説明

含窒素複素環式化合物の定量方法

【課題】検体の前処理が簡便であり、多検体を短時間で前処理することができる含窒素複素環式化合物又はその塩の定量方法を提供する。
【解決手段】一般式(I)


(式中、Rは、炭素数1〜4の直鎖又は分枝状アルキル基を表す。)で表わされる含窒素複素環式化合物又はその薬学的に許容される塩を含有する検体を除タンパク処理に付す工程、及び得られた除タンパク処理検体を液体クロマトグラフィー/タンデム質量分析計による定量方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血漿、血清又は血液等の検体中の含窒素複素環を有する化合物の定量方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レボブピバカイン(一般名)、ブピバカイン(一般名)、並びにその類似体であるロピバカイン(一般名)、メピバカイン(一般名)等のN−(2,6−ジメチルフェニル)ピペリジン−2−カルボキサミド系誘導体は、局所麻酔剤の有効成分として使用されている有用な含窒素複素環式化合物である。
【0003】
投与後の血液、尿等の検体中のレボブピバカイン濃度の測定方法として、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)による方法が広く用いられている。しかしながら、HPLCによりレボブピバカインを定量する場合、検体として300μL〜10mL程度の血液等を採取する必要があり、小動物や臨床時の小児、循環血液量の低下した患者では、採血が困難な場合があった。また、前処理として、液−液抽出法又は固相抽出法により検体を処理する必要があるが、液−液抽出法では処理の作業効率が悪く、多数の検体を短時間で分析することができなかった。さらに、液−液抽出法は、有機溶媒の廃液が多いという問題点もあった。固相抽出法により前処理を行う場合には、多量の検体が必要であり、さらに、処理に時間がかかるという問題があった。ウェルプレート等を使用すれば短時間での処理は可能であるが、この場合には充填剤の乾燥から回収率にバラツキが生じる可能性があった。また、固相抽出法では、前処理にかかるコストが高いという問題点もあった。
【0004】
また、HPLCによる分析では、レボブピバカイン等を通常紫外線(UV)の吸収によって検出するが、UVによる検出は選択性が低く、夾雑物を含む検体及び併用薬を使用した検体では、測定に用いる試料を高度に精製する必要があった。さらに、レボブピバカイン、ロピバカイン等は、吸収極大が210〜230nm付近と低波長側にあるため、夾雑物等の影響により正確な定量が困難な場合があった。また、HPLC−UVを使用する場合は、1検体の分析に20分程度は必要であり、分析に用いる移動相を流速1mL/分程度で送液することから、ランニングコストが高いという問題もあった。
【0005】
さらに、HPLCによる分析では、検量線範囲が16〜400倍程度であることから、検量線範囲外の検体の再測定が必要となる場合が多かった。また、定量限界下限値が高く、低濃度検体の測定は不可能な場合が多かった。
【0006】
HPLC以外のレボブピバカイン等の測定方法として、質量分析計(MS)を使用する方法が行われている。非特許文献1には、ヒト血漿中のレボブピバカインの測定方法として1mLの血漿を採取し、前処理として液−液抽出を行った後HPLC−MSで分析する方法が開示されており、定量限界が0.01μg/mLであったとされている。非特許文献2には、ヒト血漿中のブピバカインを、HPLC−MSで測定する方法が開示されており、検量線濃度範囲が23.8〜2380.0ng/mLであったとされている。
しかしながら、これらの方法においても、前処理をより簡便にしたり、分析に必要な検体量をより少量としたりする改善の余地があった。また、検量線範囲が最大400倍であることから、検量線範囲がより広い方法が必要であった。
【0007】
従って、より少量の検体で、より簡便に、短時間に、高感度で正確に検体中のレボブピバカイン等を測定でき、しかも検量線範囲が広く低濃度の検体及び高濃度の検体を一度で測定できる分析方法が望まれていた。また、2種以上のN−(2,6−ジメチルフェニル)ピペリジン−2−カルボキサミド系誘導体を同時に定量できる方法も望まれていた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】G.A.Chalkiadis et al., British Lournal of Anaesthesia 92 (2):218-22(2004)
【非特許文献2】Anal Chem Insights. 2008 May 28;4:11-9.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、検体の前処理が簡便であり、多検体を短時間で前処理することができ、レボブピバカイン等の含窒素複素環式化合物に対する選択性が高いため夾雑物等の影響を受けにくく、少量の検体で高感度な測定が可能であり、2種以上の含窒素複素環式化合物の同時定量が可能であり、かつ分析時間が短く、しかも検量線範囲が広く、さらに有機溶媒等の廃液が少ないレボブピバカイン等の含窒素複素環式化合物又はその塩の定量方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は上記課題を解決するために研究を重ね、下記一般式(I)で表わされるレボブピバカイン等の含窒素複素環式化合物又はその塩(以下、一般式(I)で表わされる化合物又はその塩ともいう)を含む検体の除タンパク処理と、液体クロマトグラフィー/タンデム質量分析計(LC−MS/MS)による分析とを組合わせて用いることにより、血液等の検体中の一般式(I)で表わされる化合物及びその塩を容易に高感度で検出できること、検体中に含まれる2種以上の含窒素複素環式化合物、例えばレボブピバカイン及びロピバカインを同時に定量することが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
このような方法によれば、少量の検体で高感度な測定が可能であるため、検体採取時の患者等の負担を軽減できる。具体的には、例えば検体として血漿、血清又は血液を用いる場合、わずか50μL程度の採血量で検体中の一般式(I)で表わされる化合物又はその塩の定量を行うことが可能である。また、LC−MS/MSによる分析は、一般式(I)で表わされる化合物又はその塩に対する選択性が高いため、被験者が併用薬等を使用した場合、検体に夾雑物等が混合している場合等でも、検体中の併用薬等の影響を受けにくく、分析に用いる検体の前処理が容易となる。本発明においては、前処理として除タンパク処理を行うが、除タンパク処理は少量のアセトニトリル等により行えるため、処理が簡便で多検体の処理が可能であり、しかも廃液が少ないというメリットもある。
【0012】
さらに、本発明の方法においては、LC−MS/MSのLCにおける流速がLC単独で分析する場合と比べて遅く、かつ分析時間も短いため、分析に必要な移動相の量も少ない。このため、環境への負荷が少なく、しかも分析のランニングコストを削減することができる。また、本発明においては、LCで分離及び溶出された成分を、繁雑な操作を行うことなくMS/MSに直接導入して分析することができるため、操作が簡便である。
【0013】
また、このような定量方法では、定量下限濃度の4000倍の検量線範囲が得られることから、広い濃度範囲で一般式(I)で表わされる化合物又はその塩を正確に定量することができる。このため、検体中の該化合物の低濃度での濃度推移及び高濃度検体の定量のいずれも測定可能であり、検量線範囲外の検体の再測定が必要となる場合が少ない。しかも、希釈再現性にも優れており、検量線の最高濃度の50倍の濃度まで測定可能となり、実質は0.5〜100000ng/mLと検量線範囲200000倍を達成できる。
なお、検量線範囲とは、分析法が適切な精度、真度及び直線性を与える試料中の分析対象物(本発明においては一般式(I)で表わされる化合物又はその塩)の上限及び下限の濃度(量)の間隔のことである(上限値及び下限値は範囲に含まれる)。
【0014】
本発明は、上記知見に基づき完成されたものであり、下記の項1〜11を提供する。
項1. 下記一般式(I)
【0015】
【化1】

【0016】
(式中、Rは、炭素数1〜4の直鎖又は分枝状アルキル基を表す。)で表わされる含窒素複素環式化合物又はその薬学的に許容される塩を含有する検体を除タンパク処理に付す工程、及び得られた除タンパク処理検体を液体クロマトグラフィー/タンデム質量分析計により分析して前記化合物又はその薬学的に許容される塩を測定する工程を含むことを特徴とする検体中の含窒素複素環式化合物又はその薬学的に許容される塩の定量方法。
項2. 除タンパク処理が、アセトニトリルを用いて行われる処理である項1に記載の定量方法。
項3. 液体クロマトグラフィー/タンデム質量分析計の液体クロマトグラフィーにおける移動相が、酢酸緩衝液及びアセトニトリルの混液である項1又は2に記載の定量方法。
項4. 移動相中の酢酸緩衝液とアセトニトリルとの混合割合が、体積比で60:40〜65:35である項3に記載の定量方法。
項5. 液体クロマトグラフィー/タンデム質量分析計において、一般式(I)で表わされる含窒素複素環式化合物のプリカーサーイオンとしてm/z240〜290のイオンを選択し、且つプロダクトイオンとしてm/z97〜140のイオンを選択し、これらイオンをモニターする項1〜4のいずれか一項に記載の定量方法。
項6. 検体が、血漿、血清、血液、母乳、尿又は脳脊髄液である項1〜5のいずれか一項に記載の定量方法。
項7. 検体が、内標準物質として、液体クロマトグラフィー/タンデム質量分析計の液体クロマトグラフィーにおける該内標準物質に対する一般式(I)で表わされる化合物又はその塩の相対保持時間が0.2〜0.6となる化合物を含有する項1〜6のいずれか一項に記載の定量方法。
項8. 内標準物質が、プラジクアンテルである項7に記載の定量方法。
項9. 2種以上の含窒素複素環式化合物又はその薬学的に許容される塩を同時に定量する(ただし、レボブピバカイン又はその塩、及びブピバカイン又はその塩を同時定量する場合を除く)項1〜8のいずれか一項に記載の定量方法。
項10. 含窒素複素環式化合物が、レボブピバカイン、ブピバカイン、ロピバカイン及びメピバカインからなる群より選択される少なくとも1種の化合物である項1〜9のいずれか一項に記載の定量方法。
項11. レボブピバカイン又はその塩、及びロピバカイン又はその塩を同時に定量する項9に記載の定量方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、少量の検体で、短時間にレボブピバカイン等の含窒素複素環式化合物を簡便かつ高感度に定量することができるうえ、検体中に含まれる2種以上の含窒素複素環式化合物を同時定量することができる。また、本発明の方法は検量線範囲が極めて広いため、検量線範囲外の検体の再測定が必要となる場合が少ないうえ、測定対象化合物が低濃度であっても感度良く定量できる。さらに、本発明の方法は有機溶媒等の廃液が少ないため、環境への負荷も低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、血漿を使用して調製した検量線試料の測定結果から作成されたレボブピバカイン(LEV)の検量線を示す図である。
【図2】図2は、血漿を使用して調製した検量線試料の測定結果から作成されたロピバカイン(ROP)の検量線を示す図である。
【図3】図3は、血清を使用して調製した検量線試料の測定結果から作成されたレボブピバカイン(LEV)の検量線を示す図である。
【図4】図4は、血清を使用して調製した検量線試料の測定結果から作成されたロピバカイン(ROP)の検量線を示す図である。
【図5】図5A〜図5Cは、ブランク血漿のLC−MS/MSによるクロマトグラムを示す図である。
【図6】図6A〜図6Cは、ブランク血清のLC−MS/MSによるクロマトグラムを示す図である。
【図7】図7A〜図7Cは、ロピバカイン、レボブピバカイン及びプラジクアンテルの標準溶液のLC−MS/MSによるクロマトグラムを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の検体中の含窒素複素環式化合物又はその薬学的に許容される塩の定量方法は、上記一般式(I)で表わされる含窒素複素環式化合物又はその薬学的に許容される塩を含有する検体を除タンパク処理に付す工程、及び得られた除タンパク処理検体をLC−MS/MSにより分析して前記化合物又はその薬学的に許容される塩を測定する工程を含む。
本発明の方法は、本発明の効果を奏することになる限り、上記工程以外の工程を含んでもよい。例えば、ヒト等の動物から検体を採取する工程、検体に内標準物質を添加する工程、LC−MS/MSによる分析で得られた測定値から、検体中の一般式(I)で表わされる化合物又はその塩の濃度を算出する工程等を行ってもよい。本発明における一般式(I)で表わされる化合物及びその塩は、検体中及びLC−MS/MSによる測定中、通常フリー体(一般式(I)で表わされる化合物)として存在する。このため、LC−MS/MSによる分析により得られる測定値は、通常、一般式(I)で表わされる化合物に関する測定値である。LC−MS/MSによる分析により得られる一般式(I)で表わされる化合物に関する測定値から、一般式(I)で表わされる化合物又はその塩の濃度が算出される。
【0020】
前記一般式(I)で表わされる化合物において、カルボニル基が結合しているピペリジン環の炭素原子(下記一般式(I)中に*で示される)は、不斉炭素原子である。
【0021】
【化2】

【0022】
(式中、Rは、炭素数1〜4の直鎖又は分枝状アルキル基を表す。)
前記一般式(I)中のカルボニル基が結合しているピペリジン環の炭素原子(前記一般式(I)中に*で示される不斉炭素原子)の絶対配置は、Rであってもよく、Sであってもよい。
本発明における一般式(I)で表わされる化合物が不斉炭素原子を1個有する場合、絶対配置R又はSで表される純粋な光学活性体であってもよく、その任意な割合の混合物であってもよく、ラセミ体であってもよい。すなわち本発明における一般式(I)で表わされる化合物は、下記一般式(I−1)
【0023】
【化3】

(式中、Rは、前記と同義である。)で表わされる化合物、下記一般式(I−2)
【0024】
【化4】

【0025】
(式中、Rは、前記と同義である。)で表わされる化合物、又は一般式(I−1)で表わされる化合物及び一般式(I−2)で表わされる化合物の任意な割合の混合物である。
また、前記一般式(I)で表わされる化合物が、不斉炭素原子を2個有する場合には、該化合物は、光学的に純粋なジアステレオマーであってもよく、そのラセミ体であってもよく、又はその任意な割合の混合物であってもよい。
【0026】
前記一般式(I)におけるRとして、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基が挙げられる。Rは、好ましくは炭素数1〜4の直鎖状アルキル基である。より好ましくは、炭素数3〜4の直鎖状アルキル基であり、最も好ましくは、炭素数4の直鎖状アルキル基である。
【0027】
前記一般式(I)で表わされる化合物として、レボブピバカイン(一般名)(化学名は、(−)−(2S)−l−ブチル−N−(2,6−ジメチルフェニル)ピペリジン−2−カルボキサミド)、ブピバカイン(一般名)(化学名は、(2RS)−l−ブチル−N−(2,6−ジメチルフェニル)ピペリジン−2−カルボキサミド)、ロピバカイン(一般名)(化学名は、(S)−N−(2,6−ジメチルフェニル)−1−プロピルピペリジン−2−カルボキサミド)、メピバカイン(一般名)(化学名は、(2RS)−N−(2,6−ジメチルフェニル)−1−メチルピペリジン−2−カルボキサミド)等が好ましい。中でも、レボブピバカイン(化学名:(−)−(2S)−l−ブチル−N−(2,6−ジメチルフェニル)ピペリジン−2−カルボキサミド)が好適である。
【0028】
一般式(I)で表わされる化合物の塩は、薬学的に許容される塩であればよく、特に限定されない。例えば、薬学的に許容される酸付加塩、金属塩、アンモニウム塩、有機アミン付加塩、アミノ酸付加塩等が挙げられる。酸付加塩として、塩酸塩、硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩等の無機酸塩;酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩、乳酸塩、リンゴ酸塩、コハク酸塩、グルコン酸塩、アスコルビン酸塩、p−トルエンスルホン酸等の有機酸塩が挙げられる。金属塩として、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;マグネシウム塩、カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩;アルミニウム塩、亜鉛塩等が挙げられる。アンモニウム塩として、アンモニウム、テトラメチルアンモニウム等の塩が挙げられる。有機アミン付加塩として、ピペリジン等の付加塩が挙げられる。アミノ酸付加塩として、リジン、グリシン、フェニルアラニン、アスパラギン酸、グルタミン酸等の付加塩が挙げられる。中でも、酸付加塩、有機酸塩等が好ましく、塩酸塩がより好ましい。
【0029】
本発明における検体は、前記一般式(I)で表わされる化合物又はその塩を含有するものであればよい。一般式(I)で表わされる化合物又はその塩を含有する検体は、通常、一般式(I)で表わされる化合物又はその塩を投与された動物から採取される。本発明における検体として、例えば、ヒトを含む動物の血液、血漿、血清、母乳、唾液、尿及び脳脊髄液(脳髄液ともいう)等の生体試料、及び動物における各種の臓器、組織等が挙げられる。検体は、好ましくは、ヒトを含む動物から採取された生体試料である。中でも、血漿、血清、血液、母乳、尿又は脳脊髄液が、検体として好ましい。検体として血漿又は血清を使用する場合、採血された血液から血漿又は血清を分離する方法は特に限定されず、通常使用される方法により行うことができる。母乳は、初乳又は成乳等どのような状態であってもよい。
【0030】
本発明において使用される検体の量は、例えば、血漿、血清又は血液であれば、通常、約20μL以上あればよい。好ましくは、検体の量は、10〜200μL程度であり、より好ましくは、15〜100μL程度であり、最も好ましくは、20〜30μL程度である。従って、ヒトを含む動物から検体として生体試料を採取する場合には、上記量を採取すればよい。
【0031】
本発明においては、検体が内標準物質を含有するものであることが好ましい。検体に内標準物質を添加する場合には、除タンパク処理を行う前に添加することが好ましい。内標準物質は、LC−MS/MSにおいて、測定の対象である一般式(I)で表わされる化合物又はその塩の検出ピークと異なる位置にピークを有する化合物であり、かつそのピークが血漿等に含まれる生体成分の検出ピークの位置とも異なるものが好ましい。また、内標準物質は、血漿等の検体中において安定で経時的変化が少なく、除タンパク処理を行っても回収率が良好な化合物が好ましい。
【0032】
内標準物質は、例えば、後述するLC−MS/MSのLCにおける該内標準物質に対する一般式(I)で表わされる化合物又はその塩の相対保持時間が約0.1〜5となる化合物等が好ましい。内標準物質は、一般式(I)で表わされる化合物又はその塩の相対保持時間が、約0.2以上となる化合物であることが好ましく、一般式(I)で表わされる化合物又はその塩の相対保持時間が約0.2〜0.6となる化合物がより好ましく、約0.3〜0.6となる化合物がさらに好ましく、約0.4〜0.6となる化合物が特に好ましい。なお、前記相対保持時間は、LCにおける内標準物質の保持時間を1とした場合の一般式(I)で表わされる化合物又はその塩の相対保持時間である。また、内標準物質は、後述するMS/MS条件1で内標準物質を含む検体を分析した際に、質量分析によるm/zが約100〜500である化合物等が好ましい。
【0033】
本発明における内標準物質として、プラジクアンテル(一般名)、リドカイン(一般名)、ミダゾラム(一般名)等が好適である。中でも、内標準物質として、プラジクアンテルが好適である。検体における内標準物質の濃度は、10〜200ng/mL程度とすることが好ましい。
【0034】
本発明においては、一般式(I)で表わされる化合物又はその塩を含有する検体を、除タンパク処理に付して除タンパク検体を得る。
除タンパク処理として、除タンパク剤を用いて行われる処理、水と混和可能な有機溶媒を用いて行われる処理、加熱又は冷却による処理等が挙げられ、これらのいずれでもよい。中でも、必要な検体量が少量であり、かつ処理が簡便であることから、水と混和可能な有機溶媒を用いて行われる処理が好ましい。有機溶媒としては、アセトン、アセトニトリル、エタノール、メタノール等が挙げられる。中でも、アセトニトリルが好ましい。
【0035】
水と混和可能な有機溶媒を用いて行われる除タンパク処理の方法は特に限定されず、通常の方法で行うことができる。例えば、まず、検体に、水と混和可能な有機溶媒を添加し、検体と該有機溶媒とを混合してタンパク質を沈殿させることが好ましい。また、好ましくは、検体に有機溶媒を添加混合後、超音波処理を行う。超音波処理により、検体からの一般式(I)で表わされる化合物又はその塩の回収率がより安定する。超音波処理は、通常10分程度行えばよい。検体と有機溶媒との混合割合は、検体の種類により適宜選択することができるが、体積比で検体1に対して有機溶媒約1〜100とすることが好ましい。例えば、検体が成乳の場合には、体積比で検体1に対して有機溶媒を約1〜100とすることがより好ましく、約4〜100とすることがさらに好ましい。検体が成乳以外の生体試料(例えば、血漿、血清、血液、初乳、尿、脳脊髄液等)の場合には、体積比で検体1に対して有機溶媒を約1〜10とすることがより好ましい。検体が成乳以外の生体試料の場合、さらに好ましくは、体積比で検体1に対して有機溶媒約4〜10である。
【0036】
検体と、水と混和可能な有機溶媒との混合液から沈殿したタンパク質を分離することにより、一般式(I)で表わされる化合物又はその塩、及び所望により添加された内標準物質を含有する除タンパク処理検体が得られる。沈殿したタンパク質の除去は、公知の方法により行うことができる。例えば、遠心分離、ろ過等の方法により、上澄み(除タンパク処理検体)と沈殿したタンパク質とを簡便に分離することができる。
【0037】
上記で得られた一般式(I)で表わされる化合物又はその塩、及び所望により添加された内標準物質を含有する除タンパク処理検体は、通常、濃縮乾固され、得られた濃縮乾固物が、LC−MS/MSにおけるLCの移動相で溶解され、LC−MS/MSに注入されて分析され、一般式(I)で表わされる化合物又はその塩が測定される。濃縮乾固の条件は特に限定されないが、一般式(I)で表わされる化合物又はその塩、及び所望により添加された内標準物質を含有する除タンパク処理検体を、窒素気流又は減圧濃縮下、約35〜50℃で濃縮乾固する。
【0038】
LC−MS/MSとしては、TSQ Quantum Ultra(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製)、Accela(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製)、Alliance 2795(日本ウォーターズ株式会社製)等を使用することができる。
【0039】
LC−MS/MSシステムのLCにおける移動相としては、酢酸緩衝液及び有機溶媒の混液、ギ酸緩衝液及び有機溶媒の混液等が好適である。酢酸緩衝液としては、酢酸溶液、酢酸アンモニウム溶液、酢酸アンモニウム緩衝液等を用いることができる。前記酢酸溶液中の酢酸濃度は特に限定されないが、約1〜3μmol/Lが好ましく、より好ましくは約1.5〜2μmol/Lである。また酢酸アンモニウム溶液中の酢酸アンモニウムの濃度は、通常約1〜10mmol/L、好ましくは約2〜5mmol/L、より好ましくは約4〜5mmol/Lである。酢酸アンモニウム緩衝液は、前記酢酸アンモニウム溶液に酢酸を加えpHを約5〜6の範囲に調整して作製することが好ましい。有機溶媒としては、アセトニトリル、メタノール、エタノール、イソプロパノール等が挙げられる。中でも、アセトニトリルが好適である。酢酸緩衝液及びアセトニトリルの混液としては、例えば、酢酸溶液及びアセトニトリルの混液、酢酸アンモニウム溶液又は酢酸アンモニウム緩衝液とアセトニトリルとの混液、酢酸溶液及びアセトニトリルの混液等が挙げられる。酢酸溶液及び酢酸アンモニウム溶液はそれぞれ酢酸水溶液及び酢酸アンモニウム水溶液であってもよい。中でも、本発明の方法においては、LCにおける移動相として、酢酸アンモニウム緩衝液及びアセトニトリルの混液が好ましい。移動相中の酢酸緩衝液(酢酸溶液、酢酸アンモニウム溶液又は酢酸アンモニウム緩衝液)とアセトニトリルとの混合割合は、体積比で通常、約80:20〜50:50であり、好ましくは約75:25〜55:45、さらに好ましくは約70:30〜60:40、特に好ましくは約60:40〜65:35である。このような移動相を用いると、一般式(I)で表わされる化合物又はその塩をより高感度で測定できる。また、より広い検量線範囲が得られるため好ましい。
ギ酸緩衝液及び有機溶媒の混液は、上述した酢酸緩衝液の代わりにギ酸溶液又はギ酸緩衝液を使用することにより調製することができる。
【0040】
LC−MS/MSのLCにおけるカラムとしては、逆相クロマトグラフィーカラムが好ましい。逆相クロマトグラフィーカラムとしては、オクタデシルシリカゲル(ODS)系カラムが好ましく、例えば、エックスブリッジ(XBridge)C18(商品名、日本ウォーターズ社製)、エックスブリッジRP C18(商品名、日本ウォーターズ社製)、カプセルパックMGII(商品名、資生堂社製)等が挙げられる。本発明においては、ガードカラムを使用することもできる。ガードカラムとしては、エックスブリッジC18(商品名、日本ウォーターズ社製)、エックスブリッジRP C18(商品名、日本ウォーターズ社製)等が好適である。
【0041】
LC−MS/MSのLCにおける分析条件は特に限定されないが、移動相の流速を約0.1〜0.5mL/分とすることが好ましく、約0.2〜0.3mL/分とすることがより好ましい。この流速で、1回の分析につき約10〜20分通液することが好ましい。試料の注入量は、約1〜20μLが好ましく、カラム温度は、通常約35〜45℃、好ましくは約37〜43℃とする。
【0042】
本発明の方法における好ましいLC分析条件の一例を、下記に示す。
LC条件1
・HPLCシステム:Accela(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製)
・カラム:エックスブリッジC18(2.1mI.D.×100mm、3.5μm、日本ウォーターズ社製)
・ガードカラム:エックスブリッジC18(2.1mmI.D.×10mm、3.5μm、日本ウォーターズ製)
・移動相: A液:B液=62:38
・A液:5mmol/L酢酸アンモニウム緩衝液(pH5.2)、B液:アセトニトリル
・流量:0.2mL/分
・分析時間:10分
【0043】
LC条件2
・HPLCシステム:Accela(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製)
・カラム:エックスブリッジC18(2.1mI.D.×100mm、3.5μm、日本ウォーターズ社製)
・ガードカラム:エックスブリッジC18(2.1mmI.D.×10mm、3.5μm、日本ウォーターズ製)
・移動相: A液:B液=64:36
・A液:5mmol/L酢酸アンモニウム緩衝液(pH6.0)、B液:アセトニトリル
・流量:0.2mL/分
・分析時間:10分
【0044】
例えば、上記LC条件1によれば、一般式(I)で表わされる化合物又はその塩の保持時間は、通常約3〜5分である。内標準物質としてプラジクアンテル(一般名)を使用した場合、プラジクアンテルに対する一般式(I)で表わされる化合物又はその塩の相対保持時間は、通常約0.2〜0.6である。なお、保持時間及び相対保持時間は、例え実験条件を同じくした場合においても、多少は増減するものであり、厳密に解釈されるべきものではない。
【0045】
LCで分離及び溶出された成分は、タンデム質量分析計(MS/MS)のイオン化室に導入されてイオン化される。
LC−MS/MSにおけるイオン化法は特に限定されず、例えば、エレクトロスプレーイオン化(ESI)、大気圧化学イオン化(APCI)、サーモスプレーイオン化(TSP)又は高速原子衝撃(FAB)等を使用することができる。中でも、ESIが好ましい。MS/MSにおいては、通常、第一段目の質量分析計でプリカーサーイオン(ここではプロトン付加分子)が選択され、次いでコリジョンセルと呼ばれる衝突室でアルゴンガス等と衝突させてプリカーサーイオンを解離させ、新しいイオン群を発生させる。この新しいイオン群のうち最大のピークを示すイオンがプロダクトイオンとして選択され、第二段目の質量分析計で分析される。
【0046】
生成したプロダクトイオンの検出方法として、例えば、フルスキャン法、選択イオンモニタリング(SIM)法、選択リアクションモニタリング(SRM)法等が挙げられる。中でも、本発明においてはSRM法が好適に用いられる。本発明においては、一般式(I)で表わされる化合物のプリカーサーイオンとしてm/z240〜290のイオンを選択し且つプロダクトイオンとしてm/z97〜140のイオンを選択し、これらイオンをモニターすることが好ましい。より具体的には、SRM法において、例えば、一般式(I)で表わされる化合物のプリカーサーイオンとしてm/z288.6〜299.0のイオンのみを選択し、次に、このイオンを窒素ガスやアルゴンガス等の不活性ガスに衝突させ分解させた際に生じるプロダクトイオンのうちm/z10〜290の範囲内で最大のピークを示すイオン、好ましくはm/z140付近のイオンのみを選択してそのイオンの量をモニターすることにより、本発明が目的とする検体中の一般式(I)で表わされる化合物又はその塩を高感度で測定することができる。このとき、例えば、内部標準物質としてプラジクアンテルを用いる場合には、プラジクアンテルのプリカーサーイオンとして、m/z313付近のイオンを選択し、且つプロダクトイオンとして、m/z10〜313の範囲内で最大のピークを示すイオン、好ましくはm/z203付近のイオンを選択することが好ましい。
【0047】
本発明の方法における好ましいMS/MS分析条件の一例を、下記に示す。
MS/MS条件1
・MS/MSシステム:TSQ Quantum Ultra(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製)
・イオン化法:ESI(+)
・測定モード:選択リアクションモニタリング(selected reaction monitoring:SRM)
【0048】
LC−MS/MSによる分析で得られた測定値から、検体中の一般式(I)で表わされる化合物又はその塩の濃度を算出することができる。濃度の算出方法は特に限定されず、例えば、一般式(I)で表わされる化合物又はその塩の標準溶液を用いて作成した検量線を用いて行う方法が好適である。具体的には、検量線は、一般式(I)で表わされる化合物又はその塩の標準溶液に、所望により内標準物質を添加した検体を用いて、上述した除タンパク処理及びLC−MS/MSによる分析の手順を実施して得られる測定値から作成される。
【0049】
本発明において用いられる検量線は、真度が定量下限濃度において±20%以内であり、その他の濃度において±15%以内であり、かつ相関係数が0.99以上である検量線を用いることが好ましい。内標準物質を用いた場合には、例えば、検体中の一般式(I)で表わされる化合物又はその塩のピーク面積値と内標準物質のピーク面積値との比を求め、この比をグラフ上にプロットすることにより信頼性の高い検量線を作成することができる。また、一般式(I)で表わされる化合物又はその塩を、該化合物又はその塩を投与されていない動物(健常人等)の検体(例えば血漿)に溶解した標準溶液を用いることにより、例えば血漿に含まれる内因性要因の影響を除くことができる。すなわち、かかる検量線を用いることにより、患者における一般式(I)で表わされる化合物又はその塩の検体中の濃度を直接算出できるので、好適である。上記定量下限濃度は、検量線作成のために用いる一般式(I)で表わされる化合物又はその塩を添加した検体のうち、検体中の一般式(I)で表わされる化合物又はその塩の濃度の一番低い濃度を意味する。上記真度は、一般的な式として、以下の式により算出される。
真度(%)=100×(測定値−理論値)/理論値
上記相関係数は、例えば、「ピアソンの積率相関係数」を用いて算出できる。
【0050】
本発明においては、検体に含まれる一般式(I)で表わされる化合物又はその塩を、回収率約90%以上の精度で定量することができる。回収率は、通常以下の式により算出される。
回収率(%)=100×(回収率算出用試料のピーク面積値)/(回収率算出用対照試料のピーク面積値の平均値)
【0051】
本発明の定量方法によれば、2種以上の一般式(I)で表わされる化合物又はその薬学的に許容される塩を同時に定量することができる。
例えば、本発明の定量方法は、レボブピバカイン(又はその塩)、ブピバカイン(又はその塩)、ロピバカイン(又はその塩)及びメピバカイン(又はその塩)からなる群より選択される2種以上の化合物を同時定量する方法として好適である。なお、レボブピバカインは、ブピバカインの光学異性体の1つであるため、レボブピバカインとブピバカインとを分離することは、通常困難である。本発明の定量方法により、2種以上の一般式(I)で表わされる化合物又はその塩を同時に定量する場合には、レボブピバカイン(又はその塩)、及びブピバカイン(又はその塩)の組合わせを含まない2種以上の一般式(I)で表わされる化合物又はその塩を同時に定量することが好ましい。例えば、本発明の定量方法は、(i)レボブピバカイン(又はその塩)、ロピバカイン(又はその塩)及びメピバカイン(又はその塩)からなる群より選択される2種以上の化合物、又は(ii)ブピバカイン(又はその塩)、ロピバカイン(又はその塩)及びメピバカイン(又はその塩)からなる群より選択される2種以上の化合物を同時定量する方法として好適に用いられる。中でも、本発明の定量方法は、レボブピバカイン(又はその塩)及びロピバカイン(又はその塩)を同時に定量する方法としてより好適である。本発明の定量方法により、2種以上の化合物を含む検体を用いて該2種以上の化合物を同時定量する場合は、各化合物それぞれの量を同時に求めることができる。
【実施例】
【0052】
以下、本発明を実施例を挙げてより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0053】
実施例1
塩酸レボブピバカインは、カイロサイエンス社製、塩酸ロピバカイン一水和物は、トロントリサーチケミカル社製、プラジクアンテルは、和光純薬工業社製のものを使用した。その他の試薬は、和光純薬工業社、関東化学社又はシグマアルドリッチ社製のものを使用した。
【0054】
<標準原液の調製方法>
塩酸レボブピバカイン(分子量324.89)11.3mg(レボブピバカインとして10mg)を秤量し、超純水を加えて正確に10mLとして、1mg/mLのレボブピバカイン水溶液(標準原液)を調製した。
塩酸ロピバカイン一水和物(分子量328.88)12.0mg(ロピバカインとして10mg)を秤量し、超純水を加えて正確に10mLとして、1mg/mLのロピバカイン水溶液(標準原液)を調製した。
プラジクアンテル(分子量312.41)5.0mgを秤量し、アセトニトリル(LC/MS用)を加えて正確に5mLとして、プラジクアンテルの1mg/mL溶液(内標準原液)を調製した。
【0055】
<レボブピバカイン及びロピバカインの希釈標準溶液の調製>
前記レボブピバカイン標準原液及び前記ロピバカイン標準原液各100μLを採取して混合し、次いで、レボブピバカイン及びロピバカイン両成分がそれぞれ100μg/mLとなるように超純水で希釈した。この混合溶液(レボブピバカイン及びロピバカイン両成分がそれぞれ100μg/mL)を用いて、前記両成分がそれぞれ10μg/mL、2000ng/mL、1600ng/mL、500ng/mL、200ng/mL、50ng/mL、20ng/mL、5ng/mL、2ng/mL、及び0.5ng/mLとなるように超純水で希釈し、各希釈標準溶液を調製した。
【0056】
<内標準溶液の調製>
前記内標準原液を50%アセトニトリル溶液で希釈し、プラジクアンテル濃度20μg/mL、1000ng/mL及び100ng/mLの内標準溶液を調製した。
【0057】
<移動相のA液の調製>
酢酸アンモニウム(特級、和光純薬工業社製)3.85gを超純水1000mLに溶解し、50mmol/L酢酸アンモニウム溶液を調製した。この50mmol/L酢酸アンモニウム溶液を超純水で10倍希釈し、pHメーターを用いて酢酸(LC−MS用)を加え、pH5.2に調整し、超音波照射による脱気後、A液(5mmol/L酢酸アンモニウム緩衝液(pH5.2))とした。
【0058】
<ニードル洗浄液の調製>
アセトニトリル(LC/MS用)及び超純水を体積比1:1で混合後、得られた50v/v%アセトニトリル溶液に、酢酸(LC−MS用)を0.1v/v%となるよう添加し、ニードル洗浄液(0.1%の酢酸を含有する50%アセトニトリル溶液)とした。
<再溶解液の調製>
5mmol/L酢酸アンモニウム緩衝液(pH5.2)及びアセトニトリルを体積比62:38で混合し、再溶解液とした。
【0059】
<ヒト血漿及び血清の検量線>
ブランク及び0試料を含んだ、0.5〜2000ng/mL(各マトリクス中換算濃度)の8点検量線とした。前記濃度は、後述する血漿又は血清中換算濃度である。
*:マトリクス中換算濃度(内標準物質(I.S.)濃度:100ng/mL)
【0060】
<前処理>
(1)血漿又は血清20μLにレボブピバカイン・ロピバカイン希釈標準溶液及び内部標準溶液(100ng/mL)を各20μL添加した。
(2)(1)の混合溶液にアセトニトリル200μLを添加後、激しく攪拌した。
(3)(2)の操作後、超音波処理(10分、rt)し、4℃で遠心分離(15000rpm)を行った。
(4)(3)の後、上清を採取して試験管に移し、窒素雰囲気又は減圧濃縮下40℃で30分間乾固させた。
(5)(4)で得られた残渣に再溶解液100μLを添加後、攪拌し再溶解させ、Millex(登録商標)LG(ミリポア社製)(0.22μm、4mm)にてろ過し、測定サンプルとした。
【0061】
<LC条件>
・HPLCシステム:Accela(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製)
・カラム:エックスブリッジC18(2.1mmI.D.×100mm、3.5μm、日本Waters社製)
・ガードカラム:エックスブリッジC18(2.1mmI.D.×10mm、3.5μm、日本Waters製)
・カラム温度:40℃
・流量:0.2mL/分
・移動相: A液:B液=62:38
A液:5mmol/L 酢酸アンモニウム緩衝液(pH5.2)
B液:アセトニトリル(LC/MS用)
・ニードル洗浄液:0.1%の酢酸を含有する50%アセトニトリル溶液
・試料注入量:2μL
・オートサンプラー内設定温度:10℃
・分析時間:10分
【0062】
<MS/MS条件>
・MS/MSシステム:TSQ Quantum Ultra(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製)
・イオン化法:ESI(+)
・スプレー電圧(Spray Voltage):1000V
・Heated Capillary温度:350℃
・測定モード:選択リアクションモニタリング(selected reaction monitoring:SRM)
・衝突ガス圧力(Collision Pressure:CPR):1.5mTorr(約200mPa)
・シースガス(Seath Gas):40psi(約276kPa)
・AUX Gas:35arbitrary units
モニターイオン及び測定条件を、以下に示す。表1中、LEVは、レボブピバカインを意味する。ROPは、ロピバカインを意味する。ISは、内標準物質(プラジクアンテル)を意味する。
【0063】
【表1】

【0064】
得られた測定データを、表2〜表5に示す。表2は、検体として血漿を使用した場合のレボブピバカインのデータである。表3は、検体として血漿を使用した場合のロピバカインのデータである。表4は、検体として血清を使用した場合のレボブピバカインのデータである。表5は、検体として血清を使用した場合のロピバカインのデータである。
【0065】
【表2】

【0066】
【表3】

【0067】
【表4】

【0068】
【表5】

【0069】
表2及び表3より、血漿中のレボブピバカイン及びロピバカインそれぞれについて、濃度0.5〜2000ng/mL(検量線範囲4000倍)の範囲で、相関係数の高い検量線(レボブピバカインについてr=0.9977、ロピバカインについてr=0.9975)が得られた。血漿を使用して調製した検量線試料の測定結果(表2及び表3)から作成されたレボブピバカインの検量線を図1に、ロピバカインの検量線を図2に、それぞれ示す。
【0070】
表4及び表5より、血清中のレボブピバカイン及びロピバカインそれぞれについて、濃度0.5〜2000ng/mL(検量線範囲4000倍)の範囲で、相関係数の高い検量線(レボブピバカインについてr=0.9998、ロピバカインについてr=0.9996)が得られた。血清を使用して調製した検量線試料の測定結果(表4及び表5)から作成されたレボブピバカインの検量線を図3に、ロピバカインの検量線を図4に、それぞれ示す。
【0071】
また、クロマトグラム上のレボブピバカイン、ロピバカイン及び内標準物質(プラジクアンテル)の溶出位置における妨害ピークの有無を確認するために、ブランク血漿及びブランク血清それぞれを前記条件でLC−MS/MSにより分析した。図5A〜図5Cに、ブランク血漿のLC−MS/MSによるクロマトグラムを、図6A〜図6Cに、ブランク血清のLC−MS/MSによるクロマトグラムを、それぞれ示す。
【0072】
図5A及び図5Bはそれぞれ、ヒトから採取した血漿に、ロピバカイン及びレボブピバカインの希釈標準溶液の調製に用いた溶媒(超純水)を添加し、前記方法に従って前処理を行い、得られた測定サンプル(ブランク)をLC−MS/MSにより分析した結果である。図5Aにおいて、ROPは、検体がロピバカインを含む場合に、ロピバカインのピークが検出される保持時間を示す。図5Bにおいて、LEVは、検体がレボブピバカインを含む場合に、レボブピバカインのピークが検出される保持時間を示す。図5Cは、ヒトから採取した血漿に、内標準溶液の調製においてプラジクアンテルの溶解に用いた溶媒(50%アセトニトリル溶液)を添加し、前記方法に従って前処理を行い、得られた測定サンプル(ブランク)をLC−MS/MSにより分析した結果である。図5Cにおいて、ISは、検体がプラジクアンテルを含む場合に、プラジクアンテルのピークが検出される保持時間を示す。
【0073】
図6A及び図6Bはそれぞれ、ヒトから採取した血清に、ロピバカイン及びレボブピバカインの希釈標準溶液の調製に用いた溶媒(超純水)を添加し、前記方法に従って前処理を行い、得られた測定サンプル(ブランク)をLC−MS/MSにより分析した結果である。図6Aにおいて、ROPは、検体がロピバカインを含む場合に、ロピバカインのピークが検出される保持時間を示す。図6Bにおいて、LEVは、検体がレボブピバカインを含む場合に、レボブピバカインのピークが検出される保持時間を示す。図6Cは、ヒトから採取した血清に、内標準溶液の調製においてプラジクアンテルの溶解に用いた溶媒(50%アセトニトリル溶液)を添加し、前記方法に従って前処理を行い、得られた測定サンプル(ブランク)をLC−MS/MSにより分析した結果である。図6Cにおいて、ISは、検体がプラジクアンテルを含む場合に、プラジクアンテルのピークが検出される保持時間を示す。
【0074】
図5A〜図5C及び図6A〜図6Cから、ブランク血漿のクロマトグラム上及びブランク血清のクロマトグラム上には定量を妨害するピークは認められなかった。
【0075】
ロピバカイン、レボブピバカイン及び内標準物質として使用したプラジクアンテルのピーク位置及びピーク形状を確認するために、ロピバカインの希釈標準溶液、レボブピバカインの希釈標準溶液、及びプラジクアンテルの内標準溶液を前記条件でLC−MS/MSにより分析した。
図7A〜図7Cに、ロピバカイン(ROP)の希釈標準溶液(図7A)、レボブピバカイン(LEV)の希釈標準溶液(図7B)、プラジクアンテル(IS)の内標準溶液(図7C)のLC−MS/MSによるクロマトグラムを、それぞれ示す。図7Aにおいて、ROPはロピバカインのピークを、図7Bにおいて、LEVはレボブピバカインのピークを、図7Cにおいて、ISは内標準物質(プラジクアンテル)のピークを、それぞれ示す。ロピバカイン、レボブピバカイン及びプラジクアンテルのクロマトグラム上のピーク形状は良好であった。
【0076】
上記測定結果から、血漿から調製したサンプル中のレボブピバカイン、ロピバカイン及び内標準物質の回収率は、それぞれ99.1〜100.9%、91.2〜96.7%及び99.0±3.0%であった。
また、血清から調製したサンプル中のレボブピバカイン、ロピバカイン及び内標準物質の回収率は、それぞれ95.0〜107.2%、97.9〜102.3%及び91.7±4.4%であった。
本結果より、レボブピバカイン(又はロピバカイン)の血漿濃度0.5〜2000ng/mL及び血清濃度0.5〜2000ng/mLにおいて、回収率90%以上の精度で分析定量が可能であることが示された。
【0077】
例えば、局所麻酔剤としてレボブピバカイン投与後、レボブピバカイン血中濃度は、持続硬膜外腔投与の場合、通常約2.93μg/mL以下であり、硬膜外腔単回投与の場合、約700〜1100ng/mL以下であり、静脈内投与の場合、約1.27μg/mL以下とされている。実施例1で得られたレボブピバカインの定量範囲0.5〜2000ng/mL(検量線で直線性が得られた範囲)に基づき、希釈再現性の結果を使用して、検量線範囲を拡大することで、いずれの場合についても投与されたレボブピバカイン血中濃度を測定することが可能となり、本発明の方法が血液、血漿、血清等のレボブピバカイン濃度の定量方法として有用であることが分かった。
なお、実施例1において、血漿又は血清の代わりに検体として尿、血液等を用いても、上記と同様の結果が得られる。
【0078】
実施例2
実施例1において、ヒト血漿又は血清の代わりにサル(Macaca fascicularis)の血液を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行った。
得られた測定データを、表6〜表7に示す。表6は、レボブピバカインのデータであり、表7は、ロピバカインのデータである。
【0079】
【表6】

【0080】
【表7】

【0081】
表6及び表7より、サル血液中のレボブピバカイン及びロピバカインそれぞれについて、濃度0.5〜2000ng/mL(検量線範囲4000倍)の範囲で、相関係数の高い検量線(レボブピバカインについてr=0.9986、ロピバカインについてr=0.9986)が得られた。
【0082】
上記測定結果から、サル血液から調製したサンプル中のレボブピバカイン、ロピバカイン及び内標準物質の回収率は、それぞれ89.1〜96.0%、90.7〜95.6%及び96.3±6.1%であった。
本結果より、レボブピバカイン及びロピバカインの血液中濃度0.5〜2000ng/mLにおいて、回収率約90%以上の精度で分析定量が可能であることが示された。
【0083】
実施例3
実施例1において、血漿又は血清の代わりに母乳を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行った。
得られた測定データを、表8〜表9に示す。表8は、検体として母乳を使用した場合のレボブピバカインのデータである。表9は、検体として母乳を使用した場合のロピバカインのデータである。
【0084】
【表8】

【0085】
【表9】

【0086】
表8及び表9より、母乳中のレボブピバカイン及びロピバカインそれぞれについて、濃度0.5〜2000ng/mL(検量線範囲4000倍)の範囲で、相関係数の高い検量線(レボブピバカインについてr=0.9990、ロピバカインについてr=0.9982)が得られた。
【0087】
実施例4
メピバカインは、塩酸メピバカイン(分子量282.81、シグマアルドリッチ社製)を使用した。その他の試薬等は、実施例1と同じ物を使用した。
【0088】
<標準原液の調製方法>
実施例1と同様にして、1mg/mLのレボブピバカイン水溶液(標準原液)、ロピバカイン水溶液(標準原液)及びプラジクアンテルの1mg/mL溶液(内標準原液)を調製した。
メピバカイン標準原液は、塩酸メピバカイン11.5mg(メピバカインとして10mg)を秤量し、超純水を加えて正確に10mLとして1mg/mLメピバカイン水溶液(標準原液)を調製した。
【0089】
<レボブピバカイン、ロピバカイン及びメピバカインの希釈標準溶液の調製>
前記レボブピバカイン標準原液、ロピバカイン標準原液及びメピバカイン標準原液各100μL採取して混合し、次いでレボブピバカイン、ロピバカイン及びメピバカインの濃度がそれぞれ100μg/mLとなるよう超純水で希釈した。
【0090】
<移動相のA液の調製>
pHを6.0に調整した以外は、実施例1と同様にしてA液(5mmol/L酢酸アンモニウム緩衝液(pH6.0))を調製した。
<再溶解液の調製>
5mmol/L酢酸アンモニウム緩衝液(pH6.0)及びアセトニトリルを体積比64:36で混合し、再溶解液とした。
内標準溶液及びニードル洗浄液の調製方法は、実施例1と同じである。
【0091】
<ラット脳脊髄液の検量線>
実施例1と同様に、ブランク及び0試料を含んだ、0.5〜2000ng/mL(各マトリクス中換算濃度)の8点検量線とした。前記濃度は、後述するラット脳脊髄液中換算濃度である。
*:マトリクス中換算濃度(内標準物質(I.S.)濃度:100ng/mL)
【0092】
<ラット脳脊髄液の採取>
ラット(Rattus norvegicus)(日本エスエルシー株式会社から購入、生後約20週齢)の大槽から、カテーテルを用いて脳脊髄液を採取した。
【0093】
<前処理>
血漿又は血清20μLの代わりに前記で採取したラット脳脊髄液20μLを用い、レボブピバカイン希釈標準溶液、ロピバカイン希釈標準溶液及び内部標準溶液(100ng/mL)に加えて、前記で調製したメピバカインの希釈標準溶液20μLをラット脳脊髄液に添加した以外は、実施例1と同様に前処理を行ない、測定サンプルを得た。
【0094】
<LC条件及びMS/MS条件>
LCの移動相のA液(酢酸アンモニウム緩衝液)として、5mmol/L酢酸アンモニウム緩衝液(pH6.0)を用い、移動相の組成をA液:B液=64:36に変更した以外は、実施例1と同様にしてLC−MS/MSによる分析を行なった。
【0095】
メピバカインのモニターイオン及び測定条件を、表10に示す。表1中、MEPは、メピバカインを意味する。レボブピバカイン、ロピバカイン及び内標準物質(プラジクアンテル)のモニターイオン及び測定条件は、実施例1と同じである。
【0096】
【表10】

【0097】
得られた測定データを、表11〜表13に示す。表11は、検体としてラット脳脊髄液を使用した場合のレボブピバカインのデータである。表12は、検体としてラット脳脊髄液を使用した場合のロピバカインのデータである。表13は、検体としてラット脳脊髄液を使用した場合のメピバカインのデータである。
【0098】
【表11】

【0099】
【表12】

【0100】
【表13】

【0101】
表11〜表13より、脳脊髄液中のレボブピバカイン、ロピバカイン及びメピバカインそれぞれについて、濃度0.5〜2000ng/mL(検量線範囲4000倍)の範囲で、相関係数の高い検量線(レボブピバカインについてr=0.9953、ロピバカインについてr=0.9988、メピバカインについて0.9974)が得られた。
【0102】
実施例5
実施例1において、血漿又は血清の代わりにラット(Rattus norvegicus)尿を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行った。
得られた測定データを、表14〜表15に示す。表14は、検体としてラット尿を使用した場合のレボブピバカインのデータである。表15は、検体としてラット尿を使用した場合のロピバカインのデータである。
【0103】
【表14】

【0104】
【表15】

【0105】
表14〜表15より、尿中のレボブピバカイン、及びロピバカインそれぞれについて、濃度0.5〜2000ng/mL(検量線範囲4000倍)の範囲で、相関係数の高い検量線(レボブピバカインについてr=0.9985、ロピバカインについてr=0.9985)が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明は、血液等の検体中のレボブピバカイン、ロピバカイン等の含窒素複素環式化合物又はその薬学的に許容される塩の定量に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)
【化1】

(式中、Rは、炭素数1〜4の直鎖又は分枝状アルキル基を表す。)で表わされる含窒素複素環式化合物又はその薬学的に許容される塩を含有する検体を除タンパク処理に付す工程、及び得られた除タンパク処理検体を液体クロマトグラフィー/タンデム質量分析計により分析して前記化合物又はその薬学的に許容される塩を測定する工程を含むことを特徴とする検体中の含窒素複素環式化合物又はその薬学的に許容される塩の定量方法。
【請求項2】
除タンパク処理が、アセトニトリルを用いて行われる処理である請求項1に記載の定量方法。
【請求項3】
液体クロマトグラフィー/タンデム質量分析計の液体クロマトグラフィーにおける移動相が、酢酸緩衝液及びアセトニトリルの混液である請求項1又は2に記載の定量方法。
【請求項4】
移動相中の酢酸緩衝液とアセトニトリルとの混合割合が、体積比で60:40〜65:35である請求項3に記載の定量方法。
【請求項5】
液体クロマトグラフィー/タンデム質量分析計において、一般式(I)で表わされる含窒素複素環式化合物のプリカーサーイオンとしてm/z240〜290のイオンを選択し、且つプロダクトイオンとしてm/z97〜140のイオンを選択し、これらイオンをモニターする請求項1〜4のいずれか一項に記載の定量方法。
【請求項6】
検体が、血漿、血清、血液、母乳、尿又は脳脊髄液である請求項1〜5のいずれか一項に記載の定量方法。
【請求項7】
検体が、内標準物質として、液体クロマトグラフィー/タンデム質量分析計の液体クロマトグラフィーにおける該内標準物質に対する一般式(I)で表わされる化合物又はその塩の相対保持時間が0.2〜0.6となる化合物を含有する請求項1〜6のいずれか一項に記載の定量方法。
【請求項8】
内標準物質が、プラジクアンテルである請求項7に記載の定量方法。
【請求項9】
2種以上の含窒素複素環式化合物又はその薬学的に許容される塩を同時に定量する(ただし、レボブピバカイン又はその塩、及びブピバカイン又はその塩を同時定量する場合を除く)請求項1〜8のいずれか一項に記載の定量方法。
【請求項10】
含窒素複素環式化合物が、レボブピバカイン、ブピバカイン、ロピバカイン及びメピバカインからなる群より選択される少なくとも1種の化合物である請求項1〜9のいずれか一項に記載の定量方法。
【請求項11】
レボブピバカイン又はその塩、及びロピバカイン又はその塩を同時に定量する請求項9に記載の定量方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−53025(P2012−53025A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−231754(P2010−231754)
【出願日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【出願人】(393028036)丸石製薬株式会社 (20)
【Fターム(参考)】