説明

合成非晶質シリカ粉末とその製造方法

【課題】球状の不純物が少ない合成シリカガラス粉末を経済的に製造することができる方法、およびこの方法によって製造した球状の合成シリカガラス粉末を提供する。
【解決手段】合成したシリカ質のゲルをスプレー乾燥して球状化し、この球状乾燥粒子を焼成してガラス化することを特徴とする合成シリカガラス粉末の製造方法であり、好ましくは、球状乾燥粒子を1125℃以上に加熱焼成して、嵩比重1.0以上、比表面積0.1m2/g以下にする製造方法、および上記方法によって製造され、光透過性が焼成前の乾燥粒子より低いことを特徴とする合成シリカガラス粉末。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、球状の不純物が少ない合成シリカガラス粉末を経済的に製造することができる方法と、この方法によって製造した球状の合成シリカガラス粉末に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体用途のシリコン単結晶の製造に用いる石英ガラスルツボは、以前は天然石英粉末を原料として製造されていたが、天然石英は精製しても金属不純物を完全には取除くことができないので、高純度化のため、合成石英粉末が用いられるようになり、近年は、ルツボ外側部分を天然石、ルツボ内周部分を合成石英を原料として製造したルツボが用いられている。合成石英は金属不純物が極めて少ないので、高純度のシリコン単結晶を引上げることができる。
【0003】
この高純度の合成非晶質シリカ粉末を製造する方法としては、高純度の四塩化珪素を水で加水分解させ、生成したシリカゲルを乾燥、整粒、焼成して合成非晶質シリカ粉末を得る方法が知られている(特許文献1など)。また、珪酸エステル等のアルコキシシランを酸とアルカリの存在下で加水分解してゲル化させ、得られたゲルを乾燥、粉砕後、焼成することにより合成非晶質シリカ粉末を得る方法が知られている(特許文献2,3など)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公平4−75848号公報
【特許文献2】特開昭62−176929号公報
【特許文献3】特開平3−275527号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記文献に記載されている従来の合成シリカガラスの製造方法によれば、石英ガラスルツボなどに使用されるガラス粉末を得るには、ゲル化した合成シリカを乾燥後に粉砕する工程が必要であり、粉砕に手間がかかり、しかも形状が不規則であり、球状粒子を得ることができない。さらに、粉砕装置から不純物が混入する懸念があり、粉砕のコストもかかる。
【0006】
本発明は従来の製造方法における上記問題を解決したものであり、シリカ原料をゲル化した後に、粉砕工程を必要とせずに、球状のシリカガラス粉末粒子を経済的に製造する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の構成によって上記課題を解決した合成シリカガラス粉末とその製造方法に関する。
〔1〕合成したシリカ質のゲルをスプレー熱風乾燥して球状化し、この球状乾燥粒子を焼成してガラス化することを特徴とする合成シリカガラス粉末の製造方法。
〔2〕この球状乾燥粒子を1125℃以上に加熱焼成して、嵩比重1.0以上、比表面積0.1m2/g以下にする請求項1に記載する合成シリカガラス粉末の製造方法。
〔3〕請求項1または請求項2の方法によって製造され、光透過性が焼成前の乾燥粒子より低いことを特徴とする合成シリカガラス粉末。
【発明の効果】
【0008】
本発明の製造方法によれば、シリカ原料をゲル化した後に、粉砕工程を必要とせずに、球状の合成シリカガラス粉末粒子を得ることができる。本発明の製造方法は経済的であり、低コストで不純物の少ない高純度のシリカガラス粉末を製造することができる。
【0009】
本発明の方法によって製造したシリカガラス粉末は、スプレー熱風乾燥することによって球状粒子を得ることができ、この粒子は粉砕した粉に比べて格段に球形のものが得られるので、例えば、石英ガラスルツボの原料として好適である。
また、本発明の製造方法に係るシリカガラス粉末はガラス質でありながら、光透過性が焼成前の乾燥粒子より低い特徴を有する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】焼成前の乾燥粒子の顕微鏡写真
【図2】1000℃で焼成した粒子の顕微鏡写真
【図3】1125℃で焼成した粒子の顕微鏡写真
【図4】1200℃で焼成した粒子の顕微鏡写真
【図5】焼成温度と嵩比重の関係を示すグラフ
【図6】焼成温度と光透過範囲の関係を示すグラフ
【図7】焼成温度と比表面積の関係を示すグラフ
【図8】製造した合成シリカガラス粉末の粒度分布を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施形態に基づいて具体的に説明する。
本発明の製造方法は、合成したシリカ質のゲルをスプレー熱風乾燥して球状化し、この球状乾燥粒子を焼成してガラス化することを特徴とする合成シリカガラス粉末の製造方法である。
【0012】
〔シリカ質ゲルの合成工程〕
原料となるシリカ質ゲルは、(イ)四塩化珪素の加水分解、(ロ)テトラメトキシシランの加水分解、(ハ)ヒュームドシリカのゲル化などによって合成することができる。
【0013】
(イ)四塩化珪素の加水分解
四塩化珪素1molに対して、45〜80molに相当する量の超純水を容器内に入れ、窒素、アルゴン等の雰囲気にて、温度を20〜45℃に保持して攪拌しながら、四塩化珪素を容器内の超純水に添加して加水分解させる。四塩化珪素を添加してから0.5〜6時間攪拌を継続し、シリカ質のゲルを生成させる。このとき、攪拌速度は100〜300rpmの範囲にするのが好ましい。
【0014】
(ロ)テトラメトキシシランの加水分解
テトラメトキシシラン1molに対して、超純水0.5〜3mol、エタノール0.5〜3molを容器内に入れ、窒素、アルゴン等の雰囲気にて、温度を60℃に保持して攪拌しながら、テトラメキシシランを容器内の超純水とエタノールの混合液に添加して加水分解させる。テトラメトキシシランを添加してから5〜120分間、撹拌した後に、テトラメトキシラン1molに対して1〜50molの超純水を更に添加し、1〜12時間攪拌を継続し、シリカ質のゲルを生成させる。このとき、攪拌速度は100〜300rpmの範囲にするのが好ましい。
【0015】
(ハ)ヒュームドシリカのゲル化
ヒュームドシリカ(平均粒径D50:0.007〜0.030μm、比表面積:50〜380m2/g)1molに対して、超純水9.5〜20.0molを容器内に入れ、窒素、アルゴン等の雰囲気にて、温度を10℃〜30℃に保持して攪拌しながら、ヒュームドシリカを容器内の超純水に添加する。ヒュームドシリカを添加してから0.5〜6時間攪拌を継続し、シリカ質のゲルを生成させる。このとき、攪拌速度は10〜50rpmの範囲にするのが好ましい。
【0016】
〔スプレー熱風乾燥工程〕
上記合成シリカ質ゲルを水分調整してスラリーにし、このシリカ質ゲルのスラリーをに熱風中にスプレー噴霧して乾燥し、球状のシリカ粒子にする。
【0017】
スラリーのシリカ濃度はスプレー噴霧に適する濃度であればよく、例えば15wt%〜30wt%程度である。スラリーを噴霧する熱風の温度は、噴霧された液滴が適度に乾燥される温度であればよく、例えば、180℃〜200℃である。
【0018】
スプレー噴霧の手段としては一般のスプレードライヤーを用いることができる。スプレー方法としては、ノズルから噴霧する方法、あるいは回転ディスクにスラリーを注入して噴霧させるなど種々のタイプのスプレー方法を利用することができ、何れも目的の粒径などになるように噴霧条件に調整すればよい。ノズルから噴霧する方法は加圧ノズルでもよく、二流体ノズルでもよい。
【0019】
〔加熱焼成工程〕
スプレー乾燥によって得た球状粒子を、1125℃以上に加熱焼成して、嵩比重1.0以上、比表面積0.1m2/g以下にガラス化する。焼成前の状態を図1に示す。焼成温度1000℃、焼成温度1125℃、焼成温度1200℃の焼成状態を図2〜図4に示す。また、焼成温度と嵩密度の関係を図5に示す。焼成温度と比表面積の関係を図6に示す。焼成温度と光透過範囲の関係を図7に示す。1250℃で焼成したシリカガラス粉末の粒度分布を図8に示す。
【0020】
焼成方法は、通常は石英製の容器に充填してバッチで焼成すればよい。また、回転式のキルンで連続的に焼いてもよく、この焼成物はさらさらの分散状態になる。焼成の雰囲気は、ガラス内部の気泡の除去効果を高めるには、焼成後半に減圧してもよく、さらには不活性ガスで置換して焼成してもよい。
【0021】
図1に示すように焼成前の乾燥粒子はガラス化していない。図2に示すように1000℃で焼成してもガラス化は不十分である。一方、図3に示すように1125℃で焼成したものは次第にガラス化し、図4に示すように1200℃で焼成したものはガラス化が進行している。
【0022】
焼成温度とガラス化の程度は図5および図6にも示されており、図5に示すように、焼成温度が1100℃を超えると急激に嵩比重が増加し、1125℃以上で焼成すると嵩比重が1.0以上になる。また、図6に示すように、焼成温度が1100℃を超えると急激に比表面積が小さくなり、1125℃以上で焼成すると比表面積は0.1m2/g以下になる。
【0023】
また、本発明の方法によって製造した合成シリカガラス粉末は、シャープな粒度分布を有しており、図8に示すように、1250℃で焼成したシリカガラス粉末の粒径は約60μmから約120μmに集中しており、平均粒径D50は約110μmである。
【0024】
さらに、本発明の方法によって製造した合成シリカガラス粉末は、ガラス質でありながら、光透過性が焼成前の乾燥粒子より低い性質を有する。本発明の合成シリカガラス粉末をガラス瓶に入れ、ガラス瓶の底から光(赤色レーザ光)を照射して、ガラス粉末が赤色に輝く範囲(ガラス底からの高さ)を目視観察すると、図7に示すように、焼成温度が900℃以下の場合(ガラス化前)には、約19mmの範囲まで光が透過するが、焼成温度が1000℃を超えると光の透過範囲が急激に低下し、焼成温度が1250℃以上のガラス化が進行した状態では光の透過範囲は約13mmから約12mmに低下し、焼成前の約60%程度に低下する。
【実施例】
【0025】
以下、本発明の実施例を示す。
〔実施例1〕
ヒュームドシリカ(商品名アエロジルAE50)をゲル化し、濃度15wt%に水分調整してシリカスラリーにした。このスラリーをスプレードライヤーを用い、入口温度200℃、出口温度92度の熱風中に、加圧ノズル(ノズル径1mm)から噴霧圧1.3MPaの圧力で乾燥室の下方から上方に向けて噴霧し、平均粒径170μmの燥球状粒子を得た。この乾燥粒子を空気中で13時間焼成した。
焼成前の乾燥粒子を図1に示す。焼成温度1000℃の状態を図2に示す。焼成温度1125℃の状態を図3に示す。焼成温度1200℃の状態を図4に示す。焼成温度と嵩密度の関係を図5に示す。焼成温度と比表面積の関係を図6に示す。焼成温度と光透過範囲の関係を図7に示す。1250℃で焼成したシリカガラス粉末の粒度分布を図8に示す。
【0026】
図2に示すように1000℃で焼成してもガラス化は不十分である。図3に示すように1125℃で焼成したものは次第にガラス化しており、図4に示すように1200℃で焼成したものはガラス化が進行している。これに対応し、図5に示すように、焼成温度が1100℃を超えると急激に嵩比重が増加し、1125℃以上で焼成すると嵩比重が1.0以上になる。また、図6に示すように、焼成温度が1100℃を超えると急激に比表面積が小さくなり、1125℃以上で焼成すると比表面積は0.1m2/g以下になる。このように、焼成温度が1125℃で物性が大きく変化しており、この温度がガラス化の始まる変局点であることを示している。
【0027】
図8に示すように、1250℃で焼成したシリカガラス粉末の粒径は約60μmから約120μmに集中しており、平均粒径D50は約110μmである。また、図2(A)〜(C)に示すように、焼成温度1125℃で製造したガラス粒子は、空洞が外に開いたクラインの壷型の球状粒子であるが、1200℃以上で焼成すると空洞が閉じた球状粒子になる。
【0028】
製造した合成シリカガラス粉末をガラス瓶に入れ、ガラス瓶の底から光(赤色レーザ光)を照射して、ガラス粉末が赤色に輝く範囲(ガラス底からの高さ)を目視観察すると、図7に示すように、焼成温度が900℃以下の場合(ガラス化前)には、約19mmの範囲まで光が透過するが、焼成温度が1000℃を超えると光の透過範囲が急激に低下し、焼成温度が1250℃以上のガラス化が進行した状態では光の透過範囲は約13mmから約12mmに低下し、焼成前の約60%程度に低下する。
【0029】
〔実施例2〕
ヒュームドシリカ(商品名アエロジルAE50)をゲル化し、濃度30wt%に水分調整してシリカスラリーにした。このスラリーをディスク型のスプレードライヤーを用い、入口温度180℃、出口温度100℃の熱風中に、ピン型ディスクで上方からアトマイズ(噴霧)し、平均粒径170μmの燥球状粒子を得た。この乾燥粒子を空気中で13時間焼成した。
この乾燥粒子を用いて実施例1と同様に加熱焼成を行い、合成シリカガラス粉末を得た。このシリカガラス粉末は、図2〜図8に示すものとほぼ同等の物性を有するものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成したシリカ質のゲルをスプレー熱風乾燥して球状化し、この球状乾燥粒子を焼成してガラス化することを特徴とする合成シリカガラス粉末の製造方法。
【請求項2】
この球状乾燥粒子を1125℃以上に加熱焼成して、嵩比重1.0以上、比表面積0.1m2/g以下にする請求項1に記載する合成シリカガラス粉末の製造方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2の方法によって製造され、光透過性が焼成前の乾燥粒子より低いことを特徴とする合成シリカガラス粉末。

【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−207719(P2011−207719A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−78940(P2010−78940)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】