲル溶解工程において、さらにシリコンアルコキシド、アルミニウムアルコキシド、マグネシウムアルコキシド、チタンアルコキシド、ジルコニアアルコキシドからなる群から選ばれる少なくとも1種のアルコキシド、および/または、
酸化チタン、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の無機酸化物を、
0.1〜10重量%の量で添加してもよい。
【0013】
これによって、室温で塗布・乾燥すると基材に対するコーティング膜の付着力を著しく向上させることができる。
ゲル調製工程において、70〜85重量%の有機溶媒に、ホルムアルデヒドおよび/またはジメチルホルムアミドを1〜6重量%、酸触媒として0.1〜1.5モル/Lの硝酸水溶液を1〜3重量%加えた後、有機チタン化合物を5〜15重量%の量で添加することがより望ましい態様である。
【0014】
また、本発明に係る可視光透過型光触媒コーティング溶液は、前述したいずれのコーティング溶液の製造方法により得られる溶液であることを特徴としており、この溶液によれば、基材に塗布・乾燥後、可視光に対して透明であり、かつ剥離し難く光触媒特性に優れたコーティング膜を形成する。
【発明の効果】
【0015】
以上の本発明によれば、短時間で常温乾燥により、基材に強固の付着し、耐水性に優れた可視光透過型光触媒コーティング膜を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に、本発明に係る可視光透過型光触媒コーティング溶液の製造方法及び光触媒コーティング溶液の実施形態について説明する。
本実施形態の光触媒特性コーティング溶液の製造方法は、主として加圧加熱下で生成した超微粒子が二次元ネットワークを形成して湿潤ゲルを製造するステップと、必要に応じて湿潤ゲルを有機溶媒に溶解させるステップとを行っている。このような工程は概略図1に示される。
【0017】
湿潤ゲルを製造するステップは、有機溶媒にホルムアルデヒドおよび/ジメチルホルムアミドと酸触媒を混合するステップと、それにチタンアルコキシドを加えて撹拌するステップと、さらに加圧加熱するステップを経て行われる。チタンアルコキシドを加えて撹拌するステップでは、徐々にチタンアルコキシドの加水分解が生じるが、その速度は極めて遅く、室温下では通常48時間以上の時間がかかる。加えて、この条件では得られる湿潤ゲルは非晶質の微粒子から構成されており、顕著な光触媒特性を示さない。そこで、加圧加熱下で反応させると48時間以内に加水分解反応が終了し、優れた光触媒特性を示す結晶を有する湿潤ゲルを得ることができる。また、反応時間の下限は1分間以上であればよい。より望ましい反応時間は24〜48時間である。
【0018】
本発明において、ホルムアルデヒドおよび/またはジメチルホルムアミドを添加する理由は、ゲルを乾燥させる際の亀裂の生成を抑制するためである。これを添加しない場合では、基材にコーティング溶液を塗布・乾燥すると、被膜に微細な亀裂が生成して、基材に対する固着力が悪く、指で膜を擦るだけで容易に剥離する。しかし、ジメチルホルムアルデヒドの添加により、被膜の表面と内部の収縮の違いによる毛細管力を緩和して、亀裂の生成を抑制する。本発明では、この効果を目的として添加している。
【0019】
有機溶媒には、エチルアルコール、メチルアルコール、プロピルアルコール異性体、ブチルアルコール異性体、メチルセルソルブ、エチルセルソルブ、ブチルセルソルブ等が挙げられる。また、チタンアルコキシドには、テトラメチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラノルマルブチルチタネート、テトラエトキシチタネート、テトラ2−エチルヘキシルチタネートなどが挙げられる。また、酸触媒には硝酸、塩酸等が挙げられ、この中でも硝酸が好ましい。アルカリ触媒は本発明のゾルゲル反応には好ましくない。
【0020】
本実施形態における有機チタン化合物、酸触媒、乳酸及び有機溶媒の好ましい含有量について説明する。
まず、有機チタン化合物(TiOR4)の含有量は、6〜15重量%の範囲、好ましくは
9〜13重量%とすることが好ましい。有機チタン化合物としては、チタンテトライソプロポキシドが望ましい。有機チタン化合物としては、チタンアルコキシド、チタンアセトナトキレートなどが挙げられる。このうち、チタンイソプロポキシド、チタンプロポキシド、チタンエトキシドなどが好ましい。
【0021】
6重量%から15重量%の範囲で、48時間以内に湿潤ゲルが得られ、これは有機溶媒に均一に分散する。溶液の寿命は1年以上であり、しかも得られる被膜は無色透明であり、基材に対する付着力も強固となる。なお多すぎると、酸触媒の入っている溶液にチタンイソプロポキシドを添加した途端に加水分解反応が進行し、湿潤ゲルを調製できない。また少なすぎると基材に対する付着性が低くなる。
【0022】
次に、酸触媒の含有量は1〜7重量%、好ましくは2〜5重量%の範囲にある。この範囲にあれば、48時間以内でゲル化が終了し、得られた湿潤ゲルを有機溶媒に均一に分散
し、溶液の寿命は1年以上であった。1重量%未満では溶液のゲル化が容易に進行しなかった。また7重量%以上を添加した場合では、急激な加水分解が進行し、均一に分散するような湿潤ゲルを調製できない。
【0023】
また、酸触媒の濃度は、0.1mol/Lより少ない場合では、得られる被膜の光触媒特性は低く、酸濃度が1.5mol/Lより多い場合では、ゲル調製時で急激な加水分解が進行し、均一に分散する湿潤ゲルを調製できないことがある。
【0024】
従って、酸触媒が硝酸の場合、濃度が0.1mol/Lから1.5mol/L、好ましくは0.8〜1.2mol/Lであり、ゲル調製溶液に対して1重量%から7重量%の範囲内で含有させ得
ることが好ましい。
【0025】
本発明では、前記湿潤ゲル調製工程の後、
乳酸を0.5〜10重量%の量で含む、2-エトキシエタノール、1-メトキシエタノール、2-プロパノールから選ばれる少なくとも1種の有機溶媒からなる溶液に、
得られた湿潤ゲルを溶解する工程(湿潤ゲル溶解工程)を行ってもよい。
【0026】
このような湿潤ゲル溶解工程によって、透明なコーティングを形成することが可能となる。
また、乳酸は可視光透過型光触媒コーティング溶液の全量に対して、より望ましくは0.8〜10重量%の範囲内で含有させることが好ましい。低級カルボン酸の量が0.5重
量%より少ないと、湿潤ゲルの均一な分散が困難となるおそれがある。また、低級カルボン酸の量が10重量%より多いと、被膜の乾燥時間が著しく長時間になったり、プラスチック基材上にコートする場合には基材を溶解するおそれがある。
【0027】
また、有機溶媒は可視光透過型光触媒コーティング溶液に対して、60重量%から80重量%の範囲内で含有させることが好ましい。60重量%より少ないと溶液中の湿潤ゲルの濃度が濃くなりすぎて、基材上に被膜を形成した際に亀裂や剥離が生じるおそれがある。一方、80重量%より多いと溶液中の湿潤ゲルの濃度が薄くなり、基材上に被膜を形成した際の被膜の付着力が低下して容易に剥離するおそれがある。
【0028】
本発明では、ゲル調製工程で、酸触媒を加えたのち、直ちに加圧下で100〜200℃の温度に加熱する。なお、「直ちに」とは、酸触媒を添加終了後、保持することなく直ぐに加熱することである。
【0029】
本実施形態における湿潤ゲルの調製時の好ましい温度と時間について説明する。
湿潤ゲルの調製時の温度が、100℃以下では得られた湿潤ゲルは図2に示すように非晶質であり、光触媒特性は認められたものの、その性能は著しく低い。110℃以上で得られた湿潤ゲルは図3に示すようにアナターゼ相であり、高い光触媒特性を示す。200℃以上の場合、アナターゼ相の湿潤ゲルが得られたが、それを有機溶媒に均一に分散するには困難になるおそれがある。
【0030】
このためゲル調製時の温度は110℃から200℃の温度範囲内とすることが好ましい。
湿潤ゲルの調製時の反応時間は、48時間以内とすることが好ましい。48時間以上の時間とすると、得られた湿潤ゲルを有機溶媒に均一に分散することが困難になり、被膜を形成した際に亀裂や剥離を生じるおそれがある。
【0031】
このような湿潤ゲル調製時の反応は、通常、加圧下で行われる。加圧は、大気圧よりも高い圧力となれば特に制限されるものではない。通常、このような加圧下での加熱はオー
トクレーブなどの耐圧加熱容器が使用される。
【0032】
また、前記湿潤ゲル調製工程において、混合溶液に、あらかじめ、シリコンアルコキシド、アルミニウムアルコキシド、マグネシウムアルコキシド、チタンアルコキシド、ジルコニアアルコキシドから選ばれる少なくとも1種のアルコキシドを0.1〜1.0重量%の量で添加しておいてもよく、
さらに、湿潤ゲル溶解工程において、さらにシリコンアルコキシド、アルミニウムアルコキシド、マグネシウムアルコキシド、チタンアルコキシド、ジルコニアアルコキシドからなる群から選ばれる少なくとも1種のアルコキシド、および/または、
酸化チタン、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の無機酸化物を、
0.1〜10重量%、好ましくは0.8〜1.2重量%の量で添加してもよい。
【0033】
これによって、室温で塗布・乾燥すると基材に対するコーティング膜の付着力を著しく向上させることができる。
本発明のより具体的な実施態様としては、ゲル調製工程において、70〜85重量%の有機溶媒に、ホルムアルデヒドおよび/またはジメチルホルムアミドを1〜6重量%、酸触媒として0.1〜1.5モル/Lの硝酸水溶液を1〜3重量%加えた後、有機チタン化合物を5〜15重量%の量で添加することがより望ましい。このような実施態様によれば、所望とする可視光透過型光触媒コーティング溶液を効率的に製造することができる。
【0034】
本発明に係る可視光透過型光触媒コーティング溶液は、上記した方法で製造される。
かかるコーティング溶液は、ポットライフが長く長期安定性に優れるとともに、基材への付着性が高く、さらには、可視光透過性が高く、光触媒機能も高い。
【0035】
次に、本実施形態における湿潤ゲルの生成相及び可視光透過型光触媒コーティング溶液を常温塗布させた被膜の各種の性能試験を行った。なお、以下の各実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0036】
[実施例1]
本発明の実施例1の可視光透過型光触媒コーティング溶液は、以下のようにして調製した。2−プロパノール82.7重量%に対してジメチルホルムアミドを5.0重量%及び0.1mol/Lの硝酸を2.5重量%加えた後、これを撹拌しながらチタンテトライソプロポキ
シド9.8重量%を加えた。この溶液を耐圧容器内に入れ、120℃で48時間加熱して
湿潤ゲルを調製した。メチルセルソルブ60.0重量%に対して乳酸6.7重量%を加えた後湿潤ゲル33.3重量%を加えて超音波分散して、可視光透過型光触媒コーティング溶
液を調製した。
【0037】
[実施例2]
本発明の実施例2の可視光透過型光触媒コーティング溶液は、以下のようにして調製した。2−プロパノール82.6重量%に対してジメチルホルムアミドを5.0重量%及び0.1mol/Lの硝酸を2.5重量%加えた後、これを撹拌しながら、テトラエトキシシラン0.1重量%を加えて撹拌し、その後チタンテトライソプロポキシド9.8重量%を加えた。
この溶液を耐圧容器内に入れ、120℃で48時間加熱して湿潤ゲルを調製した。メチルセルソルブ67.5重量%に対して乳酸7.5重量%を加えた後湿潤ゲル25.0重量%を
加えて超音波分散して、可視光透過型光触媒コーティング溶液を調製した。
【0038】
[実施例3]
本発明の実施例3の可視光透過型光触媒コーティング溶液は、以下のようにして調製した。2−プロパノール82.7重量%に対してジメチルホルムアミドを5.0重量%及び0
.1mol/Lの硝酸を2.5重量%加えた後、これを撹拌しながらチタンテトライソプロポキ
シド9.8重量%を加えた。この溶液を耐圧容器内に入れ、120℃で48時間加熱して
湿潤ゲルを調製した。メチルセルソルブ60.0重量%に対して乳酸6.7重量%を加えた後湿潤ゲル33.3重量%を加えて超音波分散した。その後この溶液に対してテトラエト
キシラン5重量%加えて撹拌し、可視光透過型光触媒コーティング溶液を調製した。
【0039】
『試験1:紫外線照射下におけるコーティング膜の色素分解試験』
各実施例のコーティング膜の光触媒特性を調べるために、紫外線照射(約1000μW/cm2)
下における10mg/Lのメチレンブルー溶液の分解試験を行った。試料は可視光透過型光触媒コーティング溶液をシャーレ内側にコーティングし、乾燥後、それにメチレンブルー溶液を20ml入れて暗室内で紫外線を2日間照射した。なお、対象試料として可視光透過型光触媒コーティング溶液をコーティングしないでメチレンブルー溶液を入れた試料も作製し、同様の試験を行った。
【0040】
以上のような試験について、実施例1から実施例3で調製したコーティング溶液について評価し、その結果を表1に示す。
【0041】
【表1】

【0042】
可視光透過型光触媒コーティング溶液をシャーレ内側にコーティングし、乾燥後、それにメチレンブルー溶液を20ml入れて暗室内で紫外線を2日間照射した結果、表1に示すように実施例1〜3のいずれにおいてもメチレンブルーはほとんど分解された。これに対して、可視光透過型光触媒コーティング溶液をコーティングしていない試料では、メチレンブルーの分解は全く認められなかった。これより、本発明によって作製したコーティング膜は極めて優れた光触媒特性を示した。
【0043】
また、実施例1の試料について、紫外線照射した場合の試験液の青色を、吸光度計を用いて測定した結果、図4に示すように照射時間の増加に伴って吸光度は急激に減少し、2日間の照射によりほとんどのメチレンブルーが分解された。
【0044】
『試験2:可視光透過型光触媒コーティング溶液から作製したコーティング膜の光透過
率の測定』
各実施例の可視光透過型光触媒コーティング溶液をコーティングした試料の光透過性を調べるために、近紫外〜近赤外領域おける光透過率を測定した。試料は、石英ガラス上に可視光透過型光触媒コーティング溶液をコーティングし、乾燥後、紫外・可視分光光度計を用いて、200nm〜2000nmの波長領域で光透過率を測定した。
【0045】
以上のような試験の結果、いずれの実施例で作製したコーティング膜においても、図5に示すように可視光領域(400nm〜800nm)において、80%以上の透過率を有しており、十分に透明であることが明らかとなった。
【0046】
『試験3:可視光透過型光触媒コーティング溶液から作製したコーティング膜の基材に対する固着力の測定』
各実施例のコーティング膜の基材に対する固着力を調べるために、10mg/Lのメチレンブルー溶液20ml入れたシャーレ中に、可視光透過型光触媒コーティング溶液をコーティングして乾燥したスライドカラスを浸漬し、1週間ガラス紫外線照射(約1000μW/cm2)し
た。時間の経過に伴ってスライドガラスからコーティング膜が剥離しないかどうかを観察した。
【0047】
以上のような試験について、実施例1から実施例3の結果を表2に示す。
【0048】
【表2】

【0049】
実施例1においては、スライドカラスからコーティング膜の一部の剥離が認められたが、実施例2及び3においては1週間メチレンブルー中に浸漬してもコーティング膜の剥離は認められなかった。
【0050】
[比較例1]
特開2001−262008号公報実施例の記載に基づいて、テトライソプロポキシドを用い、チタンと水との比が1:4となるように調製し、140℃で1日間のゲル化条件
で湿潤ゲルを調製した。得られたアナターゼ型酸化チタンを2重量%となるように、2-メトキシエタノールに分散させ、2時間超音波照射して、コーティング溶液を調製した。
【0051】
また対照として、前記実施例1のコーティング溶液と対比した。
溶液の分散状態を観察したところ、比較例のものは1週間で完全に沈降したが、実施例
1のものは高い分散状態を保っていた。
【0052】
また、上記コーティング溶液を、ガラス基板上に200nmの厚さとなるように塗布した
後、乾燥したところ、比較例1のコーティング溶液を用いて形成したコーティングは、白濁しており、また厚さムラも大きかったが、実施例1のコーティング溶液を用いて形成したコーティングは透明性が高く、また厚さのムラもなかった。
【0053】
さらに、得られたガラス基板上のコーティングを10mg/lのメチレンブルー溶液20mlに浸漬し(試料の塗布面積は2.7×2.5cm)、表面をサランラップ(登録商標)で覆ったのち、ブラックライト下で、吸光度の変化を観察した。
【0054】
結果を表3に示す。
【0055】
【表3】

【0056】
表3より、実施例1のものは、比較例1とくらべて、吸光度の低下が大きく、光触媒機能が高いことが判明した。
以上のような各試験結果より、本発明により可視光透過型光触媒コーティング溶液を基材にコーティングすることで透明かつ光触媒特性を基材に容易に付与することができる。とくに、可視光透過型光触媒コーティング溶液を調製する際に、種々の金属アルコキシドやゾルを添加することで、その基材への固着力は向上する。
【0057】
なお、本発明に係る可視光透過型光触媒コーティング溶液を製造方法及びこれによる溶液は、前述した実施形態に限定されるものではなく、適宜変更することができる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明に係る可視光透過型光触媒コーティング溶液の製造方法を示すフロー図である。
【図2】100℃以下で調製した湿潤ゲルのX線回折図形である。
【図3】120℃で調製した湿潤ゲルのX線回折図形である。
【図4】実施例1で120℃で調製した可視光透過型光触媒コーティング溶液をコートした試料のメチレンブルーの退色試験結果
【図5】実施例1にて、120℃で調製した可視光透過型光触媒コーティング溶液をコートした試料の光透過率曲線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ti(OR)4[Rは互いに独立で、炭素数1〜6の炭化水素基]で表される有機チタン
化合物、およびホルムアルデヒドおよび/またはジメチルホルムアミドとを混合した混合溶液に、
酸触媒を加えたのち、(直ちに)加圧下で100〜200℃の温度に加熱し、1分から48時間反応させてアナターゼ型酸化チタンを含む湿潤ゲルを調製する工程(湿潤ゲル調製
工程)
を含むことを特徴とする可視光透過型光触媒コーティング溶液の製造方法。
【請求項2】
前記湿潤ゲル調製工程の後、
乳酸を0.5〜10重量%の量で含む、2-エトキシエタノール、1-メトキシエタノール、2-プロパノールから選ばれる少なくとも1種の有機溶媒からなる溶液に、
得られた湿潤ゲルを溶解する工程(湿潤ゲル溶解工程)を含むことを特徴とする請求項1に記載の可視光透過型光触媒コーティング溶液の製造方法。
【請求項3】
前記湿潤ゲル調製工程において、
混合溶液に、あらかじめ、シリコンアルコキシド、アルミニウムアルコキシド、マグネシウムアルコキシド、チタンアルコキシド、ジルニアアルコキシドから選ばれる少なくとも1種のアルコキシドを0.1〜1.0重量%の量で添加する請求項1または2に記載の可視光透過型光触媒コーティング溶液の製造方法。
【請求項4】
湿潤ゲル溶解工程において、さらにシリコンアルコキシド、アルミニウムアルコキシド、マグネシウムアルコキシド、チタンアルコキシド、ジルコニアアルコキシドからなる群から選ばれる少なくとも1種のアルコキシド、および/または、
酸化チタン、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の無機酸化物を、
0.1〜10重量%の量で添加する請求項1〜3のいずれかに記載の可視光透過型光触媒コーティング溶液の製造方法。
【請求項5】
ゲル調製工程において、70〜85重量%の有機溶媒に、ホルムアルデヒドおよび/またはジメチルホルムアミドを1〜6重量%、酸触媒として0.1〜1.5モル/Lの硝酸水溶液を1〜3重量%加えた後、有機チタン化合物を5〜15重量%の量で添加することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の可視光透過型光触媒コーティング溶液の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法で得られた可視光透過型光触媒コーティング溶液。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−112905(P2007−112905A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−306071(P2005−306071)
【出願日】平成17年10月20日(2005.10.20)
【出願人】(504237050)独立行政法人国立高等専門学校機構 (656)
【出願人】(505392455)
【出願人】(505392466)
【Fターム(参考)】