説明

含リンエステル基含有テトラカルボン酸またはその二無水物及び含リンポリエステルイミド

【課題】難燃性、高熱拡散性に寄与する新規な含リンエステル基含有テトラカルボン酸またはその二無水物、それを利用して製造される含リンポリエステルイミド前駆体および含リンポリエステルイミドの提供。
【解決手段】式(1)または(2)で表される含リンエステル基含有テトラカルボン酸またはその二無水物、それを利用して製造される含リンポリエステルイミド前駆体および含リンポリエステルイミド。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な含リンエステル基含有テトラカルボン酸またはその二無水物、それを使用して製造される含リンポリエステルイミド前駆体、および含リンポリエステルイミドに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミドは、電気・電子部品等の材料として広く利用されている。例えば、フレキシブルプリント基板のベースフィルム、接着層、半導体素子の保護膜・絶縁膜、液晶ディスプレーなどの表示素子等、種々の用途に採用・検討されている。用途拡大に伴い、その要求特性も変化する必要に迫られている。取り分けフレキシブルプリント基板の薄膜化に伴い、そのベースのポリイミドフィルムも薄膜化している。同時に、薄膜化したポリイミドは、ポリイミドが本来持つ難燃性が低下する恐れがある。その為、薄膜化したポリイミドでも従来と同等以上の難燃性が求められている。
【0003】
難燃性の高いポリイミドとして、リン化合物であるホスファゼン化合物を導入する技術が開示されている(例えば、特許文献1及び2参照)。しかしながら、25μmより薄い膜の難燃特性は記載されていない。また導入するホスファゼン化合物の合成法は、複数工程を含む複雑なものであり、実用的でない。
【0004】
また、ジアミン成分にリンを含む含リンジアミン化合物が報告されている(例えば、非特許文献1及び2参照)。これらは主にエポキシ樹脂用硬化剤として、難燃性、耐熱性の向上に利用されている。しかしながら、これらの含リンジアミン化合物をポリイミドに利用された公知技術は少ない。
【0005】
含リンジアミンとビスマレイミドを重合させて、ポリアミドイミドとする耐熱材料の報告がある(例えば、非特許文献3)。また、含リンジアミンとリンを含まない芳香族酸二無水物を重合させたポリイミドを生体材料として利用する報告がある(例えば、特許文献3)。しかしこれらの文献には、難燃性薄膜の例は記載されていない。
【0006】
更に、近年の電子材料の高密度集積化に伴い、熱拡散性が良いこともポリイミドに強く望まれているが、これまでに良好な熱拡散性を有するポリイミド薄膜の例は見られない。
【特許文献1】特開2006−77064号公報
【特許文献2】特開2006−124525号公報
【特許文献3】国際公開第2006/127763パンフレット
【非特許文献1】接着学会誌、vol.40、No.2、15−20(2004)
【非特許文献2】ポリマーダイジェスト、55(6)、27−33(2003)
【非特許文献3】Polymer、vol.43(6)、1773−1779、(2002)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、難燃性、高熱拡散性に寄与する新規な含リンエステル基含有テトラカルボン酸またはその二無水物、それを利用して製造される含リンポリエステルイミド前駆体および含リンポリエステルイミドを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記のような課題を解決するために種々研究を行い、特定の構造を有する含リンエステル基含有テトラカルボン酸またはその二無水物を見出し、さらに、それを使用して製造される含リンポリエステルイミド前駆体及び含リンポリエステルイミドが優れた難燃性並びに熱拡散率を有することを見出し、本発明を完成した。
即ち本発明は以下に示すものである。
【0009】
1.式(1)で表される含リンエステル基含有テトラカルボン酸または式(2)で表されるその二無水物:
【化5】


〔式(1)及び(2)中、
Arは、式(3):
【化6】


より選択される三価の芳香族基を表し、
式(1)〜(3)中、R、R、R、R4、及びRは、同一または異なって、水素原子或いは炭素数1〜4のアルキル基を表す〕。
【0010】
2.式(5):
【化7】


(式(5)中、Arは式(1)及び(2)におけるのと同義であり、R及びRは式(1)〜(3)におけるのと同義であり、Xは、二価の芳香族基、脂環式基または脂肪族基を表し、Rは水素原子、或いは炭素数1〜4のアルキル基を表す。)で表される反復単位を有する含リンポリエステルイミド前駆体。
【0011】
3.式(4):
【化8】


(式(4)中、Arは式(1)及び(2)におけるのと同義であり、R及びRは式(1)〜(3)におけるのと同義であり、Xは式(5)におけるのと同義である)で表される反復単位を有する含リンポリエステルイミド。
【発明の効果】
【0012】
本発明の含リンエステル基含有テトラカルボン酸またはその二無水物は、優れた難燃性及び/又は熱拡散性を持つポリエステルイミドフィルムの原料、耐熱性難燃エポキシ樹脂の硬化剤または樹脂改質剤として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に本発明の実施の形態について詳細に説明するが、これらは本発明の実施形態の一例であり、これらに限定されない。
【0014】
<含リンエステル基含有テトラカルボン酸またはその二無水物及びその製造方法>
本発明の含リンエステル基含有テトラカルボン酸またはその二無水物は、式(1)または(2)で表される。ここで、R、R及びRとして好ましいのは、水素、メチル、エチルである。
【0015】
本発明の含リンエステル基含有テトラカルボン酸またはその二無水物の製造方法は特に限定されず、従来公知の方法で製造することができる。例えば、特開2006−206486に開示された技術に基づき、製造することができる。
【0016】
即ち、本発明の含リンエステル基含有テトラカルボン酸またはその二無水物は、式(6):
【化9】


(式(6)中、Arは式(1)及び(2)におけるのと同義であり、R及びRは式(1)〜(3)におけるのと同義であり、Rは、同一または異なって、炭素数1〜4のアルキル基を表す)で表される含リン芳香族アルカンエステルと、式(7):
【化10】


で示されるトリメリット酸無水物とを、相間移動触媒の存在下、溶媒中でエステル交換反応させて製造することができる。
【0017】
本発明における式(6)に係る含リン芳香族アルカンエステルは、式(8):
【化11】


(式(8)中、Arは式(1)及び(2)におけるのと同義であり、R及びRは式(1)〜(3)におけるのと同義である。)
で表される化合物を塩化アセチル等のハロゲン化アセチルによりアセトキシ化することで容易に製造することができる。
【0018】
本発明における式(6)に係る含リン芳香族アルカンエステルとしては、酢酸エステル、プロピオン酸エステル、酪酸またはイソ酪酸エステルが例示されるが、好ましくは酢酸エステルが挙げられる。
【0019】
式(6)で示される含リン芳香族アルカンエステルと、トリメリット酸無水物とのエステル交換反応は、相間移動触媒の存在下、溶媒中で行われ、式(2)で示される含リンエステル基含有テトラカルボン酸二無水物を得る。ここでは、トリメリット酸無水物2モルに対し、含リン芳香族アルカンエステルを0.95〜1.50モル反応させるのが好ましい。式(1)で示される含リンエステル基含有テトラカルボン酸は、式(2)で示される含リンエステル基含有テトラカルボン酸二無水物を水と反応させることで、容易に得ることが出来る。
【0020】
本発明に係る相間移動触媒としては、上記方法において設定される反応温度に耐えうる触媒であれば良く、公知のもの、例えば、アンモニウム塩、ホスホニウム塩、スルホニウム塩、クラウンエーテル等が利用できるが、好ましくは、ホスホニウム塩、スルホニウム塩が利用できる。ホスホニウム塩としては、例えば、トリフェニルホスフィン、臭化テトラフェニルホスホニウム、塩化テトラフェニルホスホニウム、塩化テトラブチルホスホニウム等、スルホニウム塩としては、ヨウ化スルホニウム、臭化トリフェニルスルホニウム等が挙げられる。
【0021】
相間移動触媒の量は、式(6)で示される含リン芳香族アルカンエステルに対し、0.1〜10重量%、好ましくは0.3〜5.0重量%である。
【0022】
エステル交換反応には、溶媒を用いる。使用する溶媒は、反応温度(170〜250℃)付近または反応温度を越える沸点を持ち、設定される反応温度に応じ適宜選択されるが、反応に関与しないもの、すなわち含リン芳香族アルカンエステル、トリメリット酸無水物および相間移動触媒に対し、不活性でなければならない。例えば、1,2−ジクロロベンゼン、1,2,4−トリクロロベンゼンのようなポリ塩化ベンゼン、2,3−ジクロロトルエンのようなポリ塩化トルエンが使用可能である。脱水された非プロトン性極性溶媒、例えばスルホラン、N−メチルピロリドンも使用可能である。溶媒の使用量は、式(6)で示される含リン芳香族アルカンエステルに対し、50〜800重量%、好ましくは100〜500重量%である。
【0023】
エステル交換反応温度は、170〜250℃で行われるが、200〜240℃が好ましい。
【0024】
反応終了後、反応母液をそのまま濾別して、粗製物を得る。粗製物を芳香族溶媒、例えば、トルエン、キシレン、或いはモノクロロベンゼンのような塩素化ベンゼンで還流洗浄し、精製する。この時、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドのようなアミド溶媒を共存させても良い。還流洗浄された精製物を濾別し、160〜250℃、好ましくは180〜220℃で乾燥させ目的物を得る。
【0025】
<含リンポリエステルイミド前駆体及びその製造方法>
本発明の含リンポリエステルイミド前駆体は、式(5)で表される反復単位を有する。式(5)におけるXは、任意の二価の芳香族基、脂環式基又は脂肪族基であり、合成原料のジアミンに由来する。Xとして特に好ましいのは、二価の芳香族基としては、4,4‘−オキシジアニリンであり、二価の脂環式基としては、シクロヘキサンジアミンであり、二価の脂肪族基としては、ヘキサメチレンジアミンである。
【0026】
含リンポリエステルイミド前駆体は、式(5)で表される反復単位を、全反復単位に対して、好ましくは5%以上、更に好ましくは50%以上、もっとも好ましくは100%含む。
【0027】
含リンポリエステルイミド前駆体は、好ましくは2000mPa・s以上、更に好ましくは2000〜200000mPa・s、もっとも好ましくは2000〜100000mPa・sの粘度を有し得る。含リンポリエステルイミド前駆体は含リンポリエステルイミドの難燃性、高熱拡散性に寄与する。
【0028】
含リンポリエステルイミド前駆体は、上記で得られた含リンエステル基含有テトラカルボン酸二無水物を用いて公知の方法で製造できる。すなわち、含リンポリエステルイミド前駆体(ポリアミック酸)の製造方法は、式(1)で表される含リンエステル基含有テトラカルボン酸二無水物を必須成分として含む酸二無水物と、式(4)のXに相当する1種以上のジアミン成分とを、酸二無水物に対してジアミン成分を、0.5〜2.0当量の範囲内の任意の割合で反応させることからなる。含リンポリエステルイミド前駆体から得られる、後述する含リンポリエステルイミドの分子量を小さくし、その末端を酸無水物にして得たい場合は、酸無水物に対するジアミン成分の量を0.5当量に近づければ良く、また、含リンポリエステルイミドの分子量を小さくし、その末端をアミンにして得たい場合は、酸無水物に対するジアミン成分の量を2.0当量に近づければ良い。さらに、得られる含リンポリエステルイミドの分子量を大きくしたい場合には、酸無水物に対するジアミン成分の量を1.0当量に近づければ良い。
【0029】
反応温度は概ね0℃〜100℃の反応温度範囲である。好ましくは0℃〜60℃、さらに好ましくは0℃〜40℃である。使用するジアミン成分の反応性にもよるが、反応温度が低すぎると反応に時間がかかり、逆に高すぎるとポリアミック酸にした場合に、分子量が大きくなりにくい傾向がある。反応時間としてはおよそ30分〜48時間である。
【0030】
含リンエステル基含有テトラカルボン酸二無水物を用いて含リンポリエステルイミド前駆体を製造する場合、含リンポリエステルイミドの難燃効果を出すには、使用する酸二無水物の合計に対して、含リンエステル基含有テトラカルボン酸二無水物が1モル%〜100モル%であることが必要であり、好ましくは5モル%〜100モル%であり、より好ましくは7〜100モル%である。含リンエステル基含有テトラカルボン酸二無水物の比率を1モル%以下とすると難燃効果が不十分となり、該比率を20モル%以上にしても難燃効果の大幅な向上は見込めないから、比率は、1〜20モル%、好ましくは5〜15モル%、更に好ましくは7モル%〜13モル%とすることもできる。
【0031】
含リンエステル基含有テトラカルボン酸二無水物を用いて含リンポリエステルイミド前駆体を製造する場合、含リンポリエステルイミドの熱拡散効果を出すには、使用する酸二無水物の合計に対して、含リンエステル基含有テトラカルボン酸二無水物が50モル%以上必要であり、好ましくは70モル%以上、更に好ましくは90モル%以上である。50モル%より少ないと熱拡散効果が顕著ではない。
【0032】
反応溶媒は通常、非プロトン性極性溶媒が使用されるが、他の溶媒を使用しても差し支えない。使用可能な溶媒としては、例えばN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルメトキシアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホン、スルホラン、ヘキサメチルホスホルアミド、フェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、2,3−キシレノール、2,4−キシレノール、2,5−キシレノール、2,6−キシレノール、3,4−キシレノール、3,5−キシレノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、グライム、ジグライム、トリグライム、トルエン、キシレンなどが挙げられる。これらの溶媒は単独あるいは二種以上混合して用いることができる。溶媒の使用量に特に制限はないが、生成するポリアミック酸の含量が5〜20重量%以下とするのが望ましい。
【0033】
必須成分である含リンエステル基含有テトラカルボン酸二無水物に加えて、他の酸二無水物を使用することができるが、この他の酸二無水物に特に制限は無い。例えばシクロブタンテトラカルボン酸二無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、ピロメリット酸二無水物、1,1−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物、2,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物等である。
【0034】
反応に使用される1種類以上のジアミン成分としては特に制限は無い。例えば、芳香族ジアミンとしては、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルチオエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルチオエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルチオエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、3,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフォン、3,4’−ジアミノジフェニルスルフォン、3,3’−ジアミノジフェニルスルフォン、4,4’−ジアミノベンズアニリド、3,4’−ジアミノベンズアニリド、3,3’−ジアミノベンズアニリド、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]メタン、ビス[4−(4−アミノフェニキシ)フェニル]メタン、1,1−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]エタン、1,1−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エタン、1,2−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]エタン、1,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エタン、2,2−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、2,2−ビス[3−(3−アミノフェノキシ)フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、1,4−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、4,4’−ビス[3−(4−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ジフェニルエーテル、4,4’−ビス[3−(3−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ジフェニルエーテルなどであり、脂肪族又は脂環式ジアミンとしては、1,2−ジアミノエタン、1,2−ジアミノプロパン、1,3−ジアミノプロパン、1,4−ジアミノブタン、1,3−ジアミノペンタン、1,5−ジアミノペンタン、1,6−ジアミノヘキサン、1,7−ジアミノヘプタン、1,8−ジアミノオクタン、1,9−ジアミノノナン、1,10−ジアミノデカン、1,11−ジアミノウンデカン、1,12−ジアミノドデカン、2−メチル−1,5−ジアミノペンタン、4,4−ジメチルヘプタメチレンジアミン、ジ(アミノメチル)シクロヘキサン、ジアミノジシクロヘキシルメタン、ジアミノジシクロヘキシルエーテル、ジアミノシクロヘキサン、ジアミノヘキサヒドロジフェニル、イソホロンジアミン、m−キシリレンジアミン、p−キシリレンジアミン、1,3−ビス(アミノプロピル)テトラメチルシロキサン、α,ω―ビス(3−アミノプロピル)ポリジメチルシロキサンなどである。また、ジアミン成分として、非特許文献1〜3及び特許文献3に記載されるような含リンジアミンを使用することもできる。
【0035】
さらに、分子量を調節する目的で、あるいは他の目的で、次のモノアミンやジカルボン酸無水物を添加することも可能である。使用されるモノアミンとしては、アニリン、4−フェニルアニリン、4−フェノキシアニリン、シクロヘキシルアミン、m−アミノフェニルアセチレンなどであり、ジカルボン酸無水物としてはマレイン酸無水物、フタル酸無水物、ナジック酸無水物、フェニルエチニルフタル酸無水物、トリメリット酸無水物、アセチニルフタル酸無水物などである。
【0036】
<含リンポリエステルイミド及びその製造方法>
本発明の含リンポリエステルイミドは、式(4)で表される反復単位を有する。式(4)におけるXは、式(5)におけるのと同様である。含リンポリエステルイミドは、式(4)で表される反復単位を、全反復単位に対して、好ましくは5%以上、更に好ましくは50%以上、もっとも好ましくは100%含む。含リンポリエステルイミドは、有機溶媒に不溶となり、粘度の測定ができない場合もあるが、溶媒可溶の場合は好ましくは1000mPa・s以上、更に好ましくは1000〜50000mPa・s、もっとも好ましくは1000〜30000mPa・sの粘度を有する。含リンポリエステルイミドは難燃性、高熱拡散性を有する。
【0037】
本発明の含リンポリエステルイミドの製造方法は、前述の含リンポリエステルイミド前駆体であるポリアミック酸溶液を加熱脱水してイミド化する方法、或いはこれを縮合触媒存在下の溶液中で化学閉環してイミド化する方法などの公知の手法を用いることができる。
【0038】
ポリアミック酸溶液を加熱脱水してイミド化する方法とは、ステンレス箔、アルミ箔、銅箔、ガラス、シリコン等の基材表面にポリアミック酸溶液を塗布し、100℃〜500℃の範囲で加熱脱水してポリイミドとする方法である。この方法においては、含リンポリエステルイミドは、基材から剥離することで、通常はフイルム状態で得られる。また、銅箔等に塗布されてイミド化された場合は、そのまま積層板等の材料に使用されることもある。或いは、加熱脱水によるイミド化は、ポリアミック酸溶液に水と共沸する溶媒を予め添加しておき、溶媒中で熱イミド化を行い、イミド化に伴い発生する水を系外に排出し、溶媒中にポリイミドを得る方法によっても行うことができる。この場合、ポリイミドは溶媒中に溶解するか、析出する状態で得られる。得られたポリイミドが溶媒中に溶解している場合は、上述したのと同様に、ステンレス箔、アルミ箔、銅箔、ガラス、シリコン等の基材表面に該溶液を塗布し、乾燥機の中で溶媒の沸点以上に加熱して、溶媒を取り除き、基材から剥離してポリイミドフィルムを得るか、そのまま積層板等の材料として供される。また、溶媒中に析出している場合は、析出しているポリイミドを濾過等の方法により分取すればよい。分取されたポリイミドは乾燥され、別の溶媒に溶解されてフイルムなどの用途に利用されるか、或いは乾燥後に粉砕されて、射出成形や圧縮成形などに供することもできる。
【0039】
縮合触媒存在下の溶液中で化学閉環してイミド化する方法とは、得られた含リンポリエステルイミド前駆体であるポリアミック酸溶液に無水酢酸、およびピリジン,ピコリン,イミダゾール,キノリン,トリエチルアミン等を添加して、40℃〜160℃の範囲に1〜24時間加熱してイミド化を行うものである。反応終了後、含リンポリエステルイミドは通常は溶液の状態で得られるので、これを水、メタノール、エタノール、トルエン、キシレン、アセトン、或いはこれらの混合物である貧溶媒中に溶液を投入し、ポリイミドを析出させ、濾過することにより目的物が固形物の状態で得られる。得られたポリイミドは別の溶媒に溶解されてフイルムなどの用途に利用されるか、或いは乾燥後に粉砕されて、射出成形や圧縮成形などに供することもできる。
【実施例】
【0040】
以下に、本発明を具体的な実施例により示すが、本発明は実施例の内容に制限されるものではない。
【0041】
(略語、試験方法の説明)
【化12】


H−NMRスペクトル:日本電子社製 核磁気共鳴装置 JNM−AL400 (DMSO−d
燃焼試験:UL規格に準じて判定した。
熱拡散率:(株)アイフェイズ社製 アイフェイズモバイル
ガラス転位温度:(株)島津製作所製 DSC−60 (昇温速度:10℃/分、窒素ガス中)
粘度:東機産業(株)製 B形粘度計 (測定温度25℃)
【0042】
(実施例1)含リンエステル基含有酸二無水物(*1:TAHCHQ)の製法
攪拌機、温度計、蒸留用冷却管、窒素ガス導入管を付けた四つ口フラスコに含リン芳香族アルカンエステル(Arが下式:
【化13】


で示され、RがCHである式(6)で表される化合物:マナック社製)32.43g(0.10モル)、トリメリット酸無水物38.43g(0.20モル)、1,2,4−トリクロロベンゼン120g及び臭化テトラフェニルホスホニウム0.42gを仕込み、窒素雰囲気下210℃で8時間反応させた。反応生成物を濾別し、粗製物を得た。粗製物をジメチルホルムアミド10%を含むトルエン溶液で1時間還流洗浄し、冷却後、濾別した。得られたウエット品を180℃で乾燥し、目的物57.0gを得た。本化合物の構造はNMRにて確認した(図1)。融点:308.0℃。
【0043】
(実施例2)含リンエステル基含有酸二無水物(*5:TAHCNQ)の製法
含リン芳香族アルカンエステルとして、Arが下式:
【化14】


で示され、RがCHである式(6)で表される化合物45.84g(0.10モル)を用いた以外、実施例1に記載した方法に従って、本発明の式(2)で表される含リンエステル基含有酸二無水物(*5:TAHCNQ)を合成し、目的物62.1gを得た。本化合物の構造はNMRにて確認した(図2)。融点:311.2℃。
【0044】
(実施例3)
攪拌機、温度計、冷却管、窒素ガス導入管を付けた四つ口フラスコに、*2:ODA(和歌山精化工業(株)製)920.02g(0.1モル)、N−メチル−2−ピロリドン350gを仕込み、溶解させた。次に、同フラスコ内に、実施例1で得られた含リンエステル基含有酸二無水物(*1:TAHCHQ)67.25g(0.1モル)を投入した。この時、フラスコ内の温度は20℃〜45℃に保たれ、8時間攪拌を続けて反応を終了した。得られたポリアミック酸を含む反応液の粘度(B−型粘度計による)は100000mPa・sであった。続けて、このポリアミック酸をガラス板に塗布し80℃5分、130℃5分、180℃5分、210℃5分、260℃10分、310℃10分と順番に熱風乾燥機内で加熱して、熱イミド化を行った。熱イミド化の後、ガラス板からフイルムを引き剥がし、厚みを測定したところ20μmであった。DSCにより、このフイルムのガラス転位温度(Tg)を測定したところ220℃であった。このフイルムの燃焼性をUL規格に準じて判定したところ、94VTM−0であった。また、このフイルムの熱拡散率を測定したところ1.23E−7であった。
【0045】
(実施例4)
攪拌機、温度計、蒸留用冷却管、窒素ガス導入管を付けた四つ口フラスコに、実施例1で得られたTAHCHQ13.5g(0.02モル)、*3:ODPA(マナック(株)製)55.84g(0.18モル)、混合キシレン125g、N-メチル-2-ピロリドン140gを仕込み、この中にα,ω―ビス(3−アミノプロピル)ポリジメチルシロキサン(信越化学化学工業(株)製KF−8010 アミン当量415)を49.8g(0.06モル)を投入し、40℃以下で4時間攪拌した。次に、*4:BAPP(和歌山精化工業(株)製)57.47g(0.14モル)を投入して、さらに40℃以下で攪拌を4時間続けた。得られたポリアミック酸を含む反応液の粘度(B−型粘度計による)は10000mPa・sであった。さらに系内を200℃まで1時間を要して加熱攪拌し、200℃で6時間攪拌を継続した。途中留出してくる溶媒、水は蒸留用冷却管を通して系外に排出した。加熱終了後、N−メチル−2−ピロリドンで希釈して約30%濃度のポリイミド溶液を得た。得られた含リンポリエステルイミド溶液の粘度は3000mPa・sであった。この溶液をガラス板に塗布し80℃5分、130℃3分、180℃3分、210℃3分、260℃10分の順番で熱風乾燥機内で乾燥することにより溶媒を取り除いた。乾燥後、ガラス板からフイルムを引き剥がし、厚みを測定したところ20μmであった。DSCにより、このフイルムのガラス転位温度(Tg)を測定したところ130℃であった。このフイルムの燃焼性をUL規格に準じて測定したところ94VTM−1であった。
【0046】
(比較例1)
TAHCHQを使用しないで、ODPAの使用量を0.2モルに変えた以外は実施例4と同様の方法でフイルムを作成した。DSCにより、このフイルムのガラス転位温度(Tg)を測定したところ130℃であった。このフイルムの燃焼性をUL規格に準じて判定したところ、燃焼したので難燃性は無かった。
【0047】
(参考例1)
リンを含有しない汎用ポリエステルイミドである東レ・デュポン(株)製カプトン(登録商標)Hの熱拡散率を測定したところ8.18E−8であった。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の含リンエステル基含有テトラカルボン酸二無水物を利用して得られるポリエステルイミドは、電子部品の軽量・短小化に伴い薄膜化しても従来と同様の耐熱難燃性を保持することができる。しかも、良好な熱拡散率を有するため、電子機器の蓄熱を有効に放熱できる。その他、エポキシ樹脂の硬化剤、その他樹脂の耐熱難燃改質剤として利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】実施例1に記載のTAHCHQのH−NMRスペクトルを示す図である。
【図2】実施例1に記載のTAHCNQのH−NMRスペクトルを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で表される含リンエステル基含有テトラカルボン酸または式(2)で表されるその二無水物:
【化1】


〔式(1)及び(2)中、
Arは、式(3):
【化2】


より選択される三価の芳香族基を表し、
式(1)〜(3)中、R、R、R3、4、及びRは、同一または異なって、水素原子或いは炭素数1〜4のアルキル基を表す〕。
【請求項2】
式(5):
【化3】


(式(5)中、Arは請求項1の式(1)及び(2)におけるのと同義であり、R及びRは請求項1の式(1)〜(3)におけるのと同義であり、Xは、二価の芳香族基、脂環式基または脂肪族基を表し、Rは水素原子、或いは炭素数1〜4のアルキル基を表す)で表される反復単位を有する含リンポリエステルイミド前駆体。
【請求項3】
式(4):
【化4】


(式(4)中、Arは請求項1の式(1)及び(2)におけるのと同義であり、R及びRは請求項1の式(1)〜(3)におけるのと同義であり、Xは請求項2の式(5)におけるのと同義である)で表される反復単位を有する含リンポリエステルイミド。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−221309(P2009−221309A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−65852(P2008−65852)
【出願日】平成20年3月14日(2008.3.14)
【出願人】(000113780)マナック株式会社 (40)
【Fターム(参考)】