説明

合わせガラス用中間膜及び合わせガラス

【課題】高周波数域での遮音性に優れるとともに発泡の発生が抑制されている合わせガラス用中間膜及びそれを用いて得られる合わせガラスを提供する。
【解決手段】ポリビニルアセタール樹脂と可塑剤と架橋剤とを含有する第1層と、前記第1層の一方の面側に配置されたポリビニルアセタール樹脂と可塑剤とを含有する第2層と、を有することを特徴とする合わせガラス用中間膜及びそれを用いて得られる合わせガラス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波数域での遮音性に優れるとともに発泡の発生が抑制されている合わせガラス用中間膜及びそれを用いて得られる合わせガラスに関する。なお、本明細書におけるガラスには、無機ガラス板だけでなく有機プラスチックス板も含む。
【背景技術】
【0002】
合わせガラスは、外部衝撃を受けて破損した場合でも、ガラスの破片が飛散することが少なく安全である。そのため、合わせガラスは、自動車等の車両、航空機、建築物等の窓ガラス等として広く使用されている。例えば、合わせガラスとして、一対のガラス間にポリビニルアセタール樹脂と可塑剤とを含有する合わせガラス用中間膜を介在させ、一体化させた合わせガラスが知られている(特許文献1等)。
【0003】
近年、内燃機関を用いた燃料自動車から、電気モータを用いた電気自動車、内燃機関と電気モータとを用いたハイブリッド電気自動車等への移行が進められている。内燃機関を用いた燃料自動車に用いられる合わせガラスでは、比較的低周波数域での遮音性が求められている。但し、内燃機関を用いた燃料自動車に用いられる合わせガラスでも、高周波数域での遮音性も高いことが望ましい。これに対して、電気モータを用いた電気自動車及びハイブリッド電気自動車に用いられる合わせガラスでは、電気モータの駆動音を効果的に遮断するために特に高周波数域における高い遮音性が求められている。
【0004】
上記特許文献1に記載の合わせガラスは、高周波数域における遮音性が十分ではなく、コインシデンス効果による遮音性の低下が避けられない。なお、コインシデンス効果とは、ガラス板に音波が入射した場合にガラス板の剛性と慣性とによって、ガラス面上を横波が伝播して横波と入射音とが共鳴し、その結果、音の透過が起こる現象をいう。
【0005】
また、従来の合わせガラスには次のような問題がある。合わせガラスは、一般に2枚のガラス板の間に合わせガラス用中間膜が挟み込まれ、ガラス板と合わせガラス用中間膜とが積層されている。合わせガラスを製造する際は、ガラス板と合わせガラス用中間膜との間の空気を脱気し、高温高圧環境下でガラス板と合わせガラス用中間膜とを積層させる。このとき、ガラス板と合わせガラス用中間膜との間の空気の脱気が充分でない場合には、中間膜が発泡するという問題がある。そして、特に可塑剤の含有量が多い遮音層を有する合わせガラス用中間膜の場合には、中間膜に発泡が生じ易い傾向がある。
【0006】
よって、従来の問題を改善した、高周波数域での遮音性に優れるとともに発泡の発生が抑制されている合わせガラス用中間膜及びそれを用いて得られる合わせガラスを提供する技術の開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−70200号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、高周波数域での遮音性に優れるとともに発泡の発生が抑制されている合わせガラス用中間膜及びそれを用いて得られる合わせガラスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、特定の層構成を有する合わせガラス用中間膜が上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明は、下記の合わせガラス用中間膜及び合わせガラスに関する。
1.ポリビニルアセタール樹脂と可塑剤と架橋剤とを含有する第1層と、前記第1層の一方の面側に配置されたポリビニルアセタール樹脂と可塑剤とを含有する第2層と、を有することを特徴とする合わせガラス用中間膜。
2.前記第1層の他方の面側にポリビニルアセタール樹脂と可塑剤とを含有する第3層が更に配置されている、上記項1に記載の合わせガラス用中間膜。
3.前記第1層中の前記ポリビニルアセタール樹脂100重量部に対する前記可塑剤の含有量は50重量部以上である、上記項1又は2に記載の合わせガラス用中間膜。
4.前記架橋剤は金属を含有する架橋剤である、上記項1〜3のいずれかに記載の合わせガラス用中間膜。
5.前記金属は、ジルコニウム及びチタンの少なくとも1種を含有する、上記項4に記載の合わせガラス用中間膜。
6.前記第1層中の前記ポリビニルアセタール樹脂100重量部に対する前記可塑剤の含有量が、前記第2層中の前記ポリビニルアセタール樹脂100重量部に対する前記可塑剤の含有量よりも多い、上記項1〜5のいずれかに記載の合わせガラス用中間膜。
7.前記第1層中の前記ポリビニルアセタール樹脂100重量部に対する前記可塑剤の含有量が、前記第3層中の前記ポリビニルアセタール樹脂100重量部に対する前記可塑剤の含有量よりも多い、上記項2〜6のいずれかに記載の合わせガラス用中間膜。
8.前記第1層中の前記ポリビニルアセタール樹脂のアセチル基量が8モル%以上である、上記項1〜7のいずれかに記載の合わせガラス用中間膜。
9.前記第1層中の前記ポリビニルアセタール樹脂のアセタール化度が75モル%以上である、上記項1〜7のいずれかに記載の合わせガラス用中間膜。
10.前記可塑剤はトリエチレングリコールジ−2−エチルヘキサノエートを含有する、上記項1〜9のいずれかに記載の合わせガラス用中間膜。
11.上記項1〜10のいずれかに記載の合わせガラス用中間膜と、前記中間膜の一方の面側に配置された第1合わせガラス構成部材と、前記中間膜の他方の面側に配置された第2合わせガラス構成部材と、を有する合わせガラス。
12.前記第1合わせガラス構成部材及び前記第2合わせガラス構成部材は、無機ガラス板又は有機プラスチックス板である、上記項11に記載の合わせガラス。
【0011】
以下、本発明の合わせガラス用中間膜及び合わせガラスについて詳細に説明する。
【0012】
本発明の合わせガラス用中間膜は、ポリビニルアセタール樹脂と可塑剤と架橋剤とを含有する第1層と、前記第1層の一方の面側に配置されたポリビニルアセタール樹脂と可塑剤とを含有する第2層と、を有することを特徴とする。
【0013】
上記特徴を有する本発明の合わせガラス用中間膜は、ポリビニルアセタール樹脂と可塑剤と架橋剤とを含有する第1層と、ポリビニルアセタール樹脂と可塑剤とを含有する第2層とを有し、特に第1層に架橋剤を含有することにより、それを用いて得られる合わせガラスが高周波数域での遮音性に優れるとともに可塑剤の含有量が比較的多い場合でも発泡の発生が抑制されている。この本発明の合わせガラスは、電気モータの駆動音を効果的に遮断することが求められる電気自動車及びハイブリッド電気自動車用の合わせガラスとして特に好適に利用できる。
【0014】
第1層
本発明の合わせガラス用中間膜は、ポリビニルアセタール樹脂と可塑剤と架橋剤とを含有する第1層を有する。
【0015】
第1層は、比較的多量の可塑剤(例えば樹脂100重量部に対して50重量部以上)を含有する場合でもポリビニルアセタール樹脂と可塑剤との良好な相溶性が求められる。そのため、第1層のポリビニルアセタール樹脂は、アセチル基量が8モル%以上であることが好ましく、10モル%以上であることがより好ましく、10〜15モル%であることがより好ましい。アセチル基量が8モル%以上であるポリビニルアセタール樹脂のアセタール化度は、50〜70モル%であることが好ましく、55〜65モル%であることがより好ましい。また、ポリビニルアセタール樹脂の水酸基の含有量は、18〜25モル%であることが好ましく、20〜23モル%であることがより好ましい。
【0016】
なお、上記と異なり、アセタール化度が75モル%以上のポリビニルアセタール樹脂を用いる場合には、アセチル基量は、8モル%未満(0.1〜7.5モル%)であることが好ましく、水酸基の含有量は、18〜25モル%であることが好ましく、アセタール化度は、77〜85モル%であることが好ましい。
【0017】
ポリビニルアセタール樹脂のアセタール化に用いられるアルデヒドの炭素数は限定的ではないが、炭素数4〜6であることが好ましい。炭素数4〜6のアルデヒドとしては、例えば、n−ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、バレルアルデヒド、n−ヘキシルアルデヒド、2−エチルブチルアルデヒド等が挙げられる。これらのアルデヒドは単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0018】
ポリビニルアセタール樹脂を調製する方法は限定的ではないが、ポリビニルアルコールを熱水に溶解してポリビニルアルコール水溶液とし、この水溶液を所定温度に保持した後、アルデヒドと触媒を加えてアセタール化反応を進行させ、所定の温度で保持し中和・水洗・乾燥の工程を経て樹脂粉末を得る方法が好ましい方法として挙げられる。なお、ポリビニルアルコールの平均重合度は、300〜3000の範囲が好ましい。
【0019】
可塑剤としては限定的ではないが、例えば、一塩基酸エステル、多塩基酸エステル等の有機系可塑剤;有機燐酸系可塑剤;有機亜燐酸系可塑剤等が挙げられる。これらの中でも、特にトリエチレングリコール−ジ−2−エチルブチレート、トリエチレングリコール−ジ−2−エチルヘキサノエート、ジブチルセバケート、ジブチルカルビトールアジペート等が好ましく、特にトリエチレングリコール−ジ−2−エチルヘキサノエートが好ましい。
【0020】
可塑剤の使用量は、少なくなると合わせガラスの十分な遮音性が得られず、多くなると可塑剤がブリードアウトしてポリビニルアセタール樹脂の透明性や接着性を阻害するおそれがある。本発明では、ポリビニルアセタール樹脂100重量部に対して50重量部以上であることが好ましく、55〜70重量部がより好ましい。
【0021】
第1層には、ポリビニルアセタール樹脂の耐候性を向上させるために、紫外線吸収剤が添加されていてもよい。紫外線吸収剤としては、有効紫外線吸収波長域が300〜340nmの紫外線吸収剤が好ましく、このような紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、シアノアクリレート系の紫外線吸収剤が挙げられる。
【0022】
上記ベンゾトリアゾール系の紫外線吸収剤としては、2−(2'-ヒドロキシ−5'-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2'-ヒドロキシ−5'-t−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2'-ヒドロキシ−3',5'-ジ−t−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2'-ヒドロキシ−3'-ジ−t−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2'-ヒドロキシ−3'-t−ブチル−5'-メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2'-ヒドロキシ−3',5'-ジ−t−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2'-ヒドロキシ−3',5'-ジ−t−アミンフェニル)ベンゾトリアゾール、2−〔2'-ヒドロキシ−3'-(3'', 4'', 5'', 6''- テトラヒドロフタルイミドメチル)−5'-メチルフェニル〕ベンゾトリアゾール等が挙げられる。
【0023】
上記ベンゾフェノン系の紫外線吸収剤としては、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−オクトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−ドデシルオキシベンゾフェノン、2,2'-ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,2'-ジヒドロキシ−4,4'-ジメトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−5−スルホベンゾフェノン等が挙げられる。
【0024】
上記シアノアクリレート系の紫外線吸収剤としては、2−エチルヘキシル−2−シアノ−3,3'-ジフェニルアクリレート、エチル−2−シアノ−3,3'-ジフェニルアクリレート等が挙げられる。
【0025】
紫外線吸収剤の使用量は、少なくなると耐候性を向上させる効果がなく、多くなると中間膜の強度低下や全光線透過率の低下が生じる可能性があるため、ポリビニルアセタール樹脂100重量部に対して0.01〜5重量部であることが好ましい。
【0026】
紫外線吸収剤は、ポリビニルアセタールに可塑剤及び後記の架橋剤を混合する際に添加することが好ましい。
【0027】
紫外線吸収剤には、紫外線に対する安定性を向上させるために、ヒンタードアミン系や金属錯塩系の紫外線安定剤が添加されてもよい。
【0028】
上記ヒンタードアミン系紫外線安定剤としては、ビス(2, 2, 6, 6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、テトラキス(2, 2, 2, 6−テトラメチル−4−ピペリジル)−1, 2, 3, 4−ブタンテトラカルボキシレート等が挙げられる。これらの市販品としては、三共社製「SanolLS−770」、「Sanol LS−765」、「Sanol LS−2626」;チバガイギー社製「Chimassob 944LD」、「Thinuvin662」、「Thinuvin 662LD」;アデカアーガス社製「MarkLA−57」、「MarkLA−77」、「Mark LA−62」、「MarkLA−67」、「Mark LA−63」、「Mark LA−68」、「Mark LA−82」、「Mark LA−87」;グッドリッチ社製「Goodraite UV3404」(いずれも商品名)等が挙げられる。
【0029】
上記金属錯塩系の紫外線安定剤としては、ニッケル〔2,2'-チオビス(4−t−オクチル)フェノレート〕−n−ブチルアミン、ニッケルジブチルチオカルバメート、ニッケルビス〔o−エチル−3,5(ジ−t−ブチル−4−ヒドロオキシベンジル)〕ホスフェート、コバルトジシクロヘキシルジチオホスフェート、〔1−フェニル,3−メチル,4−デカノニル,ピラゾレート(5)2 〕ニッケル等が挙げられる。
【0030】
紫外線安定剤の使用量は、少なくなると十分な安定効果が得られず、多くなると中間膜の物性低下や全光線透過率の低下が生じる可能性があるため、ポリビニルアセタール樹脂100重量部に対して0.01〜3重量部であることが好ましい。
【0031】
紫外線安定剤は、ポリビニルアセタールに可塑剤及び後記の架橋剤を混合する際に添加することが好ましい。
【0032】
また、第1層には、ポリビニルアセタール樹脂の熱安定性を向上させるために、酸化防止剤が添加されていてもよい。酸化防止剤としては、フェノール系、硫黄系、リン系等の酸化防止剤が好適に使用される。
【0033】
上記酸化防止剤としては、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール(BHT)、ブチル化ヒドロキシアニソール(BHA)、2,6−ジ−t−ブチル−4−エチルフェノール、ステアリル−β−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2,2'-メチレン−ビス−(4−メチル−6−ブチルフェノール)、2,2'-メチレン−ビス−(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4'-チオビス−(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4'-ブチリデン−ビス−(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、1,1,3−トリス−(2−メチル−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタン、テトラキス〔メチレン−3−(3' ,5'-ブチル−4'-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタン、1,1,3−トリス−(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェノール)ブタン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、ビス〔3,3'-ビス−(4'-ヒドロキシ−3'-t−ブチルフェノール)ブチリックアシッド〕グリコールエステル等が挙げられる。
【0034】
酸化防止剤の使用量は、少なくなると十分な酸化防止効果が得られず、多くなると中間膜の物性低下や全光線透過率の低下を招くおそれがあるため、ポリビニルアセタール樹脂100重量部に対して0.05〜3重量部であることが好ましく、0.2〜1.5重量部であることがより好ましい。
【0035】
酸化防止剤は、ポリビニルアセタールに可塑剤及び後記の架橋剤を混合する際に添加することが好ましい。
【0036】
また、ポリビニルアセタール樹脂には、ガラス板との接着性を調整するための添加剤として、カルボン酸の金属塩、例えば、オクチル酸、ヘキシル酸、酪酸、酢酸、蟻酸等のカリウム、ナトリウム、カルシウム、マグネシウム塩等が添加されていてもよい。これらの添加剤は、ポリビニルアセタールに可塑剤及び後記の架橋剤を混合する際に添加することが好ましい。
【0037】
本発明では、第1層は、ポリビニルアセタール樹脂及び可塑剤に加えて架橋剤を含む。架橋剤としてはキレート配位により該樹脂の水酸基間を架橋できる限り限定的ではないが、金属を含有する架橋剤が好ましい。金属としては、ジルコニウム及びチタンの少なくとも1種を含有することが好ましい。架橋剤としては、例えば、特開2011−12188号公報に開示されている公知の架橋剤を使用することができる。具体的には、特開2011−12188号公報には、少なくとも(A)金属アルコキシド、(B)有機スルホン酸及び(C)β−ケトエステルを反応又は混合することにより得られる架橋剤が記載されている。本発明では、架橋剤を含有することにより、高周波数域の遮音性を向上させることができるとともに、発泡の発生を抑制することができる。
【0038】
架橋剤の含有量は所望の効果に応じて適宜設定できるが、ポリビニルアセタール樹脂100重量部に対して0.01〜10重量部であることが好ましく、0.05〜0.3重量部であることがより好ましい。
【0039】
第1層は、ポリビニルアセタール樹脂、可塑剤、架橋剤及び溶剤を含有する樹脂組成物の塗膜を、乾燥させることにより得られる。また、第1層はポリビニルアセタール樹脂、可塑剤及び架橋剤を含有する樹脂組成物を、押出機を用いて押出すことにより得てもよい。第1層を作製する際に、公知の溶剤を適宜用いることができる。
【0040】
第1層を作製する際に、ポリビニルアセタール樹脂、可塑剤及び架橋剤を含有する樹脂組成物を加熱する工程を有することが好ましい。ポリビニルアセタール樹脂の水酸基間の架橋の有無は、高温領域の弾性率を測定することにより確認することができる。ポリビニルアセタール樹脂の水酸基間の架橋が進行すると、例えば、架橋が進行した第1層のガラス転移温度よりも80℃高い温度における弾性率が、架橋が進行する前の第1層のガラス転移温度よりも80℃高い温度における弾性率よりも高くなる。
【0041】
第1層の厚みは限定されないが、50〜200μmが好ましく、80〜120μmがより好ましい。
【0042】
第2層及び第3層
本発明の合わせガラス用中間膜は、第1層の一方の面側にポリビニルアセタール樹脂と可塑剤とを含有する第2層を有する。また、第1層の他方の面側にポリビニルアセタール樹脂と可塑剤とを含有する第3層を有していてもよい。この第2層及び第3層は第1層に直接積層されていてもよく、他の層を介して積層されていてもよい。
【0043】
第2層及び第3層は、ポリビニルアセタール樹脂100重量部に対する可塑剤の含有量は限定的ではないが、25〜50重量部であることが好ましく、35〜45重量部であることがより好ましい。つまり、第1層中のポリビニルアセタール樹脂100重量部に対する可塑剤の含有量が、第2層及び第3層中のポリビニルアセタール樹脂100重量部に対する可塑剤の含有量よりも多くなるように設定することが好ましい。そして、第1層中の可塑剤の含有量と第2層及び第3層中の可塑剤の含有量との差は、10重量部以上が好ましく、15重量部以上がより好ましく、20重量部以上が最も好ましい。
【0044】
上記可塑剤の含有量を考慮すると、第2層及び第3層のポリビニルアセタール樹脂は、アセチル基量が0.1〜8モル%であることがより好ましく、0.1〜3モル%であることがより好ましい。また、ポリビニルアセタール樹脂のアセタール化度は、60〜80モル%であることが好ましく、65〜75モル%であることがより好ましい。また、ポリビニルアセタール樹脂の水酸基の含有量は、20〜40モル%であることが好ましく、25〜35モル%であることがより好ましい。なお、紫外線吸収剤、紫外線安定剤等の添加剤については、第1層と同様に適宜使用することができる。第2層及び第3層は、ポリビニルアセタール樹脂の物性、添加剤の種類及び量、厚さ等の条件は、それぞれ独立して設定することができる。
【0045】
第2層及び第3層の厚みは限定されないが、それぞれ200〜500μmが好ましく、300〜400μmがより好ましい。また、第1層及び第2層(必要に応じて第3層)を合わせた本発明の合わせガラス用中間膜の全体の厚みは、十分な耐貫通強度及び所望の遮音性の観点から、0.1〜1.6mmであることが好ましく、0.5〜1.2mmがより好ましい。
【0046】
第2層及び第3層が第1層に間接的に積層されている場合には、例えば、ポリエチレンテレフタレート層又は熱可塑性樹脂を含む樹脂層等を介して積層することが好ましい。
【0047】
本発明の合わせガラスは、上記合わせガラス用中間膜の一方の面側に配置された第1合わせガラス構成部材と、前記中間膜の他方の面側に配置された第2合わせガラス構成部材とを有する。ここで、第1合わせガラス構成部材及び第2合わせガラス構成部材は、無機ガラス板だけでなく、有機プラスチックス板(例えば、ポリカーボネート樹脂板)を使用することもできる。
【0048】
合わせガラスを作製する方法としては、常法に従って作製でき、例えば、シート状の合わせガラス用中間膜をガラス板で挟持し、熱圧プレスにより積層して合わせガラスを作製することができる。
【0049】
本発明の合わせガラスは、ポリビニルアセタール樹脂と可塑剤と架橋剤とを含有する第1層と、ポリビニルアセタール樹脂と可塑剤とを含有する第2層とを有し、特に第1層に架橋剤を含有することにより、高周波数域(特に4000〜8000Hz)での遮音性に優れるとともに可塑剤の含有量が比較的多い場合でも発泡の発生が抑制されている。
【発明の効果】
【0050】
本発明の合わせガラス用中間膜は、ポリビニルアセタール樹脂と可塑剤と架橋剤とを含有する第1層と、ポリビニルアセタール樹脂と可塑剤とを含有する第2層とを有し、特に第1層に架橋剤を含有することにより、それを用いて得られる合わせガラスが高周波数域での遮音性に優れるとともに可塑剤の含有量が比較的多い場合でも発泡の発生が抑制されている。この本発明の合わせガラスは、電気モータの駆動音を効果的に遮断することが求められる電気自動車及びハイブリッド電気自動車用の合わせガラスとして特に好適に利用できる。
【発明を実施するための形態】
【0051】
以下に実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明する。但し、本発明は実施例に限定されない。
【0052】
実施例1
(1)第1層形成用樹脂組成物の調製
トルエン2500重量部と、トリエチレングリコールジ−2−エチルヘキサノエート60重量部との溶液を用意した。平均重合度2300のポリビニルアルコールをn−ブチルアルデヒドでブチラール化することにより得られたポリビニルブチラール樹脂(アセタール化度65モル%、アセチル基量13モル%、水酸基の含有率22モル%)100重量部と、トリエチレングリコールジ−2−エチルヘキサノエート(3GO)60重量部と、架橋剤(マツモトファインケミカル株式会社製「オルガチックスZC−540」(ジルコニウムトリブトキシモノアセチルアセトネート))0.15重量部とを前記溶液に添加し、得られた混合物を30分間攪拌し、第1層形成用樹脂組成物を得た。
(2)第1層の形成
第1層形成用樹脂組成物をポリテトラフルオロエチレンシート上に塗布し、100℃で2時間真空乾燥した。次に、真空乾燥後の塗膜を2枚のポリテトラフルオロエチレンシートの間に配置し、120℃で20分間熱プレスした。
【0053】
これにより厚み100μmの第1層を形成した。
(3)第2層及び第3層形成用樹脂組成物の調製
平均重合度1700のポリビニルアルコールをn−ブチルアルデヒドでブチラール化することにより得られたポリビニルブチラール樹脂(アセタール化度68モル%、アセチル基量1モル%、水酸基の含有率31モル%)100重量部と、トリエチレングリコールジ−2−エチルヘキサノエート(3GO)38重量部との混合物を30分間攪拌し、第2層及び第3層形成用樹脂組成物を得た。
(4)第2層及び第3層の形成
第2層及び第3層形成用樹脂組成物を、それぞれ2枚のポリテトラフルオロエチレンシートの間に配置し、120℃で20分間熱プレスした。
【0054】
これにより厚み350μmの第2層及び第3層をそれぞれ形成した。
(5)合わせガラス用中間膜の作製
第2層、第1層及び第3層をこの順で積層した積層体を、2枚のポリテトラフルオロエチレンシートの間に配置し、120℃で20分間熱プレスした。
【0055】
これにより厚み800μmの合わせガラス用中間膜を作製した。
(6)合わせガラスの作製
得られた合わせガラス用中間膜(縦30mm×横320mm)を2枚の透明なフロートガラス(縦30mm×横320mm×厚み2mm)で挟み込んで積層体とした。得られた積層体を、230℃の加熱ロールを用いて仮圧着させた。仮圧着された積層体を、オートクレーブを用いて135℃、圧力1.2MPaの条件で20分間圧着し、合わせガラスAを作製した。
【0056】
また、合わせガラス用中間膜(縦300mm×横150mm)を2枚の透明なフロートガラス(縦300mm×横150mm×厚み2mm)で挟み込んで積層体とした。得られた積層体を、230℃の加熱ロールを用いて仮圧着させた。仮圧着された積層体を、オートクレーブを用いて135℃、圧力1.2MPaの条件で20分間圧着し、合わせガラスBを作製した。
【0057】
実施例2〜5
第1層形成用樹脂組成物の調製において、架橋剤の種類と配合割合とを表1の通りに変更した以外は、実施例1と同様に合わせガラス用中間膜並びに合わせガラス(A及びB)を作製した。
【0058】
比較例1
第1層形成用樹脂組成物の調製において、トルエン及び架橋剤を使用しなかった以外は、実施例1と同様に合わせガラス用中間膜並びに合わせガラス(A及びB)を作製した。
【0059】
試験例1
実施例及び比較例で作製した合わせガラスについて(1)損失係数測定及び(2)発泡試験を行った。各測定及び試験の方法及び評価基準は、下記及び表1の通りである。
(1)損失係数
各合わせガラスAを20℃の環境下に1ヶ月間保管した。測定装置「SA−01」(リオン社製)を用いて、中央加振法により、20℃の条件で測定された損失係数の共振周波数の6次モード(6.3kHz近傍)での損失係数を評価した。
【0060】
以下の基準で損失係数を評価した。
◎:損失係数が0.30以上であった
○:損失係数が0.25以上0.30未満であった
×:損失係数が0.25未満であった
(2)発泡試験
各合わせガラスBを、合わせガラス用中間膜ごとに5枚ずつ作製し、50℃のオーブン内に100時間放置した。放置後の各合わせガラスBにおいて、発泡の有無を目視で観察した。以下の基準で発泡の有無を評価した。
無:5枚の合わせガラス全てに発泡が観察されなかった
有:5枚の合わせガラスの少なくとも1枚に発泡が観察された
【0061】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアセタール樹脂と可塑剤と架橋剤とを含有する第1層と、前記第1層の一方の面側に配置されたポリビニルアセタール樹脂と可塑剤とを含有する第2層と、を有することを特徴とする合わせガラス用中間膜。
【請求項2】
前記第1層の他方の面側にポリビニルアセタール樹脂と可塑剤とを含有する第3層が更に配置されている、請求項1に記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項3】
前記第1層中の前記ポリビニルアセタール樹脂100重量部に対する前記可塑剤の含有量は50重量部以上である、請求項1又は2に記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項4】
前記架橋剤は金属を含有する架橋剤である、請求項1〜3のいずれかに記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項5】
前記金属は、ジルコニウム及びチタンの少なくとも1種を含有する、請求項4に記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項6】
前記第1層中の前記ポリビニルアセタール樹脂100重量部に対する前記可塑剤の含有量が、前記第2層中の前記ポリビニルアセタール樹脂100重量部に対する前記可塑剤の含有量よりも多い、請求項1〜5のいずれかに記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項7】
前記第1層中の前記ポリビニルアセタール樹脂100重量部に対する前記可塑剤の含有量が、前記第3層中の前記ポリビニルアセタール樹脂100重量部に対する前記可塑剤の含有量よりも多い、請求項2〜6のいずれかに記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項8】
前記第1層中の前記ポリビニルアセタール樹脂のアセチル基量が8モル%以上である、請求項1〜7のいずれかに記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項9】
前記第1層中の前記ポリビニルアセタール樹脂のアセタール化度が75モル%以上である、請求項1〜7のいずれかに記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項10】
前記可塑剤はトリエチレングリコールジ−2−エチルヘキサノエートを含有する、請求項1〜9のいずれかに記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載の合わせガラス用中間膜と、前記中間膜の一方の面側に配置された第1合わせガラス構成部材と、前記中間膜の他方の面側に配置された第2合わせガラス構成部材と、を有する合わせガラス。
【請求項12】
前記第1合わせガラス構成部材及び前記第2合わせガラス構成部材は、無機ガラス板又は有機プラスチックス板である、請求項11に記載の合わせガラス。

【公開番号】特開2012−214305(P2012−214305A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−79229(P2011−79229)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】