説明

合成樹脂エマルジョン、再乳化性エマルジョン粉末、及びそれを用いた木工用接着剤組成物

【課題】割裂強度評価において良好な接着性、ならびに高材破率を発現することができる木工用接着剤組成物と、それに有用な合成樹脂エマルジョンの提供。
【解決手段】合成樹脂(A)が、側鎖に1,2−ジオール結合を有するポリビニルアルコール系樹脂(B)で分散安定化された合成樹脂エマルジョンであって、合成樹脂(A)のガラス転移温度が−20℃以下である合成樹脂エマルジョンおよび、それを主成分として含む木工用接着剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成樹脂エマルジョン、再乳化性エマルジョン粉末、および木工用接着剤組成物に関し、更に詳しくは、木工用接着剤組成物として用いた際に十分な割裂強度が得られる合成樹脂エマルジョンおよび再乳化性エマルジョン粉末に関する。また、本発明の合成樹脂エマルジョン、本発明の再乳化性エマルジョン粉末、およびその粉末を再乳化して得られる合成樹脂エマルジョンのうち少なくともいずれかのエマルジョンまたは粉末を含む木工用接着剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
木工用や紙用などの接着剤として、引火の危険性がなく、環境にやさしく、比較的安全性の高い水性エマルジョンを含む接着剤が多く用いられている。従来、水性エマルジョンに機械安定性や凍結安定性を付与するために、保護コロイド剤としてポリビニルアルコールが使用されている。しかし、エマルジョンの機械安定性や凍結安定性は改善されるものの、特に疎水性モノマーを主体として重合する場合においては重合安定性が不十分であったり、得られたエマルジョンの経時安定性が不十分であったりすることが多かった。特に、エマルジョンの不揮発分が50重量%を超えるような高不揮発分ではその傾向が強かった。
【0003】
そのため、エマルジョンの不揮発分が50重量%以上でも安定に、且つ粒子径が比較的小さいエマルジョンができ、更に、耐水性、耐温水性、耐煮沸性、強靭性及び長期の耐久性に優れた皮膜を形成するための水性合成樹脂エマルジョンが特許文献1に開示されている。特許文献1に記載の水性合成樹脂エマルジョンは、側鎖に1,2−ジオール結合を有するポリビニルアルコール系樹脂にて、スチレン系モノマーを所定量含有する重合性モノマーからなる合成樹脂が分散安定化された水性合成樹脂エマルジョンである。
【0004】
一方、接着面が受ける応力としては、せん断や割裂があるが、割裂は、接着面全体に一様に受けるせん断と異なり、接着面の一方あるいは端部に偏って受けるので、せん断と異質な応力である。木工用接着剤を用いた接着性の評価、例えば木質パネル接着性評価においては、割裂強度評価が重要な評価として位置づけられており、特許文献2においても割裂試験による接着評価が行なわれている。
【0005】
また、接着剤の性能を評価する方法の一つとして、接着剤を介して接着された被着材の接着面を破壊する方法があり、このときの破壊状況として、被着材が破壊する材料破壊、被着材と接着剤の界面で剥離する界面破壊、接着剤自身が破壊する凝集破壊の三形態があり、これらが組み合わせられた破壊状況もある。これらの破壊状況のうち材料破壊を生じさせる接着剤は、接着剤自身の結合のみならず、接着剤と被着材との結合が強固でなければならないから、強力な接着性を有すると言える。したがって、木工用接着剤の割裂強度評価においては、破壊状態における接着面積に対する木材破壊した面積の割合(材破率)が高いことが望ましい。
【0006】
本発明者らが特許文献1の水性合成樹脂エマルジョンを用いた木工用接着剤について割裂強度評価を行なったところ、従来の木工用接着剤と同等以上の接着性や材破率が得られるものの、本発明者らは、より良好な接着性が得られ、また高い材破率が得られる木工用接着剤を開発すべく、鋭意研究開発を行なった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−40994号公報
【特許文献2】特開2006−282952号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、割裂強度評価において良好な接着性、ならびに高材破率を発現することができる木工用接着剤組成物およびその主成分となる合成樹脂エマルジョンを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、側鎖に1,2−ジオール結合を有するポリビニルアルコール系樹脂を分散剤として用い、かつ分散される合成樹脂としてガラス転移温度を従来よりも低く調整した合成樹脂を用いることによって、上記課題を解決することを見出した。
【0010】
すなわち、本発明は、合成樹脂(A)が、側鎖に1,2−ジオール結合を有するポリビニルアルコール系樹脂(B)で分散安定化された合成樹脂エマルジョンであって、合成樹脂(A)のガラス転移温度が−20℃以下であることを特徴とする合成樹脂エマルジョンに関するものである。また、本発明は、この合成樹脂エマルジョンの乾燥物である再乳化性エマルジョン粉末、この再乳化性エマルジョン粉末を再乳化して得られる合成樹脂エマルジョン、これら合成樹脂エマルジョンや再乳化性エマルジョン粉末を含む木工用接着剤組成物に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の合成樹脂エマルジョンによれば、木工用接着剤組成物に適用した際に、割裂強度評価において良好な接着性、ならびに高材破率を発現することができる。また、本発明の合成樹脂エマルジョン、または再乳化性エマルジョン粉末を再乳化して得られる合成樹脂エマルジョンは、皮膜を形成したときに、耐水性、耐温水性、耐煮沸性、強靭性及び長期の耐久性に優れた効果を有するものである。
なお、本発明における「木工用」は、木部あるいは木質自体の被着材のみならず、紙等の木部あるいは木質を含有する被着材に適用することを表し、例えば木工、家具、建築内装、パッケージング、紙加工、化粧合板、複合部材、パネル等に適用することを表す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の合成樹脂エマルジョンを詳細に説明するが、これらは望ましい実施態様の一例を示すものである。
本発明の合成樹脂エマルジョンは、合成樹脂(A)が、側鎖に1,2−ジオール結合を有するポリビニルアルコール系樹脂(B)で分散安定化された合成樹脂エマルジョンである。
【0013】
〔合成樹脂エマルジョン〕
まず、本発明で用いられる合成樹脂(A)について説明する。
合成樹脂(A)は、後述の側鎖に1,2−ジオール結合を有するポリビニルアルコール系樹脂(B)で分散安定化され、エマルジョンとなり得るガラス転移温度が−20℃以下の合成樹脂であればよく、その製造方法も特に限定されるものではないが、特には、合成樹脂(A)を構成する重合(共重合)性のモノマー成分が、側鎖に1,2−ジオール結合を有するポリビニルアルコール系樹脂(B)の存在下で乳化重合されることにより製造される合成樹脂であることが好ましい。
【0014】
本発明における合成樹脂(A)としては、疎水性モノマーと親水性モノマーとの共重合体、または疎水性モノマーの重合体あるいは疎水性モノマー同士の共重合体を含有するものであることが好ましい。
ここで、疎水性モノマーとしては、通常、当業者において一般的に疎水性モノマーとして扱われているものであればよいが、物性を定義すれば、20℃の水に対する溶解度が0.1%以下である重合性モノマーであればよく、具体的には(メタ)アクリル系モノマー、スチレン系モノマー、ビニル系モノマー等が挙げられ、これらを1種または2種以上併用して用いることができる。なお、本発明においては、上記疎水性モノマーの定義に属さないモノマーを親水性モノマーとして扱うこととする。
【0015】
かかる(メタ)アクリル系モノマーとしては、例えば、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレートなどのアルキル基の炭素数が4以上、好ましくは6〜18の(メタ)アクリレート、特に脂肪族系(メタ)アクリレートや、フェノキシアクリレート等の芳香族系(メタ)アクリレート、メタクリル酸トリフルオロエチル、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,2−プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート等の脂肪族系ジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらは1種または2種以上併用して用いられる。なお、「(メタ)アクリレート」は、アクリレートまたはメタクリレートを意味する。
【0016】
かかるスチレン系モノマーとしては、例えば、スチレン、α−メチルスチレンなどが挙げられる。これらは1種または2種以上併用して用いられる。
【0017】
かかるビニル系モノマーとしては、例えば、ラウリル酸ビニル、ステアリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル、ジビニルベンゼン、などが挙げられる。これらは1種または2種以上併用して用いられる。
【0018】
上記の中でも(メタ)アクリル系モノマー、スチレン系モノマーが好ましく、特に好ましくはスチレン、n−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレートである。
【0019】
本発明においては、上記モノマー成分からなる重合(共重合)成分を、重合または共重合することにより合成樹脂(A)が得られるものであるが、重合(共重合)成分全体に対して、疎水性モノマーを30重量%以上含有することが好ましく、特に好ましくは40重量%以上、更に好ましくは50重量%以上、殊に好ましくは70重量%以上である。
なお、疎水性モノマーの含有割合の上限は特に限定されないが、通常、100重量%以下、好ましくは99.5重量%以下、特に好ましくは99重量%以下であり、少量の親水性モノマーを含有してもよい。疎水性モノマーの含有量が少なすぎると所望の耐水性や耐候性が不充分となる傾向がある。
【0020】
また、本発明においては、疎水性モノマーとしてスチレンを少なくとも含有する共重合成分を共重合してなる合成樹脂(A)が好ましく、スチレンの含有割合は、共重合成分中の20℃の水に対する溶解度が0.1%以下である疎水性モノマー全体に対して70重量%以下、好ましくは65重量%以下、更に好ましくは60重量%以下である。スチレンの含有割合の下限としては、1重量%以上であることが好ましい。かかるスチレンの含有量が多すぎると、重合安定性が低下する傾向がある。
【0021】
本発明の合成樹脂(A)は、ガラス転移温度が−20℃以下であることが必要であり、好ましくは−20℃未満、さらに好ましくは−22℃以下である。また、ガラス転移温度の下限は、通常、−80℃以上、より好ましくは−75℃以上であるのが好ましい。ガラス転移温度が高すぎると、割裂強度評価において良好な接着性、ならびに高材破率を発現し難くなる傾向がある。
【0022】
なお、合成樹脂(A)のガラス転移温度は、合成樹脂(A)を構成する各共重合成分からなるホモポリマーのガラス転移温度を算出し、合成樹脂(A)を構成する各共重合成分の重量比を適宜調整することによって、調整することができる。
【0023】
本発明において、上記疎水性モノマーと共重合される共重合性モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル系のモノマーとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレートなどのアルキル基の炭素数が3以下、好ましくは2以下の(メタ)アクリレート、特に脂肪族系(メタ)アクリレートが使用できる。ビニル系モノマーとしては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどが使用できる。
【0024】
また、本発明においては、乳化重合する際に、疎水性モノマーとともに官能性モノマーを共重合することが木部・木質材料に対する耐温水性、耐煮沸性の点で好ましい。かかる官能性モノマーとしては、下記(1)〜(6)からなる群より選択される1種以上であることが好ましい。
(1)アリル基含有モノマー
(2)グリシジル基含有モノマー
(3)加水分解性シリル基含有モノマー
(4)アセトアセチル基含有モノマー
(5)カルボニル基含有モノマー
(6)ヒドロキシ基含有モノマー
【0025】
アリル基含有モノマー(1)の具体例としては、例えば、トリアリルオキシエチレン、マレイン酸ジアリル、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、テトラアリルオキシエタン等のアリル基を2個以上有するモノマー、アリルグリシジルエーテル、酢酸アリル等が挙げられる。このうち、湿潤時の接着性の観点から、アリルグリシジルエーテルが好ましい。
【0026】
グリシジル基含有モノマー(2)の具体例としては、例えば、グリシジル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アリルエーテル、3,4−エポキシシクロヘキシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。このうち、木工用接着剤の耐水性向上の観点から、グリシジル(メタ)アクリレートが好ましい。
【0027】
加水分解性シリル基含有モノマー(3)の具体例としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、ビニルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン等が挙げられる。このうち、湿潤時接着性の観点から、ビニルトリメトキシシランが好ましい。
【0028】
アセトアセチル基含有モノマー(4)の具体例としては、例えば、アセト酢酸ビニルエステル、アセト酢酸アリルエステル、ジアセト酢酸アリルエステル、アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート、アセトアセトキシエチルクロトナート、アセトアセトキシプロピル(メタ)アクリレート、アセトアセトキシプロピルクロトナート、2−シアノアセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。このうち、木工用接着剤の耐水性向上の観点から、アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレートが好ましい。
【0029】
カルボニル基含有モノマー(5)の具体例としては、例えば、ダイアセトンアクリルアマイド等が挙げられる。
【0030】
ヒドロキシ基含有モノマー(6)の具体例としては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等の脂肪族(メタ)アクリレートなどが挙げられる。このうち、木工用接着剤の耐水性向上の観点から、2−ヒドロキシエチルメタクリレートが好ましい。
【0031】
本発明の好ましい態様によれば、官能性モノマーは、グリシジル基含有モノマー(2)、加水分解性シリル基含有モノマー(3)、アセトアセチル基含有モノマー(4)及びヒドロキシ基含有モノマー(6)からなる群より選択されることが好ましく、特には、グリシジル基含有モノマー(2)及びヒドロキシ基含有モノマー(6)のうち少なくとも1つを含んでなることが、木工用接着剤の耐温水性・耐煮沸性の向上の点で特に好ましい。
【0032】
官能性モノマーの使用量は、共重合性モノマー全体に対して0.01〜10重量%であることが好ましく、より好ましくは0.05〜5重量%、特に好ましくは0.1〜5重量%、更に好ましくは0.1〜1重量%である。使用量が少なすぎると、耐水性や耐湿潤接着性の改善が不充分となる傾向があり、多すぎると、重合不良となったりする傾向がある。なお、これらの官能性モノマーは2種以上のものを組み合わせて使用することができる。
【0033】
また、本発明においては、本発明の目的を阻害しない範囲において、上記以外の共重合性モノマーとして、以下の共重合可能なモノマーを併用することができる。例えば、エチレンなどのオレフィン系モノマー;塩化ビニルなどのハロゲン化オレフィン系モノマー;(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、t−ブチルアクリルアミド、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸などのアクリルアミド系モノマー;(メタ)アクリルニトリルなどニトリル系モノマー;メチルビニルエーテルなどのビニルエーテル系モノマー;(メタ)アクリル酸、(無水)イタコン酸などのエチレン性不飽和カルボン酸およびこれらのエステル系モノマーなどが使用できる。
【0034】
本発明における側鎖に1,2−ジオール結合を有するポリビニルアルコール系樹脂(B)(以下、「PVA系樹脂(B)」と記すことがある。)は、通常、下記式(1)で示される1,2−ジオール構造単位を含有するPVA系樹脂が挙げられる。
【0035】
【化1】

【0036】
このようなPVA系樹脂(B)は、例えば、(I)酢酸ビニルと3,4−ジアセトキシ−1−ブテンとの共重合体をケン化する方法、(II)酢酸ビニルとビニルエチレンカーボネートとの共重合体をケン化及び脱炭酸する方法、(III)酢酸ビニルと2,2−ジアルキル−4−ビニル−1,3−ジオキソランとの共重合体をケン化及び脱ケタール化する方法、(IV)酢酸ビニルとグリセリンモノアリルエーテルとの共重合体をケン化する方法、等により得られる。
【0037】
PVA系樹脂(B)の1,2−ジオール結合量は、1〜15モル%であることが好ましく、より好ましくは1〜12モル%、さらに好ましくは2〜10モル%、さらに特に好ましくは2〜8モル%である。ここで、1,2−ジオール結合量とは、例えば、1,2−ジオール構造単位が上記式(1)で表される場合、PVA系樹脂(B)中に含まれる上記式(1)で表される1,2−ジオール結合構造単位のモル比率を意味する。かかる1,2−ジオール結合量が少なすぎると、エマルジョンの機械安定性や皮膜の耐水性などが低下する傾向があり、多すぎると重合時の安定性が低下し、不揮発分の高い安定なエマルジョンが得られにくくなる傾向がある。
【0038】
なお、不揮発分とは、エマルジョンを加熱乾燥して残った残分を意味し、通常加熱乾燥前後の重量をJISK6828−1に記載の算出方法にしたがって求めることができる。
【0039】
また、PVA系樹脂(B)の平均ケン化度は、85モル%以上であることが好ましく、より好ましくは90モル%以上、特に好ましくは95〜99.8モル%である。かかるケン化度が小さすぎると、エマルジョンの重合時の安定性が低下して目的とするエマルジョンを得ることが困難になる傾向がある。
【0040】
なお、本明細書において、平均ケン化度は、JISK6726に記載のケン化度の算出方法にしたがって求めることができる。
【0041】
更に、PVA系樹脂(B)の平均重合度は、50〜3000が好ましく、より好ましくは100〜2500、さらに好ましくは100〜1500、特に好ましくは200〜500である。かかる重合度が小さすぎるとPVA系樹脂を工業的に製造することが困難となる傾向があり、大きすぎるとエマルジョンの粘度が高くなり過ぎたり、エマルジョンの重合安定性が低下する傾向がある。
【0042】
なお、本明細書において、平均重合度は、JISK6726に記載の平均重合度の算出方法にしたがって求めることができる。
【0043】
本発明において、合成樹脂エマルジョンを製造する際の乳化重合の過程で、保護コロイド(分散安定化剤)として使用するPVA系樹脂(B)の使用量は、使用される全重合性モノマー量に対して3〜20重量%であることが好ましく、より好ましくは8〜15重量%である。かかる使用量が少なすぎると、乳化重合の際の保護コロイド量が不足となって、重合安定性が不良となる傾向があり、多すぎると、木工用接着剤として耐水性が低下する傾向がある。
【0044】
ここで、用いられるPVA系樹脂(B)は、通常、重合により形成される合成樹脂エマルジョン中に全量が存在することとなる。即ち、合成樹脂に対して、3〜20重量%、より好ましくは8〜15重量%のPVA系樹脂(B)がエマルジョン中に存在することとなる。
【0045】
本発明において、保護コロイド(分散安定剤)として上記のPVA系樹脂(B)以外に、本発明の目的を阻害しない範囲において未変性タイプの部分・完全ケン化PVA系樹脂や各種変性タイプの部分・完全ケン化PVA系樹脂などを併用しても良い。
【0046】
また、本発明では、PVA系樹脂(B)は、通常、水系媒体を用いて水溶液とし、これが乳化重合の過程において使用される。ここで水系媒体とは、水、または水を主体とするアルコール性溶媒をいい、好ましくは水のことをいう。この水溶液におけるPVA系樹脂(B)の量(不揮発分換算)については特に限定されないが、取り扱いの容易性の観点からは、5〜30重量%であることが望ましい。
【0047】
なお、PVA系とは、PVA自体、または、例えば、各種変性種(本発明においては1,2−ジオール結合を有する変性種以外の変性種)によって変性されたものを意味し、その変性度は、通常20モル%以下、好ましくは15モル%以下、更に好ましくは10モル%以下である。変性度が高くなりすぎると乳化重合時に増粘・ゲル化し易くなり、安定なエマルジョンが得られ難くなる傾向がある。
【0048】
かかる変性種としては、例えば、エチレン、プロピレン、イソブチレン、α−オクテン、α−ドデセン、α−オクタデセン等のオレフィン類、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸等の不飽和酸類あるいはその塩あるいはモノまたはジアルキルエステル等、アクリロニトリル、メタアクリロニトリル等のニトリル類、アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド類、エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸あるいはその塩、アルキルビニルエーテル類、ポリオキシエチレン(メタ)アリルエーテル、ポリオキシプロピレン(メタ)アリルエーテル等のポリオキシアルキレン(メタ)アリルエーテル、ポリオキシエチレン(メタ)アクリレート、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリレート等のポリオキシアルキレン(メタ)アクリレート、ポリオキシエチレン(メタ)アクリルアミド、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリルアミド等のポリオキシアルキレン(メタ)アクリルアミド、ポリオキシエチレン〔1−(メタ)アクリルアミド−1,1−ジメチルプロピル〕エステル、ポリオキシエチレンビニルエーテル、ポリオキシプロピレンビニルエーテル、ポリオキシエチレンアリルアミン、ポリオキシプロピレンアリルアミン、ポリオキシエチレンビニルアミン、ポリオキシプロピレンビニルアミン、N−アクリルアミドメチルトリメチルアンモニウムクロライド、アリルトリメチルアンモニウムクロライド、ジメチルジアリルアンモニウムクロリド、ジメチルアリルビニルケトン、N−ビニルピロリドン、塩化ビニル、塩化ビニリデン等が挙げられる。また、上記の他、アセトアセチル基変性、メルカプト基変性、ジアセトンアクリルアミド変性等の活性水素を含有する変性種も挙げられる。
【0049】
本発明の合成樹脂エマルジョンは、合成樹脂(A)が、側鎖に1,2−ジオール結合を有するポリビニルアルコール系樹脂(B)で分散安定化されたものであり、例えば、PVA系樹脂(B)を保護コロイドとして用いて、疎水性モノマー、好ましくは更に官能性モノマー、必要に応じて親水性モノマーを含む共重合性モノマーを乳化重合することによって製造することができる。
【0050】
本発明の合成樹脂エマルジョンは、上記合成樹脂(A)を構成する重合(共重合)性のモノマー成分を、PVA系樹脂(B)の存在下で乳化重合して製造されたものであることが好ましく、この場合、重合(共重合)性のモノマー成分やPVA系樹脂(B)以外に、必要に応じて他の成分をさらに用いることができる。
【0051】
このような他の成分としては、合成樹脂エマルジョンとしての性質を低下させることがない限り特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。他の成分としては、例えば、重合開始剤、重合調整剤、補助乳化剤、可塑剤、造膜助剤等が挙げられる。
【0052】
重合開始剤としては、通常の乳化重合に使用できるものであれば特に制限なく使用でき、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の無機過酸化物;有機過酸化物、アゾ系開始剤、過酸化水素、ブチルパーオキサイド等の過酸化物;およびこれらと酸性亜硫酸ナトリウムやL−アスコルビン酸等の還元剤とを組み合わせたレドックス重合開始剤等が挙げられる。これらは、2種以上を併用してもよい。本発明においては、これらの中でも、皮膜物性や強度増強に悪影響を与えず重合が容易な点で過硫酸アンモニウムや過硫酸カリウムが好ましい。
【0053】
重合調整剤としては、特に制限はなく、公知のものの中から適宜選択することができる。このような重合調整剤としては、例えば、連鎖移動剤、バッファーなどが挙げられる。
【0054】
ここで、連鎖移動剤としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール;アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、n−ブチルアルデヒド、フルフラール、ベンズアルデヒド等のアルデヒド類;および、ドデシルメルカプタン、ラウリルメルカプタン、ノルマルメルカプタン、チオグリコール酸、チオグリコール酸オクチル、チオグリセロール等のメルカプタン類などが挙げられる。これらは、2種以上を併用してもよい。連鎖移動剤の使用は、重合を安定に行わせるという点では有効であるが、合成樹脂の重合度を低下させるため、得られる皮膜の耐水性や木工用接着剤としては耐水接着力等が低下する可能性がある。このため、連鎖移動剤を使用する場合には、その使用量を適宜調整することが望ましい。
【0055】
ここで、前記バッファーとしては、例えば、酢酸ソーダ、酢酸アンモニウム、第二リン酸ソーダ、クエン酸ソーダなどが挙げられる。これらは、2種以上を併用してもよい。
【0056】
補助乳化剤としては、乳化重合に用いることができるものとして当業者に公知のものであれば、いずれのものでも使用可能である。したがって、補助乳化剤は、例えば、アニオン性、カチオン性、およびノニオン性の界面活性剤、PVA系樹脂(B)以外の保護コロイド能を有する水溶性高分子、および水溶性オリゴマー等の公知のものの中から適宜選択することができる。
【0057】
界面活性剤の好ましい具体例としては、例えば、ラウリル硫酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムのようなアニオン性界面活性剤、および、プルロニック型構造を有するものやポリオキシエチレン型構造を有するものなどのノニオン性界面活性剤が挙げられる。また、該界面活性剤として、構造中にラジカル重合性不飽和結合を有する反応性界面活性剤を使用することもできる。
【0058】
乳化剤の使用は乳化重合をスムーズに進行させ、コントロールし易くする。加えて、重合中に発生する粗粒子やブロック状物の発生を抑制する効果がある。ただし、これら界面活性剤を乳化剤として多く使用すると、耐水性が低下する傾向がある。このため、界面活性剤を使用する場合には、その使用量はPVA系樹脂(B)に対して補助的な量であること、すなわち、できる限り少なくすることが望ましい。
【0059】
PVA系樹脂(B)以外の保護コロイド能を有する水溶性高分子としては、例えば、PVA系樹脂(B)以外のPVA系樹脂、ヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルピロリドン、メチルセルロースなどが挙げられる。これらは、エマルジョンの増粘やエマルジョンの粒子径を変えて粘性を変化させる点で効果がある。ただし、その使用量によっては皮膜の耐水性を低下させることがあるため、使用する場合には少量で使用することが望ましい。
【0060】
水溶性オリゴマーとしては、例えば、スルホン酸基、カルボキシル基、水酸基、アルキレングリコール基などの親水性基を有する重合度が10〜500程度の重合体または共重合体が好適に挙げられる。水溶性オリゴマーの具体例としては、例えば、2−メタクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸共重合体などのアミド系共重合体、メタクリル酸ナトリウム−4−スチレンスルホネート共重合体、スチレン/マレイン酸共重合体、メラミンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、ポリ(メタ)アクリル酸塩などが挙げられる。さらに、具体例としては、スルホン酸基、カルボキシル基、水酸基、アルキレングリコール基などを有するモノマーやラジカル重合性の反応性乳化剤を予め単独または他のモノマーと共重合してなる水溶性オリゴマーなども挙げられる。本発明においては、これらの中でも、後述の顔料および炭カル等のフィラーとの混和安定性の点で、2−メタクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸共重合体、メタクリル酸ナトリウム−4−スチレンスルホネート共重合体が好ましい。水溶性オリゴマーは、乳化重合を開始する前に予め重合したものを使用してもよいし、市販品を使用してもよい。これらは、2種以上を併用してもよい。
【0061】
また、可塑剤としては、例えば、アジペート系可塑剤、フタル酸系可塑剤、燐酸系可塑剤などが使用でき、特にジブチルフタレートなどが使用できる。また、沸点が260℃以上の造膜助剤も使用できる。これら他の成分の使用量は、本発明の目的を阻害しない限りにおいて特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0062】
乳化重合の方法としては、例えば、反応缶に、水、乳化剤を仕込み、昇温して共重合性モノマーと重合開始剤を滴下するモノマー滴下式乳化重合法;および、滴下するモノマーを予め乳化剤と水とで分散・乳化させた後、滴下する乳化モノマー滴下式乳化重合法などが挙げられるが、重合工程の管理やコントロール性等の面でモノマー滴下式が便利である。
【0063】
通常、乳化重合は、乳化剤および前記重合性モノマー成分以外に、重合開始剤、重合調整剤、補助乳化剤等のような前記した他の成分を必要に応じて用いて実施する。また、重合の反応条件は、特に制限はなく、重合性モノマーの種類、目的等に応じて適宜選択することができる。
【0064】
乳化重合過程をさらに具体的に説明にすると、以下のとおりである。
先ず反応缶に水、乳化剤、必要に応じて補助乳化剤を仕込み、これを昇温(通常65〜90℃)した後、重合性モノマー成分の一部と重合開始剤をこの反応缶に添加して、初期重合を実施する。次いで、残りの重合性モノマー成分を、一括または滴下しながら反応缶に添加し、必要に応じてさらに重合開始剤を添加しながら重合を進行させる。重合反応が完了したと判断されたところで、反応缶を冷却し、目的とする合成樹脂エマルジョンを取り出すことができる。
【0065】
本発明において、乳化重合より得られる合成樹脂エマルジョンは、典型的には、均一な乳白色であって、その平均粒子径はエマルジョンの安定性の点から0.2〜3μmであることが好ましく、より好ましくは0.3〜2μmである。なお、ここで、エマルジョンの平均粒子径は、慣用の方法、例えばレーザー解析/散乱式粒度分布測定装置「LA−910」(株式会社堀場製作所製)により測定することができる。
【0066】
かくして本発明の合成樹脂エマルジョンが得られるわけであるが、各種用途への使用に際しては、不揮発分として通常40〜60重量%に調整することが好ましい。
【0067】
また、本発明においては、乳化重合後の合成樹脂エマルジョンに、必要に応じて各種添加剤をさらに加えてもよい。このような添加剤としては、例えば、有機顔料、無機顔料、水溶性添加剤、pH調整剤、防腐剤、酸化防止剤などが挙げられる。
【0068】
水溶性添加剤は、本発明の合成樹脂エマルジョンを乾燥して得られる再乳化性エマルジョン粉末を水に分散させる際に、水への再乳化性を向上させる目的で加えられるものである。
【0069】
水溶性添加剤を使用する場合、通常、水溶性添加剤は、乳化重合後であって乾燥前の合成樹脂エマルジョンに添加する。水溶性添加剤の使用量は、好ましくは、乾燥前の合成樹脂エマルジョンの固形分に対して、通常2〜30重量%、好ましくは5〜20重量%、特に好ましくは8〜15重量%である。使用量が多すぎると、再乳化性エマルジョン粉末の耐水性が充分でなくなる傾向があり、少なすぎると、再乳化性向上が充分に図れない傾向がある。
【0070】
水溶性添加剤としては、例えば、PVA系樹脂、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、澱粉誘導体、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキサイド、水溶性アルキド樹脂、水溶性フェノール樹脂、水溶性ウレア樹脂、水溶性メラミン樹脂、水溶性グアナミン樹脂、水溶性ナフタレンスルホン酸樹脂、水溶性アミノ樹脂、水溶性ポリアミド樹脂、水溶性アクリル樹脂、水溶性ポリカルボン酸樹脂、水溶性ポリエステル樹脂、水溶性ポリウレタン樹脂、水溶性ポリオール樹脂、および、水溶性エポキシ樹脂などが挙げられる。これらは、2種以上を併用してもよい。
【0071】
これらの中でも、PVA系樹脂は水への再乳化性を向上させるために有効である。使用するPVA系樹脂は、乳化重合過程において乳化剤として使用したものと同じものであっても良く、また異なるものであってもよい。重合中は重合度の高いPVA系樹脂はその重合安定性から使用し難いが、重合後の添加であればそのようなPVA系樹脂であっても特に問題なく使用することができる。ただし、水への溶解度が低いものは、再乳化性に悪影響を与える場合があるので、事前に水への溶解度を確認した上で使用することが望ましい。
【0072】
さらに、本発明においては、水溶性添加剤としてアセトアセチル基、メルカプト基、カルボキシル基、スルホン酸基、アルコキシル基、ダイアセトンアクリルアミド基、側鎖に1,2−ジオール結合を有する基などの官能基で変性した変性PVA系樹脂なども使用できる。
【0073】
水への再乳化を向上させるために有効である水溶性添加剤としてのPVAまたはアセトアセチル基変性PVA、ダイアセトンアクリルアミド基変性PVA、側鎖1,2−ジオール結合を含有するPVAは、これらを含有してなる再乳化性エマルジョン粉末の架橋剤として用いられるイソシアネート系化合物、(ポリ)ヒドラジト系化合物、アジリジン系化合物、エポキシ基含有化合物、アミン系化合物、アルデヒド系化合物、メチロールメラミン系ポリマー、多価金属化合物(アルミニウム塩、ジルコゾール塩、カルシウム塩など)などと適宜組み合わせて使用することができる。
【0074】
架橋剤が粉体、粉末の場合には、再乳化性エマルジョン粉末に予め必要量を配合してなる一材化再乳化性エマルジョン粉末組成物とすることも可能である。
【0075】
〔再乳化性エマルジョン粉末〕
本発明においては、前記乳化重合により得られた合成樹脂エマルジョンを乾燥することによって、再乳化性エマルジョン粉末とすることができる。乾燥方法は、例えば、噴霧乾燥、凍結乾燥、凝析後の温風乾燥等が挙げられる。これらの中でも、生産コスト、省エネルギーの観点から噴霧乾燥することが好ましい。
【0076】
噴霧乾燥の場合、その噴霧形式は、例えばディスク式、ノズル式などの形式により実施することができる。噴霧乾燥の熱源としては、例えば、熱風、加熱水蒸気などが挙げられる。噴霧乾燥の条件としては、噴霧乾燥機の大きさ、種類、エマルジョンの固形分、粘度、流量等に応じて適宜選択することができる。噴霧乾燥の温度は、通常は、80〜150℃程度である。
【0077】
噴霧乾燥処理をさらに具体例を挙げて説明すると、まず合成樹脂エマルジョン中の固形分を調整し、これを噴霧乾燥機のノズルより連続的に供給し、霧状にしたものを温風により乾燥させて粉末化させる。
【0078】
なお、本発明においては、抗粘結剤を、噴霧乾燥後に再乳化性エマルジョン粉末に混合したり、噴霧乾燥時に合成樹脂エマルジョンと別のノズルから噴霧したりするなどして、併用することができる。抗粘結剤の添加は、抗粘結剤でエマルジョン粉末をまぶすような状態にして貯蔵中などにおいて粒子同志が粘結して凝集しブロッキングするのを防止するためである。
【0079】
抗粘結剤としては、公知の不活性な無機または有機粉末、例えば、炭酸カルシウム、タルク、クレー、ドロマイト、無水珪酸、ホワイトカーボン、アルミナホワイト等を使用することができる。これらの中でも、無水珪酸、炭酸カルシウム、クレー等が好ましい。抗粘結剤の使用量は、得られる再乳化性エマルジョン粉末に対して、2〜30重量%程度であることが好ましく、より好ましくは、5〜20重量%、特に好ましくは8〜15重量%である。
【0080】
かくして本発明の再乳化性エマルジョン粉末が得られるわけであるが、各種用途への使用に際しては、基本的に水に再乳化させて元の合成樹脂エマルジョン状態に戻してから使用される。
【0081】
〔木工用接着剤組成物〕
本発明の合成樹脂エマルジョン、再乳化性エマルジョン粉末、更には再乳化性エマルジョン粉末を再乳化して得られる合成樹脂エマルジョンは、木工用接着剤として有用であり、割裂強度評価において良好な接着性、ならびに高材破率を発現することができる。なお、本発明の合成樹脂エマルジョン、再乳化性エマルジョン粉末、更には再乳化性エマルジョン粉末を再乳化して得られる合成樹脂エマルジョンは、木工用接着剤としてのみならず、各種セメントや石膏等の水硬性材料への添加剤、粉末塗料、無機仕上げ剤、などの各種用途にも用いることができる。
【0082】
更に本発明では、本発明の合成樹脂エマルジョン、再乳化性エマルジョン粉末、更には再乳化性エマルジョン粉末を再乳化して得られる合成樹脂エマルジョンに、架橋剤やフィラーを配合して木工用の接着剤組成物として使用することができる。
【0083】
架橋剤としては、例えばイソシアネート系化合物あるいはそのプレポリマーやエポキシ系化合物あるいはそのプレポリマーが好適に用いられる。架橋剤の使用量は、合成樹脂エマルジョン中の合成樹脂(A)に対して1〜40重量%であることが好ましく、より好ましくは5〜25重量%である。架橋剤が少なすぎると、架橋効果が少なく期待する接着強度などが得難くなる傾向があり、多すぎると、該接着剤の可使時間が極端に短くなり作業性に支障を来たす傾向がある。
【0084】
フィラーとしては、一般的に微粒子タイプの炭酸カルシウム、タルク、ドロマイトなどが単独で、または用途、目的に応じて混合して使用される。
【0085】
かくして本発明の合成樹脂エマルジョン、再乳化性エマルジョン粉末、更には再乳化性エマルジョン粉末を再乳化して得られる合成樹脂エマルジョンは、木工用接着剤組成物に適用した際に、割裂強度評価において良好な接着性、ならびに高材破率を発現することができるとともに、皮膜を形成したときに、得られた皮膜の耐水性、耐温水性、耐煮沸性、強靭性及び長期の耐久性に優れた効果を有するものであり、特に、木工用接着剤組成物に有用である。
【実施例】
【0086】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。なお、例中「部」、「%」とあるのは、重量基準を意味する。
【0087】
側鎖に1,2−ジオール結合を有するポリビニルアルコール系樹脂(B)として、以下のものを用意した。
・PVA系樹脂(B−1)
平均ケン化度99.1モル%、平均重合度300、側鎖の1,2−ジオール結合の含有量8モル%であるPVA系樹脂
【0088】
また、側鎖に1,2−ジオール結合を有さないポリビニルアルコール系樹脂(B’)として、以下のものを用意した
・PVA系樹脂(B’−1)
平均重合度300、平均ケン化度88モル%のPVA系樹脂
【0089】
[実施例1]
攪拌機と還流冷却器とを備えた2Lサイズのステンレス製反応缶に、870部の水と、保護コロイドとしてPVA系樹脂(B−1)(平均ケン化度99.1モル%、平均重合度300、側鎖の1,2−ジオール結合の含有量8モル%/日本合成化学工業株式会社製)60部を仕込み、反応缶を85℃に加熱して、該PVA系樹脂(B−1)を水に溶解させた。次に、この反応缶の温度を80℃に保ち、ここに、予め混合しておいた混合モノマー(n−ブチルアクリレート(BA)600部/スチレン214部/2−ヒドロキシエチルメタクリレート(2HEMA)22.5部=71.7/25.6/2.7(重量比))の60部を添加し、重合開始剤として過硫酸アンモニウム1.8gを水30gに溶解した過硫酸アンモニウム水溶液の30%を加えて、初期重合反応を1時間行った。次いで、残りの混合モノマーと重合開始剤として前記過硫酸アンモニウム水溶液の60%を反応缶に4時間に渡って滴下して重合を進行させた。滴下終了後に前記過硫酸アンモニウム水溶液の10%を加え、同温度で1時間熟成させ、不揮発分50%の合成樹脂エマルジョン(合成樹脂エマルジョン1)を得た。
【0090】
このモノマー組成(BA/スチレン/2HEMA=71.7/25.6/2.7(重量比))からなる合成樹脂の計算上のガラス転移温度(Tg)は、それぞれのホモポリマーのTgを−52℃、+100℃、+55℃とした場合、−24℃である。
【0091】
[実施例2]
混合モノマーの種類と組成比をBA/スチレン/2HEMA=80.1/17.2/2.7(重量比)に変更した以外は、実施例1と同様にして、合成樹脂エマルジョン2を製造した。
【0092】
このモノマー組成(BA/スチレン/2HEMA=80.1/17.2/2.7(重量比))からなる合成樹脂の計算上のガラス転移温度(Tg)は、それぞれのホモポリマーのTgを−52℃、+100℃、+55℃とした場合、−34℃である。
【0093】
[実施例3]
混合モノマーの種類と組成比をBA/スチレン/2HEMA=90.8/6.5/2.7(重量比)に変更した以外は、実施例1と同様にして、合成樹脂エマルジョン3を製造した。
【0094】
このモノマー組成(BA/スチレン/2HEMA=90.8/6.5/2.7(重量比))からなる合成樹脂の計算上のガラス転移温度(Tg)は、それぞれのホモポリマーのTgを−52℃、+100℃、+55℃とした場合、−44℃である。
【0095】
[比較例1]
混合モノマーの種類と組成比をBA/スチレン/2HEMA=55.7/41.6/2.7(重量比)に変更した以外は、実施例1と同様にして、合成樹脂エマルジョン4を製造した。
【0096】
このモノマー組成(BA/スチレン/2HEMA=55.7/41.6/2.7(重量比))からなる合成樹脂の計算上のガラス転移温度(Tg)は、それぞれのホモポリマーのTgを−52℃、+100℃、+55℃とした場合、−4℃である。
【0097】
[比較例2]
混合モノマーの種類と組成比をBA/スチレン/2HEMA=63.2/34.1/2.7(重量比)に変更した以外は、実施例1と同様にして、合成樹脂エマルジョン5を製造した。
【0098】
このモノマー組成(BA/スチレン/2HEMA=63.2/34.1/2.7(重量比))からなる合成樹脂の計算上のガラス転移温度(Tg)は、それぞれのホモポリマーのTgを−52℃、+100℃、+55℃とした場合、−14℃である。
【0099】
[比較例3]
PVA系樹脂(B−1)に代えて、PVA系樹脂(B’−1)を使用した以外は、実施例1と同様にして、合成樹脂エマルジョン6を製造した。
【0100】
上記の実施例1〜3および比較例1〜3の合成樹脂エマルジョン1〜6を用いて、各合成樹脂エマルジョン200部に対し、予め調合しておいた平均重合度1400、ケン化度88モル%の部分ケン化PVAを8部、フィラーとして炭酸カルシウムを45部、そしてヒドロキシエチルセルロースを2.5部の3成分をそれぞれ添加してよく攪拌し、更に水を27部加えて、粘度を5〜6万に調整した後、架橋剤(ポリジメチルジフェニルジイソシアネート/日本ポリウレタン工業株式会社製)を15部添加し、十分に撹拌することにより、実施例1〜3および比較例1〜3の木工用接着剤組成物を得た。
【0101】
<割裂強度評価試験>
得られた木工用接着剤組成物について、試験片として木材板を用いて割裂接着強さをJIS K 6853:1994〔接着剤の割裂接着強さ試験方法〕に従って測定した。
【0102】
具体的な試験方法は次の通りである。
JIS K 6848−4:1999にて規定されている「カバのまさ目」板を使用し、接着剤組成物を接着面に200g/m2の割合で塗り、板同士を貼り合わせてから0.8MPaの荷重で10分後に圧縮し、そのまま23℃で24時間保持した。除圧後、48時間経過してから測定に供した。
【0103】
試験片を試験片取付け具によって試験機に装着し、荷重を掛けて試験を行い、試験片の破壊するときの最大荷重を接着強度(N/25mm)として記録した。このときの破壊状態を調べ、破壊した面積の接着面積に対する割合を読み取り、材破率(%)とした。評価結果は表1に示されるとおりであった。
【0104】
【表1】

【0105】
表1に示すように、合成樹脂エマルジョンにおける合成樹脂のガラス転移温度(Tg)が−20℃以下である実施例1〜3の木工用接着剤組成物では、ガラス転移温度(Tg)が−20℃よりも高い比較例1,2の木工用接着剤組成物よりも、接着強度が高く、材破率も高い。また、合成樹脂エマルジョンにおけるPVA系樹脂が側鎖に1,2−ジオール結合を有するPVA系樹脂ではない比較例3の木工用接着剤組成物は、合成樹脂のガラス転移温度(Tg)が−20℃以下であっても、実施例1〜3よりも接着強度が低く、材破率も低い。したがって、本発明による効果の有利性が表1からも明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明の合成樹脂エマルジョン、再乳化性エマルジョン粉末、更には再乳化性エマルジョン粉末を再乳化して得られる合成樹脂エマルジョンは、木工用接着剤組成物に適用した際に、割裂強度評価において良好な接着性、ならびに高材破率を発現することができる。また、得られた皮膜の耐水性、耐温水性、耐煮沸性、強靭性及び長期の耐久性に優れた効果を有するものであり、特に、木工用などの接着剤、無機仕上げ剤、塗料、セメント・石膏などの水硬性材料用混和剤などの各種用途に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂(A)が、側鎖に1,2−ジオール結合を有するポリビニルアルコール系樹脂(B)で分散安定化された合成樹脂エマルジョンであって、合成樹脂(A)のガラス転移温度が−20℃以下であることを特徴とする合成樹脂エマルジョン。
【請求項2】
側鎖に1,2−ジオール結合を有するポリビニルアルコール系樹脂(B)の1,2−ジオール結合量が1〜15モル%、平均ケン化度が85モル%以上、平均重合度50〜3000であることを特徴とする請求項1記載の合成樹脂エマルジョン
【請求項3】
請求項1または2記載の合成樹脂エマルジョンの乾燥物であることを特徴とする再乳化性エマルジョン粉末。
【請求項4】
請求項3記載の再乳化性エマルジョン粉末を再乳化して得られることを特徴とする合成樹脂エマルジョン。
【請求項5】
木工用接着剤に用いることを特徴とする請求項1、2または4記載の合成樹脂エマルジョン。
【請求項6】
請求項1、2、4および5いずれか記載の合成樹脂エマルジョン、または請求項3記載の再乳化性エマルジョン粉末を含むことを特徴とする木工用接着剤組成物。
【請求項7】
架橋剤をさらに含有することを特徴とする請求項6記載の木工用接着剤組成物。

【公開番号】特開2012−126867(P2012−126867A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−282024(P2010−282024)
【出願日】平成22年12月17日(2010.12.17)
【出願人】(000004101)日本合成化学工業株式会社 (572)
【Fターム(参考)】