説明

同期発電機の電機子

【課題】 製造工数の大幅な低減を可能にし、従来と同様な正弦波の発電波形が得られるようした同期発電機を提供する。
【解決手段】 電機子鉄心51に12n個(nは正の整数)のスロット1、2・・・を設け、このスロット1、2・・・内に極数2nの電機子巻線50を巻装する同期発電機の電機子において、電機子巻線50を2スロット分布・全節巻とし、電機子鉄心51の各スロットに巻装される巻線片52が重ならない単層巻になるようにし、電機子鉄心51に2スロットピッチスキューを施す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発電波形を正弦波に近づけ、且つ、製造工数の大幅な低減を可能にした同期発電機の電機子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
同期発電機は携帯用発電機、水力用発電機、火力用発電機あるいは風力用発電機等に多く用いられている。
【0003】
これら同期発電機において、発電波形ができるだけ正弦波になることが望ましい。そこで従来の同期発電機の電機子においては、発電波形を正弦波に近づけるため、電機子巻線に分布巻と短節巻を併用したいわゆる分布・短節巻を採用するとともに、電機子鉄心に1スロットピッチスキューを施すことが行われていた。
【0004】
前述した分布・短節巻を採用することにより、各巻線片間の発電波形の位相をずらし、この合成によって高調波次数成分が打消され、電圧波形を正弦波に近づけることができる。
【0005】
図7に従来の4極同期発電機の電機子巻線を示す。電機子鉄心41には24個のスロット1、2、3・・・が形成され、電機子鉄心41の各スロット1、2、3・・・には電機子巻線40が巻装されている。電機子巻線40は2個のスロット1、24あるいはスロット5、6・・・に分けて巻かれた2スロット分布・5/6短節巻とされている。電機子巻線40は一般的に3相であるが、図7では、巻線形態を分かり易くするため1相のみを示している。従って、実際には図7と全く同じ形態の2組の電機子巻線40が互いに電気角120度の位相差を有して巻装され、3相が構成されるものである。
【0006】
図8は、図7の電機子巻線40が巻装される電機子鉄心41に1スロットピッチスキューが施された状態を表している。
【0007】
図9は従来の電機子において、電機子鉄心41のスロット数を36個、極数を6極にした場合の電機子巻線40(1相のみ)を示したものである。図7と同様に、電機子巻線40は2スロット分布・5/6短節巻で、図8と同様に電機子鉄心41に1スロットピッチスキューを施したものである。
【0008】
同期発電機からの発電波形は正弦波が理想である。そのため発電波形に含まれる3次から9次前後までの低次高調波成分を低減させて発電波形を正弦波に近づけるため分布・短節巻としている。
【0009】
また、図8に示したように電機子鉄心41のスロット1、2、3・・・の存在に起因するスロットリップルと呼ばれる高次高調波成分を除去するために、電機子鉄心41に1スロットピッチスキューを施す波形改善策が採られている。
【0010】
発電波形の評価は、実測によるまでもなく電機子の巻線係数kの大きさを吟味することで可能である。巻線係数kとは、電機子巻線の分布係数k、短節係数kおよび電機子鉄心のスキュー率kの積であり、前記従来技術の場合、分布係数kは電機子巻線40が2スロット分布巻であること、短節係数kは電機子巻線40が5/6短節巻であることによって決まる。また、スキュー率kは電機子鉄心41のスキューが1スロットピッチスキューであることによって決まる。
【0011】
図10は従来技術による巻線係数kの計算結果(最右欄)を示した表である。
【0012】
図10において、調波次数q=1の巻線係数kが1に近く、その他の調波次数q=3、5、7・・・等の巻線係数kが0に近いほど、同期発電機からの発電波形は理想とする正弦波に近くなる。図10に示した巻線係数kが、このような評価基準を満たしているとの評価を背景に、前記従来技術による同期発電機の電機子は、現在、広く実用に供されている。
【特許文献1】特開2002−209350号公報
【特許文献2】特開2005−271704号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、従来技術による同期発電機の電機子においては、図7、図9を見れば明らかなように、スロット6、12、18、24・・・のスロット内に2つの巻線片42が2層になって巻装されている。図7、図9には図示しなかった他の2つの相まで巻装されると、全てのスロット1、2、3・・・内に2つの巻線片42が巻装される、いわゆる2層巻とならざるを得ない。その結果、全スロット1、2、3・・・に巻装すべき巻線片42の数がスロット数の2倍となる。さらに2層巻では、1層目の巻線片42の巻装後、その上に重なる2層目の巻線片42との間に絶縁処理を施した後、2層目の巻線片42を巻装する。2層巻では、このようなスロット1、2、3・・・内の絶縁処理を全スロットについて実施しなければならない。以上のように、従来技術による同期発電機の電機子においては、スロット数の2倍の巻線片42の巻装およびスロット内の絶縁処理に多くの製造工数を費やさなければならず、そのことが製造コストの上昇につながるという問題を有していた。
【0014】
本発明は、従来技術による同期発電機の電機子と同等の巻線係数を有するともに、製造工数の大幅な低減を可能にした同期発電機の電機子を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は製造工数の大幅な低減を可能にし、従来と同様な正弦波の発電波形が得られるようしたものであり、
電機子鉄心に12n個(nは正の整数)のスロットを設け、このスロット内に極数2nの電機子巻線を巻装する同期発電機の電機子において、前記電機子巻線を2スロット分布・全節巻とし、前記電機子鉄心の各スロットに巻装される巻線片が重ならない単層巻になるようにし、前記電機子鉄心に2スロットピッチスキューを施した同期発電機の電機子を提供する。
【0016】
前記スロット数を24個とし、4極の電機子巻線を2スロット分布・全節巻とし、電機子鉄心に2スロットピッチスキューを施した同期発電機の電機子を提供する。
【0017】
前記スロット数を36個とし、6極の電機子巻線を2スロット分布・全節巻とし、電機子鉄心に2スロットピッチスキューを施した同期発電機の電機子を提供する。
【0018】
前記電機子鉄心のスロットに3相の電機子巻線を巻装した3相の同期発電機の電機子を提供する。
【0019】
前記電機子鉄心のスロットに2相の電機子巻線を巻装した同期発電機の電機子を提供する。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、電機子巻線を2スロット分布・全節巻としたことにより、スロットに巻装する巻線片の数がスロット数と同じ数となって従来技術の1/2になるとともに、従来技術の2層巻を単層巻とすることが可能になることから、スロット内の2層間の絶縁処理を全廃できた。
【0021】
また、本発明における2スロット分布・全節巻は、従来技術における2スロット分布・5/6短節巻に比べ3次から9次前後までの低次高調波成分の低減効果が低いため、これまで実用に供されることはなく、同期発電機の巻線形態として全く顧みられることがなかったが、本発明においては、この巻線形態に電機子鉄心の2スロットピッチスキューを組み合わせることにより、発電波形を従来技術と同じ品質に維持しながら、製作工数を大幅に低減することのできる同期発電機の電機子を提供することが可能になった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の同期発電機の電機子を図1から図6を参照して説明する。
【0023】
図1は本発明の一実施例である3相の電機子巻線の1相のみを示す4極同期発電機の電機子の平面図である。図2は本発明の同期発電機の電機子鉄心の一部を拡大した斜視図である。図3は本発明の同期発電機の電機子によって得られた特性を示す図表である。図4は本発明の一実施例である図1に関して、3相の電機子巻線全てを巻装した状態を示す4極同期発電機の電機子の平面図である。図5は本発明の他の実施例であり、3相から1相を取り除いた電機巻線を巻装した4極同期発電機の電機子の平面図である。図6は本発明の他の実施例であり、スロット数36個に巻装した電機子巻線の3相の内1相のみを示す6極同期発電機の電機子の平面図である。
【0024】
図1に示すように、本発明の一実施例である4極同期発電機の電機子おいて、電機子鉄心51に24個のスロット1、2・・・が形成され、スロット数が24個である点は図7に示した従来の同期発電機の電機子鉄心と同様であるが、電機子巻線50の形態が全く異なる。なお、電機子巻線50は一般的に3相であるが、図1では、図7について説明したときと同様に巻線形態を分かり易くするため1相のみを示している。
【0025】
図1から分かるように、本発明における電機子巻線50は2スロット1、24あるいは2スロット6、7・・・に分散して巻かれた2スロット分布・全節巻としている。このことにより、巻線片52の数は従来技術の1/2になるとともに、スロット1、2・・・内に巻装する巻線片52は1つで済むことから重ならない単層巻となる。
【0026】
さらに図2から分かるように、本発明は、電機子鉄心51に2スロットピッチスキューを施している。電機子鉄心51のスキューは、電機子鉄心51のスロット1、2、3・・・の存在に起因するスロットリップルと呼ばれる高次高調波成分を発電波形から除去することを目的として従来から採用されて来た発電波形改善策であり、従来は電機子鉄心51に1スロットピッチスキューを施すことで、この目的は達成できていた。
【0027】
しかし、本発明の特徴は、電機子鉄心51のスキューに、スロットリップルの除去だけでなく、従来、電機子巻線の巻線形態に頼っていた3次から9次前後までの低次高調波成分の低減をも担わせるという発想に基づいて、電機子鉄心51に2スロットピッチスキューを施したことにある。
【0028】
図3に本発明の同期発電機の電機子によって得られた巻線係数kを示す。
【0029】
前述したように、調波次数q=1の巻線係数kが1に近く、その他の調波次数q=3、5、7・・・等の巻線係数kが0に近いほど、同期発電機からの発電波形は理想とする正弦波に近くなる。
【0030】
スキュー率kは以下の式で示される。
【0031】
【数1】

ここで、
q:調波次数
:スキューによるステータコア内周におけるひねり寸法
τ:極節(ステータコア内周におけるN極とS極間の寸法)
π:円周率
本発明の場合、数1におけるxは2スロットピッチに相当し、τは6スロットピッチに相当する。従って、xとτの実寸法を測定するまでもなく、それらの比はx/τ=2/6となるから、
数1におけるx/(2τ)は、
/(2τ)=2/(2×6)=1/6
のように決まる。従って調波次数qに1、3、5、・・・を代入すれば各調波次数に対するスキュー率が計算される。
【0032】
実際に調波次数qに1、3、5を代入し、スキュー率kを求めた結果が、以下に示されている。

【0033】
【数2】

このようにして順次調波次数qに1、3、5・・・を代入して計算した結果が、図3に示すスキュー率kである。
【0034】
図3によれば、電機子巻線50が2スロット分布巻であるため、分布係数kは図10に示す従来と同じである。また短節係数kの大きさは全節巻にしたので全ての次数に対して1又は−1であり、図10に示した従来技術の短節係数kより大きくなっている。
【0035】
しかし、スキュー率kの大きさは従来技術のそれに比べて小さくなっていることから、分布係数kを含めたそれらの積である巻線係数kの大きさは従来技術の巻線係数kと全ての調波次数において同じ大きさになるという結果が得られ、2スロット分布・全節巻としても従来と同様な巻線係数が得られ、従来技術に比べ、2層巻が単層巻となって巻線片52の数が1/2となり、スロット内の2層間の絶縁処理が全廃でき、製造工程が大幅に低減された同期発電機の電機子が製造可能となった。
【0036】
図1においては、説明を分かり易くするため電機子鉄心51に24個のスロット1、2・・・に巻装される電機子巻線50の3相の内1相のみを示した。
【0037】
図4は4極同期発電機の電機子において実際に24個のスロット1、2・・・に巻装される3相全ての電機子巻線50を示したもので、その他は図1と同一である。
【0038】
なお、電機子巻線50AはU相、電機子巻線50BはV相そして電機子巻線50CはW相に供する。
【0039】
図5は本発明の他の実施例で、4極において2相(U、V相)の電機子巻線61A、61Bを巻装した電機子の平面図で、単相発電機としての電機子巻線61A、61Bは波形に考慮して2スロット分布・全節巻を2組使っている。この巻線態様は4スロット分布・全節巻とも一般的に呼ばれることもある。
【0040】
図5においても、図2に示したように電機子鉄心51に2スロットピッチスキューを施している。
【0041】
図6に本発明による他の実施例として、n=3、即ち電機子鉄心51のスロット数が36個、極数が6極の場合の電機子巻線(1相のみ)を示す。電機子巻線50は2スロット分布・全節巻であり、電機子鉄心51には、図2と同様に2スロットピッチスキューが施される。図9の従来技術に比べ、2層巻が単層巻となって巻線片が1/2となり、スロット内の2層間の絶縁処理が全廃できた。
【0042】
図1及び図6において、電機子鉄心51のスロット数を24個及び36個について説明したが、これに限らず12n個(nは正の整数)のスロットを形成した電機子とすることができる。また極数も2n極とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の一実施例である3相の電機子巻線の1相のみを示す同期発電機の電機子の平面図である。
【図2】本発明の同期発電機の電機子鉄心の一部を拡大した斜視図である。
【図3】本発明の同期発電機の電機子によって得られた特性を示す図表である。
【図4】本発明の一実施例である図1に関して、3相全ての電機子巻線を巻装した状態を示す同期発電機の電機子の平面図である。
【図5】本発明の他の実施例であり、3相から1相を取り除いた電機巻線を巻装した同期発電機の電機子の平面図である。
【図6】本発明の他の実施例であり、スロット数36個に巻装した電機子巻線の3相の内1相のみを示す6極の同期発電機の電機子の平面図である。
【図7】従来の同期発電機の電機子の平面図である。
【図8】従来の同期発電機の電機子鉄心の一部を拡大した斜視図である。
【図9】従来の6極の同期発電機の電機子の平面図である。
【図10】従来の同期発電機の電機子によって得られた特性を示す図表である。
【符号の説明】
【0044】
1、2、・・ スロット
50 電機子巻線
50A U相電機子巻線
50B V相電機子巻線
50C W相電機子巻線
51 電機子鉄心
52 巻線片


【特許請求の範囲】
【請求項1】
電機子鉄心に12n個(nは正の整数)のスロットを設け、このスロット内に極数2nの電機子巻線を巻装する同期発電機の電機子において、
前記電機子巻線を2スロット分布・全節巻とし、前記電機子鉄心の各スロットに巻装される巻線片が重ならない単層巻になるようにし、前記電機子鉄心に2スロットピッチスキューを施したことを特徴とする同期発電機の電機子。
【請求項2】
前記スロット数を24個とし、4極の電機子巻線を2スロット分布・全節巻とし、電機子鉄心に2スロットピッチスキューを施したことを特徴とする請求項1に記載の同期発電機の電機子。
【請求項3】
前記スロット数を36個とし、6極の電機子巻線を2スロット分布・全節巻とし、電機子鉄心に2スロットピッチスキューを施したことを特徴とする請求項1に記載の同期発電機の電機子。
【請求項4】
前記電機子鉄心のスロットに3相の電機子巻線を巻装したことを特徴とする請求項1に記載の3相の同期発電機の電機子。
【請求項5】
前記電機子鉄心のスロットに2相の電機子巻線を巻装したことを特徴とする請求項1に記載の同期発電機の電機子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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