説明

同一領域上で取得されたSAR画像から得られるインターフェログラムのフィルタリング処理方法

【課題】合成開口レーダにより同一領域上に取得されたインターフェログラムについて、取得可能な全てのインターフェログラム及びその精度と関連してフィルターが施された位相値を考慮したベクトルを求めることができるフィルタリング処理方法を提供する。
【解決手段】合成開口レーダにより同一領域上に取得されたインターフェログラムに対するフィルタリング処理であって、a)共通格子上のデータの再サンプリングが可能となるような取得図形を有する同一領域上で、SARセンサにより一連のN個のレーダ画像(A1…AN)を取得し、b)共通格子上で再サンプリングした後、その共通格子から画素を選択し、c)取得可能な画像対のそれぞれに対して複素コヒーレンス値を推定するために、選択された画素のコヒーレンス行列を算出し、d)この時点では未知数であるソースベクトルθに関して、Rは複素数の実部を抽出する演算子、γnmはコヒーレンス行列の要素(n、m)の係数、kは正の実数、φnmはコヒーレンス行列の要素(n、m)の位相、θn及びθmは未知ベクトルθの要素n及びmである下記の式を最大化するステップを備えている。位相差のみが関数Tに与えられた場合には、未知ベクトルの値は、θ1=0とすることで決定できる付加定数より小さい値として推定され、このようにして得られた位相値θnは、フィルターの施された位相値のベクトルの構成要素となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、同一領域上で取得されたSAR画像から得られるインターフェログラムのフィルタリング処理方法に関連する。
【背景技術】
【0002】
よく知られているように、合成開口レーダ(SAR:Synthetic Aperture Radar)装置は、二次元画像を生成するものである。この画像の次元の一方はレンジと呼ばれ、レーダからの視線における照射されている物体までの距離である。他方の次元はアジマスと呼ばれ、レンジに対して垂直である。
【0003】
SARレーダは、一般的に400Mhzから10Ghzまでの間に含まれる周波数で動作し、通常は航空機や、250kmから800kmまでの高度で軌道を周回する衛星プラットフォームなどに搭載される。レーダのアンテナは、プラットフォーム(航空機又は衛星)の運動方向に対して直交するように地球に向いており、ナディア方向、すなわち地球に対して鉛直な方向に対して20°から80°までを含む「オフナディア」角として知られる角度をなして地球に向いている。
【0004】
このシステムにより地球表面の画像は数メートルの空間分解能で生成可能であり、公知の文献に記載された適当なアルゴリズムを用いて、アジマス方向において実際の寸法より遥かに大きい寸法のアンテナを合成する(これがセンサの名称の由来である)。
SARの最も重要な特徴は、これが一貫性のセンサであることであり、そのため画像は複素数の行列となり、その振幅値は照射された物体から後方散乱されるパワーに関連している(すなわちレーダの横断面に関連している)。一方、このステップは、対象物の性質とレーダからターゲットまでの距離とにより決定される。その結果、あるレンジ座標rとアジマス座標aで特定されるレーダ画像Iの各画素に対応して、次の複素数が存在する。

【0005】
ここで、x及びyは複素数の実部及び虚部をそれぞれ示し、Aは振幅、ψは位相値、そしてiは虚数単位又は−1の平方根である。
【0006】
太陽光や曇り空等の条件にかかわらず画像を取り込む可能性を有するため、SARによる画像処理は多様な用途に適しており、とりわけ重要なものとして、対象物の特定や分類に関連する用途や、変化検知又は干渉画像に関する用途がある。後者の用途は、通常はデジタル標高モデルの取得及び/又は多時点でのSARデータセットに基づいた地表変形の解析を目的とする。
【0007】
ある同一対象領域上で取得され、共通格子上で再サンプリングした、IN及びIMで特定された2つの一般的なSAR複素画像が与えられた場合には、インターフェログラム(interferogram)Φnmは、一番目の画像と二番目の画像の共役複素数値との積として次のように定義される。

【0008】
ここでI*は、複素数値が位相値の符号を変えることにより共役複素数値に変換された画像を示す。従って、このことからインターフェログラムの位相、又は干渉位相とも呼ばれる、は2つの画像の位相差として与えられる。
【0009】
SAR画像の各画素の位相(レンジ座標値rとアジマス座標値aにより特定される。)は、照射物体の性質と関連する「反射率位相」と呼ばれる寄与分ζと、電磁波の光路とリンクし、その結果送信手段及びセンサ対象物間距離と関連する寄与分dとの和として次のように表わされる。

【0010】
対象物の電磁特性が時間と共に変化しない場合には、反射率位相値(ζ)と関連する項には変化がなく、その結果、何枚もの取得画像を考慮した場合に現れるいかなる位相変化も、光路内で発生し得る変化と関連するようになる。
【0011】
特に興味深いのは、一連の動きの経過履歴の再構築を可能にする用途があることである。すなわち、反射率が変化せず送信手段による位相寄与分を分離できる地上において、長時間にわたり物体のいかなる動きも監視できる能力である。
【0012】
実用面では、同一領域上で異なる時刻に取得されたが、共通格子上で再サンプリングされた一連のN個のSAR映像が与えられると、観測者は画像のあらゆる画素に対して一連のN個の位相値の経過履歴(すなわち、対象領域上に発生するあらゆる取得画像に対する値)を、これらの一連の位相値に対してセンサ−対象物間の見通し線で特定される方向に沿ってレーダ対象物のいかなる動きも推定するのに適したアルゴリズムを適用することにより計算しようとする。
【0013】
この推定の精度は、ある分解能を持つセルの反射率位相が長期間一定であるという事実に大きく依存する。もしこの仮説が立証されれば、例えば一番目の画像に関して、対象となる各種の取得画像における位相差を計算することにより、光路における変化のみによる寄与分を明らかにすることが可能となる。従って注意すべきこととして、反射率位相値が未知で画素毎に変動する場合には、これは単一画像の位相からではなく、2つの取得画像の位相差によってのみ得られるものであり、その結果、いかなる地表変形のマップでも可視化可能とするのはこの干渉位相である。
【0014】
実際のレーダ画面の反射率値は、永久散乱体と呼ばれる限られた数の物体を除いては、取得可能な全ての画像において通常は必ずしも一定ではなく、そこでは特殊なアルゴリズムを適用することができる(特許文献1及び2を参照)。
【0015】
しかしながら、光路に関連する情報(すなわち対象となる信号)がある特定のインターフェログラムからのみ抽出が可能であったり、あるいはより一般的に言うと、信号対雑音比が検討対象の画像対に著しく依存して変化するという、その他の多くの画素が存在する。これは、反射率位相項(ζ)の不変性という仮説が単に部分的に満たされるに過ぎないことを意味する。
【0016】
反射率位相値における変化をもたらす次の2つの主要なメカニズムがある。それらは、(a)時間的無相関、すなわち物体の電磁特性における経年変化と、(b)取得形状が変化することから誘発される幾何学的又は空間的無相関とである。第一のメカニズムは、インターフェログラムのいわゆる「時間的基準」、あるいは異なる時刻で得られる画像セットの場合は、インターフェログラムを生成するのに使用される2つの画像間の時間差に依存する。第二のメカニズムは、それとは異なり、いわゆる「幾何学的基準」、すなわち2つの取得画像間においてセンサが追跡する軌道間の距離に依存する。
【0017】
一般画像n、mから生成されるインターフェログラムの信号対雑音比(すなわち精度)を計測する目的で、文献等では干渉コヒーレンス、又は単にコヒーレンスの名で知られるパラメータρnmが通常使用され、一般的には画素毎に変動する。

【0018】
ここで、E(.)は「期待値」として知られる統計演算子である。この統計演算子は、実用上は画素周辺に中心を置く適切なウィンドウF上で算出される空間平均値で代用される。この推定用ウィンドウを選択する際に、信頼度の高い統計推定値を得るためには、統計的に可能な限り均一分布するサンプルを選ぶことが必要となるため、推定に用いる画素数が画素毎に変動し得る(特許文献3を参照)。従って、コヒーレンス推定値(cnm)は次式で計算される。

この式において、γnmを用いてコヒーレンス係数の推定値cnmを、φnmを用いてその位相値を、そしてx(p)を用いて推定ウィンドウFのp番目の要素をそれぞれ示す。こうして算出されるコヒーレンスは画像中の画素毎に変動する複素数であり、その係数は正規化のために0〜1の間の値をとり(それぞれ最小及び最大相関、すなわちゼロ又は無限の信号対雑音比)、その位相値は推定ウィンドウ内で使用する画素の位相値の平均値である。
【0019】
共通格子上にN個のSAR画像が再サンプリングされた場合、コヒーレンスcnmはコヒーレンス行列と呼ばれるN×N個の行列要素として現れ、これは取得した画面の各画素に対して、取得可能なSAR画像全セットの干渉精度を表現することが可能なものである。すなわち、ある共通格子上での再サンプリングが可能な同一領域上に取得されたN個のSAR画像が与えられた場合には、各画素をN×N個の要素を持つある行列と関連付けることが可能であり、そこでは、一般要素cnmが有効画像セットの画像n、m間の複素コヒーレンス推定値となる。
【0020】
いわゆる永久散乱体と関連して、係数値が1に近い値で一定化傾向を示し、このタイプの対象物に典型的な高い信号対雑音比を示すコヒーレンス行列が存在し、これは、検討対象のそれぞれのインターフェログラム対において高い値を保持する。しかしながら、すでに述べたように永久散乱体は、実際の画面上の画素にとっては少数派に過ぎない。大多数の画素は、無相関現象の影響を受けて振幅が著しく変動することが明らかなコヒーレンス行列であるという特徴を有する。言い換えれば、同一画素に対する信号対雑音比が画像間において著しく変動し、またその結果インターフェログラム間において著しく変動する。
【0021】
永久散乱体の場合には、一般画素の光路に関する経過履歴の抽出は特段難しい操作ではなく、それらに対して、すべてがある同一画面、例えば一番目の画面を含み、対象物の動きを推定する連続アルゴリズムの適用を保証可能な十分高い信号対雑音比を有するという、N−1個のインターフェログラムを生成することが可能となる。
【0022】
共通格子上で再サンプリングされ、異なる時刻(t1…t5)にて取得された5個のSAR画像値のセットを例として考えてみる。これは、一般画素の光路の経過履歴を再構築したいときに使用するもので、最初の取得時刻t1から始まる(図1)。選択された画素が永久散乱体の場合には、単に4個のインターフェログラム(t2、t1)、(t3、t1)、(t4、t1)、(t5、t1)の取得を行うことになる。これにより、参照時刻t1に対して、対象物(現状の画素と関連した)の光路の推定が可能となる(図1の線図A)。一般に、N個の経過履歴要素を生成したい場所では、一番目の値(時刻t1に対応する)はゼロに等しい値に設定される。
【0023】
選択画素が永久散乱体ではなく、その結果、前の段落での検討対象であるインターフェログラムの少なくとも1個においてコヒーレンスが許容レベルに満たない場合は、状況がまったく異なる。最初の策としては、光路における値の経過履歴を完全に再構築することができ、様々なインターフェログラムにおいて得られる結果の組み合わせが可能な良質のインターフェログラム対を見つけるための試行錯誤による実施が考えられる(例として、図1の線図B及びCは、線図Aとは異なるがN個の経過履歴を与えるN−1個のインターフェログラムの構成例を示している。)。しかしながら、このような操作は対象画素と関連するコヒーレンス行列の解析に基づくものの方よりも効率的であると見るのが妥当であり、これによりデータセット中の取得可能な全てのインターフェログラム対を示す概要図を構造上与えることが可能となる。
【0024】
この点において注意すべきこととして、一般的なコヒーレンス行列の要素は、行列値の係数を利用することでインターフェログラムの信号対雑音比を推定可能とするだけでなく、考えられる画像対のそれぞれに対して干渉位相値にフィルターを施したバージョンを、その位相値を用いて提供するものでもある。前の段落で述べたコヒーレンスの定義から推論できるように、コヒーレンス行列内の一般要素の位相φnmは、適正な推定ウィンドウF上で計算される干渉位相値の空間平均値として与えられ、この操作により少なくとも光路値が同一であるという特徴を持つある均一な統計分布の場合において、ゼロでない信号対雑音比を伴うインターフェログラム値に対し、雑音レベルにおいて顕著な低減が可能となる。一方では、この平均化プロセスにより雑音レベルが低減するものの、他方では、次式のように三角測量の関係が満たされなくなることを意味する。

【0025】
すなわち上式においては、一般的には位相値は一定ではない(永久反射体の場合のように、例えばφ21とφ32との和がφ31であるというのはもはや真ではなくなる。)。従って、N個の位相値の経過履歴を再構築する場合には、反射率位相が最高位に補正され、それにより信号対雑音比が最大化するため、これに適したアルゴリズムの開発が必要となる。
【0026】
従って、この課題は次のように要約できる。一般的な画像画素に関係するコヒーレンス行列が与えられた場合には、N個の位相値θ={θ1…θN}を含むあるベクトルの導出が試みられるが、そのようなベクトルが取得可能な全てのデータ、すなわち取得可能な全ての(N(N−1)/2個の)インターフェログラム及びその精度と関連してフィルターが施された位相値を考慮することができる適当な手法が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0027】
【特許文献1】欧州特許EP−1183551号
【特許文献2】イタリア国特許出願MO2007A000363(出願日:2007年11月27日)の明細書
【特許文献3】特許出願n.MI2009A000535(出願日:2009年4月3日)の明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0028】
本発明の目的は、合成開口レーダにより同一領域上に取得されたインターフェログラムについて、取得可能な全てのインターフェログラム及びその精度と関連してフィルターが施された位相値を考慮したベクトルを求めることができるフィルタリング処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0029】
上記の目的を達成する本発明の合成開口レーダにより同一領域上に取得されたインターフェログラムに対するフィルタリング処理方法は、次のステップを含むことを特徴とするものである。
a)共通格子上のデータの再サンプリングが可能となるような取得図形を有する同一領域上で、SARセンサにより一連のN個のレーダ画像(A1…AN)を取得し、
b)共通格子上で再サンプリングした後、その共通格子から画素を選択し、
c)取得可能な画像対のそれぞれに対して複素コヒーレンス値を推定するために、選択された画素のコヒーレンス行列を算出し、
d)この時点では未知数であるソースベクトルθに関して、次の関数を最大化する。

【0030】
ここで、Rは複素数の実部を抽出する演算子、γnmはコヒーレンス行列の要素(n、m)の係数、kは正の実数、φnmはコヒーレンス行列の要素(n、m)の位相、θn及びθmは未知ベクトルθの要素n及びmである。未知ベクトルの値は、付加係数及び位相値θnがフィルターを施した位相値の構成要素とならない場合には推定される。
【0031】
上記のフィルタリング処理方法においては、付加係数はθ1=0として設定することで決定される。
【0032】
コヒーレンス行列の全ての要素は、次式により評価される。


【0033】
Fは選択された画素周辺の評価に適したウィンドウ、x(p)は評価ウィンドウFのp番目の要素、n及びmは共通格子上で再サンプリングされたN個のSAR画像セットに属するn番目及びm番目の画像である。
【0034】
ソースベクトルθのN個の要素は、次式により多項式で関連付けられる。

【0035】
nは最初の取得におけるN番目の画像の取得時刻、Bnは最初の取得におけるN番目の画像の垂直基準であり、この関数は多項gの係数に関して最大化される。
【0036】
あるいはソースベクトルθのN個の要素は、次式により線形で関連付けられる。

【0037】
v及びChは取得形状及び使用センサに依存する既知のパラメータ、tnは最初の取得におけるN番目の画像の取得時刻、Bnは最初の取得におけるN番目の画像の垂直基準であり、既知のtn及びBnを用いた最適化プロセスにおいては、選択された画素を占有する対象物の平均移動速度及び対象物の標高にそれぞれ関連する値v及びhのみが推定される。
【0038】
SARにより取得されたN個の画像値は、互いに異なる時刻で、又は互いに異なる視角で取得される。
【0039】
また、上記の目的を達成する本発明のコンピュータは、メモリと、そのメモリとの間でのデータ交換に適したマイクロプロセッサとを含むコンピュータであって、前記メモリは該メモリ内にインストールされて実行される適用可能なソフトウェアを有し、前記ソフトウェアは請求項1〜7のいずれかに記載のフィルタリング処理方法によって取得されたSAR画像内で、統計的に均一分布した画素を特定する処理を実施するのに適していることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0040】
本発明の合成開口レーダにより同一領域上に取得されたインターフェログラムに対するフィルタリング処理方法によれば、取得可能な全てのインターフェログラム及びその精度と関連してフィルターが施された位相値を考慮したベクトルを求めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】共通格子上で再サンプリングされ、異なる時刻で取得された5個のSAR画像値のセットを示す線図である。
【図2】N個の画像が対象領域について取得可能であり、同一の地表分解能を持つセルに対して様々な取得画像内の均一画素が対応することをグラフィック表示する画像である。
【図3】対象領域にある画素と関連するコヒーレンス行列の振幅値を示す画像である。
【図4】地表上の物体の推定移動量の経時変化を示すグラフである。
【図5】計算処理された画面の一部をハイライトで表示した画像である。
【図6】図5でハイライトで表示した部分について、元のインターフェログラムと、最適化した位相ベクトルを用いて再構築したインターフェログラムとを比較した画像の例である。
【図7】図5でハイライトで表示した部分について、元のインターフェログラムと、最適化した位相ベクトルを用いて再構築したインターフェログラムとを比較した画像の別の例である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
本発明の合成開口レーダにより同一領域上に取得されたインターフェログラムに対するフィルタリング処理方法は、次の手順を含むことを特徴とするものである。
a)共通格子上のデータの再サンプリングが可能となるような取得図形を有する同一領域上で、SARセンサにより一連のN個のレーダ画像(A1…AN)を取得し、
b)共通格子上で再サンプリングした後、その共通格子から画素を選択し、
c)取得可能な画像対のそれぞれに対して複素コヒーレンス値を推定するために、選択された画素のコヒーレンス行列を算出し、
d)この時点では未知数であるソースベクトルθに関して、次の関数を最大化する。

【0043】
ここで、Rは複素数の実部を抽出する演算子、γnmはコヒーレンス行列の要素(n、m)の係数、kは正の実数、φnmはコヒーレンス行列の要素(n、m)の位相、θn及びθmは未知ベクトルθの要素n及びmである。
【0044】
上式において位相差のみが関数として与えられた場合には、未知ベクトルの値は、例えばθ1=0とすることで決定できる付加定数より小さい値として推定される。ここで得られる位相値θnは、フィルターの施された位相値のベクトルの構成要素となる。
【0045】
コヒーレンス係数値を上げるために指数kをどの値に選択するかは、位相値にどのように重み付けするかの判断、及びコヒーレンス推定値がとりうる極性に依存する。実用面では、これを1又は2に等しく設定することで良い結果が得られている。重要な事項として指摘したいのは、関数値を最大化するのにふさわしい出発点(kの値にかかわらず)は、コヒーレンス行列に対して支配する自身の値と関連付けられる自己ベクトルの位相値ベクトルであるということである。
【0046】
注意すべきこととして、ここで提示する最適化は、極端な非線形関数に基づくものであるにもかかわらず、コヒーレンス行列を転置する必要がないことであり、コヒーレンス行列が概して悪条件下にある場合には、これは実用面でかなりの重要度を持つ要素となる。更に注意しておきたいのは、提示する関数が、その重みがコヒーレンス行列の係数とリンクする事実上の重率加算であることであり、そのことから高い信号対雑音比を有するという特徴をもつ位相項に重点を置くことが求められることである。こうして得られたベクトルθは、高いコヒーレンス値を有するという特徴を持つコヒーレンス行列、すなわち係数項が大きな値を持つ、の要素の位相に対する高度な依存性が求められる要素を含む。
【0047】
注記すべき重要な事項として、画面上の各画素に対してベクトルθがいったん既知となると、n番目の画像とm番目の画像間の一般的なインターフェログラムの位相を、画像の様々な画素に対して算出したn番目とm番目のベクトルθ間の位相差と置き換えることが可能となり、その結果、取得可能な画像の全データセットを事実上考慮に入れたインターフェログラムにフィルターを施したバージョンを生成することが可能になるであろうということである。
【0048】
同じタイプのアプローチを、位相値とリンクした変数推定に適用することも可能となる。すなわち、このような数値に予測される傾向が演繹的に公知であれば(例えば、様々なインターフェログラムの時間的基準及び幾何学的基準の関数のひとつである多項式法則)、提示の関数を使用し、位相値tではなく、未知の変数を直接最適化して前記の変数を推定することが可能となる。例えばこれは、いったんコヒーレンス行列及び様々なインターフェログラムの時間的基準及び幾何学的基準が判明すると、レーダ対象物の移動平均速度や標高の推定を試みる場合に相当する。
【0049】
本発明により得られる結果を実証する目的で、1999年5月4日から2008年1月5日までの間に、ハワイ群島内のハワイ島上空を飛行するレーダーサット衛星で得られた85枚の画像セットが処理に供された。画像が共通格子上に置かれた後(図2:この図はN個の画像が対象領域について取得可能であり、同一の地表分解能を持つセルに対して様々な取得画像内の均一画素が対応することをグラフィック表示している。)、画面上の画素の動きの時間経過を抽出する目的で、これらの画像に対していわゆる永久散乱体技法(特許文献1を参照)と関連するアルゴリスムが適用された。そこで、本発明による処理をSAR画像の原画像上に適用することにより(最適化するために数式内でk=2と設定)、入手データに対して同じ手順が繰り返された。すなわち、元の位相値を様々なベクトルθから得られたものに置き換えた。これらの計算は画像内の全ての画素に対して、特許文献3に記載された方法で推定したコヒーレンス行列に対して下流方向に、数式Tの指数kの値として1を採用することで実施された。例として、対象領域にある画素と関連するコヒーレンス行列の振幅値を図3に示す(注意すべきは、行列の次元は取得可能画像の番号N=85と一致し、その数値が0から1の範囲内にあることである。)。図4は、画素と関連する動きの経過履歴に関して、開始時のデータにフィルターが施されていないインターフェログラムであるケース(経過履歴A)と、開始時のデータが元のベクトルを介して再構築されたインターフェログラムであるケース(経過履歴B)との比較を示す。ノイズが低減していることが明らかである。計測における時間軸(時間は日単位で計測)を各図のx軸に示し、−30〜+30mmの範囲にある地表上の物体の推定移動量をy軸上に示す。
【0050】
二番目の例として、計算処理された画面の一部(図5でハイライトで表示)を、図を見やすくする目的で切り出して、元のインターフェログラムと、最適化した位相ベクトルを用いて再構築したものとの2つを直接比較した(図6及び図7:図中にインターフェログラムの位相値を示す)。これらのインターフェログラム(高い空間基準という特徴を有する)において、低い信号対雑音比を呈する部分もある。これらの図において、左側の部分は元のインターフェログラムを示し、右側の部分には、本発明の処理に従って再構築された同じインターフェログラムが認められる。従って、元の干渉位相がベクトルθの要素の位相差に置き換わっている。実用面では、いったん画面上の全ての画素についてベクトルθが得られたら、n番目とm番目間で得られるインターフェログラムのどの画素についてもその位相値を、それらの画素と関連するベクトルθから抽出される位相差θn−θmに置き換える。この効果は注目に値するものであり、ノイズがインターフェログラム周辺の判別能を阻害するようなものであっても、ここに提示する技術により生じる低減効果は抜群であり、対象となる信号を明瞭に識別できるという結果が得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成開口レーダにより同一領域上に取得されたインターフェログラムに対するフィルタリング処理であって、次のステップを含むことを特徴とするフィルタリング処理方法。
a)共通格子上のデータの再サンプリングが可能となるような取得図形を有する同一領域上で、SARセンサにより一連のN個のレーダ画像(A1…AN)を取得し、
b)共通格子上で再サンプリングした後、その共通格子から画素を選択し、
c)取得可能な画像対のそれぞれに対して複素コヒーレンス値を推定するために、選択された画素のコヒーレンス行列を算出し、
d)この時点では未知数であるソースベクトルθに関して、次の関数を最大化する。

ここで、Rは複素数の実部を抽出する演算子、γnmはコヒーレンス行列の要素(n、m)の係数、kは正の実数、φnmはコヒーレンス行列の要素(n、m)の位相、θn及びθmは未知ベクトルθの要素n及びmである。未知ベクトルの値は、付加係数及び位相値θnがフィルターを施した位相値の構成要素とならない場合には推定される。
【請求項2】
前記付加係数がθ1=0として設定することで決定される請求項1に記載のフィルタリング処理方法。
【請求項3】
コヒーレンス行列の全ての要素が次式により評価される請求項1に記載のフィルタリング処理方法。

Fは選択された画素周辺の評価に適したウィンドウ、x(p)は評価ウィンドウFのp番目の要素、n及びmは共通格子上で再サンプリングされたN個のSAR画像セットに属するn番目及びm番目の画像である。
【請求項4】
ソースベクトルθのN個の要素が、次式により多項式で関連付けられる請求項1に記載のフィルタリング処理方法。

nは最初の取得におけるN番目の画像の取得時刻、Bnは最初の取得におけるN番目の画像の垂直基準であり、この関数は多項gの係数に関して最大化される。
【請求項5】
ソースベクトルθのN個の要素が、次式により線形で関連付けられる請求項1に記載のフィルタリング処理方法。

v及びChは取得形状及び使用センサに依存する既知のパラメータ、tnは最初の取得におけるN番目の画像の取得時刻、Bnは最初の取得におけるN番目の画像の垂直基準であり、既知のtn及びBnを用いた最適化プロセスにおいては、選択された画素を占有する対象物の平均移動速度及び対象物の標高にそれぞれ関連する値v及びhのみが推定される。
【請求項6】
SARにより取得されたN個の画像値が互いに異なる時刻で取得される請求項1に記載のフィルタリング処理方法。
【請求項7】
SARにより取得されたN個の画像が互いに異なる視角で取得される請求項1に記載のフィルタリング処理方法。
【請求項8】
メモリと、そのメモリとの間でのデータ交換に適したマイクロプロセッサとを含むコンピュータであって、前記メモリは該メモリ内にインストールされて実行される適用可能なソフトウェアを有し、前記ソフトウェアは請求項1〜7のいずれかに記載のフィルタリング処理方法によって取得されたSAR画像内で、統計的に均一分布した画素を特定する処理を実施するのに適していることを特徴とするコンピュータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2012−533051(P2012−533051A)
【公表日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−518927(P2012−518927)
【出願日】平成22年7月2日(2010.7.2)
【国際出願番号】PCT/EP2010/059494
【国際公開番号】WO2011/003836
【国際公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【出願人】(511229411)
【氏名又は名称原語表記】TELE−RILEVAMENTO EUROPA−T.R.E. s.r.l
【出願人】(501193001)ポリテクニコ ディ ミラノ (18)
【氏名又は名称原語表記】POLITECNICO DI MILANO
【住所又は居所原語表記】Piazza Leonardo da Vinci,3220133 MILANO−Italy
【Fターム(参考)】