説明

含フッ素マレエートまたは含フッ素フマレートを含んでなる含フッ素共重合体および防汚加工剤

【課題】従来では得られなかった優れた撥水性、撥油性および防汚性およびそれらの耐久性を有する防汚加工剤を提供する。
【解決手段】炭素数1〜6のパーフルオロアルキル基を有するマレイン酸またはフマル酸のジエステルである含フッ素マレエートまたは含フッ素フマレートから誘導される少なくとも1種の繰り返し単位、アルキル基の炭素数1〜30のアルキル(メタ)アクリレートから誘導される少なくとも1種の繰り返し単位および要すればスチレンから誘導される繰り返し単位を有する共重合体、ならびに該共重合体を含んでなる防汚加工剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含フッ素マレエートまたは含フッ素フマレートを含んでなる含フッ素共重合体および防汚加工剤に関する。本発明の防汚加工剤は、カーペット用として特に有用である。
【背景技術】
【0002】
従来、繊維製品(例えば、カーペット)に撥水撥油性および防汚性を付与するために、種々の防汚加工剤が提案されている。
特公昭48−8606号公報には、両末端にパーフルオロアルキル基を持つ不飽和カルボン酸のエステルを重合して得られた単独重合体で織物を処理することによって、汚れ防止性を付与することが開示されている。しかし、この単独重合体では、防汚性が不十分である。
特公昭51−37670号公報には、(i)片末端にパーフルオロアルキル基を持ち、他方の末端にフッ素原子を含まない脂肪族基または芳香族基を有するマレイン酸またはフマル酸のエステル、および(ii)他の重合性不飽和化合物とを共重合して得られた重合体で繊維を処理することによって、繊維に撥水性および撥油性を付与することが開示されている。マレイン酸またはフマル酸のエステルの1つの末端基はフッ素原子を含まないので、重合性はよい。しかし、この重合体は撥水撥油性が不十分であり、防汚性も不十分である。
【0003】
米国特許第3,594,353号明細書には、両末端あるいは片末端がパーフルオロアルキル基のイタコン酸のエステルを単独重合して得られたあるいは他の重合性不飽和化合物と共重合して得られた重合体で、繊維を処理することによって、繊維に撥水性を与え、油に対する汚れ防止性を付与することが開示されている。しかし、この重合体において、撥水撥油性および防汚性は不十分である。
特開平5−105723号公報には、片末端にかさ高い分枝アルキル基を持ち、他方の末端にパーフルオロアルキル基を持つフマル酸エステルと他の共重合性不飽和化合物を共重合して得られた共重合体で繊維を処理することによって繊維に撥水撥油性を付与することが開示されている。しかし、この共重合体において、撥水撥油性および防汚性が不十分である。
従来提案されているいずれの防汚加工剤も、充分な撥水撥油性および防汚性を有してないのが、現状である。
【0004】
特開平8−3113号公報は、含フッ素マレエートまたは含フッ素フマレートを含んでなる含フッ素共重合体を含んでなる防汚加工剤を開示している。この含フッ素重合体においては、炭素数1〜6のパーフルオロアルキル基が優れた効果を与えることは記載も示唆もされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公昭48−8606号公報
【特許文献2】特公昭51−37670号公報
【特許文献3】米国特許第3,594,353号明細書
【特許文献4】特開平5−105723号公報
【特許文献5】特開平8−3113号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、優れた撥水撥油性および防汚性ならびに撥水撥油性および防汚性の耐久性を有する防汚加工剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、
(A)式:


または



[式中、Aは、炭素数1〜10の脂肪族基、炭素数6〜10の芳香族基または環状脂肪族基、
-CH2CH2N(R1)SO2-基(但し、R1は炭素数1〜4のアルキル基である。)または
-CH2CH(OZ1)CH2-基(但し、Z1は水素原子またはアセチル基である。)または
-(CH2)m-SO2-(CH2)n-基 または-(CH2)m-S-(CH2)n-基(但し、mは1〜10、nは0〜10、である)、
Rfは、炭素数4または6の直鎖状または分岐状のパーフルオロアルキル基である。]
で示される含フッ素マレエートまたは含フッ素フマレートから誘導される少なくとも1種の繰り返し単位、ならびに
(B)アルキル基の炭素数1〜30のアルキル(メタ)アクリレートから誘導される少なくとも1種の繰り返し単位
を含んでなる含フッ素重合体を含んでなる防汚加工剤を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の防汚加工剤は、従来では得られなかった優れた撥水性、撥油性および防汚性を有し、それらの優れた耐久性を有する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書において、(メタ)アクリレートとは、アクリレートまたはメタクリレートのことをいう。
本発明の共重合体において、繰り返し単位(A)は、OH基を含むかまたは含まない前記含フッ素マレエートまたはフマレートのいずれであってもよい。繰り返し単位(A)はOH基を含むことが好ましい。OH基を含むことで基材への密着性が向上し、防汚性や撥油性が向上するものと考えられる。
【0010】
本発明において、単量体(A)が
式:



[式中、Rfは、炭素数1〜6のパーフルオロアルキル基である。]
で示される含OH含フッ素マレエート、または



[式中、Rfは、炭素数1〜6のパーフルオロアルキル基である。]
で示される含OH含フッ素フマレートであることが好ましい。
【0011】
本発明の共重合体は、(A)含フッ素単量体を、(B)アルキル(炭素数1〜30)(メタ)アクリレート(以下、アルキル(メタ)アクリレートともいう。)および要すれば(C)スチレンと重合することによって得られる。重合は、溶液重合、乳化重合、懸濁重合のいずれであってもよい。
【0012】
両末端がパーフルオロアルキル基を有するため、単量体(A)は通常の溶媒に対する溶解性が低いが、単量体(A)はアルキル(メタ)アクリレート(B)およびスチレン(C)には可溶である。単量体(A)、アルキル(メタ)アクリレート(B)および要すればスチレン(C)を混合して、単量体(A)を溶解させた後、水、乳化剤を加えて乳化し(例えば、機械乳化し)、重合することで安定なエマルションが得られる。また、単量体(A)〜(C)が可溶な溶媒(例えば、メチルエチルケトン(MEK)等のケトン、コハク酸ジエチルなどのコハク酸ジエステル、パークロルエチレン等の塩素系有機溶媒、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル等のグリコールエーテル類またはジプロピレングリコールなどのグリコール類)を用いた場合には、溶液重合を行うことができる。
【0013】
乳化重合は、水性媒体中、乳化剤の存在下で、単量体を重合させればよい。水性媒体は、一般的に水のみであるが、有機溶媒(例えば、ジプロピレングリコール等のグリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル等のグリコールエーテル、メチルエチルケトン等のケトン、コハク酸ジエチル等のコハク酸ジエステル)を20重量%まで含有していてもよい。乳化剤は、カチオン系、アニオン系、ノニオン系のいずれであってもよい。乳化剤として、ステアリルトリメチルアンモニウムクロリドなどのカチオン系乳化剤、ラウリル硫酸ナトリウムなどのアニオン系乳化剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテルなどのノニオン系乳化剤などが挙げられる。重合を開始するには、重合開始剤を使用する。重合開始剤としては、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス2−アミノジプロパン2塩酸塩、過硫酸アンモニウムなどが挙げられる。重合温度は、通常、50〜80℃である。重合時間は、重合温度などに依存するが、通常、2〜20時間である。
【0014】
スチレンを含まない共重合体において、単量体(A)とアルキル(メタ)アクリレート(B)との重量比は、通常、95〜5/5〜95、好ましくは80〜10/20〜90、より好ましくは70〜15/30〜85、さらに好ましくは70〜40/30〜60である。単量体(A)とアルキル(メタ)アクリレート(B)の合計は100重量である。この範囲では、撥水性、撥油性および防汚性が高い。
スチレンを含む共重合体において、単量体(A)とアルキル(メタ)アクリレート(B)とスチレン(C)の重量比は、通常95〜5/残部(但し5以上)/0〜95、好ましくは、80〜10/20〜90/1〜50、より好ましくは70〜15/30〜85/1〜35、さらに好ましくは65〜30/30〜65/1〜35である。単量体(A)とアルキル(メタ)アクリレート(B)とスチレン(C)の合計は100重量である。この範囲では、撥水性、撥油性および防汚性が高い。
【0015】
本発明の共重合体の数平均分子量(ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)法による。スチレン換算。)は、通常、1000〜1000000、好ましくは50000〜400000である。
含フッ素マレエートまたは含フッ素フマレートは、マレイン酸またはフマル酸のジエステルである。含フッ素マレエートおよび含フッ素フマレートはRf基(パーフルオロアルキル基)を有する。Rf基の具体例は、-CF3、-CF2CF3、-CF2CF2CF3、-CF(CF3) 2、-CF2CF2CF2CF3、-CF2CF(CF3)2、-C(CF3)3、-(CF2)4CF3、-(CF2)2CF(CF3)2、-CF2C(CF3)3、-CF(CF3)CF2CF2CF3、-(CF2)5CF3、-(CF2)3CF(CF3)2、-(CF2)4CF(CF3)2等である。Rf基(パーフルオロアルキル基)の炭素数は、好ましくは1〜6、より好ましくは4〜6、特に6である。Rf基は、分岐していても、直鎖であってもどちらでもよいが、直鎖であることが好ましい。すなわち、CF3(CF2)3-およびCF3(CF2)5-が特に好ましい。
【0016】
式(I)で示される含フッ素マレエートは、次の反応式に従って得られる。



[式中、Rfは前記と同意義である。]
【0017】
即ち、マレイン酸を3−パーフルオロアルキル−1,2−エポキシプロパンと反応させればよい。この反応は、触媒の存在下に、溶媒中に溶解した溶液の中で行うことが好ましい。触媒として、アンモニウム塩(例えば、トリメチルベンジルアンモニウムクロリド)、3級アミン(例えばジメチルベンジルアミン、トリメチルアミン)、p−トルエンスルホン酸などが挙げられる。溶媒として、ケトン(例えば、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン)、コハク酸ジエチルなどのコハク酸ジエステル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル等のグリコールエーテル類、ジプロピレングリコール等のグリコール類などが挙げられる。反応温度は、通常、80〜120℃である。反応温度は、溶媒が還流する温度であってよい。反応時間は、反応温度などに依存するが、通常、5〜20時間である。
【0018】
この反応において、副生物が生成することがある。
副生物は次の含フッ素マレエート(マレエート構造異性体)である。



[式中、Rfは、炭素数1〜6のパーフルオロアルキル基である。]
副生物は、Rfが-(CF2)5CF3である場合に次のとおりである。

【0019】
なお、主生成物(I)は、


で示される。
【0020】
この含フッ素マレエート副生物(マレエート構造異性体)は、主生成物(I)1モルに対して、0〜1モル、例えば0.01〜0.7モル、特に0.1〜0.4モルで生成することがある。この含フッ素マレエート副生物は、主生成物(I)と同様に、重合して撥水撥油性および防汚性を示す。
【0021】
式(II)で示される含フッ素フマレートは、式(I)で示される含フッ素マレエートを製造する方法において、マレイン酸をフマル酸に代えることによって製造できる。即ち、フマル酸を3−パーフルオロアルキル−1,2−エポキシプロパンと反応させることによって、含フッ素フマレート(II)が得られる。含フッ素フマレート(II)を製造する条件は、含フッ素マレエート(I)の製造条件と同様である。
【0022】
フマル酸の反応においても、含フッ素マレエートの反応と同様に副生物(フマレート構造異性体):



が生成することがある。
なお、主生成物(II)は、



で示される。
【0023】
この含フッ素フマレート副生物(フマレート構造異性体)は、主生成物(II)1モルに対して、0〜1モル、例えば0.1〜0.7モル、特に0.1〜0.4モルで生成することがある。この含フッ素フマレート副生物は、主生成物(II)と同様に、重合して撥水撥油性および防汚性を示す。
【0024】
含フッ素マレエートは、次の反応式に従って製造することができる。




[式中、RfおよびAは前記と同意義である。]
【0025】
この反応は、触媒の存在下に、溶媒中に溶解した溶液の中で行うことが好ましい。触媒として、p−トルエンスルホン酸、硫酸などが挙げられる。溶媒として、ベンゼン、トルエンなどが挙げられる。反応は、通常、溶媒の還流温度で行う。反応時間は、反応温度などに依存するが、通常、6〜12時間である。
【0026】
含フッ素フマレートは、含フッ素マレエートを製造する方法において、マレイン酸をフマル酸に代えることによって製造できる。即ち、フマル酸をパーフルオロアルキルアルコールと反応させることによって、含フッ素フマレートが得られる。含フッ素フマレートを製造する条件は、含フッ素マレエートの製造条件と同様である。
【0027】
含フッ素マレエートおよび含フッ素フマレートにおけるA基がアルキレン基である場合に、アルキレン基は−CH−、−CHCH−、−CHCHCH−、−CHCHCHCH−、−CHC(CH)H−、−CHC(CH)HCH−などであってよい。
【0028】
アルキル(メタ)アクリレート(B)において、アルキル基の炭素数は、1〜30、例えば1〜20であることが好ましい。アルキル基は、鎖状または環状(炭素数4〜30)である。アルキル基の例は、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、シクロペンチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、ラウリル基、ステアリル基、ベヘニル基、イソボルニル基などである。
【0029】
好ましくは、アルキル(メタ)アクリレート(B)は、アルキル(メタ)アクリレートによって形成されるホモポリマーのガラス転移温度(Tg)が50℃以上、例えば60℃以上、特に70℃以上および/または融点(Tm)が30℃以上、例えば40℃以上、特に50℃以上であってよい。Tgおよび/またはTmがこれら範囲にある場合、高い撥水撥油性および防汚性ならびにこれらの耐久性が得られる。Tgの上限は200℃、Tmの上限は200℃であることが好ましい。
【0030】
本発明の防汚加工剤において、他の重合性単量体を共重合させることもできる。たとえば、酢酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、アクリル酸とそのアルキルエステル、メタクリル酸とそのアルキルエステル、ビニルアルキルエーテル、ハロゲン化アルキルビニルエーテル、ビニルアルキルケトン、ブタジエン、イソプレン、クロロプレン、ベンジルアクリレート、ベンジルメタクリレート、無水マレイン酸、アクリルアミド、メタクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、ブロックドイソシアネート基含有(メタ)アクリレート、ウレタン結合含有ポリ(メタ)アクリレート等があげられる。
また、パーフルオロアルキル基を含有する(メタ)アクリレートとももちろん共重合できる。
【0031】
本発明の防汚加工剤は、共重合体および媒体を含んでなる。媒体は、どのような溶媒であってもよいが、水、有機溶媒、例えば、アルコール、エステル、ケトン、グリコール、グリコールエーテル類などであってよい。防汚加工剤において、共重合体の量は、通常、15〜40重量%である。
【0032】
本発明の防汚加工剤は、被処理物の種類により任意の方法で適用され得る。例えば、浸漬、塗布等のような被覆加工の既知の手順により、被処理物の表面に共重合体を付着させ乾燥する方法が採用され得る。また、必要ならば、適当な架橋剤と共に適用し、キュアリングを行ってもよい。更に、本発明の防汚加工剤は、他の重合体と混合してもよく、例えばポリ−メチルメタクリレート/エチルメタクリレート(P−MMA/EMA)エマルションと混合することもできる。また、他の撥水剤や撥油剤あるいは防虫剤、難燃剤、帯電防止剤、柔軟剤、防シワ剤などの添加剤を適宜添加してもよい。浸漬の場合に、浸漬液における共重合体濃度は、通常、0.05〜10重量%である。塗布の場合に、塗布液における共重合体濃度は、通常、0.1〜5重量%である。
【0033】
本発明の防汚加工剤で処理され得る被処理物は、繊維製品であることが好ましく、特に、カーペットであることが好ましい。繊維製品としては、綿、麻、羊毛、絹などの動植物性天然繊維;ポリアミド、ポリエステル、ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレンなどの合成繊維;レーヨン、アセテートなどの半合成繊維;ガラス繊維、炭素繊維、アスベスト繊維などの無機繊維;ならびにこれらの混合物などが挙げられる。繊維製品は、繊維、糸、布等の形態のいずれであってもよい。本発明の防汚加工剤でカーペットを処理する場合に、繊維または糸を防汚加工剤で処理した後にカーペットを形成してもよいし、あるいは形成されたカーペットを防汚加工剤で処理してもよい。本発明の防汚加工剤で処理され得る被処理物は、繊維製品の他、ガラス、紙、木、皮革、毛皮、石綿、レンガ、セメント、金属および酸化物、窯業製品、プラスチック、塗面およびプラスターなどを挙げることができる。
【発明の好ましい態様】
【0034】
次に、実施例を挙げ本発明を具体的に説明するが、実施例が本発明を限定するものではないことは勿論である。
以下において、部および%は重量部および重量%である。
【0035】
実施例および比較例で得られた防汚加工剤は以下のように評価した。
【0036】
撥水性試験
撥水撥油剤処理済カーペットを温度21℃、湿度65%の恒温恒湿機に4時間以上保管する。試験液(イソプロピルアルコール(IPA)、水、及びその混合液、表1に示す)も温度21℃で保存したものを使用する。試験は温度21℃、湿度65%の恒温恒湿室で行う。試験液をカーペット上にマイクロピペッターで50μl静かに滴下し、10秒間放置後、液滴がカーペット上に4滴または5滴残っていれば、その試験液をパスしたものとする。撥水性は、パスした試験液のイソプロピルアルコール(IPA)含量(体積%)の最大なものをその点数とし、撥水性不良なものから良好なレベルまでFail、0、1、2、3、4、5、6、7、8、9、及び10の12段階で評価する。
【0037】

【0038】
撥油性試験
撥水撥油剤処理済カーペットを温度21℃、湿度65%の恒温恒湿機に4時間以上保管する。試験液(表2に示す)も温度21℃で保存したものを使用する。試験は温度21℃、湿度65%の恒温恒湿室で行う。試験液をカーペット上にマイクロピペッターで50μl(5滴)静かに滴下し、30秒間放置後、液滴がカーペット上に4滴または5滴残っていれば、その試験液をパスしたものとする。撥油性は、パスした試験液の最高点数とし、撥油性不良なものから良好なレベルまでFail、1、2、3、4、5、6、7、及び8の9段階で評価する。
【0039】

【0040】
防汚性試験
ASTM D6540に準じて行った。表3に示す組成のドライソイルでカーペットを汚染させた。防汚性の評価は、色差計を用いて防汚性試験前のカーペット試料と比較し、ΔEを測定した。ΔEの値が小さいものが防汚性良好となる。
【0041】

【0042】
耐久性試験
AATCC 171-2005に準じてカーペットのクリーニングを行った。その後、カーペットの撥水性、撥油性および防汚性を測定した。
【0043】
合成例1
3-パーフルオロヘキシル-1,2-エポキシプロパン(C6 Rfエポキシ)(Rf基: CF3(CF2)5-)200gをメチルエチルケトン(MEK)200gに溶解し、80度に加温した。マレイン酸31gを加え、充分に溶解した後、触媒としてトリメチルベンジルアンモニウムクロリド2gを加えた。リフラックス状態で20時間反応を行った。次いで内容物を大量のメタノールに注ぎ、沈殿物としてRfマレエートを得た。ガスクロマトグラフィーにより未反応のC6 Rfエポキシが残存していないことを確認し、新たな生成物がジ(3-パーフルオロヘキシル-2-ヒドロキシ-プロピル)マレエート(C6 Rfマレエート):


(Rf基: CF3(CF2)5-)

とその構造異性体[(3-パーフルオロヘキシル-2-ヒドロキシ-プロピル)(3-パーフルオロヘキシル-1-ヒドロキシ-プロピル)マレエート]:


(Rf基: CF3(CF2)5-)
であることをマススペクトルにて確認した。C6 Rfマレエートと構造異性体の生成モル比は1:0.3であった。
以下の製造例において、これら2つの化合物を分離せずに、含フッ素マレエート(C6 Rfマレエート)として用いた。
【0044】
合成例2
マレイン酸に代えてフマル酸31gを用いた以外は合成例1の手順を繰り返して、3-パーフルオロヘキシル-2-ヒドロキシ-プロピルフマレート(C6 Rfフマレート):


(Rf基: CF3(CF2)5-)

とその構造異性体:


(Rf基: CF3(CF2)5-)

をモル比1:0.6で得た。
以下の製造例において、これら2つの化合物を分離せずに、含フッ素フマレート(C6 Rfフマレート)として用いた。
【0045】
合成例3
3-パーフルオロブチル-1,2-エポキシプロパン(C4 Rfエポキシ)(Rf基: CF3(CF2)3-)200gをメチルエチルケトン(MEK)200gに溶解し、80度に加温した。マレイン酸45.3gを加え、充分に溶解した後、触媒としてトリメチルベンジルアンモニウムクロリド2gを加えた。リフラックス状態で20時間反応を行った。次いで内容物を大量のメタノールに注ぎ、沈殿物としてRfマレエートを得た。ガスクロマトグラフィーにより未反応のC4 Rf エポキシが残存していないことを確認し、新たな生成物がジ(3-パーフルオロブチル-2-ヒドロキシ-プロピル)マレエート(C4 Rfマレエート):


(Rf基: CF3(CF2)3-)
とその構造異性体:


(Rf基: CF3(CF2)3-)

であることをマススペクトルにて確認した。生成モル比は1:0.2であった。
以下の製造例において、これら2つの化合物を分離せずに、含フッ素マレエート(C4 Rfマレエート)として用いた。
【0046】
比較合成例1
3-パーフルオロオクチル-1,2-エポキシプロパン(C8 Rfエポキシ)200gメチルエチルケトン(MEK)200gに溶解し、80度に加温した。マレイン酸23.7gを加え、充分に溶解した後、触媒としてトリメチルベンジルアンモニウムクロリド2gを加えた。リフラックス状態で20時間反応を行った。次いで内容物を大量のメタノールに注ぎ、沈殿物としてRfマレエートを得た。ガスクロマトグラフィーにより未反応のC8 Rfエポキシが残存していないことを確認し、新たな生成物がジ(3-パーフルオロオクチル-2-ヒドロキシ-プロピル)マレエート(C8 Rfマレエート):


(Rf基: CF3(CF2)7-)
であることをマススペクトルにて確認した。
【0047】
比較合成例2
マレイン酸に代えてフマル酸23.7gを用いた以外は合成例1の手順を繰り返して、C8 Rfフマレート:


(Rf基: CF3(CF2)7-)
を得た。
【0048】
製造例1
合成例1で合成した含フッ素マレエート(C6 Rfマレエート)56gをメチルメタクリレート24gに充分溶解させた後、α-オレフィンスルホン酸ソーダを6g、脱イオン水125g入れ、高圧ホモジナイザーで乳化した。得られた乳化液を還流冷却管、窒素導入管、温度計および攪拌装置を備えた4つ口フラスコにいれ、窒素気流下に約3時間、60℃に保ち、水4gに溶解した過硫酸アンモニウム1gを添加して重合を開始し、60℃で3時間過熱攪拌を行った。得られた重合物のエマルションは固形分で40%であった。重合体の組成は、仕込みモノマーの組成にほぼ一致した。
【0049】
製造例2〜7
表4に示す単量体を使用する以外は製造例1と同様の手順を繰り返し、重合物を得た。得られた重合物のエマルションは固形分で40%であった。重合体の組成は、仕込みモノマーの組成にほぼ一致した。
【0050】
製造例8
合成例1で合成した含フッ素マレエート(C6 Rfマレエート)56gをメチルメタクリレート24gに充分溶解させた後、ポリオキシエチレンラウリルエーテルEO20モル3g、ポリオキシエチレンオクチルエーテルEO20モル3g、脱イオン水125g入れ、高圧ホモジナイザーで乳化した。得られた乳化液を還流冷却管、窒素導入管、温度計および攪拌装置を備えた4つ口フラスコにいれ、窒素気流下に約3時間、60℃に保ち、水4gに溶解した過硫酸アンモニウム1gを添加して重合を開始し、60℃で3時間過熱攪拌を行った。得られた重合物のエマルションは固形分で40%であった。重合体の組成は、仕込みモノマーの組成にほぼ一致した。
【0051】
製造例9
合成例1で合成した含フッ素マレエート(C6 Rfマレエート)56gをメチルメタクリレート24gに充分溶解させた後、ラウリル硫酸ナトリウムを4g、ポリオキシエチレンラウリルエーテルEO20モル1g、ポリオキシエチレンオクチルエーテルEO20モル1g、脱イオン水125g入れ、高圧ホモジナイザーで乳化した。得られた乳化液を還流冷却管、窒素導入管、温度計および攪拌装置を備えた4つ口フラスコにいれ、窒素気流下に約3時間、60℃に保ち、水4gに溶解した過硫酸アンモニウム1gを添加して重合を開始し、60℃で3時間過熱攪拌を行った。得られた重合物のエマルションは固形分で40%であった。重合体の組成は、仕込みモノマーの組成にほぼ一致した。
【0052】
製造例10
合成例1で合成した含フッ素マレエート(C6 Rfマレエート)56gをメチルメタクリレート24gに充分溶解させた後、(C16-C18)アルキルトリメチルアンモニウムクロライドド4g、ポリオキシエチレンラウリルエーテルEO20モル1g、ポリオキシエチレンオクチルエーテルEO20モル1g、脱イオン水125g入れ、高圧ホモジナイザーで乳化した。得られた乳化液を還流冷却管、窒素導入管、温度計および攪拌装置を備えた4つ口フラスコにいれ、窒素気流下に約3時間、60℃に保ち、水4gに溶解した過硫酸アンモニウム1gを添加して重合を開始し、60℃で3時間過熱攪拌を行った。得られた重合物のエマルションは固形分で40%であった。重合体の組成は、仕込みモノマーの組成にほぼ一致した。
【0053】
製造例11
合成例2で合成した含フッ素フマレート(C6 Rfフマレート)を用いた以外は製造例2と同様の製造方法で重合物のエマルションを得た。得られた重合物のエマルションは固形分で40%であった。重合体の組成は、仕込みモノマーの組成にほぼ一致した。
【0054】
製造例12〜17
表1に示す単量体を使用する以外は製造例11と同様の手順を繰り返し、重合物のエマルションを得た。得られた重合物のエマルションは固形分で40%であった。重合体の組成は、仕込みモノマーの組成にほぼ一致した。
【0055】
製造例18
合成例3で合成した含フッ素マレエート(C4 Rfマレエート)を用いた以外は製造例2と同様の製造方法で重合物のエマルションを得た。得られた重合物のエマルションは固形分で40%であった。重合体の組成は、仕込みモノマーの組成にほぼ一致した。
【0056】
比較製造例1
比較合成例1で合成した含フッ素マレエート(C8 Rfマレエート)を用いた以外は製造例2と同様の製造方法で重合物のエマルションを得た。得られた重合物のエマルションは固形分で40%であった。重合体の組成は、仕込みモノマーの組成にほぼ一致した。
【0057】
比較製造例2
比較合成例2で合成した含フッ素フマレート(C8 Rfフマレート)を用いた以外は製造例2と同様の製造方法で重合物のエマルションを得た。得られた重合物のエマルションは固形分で40%であった。重合体の組成は、仕込みモノマーの組成にほぼ一致した。
【0058】
実施例1
製造例1で調製した重合物のエマルション(含フッ素撥水撥油剤)1.1gに水道水98.9gを加えて処理液を得た。この処理液をカーペット(20cm×20cm、ナイロン6、ループパイル(密度26oz/yd2))にWPU(wet pick up、カーペット100gに対して30gの液がのっている場合にWPU30%)量が30%となるようスプレー処理した。次に熱キュアを120℃で10分間行った。
次に撥水性試験、撥油性試験、防汚性試験を実施した。結果を表4に示す。
【0059】
実施例2〜18および比較例1〜2
製造例2〜18および比較製造例1〜2で調製した重合物のエマルション(含フッ素撥水撥油剤)を用いる以外は実施例1と同様の手順を繰り返した。結果を表4に示す。
【0060】
実施例19
製造例1で調製した重合物のエマルション(含フッ素撥水撥油剤)1.1gに水道水98.9g、ステインブロック剤SB-715(Tri-tex社製)10gを加えて処理液を得た。この処理液をカーペット(20cm×20cm、ナイロン6、ループパイル(密度26oz/yd2))にWPU(wet pick up、カーペット100gに対して30gの液がのっている場合にWPU30%)量が30%となるようスプレー処理した。次に熱キュアを120℃で10分間行った。
次に撥水性試験、撥油性試験、防汚性試験を実施した。結果を表5に示す
【0061】
実施例20〜36および比較例3〜4
製造例2〜18および比較製造例1〜2で調製した重合物のエマルション(含フッ素撥水撥油剤)を用いる以外は実施例19と同様の手順を繰り返した。結果を表5に示す。
【0062】

【0063】
表5

【0064】
StA:ステアリルメタクリレート
MMA:メチルメタクリレート
EMA:エチルメタクリレート
MA:メチルアクリレート
EA:エチルアクリレート
Sty:スチレン
IBMA:イソボロニルメタクレート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)式:


または



[式中、Aは、炭素数1〜10の脂肪族基、炭素数6〜10の芳香族基または環状脂肪族基、
-CH2CH2N(R1)SO2-基(但し、R1は炭素数1〜4のアルキル基である。)または
-CH2CH(OZ1)CH2-基(但し、Z1は水素原子またはアセチル基である。)または
-(CH2)m-SO2-(CH2)n-基 または-(CH2)m-S-(CH2)n-基(但し、mは1〜10、nは0〜10、である)、
Rfは、炭素数4または6の直鎖状または分岐状のパーフルオロアルキル基である。]
で示される含フッ素マレエートまたは含フッ素フマレートから誘導される少なくとも1種の繰り返し単位、ならびに
(B)アルキル基の炭素数1〜30のアルキル(メタ)アクリレートから誘導される少なくとも1種の繰り返し単位
を含んでなる含フッ素重合体を含んでなる防汚加工剤。
【請求項2】
含フッ素マレエートまたは含フッ素フマレートが、
式:



[式中、Rfは、炭素数1〜6のパーフルオロアルキル基である。]
で示される含OH含フッ素マレエート、または



[式中、Rfは、炭素数1〜6のパーフルオロアルキル基である。]
で示される含OH含フッ素フマレートである請求項1に記載の防汚加工剤。
【請求項3】
含フッ素重合体が、繰り返し単位(A)および繰り返し単位(B)に加えて、
(C)スチレンから誘導される繰り返し単位
を有してなる請求項1または2に記載の防汚加工剤。
【請求項4】
含フッ素マレエートまたは含フッ素フマレートが、


[式中、Rfは、炭素数1〜6のパーフルオロアルキル基である。]
で示されるマレエート構造異性体、または



[式中、Rfは、炭素数1〜6のパーフルオロアルキル基である。]
で示されるフマレート構造異性体をも含む請求項1〜3のいずれかに記載の防汚加工剤。
【請求項5】
(A)式:




[式中、Aは、炭素数1〜10の脂肪族基、炭素数6〜10の芳香族基または環状脂肪族基、
-CH2CH2N(R1)SO2-基(但し、R1は炭素数1〜4のアルキル基である。)または
-CH2CH(OZ1)CH2-基(但し、Z1は水素原子またはアセチル基である。)または
-(CH2)m-SO2-(CH2)n-基 または -(CH2)m-S-(CH2)n-基(但し、mは1〜10、nは0〜10、である)、
Rfは、炭素数4または6の直鎖状または分岐状のパーフルオロアルキル基である。]
で示される含フッ素マレエートまたは含フッ素フマレートから誘導される少なくとも1種の繰り返し単位、
(B)アルキル基の炭素数1〜30のアルキル(メタ)アクリレートから誘導される少なくとも1種の繰り返し単位、
要すれば存在する、(C)スチレンから誘導される繰り返し単位
を有してなる含フッ素重合体。
【請求項6】
含フッ素マレエートまたは含フッ素フマレートが、
式:



[式中、Rfは、炭素数1〜6のパーフルオロアルキル基である。]
で示される含OH含フッ素マレエート、または



[式中、Rfは、炭素数1〜6のパーフルオロアルキル基である。]
で示される含OH含フッ素フマレートである請求項5に記載の含フッ素重合体。
【請求項7】
含フッ素マレエートまたは含フッ素フマレートが、


[式中、Rfは、炭素数1〜6のパーフルオロアルキル基である。]
で示されるマレエート構造異性体、または



[式中、Rfは、炭素数1〜6のパーフルオロアルキル基である。]
で示されるフマレート構造異性体をも含む請求項5または6に記載の含フッ素重合体。
【請求項8】
請求項1〜4のいずれかに記載の防汚加工剤で基材を処理する方法。
【請求項9】
請求項8に記載の方法で処理された基材。
【請求項10】
カーペットである請求項9に記載の基材。

【公開番号】特開2011−226040(P2011−226040A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−221698(P2010−221698)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】