説明

含フッ素芳香族(メタ)アクリル酸エステル化合物の製造方法、及び含フッ素芳香族(メタ)アクリル酸エステル化合物

【課題】透明光学樹脂、撥水撥油性処理剤等の樹脂を製造する際の原料モノマーとして有用である含フッ素芳香族(メタ)アクリル酸エステル化合物を容易に製造する方法を提供する。
【解決手段】(メタ)アクリル酸ハライドや(メタ)アクリル酸無水物および多量の塩基を使用しないで、金属トリフラートのようなルイス酸触媒の存在下、フッ素化芳香族アルコールと(メタ)アクリル酸との脱水エステル化反応によって、含フッ素芳香族(メタ)アクリル酸エステル化合物を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含フッ素芳香族(メタ)アクリル酸エステル化合物の製造方法、及び含フッ素芳香族(メタ)アクリル酸エステル化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
含フッ素芳香族(メタ)アクリル酸エステルは、透明光学樹脂、撥水撥油性処理剤等の樹脂を製造する際の原料モノマーとして有用である。
【0003】
従来、含フッ素芳香族(メタ)アクリル酸エステルは、酸クロライド、酸無水物などの(メタ)アクリル酸誘導体とフッ素化芳香族アルコールのエステル化反応によって製造される(特許文献1、特許文献2、特許文献3、非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開2007/129418号パンフレット
【特許文献2】特開平10−095751号公報
【特許文献3】特開昭63−234006号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Reports of the Institute for Medical & Dental Engineering (医療材研報)、1981年、vol.15、pp.23−29
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記文献記載の技術では、使用する(メタ)アクリル酸クロライドおよび(メタ)アクリル酸無水物が(メタ)アクリル酸を出発原料として製造される化合物であり、ただの(メタ)アクリル酸を使用するよりも煩雑で高価になるという点で問題がある。さらに三級アミンやピリジンなどの塩基の存在下に反応するため、反応後生成する多量の第三級アミン塩を除去する必要があるなど、改善が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記課題を解決するため、鋭意検討した結果、(メタ)アクリル酸ハライドや(メタ)アクリル酸無水物および多量の塩基を使用しないで、(メタ)アクリル酸とフッ素化芳香族アルコールとの脱水エステル化反応によって含フッ素芳香族(メタ)アクリル酸エステル化合物を製造する方法を見出した。
【0008】
すなわち、本発明は、
[1]一般式(1)で表される(メタ)アクリル酸と一般式(2)で表される化合物とを反応させることを特徴とする一般式(3)で表される含フッ素芳香族(メタ)アクリル酸エステル化合物の製造方法、
【0009】
【化1】

〔式中、Aは水素原子またはメチル基を表す。〕
【0010】
【化2】

〔式中、Rは水素原子または直鎖、分岐鎖または環状のアルキル基を表し、lは0または1を表し、lが0の場合mは1〜5の整数を表し、nは(5−m)を表し、lが1の場合mは1〜7の整数を表し、nは(7−m)を表し、nが2以上の場合Rはすべてが同一でも互いに異なっていてもよい。〕
【0011】
【化3】

〔式中、Aは水素原子またはメチル基を表し、Rは水素原子または直鎖、分岐鎖または環状のアルキル基を表し、lは0または1を表し、lが0の場合mは1〜5の整数を表し、nは(5−m)を表し、lが1の場合mは1〜7の整数を表し、nは(7−m)を表し、nが2以上の場合Rはすべてが同一でも互いに異なっていてもよい。〕
【0012】
[2]ルイス酸触媒の存在下で反応させることを特徴とする[1]に記載の製造方法、
[3]前記ルイス酸が金属トリフラートである[2]に記載の製造方法、
[4]一般式(2)で表される化合物、および一般式(3)で表される化合物において、l=0かつm=5かつn=0であることを特徴とする[2]または[3]に記載の製造方法、
[5][1]乃至[4]いずれか1項に記載の製造方法によって製造された含フッ素芳香族(メタ)アクリル酸エステル化合物、
[6][5]に記載の含フッ素芳香族(メタ)アクリル酸エステル化合物を単重合又は共重合させて製造された光学フィルム、
[7][1]乃至[4]いずれか1項に記載の製造方法を用いて含フッ素芳香族(メタ)アクリル酸エステル化合物を製造する工程と、
得られた含フッ素芳香族(メタ)アクリル酸エステル化合物を重合させる工程と、
重合させる前記工程で得られた前記含フッ素芳香族(メタ)アクリル酸エステル化合物の重合体をフィルム状に成型する工程と、
を含む光学フィルムの製造方法、
に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、含フッ素芳香族(メタ)アクリル酸エステル化合物を簡便に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について、詳細に説明する。
【0015】
本発明は、上記一般式(3)で表される含フッ素芳香族(メタ)アクリル酸エステル化合物の製造方法である。本発明の方法によれば、上記一般式(1)で表される(メタ)アクリル酸と上記一般式(2)で表される化合物とを反応させることにより、上記一般式(3)で表される含フッ素芳香族(メタ)アクリル酸エステル化合物を製造する。
【0016】
上記一般式(1)及び上記一般式(3)で表される化合物において、Aは水素原子またはメチル基を表す。
【0017】
上記一般式(2)及び上記一般式(3)で表される化合物において、Rは、水素原子または直鎖、分岐鎖または環状のアルキル基を表す。Rの具体例としては、水素原子;または、炭素数1〜18の直鎖、分岐鎖または環状のアルキル基、より具体的には、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−ウンデシル基、n−ドデシル基、n−トリデシル基、n−テトラデシル基、n−ペンタデシル基、n−ヘキサデシル基、n−ヘプタデシル基、n−オクタデシル基、n−エイコシル基等の炭素数1〜18の直鎖アルキル基、イソプロピル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、1−メチルペンチル基、4−メチル−2−ペンチル基、3,3−ジメチルブチル基、2−エチルブチル基、1−メチルヘキシル基、シクロヘキシルメチル基、tert−オクチル基、1−メチルヘプチル基、2−エチルヘキシル基、2−プロピルペンチル基、2,2−ジメチルヘプチル基、2,6−ジメチル−4−ヘプチル基、3,5,5−トリメチルヘキシル基、1−メチルデシル基、1−ヘキシルヘプチル基等の炭素数3〜13の分岐鎖のアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、4−メチルシクロヘキシル基、4−tert−ブチルシクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、等の炭素数5〜10の環状のアルキル基を挙げることができる。
【0018】
上記一般式(2)及び上記一般式(3)で表される化合物において、lは0または1を表す。lが0の場合mは1〜5の整数を表し、好ましくは4または5を表す。nは(5−m)を表す。lが1の場合mは1〜7の整数を表し、好ましくは7を表す。nは(7−m)を表す。
【0019】
上記一般式で表される化合物は、メタクリル酸またはアクリル酸である。
【0020】
上記一般式(2)で表される化合物において、特に好ましい具体例としては、ペンタフルオロフェノール(パーフルオロフェノール)および2,3,5,6−テトラフルオロフェノールが挙げられる。
【0021】
一般式(3)で表される化合物において、特に好ましい具体例としては、ペンタフルオロフェニル(メタ)アクリレート(パーフルオロフェニル(メタ)アクリレート)、2,3,5,6−テトラフルオロフェニル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0022】
上記一般式(1)で表される化合物と上記一般式(2)で表される化合物とを反応させて、上記一般式(3)で表される含フッ素芳香族(メタ)アクリル酸エステル化合物を製造する方法としては、具体的には、上記一般式(1)で表される化合物、および、上記一般式(2)で表される化合物に、必要に応じて溶剤を加え、混合加熱して生成する水を反応系から排出させながら反応を行なう。
【0023】
上記一般式(1)で表される(メタ)アクリル酸の使用量は、上記一般式(2)で表される化合物に対して0.2モル当量〜5モル当量が好ましく、反応効率、製造コストなどを考慮すると、0.8モル当量〜4モル当量が好ましく、1モル当量〜3モル当量の範囲であればさらに好ましい。なお、過剰の(メタ)アクリル酸は、上記一般式(3)で表される化合物を単離精製する際に除去、若しくは回収することができる。製造コストを考慮すると、回収する方が好ましい。
【0024】
また、本発明では、エステル化触媒の存在下に反応させる上記一般式(1)で表される化合物と上記一般式化合物(2)で表される化合物とを反応させることが好ましい。こうすることで、反応速度を向上させることができる。エステル化触媒としては、例えば、塩酸、硫酸などの無機酸触媒類、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸、トリフルオロ酢酸、トリフルオロメタンスルホン酸などの有機酸触媒、ルイス酸触媒などが挙げられる。
【0025】
これらのエステル化触媒の中でも、目的とする一般式(3)で表される化合物を製造するためには、ルイス酸触媒が好ましい。ルイス酸触媒を用いることで、より反応が活性化され、さらにスムーズに反応を進行させることができる。
【0026】
ルイス酸触媒の中でも、有機化合物と金属とが作用して形成された有機金属塩が好ましく、金属トリフラート、金属イミド、有機金属錯体などがより好ましい。
【0027】
金属トリフラートとしては、トリメチルシリルトリフラート、一般式(4)で表される化合物が挙げられる。
【0028】
p+(CFSO(4)
【0029】
上記一般式(4)中、Mは、遷移金属元素であり、具体的には、Cu、Zn、Ga、Nb、Pd、In、Sn、Hf、Re、Bi、及び、希土類元素(Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu)が例示できる。上記一般式(4)中、pは、1〜3である。錫(II)トリフラート、銅(II)トリフラート、アルミニウム(III)トリフラート、イットリウム(III)トリフラート、スカンジウム(III)トリフラート、ハフニウム(IV)トリフラート、ジルコニウム(IV)トリフラートなどの金属トリフラートがより好ましい。
【0030】
金属イミドとしては、スカンジウム(III)トリフリルイミド、トリメチルシリルトリフリルイミドなどが挙げられる。
【0031】
有機金属錯体としては、ペンタフルオロフェニルホウ素(III)、スカンジウム(III)トリフリルメチドなどの有機金属錯体類などが挙げられる。
【0032】
これらのルイス酸触媒類の中では、入手可能な金属トリフラート類が好ましい。これらのエステル化触媒は、1種を単独で使用してもよいし、あるいは2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0033】
エステル化触媒の使用量は、特に制限されるものではないが、上記一般式(2)で表される化合物に対して、0.1モル%〜20モル%が好ましく、0.2モル%〜10モル%がより好ましく、0.3モル%〜5モル%であればさらに好ましい。この範囲で、効率よく反応が進行する。
【0034】
本発明に係る製造方法では必要に応じて溶剤を用いてよい。好ましい溶剤としては、エステル化反応に伴い生成してくる水を効率的に系外に除去できる共沸溶剤(水と共沸する)が挙げられる。例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、クメン、メシチレンなどの芳香族炭化水素系溶剤、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、オクタン、ノナンなどの脂肪族炭化水素系溶剤、クロロベンゼン、ジクロロベンゼンなどの芳香族ハロゲン系溶剤、ジクロロメタン、クロロホルム、ジクロロエタンなどの脂肪族ハロゲン系溶剤、酢酸−n−プロピル、酢酸−n−ブチル、安息香酸エチルなどのエステル系溶剤、3−ヘプタノン、4−ヘプタノン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶剤などが挙げられる。
【0035】
なお、これらの溶剤は、1種を単独で使用してもよいし、あるいは2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0036】
これら溶剤の使用量は、上記一般式(2)で表される化合物に対して、0.1重量倍〜20重量倍、好ましくは0.2重量倍〜10重量倍、さらに好ましくは0.5重量倍〜5重量倍である。
【0037】
反応温度は、20℃〜200℃が好ましく、80℃〜150℃がより好ましい。この範囲で、副生物の生成が抑えられ、効率よく反応が進行する。
【0038】
反応時間は、反応温度、溶剤、ルイス酸触媒の有無等により異なるために一概には言えないが、1〜100時間が好ましい。
【0039】
上記のようにして得られる含フッ素芳香族(メタ)アクリル酸エステル化合物は、常法通り、当該含フッ素芳香族(メタ)アクリル酸エステル化合物が液体の場合は、減圧蒸留する方法等により、また固体の場合は、そのまま晶析させるか抽出して再結晶させる方法等により、単離および精製することができる。
【0040】
本発明の製造方法により得られる含フッ素芳香族(メタ)アクリル酸エステル化合物は、以下に示す精製方法を用いることにより、さらに純度を高めることができる。以下この精製方法について具体的に説明する。この精製方法は、含フッ素芳香族(メタ)アクリル酸エステル化合物の反応液、又は、含フッ素芳香族(メタ)アクリル酸エステル化合物を含む溶液並びに混合物を、アルコール又は水を添加することにより、含フッ素芳香族(メタ)アクリル酸エステル化合物以外の不純物を分解し、蒸留等により精製するものである。
【0041】
アルコール又は水を添加するタイミングとしては、通常、
(A)反応液又は反応濾液
(B)反応液を洗浄した洗浄工程の有機層
(C)洗浄後の有機層から溶剤を留去した濃縮液
(D)蒸留精製後の含フッ素芳香族(メタ)アクリル酸エステル化合物が挙げられる。
【0042】
本発明で得られる含フッ素芳香族(メタ)アクリル酸エステル化合物には、下記一般式(5)で示す(メタ)アクリル酸無水物が不純物として混合することがある。
【0043】
【化4】

【0044】
具体的には、(A)の洗浄前の反応液又は反応濾液に水若しくはアルコール又はこれらの混合物を添加することにより、含まれる(メタ)アクリル酸無水物を(メタ)アクリル酸エステルと(メタ)アクリル酸とに分解する。アルコール、水、又はアルコールと水の混合物を用いることができる。
【0045】
同様に、(メタ)アクリル酸無水物の分解を(B)の洗浄工程で行なってもよい。この場合、(B)の洗浄工程において分液された有機層にアルコール又は水を添加して加熱することにより(メタ)アクリル酸無水物を分解するか、若しくは水が添加されている(B)の洗浄工程そのものを加熱して(メタ)アクリル酸無水物を分解すればより好ましい。
【0046】
残存の(メタ)アクリル酸無水物を分解する箇所としては、(C)の溶媒留去後が、分解時間が短縮されるため、より好ましい。この場合、水よりもアルコールを用いる方がより好ましい。アルコールでの分解は含フッ素芳香族(メタ)アクリル酸エステル化合物を含む濃縮液とアルコールとが分離しないため好ましい。水よりも沸点の低いアルコールを用いることで、短時間かつ低温で無水(メタ)アクリル酸の分解工程を行うことができ好ましい。水で分解工程を行う場合は公知公用の界面活性剤の添加が有効である。
【0047】
(D)の含フッ素芳香族(メタ)アクリル酸エステル化合物については、(C)と同様の条件で分解することができ、例えば、アルコール又は水による分解を行わずに蒸留された低純度の含フッ素芳香族(メタ)アクリル酸エステル化合物を、蒸留後にアルコール又は水を添加して分解工程に供し、再度蒸留してもよい。
【0048】
前述のいずれかの方法などで分解生成した(メタ)アクリル酸エステルおよび(メタ)アクリル酸は、蒸留によって容易に、目的物の含フッ素芳香族(メタ)アクリル酸エステル化合物と分離除去される。
【0049】
(メタ)アクリル酸無水物の分解に用いられるアルコールの種類としては、特に限定されないが、炭素数1〜4又は炭素数8〜30の一級、二級、三級アルコール、ネオペンタノールである。(メタ)アクリル酸無水物に対してアルコールを過剰量用いる場合は、炭素数1〜4又は炭素数9〜30の一級、二級、三級アルコール(3,5,5−トリメチル−1−ヘキサノールを除く)、ネオペンタノールを用いることが好ましい。具体的には、メタノール、エタノール、1−プロパノール、1−ブタノール、アリルアルコール、プロパルギルアルコール、イソブタノール、ネオペンタノール、n−ノナノール、1−デカノール、1−ウンデカノール、1−ドデカノール、1−トリデカノール、1−テトラデカノール、1−ヘキサデカノール及びオレイルアルコールなどの一級アルコール類、イソプロパノール、2−ブタノール、3−ペンタノールなどの二級アルコール類、t−ブタノール、イソステアリルアルコール及びステアリルアルコールなどの三級アルコール類が挙げられる。これらの中では、反応性に優れる一級アルコール類が好ましい。一級アルコール類の中では、分解生成する(メタ)アクリル酸エステルの沸点が、(メタ)アクリル酸(蒸留分離が容易な分解生成物)と同等以下となる炭素数4以下のアルコール(メタノール、エタノール、1−プロパノール、又は1−ブタノール)又はネオペンタノールが好ましい。沸点が目的物であるペンタフルオロフェニル(メタ)アクリレートよりも極めて高くなる高沸点アルコール、例えば、1−オクタノール、1−ノナノール、1−デカノール、1−ウンデカノール、1−ドデカノールを用いることもできる。
【0050】
(メタ)アクリル酸無水物の分解に用いられる水の種類としては、pHが6〜8の中性水、酸性物質を含むpHが6未満の酸性水、および塩基性物質を含むpHが8を超える塩基性水などが挙げられる。中性水としては、例えば、純水、イオン交換水、水道水、工業水、河川の水などが挙げられるが、塩分を含む海水(pHは8付近)なども挙げられる。酸性水を含まれる酸性物質としては、例えば、炭酸、塩酸、硫酸、メタクリル酸に代表されるカルボキシル基を有する化合物、ペンタフルオロフェノールに代表されるヒドロキシフェニル基を有する化合物などが挙げられる。塩基性水に含まれる塩基性物質としては例えば、水酸化ナトリウムに代表される金属水酸化物、炭酸ナトリウムに代表されるアルカリ金属炭酸塩、炭酸カルシウムに代表されるアルカリ土類金属炭酸塩、トリエチルアミンに代表される三級アミンなどが挙げられる。
【0051】
分解に使用するアルコールおよび水の添加量は、残存する(メタ)アクリル酸無水物の量によって適宜決められる。通常、(メタ)アクリル酸無水物の分解に必要なアルコール及び水の量を合計した量が添加される。(メタ)アクリル酸無水物に対しては、1当量〜10000当量の範囲、好ましくは10当量〜5000当量の範囲、より好ましくは20当量〜1000当量の範囲である。
【0052】
分解温度については、(メタ)アクリル酸無水物をアルコール又は水で分解する場合は、20℃〜200℃の範囲が好ましく、40℃〜150℃の範囲がより好ましく、60℃〜130℃の範囲であればさらに好ましい。上記の好ましい温度範囲とすることで、充分に分解反応を進行させることができ、かつ、目的物である含フッ素芳香族(メタ)アクリル酸エステル化合物の分解又は重合などを抑制することができる。
【0053】
水で(メタ)アクリル酸無水物を分解する際に、主に分解速度を向上させる目的で添加される界面活性剤は、公知物質の陰イオン(アニオン)界面活性剤、陽イオン(カチオン)界面活性剤、非イオン(ノニオン)界面活性剤を用いることができ、目的および状況などに応じて適時選択される。
【0054】
陰イオン(アニオン)界面活性剤とは、水中で界面活性剤本体が陰イオンになる界面活性剤を表し、例えば、オクチル硫酸ナトリウム、ドデシル硫酸ナトリウム、ミリスチル硫酸ナトリウム、セチリル硫酸ナトリウム、ステアリル硫酸ナトリウム、オレイル硫酸ナトリウム、リノリル硫酸ナトリウムなどの高級アルコール硫酸エステル塩、ラウリル酸ナトリウム、ミリスチン酸ナトリウム、プルチミン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸カルシウム、オレイン酸ナトリムなどの高級脂肪酸金属塩(石鹸)、オクチルベンゼンスルホン酸ナトリム、ノニルベンゼンスルホン酸ナトリムなどのアルキルベンゼンスルホン酸塩、オクチルポリ(オキシエチレン)リン酸ナトリウムなどのリン酸エステル塩などが挙げられる。
【0055】
陽イオン界面活性剤とは、水中で界面活性剤本体が陽イオンになる界面活性剤を表し、例えば、ベンジルトリエチルアンモニウムブロマイド、ベンジルトリメチルアンモニウムクロライド、ヘキサデシルトリエチルアンモニウムブロマイド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロライド、ドデシルトリメチルアンモニウムクロライド、オクチルトリエチルアンモニウムブロマイド、テトラ−n−ブチルアンモニウムブロマイド、テトラ−n−ブチルアンモニウムクロライド、テトラエチルアンモニウムクロライドおよびトリオクチルメチルアンモニウムクロライドなどの四級アンモニウム塩、ヘキサデシルトリエチルホスホニウムブロマイド、ヘキサデシルトリブチルホスホニウムクロライド、テトラ−n−ブチルホスホニウムブロマイド、テトラ−n−ブチルホスホニウムクロライド、トリオクチルエチルホスホニウムブロマイドおよびテトラフェニルホスホニウムブロマイドなどの四級ホスホニウム塩などが挙げられる。
【0056】
非イオン(ノニオン)界面活性剤とは、水中で界面活性剤本体がイオン化しない界面活性剤を表し、例えば、ドデシルポリ(オキシエチル)アルコール、セチルポリ(オキシエチル)アルコール、ステアリルポリ(オキシエチル)アルコール、オレイルポリ(オキシエチル)アルコール、リノリルポリ(オキシエチル)アルコールなどのポリ(オキシエチレン)アルキルエーテル化合物、オクチルフェニルポリ(オキシエチル)アルコール、ノニルフェニルポリ(オキシエチル)アルコールなどのポリ(オキエチレン)アルキルフェニルエーテル化合物、
ドデシルポリ(オキシプロピル)アルコール、セチルポリ(オキシプロピル)アルコール、ステアリルポリ(オキシプロピル)アルコール、オレイルポリ(オキシプロピル)アルコール、リノリルポリ(オキシプロピル)アルコールなどのポリ(オキシプロピレン)アルキルエーテル化合物、オクチルフェニルポリ(オキシプロピル)アルコール、ノニルフェニルポリ(オキシプロピル)アルコールなどのポリ(オキシプロピレン)アルキルフェニルエーテル化合物などが挙げられる。
【0057】
尚、これらの界面活性剤は、目的に応じて、適宜選択され、単独で使用しても2種以上を組み合わせて使用してもよい。これら界面活性剤の使用量は、含フッ素芳香族(メタ)アクリル酸エステル化合物に対して、0.01重量%〜20重量%の範囲であり、好ましくは0.1重量%〜10重量%の範囲、さらに好ましくは0.5重量%〜5重量%の範囲である。
【0058】
アルコール又は水での分解を経た有機層および濃縮液などを、蒸留などで精製することにより、含フッ素芳香族(メタ)アクリル酸エステル化合物を高純度で得ることができる。蒸留に用いられる蒸留塔の理論段数は、不純物の分離性と含フッ素芳香族(メタ)アクリル酸エステル化合物の熱劣化(収率)を勘案して適宜決められる。一般的には、1〜50段の範囲、好ましくは1〜30段の範囲、さらに好ましくは1〜25段の範囲である。
【0059】
このようにアルコール又は水による(メタ)アクリル酸無水物の分解を経て蒸留精製して得られる含フッ素芳香族(メタ)アクリル酸エステル化合物は、不具合の原因物質である(メタ)アクリル酸無水物の含有量が極めて少なく、少なくとも0.2重量%以下、好ましくは0.1重量%以下、最も好ましくはゼロに近い領域(検出限界0.01重量%以下)まで低減される。含フッ素芳香族(メタ)アクリル酸エステル化合物の純度もその分向上し、少なくとも99.0重量%以上、好ましくは99.5重量%以上、より好ましくは99.7重量%以上、さらに好ましくは99.9重量%以上となり、極めて高純度となる。
【0060】
反応、あるいは精製工程において、上記一般式(1)で表される化合物、または上記一般式(3)で表される化合物の重合防止のために、系内に重合禁止剤を存在させることが好ましい。重合禁止剤の種類は特に限定されないし、単独で用いても2種以上を併用しても良い。
【0061】
重合禁止剤は、例えば反応前の原料仕込み時に添加しても良いし、反応終了後、精製作業前に入れても良い。
【0062】
重合禁止剤としては、ハイドロキノン、p−メトキシフェノール、2,4−ジメチル−6−tert−ブチルフェノール、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、tert−ブチル−カテコール、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、ペンタエリスリトール、テトラキス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシヒドロシンナメイト)、2−sec−ブチル−4,6−ジニトロフェノールなどのフェノール系化合物、N,N'−ジイソプロピルパラフェニレンジアミン、N,N'−ジ−2−ナフチルパラフェニレンジアミン、N−フェニレン−N'−(1,3−ジメチルブチル)パラフェニレンジアミン、N,N'−ビス(1,4−ジメチルフェニル)−パラフェニレンジアミン、N−(1,4−ジメチルフェニル)−N'−フェニル−パラフェニレンジアミンなどのアミン系化合物、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル、4−ベンゾイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル、ビス(1−オキシル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)セバケイトなどのN−オキシル系化合物、銅、塩化銅(II)、塩化鉄(III)などの金属化合物などが挙げられる。
【0063】
重合禁止剤の使用量は、適宜決めれば良いが、一般式(1)で表される化合物に対して10ppm以上が好ましく、効果を十分発揮させるには50ppm以上がより好ましい。一方、コスト面から考えると重合禁止剤の使用量は、50000ppm以下であることが好ましく、5000ppm以下であることがより好ましい。
【0064】
また、反応液中に空気などの分子状酸素含有ガスをバブリングすることによって重合防止をすることもできる。
【0065】
本発明の含フッ素芳香族(メタ)アクリル酸エステル化合物は、光、熱、電子線等を用いた公知の方法により重合し、樹脂組成物とすることができる。樹脂組成物とする際は、本発明の含フッ素芳香族(メタ)アクリル酸エステル化合物単独でも、他の共重合可能な化合物との共重合体でもよい。
【0066】
本発明の含フッ素芳香族(メタ)アクリル酸エステル化合物を用いた樹脂組成物は、それ自体で用いてもよく、または他の熱可塑性ポリマーとブレンドしても構わない。本発明の含フッ素芳香族(メタ)アクリル酸エステル化合物の樹脂組成物単独、または他の熱可塑性ポリマーとブレンドは、射出成形、押出成形、ブロー成形、圧縮成形などのような各種プラスチック加工法によって様々な成形品に加工できる。また、樹脂組成物を公知の溶剤で溶解させ、得られる溶液を用いた流延法によっても成形可能である。成形加工の際には、一般に用いられる酸化防止剤、熱安定剤、可塑剤、滑剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、着色剤、収縮防止剤などを添加してもよい。
【0067】
上記樹脂組成物の用途は特に限定されないが、LCDなどのフラットパネルディスプレイ用光学フィルム、光ディスク用基板、プラスチックレンズ、プラスチック光ファイバー、プラスチック光導波路などに好適に用いられる。
【0068】
以上、図面を参照して本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【実施例】
【0069】
以下本発明を実施例により、さらに具体的に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。また、本発明に於いて、含フッ素芳香族(メタ)アクリル酸エステル化合物の定量および純度分析はGC(ガスクロマトグラフィー)により行った。
<GC条件>
カラム: J&W キャピラリーカラム,DB−1 Φ0.25mm×30m(膜厚0.25μm)
キャリアー: ヘリウムガス,140ml/分(スプリット=1/100,カラム内線速=46cm/秒、60℃)
カラム温度: 60℃×6分間保持→昇温10℃/分→200℃×7分間保持
注入部温度: 160℃
検出部温度: 200℃
検出: 水素炎イオン検出器(FID)
検出限界: 0.01重量%(試料中の(メタ)アクリル酸無水物の含有量として)
<純度換算収率>
以下の式により算出した。
純度換算収率(モル%)=[{一般式(3)で表される化合物の収量(重量部)×一般式(3)で表される化合物の純度(重量%)÷一般式(3)で表される化合物の分子量}/一般式(2)で表される化合物の仕込みモル数]×100
【0070】
(実施例1)
冷却管、共沸脱水管、温度計、スリーワンモーターに連動した撹拌羽を装着した4つ口フラスコにメタクリル酸136.7g(1.60モル)、パーフルオロフェノール(別名ペンタフルオロフェノール)241.7g(1.31モル)、エステル化触媒としてアルミニウム(III)トリフラート18.7g(3モル%/パーフルオロフェノール)、重合金資材としてp−メトキシフェノール0.7g(0.5重量%/メタクリル酸)、溶剤としてトルエン913.5g(3.8重量倍/パーフルオロフェノール)を装入し、過熱還流下(内温120〜123℃)生成してくる水を共沸脱水で系外に抜き出しながら60時間反応を行なった。室温まで冷却後、目的物の定量を行なったところ、反応終了液1311.2g中にパーフルオロフェニルメタクリレートは9.0重量%(反応収率36モル%/パーフルオロフェノール)含まれていた。次に反応終了液を濾過して不溶物を除き、濾液を500mlの水で3回洗浄し、ロータリーエバポレーターにて脱溶剤した。最後に得られた濃縮液を塔段数22段の蒸留塔で減圧蒸留し、純度98.5%(GC面積%)のパーフルオロフェニルメタクリレートが49.5g(純度換算収率15%)得られた。
【0071】
(実施例2〜6)
一般式(1)で表される化合物、一般式(2)で表される化合物、ルイス酸触媒、反応温度、および反応時間を変更して実施例1と同様に試験した。目的物の精製は、減圧蒸留または再結晶により行った。結果を表1に掲載する。
【0072】
【表1】

【0073】
(製造例1)ペンタフルオロフェニルメタクリレートとメタクリル酸メチルの共重合
実施例1で得たペンタフルオロフェニルメタクリレート4.54g(0.018モル)、メタクリル酸メチル18.22g(0.18モル)、トルエン22.8gを混合し、2,2'−アゾビスイソブチロニトリル33.1mg(0.201mmol)を添加した。窒素で空気を置換した後、60℃で7時間撹拌した。室温まで冷却した後、テトラヒドロフランで希釈、メタノールに排出し、白色固形分を濾過、洗浄、乾燥して、ペンタフルオロフェニルメタクリレートとメタクリル酸メチルの共重合体10.8gを得た。得られた共重合体のH−NMRスペクトルのシグナルの強度比から求めたペンタフルオロフェニルメタクリレートの含量は、17モル%であった。
【0074】
製造例1で得られた共重合体のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)分析による重量平均分子量(Mw)は32万、分子量分布(Mw/Mn)は2.1であった。ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による重量平均分子量(Mw)、分子量分布(Mw/Mn)の測定条件は、以下のとおりである。
装置:日本分光社製恒温GPC測定装置(GPC−900)
カラム: ポリマー・ラボラトリー社製PLgel5μmMIXED−C
溶離液:テトラヒドロフラン
溶離液流量:1.0mL/分
カラム温度:40℃
検出方法:示差屈折率(RI)計
検量線:標準ポリスチレンを用いて作成
【0075】
(製造例2)ペンタフルオロフェニルメタクリレートとメタクリル酸メチルの共重合体の光学フィルムの製造
製造例1で得られたペンタフルオロフェニルメタクリレートとメタクリル酸メチルの共重合体4.0gをシクロヘキサノン46.0gに溶解し、濾過後、ガラス板上に流延した。窒素雰囲気下、80℃で30分乾燥後、更に180℃で90分乾燥することにより、厚み20μm、ASTM−D−1003に準じた方法で測定された全光線透過率が93%の透明な光学フィルムを得た。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で表される(メタ)アクリル酸と一般式(2)で表される化合物とを反応させることを特徴とする一般式(3)で表される含フッ素芳香族(メタ)アクリル酸エステル化合物の製造方法。
【化1】

〔式中、Aは水素原子またはメチル基を表す。〕
【化2】

〔式中、Rは水素原子または直鎖、分岐鎖または環状のアルキル基を表し、lは0または1を表し、lが0の場合mは1〜5の整数を表し、nは(5−m)を表し、lが1の場合mは1〜7の整数を表し、nは(7−m)を表し、nが2以上の場合Rはすべてが同一でも互いに異なっていてもよい。〕
【化3】

〔式中、Aは水素原子またはメチル基を表し、Rは水素原子または直鎖、分岐鎖または環状のアルキル基を表し、lは0または1を表し、lが0の場合mは1〜5の整数を表し、nは(5−m)を表し、lが1の場合mは1〜7の整数を表し、nは(7−m)を表し、nが2以上の場合Rはすべてが同一でも互いに異なっていてもよい。〕
【請求項2】
ルイス酸触媒の存在下で反応させることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記ルイス酸が金属トリフラートである請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
一般式(2)で表される化合物、および一般式(3)で表される化合物において、l=0かつm=5かつn=0であることを特徴とする請求項1乃至3いずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至4いずれか1項に記載の製造方法によって製造された含フッ素芳香族(メタ)アクリル酸エステル化合物。
【請求項6】
請求項5に記載の含フッ素芳香族(メタ)アクリル酸エステル化合物を単重合又は共重合させて製造された光学フィルム。
【請求項7】
請求項1乃至4いずれか1項に記載の製造方法を用いて含フッ素芳香族(メタ)アクリル酸エステル化合物を製造する工程と、
得られた含フッ素芳香族(メタ)アクリル酸エステル化合物を重合させる工程と、
重合させる前記工程で得られた前記含フッ素芳香族(メタ)アクリル酸エステル化合物の重合体をフィルム状に成型する工程と、
を含む光学フィルムの製造方法。

【公開番号】特開2011−225499(P2011−225499A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−99078(P2010−99078)
【出願日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】