説明

合わせガラス及び合わせガラス部材

【課題】合わせガラスに求められる耐衝撃性に加え、破損時に生じるガラス飛散破片が小さく、またその発生量も少ない安全性の高い合わせガラスを提供する。
【解決手段】合わせガラス10は、7枚の板ガラス20と6枚のPVB樹脂30を交互に積層した構造である。一方の透光面10aから4.0mmまでの積層領域は、2枚の板ガラス20で構成される厚さ0.7mmの2つのガラス層と、厚さ1.5mmの1枚の板ガラス20のうち上記積層領域内に位置する部分20cで構成される厚さ0.8mmの1つのガラス層と、これらガラス層間に介装され、ガラス層と密着する厚さ1.3mmと0.5mmの2つの密着層30とで構成される。他方の透光面10bから4.0mmまでの積層領域も、上記積層領域と同じ積層構造である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建造物や車両等に使用される窓材を構成する合わせガラス、及びこの合わせガラスを使用した合わせガラス部材に関する。
【背景技術】
【0002】
合わせガラスは、一般に、2枚の無機ガラス板の間に樹脂を挟んだ構造を有し、建築物や自動車、鉄道車両などの窓材として、数多く利用されている。合わせガラスは、一般的な単板窓ガラスと比較すると、ガラス面の強度及び靭性に優れ、外力に対する耐久性があり、容易に破壊や貫通が起こり難いものである。このような性能を有するため、合わせガラスはセキュリティや安全性が要求される窓材として有用である。合わせガラスは樹脂の材質を選択することによって様々な性能を発揮させることができるため、新たな樹脂についての研究が行われ、遮音性や遮熱性等の様々な付加性能に優れた合わせガラスが実現されている。
【0003】
上記のように、合わせガラスは、多くの建造物や自動車等に搭載されており、その性能や品位をさらに向上するための発明は数多く行われてきている。例えば特許文献1には、破損時にガラス破片が飛散し難く、遮音性に優れた合わせガラスが開示されている。この発明は、2種類のポリビニルアセタール樹脂膜を使用することで、コインシデンス効果による遮音性低下を防止するというものである。コインシデンス効果とは、ガラスに音波が入射したとき、ガラスの剛性と慣性によってガラス面上を横波が伝導し、この横波と入射音が共鳴し、音の透過が起こる現象である。特許文献2には、飛来物などへの耐衝撃性および耐剥離性に優れた合わせガラスが開示されている。この発明は、ヤング率の異なる2種類以上の樹脂製の中間膜を重ね合わせてガラス板間に挿入し、密着一体化したものである。特許文献3には、外力によってガラスが破損した場合にも飛散が起こり難い安全な合わせガラスが開示されている。この発明は、エチレン−メタクリル酸共重合体の分子間を金属イオンで結合させたアイオノマー樹脂に、有機過酸化物及びシランカップリング剤を配合し、それによって得られた熱硬化性樹脂をガラス板間に挟み、熱硬化にて一体化したものである。特許文献4には、ガラスが破損しても破片が飛散しない合わせガラスが開示されている。この発明は、2枚のガラスの間に、ポリ炭酸エステル、ペンタエリスリトールテトラ(3−メルカトプロピオネート)及び光重合開始剤を含む重合性組成物を注入し、樹脂を光重合にて硬化させて樹脂層を形成したものである。
【特許文献1】特開平7−206483号公報
【特許文献2】特開2003−192402号公報
【特許文献3】特開平9−30846号公報
【特許文献4】特開平11−236252号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、現在では、合わせガラスにはさらなる機能向上が求められている。このため、従来行われた発明だけでは不十分である。例えば高層建築物の窓板材には、耐風性が必要という観点から合わせガラスが使用される。しかし、このような高層建築に使用された合わせガラスが、地震や飛来物などによる衝撃等で破壊されると、大量の破砕物が路面上に落下してしまう。その際、路上の歩行者や屋内から路上に避難してきた人には、大きなガラス破片が降り注ぐことになり、大変危険である。また、高層建築の窓板材としては軽量であることが望ましいが、現状の合わせガラスは、この点に関しての配慮が不十分である。一方、高層建築ではない低層の建造物でも、合わせガラスの適用には課題がある。例えば福祉施設や医療関連施設などで合わせガラスが利用されれば、打突等に対して相応の強度を有するものが得られる。しかし、大きな衝突で一旦破壊されると、大きく鋭利なガラス破片が生じるため、切創災害などが起こる危険性がある。
【0005】
特許文献1から特許文献4は、いずれもがガラスが破損しても破片が飛散しない、あるいは、飛散し難い合わせガラスを開示している。しかし、いずれの発明も、合わせガラスを構成する樹脂層の材質改良であり、合わせガラスを構成する板ガラスには注目したものではない。また、いずれの発明による合わせガラスであっても、破損時に大きなガラス破片が生じる点は回避できない。
【0006】
本発明は、このような状況に鑑み、優れた耐衝撃性に加え、たとえガラスの強度を超える荷重が加えられて合わせガラスが破壊されても飛散したガラス破片の寸法が小さく、その発生量も少ないという利点を有する合わせガラスの提供を課題とする。また本発明は、高層建築等の建造物から破壊されたガラス破片の飛散で生じる打撲や切創等の被害を抑制できる軽量な合わせガラス部材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、耐衝撃力や耐貫通性などの機械的強度に加え、破片による打撲や切創を防ぐ合わせガラスの構造についての研究を重ね、その方法を探究した。そして合わせガラスが破壊されても、飛散したガラス破片の大きさが微細で、その発生量も僅かなものとできれば、ガラス破片の飛来による切創や打撲などの二次的な傷害や災害の発生を抑止できる点に注目した。その結果、本発明者らは、合わせガラスを構成するガラス層の厚さと、その配置や積層構造を工夫することで、課題の達成が可能となることを初めて見出し、ここに本発明を提供するものである。
【0008】
すなわち、本発明の合わせガラスは、複数のガラス層と密着層とを交互に積層した合わせガラスであって、該合わせガラスの厚さ方向に対向する表裏の透光面のうち少なくとも一方から深さ4.0mmまでの積層領域が、複数の密着層と厚さ1.0mm未満の複数のガラス層とで構成されていることを特徴とする。
【0009】
本発明の合わせガラスは、複数のガラス層と密着層とを交互に積層した構成の合わせガラスであり、表裏の透光面のうち少なくとも一方から深さ4.0mmまでの積層領域を構成するガラス層の厚さが全て1.0mm未満であるものである。ここで、本発明における各「ガラス層」は、典型的には1枚の板ガラスで構成されるものであるが、上記積層領域内で最も内層側に位置するガラス層は1枚の板ガラスの一部で構成される場合もある。この場合、当該板ガラスの内層側端は上記積層領域の境界(上記深さ4.0mmの位置)よりも内層側に位置し、当該板ガラスの上記積層領域内に位置する部分が本発明でいう「ガラス層」になる。
【0010】
本発明において、合わせガラスを構成するガラス層(板ガラス)の種類は特に限定されない。すなわち、ソーダ石灰ガラス、鉛ガラス、無アルカリガラス、石英ガラス、アルミノシリケートガラス、ホウ珪酸ガラス、燐酸塩ガラス、テルライトガラス、チタン酸塩ガラス、フッ化物ガラス、リチウムシリケートガラスなどの様々なガラス材を使用できる。本発明で使用する各板ガラスは、同じ材質でも異なってもよい。板ガラスの使用枚数は、本発明で定義する積層領域の条件を満たす限り、無制限である。各板ガラスの厚さは、同じでも異なってもよい。ただし、より安定した強度性能を発揮させたければ、実質的に5枚以上の板ガラスが積層された構造がより好ましい。
【0011】
本発明者らは、合わせガラスの破損時の安全性を調査する中で、破壊時の板ガラス飛散破片を小さくして板ガラスの発生量を減らすには、合わせガラスの透光面を厚さの小さいガラス層で構成することが効果的であることを先ず見出した。しかし、これだけでは、合わせガラスが破壊される場合に、合わせガラスの透光面より内層側にあるガラス層の破片が破損時に飛び出すこともあり、安全上問題が残った。この問題を解決すべく調査をさらに進めると、合わせガラスの透光面の近傍領域、特に透光面から深さ4.0mmまでの領域(積層領域)に厚さの小さいガラス層を配すると、透光面及びその近傍領域のガラス層の破片飛散を防ぐとともに、上記積層領域よりも内層側に配されるガラス層の破片の飛散をも防御できることを見出した。
【0012】
本発明の合わせガラスの密着層については、ガラス層の密着に有効に働き、所望の光学性能が得られるならば任意の材料を使用できる。例えば、水ガラスのような無機系の密着剤、あるいはアクリル(あるいはメタクリル)系樹脂やオレフィン系樹脂、ウレタン樹脂系、エーテル系樹脂、エポキシ系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、水性高分子−イソシアネート系樹脂、スチレン−ブタジエンゴム溶液系樹脂、シリコーン系、ポリイミド系樹脂、フェノール系樹脂、メラミン系樹脂、ポリビニル系樹脂、ニトロ系樹脂シアノアクリレート系樹脂、塩化ビニル系樹脂あるいはクロロプレンゴム系樹脂などの有機合成樹脂系の密着剤を適宜選択して使用できる。
【0013】
また本発明の合わせガラスの密着層は、複数の層状物を積層して構成してもよい。さらに、密着層内に金属や樹脂、あるいはガラス繊維やカーボン繊維の網状物等を挟設してもよい。
【0014】
また本発明の合わせガラスは、上述に加え密着層の主成分が樹脂であれば、板ガラスとの密着性を高め易く、板ガラス破片の飛散防止を効果的に行えるため好ましい。
【0015】
密着層の主成分が樹脂であるとは、密着層の50質量%以上が樹脂成分からなるということである。密着層における樹脂の混合形態については、均質か不均質かは問わない。不均質混合の場合も、その形態は不問であり、液体状、ペースト状、ゼリー状、繊維状、薄片状、粉末状、粒子状、テープ状など任意でよい。
【0016】
樹脂には、性能調整用に様々な物質を添加できる。例えば、重合促進剤、酸化防止剤、重合禁止剤、粘性調整剤、除湿剤などを、必要に応じて適量使用できる。
【0017】
また本発明の合わせガラスは、上述に加え、上記積層領域における全てのガラス層の厚さの合計値から、上記積層領域内で最も外層側に位置するガラス層の厚さと、上記積層領域内で最も内層側に位置するガラス層が1枚の板ガラスの一部で構成される場合は該ガラス層の厚さと、を差し引いた値が0.5mm以上であると、合わせガラスが破損した時に、上記積層領域よりも内層側で発生するガラス破片の透光面への突出や外部への飛散を効果的に抑止できる。
【0018】
例えば、実施の形態の図1(A)に示す合わせガラス11と、図1(B)に示す合わせガラス12を例にとって説明する。
【0019】
まず、図1(A)に示す合わせガラス11では、透光面11aから深さ4.0mmまでの積層領域に、透光面11aの側から順に厚さ0.5mm、0.5mm、0.6mmの3つのガラス層が設けられている。最も内層側に位置する厚さ0.6mmのガラス層は、厚さ3.0mmの板ガラスの一部(上記積層領域内に位置する部分)によって構成されている。この場合、上記積層領域における全てのガラス層の厚さの合計値は0.5mm+0.5mm+0.6mm=1.6mmであり、上記積層領域内で最も外層側に位置するガラス層の厚さは0.5mm、上記積層領域内で最も内層側に位置するガラス層の厚さは0.6mmである。従って、この合わせガラス11は、1.6mm−(0.5mm+0.6mm)=0.5mm≧0.5mmの条件を満たす。
【0020】
つぎに、図1(B)に示す合わせガラス12では、透光面12aから深さ4.0mmまでの積層領域に、透光面12aの側から順に厚さ0.7mm、0.5mm、0.7mmの3つのガラス層が設けられている。最も内層側に位置するガラス層は、他のガラス層と同様に、1枚の板ガラスの全部で構成されている。この場合、上記積層領域における全てのガラス層の厚さの合計値は0.7mm+0.5mm+0.7mm=1.9mmであり、上記積層領域内で最も外層側に位置するガラス層の厚さは0.7mmである(上記積層領域内で最も内層側に位置するガラス層の厚さはカウントしない)。従って、この合わせガラス12は、1.9mm−0.7mm=1.2mm≧0.5mmの条件を満たす。
【0021】
本発明において、合わせガラス及びガラス層の厚さは、校正されたノギス、マイクロゲージ付き顕微鏡などの寸法計測器を使用して測定すればよい。
【0022】
また本発明の合わせガラスは、上述に加え、表裏の透光面がそれぞれガラス層で構成されていると、表面光沢や耐加傷性などのガラスの長所を、窓材などの用途で有効利用できる。特に、ガラス層が無アルカリガラスであれば、高い化学的耐久性や耐候性を有するため、過酷な環境でも使用可能となって用途が広がる。
【0023】
無アルカリガラスの組成は、ガラス層の所望の機械的性質、耐候性、表面平滑性を得られるものであれば任意である。特に、酸化物換算の質量百分率表示でSiO+B 60%以上、NaO+KO+LiO 1%以下であると好ましい。そして、この組成でAl 1〜25%、RO(R=Mg+Ca+Sr+Ba+Zn) 2〜30%であれば一層好ましい。また、製造条件を適正範囲内で安定制御し易くする点では、上述の組成範囲においてSiO+B 60〜80%、Al 5〜20%とするのがよい。このような好ましい組成を有するガラスとしては、例えば、日本電気硝子株式会社が製造する液晶表示装置搭載用の薄板ガラス(商品コード:OA−10、OA−21)がある。
【0024】
また本発明の合わせガラスは、表裏の透光面の側にそれぞれ上述した積層構造の積層領域を有すると、表裏両面について破損時の安全性が得られる。さらに、表裏両面の積層領域の積層構造が、合わせガラスの厚さ方向の中心面に対して面対称であれば、表裏区別の必要が無くなり、施工時に表裏面を意識せずに施工することが可能で、また材料管理も簡便となる。
【0025】
本発明の合わせガラスは、上述に加え、密着層の樹脂が熱可塑性樹脂であると、板ガラスとの密着性を高め易く、板ガラス破片の飛散防止を効果的に行えるため好ましい。
【0026】
熱可塑性樹脂としては、所望の性能を有し、板ガラスと積層したときに充分高い可視光透過率を実現できる材質であれば使用できる。例えば、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、セルロースアセテート(CA)、ジアリルフタレート樹脂(DAP)、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)、ポリエチレン(PE)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリビニルブチラール(PVB)、ポリビニルホルマール(PVF)、ポリビニルアルコール(PVAL)、メタクリル樹脂(PMA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ユリア樹脂(UP)、メラミン樹脂(MF)、不飽和ポリエステル(UP)、酢酸ビニル樹脂(PVAc)、アイオノマー(IO)、ポリメチルペンテン(TPX)、塩化ビニリデン(PVDC)、ポリスルフォン(PSF)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、メタクリル−スチレン共重合樹脂(MS)、ポリアレート(PAR)、ポリアリルスルフォン(PASF)、ポリブタジエン(BR)、ポリエーテルスルフォン(PESF)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)を使用できる。この中でも特に、板ガラスとの密着性を高め易く、板ガラス破片の飛散防止を効果的に行う点で好ましいものは、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)やポリビニルブチラール(PVB)である。
【0027】
エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)やポリビニルブチラール(PVB)が特に好ましいのは、以下のような理由による。本発明の合わせガラスは、透光面やその近傍領域(積層領域)に配するガラス層の厚さを小さくしている。このことは、破損時に生じるガラス片を小さくすることに繋がる。また、単位質量のガラス破片について密着層との接着面積が増加し、ガラス破片が密着層から離れ難くなるため、ガラス破片の飛散する量を減らすことにもなる。これらはいずれも、ガラス片による切創や打撲の防止に寄与する。熱可塑性樹脂は、熱と圧力を加えることで、ガラスとの高い密着性を実現し易い。熱可塑性樹脂の中でも、ポリビニルブチラール(PVB)やエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)は、このような観点から有用である。
【0028】
ガラスと樹脂の貼合せで生じる巻込み泡は、視覚的な問題に加え、部分的な非接着部としてガラス破片の遊離飛散防止を妨げる場合がある。巻込み泡の問題を回避するためにも、熱可塑性樹脂は有用である。なぜなら熱可塑性樹脂は、熱と圧力を加えると泡中の気体を吸収して、泡の消滅に寄与する。先に挙げたポリビニルブチラール(PVB)やエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)は、この点でも大きな効果がある。
【0029】
本発明の合わせガラスにおいて、透光面及びその近傍領域(積層領域)の積層構造は、それよりも内層側の領域(深部)で発生するガラス破片の透光面への突出や外部への飛散を防止する。この積層領域の積層構造が、深部で発生するガラス破片に対して貫通し易い構造であると、深部で生じたガラス破片の透光面への突出や飛散の防止を十分に行えない。深部で生じたガラス破片が透光面にまで貫通し難い積層構造にするには、積層領域のガラス層が密着層に強固に接着された構造とするのが好ましい。そのためには、先に挙げた熱可塑性樹脂は強固な接着力を有するので好ましく、その中でも、ポリビニルブチラール(PVB)やエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)は特に好ましい。
【0030】
一方、ポリカーボネートやポリイミド樹脂などの硬質樹脂は、その硬度が硬く、ガラスとの接着性も低い。これらを単体で本発明の密着層に用いると、ガラス層との接着が困難となり、ガラス破片の飛散防止に問題が生じることがある。しかし、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)などに混合する、あるいは重ねる構成にすると、この問題を回避できる。また、表面を改質して用いてもよい。接着問題を回避して硬質樹脂を使用できる場合には、硬質樹脂の耐貫通性を享受でき、深部のガラス片の飛散防止を効果的に行える。
【0031】
熱可塑性樹脂を板ガラス間に挟みこんで合わせガラスを形成する方法としては、各種の方法を利用できる。例として、予めシート状に成形した樹脂材を板ガラス間に挟んで加熱圧着する方法、あるいは予め積層した板ガラス間に熱可塑性樹脂を流入する方法等が挙げられる。
【0032】
また本発明の合わせガラスは、上述に加えJIS R3205(2005)に従う落球試験により生じる破片ガラス量が0.1cm/枚以下であれば、合わせガラスが破壊されても大量のガラス破片が飛散せず、重大災害に繋がる危険性を軽減できるため好ましい。
【0033】
ここで、前記の落球試験を、具体的に説明する。本発明の評価で使用したJIS R3205(2005)は、2005年発行の日本工業規格 JIS R3205「合わせガラス」において、7.6項に記戴の「落球試験の試験方法」に従うものである。この試験では、寸法約610×610mmの透光面を有する合わせガラスを用意し、その上にJIS B1501に規定された質量1040gの鋼球を落下させる。落下させる位置は、被試料である合わせガラスの透光面の中心から25mm以内とする。落球操作は、120cm、150cm、190cm、240cm、300cm、380cm、480cmと高さを順次上げて1回ずつ行う。この一連の操作の後、すなわち1040gの鋼球の落下後は、JIS B1501に規定された質量2260gの鋼球を、480cmの高さから落下させる。この一連の操作の後に落球の衝突で発生したガラス飛散破片の総量を計測する。本発明の合わせガラスでは、この値が0.1cm/枚以下となる。
【0034】
前記の落球試験で生じる破片ガラス量が0.1cm/枚を超えると、多数のガラス破片が発生することとなり、破片による切創の危険性を無視し難くなるため好ましくない。
【0035】
本発明に係る落球試験で生じる破片ガラス量が0.1cm/枚を超えると、破片による切創の危険性を無視し難くなるため好ましくない。
【0036】
また本発明の合わせガラスは、上述に加え水廻り部材として用いられるものであれば、衣服などで保護されていない皮膚が危険に晒される虞が小さくなる。
【0037】
ここで、水廻り部材とは、例えば浴室壁、シャワーブースの壁、浴室戸、浴槽、浴室カウンター、浴槽エプロン部、洗面仕切り板、洗面カウンター、洗面ボウル、キッチンシンクなど、素肌が触れる可能性が高い家屋内部に使用される部材を意味している。
【0038】
本発明の合わせガラス部材は、枠体に、上述した構成の合わせガラスを固定してなることを特徴とする。これにより、種々の施工スタイルに合わせて建造物などに配設することができる。
【0039】
本発明の合わせガラス部材では、透光面に密着層とは異なる材質よりなる被膜を施してよい。被膜の種類については、透過率や屈折率などの光学特性、表面硬度、表面導電性、耐湿性などの種々の特性を調整すべく、適宜任意に選択できる。
【0040】
本発明に係る表面被膜としては、例えば、シリカ(SiO)、アルミナ(Al)、ジルコニア(ZrO)、酸化タンタル(又はタンタラ)(Ta)、酸化ニオブ(Nb)、酸化ランタン(La)、酸化イットリウム(Y)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化ハフニウム(HfO)、酸化クロム(Cr)、フッ化マグネシウム(MgF)、酸化モリブデン(MoO)、酸化タングステン(WO)、酸化セリウム(CeO)、酸化バナジウム(VO)、酸化チタンジルコニウム(ZrTiO)、硫化亜鉛(ZnS)、クリオライト(NaAlF)、チオライト(NaAlF1)、フッ化イットリウム(YF)、フッ化カルシウム(CaF)、フッ化アルミニウム(AlF)、フッ化バリウム(BaF)、フッ化リチウム(LiF)、フッ化ランタン(LaF)、フッ化ガドリニウム(GdF)、フッ化ディスプロシウム(DyF)、フッ化鉛(PbF)、フッ化ストロンチウム(SrF)、アンチモン含有酸化スズ(ATO)膜、酸化インジウム−スズ膜(ITO膜)、SiOとAlの多層膜、SiOx−TiOx系多層膜、SiO−Ta系多層膜、SiOx−LaOx−TiOx系列の多層膜、In−Y固容体膜、アルミナ固容体膜、金属薄膜、コロイド粒子分散膜、ポリメチルメタクリレート膜(PMMA膜)、ポリカーボネート膜(PC膜)、ポリスチレン膜、メチルメタクリレートスチレン共重合膜、ポリアクリレート膜等の組成を有するものを使用できる。
【0041】
本発明に係る表面被膜を、膜特性の観点で例示すると、反射防止膜(ARコートともいう)、赤外線反射膜(又は赤外線カットフィルター)、無反射膜、導電膜、帯電防止膜、ローパスフィルター、ハイパスフィルター、バンドパスフィルター、遮蔽膜、強化膜、保護膜などが挙げられる。被膜の付与様式は任意である。表裏の透光面の双方を被覆する場合、被覆膜の種類は同じでも異なってもよい。同一面に、異種の被膜を積層してもよい。被膜の積層数についても限定はない。
【0042】
被膜の形成方法については、所定の表面精度や機能を実現できる方法であれば、任意の方法を採用できる。例えば、スパッタリング法、真空蒸着法、あるいは熱CVD法、レーザーCVD法、プラズマCVD法、分子線エピタキシー法(MBE法)、イオンプレーティング法、レーザーアブレーション法、有機金属化学気相成長法(MOCVD)等の化学的気相成長法(またはCVD法)、さらにゾル−ゲル法、スピンコーティングやスクリーン印刷の塗布法、メッキ法等の液相成長法、が挙げられる。ただし、この中でも特にCVD法は、低温で密着性の良い被覆膜が形成でき、種々の被膜に対応可能で、化合物の被膜形成にも適しているため好ましい。
【発明の効果】
【0043】
本発明の合わせガラスは、上述した構成を有するため、破損した場合でも、ガラス飛散破片が小さくて量も少なく、切創や打撲などが生じ難いため安全である。また、貫通穴などのガラスの破壊箇所が生じても、破壊されたガラスによって切創する危険性は著しく低下する。
【0044】
本発明の合わせガラス部材は、枠体に、上記の合わせガラスを固定してなるものであるため、種々の建造物に施工し易く、ハンドリング性が良好である。この枠体固定は、合わせガラスの端面保護にも効果があり、搬送時に破損が生じ難い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0045】
以下、本発明の実施の形態に係る合わせガラスと、この合わせガラスを使用する合わせガラス部材について、その詳細を具体的に説明する。
【0046】
図1(A)は第1の実施の形態の合わせガラス11、図1(B)は第2の実施形態の合わせガラス12について、透光面及びその近傍領域を示している。
【0047】
図1(A)に示す合わせガラス11では、透光面11aから深さ4.0mmまでの積層領域が、板ガラス20で構成される厚さ0.5mmの2つのガラス層と、板ガラス20の上記積層領域内に位置する部分20aで構成される厚さ0.6mmのガラス層と、これらガラス層間に介装され、ガラス層と密着する厚さ1.6mmと0.8mmの2つの密着層とで構成されている。前述したように、上記積層領域内で最も内層側に位置するガラス層20aを構成する板ガラス20は厚さ3.0mmのものであり、該板ガラス20の内層側端は上記積層領域の境界(深さ4.0mmの位置)よりも内層側に在る。また、透光面11aは、上記積層領域内で最も外層側に位置するガラス層(板ガラス20)で構成されている。
【0048】
図1(B)に示す合わせガラス12では、透光面12aから深さ4.0mmまでの積層領域が、板ガラス20で構成される厚さ0.7mm、0.5mm、0.7mmの3つのガラス層と、これらガラス層間に介装され、ガラス層と密着する厚さ0.8mmの2つの密着層30と、上記積層領域内で最も内層側に位置するガラス層20の内層側端に密着し、上記積層領域の最内層を構成する厚さ0.8mmの密着層30とで構成されている。また、透光面12aは、上記積層領域内で最も外層側に位置するガラス層(板ガラス20)で構成されている。尚、この実施形態では、上記最内層の密着層30の内層側端が上記積層領域の境界(深さ4.0mmの位置)よりも内層側に在るが、この密着層30の内径側端は上記積層領域の境界(深さ4.0mmの位置)に在ってもよい。
【0049】
図3は、第3の実施形態の合わせガラス10を示している。
【0050】
この実施形態の合わせガラス10は、例えば10階以上の高層建造物用の窓板材として用いられるものである。透光面10a、10bの大きさは、1000mm×1500mmである。この合わせガラス10では、無アルカリの板ガラス20を7枚積層すると共に、透光面10a、10bをそれぞれ板ガラス20で構成している。各板ガラス20のガラス組成は、質量百分率表示で、SiO+B 60%以上、Al 5〜20%、RO(R=Mg+Ca+Sr+Ba+Zn) 2〜30%、NaO+KO+LiO 1%以下である。板ガラス20の厚さは、一方側の透光面10aの側から順に、0.7mm、0.7mm、1.5mm、0.15mm、1.5mm、0.7mm、0.7mmである。板ガラス20間に介装する密着層30としては、PVB樹脂を6枚用いている。密着層としての樹脂30の厚さは、一方側の透光面10aの側から順に、1.3mm、0.5mm、0.5mm、0.5mm、0.5mm、1.3mmである。
【0051】
このように、合わせガラス10は、7枚の板ガラス20と6枚のPVB樹脂30を交互に積層した構造であり、合わせガラス10の総厚さは10.55mmである。また、一方の透光面10aから4.0mmまでの積層領域は、2枚の板ガラス20で構成される厚さ0.7mmの2つのガラス層と、厚さ1.5mmの1枚の板ガラス20のうち上記積層領域内に位置する部分20cで構成される厚さ0.8mmの1つのガラス層と、これらガラス層間に介装され、ガラス層と密着する厚さ1.3mmと0.5mmの2つの密着層30とで構成される。上記積層領域における3つのガラス層の厚さの合計値は0.7mm+0.7mm+0.8mm=2.2mmであり、上記積層領域内で最も外層側に位置するガラス層20の厚さは0.7mm、上記積層領域内で最も内層側に位置するガラス層20cの厚さは0.8mmである。従って、この合わせガラス10は、2.2mm−(0.7mm+0.8mm)=0.7mm≧0.5mmの条件を満たす。他方の透光面10bから4.0mmまでの積層領域も、上記積層領域と同じ積層構造である。
【0052】
さらに、この合わせガラス10は、表裏の透光面10a、10b側の上記積層領域に加え、その他の領域の積層構造も、該合わせガラス10の厚さ方向中心面に対して表側と裏側とで対称になっている。すなわち、この合わせガラス10は全体の積層構造が厚さ方向中心面に対して対称であり、表裏の区別がない。
【0053】
このような構造のため、この合わせガラス10は、施工時に表裏の区別を行うことなく施工できる。また、高い耐貫通性などの機械的性能を発揮でき、合わせガラスの耐久性を超える破壊力が加えられた場合に破損してもガラス破片の飛散量が非常に少なく安全性が高い。
【0054】
この合わせガラス10は、例えば次のようにして製造することができる。まず、均質溶融した無アルカリガラスを、ダウンロード成形などで所定厚の板状に予め成形して、親板ガラスを得る。次いで、この親板ガラスを切断し、所定寸法の板ガラス20を得る。切断方法は、既知の方法を用いればよく、例えば、レーザー切断、ダイヤモンドホイール切断、遊離砥粒を用いた切断、などが挙げられる。板ガラスの準備と合わせて、PVB樹脂製シート材も所定寸法のものを用意する。その後、板ガラスと樹脂を交互に重ねて積層し、加熱圧着を施して合わせガラスを得る。
【実施例1】
【0055】
実施例に係る合わせガラスについて行った性能評価試験について以下に説明する。
【0056】
実施例の試料に用いた板ガラスは、いずれもオーバーフロー・ダウンドロー法で成形した無アルカリガラス板であり、具体的には日本電気硝子株式会社製の薄板ガラス(ガラス材質の商品コード:OA−10)である。板ガラスの厚さは0.7mmであり、平面寸法は610mm×610mmとした。
【0057】
評価は、JIS R3205に従う落球試験によって行い、合わせガラスの破壊時に発生するガラス飛散破片の量や大きさを測定した。落球には、JIS B1501に従う鋼球を使用した。試料に鋼球を自由落下させる位置は、試料の610mm角の透光面の中心から25mm以内の位置になるようにした。試料は、鉄製金属枠に水平に固定させた。落球操作では、1040gの鋼球を、120cm、150cm、190cm、240cm、300cm、380cm、480cmと高さを順次上げて、それぞれの高さで1回ずつ落下させた。この1040gの鋼球を使用した一連の落球操作の後、2260gの鋼球を、480cmの高さから落下させた。これらの一連の鋼球落下後、1つの試料についてのガラス飛散破片の総量を計測した。計測では、校正された質量計測機にてガラス飛散破片の質量を測定し、その質量をガラスの密度を用いて容積に換算した。また、発生したガラス飛散破片の形状を観察し、その最大寸法を計測した。ガラス飛散破片の外観的な特徴は、目視観察にて記録した。これらの一連の評価結果を、表1にまとめて示す。
【0058】
【表1】

【0059】
表1に示すように、本発明の実施例である試料No.1は、厚さ0.7mmの無アルカリガラス板(OA−10)を6枚積層し、各板ガラス間に厚さ0.8mmのPVB樹脂(PVBの濃度99質量%以上)を挟んで密着させたものである。透光面から深さ4.0mmまでの積層領域の積層構造は、図1(B)に示す合わせガラス12に準じている。すなわち、上記積層領域における全てのガラス層の厚さの合計値(表1に示す総厚Zの値)はZ=0.7mm+0.7mm+0.7mm=2.1mmであり、上記積層領域内で最も外層側に位置するガラス層の厚さは0.7mmである(表1に示す和Kの値:上記積層領域内で最も内層側に位置するガラス層の厚さはカウントしない)はK=0.7mm+0mm=0.7mmある。従って、この試料No.1の合わせガラスは、Z−K=2.1mm−(0.7mm+0mm)=1.4mm≧0.5mmの条件を満たす。
【0060】
この試料No.1は、前記の落球試験で生じたガラス飛散破片の総質量が0.03gと非常に少なく、容積に換算すると0.01cmであった。また、落下試験で発生したガラス飛散破片の形状は、粉末状で、その最大寸法も1mmであった。これらの結果から、試料No.1の合わせガラスは、破損しても飛散破片によって人体が切創や打撲を受けないものであることが判る。
【0061】
本発明の実施例である試料No.2は、厚さ0.7mmの無アルカリガラス板(OA−10)を8枚積層し、各板ガラス間に厚さ0.3mmのEVA樹脂を挟んで密着させたものである。透光面から深さ4.0mmまでの積層領域の積層構造は、図1(B)に示す合わせガラス12に準じている。ただし、上記積層領域の最内層を構成するEVA樹脂の内層側端が上記深さ4.0mmの位置に在る。従って、この試料No.2の合わせガラスは、総厚Z=0.7mm+0.7mm+0.7mm+0.7mm=2.8mmであり、和K=0.7mm+0mm=0.7mmであり、Z−K=2.8mm−0.7mm=2.1mm≧0.5mmの条件を満たす。
【0062】
この試料No.2は、前記の落球試験で生じたガラス飛散破片の総質量が0.03gと非常に少なく、これを容積換算すると0.01cmであった。また、ガラス飛散破片の形状は粉末状で、最大寸法も3mmであった。これらの結果から、試料No.2の合わせガラスは、試料No.1と同様に、破損しても飛散破片によって人体が切創や打撲を受けないものであることが判る。
【0063】
本発明の実施例である試料No.3は、厚さ0.7mmの無アルカリガラス板(OA−10)を6枚積層し、各板ガラス間に厚さ0.4mmのPVB樹脂を挟んで密着させたものである。透光面から深さ4.0mmまでの積層領域の積層構造は、図1(B)に示す合わせガラス12に準じている。ただし、上記積層領域の最内層を構成するガラス層(板ガラス)の内層側端が上記深さ4.0mmの位置に在る。従って、この試料No.3の合わせガラスは、総厚Z=0.7mm+0.7mm+0.7mm+0.7mm=2.8mmであり、和K=0.7mm+0mm=0.7mmであり、Z−K=2.8mm−0.7mm=2.1mm≧0.5mmの条件を満たす。
【0064】
この試料No.3は、前記の落球試験で生じたガラス飛散破片の総質量が0.02gと非常に少なく、これを容積換算すると0.01cm であった。これらの結果から、試料No.3の合わせガラスは、試料No.1と同様に、本発明の合わせガラスは、破損しても飛散破片によって人体が切創や打撲を受けないものであることが判る。
【0065】
本発明の実施例である試料No.4は、厚さ0.7mmの無アルカリガラス板(OA−10)を8枚積層し、各板ガラス間に厚さ0.4mmのPVB樹脂を挟んで密着させたものである。透光面から深さ4.0mmまでの積層領域の積層構造と(Z−K)の値は試料No.3と同じである。
【0066】
この試料No.4は、前記の落球試験で生じたガラス飛散破片の総質量は0.03gと非常に少なく、これを容積換算すると0.01cmであった。これらの結果から、試料No.4の合わせガラスは、試料No.1と同様に、破損しても飛散破片によって人体が切創や打撲を受けないものであることが判る。
【0067】
本発明の実施例である試料No.5は、厚さ0.7mmの無アルカリガラス板(OA−10)を10枚積層し、各板ガラス間に厚さ0.4mmのPVB樹脂を挟んで密着させたものである。透光面から深さ4.0mmまでの積層領域の積層構造と(Z−K)の値は試料No.1と同じである。
【0068】
この試料No.5は、前記の落球試験で生じたガラス飛散破片の総質量は0.02gと非常に少なく、これを容積換算すると0.01cmであった。これらの結果から、試料No.5の合わせガラスは、試料No.1と同様に、破損しても飛散破片によって人体が切創や打撲を受けないものであることが判る。
【0069】
次いで、本発明の比較例について、以下にその評価結果等を示す。比較例の試料No.101は、一般的な住宅用等の建造物の窓板で、厚さ3mmのソーダ石灰ガラスの単板である。試料No.101について、上記と同様に落球試験を行ったところ、大量のガラス飛散破片が生じた。その総質量は1620gであり、容積換算すると650cmであった。また、ガラス飛散破片は非常に大きく、最大寸法で150mmにも達し、その形状は略三角形状で鋭利であった。これらの結果から、比較例の試料No.101は、破損した場合、飛散破片によって人体が切創や打撲を受ける危険性があることが判る。
【0070】
比較例の試料No.102は、市販の合わせガラスであり、厚さ3mmの2枚のソーダ石灰板ガラス間に、厚さ1.5mmのPVB樹脂を挟んだものである。試料No.102について、上記と同様に落球試験を行ったところ、多くのガラス飛散破片が生じた。その総質量は39gであり、容量換算すると16cmであった。また、ガラス飛散破片は大きく、最大寸法で35mmに達し、その形状は矩形や略三角形であった。これらの結果から、比較例の試料No.102は、破損した場合、飛散破片によって人体が切創や打撲を受ける危険性があることが判る。
【0071】
比較例の試料No.103は、試料No.102と同様、市販の合わせガラスであり、厚さ3mmの2枚のソーダ石灰板ガラス間に、厚さ2.3mmのPVB樹脂層を挟んだものである。No.103について、上記と同様に落球試験を行ったところ、多くのガラス飛散破片が生じた。その総質量は39gであり、容量換算すると16cmであった。また、ガラス飛散破片は大きく、最大寸法で45mmに達し、その形状は矩形や略三角形であった。これらの結果から、比較例の試料No.103は、破損した場合、飛散破片によって人体が切創や打撲を受ける危険性があることが判る。
【0072】
比較例の試料No.104は、試料No.102と同様、市販の合わせガラスであり、厚さ3mmの2枚のソーダ石灰板ガラス2枚間に、1.2mm厚のPC樹脂層を挟んだものである。試料No.104について、上記と同様に落球試験を行ったところ、多くのガラス飛散破片が生じた。その総質量は56gであり、容量換算すると22cmであった。また、ガラス飛散破片は大きく、最大寸法で35mmに達し、その形状は矩形や略三角形であった。これらの結果から、比較例の試料No.104は、破損した場合、飛散破片によって人体が切創や打撲を受ける危険性があることが判る。
【0073】
比較例の試料No.105は、市販の合わせガラスであるが、厚さ7mmの強化板ガラスと厚さ3mmのソーダ石灰板ガラスとの間に、厚さ1.5mmのPVB層を挟んだものである。試料No.105について、上記と同様に落球試験を行ったところ、多くのガラス飛散破片が生じた。その総質量は37gであり、容量換算すると20cmであった。また、ガラス飛散破片は大きく、最大寸法で20mmに達した。これらの結果から、比較例の試料No.105は、破損した場合、飛散破片によって人体が切創や打撲を受ける危険性があることが判る。
【0074】
以上の性能評価試験の結果から、実施例の合わせガラスは、貫通力などに対して高い耐久性を有するばかりでなく、破損時に生じるガラス飛散破片が小さく、しかもその発生量も少ないことが確認できた。よって、実施例の合わせガラスは、切創災害に繋がる危険性が低く、それだけ安全な構造物であることが明瞭となった。
【実施例2】
【0075】
次いで、本発明の合わせガラスを使用した合わせガラス部材の実施例について説明する。
【0076】
図4は、実施例に係る合わせガラス部材の一形態を例示したものである。このガラス部材は、例えばマンション等の高層階のべランダ窓用であり、アルミニウム製の窓枠90に合わせガラス13を嵌め込んだ構造となっている。窓枠90には、合わせガラスを挟み込んで保持するための溝が内周面に施されている。合わせガラス13は、厚さ0.9mmの4枚の板ガラス20間に厚さ1.1mmのEVA樹脂層30を介装したものである。表裏の透光面はそれぞれ板ガラス20で構成され、4枚の板ガラス20として、無アルカリガラス組成の石英ガラス板とOA−10ガラス板とが交互に配置されている。板ガラス20間に介装したEVA樹脂層30を加熱圧着して、板ガラス20との密着化を行っている。
【0077】
合わせガラス13は、一方の透光面13aから深さ4.0mmまでの積層領域は、透光面13の側から順に、板ガラス20(ガラス層)、EVA樹脂層30、板ガラス20(ガラス層)、EVA樹脂層30で構成され、最内層のEVA樹脂層30の内層側端が上記積層領域の境界(深さ4.0mmの位置)に在る。従って、上記積層領域における全てのガラス層の厚さの合計値は0.9mm+0.9mm=1.8mmであり、上記積層領域内で最も外層側に位置するガラス層の厚さは0.9mmである(上記積層領域内で最も内層側に位置するガラス層の厚さはカウントしない)。従って、1.8mm−(0.9mm+0mm)=0.9mm≧0.5mmの条件を満たす。
【実施例3】
【0078】
さらに、本発明の合わせガラス部材を浴室の窓材に使用した実施例について説明する。
【0079】
図5は、浴室の部分斜視図を示している。実施例の合わせガラス部材110は、浴槽が接する2つの壁面に窓材として使用されている。浴室での窓ガラス破損は、大きな切創災害に繋がる可能性が高い。このため、浴室の窓材は、採光のための透明性と同時に、切創に対する安全性を満たすことが重要である。実施例の合わせガラス部材110は、これらの条件を満たしており、浴室用窓材やシャワーブース用窓材など、人が脱衣するような場所で用いられる水廻り部材として、利用価値が高い。ここでは、合わせガラス14を、アルミニウム製の枠体90に収め、枠体90を周囲の壁面にネジ止め固定して保持している。
【0080】
この合わせガラス14は、厚さ0.7mmの6枚のアルミノシリケートガラス板と厚さ0.8mmのポリカーボネート(PC)製樹脂シートとを交互に積層したものである。表裏の透光面はいずれも板ガラスで構成されている。表裏の透光面からそれぞれ深さ4.0mmまでの積層領域は、透光面の側から順に、板ガラス、PC樹脂層、板ガラス、PC樹脂層、板ガラス、PC樹脂層で構成され、最内層のPC樹脂層の内層側端は上記積層領域の境界(深さ4.0mmの位置)よりも内層側に在る。従って、上記積層領域における全てのガラス層の厚さの合計値は0.7mm+0.7mm+0.7mm=2.1mmであり、上記積層領域内で最も外層側に位置するガラス層の厚さは0.9mmである(上記積層領域内で最も内層側に位置するガラス層の厚さはカウントしない)。従って、2.1mm−(0.7mm+0mm)=1.4mm≧0.5mmの条件を満たす。
【0081】
また、この合わせガラス部材110の室外側の透光面には、偏光遮蔽シート(図示省略)の被膜が施されている。このため室外側からは浴室内が見えず、プライバシー保護の面でも好ましいものである。
【0082】
以上のように、本発明の合わせガラスを使用した合わせガラス部材は、高い安全性に加えて、用途に合わせて様々な施工形態を採用できる。そのため、多くの建造物や車載用途で利用できる優れた構造材である。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】実施形態の合わせガラスの透光面及びその近傍領域を示す部分断面図であり、図1(A)は第1の実施形態の合わせガラス、図1(B)は第2実施形態の合わせガラスを示している。
【図2】第3の実施形態の合わせガラスの斜視図であり、図2(A)は全体斜視図、図2(B)は図3(A)のS領域の部分拡大斜視図である。
【図3】実施例に係る合わせガラス部材の斜視図。
【図4】実施例に係る合わせガラス部材を配設した浴室の部分斜視図である。
【符号の説明】
【0084】
10、11、12、13、14 合わせガラス
10a、11a、12a、13a、14a 一方の透光面
10b 他方の透光面
20 板ガラス
20b、20c ガラス層
30 密着層(樹脂)
90 枠体
100、110 合わせガラス部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のガラス層と密着層とを交互に積層した合わせガラスであって、
該合わせガラスの厚さ方向に対向する表裏の透光面のうち少なくとも一方から深さ4.0mmまでの積層領域が、複数の密着層と厚さ1.0mm未満の複数のガラス層とで構成されていることを特徴とする合わせガラス。
【請求項2】
前記密着層の主成分が樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の合わせガラス。
【請求項3】
前記密着層の樹脂が熱可塑性樹脂であることを特徴とする請求項2に記載の合わせガラス。
【請求項4】
前記積層領域における全ての前記ガラス層の厚さの合計値から、前記積層領域内で最も外層側に位置する前記ガラス層の厚さと、前記積層領域内で最も内層側に位置する前記ガラス層が1枚の板ガラスの一部で構成される場合は該ガラス層の厚さと、を差し引いた値が0.5mm以上であることを特徴とする請求項1から請求項3の何れかに記載の合わせガラス。
【請求項5】
前記表裏の透光面がそれぞれガラス層で構成されていることを特徴とする請求項1から請求項4の何れかに記載の合わせガラス。
【請求項6】
前記表裏の透光面の側にそれぞれ前記積層領域を有することを特徴とする請求項1から請求項5の何れかに記載の合わせガラス。
【請求項7】
JIS R3205(2005)に従う落球試験により生じる破片ガラス量が0.1cm/枚以下であることを特徴とする請求項1から請求項6の何れかに記載の合わせガラス。
【請求項8】
水廻り部材として用いられるものであることを特徴とする請求項1から請求項7の何れかに記載の合わせガラス。
【請求項9】
枠体に、請求項1から請求項8の何れかに記載の合わせガラスを固定してなることを特徴とする合わせガラス部材。
【請求項10】
前記表裏の透光面のうち少なくとも一方に前記密着層とは異なる材質よりなる被膜を施してなることを特徴とする請求項9に記載の合わせガラス部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−96715(P2009−96715A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−246554(P2008−246554)
【出願日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】