説明

合わせガラス用中間膜及び合わせガラス

【課題】耐貫通性に優れ、合わせガラス用中間膜とガラス板との界面に、銀層等の金属コーティング層が設けられた合わせガラスとしたときに、銀色の斑点の発生を抑制することができる合わせガラス用中間膜、及び、該合わせガラス用中間膜と金属コーティング層とを用いてなる合わせガラスを提供する。
【解決手段】マトリックス樹脂、可塑剤、接着力調整剤、並びに、カルシウムイオン及び/又はバリウムイオンを含有する合わせガラス用中間膜であって、前記接着力調整剤の含有量が20〜60ppmであり、前記カルシウムイオン及び/又はバリウムイオンの含有量が30〜120ppmである合わせガラス用中間膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐貫通性に優れ、合わせガラス用中間膜とガラス板との界面に、銀層等の金属コーティング層が設けられた合わせガラスとしたときに、銀色の斑点の発生を抑制することができる合わせガラス用中間膜、及び、該合わせガラス用中間膜を用いてなる合わせガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
合わせガラスは、外部衝撃を受けて破損してもガラスの破片が飛散することが少なく安全であるため、自動車等の車両、航空機、建築物等の窓ガラス等として広く使用されている。合わせガラスとしては、少なくとも一対のガラス間に、例えば、可塑剤により可塑化されたポリビニルブチラール樹脂等のポリビニルアセタール樹脂からなる合わせガラス用中間膜を介在させ、一体化させたもの等が挙げられる。
【0003】
このような合わせガラスのなかでも、合わせガラス用中間膜とガラス板との界面に金属コーティング層を有する合わせガラスは、熱線反射合わせガラスや低反射合わせガラスとして広く使用されている(特許文献1参照)。
ところが、このような合わせガラス用中間膜とガラス板との界面に金属コーティング層を有する合わせガラスには、金属コーティング層中に銀色の斑点が発生してしまうという問題があった。
【0004】
合わせガラス用中間膜は、可塑剤により可塑化されたポリビニルブチラール樹脂に、接着力調整剤や紫外線吸収剤等の添加剤が添加された樹脂組成物から構成されている。このような樹脂組成物からなる合わせガラス用中間膜は、ポリビニルブチラール樹脂や添加剤等に由来する微量成分、例えば、接着力調整剤添加による、解離した残留イオン成分等が含まれている。
本発明者らは、鋭意検討の結果、従来の合わせガラス用中間膜に配合されている物質に由来する微量成分、特に残留イオン成分が銀色の斑点の発生に影響を与えていると仮定し、該イオン成分を配位子とし錯体を形成可能な物質を含有させることで、銀色の斑点の抑制作用を発現させることが可能であるかを検討した。その結果、合わせガラス用中間膜中に存在する残留イオン成分を捕捉可能な化合物を添加することで、銀色の斑点の発生が低減することを見出した。
【0005】
具体的には、従来の合わせガラス用中間膜の接着力調整剤として、カリウムイオンや、マグネシウムイオン等が含有されているが、カリウムイオンやマグネシウムイオンでは、銀色の斑点を発生させると推定される該イオン成分を配位させることは困難であり、銀色の斑点の発生を抑制することはできなかった。
そこで、本発明者らは、カルシウムイオンやバリウムイオン等の錯体の中心金属となりうるイオン成分を添加することで、銀色の斑点の抑制効果が発現することを見出したが、長時間の抑制効果を発現するものではなかった。例えば、特許文献2には、カルシウムイオンが添加された合わせガラス用中間膜が開示されているが、ガラス板との界面に金属コーティング層を有する合わせガラスとして使用した場合、銀色の斑点の抑制効果が不充分であった。
【0006】
また、特許文献3には、合わせガラス用中間膜中のカルシウム含有量及びマグネシウム含有量が開示されているが、このようなマグネシウムとカルシウムが併用された合わせガラス用中間膜を適用した場合でも、銀色の斑点の抑制効果及びガラス板との接着力の異常亢進防止効果は満足するものではなかった。
【特許文献1】特開2000−290044号公報
【特許文献2】特表2002−516201号公報
【特許文献3】特開2000−1514号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記現状に鑑み、耐貫通性に優れ、合わせガラス用中間膜とガラス板との界面に、銀層等の金属コーティング層が設けられた合わせガラスとしたときに、銀色の斑点の発生を抑制することができる合わせガラス用中間膜、及び、該合わせガラス用中間膜を用いてなる合わせガラスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、マトリックス樹脂、可塑剤、接着力調整剤、並びに、カルシウムイオン及び/又はバリウムイオンを含有する合わせガラス用中間膜であって、前記接着力調整剤の含有量が20〜60ppmであり、前記カルシウムイオン及び/又はバリウムイオンの含有量が30〜120ppmである合わせガラス用中間膜である。
以下に本発明を詳述する。
【0009】
本発明者らは、鋭意検討したところ、接着力調整剤とカルシウムイオン及び/又はバリウムイオンを併用し、合わせガラス用中間膜中の含有量を所定の範囲に調整することで、耐貫通性に優れるとともに、銀色の斑点の発生を抑制できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明の合わせガラス用中間膜は、マトリックス樹脂、可塑剤、接着力調整剤及びカルシウムイオン及び/又はバリウムイオンを含有する。
上記マトリックス樹脂としては特に限定されないが、例えば、ポリビニルアセタール樹脂等が好適である。上記ポリビニルアセタール樹脂としては、ポリビニルアルコールをアルデヒドによりアセタール化して得られるポリビニルアセタール樹脂であれば特に限定されるものではないが、ポリビニルブチラール樹脂が好適である。また、必要に応じて2種以上のポリビニルアセタール樹脂を併用してもよい。
上記ポリビニルアセタール樹脂のアセタール化度の好ましい下限は40%、好ましい上限は85%であり、より好ましい下限は60%、より好ましい上限は75%である。
【0011】
上記ポリビニルアセタール樹脂は、ポリビニルアルコールをアルデヒドによりアセタール化することにより調製することができる。
上記原料となるポリビニルアルコールは、通常、ポリ酢酸ビニルを鹸化することにより得られ、鹸化度80〜99.8モル%のポリビニルアルコールが一般的に用いられる。
また、上記ポリビニルアルコールの重合度の好ましい下限は200、好ましい上限は3000である。200未満であると、得られる合わせガラスの耐貫通性が低下することがあり、3000を超えると、樹脂膜の成形性が悪くなり、しかも樹脂膜の剛性が大きくなり過ぎ、加工性が悪くなることがある。より好ましい下限は500、より好ましい上限は2000である。
【0012】
上記アルデヒドとしては特に限定されないが、一般には、炭素数が1〜10のアルデヒドが好適に用いられる。上記炭素数が1〜10のアルデヒドとしては特に限定されず、例えば、n−ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、n−バレルアルデヒド、2−エチルブチルアルデヒド、n−ヘキシルアルデヒド、n−オクチルアルデヒド、n−ノニルアルデヒド、n−デシルアルデヒド、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ベンズアルデヒド等が挙げられる。なかでも、n−ブチルアルデヒド、n−ヘキシルアルデヒド、n−バレルアルデヒドが好ましく、炭素数が4のn−ブチルアルデヒドがより好ましい。これらのアルデヒドは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0013】
上記可塑剤としては特に限定されず、例えば、ジヘキシルアジペート、トリエチレングリコール−ジ−2−エチルヘキサノエート、テトラエチレングリコール−ジ−2−エチルブチレート、テトラエチレングリコール−ジ−ヘプタノエート、トリエチレングリコール−ジ−ヘプタノエート等の液状可塑剤や、一塩基性有機酸エステル、多塩基性有機酸エステル等の有機系可塑剤;有機リン酸系、有機亜リン酸系等のリン酸系可塑剤等が挙げられる。
【0014】
上記一塩基性有機酸エステル系可塑剤としては特に限定されず、例えば、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、トリプロピレングリコール等のグリコールと、酪酸、イソ酪酸、カプロン酸、2−エチル酪酸、ヘプチル酸、n−オクチル酸、2−エチルヘキシル酸、ペラルゴン酸(n−ノニル酸)、デシル酸等の一塩基性有機酸との反応によって得られたグリコール系エステルが挙げられる。なかでも、トリエチレングリコール−ジカプロン酸エステル、トリエチレングリコール−ジ−2−エチル酪酸エステル、トリエチレングリコール−ジ−n−オクチル酸エステル、トリエチレングリコール−ジ−2−エチルヘキシル酸エステル等のトリエチレングリコール等が好適である。
【0015】
上記多塩基性有機酸エステル系可塑剤としては特に限定されず、例えば、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸等の多塩基性有機酸と炭素数4〜8の直鎖状又は分枝状アルコールのエステル等が挙げられる。なかでも、ジブチルセバシン酸エステル、ジオクチルアゼライン酸エステル、ジブチルカルビトールアジピン酸エステル等が好適である。
上記有機リン酸系可塑剤としては特に限定されず、例えば、トリブトキシエチルホスフェート、イソデシルフェニルホスフェート、トリイソプロピルホスフェート等が挙げられる。
【0016】
上記可塑剤の含有量としては特に限定されないが、上記マトリックス樹脂100重量部に対して、好ましい下限は20重量部、好ましい上限は100重量部である。20重量部未満であると、本発明の合わせガラス用中間膜の耐貫通性が低下することがあり、100重量部を超えると、可塑剤のブリードアウトが生じ、本発明の合わせガラス用中間膜の透明性や接着性が低下し、得られる合わせガラスの光学歪みが大きくなるおそれがある。より好ましい下限は30重量部、より好ましい上限は60重量部である。
【0017】
上記接着力調整剤としては、従来合わせガラス用中間膜の接着力調整剤として用いられているものが挙げられ特に限定されないが、なかでも、カリウムイオン、マグネシウムイオンが好適である。
本発明の合わせガラス用中間膜において、上記接着力調整剤は、本発明の合わせガラス用中間膜の製造過程において、上述したマトリックス樹脂や可塑剤からなる混合物中に、上記接着力調整剤の有機酸塩として添加される。具体的には、例えば、上記接着力調整剤がマグネシウムイオンの場合、酢酸マグネシウム、ヘプタン酸マグネシウム、オクタン酸マグネシウム、ノナン酸マグネシウム、デカン酸マグネシウム等の有機酸塩として添加される。また、上記接着力調整剤がカリウムイオンの場合、蟻酸カリウム、酢酸カリウム、酪酸カリウム、プロピオン酸カリウム、シュウ酸カリウム等の有機酸塩として添加される。
【0018】
上記接着力調整剤の含有量としては、下限が20ppm、上限が60ppmである。20ppm未満であると、本発明の合わせガラス用中間膜とガラス板との接着力が異常亢進し、合わせガラス全体として耐貫通性が低下する。60ppmを超えると、本発明の合わせガラス用中間膜と、銀層等の金属コーティング層が設けられたガラス板とを用いて熱線反射合わせガラスや低反射合わせガラスを製造すると、銀色の斑点が発生することがある。好ましい下限は23ppm、好ましい上限は40ppmである。
【0019】
また、本発明の合わせガラス用中間膜は、上記接着力調整剤としてアセチルアセトンが添加されていてもよい。上述したマグネシウムイオン等と併用することで、上記マグネシウムイオン等の含有量を少なくすることができ、より好適に銀色の斑点の発生を抑制できる。
【0020】
本発明の合わせガラス用中間膜において、上記カルシウムイオン及び/又はバリウムイオンは、錯体の中心金属となる物質である。
上述したように、本発明の合わせガラス用中間膜は、ポリビニルブチラール樹脂や添加剤等に由来する微量成分、例えば、接着力調整剤添加による解離した残留イオン成分等が含まれている。製造後に残存する残留イオン成分を、上記カルシウムイオン及び/又はバリウムイオンが中心金属として配位結合し錯体を形成するため、本発明の合わせガラス用中間膜中の残留イオン成分を低減することができる。従って、本発明の合わせガラス用中間膜を、銀層等の金属コーティング層が設けられたガラス板間に挟持して製造した熱線反射合わせガラスや低反射合わせガラスは、上記金属コーティング層に銀色の斑点が発生することを抑制することができる。また、上記カルシウムイオン及び/又はバリウムイオンを添加することで、残留イオン成分の拡散を防止できるため、接着力調整剤の添加量を極微量にする必要もなく、本発明の合わせガラス用中間膜の耐貫通性も優れたものとなる。
【0021】
このようなカルシウムイオン及び/又はバリウムイオンの添加方法としては特に限定されず、本発明の合わせガラス用中間膜の製造時に、例えば、酢酸塩、硝酸塩又は塩化物等の有機酸塩又は無機酸塩として添加する方法が挙げられる。なかでも、上記カルシウムイオン及び/又はバリウムイオンは、銀色の斑点の発生に起因すると推定される残留イオン成分を効率良く配位させるために、酢酸塩や硝酸塩として添加されることが好ましい。
【0022】
上記カルシウムイオンの有機酸塩又は無機酸塩としては、特に限定されないが、分解温度が低いものもあるので、なるべく高いものを選択することが好ましい。また、上記カルシウムイオンの添加量は少ないので着色の原因にはなり難いが、無色の物質であることがより好ましい。
具体的には、例えば、酢酸カルシウム、硝酸カルシウム、硫酸カルシウム、水酸化カルシウム、アスコルビン酸カルシウム 、ほう化カルシウム 、ギ酸カルシウム、酪酸カルシウム、チオシアン酸カルシウム、しゅう酸カルシウム、次亜塩素酸カルシウム、炭酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、乳酸カルシウム、リン酸カルシウム、塩化カルシウム等が挙げられ、水溶液になる塩として、酢酸カルシウム、硝酸カルシウム、炭酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、乳酸カルシウム、塩化カルシウム、水酸化カルシウムを選択することが好ましい。
【0023】
上記バリウムイオンの有機酸塩又は無機酸塩としては、水溶液になる塩であれば特に限定されず、例えば、酢酸バリウム、塩化バリウム、硝酸バリウム、水酸化バリウム、チオシアン酸バリウム等が挙げられる。
【0024】
本発明の合わせガラス用中間膜において、上記カルシウムイオン及び/又はバリウムイオンの含有量としては、下限は30ppm、上限は120ppmである。30ppm未満であると、本発明の合わせガラス用中間膜中に存在するカルシウムイオン及び/又はバリウムイオンの量が少なくなり、残留イオン成分を配位子として錯体を充分に形成することができず、本発明の合わせガラス用中間膜を用いて熱線反射合わせガラスや低反射合わせガラスを製造したときに、銀色の斑点が発生する。バリウムイオン及び/又はカルシウムイオンの含有量が120ppmを超えると、原因は明らかではないが、銀色の斑点の発生を促進してしまう。好ましい下限は30ppm、好ましい上限は90ppmである。
【0025】
本発明の合わせガラス用中間膜は、紫外線吸収剤を含有することが好ましい。上記紫外線吸収剤としては特に限定されず、例えば、ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾフェノン系化合物、トリアジン系化合物、及び、ベンゾエート系化合物等が挙げられる。
【0026】
本発明の合わせガラス用中間膜は、更に必要に応じて、紫外線吸収剤、光安定剤、界面活性剤、難燃剤、帯電防止剤、耐湿剤、熱線反射剤、熱線吸収剤等の従来公知の添加剤を含有してもよい。
【0027】
本発明の合わせガラス用中間膜の厚さの好ましい下限は150μm、好ましい上限は3000μmである。150μm未満であると、合わせガラスとした際に耐貫通性が低下することがあり、3000μmを超えると、合わせガラスとした際に全体として厚くなりすぎる。より好ましい下限は250μm、より好ましい上限は800μmである。
【0028】
本発明の合わせガラス用中間膜を製造する方法としては特に限定されず、例えば、上述したマトリックス樹脂に、可塑剤、接着力調整剤、カルシウムイオン及び/又はバリウムイオン、並びに、必要に応じて添加する紫外線吸収剤等の所定量を添加した混合物を混合混練し成形する方法が挙げられる。
【0029】
上記混合物の混練の方法としては特に限定されず、例えば、押出機、プラストゲラフ、ニーダー、バンバリーミキサー、カレンダーロール等を用いる方法が挙げられる。なかでも、連続的な生産に適することから、押出機を用いる方法が好適である。
【0030】
上記成形の方法としては特に限定されず、例えば、押し出し法、カレンダー法、プレス法等が挙げられる。
【0031】
本発明の合わせガラス用中間膜を用いてなる合わせガラスもまた、本発明の1つである。
本発明の合わせガラスは、本発明の合わせガラス用中間膜と、前記合わせガラス用中間膜を挟持する2枚のガラス板とを有する合わせガラスであって、少なくとも一方の前記ガラス板と合わせガラス用中間膜との界面に、銀層等の金属コーティング層が設けられている合わせガラスである。
【0032】
また、本発明の合わせガラスにおいて、本発明の合わせガラス用中間膜は単層膜であってもよく、多層膜であってもよい。本発明の合わせガラス用中間膜が多層膜である場合には、少なくとも一方の表層に接着力調整剤、カルシウムイオン及び/又はバリウムイオンを含有する層が形成されていればよい。更に、本発明の合わせガラス用中間膜が多層膜である場合には、本発明の合わせガラスは、本発明の合わせガラス用中間膜の接着力調整剤、カルシウムイオン及び/又はバリウムイオンを含有している表層と、ガラス板との界面に銀層等の金属コーティング層を有するように本発明の合わせガラスを製造するとよい。
【0033】
上記金属コーティング層としては特に限定されず、熱線反射合わせガラスや低反射合わせガラスに用いられる従来公知のものが挙げられる。
【0034】
本発明の合わせガラスの製造方法としては特に限定されず、従来公知の合わせガラスの製造方法を用いることができる。
【0035】
本発明の合わせガラスは、上記構成からなることから、合わせガラス用中間膜中の残留イオン成分による銀色の斑点の発生や合わせガラス用中間膜とガラス板との接着力の異常亢進を防ぐことができることから、例えば、自動車等のフロントガラス等として好適に用いることができる。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、耐貫通性に優れ、合わせガラス用中間膜とガラス板との界面に、銀層等の金属コーティング層が設けられた合わせガラスとしたときに、銀色の斑点の発生を抑制することができる合わせガラス用中間膜、及び、該合わせガラス用中間膜を用いてなる合わせガラスを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0038】
(実施例1)
(1)マトリックス樹脂の合成
純水2890重量部に、平均重合度1700、鹸化度99.2モル%のポリビニルアルコール275重量部を加えて加熱溶解した。この反応系を15℃に温度調節し、35重量%の塩酸201重量部とn−ブチルアルデヒド157重量部とを加え、この温度を保持して反応物を析出させた。その後、反応系を60℃で3時間保持して反応を完了させ、過剰の水で洗浄して未反応のn−ブチルアルデヒドを洗い流し、塩酸触媒を汎用な中和剤である水酸化ナトリウム水溶液で中和し、更に、過剰の水で2時間水洗及び乾燥を経て、白色粉末状のポリビニルブチラール樹脂を得た。この樹脂の平均ブチラール化度は68.5モル%であった。
【0039】
(2)合わせガラス用中間膜の製造
得られたポリビニルブチラール樹脂100重量部に対して、トリエチレングリコール−ジ−エチレンブチレート(3GO)40重量部、酢酸マグネシウム水溶液0.164重量部、15%酢酸バリウム水溶液0.205重量部を添加し、プラスト機にて混練し、押出機により金型よりシート状に押し出して、厚さ745μmの合わせガラス用中間膜を得た。
得られた合わせガラス用中間膜中のマグネシウムイオン含有量、及び、バリウムイオン含有量をICP発光元素分析で定量したところ、それぞれ30ppm、及び、120ppmであった。
【0040】
(3)合わせガラスの製造
得られた合わせガラス用中間膜を、その一方の面から金属コーティング層が施されたフロートガラス(縦30cm×横30cm×厚さ2.5mm)、もう一方の面から金属コーティング層の施されていないフロートガラス(縦30cm×横30cm×厚さ2.5mm)で挟み込み、これをゴムバック内に入れ、2.6kPaの真空度で20分間脱気した後、脱気したままオーブンに移し、更に90℃で30分間保持しつつ真空プレスした。このようにして予備圧着された合わせガラスをオートクレーブ中で135℃、圧力1.2MPaの条件で20分間圧着を行い、合わせガラスを得た。
【0041】
(実施例2)
バリウムイオン濃度が60ppmとなるように15%酢酸バリウム水溶液を添加した以外は、実施例1と同様にして合わせガラス用中間膜を製造し、該合わせガラス用中間膜を用いた以外は、実施例1と同様にして合わせガラスを製造した。
【0042】
(実施例3)
バリウムイオン濃度が30ppmとなるように15%酢酸バリウム水溶液を添加した以外は、実施例1と同様にして合わせガラス用中間膜を製造し、該合わせガラス用中間膜を用いた以外は、実施例1と同様にして合わせガラスを製造した。
【0043】
(実施例4)
15%酢酸バリウム水溶液に代えて、15%の酢酸カルシウム水溶液0.22重量部添加した以外は、実施例1と同様にして合わせガラス用中間膜を製造し、該合わせガラス用中間膜を用いた以外は、実施例1と同様にして合わせガラスを製造した。
得られた合わせガラス用中間膜のマグネシウムイオン含有量、及び、カルシウムイオン含有量をICP発光元素分析で定量したところ、それぞれ30ppm、及び、60ppmであった。
【0044】
(実施例5)
カルシウムイオン濃度が30ppmとなるように15%の酢酸カルシウム水溶液を添加した以外は、実施例4と同様にして合わせガラス用中間膜を製造し、該合わせガラス用中間膜を用いた以外は、実施例4と同様にして合わせガラスを製造した。
【0045】
(比較例1)
15%酢酸バリウム水溶液を添加せず、マグネシウムイオン濃度が60ppmとなるように酢酸マグネシウム水溶液を添加した以外は、実施例1と同様にして合わせガラス用中間膜を製造し、該合わせガラス用中間膜を用いて実施例1と同様にして合わせガラスを製造した。
【0046】
(比較例2)
15%酢酸バリウム水溶液を添加せず、塩化カルシウムを添加し、カルシウム濃度を130ppmとした以外は、実施例1と同様にして合わせガラス用中間膜を製造し、該合わせガラス用中間膜を用いて実施例1と同様にして合わせガラスを製造した。
【0047】
(比較例3)
15%酢酸カルシウム水溶液を添加し、カルシウムイオン濃度を120ppmとし、酢酸マグネシウムを添加しなかった以外は、実施例4と同様にして合わせガラス用中間膜を製造し、該合わせガラス用中間膜を用いて実施例4と同様にして合わせガラスを製造した。
【0048】
(比較例4)
15%酢酸カルシウム水溶液を添加し、カルシウムイオン濃度を60ppmとし、酢酸マグネシウムを添加し、マグネシウム濃度を10ppmとした以外は、実施例4と同様にして合わせガラス用中間膜を製造し、該合わせガラス用中間膜を用いて実施例4と同様にして合わせガラスを製造した。
【0049】
実施例1〜5及び比較例1〜4で製造した合わせガラスについて、以下の評価を行った。
【0050】
(銀色の斑点の有無)
実施例1〜5及び比較例1〜4で製造した合わせガラスの銀色の斑点の有無を目視で確認した後、100℃のドライオーブンに入れ、24時間、48時間、60時間、120時間、200時間経過後における銀色の斑点の有無を目視にて確認した。結果を表1に示す。なお、表1中、「◎」は、5cm四方内に銀色の斑点が確認されなかったことを示し、「○」は、5cm四方内に1mm以上の銀色の斑点が確認されず1mm以下の銀色の斑点も3個以下であったことを示し、「×」は、5cm四方内に1mm以上の銀色の斑点又は、1mm未満の銀色の斑点が4個以上確認されたことを示す。
【0051】
(合わせガラス用中間膜のパンメル値の測定)
合わせガラスを−18℃±0.6℃の温度に16時間調整し、この合わせガラスの中央部(縦150mm×横150mmの部分)を頭部が0.45kgのハンマーで打って、ガラスの粒径が6mm以下になるまで粉砕し、ガラスが部分剥離した後の膜の露出度を測定し、下記表2によりパンメル値を求めた。なお、測定は合わせガラス作製直後と合わせガラス作製2ヶ月後に行い、時間経過に伴う合わせガラス用中間膜とガラスとの耐貫通性を評価した。なお、表1中、「○」は、パンメル値が3〜6であることを示し、「×」は、パンメル値が0〜2又は7〜8であることを示す。
【0052】
【表1】

【0053】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明によれば、合わせガラス用中間膜とガラス板との界面に銀層等の金属コーティング層が設けられた合わせガラスとしたときに、銀色の斑点の発生を抑制することができ、耐貫通性に優れた合わせガラス用中間膜、及び、該合わせガラス用中間膜を用いてなる合わせガラスを提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マトリックス樹脂、可塑剤、接着力調整剤、並びに、カルシウムイオン及び/又はバリウムイオンを含有する合わせガラス用中間膜であって、
前記接着力調整剤の含有量が20〜60ppmであり、前記カルシウムイオン及び/又はバリウムイオンの含有量が30〜120ppmである
ことを特徴とする合わせガラス用中間膜。
【請求項2】
請求項1記載の合わせガラス用中間膜と、前記合わせガラス用中間膜を挟持する2枚のガラス板とを有する合わせガラスであって、少なくとも一方の前記ガラス板と合わせガラス用中間膜との界面に、金属コーティング層が設けられていることを特徴とする合わせガラス。

【公開番号】特開2008−31013(P2008−31013A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−207757(P2006−207757)
【出願日】平成18年7月31日(2006.7.31)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】