説明

合成樹脂製容器及び容器成形用積層シート

【課題】特開2008−155385号公報が提供している一部生分解性を持ったガスバリヤ性積層シートが、衝撃によって割れ易く、切断時に亀裂を生じ易いという隠れた欠点のあることが判明したので、この欠点を改良する。
【解決手段】上記積層シートに用いられているポリ乳酸系樹脂の代わりに、1〜6モル%の乳酸と、47〜49.5モル%の範囲内で等モルのコハク酸と1,4−ブタンジオールとを重縮合させて得られた三元共重合体を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、合成樹脂製容器及び容器成形用シートに関するものである。とくに、この発明はガスバリヤ性と部分的な生分解性とを持った合成樹脂製容器に関するものであり、またそのような容器を作るための合成樹脂製シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
食品などの変質し易い物品を永く貯蔵するには、水分や空気とくに酸素を透過しない容器に入れて密封しておくことが必要とされる。そのような容器としては金属缶やガラス壜が適している。
ところが金属缶は錆び易い上に、中に入れた物品を外から見ることができない、という欠点を持っている。他方、ガラス壜は、中に入れた物品を外から見ることができるが、割れ易いという欠点を持っている。その上に、両者とも重量が大きく、容器としての形を全く変えることができないという欠点を持ち、収納、運搬に不便である。
【0003】
他方、合成樹脂は一般に軽くて透明で、形を自在に変えることができるので、物品を入れる容器として広く利用されている。ところが、合成樹脂は金属やガラスと違って、ガスの透過を本質的に絶無にすることができないものである。そのため、合成樹脂製容器は本来、変質し易い物品を永い期間にわたって貯蔵するには適していない。
しかし、合成樹脂の中には色々な特性を持ったものがあり、或るものは酸素バリヤ性を持っていて、酸素ガスを殆ど通さないフィルムを提供し、また別の或るものは湿気バリヤ性を持っていて、水分を殆ど通さないフィルムを提供する。そこで、これらの特性を持ったフィルムを貼り合わせて、酸素と湿気とを殆ど通さない積層シートを作り、これを容器の形に成形して物品を或る程度の期間、貯蔵できる容器とすることが行われている。
【0004】
一般に、ガスバリヤ性の合成樹脂としては、エチレンと酢酸ビニルとの共重合体を加水分解して作られたエチレンとビニルアルコールとの共重合体(以下、これをEVOHという)か、又はメタキシリレンジアミンとアジピン酸とを重縮合させて得られたポリアミド樹脂(以下、これをMX樹脂という)が用いられた。また、湿気バリヤ性の合成樹脂としては、ポリオレフィン、芳香族ポリエステル、ポリカーボネイトなどのように、一般に容器又は包装用フィルムとして使用されて来た樹脂が用いられた。また、これらの樹脂で作られたフィルムを貼り合わせるには、オレフィンと不飽和カルボン酸、とくにマレイン酸との共重合体が用いられた。
【0005】
こうして作られた積層シートを材料とし、これを成形して作られた容器は、変質し易い物品をその物品に適した期間だけ貯蔵できるようにすることができる。従ってこの容器は物品貯蔵の点では格別改良を必要としていない。ところが、近時、地球温暖化や環境汚染の防止が喫緊の要事とされるに至って、容器を改良しなければならない新たな問題を生じた。その問題とは、上記容器が耐候性の良好なために、使用ずみの容器を放置すると、容器がいつまでも原形を保って残るのでごみとなって堆積し、環境を汚染するということである。
【0006】
これを解決する一つの方法は、使用ずみの容器を焼却することである。ところが焼却には大掛りな設備が必要とされるため、実施が容易でない上に、焼却時には一時に大量の二酸化炭素が発生するので、地球温暖化を加速することとなる。とりわけ、石油由来の合成樹脂を焼却すると、これまで地下にあった炭素から二酸化炭素を生成して大気中に放出することとなるので、地球温暖化を一層加速することとなる。そればかりでなく、時にはダイオキシンのような有害物質を発生し、人畜に一層大きな弊害をもたらすことになる。
【0007】
上記の点を改良するもう一つの方法は、植物由来の樹脂を使用し、積層シートに生分解性を付与することである。植物由来の樹脂を使用すれば、植物由来の樹脂はもともと大気中に存在していた二酸化炭素から生成されたものであるから、焼却しても大気中に二酸化炭素を戻すだけでとくに増加させることにならない。従って、地球温暖化をとくに加速しない。
生分解性の合成樹脂としては色々なものが知られている。例えばポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリβ−ヒドロキシ酪酸、ポリブチレンサクシネート系樹脂などが知られている。このうち、ポリブチレンサクシネート系樹脂は、特開2006−206670号公報のほか多くの公報に記載されていて生分解性の樹脂として注目されている。ところが、生分解は合成樹脂のフィルム中に酸素ガス又は水が滲み込んで始めて起こる現象であると考えられるため、生分解性とバリヤ性とは互いに矛盾する性質であると考えられる。従って、バリヤ性シートに生分解性を与えようとする試みは余りなされていない。
【0008】
ただ特開2008−155385号公報は、ガスバリヤ性の積層シートにおいて、その中の一部のフィルムに生分解性を付与する試みを開示している。その積層シートは、MX樹脂フィルム(A)又はEVOHフィルム(B)の両面に、不飽和カルボン酸とα−オレフィン又は環状オレフィンとの共重合体フィルム(C)を介在させ、その上にポリ乳酸フィルム(D)を貼り合わせて作られている。この積層シートを成形して容器とすれば、得られた容器は使用後に放置されると、ポリ乳酸フィルム(D)が自然分解して最終的には二酸化炭素と水とになる。従って、残るのは共重合体フィルム(C)とMX樹脂フィルム(A)又はEVOHフィルム(B)だけであるが、そのうち共重合体フィルム(C)は厚みが薄いので問題とならない。その結果、害となるのはMX樹脂フィルム(A)又はEVOHフィルム(B)だけであり、フィルム(A)も(B)も何れも厚みを小さくすることができるので、この容器は大きく環境を汚染しない。
【0009】
ところが、この発明者は上記の積層シートには隠れた欠点のあることに気付いた。その欠点とは、上記積層シートが衝撃を受けると割れ易く、また上記積層シートを容器の形に成形してのち、トリミングのために容器の周縁を刃物で切断しようとすると切断部に亀裂を生じ、さらに得られた容器が衝撃を受けると割れ易い、ということである。そこで、この発明者は上記積層シートはさらに改良する必要のあることを見出した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2006−206670号公報
【特許文献2】特開2008−155385号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
この発明は、特開2008−155385号公報が開示している積層シートにおいて、衝撃を受けると割れ易く、切断時に亀裂を生じ易いという欠点を改良しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明者は、上記課題解決のために、ポリ乳酸系樹脂に代わる樹脂を模索した。具体的には、ポリ乳酸系樹脂の中から特殊グレードのものを選んで積層シートを作ったり、他の脂肪族ポリエステル樹脂を用いて積層シートを作ったりして、得られた積層シートを容器に成形し、得られた容器の物性を測定する、という試行錯誤を繰り返した。
【0013】
その結果、ポリ乳酸系樹脂の代わりに、ポリブチレンサクシネート系の樹脂を用いて、この樹脂のフィルムを作り、このフィルムをMX樹脂フィルム又はEVOHフィルムと貼り合わせると、得られた積層フィルムは衝撃を受けても割れにくくなり、また切断時に亀裂を生じ難いものとなることが判明した。ポリブチレンサクシネート系の樹脂は前述のように、生分解性樹脂として公知のものであるが、この樹脂をポリ乳酸系樹脂の代わりに用いるだけで、この発明者が課題とする事項が解決できたことは全く意外なことである。
【0014】
この発明者は、さらに実験を繰り返した結果、ポリブチレンサクシネート系樹脂の中でも乳酸が1〜6モル%と、1,4−ブタンジオールとコハク酸とが互いに等モルで且つ47〜49.5モル%の割合で共重合している三元共重合体をとくに選んで用いると、この共重合体製フィルムをバリヤ性樹脂フィルムと貼り合わせた積層フィルムは、切断時の亀裂発生も衝撃による割れもなく、さらに適度の柔軟性を持った強靭なシートとなることを見出した。
【0015】
従って、この発明はMX樹脂フィルム(A)、又はEVOHフィルム(B)の両面に不飽和カルボン酸とα−オレフィン又は環状オレフィンとの共重合体フィルム(C)を介在させ、その上に乳酸が1〜6モル%と、1,4−ブタンジオールとコハク酸とが互いに等モルで且つ47〜49.5モル%の割合で共重合している三元共重合体フィルム(D)を貼り合わせてなる容器成形用積層シート(E)を提供するものである。
さらに、この発明者は上記積層シート(E)において、三元共重合体フィルム中に澱粉粉末を含ませると、得られた積層シート(F)は、バリヤ性が澱粉を含まない積層シート(E)と余り変わらないで、放置時の生分解性が一層加速されることを見出した。
【0016】
従って、この発明はMX樹脂フィルム(A)又はEVOHフィルム(B)の両面に、不飽和カルボン酸とα−オレフィン又は環状オレフィンとの共重合体フィルム(C)を介在させ、その上に乳酸が1〜6モル%と、1,4−ブタンジオールとコハク酸とが互いに等モルで且つ47〜49.5モル%の割合で共重合している三元共重合体に、さらに澱粉粉末を加えてなる三元共重合体(以下、この共重合体を三元共重合体という)フィルムを貼り合わせてなる、容器成形用積層シート(F)を提供するものである。
また、この発明は上記積層シートを真空成形法など公知の成形法によって容器状に成形して作られた容器を提供するものである。
【発明の効果】
【0017】
この発明に係る積層シート(E)は特開2008−155385号公報が記載する積層シートに比べると、シート全体が柔軟でありながら形状保持性が良好であって、刃物で切断したときに切断部に亀裂を生じることがない。また、この積層シート(E)は、これに衝撃を加えても容易に割れない。また、積層シート(E)において、三元共重合体に澱粉粉末を加えて作られた積層シート(F)も、同様に柔軟であって形状保持性が良く、刃物で切断したとき切断部に亀裂を生じないし、衝撃を加えても容易に割れない。
【0018】
また、この発明に係る積層シート(E)も(F)も、何れもすべて熱可塑性樹脂で作られているから、加熱によって容易に軟化し、軟化した状態では大きく引き延ばすことができるものであるから、底の深い容器の形にも容易に成形することができる。従って、積層シート(E)も(F)も何れも容器成形用シートとして最適で実用上の価値が高い。
この発明に係る積層シート(E)又は(F)を容器状に成形して得られた容器は内面も外面も無害の樹脂で作られているから、食品を入れるに好適である。
【0019】
また、この容器は中間にMX樹脂フィルム又はEVOHフィルムを含んでいるので、バリヤ性とくに酸素バリヤ性を持っており、従って、食品を腐敗変質させることなく或る期間貯蔵することができる。とくに、この容器は表面が三元共重合体で作られているので、この発明に係る積層シート製の蓋を用いると、上述の共重合体フィルム(C)により容器を容易に密封することができる。
【0020】
さらに、この容器は、表面と裏面とが三元共重合体フィルムによって作られているので、このフィルム層を厚くすることにより適度の柔軟性と強靭性とを持ち、従って形状を無理に変えることもできるが、また反面、形状安定性がよくて自然にあらぬ形に変形しない。このため、この容器は運搬時に相互間の隙間を最少にして詰め込むことができるので実用上の価値が大きい。
【0021】
その上に、この発明に係る容器は環境にやさしいという特徴を持っている。それは、この容器が環境を大きく汚染しないからである。すなわち、この容器は使用後に廃棄すると、表面と裏面とを構成している三元共重合体フィルムが日光、風雨、細菌などによって容易に分解されるからであって、分解されないであとに残るのは主としてMX樹脂フィルム(A)又はEVOHフィルム(B)だけだからである。とくに、澱粉粉末を含んだ積層シート(F)で作られた容器は、澱粉粉末を含まない積層シート(E)で作られた容器よりも容易に生分解するので、使用後に放置すると短期間のうちに分解するため環境の汚染が少ない。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】この発明に係る積層シートの構成を示す説明図である。
【図2】この発明に係る積層シートの共押出法による製造過程を示す説明図である。
【図3】この発明に係る食品貯蔵用容器の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
この発明に係る積層シートは、図1に示したように、5層のフィルムを貼り合わせて一体としたものである。すなわち、真中に中間フィルム1を位置させ、その両側に接着樹脂フィルム2を位置させ、その上に表面及び裏面フィルム3を位置させ、貼り合わせて一体としたものである。中間フィルム1はMX樹脂又はEVOHで作られており、接着樹脂フィルムは不飽和カルボン酸とオレフィンとの共重合体で作られており、表面及び裏面フィルムは三元共重合体で作られている。
【0024】
積層シートは約50〜2000ミクロンの全体厚みTを持つことが好ましい。そのうち、中間フィルム1は全体厚みTの約4〜14%を占め、各接着樹脂フィルム2は互いに等しい厚みを持ち、各厚みは全体厚みTの約1〜8%を占めるようにする。また表面及び裏面フィルム3は、互いに異なった厚みを持っていてもよいが、通常は互いに等しい厚みを持つようにするのが好ましく、その各厚みは全体厚みTの約35〜45%を占めるようにする。
【0025】
この発明で用いられるMX樹脂は、メタキシリレンジアミンとアジピン酸とを重縮合反応させることによって得られた樹脂である。この樹脂は、化学式
【化1】

で表わされる結晶性の熱可塑性樹脂である。従来のポリアミド樹脂は、主として脂肪族の炭素鎖を含むものであったが、MX樹脂は主鎖中に芳香族環を含んでいる、という点で特異なものである。MX樹脂は、例えば三菱ガス化学(株)から、MXナイロン 6007の名称で市販されている。この発明では、この市販品をそのまま用いることができる。
【0026】
この発明で用いられるEVOH樹脂は、エチレンとビニルアルコールとの共重合樹脂である。この共重合樹脂はエチレンと酢酸ビニルとを共重合させて、まずエチレン・酢酸ビニル共重合体を作り、次いでこの共重合体中の酢酸ビニルを加水分解して作られる。従って、この樹脂は共重合の割合と加水分解の割合によって色々なグレードのものが得られる。この発明ではエチレンが10〜30重量%を占め、残りの酢酸ビニル90〜70重量%の大部分が加水分解されてビニルアルコールとなっているものを用いるのが好ましい。このようなEVOHは例えば日本合成化学工業(株)からソアノール DT−2903という商品名で、また(株)クラレからエバール F−101という商品名で販売されている。この発明ではこれら市販のものを使用することができる。
【0027】
この発明で用いられる接着樹脂は、不飽和カルボン酸とα−オレフィン又は環状オレフィンとの共重合体である。その共重合体は50〜30重量%の不飽和カルボン酸と、10〜30重量%のエチレンとブテンとの共重合体と、40重量%以下のその他のα−オレフィン又はその他のオレフィンと酢酸ビニルとの共重合体を含んでいることが好ましい。
【0028】
上述のような接着樹脂は、例えば三菱化学(株)からモディック F534Aという商品名で販売され、また三井化学(株)からアドマー SF730の名称で販売されている。この発明ではこれらの市販品を使用することができる。
【0029】
この発明で用いられる三元共重合体は、モル分率で乳酸が1〜6モル%を占め、残りの99〜94モル%を等モルのコハク酸と1,4−ブタンジオールが占めている組成のものである。三元共重合体の中にも、その組成に応じて色々な物性のものがあるが、中でも融点が85〜115℃、ガラス転移温度が−20℃以下のものが好ましい。また引張破断伸度が5〜1000%、曲げ弾性率が300〜2000MPaのものが好ましい。また数平均分子量としては1万〜20万のものが好ましい。このような要件に適合する樹脂は、例えば三菱化学(株)からGS Plaの商品名で販売されているものの中から選ぶことができる。また、三元共重合体としては、乳酸、コハク酸及び1,4−ブタンジオールが何れも植物の生成するものを原料として合成されたものを用いることが好ましい。
【0030】
この発明で用いることのできる澱粉には色々のものが含まれる。例えばトウモロコシ、小麦、米、馬鈴薯、甘藷、タピオカ等の澱粉を粉末にしたものを用いることができる。その澱粉の粒径は、実質的に2〜40μmの範囲内にあるものが好ましい。澱粉粉末としては天然の澱粉だけでなく、加工澱粉又は改質澱粉を用いることができる。加工澱粉又は改質澱粉としては、スターチ、酸化澱粉、ヒドロキシプロピル澱粉などを用いることができる。
【0031】
この発明では、澱粉粉末が三元共重合体に対し重量で4倍以下の割合で用いることが好ましい。すなわち、三元共重合体と澱粉粉末との全体を100重量部としたとき、三元共重合体を20重量部以上とし澱粉粉末を80重量部以下となるような割合で用いる。このような割合にする理由は、澱粉が80重量部を超えると、得られた混合物から作られたシートを真空成形することが困難となるからである。その割合の中でも前者30〜70重量部と後者70〜30重量部の割合で、とりわけ前者40〜60重量部と後者60〜40重量部の割合で混合することが好ましい。
この混合物には約5重量%の金属石鹸、例えばステアリン酸マグネシウムを加えて混練を容易にしたり、また、この混合物にさらに接着性樹脂、例えば無水マレイン酸とオレフィンとの共重合体樹脂を加えて、三元共重合体と澱粉粉末との結合を強固にし、さらに接着樹脂フィルムとの接着力を高めることができる。
【0032】
三元共重合体と澱粉粉末との混合物は、これを一様な組成にするために、予め押出機に入れて130〜150℃に加熱して溶融し、溶融物を紐状に押し出し、これを切断して一旦ペレットとしておくことが好ましい。三元共重合体は澱粉粉末と混合してペレットにすることが他の樹脂に比べてとくに容易である。すなわち、他の樹脂では澱粉量が樹脂量を超えると、ペレットにすることが困難となるが、三元共重合体を用いた場合には、澱粉の量が樹脂量を超えても容易に一様な組成物にすることができる。積層シートとするには、こうしてペレットにしたものを再び押出機に入れてフィルムにすることが好ましい。
【0033】
この発明に係る積層シートを作るには、中間フィルム1、接着樹脂フィルム2及び表面フィルム3を別々に押出機又はカレンダーロールにより作っておいて、あとでこれらのフィルムを貼り合わせてもよいが、好ましいのは共押出法によって作ることである。共押出法とは、図2に模型的に示したように、3個の押出機を用いてそれぞれの押出機から押し出される樹脂を1つの口金に導入して、その口金内でフィルム状に成形するとともにそのフィルムを貼り合わせて一挙に積層シートにする方法である。
【0034】
図2では、第1押出機にEVOH又はMX樹脂を入れて、これから押し出される樹脂を口金10に導いて1枚のフィルム状に成形してこれを中間フィルム11とする。同時に第2押出機に接着樹脂を入れて、これから押し出される樹脂を口金10に導いて、中間フィルム11の両側で中間フィルムと平行に延びる2枚のフィルムに成形して、これを接着樹脂フィルムとする。各接着フィルムは口金10の中で中間フィルムと合流して積層される。また、第3押出機に澱粉粉末含有の三元共重合体を入れて、これから押し出される樹脂を口金10に導いて、接着樹脂フィルムの外側で接着樹脂フィルムと平行に延びるそれぞれ1枚のフィルムに成形して、各フィルムを口金10の中で接着樹脂フィルムと合流させて積層する。こうして、1つの口金から各フィルムが積層された状態として取り出し、一挙に積層シート20を作ることができる。
【0035】
この発明では積層したあとのものをシートと呼び、積層される前のものをフィルムと呼んでいるが、それはフィルムの厚みを意識してそのように表現したのではない。或る書物によると、厚みが0.10mm以下のものをフィルムと呼び、それ以上のものをシートと呼ぶと区別しているようであるが、この発明ではそのような区別をしていない。フィルムと呼ぶ中に厚み0.10mm以上のものが含まれていてもよく、逆にシートと呼ぶ中に0.10mm以下のものが含まれてもよい。
【実施例】
【0036】
次に実施例と比較例とを挙げて、この発明のすぐれている所以を以下に説明する。
実施例1
この実施例では、三元共重合体として数平均分子量が約15,000で、組成が乳酸3モル%、コハク酸が48.5モル%、1,4−ブタンジオールが48.5モル%の共重合体を用いた。また、中間フィルムにはEVOH樹脂を用い、エチレンの共重合比率が32モル%の割合で共重合し、数平均分子量が30,000のものを用いた。また、接着フィルムとしては、マレイン酸とエチレンとの共重合体(三菱化学(株)社からモディックF534Aの商品名で販売されているもの)を用いた。
【0037】
図2に示したような共押出法によって、50ミクロンの厚みの中間フィルムを真中にし、その両面に10ミクロンの厚みの接着フィルムを介して、215ミクロンの厚みの三元共重合体フィルムが貼り合わされている積層シートを作った。この積層シートは全体の厚みが500ミクロンであった。
【0038】
この積層シートを真空成形法によって、図3に示したような容器状に成形した。この容器は縦W30mm、横D60mm、深さH10mmの窪みが4個連設された形状のものである。各窪みの間に位置する積層シートを刃物で切断したところ、切断部には亀裂が全く生じなかった。また、この容器上に重さ100gの重錘を高さ0.66mから落下させても割れなかった。また、切り離した各窪みは適度の柔軟性を持っているために、或る程度の力を加えると容易に変形し、変形しても亀裂を生じないし、また力を除くとすぐに元の形に戻った。従って、この容器は形状安定性のよいものであった。
【0039】
この容器にジャムを入れて、同じ積層シートで作った蓋を上記の接着フィルムによって容器の開口に貼り付け、密封した。この容器を相対湿度60%、温度40℃の雰囲気中に120時間放置して、容器の外観変化とジャムの変質とを調べた。外観も変質も全く認められなかった。
【0040】
また、この容器をウエザオメーターに入れて容器の耐候性を調べた。耐候性の検査は、ウエザオメーターの光源としてカーボンアークランプを用い、紫外線を発生させて照射し、照射の間120分ごとに18分間の割合で水を容器にふりかけるようにし、ブラックパネル温度63℃の状態で160時間テストした。その結果、三元共重合体フィルムは表面側も裏面側も何れも分離して粉末化した。また、接着樹脂フィルムも劣化し、中間フィルムが僅かに原形をとどめるのみとなった。従って、この容器は満足な生分解性を持つと認められ、環境にやさしいものと認められた。
【0041】
実施例2
この実施例では、三元共重合体として、数平均分子量が約15,000で、組成が乳酸3モル%、コハク酸が48.5モル%、1,4−ブタンジオールが48.5モル%の共重合体を用いた。澱粉としては平均粒径が17μmのタピオカ澱粉を用いた。
上記の三元共重合体70重量部と上記澱粉30重量部との混合物を作った。この混合物を二軸押出機に入れて、シリンダー温度を140〜150℃に保ち、口金温度を160℃に維持して紐状に押し出し、冷却し、切断してペレットとした。このペレット化は容易であった。
【0042】
中間フィルムにはEVOHを用いた。具体的にはEVOHとしては(株)クラレからエバールF101Aの商品名で販売されているものを用いた。このEVOHはエチレン共重合比率が32モル%の共重合体である。
接着フィルムとしては、三菱化学(株)からモディックF534の商品名で販売されている樹脂を用いた。この樹脂はマレイン酸とエチレンの共重合体である。
【0043】
図2に示した共押出法によって、これらの樹脂から一挙に積層シートを作った。得られた積層シート内では中間フィルムの厚みを50ミクロンとし、接着樹脂フィルムの厚みを10ミクロンとし表面及び裏面フィルムの厚みを互いに等しく何れも215ミクロンとした。
得られた積層シートは澱粉を含んでいるために不透明であり、全体の厚みが500ミクロンであった。積層シート内では各フィルムが強固に接着して一体となっていて、剥がれるようなことはなかった。また、この積層シートは適度の柔軟性と形状安定性とを持っていた。
【0044】
この積層シートを真空成形によって図3に示したような容器状に成形した。図3の容器は4個の縦W30mm、横D60mm、深さH10mmの窪みを持っており、各窪みを1つの容器として使用するために、各窪みの周縁を刃物で切断した。切断は容易であって、切断部には亀裂の入るようなことは全くなかった。こうして得られた容器は、この上に100gの重錘を高さ0.66mから落下させても割れなかった。また、この容器は適度の柔軟性を持っているために或る程度の力を加えると容易に変形し、また力を除くとすぐに元の形に戻るので、形状安定性のよいものであった。
【0045】
この容器にジャムを入れて密封し、相対湿度60%、温度40℃の雰囲気中に120時間放置して、容器の外観とジャムの変質を調べた。外観とジャムの味には全く変化が認められなかった。
【0046】
また、この容器をウエザオメーターに入れて、以下記載の条件下に容器の耐候性を調べた。ウエザオメーターでは光源としてカーボンアークランプを用いて紫外線を照射し、照射時間120分中に18分間の割合で水を容器にふりかけるようにし、ブラックパネル温度63℃の状態で120時間放置した。その結果、三元共重合体フィルムは表面側も裏面側も何れも分解して粉末化し、また接着樹脂フィルムも劣化し、中間フィルムが僅かに原形をとどめるのみとなった。従って、この容器は満足な生分解性を持つと認められ、環境にやさしいものであると認められた。
【0047】
実施例3
実施例3は、実施例2における中間フィルムの樹脂を変えただけで、それ以外は実施例2と全く同様に実施した。すなわち、実施例2では中間フィルムとしてEVOHを用いたが、実施例3ではその代わりにMX樹脂、具体的には三菱ガス化学(株)製のMXナイロン6007を用いた。中間フィルムの厚みは50ミクロンとした。
【0048】
積層シートは実施例1と同様に、共押出法によって作り、全体の厚みを500ミクロンにした。得られた積層シートは澱粉粉末を含んでいるために不透明であったが、各フィルムが強固に接着して一体となっており、適度の柔軟性と形状安定性とを持っていた。
【0049】
この積層シートを実施例1と同様に真空成形によって、図3に示したような容器にした。また、実施例2と同様に容器の周囲を刃物によって切断したところ、切断部に亀裂の入ることは全くなく、またこの容器の上に重錘を落下させても容器は割れなかった。また、この容器は適度の柔軟性を持っているために、或る程度の力を加えると容器が変形するが、力を除くとすぐに元の形に戻るので、形状安定性のよいものであった。
【0050】
実施例1と同様に、この容器にジャムを入れて相対湿度60%、温度40℃下に120時間放置したところ、容器の外観に変化はなく、ジャムの変質も認められなかった。
また、実施例1と同様に、この容器の耐候性を調べたところ、120時間放置後に三元共重合体樹脂フィルムは分解して粉末化し、中間フィルムが僅かに原形をとどめる状態となった。従って、この容器は満足な生分解性を持つと認めた。
【0051】
実施例4
実施例4は実施例2において三元共重合体と澱粉粉末との混合割合を変えただけで、それ以外は実施例2と全く同様に実施した。すなわち、実施例2と同じEVOH、接着樹脂、三元共重合体及び澱粉粉末を用い、EVOHからなる中間フィルムの厚みを50ミクロンとし、接着フィルムの厚みを10ミクロンとし、表面及び裏面フィルムの厚みを何れも215ミクロンとしたが、ただ表面及び裏面フィルムの組成を三元共重合体が30重量部で澱粉粉末が70重量部からなるものとした。
【0052】
積層シートは実施例2と同様に共押出法によって作り、全体の厚みを500ミクロンとした。得られた積層シートは澱粉粉末を含んでいるために不透明であったが、各フィルムが強固に接着して一体になっており、適度の柔軟性と形状安定性とを持っていた。
この積層シートを実施例1と同様に真空成形法によって図3に示したような容器にした。この容器の周辺を実施例1と同様に刃物によって切断したところ、切断部に亀裂の入ることは全くなく、また、この容器の上に重錘を落下させても容器は割れなかった。
【0053】
また、この容器は適度な柔軟性を持っているために、或る程度の力を加えると容器が変形するが割れることはなく、力を除くとすぐ元の形に戻るので、形状安定性が良いと認められた。この容器にジャムを入れて相対湿度60%、温度40℃の下に120時間放置したところ、容器の外観に変化なく、ジャムの変質も認められなかった。
【0054】
また、実施例1と同様にこの容器の耐候性を調べたところ、120時間放置すると、澱粉を含んだ三元共重合体フィルムが分解して粉末化し、中間フィルムが僅かに原形をとどめる状態となった。従って、この容器は満足な生分解性を持つものと認められた。
【0055】
比較例1
この比較例は、特開2008−155885号公報記載の発明思想に即して、実施例1に相当する積層シートを作り、その物性を実施例1で得られた積層シートと比較した。
すなわち、この比較例では、実施例1と同じEVOH、接着樹脂を用いたが、表面及び裏面フィルムには三元共重合体フィルムの代わりにポリ乳酸フィルムを用いた。フィルムの厚みは実施例1と同じく、EVOHフィルムの厚みを50ミクロン、接着フィルムの厚みを10ミクロン、ポリ乳酸フィルムの厚みを215ミクロンとした。ポリ乳酸フィルムとしては東レ(株)からエコディアの商品名で販売されているものを用いた。
【0056】
得られた積層シートは実施例1と同じく全体の厚みが500ミクロンであったが、実施例1で得られた積層シートに比べると硬直で、曲げるのに大きな力を要した。また、この積層シートの上に、高さ0.66mのところから100gの重錘を落下させたところ、積層シートには落下点を中心とし、それから放射状に延びる無数の亀裂が生じた。その亀裂の最大長は約60mmに及ぶものであった。また、この積層シートを鋏で切断したところ、切断部のところどころに切断面から直角に延びる小さな亀裂が発生した。
【0057】
これに対し、実施例1と2とで得られた積層シートでは、前述のように、重錘落下による亀裂の生成がなく、また鋏による切断面に亀裂の発生が認められなかった。
【符号の説明】
【0058】
1 中間フィルム
2 接着フィルム
3 表面フィルム
11 中間フィルム層
12 接着フィルム層
13 表面フィルム層
20 積層シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタキシリレンジアミンとアジピン酸とを重縮合させて得られたポリアミド樹脂フィルム(A)、又はエチレンとビニルアルコールとの共重合体フィルム(B)の両面に、不飽和カルボン酸とα−オレフィン又は環状オレフィンとの共重合体からなる接着フィルム(C)を介在させ、その上に1〜6モル%の乳酸と、47〜49.5モル%の範囲内で等モルのコハク酸と1,4−ブタンジオールとを重縮合させて得られた三元共重合体フィルム(D)を貼り合わせて作られたことを特徴とする、容器成形用積層シート。
【請求項2】
上記ポリアミド樹脂フィルム(A)又はエチレンとビニルアルコールとの共重合体フィルム(B)の厚みが積層シート全体の厚みTの4〜14%を占め、上記接着フィルム(C)が厚みTの1〜8%を占め、上記三元共重合体フィルムの厚みがTの35〜45%を占めている、請求項1に記載の容器成形用積層シート。
【請求項3】
上記乳酸、コハク酸、及び1,4−ブタンジオールが何れも植物により生成されたものを原料として合成されたものであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の容器成形用積層シート。
【請求項4】
上記三元共重合体フィルム(D)がさらに澱粉粉末を含み、澱粉粉末が三元共重合体に対し重量で4倍以下の割合で混合されたものであることを特徴とする、請求項1〜3の何れか1つの項に記載の容器成形用積層シート。
【請求項5】
上記澱粉粉末が実質的に2〜40μmの粒径のものであることを特徴とする、請求項4に記載の容器成形用積層シート。
【請求項6】
上記澱粉がタピオカ澱粉粉末であることを特徴とする、請求項4又は5に記載の容器成形用積層シート。
【請求項7】
上記請求項1〜6の何れか1つの項に記載の積層シートを加熱し、軟化させて容器状に成形してなる食品貯蔵用容器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2011−16244(P2011−16244A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−160651(P2009−160651)
【出願日】平成21年7月7日(2009.7.7)
【出願人】(592111894)ヤマトエスロン株式会社 (20)
【Fターム(参考)】