説明

含水率計測システム、含水率計測方法、含水率計測プログラム、含水率計測装置および音波検知装置

【課題】間伐材を含む木材の含水率を精度良く測定することの可能な含水率計測システム、含水率計測方法、含水率計測プログラムおよび含水率計測装置を提供する。
【解決手段】打撃装置10で木材2の小口2Aを叩き、木材2内に発生させた音波のうち、音波検知装置20のところまで伝播してきた成分が音波検知装置20で検出され、電気信号に変換される。音波検知装置20から出力された電気信号に対して周波数分析(例えばウェーブレット変換)が行われ、導出された周波数スペクトルにおいて、音波の振幅が最大となる周波数が検出される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木材の含水率を測定する含水率計測システム、含水率計測方法、含水率計測プログラムおよび含水率計測装置、ならびに木材の含水率を測定するに際して好適に適用可能な音波検知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
わが国は、京都議定書で批准された地球温暖化防止措置において、CO2排出量を2008年度から2012年の5カ年で1990年度に比べて6%削減することを国際公約した。本年度は、本公約のCO2排出量削減措置初年度であり、2012年度までの時限措置となる森林間伐材促進法(森林間伐の実施促進の特別措置法)も、5月9日の参院本会議で可決され成立した。また、国内では、各都道府県の自治体が独自の森林環境税を創設し、森林整備の推進を始めた。
【0003】
従って、これら森林整備に伴う大量の間伐材が山側より供出されることは必然であり、活用されない莫大な不要木の発生が国内で懸念され始めた。この結果、わが国は過去に経験がないほどの、間伐材の有効利用政策に迫られることになる。しかし、間伐材は低品質材と認知されており、有効活用が遅々として進んでいない現実を鑑みると、間伐材の使用頻度の増大のみの推進では不十分といえる。従って、間伐材を低品質材から脱却させ、高品質材に転換すると共に、高品質な間伐材の安定供給体制を確立し、流通を促進させながら森林間伐材促進政策を策定することが必要不可欠である。つまり、今後は、量の向上ではなく、質の向上が問題となる。
【0004】
一般に、高品質材とは、含水管理と強度管理がなされ、それらが保証された材をいう。このような材は、建築の構造材および内装材に使用されるものであり、節がないか、またはあってもごくわずかしかない比較的安定した材である。ここで、含水率と強度は高い相関関係を有しており、木材の業界では含水管理が品質を決定すると言われている。しかし、間伐材については、含水管理方法が確立されておらず、強度管理もなされていない。これが、間伐材が低品質材であると言われる理由である。これは、含水率の測定方法や測定精度にも起因している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004-085504号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
含水率の高い間伐材の測定では、測定機器の精度に限界が生じることがわかってきた。現在、使用されている含水率測定機は、基本的には、木材含水率と、電気抵抗、誘電率および有電損失などの電気的性質と、木材の密度との関係を用いている。このような関係を利用した測定方法としては、主に、(1)直流抵抗式測定方法、(2)高周波測定方法(例えば、特許文献1参照)の2つの方法がある。(1)の測定方法では、含水率の高い材の測定をすることができない。また、温度変化に合わせ目盛りを補正する必要がある。(2)の測定方法では、高含水率において数値の振れ幅が大きく、測定数値の精度に問題が生じる。また、通常20mmから50mm程度の板材相当が測定の限界であり、50mm以上の材の測定値については、信頼性が低い。なお、他に、質量と密度との関係を用いる測定方法として質量式測定方法がある。しかし、この方法は、大がかかりな測定装置が必要となるので、普及していない。また、この方法は、比較的精度の良い値を得ることができるが、他の測定と同様、節の多い間伐材では質量が安定せず、正確な値を得ることが難しい。
【0007】
このように、従来の方法では、間伐材の含水率を精度良く測定することが難しいという問題があった。
【0008】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであり、その第1の目的は、間伐材を含む木材の含水率を精度良く測定することの可能な含水率計測システム、含水率計測方法、含水率計測プログラムおよび含水率計測装置を提供することにある。また、第2の目的は、間伐材を含む木材の含水率を精度良く測定することを可能とする含水率計測法の実施に際して好適に適用可能な音波検知装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の含水率計測システムは、1または複数の音波検知装置と、含水率計測装置とを備えたものである。音波検知装置は、木材内を伝播してきた音波に応じた電気信号を出力するようになっている。含水率計測装置は、電気信号の周波数分析を行うことによって得られた計測データと、あらかじめ用意された参照データとに基づいて木材の含水率を導出するようになっている。
【0010】
本発明の含水率計測方法は、入力された音波に応じた電気信号を出力する1または複数の音波検知装置を木材に接して配置したのち、木材の所定の部位を叩き、木材のうち音波検知装置の配置された部位まで伝播してきた音波に応じて音波検知装置から出力された電気信号の周波数分析を行うことによって得られた計測データと、あらかじめ用意された参照データとに基づいて木材の含水率を導出するものである。
【0011】
本発明の含水率計測プログラムは、入力された音波に応じた電気信号を出力する1または複数の音波検知装置を木材に接して配置したのち、木材の所定の部位を叩き、木材のうち音波検知装置の配置された部位まで伝播してきた音波に応じて音波検知装置から出力された電気信号の周波数分析を行うことによって得られた計測データと、あらかじめ用意された参照データとに基づいて木材の含水率を導出するステップとをコンピュータに実行させるようにしたものである。
【0012】
本発明の含水率計測装置は、入力された音波に応じた電気信号を出力する1または複数の音波検知装置を木材に接して配置したのち、木材の所定の部位を叩き、木材のうち音波検知装置の配置された部位まで伝播してきた音波に応じて音波検知装置から出力された電気信号の周波数分析を行うことによって得られた計測データと、あらかじめ用意された参照データとに基づいて木材の含水率を導出する含水率計測部を備えている。
【0013】
本発明の含水率計測システム、含水率計測方法、含水率計測プログラムおよび含水率計測装置では、音波検知装置から出力される、木材内を伝播してきた音波に応じた電気信号に対して周波数分析が行われることにより得られた計測データと、あらかじめ用意された参照データとに基づいて木材の含水率が導出される。ここで、木材内の音波は、例えば、打撃装置で木材を叩くことによって発生させることができる。そのようにして発生した音波は、節の周囲などに滞留する水分などの影響によって変調されながら、音波検知装置のところまで伝播していく。そのため、音波検知装置のところまで伝播してきた音波には、木材の内部状態を平均化した情報が含まれている。従って、節の周囲などに滞留する水分なども考慮された平均的な含水率が含水率計測部によって導出される。
【0014】
なお、木材内の音波の伝播を利用した測定方法では、含水率の高い木材の測定も原理的に可能であり、木材の抵抗値が利用されていないので、温度補正を行う必要もない。また、含水率の数値についても原理上ばらつくことはほとんどなく、長さが50mm以上の木材の測定も原理上極めて容易である。
【0015】
本発明の音波検知装置は、入力された音波に応じた電気信号を出力する音波検知部と、音波検知部を木材に接触させた状態で木材に固定することの可能な突刺部とを備えたものである。
【0016】
本発明の音波検知装置では、音波検知部を木材に接触させた状態で木材に固定することの可能な突刺部が設けられている。これにより、音波検知装置を木材に硬く固定することができるので、例えば、打撃装置で木材を叩くことによって木材内に音波を伝播させたときに、音波検知装置が木材から乖離したり、脱落したりするのが防止される。
【発明の効果】
【0017】
本発明の含水率計測システム、含水率計測方法、含水率計測プログラムおよび含水率計測装置によれば、節の周囲などに滞留する水分なども考慮された平均的な含水率を導出することができるようにしたので、間伐材を含む木材の含水率を精度良く測定することができる。
【0018】
本発明の音波検知装置によれば、音波検知装置を木材に固定することができるようにしたので、音波検知装置が木材から乖離したり、脱落したりする虞をなくすることができる。これにより、木材の含水率を精度良く測定することができる。従って、上述の含水率計測法の実施に際して、この音波検知装置を好適に適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施の形態に係る含水率計測システムの概略構成図である。
【図2】図1の音波検知装置の断面構成図である。
【図3】図1の含水率計測装置の機能ブロック図である。
【図4】含水率計測の手順の一例を表したものである。
【図5】ある木材における振動周波数と含水率との関係の一例を表した関係図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0021】
図1は、本発明の一実施の形態に係る含水率計測システム1の概略構成を表したものである。本実施の形態の含水率計測システム1は、例えば、図1に示したような木材2の含水率を計測するものであり、特に、低品質材といわれる間伐材の含水率の平均値を計測することの可能なものである。
【0022】
[木材2]
木材2は、原木を製材したものである。木材2としては、例えば、本の原木から切り出された、つなぎ目のない無垢材などが挙げられる。ここで、「原木」とは、山林や平地林において、間伐により切り出された木(間伐木)や、災害などにより倒壊した木(倒木)、工事などで切り出された木(不要木)などを主に指している。なお、原木には、その他に、間伐木、倒木または不要木を所定の長さに裁断したものや、表面を粗引き処理したもの、主伐により切り出された木(主伐木)も含まれる。
【0023】
[含水率]
また、含水率とは、木材に含まれている水分量を表す指標であり、例えば、以下の式から求められるものである。含水率の大きさは、木材の性質(品質)と高い相関関係を有している。例えば、含水率が繊維飽和点よりも大きい場合には、含水率の大きさに拘わらず、木材の性質は変化しないが、重量が重く、腐りやすいというデメリットがある。なお、繊維飽和点は、自由水が完全に消失したときの含水率である。繊維飽和点は、樹種によらずほぼ一定であり、おおよそ30%程度である。含水率が繊維飽和点以下になると、細胞壁内に閉じこめられた結合水が蒸発し始め、木材の収縮が始まる。ただし、含水率がある程度小さくなると、収縮の度合いも小さくなり、木材の性質が安定してくる。含水率が気乾含水率以下になると、木材の性質はほとんど変化せず、強度が極めて高くなる。なお、気乾含水率は、大気と平衡状態にあるときの木材の含水率であり、例えば15%程度である。従って、含水率の値が繊維飽和点およびその近傍にあるような木材を取り扱う場合には、含水率の大きさを正確に見積もることが、木材の性質を正確に見積もることにつながる。
【0024】
含水率=(木材の実際の重量−木材の乾燥重量)/木材の乾燥重量)×100
【0025】
[含水率計測システム1]
含水率計測システム1は、例えば、図1に示したように、打撃装置10、音波検知装置20および含水率計測装置30を備えている。
【0026】
[打撃装置10]
打撃装置10は、例えば、被測定対象である木材2の表面を叩く装置であり、例えば、打撃部11および固定部12を含んで構成されている。打撃部11は、例えば、木材2の端面(小口2A)を叩くことにより、木材2内に所定の周波数帯の音波を発生させることの可能なものである。打撃部11は、例えば、打撃装置10を木材2の端部に取り付けた際に、小口2Aを含む面と交差する方向から小口2Aを叩くことができるようになっている。なお、打撃部11が、木材2の周面2Bを叩くことができるようになっていてもよい。
【0027】
打撃部11は、例えば、打撃球11Aと、打撃球11Aに固定されると共に固定部12に対して回転可能に連結された支持部11Bとを有している。打撃球11Aは、例えば、木製の球状構造物である。打撃球11Aと小口2Aとの接触面積が打撃ごとに変化するのを防止する観点からは、球状構造物のうち小口2Aに接触する部分が平坦面となっていることが好ましい。支持部11Bは、少なくとも音波検知装置20で検知可能な大きさ(振幅)の音波が音波検知装置20のところまで伝播する程度の振動を木材2に発生させる打撃力を打撃球11Aに与える付勢部(図示せず)を有している。この付勢部は、例えば、バネなどの弾性部材からなり、打撃球11Aの回転角を大きくするにつれて打撃球11Aの木材2に対する打撃力が大きくなるようになっている。
【0028】
固定部12は、打撃部11を木材2に固定するためのものである。固定部12は、例えば、木材2の周面2Bに巻きつけることの可能な帯状の固定ベルト12Aと、固定ベルト12Aによって固定されると共に打撃装置10の固定部12を回転可能に支持する支持部12Bとを含んで構成されている。
【0029】
[音波検知装置20]
音波検知装置20は、例えば、図2に示したように、通信部21、信号処理部22、音波検知部23および固定部24を有している。なお、図2は、音波検知装置20の断面構成の一例を表したものである。
【0030】
通信部21は、含水率計測装置30へ電気信号を送信するためのものであり、例えば通信用ICなどを含んでいる。通信部21は、例えば、ケーブル21Aを介して含水率計測装置30に接続されており、ケーブル21Aを介して含水率計測装置30に電気信号を送信するようになっている。なお、通信部21は、含水率計測装置30への電気信号の送信を無線によって行うようになっていてもよい。信号処理部22は、音波検知部23からの電気信号に対して所定の信号処理を施すためのものであり、例えば信号処理用ICなどを含んでいる。
【0031】
音波検知部23は、打撃装置10が木材2内に発生させた音波のうち音波検知部23まで伝播してきた成分を検知するものであり、少なくとも音波検知装置20の取付面20A(木材2と固定部24とが互いに接する面)と交差する方向に振動する音波を検知することができるようになっている。音波検知部23は、例えば、圧電型などの加速度センサからなり、音波検知部23のところまで伝播してきた音波を、音波の伝播方向や大きさに応じた電気信号に変換するようになっている。
【0032】
固定部24は、通信部21、信号処理部22および音波検知部23を外部から保護すると共に音波検知部23を木材2に接触させるものである。固定部24は、取付面20Aと木材2とを互いに密着させることの可能な構造を有しており、例えば、木材2に突き刺すことの可能な複数の針を取付面20Aと平行な面内に2次元配置してなる突刺部24Aを有している。なお、図示しないが、固定部24が、突刺部24Aの代わりに、両面テープなどの接着層を取付面20Aに有していてもよい。ただし、その場合には、接着層の表面と音波検知部23の表面(木材2との接触面)とが互いに同一面内に配置されるように、接着層の形状および厚さなどが調整されていることが必要となる。
【0033】
[含水率計測装置30]
含水率計測装置30は、例えば、制御部31、記憶部32、通信部33、表示部34および入力部35を有している。
【0034】
制御部31は、プログラムの命令を解釈し、実行するためのもので、例えばCPU(Central Processing Unit )を含んで構成されている。記憶部32は、含水率計測プログラム32Aおよび参照データ32Bを記憶している。含水率計測プログラム32Aは、含水率計測のための一連の手順を制御部31に実行させるためのものである。なお、この一連の手順の詳細については後述する。参照データ32Bは、例えば、所定の基準を満たす木材から得られた計測データと、木材の性質(品質)判断に用いる閾値データとを含んでいる。計測データには、振動周波数と含水率との関係を木材の種類(例えば、ひのき、杉)ごとにまとめたデータベースが含まれている。閾値データには、例えば、気乾含水率(例えば15%)や繊維飽和点(例えば30%)などの含水率の値が含まれている。
【0035】
通信部33は、音波検知装置20と通信を行うためのものであり、音波検知装置20からの電気信号を受信することが可能となっている。表示部34は、例えば、制御部31におけるプログラムの実行結果(例えば測定結果)を表示したり、制御部31におけるプログラムの実行に際して情報入力を支援するための表示をしたりするためのものであり、例えば液晶ディスプレイからなる。入力部35は、制御部31におけるプログラムの実行に際して情報を入力するためのものであり、例えばキーボードやマウスからなる。
【0036】
次に、図4を参照して、本実施の形態の含水率計測システム1おける含水率計測の手順の一例について説明する。図4は、含水率計測システム1おける含水率計測の手順の一例を表したものである。
【0037】
含水率計測を行うにあたって、まず、ユーザが打撃装置10および音波検知装置20を被計測対象である木材2に設置する。例えば、図1に示したように、ユーザは、木材2の周面2Bのうち一方の端部の近傍に打撃装置10の固定ベルト12Aを巻きつけて、打撃装置10を木材2の端部に固定する。さらに、ユーザは、音波検知装置20の突刺部24Aを木材2の他方の端部(打撃装置10とは反対側の端部)の小口2Aに突刺し、音波検知部23を小口2Aに密着させた状態で小口2Aに固定する。その後、ユーザが、含水率計測プログラム32Aを起動する。
【0038】
すると、含水率計測装置30(制御部31)は、含水率計測プログラム32Aの実行を開始する。具体的には、含水率計測装置30は、まず、例えば表示部34に入力フォームを表示するなどして、木材2についての情報入力を要求する。ユーザは、入力部35を介して、木材2についての情報(例えば、木材2の種類)を入力したのち、含水率の計測実行を要求する。すると、含水率計測装置30は、音波検知装置20からの電気信号の入力を待つと共に、ユーザに対して打撃装置10で木材2を叩くことを要求する。そこで、ユーザは、その要求に呼応して、打撃装置10で木材2の小口2A(例えば小口2A内の芯部分)を叩き、木材2内に音波を発生させる。
【0039】
打撃装置10で木材2を叩くことによって発生した音波は、木材2内を伝播し、音波検知装置20の設置されたところまで到達する。ここで、打撃装置10によって発生した音波の多くが、例えば、節の周囲などに滞留する水分や欠損部分(死節)などの影響によって変調されながら、音波検知装置20のところまで伝播していく。そのため、音波検知装置20のところまで伝播してきた音波には、木材2の内部状態を平均化した情報が含まれている。従って、後述するように、含水率計測装置30において、節の周囲などに滞留する水分や欠損部分なども考慮された平均的な含水率が導出される。
【0040】
音波検知装置20は、音波検知装置20のところまで伝播してきた音波を検出し、電気信号に変換する(ステップS1)。音波検知装置20は、変換によって得られた電気信号を、必要に応じて、所定の信号処理に付したのち、含水率計測装置30に出力する。
【0041】
含水率計測装置30は、入力された電気信号に対して周波数分析(例えばウェーブレット変換)を行い、周波数スペクトルを導出する(ステップS2)。その後、含水率計測装置30は、周波数スペクトルにおいて、音波の振幅が最大となる周波数を検出する(ステップS3)。この周波数スペクトルは、ほとんど変調されずに伝播してきた音波から得られた周波数スペクトルと、節の周囲などに滞留する水分や欠損部分などによって変調されて伝播してきた音波から得られた周波数スペクトルとが互いに重ねあわされたものである。ただし、後者のスペクトルは前者のスペクトルよりも十分に大きいので、制御部31が周波数分析によって導出した周波数スペクトルにおいて、音波の振幅が最大となる周波数を検出することにより、後者のスペクトルのピークに対応する周波数を検出することができる。
【0042】
次に、含水率計測装置30は、検出した周波数データ(計測データ)と、あらかじめ用意された参照データ32Bとに基づいて木材2の含水率を導出する(ステップS4)。具体的には、含水率計測装置30は、振動周波数と含水率との関係を木材の種類(例えば、ひのき、杉)ごとにまとめたデータベースにおいて、被計測対象の木材2の種類に対応するデータ(図5参照)を参照し、そのデータから、上記周波数データに対応する含水率を読み出す。ここで振動周波数とは、制御部31が周波数分析によって導出した周波数スペクトルにおいて、音波の振動が最大となる周波数のことである。なお、図5は、ある木材における振動周波数と含水率との関係の一例を表したものである。
【0043】
次に、含水率計測装置30は、導出した含水率と、参照データ32B内の閾値データとを対比して、木材2の性質(品質)を判定する(ステップS5)。具体的には、含水率計測装置30は、読み出した含水率が繊維飽和点を超えている場合には不合格材(低品質材)と判断し、繊維飽和点以下となっている場合には合格材(高品質材)と判断する。
【0044】
含水率計測装置30は、必要に応じて、周波数スペクトルのピークおよびその近傍のスペクトルに局所性が見られるか、または連続性が見られるかを判定する。局所性および連続性は、木材2の性質(品質)のバラツキを表す指標として用いることが可能である。具体的には、局所性がある場合には、木材2内を伝播してきた音波が節の周囲などに滞留する水分や欠損部分による変調をほとんど受けていないことを表わしており、これはこの木材2は節がないか、またはあってもごくわずかしかない比較的安定した高品質材であることを示している。また、連続性がある場合には、伝播してきた音波が複数の節の周囲などに滞留する水分や欠損部分による変調を受けたということを表わしており、この木材が複数の節や欠損部分を有する低品質材の可能性が高いことを示唆している。すなわち、図5に示す振動周波数と含水率の関係から得られた含水率が繊維飽和点以下であり合格材(高品質材)と判定されたとしても、周波数スペクトルに連続性がある場合には、この木材が複数の節や欠損部分を有する可能性がある。従って、含水率による木材2の性質(品質)の判定に加えて、周波数スペクトルの連続性を見ることで、より詳細な木材2の性質(品質)の判定が可能となる。
【0045】
局所性の有無や、連続性の有無については、例えば、以下の方法によって判定することが可能である。まず、周波数スペクトルのピークを基準値とし、所定の基準を満たす木材から得られた周波数データ(計測データ)からその基準値に対する閾値(例えば基準値の70%など)を決め、その閾値を示す周波数間の帯域幅Δf0と周波数スペクトルのピークを与える周波数f0との比(Δf0/f0)を求めておく。そして、基準値に対する閾値と、比(Δf0/f0)を閾値データの一つとして記憶部32に格納しておく。次に、含水率計測装置30は、記憶部32から基準値に対する閾値と、比(Δf0/f0)を読み出したのち、検査対象の木材2から検出した周波数データ(計測データ)を用いて、周波数スペクトルのピークを求め、そのピークを基準値とし、その基準値に対する閾値を示す周波数間の帯域幅Δfと周波数スペクトルのピークを与える周波数fとの比(Δf/f)を求める。続いて、含水率計測装置30は、検査対象の木材2から得られた比(Δf/f)の値が所定の基準を満たす木材から得られた比(Δf0/f0)の値以下であれば、検査対象の木材2には局所性があると判定し、比(Δf/f)の値が比(Δf0/f0)の値を超える場合には、検査対象の木材2には連続性があると判定する。
【0046】
含水率計測装置30は、また、周波数スペクトルのピークおよびその近傍のスペクトルに時間軸方向に尾引きが見られるか否かを判定する。尾引きは、木材2内の死節などの欠損部分の有無の指標として用いることが可能である。具体的には、尾引きが存在する場合には、木材2内に死節などの欠損部分が存在している可能性が極めて高い。
【0047】
このように、本実施の形態の含水率計測システム1では、音波検知装置20から出力される、木材2内を伝播してきた音波に応じた電気信号に対して周波数分析が行われることにより得られた周波数データと、あらかじめ用意された参照データ32Bとに基づいて木材2の含水率が導出される。ここで、打撃装置10で木材2を叩くことによって発生させた木材2内の音波は、節の周囲などに滞留する水分などの影響によって変調されながら、音波検知装置20のところまで伝播していく。そのため、音波検知装置20のところまで伝播してきた音波には、木材2の内部状態を平均化した情報が含まれている。従って、本実施の形態では、節の周囲などに滞留する水分なども考慮された平均的な含水率を導出することができる。
【0048】
ところで、上述したように、実際の木材には、節や芯などがあり、木材中の含水率は均一ではない。一般に、木材の表面は木材の内部よりも乾いており、節の周囲には他の部位に比べて水分が滞留している。特に、間伐材においては、節が多く含まれていることがあり、間伐材内の含水率は無節の木材内の含水率と比べて不均一となっている。そのため、例えば、直流抵抗式測定方法や、高周波測定方法、質量式測定方法などの従来の方法を用いて得られた間伐材の含水率の値は、間伐材の平均的な含水率よりも大幅に低くなったり、大きくばらついたりする傾向がある。その結果、従来の方法を用いて得られた間伐材の含水率が、木材の性質がある程度安定していると判断できる値であったとしても、間伐材に、割れ、曲がり、反りなどが発生してしまう場合があった。つまり、従来の方法では、含水率の値が繊維飽和点およびその近傍にあるような木材の性質を正確に見積もることが容易ではなかった。
【0049】
一方、本実施の形態の含水率計測システム1では、木材内の音波の伝播を利用した測定方法が採用されている。ここで、含水率は木材の強度と高い相関関係にあり、木材の剛性は音波の伝播速度と相関関係にある。従って、木材内を伝播する音波を計測することにより、木材内の含水率を予測することが可能であり、含水率の高い木材の含水率の予測も原理的に可能といえる。また、音波の受信装置として例えば加速度センサなどを用いることができるので、温度補正を行う必要もない。また、含水率の数値についても原理上ばらつくことはほとんどなく、長さが50mm以上の木材の測定も原理上極めて容易である。しかも、節の周囲などに滞留する水分なども考慮された平均的な含水率が得られるので、従来の方法では正確に見積もることの困難であった繊維飽和点およびその近傍の含水率を正確に見積もることができる。従って、本実施の形態では、間伐材を含む木材の含水率を精度良く測定することができる。
【0050】
また、本実施の形態の音波検知装置20では、音波検知部23を木材2に接触させた状態で木材2に固定することの可能な突刺部24Aが設けられている。これにより、音波検知装置20を木材2にしっかりと固定することができるので、例えば、打撃装置10で木材2を叩くことによって木材2内に音波を伝播させたときに、音波検知装置20が木材2から乖離したり、脱落したりするのを防止することができる。これにより、音波検知装置20の設置状態に起因して、計測された含水率にばらつきが生じる虞がなくなるので、木材2の含水率を精度良く測定することができる。従って、本実施の形態の含水率計測法の実施に際して、この音波検知装置20を好適に適用することができる。
【0051】
以上、実施の形態を挙げて本発明の含水率計測システムについて説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の含水率計測システムの構成は、上記実施の形態と同様の効果を得ることが可能な限りにおいて自由に変形可能である。
【符号の説明】
【0052】
1…含水率計測システム、2…木材、2A…小口、2B…周面、10…打撃装置、11…打撃部、11A…打撃球、11B,12B…支持部、12…固定部、12A…固定ベルト、20…音波検知装置、21,33…通信部、22…信号処理部、23…音波検知部、24…固定部、24A…突刺部、30…含水率計測装置、31…制御部、32…記憶部、32A…含水率計測プログラム、32B…参照データ、34…表示部、35…入力部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
木材内を伝播してきた音波に応じた電気信号を出力する1または複数の音波検知装置と、
前記電気信号の周波数分析を行うことによって得られた計測データと、あらかじめ用意された参照データとに基づいて前記木材の含水率を導出する含水率計測装置と
を備えた含水率計測システム。
【請求項2】
前記参照データは、音波の振幅が最大となる周波数と、含水率とを対応付けた計測データを含む
請求項1に記載の含水率計測システム。
【請求項3】
前記参照データは、含水率についての閾値を含み、
前記含水率計測装置は、導出した含水率と、前記閾値とを対比して、前記木材の品質を判定する
請求項1に記載の含水率計測システム。
【請求項4】
前記木材の表面を叩くことの可能な打撃装置を備える
請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の含水率計測システム。
【請求項5】
前記打撃装置は、前記木材の端面を叩く打撃部と、前記打撃部を回転可能に支持する固定部とを有する
請求項4に記載の含水率計測システム。
【請求項6】
入力された音波に応じた電気信号を出力する1または複数の音波検知装置を木材に接して配置したのち前記木材の所定の部位を叩き、前記木材のうち前記音波検知装置の配置された部位まで伝播してきた音波に応じて前記音波検知装置から出力された電気信号の周波数分析を行うことによって得られた計測データと、あらかじめ用意された参照データとに基づいて前記木材の含水率を導出する含水率計測方法。
【請求項7】
前記木材の端部に、前記木材の表面を叩くことの可能な打撃装置を配置し、その打撃装置によって前記木材の表面を叩き、それによって前記木材内に音波を伝播させる
請求項6に記載の含水率計測方法。
【請求項8】
木材に接して配置された1または複数の音波検知装置から出力された前記木材内を伝播してきた音波に応じた電気信号の周波数分析を行うことによって得られた計測データと、あらかじめ用意された参照データとに基づいて前記木材の含水率を導出するステップをコンピュータに実行させる含水率計測プログラム。
【請求項9】
木材に接して配置された1または複数の音波検知装置から出力された前記木材内を伝播してきた音波に応じた電気信号の周波数分析を行うことによって得られた計測データと、あらかじめ用意された参照データとに基づいて前記木材の含水率を導出する含水率計測部を備えた含水率計測装置。
【請求項10】
入力された音波に応じた電気信号を出力する音波検知部と、
前記音波検知部を木材に接触させた状態で前記木材に固定することの可能な突刺部と
を備えた音波検知装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2010−271232(P2010−271232A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−124174(P2009−124174)
【出願日】平成21年5月22日(2009.5.22)
【出願人】(507367769)ビーエムイー株式会社 (3)
【出願人】(000210964)中央電子株式会社 (81)
【出願人】(505229195)株式会社エコム (6)
【Fターム(参考)】