説明

吐出用液体、吐出方法、液滴化方法、液体吐出カートリッジ及び吐出装置

【課題】蛋白質及びペプチドの少なくとも1種を含有した場合でも熱エネルギーを利用するインクジェット方式により安定に吐出可能である吐出用液体、これを用いた蛋白質及びペプチドの少なくとも1種を含有する液体の吐出方法及び吐出装置を提供すること。
【解決手段】蛋白質及びペプチドの少なくとも1種の水溶液にアミノ酸及びその塩の少なくとも1種と、界面活性剤の少なくとも1種を添加して、熱エネルギーを利用するインクジェット方式での吐出に対する適性を向上させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛋白質及びペプチドの少なくとも1種を含む液体の液滴化に適した液体組成物及びその液滴化方法、並びにこの液滴化方法を用いた吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、蛋白質溶液を液滴として利用する試みが多くなされている。例えば、薬物送達方法としての経粘膜投与や、極微量の蛋白質が必要とされるバイオチップやバイオセンサーへの蛋白質溶液の液滴形成技術の適用が挙げられる。また、蛋白質の結晶制御、生理活性物質のスクリーニングにおいても蛋白質の微小液滴を用いる方法が注目されている(特許文献1および非特許文献1、2参照)。
【0003】
近年では、蛋白質、特に酵素や生理活性を持つ有用な蛋白質は、遺伝子組み換え技術により量産可能になりつつあり、蛋白質の新たな医薬としての探索や利用、および応用分野に対して蛋白質の液滴化は有用な手段となり得る。中でも、微小液滴を用いて患者に多彩な薬剤を投与する手段はその重要性を増しつつある。特に、蛋白質やペプチドを始め、その他の生体物質を肺から投与する点で重要となっている。肺は、その肺胞表面積が50〜140m2と広大であり、吸収障壁である上皮は0.1μmと非常に薄く、加えて酵素活性も消化管と比して小さいために、インスリンに代表される高分子ペプチド系薬物の注射に代わる投与ルートとして注目されてきた。
【0004】
一般に、薬物微小液滴の肺内沈着は、その空力学的粒子径に大きく依存することが知られており、中でも肺深部である肺胞への送達には、粒度分布が1〜5μmでかつ狭い液滴を、高い再現性で投与できる投与形態と安定な製剤の開発が必須となる。
【0005】
体内、特に呼吸器周囲に製剤を投与する方法が従来から幾つかあり、これらを以下に例示する。
【0006】
懸濁物エアロゾル形態の定量噴霧吸入器(MDI)では、噴射剤として、不燃性、あるいは難燃性ガスを液化したものを利用し、単回噴射に供される液化ガスの単位容量を規定することで、定量噴霧を可能としている。しかし、この液化ガスの単位容量による液滴径の制御には課題が残る上に、噴射剤が健康に対して良いとは言い難い。
【0007】
また、媒体として水やエタノールを用いる液剤の噴霧に利用されるスプレー方式の噴霧では、キャピラリーを介して、液剤を搬送用加圧気体とともに放出することで、細かな液滴に変換している。従って、原理的には、かかるキャピラリー流路に供給される液剤の液量を規定することで、噴霧量を制御することは可能であるが、液滴径の制御は難しい。
【0008】
特に、スプレー方式の噴霧では、液剤を細かな液滴に変換する過程で利用される加圧気体を、その後、噴霧された微細な液滴を搬送する気体の流れとしても使用するため、この搬送用の気流中に浮遊される微細な液滴の量(密度)を目的に応じて、変化させることが、構造上困難である。
【0009】
粒度分布が狭い液滴を作製する方法として、インクジェット印刷に使用される液体吐出の原理に基づいた液滴生成器を使用して、極めて微細な液滴を生成し、利用することが報告されている(特許文献3、4)。ここで、当該種のインクジェット方式による液体吐出では、吐出する液体を小さな室に導き、液体に押出す物理的な力を与えて、オリフィスから液滴を吐出させる。押出す方法には、例えば、薄膜抵抗器等の熱変換機を用いて、室上にあるオリフィス(吐出口)を通じて液滴を噴出する気泡を生成する(バブルジェット方式、サーマルインクジェット方式)、ピエゾ振動子を用いて液体を直接室上にあるオリフィスから押出す(ピエゾインクジェット方式)、などが用いられる。液体導入室及びオリフィスはプリントヘッド素子に組み込まれ、このプリントヘッド素子は、液体の供給源に接続されると共に、液滴の吐出を制御するコントローラに接続されている。
【0010】
薬剤を肺から吸収させるにあたっては、特に、蛋白質及びペプチド製剤などでは投与量の精密な制御が必要であり、吐出量を制御できるインクジェット方式の原理に基づく液滴化は非常に好ましい形態である。しかし、液が確実に吐出していることが求められるにもかかわらず、表面張力や粘度を調整しただけの蛋白質及びペプチド溶液の吐出は不安定であり、再現性と効率が高い吐出を行うには困難な場合があった。
【0011】
蛋白質やペプチドをインクジェット方式の原理に基づいて液滴化を行う場合に伴う問題点は、蛋白質やペプチドの立体構造の脆弱な性質にあり、構造が破壊されると蛋白質やペプチドの凝集及び分解を招き、正常な吐出に影響を与える場合がある。インクジェット方式の原理に基づく液滴化の際に加わる物理的な力、例えば圧力、剪断力や微小液滴特有の高い表面エネルギーは、多くの蛋白質やペプチドの構造を不安定にする(バブルジェット方式、サーマルインクジェット方式を用いる場合にはこの他に熱を加えることになる)。特に、インクジェット方式を利用して液滴化を行う場合、吐出用液体は、それ自体の長期の保存安定性は勿論、上述した各種の負荷に対する耐性や安定性が求められる。すなわち、上記の物理的作用は、通常の攪拌や加熱処理などにより加わる剪断力や熱エネルギーより極端に大きく(例えばサーマルインクジェット方式の場合、瞬間的に約300℃、90気圧の付加がかかると考えられている)、また同時に複数の物理的な力が加わるため、蛋白質の安定性は通常蛋白質を扱う状況よりも非常に低下し易い。そのため、従来から用いられている蛋白質の安定化技術では不十分な場合があった。この問題が生じると、液滴を作成する際に蛋白質やペプチドが凝集し、ノズル詰まりを生じさせるため、液滴の吐出が困難となる。
【0012】
さらに、肺吸入に適した大きさである1〜5μmの液滴は、現在市販されているプリンターの一般的な液滴径約16μmと比較して非常に小さいため、液滴にはより大きな表面エネルギーや剪断力が加わる。そのため、蛋白質及びペプチドを肺吸入に適した微小な液滴として吐出することは非常に困難なことである。
【0013】
このような液滴径を考慮した場合の蛋白質及びペプチド溶液の液体吐出装置としては、製造コストが低く、ノズルの高密度化が可能なサーマルインクジェット方式の原理に基づく装置が好ましい。
【0014】
一方、蛋白質やペプチドを安定化する方法として知られている、界面活性剤、グリセロール、種々の糖質、ポリエチレングリコールのような水溶性高分子、アルブミンなどを添加する方法が公知である。また、蛋白質製剤の長期保存方法として、エリスロポエチンやG-CSF、インターフェロンにアミノ酸を添加する方法(特許文献5、6、7)が知られている。しかし、蛋白質やペプチドの種類や濃度と添加物の濃度によっては、サーマルインクジェット方式での吐出ができなかった。
【0015】
また、インクジェット印刷に用いられるインクに適した添加物である、エチレングリコール、グリセリンなどのポリオール類、尿素などの保湿剤などの処方を行っても蛋白質やペプチドを吐出する場合における吐出性能の向上にはほとんど効果がない。
【0016】
サーマルインクジェット方式を用いて作成した液滴の肺吸入に用いる蛋白質やペプチドの液体組成物については、表面張力を調節する化合物や保湿剤を添加したもの(特許文献8)が知られている。ここでは、溶液の表面張力や粘度、保湿作用によって液滴化した溶液中の蛋白質及びペプチドの安定性が上昇するとして、界面活性剤やポリエチレングリコールなどの水溶性高分子を加えている。
【0017】
しかしながら、特許文献8には、吐出の安定性についての記載はなく、さらに、本発明者らの検討によれば、界面活性剤や水溶性高分子の添加は、蛋白質やペプチドの種類によっては効果がなく、また濃度が高くなると効果が不十分であり、添加物自体が吐出の安定性を阻害することもあった。また、界面活性剤は効果が全く認められないものが多く、表面張力や粘度あるいは保湿作用が蛋白質及びペプチド溶液の吐出安定性を規定しているわけではなかった。言い換えれば、前記の方法は蛋白質やペプチドをサーマルインクジェット方式で吐出する際、吐出安定化の一般的な方法ではなかった。従って、実際の使用に際しては、蛋白質及びペプチドを安定に吐出することが可能な吐出用液体の開発が必須となる。
【0018】
蛋白質やペプチドをサーマルインクジェット方式で吐出して利用する方法として、蛋白質チップなどを作る方法などが開示(特許文献9、特許文献10)されている。しかし、実際に蛋白質及びペプチドが安定に吐出しているかについての記載はなかった。
【0019】
既に説明したように、液状試料を微細に液滴化した上で、噴出する方法の一つとして、インクジェット方式が公知である。このインクジェット方式は、特に、液滴化した上で噴出する液量に関して、極微量でも高い制御性を示すという特長を有している。このインクジェット方式の微細液滴噴出方式としては、ピエゾ圧電体素子などを利用する振動方式や、マイクロ・ヒーター素子を利用するサーマルインクジェット方式が知られている。ピエゾ圧電体素子などを利用する振動方式は、利用される圧電体素子の微小化に限界があり、単位面積当たりに設けられる噴出口の数が制限される。また、単位面積当たりに設けられる噴出口の数が多くなるに伴い、その作製に要するコストが急激に高くなる。それに対して、サーマルインクジェット方式では、利用するマイクロ・ヒーター素子の微小化は比較的に容易であり、ピエゾ圧電体素子などを利用する振動方式と比較して、単位面積当たりに設ける噴出口の数も多くでき、また、その作製に要するコストも遥かに低くできる。
【0020】
サーマルインクジェット方式を適用する際には、各噴出口から噴出される微細液滴の適切な噴霧状態と液量を制御するために、噴出される液の物性を調整する必要がある。すなわち、噴出される液状試料を構成する、溶媒の種類・組成、溶質濃度などの液組成に工夫を施すことで、目的とする微細液滴の液量を得られるように調製されている。さらには、サーマルインクジェット方式の原理に基づく液滴の噴出機構に関しても、様々な技術開発が進められており、プリンターに装備される通常のインクジェットヘッドでは、噴出される個々の液滴の液量は数ピコリットル程度であるのに対し、その液量が、サブピコリットル、あるいはフェムトリットルオーダーの極めて微細な液滴が得られる噴出機構・方法の技術も開発されている(特許文献9を参照)。例えば、数μmサイズの体細胞を、薬剤の塗布を施す対象物とする際に、噴出される個々の液滴として、前記の極めて微細な液滴を利用する必要が生じる場合も想定される。
【特許文献1】特開2002−355025号公報
【特許文献2】米国特許第5894841号明細書
【特許文献3】特開2002−248171号公報
【特許文献4】特許第03618633号明細書
【特許文献5】国際公開第WO02/017957号パンフレット
【特許文献6】特表2003−510368号公報
【特許文献7】国際公開第WO02/094342号パンフレット
【特許文献8】特開2003−154655号公報
【特許文献9】特許第03610231号明細書
【特許文献10】国際公開第WO02/092813号パンフレット
【非特許文献1】Allain LR et. al.「Fresenius J. Anal. Chem.」 2001年、 371巻 p.146−150
【非特許文献2】Howard EI、Cachau RE 「Biotechniques」 2002年 33巻 p.1302-1306
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
本発明は、蛋白質及びペプチドの少なくとも1種を含有する液滴を熱エネルギーを利用したインクジェット方式の原理に基づいて安定に吐出するための吐出用液体(液体組成物)、並びにこの吐出用液体の吐出に適した吐出方法及び吐出装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明にかかる吐出用液体は、吐出用のエネルギーを利用して吐出口から吐出させるための吐出用液体であって、蛋白質及びペプチドから選択された少なくとも1種と、アミノ酸及びその塩類から選択された少なくとも1種と、界面活性剤と、水を主体とする液媒体と、を含有することを特徴とする吐出用液体である。
【0023】
本発明にかかる液体の吐出方法は、上記の吐出用液体をインクジェット方式の原理に基づいて吐出することを特徴とする吐出方法である。
【0024】
本発明にかかる液体吐出用カートリッジは、上記の吐出用液体が収納されるタンクと、サーマルインクジェットの原理に基づく吐出用ヘッドと、を有することを特徴とする液体吐出用カートリッジである。
【0025】
本発明にかかる吐出用液体の液滴化方法は、蛋白質及びペプチドの少なくとも1種を含む液体に熱エネルギーを付与して該液体を液滴化する方法であって、流路中に充填された液体に熱エネルギーを付与して該流路に連通する吐出口から液滴として吐出する工程を有し、前記液体が、上記の吐出用液体であることを特徴とする液滴化方法である。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、蛋白質及びペプチドの少なくとも1種を含む溶液に、アミノ酸類と界面活性剤を同時に添加することでインクジェット方式に基づいた安定な吐出が可能である吐出用液体を得られる。蛋白質及びペプチドの少なくとも1種が薬効成分である場合には、この吐出用液体を、携帯型の吐出装置で吐出して液滴化し、それを吸入することによって薬効成分としての蛋白質及びペプチドの少なくとも1種が肺に到達して、さらに薬効成分が吸収され得る。また、上記の方法で基板上に吐出することによりバイオチップ、バイオセンサーの作製、センシング、生体物質のスクリーニングに利用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下に、本発明を詳細に説明する。本発明における蛋白質とは、アミノ酸が多数ペプチド結合でつながった、水溶液中に溶解または分散する任意のポリペプチドを意味する。また、本発明におけるペプチドとは、2つ以上のアミノ酸がペプチド結合でつながったアミノ酸数50以下のものを意味する。蛋白質及びペプチドは化学的に合成しても天然源から精製しても良いが、典型的には天然蛋白質及びペプチドの組換え体である。普通は蛋白質及びペプチド分子へのアミノ酸残基の共有結合によって蛋白質及びペプチドを化学的に改質し、それによって蛋白質及びペプチドの治療効果を長引かせるなど、効果の向上を図ることも可能である。
【0028】
本発明を実施する際には、液滴化することが望ましい各種蛋白質及びペプチドが使用され得る。本発明で使用されうる蛋白質及びペプチドは、生体に対し生理活性を有するもの、生体内で活性を有するものであれば特に限定されない。最も典型的には、本発明による蛋白質及びペプチドの液滴化は、治療上有用な蛋白質及びペプチドを肺に送達させるために好適に利用可能である。
【0029】
蛋白質及びペプチドの例としては、カルシトニン、血液凝固因子、シクロスポリン、G−CSF、GM−CSF、SCF、EPO、GM−MSF、CSF−1のような各種造血因子、IL−1、IL−2、IL−3、IL−4、IL−5、IL−6、IL−7、IL−8、IL−9、IL−10、IL−11、IL−12のようなインターロイキン類、IGF類、M−CSF、チモシン、TNFおよびLIFを含めたサイトカイン類が挙げられる。更に、使用し得るほかの治療効果を有する及びペプチドには、血管作用ペプチド、インターフェロン類(アルファ、ベータ、ガンマまたは共通インターフェロン)、成長因子又はホルモン、例えばヒト成長ホルモン又は(ウシ、ブタまたはニワトリ成長因子のような)他の動物成長ホルモン、インスリン、オキシトシン、アンジオテオシン、メチオニンエンケファリン、サブスタンスP、ET−1、FGF、KGF、EGF、IGF、PDGF、LHRH、GHRH、FSH、DDAVP、PTH、バソプレッシン、グルカゴン、ソマトスタチン、等が含まれる。プロテアーゼ阻害剤、例えばロイペプチン、ペプスタチン、(TIMP−1、TIMP−2又は他のプロテイナーゼ阻害剤のような)メタロプロテイナーゼ阻害剤も使用される。BDNFやNT3のような神経成長因子も使用される。tPA、ウロキナーゼ及びストレプトキナーゼのようなプラスミノーゲン活性化因子も使用される。親蛋白質の主構造のすべてもしくは一部を有しており且つ親蛋白の生物学的諸性質の少なくとも一部を有している蛋白質のペプチド部分も使用される。アナログ、例えば置換又は欠陥アナログ、あるいはペプチド類似物のような改変アミノ酸、PEG、PVAなどの水溶性高分子で修飾された上記物質を含むものも使用される。前記の蛋白質及びペプチドが肺に送達できることは Critical Reviews in Therapeutic Drug Carrier Systems、 12(2&3)(1995)で明らかにされている。
【0030】
さらに、バイオチップ、バイオセンサーの作製や蛋白質及びペプチドのスクリーニングなどの利用には、上記の蛋白質及びペプチドに加え、オキシダーゼ、リダクターゼ、トランスフェラーゼ、ハイドラーゼ、リアーゼ、イソメラーゼ、シンテターゼ、エピメラーゼ、ムターゼ、ラセアーゼなどの各種酵素、IgG、IgEなどの各種抗体及びレセプター、及びこれらの抗原、アレルゲン、シャペロニン、アビジン、ビオチンなど診断に用いられる蛋白質及びペプチドが固定化するための試薬で修飾された上記物質も使用され得る。
【0031】
吐出用液体中に含有させる蛋白質及びペプチドとしては、例えば分子量が0.3k〜150kDaの範囲にあるものを用いることができる。また、蛋白質及びペプチドから選択された少なくとも1種の吐出用液体中での含有量は、その目的や用途、蛋白質及びペプチドの種類に応じて選択されるが、好ましくは、1μg/ml〜200mg/ml、より好ましくは0.1mg/ml〜60mg/mlの範囲から選択される。
【0032】
インクジェット方式によるインクの吐出性の改善については、一般的に界面活性剤やエチレングリコールなどの溶剤を添加することが知られている。しかし、蛋白質及びペプチドの少なくとも1種を含む溶液を吐出する場合には、これらを添加するだけでは吐出性の向上は認められず、新たな添加剤が必要であった。
【0033】
本発明者らの検討によると、蛋白質及びペプチドが有効な生理活性を示す濃度にて、添加物を加えずにサーマルインクジェット方式で吐出した場合、蛋白質及びペプチドの種類にもよるが、吐出周波数20kHzでは、分子量が3000以上となるとほとんど吐出しなくなることが確認されている。
【0034】
なお、本発明にサーマルインクジェット方式を適用した場合に、最も吐出性向上を顕著に示すので、以下の説明においてはサーマルインクジェット方式の原理に基づいた構成を中心に述べる。
【0035】
なお、サーマルインクジェット方式を用いた場合、個々の液体吐出ユニットについて、吐出口の口径、吐出に利用される熱パルスの熱量、それに用いるマイクロ・ヒーターなどのサイズ精度、再現性を高くすることが可能であり、このヘッド上に高密度に配置される多数の液体吐出ユニット全体における狭い液滴径分布を達成することが可能である。また、ヘッドの製作コストが低く、ヘッドを頻繁に交換する必要がある小型の装置が求められる用途への適用性も高い。従って、液体吐出装置に携帯性や利便性が求められる場合には、特に、サーマルインクジェット方式の吐出装置が好ましい。
【0036】
本発明者らは、鋭意研究を進めた結果、有効成分として蛋白質及びペプチドの少なくとも1種を含む溶液にアミノ酸及びその塩類と界面活性剤とを含む溶液が、熱エネルギーを利用したインクジェット方式の原理によって安定に吐出することを見出した。
【0037】
驚くべきことに蛋白質やペプチドにアミノ酸単独、または界面活性剤を単独で添加した溶液では、インクジェット方式での吐出安定性には、ほとんど影響を与えなかった。しかし、単独ではほとんど効果のないこれら2種を組み合わせることで、高い相乗効果が得られ、インクジェット方式で非常に安定して、蛋白質及びペプチドを含む溶液を吐出することが可能となる。
【0038】
アミノ酸と界面活性剤を組み合わせることで、蛋白質及びペプチド類の吐出の安定性に大きく寄与する原因は明らかになっていないが、以下のように推定される。アミノ酸と界面活性剤を同時に添加した溶液でも、界面活性剤の臨界ミセル濃度や気泡力などは変化しない。そのため、アミノ酸は蛋白質及びペプチドと弱く相互作用しており、蛋白質及びペプチド表面での濃度が高くなっていると考えられる。このときサーマルインクジェット方式に基づく吐出により蛋白質及びペプチドに負荷がかかり、蛋白質及びペプチドの疎水部分が表面へ露出したときに、アミノ酸と作用することにより、他の蛋白質及びペプチドとの衝突を抑え、凝集しにくくすることができる。この効果は、蛋白質やペプチドを溶液状態で保存しておく場合には十分ではあるが、吐出による負荷に対する安定化作用としては不十分であるために、アミノ酸だけを蛋白質やペプチド溶液に添加しただけでは効果が認められないと考えられる。
【0039】
一方、界面活性剤の効果は、吐出時の負荷により、蛋白質及びペプチドの疎水部分が露出する、または、蛋白質及びペプチドより水分子がはがされることによって、水に不溶となった析出物や、疎水部分同士が相互作用して生じた凝集物に作用して、水に再溶解させる効果があると考えられる。しかし、界面活性剤単独では蛋白質やペプチドの凝集を抑制したり、蛋白質及びペプチドに水分子を保持させることができず、再溶解作用が追いつかないために、吐出の安定性を確保できないと考えられる。
【0040】
このように、二つの異なる効果が合わさることにより、蛋白質及びペプチドの凝集が大きくなりすぎることを防ぎながら、多少生じてしまう析出物や凝集物をすばやく水に再溶解させるために熱エネルギーの溶液への伝達が安定し、吐出も安定するものと考えられる。
【0041】
また、本発明を実施する場合において、サーマルインクジェットヘッドの駆動周波数はより低いほうが好ましい。駆動周波数によって吐出の安定性が異なる理由は、サーマルインクジェットヘッドのヒータによって吐出用液体が加熱されたときに、蛋白質及びペプチドの一部が水に不溶性となり、ヒータからのエネルギーが溶液に伝達するのを妨げるためと考えられる。駆動周波数が低い場合には一時的に不溶物が生じたとしても、次の駆動までの時間に再溶解するのに対し、駆動周波数が高くなると、溶解の回復が不十分であり、その結果として吐出の安定性が低下するものと考えられる。しかし、効率的に多くの溶液を吐出させるためには、ある程度以上の高周波数で吐出しなければならない。本発明において好ましい駆動周波数は、0.1kHz〜100kHzであり、より好ましくは、1kHz〜30kHzである。
【0042】
アミノ酸とは、炭素原子を中心にアミノ基とカルボキシル基を有する化合物を意味する。本発明においては生体を構成する蛋白質及びペプチド中に存在する20種類のアミノ酸を指す。また、本発明に利用されるアミノ酸はD体、L体どちらでも良い。
【0043】
アミノ酸の中で好ましいのは、アルギニン、プロリン、グリシン、グルタミン酸、アスパラギン酸、バリン、トレオニン、アラニン及びこれらの塩が上げられ、この中でより好ましいのは、アルギニン、プロリン、グリシン及びこれらの塩である。
【0044】
塩としては、酸性から中性のアミノ酸に対しては、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属塩、アンモニウム塩、また、中性から塩基性のアミノ酸に対しては、塩酸塩、硫酸塩、リン酸塩、硝酸塩、酢酸、ラウリル酸などの脂肪酸を含むカルボン酸塩、シュウ酸塩などを用いても良い。好ましい塩は、酸性アミノ酸に対しては、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩であり、中性アミノ酸に対してはナトリウム塩、カリウム塩であり、塩基性アミノ酸に対しては、塩酸塩、酢酸塩、脂肪酸塩である。
【0045】
また、アミノ酸及びその塩から選択された少なくとも1種の吐出用液体中での含有量は、蛋白質及びペプチドの種類、含有量に応じて選択されるが、好ましくは、10μg/ml〜2.0g/ml、より好ましくは1.0mg/ml〜200mg/mlの範囲から選択される。
【0046】
本発明における界面活性剤とは、極性部分と非極性の部分との両方を一つの分子中に有する化合物、または極性部分と非極性部分とがイオン結合などの2次結合で結ばれている化合物であって、当該界面活性剤が二つの非混和性相関の界面張力を界面での分子整列によって減少させ、かつミセルを形成し得る性質を有する、これらの部分のそれぞれが分子中の離れた局在領域に位置する化合物を意味する。
【0047】
使用され得る界面活性剤に制限はないが、例えばソルビタンモノカプリレート、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノパルミテート等のソルビタン脂肪酸エステル;N−ヤシ油脂肪酸グリシン、N−ヤシ油脂肪酸グルタミン酸、N−ラウロイルグルタミン酸などのアミノ酸を親水基に持つ界面活性剤である、N−アシルアミノ酸;アミノ酸の脂肪酸塩;グリセリンモノカプリレート、グリセリンモノミリテート、グリセリンモノステアレート等のグリセリン脂肪酸エステル;デカグリセリルモノステアレート、デカグリセリルジステアレート、デカグリセリルモノリノレート等のポリグリセリン脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレンソルビタントリオレエート、ポリオキシエチレンソルビタントリステアレート等のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンソルビットテトラステアレート、ポリオキシエチレンソルビットテトラオレエート等のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル;ポリオキシエチレングリセリルモノステアレート等のポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル;ポリエチレングリコールジステアレート等のポリエチレングリコール脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンラウリルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル;ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンプロピルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンセチルエーテル等のポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル;ポリオキシエチエレンノニルフェニルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル;ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(ポリオキシエチレン水素ヒマシ油)等のポリオキシエチレン硬化ヒマシ油;ポリオキシエチレンソルビットミツロウ等のポリオキシエチレンミツロウ誘導体;ポリオキシエチレンラノリン等のポリオキシエチレンラノリン誘導体;ポリオキシエチレンステアリン酸アミド等のポリオキシエチレン脂肪酸アミド等のHLB6〜18を有するもの;陰イオン界面活性剤、例えばセチル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、オレイル硫酸ナトリウム等の炭素原子数8〜18のアルキル基を有するアルキル硫酸塩;ポリオキシエチレンラウリル硫酸ナトリウム等の、エチレンオキシドの平均付加モル数が2〜4でアルキル基の炭素原子数が8〜18であるポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩;ラウリルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキル基の炭素原子数が8〜18であるアルキルベンゼンスルホン酸塩;ラウリルスルホコハク酸エステルナトリウム等の、アルキル基の炭素原子数が8〜18のアルキルスルホコハク酸エステル塩;天然系の界面活性剤、例えばレシチン、グリセロリン脂質;スフィンゴミエリン等のフィンゴリン脂質;炭素原子数8〜18の脂肪酸のショ糖脂肪酸エステル等を典型的例として挙げることができる。本発明の吐出用液体(液体組成物)には、これらの界面活性剤の1種または2種以上を組み合わせて添加することができる。
【0048】
好ましい界面活性剤はポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルであり、特に好ましいのはポリオキシエチレン20ソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレン20ソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレン20ソルビタントリステアレート、ポリオキシエチレン20ソルビタンモノラウレート、N−ヤシ油脂肪酸グリシン、N−ヤシ油脂肪酸グルタミン酸、N−ラウロイルグリシン、N−ラウロイルグルタミン酸、N−ラウロイルサルコシン、ラウラミドプロピルベタイン、アルギニンヤシ油脂肪酸塩であり、最も好ましいのはポリオキシエチレン20ソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレン20ソルビタンモノオレート、N−ヤシ油脂肪酸グリシン、N−ヤシ油脂肪酸グルタミン酸、N−ラウロイルサルコシン、ラウラミドプロピルベタイン及びアルギニンヤシ油脂肪酸塩である。また、肺吸収用として特に好適なものは、ポリオキシエチレン20ソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレン20ソルビタンモノオレートである。
【0049】
界面活性剤の添加濃度は、共存する蛋白質及びペプチドの種類、含有量にもよるが、1μg/ml〜1.0g/mlより好ましくは1.0mg/ml〜200mg/mlの範囲で、臨界ミセル濃度以上の濃度から選択される。
【0050】
このとき、蛋白質及びペプチド、アミノ酸、界面活性剤の含有量の比は、それぞれの種類にもよるが、蛋白質及びペプチド1重量部に対して、アミノ酸およびその塩類を0.1から200重量部、界面活性剤を0.01から100重量部の比で添加することが好ましい。より好ましくは蛋白質及びペプチド1重量部に対して、アミノ酸およびその塩類を0.1から20重量部、界面活性剤を0.1から10重量部の比で添加することである。この量より少ないと、タンパク質とそれぞれの添加物との相互作用が効果的に起こらず、凝集を抑制できない。また、これ以上の濃度を添加しても、タンパク質の周囲には十分な添加物があるために効果は変らない。さらに、添加物自体が高濃度に溶解することによって、添加物自体が溶解しにくくなり、析出により吐出に悪影響を与えることもある。
【0051】
液媒体の構成としては、水または水を主体とし水溶性有機溶媒を含む混合液媒体が用いられることが好ましい。具体的な水溶性有機溶剤の例としては、例えば、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類;アセトン等のケトン類;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール類;エタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2,6−ヘキサントリオール、チオジグリコール、ヘキシレングリコール、ジエチレングリコール等のアルキレン基が2〜6個の炭素原子を含むアルキレングリコール類;グリセリン;エチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、ジエチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、トリエチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル等の多価アルコールの低級アルキルエーテル類;N−メチル−2−ピロリドン等が挙げられる。
【0052】
上記水溶性有機溶剤の含有量は、一般には吐出液の全重量に対して重量%で0.1%〜40%が好ましく、より好ましくは1%〜30%の範囲である。又、液媒体中の水の含有量は、30〜95重量%の範囲で使用される。30重量%より少ないとタンパク質の溶解性等が悪くなり、吐出液の粘度も高くなる為好ましくない。一方、95重量%より多いと蒸発成分が多すぎて、十分な固着特性を満足することが出来ない。 本発明においては、蛋白質とアミノ酸や界面活性剤は、予め混合されていても良いし、吐出直前に混合されても良いが、吐出前には均一に混合されていることが好ましい。
【0053】
本発明の実施形態において、微生物の影響を除去するために抗菌剤、殺菌剤、防腐剤を添加しても良い。例えば、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンザトニウムのような4級アンモニウム塩類、フェノール、クレゾール、アニソール等のフェノール誘導体、安息香酸、パラオキシ安息香酸エステルのような安息香酸類、ソルビン酸などが挙げられる。
【0054】
本発明の実施形態において、吐出液体の保存時の物理的安定性を増加させるためにオイル、グリセリン、エタノール、尿素、セルロース、ポリエチレングリコール、アルギン酸塩を添加してもよく、また、化学的安定性を増加させるために、アスコルビン酸、クエン酸、シクロデキストリン、トコフェロールまたは他の抗酸化剤を添加しても良い。
【0055】
吐出用液体のpHを調整するために、pH調整剤や緩衝剤を添加しても良い。例えば、アスコルビン酸、クエン酸、希塩酸、希水酸化ナトリウムなどの他、リン酸水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素カリウム、リン酸二水素カリウム、PBS、HEPES、Trisなどの緩衝液を用いても良い。
【0056】
液体の等張化剤として、アミノエチルスルホン酸、塩化カリウム、塩化ナトリウム、グリセリン、炭酸水素ナトリウムを添加しても良い。
【0057】
噴霧液として本発明にかかる吐出用液体を用いる場合は、矯味・矯臭剤としてグルコースやソルビトールといった糖類やアステルパームのような甘味剤、メントールや各種香料を添加しても良い。また、親水性のものだけでなく、疎水性の化合物やオイル様で用いても良い。
【0058】
更には、必要に応じて、吐出用液体の使用目的に適合する種々の添加剤、例えば、表面調整剤、粘度調整剤、溶剤、保湿剤を適正量添加することができる。具体的には、配合可能な添加剤として、親水性バインダー、疎水性バインダー、親水性増粘剤、疎水性増粘剤、グリコール誘導体類、アルコール類、電解質を例示でき、これらより選ばれて単一でもよく、また混合物でもよい。なお、上記に例示した添加剤として利用する各種の物質に関しては、治療用の液剤の調製に際し、添加可能な副次成分として、各国の薬局方などに記載されている、医薬用途のもの、あるいは、食品、化粧品において利用が許容されているものを用いることがより好ましい。
【0059】
上記の添加剤として、配合される各種の物質の添加比率は、対象となる蛋白質及びペプチドの種類に依って異なるが、一般に、各々重量基準で0.001%〜40%の範囲に選択することが好ましく、0.01%〜20%の範囲内とすることがより好ましい。また、上記の添加剤の添加量は種類や量および組合せによって異なるが、吐出性の観点から、前記の蛋白質及びペプチド1重量部に対して、0.1重量部から200重量部であることが好ましい。
【0060】
本発明にかかる吐出用液体をバイオチップ、バイオセンサーの製造や蛋白質及びペプチドのスクリーニングに用いる場合には、現在市販されているインクジェットプリンターとほとんど同様のシステムを利用することができる。
【0061】
一方、本発明にかかる液体吐出装置は、サーマルインクジェット方式によって吐出用液体の微小液滴を吐出させることが可能な、サーマルインクジェット方式の原理に基づいた吐出用ヘッド部を有し、ヘッド部を構成する多数の吐出ユニットを独立駆動可能な構成とすることが好ましい。その際、各吐出ユニットの独立駆動に要する複数の制御信号等の接続に供する電気接続部と各吐出ユニットとの間を繋ぐ配線とを一体化し、加えて、吐出用液体を収納するタンクと、このタンクからサーマルインクジェット原理に基づいた吐出用ヘッドへ吐出用液体を供給する手段としての液流路と、を含めて、各部が一体的に構成された液体吐出用カートリッジの形態とすることが好ましい。
【0062】
図1に、本発明にかかる吐出用液体を用いた基板上への蛋白質及びペプチドスポットの形成を行うための装置の概要を示す。基板5は、例えば試料中に含まれる各種物質を検出するための蛋白質、ペプチド、酵素、抗体などの標準品の固定領域を形成した検出用プレートとして利用されるものである。液体吐出ヘッド3は、吐出エネルギーが液体に付与される液路(不図示)と、液路に連通する吐出口(不図示)とを少なくともとも有する。液体を貯留したタンク1から液体供給路2を介して液路に供給された液体に対して吐出エネルギーが付与され、液体は吐出口から液滴4として基板5表面の所定位置に吐出される。ヘッド3は、矢印で示される面方向に位置調整を可能とするキャリッジ上に配置され、ヘッド3を移動させることで、液滴4の基板5上での着弾位置が調整される。液滴4の吐出のタイミングは吐出ヘッド3に電気的に接続されたコントローラ6により制御される。図2に、蛋白質及びペプチドのスポットを基板表面に配置した一例の平面図を示す。図示した例では、1種類の吐出用液体を用いているが、吐出ヘッド部分に、それぞれが異なる吐出用液体を吐出する独立駆動可能な吐出ユニットの複数を配置し、各ユニットのそれぞれに所定の吐出用液体の供給系を接続することで、複数種のスポットを基板上に形成できる。更に、各スポット形成位置への液体付与量を変化させることで、異なる付着量のスポットを形成可能である。
【0063】
その際、吐出ヘッド3には、基板上に形成されるスポットの大きさや配置密度などに応じて種々の構成のものが利用できる。1液滴量をサブピコリットル、あるいは、フェムトリットルオーダーとする場合は、かかるオーダーでの液滴量の制御性にも優れている特開2003−154655号公報に開示される極微小の液滴吐出用ヘッドを利用することが好ましい。
【0064】
次に、本発明にかかる吐出用液体を噴霧用に用いる場合、特に、吸入装置に適用する場合について述べる。吸入装置としては、吐出用液体(液剤)を細かな液滴に変換する部分と、噴霧された微細な液滴をその搬送用の気流中に混入する部分と、を独立して有する構成の吸入装置を用いることが好ましい。このように、微細液滴への変換部分と微細液体を含む気流を形成する部分とを分離することで、その利点を活かして、投与対象者に気流を吸入させる際に気流中に、有効成分としての蛋白質やペプチドの量、すなわち各単回投与当たりの所定用量をより均一に調整可能となる。また、上記のように、吐出ヘッド部分を、それぞれが多数の吐出口を有する複数の吐出ユニット毎に異なる有効成分を吐出する構成とすることで複数の有効成分の吐出量を制御することもできる。
【0065】
また、噴霧機構としての吐出ヘッドとして、吐出口を単位面積当たり高密度に配置し得るサーマルインクジェット方式の原理に基づいた吐出用ヘッドを利用することで、使用者が携帯所持できるような吸入装置の小型化が容易となる。
【0066】
肺吸入用の吸入装置においては、気流中に含まれる液滴の粒度分布が1〜5μmで且つ狭い粒度範囲を示していることが重要となる。更に、携帯用として利用される場合には、コンパクトな構成を有する必要がある。
【0067】
そのような吸入装置の有する液体吐部の一例の概要を図3に示す。この液体吐出部は、筐体10内に、ヘッド部13と、吐出用液体を貯留するタンク11と、タンク11から液体をヘッド部13に供給するための液路12と、ヘッド部13の各液剤吐出ユニットの駆動を制御するコントローラと駆動信号、制御信号などのやり取りを行うための電気的接続部15と、ヘッド部13と電気的接続部15との内部配線14とが一体形成されたヘッドカートリッジユニットとしての構造を有する。このヘッドカートリッジユニットは、必要に応じて吸入装置から着脱自在な構成とされる。ヘッド部13としては、特開2003−154665号公報に記載された液滴吐出ヘッドの構成を有するものが好適である。
【0068】
このような構成のヘッドカートリッジユニットを有する携帯用の吸入装置(吸入器)の一例を、図4及び5を参照にして説明する。図4及び図5に示す吸入器は、医療目的で利用される吸入器として使用者が携帯所持できるように小型化した一例の構成を有するものである。
【0069】
図4は、吸入器の外観を示す斜視図である。この吸入器では、吸入器本体20及びアクセスカバー16によりハウジングが形成されている。ハウジング内には更にコントローラ、電源(電池)など(不図示)が収納されている。図5は、アクセスカバー16が開いた状態を図示したもので、アクセスカバー16が開くと、ヘッドカートリッジユニット21とマウスピース18との接続部が見えてくる。利用者の吸入動作によって、空気取り入れ口17から空気が吸入器内に吸引されマウスピース18内へ誘導されてそこに入り込み、ヘッドカートリッジユニット21のヘッド部13に設けた吐出口から吐出された液滴と混合されて混合気流となる。この混合気流は、人が咥える形状をなしているマウスピース出口へと向かう。マウスピースの先端を利用者が口内に挿入して歯で保持し咥え、息を吸込むことで、ヘッドカートリッジユニットの液体吐出部から吐出した液滴を効果的に吸引することができる。
【0070】
なお、ヘッドカートリッジユニット21は、必要に応じて吸入器から着脱自在な構成とすることができる。
【0071】
図4及び5に示す構成を採用することで、形成された微小液滴は、吸気とともに投与対象者の咽喉、気管内部へと自然到達可能となる。従って、噴霧される液体の量(有効成分の投与量)は、吸気される空気の容量の大小には依存せず、独立にコントロール可能である。
【実施例】
【0072】
(参考例1)
実施例に入る前に、蛋白質溶液の吐出が困難であることの、より一層の理解のため、蛋白質のみをサーマルインクジェット方式で吐出させた場合の吐出量を示す。蛋白質溶液はアルブミンをPBSに溶解させたものを用い、各濃度にてバブルジェットプリンター(商品名PIXUS950i;キヤノン(株)社製)を溶液が回収できるよう改造した液体吐出装置を用いて吐出した。純水を同様に吐出したときの吐出量(1液滴量)を100%として、各アルブミン溶液の吐出量(1液滴量)を表した。結果を図6に示す。
【0073】
アルブミン濃度1μg/mLの低濃度でも吐出の安定性は完全ではなく、さらに蛋白質濃度が高くなると、吐出量が変化し、徐々に吐出されなくなることがわかる。蛋白質濃度に応じて吐出量が大きくばらつくと、例えば、基板上に蛋白質及びペプチドのスポットを定量的に配置する場合において所望の蛋白質及びペプチド濃度に調節することが困難になる。更に、薬剤吸入器として利用する場合においても、各単回投与における蛋白質及びペプチド量の均一化を図る上で吐出用液体の蛋白質及びペプチド濃度の調節が困難となる。更に、吸入器では更に小さな液滴径で吐出しなければならず、蛋白質及びペプチド溶液の吐出は困難となることが考えられる。
【0074】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、これらの実施例は、より一層の深い理解のために示される具体例であって、本発明は、これらの具体例に何ら限定されるものではない。なお、「%」は重量%を示す。
【0075】
(実施例1〜24及び比較例1〜11)
(バブルジェット方式の原理に基づいた蛋白質溶液の液滴化)
吐出用液体の作製手順は、予め適切な濃度のインスリンを0.1M HCl水溶液に溶解させ、さらに攪拌しながらアミノ酸及びそれらの塩類と界面活性剤を添加し、0.1M NaOHでpH7.4に調製した後、pH7.4の緩衝液にて所定のインスリン濃度となるように定溶した。
【0076】
一方、3μmのノズル径を持つバブルジェット方式による液体吐出ヘッドを用意し、これに接続したタンク内に30%エタノール水溶液を充填した。液体吐出ヘッドに電気的に接続したコントローラにより吐出ヘッドを駆動して液体を吐出口から吐出させ、得られた液滴(噴霧)の粒径及び粒度分布を、レーザー回折式粒度分布測定装置(スプレーテック、マルバーン社製)により測定し、確認した。その結果、約3μmにシャープな粒度分布を持つ液滴として検出された。
【0077】
上記の手順で調製した吐出用液体を3μmのノズル径を持つ上記液体吐出ヘッドに接続するタンク内に充填し、吐出コントローラによって吐出ヘッドを駆動して、周波数20kHz、電圧12Vにて1秒間吐出(第1回吐出)を行った。更に、3秒間インターバルを置いてから次の1秒間吐出(第2回吐出)を行った。この操作を50回繰り返し、吐出の継続性を目視にて確認した。50回以上でも液滴が吐出されたものを○、15回から50回の範囲で液滴吐出が途切れた場合を△、15回未満で液滴吐出が途切れた場合を×として評価した。また、吐出用液体を吐出前後でHPLC分析(測定条件:装置;日本分光、カラム;YMC−Pack Diol−200、500×8.0mmID、溶離液;0.1MKH2PO4−K2HPO4(pH7.0)containing 0.2M NaCl、流量;0.7mL/min、温度;25℃、検出;UV at 215nm)を行い吐出用液体の組成の変化を確認した。
【0078】
比較例として、純水及びインスリン溶液、アミノ酸類や界面活性剤を単独でインスリンに添加した吐出用液体を調製し、実施例と同様に液滴吐出実験を行った。なお、実施例、比較例で検討した処方、及び結果を下記表1に列挙した。
【0079】
【表1】

【0080】
比較例1の純水はインスリンを含んでいないので安定に吐出されつづけたが、インスリンを含有し、かつアミノ酸のみを添加した場合にはほとんど吐出しなかった。また、界面活性剤を添加した場合にも、吐出量が安定してはいなかった。それに対し、実施例1〜24においては、吐出が正常に行われ、吐出が安定化していた。実施例に対してHPLC分析を行ったところ、吐出前後でピーク位置の変化やピーク強度の変化はなく、液組成の変化は認められなかった。また、比較例7について同様にHPLC分析を行ったところ、インスリンのピークが減少しており、組成が変化していることが確認された。
【0081】
(実施例25)
(薬理活性の確認)
実施例10で示した組成において、吐出前後の薬理活性について検討を行った。実験は、1日間絶食させたウィスターラット(雄性、8週齢、体重約250g)に、ネンブタール麻酔を施した後、尾静脈より採血し、この状態をベースラインとした。その後、実施例10の組成の溶液をサーマルインクジェット方式で吐出して回収し、1.6U/kgとなるよう皮下投与し、投与後15、30、60、120分後に尾静脈より採血を行った。採血した血液を遠心分離し、得られた血清について血糖値の測定を行った(1群6匹)。サーマルインクジェット方式で吐出ていない添加物なしのインスリン溶液について同様に実験を行い、比較例とした。サーマルインクジェット方式で吐出した実施例10溶液投与群について、血糖値の変化より薬理活性の変化の有無を検討した。その結果を図7に示す。
【0082】
実験の結果、インスリンを投与されたラットの血糖値は速やかに低下し、インスリンの血糖値降下作用が観察された。これに対し、サーマルインクジェット方式で吐出した実施例10の処方についても同様に血糖値の降下作用が観察された。血糖値降下作用はそれぞれの観測点で比較例との有意差は認められず、実施例10の処方をインクジェット吐出した後も正常にその活性を保持していることが確認された。
【0083】
(実施例26)
(吐出の効率について)
1.0mg/mLの濃度でインスリンを含む溶液について、サーマルインクジェット方式で吐出を行い、添加物を加えた場合と加えない場合の吐出量の評価とその再現性を確認した。
【0084】
吐出した溶液は、1.0mg/mLインスリン溶液に1.0mg/mLプロリン、1.0mg/mLTween80を加えた溶液(Ins/Pro/Tw)、1.0mg/mLインスリン溶液に1.0mg/mLプロリンを加えた溶液(Ins/Pro)、1.0mg/mLインスリン溶液に1.0mg/mLTween80を加えた溶液(Ins/Tw)及び1.0mg/mLインスリンのみの溶液で評価した。吐出は、バブルジェットプリンター(商品名PIXUS950i;キヤノン(株)社製)を溶液が回収できるよう改造した液体吐出装置を用いて吐出した。純水を同様に吐出したときの吐出量を100%とし、各溶液の吐出量を表したグラフを図8に示す。各溶液について実験を5回ずつ行い、平均と標準偏差を表した。
【0085】
インスリンのみ、インスリンにプロリンを加えた溶液は吐出量がほとんどなく、吐出の効率が非常に低い。インスリンにTween80を加えた溶液では、純水と比較して約40%程度の吐出量がある。しかし、吐出量がばらつき再現性がなかった。一方インスリンにプロリンとTween80を加えた場合には純水を吐出したときとほぼ同等の吐出量があり、また、再現性も高い。インスリンにプロリンとTween80を加えた溶液は、インスリンのみ、インスリンにプロリンを加えた溶液の溶液に対して同様に吐出したとき100倍以上の吐出量がある。また、インスリンにTween80を加えた溶液に対しては、約2.5倍の吐出量があり、非常に吐出の効率が高くなっていることが確認された。
(実施例27〜58及び比較例12〜25)
(各種蛋白質への効果と添加物の濃度)
続いて、より効果の高かったプロリン−Tween80、プロリン−アルギニンヤシ油脂肪酸塩、を選択し、各種蛋白質に所定の濃度にて添加した。吐出用液体は、予め適切な濃度の蛋白質又はペプチドをpH7.4の緩衝液に溶解させ、さらに攪拌しながらアミノ酸及びそれらの塩類と界面活性剤を添加した後、pH7.4の緩衝液にて所定の蛋白質又はペプチド濃度となるように定溶して作製した。これら吐出用液体を実施例1と同様に吐出実験を行い、評価を行った。なお、本実施例で検討した処方、及び結果を下記表2に列挙した。
【0086】
【表2】

【0087】
16種類の各種蛋白質及びペプチドに対してプロリンと界面活性剤を添加した実施例27から58においては、吐出は正常に行われていることが確認された。比較例12から25に示すように、これら各種蛋白質及びペプチドになにも添加物を加えなかった場合にはほとんど或いは全く吐出されなかった。よって、この処方が多くの蛋白質及びペプチド溶液の安定吐出に有効であることが確認された。また、実施例27〜58についてHPLC分析を行った結果、吐出前後でピークチャートに変化はなく、液組成に変化は認められなかった。
(実施例59)
(インクジェットプリンターを用いた抗体チップの作製及びセンシング)
図9に本実施例のモデル図を示す。Human IL2モノクローナル抗体、Human IL4モノクローナル抗体及びHuman IL6モノクローナル抗体をそれぞれ0.1〜500μg/mLの濃度に調製した。ここに0.1%プロリン(w/w)、0.1%Tween80(w/w)となるように添加して吐出用液体とした。各液体を、インクジェットプリンター(商品名PIXUS950i;キヤノン(株)社製)のヘッドに充填し、Poly−L−Lysinコートスライドガラス板上に個々に吐出して、各抗体のスポットを所定の配置パターンで形成した。
【0088】
液体を付与したガラス板を4℃でインキュベートし、インキュベート後のガラス表面を1%BSAでマスキングした。マスキング後、ガラス板をよく洗浄し、抗体チップ基板とした。次に、被検出物質であるリコンビナントIL2、IL4、IL6のそれぞれを1μg/mLの濃度とした溶液を、0.5%プロリン(w/w)、0.5%Tween80(w/w)、0.1%BSA(w/w)を用いて調製した。各液体をインクジェットプリンター(商品名PIXUS950i;キヤノン(株)社製)のヘッドに充填し、先ほどの抗体チップ基板上に同じパターンで吐出した。被検出物質を付与した抗体チップ基板上にカバーガラスをかけ、4℃で反応させた。反応終了後抗体チップよく洗浄し、乾燥させ、検出用基板とした。
【0089】
次に、検出用基板上に捕捉された被検出物質を検出するための標識を行った。被検出物質と特異的な結合をする物質としてビオチン標識されたそれぞれの抗体液(ビオチン化Human IL2モノクローナル抗体、ビオチン化Human IL4モノクローナル抗体及びビオチン化Human IL6モノクローナル抗体)を各1μg/mL、0.5%プロリン(w/w)、0.5%Tween80(w/w)、0.1%BSA(w/w)と最終濃度がなるように調製した後、インクジェットプリンター(商品名PIXUS950i;キヤノン(株)社製)のヘッドに充填し、検出用基板上に同じパターンで吐出した。標識を付与した検出用基板上にカバーガラスをかけ、4℃で反応させた。反応後よく検出用基板を洗浄し、乾燥させた。
【0090】
標識を光学的に検出するためにCy3ラベル化ストレプトアビジン10μg/mLを0.5%プロリン(w/w)、0.5%Tween80(w/w)、0.1%BSA(w/w)と最終濃度がなるように調製した後、インクジェットプリンター(商品名PIXUS950i;キヤノン(株)社製)のヘッドに充填し、先ほどの検出用基板上に同じパターンで吐出した。吐出操作終了後、検出用基板上にカバーガラスをかけ、4℃で反応させた。反応後よく検出用基板を洗浄し、乾燥させた。その後、検出用基板に励起光を照射し、Cy3の発光量を透過波長532nmのフィルターを配置した蛍光スキャナーを用いて、蛍光シグナル量を測定した。その結果、サンプルの種類、濃度に応じた蛍光シグナルを検出することができた。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】蛋白質を基板上に吐出する方法の概略説明図である。
【図2】基板上に蛋白質を配列するパターンの一例である。
【図3】吸入器用ヘッドカートリッジユニットの概略説明図である。
【図4】吸入器斜視図である。
【図5】図4でアクセスカバーが開いた状態の斜視図である。
【図6】アルブミン溶液をバブルジェット方式にて吐出したときの吐出量を示したグラフである。
【図7】インスリン投与によるラット血糖値の経時変化を表すグラフである。
【図8】インスリン溶液をバブルジェット方式にて吐出したときの吐出量を示したグラフである。
【図9】実施例の実験方法のモデル図である。
【符号の説明】
【0092】
1 タンク
2 液流路
3 ヘッド
4 液滴
5 基板
6 駆動コントローラ
10 筐体
11 タンク
12 液流路
13 ヘッド部
14 配線
15 電気接続部
16 アクセスカバー
17 空気取り入れ口
18 マウスピース
19 電源ボタン
20 吸入器本体
21 ヘッドカートリッジユニット
30 基板
31 マスキング剤
32 被検物質と特異的な反応をする物質、蛋白質、ペプチド等
33 被検物質
34 被検物質と特異的な物質
35 標識

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱エネルギーを利用して吐出口から吐出させるための吐出用液体であって、蛋白質及びペプチドから選択された少なくとも1種と、アミノ酸及びその塩類から選択された少なくとも1種と、界面活性剤と、水を主体とする液媒体と、を含有することを特徴とする吐出用液体。
【請求項2】
アミノ酸がアルギニン、プロリン、グリシン、グルタミン酸、アスパラギン酸、バリン、トレオニン、アラニンから選択された少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載の吐出用液体。
【請求項3】
アミノ酸がアルギニン、プロリン、グリシンから選択された少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載の吐出用液体。
【請求項4】
界面活性剤がポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、アルキルアミドアルキルベタイン、N-アシルサルコシン、N-アシルグルタミン酸、N-アシルグリシン、アルギニン脂肪酸塩から選択された少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載の吐出用液体。
【請求項5】
前記蛋白質及びペプチドの少なくとも1種が、カルシトニン、インスリン類、グルカゴン類、インターフェロン類、プロテアーゼ阻害剤、サイトカイン類、成長ホルモン類、造血因子蛋白質、抗体、及びこれらのアナログ、及びこれらの誘導体、及びこれらの化学修飾体から選ばれる物質の少なくとも1種である請求項1に記載の吐出用液体。
【請求項6】
蛋白質及びペプチドの少なくとも一種の1重量部に対して、アミノ酸およびその塩の少なくとも一種を0.1から20重量部、界面活性剤を0.1から10重量部添加することを特徴とする請求項1に記載の吐出用液体。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれかに記載の吐出用液体をサーマルインクジェット方式の原理に基づいて吐出することを特徴とする吐出方法。
【請求項8】
請求項1から請求項6のいずれかに記載の吐出用液体が収納されるタンクと、吐出用ヘッドと、を有することを特徴とする液体吐出用カートリッジ。
【請求項9】
前記吐出用ヘッドが、サーマルインクジェット方式により液体を吐出する請求項8に記載の液体吐出用カートリッジ。
【請求項10】
請求項8または請求項9に記載のカートリッジと、該カートリッジの有するヘッドの液体吐出部から吐出する液体を利用者の吸入部位へ誘導するための流路及び開口部と、を有することを特徴とする吐出装置。
【請求項11】
利用者の口からの吸入目的のものである請求項10に記載の吐出装置。
【請求項12】
蛋白質及びペプチドの少なくとも1種を含む液体に吐出用熱エネルギーを付与して該液体を液滴化する方法であって、流路中に充填された液体に吐出用エネルギーを付与して該流路に連通する吐出口から液滴として吐出する工程を有し、前記液体が、請求項1から請求項6のいずれかに記載の吐出用液体であることを特徴とする液滴化方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−117634(P2006−117634A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−252270(P2005−252270)
【出願日】平成17年8月31日(2005.8.31)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】