説明

合金の鋳造法及びダイカスト部材

【課題】 ダイカスト鋳造法において、優れた耐食性等の機能性を持つ、自動車、携帯電話、ノート型パソコンなどの民生電機・情報家電、電動工具、汎用エンジンなどの産業機械等のマグネシウム合金製部品、アルミニウム合金製部品、亜鉛合金製部品の開発が可能となる合金の鋳造法を提供すること。
【解決手段】 100Pa以下の真空中又は不活性ガス中に873K以上で10分間以上保持した希土類金属を合金溶湯中に0.01〜1質量%の濃度となるように添加し且つ合金溶湯中にAr、He、Ne、SF6、CO2、SO2又はN2ガスのバブリングを実施すること、バブリングを実施した後又は実施しながら該処理した合金溶湯をダイカスト鋳造する、合金の鋳造法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は軽量化を必要とする自動車、携帯電話、ノート型パソコンなどの民生電機・情報家電、電動工具、汎用エンジンなどの産業機械等の合金製部品、特にマグネシウム合金製部品、アルミニウム合金製部品、又は亜鉛合金製部品のダイカスト鋳造法に関する。
【背景技術】
【0002】
マグネシウム合金溶湯、アルミニウム合金溶湯、亜鉛合金溶湯等の合金溶湯には溶存水素が吸蔵されている。これらの溶存水素は合金溶湯の凝固時に気泡となり、鋳物の内部欠陥の原因の一つになる。アルミニウム合金鋳造ではガスバブリングにより溶存水素量を低下させることが一般的に行われている(例えば、特許文献1参照)が、マグネシウム合金鋳造では凝固時でも水素を吸蔵する傾向があり、また亜鉛合金鋳造では亜鉛合金に溶存する水素量が少ないためアルミニウムほど溶存水素に起因する内部欠陥の要因になり難いのでガスバブリングは為されていない。また、各々の合金のダイカスト鋳造では溶存水素より空気巻込みによる内部欠陥の比率が高いのでガスバブリングは為されていない。
【0003】
しかし、ダイカスト鋳造での空気巻込みによる内部欠陥については、ゲート・ランナー方案の改善やガス抜きの技術により空気巻込みは大幅に減少されるようになったので空気巻きこみによる内部欠陥も大幅に改善され、さらに鋳造方式においても(部分)スクイズダイカスト法、層流ダイカスト法、バキュラル(真空)ダイカスト法により内部欠陥が抑制され、熱処理や溶接さえも可能になってきている。
【0004】
また、マグネシウム合金、アルミニウム合金及び亜鉛合金においては鉄等の遷移金属が不純物であり、これらの不純物が合金の耐食性や延性などの機械的特性、熱伝導性などの物理的特性に影響を与えている。マグネシウム合金、亜鉛合金の不純物レベルは各々の純金属における精錬により既定され、アルミニウム合金、特にダイカスト用アルミニウム合金の場合はスクラップ再生で混入してくる鉄等を許容するレベルでスペックが定められている。
【特許文献1】特開2003−290899号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、マグネシウム合金、アルミニウム合金及び亜鉛合金の鋳物、特にダイカスト鋳物に要求される特性は高度化してきており、従来技術だけでは対応できないレベルとなっている。内部欠陥のさらなる抑制のため、ガスバブリングによる溶存水素の減少も必要となってきつつあるが、ダイカスト鋳造では合金溶湯を長時間保持した状態で鋳造を連続的に行うため、ガスバブリングも連続して又は間欠的に実施する必要がある。また、ガスバブリングでは脱ガスだけでなく合金溶湯中の酸化物等の異物を浮上させる結果として合金溶湯表面にドロスが浮上して鋳物に混入する危険が生じる。
【0006】
また合金中の不純物元素レベルについては溶解・鋳造過程では対策がない。特にリサイクル前提のため不純物量の高いダイカスト用アルミニウム合金では、高純度化するだけでも特性が向上するが高コストとなってしまう。また、マグネシウム−アルミニウム系合金ではマンガン添加により不純物である鉄量をスラッジとして除去することで抑制し、耐食性を改善しているが、さらなる耐食性向上が要望されている。
【0007】
本発明は、ダイカスト鋳造法において、優れた耐食性等の機能性を持つ、自動車、携帯電話、ノート型パソコンなどの民生電機・情報家電、電動工具、汎用エンジンなどの産業機械等のマグネシウム合金製部品、アルミニウム合金製部品、亜鉛合金製部品の開発が可能となる合金の鋳造法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記の目的を達成するために鋭意検討を進めた結果、ダイカスト鋳造に用いる溶湯の段階で希土類金属を合金溶湯中に添加し且つ合金溶湯中でガスバブリングを実施し、バブリングを実施した後又は実施しながら該処理した合金溶湯をダイカスト鋳造することにより上記の課題が解決できることを見いだし、本発明を完成した。
【0009】
即ち、本発明の合金の鋳造法は、100Pa以下の真空中又は不活性ガス中に873K以上で10分間以上保持した希土類金属を合金溶湯中に0.01〜1質量%の濃度となるように添加し且つ合金溶湯中にAr、He、Ne、SF6、CO2、SO2又はN2ガスのバブリングを実施すること、バブリングを実施した後又は実施しながら該処理した合金溶湯をダイカスト鋳造することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明のダイカスト鋳造法により、優れた耐食性等の機能性を持つ、自動車、携帯電話、ノート型パソコンなどの民生電機・情報家電、電動工具、汎用エンジンなどの産業機械等のマグネシウム合金製部品、アルミニウム合金製部品、亜鉛合金製部品の開発が可能となり自動車、民生電機製品、電動工具、汎用エンジンなどの産業機械の軽量化の進展が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明のダイカスト鋳造法においては、合金溶湯中の鉄等の遷移金属と化合物を形成するランタン、セリウム、ネオジムあるいはそれらの混合物であるミッシュメタルと言った希土類金属を添加することで、鉄などの不純物元素の量を、精錬段階で純金属に不可避的に入ってくる不純物元素量よりも実質的に低減させることができる。また、その添加量は極めて微量、例えば0.01質量%以上で有効である。しかし、1質量%を超えるとアルミニウム合金のアルミニウム、マグネシウム合金や亜鉛合金に含有されるアルミニウムと金属間化合物を形成するようになり、合金の機械的特性、物理特性を大きく変化させてしまうことがあるので、好ましくない。
【0012】
本発明のダイカスト鋳造法においては、この希土類金属の添加効果を増大させるために二つの方法を組合せている。その第一は、鋳鉄の分野で接種と言われている方法であるが希土類金属を鋳造前に合金溶湯に添加することである。この理由は、希土類金属は化学的に活性であるため凝固過程で種々の元素と化合物を形成してしまい再溶解後では効果が減じるためである。その第二は、添加する希土類金属を事前に100Pa以下の真空中又は不活性ガス中で合金溶湯温度以上の温度で空焼きすることで希土類金属が吸蔵している水素を放出させ、その希土類金属の添加が合金溶湯中の溶存水素の増大に繋がらないようにすると共に、化学的にさらに活性化させて不純物元素との化合物の形成を加速させ、不純物を固定させるためである。空焼きの保持温度は、鋳造時の合金溶湯温度以上、望ましくは鋳造時の合金溶湯温度よりも30K以上高い温度であり、例示的には873K以上であり、保持時間は10分以上、望ましくは希土類金属の形状にもよるが経験上20分以上である。
【0013】
ガスバブリング法はダイカスト鋳造法においても溶存水素の低減と酸化物・異物の低減の効果を有するが、本発明のダイカスト鋳造法においては、鋳造をしている間、合金溶湯に対して連続的又は間欠的に実施することが好ましい。そのため、二つ以上の溶解ポットを用いるか、又はポット内を二つ以上の部屋となるように部分的に間仕切った一つの溶解ポットを用い、二つ以上の溶解ポットの内の第一の溶解ポット中又は二つ以上の部屋の内の第一の部屋中の合金溶湯中にガスバブリングを実施し、合金中に混入する恐れのあるフラックス、酸化物、異物等のドロスを合金溶湯の上部又は下部に移動させ、清浄化した中間部の合金溶湯を第二の溶解ポットあるいは第二の部屋に移して溶湯状態に維持し、この溶湯を用いてコールドチャンバー型鋳造機又はホットチャンバー型鋳造機で鋳造することが好ましい。
【0014】
しかし、間仕切りのない一つの溶解ポットを用い、溶解ポット中でガスバブリングを実施し、合金中に混入する恐れのあるフラックス、酸化物、異物等のドロスを合金溶湯の上部又は下部に移動させ、清浄化した中間部の合金溶湯を調製し、この合金溶湯を、ドロスが流入しないように配置された溶湯ポンプを用いるか又は表面ドロスが混入しない密閉式ラドルを用いてコールドチャンバー型鋳造機で鋳造するか又はホットチャンバー型鋳造機で鋳造することも好ましい。
【0015】
本発明の合金の鋳造法においては、上記のようにしてホットチャンバー型鋳造機を用いてダイカスト鋳造しても、コールドチャンバー型鋳造機を用いてダイカスト鋳造してもよいが、アルミニウム合金のダイカスト鋳造の場合には、ドロスが流入しないように配置された溶湯ポンプを用いるか又は表面ドロスが混入しない密閉式ラドルを用いてコールドチャンバー型鋳造機で鋳造することが好ましく、マグネシウム合金及び亜鉛合金のダイカスト鋳造の場合には、上記のようにしてホットチャンバー型鋳造機を用いて鋳造することが好ましい。
【0016】
なお、ガスバブリングは上記で述べたように溶存水素の減少のためであるが、金属的に活性なマグネシウム>アルミニウム>亜鉛の順に酸化物や異物が合金溶湯中に生成しやすく、ガスバブリグはこれらを浮上させ、鋳物への混入をなくす効果があり、不純物削減と同じく耐食性や機械的強度の向上に効果的である。
【0017】
本発明のダイカスト鋳造法により得られる鋳物は耐食性に優れ、延性が10%以上向上し、ガスポロシティが10%以上減少している。また、本発明のダイカスト鋳造法により得られる鋳物は押出し、引抜き、圧延、鍛造、プレスの塑性加工が可能である。
【実施例】
【0018】
以下に実施例及び比較例に基づいて本発明を具体的に説明する。
実施例1〜5及び比較例1〜4
実施例1〜5及び比較例1〜4において第1表に示す組成の合金を用いた。また、希土類金属として、ミッシュメタルを5×5×100mmの棒状とし、973K、10Paの真空中に30分間保持したものを用いた。
【0019】
【表1】

【0020】
マグネシウム合金については、上記のマグネシウム合金原料を溶解させ、合金の耐食性を改善するためにその合金溶湯に第2表に示す量(質量%)の上記のミッシュメタルを添加し(比較例では添加せず)(第2表中の「有り、10分、10分静置」はバブリングを10分間実施し、その後10分間静置したことを意味する。)且つ第2表に示す条件下でArガスをバブリングさせ(比較例ではバブリングなし)、また、その合金溶湯の表面に希釈SF6を流動させた。合金溶湯温度を953Kに維持し、ドロスが流入しないように配置された溶湯ポンプ及びコールドチャンバー型鋳造機を用い、金型温度473K、射出速度4m/秒の条件下でダイカストJIS引張試験片(ASTM E8−61T)及び□100mm×100mm、厚さ2mmの板材を作製した。また、ミッシュメタルの添加量を第2表に示すように変更した以外は上記と同様にして合金溶湯を調製し、合金溶湯温度を923Kに維持し、ホットチャンバー型ダイカストマシンを用い、金型温度473K、射出速度2m/秒(PH開1回転)の条件下で□100mm×100mm、厚さ2mmの板材を作製した。
【0021】
アルミニウム合金については、二つ溶解ポットを用い、第一の溶解ポット中で上記のアルミニウム合金原料を溶解させ、合金の耐食性を改善するためにその合金溶湯に第2表に示す量の上記のミッシュメタルを添加し(比較例では添加せず)且つ第2表に示す条件下でArガスをバブリングして(比較例ではバブリングなし)、合金中に混入する恐れのあるフラックス、酸化物、異物等のドロスを合金溶湯の上部又は下部に移動させた。清浄化した中間部の合金溶湯を第二の溶解ポットに移し、合金溶湯温度を953Kに維持し、表面ドロスが混入しない密閉型ラドル及びコールドチャンバー型鋳造機を用い、金型温度473K、射出速度3m/秒の条件下でダイカストJIS引張試験片(ASTM E8−61T)及び□100mm×100mm、厚さ2mmの板材を作製した。
【0022】
亜鉛合金については、上記の亜鉛合金原料を溶解させ、合金の耐食性を改善するためにその合金溶湯に第2表に示す量の上記のミッシュメタルを添加し(比較例では添加せず)且つ第2表に示す条件下でArガスをバブリングさせた(比較例ではバブリングなし)。合金溶湯温度を703Kに維持し、ホットチャンバー型ダイカストマシンを用い、金型温度423K、射出速度2m/秒(PH開1回転)の条件下で□100mm×100mm、厚さ2mmの板材を作製した。
【0023】
上記のようにして作製した各々の板材を研磨して試験片とし、JIS Z 2371に準拠して塩水噴霧試験を実施した。暴露時間はマグネシウム合金とアルミニウム合金については96時間とし、亜鉛合金については168時間とした。試験片の発錆の面積比率で耐食性を評価した。その結果は第2表に示す通りであった。
【0024】
【表2】

【0025】
上記のようにして作製した各々のJIS引張試験片について、298K、クロスヘッド速度0.17mm/秒、N=5で引張試験を実施した。その結果は第3表に示す通りであった。
【0026】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
100Pa以下の真空中又は不活性ガス中に873K以上で10分間以上保持した希土類金属を合金溶湯中に0.01〜1質量%の濃度となるように添加し且つ合金溶湯中にAr、He、Ne、SF6、CO2、SO2又はN2ガスのバブリングを実施すること、バブリングを実施した後又は実施しながら該処理した合金溶湯をダイカスト鋳造することを特徴とする合金の鋳造法。
【請求項2】
合金溶湯がマグネシウム合金溶湯、アルミニウム合金溶湯又は亜鉛合金溶湯であることを特徴とする請求項1記載の合金の鋳造法。
【請求項3】
ダイカスト鋳造をホットチャンバー型鋳造機で実施するか、又は
ドロスが流入しないように配置された溶湯ポンプを用いるか、
表面ドロスが混入しない密閉式ラドルを用いるか、又は
二つ以上の溶解ポットを用いるか、又はポット内を二つ以上の部屋となるように部分的に間仕切った一つの溶解ポットを用い、二つ以上の溶解ポットの内の第一の溶解ポット中又は二つ以上の部屋の内の第一の部屋中の合金溶湯中に希土類金属を添加し且つガスバブリングを実施し、清浄化した中間部の合金溶湯を第二の溶解ポットあるいは第二の部屋に移して溶湯状態に維持し、この溶湯を用いて
コールドチャンバー型鋳造機で実施することを特徴とする請求項1又は2記載の合金の鋳造法。
【請求項4】
請求項1、2又は3に記載のダイカスト鋳造法により製造したダイカスト部材。

【公開番号】特開2008−229649(P2008−229649A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−71404(P2007−71404)
【出願日】平成19年3月19日(2007.3.19)
【出願人】(000006183)三井金属鉱業株式会社 (1,121)
【Fターム(参考)】