説明

含フッ素ポリマー水性分散液

【課題】優れた機械的特性及び貯蔵安定性を有し、含フッ素界面活性剤を実質的に含有しない含フッ素ポリマー水性分散液を提供する。
【解決手段】平均一次粒子径50〜400nmの含フッ素ポリマー分散粒子を含有し、含フッ素ポリマー分散粒子は、特定のコアシェル構造を有し、かつ、シェル部が連鎖移動剤の存在下でテトラフルオロエチレンを含むモノマー組成物を乳化重合して得られるものであり、含フッ素界面活性剤の含有量は、50ppm以下であり、含フッ素ポリマーの含有量は、20〜75質量%であり、フッ素非含有ノニオン界面活性剤の含有量は、含フッ素ポリマー100質量%に対して2〜15質量%である含フッ素ポリマー水性分散液。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含フッ素ポリマー水性分散液に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリテトラフルオロエチレンからなるフッ素樹脂水性分散液は、コーティング、含浸等の方法で、化学的安定性、非粘着性、耐候性等に優れた特性を示すフィルムを形成することができるので、調理器具、配管のライニング、ガラスクロス含浸膜等の用途に広く使われてきた。
【0003】
これらの用途において、フッ素樹脂水性分散液は、フッ素樹脂濃度が高いものが好ましいので、一般に、水性媒体中で含フッ素界面活性剤の存在下に含フッ素モノマーを重合した後、濃縮して得られたものが使用されている。しかしながら、近年、製品中に含まれる含フッ素界面活性剤を低減することが望まれている。
【0004】
フッ素樹脂水性分散液から含フッ素界面活性剤を除去する方法としては、ノニオン界面活性剤の存在下、加温して相分離操作を行い、上清を分別して、下相を回収する操作を複数回行う方法(特許文献1)、ノニオン界面活性剤の存在下に陰イオン交換樹脂に接触させ、含フッ素界面活性剤を除去する方法(特許文献2)、限外ろ過膜によって含フッ素界面活性剤を除去する方法(特許文献3)等が提案されている。
【0005】
しかし、上記の方法で含フッ素界面活性剤を除去したディスパージョンは、機械的安定性が充分でないため、送液時や加工時にうける機械的なシェアによってポリマー凝集物が発生してしまう。また、貯蔵安定性も充分でないため、貯蔵静置時に経時で容器底部にスラッジが発生するという問題もある。
【0006】
更に、ディスパージョンの安定性を改良する方法として、高分子量のコアと低分子量のシェルをもつPTFEディスパージョンが提案されている(特許文献4)。しかし、含フッ素界面活性剤を実質的に含有しないコアシェル構造を有するPTFEディスパージョンは知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開2004/050719号パンフレット
【特許文献2】特表2002−532583号公報
【特許文献3】特開昭55−120630号公報
【特許文献4】米国特許第6841594号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記現状に鑑み、優れた機械的特性及び貯蔵安定性を有し、含フッ素界面活性剤を実質的に含有しない含フッ素ポリマー水性分散液を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、平均一次粒子径50〜400nmの含フッ素ポリマー分散粒子を含有し、上記含フッ素ポリマー分散粒子の表層部は、テトラフルオロエチレン99.999〜98モル%及び変性モノマー0.001〜2モル%からなるモノマー組成物を乳化重合して得られるものであり、含フッ素界面活性剤の含有量は、50ppm以下であり、含フッ素ポリマーの含有量は、20〜75質量%であり、フッ素非含有ノニオン界面活性剤の含有量は、含フッ素ポリマー100質量%に対して2〜15質量%であることを特徴とする含フッ素ポリマー水性分散液である。
【0010】
上記含フッ素ポリマー分散粒子は、コアシェル構造を有し、かつ、シェル部がテトラフルオロエチレン99.999〜98モル%及び変性モノマー0.001〜2モル%からなるモノマー組成物を乳化重合して得られるものであることが好ましい。
上記変性モノマーは、ヘキサフルオロプロピレンであることが好ましい。
【0011】
本発明はまた、平均一次粒子径50〜400nmの含フッ素ポリマー分散粒子を含有し、上記含フッ素ポリマー分散粒子の表層部は、連鎖移動剤の存在下でテトラフルオロエチレンを含むモノマー組成物を乳化重合して得られるものであり、含フッ素界面活性剤の含有量は、50ppm以下であり、含フッ素ポリマーの含有量は、20〜75質量%であり、フッ素非含有ノニオン界面活性剤の含有量は、含フッ素ポリマー100質量%に対して2〜15質量%であることを特徴とする含フッ素ポリマー水性分散液である。
【0012】
上記含フッ素ポリマー分散粒子は、コアシェル構造を有し、かつ、シェル部が連鎖移動剤の存在下でテトラフルオロエチレンを含むモノマー組成物を乳化重合して得られるものであることが好ましい。
【0013】
上記連鎖移動剤は、エタン及び/又はメタノールであることが好ましい。
上記フッ素非含有ノニオン界面活性剤は、疎水基にベンゼン環を有さない化合物であることが好ましい。
以下、本発明を詳細に説明する。
【0014】
本発明の含フッ素ポリマー水性分散液は、特定の表層部を有する含フッ素ポリマーディスパージョンであるため、含フッ素界面活性剤を実質的に含まなくても、優れた機械的安定性、貯蔵安定性を示すものである。
【0015】
本発明の含フッ素ポリマー水性分散液は、表層部やそれ以外の部分を構成する含フッ素ポリマー(ポリテトラフルオロエチレン〔PTFE〕又は変性ポリテトラフルオロエチレン〔変性PTFE〕)を得るための乳化重合により得られたエマルションである。上記含フッ素ポリマー水性分散液は、含フッ素界面活性剤の作用により、乳化重合により得られた粒子が上記水性媒体中に分散しているものである。即ち、上記含フッ素ポリマー水性分散液は、上記含フッ素ポリマー分散粒子を分散質とし、含フッ素界面活性剤を分散剤とし、水性媒体を分散媒とする分散体である。
【0016】
本発明の含フッ素ポリマー水性分散液は、平均一次粒子径50〜400nmの含フッ素ポリマー分散粒子を含有するものである。平均一次粒子径が50nm未満であると、分散液の粘度が高くなり、加工性が損なわれる。400nmを超えると、分散液の安定性が損なわれる。好ましくは、150〜350nmである。
【0017】
上記平均一次粒子径は、含フッ素ポリマー濃度を0.22質量%に調整した水性分散液の単位長さに対する550nmの投射光の透過率と、透過型電子顕微鏡写真における定方向径を測定して決定された平均一次粒子径との検量線をもとにして、上記透過率から決定するものである。
【0018】
上記含フッ素ポリマー分散粒子の表層部は、テトラフルオロエチレン99.999〜98モル%及び変性モノマー0.001〜2モル%からなるモノマー組成物を重合して得られるもの、又は、連鎖移動剤の存在下でテトラフルオロエチレンを含むモノマー組成物を重合して得られるものである。これにより、含フッ素ポリマー水性分散液において、含フッ素界面活性剤を実質的に含まなくても、優れた機械的安定性、貯蔵安定性を得ることができる。
【0019】
上記表層部とは、上記含フッ素ポリマー分散粒子表面から粒子内部への所定の厚みを構成している部分を意味する。上記含フッ素ポリマー分散粒子は、少なくとも表層部が上記モノマー組成物により得られる含フッ素ポリマー(PTFE、変性PTFE)からなるものであれば特に限定されず、その内部を構成する樹脂は特に限定されない。このような構成の含フッ素ポリマー分散粒子としては、例えば、単一構成の樹脂粒子からなるものに加えて、コアシェル構造を有する粒子を挙げることができる。この場合、表層部とは、コアシェル構造を有する分散粒子のシェル部である。
【0020】
上記コアシェル構造とは、従来公知の構造であり、米国特許第6841594号明細書に記載された方法等で製造することができる水性分散液中の一次粒子の構造である。例えば、先ずテトラフルオロエチレン〔TFE〕及び必要に応じて変性モノマーを重合してコア部分(PTFE又は変性PTFE)を製造し、次いで、テトラフルオロエチレン及び必要に応じて変性モノマーを重合してシェル部分(PTFE又は変性PTFE)を製造することによって得ることができる。
【0021】
本発明において、上記コアシェル構造には、(1)コア部とシェル部とが異なるモノマー組成物から得られるもの、(2)コア部とシェル部とが同一のモノマー組成物から得られ、かつ、両部の数平均分子量が異なるもの、(3)コア部とシェル部とが異なるモノマー組成物から得られ、かつ、両部の数平均分子量も異なるもの、のすべてが含まれる。
【0022】
上記コアシェル構造を有する含フッ素ポリマー分散粒子としては、コア部を製造するモノマー組成物(TFE、及び、必要に応じて変性モノマー、後述するフッ素非含有モノマーからなるモノマー組成物)、シェル部を製造するモノマー組成物(上記表層部の製造に使用するモノマー組成物)を乳化重合することによって得られるエマルション粒子を挙げることができる。乳化重合は、従来公知の方法で行うことができる。
【0023】
上記変性モノマーは、炭素原子に結合しているフッ素原子を有する重合可能な不飽和化合物であって、テトラフルオロエチレン〔TFE〕以外のものであれば特に限定されず、例えば、ヘキサフルオロプロピレン〔HFP〕、クロロトリフルオロエチレン〔CTFE〕、トリフルオロエチレン等のフルオロオレフィン;炭素原子1〜5個、特に炭素原子1〜3個を有するアルキル基を持つフルオロ(アルキルビニルエーテル);フルオロジオキソール;パーフルオロアルキルエチレン;ω−ヒドロパーフルオロオレフィン等が挙げられる。なかでも、機械的安定性、貯蔵安定性の点から、ヘキサフルオロプロピレンが好ましい。
【0024】
シェル部が得られるモノマー組成物中の変性モノマーの含有量が0.001モル%未満であると、機械的安定性、貯蔵安定性が低下するおそれがある。2モル%を超えると、PTFEの本来の特性である優れた耐薬品性、耐熱性等が損なわれる。上記変性モノマーの含有量は、0.01〜1モル%であることが好ましい。
【0025】
シェル部が得られるモノマー組成物中のTFEの含有量が99.999モル%を超えると、機械的安定性、貯蔵安定性が低下するおそれがある。98モル%未満であると、PTFEの本来の特性である優れた耐薬品性、耐熱性等が損なわれる。上記TFEの含有量は、99.99〜99モル%であることが好ましい。
【0026】
本明細書において、上記変性モノマー、TFEの含有量(モル%)とは、シェル部を構成することとなるモノマー全量に占める変性モノマー、TFEのモル分率(モル%)を意味する。
【0027】
上記モノマー組成物は、フッ素非含有ビニルモノマーを含んでもよい。本明細書において、上記「フッ素非含有ビニルモノマー」は、炭素−炭素二重結合を有し、フッ素原子を有しないモノマーである。
【0028】
上記連鎖移動剤としては、例えば、水素;メタン、エタン、プロパン、ブタン等の炭化水素;CHCl、CHCl、CHCF等のハロゲン化炭化水素;メタノール、エタノール等の水溶性のものが用いられるが、通常の重合条件下で常温常圧で気体状のものが、分子量及び分子量分布の制御に好適である。上記気体状連鎖移動剤としては、水素;メタン、エタン、プロパン、ブタン等の炭化水素;CHCl、CHCF等のハロゲン化炭化水素が挙げられるが、好ましくは水素、メタン、エタン、プロパン、メタノールであり、特に好ましくはメタン、エタン、メタノールである。メタンやエタン、メタノールは少量の添加で効果的に作用し、また重合速度の低下が小さいため経済的に有利である。
【0029】
連鎖移動剤の存在下で乳化重合する場合、テトラフルオロエチレンの含有量は、モノマー組成物中に、98〜100モル%であることが好ましい。これにより、優れた機械的安定性、貯蔵安定性を得ることができる。99〜100モル%であることがより好ましい。
【0030】
乳化重合によって得られるシェル部は、テトラフルオロエチレンホモポリマー〔TFEホモポリマー〕、又は、変性ポリテトラフルオロエチレン〔変性PTFE〕からなる。このような含フッ素ポリマーであることにより、優れた含フッ素界面活性剤の除去効率が得ることができる。本明細書において、上記「変性PTFE」とは、得られる含フッ素ポリマーに溶融流動性を付与しない程度のTFE以外の微量単量体(変性モノマー)をTFEと共重合させて得られるものを意味する。
【0031】
上記シェル部は、連鎖移動剤の存在下でテトラフルオロエチレン99.999〜98モル%及び変性モノマー0.001〜2モル%からなるモノマー組成物を乳化重合して得られるものであることが特に好ましい。これにより、機械的安定性、貯蔵安定性をより向上させることができる。
【0032】
上記コア部は特に限定されず、例えば、上記TFE、及び、必要に応じて上記変性モノマー、フッ素非含有ビニルモノマーからなるモノマー組成物を、従来公知の方法により乳化重合することによって得られる含フッ素ポリマーからなるものを挙げることができる。
【0033】
上記コア部を構成するモノマー組成物の割合は、コア部を構成するモノマー組成物とシェル部とを構成するモノマー組成物の合計量100質量%中、50〜99.9質量%であることが好ましい。より好ましくは80〜99質量%、更に好ましくは90〜99質量%である。
【0034】
上記シェル部、コア部を構成する含フッ素ポリマーを得るための乳化重合としては含フッ素界面活性剤を用いる方法であれば特に限定されず、従来公知の方法を用いることができる。上記従来公知の方法としては、例えば、含フッ素界面活性剤、重合安定剤、重合開始剤、上述の連鎖移動剤等の存在下、フッ素含有モノマーと、所望によりフッ素非含有ビニルモノマーとを水性媒体中で乳化重合する方法等が挙げられる。
【0035】
上記含フッ素界面活性剤は、フッ素原子を有する界面活性剤であれば特に限定されず、ノニオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、又は、両性界面活性剤の何れであってもよいが、含フッ素ポリマーの分散性に優れる点で、アニオン界面活性剤が好ましい。
【0036】
上記含フッ素アニオン界面活性剤としては、例えば、パーフルオロオクタン酸及び/又はその塩(以下、「パーフルオロオクタン酸及び/又はその塩」をまとめて「PFOA」と略記することがある。)等のパーフルオロカルボン酸及び/又はその塩;パーフルオロオクチルスルホン酸及び/又はその塩(以下、「パーフルオロオクチルスルホン酸及び/又はその塩」をまとめて「PFOS」と略記することがある。)等が挙げられる。なかでも、パーフルオロカルボン酸及び/又はその塩が好ましい。
【0037】
上記含フッ素アニオン界面活性剤が塩である場合、該塩を形成する対イオンとしては、アルカリ金属イオン又はNH等が挙げられ、アルカリ金属イオンとしては、例えば、Na、K等が挙げられる。上記対イオンとしては、NHが好ましい。上記含フッ素界面活性剤は、1種を用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0038】
上記含フッ素界面活性剤は、除去容易である点で、数平均分子量が1000以下であるものが好ましく、500以下であるものがより好ましい。また、炭素数が5〜12であるものが好ましい。本明細書において、数平均分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフ)測定によるポリスチレン換算の測定値である。
【0039】
本明細書において、上記含フッ素界面活性剤は、乳化重合に用いるものである点で、後述の含フッ素界面活性剤を除去するのに用いるフッ素非含有ノニオン界面活性剤とは概念上区別される。
【0040】
上記重合安定剤としては、乳化重合に通常用いられるものであれば特に限定されず、例えば、パラフィン等が挙げられる。
上記重合開始剤としては、乳化重合に通常用いられるものであれば特に限定されず、例えば、過硫酸アンモニウム、ジコハク酸パーオキサイド等が挙げられる。
上記含フッ素ポリマーを得るための乳化重合における重合条件は、得られる含フッ素ポリマーの種類に応じて適宜選択することができる。
【0041】
上記水性媒体は、水を含む液体であれば特に限定されず、水に加え、例えば、アルコール、エーテル、ケトン、パラフィンワックス等のフッ素非含有有機溶媒及び/又はフッ素含有有機溶媒をも含むものであってもよい。
【0042】
本発明の含フッ素ポリマー水性分散液の製造方法は、公知の乳化重合(例えば、上述した方法)で得られた粗含フッ素ポリマー水性分散液を、フッ素非含有ノニオン界面活性剤の存在下に、例えば、特表2002−532583号公報記載のイオン交換樹脂で処理する方法及び/又は国際公開2004/050719号パンフレット記載の相分離濃縮による方法にて行うことができ、例えば、粗含フッ素ポリマー水性分散液に、フッ素非含有ノニオン界面活性剤を加え、更にpHを7〜9に調整した後、予めOH型に調整した強塩基性樹脂からなる陰イオン交換樹脂を、塩基性の環境下において接触させることにより行うことができる。
【0043】
上記フッ素非含有ノニオン界面活性剤としては、フッ素を含有しないノニオン性の化合物からなるものであれば特に限定されず、公知のものを使用できる。上記フッ素非含有ノニオン界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキレンアルキルエーテル等のエーテル型ノニオン界面活性剤;エチレンオキサイド/プロピレンオキサイドブロック共重合体等のポリオキシエチレン誘導体;ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル等のエステル型ノニオン界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルアミン、アルキルアルカノールアミド等のアミン系ノニオン界面活性剤;等が挙げられる。
【0044】
上記フッ素非含有ノニオン界面活性剤を構成する化合物において、その疎水基は、アルキルフェノール基、直鎖アルキル基及び分岐アルキル基の何れであってもよいが、アルキルフェノール基を構造中に有しない化合物等、ベンゼン環を有さないものであることが好ましい。
【0045】
上記フッ素非含有ノニオン界面活性剤としては、なかでも、ポリオキシエチレンアルキルエーテル型ノニオン界面活性剤が好ましい。上記ポリオキシエチレンアルキルエーテル型ノニオン界面活性剤としては、炭素数10〜20のアルキル基を有するポリオキシエチレンアルキルエーテル構造からなるものが好ましく、炭素数10〜15のアルキル基を有するポリオキシエチレンアルキルエーテル構造からなるものがより好ましい。上記ポリオキシエチレンアルキルエーテル構造におけるアルキル基は、分岐構造を有していることが好ましい。
【0046】
上記ポリオキシエチレンアルキルエーテル型ノニオン界面活性剤の市販品としては、例えば、Genapol X080(製品名、クラリアント社製)、タージトール9−S−15(製品名、クラリアント社製)、ノイゲンTDS−80(製品名、第一工業製薬社製)、レオコールTD90(製品名、ライオン社製)等が挙げられる。
【0047】
上記フッ素非含有ノニオン界面活性剤を添加して、上記イオン交換樹脂による処理を行う際、上記フッ素非含有ノニオン界面活性剤の添加量は、上記含フッ素ポリマー分散粒子(固形分)100質量%に対して1〜40質量%であることが好ましく、1〜30質量%であることがより好ましく、1〜20質量%であることが更に好ましい。
【0048】
上記相分離濃縮による方法を用いる場合、上記粗含フッ素ポリマー水性分散液に、上記フッ素非含有ノニオン界面活性剤を添加して上記の濃度にした後、該粗含フッ素ポリマー水性分散液を加熱することにより含フッ素ポリマー非含有相(上澄相)と含フッ素ポリマー含有相(濃縮相)とに分離させ、上記含フッ素ポリマー非含有相を除去して、上記含フッ素ポリマー含有相を得ることにより行うことができる。
【0049】
本発明の含フッ素ポリマー水性分散液は、含フッ素界面活性剤の含有量が50ppm以下である。上述したように、含フッ素界面活性剤を可能な限り低減することが望ましいが、本発明では上記の方法等によって50ppm以下という実質的に含有しない量にまで低減することができる。上記含フッ素界面活性剤の含有量は、25ppm以下であることが好ましく、5ppm以下であることがより好ましい。
【0050】
本明細書において、含フッ素界面活性剤の含有量は、含フッ素ポリマー水性分散液と等量のメタノールを添加して凝析し、ソックスレー抽出を行った後、高速液体クロマトグラフィー〔HPLC〕を行うことにより測定するものである。
【0051】
本発明の含フッ素ポリマー水性分散液は、含フッ素ポリマーの含有量が20〜75質量%である。好ましくは30〜70質量%、より好ましくは50〜65質量%である。
【0052】
本明細書において、上記含フッ素ポリマーの含有量(P)は、試料約1g(X)を直径5cmのアルミカップにとり、100℃、1時間で乾燥し、更に300℃、1時間乾燥した加熱残分(Z)に基づき、式:P=Z/X×100(%)にて決定するものである。
【0053】
本発明の含フッ素ポリマー水性分散液において、フッ素非含有ノニオン界面活性剤の含有量は、上記分散液中の含フッ素ポリマー100質量%に対して2〜15質量%である。2質量%未満であると、水性分散液の化学的、機械的安定性が悪くなるおそれがあり、15質量%を超えると、水性分散液の粘度が上昇し、また保存安定性が低下するおそれがある。好ましくは2〜10質量%、より好ましくは2〜6質量%である。
【0054】
本明細書において、上記フッ素非含有ノニオン界面活性剤の含有量(N)は、試料約1g(X)を直径5cmのアルミカップにとり、100℃にて1時間で加熱した加熱残分(Yg)、更に、得られた加熱残分(Yg)を300℃にて1時間加熱した加熱残分(Zg)より、式:N=[(Y−Z)/Z]×100(%)から算出するものである。
【0055】
本発明の含フッ素ポリマー水性分散液は、そのまま又は各種添加剤を加えて、コーティング、キャストフィルム、含浸体等に加工することができる。
上記含フッ素ポリマー水性分散液の用途としては、例えば、オーブン内張り、製氷トレー等の調理器具、電線、パイプ、船底、高周波プリント基板、搬送用ベルト、アイロン底板における被覆材;繊維基材、織布・不織布等が挙げられる。上記繊維基材としては特に限定されず、例えば、ガラス繊維、カーボン繊維、アラミド繊維(ケブラー(登録商標)繊維等)を被含浸体とする含浸物;等に加工することができる。上記含フッ素ポリマー水性分散液の加工は、従来公知の方法にて行うことができる。
【発明の効果】
【0056】
本発明の含フッ素ポリマー水性分散液は、含フッ素界面活性剤の含有量が50ppm以下であるため、製品として望ましい。また、含フッ素界面活性剤を実質的に含まないにもかかわらず、優れた機械的安定性、貯蔵安定性を有している。
【発明を実施するための形態】
【0057】
以下本発明について実施例を掲げて更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。また実施例中、「部」、「%」は特に断りのない限り「質量部」、「質量%」を意味する。
【0058】
各実施例、比較例における測定は、以下の方法により行った。
(1)含フッ素ポリマーの含有量(P)
試料約1g(X)を直径5cmのアルミカップにとり、100℃、1時間で乾燥し、更に300℃、1時間乾燥した加熱残分(Z)に基づき、式:P=Z/X×100(%)にて決定した。
(2)含フッ素界面活性剤の含有量
得られた水性分散液に等量のメタノールを添加し、ソックスレー抽出を行った後、高速液体クロマトグラフィー〔HPLC〕を以下の条件にて行うことにより求めた。なお、含フッ素界面活性剤の含有量算出にあたり、既知の濃度の含フッ素界面活性剤濃度について下記溶出液及び条件にてHPLC測定して得られた検量線を用いた。
(測定条件)
カラム:ODS−120T(4.6φ×250mm、トーソー社製)
展開液:アセトニトリル/0.6%過塩素酸水溶液=1/1(vol/vol%)
サンプル量:20μL
流速:1.0ml/分
検出波長:UV210nm
カラム温度:40℃
(3)水性分散液中のフッ素非含有ノニオン界面活性剤の含有量(N)
試料約1g(Xg)を直径5cmのアルミカップにとり、100℃にて1時間で加熱した加熱残分(Yg)、更に、得られた加熱残分(Yg)を300℃にて1時間加熱した加熱残分(Zg)より、式:N=[(Y−Z)/Z]×100(%)から算出した。
(4)含フッ素ポリマー分散粒子の平均一次粒子径
含フッ素ポリマー濃度を0.22質量%に調整した水性分散液の単位長さに対する550nmの投射光の透過率と、透過型電子顕微鏡写真における定方向径を測定して決定された平均一次粒子径との検量線をもとにして、上記透過率から決定した。
【0059】
合成例1
ステンレススチール製アンカー型攪拌機と温度調節用ジャケットを備えた内容量6リットルのステンレススチール製オートクレーブに、脱イオン水2960ml、パラフィンワックス100g及びパーフルオロオクタン酸アンモニウム4.5gを仕込み、窒素ガスの圧入、脱気を3回行い、系内の酸素を除去した。引き続き、85℃で0.74MPaになるまでTFEガスを圧入し、250rpmでの攪拌下、内温を85℃に保持した。
【0060】
次に、水20mlにジコハク酸パーオキサイド477mgを溶かした水溶液をTFEで圧入し、更に水20mlに溶解した過硫酸アンモニウム30mgを溶かした水溶液をTFEで圧入した。すぐに圧力の低下が始まるので、TFEにて圧力を0.78±0.05MPaに保ち、反応を継続した。
【0061】
TFEが1200g消費された時点(コアの形成)で連鎖移動剤としてエタンガスを15ml仕込み、TFEを連続して供給しながら重合を継続してシェル部の共重合体を形成した。TFEが1350g消費された時点(反応開始から12時間後)で攪拌及びTFEの供給を停止し、直ちにオートクレーブ内のガスを放出して反応を終了し、TFE系重合体の水性分散液を得た(含フッ素ポリマー濃度31質量%、平均一次粒径260nm)。
【0062】
合成例2
ステンレススチール製アンカー型攪拌機と温度調節用ジャケットを備えた内容量6リットルのステンレススチール製オートクレーブに、脱イオン水2960ml、パラフィンワックス100g及びパーフルオロオクタン酸アンモニウム4.5gを仕込み、窒素ガスの圧入、脱気を3回行い、系内の酸素を除去した。引き続き、85℃で0.74MPaになるまでTFEガスを圧入し、250rpmでの攪拌下、内温を85℃に保持した。
【0063】
次に、水20mlにジコハク酸パーオキサイド477mgを溶かした水溶液をTFEで圧入し、更に水20mlに溶解した過硫酸アンモニウム30mgを溶かした水溶液をTFEで圧入した。すぐに圧力の低下が始まるので、TFEにて圧力を0.78±0.05MPaに保ち、反応を継続した。
【0064】
TFEが1200g消費された時点(コアの形成)でHFPを2ml仕込み、TFEを連続して供給しながら重合を継続してシェル部の共重合体を形成した。TFEが1350g消費された時点(反応開始から11時間後)で攪拌及びTFEの供給を停止し、直ちにオートクレーブ内のガスを放出して反応を終了し、TFE系重合体の水性分散液を得た(含フッ素ポリマー濃度31質量%、平均一次粒径262nm、HFP 0.001mol%)。
【0065】
合成例3
合成例2のHFPをCTFEに変更した以外は同様に、TFE系重合体の水性分散液を得た(含フッ素ポリマー濃度31質量%、平均一次粒径265nm、CTFE 0.002mol%)のTFE重合体水性分散液を得た。
【0066】
合成例4
ステンレススチール製アンカー型攪拌機と温度調節用ジャケットを備えた内容量6リットルのステンレススチール製オートクレーブに、脱イオン水2960ml、パラフィンワックス100g及びパーフルオロオクタン酸アンモニウム4.5gを仕込み、窒素ガスの圧入、脱気を3回行い、系内の酸素を除去した。引き続き、85℃で0.74MPaになるまでTFEガスを圧入し、250rpmでの攪拌下、内温を85℃に保持した。
【0067】
次に、水20mlにジコハク酸パーオキサイド477mgを溶かした水溶液をTFEで圧入し、更に水20mlに溶解した過硫酸アンモニウム30mgを溶かした水溶液をTFEで圧入した。すぐに圧力の低下が始まるので、TFEにて圧力を0.78±0.05MPaに保ち、反応を継続した。
【0068】
TFEが1200g消費された時点(コアの形成)でHFPを1ml、メタノール0.5mLを仕込み、TFEを連続して供給しながら重合を継続してシェル部の共重合体を形成した。TFEが1350g消費された時点(反応開始から11時間後)で攪拌及びTFEの供給を停止し、直ちにオートクレーブ内のガスを放出して反応を終了し、TFE系重合体の水性分散液を得た(含フッ素ポリマー濃度31質量%、平均一次粒径262nm、HFP 0.001mol%)。
【0069】
実施例1
(1)イオン交換樹脂による処理
OH型陰イオン交換樹脂アンバージェットIRA4002OH(商品名、ローム・アンド・ハース社製)を150mL充填したカラム(直径3cm、高さ20cm)にフッ素非含有ノニオン乳化剤レオコールTD90(商品名、ライオン社製)5%水溶液150mLを30分で通液した。
合成例1で得られた水性分散液にレオコールTD90を含フッ素ポリマーに対して5%となるように添加、混合し、この水性分散液600mLを、25℃で2時間(空間速度(SV)=2)かけて上記カラムに通液した。得られたTFE系重合体の水性分散液中のPFOA濃度は検出限界(10ppm)未満であった。
【0070】
(2)相分離濃縮
実施例1のイオン交換樹脂による処理により得られたTFE系重合体の水性分散液にレオコールTD90を含フッ素ポリマーに対して20%となるように追加し、40℃にて均一に混合した後、1Lのガラス容器中70℃で16時間静置したところ、含フッ素ポリマーを実質的に含まない上澄相と濃縮相の2相に分離した。上澄相を除去し、濃縮相を回収し、含フッ素ポリマー濃度が65%、フッ素非含有ノニオン界面活性剤濃度が含フッ素ポリマーに対して3.6%である含フッ素ポリマー水性分散液が得られた。
【0071】
この水性分散液に、レオコールTD90及び水を追加し、固形分濃度(含フッ素ポリマー濃度)60%、フッ素非含有ノニオン界面活性剤濃度が含フッ素ポリマーに対して5%の水性分散液を得た。
この水性分散液の機械的安定性を以下の方法で評価したところ凝集物は、0.8%であった。
機械的安定性;外形7.9mm、内径4.8mmのタイゴン製チューブを装着したチューブ式ポンプを用い、100mlのディスパージョンを35℃で1時間200ml/minの速度で循環させる。循環終了後、200メッシュのステンレス網で凝集物を捕集、水洗後、120℃で1時間乾燥後の質量を測定し、試験に用いたディスパージョンに最初に含まれていたポリマーに対する質量割合を求めた。
【0072】
また、静置安定性を以下の方法で評価したところ、40℃1ヶ月静置後の凝集物は2%であった。
静置安定性;500mlのポリビンに500gのディスパージョンを入れ、40℃の恒温槽に入れて1ヶ月静置した。静置後のディスパージョンを卓上ボールミルで室温で30分攪拌したのち、200メッシュのステンレス網で凝集物を捕集、水洗後、120℃で1時間乾燥後の質量を測定し、試験に用いたディスパージョンに最初に含まれていたポリマーに対する質量割合を求めた。
【0073】
実施例2
実施例1の合成例1の水性分散液を、合成例2の水性分散液に変更した以外は、実施例1と同様のイオン交換樹脂による処理を行った。得られたTFE系重合体の水性分散液中のPFOA濃度は検出限界未満であった。
引き続き実施例1と同様に相分離濃縮を行い、含フッ素ポリマー濃度が68%、フッ素非含有ノニオン界面活性剤濃度が含フッ素ポリマーに対して3.3%である含フッ素ポリマー水性分散液が得られた。
【0074】
この水性分散液に、レオコールTD90及び水を追加し、固形分濃度(含フッ素ポリマー濃度)60%、フッ素非含有ノニオン界面活性剤濃度が含フッ素ポリマーに対して5%の水性分散液を得た。
この水性分散液の機械的安定性を測定したところ凝集物は、0.9%であった。
また40℃1ヶ月静置後の凝集物は、2%であった。
【0075】
実施例3
実施例1の合成例1の水性分散液を、合成例3の水性分散液に変更した以外は、実施例1と同様のイオン交換樹脂による処理を行った。得られたTFE系重合体の水性分散液中のPFOA濃度は検出限界未満であった。
引き続き実施例1と同様に相分離濃縮を行い、含フッ素ポリマー濃度が70%、フッ素非含有ノニオン界面活性剤濃度が含フッ素ポリマーに対して3.1%である含フッ素ポリマー水性分散液が得られた。
【0076】
この水性分散液に、レオコールTD90及び水を追加し、固形分濃度(含フッ素ポリマー濃度)60%、フッ素非含有ノニオン界面活性剤濃度が含フッ素ポリマーに対して5%の水性分散液を得た。
この水性分散液の機械的安定性を測定したところ凝集物は、1.5%であった。
また40℃1ヶ月静置後の凝集物は、4%であった。
【0077】
実施例4
実施例1の合成例1の水性分散液を、合成例4の水性分散液に変更した以外は、実施例1と同様のイオン交換樹脂による処理を行った。得られたTFE系重合体水性分散液中のPFOA濃度は検出限界未満であった。
引き続き実施例1と同様に相分離濃縮を行い、含フッ素ポリマー濃度が64%、フッ素非含有ノニオン界面活性剤濃度が含フッ素ポリマーに対して3.5%である含フッ素ポリマー水性分散液が得られた。
【0078】
この水性分散液に、レオコールTD90及び水を追加し、固形分濃度(含フッ素ポリマー濃度)60%、フッ素非含有ノニオン界面活性剤濃度が含フッ素ポリマーに対して5%の水性分散液を得た。
この水性分散液の機械的安定性を測定したところ凝集物は、0.6%であった。
また40℃1ヶ月静置後の凝集物は、2%であった。
【0079】
比較例1
実施例1の重合において、エタンガスを入れない以外は同様に、モノマーを1350gまで供給し、含フッ素ポリマー濃度30.7質量%、平均一次粒径285nm)のディスパージョンを得た。
機械的安定性試験の結果は3.0%、静置安定性試験の結果は6%であった。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明の含フッ素ポリマー水性分散液は、調理器具、配管のライニング、ガラスクロス含浸膜等の用途に好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均一次粒子径50〜400nmの含フッ素ポリマー分散粒子を含有し、
前記含フッ素ポリマー分散粒子は、コアシェル構造を有し、かつ、シェル部が連鎖移動剤の存在下でテトラフルオロエチレンを含むモノマー組成物を乳化重合して得られるものであり、
前記コアシェル構造は、コア部とシェル部とが同一のモノマー組成物から得られ、かつ、両部の数平均分子量が異なるものであるか、又は、コア部とシェル部とが異なるモノマー組成物から得られ、かつ、両部の数平均分子量も異なるものであり、
含フッ素界面活性剤の含有量は、50ppm以下であり、
含フッ素ポリマーの含有量は、20〜75質量%であり、
フッ素非含有ノニオン界面活性剤の含有量は、含フッ素ポリマー100質量%に対して2〜15質量%である
ことを特徴とする含フッ素ポリマー水性分散液。
【請求項2】
連鎖移動剤は、エタン及び/又はメタノールである請求項1記載の含フッ素ポリマー水性分散液。
【請求項3】
フッ素非含有ノニオン界面活性剤は、疎水基にベンゼン環を有さない化合物である請求項1又は2記載の含フッ素ポリマー水性分散液。

【公開番号】特開2012−207232(P2012−207232A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−168843(P2012−168843)
【出願日】平成24年7月30日(2012.7.30)
【分割の表示】特願2008−523726(P2008−523726)の分割
【原出願日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】